弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
被告人を禁錮2年に処する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執
行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護
観察に付する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は,主任弁護人川上有,弁護人坂口唯彦,同
細谷祐輔連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に,これ
に対する答弁は,検察官生形修作成の答弁書及び答弁書補充書
に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用
する。
第1控訴趣意に対する判断
論旨は,被告人を禁錮1年6月の実刑に処した原判決の量刑
は重すぎて不当であるというのである。
所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの
結果をも併せ検討する。
本件は,原判示の汽船(以下「本件船舶」ともいう)の船。
長である被告人が,原判示のa川の河口付近海域の波浪状況等
を自らの目で確認することなく,原判示のa川上流マリーナか
ら本件船舶を出航させた過失により,同海域付近で数回にわた
り大波を受けて本件船舶の船体船首を上下左右に激しく動揺さ
せ,乗船者のうち,2名に傷害を負わせ,1名を海中に転落さ
せて死亡させたという業務上過失致死傷の事案である。
被告人は,本件事故が発生した海域は船舶事故の多発する危
険な海域であることを聞き知っていたものであり,本件当日の
早朝には仲間ら4名と共に船釣りに行く予定であったが,仲間
の一人から大波が発生していて安全に航行できない状態である
と聞くなどして,仲間らと相談の上でいったんは出航を断念し
て帰宅していたところ,仲間の一人から,地元の漁師が今なら
出航可能と言っている旨聞くや,上記河口付近の波浪状況等を
自らの目で確認することなく,上記の仲間から聞いた話や風が
ほとんどやんでいた上記マリーナ付近の状況などから,安易に
も出航できると考えて本件船舶を出航させ,本件事故を引き起
こしたものであって,乗船者の生命,身体の安全に意を尽くす
という船長としての基本的な注意義務を怠ったものというほか
はなく,その過失の程度は重い。被害者のうち,1名を溺水の
吸引により死亡させた結果が重大であるのはもちろん,1名に
全治約60日間の右上腕骨近位端骨折等の,1名に全治約5週
間の右橈骨遠位端骨折等の重傷をそれぞれ負わせた結果も相当
に重い上,死亡被害者の父親の被った精神的衝撃や悲嘆は大き
く,同人及び死亡被害者の兄が被害者遺族として原審手続に参
加し,事故後の被告人の不誠実な行動を非難しつつ,死亡被害
者の父親は実刑を望む旨の意見を述べており,その心情は十分
に理解することができる。
以上によれば,被告人の刑事責任を軽くみることはできない。
しかしながら,本件航行にあたっての被告人の立場をみると,
被告人及び本件被害者3名を含む乗船者らは友人であって遊び
仲間であり,唯一被告人が小型船舶操縦士の免許を保有してい
たことから,船長として本件船舶を操縦したものであること,
被告人が本件船舶を操縦したのは,本件の約1か月前が初めて
で,それも遊び仲間との船釣りのためというのであって,日常
的に職務として行ったものではないことが認められ,また,乗
船者らは,本件当日の早朝に出航を断念した経緯を知っている
のに,1名を除いては救命胴衣を着用しないまま乗船している
のであって,船長である被告人が明示的に着用を指示しなかっ
たことは,原判決が説示するように乗船者らの生命,身体に対
する配慮が欠けていたことを示すものであるとはいえるものの,
上記の被告人と乗船者らとの関係等に照らすと,死亡被害者を
含むそのような乗船者にも安易な面があったことは否定するこ
とができず,このような諸事情は,被告人の船長としての責任
や,その過失の内容,程度を軽減させるものではないが,被害
者に生じた死亡や傷害の結果について,その責任を船長である
被告人のみに負わせるのは酷であるという意味において,被告
人のために酌むことのできる事情というべきである。また,死
亡被害者の遺族に対する被告人の対応をみると,その通夜や葬
式等に参列し,その後も遺族を訪問して謝罪の気持ちを伝え,
死亡被害者に対する弔意を表した記念碑の建立に携わるなどし
て反省の態度を示すとともに,死亡被害者の供養のための費用
として七回忌までに遺族に対し500万円を支払う旨約束した
念書を作成しているのであって,その後に,原判決が指摘する
ように,上記支払が全く実行されていなかったり,遺族との連
絡を取らず,数回転居したのにその転居先を知らせることもし
なかったという事情があり,これらは被告人の一方的な思い込
み等によるものであって,到底十分な対応とはいえないものの,
被告人なりに遺族に対して謝罪の態度を示しているというべき
であって,遺族に対する被告人の対応が全体として誠意のある
ものとはとても評価できないとの原判決の説示は相当ではない。
これらに加えて,負傷した被害者2名が被告人を宥恕する意向
を示していることなど,被告人のために酌むことのできる諸事
情を考慮し,海難事故の事案に関する科刑の実情をも勘案する
と,被告人に対しては社会内で更生する機会を与えるのが相当
である。
したがって,被告人を禁錮1年6月の実刑に処した原判決の
量刑は刑の執行を猶予しなかった点で重すぎるから是正を要す
る。
論旨は理由がある。
そこで,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄
し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決す
る。
第2自判
原判決が認定した事実に原判決が掲げる法条を適用,処断し
た刑期の範囲内で被告人を禁錮2年に処し,刑法25条1項を
適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予
し,なお被告人の生活状況,上記約束の履行状況等にかんがみ,
同法25条の2第1項前段を適用してその猶予の期間中被告人
を保護観察に付し,原審における訴訟費用については,刑訴法
181条1項本文によりこれを被告人に負担させることとする。
よって,主文のとおり判決する。
平成21年8月27日
札幌高等裁判所刑事部
裁判長裁判官小川育央
裁判官二宮信吾
裁判官水野将徳

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