弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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              主     文
   被告人を懲役3年6月に処する。
   未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
   訴訟費用は被告人の負担とする。
              理     由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 広島県呉市aでの家屋解体工事に関して,同工事を施工した有限会社Aの代
表取締役B(当時50歳)からあいさつ料名下に金員を喝取しようと企て,平成1
3年7月25日午後1時15分ころ,同市b△丁目△番△号所在のホームセンター
Cの駐車場出入口に同人を呼び出し,同所において,同人に対し,「おまえ,cの
解体したろうが。コイン洗車場のところで解体したろうが。しきたりがあろうが。
しきたりよ,おまえも分からんのか。おまえも社長じゃろうが,そのくらいのこと
は分かろうが。」などと怒号して暗に金員の交付を要求し,これに応じなければ,
同人やその家族,同社の従業員らの生命,身体,財産等に危害を加えるかのような
気勢を示して同人を畏怖させたが,同人が警察に被害を申告したため,その目的を
遂げなかった
第2 同市d△丁目△番△号所在のD農業協同組合e支店購買部ビルの解体工事に
関して,同工事を施工していた家屋解体業Eの経営者F(当時63歳)からあいさ
つ料名下に金員を喝取しようと企て,同日午後3時30分ころ,上記ビル解体工事
現場において,上記Fに対し,指定暴力団Gの構成員である旨名乗った上,同工事
現場の休憩所において,上記Fに対し,「どうしてあいさつ来んのや。」,「おま
えはfでも来んかったろうがいや。」,「だれの許可を得てやりよるんか。」,
「うちの許可が要ろうが。」,「そういうふうになっとるんよ。」,「わしが腹を
据えんやいけんのんか。」などと申し向けて暗に金員の交付を要求し,これに応じ
なければ,同人らの生命,身体,財産等に危害を加えるかのような気勢を示して同
人を畏怖させたが,同人が警察に被害を申告したため,その目的を遂げなかった
第3 前記Eが,あいさつ料の支払に応じなかったことから,上記Eの自動車等を
損壊しようと企て,H,I及びJと共謀の上,同月29日午前零時45分ころから
同日午前1時45分ころまでの間,広島市安芸区g町△番地△所在の上記Eの駐車
場において,上記H及び上記Iが,こもごも,同所に駐車してあったF管理の普通
貨物自動車1台の燃料タンク内に砂糖及び清涼飲料水を混入し,情を知らない上記
Eの従業員に同車両のエンジンを始動させてエンジンを焼き付かせ,また,F管理
の普通乗用自動車1台の左右ドア及び後部トランクを石でひっかいて傷を付けてそ
れぞれ損壊し(損害額合計39万5410円相当),もって,数人共同して他人の
器物を損壊した
第4 前記第3のとおり,前記自動車を損壊したにもかかわらず,上記Eがあいさ
つ料の支払に応じる気配がなかったことから,更に上記Eの自動車等を損壊しよう
と企て,前記H,前記I,前記J及びKと共謀の上,同年8月6日午前1時45分
ころから同日午前1時50分ころまでの間,前記駐車場において,上記I,上記K
及び上記Hが,同所に駐車してあったF管理の自家用ダンプカー等6台の車両に対
し,こもごも,あらかじめ準備していた金属バット1本,ゴルフクラブ1本(平成
13年押第117号の1),バール1本(同号の2)及びハンマー1本(同号の
3)を用いて,燃料タンクに穴を開けたり,フロントガラス等をたたき割るなど
し,さらに,上記Eの事務所南側窓ガラスを上記バール及び上記ハンマーを用いて
たたき割ってそれぞれ損壊し(損害額合計52万7870円相当),もって,数人
共同して他人の器物を損壊した
ものである。
(証拠の標目)
 (省略)
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,判示第1及び第2の恐喝未遂について,いずれも被告人が被害者を
脅したり金員を要求した事実はなく,判示第4の共同器物損壊について,被告人が
Hらと共謀した事実はない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をするので,以下に
順次検討する。
2 判示第1の恐喝未遂について
 (1)まず,Bは,おおむね以下のとおり供述する。
    平成13年7月25日午後1時ころ,私の携帯電話に男の声で電話が掛か
ってきて,自分の名前は名乗らないまま,ちょっとドスの利いたような声で,「あ
んたAか。話があるんじゃ。」,「あんたがわしを知らなくても,わしはあんたを
知っとる。」,「話があるんじゃ。」などという物言いで私を呼び出した。私は,
それまでに周囲の人物から聞いていた話から,相手は多分暴力団で,解体工事のこ
とで金銭を要求するつもりだと想像がついたが,この場で逃げても,いずれ同じよ
うな要求を受けると考えて,相手の呼び出しに応じることにした。
    待ち合わせ場所であるホームセンターCの駐車場スロープの下に自動車を
止めたところ,男が近づいてきて,運転席側のドアの真横に立って,私に声を掛け
てきた。その男が被告人である。
    私が自動車の窓を開けると,被告人は,「おまえ,cの解体したろう
が。」と言うので,「それがどしたんね。」と答えると,被告人は,少しドスを利
かせた声で,「おまえ,しきたりがあろうが,分からんのんか。」と言った。私
は,ほかの解体業者などから,解体工事をしていると暴力団に金銭を要求され,支
払わなければ工事を妨害されたりするということを聞いていたので,被告人も,そ
のような金銭の要求をしているのだろうと思ったが,とぼけて,「それは何ね。」
と聞き返すと,被告人は「しきたりよ,おまえも分からんのか,しきたりよ。」と
何度も言い,また,「おまえ社長じゃろうが。」,「そのぐらいのことは分かろう
が。」などと言った。被告人の要求を断ったら,私自身や私の家族,Aの従業員が
暴力を振るわれるかもしれないと思い,内心は恐ろしかった。
    私が被告人に名前を尋ねたり,名刺がほしいなどと言うと,被告人は怒っ
ていたが,最終的に,cの〇〇と名乗った。私は,cのほうを縄張としているとい
ううわさのあるGかどこかの暴力団だと思った。
    Aの金銭の管理は私がしているが,その場を逃れるために,私は社長だが
金銭の管理は私の父がしているから帰って相談するなどと言うと,被告人は「おま
え,hじゃろうが。」と,私の住所を知っているかのようなことを言い,「また来
らあ。」と捨てぜりふを残して立ち去った。
    本件当時,解体工事が終わっていたかどうかは記憶にないが,被告人が解
体工事について「やったろうが。」,「したろうが。」などという言葉を使ってい
たので,工事は終わっていたと思う。解体工事の後の整地も引き続いてAが行う予
定になっていたが,その後,話が壊れて整地工事はしないことになった。被告人か
ら,解体工事の後の整地をする業者名を尋ねられたことはない。
    そこで,このBの供述について検討するに,その供述内容に不合理な点は
なく,被告人とのやり取りに関しての供述も具体的で迫真性があり,また,被告人
が所属する暴力団の名前を名乗っていないことや,直接的に金銭を要求するような
言葉を発していないことなど,一見すると被告人に有利な事実も隠さず供述するな
ど,自身の記憶に基づいて供述しようとする真しな態度が見られることに加え,被
告人は現役の暴力団組員であり,Bが被告人に不利な供述をすれば,AやBらが,
被告人やその所属するGから報復を受けることも予想される状況の中での供述であ
ること,Bには,あえて虚偽の供述をしてまで被告人を陥れる動機がないことなど
が認められ,これらによれば,Bの上記供述は信用できる。
   なお,弁護人は,本件当時,Aの解体工事は既に終了していたから,あいさ
つ料を要求することはあり得ない旨主張する。しかし,そもそも暴力団が行ってい
る,いわゆるあいさつ料の要求自体が何らの根拠もない理不尽な言い掛かりにすぎ
ないものであるから,工事終了後にあいさつ料を要求された旨のBの供述は,不合
理とは言えないのであって,弁護人の主張は理由がない。
   また,弁護人は,Bが被告人にあいさつ料を要求されていると思い込み,被
告人から整地工事を行う業者名を尋ねられたことを忘れている可能性がある旨主張
する。しかし,Bの供述によれば,当時の予定では,その後の整地工事もAが行う
ことになっていたのであるから,整地工事を行う業者名を被告人に尋ねられたとす
れば,そのことがBの印象に残らないことはあり得ず,弁護人の主張は理由がな
い。
 (2)一方,被告人は,捜査段階の当初においては,判示第1の日時場所において
Bと会った事実さえ否定する供述をしていたが,その後供述を変遷させ,判示の日
時場所において,Bと会った事実は認めるに至ったが,その面談の目的について
は,解体工事の後の整地工事をする業者名を聞いて,その業者に営業活動をして,
Lから常用で人夫を入れてもらおうと思っていたからである旨供述していたとこ
ろ,当公判廷においては,更に供述を変遷させ,Aの解体工事の後の造成工事をす
る業者にあいさつ料を要求するために,その業者名を聞き出そうとしたものである
と供述する。
   以上のように,被告人の弁解には,Bと会ったか否か及び同人に面談を求め
た目的という最も重要な事項について,変遷が見られ,その変遷について合理的な
理由があるとは認められないばかりでなく,その弁解の内容自体も,電話で十分間
に合う用件のために,わざわざAの社長を呼び出していることや,本件以後,整地
工事を担当する業者名をBらに問い合わせようとした事実もないことなどによれ
ば,面談を求めた目的についての弁解も不合理と言わざるを得ず,被告人には,自
身の経験した事実を正直に供述しようとする真しな態度が全く認められない。した
がって,本件についての被告人の弁解は,到底信用できない。
 (3)以上に検討したところにより信用できるBの供述によれば,被告人が,Aが
施工した家屋の解体工事に関し,自身の所属している暴力団Gの威勢を背景に,も
し要求に応じなければ,Aの工事を妨害したり,Bらに危害を加える旨を暗に示し
て金員を要求したものと認めることができる。
3 判示第2の恐喝未遂について
 (1)まず,Fは,おおむね以下のとおり供述する。
    私は,Eという名称で,解体業を経営している。
    本件以前の平成12年4月ころに,f港の入り口で家屋解体をしていたと
ころ,Gの□□や☆☆と名乗る人物から,「だれの許可を得てやりよるんや。」な
どと脅され,事務所まで「あいさつ」に来いと要求されたことがある。事務所まで
「あいさつ」に来いということは,事務所まで金を持って来いという意味だと思っ
た。Gは,呉市cの辺りに事務所があり,その周辺を縄張としている暴力団である
ということは,同業者のうわさ話などから聞いていた。平成12年10月ころに
は,Gの本部長である▽▽が,私の次男に「あいさつ」に来るよう要求してきた
り,私自身にも,「××会がこっちへ来るけえのう,おまえのとこへ。」などと言
い,「あいさつ」に来るよう要求してきたが,私はこれらの要求に応じなかった。
    平成13年7月25日午後1時半ころ,私の長男から,eの工事現場に私
を訪ねてきている人物がいるという連絡を受けたので,午後3時ころに現場に戻る
旨伝えたが,実際にeの現場に戻ったのは午後3時30分くらいだった。
    私がeの現場に戻ると,被告人がいた。被告人とは初対面だった。被告人
に,「どちらさんですかね。」と声を掛けたところ,被告人は,「このほうでわし
を知らんもんがおるか。」,「G’のYじゃ。」と答えた。「G’」とはGだと思
ったが,とぼけて,「どこのYさんかいね。」と尋ねたら,被告人は何も答えなか
った。
    その場所は農協の金融部の前で,年輩者の出入りも多かったので,周囲に
迷惑が掛かってはいけないと思い,解体現場の奥にシートを張って仕切った休憩所
に移動した。私が「どういうことかね。」と口を切ると,被告人が「どうしてあい
さつ来んのや」と言った。私は,金を持ってあいさつに来いと言っているのだと思
った。具体的な金額の要求はなかったが,あいさつ料を取られたことのある業者か
ら,工事代金の1割くらいだという話を聞いていたので,その程度の金額を要求し
ているのだと思った。
    私は,わざと近所のあいさつのことに話をすり替えて,近所には既にあい
さつ回りをしていると言ったところ,被告人は「おまえはfでも来んかったろうが
いや。」などと言った後,工事に関して,「だれの許可を得てやりよるんか。」,
「うちの許可が要ろうが。」などと言った。「うち」とは,Gのことだと思った。
    私が,自分の身内にi警察署で暴力事件を担当している若い警察官がいる
のに,私が脅しに屈して金銭の支払に応じるわけにはいかない旨答えると,被告人
は「関係あるかい。腹据えて来とるんじゃ。」などと言った。私が,「死んでも払
わん。」と断ると,被告人は「わしが腹を据えんやいけんのんか。」と言った。被
告人の言葉は,被告人らが私の身に危害を加えるという意味だと思ったが,「あん
たが腹据えるんならわしも据えるよ。」と答えた。
    その日のうちにc警察署に行き,事件のあらましを説明したが,その日は
供述調書は作成されず,後日警察から連絡すると言われた。同月28日に被害届を
出し,供述調書を作成してもらった。被害届を出すのが遅れていたのは,自分自身
も忙しかったし,周囲の者も報復を心配していたからである。
    判示第3の事件が起こったのは,その日の深夜から翌朝にかけてのことで
ある。被告人ら暴力団組員が,暴走族上がりの下っ端の者を使って嫌がらせをした
のだと思った。また,判示第4の事件の際,私の長男が殺害されたが,第1回公判
の前ころに,事務所近くに「火の用心」と書かれた札がはり付けられ,灯油をまか
れるという出来事があった。
   そこで,このFの供述について検討するに,被告人は現役の暴力団組員であ
り,その旨明言してFと面談しているだけでなく,同人は,本件以外にも,被告人
が所属するGから同様の恐喝まがいの金銭要求を受けており,Fが被告人に不利な
供述をすれば,FらやEが,被告人やGなどから報復を受けることも予想され,現
実にこうした報復と思われる嫌がらせを受けていながら,あえて上記のような供述
をしていることに加え,Fには,あえて虚偽の供述をしてまで被告人を陥れる動機
がないこと,自らが直接経験した事実と推測した事実とを区別した上で,自身の記
憶に基づいて供述しようとしたり,被告人が直接的に金銭を要求するような言葉を
発していない事実といったような,一見すると被告人に有利な事実も隠さず供述す
るなど,真しな態度が見られること,供述内容が具体的かつ合理的で迫真性があ
り,首尾一貫していて,弁護人の反対尋問を受けても揺らいでいないことなどを併
せ考えれば,Fの上記供述は信用できる。
   この点につき,弁護人は,Fは判示第4の共同器物損壊の際に長男が殺害さ
れた事件についても被告人に責任があると思い込んで復しゅう心を抱いており,こ
れが供述内容に影響を及ぼしている可能性がある旨主張するが,前記のように,F
が更に報復を受ける危険が現実のものとして存在していることや,Fの具体的な供
述内容や真しな供述態度にかんがみれば,同人が復しゅう心から虚偽の事実をねつ
造したり,事実を誇張して供述していると疑われる点はなく,弁護人の主張は理由
がない。
 (2)一方,被告人は,当公判廷において,Eがどこの業者から仕事を請け負って
いるのか教えてもらい,その業者からLに仕事をもらおうと考え,経営者本人に会
ったほうが話もスムーズに進むと思い,Fに面会を求めたが,全く取り合ってもら
えず,また,Fの物言いに腹が立ったので,用件を説明しないまま辞去しようとし
たが,Fが被告人を引き留めた上,「私のいとこが刑事しよるけえすぐ呼んで捕ま
えちゃる。」などと言ってきた旨供述している。
   しかしながら,被告人がLのために営業活動を行っていたという実態は認め
られず,被告人が,わざわざ経営者であるFに面会することにこだわる合理的な理
由が認められないのみならず,2時間もFを待っていながら,同人に取り合っても
らえなかったからという理由で,用件を伝えることさえしないで辞去しようとした
という弁解の内容も,不自然かつ不合理である。また,暴力団からの恐喝被害を受
けることの多いこの種の業界で,一見して暴力団組員であることが疑われる被告人
に対し,Fが用件を尋ねることもなく,いきなり警察を呼んで捕まえてやるなどと
言い放つような挑発的な態度に出るとは到底考えられないのであって,被告人の弁
解は不合理で到底信用できない。
 (3)以上に検討したところにより信用できるFの供述によれば,被告人が,Eが
施工しているビル解体工事に関し,自身の所属している暴力団であるGの威勢を示
した上で,もし要求に応じなければ,Eの工事を妨害したり,Fらに危害を加える
旨を暗に示して金員を要求したものと認めることができる。
4 判示第4の共同器物損壊について
 (1)まず,Jは,おおむね以下のとおり供述する。
    判示第3の共同器物損壊の際,被告人の話から,被告人とEとの間に,み
かじめ料か何かのトラブルが起こっていると思った。被告人は,ダンプカーや重機
の燃料タンクに砂糖などを混入して,エンジンを焼き付かせるという,外見上は分
からない手段でダンプカー等を損壊する方法を説明してHらに実行させた後,1週
間くらいでEから連絡があるだろうと話していた。
    この事件の数日後,被告人が,Eについて,「連絡がない。」,「めがに
ゃいけんのう。」と言っていた。私は,これを聞いて,Eがみかじめ料を持って来
ないことから,今度は外見上分かるように,Eのダンプカーなどを壊すつもりであ
ることが分かった。
    平成13年8月5日は,被告人やIらと一緒に海水浴に行き,午後6時3
0分ころ,Lの事務所にもなっているIのアパートに帰ってきた。アパートでIと
一緒にいるとき,Iから,被告人が今日jに上がると言っているので連れて行って
ほしいと頼まれた。その後,居酒屋で,被告人,H,K,I,私を含め10人ぐら
いで飲食した後,Hが被告人運転の自動車に,IとKが私運転の自動車に分乗し,
Iのアパートに行った。私が被告人の子供を迎えにアパートに行く途中,被告人の
自動車のそばを通ったところ,被告人とHが自動車の中で何か話をしていたが,そ
の声は聞こえなかった。私が被告人の子供を被告人の自動車の後部座席に乗せ,H
が自動車から出てくるのを待っていると,車内にいた被告人が窓越しに,eにもE
の工事現場があり,そこに重機があるだろうから,そこにも行ってほしいと言っ
た。私は,jにあるEの事務所だけでなく,eの工事現場のダンプカーや重機も壊
しに行くという意味だと思った。また,被告人は,「兄弟が行くんで連れて行って
やってほしい。」と言った。被告人が「兄弟」と呼ぶのはHだけである。
    その後,私は,I,H,Kを自動車に乗せて,Iのアパートの前を出発す
るとき,被告人に,前回嫌がらせに行った〇〇の事務所にも行くのかどうかを確認
するため,「jですか。」と尋ねたところ,被告人はそうだと答えた。そこで,j
にあるEの事務所に行き,判示第4の犯行を実行したが,その際に,事務所で警戒
に当たっていたMに発見されて格闘になり,Hらが同人を殴り倒し,私たちは逃走
した。
   そこで,Jの上記供述の信用性について検討するに,被告人は暴力団組員で
あり,Jは被告人の舎弟分の立場にあっただけでなく,捜査段階で,同じく被告人
の舎弟分であるIに,事実を話し過ぎだと言って責められたり,分離前の当公判廷
における罪状認否において,被告人だけでなく,被告人の友人であるHらも被告人
との共謀を否認していたのであって,そのような中でJが被告人との共謀を認める
供述をすることにより,J自身やその家族らが,被告人やその所属する組からの報
復を受ける危険が強く予想され,また,J自身,被告人との立場関係などから,被
告人に不利な供述をすることについて強い心理的抵抗を抱いているものと考えられ
る一方,Jは,本件の共同器物損壊について直接には実行行為を担当しておらず,
その関与は従属的であるものの,共同正犯として起訴されている上,被告人とは直
接関係のない傷害致死幇助でも起訴されているのであって,本件について被告人を
共犯者として引き込んだとしても,ほとんど自己の刑事責任の軽減にはならないと
考えられるなど,Jが被告人に不利な虚偽の供述をする動機が認められない上,そ
の供述内容も具体的かつ合理的であって迫真性が認められ,その供述
の信用性は非常に高いと言うべきである。
   この点につき,弁護人は,Jの供述内容は,被告人との共謀を否定する旨の
I及びHの供述と矛盾し,信用できない旨主張する。
   しかし,本件の共謀について,Hは,Iから携帯電話に電話が掛かってきた
ので,Iに対して,Eに嫌がらせに行こうと誘ったところ,Iは少し考えて承諾し
た旨供述しているのに対し,Iは,いったんはHに電話を掛けた記憶はない旨供述
しておきながら,捜査官からIの携帯電話の通話記録を見せられると,電話を掛け
たことは思い出したが,トラックを壊しに行くという話をした記憶はない旨供述を
変遷させているのであって,Iの供述は,本件の核心部分である共謀関係の成立に
ついて,同じく共謀関係を否定するHの供述と食い違っている。また,Hの供述
も,被告人の舎弟分であったJとIを使って,被告人とトラブルになっていたEに
嫌がらせをしに行くに際して,その出発の直前,居酒屋からIのアパートに戻って
くる車中で,被告人がHと一緒にいたにもかかわらず,被告人に何らの相談もしな
いまま,独断で行動したというものであって,その内容は極めて不合理である。そ
して,I及びHは,被告人が共謀を自認している判示第3の共同器物損壊について
さえ,客観的証拠や関係者供述に反する明らかに不合理な弁解を弄してまで,被告
人の関与を否定するなど,不当に被告人をかばおうとする供述態度に終
始していることや,I及びHと被告人との立場関係などによれば,I及びHには,
あえて虚偽の供述をしてまでも被告人をかばう動機があるばかりでなく,被告人と
の共謀を否定しても自己の刑事責任に消長を来すわけではないことなどにかんがみ
れば,被告人との共謀を否定するI及びHの供述は,到底信用できるものではな
い。
   また,弁護人は,Iのアパート前でのやり取り等についてJが供述する内容
は,証人Nの供述と矛盾し,信用できない旨主張するが,Nは,捜査段階では,当
公判廷での証言と全く異なる供述をしていたことがその証言自体から認められると
ころ,その供述変遷の理由についての弁解は明らかに不自然かつ不合理であって,
到底信用できず,参酌するに値しない。
 (2)一方,被告人は,Eに対する嫌がらせは1回で十分であると考えており,周
囲の者にもそのように話していたこと,自分の運転する自動車にHを乗せて居酒屋
からIのアパートに戻ったが,Hは,アパートの少し手前で自動車を降りたこと,
被告人が子供を自動車に乗せてIのアパートを出発するときには,Jの自動車もI
のアパートに戻っていたと思うが,JやIと話をしたことはないことなどを供述す
る。しかしながら,Iのアパートの少し手前でHが自動車から降りたという点につ
いては,その内容自体が不自然であるばかりでなく,被告人との共謀を頑強に否認
しているHでさえ,被告人が自動車に子供を乗せて帰った後にJの自動車に乗った
などと,被告人の供述と相容れない供述をしていることに照らしても,この点につ
いての被告人の供述は虚偽であることが明らかであり,また,Hらが,被告人の立
場を不利にするかもしれないのに,被告人の意向を無視してまで,被告人の舎弟分
であるIやJを使って,Eに嫌がらせに行くことも通常では考えられないことに加
えて,被告人の供述に不合理な変遷が多数存在することも併せ考えれば,被告人の
供述は到底信用できるものではない。
 (3)以上に検討したところにより信用できるJの供述によれば,被告人が,判示
第3の嫌がらせをしたにもかかわらず,Fが被告人の要求に応じる気配がなかった
ことから,今度は外見上も分かるようにダンプカーや重機等を壊そうと考え,Hら
に指示して,判示第4の犯行を実行させたものと認められる。
(法令の適用)
 (省略)
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,暴力団の威勢を背景に,解体業者2業者に対してあいさつ料
の支払を要求したが,いずれもその目的を果たすことができず,更にそのうちの1
業者に対して,報復のため,2度にわたって,自身の友人や舎弟らとともに,ある
いはこれらの者に指示して,その業務用のダンプカーなどを損壊したという恐喝未
遂及び共同器物損壊の事案である。
 まず,2件の恐喝未遂について見るに,その動機は,暴力団の資金集めであるか
自己の金銭欲によるものであるかは明らかではないものの,いずれにせよ,自己中
心的な動機であって,酌量の余地はない。
 また,被告人は,本件各現場周辺を縄張として,同種の恐喝を組織的に行ってい
るとの風評の強い暴力団の組員として,その暴力団の威勢を示し,解体業者やその
家族,従業員に対して組織的に危害を加えることを暗に示して金員を要求している
のであり,その態様は非常に悪質である。
 次に,共同器物損壊2件について見るに,被告人は,自身の不当な金銭要求を拒
絶されたことから,暴力団組員としてのめんつを潰されたなどと逆恨みするととも
に,暴力団の威勢を示し,被害者を屈服させようと考えて行ったものであって,そ
の暴力団特有の論理に基づく身勝手な動機には酌量の余地はみじんもない。
 また,判示第3の共同器物損壊は,夜陰に紛れて,ダンプカーの燃料タンクに密
かに砂糖などを混入してエンジンを焼き付かせるという陰湿な犯行であり,判示第
4の共同器物損壊は,手当たり次第にダンプカーの燃料タンクに穴を開けるなどし
ただけでなく,持ち込んだガソリンを使ってダンプカーなどに放火することまで考
えていたという破壊的かつ暴力的な犯行であって,いずれもその態様は悪質であ
る。
 そして,被告人は,これら2件の共同器物損壊の首謀者の地位にあったことは明
らかであって,その責任は重大であるばかりでなく,いずれの犯行においても,実
際の犯行は自身の友人や舎弟らに行わせ,自身は責任追及を免れようとしていたも
のであって,その態度は卑劣と言うほかない。
 さらに,これらの犯行により,直接損害だけでも合計で約90万円という多額の
損害が生じ,営業用のダンプカーなどを損壊されたことによる間接損害を含めると
損害額は膨大な額に上るのであって,その結果も重大である。そして,これらの暴
力団特有の論理に基づく粗暴で悪質な犯行が,結果的には,事務所で夜番に当たっ
ていた経営者の長男に対する殺人事件にまで発展しているのであって,その関係者
や周辺住民に与えた不安や恐怖には甚大なものがあり,その社会的影響も無視する
ことはできない。
 にもかかわらず,被告人は,被害者に対して,被害弁償を行おうとしないだけで
なく,謝罪さえ拒否しているのであって,被害者の処罰感情が峻烈であるのも当然
と言うべきである。
 そして,被告人は,捜査段階から,自己の責任を不当に免れようとして,極めて
不誠実で不合理な弁解に終始しているのみならず,いまだに被害者を逆恨みしてい
て,全く反省の情が認められないばかりでなく,今後も暴力団組織から離脱する意
思がない旨言明しているのであって,再犯のおそれは非常に強い。
 以上の事情によれば,被告人の刑事責任は非常に重く,一方では,恐喝はいずれ
も未遂に終わっていること,被告人は若年であり,前科もないことなど,被告人の
ために斟酌できる事情も認められるものの,これらを最大限に考慮してもなお,被
告人を主文程度の実刑に処し,矯正教育を施すことが必要不可欠であると言わざる
を得ない。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑-懲役5年,押収物没収)
  平成14年6月7日
    広島地方裁判所刑事第一部
        裁判長裁判官山  森  茂  生
           裁判官髙  原     章
           裁判官寺  元  義  人

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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