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平成14年(行ケ)第553号 特許取消決定取消請求事件
平成16年10月27日判決言渡,平成16年10月13日口頭弁論終結
     判    決
 原      告  ハリソン東芝ライティング株式会社
 訴訟代理人弁理士  竹花喜久男,宇治弘
 被      告  特許庁長官 小川洋
 指定代理人     山川雅也,瀧廣往,高橋泰史,林栄二,大橋信彦,井出英
一郎
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が異議2001-72267号事件について平成14年9月9日にした
決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,特許異議の申立てを受けた特許
庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事案
である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件特許
 特許権者:ハリソン東芝ライティング株式会社(原告)。なお,設定登録時の特
許権者は東芝ライテック株式会社であるが,原告に特許権が譲渡され,平成14年
2月8日にその旨登録された(甲2,3)。
 発明の名称:「低圧放電灯」
 特許出願日:平成3年9月27日(特願平3-249190号)
 設定登録日:平成12年12月15日
 特許番号:第3139077号
 (2) 本件手続
 特許異議事件番号:異議2001-72267号
 訂正請求日:平成14年1月25日(甲4,「本件訂正」)
 訂正請求書の補正:平成14年8月19日(甲5,「本件訂正請求書の補正」)
 異議の決定日:平成14年9月9日
 決定の結論:「特許第3139077号の請求項1ないし2に係る特許を取り消
す。」(なお,本件訂正請求書の補正は認められず,本件訂正請求も認められなか
った。)
 決定謄本送達日:平成14年9月30日(原告に対し)
 2 本件発明の特許請求の範囲の記載
 (1) 本件訂正請求前の特許請求の範囲の記載(甲2)
【請求項1】管状バルブの外面に,互いに周方向に離間して一対の電極を設け,こ
の一対の電極のバルブ長手方向の一端側に高周波電源の配線が接続された低圧放電
灯において,上記一対の導電体間に位置するバルブの一側面を有効発光面とした場
合,この有効発光面に沿う上記導電体間の距離をA,反対側の面に沿う上記導電体
間の距離をBとした場合,A>Bの関係を有するとともに,距離Bは,一対の導電
体に印加する電圧に対して1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする低圧放
電灯。
【請求項2】上記ランプがアパーチャ形である場合,アパーチャ部の開口縁に一対
の導電体を沿わせたことを特徴とする請求項1記載の低圧放電灯。
 (2) 本件訂正請求に係る特許請求の範囲の記載(甲4。なお,請求項2について
は,訂正請求の直接の対象とはなっていない。)
【請求項1】管状バルブの外面に,互いに周方向に離間して一対の電極を設け,こ
の一対の電極のバルブ長手方向の一端に高周波電源が配設接続された低電圧放電灯
において,上記一対の電極間に位置するバルブの一側面を有効発光面とした場合,
この有効発光面に沿う上記電極間の距離をA,反対側の面に沿う上記電極間の距離
をBとした場合,ABの関係を有するとともに,距離Bで離間する一対の電極間
は,1kV以上の電圧が印加され,1mm以上の間隔を有していることを特徴とする低電
圧放電灯。
 (3) 本件訂正請求書の補正に係る特許請求の範囲の記載(甲5。なお,請求項2
についての補正はない。)
【請求項1】管状バルブの外面に,互いに周方向に離間して一対の電極を設け,こ
の一対の電極のバルブ長手方向の一端側に高周波電源の配線が接続された低圧放電
灯において,上記一対の導電体間に位置するバルブの一側面を有効発光面とした場
合,この有効発光面に沿う上記導電体周の距離をA,反対側の面に沿う上記導電体
間の距離をBとした場合,A>Bの関係を有するとともに,距離をBは一対の導電
体に印加する電圧に対して1kV以上の電圧が印加され,1mm/1kV以上の間隔を有して
いることを特徴とする低圧放電灯。
 3 決定の理由の要点
 (1) 決定は,本件訂正請求書の補正の適否につき,次のとおり説示した。
 「補正は,『距離Bで離間する一対の電極間は,1kV以上の電圧が印加され,1mm
以上の間隔を有している』を『距離をBは一対の導電体に印加する電圧に対して
1kV以上の電圧が印加され,1mm/1kV以上の間隔を有している』と訂正事項を変更す
るものであるから,訂正請求書の要旨を変更するものと認められ,採用しない。」
 (2) 決定は,本件訂正請求の適否につき,次のとおり説示した。
 「訂正後の特許請求の範囲に記載された『距離Bで離間する一対の電極間は,1kV
以上の電圧が印加され,1mm以上の間隔』は,『距離Bで離間する一対の電極間
は,1kV以上の電圧が印加され,1mm以上で,1mm/1kV以上の間隔』と『距離Bで離間
する一対の電極間は,1kV以上の電圧が印加され,1mm以上で,1mm/1kV以下の間隔』
との両方の範囲を含むものであって,後者は,『1mm/1kV以上の間隔』の範囲外であ
るから,訂正後の特許請求の範囲に記載された『距離Bで離間する一対の電極間
は,1kV以上の電圧が印加され,1mm以上の間隔』は,明らかに,訂正前の特許請求
の範囲に記載された『1mm/1kV以上の間隔』を逸脱するものである。したがって,上
記訂正事項は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また,上記訂正
事項は,誤記又は誤訳の訂正を目的とするものとも,明りょうでない記載の釈明を
目的とするものとも認められない。上記訂正は認められない。」
 (3) 決定は,続いて,本件訂正請求前の特許請求の範囲に記載された発明を対象
として検討したが,まず,先願明細書(特願平03-129307号(特開平5-
82101号)の願書に最初に添付した明細書及び図面)に記載された発明1,2
として,次のとおり認定した。
 「【先願明細書に記載された発明1】直状円筒状のガラスバルブ2の外側周面
に,互いに周方向に間隔をおいて一対の外部電極5a及び5bを設け,この一対の
外部電極5a及び5bに高周波,具体的には50kHzの電源7のリード線6a及
び6bが接続されたキセノンが70Torr封入されている蛍光ランプ1において,上
記一対の外部電極5a及び5b間に位置するバルブ2の一側面を光出力部4とした
場合,この光出力部4に沿う上記外部電極5a及び5b間の距離約4mmをA,反対側
の面に沿う上記外部電極5a及び5b間の距離約2mmをBとした場合,A(=約
4mm)>B(=約2mm)の関係を有するとともに,距離B(=約2mm)は,一対の外部
電極5a及び5bに印加する電圧に対して約2mm/800V=約2.5mm/1kVの間隔を有して
いることを特徴とするキセノンが70Torr封入されている蛍光ランプ1。」
 「【先願明細書に記載された発明2】上記蛍光ランプ1が蛍光体層3の形成され
ていない部分を有する形のものである場合,蛍光体層3が形成されていない部分の
開口縁に一対の外部電極5a及び5bを沿わせたことを特徴とする先願明細書に記
載された発明1のキセノンが70Torr封入されている蛍光ランプ1。」
 (4) 決定は,本件請求項1に係る発明と先願明細書に記載の発明1とを対比し,
次のとおり,一致点及び相違点の認定をし,相違点についての判断をした。
 「両者は,『管状バルブの外面に,互いに周方向に離間して一対の電極を設け,
この一対の電極に高周波電源の配線が接続された低圧放電灯において,上記一対の
導電体間に位置するバルブの一側面を有効発光面とした場合,この有効発光面に沿
う上記導電体間の距離をA,反対側の面に沿う上記導電体間の距離Bとした場合,
A>Bの関係を有するとともに,距離Bは,一対の導電体に印加する電圧に対して
1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする低圧放電灯。』で一致し,請求項
1に係る発明では,高周波電源の配線が,一対の電極のバルブ長手方向の一端側に
接続されているのに対して,先願明細書に記載の発明では,電源7(高周波電源に
相当。)のリード線6a及び6b(配線に相当。)は,一対の外部電極5a及び5
b(一対の電極に相当。)に接続されるものであるが,その位置については明確な
記載がない点,で一応相違する。
 相違点1について検討すると,『電源の配線を,一対の電極のバルブ長手方向の
一端側に接続する』ことは,実願昭62-26755号(実開昭63-17416
3号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムに『こ
の外部電極は,軸方向の一端で給電線6に接続されている。』と記載されているよ
うに周知慣用の技術であって,そのことによる『配線が容易になる』という効果も
格別のものとは認められない。したがって,『電源の配線を接続する,一対の電極
のバルブ長手方向の一端側』は,電源の配線を接続する際に通常選定される,一対
の電極上の典型的な一つの位置にすぎず,請求項1に係る発明における,『電源の
配線を,一対の電極のバルブ長手方向の一端側に接続する』ことは,先願明細書に
記載の発明における,『電源7(高周波電源に相当。)のリード線6a及び6b
(配線に相当。)を,一対の外部電極5a及び5b(一対の電極に相当。)に接続
する』ことと実質的に同じである。」
 (5) 決定は,本件請求項2に係る発明と先願明細書に記載の発明2とを対比し,
次のとおり,一致点及び相違点の認定をし,相違点についての判断をした。
 「両者は,『管状バルブの外面に,互いに周方向に離間して一対の電極を設け,
この一対の電極に高周波電源の配線が接続された低圧放電灯において,上記一対の
導電体間に位置するバルブの一側面を有効発光面とした場合,この有効発光面に沿
う上記導電体間の距離をA,反対側の面に沿う上記導電体間の距離をBとした場
合,A>Bの関係を有するとともに,距離Bは,一対の導電体に印加する電圧に対
して1mm/1kV以上の間隔を有していることを特徴とする低圧放電灯であって,上記ラ
ンプがアパーチャ形である場合,アパーチャ部の開口縁に一対の導電体を沿わせた
ことを特徴とする低圧放電灯。』で一致し,前記相違点1で一応相違する。
 そして,相違点1の判断については,請求項1に係る発明について述べたとおり
である。」
 (6) 決定は,次のとおり結論付けた。
 「請求項1ないし2に係る発明は,先願明細書に記載された発明と同一であっ
て,しかも,請求項1ないし2に係る発明の発明者が上記先願明細書に記載された
発明の発明者と同一であるとも,また本願の出願時にその出願人が上記先願の出願
人と同一であるとも認められないので,特許法29条の2の規定により特許を受け
ることができない。」
第3 原告の主張(決定取消事由)の要点
 原告としては,本件訂正請求関係(補正の点も含む。)についても,訂正前の請
求項についての異議決定理由の適否についても争わず,本件については,決定に記
載された事項について取消事由を主張しない。
 なお,原告は,別途,平成15年5月20日付けで訂正審判請求をしたところ
(訂正2003-39102号),審判請求は成り立たないとの審決がされたた
め,その審決取消訴訟を提起した(平成15年(行ケ)第521号事件)。原告と
しては,専ら,平成15年(行ケ)第521号事件について争い,同事件における
訂正審判請求が認められるべきであって,これが認められれば本件異議の決定が結
果的に本件発明の要旨認定を誤ったことになるという意味で,取消事由があること
のみを主張するものである。
第4 当裁判所の判断
 原告の主張は,前記のとおりであり,本件決定については争わず,取消事由を主
張するものではない。
 なお,前記平成15年(行ケ)第521号事件もまた当部に係属している。同事
件は,原告が本訴係属中の平成15年5月20日付けで訂正審判請求をしたところ
(訂正2003-39102号),審判請求は成り立たないとの審決がされたた
め,その審決取消訴訟を提起したものである。そして,当裁判所は,平成15年
(行ケ)第521号事件についても,本件と同一期日に口頭弁論を開いた上,同一
期日に判決を言い渡すものであるが,同判決の結論は,上記訂正審判請求を成り立
たないとした審決は是認し得るものであり,審決取消事由は理由がないというもの
である。
 以上によれば,本件決定を取り消すべき事由はなく,原告の請求は棄却されるべ
きである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
         裁判長裁判官    塚  原  朋  一
 
            裁判官    田  中  昌  利
            裁判官    佐  藤  達  文

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