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裁判例


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       主   文
一 司法試験管理委員会委員長が原告に対して平成15年4月23日付けでした、
処理情報の一部不開示決定処分(ただし、平成16年3月26日付け処理情報の一
部開示決定処分による一部取消し後のもの)のうち、平成11年度口述試験の総合
順位を開示しないとした部分を取り消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを6分し、その5を原告の負担とし、その余は被告の負担とす
る。
       事実及び理由
第一 請求
 司法試験管理委員会委員長が原告に対して平成15年4月23日付けでした、処
理情報の一部不開示決定処分(ただし、平成16年3月26日付け処理情報の一部
開示決定処分による一部取消し後のもの)を取り消す。
第二 事案の概要
 本件は、平成9年度から平成11年度までの各年度の司法試験第二次試験の受験
者である原告が、司法試験管理委員会委員長に対し、行政機関の保有する電子計算
機処理に係る個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」とい
う。)13条1項に基づき、司法試験第二次試験ファイルに記録された自己の試験
成績等の処理情報の開示を請求したところ、司法試験管理委員会委員長が、行政機
関個人情報保護法14条1項1号ニ及び3号に該当することを理由として、請求を
受けた処理情報の一部につき不開示決定処分をしたため、これを不服とする原告
が、その取消しを求める事案である。
 なお、平成16年1月1日、司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律(平
成14年法律第138号。以下「改正法」という。)が施行され、国家行政組織法
3条2項に基づく委員会であった司法試験管理委員会は、同法8条に基づく合議制
の機関である司法試験委員会に改組された。これに伴い、改正法の施行前に、法令
の規定により司法試験管理委員会の委員長がした処分その他の行為は、改正法の施
行後は、当該法令の相当規定により法務大臣がした処分その他の行為とみなされる
こととなったため(改正法附則3条2項)、法務大臣は、本件訴訟を承継した。
一 法令の定め
 行政機関個人情報保護法の規定は、以下のとおりである。
1条(目的)
 この法律は、行政機関における個人情報の電子計算機による処理の進展にかんが
み、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の取扱いに関する基本的事
項を定めることにより、行政の適正かつ円滑な運営を図りつつ、個人の権利利益を
保護することを目的とする。
2条(定義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところに
よる。
1号(省略)
2号 個人情報 生存する個人に関する情報であつて、当該情報に含まれる氏名、
生年月日その他の記述又は個人別に付された番号、記号その他の符号により当該個
人を識別できるもの(当該情報のみでは識別できないが、他の情報と容易に照合す
ることができ、それにより当該個人を識別できるものを含む。)をいう。(以下省
略)
3号(省略)
4号 個人情報ファイル 一定の事務の目的を達成するために体系的に構成された
個人情報の集合物であつて、電子計算機処理を行うため磁気テープ、磁気ディスク
その他これらに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物
(以下「磁気テープ等」という。)に記録されたものをいう。
5号 処理情報 個人情報ファイルに記録されている個人情報をいう。
(以下省略)
13条(処理情報の開示)
1項 何人も、保有機関の長に対し、自己を処理情報の本人とする処理情報(個人
情報ファイル簿に掲載されていない個人情報ファイルに記録されているもの及び第
7条第2項の規定に基づき個人情報ファイル簿に記載しないこととされたファイル
記録項目を除く。)について、書面により、その開示(処理情報が存在しないとき
にその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を請求することができる。
(以下省略)
2項(省略)
3項 保有機関の長は、開示請求があつたときは、次条第1項に掲げる場合を除
き、開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対し、書面により、当該
開示請求に係る処理情報について開示をしなければならない。(以下省略)
14条(処理情報の不開示)
1項 保有機関の長は、開示請求に係る処理情報について開示をすることにより、
次の各号のいずれかに該当することとなると認める場合には、当該処理情報の全部
又は一部について開示をしないことができる。
1号 次に掲げる事務のいずれかの適正な遂行に支障を及ぼすこと。
イないしハ(省略)
ニ 学識技能に関する試験、資格等の審査、補償金、給付金等の算定その他これら
に準ずる評価又は判断に関する事務
ホ(省略)
2号(省略)
3号 個人の生命、身体、財産その他の利益を害すること。
2項 保有機関の長は、前項の規定に基づき処理情報の全部又は一部について開示
をしない旨の決定(以下「不開示決定」という。)をしたときは、その旨及び理由
を記載した書面を開示請求者に交付しなければならない。
二 前提となる事実
 証拠等により容易に認めることのできる事実は、その旨記載した。それ以外の事
実は、当事者間に争いがない。
1 司法試験制度の概要
(一) 司法試験の目的
 司法試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその
応用能力を有するかどうかを判定することを目的とする国家試験であり(司法試験
法1条1項)、司法研修所における将来の法曹としての教育を受ける際に要求され
る一定の学識及びその応用能力を有するか否かを判定するための試験である。
(二) 司法試験の実施機関
 前記のとおり平成16年1月1日に改正法が施行されるまでは、司法試験に関す
る事項を適正に管理するため、法務省の外局として司法試験管理委員会が置かれ、
司法試験に関する事務を担当していた(改正法による改正前の司法試験法(以下
「旧司法試験法」という。)12条、12条の2)。
 司法試験の試験問題の作成及び試験の採点並びに合格者の判定は、司法試験管理
委員会の推薦に基づき法務大臣が任命する司法試験考査委員(以下「考査委員」と
いう。)が行うこととされ(旧司法試験法15条1項)、司法試験の合格者は、考
査委員の合議による判定に基づき、司法試験管理委員会が決定することとされてい
た(旧司法試験法8条1項)。
(三) 司法試験の概要
 司法試験は、第一次試験と第二次試験とに分かれ(司法試験法2条)、第一次試
験は一般教養科目について、また、第二次試験は法律科目について行われ(同法3
条、6条1ないし3項)、第一次試験に合格した者及び同試験の免除者(同法4
条。大学において教養課程を修了した者等が該当する。)が第二次試験を受けるこ
とができる(同法5条2項)。
 司法研修所における教育を受ける上で要求される一定の知識、能力は、第二次試
験によって判定される。第二次試験は、短答式試験式、論文式試験、口述試験の順
で行われ、短答式試験に合格した者が論文式試験を、論文式試験に合格した者が口
述試験を、それぞれ受験することができ、口述試験に合格した者が最終合格者とな
る(同法6条1ないし3項、8条、9条)。
(四) 第二次試験の試験科目等
(1) 短答式試験
 短答式試験は、憲法、民法及び刑法の3科目について行われ(司法試験法6条1
項)、現在は、各科目20問ずつの合計60問が5肢択一式で出題されており、試
験時間は3時間30分である。
(2) 論文式試験
 論文式試験は、現在、憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法及び刑事訴訟法の6
科目について行われ(司法試験法6条2項)、試験時間は各科目2時間ずつで、1
科目2問が出題される。
(3) 口述試験
 口述試験は、現在、憲法、民法、刑法、民事訴訟法及び刑事訴訟法の5科目につ
いて行われ(司法試験法6条3項)、考査委員と受験者が対面し、考査委員の発問
に対する受験者の応答に応じて、更に発問が発展していく形で進められる。
(五) 第二次試験の成績通知
 第二次試験については、平成15年度まで、短答式試験、論文式試験及び口述試
験の各合格者に対する合格通知のほか、以下のとおり、成績通知が行われていた。
(乙2、17)
(1) 短答式試験
 全受験者のうち成績の通知を希望する者に対して、科目別得点、科目別順位ラン
ク(成績区分)、総合得点、総合順位及び総合順位ランク(成績区分)を通知して
いた。
(2) 論文式試験
 不合格者のうち成績の通知を希望する者に対して、科目別順位ランク(成績区
分)、総合得点、総合順位及び総合順位ランク(成績区分)を通知していた。
 これらのうち、科目別順位ランク(成績区分)及び総合順位ランク(成績区分)
は、2000位までをA、2001位から2500位までをB、2501位から3
000位までをC、3001位から3500位までをD、3501位から4000
位までをE、4001位から4500位までをF、4501位以下をGとしたもの
である。
(3) 口述試験
 不合格者のうち成績の通知を希望する者に対して、総合得点及び総合順位を通知
していた。
2 原告の試験成績の開示請求等
(一) 原告の司法試験受験歴等
 原告は、平成9年度から平成11年度までの各年度の司法試験第二次試験を受験
した。そして、平成11年度の司法試験に最終合格し、平成12年度司法修習生に
採用され、平成13年10月5日に司法修習生の修習を終えた。(甲5、弁論の全
趣旨)
(二) 原告の開示請求
 原告は、司法試験管理委員会委員長に対し、平成15年4月2日、行政機関個人
情報保護法13条1項に基づき、原告に係る昭和58年度以降の司法試験第二次試
験ファイル中、別紙記載の全34のファイル記録項目のうち、番号15の「一次合
格申請」、番号16の「筆記試験免除・高等試験行政科合格申請」及び番号32の
「筆記試験免除区分」の3項目を除いた31項目の開示を請求した。なお、ファイ
ル記録項目のうち、番号26の「論文式試験の順位ランク」は、前記1(五)
(2)の論文式試験の成績通知における「科目別順位ランク」及び「総合順位ラン
ク」と同一の内容である。(乙17)
(三) 原告の開示請求に対する一部不開示決定
 原告の上記開示請求に対し、司法試験管理委員会委員長は、平成15年4月23
日付けで、次の①ないし⑦の各項目を開示することにより、行政機関個人情報保護
法14条1項1号ニ及び3号に該当することとなると認められるとして、これらの
項目につき不開示とする決定(以下「本件不開示決定」という。)をするととも
に、その余の項目を開示することとし、原告に対して不開示決定書及び開示書を郵
送により交付した。
 不開示とされた項目は、原告のファイル記録項目が存在する年度のうち、
① 番号23の「論文式試験の科目別得点」の平成9年度分から平成11年度分ま

② 番号24の「論文式試験の総合得点」の平成11年度分
③ 番号25の「論文式試験の総合順位」の平成11年度分
④ 番号27の「論文式試験の制限枠合格の有無」の平成11年度分
⑤ 番号29の「口述試験の科目別得点」の平成11年度分
⑥ 番号30の「口述試験の総合得点」の平成11年度分
⑦ 番号31の「口述試験の総合順位」の平成11年度分
である。(甲1)
(四) 開示項目に関する当時の取扱い
 司法試験管理委員会においては、平成15年当時、別紙記載のファイル記録項目
のうち、番号23の「論文式試験の科目別得点」については、当該年度の論文式試
験の合格・不合格の別を問わず不開示とされ、番号24の「論文式試験の総合得
点」、番号25の「論文式試験の総合順位」及び番号27の「論文式試験の制限枠
合格の有無」については、当該年度の論文式試験合格者については不開示とされて
いた(つまり、当該年度の論文式試験不合格者については、開示する取扱いとされ
ていた)。
 また、番号29の「口述試験の科目別得点」については、当該年度の最終合格・
不合格の別を問わず不開示とされ、番号30の「口述試験の総合得点」及び番号3
1の「口述試験の総合順位」については、当該年度の最終合格者については不開示
とされていた(つまり、当該年度の口述試験不合格者については、開示する取扱い
とされていた)。
 本件不開示決定は、このような当時の司法試験管理委員会の取扱いに従って行わ
れたものである。(乙17、弁論の全趣旨)
(五) 本件訴訟の提起
 原告は、平成15年6月30日、本件不開示決定の取消しを求めて、本件訴訟を
提起した。(当裁判所に顕著な事実)
(六) 成績通知についての取扱いの変更
 司法試験委員会は、平成16年2月23日、第二次試験の受験者に対する成績通
知についての取扱いを変更し、平成16年度の第二次試験から、それまで不合格者
に対してのみ行っていた論文式試験及び口述試験の成績通知を、合格者に対しても
拡充することとした。そして、論文式試験合格者に対しては、科目別順位ランク、
総合順位ランク及び総合得点を、口述試験合格者に対しては、総合得点をそれぞれ
通知することとした。(乙25)
(七) 本件不開示決定の一部取消し
 上記(六)の成績通知についての取扱いの変更に伴い、被告は、平成16年3月
26日付けで、本件不開示決定のうち、平成11年度論文式試験の総合得点及び制
限枠合格の有無並びに同年度口述試験の総合得点に関する部分を取り消し、これら
の処理情報を開示することとして、原告に対して開示書を送付した(以下、上記一
部取消し後においても不開示とされた処理情報を「本件不開示情報」という。)。
(乙18、19)
三 争点
1 本件不開示情報が行政機関個人情報保護法14条1項1号ニに該当するか否
か。
2 本件不開示情報が行政機関個人情報保護法14条1項3号に該当するか否か。
四 争点に関する当事者の主張の要旨
1 本件不開示情報が行政機関個人情報保護法14条1項1号ニに該当するか否か
(争点1)について
(被告の主張)
(一) 論文式試験について
 論文式試験受験者の科目別得点及び同試験合格者の総合得点を開示した場合に
は、以下のような弊害が生ずることが明らかである。
 すなわち、最近の司法試験第二次試験においては、いわゆる司法試験予備校等が
用意した答案例をあらかじめ丸暗記するなどの記憶中心の受験勉強をして、丸暗記
した答案表現例を吐き出しただけではないかと思われる画一的答案が多く、受験者
が自らの本当の理解力や思考力等に基づいて答案を作成しているのか判定に苦しむ
事態が生じている。このような状況の下で、論文式試験受験者の科目別得点が開示
されれば、司法試験予備校等において、多数の再現答案と科目別得点との関係を分
析し、高得点答案の共通点・パターンなるものを抽出し、論文式試験の予想問題に
ついて、それらの共通点・パターンに基づく答案表現例を多数作成して受験者に示
すなどの受験指導を行うことが容易に推測される。
 また、論文式試験合格者の総合順位を開示した場合にも、高順位者について、上
記の科目別得点の高得点者の答案についてと同様の状況が生じ得る。
 そうすると、受験者らは、ますます、高得点を得たとされる答案の書きぶり、論
述の運びなどの外形を模倣することに力を注ぐようになり、答案のパターン化、画
一化により拍車がかかり、その結果として、論文式試験を通して各受験者の理解
力、推理力、判断力、論理的思考力、説得力、文章作成能力等を総合的に評価して
採点をするという、論文式試験の選抜機能が損なわれ、司法試験事務の適正な遂行
に支障を及ぼすことは明らかである。
 以上のとおり、論文式試験の科目別得点及び同試験合格者の総合順位を開示する
ことは、司法試験に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすものである。したがっ
て、これらを不開示とした本件不開示決定は適法である。
(二) 口述試験について
(1) 口述試験についても、試験終了後、試験における考査委員と受験者との問
答が再現され、受験情報誌等に掲載され、批評や分析の対象とされているのは周知
の事実である。
 したがって、仮に、合格者であれ、不合格者であれ、科目別得点が開示されるこ
とになると、これらの再現例に対する具体的な得点が明らかになることとなり、再
現例の正確性や考査委員の発言の真意、他の受験者との比較等の問題を深く考慮す
ることなく、受験者の間に、高得点とされた再現例をうのみにして無批判に勉学の
指針とするなどの風潮が広がり、解答のパターン化、画一化が進み、法曹としての
適格性を判断するという口述試験本来の目的を達成できなくなるおそれがあること
は、論文式試験におけるのと同様である。
 口述試験の合格者の総合順位を開示した場合にも、高順位者の再現例とされるも
のをめぐって、同様の問題が生じ得る。
(2) また、口述試験は、短答式試験及び論文式試験と異なり、考査委員と受験
者が対面して行われるものであるから、口述試験の科目別得点の開示については、
別途考慮すべき事情がある。
 すなわち、考査委員の氏名は官報で公表されており、受験情報誌等においては考
査委員の氏名とともに顔写真が公表されているため、口述試験を受けた受験者は、
自らが受けた口述試験の考査委員を容易に特定することができる。そのため、科目
別得点を開示すれば、受験者は、どの考査委員が自分に対してどのような採点を行
ったのか、不合格となった場合には、どの科目のどの考査委員の採点によって合格
点に達しなかったのかを具体的に知ることが可能となる。そうすると、いたずらに
個々の考査委員による採点の適正さ等を問題視し批判するような動きが現れるおそ
れが極めて高い。そうなれば、考査委員としても、受験者に対する同情心や受験者
に憎まれたくないという人間的な感情にとらわれ、例えば、合否に直接影響するよ
うな低い採点を行うのをちゅうちょするなど、自由で公正中立な採点を行うという
基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能性があり、考査委員が、自己の良識に基
づき、自由で公正中立な立場から、受験者の法曹としての適格性を総合的に判断す
るという、本来の採点の在り方を損なうおそれが大きい。
 さらに、司法試験予備校等は、どの考査委員がどの受験者に対してどのような採
点を行ったのかについての個別具体的な情報を集積することによって、同一問題に
関する複数の考査委員の採点傾向を比較したり、異なる問題に関する同一考査委員
の採点傾向を比較するなど、各考査委員の採点傾向について、外見上もっともらし
い検討、分析を行うことが可能になり、合格のみを目標とした受験テクニックに偏
った受験者が増加し、受験者の法曹としての適格性を総合的に判断するという、本
来の口述試験の在り方を損なうこととなる。また、上記のような検討、分析が行わ
れると、いたずらに個々の考査委員による採点の適正さ等を問題視し、批判するよ
うな動きが現れる可能性が高く、その場合、各考査委員は、他の考査委員と比較さ
れたり、批判の対象とされることを敬遠して、厳しい採点を行うのをちゅうちょし
たり、できるだけ横並びの採点を行おうと意識するなど、自由で公正中立な採点を
行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能性は大きく、考査委員が、自
己の良心に基づき、自由で公正中立な立場から、受験者の法曹としての適格性を総
合的に判断するという、本来の採点の在り方を損なうことともなる。
(3) 以上のとおり、口述試験の科目別得点及び同試験合格者の総合順位を開示
することは、司法試験に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすものである。した
がって、これらを不開示とした本件不開示決定は適法である。
(原告の主張)
(一) 論文式試験について
(1) 科目別得点について
ア 被告は、現状の論文式試験の答案の傾向について、丸暗記した答案表現例を吐
き出しただけではないかと思われる画一的答案が多く、受験者が自らの本当の理解
力や思考力等に基づいて答案を作成しているのか判定に苦しむ事態が生じている旨
主張し、これを前提として、論文式試験の科目別得点の開示により、このような傾
向に拍車がかかり、司法試験に関する事務の適正な遂行に支障が及ぶと主張をす
る。
イ しかし、現状の論文式試験の答案に被告の主張するような傾向があることを認
めることはできないし、受験者が自らの本当の理解力や思考力等に基づいて答案を
作成しているのか判定に苦しむ事態が生じているかどうかも不明である。
 論文式試験において、以前より画一的答案が増えているとしても、後記エのとお
り、受験者の解答が似かよっているのは当然のことなので、そのような答案の増加
は、司法試験予備校等の普及により、多くの受験者が、短期間の学習で、一定のレ
ベルに到達することができるようになったからにすぎない。多くの最終合格者は、
論文式試験において暗記力を重視しておらず、司法試験予備校等が用意した答案例
をあらかじめ丸暗記するなどの記憶中心の受験勉強をしているとは考えられない。
ウ 次に、論文式試験の科目別得点の開示により、前記被告主張の現状の論文式試
験の答案の傾向に拍車がかかるともいえない。
 現状においても、司法試験予備校等は、独自の評価を加えた再現答案集を発表し
たり、多数の再現答案と順位ランクとの関係を分析し、高順位ランク答案の共通
点・パターンなるものを抽出し、論文式試験の予想問題について、それらの共通
点・パターンに基づく答案表現例を多数作成して受験者に示すなどして受験指導を
行ったりしていると考えられる。
 そして、順位ランクのみならず、科目別得点まで開示した場合に、現状において
丸暗記中心の学習をしていない者のうち、具体的にどの程度の者が丸暗記中心の学
習に走り、及び現状において丸暗記中心の学習をしている者のうち、具体的にどの
程度の者が、どの程度その傾向を強め、これにより、現状と比べて具体的にどの程
度、画一的答案が多いという被告が主張するような現状の論文式試験の答案の傾向
に拍車がかかるのか全く不明である。
 仮に、現状において、論文式試験で高得点を取っている答案が、画一的ではな
く、受験者が自らの本当の理解力や思考力等に基づいて答案を作成していると考え
られるものであるならば、論文式試験の科目別得点の開示により、このような事実
を司法試験予備校等を通して、受験者等に広く知らしめることができ、むしろ、丸
暗記中心の勉強をしている受験者の勉強方法をやめさせるきっかけともなり得る。
 これとは逆に、仮に現状において、論文式試験で高得点を取っている答案にも、
画一的答案が多く、受験者が自らの本当の理解力や思考力等に基づいて答案を作成
しているのか判定に苦しむ事態が生じているのであれば、もはやこれ以上悪化のし
ようがないので、論文式試験の科目別得点の開示により、前記被告主張の現状の論
文式試験の答案の傾向に拍車がかかるわけではない。
エ また、論文式試験において、受験者の解答が似かよっているのは当然のことで
あり、被告もそれを承知しながら、むしろこのような状態を積極的に後押ししてお
り、仮に画一的答案が多いという被告が主張するような現状の論文式試験の答案の
傾向に拍車がかかったとしても、何ら、司法試験に関する事務の適正な遂行に支障
を及ぼすものではない。
 被告は、論文式試験における出題の趣旨を法務省のホームページ等に掲載して公
表している。これは、論文式試験においても、当該問題につき、解答すべき事項や
具体的な解答方法がある程度決まっていることを意味する上、論文式試験における
出題の趣旨の公表により、受験者をして論点中心の勉強をさせる危険があるにもか
かわらず、被告が、このような状態を積極的に後押ししているとしか言いようがな
い。仮に、どのような答案が論文式試験の採点において高く評価されるのかどうか
ということに関する情報(以下「採点基準関連情報」という。)を開示し又は公開
すればするほど、その分、上記現状の論文式試験の答案の傾向に拍車がかかるとす
れば、採点基準関連情報に該当する論文式試験における出題の趣旨を公表すること
によっても、その分、上記現状の論文式試験の答案の傾向に拍車がかかる結果とな
るはずである。それにもかかわらず、被告は、従来は公表していなかった論文式試
験における出題の趣旨を平成14年度の第二次試験から公表している。このこと
は、被告自身、必ずしも、採点基準関連情報を開示し又は公開すればするほど、そ
の分、上記現状の論文式試験の答案の傾向に拍車がかかるというものではなく、司
法試験に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼす結果となるものではないと考えて
いるからにほかならない。
 また、実際に、被告による論文式試験における出題の趣旨の公表により、上記現
状の論文式試験の答案の傾向に拍車がかかり、司法試験に関する事務の適正な遂行
に支障を及ぼした事実も見当たらない。
 よって、論文式試験の順位ランクのみならず、科目別得点まで開示したからとい
って、上記現状の論文式試験の答案の傾向に拍車がかかり、司法試験に関する事務
の適正な遂行に支障を及ぼすとはいえない。
オ さらに、司法試験第二次試験は、論文式試験により終了するわけではなく、受
験者は、その後行われる口述試験にも合格して、最終合格するものである。
 「最近の受験生の学力等に関する意見」(乙12)には、「論文できちんと書い
ていると思ったが、口述をやってみて、実は何もわかっていない状態で書いていた
者がいるということがわかった。」という意見が記載されており、仮にこれを信用
することができるのであれば、口述試験において、その受験者が、論文式試験で、
自らの本当の理解力や思考力等に基づいて答案を作成したのかどうかを事後的に確
認することができる。
カ よって、論文式試験の科目別得点の開示により、司法試験に関する事務の適正
な遂行に支障を及ぼすとはいえない。
(2) 総合順位について
ア 被告は、論文式試験の総合順位を開示した場合にも、高順位者の答案につい
て、同試験の科目別得点の高得点者の答案についてと同様な状況が生じ得ると主張
する。しかし、論文式試験は、全部で6科目もあり、全体では高得点を取り、高順
位となった者でも、すべての科目で高得点を取ったとは限らない。
イ また、論文式試験の合格者に対する総合得点の開示と総合順位の開示との間
に、特段の差異があるとは考えられないから、論文式試験の合格者に対し、その総
合順位を開示しても、何ら、前記現状の論文式試験の答案の傾向に拍車がかかると
いうものではない。
ウ よって、論文式試験の総合順位の開示により、司法試験に関する事務の適正な
遂行に支障を及ぼすとはいえない。
(二) 口述試験について
(1)ア 被告は、口述試験の科目別得点の開示の場合でも、上記論文式試験の場
合と同様の理由が基本的にあてはまる上、司法試験予備校等による考査委員の採点
傾向に対する外見上もっともらしい検討、分析が可能になり、受験テクニックに偏
った受験者が増加する旨主張する。
 しかし、前記のとおり、論文式試験の科目別得点の開示により、司法試験に関す
る事務の適正な遂行に支障を及ぼすとはいえない上、口述試験は、受験者のうち成
績不良の一部の者が不合格となる試験なので、口述試験の受験者としては、普段の
勉強において、それほど口述試験の対策をしていない。司法試験予備校が口述試験
の再現問答を発表しているのは、司法試験の受験者に口述試験の雰囲気を知らせる
のと、翌年度以降の論文式試験に出題されそうな論点を予想させるためにすぎな
い。
 また、論文式試験の場合は、各科目の得点(第1問及び第2問の平均点)の範囲
が0点から40点までと比較的広いのに対し、口述試験の場合は、各科目の得点の
範囲が57点から63点までと極めて狭く、受験者の間、とりわけ合格者の間で
は、得点の差がつかない。司法試験の受験者にとっては、口述試験の問答を再現し
ている者の科目別得点にはそれほど関心はなく、再現者が合格者であればそれでよ
いということになる。
 さらに、仮に受験テクニックに偏った受験者が増加したとしても、当該受験者が
自らの理解に基づいて解答しているのかどうかを口述試験において確かめ、これが
否定された場合は、当該受験者に対して低い点数を付ければよいだけのことであ
り、何ら司法試験に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすものではない。
イ 被告は、口述試験の総合順位を開示した場合にも、高順位者の再現例につい
て、同試験の科目別得点の高得点者の再現例についてと同様な状況が生じ得ると主
張する。しかし、口述試験は、全部で5科目もあり、全体では高得点を取り、高順
位となった者でも、すべての科目で高得点を取ったとは限らない。
 また、口述試験の合格者に対する総合得点の開示と総合順位の開示との間に、特
段の差異があるとは考えられないから、口述試験の合格者に対し、その総合順位を
開示しても、何ら、前記現状の口述試験の解答の傾向に拍車がかかるというもので
はない。
 よって、口述試験の総合順位の開示により、司法試験に関する事務の適正な遂行
に支障を及ぼすとはいえない。
(2)ア 被告は、口述試験の科目別得点の開示により、考査委員が、受験者に対
する同情心や受験者に恨まれたくないという人間的な感情にとらわれ、自由で公正
中立な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能性があると主張
する。
 しかし、考査委員のほとんどが、大学若しくは大学院の教授(以下「学者委員」
という。)又は裁判官、検察官若しくは弁護士(以下「実務家委員」という。)で
あるところ、学者委員は、その大学等において、学生の成績を評価し、成績不良の
学生の単位を認定しないという職責を負っている。
 学生は、学者委員でもある教授が、自分に対して単位を認定したかどうかを知る
ことができるし、単位不認定により、進級又は卒業ができず、就職先の内定も取り
消される場合がある。それでも、学者委員は、その大学等において、学生に対する
同情心や学生に恨まれたくないという人間的な感情にとらわれることなく、自由で
公正中立な単位認定を行うという職責を負っている。また、実務家委員も、裁判等
において、事件の当事者その他の関係者に対する同情心やこれらの者に恨まれたく
ないという人間的な感情にとらわれることなく、裁判官の場合は、その良信に従い
独立して職権を行い(憲法76条3項)、検察官の場合は、公益の代表者としてそ
の権限に属する事務を行い(検察庁法4条)、弁護士の場合は、基本的人権を擁護
し、社会正義を実現する使命を負っている(弁護士法1条1項)。
 口述試験の科目別得点の開示により、考査委員が、受験者に対する同情心や受験
者に恨まれたくないという人間的な感情にとらわれ、自由で公正中立な採点を行う
という基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能性はないし、仮にあるとすれば、
そのような者は、およそ大学等の教授又は法曹としても、考査委員としても、不適
格であるにすぎない。したがって、口述試験の科目別得点の開示により、考査委員
が、受験者に対する同情心や受験者に恨まれたくないという人間的な感情にとらわ
れ、自由で公正中立な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能
性もない。
イ さらに、平成11年度以前の論文式試験及び口述試験には、いわゆる法律選択
科目があったところ、法律選択科目の中には、考査委員が二人から四人程度しかい
なかった科目もある。
 考査委員が二人しかいなかった科目の場合、この二人の考査委員は、当該科目の
すべての受験者の論文式試験の答案の第1問及び第2問を採点していたことにな
り、また、考査委員が四人しかいなかった科目の場合、この四人の考査委員は、当
該科目のすべての受験者の論文式試験の答案の第1問又は第2問のいずれかを採点
していたことになる。このため、当該科目の受験者は、当該科目につき、自己の答
案の採点者及び順位ランクを知ることができ、これにより、どの考査委員が自分に
対してどのような採点を行ったのか、不合格となった場合には、当該法律選択科目
の考査委員の採点によって合格点に達しなかったのかどうかを口述試験の科目別得
点を開示した場合と同じ程度に知ることが可能であった(具体的な得点が開示され
なくても、例えば他の科目はすべてAランクで、法律選択科目だけGランクで論文
式試験に不合格になった場合には、当該科目の評価が低かったために論文式試験に
不合格になった可能性が極めて高い。)。このような状態は、論文式試験の不合格
者のうち、希望者に対して科目別順位ランクの通知を開始した昭和56年度から、
法律選択科目が存在した最後の年度である平成11年度までの実に19年間にもわ
たって存在していた。
 しかし、この19年間に、これらの科目の考査委員が、論文式試験の採点におい
て、受験者に対する同情心や受験者に恨まれたくないという人間的な感情にとらわ
れ、自由で公正中立な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受けた事実
は全く見当たらない。
 よって、口述試験の科目別得点の開示により、考査委員が、口述試験において、
受験者に対する同情心や受験者に恨まれたくないという人間的な感情にとらわれ、
自由で公正中立な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能性が
あるとは到底考えられない。
ウ 加えて、口述試験の合格者に対して同試験の科目別得点を開示しても、考査委
員が同情心や受験者に恨まれたくないという人間的な感情にとらわれ、自由で公正
中立な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受けるとは考えられない。
 なぜなら、口述試験の合格という事実から、当該合格者に対して、その科目だけ
で当該受験者が不合格となるほどの極端に低い点数を付けた考査委員がいないこと
は明らかであり、たとえ考査委員が、同試験の合格者に対して、その科目別得点が
開示されることを知っていたとしても、これにより同情心や受験者に恨まれたくな
いという人間的な感情にとらわれる余地は無いからである。
エ 仮に、被告の主張するとおり、口述試験の科目別得点の開示により、考査委員
が、口述試験において、受験者に対する同情心や受験者に恨まれたくないという人
間的な感情にとらわれ、自由で公正中立な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的
な影響を受ける可能性があるとしても、それによっていえるのは、せいぜい司法試
験に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるというにすぎない。
 ところで、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」と
いう。)5条6号は、行政文書の不開示事由の一つとして、「・・・事務又は事業
の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」と規定しているのに対して、行政
機関個人情報保護法14条1項1号は、処理情報の不開示事由の一つとして、
「・・・事務のいずれかの適正な遂行に支障を及ぼすこと。」と規定している。
 このことから、法は、「支障を及ぼすおそれがある」と「支障を及ぼす」を明確
に使い分けているといえ、口述試験の科目別得点の開示により司法試験に関する事
務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるというだけでは、行政機関個人情報保
護法14条1項1号に該当しないことは明らかである。
 よって、口述試験の科目別得点の開示により、司法試験に関する事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがあることを根拠として、その開示が行政機関個人情報保
護法14条1項1号に該当するという被告の主張は失当である。
オ したがって、口述試験の科目別得点の開示により、司法試験に関する事務の適
正な遂行に支障を及ぼすとはいえない。
2 本件不開示情報が行政機関個人情報保護法14条1項3号に該当するか否か
(争点2)について
(被告の主張)
(一) 論文式試験について
(1) 論文式試験の合格者に対して総合順位を開示した場合には、その結果とし
て、最終合格者の中に事実上の格付けを行うことになり、優越感や劣等感という望
ましくない感情を醸成し、司法修習の教育的目的を阻害する危険も生ずる。
 論文式試験の合格は、司法試験第二次試験の一過程にすぎず、第二次試験の合格
もまた、法曹養成の一過程にすぎない。法曹養成は、基本的には、第二次試験の合
格者が司法修習生に採用され、18か月間の司法修習を経た後のいわゆる二回試験
と呼ばれる考試に合格して初めて与えられるものであり、第二次試験合格者の将来
の法曹としての能力は、司法修習を通じて醸成されることが期待されている。
 そうすると、第二次試験は、司法修習生に採用されるためのいわば入学試験にす
ぎないともいえるから、その順位は、合格者にとっては、入学試験の時点での成績
にすぎず、法曹としての能力、価値の有無、高さは、その順位によって決定される
ものではない。
 このような第二次試験の目的からすれば、その合格者の順位を明らかにすること
は全く意味がない上、これが開示されることになれば、その情報をもとに、合格者
について、事実上の序列が付けられ、低順位で合格した受験者が、法曹としての能
力、価値について低い評価を受けたりするおそれがあり、また、上位合格者の中
に、自ら進んで成績を明らかにし、これを就職や業務に際して自己に有利な宣伝材
料に供するものが出現しないとも限らず、その逆に、就職や業務の依頼に際し、第
二次試験の成績の提示を求める風潮が生じ、低順位の合格者が就職や業務に際して
不利になるおそれもある。
(2) すなわち、論文式試験の総合順位は、あくまで当該論文式試験における順
位にすぎず、合格者の法曹としての資質や能力を正確に表すものとはいえない。そ
れにもかかわらず、総合順位が開示されると、これが個人の能力を表す指標と受け
取られる可能性があり、合格者が司法修習を終了した後、弁護士として法律事務所
に就職しようとする場合に、総合順位の提示を求められる事態が常態化することが
考えられる。そうすると、総合順位いかんによっては、それが理由で法律事務所へ
の就職ができなくなるなどの事態を生ずるおそれがある。
 したがって、論文式試験の総合順位を開示すると、開示請求者の利益を害するお
それがあることは明らかである。
(3) そもそも、司法試験第二次試験の総合順位は、法曹における個人の資質を
表す指標としてはほとんど意味を持たないにもかかわらず、司法試験という超難関
の国家試験という世間一般の認識とあいまって、その順位が公開されたときには、
順位が独り歩きし、法曹としての実力を端的に示す指標として誤って受け取られる
可能性が極めて高い。
 一般の人は、司法試験第二次試験に論文式試験と口述試験があること、第二次試
験合格者はさらに司法研修所で修習を受けることが義務付けられており、修習を終
えた時には二回試験という試験を受けなければならず、それに合格して初めて法曹
有資格者となることなどについて知識がないことに加え、一般のユーザーには、弁
護士の法曹としての実力を知り得る分かりやすい指標となるものがないことから、
単に第二次試験の総合順位が上位であったという事実により、その弁護士が法曹と
して非常に優秀な実力を備えているなどと判断し、その弁護士に事件を依頼しよう
と考えたり、その弁護士の助言を他の弁護士の助言よりも優先しようとすることが
予想される。
 その意味において、第二次試験の論文式試験の総合順位が開示され、その順位が
広く公開されるときには、ユーザーとしての依頼者の判断を誤らせる危険性が大き
く、ユーザーとしての国民の権利利益を害し、不当に国民の間に混乱を生じさせる
と考えられる。また、同時に、開示請求者以外の法曹も、ユーザーである国民によ
って、法曹としての資質や実力を表す真の指標とはいえない論文式試験の総合順位
によって、法曹としての優劣を付けられ評価されるという不利益を被ることにな
る。
(4) このように、論文式試験の合格者の総合順位を開示することは、個人の利
益を害することになる。したがって、これを不開示とした本件不開示決定は適法で
ある。
(二) 口述試験について
(1) 口述試験の合格者の総合順位を開示すると、最終合格者の中に事実上の序
列を付ける結果になり、それが個人の利益を害することになることは、論文式試験
と同様である。
(2) さらに、口述試験の科目別得点については、考査委員が行った開示請求者
本人に不利益な評価又は判断に関する情報が含まれている場合があり、これを開示
すると考査委員個人の名誉等の人格的利益を害するおそれがあると認められるた
め、行政機関個人情報保護法14条1項3号に該当するというべきである。
 すなわち、前記のとおり、口述試験を受けた受験者は、自らが受けた口述試験の
考査委員を容易に特定することができる。そうすると、口述試験の科目別得点を開
示した場合には、受験者は、特定の考査委員によって付けられた点数を知ることが
できることとなる。口述試験は、考査委員の個性によって進め方や試験の際の雰囲
気等に差がある上、同じ試験委員であっても、受験者の解答内容や態度等によって
評価がおのずと異なり得るものであって、具体的な口述試験の進行、試験の際の雰
囲気、試験に要した時間等と試験成績とは必ずしも関連があるとはいえないもので
あるし、考査委員による特定の受験者に対する評価の妥当性について、事後に第三
者によって客観的に評価することは極めて困難である。また、上記のように、具体
的な口述試験の進行等と試験成績とは必ずしも関連があるといえないものである以
上、受験者としては、高得点を得られたとの印象を抱いた場合でも、実際には、低
い点数が付けられていることもあり得るところである。しかるに、口述試験の科目
別得点を開示すると、再現問答を基にその具体的な得点の当否を事後に批判、批評
し、考査委員の人格を攻撃するような事態も生じ得るところであり、その結果、考
査委員の名誉等の人格的利益が害されるおそれがある。
 科目別得点が開示されていない現状でも、現実に、インターネット上で、考査委
員の人格に対する誹謗中傷や攻撃的な言辞の書き込みが日常的に行われ、中には、
考査委員宅への放火など考査委員へ直接危害を加える内容の脅迫的な書き込みもあ
り、科目別得点が開示されれば、上記の傾向に拍車がかかることは明らかである。
(3) したがって、これらを不開示とした本件不開示決定は適法である。
(原告の主張)
(一) 論文式試験について
(1) 開示請求者の利益を害するか否かについて
ア そもそも、司法試験第二次試験合格者の受験勉強期間、初回受験から最終合格
までの年数等は、個々の合格者によって異なり、単純に同試験の論文式試験の合格
時における総合順位により優劣が付くものではないので、その開示により、第二次
試験の最終合格者の中に格付けを行い、序列を付ける結果とはならず、優越感や劣
等感という感情を醸成することはない。
 また、短答式試験の合格者の科目別得点、総合得点及び総合順位は、不開示の決
定の対象とはされていない。これは、同試験の合格者の科目別得点、総合得点及び
総合順位の開示により、優越感や劣等感という感情を醸成することはないことを意
味する。ところで、被告の主張によれば、同試験は、正解は一義的に決まり、採点
において各考査委員の裁量にゆだねられる部分はなく、受験者の母集団も大きい。
そうであれば、優越感や劣等感という感情の醸成の可能性は、採点が客観的で採点
者がどの考査委員になるかによって得点が左右されることがなく、かつ、母集団の
大きい同試験の合格者の科目別得点、総合得点及び総合順位の開示をした場合の方
が、論文式試験の合格者の総合順位を開示した場合より高い。
 しかし、前記のとおり、短答式試験の合格者の科目別得点、総合得点及び総合順
位の開示により、優越感や劣等感という感情を醸成することはない。よって、論文
式試験の合格者の総合順位の開示により、優越感や劣等感という感情を醸成するこ
とはない。
 かつて、論文式試験の合格者に対して、試験成績が通知されていたのは公知の事
実であるが、これにより第二次試験の最終合格者の中に格付けを行い、序列を付け
る結果となり、優越感や劣等感という感情の醸成を招いたことを示す事実は見当た
らないので、現時点でも、論文式試験の合格者の総合順位の開示により、優越感や
劣等感という感情を醸成することはない。
イ 司法修習における教育及び法曹としての活動への悪影響についても、前記アと
同様の理由により、論文式試験合格者の総合順位の開示により、これらに悪影響を
及ぼすことはない。
ウ 上記の優越感や劣等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習における教
育や就職活動等の法曹としての活動に悪影響を及ぼすかどうかという点に関して、
論文式試験の合格者に対する総合得点の開示と総合順位の開示との間に、特段の差
異があるとは考えられないから、論文式試験の合格者に対して総合順位を開示して
も、何ら上記優越感や劣等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習における
教育や就職活動等の法曹としての活動に悪影響を及ぼすとはいえない。
エ 平成14年度から、論文式試験及び口述試験について合格点を公表することと
されており、実際に各試験の合格者数とともに、各合格点が公表されているし、ま
た、仮に今後、被告が各合格点の公表を中止したとしても、上記各試験の不合格者
に対しては、その各試験の総合順位及び総合得点が通知され、又は開示されるの
で、司法試験予備校等がこれらの情報を収集して、その結果を公表することによ
り、容易に各合格最低点が判明してしまうので、上記各試験の合格者のうち、合格
最低点を取得した者は自己の順位及びそれが最下位であることを、それ以外の者
は、自己が最下位ではないことをそれぞれ知ることができてしまう。
 上記各試験の合格者のうち、合格最低点を取得した者が自己の順位及びそれが最
下位であることを、それ以外の者が、自己が最下位ではないことをそれぞれ知って
も、上記優越感や劣等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習における教育
や就職活動等の法曹としての活動に悪影響を及ぼすとはいえないのに、合格最低点
を取得した者以外の合格者が自己の正確な順位を知ることによって上記優越感や劣
等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習における教育や法曹としての活動
に悪影響を及ぼすとは到底考えられない。
オ 現状においては、論文式試験の合格者に対してその総合得点が開示されている
ところ、これに加えて論文式試験の合格者に対してその総合順位を開示しても、上
記優越感や劣等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習における教育や就職
活動等の法曹としての活動に悪影響を及ぼすかどうかという点に関し、開示請求者
に特段の不利益を与えるものではない。
 なぜなら、情報公開法に基づき、司法試験第二次試験論文式試験得点別人員表が
何人に対しても開示されているところ、論文式試験の総合得点さえ分かれば、これ
と上記人員表を照合することにより、論文式試験の合格者の総合順位も、ある得点
の者が何百番台か程度のおおよその順位は明らかになるから、現状と比べて開示請
求者に特段の不利益を与えるものではないからである。
カ しかも、かつて、論文式試験の合格者に対して、その総合順位が通知され、口
述試験の合格者に対して、その順位ランクが通知されていたが、これにより第二次
試験の最終合格者の中に格付けを行い、序列を付ける結果となり、優越感や劣等感
という感情を醸成し、司法修習における教育や就職活動等の法曹としての活動に悪
影響を及ぼしたことを示す事実は全く見当たらない。
キ よって、現時点でも、論文式試験の合格者に対して、総合順位を開示しても、
これにより司法試験の最終合格者の中に格付けを行い、序列を付ける結果となり、
優越感や劣等感という感情を醸成し、司法修習における教育や就職活動等の法曹と
しての活動に悪影響を及ぼすとは到底考えられない。
 したがって、上記優越感や劣等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習に
おける教育や就職活動等の法曹としての活動に悪影響を及ぼすかどうかという点に
関し、論文式試験の合格者に対する総合得点の開示と総合順位の開示との間に、特
段の差異はなく、論文式試験の合格者に対して、総合順位を開示しても、開示請求
者の利益を害することはない。
(2) 就職活動に悪影響を及ぼすかどうかについて
 論文式試験の合格者に対してその総合順位を開示することが、開示請求者の就職
活動に悪影響を及ぼすかどうかという点では、仮に弁護士を採用する側が、応募者
の論文式試験の成績を重視するのであれば、その総合得点を申告させ、これを応募
者間で比較して、より高得点の者を採用することもできるので、論文式試験の合格
者に対し、その総合順位を開示しても、その総合得点が開示されている現状と比べ
て特段の不利益を与えるものではない。
(3) 行政機関個人情報保護法14条1項3号の要件について
ア 仮に、被告の主張するとおり、論文式試験合格者に対する総合順位の開示によ
り、優越感や劣等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習における教育や就
職活動等の法曹としての活動に悪影響を及ぼすおそれがあるとしても、それによっ
ていえるのは、せいぜい開示請求者の利益を害するおそれがあるというにすぎな
い。
イ ところで、情報公開法5条1号は、行政文書の不開示事由の一つとして、「個
人の権利利益を害するおそれがあるもの。」と規定しているのに対して、行政機関
個人情報保護法14条1項3号は、処理情報の不開示事由の一つとして、「個人の
生命、身体、財産その他の利益を害すること。」と規定している。
 このことから、法は、「権利利益を害するおそれがある」と「利益を害する」と
を明確に使い分けているといえ、論文式試験の合格者に対する総合順位の開示によ
り個人の生命、身体、財産その他の利益を害するおそれがあるというだけでは、同
号に該当しないことは明らかである。
ウ よって、論文式試験の合格者に対する総合順位の開示により、優越感や劣等感
という望ましくない感情を醸成し、司法修習における教育や就職活動等の法曹とし
ての活動に悪影響を及ぼすおそれがあることを根拠として、その開示が行政機関個
人情報保護法14条1項3号に該当するという被告の主張は失当である。
(4) 法曹利用者の利益を害するかどうかについて
 司法試験最終合格者の間における格付けや序列化が起こるかどうかという点につ
いては、論文式試験の合格者に対してその総合順位が行政機関個人情報保護法に基
づいて開示されても、既に論文式試験の合格者に対してその総合得点が開示されて
おり、これと司法試験第二次試験論文式試験得点別人員表を照合することにより、
論文式試験の合格者の総合順位が明らかになる現状と何ら異なるところはない。
 また、法曹利用者が、論文式試験を高順位で合格した弁護士に事件を依頼するこ
とにより、具体的にどのような法曹利用者の利益を害するのかにつき、被告は何ら
主張立証をしていない。
(二) 口述試験について
(1) 開示請求者の利益を害するかどうかについて
 口述試験の合格者の総合順位を開示すると、最終合格者の中に事実上の序列を付
ける結果になり、それが個人の利益を害することになることは論文式試験と同様で
ある旨の被告の主張が失当であることは、前記論文式試験についてと同様である。
(2) 考査委員の利益を害するかどうかについて
ア 被告は、口述試験の科目別得点の開示により、同試験の再現問答を基にその具
体的な得点の当否を事後に批判、批評し、考査委員の人格を攻撃するような事態も
生じ得るところであり、その結果、考査委員の名誉等の人格的利益が害されるおそ
れがあると主張する。
 しかし、単なる批判、批評をもって、考査委員の名誉等の人格的利益が害される
とはいえない。また、平成11年度以前の論文式試験の法律選択科目において、考
査委員が二人から四人程度しかいなかった科目の場合、当該科目の受験者は、当該
科目につき、自己の答案の採点者及び順位ランクを知ることができ、どの考査委員
が自分に対してどのような採点を行ったのか、不合格となった場合には、当該法律
選択科目の考査委員の採点によって合格点に達しなかったのかどうかを口述試験の
科目別得点を開示した場合と同じ程度に知ることが可能であった。このような状態
は、19年間にもわたって存在していたが、この間に、これらの科目の考査委員の
人格を攻撃するような事態が生じ、考査委員の名誉等の人格的利益が害された事実
は全く見当たらない。よって、口述試験の科目別得点の開示により、考査委員の人
格を攻撃するような事態が生じ、考査委員の名誉等の人格的利益が害されるとは到
底考えられない。
 加えて、口述試験の合格者に対してその科目別得点を開示しても、考査委員の人
格を攻撃するような事態が生じ、考査委員の名誉等の人格的利益が害されることは
ない。なぜなら、口述試験の合格という事実から、当該合格者に対して、その科目
だけで当該受験者が不合格となるほどの極端に低い点数を付けた考査委員がいない
ことは明らかなので、考査委員の人格を攻撃して、その名誉等の人格的利益を害す
るような行為を実行する動機を持つ者はいないし、また、仮にそのような動機を持
ったとしても、あえて考査委員の人格を攻撃して、その名誉等の人格的利益を害す
る者がいるとは到底考えられないからである。
イ 仮に、被告の主張するとおり、口述試験の科目別得点の開示により、考査委員
の人格を攻撃するような事態が生じ、その名誉等の人格的利益が害されるおそれが
あるとしても、それによっていえるのは、せいぜい考査委員の利益を害するおそれ
があるというにすぎないので、前記(一)(3)で述べた理由により、考査委員の
利益を害するおそれがあることを根拠として、その開示が行政機関個人情報保護法
14条1項3号に該当するという被告の主張は、失当である。
第三 争点に対する判断
一 認定事実
 証拠(甲2の1、12、13、乙3、4、7、9ないし13、16、26、28
ないし30)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。
1 第二次試験の各試験ごとの出題方針と合否の判定等における差異等について
(一) 短答式試験
 短答式試験の受験者数は、極めて多数に上っているため、この段階では、主とし
て、「裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識」、すなわち、応
用能力の有無の判定の前提となる基礎的な知識が一定の水準に達しているか否かに
重点を置いた判定が行われる。
 そこで、正しく解答するために必要とされる知識は基礎的なものに限ることを出
題方針とし、5肢択一式で出題されるため、正解が一義的に決まっており、採点格
差(採点結果が全体的に高めになったか低めになったかの差、あるいは、評価の幅
が広くなったか狭くなったかの差)も生じ得ない。そのため、短答式試験の合否
は、単純に3科目の得点の合計点によって決定される。
(二) 論文式試験
(1) 論文式試験の1科目の得点は、1、2問の平均点とすることとされ、1問
の採点を40点満点とし、優秀と認められる答案については、その内容に応じて3
0点から40点、良好な水準に達していると認められる答案については、その内容
に応じて25点から29点、一応の水準に達していると認められる答案について
は、その内容に応じて20点から24点、上記以外の答案については、その内容に
応じて19点以下とすることとされている。
 合否は、6科目の得点の合計点をもって決定するのが基本であるが、極端に不出
来な科目がある場合、すなわち、1科目でも得点が10点に満たない科目がある場
合には、それだけで不合格とされている。
(2) 論文式試験は、問題の中から受験者が自ら論点を抽出し、判例・学説の対
立にも留意しながら論理を展開し、一つの結論に導いていく思考・論理展開能力と
その過程が問われる論述形式による試験であるため、本来、正解が一義的に決まっ
ているものではない。受験者は、その有する学識のみならず、推理力、判断力、論
理的思考力、文章作成能力等を駆使して答案を作成し、考査委員は、その答案を通
して、その受験者が法曹になろうとする者として必要な能力を有しているかどうか
を総合的に判断し、採点する。そのため、各考査委員には、知識の有無だけにこだ
わらずに、理解力、推理力、判断力、論理的思考力、説得力、文章作成能力等を総
合的に評価するように努めることが要請され、採点は、各考査委員の裁量にゆだね
られている。
 加えて、論文式試験の受験者数が多数に上るため、同じ問題に対する答案につい
ても、一人の考査委員が全受験者の答案を採点することは困難であって、複数の考
査委員が分担して採点を行っていることから、考査委員が異なることによって、採
点格差が不可避的に生ずる。なお、論文式試験の科目に選択科目が設けられていた
当時は、選択科目の各問題ごとに難易度等が異なっていたため、問題による採点格
差も生じていた。このように採点格差が生じるため、論文式試験においては、各考
査委員が採点した全答案ごとに標準偏差を算出して、採点格差調整を行い、調整後
の得点によって各科目の得点が決定される。
(三) 口述試験
(1) 口述試験においては、考査委員は、受験者の応答を通して、受験者の基礎
的知識、応用力、推理力、判断力、論理的思考力、表現力等を総合的に審査し、受
験者が裁判官、検察官又は弁護士としての適格性を備えているかどうかを直接判定
し、採点する。
 口述試験の合否判定方法・基準は、各科目60点を基準点とし、5科目の合計点
をもって合否の決定を行うこととされている。
 また、口述試験の採点方針は、その成績が一応の水準に達していると認められる
ものに対しては60点(基準点)、その成績が一応の水準を超えていると認められ
る者に対しては、その成績に応じて61点から63点までの各点、その成績が一応
の水準に達していないと認められる者に対しては、その成績に応じて57点から5
9点までの各点、その成績が特に不良であると認められる者に対しては、その成績
に応じて56点以下の採点をすることとされ、さらに、「60点とする割合をおお
むね半数程度とし、残る半数程度に61点以上又は59点以下とすることを目安と
する。」こととされている。
(2) 口述試験においても、その採点は、当然、各考査委員の裁量にゆだねられ
ている。なお、口述試験の合格率は、最近10年間(平成5年度から平成14年度
まで)で90パーセントを下回ったことがなく、受験者のうち成績不良の一部の者
が不合格となる試験である。口述試験の合否の判定においては、論文式試験でいく
ら高得点を取ったとしても、それが考慮されることはない。
2 司法試験予備校と受験者の勉強方法について
(一) 司法試験予備校
 現在、大手とされている司法試験予備校が3、4校あり、各校とも、2年間で試
験範囲全体を一通り勉強するコースや1年間で司法試験に最終合格することを目指
すコースなどの多彩なコースが用意されている。これらの司法試験予備校は、論点
ごとに判例や学説を要領よく整理して、設問やその解答を記載した教材や、過去の
試験問題(いわゆる「過去問」)や想定問題とそれらの解答例を集めた問題集など
を編さんしており、これらを使用して上記コースの受講者等に受験指導を行ってい
る。また、司法試験に関する情報を掲載した受験情報誌等も発刊しており、考査委
員の氏名や顔写真等の情報もこれに掲載されている。
 これらの司法試験予備校は、論文式試験の直前には、考査委員の顔ぶれなどから
論文式試験の問題を予想して、直前答案練習会を開催し、受講者に対して模範解答
を示している。そして、試験終了後には、出題された論文式試験問題の模範答案を
自ら作成し、あるいは、受験者から再現答案を募集し、これに独自の解釈で答案の
評価を行い、「A答案」等のランクを付けて、受験情報誌に掲載するなどしてい
る。
 口述試験についても、試験終了後、試験における考査委員と受験者との問答の内
容を再現し、考査委員の氏名が判明した事例についてはその実名を明らかにして、
受験情報誌に掲載するなどしており、問答の内容が批評や分析の対象とされてい
る。
(二) 受験者の勉強方法
 現在、受験者の多くは、司法試験予備校に通って、受験勉強を行っている。合格
者の多くは、大学の1、2年生のころから司法試験予備校に通い始めており、初期
は週2日程度のコースに通っている者が多いが、勉強が進むに従って、しだいに司
法試験予備校への依存度が高まっていく傾向がある。
 これらの受験者の多くは、受験勉強の開始の当初から、司法試験予備校が編さん
した前記教材を読み、論点ごとの判例や学説の状況を記憶していく。そして、それ
が終わると、過去問等を集めた前記問題集を読んで、解答例を記憶していくという
勉強方法を採っている。大学の教科書や基本書と呼ばれる概説書は、参考として見
る程度の者も多く、読み通した基本書が一冊もないという者もいる。
 このように、現在の受験者には、論点・解答例暗記型の勉強方法を採っている者
が多いのが実情である。
3 第二次試験の解答の現状と受験者の能力判定について
(一) 論文式試験
 考査委員からは、ここ数年の論文式試験の答案について、①表面的、画一的、い
わゆる金太郎飴的な答案が多い、②同じような表現のマニュアル化した答案が非常
に多い、③答案のパターン化が進んでおり、同じ間違いをしている答案が多い、④
答案のパターンは、大手司法試験予備校の数と同様に、だいたい三つか四つのパタ
ーンに別れる、⑤各論点ごとの解答例のパターンを組み合わせて書いた答案が非常
に多い、⑥フレーズや文章の運びが同じものが多く、接続詞まで全く同じ答案があ
ったなどの指摘がされている。
 これは、受験者の多くが、前記のような論点・解答例暗記型の勉強方法を採って
おり、自分の頭で論理を構成したり、説得的な論述を工夫したりすることなく、覚
えた知識を吐き出すだけの答案作成方法を採っていることが原因と考えられる。こ
のような画一的答案の増加のため、受験者の能力判定が年々困難になってきてお
り、合格者数の増加ともあいまって、合格者の質の低下を来しているとの認識が考
査委員に共通のものとなっている。
 このような事態への対処として、考査委員の側でも、出題や採点に当たっては、
様々な工夫をしており、種々の法律上の問題点を有機的に組み合わせ、全体として
の論述構成に工夫を要するような問題を作成したり、また、問題にヴァリエーショ
ンを持たせるために、「なお、○○の場合はどうか。」などの付加問を付けるなど
している。しかし、上述のとおり、大多数の受験者が論点・解答例暗記型の答案を
作成するため、せっかくの出題の工夫が生かされていないのが現状であり、付加問
についても、司法試験予備校の指導等に従ってこれを無視する受験者が少なくない
との指摘がある。
(二) 口述試験
 口述試験についても、論文式試験と同様にパターン化が顕著であるとされてお
り、考査委員からは、①典型的な論点については、答えることができるが、少し応
用的な問題については、全く答えられない者が多い、②一般の基本書には書かれて
いないような内容を、一言一句違わずに述べる受験者が増加している、③自分自身
で考えているのではなく、暗記している知識をいかに出すかということのみに終始
している者が多いなどの指摘がされている。
二 本件不開示情報が行政機関個人情報保護法14条1項1号ニに該当するか否か
(争点1)について
1 論文式試験について
(一) 前記認定事実のとおり、最近の司法試験第二次試験においては、司法試験
予備校が編さんした教材を読んで、論点ごとの判例や学説の状況を記憶し、その
後、過去問等を集めた問題集を読んで、解答例を記憶するという論点・解答例暗記
型の勉強方法を採る受験者が増加しており、その結果として、出題者側の工夫にも
かかわらず、答案の画一化、パターン化が進み、受験者の能力判定が年々困難とな
り、論文式試験を通して各受験者の理解力、推理力、判断力、論理的思考力、説得
力、文章作成能力等を総合的に評価して採点をするという論文式試験の選抜機能の
低下が生じていることを認めることができる。
 また、前記認定事実のとおり、大手の司法試験予備校は、教材や過去問等を集め
た問題集を編さんし、これらを使用して受講者等に受験指導を行っているほか、考
査委員に関する情報その他の司法試験に関する情報を掲載した受験情報誌を発刊す
るなどしており、さらに、論文式試験直前には、試験問題を予想して直前答案練習
会を開催し、試験後には、出題された試験問題の模範答案を自ら作成するととも
に、受験者から募集した再現答案に独自の解釈で答案の評価を行い、受験情報誌に
掲載するなど、高度の情報収集力に基づき、多様な方法を用いて、様々な第二次試
験対策を実施しており、受験者に対して極めて強い影響力を有していることが明ら
かである。
(二) このような状況の下で、論文式試験受験者の科目別得点が開示された場合
には、司法試験予備校において、受験者から募集した多数の再現答案と科目別得点
との関係を分析し、高得点答案の共通点・パターンなるものを抽出し、論文式試験
の予想問題について、それらの共通点・パターンに基づく答案表現例を多数作成し
て受験者に示すなどの受験指導を行うことが容易に推測されるというべきである。
なお、現在でも、論文式試験の科目別順位ランクは、本人からの請求があったとき
には開示されているが、順位ランクでは1位から2000位までがすべてAランク
とされており、Aランクに属する答案の中にも相当のばらつきがあるはずであるか
ら、これを前提とした司法試験予備校における再現答案の分析も概括的なものにな
らざるを得ないのであって、科目別得点を開示した場合には、これと比較してはる
かに詳細な再現答案の分析が可能となる。
(三) また、論文式試験合格者の総合順位を開示した場合においても、高順位者
については、各科目とも高得点を得たものと推断されて、上記科目別得点の高得点
者の答案についてと同様の状況が生じるであろうことが容易に推測される。なお、
現在でも、司法試験第二次試験論文式試験得点別人員表の開示を受け、この表と自
分の総合得点とを照合することによって、おおよその総合順位を推計することが可
能であるが、受験者皆が上記人員表の開示を受けているわけではない上、具体的に
特定された確定的な総合順位そのものの開示を受けることと、総合得点と上記人員
表との照合によりおおよその総合順位を推計することとの間には、隔たりがあると
いうべきである。
(四) そうすると、論文式試験の科目別得点又は同試験合格者の総合順位を開示
することにより、受験者らは、ますます、高得点を得たとされる答案の書きぶり、
論述の運びなどの外形を模倣することに力を注ぐようになり、その結果として、答
案のパターン化、画一化に一層の拍車がかかることは明らかである。そして、論文
式試験を通して各受験者の理解力、推理力、判断力、論理的思考力、説得力、文章
作成能力等を総合的に評価して採点をするという論文式試験の選抜機能が一層低下
し、司法試験事務の適正な遂行に支障が及ぶものと認められる。
 したがって、これらの開示は、司法試験に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼ
すものということができるから、本件不開示決定のうち、これらを不開示とした部
分は、適法というべきである。
(五) これに対し、原告は、①法務省のホームページには論文式試験の出題趣旨
が掲載されており、法務省自身が論点中心の勉強方法を後押ししている上、出題趣
旨の公表により答案の画一化傾向に拍車がかかるはずであるのに、実際にはそうな
っていない、②口述試験において、受験者の真の理解力、思考力等を事後的に確認
することができるなどとして、論文式試験の科目別得点等の開示によって司法試験
に関する事務の適正な遂行に支障が及ぶことはない旨主張する。
 しかし、法務省が公表している論文式試験の出題趣旨は、主要な問題点を簡潔に
指摘してこれを説明しているものにすぎず、答案に記載すべき具体的な事項や採点
基準に関する事項を明らかにしたものであるなどとは到底いえない(甲3により認
められる。)。したがって、法務省が論点中心の勉強方法を後押ししているとか、
出題趣旨の公表により答案の画一化傾向に拍車がかかるはずであるなどという原告
の前記①の主張は、いずれも当を得ないものというべきである。
 また、論文式試験と口述試験には、それぞれ別個の観点から、その受験者が法曹
になろうとする者として必要な能力を有しているかどうかを判断し、これを有して
いると認められる者を選抜するという機能があるのであるから、口述試験において
受験者の真の理解力、思考力等を確認することができるので、論文式試験の選抜機
能が低下しても司法試験に関する事務の適正な遂行に支障が生じないということに
帰する原告の前記②の主張も、失当というべきである。
2 口述試験について
(一) 前記認定事実のとおり、口述試験においても、論点・解答例暗記型の勉強
方法を採る受験者が増加した結果として、論文式試験と同様に解答のパターン化が
進んでおり、自分自身で考えるのではなく、暗記している知識をいかに出すかとい
うことのみに終始している者が多く、典型的な論点については答えることができる
が、応用的な問題については、答えられない者が多いことが認められる。そして、
試験終了後、再現された考査委員と受験者との問答の内容が受験情報誌等に掲載さ
れ、批評や分析の対象とされているという実情がある。したがって、仮に科目別得
点が開示されることになった場合には、これらの再現例に対する具体的な得点が明
らかになり、高得点とされた再現例をうのみにして無批判に勉学の指針とするなど
の風潮が、受験者の間に広がるおそれがあることは、否定することができない。
 しかしながら、口述試験は、論文式試験とは異なり、考査委員と受験者が対面し
て行われるものであるから、考査委員において、あらかじめ用意した設問のみにつ
いて質問をするのではなく、受験者の解答の内容を踏まえて、さらに、応用的な問
題について尋ねたり、判例の立場と異なる反対説について尋ねたり、根拠や理由を
尋ねるなどの工夫をすることが可能である。そして、実際にも、各考査委員は、こ
のような方法によって、単なる表面的な知識ではなく、受験者の真の理解力、思考
力等を評価し、その結果として、法曹としての適格性を判断するという口述試験の
目的が達成されているものと認められる(甲13及び弁論の全趣旨により認められ
る。)。
 このような口述試験の論文式試験との差異に照らすと、口述試験においては、解
答の画一化、パターン化の進行によって受験者の能力判定が困難になり、選抜機能
が低下するという現象が現に生じているとは認め難く、さらに、仮に科目別得点が
開示されることになったとしても、口述試験の選抜機能が損なわれるとは考え難
く、これを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、この点に関する被告の主張は、採用することができない。
(二) 他方で、考査委員と受験者が対面して行われるという口述試験の特色か
ら、口述試験の科目別得点の開示については、次のとおり、別途考慮すべき事情が
ある。
 すなわち、前記認定事実のとおり、受験情報誌等において考査委員の氏名ととも
に顔写真が公表されているため、口述試験を受けた受験者は、自らが受けた口述試
験の考査委員を容易に特定することができる。そのため、科目別得点を開示すれ
ば、受験者は、どの考査委員が自分に対してどのような採点を行ったのか、不合格
となった場合には、どの科目のどの考査委員の採点によって合格点に達しないこと
となったのかを具体的に知ることが可能となることが明らかである。
 仮にそのような状況になったときには、受験者等によって、いたずらに個々の考
査委員による採点の適正さ等を問題視し批判するような動きが現れるおそれがあ
り、殊に口述試験の不合格者によって、低い採点をした考査委員に対していわれの
ない誹謗中傷がされるおそれがあると考えられる。
 そうなれば、考査委員としても、受験者に対する同情心や受験者に憎まれたくな
いという人間的な感情にとらわれ、例えば、合否に直接影響するような特に低い採
点を行うのをちゅうちょするなど、自由で公正中立な採点を行うという基本的な姿
勢に萎縮的な影響を受ける可能性がある。
 さらに、前記認定のとおり、高度の情報収集力を有する大手司法試験予備校は、
どの考査委員がどの受験者に対してどのような採点を行ったのかについての個別具
体的な情報を集積することによって、同一問題に関する複数の考査委員の採点傾向
を比較したり、異なる問題に関する同一考査委員の採点傾向を比較するなど、各考
査委員の採点傾向について、検討、分析を行うことが可能になり、その結果、個々
の考査委員の採点傾向に関する情報を公表したり、個々の考査委員による採点の適
正さ等を問題視し、批判するような動きが現れる可能性がある。
 そのような動きが現れた場合には、各考査委員は、他の考査委員と比較された
り、批判の対象とされることを敬遠して、厳しい採点を行うのをちゅうちょした
り、できるだけ横並びの採点を行おうと意識するなど、自由で公正中立な採点を行
うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能性がある。
 これらのような結果は、考査委員が、自由で公正中立な立場から、受験者の法曹
としての適格性を総合的に判断するという、本来の採点の在り方を損なうこととな
るというべきである。
(三) これに対し、原告は、①考査委員のほとんどが学者委員又は実務家委員で
あり、学者委員も実務家委員も、その本来の職務において、学生あるいは事件の当
事者その他の関係者に対する人間的な感情にとらわれることなく、職務を行うべき
責任を負っているから、口述試験の科目別得点の開示により、考査委員が、自由で
公正中立な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受ける可能性はない
し、仮にそのような可能性があるとすれば、そのような者は、およそ学者又は法曹
としても、考査委員としても、不適格であるにすぎない、②平成11年度以前の第
二次試験にあった、いわゆる法律選択科目の中には、考査委員が二人から四人程度
しかいなかった科目もあり、当該科目の受験者は、当該科目につき、自己の答案の
採点者及び順位ランクを知ることができ、どの考査委員が自分に対してどのような
採点を行ったのかを知ることが可能であったが、これらの科目の考査委員が、論文
式試験の採点において、受験者に対する人間的な感情にとらわれ、自由で公正中立
な採点を行うという基本的な姿勢に萎縮的な影響を受けた事実は全く見当たらない
などと主張する。
 しかし、司法試験は、国家試験の中でも最難関といわれるものの一つであって、
このため、司法試験の考査委員に対する受験者の関心は非常に強く、インターネッ
ト上でも考査委員に関して膨大な量の書き込みがされており、不特定多数の氏名不
詳者により、実名を挙げて各考査委員の人格や外見等に対する誹謗中傷やいわれの
ない個人攻撃が日常的に行われている(乙21の1、21の2により認められ
る。)。これらの中には、考査委員に対する直接的な危害を予告するかのような脅
迫的な書き込みすらあり、司法試験に失敗した受験者によって法務省の幹部職員が
脅迫を受けた実例も過去にある(乙23の1ないし8により認められる。)。これ
らによれば、考査委員の心理的負担には極めて重いものがあり、特に、近時は、そ
れが増してきているものと推測される。このような現状にかんがみると、仮に口述
試験の科目別得点が開示された場合には、司法試験予備校による個々の考査委員の
採点傾向等に関する情報の公表に加え、考査委員に対する誹謗中傷やいわれのない
個人攻撃が更に強まるであろうことは必至であって、各考査委員の自由で公正中立
な採点を行うという基本的な姿勢が萎縮的な影響を受ける可能性は大きいというべ
きである。したがって、原告の上記①の主張は当を得ないものというべきである。
 また、原告の上記②の主張についても、口述試験は考査委員と受験者が対面して
行われるもので、双方とも相手を現実の人間として認識するものであることや、口
述試験は合格率3パーセント程度の難関を突破した論文式試験合格者に対して実施
されるものであって、不合格となったときの心理的衝撃が大きいことなどの点を考
慮すると、原告の主張は、口述試験と論文式試験の差異を顧慮しないものであっ
て、失当というべきである。
(四) 以上の点を総合すると、口述試験の科目別得点を開示することは、司法試
験に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすものであるというべきである。したが
って、本件不開示決定のうち、口述試験の科目別得点を不開示とした部分は、適法
である。
三 本件不開示情報が行政機関個人情報保護法14条1項3号に該当するか否か
(争点2)について
 本件不開示決定のうち、論文式試験の科目別得点及び総合順位並びに口述試験の
科目別得点を不開示とした部分は、前示のとおり行政機関個人情報保護法14条1
項1号ニに該当し、適法であるが、審理の経緯に照らし、なお念のためこれらの部
分の同項3号該当性についても判断することとする。
1 行政機関個人情報保護法14条1項3号の意義について
(一) 行政機関個人情報保護法13条1項は、本人に対する個人情報の開示を原
則として認めているが、開示請求に係る処理情報について開示をすることにより、
「個人の生命、身体、財産その他の利益を害すること」になると認められる場合に
は、行政機関個人情報保護法14条1項3号により、当該処理情報を開示しないこ
とができるとされている。
 すなわち、①本人に関する情報の中に第三者の情報が含まれており、本人に対し
て情報を開示すると、第三者の情報も開示されてしまうため、第三者が不利益を受
けるとき、②法定代理人が本人に代わって開示請求をする場合(行政機関個人情報
保護法13条2項参照)に、法定代理人の利益と本人の利益が一致しないため、法
定代理人に情報を開示すると、本人が不利益を受けるとき、③本人に情報を開示す
ることが、本人にとって不利益となるとき(例えば、個人情報の中に本人の不治の
病気に関する情報があり、本人がそれを知ることにより、健康が悪化するような場
合等がこれに当たる。)のいずれかに当たるときには、情報を開示することにより
不利益を受ける者があるので、当該情報を開示しないこととする必要がある。行政
機関個人情報保護法14条1項3号は、本来、このような事情が認められる場合を
不開示の事由として定めた規定と解するのが相当である。
(二) もっとも、行政機関個人情報保護法14条1項3号は、「個人」の範囲に
ついて特に限定を加えていないため、当該情報の本人又は当該情報中に含まれる第
三者以外の者であっても、当該情報を開示することにより、その利益を害される者
がある場合には、同号により不開示とすることができると解する余地がある。
 しかし、そのような者の利益を害することを理由として、不開示とすることがで
きる場合を広く認めると、本人に対する情報の開示を原則として認め、不開示事由
を限定的に列挙した法の趣旨が損なわれることになりかねない。
 したがって、そのような者の利益を害することを理由として不開示とすることが
許される場合とは、本人又は当該情報中に含まれる第三者の利益を害する場合と同
程度に、開示により特定の者の利益を害する具体的な危険が認められる場合に限ら
れると解するのが相当である。
2 論文式試験について
(一) 被告は、①論文式試験の合格者に対してその総合順位を開示した場合に
は、結果として、最終合格者について事実上の格付けを行うことになり、優越感や
劣等感という望ましくない感情を醸成し、司法修習の教育的目的を阻害する危険が
ある、②論文式試験の総合順位は、合格者の法曹としての資質や能力を正確に表す
ものではないにもかかわらず、総合順位が開示されると、これが個人の能力を表す
指標と受け取られる可能性があり、合格者が司法修習を終了した後、弁護士として
法律事務所に就職しようとする場合に、論文式試験の総合順位の提示を求められる
事態が常態化し、総合順位いかんによっては、就職ができなくなるなどの事態が生
ずるおそれがあるから、論文式試験の総合順位を開示すると、開示請求者の利益を
害するおそれがある、③一般のユーザーには、弁護士の法曹としての実力を知り得
る分かりやすい指標となるものがないため、単に論文式試験の総合順位が上位であ
ったという事実により、その弁護士が法曹として非常に優秀な実力を備えているな
どと判断することが予想されるから、論文式試験の総合順位が広く公開されると、
ユーザーとしての依頼者の判断を誤らせる危険性が大きく、ユーザーとしての国民
の権利利益を害し、国民に不当な混乱を生じさせる、④開示請求者以外の法曹も、
ユーザーである国民から、法曹としての資質や実力を表す真の指標とはいえない論
文式試験の総合順位によって、法曹としての優劣を付けられ評価されるという不利
益を被ることになるとして、論文式試験の総合順位の開示が行政機関個人情報保護
法14条1項3号に該当する旨主張する。
(二) 確かに、論文式試験の総合順位は、合格者の法曹としての資質や能力を正
確に表すものではないから、これを開示することにつき積極的な意義は見いだし難
く、他方で、これが開示された場合には、被告が主張するような弊害が生じるおそ
れもあることは否定し難いというべきである。
 しかしながら、行政機関個人情報保護法14条1項3号の不開示事由に当たるか
否かについては、前記1において判示したとおり、その立法趣旨に照らし、厳格に
解すべきであって、情報の開示に積極的な意義が見いだし難く、さらに、開示した
場合に弊害が発生するおそれがある場合であっても、更に検討が必要と考えられ
る。
 そこで、このような観点から、被告の前記(一)の主張について検討してみる
と、前記(一)①については、論文式試験の総合順位を開示することにより生じる
不利益の内容が極めて抽象的で漠然としている上、何人のいかなる利益を害するの
かも明らかではなく、的を射ないものといわざるを得ない。また、同②について
も、開示請求者の利益を害する場合とは、開示請求者に対する情報の開示を原則と
して認めて、不開示事由を限定列挙した法の趣旨に照らし、これを厳格に解するの
が相当であり、被告が主張するような抽象的な不利益が発生するおそれがあるとい
うだけでは、同号には該当しないというべきである。さらに、同③及び④について
は、開示により当該情報中に含まれる第三者以外の者の利益を害することを主張す
るものであるが、被告が主張する者の範囲は極めて広範で無限定であり、害される
とする利益の内容も非常に曖昧で、抽象的な不利益にすぎないというべきであっ
て、このような抽象的な不利益に基づき不開示決定をすることは許されないという
べきであるから、被告の主張は失当である。
(三) 以上のとおり、論文式試験の総合順位の開示が行政機関個人情報保護法1
4条1項3号に該当する旨の被告の主張は、いずれも採用することができない。
3 口述試験について
(一) 口述試験の総合順位について
 口述試験の合格者の総合順位を開示すると、最終合格者の中に事実上の序列を付
ける結果になり、それが個人の利益を害することとなるので、行政機関個人情報保
護法14条1項3号に該当する旨の被告の主張は、論文式試験の総合順位の開示に
ついて既に判示したのと同様に、失当というべきである。
(二) 口述試験の科目別得点について
 口述試験とは、受験者の解答内容を考査委員が総合的に評価し、採点基準に従っ
て一定の得点を付するものであるから、開示請求者本人である受験者に関する口述
試験の科目別得点という情報の中には、第三者である考査委員による評価に関する
情報が不可避的に含まれていることになる。
 前記認定事実のとおり、司法試験予備校等が発刊する受験情報誌には、考査委員
の氏名と顔写真が掲載されているため、口述試験を受けた受験者は、自らが受けた
口述試験の考査委員を容易に特定することができる。そうすると、口述試験の科目
別得点を開示した場合には、受験者は、特定の考査委員によって付された点数を知
ることができることとなり、既に判示したとおり、再現問答を基にその具体的な得
点の当否を事後に批判、批評し、考査委員の人格を攻撃するような事態も生じ得る
ところであって、考査委員の名誉等の人格的利益が害されるおそれもあるといわざ
るを得ない。
 しかしながら、これは抽象的なおそれがあるというにすぎず、口述試験の科目別
得点の開示により、前示のとおり考査委員個人に対する批判、中傷が生じ得るとし
ても、それが考査委員個人の名誉等の人格的利益を害することになる可能性、頻度
がどの程度あるのかは、本件の全証拠を見ても、不分明である。そうすると、口述
試験の科目別得点の開示が、行政機関個人情報保護法14条1項3号に該当すると
いう被告の主張は、採用することができない。
四 まとめ
 以上のとおり、本件不開示決定のうち、論文式試験の科目別得点及び総合順位を
不開示とした部分並びに口述試験の科目別得点を不開示とした部分は、行政機関個
人情報保護法14条1項1号ニに該当するから適法であるが、口述試験の総合順位
を不開示とした部分は、同項1号ニ又は3号のいずれにも該当しないから違法であ
る。
五 結論
 よって、原告の請求は、本件不開示決定のうち、平成11年度口述試験の総合順
位を開示しないとした部分の取消しを求める部分については理由があるから認容
し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件
訴訟法7条、民事訴訟法64条本文を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 菅野博之
裁判官 市原義孝
裁判官本村洋平は、差し支えにつき、署名押印することができない。
裁判長裁判官 菅野博之
別紙
┌───────────────────────┐
|2-(2)ファイル記録項目          |
├────┬──────────────────┤
|[番号]|[項  目]            |
| 1  |年度                |
| 2  |受験地               |
| 3  |受験番号              |
| 4  |氏名                |
| 5  |性別                |
| 6  |生年月日              |
| 7  |年齢                |
| 8  |住所                |
| 9  |学校名               |
|10  |学部系統              |
|11  |在卒区分              |
|12  |大学入卒年度            |
|13  |職種                |
|14  |本籍地又は国籍           |
|15  |一次合格申請            |
|16  |筆記試験免除・高等試験行政科合格申請|
|17  |選択科目              |
|18  |短答式試験の合否          |
|19  |短答式試験の科目別得点       |
|20  |短答式試験の総合得点        |
|21  |短答式試験の総合順位        |
|22  |論文式試験の合否          |
|23  |論文式試験の科目別得点       |
|24  |論文式試験の総合得点        |
|25  |論文式試験の総合順位        |
|26  |論文式試験の順位ランク       |
|27  |論文式試験の制限枠合格の有無    |
|28  |口述試験の合否           |
|29  |口述試験の科目別得点        |
|30  |口述試験の総合得点         |
|31  |口述試験の総合順位         |
|32  |筆記試験免除区分          |
|33  |口述試験の科目別受験日       |
|34  |合格証書番号            |
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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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