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平成14年(行ケ)第155号 審決取消請求事件
平成15年7月1日口頭弁論終結
            判    決
   原    告    ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
    訴訟代理人弁理士   松 本 研 一
    同      松 井 光 夫
    同      五十嵐 裕 子
    被    告     特許庁長官 今井康夫
    指定代理人      谷 口 浩 行
    同      大 橋 良 三
    同      一 色 由美子
    同      涌 井 幸 一
    同      井 出 隆 一
          主    文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日
と定める。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が不服2000-7160号事件について平成13年10月29日に
した審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文1,2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,平成3年6月19日,米国において1990年(平成2年)6月2
2日にした出願に基づく優先権を主張して,名称を「増強されたウエルドライン強
度をもつポリカーボネート,ABS樹脂及びポリアルキルメタクリレートの難燃性
配合物」とする発明につき特許出願(平成3年特許願第173315号。以下「本
件出願」という。)をし,平成12年1月21日に拒絶査定を受けたので,平成1
2年5月15日,これに対する不服の審判を請求した。
 特許庁は,これを不服2000-7160号事件として審理した。原告は,
この審理の過程で,平成12年6月14日付けの手続補正書により明細書の特許請
求の範囲の補正をした(以下,この補正後の明細書及び図面をまとめて「本願明細
書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成13年10月29日,「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決をし,同年12月5日,その謄本を原告に送達
した。
2 特許請求の範囲
「【請求項1】ポリカーボネート重合体,メタクリレート単量体を含まないA
BS樹脂,ホスフェート系難燃化化合物及びポリアルキルメタクリレート重合体を
含有してなる重合体配合物組成物。」(以下,審決と同様に「本願第1発明」とい
う。)
(【請求項2】ないし【請求項5】は省略。)
3 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願第1発明は,特開昭49
-132143号公報(甲第3号証。以下,審決と同様に「引用刊行物」とい
う。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)と同一のものである,とす
るものである。
 審決が,上記結論を導く過程において,本願第1発明と引用発明との一致
点・一応の相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点
「ポリカーボネート重合体,メタクリレート単量体を含まないABS樹脂,難
燃化化合物及びポリアルキルメタクリレート重合体を含有したなる(判決注・「し
てなる」の誤記である。)重合体配合物組成物」
一応の相違点
「前者(判決注・本願第1発明)が難燃化化合物をホスフェート系のものに限
定しているのに対して,後者(引用発明)では難燃化化合物が限定されていない
点」(以下「一応の相違点」という。)
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決は,引用発明の認定を誤ることにより,本願第1発明と引用発明との一
致点の認定を誤り(取消事由1),本願第1発明の顕著な作用効果を看過したもの
であり(取消事由2),これらの誤りがそれぞれ結論に影響することは明らかであ
るから,違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤りによる一致点の認定の誤り)
 審決は,引用発明につき,「上記引用刊行物における特許請求の範囲の記載
によると上記引用刊行物に記載された発明は上記引用刊行物の第1図(判決注・別
紙図面A参照)のb-c線で示される部分の組成のものをも含むものである。そし
て,上記引用刊行物の第1図のb-c線で示される部分はメタクリル酸エステル単
量体の含有量が0であるから,上記引用刊行物に記載されている発明は樹脂(A)
としてポリブタジエンもしくはブタジエンを50重量%以上含有するブタジエン共
重合体に,メタクリル酸エステル単量体を含まず,芳香族ビニル単量体及びシアン
化ビニル単量体からなるビニル系単量体とだけグラフト共重合して得られたものを
も包含していることになる。」(審決書4頁最下段~5頁1段)と認定し,これに
基づいて本願第1発明との一致点を認定した。しかし,審決のこの引用発明の認定
は誤りである。
 引用刊行物には,「ポリカーボネートにポリメタクリル酸エステルをブレン
ドせしめた組成物が知られているが,このものは特殊な真珠様光沢を有する反面,
ポリカーボネート本来の優れた耐衝撃性を著しく低下せしめ,更には剥離現象が生
じ易いという欠点を有する。」(甲第3号証1頁右欄),「本発明者は,かかるポ
リカーボネートとポリメタクリル酸エステルとのブレンド体における耐衝撃性の低
下や剥離現象が生じない改良されたポリカーボネート組成物について鋭意研究し
た。その結果,前記ブレンド体に耐衝撃性に優れたポリブタジエンやポリイソプレ
ンをゴム成分として配合したものは,ゴム成分が前記ブレンド体成分中に単に混在
するだけであつて前記の欠点の改良効果は小さい。しかし,ブタジエン系重合体に
特定のビニル系単量体をグラフト共重合せしめることによりポリカーボネート及び
ポリメタクリル酸エステルに対して良好な相溶性を有するように変性したポリカー
ボネート組成物は,ポリカーボネートの耐衝撃性を実質的に保持し,その上剥離現
象が生ぜずしかも真珠様光沢をも損なわずに有することを見出し,本発明に到達し
たものである。」(同1頁右下欄末行~2頁左上欄16行),及び,「本発明の樹
脂組成物(D)が,優れた衝撃強度及び耐剥離性を有するのはブタジエン系グラフ
ト共重合体(A)がその含有ゴム成分によつて優れた耐衝撃性を付与し,同時にそ
のグラフト成分によつてポリメタクリル酸エステル樹脂(B)とポリカーボネート
(C)との相溶性を増加せしめる役割を果し,その結果剥離現象がなくなると共に
優れた衝撃強度を有するものと考えられる。」(同2頁右上欄12行~19行)」
との記載がある。
 引用刊行物の上記記載から明らかなように,引用発明は,ポリブタジエンに
グラフトされた(接ぎ木された),ビニル系単量体(グラフト部分)が,ポリカー
ボネートとポリメタクリル酸メチルエステル(以下「PMMA」という。)の仲立
ちをして互いをなじませているものである。そして,ここにおいてポリカーボネー
トとPMMAとのなじみを良くするビニル系単量体(グラフト部分)は,PMMA
と同類のメタクリル酸エステル(代表的にはメタクリル酸メチル(以下「MMA」
ともいう。)であろうことは,当業者が容易に予想することである。
 このように,グラフト共重合体中にグラフトされたメタクリル酸エステル
は,引用発明において,重要な成分であり,同発明に欠くことができないものであ
る。実際に,引用刊行物に記載されている実施例1ないし5における,ポリブタジ
エン60部にグラフトされたビニル系単量体の内訳は,MMA24部,スチレン1
6部,アクリロニトリル8部であり,多量のMMAが用いられている。
 審決が,引用刊行物の第1図のビニル系モノマーの組成割合について,「b
-c線上の組成割合も含む」(審決書4頁6行)と認定し,メタクリル酸エステル
(メチル)単量体の量がゼロであることもあり得る,と認定したのは,引用発明に
おける,上記のポリブタジエン上のMMAグラフトの役割を無視し,引用刊行物の
第1図のみを機械的に見た解釈である。審決のこのような解釈は,本願第1発明で
のグラフトコポリマー(ブタジエン共重合体)においてメタクリル酸エステル(メ
タクリル酸メチル)単量体の量がゼロであることを知った上で,それとの類似性を
見つけようとしなければ出てこない,不自然な解釈である。
 引用刊行物に,「それぞれの使用比率は第1図で示した記号イ,ロ,ハ,ニ
(判決注・記号a,b,c,dの誤記である。)で囲まれた範囲の組成比になるよ
うな比率,特に2種以上を用いた場合が好ましい。」(甲第3号証2頁右下欄12
行~14行)との記載があるのは,事実である。しかし,引用発明のグラフト共重
合体中にグラフトされたメタクリル酸エステルの上記重要性を考慮すれば,この記
載を,メタクリル酸エステル(メチル)単量体の量がゼロであってもよいことを意
味するものと理解することはできないというべきである。
 本願第1発明は,ポリカーボネートとABS(アクリロニトリル-ブタジエ
ン-スチレン)樹脂の組成物から出発し,その成形品のウエルドライン強度が低い
という問題点をPMMAを加えることにより解決したものである。そして,本願第
1発明のABS樹脂は,メタクリル酸エステルを含まない点で,引用発明とは明ら
かに異なるのである。審決の前記一致点の認定は誤りである。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)
 審決は,「上記引用刊行物には耐衝撃性を向上することが記載されているの
である(上記摘示4,8)から,本願第1発明におけるウエルドラインの強度特性
を増加させるという効果は上記引用刊行物に記載されていない新らたな効果を単に
発見したに過ぎないものであるといえる。それ故,本願第1発明は上記引用刊行物
に記載された発明と同一のものであるといえる。」(審決書5頁5段,6段)と判
断した。
 審決が,引用発明における耐衝撃性の向上と本願第1発明におけるウエルド
ラインの強度の向上とを相異なる効果であると認めた点は正しい。しかし,審決
が,本願第1発明と引用発明との構成が同一であると認定したことを反映して,本
願第1発明におけるウエルドラインの強度の改善を,単なる新たな効果の発見にす
ぎないと認定したのは誤りである。引用発明は,ポリカーボネートとPMMAとの
組成物の衝撃性及び剥離しやすさを特定のグラフト共重合体によって改善したもの
であるのに対し,本願第1発明は,ABS樹脂とポリカーボネートとの組成物のウ
エルドラインの強度を,PMMAを加えることによって改善したものであり,この
ような構成の差異から見ても,本願第1発明による効果は顕著である。
 被告は,引用発明は「成形性に優れその上高い衝撃強度を有するポリカーボ
ネート組成物」を提供するものであることが明らかである,このことは,引用発明
に係る樹脂組成物は,成形性に優れ,その上高い衝撃強度を有するものであるか
ら,樹脂組成物の成形にともない生じる可能性のあるウエルドライン等の欠陥が何
ら発生しない樹脂組成物であることを意味する,と主張する。
 しかし,被告の主張は,審決の論理と矛盾するだけでなく,引用刊行物に記
載された「成形性」を「成形不良」と混同するものである。「図解プラスチック用
語辞典」(昭和62年9月30日初版6刷発行・日刊工業新聞社。甲第5号証・2
69頁)によれば,「成形性」とは,「プラスチック成形材料の成形の難易を表す
概念で,材料の溶融流動性,硬化速度,ガス抜きの難易,収縮の大小,離型の難
易,熱安定性,成形温度・・・そのほかの種々の材料特性が含まれている。」とさ
れている。すなわち,成形性とは,成形作業における特性である。これに対し,成
形不良は出来上がった成形品における不良である。成形性が良くなった結果ウエル
ドライン強度が向上する,というようなことはない。
 したがって,引用刊行物における「成形性に優れ」との記載は,本願第1発
明の効果である「ウエルドラインの強度」の向上を予測させるものではない。被告
の上記主張は誤りである。
第4 被告の反論の骨子
 審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(引用発明の認定の誤りによる一致点の認定の誤り)について
 原告は,引用発明において,グラフト共重合体中にグラフトされたメタクリ
ル酸エステルは重要な成分であり,引用発明に欠くことができないものである,と
主張する。
 引用発明における,ポリブタジエン(イ)若しくはブタジエンを50重量%
以上含有するブタジエン共重合体(イ’)にグラフトすべきグラフト成分は,メタ
クリル酸エステル単量体(ロ),芳香族ビニル単量体(ハ)及びシアン化ビニル単
量体(ニ)からなるビニル系単量体であり,このグラフト成分の組成比は,引用刊
行物の第1図における記号a,b,c,及びdで囲まれた割合であること,及び,
第1図のb-c線上の組成割合もこれに含まれることは,明らかである。
 引用刊行物において,メタクリル酸エステル単量体は,芳香族ビニル単量体
及びシアン化ビニル単量体と並んで,グラフト成分となる三つの成分のうちの一つ
として記載されているものにすぎない。引用刊行物には,メタクリル酸エステル単
量体が他のグラフト成分である芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体より
も重要な成分であるとか,メタクリル酸エステル単量体が必須の成分であるとかと
いう記載はない。
 原告の前記主張は,引用刊行物の記載を独断的に解釈したものであり,誤り
である。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について
 引用刊行物の「本発明は成形性及び機械的,熱的特性に優れた熱可塑性樹脂
組成物に関するものであり,更に詳しくは,成形性に優れその上高い衝撃強度を有
するポリカーボネート組成物に関する。」(甲第3号証1頁右下欄2行~5行)等
の記載によれば,引用発明は,「成形性に優れその上高い衝撃強度を有するポリカ
ーボネート組成物」を提供するものであることが明らかである。
 引用発明に係る樹脂組成物は,このように,成形性に優れ,その上高い衝撃
強度を有するものなのであり,このことは,同組成物が,樹脂組成物の成形に伴い
生じる可能性のあるウエルドライン等の欠陥が何ら発生しない樹脂組成物であるこ
とを,意味するのである。
 したがって,審決が,本願第1発明と引用発明との構成を同一と認定した上
で,本願第1発明における「本願第1発明におけるウエルドラインの強度特性を増
加させるという効果は上記引用刊行物に記載されていない新らたな効果を単に発見
したに過ぎないものである」(審決書5頁5段)と判断したことに,誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定の誤りによる一致点の認定の誤り)について
 原告は,審決が,「上記引用刊行物における特許請求の範囲の記載によると
上記引用刊行物に記載された発明は上記引用刊行物の第1図(判決注・別紙図面A
参照)のb-c線で示される部分の組成のものをも含むものである。そして,上記
引用刊行物の第1図のb-c線で示される部分はメタクリル酸エステル単量体の含
有量が0であるから,上記引用刊行物に記載されている発明は樹脂(A)としてポ
リブタジエンもしくはブタジエンを50重量%以上含有するブタジエン共重合体
に,メタクリル酸エステル単量体を含まず,芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニ
ル単量体からなるビニル系単量体とだけグラフト共重合して得られたものをも包含
していることになる。」(審決書4頁最下段~5頁1段)と認定したことは誤りで
ある,と主張する。しかし,この主張を採用することはできない。
 引用刊行物には,「ポリブタジエン(イ)もしくはブタジエンを50重量%
以上含有するブタジエン共重合体(イ’)にメタクリル酸エステル単量体(ロ),
芳香族ビニル単量体(ハ)及びシアン化ビニル単量体(ニ)からなるビニル系単量
体を第1図における記号a,b,c及びdで囲まれた割合でグラフト共重合して得
られた樹脂(A),ポリメタクリル酸エステル樹脂(B)及び芳香族ポリカーボネ
ート樹脂(C)よりなる樹脂組成物(D)において,組成物(D)当たり5~95
重量%の前記の(A)成分及び(B)成分と95~5重量%の前記(C)成分とか
らなり,且つ前記の(イ)成分もしくは(イ’)成分を前記の(A)成分と(B)
成分との総量に対して1~30重量%含有せしめたことを特徴とする耐衝撃性樹脂
組成物。」(甲第3号証・特許請求の範囲)との記載がある。このように,引用刊
行物は,引用発明を構成するグラフト共重合樹脂(A)を,「ポリブタジエン
(イ)もしくはブタジエンを50重量%以上含有するブタジエン共重合体(イ’)
に,メタクリル酸エステル単量体(ロ),芳香族ビニル単量体(ハ)及びシアン化
ビニル単量体(ニ)からなるビニル系単量体を第1図における記号a,b
,c,及びdで囲まれた割合でグラフト共重合して得られた」ものと,明確に定義
している。
 そして,引用刊行物の第1図の「記号a,b,c,及びdで囲まれる範囲」
(正確には「記号a,b,c,d及びaの各点を順次結ぶ各直線で囲まれる範
囲」)とは,引用刊行物の「第1図は,本発明に用いられるビニル系単量体をグラ
フト共重合したポリブタジエン系樹脂(A)におけるグラフト鎖を構成するビニル
系単量体(メタクリル酸エステル単量体,芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル
単量体)3成分の組成比を示した組成図である。図中の記号a,b,c及びdの点
の各座標は
記号 メタクリル酸エステル単量体 芳香族ビニル単量体 シアン化ビニル
単量体
a     1.00         0.00       0.00
b     0.00         1.00       0.00
c     0.00         0.60       0.40
d     0.70         0.00       0.30
をそれぞれ示す。」(甲第3号証4頁右下欄8行~20行)との記載からすれ
ば,直線b-c線上の組成割合のもの,すなわち,芳香族ビニル単量体(ハ)及び
シアン化ビニル単量体(ニ)の2種類をグラフト共重合し,メタクリル酸エステル
単量体(ロ)がグラフトされるものとしては含まれないグラフト共重合体の場合も
あることを示していることが明らかであるから,審決の上記認定に誤りはない。
 引用刊行物の第1図のような,正三角形の内部を3成分の組成割合に1対1
に対応させる図示方法において,正三角形の各頂点は,それぞれの成分の純粋成分
を表し,三つの辺は,2成分系の成分比を表すことになること,すなわち,三つの
辺は,3成分のうち,対向する頂点の成分を含まない2成分系の組成割合を,具体
的には,辺a-bはメタクリル酸エステル単量体-芳香族ビニル単量体系を,直線
b-cを含む辺b-eは芳香族ビニル単量体-シアン化ビニル単量体系を,そし
て,直線d-aを含む辺e-aはメタクリル酸エステル単量体-シアン化ビニル単
量体系を,それぞれ示すことになることは,引用刊行物の上記記載から明らかであ
る(引用刊行物の第1図において,仮に,3成分が常に含まれることを必須の条件
とするのであれば,「a,b,c,及びdで囲まれた範囲,ただし,a-b,b-
c,d-a上を除く。」と記載することになるはずである。)。
 以上からすれば,引用刊行物の第1図の記号a,b,c,及びdで囲まれた
範囲には,直線b-cの場合も含まれているとした審決の認定に誤りはない。
 原告は,審決の上記認定を誤りとする理由として,引用発明において,ポリ
カーボネートとPMMAとのなじみを良くするビニル系単量体(グラフト部分)
は,PMMAと同類のメタクリル酸エステルであろうことは,当業者が容易に予想
することである,引用発明において,グラフト共重合体中にグラフトされたメタク
リル酸エステルは重要な成分であり,引用発明に欠くことができないものである,
などと主張する。
 しかし,原告の主張が理由がないことは,上述したところから既に明らかで
ある。のみならず,原告の主張が理由がないものであることは,引用刊行物の発明
の詳細な説明における,次の記載を見れば,更に明らかとなるのである。
「本発明の樹脂組成物(D)が,優れた衝撃強度及び耐剥離性を有するのは
ブタジエン系グラフト共重合体(A)がその含有ゴム成分によつて優れた耐衝撃性
を付与し,同時にそのグラフト成分によつてポリメタクリル酸エステル樹脂(B)
とポリカーボネート(C)との相溶性を増加せしめる役割を果し,その結果剥離現
象がなくなると共に優れた衝撃強度を有するものと考えられる。」(同2頁右上欄
12行~19行),
「前記ゴム成分・・・にグラフト重合するビニル系単量体は,メタクリル酸
エステル単量体・・・,芳香族ビニル単量体・・・,シアン化ビニル単量体・・・
であり,」(同2頁左下欄18行~右下欄7行),
「それぞれの使用比率は第1図で示した記号イ,ロ,ハ,ニ(判決注・記号
a,b,c,dの誤記である。)で囲まれた範囲の組成比になるような比率,特に
2種以上を用いた場合が好ましい。その範囲の組成比にある単量体を重合して得ら
れるポリブタジエン系グラフト共重合体(A)を用いた場合,得られる樹脂組成物
(D)の衝撃強度及び熱変形温度が特に高く,また成形性も特に良好なものが得ら
れる。」(同2頁右下欄12行~18行。下線付加)
 引用刊行物には,上に示したように,引用発明においてポリブタジエンにグ
ラフトされるビニル系単量体として,3種類のものが明記され,特に2種以上を用
いることが好ましい旨が記載されているのであるから(このことは,特に好ましい
ものを望まない限り,1種類でもかまわないことを意味する。),正に,グラフト
されるビニル系単量体として,引用刊行物の第1図の3角形のa-b,b-c及び
d-aの3直線上のもの,すなわち,2種類のビニル系単量体をグラフトさせる場
合があることを明示している,ということができるのである。これに対し,引用発
明において,グラフト共重合体中にグラフトされるものとして,メタクリル酸エス
テル単量体が欠くことができないものである,との原告主張の事項を明示する記載
もこれを示唆する記載も,引用刊行物には一切見当たらない(甲第3号証)。原告
の上記主張は,引用刊行物の明示的な記載に反するものであって,原告独自の推測
に基づくものという以外になく,到底採用することができない。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について
 原告は,審決が,「上記引用刊行物には耐衝撃性を向上することが記載され
ているのである(上記摘示4,8)から,本願第1発明におけるウエルドラインの
強度特性を増加させるという効果は上記引用刊行物に記載されていない新らたな効
果を単に発見したに過ぎないものであるといえる。それ故,本願第1発明は上記引
用刊行物に記載された発明と同一のものであるといえる。」(審決書5頁5段,6
段)と判断した点は,誤りであると主張する。原告のこの主張が,本願第1発明と
引用発明との間に構成の相違が存在することを前提とするものであることは,その
主張自体で明らかである。
 原告が問題とする審決のこの判断部分は,その直前において,本願第1発明
と引用発明との一応の相違点について,「ポリカーボネートとABSとのブレンド
に使用する難燃化化合物としてホスフェート系のものを使用することは本願出願前
から普通に行われていることである(必要ならば,例えば,特開昭57-2076
42号公報,特開昭63-265942号公報,特開昭63-265960号公報
参照)から,本願第1発明において上記の難燃化化合物をホスフェート系のものに
限定した点は単なる慣用手段の限定を付したに過ぎない。」(審決書5頁4段)と
判断したのに引き続く部分である。すなわち,原告が問題とする審決の上記判断部
分は,審決が,本願第1発明の構成が引用発明の構成と同一であるとの結論に至る
に必要な判断をすべて行った上での説示である。
 二つの発明の構成が同一であるとき,それらの効果が異なるということは,
客観的にはおよそあり得ないことである。また,既存の構成についての効果の発見
は,それが新たな構成に結び付かない限り,単なる効果の発見にとどまり,特許性
の根拠とはなり得ない。そうである以上,本願第1発明と引用発明との間に構成に
おける相違はないとする審決の判断を前提にすると,仮に,本願第1発明の効果と
されているものの中に,引用発明の効果とはされていないものがあったとしても,
それは,単に,「引用刊行物に記載されていない新たな効果を単に発見したに過ぎ
ないもの」にとどまる。これがそれ以上のものとなることはあり得ない。したがっ
て,両発明の間に構成における相違がないとした上で行った審決の上記判断は,い
わば同義反復であって,無意味なものという以外にない。
 本願第1発明と引用発明との間の構成の同一性を否定する原告の主張(取消
事由1)が失当であることは,既に述べたとおりである。原告は,両発明の構成上
の相違の存在について,取消事由1以外に具体的な主張をしていない。このような
状態でなされた効果についての主張は,主張自体として失当というべきである。
 上記の点を離れても,本願第1発明の効果を格別予想外のものとすることは
できず,これを顕著なものとする原告の主張は,採用することができない。
 ウエルドライン(ウエルドマーク)とは,「射出またはトランスファ成形に
おいて,成形材料が金型中でピンやコアなどの周囲を流れて合流するためにできる
線状のマーク。外観上のみならず強度的にも欠陥となる場合があるので,この部分
はできるだけ完全な融着を起こさせるよう考慮しなければならない。」ものである
(乙第1号証)。
 引用刊行物には,「本発明は成形性及び機械的,熱的特性に優れた熱可塑性
樹脂組成物に関するものであり,更に詳しくは,成形性に優れその上高い衝撃強度
を有するポリカーボネート組成物に関する。」(甲第3号証1頁右下欄2行~5
行)との記載,及び,「本発明の樹脂組成物(D)が,優れた衝撃強度及び耐剥離
性を有するのはブタジエン系グラフト共重合体(A)がその含有ゴム成分によつて
優れた耐衝撃性を付与し,同時にそのグラフト成分によつてポリメタクリル酸エス
テル樹脂(B)とポリカーボネート(C)との相溶性を増加せしめる役割を果し,
その結果剥離現象がなくなると共に優れた衝撃強度を有するものと考えられる。」
(同2頁右上欄12行~19行)との記載がある。
 引用発明がこのように高い衝撃強度を有するものであることは,製品全体の
中で耐衝撃性に弱いウエルドラインの強度の強化にもつながることであるから,ウ
エルドラインの強度について改善がなされたとする本願第1発明の作用効果は,格
別予想外のものではなく,これを顕著な効果であると認めることは到底できない。
審決が,この効果を新たな効果の単なる発見にすぎないとした趣旨は,この効果
は,引用刊行物に明示的に記載されてはいないものの,引用発明から十分に予想し
得る効果であるにすぎないということを述べる点にあると理解することができる。
この説示は,本来無用なものであるとはいえ,それ自体として誤りはないことが明
らかである。
 いずれにせよ,原告の主張は採用することができない。
3 結論
 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由
がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原
告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立ての
ための付加期間の付与について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条
2項を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
      裁判長裁判官山  下  和  明
         裁判官  設  樂  隆  一
 
裁判官高瀬順久は,海外出張中のため,署名押印することができない。
       裁判長裁判官 山  下  和  明
 
(別紙)
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