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裁判例


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       主   文
一審原告及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は各自の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の申立て
1 一審原告
(1) 原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審被告が一審原告に対して平成12年3月9日付けでした,一審原告の
平成8年分所得税についての更正処分のうち課税総所得金額682万6000円,
納付すべき税額40万1200円を超える部分(ただし,平成12年異議決定によ
り減額された後のもの)を取り消す。
(3) 一審被告が一審原告に対して平成12年3月9日付けでした,一審原告の
平成9年分所得税についての更正処分のうち課税総所得金額630万5000円,
納付すべき税額31万9400円を超える部分を取り消す。
(4) 一審被告が一審原告に対して平成12年3月9日付けでした,一審原告の
平成10年分所得税についての更正処分のうち課税総所得金額2513万4000
円,納付すべき税額638万3200円を超える部分を取り消す。
(5) 一審被告が一審原告に対して平成12年9月27日付けでした,一審原告
の平成11年分所得税についての更正処分のうち課税総所得金額5932万800
0円,納付すべき税額1851万3400円を超える部分及び同年分の所得税に係
る過少申告加算税賦課決定を取り消す。
(6) 一審被告が一審原告に対して平成14年2月27日付けでした,一審原告
の平成12年分所得税についての更正処分のうち課税総所得金額7578万800
0円,納付すべき税額2452万1500円を超える部分を取り消す。
(7) 一審被告が一審原告に対して平成14年11月27日付けでした,一審原
告の平成13年分所得税についての更正処分のうち課税総所得金額2596万20
00円,納付すべき税額595万4400円を超える部分及び同年分の所得税に係
る過少申告加算税賦課決定のうち過少申告加算税額5000円を超える部分を取り
消す。
2 一審被告
(1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は,平成8年から同13年までの所得税申告においてストックオプション
の権利行使益を一時所得として申告した一審原告が,各年分の権利行使益がいずれ
も給与所得に当たるとして一審被告がした平成8年分から同10年分の各更正処分
の取消し,同11年分から同13年分については更正処分及び過少申告加算税賦課
決定の取消しを求めた事案である(ただし,一審原告は,当審において請求を減縮
した。)。原審が,ストックオプションの権利行使益は給与所得に当たるとして各
更正処分の取消請求を棄却したが,過少申告加算税賦課決定については国税通則法
65条4項の「正当な理由」が認められるとしてその取消請求を認容(ただし,平
成11年分及び同13年分については一部認容)したところ,当事者双方が,各敗
訴部分を不服として控訴した。
2 当事者双方の主張は,原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記
載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決42頁19行目の次に,
改行して次のとおり加える。
「六 当審における当事者双方の主張
1 一審原告の主張
(1) 一審原告が取得したのはストックオプションの権利自体であって,含み益
である権利行使益を給付されたものではないし,一審原告は,日本マイクロソフト
社に就労していたところ,ストックオプションの権利行使益は,一審原告と米国マ
イクロソフト社との間で行われた取引によって発生したもので,日本マイクロソフ
ト社における就労とは何らの関連性もないから,本件権利行使益が米国マイクロソ
フト社から一審原告に付与された給与所得に該当する余地はない。
(2) ストックオプションの権利行使益は,株価変動の偶発性や投資判断による
ものであるから,一時的・偶発的事情を基礎として生ずる所得であり,給与所得で
はなく一時所得と解するべきである。
(3) 仮に,ストックオプションの権利行使益が給与所得であるとしても,一審
原告に対してされた各更正処分は信義則に違反するから取り消されるべきである。
本件においては,国税当局においてストックオプションの権利行使益につき一時所
得とする公的見解を示していたこと,納税者はその表示を信頼して行動したこと,
後にその表示に反する課税処分が行われ納税者が経済的に不利益を受けたこと,納
税者が上記表示を信頼して行動したことにつき責めに帰すべき事由はないから,最
三小判昭62年10月30日裁判集民事152号93頁が示す信義則適用要件を充
足しているし,仮に,充足していないとしても,本件においては,その事案の特質
から信義則が適用されるべきである。
2 一審被告の主張
(1) 国税通則法65条4項の「正当な理由」がある場合とは,当該過少申告が
納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因するなど真にやむを得な
い理由によるものであり,過少申告加算税の賦課が納税者に不当又は著しく酷にな
る場合をいい,単なる法の不知・誤解はこれに当たらないところ,下記(2)及び
(3)に記載のとおり,一審原告の平成11年分ないし同13年分の申告はこれに
当たらない。したがって,原判決の判断には違法がある。
(2) 一審原告は,平成11年分ないし同13年分の所得の確定申告をする前
に,一審被告による本件の平成8年分ないし同10年分の所得税に係る更正処分に
ついての調査等の際に,本件権利行使益の所得区分は給与所得であるとの課税庁の
見解を明確に伝えられたのに,自らの独自の判断に基づいて一時所得として申告し
たものであり,課税庁の見解を信頼して過少申告をしたのではない。
(3) 原判決は,一時所得説から給与所得説への運用の変更を規則,通達等によ
り明示することを怠ったことを「正当な理由」があることの理由にあげる。しかし
ながら,平成10年より前の一時所得説による課税実務自体が,これを直接定めた
法令や通達に基づくものではなかったのであって,法令や通達で明文の規定を置か
なければ「正当な理由」があるとされるのでは,適正な期限内申告の実現を図ると
いう過少申告加算税の趣旨を実現することができない。」
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,平成8年分から同13年分までの所得に係る各更正処分の取消請
求を棄却し,平成11年分から同13年分所得に係る過少申告加算税賦課決定の取
消請求につき一部認容した原審の判断は相当であると判断する。その理由は,原判
決「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。ただし,次のとおり付加訂正する。
(1) 原判決47頁15行目から同16行目までの「自社株式を一定の期間内に
あらかじめ定められた権利行使価格で購入することができる権利(売買予約の予約
完結権に当たる。)」を「一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価格で,
自社株式について新株の発行を受け,又は発行済み株式の譲渡を受けることができ
る権利(新株発行予約又は株式売買予約の予約完結権に当たる。)」に改める。
(2) 原判決49頁12行目から同51頁7行目までを,次のとおり改める。
「(2) しかしながら,この権利行使益は,付与会社があらかじめ定められた権
利行使価格で従業員等に自社株式を発行又は譲渡した結果生ずるものである。
 そして,新株の発行又は自社株式の譲渡(以下「新株発行等」という。)は株式
会社の主要な資金調達手段の一つであり,付与会社は,時価による新株発行等をす
る場合には株式の市場価格(時価)相当額の資金を調達することができるが,スト
ックオプションが権利行使されたことに伴い新株発行等をする場合には調達できる
資金の額は権利行使価格相当額にとどまり,市場価格が権利行使価格を上回る場合
についてみると,付与会社は,時価による新株発行等をした場合に獲得できたはず
の資金の一部(市場価格と権利行使価格の差額)についてその獲得を放棄し,従業
員等がこれと同額の権利行使益を取得したことになる。これを全体としてみれば,
権利行使益と同額の利益が付与会社から従業員等に移転したということができる。
そして,この結果は,ストックオプション付与契約の本質的な内容としてあらかじ
め予定されていたものである。
 なお,ストックオプションはその行使が義務付けられておらず,株式の市場価格
が権利行使価格より下回っているときには権利行使をしなければよいのであるか
ら,権利行使により従業員等に損失が発生することは通常考えられない。
(3) このように見てくると,ストックオプションを行使したことによる権利行
使益の発生の有無及びその多寡が,株価の変動や従業員等による権利行使の時期に
ついての判断に左右されることはそのとおりであるとしても,実質的にみると,従
業員等が取得する権利行使益は,ストックオプション付与契約に定めるところに従
い,付与会社が,自己が逸失した資金の額に相当する利益を従業員等に移転したも
のとみることができる。」
(3) 原判決54頁19行目の「の行使による」を「を行使したことによる」に
改める。
(4) 原判決59頁1行目の「権利行使益に相当する株式の含み益」を「付与会
社が逸失した資金の額に相当する利益」に改める。
(5) 原判決86頁22行目の次に,改行して次のとおり加える。
「5 一審原告は,当審においても権利行使益は一時所得に該当するとして縷々主
張するが,前記認定のとおり,完全子会社の財産の全部を支配する完全親会社か
ら,過去及び将来の労務の対価として,完全親会社が逸失した資金と同額(市場価
格と権利行使価格の差額)の利益を,完全子会社の従業員等に対して移転したもの
が本件権利行使益であることは明らかであり,この権利行使益は,給与所得の性質
を有するとみるのが最も自然なものというべきである。また,前記のとおり,権利
行使益を取得するには完全子会社における勤務の継続等が必須であること,マクロ
的にみると勤務会社の業績の向上と権利行使益の取得に相関関係がみられることな
どからすれば,本件権利行使益をインセンティブ報酬の一種とみることに何ら問題
はないというべきである。」
(6) 原判決87頁1行目の「5」を「6」に改める。
(7) 原判決90頁12行目の「確かに,」の次に「甲第29号証,」を加え,
同13行目の「1ないし7」の次に「,乙第53ないし第56号証」を加える。
(8) 原判決91頁14行目から92頁6行目までを次のとおり改める。
「これを本件について見ると,一審原告は,平成8年分の所得税申告に際し,勤務
先である日本マイクロソフト社の人事部(HR)からストックオプションの権利行
使益について一時所得として申告するよう指示され,これは,日本マイクロソフト
社が監査法人アーサーアンダーセンを通して税務署に問い合わせた結果によると認
識していたこと,平成9年分から同11年分の確定申告においても,一審原告は上
記権利行使益につき一時所得として申告したが,その際,税務署の窓口で指摘,注
意,その他一切の指導を受けることはなかったことが認められるが(甲第87号
証),一審原告自身が税務署で一時所得として申告するよう指導されたというもの
ではない。また,東京国税局直税部長が監修し,同所得税課長編の「回答事例によ
る所得税質疑応答集」昭和60年版(乙第11号証の1)によれば,ストックオプ
ションを与えられた場合の課税について,「現実に権利を行使した本年分の一時所
得として課税されます」と記載され,以後,同書の平成6年版まで同様の記載がさ
れていたところ(乙第11号証の2ないし7),平成8年版では上記設問は記載さ
れず(乙第11号証の8),平成10年版ではストックオプションの権利行使益は
給与所得として課税される旨の記載がされている(乙第11号証の9。ただし,従
前の一時所得説を変更して給与所得説を採用するに至った旨の記載はない。)。そ
して,一審原告は,平成8年分から同10年分の所得税につき玉川税務署の調査を
受け,平成11年12月22日,一審原告は玉川税務署に出頭した際,国税調査官
からストックオプションの権利行使益は一時所得ではなく給与所得である旨の説明
を受け,修正申告の意向の有無を尋ねられたのに対し,一時所得説を主張して修正
申告に応じなかったため,平成12年3月9日に更正処分を受けた(乙第47号
証)。
 そこで,最三小判昭62年10月30日裁判集民事152号93頁が示す信義則
適用のための考慮事項の一つである「税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公
的見解を表示したこと」の有無につき判断するに,前記認定からすれば,一審原告
が税務当局からストックオプションの権利行使益について一時所得として申告する
よう指導されたものではないから,信頼の対象となる公的見解の表示があったとい
うことはできない。また,東京国税局直税部長が監修し,同所得税課長編の前記
「回答事例による所得税質疑応答集」の記載内容は,当時の課税庁の認識と一致し
ているものではあっても,これらは,執筆者の個人的見解を著した著作物にすぎ
ず,これをもって信頼の対象となる公的見解の表示があったということはできない
し,平成8年版以降には一時所得との見解が示されていないことは前示のとおりで
あって,一審原告の確定申告に際し,その信頼の対象とはなり得ないものである。
なお,一審原告が日本マイクロソフト社からストックオプションの権利行使益につ
いて一時所得として申告するよう指示され,これが監査法人アーサーアンダーセン
を通して税務署に問い合わせた結果によると認識していたことは前示のとおりであ
るが,監査法人アーサーアンダーセンが一時所得として申告するよう税務当局から
指示された経緯については明らかではなく,公的見解の表示があったとまで認める
ことはできない。また,本件各更正処分を受けることによって一審原告の納税額は
申告した納税額よりも増加するが,本件各権利行使益は給与所得に該当するのであ
るから,上記納税額の増加は本来の納税額に戻るだけであって,これを著しい経済
的不利益と評価することは相当ではない。他方,一審原告の信頼の保護を優先し
て,本件各権利行使益を一時所得として取り扱う場合には,法に従う場合に徴収さ
れるべき多額の所得税を徴収しないこととなる上,平成10年ごろ以降に正当な取
扱いへの統一がされた後にストックオプションの権利行使益を給与所得として申告
し,あるいは納税した者との間に,法の適用につき著しい不平等が生ずることとな
り,かえって正義に反する事態になるといわざるを得ない。」
(9) 原判決92頁16行目を「以上によれば,前記最高裁判決が示した信義則
適用のための考慮事項があるということはできないし,本件において,一審被告の
した更正処分が信義則に違反すると認めるに足りる事情はなく,一審原告の信義則
違反の主張はいずれも理由がない。」に改める。
(10) 原判決94頁10行目の「できる。」の次に「本件のような権利行使益
については,現在も一時所得説と給与所得説の見解の対立があり,東京地方裁判所
の行政事件専門部の判決中にも,一時所得説によるものと給与所得説によるものの
両方があり,最上級審の判断が示されるには至っていない。」を加える。
(11) 原判決94頁20行目の末尾に「本件においては,当初から給与所得説
に従って確定申告をした納税者との公平は,本件更正処分を適法として本税を追加
納税させることをもって確保され得るというべきであり,一審被告がした賦課決定
に係る過少申告加算税を課するほどの必要性があるとは認められない。」を加え
る。
2 よって,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 相良朋紀
裁判官 吉田健司
裁判官 野山宏

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