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平成25年9月4日判決言渡
平成23年(行ウ)第139号懲戒免職処分取消等請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1法務大臣が原告に対して平成22年10月21日付けで行なった懲戒免職処分を
取り消す。
2法務大臣が原告に対して平成22年10月21日付けで行なった一般の退職手当
等の全部を支給しないこととする処分を取り消す。
第2事案の概要
原告は,平成元年4月に検事任官し,平成21年4月1日から平成22年3月31日
までの間,大阪地方検察庁(以下「大阪地検」という。)特別捜査部(以下,大阪地検
特別捜査部を「特捜部」という。)副部長の地位にあった者であるが,同部所属検事Z
1(平成8年4月任官。以下「Z1」という。)が大阪地方裁判所に係属中である虚偽
有印公文書作成等被告事件の証拠であるフロッピーディスク(以下「FD」という。)
に記録された文書データを変造するという証拠隠滅の罪を犯した者であることを知り
ながら,特捜部長Z2(昭和59年4月任官。以下「Z2部長」という。)と共謀の上,
Z1による証拠隠滅の犯行を知った同庁検事らに他言を禁じた上,上記文書データの改
変は過誤によるものとして説明するよう指示するなどして,上記文書データが過誤によ
って改変された可能性はあるが改変の有無を確定できず,改変されていたとしても過誤
にすぎない旨事実をすり替えて自ら又は同部所属の検察官らを指揮して捜査を行わず,
また,同庁次席検事Z3(以下「Z3次席」という。)及び同庁検事正Z4(以下「Z
4検事正」という。)に対し,Z1が上記FDの文書データを書き換えたと公判担当検
事が騒いでいるが,言いがかりである旨虚偽の報告をし,Z3次席及びZ4検事正をし
て,捜査は不要と誤信させて自ら又は同庁所属の検察官らを指揮して捜査を行わないよ
うにさせ,もって証拠隠滅罪の犯人であるZ1を隠避させたとして,平成22年10月
21日付けで,国家公務員法(以下「国公法」という。)82条1号ないし3号に基づ
き懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)を受け,更に同日付けで,本件
懲戒免職処分を受けたことを理由として国家公務員退職手当法(以下「退職手当法」と
いう。)12条1項に基づき一般の退職手当等の全部を支給しないこととする処分(以
下「本件退職手当支給制限処分」といい,本件懲戒免職処分と併せて「本件各処分」と
いう。)を受けた。
本件は,原告が,被告に対し,本件各処分の取消しを求める事案である。
被告は,原告がZ1から平成22年1月30日に電話で上記FDに記録された文書デ
ータのプロパティ情報の更新日時を書き換えたことを告白されたことにより,Z1が証
拠隠滅の罪を犯した者であることを認識したにもかかわらず,Z2部長と共謀の上,前
述のような隠避を行ったと主張しているのに対し,原告は,同日にZ1から更新日時を
書き換えたことを告白されたことはなく,Z1が故意により更新日時を改変したとは認
識していなかった,したがって,原告は,Z1を隠避していないから,本件各処分は処
分理由を欠き,また,本件各処分には手続上の瑕疵があるなどとして,本件各処分はい
ずれも違法であると主張している。
(以下,月日に年を付さないときは,平成22年の月日を指す。)
1前提事実
争いのない事実,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実を認
めることができる。
(1)原告
原告は,平成元年4月に検事に任官し,平成21年4月1日から平成22年3月3
1日までの間,大阪地検検事として,自ら捜査を行うべき職務に従事するとともに,
特捜部副部長として,特捜部長の命を受けて同部所属の検察官らを指揮して捜査を行
う職務に従事していた。
(2)厚生労働省事件の捜査経過
ア捜査の着手
(ア)特捜部は,Z5という団体に係る第三種郵便割引制度を利用した郵便法違反の
事件を捜査している過程で,Z5が郵便局に提出した厚生労働省社会・援護局
障害保健福祉部企画課長名義の平成16年5月28日付け証明書(以下「本件
公的証明書」という。)を押収し,本件公的証明書について厚生労働省(以下
「厚労省」という。)に問い合わせたところ,本件公的証明書は,厚労省が正
式に発行した書面ではないことが判明した。そこで,Z5会長Z6(以下「Z
6」という。)を文書偽造の疑いで取り調べたところ,Z6から,本件公的証
明書は国会議員の口添えにより厚労省企画課長であったZ7から交付されたも
のであるとの供述を得た。
(乙C19・124,125頁)
(イ)そこで,特捜部は,平成21年5月11日頃,Z1を主任検事として,Z7
及び本件公的証明書発行当時の担当係長であったZ8ほか担当職員らによる有
印公文書偽造又は虚偽有印公文書作成・同行使事件(以下,本件公的証明書の
偽造ないし虚偽作成等に係る厚労省関係者らに関する事件をまとめて「厚労省
事件」という。)の捜査に着手するとともに,その頃,さいたま地方検察庁か
ら大阪地検刑事部に異動してきたZ9検事(平成12年4月任官。以下「Z9」
という。)を応援のため同事件の捜査に当たらせることにした。
(ウ)なお,Z2部長と原告との協議により,厚労省事件についてはZ2部長が直
接主任検事の指導・決裁に当たることとなった。
イZ8の逮捕及びFDの押収
(ア)特捜部は,平成21年5月26日,本件公的証明書に係る虚偽の稟議書を作成
したことなどを被疑事実としてZ8を逮捕するとともに,同人方からZ8が使用
していたFD(以下「本件FD」という。)を押収した。(乙C6・79頁)
(イ)Z9が,本件FDの内容検索を実施したところ,本件FD内には「通知案」及
び「コピー~通知案」と題する文書ファイル2個が存在した(以下,各文書ファ
イルをそれぞれ「通知案」,「コピー通知案」といい,通知案とコピー通知案と
を合わせて「本件データ」という。)。
(ウ)通知案は,1ページ目に本件公的証明書の文書番号・発行日付が空欄の文書,
2ページ目に平成16年5月中旬にZ8がZ5にファクシミリ送信した文書と同
内容とされる文書(以下「本件ファックス文書」という。),3ページ目に事件
とは無関係の通知文書の各データで構成されており,プロパティ情報は,作成日
時が「2004年5月18日,12:43:23」,更新日時が「2004年1
1月30日,18:41:20」であった。
(エ)コピー通知案は,1ページ目に本件公的証明書の完成後原本と同内容の文書,
2ページ目に本件ファックス文書の各データで構成されており,プロパティ情報
は,作成日時が「2004年6月1日,1:14:32」,更新日時が「200
4年6月1日,1:20:06」であった。
ウプロパティ問題
(ア)Z5関係者及び日本郵政公社(以下「郵政」という。)関係者の供述等によれ
ば,Z5は,平成21年6月4日に郵政から第三者郵便物の承認書を受領した後
に,低料第三種郵便物の認可申請をしたところ,同月8日,郵政職員であるZ1
0から公的証明書の提出が必要である旨連絡を受けため,公的証明書の発行を厚
労省に催促して本件公的証明書を受領し,同月10日にこれを提出したという事
実関係となっていた。
したがって,Z1は,Z7がZ8に指示して本件公的証明書を作成させたのは
同月8日から同月10日までの間であると想定していた。
(乙C5・2,3頁,乙C6・77~87頁,乙C10・19,20頁)
(イ)もっとも,Z9は,平成21年6月8日にZ5関係者に対して公的証明書の提
出を求めた旨のZ10の供述を失念していたため,Z7がZ8に本件公的証明書
の作成を指示したのは6月4日から同月10日までの間であると想定していた。
(乙C5・2,3頁,乙C6・78頁)
(ウ)ところが,コピー通知案のプロパティ情報の更新日時によれば,Z8は,本件
公的証明書と同一内容の文書ファイルを遅くとも平成16年(2004年)6月
1日未明までには完成させていたことになるため,コピー通知案のプロパティ情
報は関係者の供述内容と整合しなかった(以下,関係者の供述とプロパティ情報
とが整合しないという問題を「プロパティ問題」という。)。(乙C5・2,3
頁)
(エ)Z1は,Z9から本件データの内容及びプロパティ情報等の報告を受けて,プ
ロパティ問題の存在を認識し,Z9に対し,Z8から詳しく事情を聴取するよう
指示した。(乙C10・20頁)
(オ)Z9は,立会のZ11事務官に対し,プロパティ問題についてZ8を取り調べ
る際に示すための資料の作成を指示し,同事務官は,平成21年6月29日付け
で,コピー通知案のプロパティ画面を添付した捜査報告書を作成した(以下「Z1
1報告書」という。)。
(カ)その後の捜査によってもプロパティ問題は解明されなかったため,Z9は,Z
1と相談の上,「平成16年6月上旬ころ,Z7から指示を受け,早速その日の
うちに公的証明書の作成にとりかかった」旨のZ8の供述調書を作成した。
(キ)なお,Z1及びZ9は,原告あるいはZ2部長に対し,プロパティ問題を報告
していなかった。
(3)Z7らの起訴
アZ1は,Z8やZ5関係者らの供述から,Z7が全面否認する虚偽公文書作成
罪の立証は可能であると考え,平成21年7月4日,Z7及びZ8を本件公的証
明書に係る虚偽有印公文書作成・同行使の事実で大阪地方裁判所に起訴した(以
下,Z7に係る厚労省事件を「Z7事件」という。)。
イZ7らの起訴に伴い,Z11報告書を含む厚労省事件の一件記録が特捜部から
公判部に引き継がれた。なお,Z7事件の公判は,公判部のZ12検事(平成8
年4月任官。以下「Z12」という。)が主任として担当することになった。
(4)Z1によるプロパティ情報の改ざん
アZ1は,公判においてプロパティ問題の存在を指摘されることを回避するため,
平成21年7月13日午後,大阪市α×番60号所在の大阪中之島合同庁舎(以
下「合同庁舎」という。)17階の自己の執務室において,本件FD内のコピー
通知案の1ページ目(公的証明書の原本と同内容のもの)と2ページ目(本件ファ
ックス文書)とを入れ替え,○というソフトウェアを用いて,プロパティ情報の
更新日時を「2004年6月1日,1:20:06」から「2004年6月8日,
21:10:56」に変更し,本件FD内に自動作成されたバックアップファイ
ルを全て削除し,また,通知案の1頁目(公的証明書の文書番号・発行日付が空
欄のもの)と2ページ目(ファックス文書)とを入れ替え,この作業に伴いプロ
パティ情報の更新日時が「2004年11月30日,18:41:20」であっ
たのが「2009年7月13日,17:33:58」と自動的に更新されたのを
更に変更して,元の「2004年11月30日,18:41:20」に戻した(以
下「本件改ざん」という。)。
イなお,Z1は,本件改ざんを行った当時,Z11報告書が存在していることを
失念していた。(乙C9・4頁)
ウZ1は,本件FDをZ8に還付するため,平成21年7月16日,これをZ8
の親族に宛てて送付し,同月21日に受領された。
エZ1は,本件FD還付後の同月中旬頃,Z1の執務室を訪れたZ9に対し,コ
ピー通知案のプロパティ情報の更新日時を改ざんした上で,本件FDを還付した
ことを告白し,私物のパソコンを用いてプロパティの書き換え方法を実演した。
(乙C5・12~14頁,乙C9・4,5頁)
(5)Z7事件公判前整理手続の状況
アZ12は,Z7事件の公判前整理手続において,刑事訴訟法316条の15に
基づき,Z11報告書を含む類型証拠を,Z7事件の弁護人に開示した。
イZ7事件の弁護人は,平成21年11月30日付け予定主張記載書面及び証拠
調べ請求書を裁判所に提出し,Z8が本件公的証明書を作成した日時は,「平成
16年6月1日未明(午前1時20分06秒)以前である」と記載して,プロパ
ティ問題の存在を指摘するとともに,それを立証する証拠としてZ11報告書を
挙げた。
(6)Z13事件捜査への応援派遣
ア東京地方検察庁(以下「東京地検」という。)特捜部は,特捜部に対し,いわ
ゆるZ13事件の捜査のため,Z1及び特捜部所属のZ14検事(以下「Z14」
という。)の応援派遣を要請し,特捜部は,1月20日付けでZ1及びZ14を
東京地検特捜部に派遣した。Z1は,以後2月4日までの間,東京拘置所で勾留
中のZ13関係者の取調べに従事した。
イZ14は,平成21年6月頃から主任として弁護士法違反事件(以下「Z14
主任事件」という。)の内偵を行っており,1月25日に着手決裁を予定してい
たが,Z13事件の応援に出ることになったため,Z14主任事件の捜査を不本
意にも中断することとなった。
(7)プロパティ問題の顕在化及び1月29日までの経緯
アZ7事件の弁護人は,1月27日に行われた,Z7事件第1回公判期日におい
て,冒頭陳述を行い,その中で,Z11報告書の内容を念頭において,プロパテ
ィ問題を指摘した上,検察官主張は破綻している旨主張し,その内容は報道各社
でも大きく取り上げられた。Z2部長は,同日の夕刻,Z4検事正からプロパテ
ィ問題が報道されていることを聞き,初めてプロパティ問題を認識した(乙C1
9・16頁)。
イ同日,大阪高等検察庁(以下「高検」という。)からの指示により,特捜部所
属のZ15検事(平成12年4月任官。以下「Z15」という)を厚労省事件の
公判の応援に出すことになり,Z2部長は,Z15に対し,Z7事件の公判の応
援に入るよう指示した。(乙C3・2頁,乙C19・158,159頁)
ウその際,Z15は,Z2部長からプロパティ問題について詳しい話を聞きたい
のでZ9を呼ぶよう依頼されたため,Z9の執務室へ赴き,Z9にその旨を伝え
た。Z9は大阪地検特捜部長室(以下「部長室」という。)に行き,Z2部長に
対し,プロパティ問題を説明した。
(乙C3・2頁,乙C5・18頁,乙C19・19頁)
エZ9は,Z7事件の弁護人冒頭陳述の内容が大きく報道されたことから,本件
改ざんが発覚するのではないかと不安になり,Z2部長のところへプロパティ問
題の説明に行くよう伝えに来たZ15に対し,Z1がコピー通知案のプロパティ
情報を書き換えたことを打ち明けた。
(乙C3・3,35~39頁,乙C5・21頁,乙C8・138,139頁)
オまた,同日,Z9は,Z14にもZ1がコピー通知案のプロパティ情報の更新
日時を改ざんしたことを打ち明けて相談した。
(乙7・1頁,乙C3・42頁,乙C5・21頁,乙C8・140頁)
カ同月28日,Z2部長は,部長室で会議を開き,原告,Z9,Z15及び特捜
部所属のZ16検事(以下「Z16」という。)とプロパティ問題への対応を協
議し,その際,Z2部長及び原告は,Z11報告書の内容を認識した。
Z9は,Z11報告書の検察官の主張を前提にすると,本件公的証明書の作成
日は平成16年6月4日以降と想定されるのに,Z11報告書記載のデータでは,
更新日時が同月1日となっていることに矛盾があるが,これはあくまでもデータ
であって,実際の文書作成とは結びつかない旨の説明をし,Z16は,検察官の
主張を前提にすると,本件公的証明書の作成日は,正確には同月8日以降となる
はずであると指摘した。なお,Z2部長は,原告らに対し,東京での仕事に専念
させたいのでZ1には電話連絡をしないよう指示した。
(乙C3・5頁,乙C5・19頁,乙C13・42~48頁,乙C19・19~
21頁,乙D1,乙D3)
キZ15は,1月28日,Z16にもZ1がコピー通知案のプロパティ情報の更
新日時を改ざんしたことを打ち明けた。(乙C3・45頁)
クZ9,Z15及びZ14は,同月27日から同月30日午前11時頃までの間,
別紙1「Z15ら通信履歴一覧表」記載のとおり,携帯メール等のやり取りをし
て,本件改ざんにつき,どのように対処すべきかを話し合っているところ,Z9
は,Z15及びZ14と相談した上で,1月29日夜から同月30日の未明にか
けて,Z1に電話を掛け,Z1が改ざんを行ったことをZ15及びZ14に話し
たことなどを伝えるとともに,今後どうするのかを確認し,Z9は,Z15に対
し,携帯メールで別紙1「Z15ら通信履歴一覧表」番号26記載のとおり,「す
みませんZ1さんと話しましたZ1さんからの伝言ですが,とりあえず今は
Z1さんが動けないので待ってほしいとのことですZ1さんを信じて待ちまし
ょう少なくとも,Z1さんご自身も真剣に考えているのが伝わりましたので」
と報告した。(乙C5・23~25,乙C9・10頁)
ケZ14は,同月30日午前1時頃,Z1と会って一緒に飲食し,同日午前5時,
別紙1「Z15ら通信履歴一覧表」番号36記載のとおり,「予想通りでしたが
最後は俺が首くくるから公判状況をみるまで今は騒がないでくれとのことでした」
などとその内容をZ9やZ15に携帯メールで伝えた。しかし,Z9,Z15及
びZ14においては,本件改ざんへの対処方法について結論を得るには至らず,
Z1が東京出張から帰阪するまでは,態度を保留することとなった。
(8)Z12への相談
Z15は,同月30日昼頃,Z12の執務室に行き,Z12に対し,Z9からZ
1がコピー通知案のプロパティ情報の更新日時を改ざんしたという話を聞いたこ
とを告げた。Z12は,Z15に指示してZ9を呼び出し,Z12の執務室の向か
いにある証人テスト室で,Z9からZ1が改ざんを行ったことを聞き出し,一刻も
早く上司に報告するように言った。
(9)Z15の執務室でのやり取りなど
アZ15は,平成22年1月30日午後3時40分,Z14に,別紙1「Z15
ら通信履歴一覧表」番号41記載のとおり,これから原告に会って話をする旨伝
えるとともに,その頃,携帯電話で原告に電話をして大阪地検まで呼び出した。
原告は,「○」という懇親会に出席する予定であったが,同日午後4時40分頃,
呼び出しに応じて大阪地検に登庁し,同日午後5時頃,Z15の執務室に赴いた。
イZ15は,原告に対し,Z1がコピー通知案のプロパティの更新日時を改ざん
した旨報告し,その後,Z15の執務室に呼び出されたZ9が,原告に対し,Z
1からコピー通知案のプロパティ情報の更新日時を専用ソフトウェアを用いて改
ざんしたことを打ち明けられたこと,Z9がZ1から改ざんを打ち明けられた時
点で本件FDはZ8に還付されていたことなどを報告した。
ウ原告は,Z15に対し,改ざん前のプロパティ画面を印刷したものが添付され
ているZ11報告書が弁護人に開示された理由を質問したところ,Z15は,Z
1が同報告書の存在を知らなかったようであると答えた。また,Z15は,原告
に対し,Z14も1月30日未明に東京で,Z1本人から改ざんの事実を確認し
ている旨伝えた。
エ原告は,報告に対し,「本当なのか」などと驚くとともに,「フロッピーの現
物を見たのか」,「現物自体は書き換わっていない可能性もあるということか」
などと述べたところ,Z15が,「副部長はこの件をもみ消すおつもりですか」
などと怒り出し,原告との間で怒鳴り合いの口論となった。その過程で,Z15
は,「Z1さんがこんなことをするのなら,Z7さんは無実です」,「もみ消す
のなら検事を辞めます」などと述べた。
オその後,少し落ち着いたところで,原告は,「物(ブツ)を変えるなんて俺だ
って聞いたことはない」などと言った上,原告からZ2部長に報告する旨述べ,
同日午後7時頃,Z15の執務室を退去し,大阪地検特捜部副部長室(以下「副
部長室」という。)に戻った。
(乙C3・18頁,乙C5・37,38頁,乙C13・71頁)
カZ15は,同日午後7時24分,別紙1「Z15ら通信履歴一覧表」番号42
記載のとおり,携帯電話でZ14に電話をし,本件改ざんについて原告に報告し
たところ,原告と怒鳴り合いになったが,原告がZ2部長に報告することになっ
たことなどを伝えた。(乙A8・16頁,乙C3・24頁)
(10)副部長隣室でのやり取りなど
アその後,原告は,Z9が副部長室に来たので,副部長室の隣にある予備調室(以
下「副部長隣室」という。)に移動し,そこで缶ビールを飲むなどして話し合っ
ていたところ,Z15から原告とのやり取りを聞いたZ12が来室し,それ以降
に,Z9の携帯電話に電話があり(このときの電話を,以下「本件電話」という。),
原告がこれに出て会話をして涙を流すなどし,本件電話を終えた後,Z8の弁護
人であるZ17弁護士の名前を口に出すなどした。
イその後,原告,Z9,Z12及びZ15は,それぞれ退庁した。同日午後11
時54分にZ9の執務室の鍵が返納され,同月31日午前零時20分に原告が副
部長室の鍵を返納し,同日午前零時20分に休日出勤者調べにZ9の名前で退庁
の記載がなされ,同日午前零時58分にZ12が自己の執務室の鍵を返納し,同
日午前1時2分にZ15が自家用車を出庫している。
ウなお,Z9の執務室の固定電話から,①同日午後8時19分にZ9の携帯電話
に発信(通話時間36秒)され,②同日午後8時22分に東京に出張中であった
検察事務官宛に発信(通話時間41秒)され,③同日午後9時30分に金融庁の
捜査関係者の公用電話に発信(通話時間703秒)されている。
エまた,Z14は,同月30日,原告と電話で会話をしたことがある。
(11)1月30日におけるZ1の行動
Z1は,1月30日午前9時33分,東京拘置所に入所し,Z13関係者に対し,
以下のとおり,取調べを行った後,同日午後10時58分にZ13関係者が取調室
を退出し,翌31日午前零時15分に自らも東京拘置所を退所した。
ア午前10時54分から午前11時21分まで
イ午後1時53分から午後4時15分まで
ウ午後6時19分から午後8時51分まで
エ午後9時35分から午後10時57分まで
(乙A25,乙A39,乙A40)
(12)上層部への報告までの動き
ア2月1日午前中の出来事
(ア)原告が,2月1日午前9時15分頃に登庁すると,Z12が副部長室の外に
立っており,その後,同日午前9時40分過ぎ頃までに,Z2部長から公判部
の併任辞令を受け取ったZ15が来室したほか,Z9及びZ16も副部長室に
来た。
(イ)Z12及びZ9が,原告に対し,Z17弁護士に連絡を取るのかどうかを尋
ねると,原告は,連絡しないことにした旨答えた。
(乙C1・17,18頁,乙C6・1頁,乙C13・142頁)
(ウ)その後,原告は,一人で部長室に入室し,Z2部長に本件改ざんの件を報告
したが,Z2部長は,同日午前10時から催される司法修習生の修習開始式に
出席しなければならなかったため,午前9時50分頃には報告を中断した。
(エ)原告は,副部長室に戻り,同室で待機していたZ12,Z9,Z15及びZ
16に対し,Z1による改ざんの件について口外しないよう告げた上で散会さ
せた。(乙C1・24,25頁,乙C3・27頁,乙C13・145頁)
(オ)Z2部長は,修習開始式に出席した後,引き続き同日午前11時頃まで検事
正室での会議に出席した後,部長室に戻り,原告を部長室に呼び出し,二人で
話し合った後,原告に命じてZ9とZ12を部長室に呼び,同人らも交えて部
長室で話し合うなどし,同日正午から別の会議があるため,同日午前11時5
0分頃,同人らとの話合いを終えた。
(カ)上記(オ)の話合いの際,Z12は,Z2部長に対し,Z3次席及びZ4検
事正に報告するよう強く求めた。Z2部長は,「まだよく分からないじゃない
か」などと述べて,報告を上げることを渋っていたが,Z12が上に報告しな
いのであれば自分の方から報告をするなどと述べたため,Z2部長は,最終的
にはZ3次席及びZ4検事正に自ら報告することを了承した。(乙C1・19,
20,23頁,乙C6・3頁,乙C13・150,151頁,乙C19・31,
32頁,乙20・29頁,乙D1・5-1,5-2)
(キ)同日,Z2部長は,Z9に対し,本件データの書き換えに関し,「もうこれ
からは誰にも言うな。かん口令だ」と命じるとともに,原告に対し,他の者に
対してもかん口令を徹底することを指示した。(乙C6・3,4頁,乙C13・
151頁,乙C19・36,37頁,乙C20・18~20,27,28頁,
乙D1・5-1,5-2)
(ク)同日夕方,Z12は,Z18公判部長に,Z1が本件データを書き換えたと
いう話があることなどを報告した。Z18公判部長は,翌2日にZ2部長と面
談し,その際,Z2部長はZ18公判部長に対し,この件は特捜部から上に報
告するので預からせてほしい旨述べ,Z18公判部長はその旨Z12に伝えた。
(乙C1・27,28頁,乙C20・93頁,乙D2・3頁)
イ2月1日午後の出来事
(ア)Z2部長は,同日午後1時30分頃,会議を終えると直ちに部長室に戻り,
原告を呼んで,二人だけで話合い,途中からZ9も呼び出して話し合うなどし
たが,同日午後3時頃までには原告との話合いを終え,同日午後4時頃に副部
長室を訪れた後,同日午後4時30分頃退庁した。
(イ)原告は,同日午後3時頃,副部長隣室でZ15と話し合った後,Z2部長の指
示に従い,同日午後4時20分頃,Z1に電話をして会話を交わした。
(ウ)Z2部長は,翌2日午前零時11分,二男に対し,「父は部下の責任をとって
辞めることになるかも知れない」との携帯メールを送信した。
(13)上層部への報告
アZ2部長は,2月2日午前9時過ぎに登庁し,同日午前9時20分頃,部長室
に来た原告から前日のZ1との電話内容に関する報告を受けた。その後,Z2部
長は,Z9を部長室に呼んで,Z9も交えて話し合ったが,そのような話合いの
中で,原告に対し,Z1から追加聴取をするように指示した後,同日午前10時
51分,妻に対し,「Z1のけんなんとか切り抜けれそうだ」との携帯メールを
送信した。
イ原告は,同日正午頃,Z1に電話をして,会話を交わした後,同日午後1時頃,
部長室に行き,Z1から聴取した内容等をZ2部長に報告した。Z2部長及び原
告は,この時点でZ3次席に報告を上げることにし,その説明方法について協議
したが,その協議には,途中からZ9も加わった。
ウZ2部長は,同日夕方頃,改めて原告及びZ9と打ち合わせをした後,午後5
時頃,次席検事室に行き,Z3次席に本件FDに関する報告をした(以下「次席
検事への報告」という。)。
エZ2部長は,2月3日午前11時頃,原告及びZ9と共に,検事正室に行き,
Z4検事正に本件FDに関する報告をした(以下「検事正への報告」という。)。
その後,原告は,同日夜,Z1に電話をして会話を交わした。
(14)2月4日から同月10日までの出来事
アZ2部長は,2月4日午前9時50分頃,部長室で,原告及びZ9と話し合っ
たほか,原告に対し,Z1に指導しておくべきことなどを指示した。
イZ1は,同月5日午後5時頃,東京出張を終えて帰阪し,大阪地検に登庁し,
Z14らとともにZ2部長と原告にそれぞれ挨拶をした後,再度一人で副部長室
及び部長室に行き,同人らにそれぞれ謝罪したが,その際,原告から叱責を受け
た。
ウZ1は,同月8日,改めてZ2部長と原告にそれぞれ謝罪し,Z4検事正及び
Z3次席らに帰阪の挨拶をした後,再びZ2部長と原告に個別に検事正らに対す
る挨拶を終えた旨報告に行った。
エこの頃,Z2部長は,原告に対し,本件データが過誤により改変された可能性
があるにとどまる旨説明した書面をZ1に作成させるよう指示し,原告は,Z1
に対し,上記書面を作成するよう指示した。
(乙C9・51頁,乙C15・73頁,乙C9・51頁)
オZ1は,本件データについて,過誤により,その更新日時などを改変してしま
っている可能性がある旨説明した上申書(以下「本件上申書」という。)を作成
し,同月10日,これを原告に提出して了承を得た後,Z2部長に提出した。
(乙C9・52,53頁,乙C15・72~76頁,乙C19・85頁)
カZ1は,原告に本件上申書を提出するために副部長室を訪れた後,私物パソコ
ンを持って副部長室に行き,原告に対し,更新日時の改変方法を実演して見せた。
(乙C9・60頁,乙C15・78~80頁)
(15)本件各処分に至る経緯
ア9月10日,Z7事件において,Z7に対し,無罪判決が出された。
イZ1が本件データを改ざんしたのではないかとの情報に接した報道機関の取材
を契機として,最高検察庁(以下「最高検」という。)は,内部調査を実施する
とともに,Z1に対する証拠隠滅被擬事件の捜査を開始し,9月21日午後8時
45分頃,Z1を証拠隠滅の被疑事実により逮捕した。
ウなお,Z1は,逮捕されるまでに,Z9と電話又は直接会って話をしているほ
か,Z2部長,原告,Z9及びZ1の間で電話によるやり取りがあった。
エ最高検検事は,その後の捜査により,原告及びZ2部長の犯人隠避の事実が判
明したとして,10月1日,両名を逮捕した。
オZ1は,10月11日に起訴され,その後,懲役1年6月の実刑判決を受けた。
(乙C9・1頁)
(16)本件各処分等
ア本件懲戒免職処分
(ア)法務大臣は,平成22年10月21日付けで,国公法82条1項1号ないし
3号に基づき,原告を懲戒免職処分とした(本件懲戒免職処分)。(甲1)
(イ)本件懲戒免職処分の処分事由を記載した説明書(以下「本件処分説明書」と
いう)には,以下のとおりの記載がある。(甲1)
[根拠法令]
国家公務員法第82条第1項第1号,第2号及び第3号
[処分の理由]
別紙2記載のとおり(以下「本件非違行為」という。)
イ本件退職手当支給制限処分
(ア)法務大臣は,退職手当法12条1項に基づき,処分前の一般の退職手当等2
714万5500円の全部を支払わないこととする処分をした(本件退職手当
支給制限処分)。(甲2)
(イ)本件退職手当支給制限処分の処分書(以下「本件処分書」という)には,以下の
とおりの記載がある。(甲2)
[支給制限処分の理由]
平成22年10月21日付けで懲戒免職処分を受けたため。
[国家公務員退職手当法施行令第17条で定める事情に関し勘案した内容につ
いての説明]
1被処分者が占めていた職の職務及び責任
被処分者は,別紙記載の非違行為を行った当時,大阪地方検察庁検事とし
て自ら捜査を行うべき職務に従事するとともに,同庁特別捜査部副部長を命
ぜられ,幹部検察官の職を占めていたものである。検察官は,犯罪を捜査し,
起訴・不起訴の処分を決定するとともに,公訴を維持・遂行するという広範
かつ強力な権限を付託されており,その職務上,厳正な服務規律と高い職業
倫理が求められているところ,幹部検察官にあっては,部下職員に対し,服
務規律の遵守を指導する立場にあるものである。
2被処分者が行った非違の内容及び程度
別紙2記載のとおり。
3被処分者が当該非違に至った経緯,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の
程度及び公務に対する国民の信頼に及ぼす影響
被処分者は,真相を究明すべき立場にある大阪地方検察庁特別捜査部副部
長の職にあり,部下職員に対し,服務規律の遵守を指導する立場にありなが
ら,部下検察官による証拠隠滅という犯罪行為を覚知しつつ,その隠蔽を図
るという,幹部検察官としてあるまじき行為に及んだものであり,その経緯
に酌むべき事情はない。また,本件は,厳正な服務規律と高い職業倫理が求
められる検察官による極めて悪質かつ重大な事案であり,検察の職務遂行に
及ぼす支障の程度は甚大である。さらに,被処分者の行為は,検察権の適正
な行使に対する国民の信頼を損ない,検察の信用を著しく失墜させたもので
ある。
ウ最高検は,同日,原告及びZ2部長につき,犯人隠避の罪で大阪地方裁判所に
起訴した。
(17)不服申立て
ア原告は,11月15日付けで,人事院に対し,本件懲戒免職処分に対する審査
請求を行い,また,同日付けで,法務大臣に対し,本件退職手当支給制限処分に
対する異議申立てを行った。
イ法務大臣は,平成23年2月7日付けで,本件退職手当支給制限処分に対する
異議申立てを棄却するとの決定を行なった。(甲3)
2争点
(1)本件非違行為の存否
(2)本件処分説明書の処分事由の記載が十分か否か
(3)本件各処分が無罪推定原則に違反するか
(4)本件各処分が検察庁法25条に違反するか
(5)本件各処分が国公法85条を潜脱するものであるか
(6)起訴直前に行われた本件各処分が懲戒権行使に関する手続上の裁量を逸脱ないし
濫用した違法な処分か
(7)本件退職手当支給制限処分における所定事情の勘案が十分であったか否か
3当事者の主張
(1)本件非違行為の存否
(被告の主張)
ア原告及びZ2部長が本件改ざんを認識したこと
(ア)1月30日,原告がZ15の執務室から退去して副部長室に戻った後,Z9
は,Z15の執務室では原告とZ15とが怒鳴り合いとなったため,改めて原
告に事実関係を説明するために副部長室に赴いた。そして,副部長室にいた原
告に対し,改めてZ1が確実に改ざんしている旨を伝えたところ,原告におい
て,その日の東京拘置所でのZ1の取調べ終了後,Z1と直接話をして事実確
認をするということになった。
(イ)これを受けて,Z9は,Z1の携帯電話にメールを送信して折り返しの電話
連絡を求めた。Z1は,午後8時51分の取調べ中断後,主任検事への所要の
報告をした上で,東京拘置所から,Z9の携帯電話に電話をかけた。Z9は,
この電話を自己の執務室で受け,Z1に対し,Z1が改ざんを行ったことをZ
15がZ12に話したこと,Z12の意見により原告にも報告するに至ったこ
と,原告が電話がほしいと言っているので,この日に実施予定の取調べ終了後
に改めて電話をしてほしいこと,原告は信頼できるから正直に話した方がよい
ことなどを伝えた。
(ウ)Z1は,1月30日午後10時57分の取調べ終了後に,東京拘置所の取調
べ室から,携帯電話を用いてZ9の携帯電話に電話をかけた(本件電話)。Z
9は,Z1から電話を受けたとき,原告及びZ12とともに,副部長隣室にお
り,原告に電話を代わった。原告は,Z9及びZ12の面前で,Z1と直接電
話で話し,本件改ざんの真偽等を訪ねたところ,Z1は「6月1日から6月8
日に変えました」などと述べて,本件データを故意に改ざんしたことを認めた。
原告は,Z9らの報告及びZ1本人の報告により,Z1が故意に本件データを
改ざんした事実を認識し,懲戒免職や刑事処分が避けられないものと考え,「ち
くしょう,何でZ1はこんなことしちまったんや」などと言って涙を流した。
(エ)原告は,2月1日頃,部長室において,Z2部長に対し,Z1が故意に本件
データを改ざんした事実を報告し,Z2部長も本件改ざんを認識した。
イ原告及びZ2部長による隠避行為
(ア)原告及びZ2部長がZ1による証拠隠滅の犯行を知る検事らに対して他言を
禁じた状況
Z2部長は,原告から本件改ざんの報告を受け,この事実が表沙汰となった場
合,Z1が懲戒免職となり刑事責任を追及されて逮捕されることとなるのみな
らず,特捜部ひいては検察全体に悪影響が及ぶことを危惧し,これを避けるた
め,Z1による本件改ざんの事実をもみ消すことができないかと考え,まずは
その事実を知る者らに他言を禁じるかん口令を敷くこととし,原告にその旨を
伝え,原告もこれを了解した。
原告は,Z2部長への報告を終えて副部長室に戻り,同所で待機していたZ
12,Z9,Z15及びZ16に対し,「今後外で話すなよ」などと述べて,
Z1による本件改ざんの事実を知らない者にその事実を告げることを禁じた。
その後,Z2部長は,同日,Z12及びZ9を部長室に呼び,原告同席の下,
Z1から本件改ざんの事実を告げられながら自分にそれまで報告しなかったこ
とについてZ9を厳しく叱責した。Z12は,大阪地検上層部への報告が先決
と考え,Z2部長に対し,Z1によるデータ改ざんの事実について早急に検事
正及び次席検事に報告するよう求めた。しかし,原告及びZ2部長が上層部へ
の報告を渋るような言動をとったことから,Z12は,原告及びZ2部長に対
し,特捜部から報告しないのであれば公判部の方から検事正等に報告する旨を
強い口調で述べた。Z2部長は,Z12がZ7事件の公判でZ1による本件改
ざんを暴露するのではないかと懸念し,Z12に対し,Z1による本件改ざん
の事実を知らない者にその事実を告げることを禁じた。
Z2部長は,同日,Z9を部長室に呼び,原告同席の下,Z9がZ1による
本件改ざんの事実をZ15らに告げたことについてZ9を厳しく叱責するとと
もに,Z9に対し,「君は全く危機管理が分かっていない。こんなことが表沙
汰になったら間違いなくZ1はクビだ。クビだけじゃない,逮捕されるぞ。大
阪特捜もなくなるぞ」などと強い口調で述べた上,「かん口令だ」などと述べ
て,その改ざんの事実を知らない者にその事実を告げることを禁じた。
(イ)原告及びZ2部長がZ1に対して本件データの改ざんが過失によるものと説
明するよう指示した状況等
原告及びZ2部長は,2月1日頃,Z1による本件改ざんをもみ消すための
方策を協議し,その改ざんについて意図的なものではなく「ミステイク」すな
わち過失によりデータを改変したという虚偽の事実にすり替えることを考えつ
いた。原告は,同日の夕刻,Z1に電話をかけ,「過誤ということで説明をつ
けられないのか」と尋ね,これに対しZ1は,それが可能である旨答えるとと
もに,そのための説明の骨子を述べた上で,改ざんの具体的内容等を話した。
同月2日の朝,Z2部長は,部長室で,原告から,同人が昨日にZ1から電
話で直接確認した結果の報告を受け,原告と協議の上,Z1が本件データを故
意に改ざんした事実につき,故意ではなく過失によるデータ改変の可能性のあ
る事案にすぎず,犯罪を構成するものではない旨事実をすり替えて説明する方
法によりもみ消すこととした。
Z2部長は,その頃,Z9を部長室に呼び出し,原告同席の下,Z9に対し,
「これから話すことはもみ消しじゃないぞ,危機管理だからな。今回の件はZ
1君のミステイクということで行くから」などと述べてその方針を伝えた上,
Z1に連絡を取り,Z1から原告に対して電話をするように伝えることを指示
した。これを受け,Z9は,同日午前頃,Z1に携帯電話で連絡を取り,Z2
部長が今回の件はミステイクということで行くと言っていることや,原告に電
話をしてほしい旨を伝えた。
Z1は,Z9からの前記連絡を受け,同日昼頃,原告に対して電話をかけた
ところ,原告は,Z1に対し「Z1の件は過誤で行くことになったから」と述
べ,真実を,過失によるデータ改変の可能性のある事案にすり替えてもみ消す
方針を伝えるとともに,この方針に沿って説明するよう指示した。その際,原
告は,改めてすり替えのための「過失」ストーリーをZ1から確認した。Z1
は,前日の2月1日に原告に伝えた「過失」ストーリーの骨子をいくらか膨ら
ませた内容を説明した。
原告は,電話を終えた後,Z9にも,Z1から「過失」ストーリーの内容を
確認させることとし,内線電話でZ9に連絡を取り,Z9に対し,Z1に「過
失」ストーリーの内容について確認し,その結果を報告するよう指示した。Z
9は,同日昼頃,Z1に対して携帯電話で連絡を取り,すり替えのための「過
失」ストーリーを確認したところ,Z1は,「Z8が本件データを改ざんして
いないかを検証するために,そのデータのコピーを作って作業していたところ,
誤ってマスターのフロッピーのデータを書き換えた可能性があるものの,本件
FDはZ8に還付されているため,書き換わっているかどうか確かめようがな
い」旨の内容虚偽の説明方法を伝え,Z9は,電話を終えた後,副部長室及び
部長室に行き,原告及びZ2部長にそれぞれ,Z1から確認した説明内容を報
告した。
(ウ)原告及びZ2部長が大阪地検検事正及び同次席検事に対して内容虚偽の報告
を行った状況等
a次席検事への報告
原告及びZ2部長は,Z12から大阪地検上層部への報告を強く要求される
などしたため,特捜部から検事正及び次席検事へ何らかの報告をすることが不
可避であると考え,平成22年2月2日頃,Z1の考えた前記の説明方法に基
づき虚偽の報告をすることとし,まずZ3次席に対して報告することとした。
その報告に先立ち,Z9は,原告及びZ2部長に対し,Z3次席にはZ1によ
る本件改ざんを報告した方がよい旨進言したが,原告及びZ2部長は,そのよ
うにするとZ3次席が上級庁に報告してしまうとして,その進言を受け入れな
かった。
原告及びZ2部長は,同日夕刻頃,Z9を伴い,次席検事室に赴き,Z2部
長において,Z3次席に対し,「Z15が,Z1が厚労省事件の証拠物である
フロッピーを改ざんしたなどと言って騒いでいるが,原告が調査した結果,そ
れは事実ではなく,Z1はZ8がフロッピーのデータを改ざんしたかどうか検
証しただけである。その検証作業の際にデータが書き換わったかもしれないが,
仮にそうであったとしても証拠管理上のミスにすぎない程度の話であり,Z7
事件の公判にはプロパティを添付した捜査報告書が出ているので,何ら問題は
ない」旨の虚偽の報告をした。
b検事正への報告
原告及びZ2部長は,同月3日の午前中,Z9を伴い,検事正室に赴き,Z
2部長において,Z4検事正に対し,「Z8がフロッピーディスクの日付を改
ざんしたかどうかをZ1が検証しただけであったのに,Z15は,Z1が日付
を改ざんしたと言って騒いでトラブルになった。しかし,原告が調査したとこ
ろ,そのような事実はなく,Z15の言い掛かりである。フロッピーの証拠も
法廷に出ており,Z1が改ざんするはずがない」旨,虚偽の報告をした。
cZ3次席及びZ4検事正いずれも,Z2部長の報告を聞き,本件データの
改ざんにつき犯罪の嫌疑があるとは気付かず,捜査の必要を認めなかったた
め,自ら又は大阪地検所属の検察官らを指揮して捜査を行うことはなかった。
(エ)原告及びZ2部長がZ1に対して本件データの改ざんが過失である旨の虚偽
の説明方法を考えておくよう重ねて指示するなどした状況等
原告は,平成22年2月8日頃,大阪地検において,Z1に対し,本件デー
タの改ざんが過誤であると説明できるような虚偽の具体的な筋書きを考えてお
くよう重ねて指示した。
また,原告及びZ2部長は,同月10日頃,大阪地検において,上記指示に
基づきZ1から提出された「本件データ確認作業中,コピー通知案のプロパテ
ィ情報の更新日時が過誤によって改変された可能性はあるが,本件FDが還付
されていて改変の有無は確定できない」との趣旨の上申書案につき,Z1に対
し,その内容を基本的に了承するとともに,更に工夫するよう指示するなどし
た。
(オ)原告及びZ2部長がZ1による本件改ざんの犯行について捜査を行わなかっ
たこと
原告及びZ2は,前記(ア)ないし(エ)のとおり,過失によるデータ改変
の可能性があるなどとの虚偽の事実にすり替えて,Z1による本件改ざんの犯
行につき,自ら又は特捜部所属の検察官らを指揮して捜査を行わなかった。
その後,原告は平成22年4月1日付けで神戸地方検察庁特別刑事部長に,
Z2は同月5日付けで京都地方検察庁次席検事に,それぞれ異動したが,両名
は,それまでの間,同様に自ら又は特捜部所属の検察官らを指揮して捜査を行
わなかった。
ウ懲戒事由に該当すること
原告は,大阪地検検察官検事として自ら捜査を行うべき職務に従事するととも
に,特捜部副部長を命ぜられ,特捜部長の命を受けて同部所属の検察官らを指揮
して捜査を行う職務に従事していたものであるが,部下検察官であるZ1による
証拠隠滅という犯罪行為を覚知しつつ,自ら又は同部所属の検察官らを指揮して
捜査を行わず,また,同地検次席検事及び検事正をして,捜査は不要と誤信させ
て自ら又は同地検所属の検察官らを指揮して捜査を行わないようにさせたという
幹部検察官として到底許されない行為に及んだものである。真相を究明すべき捜
査機関の幹部であった原告が,不利な証拠を故意に改ざんした部下職員である検
事を隠避させた責任は極めて重大であり,原告らが行った隠避行為により,国民
の検察に対する信頼は損なわれ,検察の信用は失墜するに至った。原告が犯人隠
避の罪という刑法犯に該当する行為をし,法令に基づく検察官としての捜査権限
の行使を怠り,検察の信用を失墜させたことは,①国公法に違反し(同法98条
1項,99条),②職務上の義務に違反し,職務を怠り(検察庁法4条,5条,
6条,刑事訴訟法191条,193条1項ないし3項,195条),③国民全体
の奉仕者(国公法96条1項)たるにふさわしくない非行のあった場合に該当す
ることは明らかであり,したがって,国公法82条1項1号,2号及び3号のい
ずれにも該当する。
(原告の主張)
ア原告及びZ2部長が,Z1による本件改ざんを認識していなかったことについ

(ア)被告は,原告が,1月30日に副部長隣室において,Z9とZ12の面前で
Z1と本件電話で話をした際に,Z1が本件データを故意に改ざんしたことを
認め,原告はこれにより本件改ざんを認識したと主張するが,否認する。
原告は,同日,Z1と話はしていない。原告が,1月30日に副部長隣室に
おいて,Z9とZ12の面前で本件電話により話をした相手はZ14であって,
Z1ではない。
(イ)1月30日,原告がZ15の執務室から副部長室に戻って,しばらくすると,
Z9が来たため,副部長隣室において二人でビールを飲みながら話をしていた。
その後,Z12もやってきて飲み会に加わった。原告が,副部長隣室において,
Z9及びZ12と雑談をしている最中,Z9の携帯電話に着信があり,Z9が
電話に出た後,原告に代わった。本件電話の相手はZ14であり,Z14は,
涙声で(酒に酔っている雰囲気もあった)「副部長・・・,副部長・・・」「す
いませんでした」などと切り出した上,「Z1さんが悪いんじゃないんです。
僕が悪いんです」などと述べた。原告は,Z14がZ1の改ざんの件について
述べていることは分かったが,原告にはZ14が謝罪する意味が理解できなか
った。そこで原告は,「フロッピーのデータなんか変えられるのか」「何時の
日付に変わってるか聞いているか」などと聞いたが,Z14の答えは「変えら
れると思う」「知らない」旨の曖昧なものにとどまった。また,Z14は,「僕
が,Z1さんの応援で,いつも先を走る様なことをしたから,Z1さんに無理
をさせたんだと思います」と述べ,原告は,「Z1がZ14の録取した調書に
合わせるために改ざんをした」という意味に受け止めたが,厚労省事件の捜査
時のZ14の担当とプロパティ問題との関連を思い起こすことができず,Z1
4の言葉の意味は理解できなかった。
むしろ,原告は,Z14が不本意な応援派遣を指示され,着手決裁直前に至
ったZ14主任事件の捜査中止を余儀なくされ悔しい思いを我慢しているはず
であるのに,自分のことをさておき,Z1の身を案じるとともに,泣きながら
謝罪しその責任の一端を引き取ろうとする姿に接し,Z14に,「ちゃんと対
応するから心配するな」「余計な心配を掛けさせてすまなかったな」などとね
ぎらい,「お前は,大阪の代表で応援に行っているんだ。恥ずかしくない仕事
をしてこい」などと述べて励まし,本件電話を切った。原告は,本件電話を切
る前後,Z14が泣きながら訴えてきた様子とその心情を思い,もらい泣きを
してしまった。
Z9及びZ12は,原告の様子に,「どうしたんですか」などと聞いたが,
原告は,部外のZ9,Z12の面前で不覚にも涙を流したことを恥ずかしく感
じるとともに,内偵中のZ14主任事件の話をするわけにもいかず,「いや,
何でもない」などと答えるに留めた。
その後,原告は,還付された本件データを確認しないことには,Z1による
改ざんの有無を確認することはできないので,本件FDの提出をZ8の主任弁
護人であるZ17弁護士に依頼しようと考え,Z9とZ12に,Z17弁護士
に交渉するつもりである旨を話したところ,Z12らは,本件FDの返還を申
し出ることにより,Z17弁護士らが,プロパティ情報の数字が書き換えられ
た可能性,更には意図的な改ざんが疑われることを知り,それがZ7事件の弁
護人に伝わることとなれば,たちまちZ7事件の公判審理に影響を与えると考
え,消極意見を述べた。
結局,この飲み会における雑談の結論としては,原告からZ2部長に報告を
上げ,Z2部長から次席,検事正に報告をしてもらうこと,Z12からも公判
部長に報告をすること,Z1が帰阪したら事実確認を行うということになり,
午後11時ころに散会した。
(ウ)原告は,2月1日午前9時50分ころ,部長室に入り,1月30日に聞いた
情報をZ2部長に伝えた。Z2部長は,そのような重要な問題を1月31日に
連絡しなかったことを責するとともに,原告の報告を聞いて大層驚いていた
が,Z2部長は,午前10時から司法修習生の修習開始式があったため,いっ
たん報告は中断し,原告は,午前11時頃,再度,Z2部長に,より詳細に報
告した。
(エ)その後,Z2部長は,原告に対し,東京にいるZ1に電話をして事実を確認
するように指示をした。原告は,Z1への確認事項を整理してZ2部長の了解
を得た上で,2月1日午後4時20分,東京のZ1の携帯に電話を掛け,Z1
が本件データを改ざんしたという話の真偽を確認すると,Z1は,本件データ
をパソコンにコピーし,更新日時の数字に適当な数字を入れて検証しようとし
たときに,間違って,本件データの更新日時をいじってしまった可能性がある
が,わざと書き換えたということはないと答えた。更に原告が,Z1がプロパ
ティ情報を書き換えた上で本件FDを還付したと述べていたとZ9から報告を
受けている旨告げると,Z1は,Z9から本件FDをなぜ還付したのか尋ねら
れたため,冗談のつもりで,プロパティ情報の日付を書き換えて返しておいた
と言った旨答えた。
(オ)原告は,Z1の説明を聞いてあきれ,騒動の起こりは,Z1の冗談にあるも
のと理解した。原告としては,Z1の説明を鵜呑みにするつもりはなかったが,
Z1が改ざんをしたとすれば相容れない事情が存在していたため,現時点では
Z1の説明を虚偽と断じる理由はないと判断した。相容れない事情とは,①本
件FDのプロパティ情報を証拠化したZ11報告書が存在し,公判部に引き継
がれているのに,プロパティ情報のみを改変しても仕方がないこと,②本件F
DをZ8に還付したのでは,改ざん後のデータを検察の立証に利用することが
できず,改ざんの動機が理解できないこと,③更新日時だけを変更しても,併
せて作成日時,アクセス日時も変更しなければ,Z8らの供述と整合させるこ
とはできず,あるいは改ざんの発覚を防ぐ上で意味がないこと,④Z9は,Z
8の取調べで,Z8に本件FDのプロパティ情報の日時(平成16年6月1日
未明)を示しており,その日時を書き換えて還付することは,Z8から,改ざ
んを指摘されるおそれがあること,というものである。さらに,原告は,Z1
が変更後の日付はわからないと述べたことについて,故意を否定する理由の一
つであるとともに,他方,改変の有無は還付した本件FDのプロパティ情報の
現況を確認しないことには,最終的な判断はできないとの思いを強くした。
(カ)原告は,2月2日午前9時15分頃に登庁し,すぐに部長室に行き,Z2部
長に対し,昨日電話でZ1に確認したところ,Z1は意図的に書き換えたので
はないと答えた旨報告した。Z2部長は,「そうかミステイクということか」
と述べた。
Z2部長は,すぐにZ9を呼び,同人に対し「副部長に確認をしてもらった
ところ,Z1はミステイクと言っている」と告げて,再度,原告に説明をさせ
た。Z9は,意外だと感じた様子もなく,「Z1さんがそう言っているのなら,
そうだったんだと思います」と述べた。Z2部長は,「Z1と電話で話したと
き,冗談で言っているように聞こえたか」と尋ね,Z9は,「冗談と言われれ
ば,そうかもしれません。短い電話でしたから」と返答した。
(キ)原告は,Z2部長から,なぜ本件データのプロパティ情報が書き換わってい
ると言えるのか等を確認するよう指示されたため,同日正午頃にZ1に電話を
して確認した。原告は,まず,プロパティ情報を書き換えたソフトウェアの入
手時期や入手方法を聞いた。入手時期が改変時期と接着しておれば,故意が疑
われると考えたためである。Z1は,厚労省事件の前から持っていて,インタ
ーネットでダウンロードしたものだと答えた。また,原告は,Z9が「家人に
持ち出させていた」と述べたことの真偽を確認したところ,Z1は「そのよう
にZ9から報告を受けていました」と答えた。さらに,原告は,プロパティ情
報の日時はどうなってるかわからないのかと念を押して聞いたが,Z1は「は
い」と前日と同様の答えを繰り返した。さらに,原告は,「どうして,フロッ
ピーディスクのデータが書き換わっている可能性があると言えるんだ」とZ2
部長から確認をするように言われた点を聞いた。Z1は,「私物のパソコンを
使って読んでいたとき,Z8がプロパティに細工したかもしれないと思い,フ
ロッピーディスクからパソコンのハードディスクにコピーをし,コピーのほう
のデータをいじっていたつもりであった」ことを述べ,「ところが,還付をし
た後,パソコンに,プロパティが元のままの証明書のデータが残っているのに
気付きました。それで,フロッピーデスクのほうのプロパティをいじってしま
ったと思ったんです」と説明した。
(ク)同日午後1時頃,原告は部長室に行き,上記(キ)のZ1との電話の内容を
報告し,Z2部長とZ1の説明の真偽や合理性を検討した。原告は,上記(オ)
の①ないし④の理由から「現時点では,Z1の説明を嘘だと決めつける根拠は
ありません」と述べ,Z2部長は「確かにそうだな」と答えた。
(ケ)以上のとおり,原告及びZ2部長は,Z1が本件データを改ざんするという
証拠隠滅の罪を犯した者であることを知らなかった。したがって,原告がZ2
部長と共謀して,証拠隠滅の罪を犯した者であるZ1を隠避したとの事実はな
い。
イ原告及びZ2部長による犯人隠避について
(ア)原告及びZ2部長がZ1による証拠隠滅の犯行を知る検事らに対して他言を
禁じたとの主張について
2月1日午前9時50分ころ,原告は,部長室において,1月30日に聞い
た情報をZ2部長に伝えた後,副部長室に戻り,同室で待機していたZ9,Z
12,Z15及びZ16に対して他言無用を告げて散会させているが,原告は
Z1による本件改ざんを認識しておらず,「改ざんの噂話」をこれ以上口外し
ないよう申し向けたにすぎない。また,これがZ2部長の指示によるものであ
ったことは否認する。原告は,独自の判断で,誤った噂等が流出する可能性を
危惧し,Z1の改ざん疑惑については口外しないように指示したものである。
また,同日午前11時以降に,原告,Z2部長,Z9,Z12の4名で話をし
たとき,Z12が,「次席や検事正にも報告して下さい。公判部長にも報告し
たい」と述べたのに対し,Z2部長は,「調査をした上で,次席や検事正に報
告する」と述べ,特捜部から報告して判断を仰ぐので「軽々に行動しないよう
に」と指示するとともに,「部員全員にかん口令を敷こう」と述べ,その旨を
部員に徹底することを原告に命じたが,本件改ざんを隠ぺいしようとしたもの
ではない。
(イ)原告及びZ2部長がZ1に対して本件データの改ざんが過失によるものと説
明するよう指示したとの主張について
原告及びZ2部長が,2月1日頃,本件データの改ざんを,意図的なもので
はなく過失によるデータの改変にすり替えることを考えつき,原告が同日の夕
方にZ1に電話をかけ,「過誤ということで説明をつけられないか」と尋ねた
こと,説明可能であるとのZ1の返答を受けて,原告とZ2部長が協議の上,
故意ではなく過失によるデータ改変の可能性のある事案にすぎず,犯罪を構成
するものではない旨事実をすり替えて説明する方法によりもみ消すこととした
こと,同月2日,原告がZ1に電話をして上記方針を伝えた上で,改めてすり
替えのための説明方法を聴取したことなどは否認する。
前記ア(エ)ないし(キ)のとおり,原告は,Z2部長の指示を受けて,Z
1が本件データを改ざんしたという話の真偽を確認するために,Z1に電話を
掛けて,事情を聴取したにすぎない。
(ウ)原告及びZ2部長が大阪地検検事正及び同次席検事に対して内容虚偽の報告
を行ったとの主張について
a次席検事への報告
2月2日午後5時,Z2部長,原告及びZ9は,次席検事室へ行き,Z3
次席への報告を行った。原告は事実関係を報告した上で,前記ア(オ)①な
いし④の理由を述べて,原告の判断としてはZ1の説明を虚偽と判断するこ
とはできず,意図的に改ざんしたとは考えにくい旨を述べた。また,還付済
みの本件FDのプロパティ情報の現況を確認しなければ,現実に書き換えが
あったのか,それが意図的な改ざんによるものかは判断できないと述べ,本
件FDを回収する必要があるが,その場合,Z7事件の公判審理に与える影
響も懸念されることを述べた。さらに,Z15が騒いでいる状況についても
説明し,Z15からこの問題が外部に漏れる可能性があることを報告した。
Z2部長は,原告の判断について,「私も副部長と同意見です」,「Z1
5の言動は意外でした」などと口を挟んだ。
Z3次席への報告の結論としては,Z1が帰阪したら改めて報告をさせる
旨述べ,本件FDの回収については,「そこまでしなくていいだろう」との
指示を受けた。
b検事正への報告
2月3日午前11時頃,原告,Z2部長及びZ9は,検事正室へ行き,Z
4検事正に報告を行った。Z2部長が来訪の要旨を告げ,原告が次席検事へ
の報告と同様の報告をした。ただ,過誤の態様を説明しているときに,Z9
が口を挟み,左右の手振りで2つの画面を作りながら,「Z1さんが言うに
は,フロッピーディスクのプロパティ画面と,パソコンにコピーしたプロパ
ティ画面の二つを開いたままにしてしまい,誤ってフロッピーディスク(原
本)のほうの画面をいじってしまったとのことです」と説明した。
原告が,「プロパティがどのように改変されているかが不明な現時点では,
過誤発生報告書は作成せず,事実関係の整理をさせるにとどめることとした
いが,それでよろしいでしょうか」と打診したところ,Z4検事正は,「わ
かった。それでいいよ」と言って了承した。原告は,「Z1が応援を解除さ
れ,帰阪したなら,改めて顛末を確認し,報告書を作成させます」と述べた。
原告は,「過誤発生報告」を作成しないということは,少なくとも現時点で
は本件FDの回収を指示しない意味と解釈した。
c原告及びZ2部長は,以上のとおり報告を行っているが,Z1の説明が虚
偽であることは知らず,諸般の事実関係から虚偽とは決めつけられないとの
認識に基づいて報告を行ったものであって,Z1を隠避するために虚偽の報
告を行ったものではない。
(エ)原告及びZ2部長がZ1に対して本件データの改ざんが過失である旨の虚偽
の説明方法を考えておくよう重ねて指示するなどしたとの主張について
原告が,2月8日頃,大阪地検において,Z1に対し,本件データの改ざん
が過誤であると説明できるような虚偽の具体的な筋書きを考えておくよう重ね
て指示したとの事実は,否認する。
2月10日午後2時頃,Z1が,プロパティ問題の顛末を整理した上申書を
持参し,原告がその内容を了承したことは認めるが,かかる行為が犯人隠避で
あるとの主張は争う。
(オ)原告及びZ2部長がZ1による本件改ざんの犯行について捜査を行わなかっ
たとの主張について
原告及びZ2部長は,前記アで述べたとおり,Z1によるデータ改ざんの疑
惑について調査を行っており,その後,捜査を行っていないのは,Z1による
改ざん行為を認識していなかったため,それ以上の捜査をしようがなかったか
らである。
ウ懲戒事由に該当するとの主張について
争う。既に述べたとおり,原告が本件処分説明書に記載されている行為を行っ
た事実はない。
(2)本件処分説明書の処分事由の記載が十分か否か
(原告の主張)
国公法89条は,職員に対し,懲戒処分を行おうとするときは,処分の事由を記
載した説明書(以下「処分説明書」という)を交付しなければならないことを定め
ている。
本件処分説明書では,①別紙2記載の事実が,いかなる点で国公法もしくは国家
公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令に違反しているのか(国公法82条1
項1号),いかなる点で職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合にあたるの
か(同項2号),いかなる点で国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあっ
た場合に当たるのか(同項3号)について,各号ごとに明示されていないから,国
公法81条1項各号所定の処分要件該当性を判断することができない。また,②原
告とZ2部長との間において,いつ,どこで,どのような共謀がなされたのかの特
定明示が一切されていない,③原告自ら又は他の検察官らをして,Z1について捜
査をしなければならない作為義務が発生していたことの説明はなく,またその作為
義務発生の法令上の根拠も明示されていない。
このように,本件処分説明書における処分理由の記載は不十分であるから,本件
処分説明書は国公法89条1項にいう「処分の事由を記載した説明書」には当たら
ず,したがって,処分説明書が交付されていない。
(被告の主張)
国公法82条1項各号に基づく懲戒免職処分は,懲戒権者が被処分者に対し,一
定の義務違反を理由として公務秩序維持の観点からその責任を問うために科する制
裁としての処分であり,当該職員の具体的な行為(事実)について責任を問うもの
である。そして,国公法89条1項及び3項が,懲戒免職処分に当たり,処分説明
書を交付することとしている趣旨・目的は,処分された職員に対し,いかなる非違
行為について当該処分がされたかという処分の理由を知らしめるとともに,その処
分について不服がある場合,人事院に対し,不服申立てをすることができる旨及び
不服申立ての期間を教示することにより,職員の身分保障を図ることとし,併せて
処分者による処分が公正,慎重にされることを担保したものである。そうである以
上,国公法82条1項各号に基づく懲戒処分において必要とされる処分理由の記載
の程度としては,処分理由となった具体的事実と適用される特定の条項さえ示され
ていれば,懲戒処分を受けた職員において,いかなる具体的な行為(事実)につい
て責任を問われることになるのかを十分に認識することが可能となり,これと不服
申立先及び不服申立期間に関する教示があることと相まって,当該処分に不服があ
る場合に不服申立てをすることが十分に可能となるとともに,懲戒権者においても,
懲戒事由の有無の判断等を公正,慎重にさせることを担保できるのであるから,処
分理由となった具体的事実と適用される特定の条項を摘示することで処分理由の記
載としては足りるというべきである。それ以上に,懲戒事由に該当する具体的事実
がどのように国公法82条1項各号に当てはまるのかについての詳細な法律上の主
張を記載する必要があるとは解されない。
また,国公法89条1項及び3項は,処分された職員に処分の理由を知らしめ,
不服申立ての機会を与えることにより職員の身分保障を図るとともに,処分者によ
る処分が公正,慎重にされることを担保するために,処分説明書の交付を求めてい
ることからすれば,懲戒処分の基本事由たる事実の記載は要するが,その記載は事
実関係の同一性を識別できる程度をもって足りるというべきである。これを本件に
則してみれば,懲戒事由たる本件懲戒免職処分の基本事由たる事実は,正に原告が
犯人隠避をした行為であるところ,その犯人隠避行為の内容は,行為の時期や場所
を含めて本件処分説明書別紙に具体的に記載されており,事実関係の同一性を識別
できることは明らかである上,これらがZ2部長との共謀に基づく犯行であること
や,不作為による犯人隠避における作為義務の内容(自ら捜査を行うべき職務及び
大阪地検特捜部所属の検察官らを指揮して捜査を行う職務)についても記載されて
いるのであるから,処分理由の摘示としては十分であるというべきである。
したがって,Z2との間の共謀に関して,具体的な謀議の日時,場所及び内容ま
で本件処分説明書に記載されていないことや,不作為による犯人隠避行為に関して,
その作為義務の発生根拠まで本件処分説明書に記載されていないことは,本件処分
説明書における理由摘示の違法をもたらすものでないことは明らかである。
(3)本件各処分が無罪推定原則に違反するか
(原告の主張)
刑事裁判の大原則として,原告は「無罪の推定」を受け,有罪判決が確定するま
では何人も犯罪者として取り扱われない権利を有するのである。このことは,日本
も批准している国際人権B規約14条2項にも「刑事上の罪に問われているすべて
の者は,法律に基づいて有罪とされるまでは,無罪と推定される権利を有する」と
明記されている。原告が公訴事実,そして処分事由のいずれについても一貫して否
認しているにもかかわらず,単に最高検によって起訴されただけの,証拠すら明ら
かにされていない本件各処分時点で,法務大臣が処分要件該当事実が認められるも
のとして本件各処分を行ったのは,明らかに無罪推定原則及び国際人権B規約14
条2項に違反する。
(被告の主張)
無罪推定の原則は,刑事裁判において妥当する原則であるところ(刑事訴訟法3
17条,336条),懲戒処分は,公務の信頼の確保及び公務秩序維持という刑事
手続とは別の観点から行われる行政処分であって,懲戒処分と無罪推定の原則とは
直接関係がない。国際人権B規約14条2項も同様である。したがって,本件各処
分が無罪推定の原則及び国際人権B規約14条2項に違反する違法な処分であると
の原告の主張は失当である。
(4)本件各処分が検察庁法25条に違反するか
(原告の主張)
国公法79条2号は起訴休職制度を定めている。一般職国家公務員であれば,本
人が自白しているなど処分事由が明らかである場合には刑事判決の確定を待つまで
もなく懲戒処分が行われることがあるものの,そうでなければ無罪推定原則及び身
分保障の観点から起訴休職にとどめておくというのが国公法が予定する取扱いであ
ると考えられる。
検察庁法25条は,国公法79条の休職規定の適用を排除し,検察官が休職を命
じられることはないとしているが,それは,一般の国家公務員より厚く身分保障す
るためである。懲戒処分事由が存在することは起訴時点で明らかだったとは到底言
えないから,一般職国家公務員の事案であれば,刑事判決が確定するまでは起訴休
職とされるであろう事案であることに疑問の余地はない。そうすると,仮に一般職
国家公務員であれば起訴休職とされるべきところを,検察庁法25条は検察官の身
分保障を厚くするために起訴休職制度を排除しているのに,処分行政庁は,かえっ
て起訴休職制度がないからといって,そのままにしておくわけにはいかないとして,
いきなり最大の不利益処分である懲戒免職処分にしたとしか考えられない。
一般の国家公務員と検察官とが同等の立場で共同して犯人隠避罪を犯したとして
逮捕勾留され起訴されたが,犯罪立証の証拠としては供述証拠のみで物証の直接証
拠はなく,共犯者両名とも完全に否認していることから,懲戒権者の主観において
はともかく客観的に見れば,犯人隠避罪の成立が明らかとは言えないという場合,
一般の国家公務員については,「刑事休職の原因となる事実が明らかである場合に
は,刑事休職に付すことなく懲戒処分を行うことも可能である。」(乙1・5丁)
という場合には当たらないから,国公法79条に基づく起訴休職になるはずである。
ところが被告の論理によれば,共犯者の検察官については,懲戒免職が可能となり,
身分保障がより厚い検察官の方が,刑事裁判の結果を待たずに懲戒免職されてしま
うという結果が不合理であることは明らかである。
本件各処分が,同条の身分保障を無にし,その趣旨に反する違法な処分であるこ
とは明らかである。
(被告の主張)
検察官の身分保障を定めた検察庁法25条が,そのただし書で,「但し,懲戒処
分による場合は,この限りでない。」としていることからしても,懲戒権者により
適法に行われた懲戒免職処分が検察庁法25条又はその趣旨に違反することはあり
得ない。また,刑事事件の結果を待たずに懲戒処分をすることにつき,国公法又は
その他の法令上何ら制限はないところ,本件懲戒免職処分も,原告に対する公訴提
起の前に行われたものであるから,本件において,国公法79条2号のいわゆる起
訴休職制度(職員が刑事事件に関し起訴された場合に,その意に反して休職するこ
とができる制度)について論ずる実益は全くない。
そもそも,いわゆる起訴休職制度は,職員が刑事事件に関し起訴された場合にお
いて,公務能率維持及び公務の信用の維持の観点から,任命権者がその裁量におい
て当該職員につき休職とすることを可能とさせた制度であり,懲戒とは異なり非難
あるいは制裁の趣旨を含むものではなく,もとより休職にしなければならない義務
があるわけではないし,起訴後の懲戒処分を制約するものでもない(乙1・2丁,
5丁)。しかも,検察官の場合にはそのいわゆる起訴休職制度自体が法律上認めら
れていないから,なおさら本件において同制度について論ずる意味はない。すなわ
ち,検察庁法25条は,検察官の職務と責任の特殊性に基づいた国公法79条2号
の特例であり(検察庁法32条の2),検察官については,懲戒処分の場合を除き,
休職を含めて職務を停止されることはなく,いわゆる起訴休職制度が法律上認めら
れていないのである。したがって,一般の国家公務員につきいわゆる起訴休職制度
があることを理由に,検察官に対する起訴前の懲戒免職処分の適法性を争うこと自
体,失当というほかない。
(5)本件各処分が国公法85条を潜脱するものであるか
(原告の主張)
国公法85条は,刑事裁判中でも,人事院又は人事院の承認を経て任命権者は,
同一事件について懲戒手続を進めることができると定めている。人事院の承認を経
ることとされているのは,裁判の結果いかんが懲戒処分を決定する上で重大な影響
があると認められる場合には刑事裁判の終結まで懲戒手続の進行を停止する必要が
あるため,その判断を人事院に委ねる趣旨である,と説明されている。ところで,
本件各処分は10月21日の起訴直前に行われており,遅くともその前日である同
月20日には原告を起訴することは決定されていたはずであり,処分行政庁がその
ことを知らなかったことはあり得ない。そうすると,処分行政庁が起訴直前に本件
懲戒免職処分を行ったのは,間もなく起訴されることを認識しつつ,本件懲戒免職
処分が起訴後になると国公法85条の適用を受け人事院の承認を経ないと処分でき
なくなることを嫌って,あえてそのタイミングで処分したものと考えられる。これ
は,まさに本件のように裁判の結果いかんが懲戒処分を決定する上に重大な影響が
あると認められる場合には刑事裁判の終結まで懲戒手続の進行を停止する必要があ
るため,その判断を人事院に委ねた同条を潜脱した,実質的に見て違法な抜け駆け
処分に他ならない。
(被告の主張)
国公法その他の法令は,懲戒処分を行うべき時期について何ら制限をしておらず,
懲戒処分は懲戒権者において懲戒事由の存在及び処分内容を判断できる適時の時期
に行うことができるところ,本件懲戒免職処分も,原告に係る公訴提起が行われる
前の時点で,懲戒権者たる法務大臣において,関係各証拠により本件処分事実が認
められ,かつ,懲戒免職処分を行うことが可能かつ適切と判断されたことから,同
公訴提起前に行われたものであり,その手続に何ら違法な点はない。
国公法85条は,懲戒処分が,本来,公務の信頼の確保及び公務秩序維持の観点
から時宜に即して行われる必要があり,刑事裁判とはその目的,性質,権限等を異
にするものであることを前提とした上で,ただ懲戒に付せられるべき事件が現に刑
事裁判所に係属する間においては,当該刑事裁判の結果いかんが懲戒処分を決する
上で重大な影響をもつ場合があり得るため,その間に行われる懲戒処分については,
刑事裁判の終結まで懲戒手続の進行を停止させる必要があるか否かの判断を人事院
に委ねることとしたものであり,現に「刑事裁判所に係属する間」における懲戒処
分についてのみ適用がある規定であることはその趣旨及び文言上から明らかである。
したがって,同条による規制を公訴提起前の懲戒処分が問題となっている本件にも
及ぼそうとする原告の主張は法的根拠がなく,明らかに失当である。
(6)起訴直前に行われた本件各処分が懲戒権行使に関する手続上の裁量を逸脱ないし
濫用した違法な処分か
(原告の主張)
一般職国家公務員の場合,犯罪行為について確たる物証がなく全面否認している
ために事実認定が微妙であるという場合には,起訴休職とされて刑事判決の確定を
待って懲戒処分の有無,内容が判断されているのが,これまでの実務上の運用であ
り,前提として,懲戒権行使に関する手続としてそのような解釈が採られていたも
のと考えられる。
確かに検察官には起訴休職はないが,それは一般職国家公務員よりも手厚い身分
保障をして検察官の独立を担保するためであるから,起訴休職制度がないがゆえに,
一般職国家公務員よりも保護を弱めた性急な懲戒権行使を行うことは本末転倒であ
り,手続的にその裁量を逸脱ないし濫用したものと評価されるべきである。
被告が一般職国家公務員に対する懲戒処分手続の実務上の上記運用を十分認識し
ていたにもかかわらず,起訴直前に本件各処分を敢行した真相は,被告が弁解する
ように,その時点に懲戒権者が本件非違行為の真実性を十分確信できたというよう
なことでは全くない。そうではなく,検察官である原告には起訴休職制度がないこ
とから,そのままでは原告の検察官としての職務遂行を止める法的根拠がなく,ま
た給料の支払いを止める法的根拠もない,つまり,原告が検察官として職務を続け
給料支払を受け続けるという当時の被告にとっての不都合を防ぐ方法がないので,
刑事裁判で無罪になるリスクを承知しつつ,その不都合を回避する唯一の方法とし
て本件懲戒免職処分を敢行したものと考えられる。このような懲戒権行使は,その
手続上の裁量を逸脱ないし濫用したものと評価されなければならない。
(被告の主張)
争う。
(7)本件退職手当支給制限処分における所定事情の勘案が十分であったか否か
(原告の主張)
退職手当法12条1項は,「当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,
当該退職をした者が行った非違の内容及び程度,当該非違が公務に対する国民の信
頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して,当該一般の退職手当等の全
部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる。」と定め,さらに同
施行令17条は,「法第12条第1項に規定する政令で定める事情は,当該退職を
した者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者の勤務の状況,当該退職
をした者が行つた非違の内容及び程度,当該非違に至った経緯,当該非違後におけ
る当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該
非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響とする。」と定めている。したがって,
それら所定の勘案すべき事情は有利不利を問わず全てを勘案の対象とした上で,退
職手当の支給制限に関する処分を決すべきは当然である。
しかるに本件処分書の記載によれば,本件処分において勘案した事情は,「被処
分者が占めていた職の職務及び責任」,「被処分者が行った非違の内容及び程度」,
「被処分者が当該非違に至った経緯」,「当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程
度」,「公務に対する国民の信頼に及ぼす影響」であり,上記施行令17条所定の
勘案すべき事情のうち,「当該退職をした者の勤務の状況」及び「当該非違後にお
ける当該退職をした者の言動」については全く勘案されていない。
したがって本件退職手当支給制限処分は,退職手当法12条1項所定の勘案すべ
き事情を漏れなく勘案した公正な処分とは言うことができず,違法である。
(被告の主張)
本件退職手当支給制限処分をするに当たり,原告が挙げる「当該退職をした者の
勤務の状況」及び「当該非違後における当該退職をした者の言動」に該当する事情
として,例えば,原告が勤務中に本件非違行為に及んだこと以外にも,原告が本件
非違行為に及ぶまでの間,各配属先において,検察官の職務に精励するとともに,
本件非違行為後も,神戸地方検察庁特別刑事部長として,部下職員に対する指導監
督に努めてきたことなども十分に勘案したものである。ただし,これらの事情を踏
まえつつ,他方で,特に重視されるべき勘案事情である「当該退職をした者が占め
ていた職の職務及び責任」,「非違の内容及び程度」及び「公務に対する国民の信
頼に及ぼす影響」として,本件非違行為に及んだ際,原告が大阪地検検察官検事と
して自ら捜査を行うべき職務に従事するとともに,同庁特捜部副部長を命ぜられ,
幹部検察官の職を占めていたものであること,本件非違行為の内容が,部下検察官
による証拠隠滅という犯罪行為を覚知しながら,Z2部長と共謀の上,その隠避を
図るため,その犯行を知った同庁検事に他言を禁じ,Z1には過誤だと説明できる
よう話を考えておくよう重ねて指示するなどして,自ら又は部下検察官を指揮して
捜査を行わなかったばかりか,上司である同庁次席検事及び検事正に虚偽の報告を
して同様に捜査を行わせないようにさせたという,検察官としてあるまじき行為で
あること,その非違行為が検察の職務遂行に及ぼす支障の程度は甚大である上,検
察権の適正な行使に対する国民の信頼を損ない,検察の信用を著しく失墜させたも
のであることなどの事情に照らし,原告に対し,一般の退職手当等の全部を支給し
ないこととしたものである。
以上のように,原告に対する本件退職手当支給制限処分は,勘案すべき事情を全
て勘案した上で行われたものであり,しかも,その勘案事情の主たる内容は,本件
処分書2枚目及び3枚目に明確に記載されている。したがって,原告の上記主張は
失当である。
第3当裁判所の判断
1本件非違行為の存否
(1)はじめに
被告は,原告が1月30日にZ1との電話で同人から本件データを改ざんしたこ
とを告白され,この事実を認識したことを前提に,原告がZ2部長と共謀して,証
拠隠滅罪の犯人であるZ1を隠避したと主張しており,かかる事実に沿う証拠とし
て,Z12,Z9及びZ1の各供述がある。他方,原告は,1月30日にZ1から
改ざんの事実を告白されたことはないと主張し,この主張に沿う供述をしている。
そこで,以下,Z12,Z9及びZ1の各供述の信用性を検討した上で,原告本人
の供述の信用性を検討することとする。
(2)Z12供述
アZ12供述の概要
(ア)1月30日(土曜日),出勤して自分の執務室で公判の準備をしていると,
Z15が部屋に来て,実はZ1が本件データを書き換えたという話をZ9から
聞いたと述べた。Z9を呼び出して尋ねたところ,Z9は,平成21年夏頃に
Z1から証拠に手を加えたという話を聞き,まさかとは思っていたが,つい最
近,Z7事件の公判があった際に,Z1と電話で話をしたときにも,本件デー
タを改ざんしたと言われたため,そのことをZ15などに話した旨述べた。こ
れは大変な事態だと思い,Z15とZ9に早急に上司に報告したほうがいいと
言ったところ,Z15が原告に連絡をとって報告をすることになった。
(乙C1・2~6頁)
(イ)遅い時間に,そろそろ原告との話が終わったのではないかと思い,Z15の
執務室に行った。Z15が部屋におり,Z15から,原告にZ1が改ざんを行
ったとの話をしたが,聞く耳をもってもらえず,お前はZ1のことを信用でき
ないのかと言われたとの話を聞き,自分からも原告に話をしようと思い,副部
長室に行った。(乙C1・6,7頁,乙C2・18頁)
(ウ)同日午後9時か10時頃,副部長室に行くと,原告とZ9が副部長隣室で酒
を飲んでおり,「ちょっといいですか」と声をかけて入ろうとしたところ,原
告から,「おう,お前も飲んでいくか」と言われたので,「じゃあ頂きます」
と言って,その場に加わった。いろんな話をしながら,原告に「今回の件どう
するつもりなんですか」と尋ねたところ,原告は,はっきりしない回答であっ
た。(乙C1・8,9頁)
(エ)そのような中で,Z9の携帯電話にZ1から電話が掛かってきて,Z9が一
言二言話し,「副部長に代わります」と言って,携帯電話を原告に渡した。
(乙C1・9,10頁)
原告は,「そっちの様子はどうや,頑張っとるんか,どんな感じや」などと
言い,それから少しして,「ところで,ちょっと耳に挟んだんやけど,Z8の
フロッピーが書き換えられとるっちゅう話があるんやけどな」,「そんなこと
ができるんか」,「どうやってやるんや」,「結局どうなっとるっちゅうこと
や」などと質問し,改ざんの話をひとしきりした後で,最後に,「苦労させた
な」,「すまなかったな」,「そっちの事件も大変な事件やから,大阪の代表
で行っとるんやから頑張ってくれ」,「夜遅くに悪かったな」「今大変だろう
けど頑張れよ」などとZ1をねぎらうような言葉をかけて会話を終えた。
(乙C1・10,11,60頁)
(オ)原告は,電話中,ショックを受け,それを押し殺して平静を保とうという感
じだったが,電話が終わった後は,がっくりとうなだれて,涙を流していた。
(乙C1・11,12頁)
電話でのやり取りを見ていて,Z1が本件改ざんを認めたんだろうなとは思
ったが,念のため,「認めたんですよね」と原告に確認をしたところ,原告が,
うなずいて,認めたという趣旨のことを言った。原告が電話で書き換えた内容
についても質問していたので,「どういうふうに変わってるってことなんです
か」と聞いたところ,原告は日付が6月8日の何時何分という時間帯になって
いると答えた。供述調書の内容と概ね符合する内容だったので,話に合う形で
書き換えたんだなと思い,がっくりときて,本当に重い気持ちになった。
(乙C1・12,13頁,乙C2・15頁)
原告は,「俺の責任や,俺があいつを育てたんや,あいつが辞めるんやった
ら俺も考えんといかん」などとしきりに自分を責めるようなことも言っていた。
(乙C1・13頁)
原告が,「今回のフロッピーはZ8のところに返っとるんやろう,Z8の弁
護人の連絡先は分かるんか」と言ったので,「分かりますけど,聞いてどうす
るんですか。聞いて話ができるような相手じゃないですよ」と言ったが,原告
は「俺にも考えがあるんだ」と言い,どうするのかについては,「今は言えな
い,お前らには言えない」などと言ったため,改ざんがなかったことにしたい
のではないかと不安になり,早く上に報告した方がいいですよと言った。原告
が,「考える時間が欲しい」と言ったので,「今は週末なんで,取りあえず月
曜日まで待ちますけれど,月曜日には何とかしないといけないんじゃないです
か」と言うと,原告が,「分かった」と言って話が終わった。自分の終電がな
くなる時間だったので,午前零時近く,あるいは過ぎていたかもしれない。
(乙C1・13,14頁)
(カ)副部長隣室を出た後,Z15の執務室に立ち寄り,Z1と原告とが電話をし,
原告も分かってくれたことを伝えた。6月8日の日時になっているということ
も言った記憶があるが,これは言ったかどうか自信はない。Z15と話をした
後,もう夜も遅かったので帰宅した。(乙C1・14,15頁)
(キ)2月1日(月曜日)の朝,Z9と副部長室の前の廊下で原告が登庁するのを
待っていると,原告が登庁し,吹っ切れたような感じで,「おう,こんなとこ
で何しとんや」と比較的明るい声で声を掛けてくれた。副部長室に入り,原告
に「どうされますか。報告してくれるんですよね」と聞くと,原告は何か考え
ているような感じだったので,「早く行ってくださいよ」と言うと,原告は「じ
ゃあ今から行ってくる」と言って,一人で部長室に入っていった。
(乙C1・15,16頁)
また,副部長室で,原告に,「弁護人に連絡すると言ってましたけど,それ,
どうされたんですか」とも聞いたところ,原告は「いや,あれはやめた。さす
がにまずいと思った,問題があると思った」と言っていた。
(乙C1・17,18頁)
原告が部長室に入って少しして,ドーンという机を激しく叩く音が1回聞こ
え,それからZ2部長の非常に大きいどなり声が聞こえたので,原告がZ2部
長に報告をしてくれたんだなと思った。その後,原告に呼ばれて,自分とZ9
だけが部長室に入ったが,少しして,Z2部長が司法修習生の行事に出なけれ
ばならないので中断した。(乙C1・17,18頁)
(ク)中断後,改めてZ2部長,原告,Z9と自分の4人で,部長室で話をした。
初めに,Z2部長がZ9に対し,「お前何で黙ってたんだ」と責した。
(乙C1・18頁)
本件改ざんは,特捜部限りで終わるような話ではないので,Z2部長に対し,
「上に上げてくれるんですよね」と聞いたところ,Z2部長は「まだよく分か
らないじゃないか」,「Z1が大阪に戻ってきてから,Z1からもっとよく話
を聞こう」と言った。(乙C1・19頁)
先送りのようなことを言われたので,このままうやむやになってしまうので
はないかと不安になり,「このまま黙っていたら,みんな処分されるんじゃな
いんですか。下の者も含めて,みんな処分されることになりますよ」と言った
ところ,原告が「いや,そんなことにはならん。お前たちみたいな下の人間に
責任が行くはずがないんだ」と言い,Z2部長も同調していた。
(乙C1・20頁)
改ざんの問題が,次席や検事正にも上がらない状況で公判なんかやっていら
れないと思い,かちんときて,「大体この事件何なんですか,証人テストをや
ったら,みんな引っくり返ってますよ。本当に大丈夫なんですか」となどと言
った。(乙C1・20,21頁)
「もし特捜部でこのまま上に上げないということであれば,私の方から上に
話をすることになりますよ。そういう覚悟もしてますよ」と言ったところ,Z
2部長が分かったと返事をし,話が終わった。(乙C1・23頁)
特捜部長室での話が終わった後,自分の執務室に帰るために廊下を歩いてい
ると,Z2部長が慌てて追い掛けてきて,私を呼び止め,「Z12君,早まっ
たことするなよ。明日の公判で言うつもりじゃないよな」と言った。そのつも
りはもともと全くなかったので,Z2部長に対し,「そういうことを言ってる
んじゃないんですよ。ただ,きちんと上に報告をしてくださいっていう話です
よ」と答え,「ただ,私は公判部長には報告をしますから」と付け加えた。
(乙C1・25~27頁)
(ケ)2月1日のどの時点であったかは思い出せないが,副部長室に,原告,自分,
Z9,Z15,Z16がいたときに,原告が,「今回の件についてはこちらで
やるから,これで終わりにするから,これ以上騒ぎ立てるなよ。終わりだから
もう帰ってくれ」などと言った。他の検事は出て行ったが,このまま誤魔化さ
れて,うやむやに終わるんじゃないかなと非常に不安に思い,出て行く前に,
「私は特捜部の人間じゃないですから,公判部の人間ですから,私は私の判断
で動くことがありますよ」と言った。(乙C1・24,25頁)
(コ)同日の夕方,Z18公判部長に,Z1がFDのデータを書き換えたという話
があります,この件については私の目の前で原告がZ1に電話をして確認をし
ているので間違いない話ですと報告し,特捜部で上にあげるということになっ
ているが不安がある旨に伝えたところ,Z18公判部長は,私の方から特捜部
長に一言話をしておくと言ってくれた。その後,Z18公判部長から,特捜部
長が上には上げた又は上にきちんと上げるという話を聞いた。
(乙C1・27,28頁)
イ検討
(ア)供述の内容について
aZ12は,原告がZ1との本件電話で本件データを書き換えたのかどうか,
改ざんの方法や内容について質問をし,Z1が改ざんを行ったことを認めた
ため,電話が終わった後,がっくりとうなだれて,涙を流していた旨述べて
いるが,原告は,1月30日にZ15及びZ9から,Z1が本件データを改
ざんしたとの報告を受けていたのであるから,本件電話においてZ1に対し,
改ざんの有無,方法及び内容について確認することは必然であり,会話の内
容にも不自然なところはなく,また,Z1が改ざんを行ったことを認めたこ
とにより,自分の部下であるZ1が重大な犯罪を行ったことが確定的となっ
たのであるから,本件電話でZ1が原告に本件改ざんを行ったことを認めた
ので原告が落胆し涙を流したという話の流れも自然である。
次に,Z12は,本件電話後の原告の言動に関し,原告がZ17弁護士に
連絡を取ろうとしたと述べているが,本件電話においてZ1が原告に本件改
ざんを行ったことを認め,Z1が証拠物の改ざんという重大な犯罪を行った
ことが確定的となったため,これを何とかもみ消そうと画策して,Z8の弁
護人であるZ17弁護士に連絡を取り,既に還付した本件FDを取り戻そう
とすることはあり得るところである。また,Z12は,原告がZ2部長に報
告を上げることを躊躇していたため,Z2部長への報告が2月1日になった
ことを述べているが,問題となっているのが検察官による証拠物の改ざんと
いう前代未聞の事態であり,このことが公になると場合によっては特捜部が
廃止されることも予想されるなど検察組織に甚大な悪影響を及ぼすことは確
実であること,原告がZ15及びZ9からその報告を受けて躊躇,狼狽して
いたことは,Z15との間で怒鳴り合いのけんかをしていることからも推認
できることからすると,原告が躊躇していたためZ2部長への報告が2月1
日になったとの供述にも不自然なところはない。
さらに,Z12は,2月1日に原告がZ2部長にZ1が改ざんを行ったこ
とを認めたことを報告したが,Z2部長はまだ分からないじゃないかなどと
述べていた旨述べているが,この点についても,問題の大きさに鑑みると,
あり得る反応である。
以上のとおり,Z12の供述は合理的であって,その内容に特段不自然な
ところはない。
bこれに対し,原告は,本件電話でZ1が改ざんを行ったことを認めたので
あれば,原告は,改ざんの動機,Z11報告書との関係,なぜ本件FDを還
付したのか,今後の対処方法などについて話をした上で,Z1を叱責するは
ずであるが,そのような会話は全くなく,かえって労いの言葉を掛けていた
というのであるから,Z12が述べる原告とZ1との電話の会話は不自然で
あると主張している。
しかしながら,Z9等からZ1が本件データを改ざんしたことを聞いた原
告にとって,一番重要なことはZ1が本当に本件データを改ざんしたかどう
かであり,Z11報告書との関係や,本件FDを還付した理由などはZ1が
改ざんの事実を否定しているのであれば,本当に改ざんを行ったのかどうか
を確認するために聴取すべき重要な事実であるが,Z1本人が積極的に改ざ
んの事実を認めているのであれば,Z1が改ざんを行ったことはほぼ否定し
難いこと,Z11報告書との関係については,既にZ15からZ1はZ11
報告書の存在を知らなかったようだと聞いていたことからすると,Z11報
告書との関係や,本件FDを還付した理由を尋ねなかったとしても,不自然
ではない。
また,改ざんの動機については,1月30日にZ9から聴取した話を記載
した原告作成のメモ(乙D1・4-1,4-2)に「Z8・フロッピープ
ロパティと捜報とくい違いありーのはず6/4以降の日付か」と記載され,
同じく1月30日にZ9から聴取した話を記載した執務記録(乙D2・3頁)
には「Z9PがZ1Pから起訴後に聞いたところ「6/8」に改ざんした上,
フロッピーは還付済み~~とのこと」と記載されていることに加え,前提事
実(9)イを併せ考慮すると,原告は,Z1がコピー通知案のプロパティ情
報の更新日時を6月8日に改ざんしたという話を本件電話の前にZ9から予
め聞いていたことが認められる上,また,Z12の供述(前記ア(エ),(オ))
によっても,原告は,本件電話において,Z1に対し,改ざんについて質問
をした結果,その後,それを傍で聞いていたZ12から「どういうふうに変
わってるってことなんですか」と尋ねられると,6月8日の何時何分という
時間帯になっていると答えたというのであるから,原告もZ1に改ざん後の
更新日を確認しているのである。そうすると,厚労省事件では,関係者の供
述によれば,Z8がコピー通知案を作成したのは6月8日以降でなければな
らないはずであるが,コピー通知案のプロパティ情報の更新日時が6月1日
になっており関係者の供述と整合しないことが問題(プロパティ問題)となっ
ているところ,改ざん後の更新日時が6月8日になっているのであれば,Z
1がプロパティ問題を解消するために本件改ざんを行ったことは明らかであ
るから,敢えて動機を尋ねる必要はない。
したがって,原告が,改ざんの動機やZ11報告書が公判部に引き継がれ
ていることとの関係等の周辺事情についての聴取を本件電話の際に行わなか
ったことが不自然であるとは言い難い。
また,原告が,Z1を叱責するのではなく,労いの言葉を掛けていたとの
点についても,事実関係を聴取する際にどのような話し方で聴取をするのか
は個々人によって異なる上,そもそも,原告は,Z15の執務室にてZ9ら
からZ1の改ざんしたとの報告を初めて受けた後,副部長隣室において,原
告の供述によっても,Z9からさらに事情を聞いている際にビールを飲んで
いること(前提事実(9)イ,(10)ア,後記(5)ア。まして,Z9の
供述によれば,Z1が改ざんをしたか否かを確認すべく同人からの電話を待
っている際に,ビールを飲んでいたことになる(後記(3)ア)。)に照ら
しても,原告がその時点でZ1の改ざん問題をどれほど深刻に受け止めてい
たのかについては疑問を禁じ得ない上に,原告にはZ1を守りたいという気
持ちがあったことは執務記録(乙D2・5頁)に「Z1Pは救いたい。何とか
ならないか」と記載されていることからも認められるから,Z12供述の信
用性を否定する事情とは言い難い。
c原告は,本件電話の後,原告,Z9及びZ12との間で,改ざんの方法,
動機,改ざんの内容,今後どう対処するのか,Z1は反省しているのか開き
直っているのか,今後Z1がどうなるのかなどについて会話が交わされてお
らず,また,終電に間に合わないかもしれないとの理由で散会しているのは
不自然であると主張している。
しかしながら,本件電話においてZ1が改ざんの事実を認めた以上,改ざ
んの事実は疑いようがなく,かつ,検察官が証拠物を改ざんするという前代
未聞の事態であって副部長である原告限りで対応を決めることができる事柄
ではないから,原告らが取るべき対応は,犯行の動機やZ1がどのように反
省しているのかなどを検討することではなく,早急に上司に報告することで
あることは明らかである。加えて,本件改ざんに関する概要は既にZ9が原
告やZ12に話していたこと,本件電話が終了したのは既に遅い時間であっ
たことに加えて,上記bで指摘した原告の姿勢をも併せ考慮すると,原告が
指摘するような事項について会話をするのではなく,Z12が原告に対して
上層部に報告するよう求め,原告が月曜日まで待ってほしい旨答えたので散
会したとしても,そのことが不自然であるとはいえない。
dまた,原告は1月30日から2月3日まで,Z17弁護士から還付済みで
ある本件FDの回収交渉をするかどうか悩んでいるが,データを元に戻して
返すということは重大な罪証隠滅行為であって,あり得ない話であるから,
Z1が本件改ざんを認めたのであれば,本件FDを回収する必要性は低くな
る。したがって,原告が2月3日まで本件FDの回収交渉をするかどうかを
悩んでいた事実は,1月30日の電話でZ1が原告に本件改ざんを行ったこ
とを認めたとの事実が存在しなかったことを示すものであるなどとも主張し
ている。
しかしながら,本件改ざんは検察官が証拠物を改ざんするという前代未聞
の大問題であり,これが露見すれば検察組織全体に与える影響は重大なもの
であるから,多少のリスクを冒してでも本件FDを回収して本件改ざんを隠
ぺいしようとする考えが浮かぶこと自体はあり得ない話ではない。そして,
原告が主張するようにZ1が改ざんを行ったのかどうかを確認するためであ
れば,まずはZ1に事実確認を行うのが先決であり,また,証拠(乙D2・
3頁)によれば,Z9からZ1の私物のパソコンに改ざん前後のデータが残
っていると言われていることが認められるから,そのデータの内容を確認す
ることができる。これらの事実確認や調査を行わずに,本件FDの回収を図
ろうとしたのは,事実確認のためであるとは考え難く,むしろ,本件改ざん
を隠蔽するためであると考えるのが合理的である。
したがって,原告が本件FDの回収交渉をするかどうか悩んでいるとの事
実が,1月30日の本件電話でZ1が原告に本件改ざんを行ったことを認め
たとの事実が存在しなかったことを示すものであるとの原告の主張は失当で
ある。
eもっとも,Z12は,本件電話の際のやり取りに関し,Z9が原告に携帯
電話を渡すときに,Z1からの電話であると告げて渡したのかどうか,Z9
が電話を掛けたのか,掛かってきたのかについて記憶が曖昧であると述べて
おり,また,本件電話の後で原告に「認めたんですよね」と確認したときに
原告が述べた言葉を正確には覚えていないと述べているなど,時間の経過に
より記憶が減退している部分があることは認められる。
しかしながら,Z12は,記憶が明確な部分とそうでない部分とが明確に
なるよう区別して供述しており,自己の記憶が明確でないにもかかわらず,
断定的に述べている様子も窺われない。そして,Z12は,原告が本件電話
の相手方との間で「ところで,ちょっと耳に挟んだんやけど,Z8のフロッ
ピーが書き換えられとるちゅう話があるんやけどな」「そんなことができる
んか」「どうやってやるんや」「結局どうなっとるっちゅうことや」などと
改ざんの方法や内容について質問していたことは明確に述べており,また,
本件電話が終了した後に「認めたんですよね」と確認したときに原告が認め
る趣旨の発言をしたことは一貫して供述しているのであるから,本件電話の
際のやり取りに関しZ12の記憶に減退している部分があることは,本件電
話でZ1が原告に対し改ざんを行ったことを認めたとの供述部分の信用性を
否定するものではない。
(イ)客観証拠との整合性について
aZ12は,1月30日午後9時か10時頃に副部長隣室へ行き,原告及び
Z12とお酒を飲んでいたところにZ1から本件電話が掛ってきて,Z1が
原告に本件改ざんを行ったことを告白し,その後,自分の終電がなくなる午
前零時近く,あるいは午前零時過ぎに散会し,その後,Z15の執務室に立
ち寄ってZ15に経緯を伝えた上で帰宅した旨述べているところ,これらの
供述は,同日Z1の取調べが終了したのが午後10時57分であること,原
告が副部長室の鍵を返納し,Z9が休日出勤者調べに退庁の記載をしたのが
いずれも1月31日午前零時20分であること,及びZ12が自己の執務室
の鍵を返納したのが同日午前零時58分であることと整合している。
b原告が使用していた執務記録(乙D2・5頁)には,「2/5Z1Pへ指
示・指導すべき事項として」との表題の下「客観証拠の作為を加えたことに
ついて」「これを安易に変更して乗り切ろうとすることは思い上がりもはな
はだしい!」「D・SDとも一度は辞職を覚悟したbut『Z1Pは救いた
い。何とかならないか?』とない知恵をしぼった」「当面,証拠物の管理に
おけるミスという主張を貫く」などと記載されている。これらの記載は,原
告及びZ2部長が,Z1が客観証拠に作為を加えたことを認識した上で,Z
1をかばうために証拠物の管理ミスと主張を貫いたとの趣旨であると理解す
るのが素直な解釈であるが,Z1が本件電話で本件改ざんを行ったことを認
め,原告が改ざんの事実を認識した旨のZ12供述と整合している。
この点,原告は,「客観的証拠に作為を加えたことについて」との記載は,
客観的証拠から読み取れる客観的事実を前提にしてストーリーを考えるべき
であり,Z1がZ8の供述をもって,この客観的な事実を書き換えた,それ
は客観証拠を軽視することも甚だしいという趣旨であり,「これを安易に変
更」とは,変え難い事実を署名さえすればどうにでもなる供述調書でねじ曲
げるという趣旨であって,Z1が改ざんを行ったことを前提とする記載では
ない旨述べているが(乙C15・57~59頁),一般の用語法からおよそ
かけ離れており,到底信用することはできない。
c本件電話の後,原告がZ8の弁護人であるZ17弁護士に連絡を取ろうと
したが,Z12が「聞いてどうするんですか。聞いて話ができるような相手
じゃないですよ」などと述べて反対し,2月1日も「弁護人に連絡すると言
ってましたけど,それ,どうされたんですか」と聞いたところ,原告が連絡
を取るのは止めた旨述べたとの供述は,原告の執務記録(乙D2・3頁)に「A
Z8,Z17Bへフロッピーの提出要請を検討。butAZ7~公判スタート
前に当方から証拠物の管理に疑問を抱かせる動きはマイナスと考え差し控え
た~Z12P,Z9Pにおいても同様の意見であった。2/1AM」,との
記載があることと整合している。
dまた,Z12が原告に対し早く上に報告するよう進言したが,原告は「考
える時間が欲しい」と述べたため,Z2部長への報告が2月1日になったと
の点は,原告の執務記録(乙D2・3頁)に,原告が2月1日にZ15と面談
した際のZ15の発言として,「より上位者に報告しようと考えたが,部員
である以上SDに話したbutDへの報告が今日になるとは遅すぎる」,「SD
は逃げようとしている~部を守ろうとしている」と記載されていることを整
合している。
e原告は,1月30日にZ1から改ざんの告白を受けたことが原告の執務記
録等に記載されていないだけでなく,原告の執務記録(乙D2・3頁)には,
Z15の態度につき「Z15の態度には驚く」「Pが伝聞で物事を判断して
よいのか?」と非難する感情をあらわにしているが,仮に原告が1月30日
にZ1から告白を受けているのであれば,真実が分かっているのであるから,
このようなことが記載されるわけがないと主張している。
しかしながら,1月30日にZ1が原告に改ざんの事実を告白したか否か
にかかわらず,Z15がZ9等からの伝聞に基づいて断定的な意見を述べて
いることは事実であるから,上記執務記録の記載は,それに対する原告の不
快感を記載したものであって,1月30日にZ1が本件電話で改ざんを告白
したことと矛盾するものではない。
また,原告の執務記録及び手帳には本件電話があったことは記載されてお
らず,その内容を書き取ったメモも残されていないが,何を執務記録等に記
載し,保存するかは原告の判断次第である上,検察官が証拠物を改ざんした
ということは前代未聞の大問題であるから,執務記録やメモは,他人に見せ
ることは予定していないとしても,万が一のことを考えて,Z1が改ざんを
行った,あるいはZ1が改ざんの事実を認めたというような犯罪事実が直接
分かるような記載をすることを避けるということは十分考えられるところで
ある。そうすると,本件電話でZ1が原告に対して本件改ざんの事実を認め
たとのZ12の供述は,そのことが執務記録等に記載されていないことと矛
盾するものではない。
(ウ)他の証言との整合性について
aZ12の供述は,本件電話での会話の内容について,Z9及びZ1の供述
と大筋において一致しており,1月30日の本件電話後の状況及び2月1日
の原告,Z2部長及びZ9との話の内容等についてはZ9の供述と整合的で
ある。また,2月1日のZ2部長とのやり取りについては,Z2部長自身,
Z12の供述は,自分の認識とほとんど食い違いはなかったと述べている(乙
C19・141頁)。加えて,Z15は,1月30日の夜遅くにZ12がZ
15の執務室に来て,Z1が原告との電話で改ざんを行ったことを認めたこ
とを告げた旨述べており,Z12の供述はZ15の供述とも整合している。
bこの点,原告は,1月30日にZ1が原告との電話で改ざんの事実を認め
たとの話をZ15が聞いたのであれば,このことをZ14に言わないという
ことはあり得ないが,1月31日以降Z15,Z9及びZ14との間でZ1
が改ざんの事実を認めたことに関する携帯メールのやり取りは一切ないから,
Z15の供述は信用できない旨主張している。
しかし,Z15は1月31日午前3時19分及び同日午前3時21分に電
話で話をしているのであるから,携帯メールでZ1が原告に告白したことに
関するやり取りをしていないからといって,Z15がZ14に対しZ1が原
告に告白したことを告げていないことにはならない。したがって,上記原告
の主張は失当である。
cなお,Z15は,1月30日午後7時24分にZ14に電話で,Z1が本
件改ざんを行ったことを原告に報告したところ,原告と怒鳴り合いになった
が,原告がZ2部長に報告することになったことなどを伝えており,その後
にZ14は,Z9の携帯電話に電話を掛け,Z9と一緒にいた原告とも話を
しているが(乙C5・43,44頁,乙C7・142頁,乙A8・16,1
7頁),Z14は平成22年10月1日付け検察官調書において原告と電話で
話をしたのはZ15からの電話の直後ころだったと思うと述べている(乙A
8・16頁)。他方,Z12は,副部長隣室を訪れたのは午後9時から10時
頃であったと述べているのであるから,Z12がZ14と原告との電話につ
いて認識していないとしても何ら矛盾するものではない。
この点,原告は,Z12がZ15の執務室を訪ねて原告に対する報告状況
を聞いたのは午後8時頃から午後8時30分頃の間であると考えるのが合理
的であると主張し,かつ,Z14が原告と電話で話をしたのは午後8時19
分以降であると考えるべきであると主張しているが,そのように認定するこ
とのできる証拠はなく,また,原告が主張するとおりであるとしてもZ12
が副部長隣室において見聞した本件電話がZ14からの電話であるというこ
とになるものでもない。
(エ)虚偽供述の可能性について
aZ12は,1月30日にZ15から,Z1が本件データを改ざんしたとの
話をZ9から聞いた旨告げられたときから,一貫して上司に報告すべきであ
ると進言しており,本件改ざんを行ったZ1及びこれを知りつつ上司に報告
をしていなかったZ9が責任を問われることを慮って虚偽の事実を述べてい
る様子は窺われない。
また,Z12には敢えて原告及びZ2部長に不利益な供述をする動機や利
害関係は認められず,むしろ,Z12は,直属の部下ではないが,それぞれ
特捜部副部長及び特捜部長である原告及びZ2部長から特捜部が捜査を行っ
た事件について指導を受ける立場にあった者であるから,自己の認識に反し
てまで原告及びZ2部長に不利益な供述をするとは考えにくい関係にあり,
しかも,原告は,Z12から恨まれるような心当たりはないと述べ(乙C1
5・143頁),Z2部長も,Z12の供述は自己の認識と大きく食い違って
いないと述べている(乙C19・141頁)。そうすると,Z12が,原告
及びZ2部長を貶めるために虚偽の供述をしているとも考え難い。
b原告は,Z12は威信をかけて原告及びZ2部長を逮捕した最高検のスト
ーリーに反する供述をすることができず,あるいは,場合によってはZ12
自らも犯人隠避に問われかねない状況にあったのであるから,保身を考えて
最高検に迎合した旨主張している。
しかし,Z1が本件改ざんを行っただけでなく,原告及びZ2部長が証拠
隠滅を行ったZ1を隠避していたということになれば,特捜部が組織的に犯
罪を行っていたということになり,検察組織に与えるダメージは更に重大な
ものとなるのであるから,最高検があえて事実に反して原告及びZ2部長が
犯人隠避を行ったとのストーリーを作出し,これをZ12に押し付ける理由
はないし,実際にも,最高検がZ12に対し,最高検が作出したストーリー
に沿う供述をするよう働きかけたことを窺わせる事情はなく,原告もそのよ
うに認定すべき具体的な根拠を示していない。
よって,前記原告の主張を採用することはできない。
(オ)本件電話の相手方を混同している可能性について
原告は,日常的に無数の電話を経験するZ12が,たった1本のZ14から
の電話を他の電話(Z1からの電話)と混同していても不思議ではないと主張
しているが,1月30日の本件電話はZ1が原告に対して改ざんの事実を認め
たという内容の電話であり,日常業務で行う電話とは明らかに異質なものであ
るから,他の電話と混同するようなものではない。
また,原告は,Z12が述べる本件電話の内容はZ14との電話であっても
矛盾するものではないから,Z12はZ14からの電話をZ1からの電話と勘
違いをしているとも主張しているが,そもそもZ14は,1月30日の原告と
の電話でZ12が述べるような会話をしたとは供述していない上(乙7・2頁),
原告がZ14との間で本件改ざんの内容について話をするのであれば,まずは,
Z1からどのような話を聞いているのかを聴取するのが先決であり,Z14が
どのような話を聞いているのか確認しないままに,改ざんの方法や内容につい
て質問をするのは話の流れとして不自然である。また,仮に本件電話の相手が
Z1ではなく,Z14であれば,「認めたんですか」とのZ12の質問に対し
て原告がこれを肯定する趣旨の発言をする意味がなく,1月30日の本件電話
後の原告及びZ9との話や2月1日の部長室における話の中で,Z12が本件
電話の相手方を勘違いしていることが判明しないままに話が進むとも到底考え
られない。
したがって,Z12がZ14との電話をZ1との電話と混同しているとの原
告の主張は採用することができない。
(カ)本件電話後のZ12の言動との整合性について
aZ12は,本件電話でZ1が原告に対し改ざんの事実を認めた旨供述して
いるが,原告は,以下の①ないし④のZ12の言動は,本件電話でZ1が原
告に改ざんの事実を認めたことと整合しない旨主張している。
①2月1日にZ2部長,原告,Z9及びZ12が話合いをしたときに,Z
2部長が,まだZ1が改ざんをしたか否か真相が不明である旨述べたにもか
かわらず,Z12は,Z1が前日の原告との本件電話で本件改ざんの事実を
認めた旨主張していない,②Z12は,2月上旬頃,Z3次席から「Z1の
フロッピーのこと聞いとるか」などと聞かれたときに「改ざんの確度が高い
話だと思います」と答えただけで,Z1が改ざんの事実を認めたことを伝え
ていない,③Z1は平成22年2月16日からZ7事件の公判に立会してい
るが,Z12は,Z1が公判に立ち会うことに抗議していない,④Z12は,
同月10日に高検あてに「厚労省案件公判状況メモ」という書面を作成して
提出し,その前日にも,御前会議と称されるZ4検事正が出席している会議
で同様の報告をしているが,Z1による改ざんの事実に全く触れていないな
ど,Z1の改ざんを話題にすべきところで話題にしていない。
b①については,仮にZ12が,Z1が改ざんの事実を認めたことを原告が
Z2部長に伝えていないと認識したのであれば,なぜZ12はZ2部長に対
し,本件電話でZ1が改ざんの事実を認めたことを伝えなかったのかという
疑問が生じることは確かであるが,Z12は,Z1が本件改ざんを行ったこ
とをZ2部長に報告するために原告が部長室に入って少しして,部長室から
ドーンと机を激しく叩く音が聞こえ,それからZ2部長の非常に大きい怒鳴
り声が聞こえたため原告がZ2部長に報告してくれたと思った旨供述してお
り,かかる状況からそのように理解することは特段不自然ではない。また,
Z2部長は「まだよく分からないじゃないか」と述べる一方で,「Z1が大
阪に戻ってきてから,Z1からもっとよく話を聞こう」とも述べていた旨供
述しており,このZ2部長の発言は,原告から原告とZ1との電話の内容に
ついて報告を受けたことを前提に,帰阪後に更に詳しく事情を聴取しようと
の趣旨の発言であると解されるから,Z1が改ざんの事実を認めたことを原
告がZ2部長に伝えていないのではないかとの疑問を抱くのではなく,Z1
2が述べているとおり,先送りにするのではないかと思ったとしても不自然
ではない。したがって,Z12は,原告がZ2部長に対してZ1が本件電話
において改ざんの事実を認めたことを既に伝えていたと認識していたと述べ
ており,かつ,かかる供述に不自然なところはないのであるから,Z2部長
に対し,Z1が本件電話において改ざんの事実を認めたことを言わなかった
としても,Z1が本件電話において改ざんの事実を認めたことと何ら矛盾す
るものではない。
c②については,Z12自身はZ1が改ざんしたところを確認したり,Z1
から直接話を聞いたわけでもないから,「改ざんの確度が高い」との表現に
留めたとしても,そのことが,1月30日に本件電話でZ1が原告に本件改
ざんを認め,Z12がその場面を見聞していたことと矛盾するとまでは評価
できない。
d③については,証拠(乙D3・8頁)によれば,Z1がZ7事件の公判に
立ち会うことは,最高検及び高検からZ7事件の指示を受けてZ3次席と特
捜部が協議して決めたことが認められ,そもそもZ1がZ7事件の公判に立
ち会うのかについてZ12が意見を言う機会があったのか疑問である。
また,Z12は,不安には思いつつも,特捜部からZ3次席及びZ4検事
正に報告が上がり,対処についてはZ4検事正の判断に委ねられていると信
じていた旨述べているところ(乙C1・27~29頁),2月1日にZ2部
長はZ12に対し,Z3次席及びZ4検事正に報告を上げることを了承して
いること,Z12は,Z2部長と面談したZ18公判部長から,Z2部長が
この件は特捜部から上に報告するので預からせて欲しいと述べていたこと聞
いていたことからすると,上記Z12の供述は信用することができる。加え
て,Z12は一貫して本件改ざんの事実を上層部に報告すべきであると進言
していたことからすると,本件改ざんについての対応は上層部に委ねるべき
であると考えていたことが推認できる。そうすると,Z1の処遇は上層部に
委ねられているというのがZ12の認識であり,かつ,Z1をZ7事件の公
判に立ち会わせるというのが上層部の判断であるから,その判断にZ12が
異議を述べなかったとしても,本件電話においてZ1が原告に改ざんの事実
を告白していたことと矛盾するものではない。
e④については,そもそも高検宛ての書面及びZ4検事正が出席した会議で
の報告は,Z7事件の公判の状況を報告するものであり,Z7事件では本件
FDは証拠として提出されておらず,改ざん前のプロパティ画面を印刷した
ものが添付されたZ11報告書が証拠として提出されているのであるから,
Z1が本件改ざんを行ったか否かは公判での証拠関係に直接影響を与えるも
のではない。また,Z12は,原告及びZ2部長に対し,上層部に改ざんの
事実を報告するよう求め,これを渋るZ2部長に対し,特捜部が報告しない
のであれば公判部から上層部に報告を上げることもあり得ると述べてはいる
が,かかる言動からも特捜部から上層部に対して報告を上げるのが本筋であ
ると考えていることは明らかであり,また,前述のとおり,Z1の処遇につ
いてはZ4検事正の判断に委ねられていると思っていたのであり,加えて,
この問題については2月1日にZ2部長が口外しないよう命じているのであ
るから,Z4検事正が出席している会議の場や,高検への報告書でZ1によ
る改ざんの事実に触れなかったとしても,そのことが不自然であるとは言え
ない。
(キ)その余の原告の主張について
Z12は,原告が,本件電話の際,「大阪の代表で行っとるんやから頑張っ
てくれ」などと述べて相手を励ましていた旨述べているところ(乙C1・11
頁),Z1及びZ9は,原告がZ1に対して「大阪の代表」という趣旨の発言
をしたとは供述しておらず,「大阪の代表」という言葉は,原告とZ14との
電話の中でしか表われていないから,Z12がZ1との電話として供述してい
るものは,Z14との電話以外に考えられないと主張している。
しかしながら,Z1及びZ9は,Z1との電話で原告が「大阪の代表」とい
う言葉を用いたことを否定しているわけではなく,Z14と同様にZ1も東京
地方検察庁特別捜査部からの指名を受けて東京地方検察庁に応援に行っている
のであるから,Z1に対しても「大阪の代表」という言葉が使われたとしても
何ら不自然ではない。他に「大阪の代表」という発言がZ14との電話の中で
しか使われなかったという証拠もない。したがって,Z12が見聞した本件電
話がZ14との電話以外に考えられないとの原告の主張は失当である。
(ク)小括
その他,原告ら縷々指摘するところを考慮しても,Z12供述の信用性を否
定すべき事情は見当たらない。したがって,Z12供述の信用性は高いという
べきである。
(3)Z9供述
アZ9供述の概要
(ア)1月30日,原告がZ15の執務室から退出した後,原告に改めて事実関係
を説明しようと考え,副部長室に行き,原告にZ1は確実に改ざんしている,
もう間違いない旨を伝えると,原告は「やっぱりそうか」などと言って,非常
にがっかりしていた。(乙C5・40頁)
(イ)その後,Z1本人に事実関係を確認しなければならないということになり,
Z1に電話か携帯メールで取調べが終わったら電話をしてほしい旨を伝え,原
告と二人で副部長隣室に移動し,缶ビールを飲みながらZ1の取調べが終わる
のを待つことにした。(乙C5・41頁)
午後8時19分39秒に自分の執務室から自分の携帯電話に着信があるが,
その電話を受けたときには,副部長隣室で原告と缶ビールを飲みながら原告か
らの電話を待っていた。午後8時19分39秒の電話は,当時自分が主任をし
ていた事件の関係で東京に詰めているメンバーを解散させてもいいかと尋ねら
れて,適宜解散で構わないと答えた電話であり,午後8時22分29秒の自分
の執務室からZ19宛ての電話は,東京にいる検察事務官であるZ19に適宜
解散するよう伝えた電話と思う。(乙C8・116頁)
トイレに立ったり,自分の執務室に戻ったりしたこともあったので,終始副
部長隣室にいたわけではないが,そのような機会を除けば,副部長隣室で,原
告と一緒にZ1からの連絡を待っていた。(乙C5・42頁)
午後9時30分41秒の金融庁への携帯電話は,副部長隣室から自分の執務
室に荷物を取りに帰ったときに事件の関係で金融庁に電話をしたものであり,
電話の後,コートと鞄を持って副部長隣室に戻った。(乙C8・147頁)
(ウ)副部長隣室で原告とZ1からの連絡を待っていたとき,Z12が来て同席し
た。何してるんですかとのZ12の問いかけに対し,原告がZ1の連絡を待っ
てるんだというようなことを答えていたと思う。(乙C5・43頁)
(エ)また,Z12が来る前か後かは,はっきりしないが,副部長隣室でZ1から
の連絡を待っているときに,Z14から自分の携帯電話に電話が掛ってきた。
電話に出て,原告と一緒に話をしている旨伝え,原告に電話を替わった。原告
は,Z14との電話で,「心配するな,Z1のことは俺に任せろ」,「お前は
大阪を代表して東京に応援に行っているんだから,東京でがんばれ。大阪に恥
をかかせるようなことをするな」,「あとのことは俺に任せろ」などと言って
いた。Z14との電話では,Z14主任事件の話は一切出ていなかった。
(乙C5・43,44頁)
(オ)Z12が同席しているときに,Z1から自分の携帯電話に電話が掛かってき
た。「Z1さんからです。じゃあ,出ますね」と言って電話に出た後,Z1に
「Z20さんに替わります」と伝えて原告に携帯電話を渡した。原告は,非常
に優しい口調で,「おおZ1か,ちゃんと飯食えてるか,元気にやってるか」
などと,Z1の体を気遣うような挨拶から入って,「Z9から聞いたんだけど
な,プロパティなんて変えられるんか」,「はあ,そんなことができるんか,
俺,知らなかったぞ」などと言い,「いつに変えたんだ」ということも聞いて
いた。その後,「お前にも迷惑掛けたな」,「平成丸々年の丸々の事件がお前
との出会いやったな,あのときにお前に頑張ってもらった,お前には本当に一
番辛い役目ばかりさせてしまって,申し訳なかったな」などと,Z1との出会
いについて目に涙を浮かべるようにして話をしており,自分もその様子を見て,
思わずもらい泣きをしてしまった。原告とZ1のとの話が終わり,原告から電
話を返され,Z1に,Z1を尊敬している,検事を辞めないでほしいなどと言
ったが,胸が詰まる思いがして,Z1に上手い言葉も掛けられないまま,電話
を切った。
(乙C5・45~47頁,乙C7・136頁)
(カ)電話を終えたとき,Z12が,原告に対し,「Z1さんは認めたんですか」
と尋ねたところ,原告は,悔しそうに「ああ」というような肯定する趣旨の答
えを言った。原告は,涙を流しながら,非常に悔しそうな様子で「ちくしょう」
と怒鳴り,「何でZ1はこんなことをしちまったんだ」などと言って,感情を
爆発させていた。(乙C5・47~49頁)
(キ)その後,原告が興奮した状態で,「これからZ17に連絡を取る,Z17と
は知らない仲じゃないんだ,俺には考えがある」などと言い出したので,Z1
2が,「何をなさるおつもりですか」などと尋ねたところ,原告は,「うるさ
い」,「お前には関係ない」,「俺はZ1と一緒にもう辞めるんだ,責任を取
って辞めるんだ,最後くらいは好きにさせろ」などと言ったので,Z12と一
緒に制止した。(乙C5・49,50頁)
(ク)この頃には,終電の時間も迫っていたので,Z12は自分の執務室に戻った。
自分は既に荷物を持ってきていたので,原告と一緒に帰ることになった。原告
と二人になったときに,原告にZ17弁護士に連絡を取ってどうするのか尋ね
たところ,原告が,還付済みの本件FDを再度任意提出してもらうなどして押
収し,データを元に戻して返すという趣旨のことを言ったので,「それ,やめ
ましょう,危ないです」などと言って止めた。原告も,「分かった,分かった」
などと言って話は終わった。二人でエレベーターで地下1階に下り,自分は退
庁簿に「2420Z9」と名前及び時間を記載し,原告は執務室の鍵をキ
ーボックスに入れ,地下1階からスロープを上がって,そこで別れた。
(乙C5・50~52頁)
(ケ)2月1日,登庁して直ぐに副部長室に行くと,原告,Z12,Z16が副部
長室にいた。原告に,Z17弁護士に連絡をするのはやめた方がいいと思う旨
言うと,原告は「ああ分かってるよ」などと言い,既に連絡はしないことに決
めたような口ぶりであった。原告が部長室に入り,3人は副部長室で待ってい
たところ,部長室からZ2部長のどなり声が聞こえてきた。(乙C6・1,2
頁)
(コ)同日,午前から午後にかけて数回部長室に呼ばれている。部長室で,Z2部
長,原告,自分の3人で話をした場面,3人にZ12が同席している場面があ
ったことは覚えている。(乙C6・2頁)
部長室で,初めに,Z2部長から,「君は本当に以前から知っていたのか。
どうして僕に報告しなかったんだ」と激しく叱責をされた。そのときZ12が
同席していたかどうかは覚えていないが,Z12がその場面を知っているので
あれば,同席していたのだと思う。(乙C5・2,3頁,乙C7・157頁)
Z12は「早く改ざんのことを上に報告してください。私も公判部長に上げ
ます」と述べ,厚労省事件の公判については「証人テストをしてみると,翻る
証人が出てきて,なかなか心証が取れない」と言っていた。(乙C6・3頁)
(サ)2月1日,Z2部長,原告と3人で特捜部長室で話をしているときに,Z2
部長から「お前はいったい,この改ざんの件を誰に話したんだ」と言われ,Z
15,Z14,Z12の名前を挙げたところ,Z2部長が「何でそんなしゃべ
るんだ。特にZ15に話したことは万死に値する。君もZ15がどういう女だ
か知ってるだろう」などと言い,「もうこれからは誰にも言うな。かん口令だ」
と指示した。また,Z2部長は,このことが公になったら大変なことになるぞ,
Z1が首になるだけでなく,逮捕されるぞ,そうなったら大阪特捜がなくなっ
てしまう,僕が部長をしている間にこの大阪特捜を潰すわけにはいかないんだ
などと言っていた。また,Z2部長は,私に対し,「君は改ざんの事実を前か
ら知っていたのに私に言わなかった,それは君に責任がある。Z15に話した
のも君に責任がある。だから,これからは僕の指示に従え。それが君のミッシ
ョンだ」と言った。(乙C6・3~5頁)
(シ)2月2日,Z2部長から内線電話で呼出しを受けて部長室に行くと,Z2部
長と原告がいた。前日は,Z2部長は非常に狼狽していたが,この日は非常に
落ち着いていた。(乙C6・6,7頁)
Z2部長は,「いいかZ9君,これから話すことはもみ消しじゃないぞ,危
機管理だからな」,「今回の件はZ1君のミステイクということで行くから」
と言い,「どうだZ9君,ミステイクということで行けるか」と聞いてきた。
本件改ざんを過失あるいは不注意による改変行為にすり替えた場合,他の事実
と矛盾を来すようなことはないかという趣旨の質問だと思い,「Z1さんに聞
いてみないと分かりません」と答えた。(乙C6・7,8頁)
Z2部長は,「これからZ20君がZ1君とちょっと話をする,だから,君
は東京にいるZ1君に連絡を取って,Z20君に連絡をするように言ってくれ」
と言った後,「君は僕に改ざん行為を言わなかった責任がある,Z15にも話
した責任があるんだ,だから,僕の指示に従え」などと言ったので,返す言葉
もなく,「分かりました」と答えた。Z2部長からの指示には従うほかないと
思い,また,これでZ1が助かるのであれば助かってほしいとの気持ちもあっ
たので,故意の改ざんをミステイクによる変更にすり替えるという方針に従う
ことにした。(乙C6・9,10頁)
(ス)同日の昼休みに,Z1の携帯電話に電話を掛け,Z2部長から今回の件はミ
ステイクで行くという方針となったことを伝え,原告の執務室の固定電話に電
話を掛けるよう伝えた。(乙C6・9~11頁)
(セ)しばらくして,原告から電話があり,「Z1と話をした,これからミステイ
クというストーリーで行くに当たって,俺はフロッピーディスクとか,そうい
うコンピュータのことに詳しくないから,Z1から,どういうふうに説明すれ
ばいいのかをお前の方で聞き取ってくれ,聞き取った内容をまた報告してくれ」
などと言われた。(乙C6・11頁)
(ソ)そこで,昼休みに,再度Z1に電話を掛け,過誤として説明する場合の説明
内容を聞き取った。「Z8が本件FDを自宅内に隠していたという事実があっ
たことから,Z8がそのデータを改ざんしているかもしれないと思い,私物の
パソコンを使って,改ざんの形跡がないかを検証した。その際,本件データを
そのまま検証すると,それが書き換わってしまうようなミスが生じかねないの
で,私物のパソコンのハードディスクにコピーしたデータを検証していたが,
手違いで原データの方をいじっていたかもしれない。なぜそれが分かったかと
いうと,検証作業を終えてFDをZ8に還付した後,私物のパソコンを確認し
たところ,保存されているデータの更新日付が変わっていなかった」旨の説明
であった。(乙C6・12頁)
Z1に「それで大丈夫ですか。」と聞くと,Z1は,「取りあえずそれでZ
20さんとZ2さんに報告しといて。あとは大阪に帰った後,そこは詰めるか
ら」などと言った。(乙C6・14頁)
また,この電話を掛けたときに,Z1に改ざんの内容を確認すると,Z1は,
更新日付の他に,データの1ページ目と2ページ目を入れ替え,自動的に作成
されたバックアップデータを消去した,文書のデータの大きさが変わったなど
と答えた。(乙C6・13頁)
(タ)その後,原告に,Z1から聞いた説明を報告し,原告と一緒に部長室に行っ
て,Z2部長に報告した。Z2部長が「それで大丈夫なのか」などと言い,「取
りあえず大丈夫だと思います。詳しいことはZ1さんが戻ってから直接聞いて
下さい」と答えた。なお,データの1頁目と2頁目を入れ替えたこと,自動的
に作成されたバックアップデータを消去したことなどは,原告及びZ2部長に
報告していない。(乙C6・14頁,乙C8・13,14頁)
(チ)2月2日,特捜部長室で,Z2部長からZ3次席への報告に同行し,プロパ
ティ問題について説明するよう指示を受けた。その際,Z3次席には本当のこ
とを言った方がいいのではないかと進言したが,Z2部長が「Z9君,甘いぞ。
Z3さんはもう特捜部長じゃない,次席だ。報告すれば必ず上に上げる」と言
い,続けて原告も「部長のおっしゃるとおりだ」と言い,自分の進言は一蹴さ
れてしまった。(乙C6・18~20頁)
(ツ)2月2日の夕方,Z2部長,原告,自分の3人で次席検事室に行き,まず,
Z2部長がプロパティ問題についてZ9から説明させる旨述べ,私の方から説
明した。続けて,Z2部長が,Z8が本件データを改ざんしているのではない
かとの疑いがあったので,Z1が検証を行ったところ,Z15が,Z1がデー
タの改ざんをしたと騒ぎ立てた,そこで原告が調査を行ったが,Z1が改ざん
をしたということではなく,データが書き換わってしまったかもしれない,つ
まり証拠管理上のミスがあったかもしれないという程度の話でした,Z7事件
の公判にはプロパティ画面を添付した報告書が出ているから何ら問題はないな
どと報告した。(乙C6・20,21頁)
Z3次席が,「Z15は優秀だと思ってたんだけどな,何でそんなことを言
うんだ」などと言ったので,Z2部長は,「いや,そうなんですよ。彼女はこ
ういう共同捜査,特別部には向かないかもしれませんね」などと答えていた。
(乙C6・22頁)
(テ)2月3日の午前,Z2部長,原告,自分の3人でZ4検事正のところに報告
に行き,Z2部長が「ちょっと特捜部内の内輪もめのような話で大変お恥ずか
しいんですが,当部のZ15君が,Z1君が証拠品を改ざんしたとか,ごちゃ
ごちゃ騒いでまして,その点についてZ20君が調査に当たったところ,何ら
問題はありませんでした。要するに,Z15君の言い掛かりでした。もしかし
たら今後,Z15君が検事正のところにZ1が故意に改ざんしたといったこと
を言いに来るかもしれませんが,既に調査済みで結論が出ていることなので何
ら御心配なく」などと前日にも増して非常に内容の薄い報告をした。Z4検事
正は「あ,そうか」と,きょとんとした感じであった。過誤により本件データ
が変わったかもしれないとの説明もしなかった。
(乙C6・23~25頁,乙C7・167頁)
イ検討
(ア)供述内容について
Z9は,1月30日の電話でZ1が原告に改ざんの事実を告白したときの状
況や,同日のその後の原告とのやり取り,原告及びZ2部長が,Z1が改ざん
の事実を認めたにもかかわらず,過誤によるデータ改変の可能性があるにとど
まるとの報告をすることになった経緯等について詳細かつ具体的に供述してお
り,その内容に不自然なところはない。
(イ)客観証拠との整合性
aZ9は,Z1に取調べが終わったら電話をしてほしいと伝え,原告と副部
長隣室で待っていたところ,Z1から電話が掛ってきて,Z1が原告に本件
改ざんを行ったことを告白し,その後,終電の時間が迫っていたので散会し,
原告と一緒に退庁した旨供述しているところ,これらの供述は,同日Z1の
取調べが終了したのが午後10時57分であること,原告が副部長室の鍵を
返納し,Z9が休日出勤者調べに退庁の記載をしたのがいずれも1月31日
午前零時20分であることと整合している。
bZ9は,2月1日にZ1が本件改ざんを行ったことを原告がZ2部長に報
告し,翌2日午前中にZ2部長から「今回の件はZ1君のミステイクという
ことで行くから」と告げられた旨述べている。Z2部長は,2月2日午前零
時11分,二男に対し,「父は部下の責任をとって辞めることになるかも知
れない。」との携帯メールを送信し,同月2日午前10時51分,妻に対し,
「Z1のけんなんとか切り抜けれそうだ」との携帯メールを送信しており,
これらの携帯メールは2月1日にZ2部長がZ1が本件改ざんを行ったこと
を聞いて辞職を覚悟したため二男に「父は部下の責任をとってやめることに
なるかもしれない」との携帯メールを送ったが,翌2月2日の午前中にZ1
の過誤ということで上層部に報告して切り抜ける方策に活路を見出し,妻に
「Z1のけんなんとか切り抜けられそうだ」との携帯メールを送ったと合理
的に理解することができるから,Z9の供述は,Z2部長の携帯メールの内
容とも整合している。
この点,原告は,過誤であるとの説明が可能であるとの報告を受けたから
といってベテラン検事であるZ2部長が安堵するはずがなく,故意による改
ざんの疑いがあったため二男に対する携帯メールを送ったが,その後,過誤
であることが分かったために安堵して,妻に対する上記携帯メールを送った
としか考えられないと主張している。
しかしながら,Z2部長が,自分も辞任しなければならないと考えていた
が,Z1の犯行を隠蔽して自らの管理責任も免れる可能性が出てきたため2
月1日よりも希望が見えてきたとの趣旨で「なんとか切り抜けられそうだ」
との携帯メールを送ったということは十分あり得る話である。また,原告が
主張するように過誤であることが判明したために安堵したのであれば,切り
抜けられるかどうかではなく,実は大した問題ではなかったことを伝えてし
かるべきであると考えられるから,やはり,Z9の供述する事実経過の方が
上記各携帯メールに整合的である。
c原告の執務記録には,「2/2次席への報告に備えて~2/12/2
Z1PTELで聴取した結果を踏まえて」との記載に続き,「1.説明方
法」と記載されており,その説明方法として,証拠物の取扱上の過誤であり
意図的な改ざんではないことの理由が記載されており(乙D2・4頁),2月
2日欄の記載にも「12:00Z1pTELプロパティ問題聴取~説
明方法の合理性について確認(再度)」,「1:00部長室プロパティ問
題―説明方法Z1p聴取内容報告~検討」などと記載されている(乙D3・
7頁)。これらの記載は,2月1日の朝にZ2部長から更新日時の改変は証拠
物の管理上の過誤であると説明するとの方針が出たことを受けて,同日及び
翌2日に原告及びZ9がZ1から過誤ということで説明する場合の説明方法
を聴取した上で,Z3次席への報告内容を検討した旨のZ9の供述と整合し
ている。
dまた,前述のとおり,原告が使用していた執務記録には,「2/5Z1P
へ指示・指導すべき事項として」との表題の下「客観証拠の作為を加えた
ことについて」「これを安易に変更して乗り切ろうとすることは思い上がり
もはなはだしい!」「D・SDとも一度は辞職を覚悟したbut『Z1Pは
救いたい。何とかならないか?』とない知恵をしぼった」「当面,証拠物の
管理におけるミスという主張を貫く」などと記載されているが(乙D2・5頁),
これらの記載は,原告及びZ2部長がZ1による改ざんの事実を認識した上
で,Z1を救うために証拠物の管理上の過誤であるとの説明をするとの方針
を決め,この方針に基づいてZ3次席及びZ4検事正に過誤である旨の報告
を行ったとのZ9の供述と整合している。
(ウ)他の証言との整合性について
a1月30日に副部長隣室において原告及びZ12と一緒にいたときに,原
告がZ1と電話で話をしたこと,原告はZ1に近況を尋ねてから改ざんの方
法や改ざんの内容について質問し,その後,これまで苦労を掛けたことを謝
っていたこと,電話を終えた後,Z12が原告に対し,Z1が認めたかどう
かを確認し,原告が認めた旨答えたこと,原告がZ8の弁護人であるZ17
弁護士に連絡を取ろうとし,Z12がこれを止めたことなど,本件電話に関
する主要な部分について,Z9の供述は,信用性の高いZ12の供述と一致
している。
bZ9が述べるZ3次席やZ4検事正への報告内容は,それぞれZ3次席の
供述(乙10,乙A11)及びZ4検事正の供述(乙11,乙C4)と概ね一致
している。Z9は,原告やZ2部長とともに報告を行った者であるから,報
告を受けたZ3次席及びZ4検事正とは,利害が対立する関係にあるにもか
かわらず,Z3次席及びZ4検事正の供述と整合していることは,Z9供述
の信用性を担保しているということができる。
(エ)虚偽供述の可能性
Z9は,平成21年7月中旬頃にZ1から本件改ざんを行ったことを告白さ
れて同人が証拠隠滅を行ったことを認識したにもかかわらず(乙C12~15),
原告及びZ2部長がZ3次席及びZ4検事正に対して故意に改ざんしたもので
はない旨報告を行った際に,これに同行するなどしており,Z9自身も犯人隠
避の刑責に問われる可能性がある立場にあったのであるから,Z9供述の信用
性を検討するに当たっては,Z9が自己の責任の軽減を図るために,原告及び
Z2部長に責任を転嫁している可能性の有無を検討しなければならないことは,
原告が指摘するとおりである。
しかしながら,Z9が自己の責任の軽減を図るのであれば,原告及びZ2部
長らと同様に過誤であると認識していたと供述するのが端的であり,敢えて本
件電話でZ1が原告に対して改ざんの事実を認めたとの虚偽の事実を作出した
上でその後の犯人隠避に関与したこととする実益に乏しい。責任を免れる可能
性という観点からみても,Z9が過誤であると認識していたどうかはZ9の主
観の問題であるのに対し,本件電話でZ1が原告に対し改ざんの事実を認めた
との事実がないにもかかわらずこの事実を作出するためには,その場に同席し
ていたZ12が同様に虚偽の供述をすることが必要不可欠であるから,後者の
方が遥かに困難であり,責任を免れるために,敢えてZ12が同席していたと
きの電話でZ1が原告に告白したと供述するとは考え難い。
この点,原告は,Z12が,Z14からの電話をZ1からの電話と勘違いし
ているのをZ9が利用して,Z14からの電話をZ1が原告に改ざんの事実を
認めた電話にすり替えたと主張しているが,Z12が,Z14からの電話をZ
1からの電話であると勘違いしているとの前提自体採用し難いことは前述のと
おりである。
また,Z9は,平成21年7月にZ1から改ざんの事実を告げられたときに,
改ざん方法を実演してもらったので,絶対やっていると思ったこと(乙C5・1
5頁),証拠物の管理上の過誤という方針に従ったのは,単にZ2部長に従うよ
う指示されたからだけではなく,この方針に従うことでZ1が助かるのであれ
ば助かってほしいという気持ちがあったこと(乙C5・9,10頁),2月2日
に原告から依頼されてZ1に対し過誤で説明する場合の説明内容を確認したこ
と,その際,Z1の説明方法ではなぜZ1が本件FDの検証をしていたのか動
機の説明が十分でないと思い,説明方法を考えたこと(乙C8・91,92頁)
など,自己の責任の軽減を図るつもりであれば言及する必要のない自己に不利
益な供述をしている。また,前述のとおり,Z9の供述は,その根幹部分にお
いて他の信用性の高い証拠と整合していることからも,Z9が自己の責任の軽
減を図るために,原告及びZ2部長に責任を転嫁しているとは考え難い。
(オ)その他の原告の主張について
a原告は,Z9供述に関し,1月30日の夜,原告らはZ1からの電話を待
つために飲み会をしていたことになるが,重要な事情聴取を行うときに酒を
飲んで待つとは考えられないし,Z12も前記飲み会が上記電話を待つため
のものであった旨の証言もしていないと主張している。
しかしながら,先に述べたとおり,原告の供述によっても,原告が副部長
隣室において飲酒をしていたのは,Z1が改ざんしたとの報告を初めて受け
たZ9からさらに事情を聞いていたときであったというのであり,Z1の改
ざん問題をどれほど深刻に受けていたか疑問を禁じ得ない態度をとっている
ことからすると,Z9が供述する原告の上記行動は,原告が認めている内容
とは程度の違いにすぎず,不自然とはいえない。
しかも,1月30日は土曜日であり,原告は元々仕事をするつもりで登庁
したわけではないこと,Z1の東京での取調べがいつ終わるのかは不明であ
ったこと,副部長隣室でビールを飲んで連絡を待っていたのはZ1の改ざん
疑惑を知っている原告,Z9,Z12の3人のみであり,話の内容も,部下
が不祥事をしたときの上司の責任など極めて真面目な話をしていたというの
であり(乙C5・43頁),Z12も,副部長隣室に行ったとき,楽しく飲ん
でいるという状況ではなく,どうしようかというような重たい雰囲気であっ
たと述べており(乙C1・8頁),缶ビールを飲んでいるとは言っても,い
わゆる宴会を行っていたのでないことは明らかであることからすると,缶ビ
ールを飲みながらZ1からの連絡を待っていたとのZ9の供述が不自然であ
ると評価することはできない。
また,後から部屋を訪れたZ12に上記電話を待っていた趣旨を明確に告
げなかったからといって,直ちに不自然とはいえない。
bまた,原告は,本件電話に関する供述のうち,「平成丸々年の丸々の事件
がお前との出会いやったな」などと過去の事件を回想する部分,本件電話終
了後,原告が「ちくしょう」「何でZ1はこんなことをしちまったんだ。」
などと感情を爆発させていたという部分,原告がZ17弁護士に連絡を取る
と言い,Z12が何をするつもりなのかを尋ねると原告が「うるさい」,「お
前には関係ない」,「俺はZ1と一緒にもう辞めるんだ,責任を取って辞め
るんだ,最後くらいは好きにさせろ」などと述べた部分については,Z12
供述には出てこない事実であるからZ9の作り話であると主張している。
しかしながら,Z9が述べる過去の事件の回想部分は,「平成丸々年の丸々
の事件がお前との出会いやったな,あのときにお前に頑張ってもらった,お
前には本当に一番辛い役目ばかりさせてしまって,申し訳なかったな」など
といったものであるが,Z12も原告がZ1と改ざんの話をした後に,「苦
労させたな」「すまなかったな」などと述べていたと供述しているのである
から,供述の具体性に違いはあるものの供述の内容に食い違いがあるわけで
はなく,また,本件電話終了後に原告がZ17弁護士に連絡を取ろうとして,
Z12がこれに反対したことはZ12も供述しているところである。そうす
ると,Z12及びZ9の供述は大筋においてむしろ一致しているのであり,
Z9の方が話が詳細になってはいるが記憶の減退の程度による違いと考えら
れるから,Z9の作り話であるとの原告の主張は失当である。
(カ)以上,検討したところによれば,Z9供述の信用性は高いというべきである。
(4)Z1供述
アZ1供述の概要
(ア)1月30日,東京拘置所で午後6時19分から取調べを行っていたが,Z9
から電話がほしいとの携帯メールが来たので午後8時51分に取調べを中断し,
主任検事に報告を行うなどしてからZ9の携帯電話に電話を掛けた。その後,
午後9時35分から取調べを再開している。(乙C9・13,16頁)
Z9から,Z15がZ12に本件改ざんの事実を伝えたところ,Z12が大
変な事態であり,直ちに上層部に報告すべきであると言ったので,Z15が原
告を電話で呼び出して,Z15とZ9の二人から,原告に本件改ざんの事実を
伝え,Z15が上に上げるべきだと主張したのに対し,原告がそれを押さえよ
うとして,かなり言い合いになったと聞いた。その上で,Z9から,「Z20
さんが,今日,調べが終わってからでいいので,何時まででも待ってるから,
電話をほしいとおっしゃってます」「Z20さんは,信頼できる方だと思いま
す,Z1さんのやったことをそのまま言った方がいいと思います」と言われた。
大阪に帰ってから直接上司に私の口から告白すべきと思っていたが,上司の知
るところになった以上は,きちんと自分のやったことを告白すべきと思った。
刑事罰を受けることは仕方がないとしても,できることならば,いきなりすぐ
に逮捕,自宅の捜索,官舎の立ち退きといったことではなく,若干の時間的猶
予をもらいたい,そして検察に対する影響も極力小さい形で進めてほしいとは
思っていたが,首を差し出した上で,処遇等は上司に決めていただくしかない
という気持ちであった。(乙C9・13,14,16,17頁)
この電話のときであったかは記憶が明確ではないが,その頃,Z9から,改
ざんしたデータの日時を尋ねられ,USBメモリーに入っていたデータを確認
して,Z9に6月1日の何時何分何秒から6月8日の何時何分何秒に変えてい
ると伝えた。(乙C9・14頁)
(イ)同日午後10時57分に全ての取調べを終え,その後,大阪の状況がどうな
っているのか聞きたかったので,Z9の携帯電話に電話を掛けると,Z9は,
目の前に原告がいますと言って,すぐに原告に電話を替わった。
(乙C9・18頁)
原告は,「Z1元気か」,「頑張ってるか」,「ご苦労さん」などと私をね
ぎらう言葉を優しい柔らかい口調で言い,その口調のままで,「Z9から聞い
たけど,Z8のところに還付したフロッピーのデータを変えたというのは本当
か」と聞かれた。私が「本当です」と言うと,原告が「どういうふうに変えた
んだ」と言ったので,「6月1日を6月8日に変えました」と言った。原告が
「そんなの変えられるのか」と確認してきたので「変えられます」と答えると,
原告は「そんなの変えられるの俺知らなかったけどなあ」と言った。
(乙C9・19頁)
一通り告白をした後に,私から「検事を辞めなければならなくなりました。
応援を解除して戻してください」と言うと,原告は,この辺りから涙声になっ
て,「お前,ばかな考えを起こすなよ,お前は今,東京で重要な仕事をしてる,
今はそれに専念してくれ,責任は俺が取る」などと言い,また,「Z1には,
奈良医大のときに世話になった,何とかZ1を守りたい,でも,これはえらい
問題や,上にも相談してみないとあかん」などと言った。
(乙C9・20,21頁)
原告がZ9に電話を替わると,Z9が泣きながら「Z1さん,絶対辞めない
でください,Z1さんが辞めるんだったら僕も辞めます」などと言い,もう一
度原告に電話を替わり,原告が「とにかくばかな考えを起こすなよ,まあ,Z
1なら大丈夫だと思うけどなあ」と泣き笑う感じで言った。(乙C9・22頁)
(ウ)2月1日の夕方頃,東京拘置所の取調室にいるときに原告と電話で話をした。
原告が,「Z1の件を部長に上げた。部長も大変驚いておられる。Z1の件を
次席,検事正に上げることになった。Z1,この件は過誤ということで説明を
付けられないのか」と言ったので,「それは,説明つけられますけど」と答え,
Z11報告書があるのにデータを改ざんするはずがなく,改ざんしたデータの
入っている本件FDを持ち主であるZ8に返すはずがない,データのコピーを
見て,いろいろ検証していたときに,間違えて本件FDに入っている元のデー
タを変えた可能性がある,という説明の付け方を原告に話した。原告に上記説
明を伝えたところ,原告は,「分かった,それで行こう,それが真実だ,真実
は一つだ」と言った。(乙C9・24~26頁)
その後,原告から本件改ざんの内容等について質問を受けた。原告から,Z
11報告書を知らなかったのかと聞かれ「何となくは」と答え,同報告書が公
判部に引き継がれている点についてはどうかと聞かれ「私がやったことじゃな
いんで暖昧です。よく分かりません」と答え,本件データのうち通知案とコピ
ー通知案のどちらをどうしたのかと聞かれ「コピー通知案の方は最終更新日時
を変えているが,通知案のところは変わってないですよ」と答え,コピー通知
案のデータの作成日時はどうしたと聞かれ,自分が当時使っていたソフトウェ
アでは作成日時を変える機能がないので「これは変えられません」と答え,ア
クセス日時をどうしたのかと聞かれ「分かりません」と答え,最終更新日時は
どうなっているのかを改めて確認され,「6月8日にしている」と答え,なぜ
かと聞かれ「6月上旬という他の証拠関係に合うので,8日を選んだ」と答え,
どういうふうに変えたのかと聞かれ「私物のパソコンに入っている,○みたい
なソフトを使った」,「そのデータにマウスを置いて,右クリックしたら,そ
のソフトで,日付と属性の変更というのが出ますんで,そこをクリックしたら
数字を入力する画面が出る,そこで,「1」を「8」に入力したりすると変え
られます」などと答えた。
(乙C9・26,27頁,乙C11・11~13頁)
原告に聞かれたことだけを答えたため,通知案のページを入れ替えて上書き
したときに最終更新日時が変わったので,それを元に戻したこと,バックアッ
プファイルを削除したことは原告に説明していない。
(乙C11・13~15頁)
(エ)2月2日午前中,Z9から電話があり,Z2部長がこの件はミステイクで行
くと言っており,また,原告が,手の空いているときでいいので電話が欲しい
と言っていると言われた。(乙C9・29頁)
昼休みに,東京拘置所から原告に電話をしたところ,原告から「Z1の件は
過誤で行くことになったから,これは決定事項だ」,「どういう説明がつけら
れるのか,もう一回聞かせてほしい」と言われた。そこで,原告に,2月1日
に電話で話した説明方法をもう少し膨らませて,ある程度詳しく話した。
(乙C9・30,31頁)
(オ)原告との電話の後,まだ昼休みの時間に,Z9から電話があり,どのように
変えたのか,どういう説明が付けられるのか,Z9からもよく聞くようにとの
指示が原告からあったので,一通り教えてほしいと言われた。そこで,2月1
日と2月2日に原告に電話で話した説明方法を伝え,併せて,Z8に本件FD
が還付されているため,書き換わっているのかどうか確かめようがないから,
過誤の事案ではなく,過誤の可能性のある事案という説明ができるのではない
かと話した。(乙C9・31,32頁)
また,通知案の1ページ目と2ページ目を入れ替えて,一旦,上書き保存し
たため,最終更新日時が本件改ざんを行った平成21年7月中旬になったので,
もう一度,それを平成16年の6月8日に変えたことなどを説明した。
(乙C9・32頁)
(カ)2月2日の夜,Z9から電話があり,Z3次席には,本件データが書き換わ
ったという話があるが,これは勘違いで問題ありません,公判でも問題になっ
ていません,Z15が一人で騒いでいるだけですなどといった説明をして,問
題ないんだなということで報告が終わったということを聞いた。
(乙C9・40頁)
(キ)2月3日の夜,Z9から電話があり,Z4検事正に対しては,Z3次席に対
するよりも説明内容がごく簡単なものになっていて,Z3次席も問題ないとお
っしゃっていますと伝えたところ,Z4検事正は「あ,そう,問題ないのだね」
ということで終わった,とのことであった。(乙C9・40頁)
(ク)2月3日の夜,原告からも電話でZ3次席とZ4検事正に対する報告が問題
なく終わったと聞いた。Z4検事正には,書面は作りませんのでと言って終わ
ったということであった。(乙C9・39頁)
(ケ)2月5日夕方頃,大阪地検に戻り,同じく東京に出張していたZ14らと一
緒に原告及びZ2部長に帰庁の挨拶をし,その後,一人で副部長室に行って,
原告に謝罪した。その際,原告から「捜査段階で消極証拠があったのに,それ
を俺たちに上げなかったのはお前のミスだ」,「ブツに手を加えるなんて,も
ってのほかだ」などと,捜査段階でプロパティ問題を上司に報告しなかったこ
とと本件改ざんを行ったことについて責を受けた。また,「俺も部長も,今
回だけは辞職を覚悟した。今,首の皮1枚つながってるだけだ」,「とにかく
身を慎め,東京の成果を自慢げに回りの人間に言うな」,「お前はもう雑巾掛
けからやらせる」などといった話があり,本件改ざんの件については,周りの
人間から聞かれても,今調査中だからと言っておけばいい,と言われた。
(乙C9・47,48頁)
このとき,原告から,Z3次席とZ4検事正に対して直接説明をするよう指
示されたことはない。(乙C9・49頁)
(コ)原告と話をした後,部長室へ行き,Z2部長に謝罪をした。ものすごく怒鳴
り上げられると思っていたが,優しい口調で,「僕が言いたいことはZ20君
に全部言っといたから,Z20君から聞いたか」と言われ,私が「聞きました」
と言うと,もういいからと言われたので,改めてすみませんでしたと謝罪し,
部屋を後にした。(乙C9・49頁)
(サ)2月8日の月曜日,朝一番に原告とZ2部長のところに行って謝罪をすると,
両名とも,もういいから上に帰庁の挨拶に行ってこいという口ぶりであった。
Z3次席,Z4検事正,高検の次席及び検事長のところに挨拶に行ったが,本
件改ざんのことについては全く聞かれなかった。念のために,原告とZ2部長
に,特に何も言われなかったことを報告に行ったが,その際,原告から,何か
聞かれたときに,過誤だという説明がつくような書面を作っておくよう指示さ
れた。(乙C9・50,51頁)
(シ)2日ほど掛けて,過誤によりデータが変わった可能性がある旨の嘘の筋書き
を記載した上申書を作成し,2月10日,まず原告に,次にZ2部長に見せた。
(乙C9・52頁)
副部長室に入り,原告に上申書のドラフトを見せたところ,原告はこれを読
み,読み終わったところで私の方を見ながら,「分かった,これが真実だ,真
実は一つだ」と言った。(乙C9・52,53頁)
次に,部長室に行き,Z2部長に上申書のドラフトを見せたところ,検証を
行った動機を記載した部分について,「これだと何で君がこんなことをやった
のか,後で記者連中にものすごい突っ込まれるぞ」,「この辺りを少し練り直
してこい」などと言われた。(乙C9・53,54頁)
Z2部長から上申書を練り直すよう言われたことを原告に報告し,その後,
私物のパソコンを副部長室に持って行き,○を使って最終更新日時をどのよう
にして変えるか実演した。(乙C9・60頁)
イ検討
(ア)供述内容について
Z1は,1月30日に本件電話を掛けることとなった経緯,本件電話におけ
る原告とのやり取り,本件改ざんを原告に告白してから,原告,Z2部長及び
Z9らとともにデータの改変があり得るにすぎないという過誤ストーリーを作
り上げていった経緯,帰阪してから原告から叱責を受けたときの内容,上申書
を作成することになった経緯等をそのときの心情も交えて具体的に説明してお
り,話の流れとしても,1月30日にZ1が原告に本件改ざんを告白したにも
かかわらず,過誤によるデータの改変の可能性があるにすぎないとの報告が行
われたことの説明として,特段不合理なところはない。
(イ)客観証拠等との整合性
Z1供述は,以下のとおり,前記前提事実や他の信用性の高い証拠と整合し
ている。
aZ1が述べる同人の1月30日の行動は,同日のZ1の取調べ状況,原告
及びZ9の退庁の時間と整合し,また,本件電話で原告に本件改ざんを行っ
たことを告白したこと及びその際の会話の内容は,信用性の高いZ12供述
及びZ9供述と概ね一致している。
原告は,Z1の供述によれば,本件電話の際,原告がZ1に対し,「馬鹿
な考えを起こすなよ」,「何とかZ1を守りたい」,「上にも相談してみな
いとあかん」などと述べているのに対し(乙C9・20,21頁),Z12
は原告がこのような発言をしたとの記憶はないと述べているのであるから
(乙C1・65頁),本件電話でZ1が原告に本件改ざんを告白したとのZ
1の供述は虚偽である旨主張しているが,Z12は原告が上記のような発言
をしたことを否定しているわけではないから,Z1の供述はZ12の供述と
矛盾するものではない。そして,Z1とZ12の供述は大筋においては一致
していること,Z12は本件電話のやり取りを傍らで聞いていたのであって
電話の相手方の話を聞くことはできないのであるから,記憶に残る部分が断
片的なものとなってもやむを得ないこと,Z12が原告及びZ2部長を被告
人とする刑事事件において証言をした時点で,本件電話から約1年8か月が
経過していることからすると,Z1が供述している原告の発言の一部をZ1
2が記憶していないということが,特段不自然であるということはできない
から,上記のような供述の違いがあることをもって,Z1供述の信用性を否
定すべき事情とは言い難い。
また,原告は,Z1の供述がZ9の供述と一致しているのは,Z1がZ9
の供述調書等を読んで自己の供述を変遷させているからであると主張し,そ
の根拠として,Z1の9月29日付け検察官調書では,本件電話の内容に関
し,原告がZ1を労う会話及びどういうふうに変えたのか,そんなの変えら
れるんかなどと尋ねる会話部分が記載されていないが,Z1の10月6日付
けの検察官調書や公判廷では,上記のような会話があった旨供述しているの
は,Z1がZ9の供述に話を合わせていることの証左であるなどと主張して
いる。しかしながら,捜査段階でZ1が供述していたすべてのことが検察官
調書に記載されるわけではなく,また,段階的に詳しい事実関係を聴取して
これに合わせて調書も詳しい内容のものを作成するのが通常であるから,Z
1の9月29日付け検察官調書に上記の内容が記載されていないことから,
Z1がZ9の供述に話を合わせているということは困難である。その他,原
告は,Z1がZ9の供述に合わせて自らの供述を変遷させていると見るべき
具体的な根拠を何ら示すことができていないのであるから,上記原告の主張
は採用することはできない。
bZ1は,2月1日夕方頃の電話で,原告から過誤ということで説明が着け
られないのかと尋ねられたため,Z11報告書があるのにデータを改ざんす
るはずがなく,改ざんしたデータの入っている本件FDをZ8に返すはずが
ない,データのコピーを見て,いろいろ検証していたときに,間違えて本件
データを変えた可能性があるという説明方法を伝え,その後,原告からZ1
1報告書を知らなかったのか,同報告書が公判部に引き継がれたことは認識
していたのか,改ざんの内容及び方法などを尋ねられ,Z11報告書につい
ては何となくしか認識しておらず,同報告書が公判部に引き継がれたかにつ
いても曖昧であったこと,他の証拠関係に合うのでコピー通知案の更新日時
を6月8日にしたこと,改ざんの具体的な方法を伝えた旨述べている。原告
が作成したメモ(乙D1・12-1,12-2)には,「フロッピー→HD
ドライブへ転写-検証-ソフト閉-フロッピーデータをいじってしまった」,
「H21.6.29付Z11G捜報-プロパティ印刷-添付の存在-な
んとなく」,「公判部への引継ぎ-あいまい」,「改変の有無-何をコ
ピー通知案-○」,「更新日時6月8日上旬に合致するから」,「プロ
パティ-変更の手順-私物-○ファイル表示ソフト入力右クリック
-日付と属性の変更-数字入力可能」などと記載されており,Z1は説明方
法として本件FDからデータをUSBメモリーに移したと述べたはずであり,
HDドライブにコピーしたとは述べていないとしている点は異なっているが
(乙C11・24頁),その余の点は,上記Z1の各供述と整合している。
この点,原告は,上記メモの下7行部分は,Z1が考えた過誤による改変
の可能性があるにすぎないとの虚偽の説明方法を記載したものではなく,Z
1による過誤であるとの説明を書き取った文章であるから,Z1が原告に対
し本件電話で本件改ざんを告白したとのZ1の供述と明らかに矛盾すると主
張しているが,同部分は断片的なメモにすぎず,原告が主張するように解釈
するしかないとは到底いえず,虚偽の説明方法を原告がまとめて記載したも
のであるとしても,何ら矛盾するところはないから,上記原告の主張は失当
である。
cZ1は,2月5日に原告から,捜査段階でプロパティ問題を上司に報告し
なかったこと及び本件改ざんを行ったことについて責を受け,「俺も部長
も,今回だけは辞職を覚悟した。今,首の皮1枚つながってるだけだ」など
と言われた旨述べているところ,原告の執務記録(乙D2・5頁)に,「2
/5Z1Pへ指示・指導すべき事項として1.叱る!」,「②客観
証拠に作為を加えたことについて~客観証拠は変え難い事実を語るものであ
り,主観証拠=供述とは扱い方を異にするーこれを安易に変更して乗り切ろ
うとすることは思い上がりもはなはだしい!」,「2.自覚させる!自分の
置かれている立場について」,「①D・SDとも一度は辞職を覚悟したb
ut「Z1Pは救いたい。何とかならないか?」とない知恵をしぼった」,
「②当面,証拠物の管理におけるミスという主張を貫く」,「③危険水域
は脱していない」などと記載されており,上記Z1の供述と整合している。
しかも,これらの記載は,原告及びZ2部長が,Z1による本件改ざんを認
識しつつ,証拠物の管理ミスにすぎないと主張してZ1をかばったことを推
認させるものであるから,原告及びZ2部長が,Z1による本件改ざんを認
識しつつ,Z1をかばうために過誤による改変の可能性があるにすぎないと
の説明をZ3次席及びZ4検事正に行ったとのZ1供述全体の骨子に極めて
整合している。
(ウ)虚偽供述の可能性について
Z1は,証拠物である本件データを改ざんするという重大な犯罪を行った者
であるから,一般論としては,自己の刑責を軽くするために他の者に責任を押
し付ける危険性があるが,勾留初日の9月22日から一貫して本件改ざんを行
ったことを認め(乙C10・72頁),原告及びZ2部長を被告人とする刑事
事件の公判においても自己の行った犯行を具体的に述べるとともに,自己の責
任の重さを率直に認めており,責任を回避しようとする姿勢は窺われない。ま
た,Z1の供述は話の内容に不自然なところはなく,他の信用性の高い証拠と
も極めて整合していることなどからすると,Z1が自己の刑責を軽くするため
に虚偽の事実を述べているとは考え難い。
この点,原告は,Z1がZ9をかばうために虚偽の供述をしているとも主張
しているが,Z1が自らの改ざん行為を認めつつ,Z9をかばうのであれば,
平成21年7月にZ9に対して本件改ざんを行ったことを告白したとの事実を
否定するか,Z9が冗談と受け取るような話し方で述べた旨供述する方が端的
であり,他方で,Z1は,Z9が,この件はミステイクで行くとのZ2部長の
方針をZ1に伝えたこと,原告からの指示を受けて過誤による改変があるにす
ぎないとの説明をする場合の説明方法を聴取したこと,Z9がZ1の作成した
上申書について「遊び半分」という部分は「ちょっと苦しいんじゃないですか」
などとアドバイスをしたことなど(乙C11・89頁),Z9の犯人隠避への
関与についても明確に述べているのであるから,Z1の供述がZ9をかばうた
めに虚偽の供述をしている様子は窺われない。
(エ)小括
以上によれば,Z1供述の信用性は高いというべきである。
(5)原告の供述
ア原告の供述の概要
(ア)1月30日午後7時頃,Z15の執務室から副部長室に戻り,厚労省事件の
捜査資料を探していると,午後7時15分頃,Z9が副部長室に来た。Z9か
ら色々話を聞こうと思い,会議用ノートと筆記用具をもって,副部長隣室に移
動した。(乙C13・72,73頁)
Z9に,Z1からどういう話を聞いたのかを改めて尋ねると,Z9は「Z1
さんが,Z8の自宅から押収したフロッピーディスクを還付したと聞いたので,
どうして還付したのか理由を聞こうと思い電話で話した。Z1さんが,フロッ
ピーディスクは返したが,その際,その更新日時を書き換えておいたというふ
うに言っていた」と答えた。「プロパティなんて変えられるのか」と聞くと,
Z9は「何か特殊なソフトがあればできる」答えた。(乙C13・77頁)
いつに変わっているのかを尋ねると,Z9は「聞いてません,分かりません」
と答え,「変えているとしたら平成16年6月4日以降の日付ではないか」,
「Z8ら関係者の供述にある6月上旬に合うから,6月8日にしている可能性
が高いと思います」などと答えた。(乙C13・78,79頁)
Z9に,「お前はZ1が本当に改ざんをしたと思うか」と尋ねると,Z9は
「僕は半信半疑です」,「Z1さんは,やったとも,やらないとも,どちらと
も取れる言い方をしてましたから」と言っていた。Z1が改ざんをしたのなら,
なぜZ11報告書がそのままになっているのかを尋ねると,Z9は,「Z1が
知らない間に捜査報告書が公判部に引き継がれたのかもしれませんよ」などと
言っていた。これを聞き,Z1が自分の目で確認しないまま記録を公判部に引
き継ぐということがあるのかなと疑問に思った。(乙C13・80,81頁)
また,検察に有利になるように改ざんをしたのであれば,手元に置いておく
はずなのに,本件FDを還付してどういう意味があるのかと尋ねたところ,Z
9は「分かりません」と答えた。(乙C13・81頁)
Z9は,「私物のパソコンでブツ読みをしていたので,もしかすると,改ざ
ん前後のデータをパソコンに残しているかもしれません。部屋に入って確認し
てみましょうか」と言ったが,部屋に入るマスターキーがどこにあるか分から
ないし,私物のパソコンを勝手に開くのは問題があると思い,Z9には「私物
のパソコンをいじって,パソコン本体はもとより,中のデータを破損したら,
それは問題だ,やめとこう」と言った。(乙C13・82頁)
(イ)午後8時頃,Z12が副部長隣室に来たので,Z12も含めて,公判前整理
や公判の状況などについて話をし,Z12は,この件を公判部長に報告したい
と言っており,自分もZ2部長を通じてZ3次席及びZ4検事正に報告しよう
と思うと述べた。(乙C13・88~93頁)
Z1が東京の応援を終えて大阪に戻れば,Z1からも事実確認をしようとい
う話をしていたが,電話でZ1に確認をしようとは思わなかった。1月28日
の会議で初めてプロパティ問題を認識し,詳細がよく分からず,Z11報告書
も持っていなかったので,改ざんの有無を確認するための周辺事実を把握して
いなかったのと,1月28日の会議でZ2部長も言っていたとおり,Z1が当
時担当していた任務が非常に重いものであり,夜遅くまで取調べに集中してい
るであろうから,確認のための電話を掛ける気にならなかったからである。
(乙C13・97,129,130頁)
(ウ)早くとも午後9時頃,Z9の携帯電話に電話が掛ってきて,私に電話を回し
てきたので,誰かなと思い電話に出ると,電話の相手はZ14だった。Z14
が「副部長すいませんでした,Z1さんが,Z1さんが」と言ったので,Z1
の改ざんの件で電話をしてきたんだなと理解した。(乙C13・98頁)
Z14は,泣きながら,酒でも飲んでいるのかなという感じで,「Z1さん
が悪いんじゃないんです,僕が悪いんです」などと言い,意味は分からなかっ
たが,改ざんのことを言っているのかなと思ったので,「Z9から聞いてるぞ,
フロッピーディスクのプロパティなんて変えられるのか」と尋ねた。Z14は,
「多分変えられるんだろうと思います」などと言い,「知ってるなら,いつに
変えてるんだ」と尋ねると,Z14は「いや,知りません」と言っていた。
(乙C13・99頁)
やり取りの中で,どうしてZ1が改ざんしたと思うのか根拠を確認したと思
うが,Z14からは説明はなく,Z1がキーボードをたたく仕草をしたなどと
いった話はなかった。(乙C13・100頁)
Z14に「俺とZ1とは平成12年以来の付き合いなんだ,ちゃんと対応す
るから心配するな」「自分のやりかけた事件をペンディングにさせているのに,
余計な心配を掛けさせてすまないな」「引き続き応援を頑張れ。電話を夜遅く
にありがとうな」などと言った。大阪を代表して行っているなどと言った可能
性はあるが,言ったとしたら,請われて行くというのは名誉であり誇りだとい
うふうに言ったんじゃないかと思う。(乙C13・100~102頁)
Z14は,泣きながらZ1をかばっており,Z14自身,Z14主任事件の
捜査が中断となって悔しい気持ちを我慢しているにもかかわらず,何でZ1の
ことを心配してやれるんだろうと思うと,私自身泣けてきた。
(乙C13・102~111頁)
Z12とZ9は,私が泣いているのを見て,「どうしたんですか,相手が何
と言ってきたんですか」と尋ねてきたが,大の大人が他人の前で泣いているの
が恥ずかしく,Z14の事件について特捜部の人間ではないZ12やZ9に話
をすべきでもないので,説明しなかった。(乙C13・111頁)
(エ)その後,Z1が書き換えたのかどうか,書き換えたとして故意に改ざんした
のかどうかを判断するには,本件FDを見るのが一番早いと考え,「何とかフ
ロッピーディスクの中身を確認する方法はないか」「鈴木先生に言ってみる」
などとZ9及びZ12に言ったが,公判にどういう影響を与えるか分からない
ので,部長,Z3次席,Z4検事正に報告して判断を仰ぐべきであると考え,
私が独断でZ17弁護士に働きかけるのはやめた。
(乙C13・119~122頁,乙C17・24頁)
(オ)副部長隣室での飲み会は,午後11時前,遅くとも午後11時過ぎには散会
した。JR神戸線を使って大阪駅から新快速電車で西へ帰るが,新快速電車の
最終出発時刻が午後11時40分であり,大阪地検があるαから大阪駅まで約
20分かかる。Z9やZ12も午後11時を超えると帰宅するのが厳しくなる
ので,午後11時過ぎ頃には散会した。(乙C13・125頁)
二人が退室するときに,いつ部長に報告するのかを尋ねられたので,月曜日
に報告すると答えた。報告を月曜日にしたのは,Z2部長がプライベートの用
事で,30日及び31日は大阪を離れていると認識していたからである。
(乙C13・125,126頁)
(カ)二人が退出した後,ごみを片付け,帰り仕度を始めたが,Z9の説明の中に
あった,6月8日に変えている可能性が一番高いということの理由が気になっ
ており,Z9にその理由を尋ねればよかったのだが,聞きそびれたというか,
沽券に関わるというところもあったので,聞かなかった。月曜日にZ2部長に
報告するに当たり,当然,どういう内容に書き換えられているだと聞かれるこ
とが予想されるので,調書で確かめようと思い,調書を探し出して確認したが,
どの調書にも6月上旬としか記載されていなかったので,6月8日に変えてい
る可能性が高い理由は分からなかった。午前零時頃までは調書を読んでいたの
で,結局,終電には間に合わず,タクシーで帰宅した。
(乙C13・126,128頁)
1月30日の時点の印象は,Z9がZ1との電話でたまたま聞いたというよ
うな雰囲気であったこと,Z1が改ざんしたのであれば,Z11報告書が公判
部に引き継がれて開示されているのは疑問であり,本件FDを還付する意味も
分からないこと,Z12からZ9が取調べの際にZ11報告書をZ8に示して
いたと聞いており,そうであれば,プロパティ情報を変更すれば相手に気付か
れること,Z8らの供述に合わせるのであれば,作成日時も6月4日以降にし
なければならないのに,更新日時だけを変えても合わせたことにはならないこ
となどの点から,Z1を100%信じていたわけではないにしても,本当にそ
んなことをするのかなというものであった。(乙C15・16~19頁)
(キ)2月1日,午前9時15分ころまでには大阪地検に登庁し,副部長室に行く
と,Z12が副部長室のドアの前に立っており,午前9時40分頃までには,
Z12の他に,Z15,Z16,Z9が副部長室に集まってきた。
(乙C13・140~142頁)
私がZ17弁護士から本件FDを回収しようとしたという理解の下だと思う
が,Z12が,鈴木先生に交渉するのは待って下さい。Z7の弁護人に伝わる
のは,今はタイミングが悪いからと言ったので,「分かった。俺も同じ意見だ」
と言った。Z9が「副部長の携帯に昨日電話を掛けました」と言っていたので,
Z9もZ12と同じ意見だなと理解した。執務記録に二人の名前を挙げている
のはそのためである。(乙C13・142頁)
(ク)部長室に入り,Z2部長に対し,「Z1が,本件データを改ざんしている疑
いがあります。1月30日に,Z15,Z9,Z12に呼ばれて登庁し,Z9
がZ1に電話で,フロッピーディスクを返した理由を聞いたところ,Z1が更
新日時を書き換えたと聞いたと言ってます。Z15は興奮して,公表すると言
っていた。私が,Z8の主任弁護人を知っているので,フロッピーディスクを
確かめようと思いましたが,やめました。Z12も同意見でした。今,Z12
たちが来ています」などと報告した。(乙C13・143,144頁)
報告している最中に,Z2部長から「何で昨日のうちに報告してくれないん
だ」と怒られたが,すぐに「子どものことがあったから遠慮してくれたんだな」
と言っていた。Z2部長が,何か行事があるので戻ってから話を聞くというこ
とだったので,報告を中断し,副部長室に戻った。(乙C13・144頁)
(ケ)Z12らに対し,Z2部長は用事があるということだったので,私の方から
報告をしておくから,一旦みんな戻るように指示した上で,「ただし,部外者
には口外しないでくれ。特に立会事務官には,軽率に言うな」と告げた。
(乙C13・145頁)
(コ)午前11時にZ2部長が戻ってきたので,先ほどと同様の報告をした。Z2
部長から,何を変えたのかを尋ねられ,更新日時であると答えたところ,いつ
になっているのかと尋ねられ,「フロッピーディスクを確認しなければ分かり
ません,ただ,Z9から聞いたところでは,6月8日にしている可能性が高い
ということです」,「Z8の供述に合うようにということのようですが,私に
はその理由が分かりません」などと答えた記憶がある。Z2部長は,もし改ざ
んをしているということになれば,辞職せざるを得ない問題だという趣旨のこ
とを言っていたが,事実関係を確認できていないのにまだ早いと思った。
(乙C13・145~147頁)
このとき,Z2部長に対し,「Z9は半信半疑と言っています」とZ9の心
証を伝えたかもしれない。(乙C13・148頁)
(サ)Z2部長が,Z12とZ9を呼ぶように言ったので,内線電話で二人を呼び
出した。Z2部長がZ9に対し,Z1からどう聞いたのかと尋ねたところ,Z
9は「Z1さんが,Z8のところから押収したフロッピーディスクを還付した
と聞いたので,還付の理由を電話で確認した。そのときに,返すに当たって,
更新日時を書き換えておいたとZ1さんから聞いた」旨報告していた。
(乙C13・147,148頁)
次にZ2部長がZ12に意見を求めたところ,Z12は,Z1は改ざんをし
ていると思うと答え,その理由として,これまで証人テストで証人が捜査段階
の供述を撤回しており,心証が取れないこと,Z7を逮捕起訴したのは事案の
読み違えではないかということを挙げていた。Z2部長は,Z12に対し,な
ぜそういえるのか,取調官に供述の出方を聞いたのかと問い返したところ,Z
12は,いや,していませんと答えていた。その後,Z12は,Z2部長に対
し,Z1が帰庁したら事実を確認してくださいと言っていた。
(乙C13・148~150頁)
(シ)Z12は,Z2部長に対し,「検事正及び次席に報告してください,自分も
公判部長に報告をしたい」と言い,これに対し,Z2部長は,「まだ事実関係
を確認していないじゃないか。報告をするといって,いったい何を報告するん
だ。うわさが出てますということか。それじゃあ,子どもの使い,子どもの報
告じゃないか」と言ったが,Z12は,多少興奮ぎみに,「報告をしておかな
いと,みんな処分を受けます」と言っていた。(乙C13・150頁)
最終的には,Z2部長がZ12に,Z4検事正,Z3次席に報告することを
了承し,報告のために調査をするが,この情報が外に漏れれば大変なことにな
るから部員にはかん口令を敷くと言い,私に対し,Z15にも部外者に話をし
ないように言っておくよう指示をした。(乙C13・151頁)
Z1とZ14は東京にいるので,Z9が携帯メールで伝達することになり,
Z16は私が直接言いに行ったが,改ざんの件を知っているかと尋ねると,知
らないと答えたので,Z16にはかん口令を伝えていない。(乙C13・15
5頁)
(ス)Z2部長から,Z1に電話をして事実関係を聞くよう指示されたので,Z1
2からZ11報告書等の事件資料を入手し,Z1が改ざんをしたのであれば,
どういった事実関係に立つかということを念頭に置いて事実関係をメモに書き
出した。(乙C13・158~163頁)
(セ)2月1日午後1時30分,部長室へ行き,Z2部長にメモに沿って,Z1か
ら聞く必要がある事項を説明し,Z2部長の了承を得た。
(乙C14・11,12頁)
その後,Z2部長が「ちょっとZ9君を呼んでくれ」と言ったので,Z9を
内線電話で呼び出した。Z2部長は,Z9に対し,「これは危機管理の問題だ,
過去の失策は問うつもりはないが,Z1君から聞いた話をZ15やZ12に話
した。何で最初に自分に報告してくれなかったんだ。君たちは,庁内で決定権
を持つ立場ではない,そういう子供達が集まって,子供会議を開いて,何が決
まるんだ」と叱るように言っていた。(乙C14・13頁)
また,Z2部長が,Z9に,Z15は,なぜZ1が改ざんしたということに
こだわるんだ,Z1との間に何があったんだと聞いたところ,Z9は,Z15
はかねてからZ1の強引な指揮に不満があったと述べていた。Z2部長は,い
ずれにしても,今は公表するタイミングではないなどと言い,私に対し,Z2
部長の責任で調査をするので周囲に軽々に話をしないようZ15を納得させる
ことを再度,指示した。(乙C14・14頁)
(ソ)2月1日午後3時,Z15を副部長室に呼び出し,副部長隣室でZ15に対
し,既に部長には報告をし,次席に報告することになったことを伝え,Z1に
は私の方で確認をするので,部外者には,改ざんの話はしないように言った。
(乙C14・16,17頁)
Z15は,部長への報告が今日になるのは遅すぎる,副部長は部長を守ろう
としているなどと言い,公判の立会については,Z12の指示には従うが,副
部長の指示には従わないと言った。僕は副部長なんだから,部と部員を守るの
は当たり前だろう,特捜部の部員にもかかわらず,部長,副部長の指示には従
わないという言い方は何だと言うと,Z15は「副部長に,お前なんか検事を
辞めちまえって言われたことは一生忘れません」と捨てぜりふを残して部屋か
ら出て行った。(乙C14・17,18頁)
(タ)2月1日午後4時20分,Z1に電話をし,改ざん問題について事情を聴取
した。初めに,Z1に対し,予め用意していたメモにしたがって,改ざんした
かどうかを確かめるための周辺事項を確認するため「Z11報告書の中身を覚
えているか」「プロパティ問題を公判部に引きついているのか」「Z11捜査
報告書は公判部にいつ引き継いだのか」「証拠分けは自分でしたのか」「自分
でブツ読みをしたのか」「フロッピーディスクを還付したのはなぜか」などと
質問し,それぞれ「細かい日時は覚えていないが中身は何となく覚えている」
「起訴時には伝えていない」「いつ公判部にZ11報告書を引き継いだかは,
記憶では曖昧です」「自分で証拠分けはしました」「自分で確認した」「捜査
報告書を作っているので,内容は証拠化しているから要らなかった」などと答
えた。
(乙C14・26~31頁)
周辺事項を確認した後,「Z1が,Z8の自宅から押収したフロッピーディ
スクのプロパティ,更新日時を書き換えたという話があるんだけど,本当のと
ころはどうだ」と聞いた。Z1は,「御心配をお掛けしてすみませんでした。
フロッピーディスクのプロパティをいじったことは間違いありません。ただ,
わざと書き換えたということはありません。書き換わっている可能性がありま
す。ただ,それはミスです」と言った。(乙C14・31頁)
「いじった」というはどういう意味なのかを確認すると,Z1は「フロッピ
ーディスクのデータを確認しようとして,パソコンにコピーし,プロパティの
更新日時の数字に適当な数字を入れて検証しようとした。それで,間違ってフ
ロッピーディスクの方のプロパティをいじってしまった可能性があります」と
答えた。Z1によれば,データの表示ソフトウェアのようなものを私物のパソ
コンに入れていて,更新日時の数字を入れ替えることができ,ソフトウェアを
起動してマウスの右クリックを押すと,日付と属性の変更という表示が選べる
ようになり,それを選択すると,パソコンの画面上,更新日時の数字を入れ替
えられるようになるということだった。(乙C14・32,33頁)
「書き換わったとしていつに変わってるんだ」と聞くと,Z1は,「分かり
ません,いろいろな数字を入れてみたので」と言っていた。書き換えた後の内
容がわかるようなデータや印刷物は残っていないのかを確認すると,ないとい
うことであった。(乙C14・36頁)
なぜプロパティ情報を検証しようとしたのかを尋ねると,Z8は本件FDを
自宅に隠していたこと,Z8の供述は本件FDのプロパティ情報と合わないこ
とから,Z8がプロパティ情報に何か工作をしているのではないか,プロパテ
ィ情報の更新日時が正しく作動しているのかなどと疑問に思ったため,厚労省
事件の起訴後,証拠物の還付作業中に,本件FDを借り出して,検証をしてい
たということであった。(乙C14・38頁,乙C15・20頁)
Z1から本件FDの更新日時を書き換えたと聞いた旨Z9から報告を受けて
いるがどうなんだと尋ねると,Z1は,捜査段階でプロパティ問題は大きな問
題となっており,Z9に,Z8の取調べで詰めてもらったので,冗談で書き換
えたと言った旨答えた。事の起こりはこの言葉だなと思い,「冗談にしても,
そんなことをなぜ言ったんだ,Z9だって本気にするだろう」というと,Z1
は「Z9に散々苦労を掛けさせたテーマだったので,ふざけて言ってしまいま
した」などと言った。(乙C14・41,42頁)
Z1に「話の内容は部長に報告する,また聞くことがあるかもしれないから電
話する」などと言って,電話を終わった。(乙C14・45頁)
(チ)2月2日,9時20分から25分頃に部長室に入り,Z2部長に対し,昨日,
Z1と電話をしたところ,Z1は,わざと書き換えたのではないと言っている
ことを伝え,Z1から聞きとった内容の要旨を報告した。Z2部長は,「分か
った,そういうことならミステイクということなのか」と言い,Z9を部屋に
呼んだ。(乙C14・57~59頁)
Z2部長が,Z9に対し,「Z20君からZ1に確認してもらったところミ
ステイクと言っているが,どう思うか」などと尋ねたところ,Z9は,「Z1
さんがそう言うならば,そういうことだったんだと思います」,「冗談と言わ
れれば,そうかもしれません。短い電話でしたから」などと言った。
(乙C14・59頁,乙C15・1頁)
その後,用事があったので,Z2部長に断りを入れて,一旦部長室から出て,
再び部長室に戻ったときには,Z9はいなかった。部長室に戻った後,Z2部
長から,なぜ還付した本件データが書き換わっていると考えられるのかZ1に
理由を確認するよう指示を受けた。(乙C15・5~8頁)
(ツ)2月2日正午頃,Z1に電話を掛け,Z1がプロパティの確認に使ったソフ
トウェアの入手時期によっては改ざんを疑う余地もあるのではないかと思い,
その時期を確認したところ,Z1は,厚労省事件の捜査以前から持っていたも
のであると答えた。また,Z8が,任意同行のときにFDを家人に持ち出させ
ていたのかを尋ねると,Z1は,そのとおりであると答えた。そして,本件F
Dのプロパティ情報とZ11報告書のプロパティ情報とが異なっているとすれ
ば,それは過誤で書き換えたということでいいのか,書き換わった後の更新日
時の日付がどうなっているのか分からないということでいいのかを再確認し,
わざと書き換えたのではなく,だから,捜査報告書も公判部に引き継いだし,
本件FDも還付したと説明していいのかを確認した。それぞれについて,Z1
は,はい,そうですとの趣旨の答えだった。(乙C15・12,13頁)
それから,なぜ本件データが書き換わっていると言えるのかをZ1に聞くと,
Z1は,本件データを私物のパソコンにコピーして保存してプロパティ情報を
いじっていたが,本件FDを還付した後にプロパティ情報の更新日時が変更さ
れていないデータが自分のパソコンに保存されていた。それで,自分がいじっ
たのは本件データではないかと思ったと答えた。それで,Z9にプロパティ情
報を書き換えたと言ったのかと聞くと,Z1は,「そうです」と答えた。
(乙C15・14,15頁)
Z1からの説明を受けて,Z1がプロパティ情報を検証した動機については,
本当にそんなことが分かるんだろうかとの疑問はあったが,Z11報告書が公
判部に引き継がれていること,本件FDがZ8に還付されていること,Z9が
Z11報告書をZ8に示しており還付された本件データのプロパティ情報がZ
11報告書と異なっていれば改ざんを行ったことをZ8に気付かれてしまうこ
となど,少なくとも改ざんを故意でしたということとは相容れない事実がある
以上,その時点では,Z1の説明を虚偽と断ずることはできないとの心証であ
った。
(乙C15・17~23頁)
(テ)2月2日午後1時頃,部長室へ行き,Z2部長と二人で,Z3次席に報告す
る説明の方法について協議をし,その際,Z1の説明を虚偽であり,故意の改
ざんと断ずることはできないと報告した。ただし,Z1の説明を前提としても,
本件データを直接触り,それを書き換えた可能性があること,プロパティを変
更することができるようなソフトウェアは検察庁の官用パソコンにはないこと
から,上に報告はせざるを得ないということになった。また,本件FDの現況
を確認するためには鈴木弁護人と交渉する必要があるが,公判への影響を考え
ると,特捜部限りで判断できるものではないので,Z3次席及びZ4検事正の
判断に委ねるしかないということになった。
(乙C15・26~28頁)
(ト)同日午後5時頃にZ2部長及びZ9とZ3次席のところに報告へ上がった。
(乙C15・33頁)
Z2部長が,Z3次席に報告に来た旨告げた後,私が,1月30日にZ15
から,Z1が本件データの更新日時をZ8らの供述に合うように書き換えたと
いう疑いがあるとの報告を受けた旨説明し,Z9が,本件FDが還付されてい
る理由を尋ねるためにZ1に電話をした際,Z1が「フロッピーディスクは返
した,更新日時を書き換えておいた」と言ったのでZ15に相談した旨述べた。
(乙C15・35,36頁)
さらに,私が,Z1から聴取した内容を報告した。すなわち,「Z1から聞
いたところによると,Z1がフロッピーディスクのプロパティの更新日時の数
字をいじったことは間違いないが,意図的に書き換えて還付したということは
なく,ただ,返したフロッピーディスクのプロパティが書き換わっている可能
性があります」と伝えた上で,「Z8はこのフロッピーディスクを自宅に隠し
ており,任意同行時に家人をして持ち出させていたので,フロッピーディスク
のプロパティがZ8の供述と合わないことから,Z8が工作をしているのでは
ないか,あるいはフロッピーディスクのプロパティそのものが正しく動かない
ではないかということを確認しようとした」,「私物のパソコンにはデータの
表示ソフトがあり,これによってプロパティの部分の数字を変えることができ
る」,「データをパソコンにコピーして調べてみたが異常がなかったというこ
とです」,「還付した後に,パソコンに更新日時の変わっていないデータが残
っているので,フロッピーディスクのデータのプロパティを誤っていじってし
まったのではないかと思った」,「それでZ9には,Z9から電話をもらった
ときに冗談でプロパティは変えておいたと言ってしまった」などとZ1が述べ
ていることをZ3次席に報告した。(乙C15・37,38頁)
このとき,Z9が「Z1さんから,更新日時を変えたと聞いたので驚いてし
まった,それで,ひょっとすると改ざんしているのではないかと思い,Z15
さんに相談した」,「私が大げさに言ったのでZ15さんの誤解を生んでしま
ったようです」などと言った。(乙C15・38,39頁)
そして,Z1が改ざんをしたとすれば,Z11報告書が元の証拠物のままで
あるということが説明できないこと,故意に改ざんをしたのであれば本件FD
は還付せずに手元に残しておくと考えられることからすると,Z1の説明には
検証の動機などにまだ疑問の余地はあるが,現時点では,その説明をうそと断
じるだけの根拠はないと報告した。(乙C15・39頁)
また,本件データのプロパティ情報とZ11報告書のプロパティ情報との間
に不一致があるのであれば,証拠物の管理上,過誤が生じた可能性があるが,
本件FDは既に還付されているので中身を確認するためにはZ8の主任弁護人
を通じて提供してもらう必要があること,提供を求めるとZ7事件の公判に悪
影響を及ぼす可能性があること,他方,Z7事件では本件FDの証拠請求はな
く,Z8事件では証拠請求されるかどうかは未確定であることを説明した。
(乙C15・39,40頁)
また,Z15が,Z1が改ざんをした疑いがあることを公表しろ,Z7は無
実であり,Z7の起訴の経緯を調査しろと言っており,その様子は告訴狂と同
じです,Z15には有罪無罪を判断できるような担当職務は捜査時に与えてい
ません,Z15はZ7事件の有罪無罪と証拠物の事後的な管理の問題を区別し
て考えることができなくなっている様子であると説明した。(乙C15・41
頁)
Z2部長は,私がZ1の説明等を報告している間,私も副部長と同じ意見で
すとか,Z15の言動は意外でしたなどと言っていた。(乙C15・41頁)
Z3次席は,「フロッピーディスクを返しているのに改ざんなんかするわけ
ねえだろう」,「Z15ってそんなやつだったのか」,「東京で検事総長が特
捜部の事件にピリピリしているときに何てこと言うんだ」などと言い,本件F
Dの提出をZ8の弁護人に求めるかどうかについては,そこまでする必要はな
いだろうと言っていた。(乙C15・42頁)
Z3次席には,Z1が帰阪すれば,改めて報告させますと伝えた。
(乙C15・48頁)
(ナ)2月3日午前10時50分に部長室に行き,Z4検事正の時間が空いたとの
連絡が来るのをZ2部長と一緒に待っていた。連絡が来てZ9と合流し,午前
11時頃,検事正室に報告へ行った。(乙C15・43頁)
Z4検事正に対し,私からZ3次席にしたのと同じ説明をし,Z2部長は,
副部長が言っているとおりだと私も思いますなどと言う程度であった。
(乙C15・44頁)
私がZ1の検証の態様を説明したところ,Z9は「いや,それはちょっと違
います。Z1さんが言うにはフロッピーディスクのデータの画面と,パソコン
にコピーしたデータの画面の二つを開けており,それでフロッピーディスクの
データの画面を間違っていじってしまったということです」と補足をしたこと
があった。このとき,Z9は,私の知らないところでZ1と連絡をして,対応
について話合いをしているのだなと思った。(乙C15・46頁)
私が,本件FDを弁護人に交渉して提供を求めるかどうかの判断を尋ねると,
Z4検事正は,黙り込んで天井を見上げ,判断を突きかねているようであった。
また,Z4検事正は調査をするよう指示しなかったので,過誤発生報告書は作
成せずに情報の整理にとどめるということでいいか了解を求めると,Z4検事
正は「それでいいよ」と言った。ただ,Z1が帰阪したときに,改めてZ1の
方から報告書等を作成させますと言った。(乙C15・48頁)
(ニ)2月4日の朝,Z2部長及びZ9と情報の保秘及びZ7事件の公判の立会の
在り方について協議をした。(乙C15・50頁)
Z2部長は,「不平分子対策」として,Z15がZ1の改ざん問題をリーク
をして外部に情報を流せば,最高検が大阪地検に対して調査を指示するかもし
れない,あるいは,この情報がマスコミの知るところとなれば,報道されるか
もしれない,そうなれば大阪地検としては最悪だから,この情報を厳に秘密に
しなければならないと言った。また,Z2部長は,Z1が帰阪すれば,Z15
からすると,Z1へのヒアリングが行われていると思うのではないか,やって
いるんだということをポーズとして示す,それから,Z15を仲間外れにして
はいけないということも言っていた。結局,Z9が公判の慰労ということでZ
15と二人で話をし,現時点では,過誤の可能性があるにとどまるということ
を話してみるということになった。(乙C15・51~55頁)
(ヌ)2月4日,Z2部長から,Z1が帰阪したら厳しく指導するように,改ざん
の問題については大げさに言って,こちらがどんなに心配したのかを分かるよ
うにしてやったらどうかとの指示を受けた。(乙C15・55,56頁)
Z2部長から指示を受けて,Z1に対して何を言うかを思いつくままに執務
記録のトピック欄に書いたのが,弁2・5頁「AZ7公判その4プロパテ
ィ問題対応2/5Z1Pへ指示・指導すべき事項として」以下の記載で
ある。(乙C15・56頁)
(ネ)2月5日午後5時10分頃,Z1,Z14と二人の立会事務官が帰阪して副
部長室に挨拶に来た。同日午後5時40分頃に庁内挨拶をすませたZ1が再び
副部長室へ来て,直立したまま,「御心配をお掛けして申し訳ありませんでし
た」と言って頭を下げた。(乙C15・68頁)
その後,概ね執務記録に記載していた内容に沿って,Z1を叱り,また,Z
1に対し,パソコンにコピーした元のデータは残っているのかを尋ねると,残
してますと言ったので,それはそのまま残しておくように言った。
(乙C15・68~70頁)
Z3次席及びZ4検事正に対して,Z1が帰阪すれば報告書を作成して報告
させますと言っていたので,Z1に報告書の作成も指示した。
(乙C15・73頁)
(ノ)2月10日,Z1から上申書と題する書面の提出を受けた。上申書に目を通
し,USBメモリに移したとの記載,データを丸ごとコピーしたとの記載,バ
ックアップデータを削除したとの記載については,聞いていなかった話であり,
違和感を持ったが,特に指摘はせず,Z2部長の決裁を仰ぎ,Z2部長の決裁
が通ったら,Z4検事正とZ3次席にも1部ずつ提出するよう指示した。Z2
部長がZ1に書き直しを指示したということは聞いていないので,Z3次席及
びZ4検事正にも提出されたものと思っていた。(乙C15・72~76頁)
イ検討
(ア)他の証言との関係
原告は,概要,1月30日に副部長隣室においてZ12及びZ9の面前で話
をした本件電話の相手方はZ1ではなくZ14であり,同日にZ1から電話で
本件改ざんを行った事実を告白されたことはなく,2月1日午後4時20分及
び翌2日正午頃のZ1と電話で話をしたところ,Z1は,本件データを私物の
パソコンにコピーし,プロパティ情報の更新日時の数字を入れ替えることので
きるソフトウェアを用いて更新日時に適当な数字を入れて検証を行ったことが
あり,その際に更新日時が書き換わった可能性はあるが,故意に更新日時を書
き換えたことはない旨の説明を受け,Z1の説明が虚偽であって故意による改
ざんであると断ずることはできないと判断したため,その旨をZ3次席及びZ
4検事正に報告するなどと供述している。
Z2部長は,2月1日に原告から報告を受けた際,Z1が本件改ざんの事実
を認めたとの報告を受けたことはなく,Z1に対する事実確認を行うよう原告
に指示し,原告から,Z1に事実確認をしたところ,誤って本件データを変え
てしまった可能性はあるが,意図的に改ざんをしたものではないとの報告を受
けたため,Z1は故意にデータを改ざんしたのではないと判断し,その旨をZ
3次席及びZ4検事正に報告した旨供述しており(乙C19,乙C20),原告
の供述は,Z2部長の供述と大筋において整合しているということができる。
しかしながら,Z2部長は,原告と共謀して,証拠隠滅という犯罪行為を行
ったZ1を隠避したとの被疑事実により起訴されている立場にあるのであるか
ら,原告とともに自己の刑責を免れるために虚偽の供述を行う動機が存在し,
その供述の信用性を担保するに足りる客観的な証拠等もない。かえって,Z2
部長は,2月2日に妻に対し「Z1のけんなんとか切り抜けられそうだ」との
携帯メールを送信しているが,同携帯メールの内容は,Z1が故意に改ざんを
行ったのではないとの事実を前提とするものであるというよりは,Z1が故意
に改ざんを行ったことを前提にかかる問題を表面化させずに処理する見通しが
立ったとの趣旨であると理解するのが自然であること,本件FDが還付され,
改変後の本件データの最終更新日時を確認できないため,Z1が本件改ざんを
行っていないと断定できない状態にあったのであるから,同人がそれを否定し
ているのであれば,Z1が帰阪した後に直接事情を聴取するのはもちろん,関
係者であるZ9,Z12,Z14からも聴取を行うなどして事実関係の調査を
行ってしかるべきであるが,Z2部長はこのような調査を全く実施しておらず
(乙C20・51,52,62,68頁),実施しなかったことについての合
理的な説明もないこと,Z15が本件改ざんの問題を公表する危険性があると
認識していたにもかかわらず,Z1が本件改ざんを行ったと思っているZ15
に対し,Z1は故意に改ざんを行ったものではなく,過誤による改変の可能性
があったにすぎず,その旨をZ3次席及びZ4検事正にも報告をして了承を得
たことを納得するまで説明するどころか,その件について何らの事実も判断も
伝えておらず(乙C20・41~44,50頁),そのことについても合理的
な説明はなされていないなど,Z2部長の供述には不合理なところがあり,容
易に信用することはできない。したがって,原告の供述が,概ね,Z2部長の
供述と整合することをもって,原告の供述の信用性が高いと評価することはで
きない。
むしろ,原告の供述は,全体として,信用性の高いZ12,Z9及びZ1の
供述と大きく食い違っている上,以下の点において,不合理・不自然な点が認
められる。
(イ)1月30日の出来事に関する原告の供述について
a原告は,本件電話の相手方がZ1ではなくZ14であり,Z14が泣きな
がら,「Z1さんが悪いんじゃないんです,僕が悪いんです」などと言い,
意味は分からなかったが,改ざんのことを言っているのかなと思ったので,
「Z9から聞いているぞ,フロッピーディスクのプロパティなんて変えられ
るのか」,「知っているなら,いつに変えてるんだ」などと質問した旨供述
しているが,いきなり電話をかけてきた上,泣きながら「Z1さんが悪いん
じゃないんです,僕が悪いんです」などと唐突な発言をしているZ14に対
し,なぜそんな電話をかけてきたのか,その発言の趣旨を確認することもな
く,また,Z14が改ざんに関与しているのか否か,また関与していないの
であれば,どこまでの事実をどのような方法で知ったのかなどについて確認
せずに,いきなり,本来改ざんを行った行為者本人に尋ねるべき改ざんに関
する核心的事実である,プロパティ情報を変えることができるのかどうか,
更新日時をいつに変えているのかをZ14に尋ねたというのは話の流れが極
めて不自然である。
しかも,Z14は,1月30日の原告との電話においては,原告から「Z
15達から事情を聞いた。Z1からも事情を聞いてちゃんと対応するから,
お前たちはこの件で気を病むな」などと言われてた旨述べているのであるか
ら(乙7・2頁),原告の供述はZ14の供述とも明らかに食い違っている。
したがって,原告の供述は,Z12及びZ9が述べている本件電話におけ
る原告の会話の内容を無理矢理Z14との会話に仕立てようとしている疑い
が強い。
b原告は,本件電話の直後,原告が泣いているのを見て,Z12及びZ9が
「どうしたんですか,相手が何と言ってきたんですか」と尋ねてきた旨述べ
ているが,原告の供述によっても,Z14はZ9の携帯電話に電話を掛けて
きたのであるから,少なくともZ9はZ14からの電話であることが分かっ
ているはずであり,Z14の名前を出さずに「相手はなんと言ってきたんで
すか」と尋ねるのは不自然である。
c原告は,本件電話終了後,故意にZ1が書き換えたのかどうかを確認する
ためには本件FDを確認するのが一番早いと考え,Z9及びZ12にZ8の
弁護人であるZ17弁護士の連絡先を尋ねたと述べているが,そのようなこ
とをすればZ7事件の公判に影響が出ることは明らかである。原告の執務記
録(乙D2・3頁),「A(注被告人),B(注弁護人)が問題にしていない
のに公表すれば,AZ7公判はもとよりZ1P応援中の東京の事件にも影響
し,ひいては特捜組織が崩壊する」,「部・部員を守ることは当然のこと」
などと記載されていることからも明らかなように,検察組織への信頼を重視
している原告が,原告の供述を前提とすれば,その時点では,Z1に対して
直接事実確認をしておらず,また,Z1の私物パソコンに残っているデータ
の内容も確認していない段階で,Z1が故意に書き換えたかどうかを確認す
るためにZ17弁護士に連絡を取ろうとするとは考えにくい。
d原告は,本件電話の時間について早くとも午後9時頃であると述べている
が,前述のとおり,Z14は原告と電話で話をしたのはZ15からの電話の
直後ころだったと思うと述べており(乙A8・16頁),Z15がZ14に
電話を掛けたのが午後7時24分であるから,Z14が正確な時間を認識し
ていない可能性があることを考慮しても,Z14の供述と整合するのか疑問
が残る。
また,原告は,副部長隣室での集まりは,原告が通勤に利用しているJR
の新快速電車の最終出発時刻が午後11時40分であったことから,遅くと
も午後11時過ぎには散会した旨述べているが,原告が退庁したのは1月3
1日午前零時20分であり,Z9も全く同じ時刻に退庁し,しかも,電車で
はなくタクシーで帰宅しているのであるから(乙D3・6頁),午後11時
過ぎに散会したとの供述も疑わしい。原告は,散会後直ぐに退庁しなかった
理由につき,Z9がZ1は更新日時を6月8日に変えている可能性が一番高
いと述べていたことの根拠が気になり,Z2部長に報告するときに質問を受
けることも予想されるので調書を探し出して確認していたと説明しているが,
仮にZ9の発言の根拠が気になったとしても,Z9に尋ねれば直ぐに分かる
ことであり,尋ねることができなかったことについて合理的な説明もない。
また,原告はその根拠が分からないまま,Z2部長への報告を行ったという
のであるから,論旨が一貫していない。
(ウ)2月1日のZ1との電話について
a原告は,2月1日午後4時20分にZ1に電話を掛け,改ざんの事実の有
無を確認したところ,Z1は故意にデータを改ざんしたことを否定し,過誤
によるデータの改変の可能性があるにすぎないと説明していた旨供述してい
る。
しかしながら,原告は,本件データの最終更新日時が6月1日から6月8
日に変わっていることを平成22年1月や2月の時点で知っていれば,Z1
が故意に改ざんした疑いを強く抱いたことを認めており(乙C15・122
頁),1月30日の時点で,Z9から,Z1がZ9に対し本件データを書き
換えておいたと断定的な言い方で告白しており,関係者の供述に合わせるた
め最終更新日時を6月8日にしている可能性が高いとも聞いていた上,原告
の供述によっても,本件電話の相手方であるZ14がZ1が本件改ざんを行
ったことを前提とするような電話を突然かけてきて,泣きながらZ1をかば
っていたというのであるから,月曜日に上司のZ2部長に本件データの改変
について報告するにあたって,現在Z1がどのように供述しているのか,確
認するのは必須であるにもかかわらず,それを行わないままZ2部長に報告
したというのであるから,そのことは,本件電話がZ1からのものであるこ
とを裏付けるというべきであり,原告の供述は到底信用できない。
その点を措くとして,仮に原告が供述するように,Z2部長から指示され
て初めて2月1日に直接電話でZ1に対し本件改ざんを行ったか否かを確認
したとしても,原告が述べるようにZ1が改ざんの事実を否定したのであれ
ば,遅くともZ1が帰阪した後にZ1の説明の真偽を明らかにするために事
実関係の調査を行ってしかるべきであるが,原告及びZ2部長が,Z1の帰
阪後に同人に対する事情聴取を全く行っていない。Z9及びZ14がZ1か
ら本件改ざんを行った旨告げられたという話が出てきているのであるから,
Z9及びZ14に対する事情聴取も必要不可欠であるが,Z14がZ1から
本件改ざんについてどのような話を聞いたのかを詳しく聴取していない(乙
C15・137,144頁)のは不自然というほかない。Z9に関しても,
原告の供述によれば,Z9は,1月30日に副部長隣室において「僕は半信
半疑です」,「Z1さんは,やったとも,やらないとも,どちらとも取れる
言い方をしてましたから」と述べていたというのであり,Z1がZ9に対し
てどのような発言をしたかはZ1の説明の真偽を判断するための重要な事実
であるから,当然確認すべきである。この点,原告は,Z1がZ9に対して
実際に何と言ったかを確認したがその内容は忘れたと述べているが(乙C1
5・132,133頁),実際に発言内容を確認したのであれば,発言の概
要も覚えていないというのは疑問であり,措信することができない。
また,原告の供述によっても,1月30日にZ9が原告に対し,Z1の私
物のパソコンに改ざん前後のデータが残っているかもしれないというと述べ
たというのであるから,Z1の説明の真偽を確かめるために,Z1のパソコ
ンに改ざん前後のデータが残っているのかどうかは当然調査してしかるべき
であるが,原告及びZ2部長は,Z1の私物のパソコンを調査していない。
さらに,原告は,Z8が本件データのプロパティ情報を書き換えているの
ではないかと思い検証をしていたとのZ1の説明に対し,本件FDを調べて
Z8がプロパティ情報を書き換えたのかどうかが分かるのかとの疑問はあっ
たと述べているにもかかわらず,Z1の使用したソフトウェアにプロパティ
情報を書き換える機能があるのかどうかも確かめていない(乙C16・48
頁)。
このように,Z1が改ざんを行ったことを否定しているのであれば,犯罪
事実の調査を専門的に行っている検察官であれば当然に思い当たるべき調査
すら行っていないのは不自然というほかない。
b原告は,2月1日のZ1との電話について,予め用意していたメモ(乙D
1・12-1,12-2)に従って,Z1が改ざんをしたのかどうかを確かめ
るための周辺事情を確認するため「Z11報告書の中身を覚えているか」,
「プロパティ問題を公判部に引きついでいるのか」,「Z11報告書は公判
部にいつ引き継いだのか」などと質問し,これに対しZ1がそれぞれ「細か
い日時は覚えていないが中身は何となく覚えている」「起訴時には伝えてい
ない」「いつ公判部にZ11報告書を引き継いだかは,記憶では曖昧です」
などと答えたため,予め記載していた「H21.6.29付Z11G捜報-
プロパティ印刷-添付の存在」「公判部への引継ぎ」との記載の横に,それ
ぞれ「なんとなく」,「あいまい」などと記載した旨述べているが,Z1が
改ざんをしたのかどうかを確かめるために重要であるのは,Z1が本件FD
をZ8に還付するときにZ11報告書の存在や同報告書が公判部に引き継が
れていたことを認識していたのかどうかであって,上記電話の時点でZ1が
Z11報告書の細かい内容を覚えているかどうか,あるいは公判部にZ11
報告書を引き継いだのがいつであるかを記憶しているかどうかは,Z1が改
ざんを行ったかどうかを判断するためには有益な情報ではないのであるから,
そのような事実を書きとったとは信じ難い。そうすると,上記原告の供述は,
合理的に読み取ることのできる上記メモの各記載の内容と整合しないという
ほかない。
(エ)2月2日朝の部長室でのやり取りについて
原告は,2月2日の朝,部長室において,Z2部長に対し,Z1は故意に改
ざんをしたのではない旨述べていることを報告し,Z9も「Z1さんがそう言
うなら,そういうことだったんだと思います」などと述べ,その後,Z2部長
からZ1に対し,還付した本件データがなぜ書き換わっていると考えられるの
かZ1に確認するよう指示を受けた旨供述している。しかしながら,原告の執
務記録の2月2日の欄には,「部長室プロパティ問題~対応協議Z9p~
説明方法についてOKを得る」と記載されているが(乙D3・7頁),原告の述
べるとおりのやり取りが行われたのであれば,何故に「説明方法についてOK
を得る」と記載されているのか説明がつかず,原告の供述は執務記録の記載と
整合しない。
(オ)過誤の可能性があるにすぎないと判断した旨の供述について
a原告は,Z1から電話で聴取した内容も踏まえてZ2部長と協議を行い,
過誤による改変の可能性があるにすぎないとの判断をした旨述べている。
しかし,前述したとおり,原告は,Z9等から,Z1が本件改ざんを行って
おり,しかも,関係者の供述に合わせるため最終更新日時を6月8日にしてい
る可能性が高いとも聞いていたにもかかわらず,2月1日の前記電話でZ1に
対し上記最終更新日時が何時に変わったのか確認しても不明との回答を得た
にすぎず,Z1が故意に改ざんをした疑いは依然解消されていなかったのであ
るから,前述のとおり,Z1の説明の真偽を判断するために必要な調査が色々
考えられ,それを行ってしかるべきであるにもかかわらず,これをほとんど行
わずに,過誤の可能性があるにすぎないとの判断を下したというのは極めて不
自然である。
bまた,原告が使用していた執務記録(乙D2・5頁)には,「2/5Z1P
へ指示・指導すべき事項として」との表題の下,「客観証拠の作為を加え
たことについて」「これを安易に変更して乗り切ろうとすることは思い上が
りもはなはだしい!」「D・SDとも一度は辞職を覚悟したbut『Z1P
は救いたい。何とかならないか?』とない知恵をしぼった」「当面,証拠物
の管理におけるミスという主張を貫く」などと記載されている(乙D2・5頁)。
これらの記載は,原告及びZ2部長が,Z1が客観証拠に作為を加えたこと
を認識した上で,Z1をかばうために証拠物の管理ミスと主張を貫いたとの
趣旨であると認められ,Z1は故意に改ざんを行ったのではなく,過誤によ
る改変の可能性があったにすぎないと判断した旨の原告の供述は,これらの
記載と整合しない。
この点,原告は,「客観的証拠に作為を加えたことについて」との記載は,
客観的証拠から読み取れる客観的事実を前提にしてストーリーを考えるべき
であり,Z1がZ8の供述をもって,この客観的な事実を書き換えた,それ
は客観証拠を軽視することも甚だしいという趣旨であり,「これを安易に変
更」とは,変え難い事実を署名さえすればどうにでもなる供述調書で捻じ曲
げるという趣旨であって,Z1が改ざんを行ったことを前提とする記載では
ない旨述べているが(乙C15・57~59頁),一般の用語法からおよそ
かけ離れており,到底信用することはできない。また,「当面,証拠物の管
理におけるミスという主張を貫く」との記載は,過誤の可能性があるにすぎ
ないとのZ1の説明が嘘であるとは言えない以上,他人に説明する場合には
証拠物の管理におけるミスであると説明する,そうしないと噂が噂を呼ぶこ
とになるということを自戒のために記載したものであると原告は述べている
が(乙C15・62,63頁),原告の説明によれば,Z1に対する指導の内
容をまとめた記述に自戒の言葉が混在していることになり,不自然であって
措信することができない。
cさらに,原告は,Z12及びZ15はZ1が故意により改ざんをしたもの
と疑っていると思っていたというのであるから(乙C16・30頁),原告
及びZ2部長が,真実,過誤による改変の可能性があるにすぎないと判断し
たのであれば,Z12及びZ15に対し,その旨を説明してしかるべきであ
るが,Z12及びZ15に対し,判断結果を伝えたことはなく,誤解を解こ
うとしたこともない(乙C16・30~35頁)というのも不自然である。
(カ)小括
以上のとおり,原告の供述は,その供述内容に不合理又は不自然なところが
ある上,執務記録の記載や他の信用性の高い証言等とも整合していないから,
信用性に乏しいというべきである。
(6)懲戒事由の存否
ア前記前提事実及び信用性の高い,Z12,Z9及びZ1の各供述に加え,括弧
内掲記の証拠を総合すると,以下の各事実を認めることができる。
(ア)1月30日午後11時過ぎ頃,Z1は,本件電話において,原告に対し,本
件データのプロパティ情報の更新日時を6月1日から6月8日に改ざんしたこ
とを告白し,これにより原告は,Z1が本件改ざんを行ったことを認識した。
(イ)原告は,2月1日午前9時40分過ぎ頃,部長室においてZ2部長に対し,
Z1が本件改ざんを行ったことを報告し,これによりZ2部長も,Z1が本件
改ざんを行ったことを認識した。
(ウ)同日午前9時50分頃,原告は,部長室から退室し,副部長室で待機してい
たZ12,Z9,Z15及びZ16に対し,本件改ざんについて口外しないよ
う告げた上で散会させた。
(エ)原告及びZ2部長は,同日午後1時30分頃から二人だけで話し合い,途中
からZ9も呼び出して話し合うなどしたが,同日午後3時頃までには原告との
話合いを終えた。Z2部長は,原告及びZ9と部長室で話をしていた際,Z9
に対し,「もうこれからは誰にも言うな。かん口令だ」と命じるとともに,原
告に対し,本件改ざんの事実を知っているZ12,Z15,Z16に対しても
かん口令を徹底することを指示し,また,Z2部長は,このことが公になった
ら大変なことになるぞ,Z1が首になるだけでなく,逮捕されるぞ,そうなっ
たら大阪特捜がなくなってしまう,僕が部長をしている間にこの大阪特捜を潰
すわけにはいかないんだなどと述べた。(乙D1・5-2)
(オ)原告は,同日午後4時20分頃,Z1に電話をし,Z1に対し,「過誤とい
うことで説明を付けられないのか」と尋ねたところ,Z1は説明を付けること
は可能であるとして,Z11報告書があるのに本件データを改ざんするはずが
なく,改ざんしたデータの入っている本件FDを持ち主であるZ8に返すはず
がない,本件データのコピーを見て,いろいろ検証していたときに,間違えて
本件FDに入っている元のデータを変えた可能性がある,との説明が考えられ
ることを伝えたところ,原告は,「分かった,それで行こう,それが真実だ,
真実は一つだ」と述べた。
(カ)2月2日午前9時30分頃,原告はZ2部長に対し,前日にZ1から聴取し
た説明方法を報告した。その後,Z2部長は,Z9を呼び出し,Z9に対し,
「今回の件はZ1君のミステイクということで行くから」などと述べて,本件
改ざんを過誤による改変であると説明する旨の方針を伝えた。
(キ)同日正午頃,原告は電話でZ1に対し,本件改ざんは過誤によるものである
と説明することになったとの方針を伝えた上で,故意による改ざんではなく過
誤であるとした場合にどのような説明が付けられるのかを改めて聴取し,更に
Z9に指示して再度Z1から説明方法を聴取した。
(乙D3・7頁)
(ク)原告及びZ2部長は,同日午後5時頃,Z9と共に次席検事室に行き,Z3
次席に対し,Z8が本件データを改ざんしているのではないかとの疑いがあっ
たので,Z1が検証を行ったところ,Z15が,Z1がデータの改ざんをした
と騒ぎ立てた,そこで原告が調査を行ったが,Z1が改ざんをしたということ
ではなく,データが書き換わってしまったかもしれない,つまり証拠管理上の
ミスがあったかもしれないという程度の話でしたなどと虚偽の報告をした。
(ケ)原告,Z2部長は,2月3日午前11時頃,Z9とともに,大阪地検検事正
室に行き,Z4検事正に対し,「当部のZ15君が,Z1君が証拠品を改ざん
したとか,ごちゃごちゃ騒いでまして,その点についてZ20君が調査に当た
ったところ,何ら問題はありませんでした。要するに,Z15君の言い掛かり
でした」などと虚偽の報告をした。
(コ)原告は,Z2部長の指示により,2月8日,Z1に対し,何か聞かれたとき
に過誤だと説明が付けられるようにするため,本件FDのデータが過誤により
改変された可能性があるにとどまる旨説明した書面を作成するよう指示した。
これを受けて,Z1は,「本件データ確認作業中,本件データが過誤によって
改変された可能性はあるが,本件FDが還付されていて改変の有無は確定でき
ない」との上申書案を作成し,同月10日,上申書案の提出を受けた原告はこ
れを了承し,同じく提出を受けたZ2部長は,これを基本的に了承するととも
に,その一部についてより合理的な説明方法を考えるよう指示した。
イ検討
(ア)2月1日午前9時40分過ぎ頃に,原告がZ2部長に対してZ1が本件改ざ
んを行ったことを報告したことにより,原告及びZ2部長の両名が本件改ざん
の事実を認識するに至っており,その後,原告及びZ2部長は,本件改ざんの
事実を知っているZ9らに対し,上記ア(ウ)(エ)のとおり,本件改ざんを
口外しないよう指示しているが,口外を禁止すること自体は,Z1を隠避する
意図がない場合でも,情報管理の一環として行われることがあり得るから,直
ちに犯人を隠避する意図で行われたものと認めることはできない。Z2部長は,
Z9に対しかん口令を出した際に,このことが公になったら大変なことになる
ぞ,Z1が首になるだけでなく,逮捕されるぞ,そうなったら大阪特捜がなく
なってしまう,僕が部長をしている間にこの大阪特捜を潰すわけにはいかない
んだなどと述べていることからすると,Z2部長に関しては,既にこの時点で
Z1を隠避する意思があったことが窺われ,また,原告が同日午後4時20分
頃にZ1に対し電話で「過誤ということで説明を付けられないか」と尋ねてい
ることからすると,原告とZ2部長との間で,本件改ざんを過誤による改変と
の説明によりもみ消すことが検討されていたことは推認することができるが,
他方でZ2部長は,翌2日午前零時11分に二男に対し辞職をほのめかす携帯
メールを送っていることからすると,本件改ざんを過誤による改変であるとし
て説明をすることが可能であるか否かが分からないこの段階で,犯人隠避を行
うことを決断していたとまで断ずることはできず,2月1日の時点で原告及び
Z2部長との間で,犯人隠避の共謀が成立していたとの事実を認めるに足りる
証拠はない。したがって,原告が,Z1から聴取した説明方法を報告した2月
2日午前中に原告とZ2部長との間で犯人隠避の共謀が成立し,その方針をZ
9に伝えたと認めるのが相当である。
(イ)そうすると,原告は,1月30日午後11時過ぎ頃に,Z1が大阪地方裁判
所に係属中であったZ8らに対する虚偽有印公文書作成等被告事件の証拠であ
る本件データを変造したという罰金以上の刑に当たる証拠隠滅の罪を犯した者
であることを認識し,Z2部長と共謀の上,①2月2日頃,大阪地検において,
東京都内にいたZ1に対し,電話で,本件データの改変は過誤によるものとし
て説明するよう指示するとともに,同月8日頃,同庁において,Z1に対し,
上記文書データの改変が過誤だと説明できるような書面を作成するよう指示し,
同月10日頃,同庁において,同指示に基づきZ1から提出された「本件デー
タ確認作業中,本件データが過誤によって改変された可能性はあるが,本件F
Dが還付されていて改変の有無は確定できない」との趣旨の上申書案につき,
Z1に対し,その内容を基本的に了承するとともに,より合理的な説明内容と
するよう指示するなどし,上記文書データが過誤によって改変された可能性は
あるが改変の有無を確定できず,改変されていたとしても過誤にすぎない旨事
実をすり替えて自ら又は特捜部所属の検察官らを指示して捜査を行わず,②同
月2日頃,同庁において,Z3次席に対し,「Z8が本件データを改ざんして
いるのではないかとの疑いがあったので,Z1が検証を行ったところ,Z15
が,Z1がデータの改ざんをしたと騒ぎ立てた,そこで原告が調査を行ったが,
Z1が改ざんをしたということではなく,データが書き換わってしまったかも
しれない,つまり証拠管理上のミスがあったかもしれないという程度の話でし
た」旨虚偽の報告し,同月3日頃,同庁において,Z4検事正に対し,「当部
のZ15君が,Z1君が証拠品を改ざんしたとか,ごちゃごちゃ騒いでまして,
その点についてZ20君が調査に当たったところ,何ら問題はありませんでし
た。要するに,Z15君の言い掛かりでした」旨虚偽の報告をし,よって,同
次席検事及び同検事正をして,捜査は不要と誤信させて自ら又は同庁所属の検
察官らを指揮して捜査を行わないようにさせ,もって罰金以上の罪に当たる証
拠隠滅罪の犯人であるZ1を隠避させた,との事実を認めることができる。
(ウ)国公法82条1項は,①この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法
律に基づく命令に違反した場合(1号),②職務上の義務に違反し,又は職務
を怠った場合(2号)及び③国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあ
った場合(3号)に,職員を懲戒免職等の処分をすることができると定めてい
る。
原告は,上記(イ)の事実があった当時,大阪地検検事として,自ら捜査を
行うべき職務に従事するとともに,特捜部副部長として同部部長の命を受けて
同部職員を指揮して捜査を行う職務に従事していたにもかかわらず,刑法10
3条に違反して犯人を隠避したのであるから,その職務を遂行するについて,
法令に従わなかったものであって,国公法98条1項に違反し,また,原告の
行為は,その官職の信用を傷つけ,又は官職全体の不名誉となる行為でもある
から,同法99条に違反する。したがって,上記(イ)の事実は,同法82条
1項1号に該当する。
また,原告は,国公法98条1項に違反して,その職務を遂行するについて
法令に従わなかったものであるから,上記(イ)の事実は,国公法82条1項
2号にも該当する。
さらに,原告は,刑法犯に該当する行為を犯したものであり,国民全体の奉
仕者たるにふさわしくない非行のあったということができるから,上記(イ)
の事実は,国公法82条1項3号にも該当する。
(エ)なお,国家公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当す
る事実が認められる場合であっても,懲戒処分をすべきかどうか,また懲戒処分
をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その
判断は,それが社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれ
を濫用したと認められる場合には,違法となるものと解されるが,原告は,部下
検事であるZ1が証拠物を改ざんするという重大な犯罪行為を行ったことを覚
知しながら,Z1が刑事責任を問われることを回避するとともに組織防衛を図る
ため,Z2部長と共謀の上,上司に対し虚偽の報告を行うなどの犯人隠避行為を
行ったものであり,本来,社会の治安維持のために犯罪を行った者の刑事責任を
追及することを使命とする検察官が,自ら犯罪を行って捜査を妨害したのである
から,非違行為の内容及び程度が悪質であることは言うまでもなく,また,本件
非違行為が検察官の公務に対する国民の信頼を著しく毀損し,今後の公務遂行に
及ぼす支障の程度も大きいことなどに照らすと,本件懲戒免職処分が,裁量権の
範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとも言えない。
2本件処分説明書の処分事由の記載が十分か否か
(1)国公法89条1項は,職員に対し,懲戒処分を行おうとするときは,その処分の
際,処分の事由を記載した説明書を交付しなければならないと定めている。
同項が処分者に対し処分説明書の交付を義務付けているのは,処分された職員に
対して,いかなる非違行為について当該処分がなされたのかを知らしめることによ
り,これに不服がある場合には人事院に対する不服の申立て等の機会を与えること
によって,その職員の身分を保障し,併せて処分が公正,慎重になされることを担
保しようとしたものであると解されることからすると,処分説明書には,処分の根
拠となる法条と,これに該当する非違の基本的な事実が事実関係の同一性を識別す
ることができる程度に具体的に記載されていることを要し,かつ,それで足りると
解される。
(2)これを本件についてみると,本件処分説明書には,処分の根拠となる法条が
国公法82条1項1ないし3号であることが明記されており,また,これに該当す
る非違事実として,Z1が本件データを変造したという証拠隠滅の罪を犯した者で
あることを知りながら,Z2部長と共謀の上,Z1を隠避させたことが,隠避行為
の日時,場所及び行為の内容等を具体的に摘示して記載されているから,被処分者
がいかなる行為を理由として処分されたのかを知り得るに十分な事実が記載されて
いる。
原告は,別紙記載の事実には,何故国公法82条1項1号ないし3号に当たるの
かについて各号ごとに明示されていないから,本件処分説明書の処分事由の記載は
不十分であると主張しているが,懲戒処分の根拠となる法条とこれに該当する基本
的な事実関係が記載されているのであれば,当該事実が懲戒処分の根拠となる法条
に当てはまるのか否かは被処分者が自ら検討することが可能であることから,国公
法82条1項各号についての当てはめの説明が記載されていなくとも違法ではない。
また,原告は,原告がZ1の犯罪行為について捜査を行うべき作為義務が発生し
ていたことの説明及び作為義務発生の法令上の根拠が明示されていないから,本件
処分説明書の処分事由の記載が不十分であるとも主張しているが,本件処分説明書
には作為義務の発生根拠となる原告の地位が具体的に記載されていること,原告は
検察官であり犯罪行為について捜査を行うべき義務があるか否かは当然熟知してい
ることに照らし,十分な記載がされているというべきである。
さらに,原告は,原告とZ2部長との間において,いつ,どこで,どのような共
謀がなされたのか特定・明示がされていないから,処分事由の記載として不十分で
ある旨主張しているが,処分行政庁が,2月1日にZ1による証拠隠滅の犯行を知
った検事に対して他言を禁じた時点までに,本件処分説明書記載の各行為を行うこ
とについて共謀が成立していることを前提として本件懲戒免職処分を行ったことは
本件処分説明書の記載から明らかである。原告の主張は,これだけでは足りず,2
月1日以前のいつの時点で共謀が成立したのか,共謀が成立したときの具体的な原
告とZ2部長とのやり取り,共謀がどこで行われたのかなどの事実を記載しなけれ
ば違法であるとの趣旨であると解されるが,このような細かい事実の認定判断如何
によって,被処分者が不服を申し立てるか否かを判断するとは通常考えられないか
ら,これらの事実が記載されていないからといって,違法となるものではない。
(3)したがって,本件処分説明書の処分理由の記載が不十分であるから本件各処分は
違法であるとの原告の主張は採用することができない。
3本件各処分が無罪推定原則に違反するか
原告は,原告が刑事事件で犯人隠避を行ったことを否認し,かつ,本件各処分の処
分事由についても一貫して否認しているのであるから,本件各処分は無罪推定の原則
及びこれを定めた国際人権B規約14条2項に反すると主張しているが,無罪推定の
原則及びこれを定めた国際人権B規約14条2項は,国の刑罰権の発動を前提とする
刑事手続において妥当するものであり,公務の信頼の確保及び公務秩序維持という刑
事手続とは別の観点から行われる懲戒処分について妥当するものではない。
したがって,本件各処分が無罪推定の原則及び国際人権B規約14条2項に反する
との原告の主張は失当である。
4本件各処分が検察庁法25条に違反するか
原告は,本件では本件各処分の時点において懲戒免職処分事由が存在することが明
らかな事案ではないから,仮に検察官ではなく一般職の国家公務員が本件と同様の犯
人隠避罪を行ったとすれば国公法79条に基づき起訴休職とされる事案であること
に疑問の余地はなく,そのような事案で懲戒免職処分とすることは,国公法79条の
休職規定の適用を排除して,一般の国家公務員よりも検察官の身分を厚く保障してい
る検察庁法25条の趣旨に反すると主張している。
しかしながら,本件各処分は原告が刑事事件で起訴される前に行われているところ,
仮に検察官ではなく一般職の国家公務員が同様の犯行を行った場合であっても起訴
休職にせず,起訴前に懲戒処分を行うことができるのであるから,それが直ちに検察
庁法25条の趣旨に反するとはいえない。加えて,国公法は休職処分についての具体
的な基準を設けていないから,公務員が刑事事件につき起訴された場合に,休職処分
を行うか否かは,任命権者の裁量に任されていると解されているところ(最高裁昭和
63年6月16日第一小法廷判決・最高裁判所裁判集民事154号133頁),原告
は処分事由を否認しているが,前述のとおり,Z12,Z9及びZ1の各供述など処
分事由を認定するための十分な証拠が存在していること,本件各処分の対象とされて
いる事由は,検察官である原告が犯人隠避という犯罪行為を行ったというものであり,
刑事事件について,捜査及び起訴・不起訴の処分を行い,裁判所に法の正当な適用を
請求し,裁判の執行を指揮監督することなどを職責とする検察官の公務に与える影響
は甚大であることなどからすると,仮に検察官に起訴休職の制度が設けられており,
かつ,起訴休職の適用が問題となる事案であったとしても,原告が主張するように当
然に起訴休職となるような事案とは到底言い難い。
そうすると,本件各処分が検察庁法25条の趣旨に反するとの原告の主張は,およ
そ前提を欠くものであるから,採用することができない。
5本件各処分が国公法85条を潜脱するものであるか
国公法85条は,懲戒に付せられるべき事件が,刑事裁判所に係属する間において
も,人事院又は人事院の承認を経て任命権者は,同一事件について,適宜に,懲戒手
続を進めることができることを定めているが,本件懲戒免職処分は原告に対する刑事
事件が起訴されるよりも前に行われているから,本件各処分は国公法85条に違反し
ない。
原告は,国公法85条が,人事院の承諾を経ることとしているのは,裁判の結果い
かんが懲戒処分を決定する上で重大な影響があると認められる場合には,刑事裁判の
終結まで懲戒手続の進行を停止するため,その判断を人事院に委ねる趣旨であるとこ
ろ,処分行政庁が起訴直前に本件懲戒免職処分を行ったのは,起訴後に懲戒免職処分
を行うには人事院の承認を経る必要があるのでこれを避けるためであり,本件のよう
に刑事裁判の結果如何が懲戒処分を決定する上に重大な影響があると認められる事
案について起訴直前に懲戒処分を行うのは国公法85条の潜脱である旨主張してい
る。
確かに,国公法85条が,懲戒に付せられるべき事件が刑事裁判所に係属する場合
に任命権者が懲戒手続を進めるには人事院の承認を経ることとしているのは,裁判の
結果の如何が懲戒処分を決定する上に重大な影響がある場合には刑事裁判の終結ま
で懲戒手続の進行を停止する必要があり,その判断を人事院に委ねる趣旨であると解
される。しかしながら,他方,懲戒処分の対象となる行為が犯罪行為にも該当するの
であれば,当該行為につき刑事事件が起訴されていない場合であっても,将来刑事事
件が起訴されることはあり得るから,刑事裁判の結果如何が懲戒処分を決定する上で
重大な影響を及ぼす可能性は否定できないが,そうであるにもかかわらず,国公法8
5条は,懲戒に付せられるべき事件が刑事裁判所に係属する場合に限り,人事院の承
認を要するとしているのは,懲戒処分は公務の信頼の確保及び公務秩序の維持の観点
から時宜に即して行うことが望ましいこと,未だ刑事事件が起訴されていない場合に
は,懲戒に付せられるべき事件に関して刑事事件が起訴されるのか否かも明確でない
のが通常であること,刑事事件が起訴される可能性の程度によって人事院の承認の要
否を区別するのは基準が不明確であって懲戒手続の安定性を害することから,各事案
の個別事情にかかわらず,刑事事件が起訴されているか否かによって一律に人事院の
承諾の要否を区別する趣旨であると解される。そうすると,懲戒処分が行われた時期
が刑事事件の起訴される直前であったかどうか,あるいは刑事事件が起訴される見込
みがどの程度であったかなどの事情は,国公法85条が考慮することを予定していな
いのであるから,起訴直前に行われた本件懲戒免職処分が国公法85条を潜脱するも
のであるとの原告の主張は失当である。
6起訴直前に行われた本件各処分が懲戒権行使に関する手続上の裁量を逸脱ないし
濫用した違法な処分か
原告は,検察官に起訴休職の制度がないのは一般職公務員よりも手厚い身分保障を
与える趣旨であるから,一般職国家公務員よりも保護を弱めた性急な懲戒権行使を行
うことは本末転倒であり,手続的にその裁量を逸脱ないし濫用したものと評価される
べきと主張している。
しかし,そもそも起訴休職制度は,主として公務に対する国民の信頼確保と職場秩
序の保持を目的とする制度であって(前記最高裁昭和63年6月16日判決参照),
同制度が犯罪を犯し起訴された公務員に有罪判決確定までは休職とされ懲戒処分を
受けないことを保障したことを前提とするかのような主張は失当である。結局,その
実質は上記4の主張の繰り返しであり,かかる主張を採用することができないことは
前述のとおりである。
また,処分行政庁は,原告が検察官として職務を行うことを止める法的根拠がな
いため,原告が刑事裁判で無罪となるリスクを承知しつつ,本件懲戒免職処分を行
ったものであって,その手続の裁量を逸脱濫用したものであるとも主張しているが,
かかる主張もいかなる手続規定に違反するのが明確でなく,また,本件懲戒免職処
分の処分事由を認定することができることは前述のとおりであるから,処分庁が,
原告が刑事裁判で無罪となるリスクを承知しつつ敢えて本件懲戒免職処分を行っ
たとも認めることができない。
したがって,本件各処分が手続上の裁量を逸脱濫用したとの原告の主張も採用する
ことができない。
7本件退職手当支給制限処分における所定事情の勘案は十分か
退職手当法12条1項は,退職をした者が,懲戒免職等処分を受けて退職をした者,
又は国公法76条の規定による失職又はこれに準ずる退職をした者のいずれかに該
当するときは,当該職員の退職の日において当該職員に対し懲戒免職等処分を行う権
限を有していた機関である退職手当管理機関は,「当該退職をした者が占めていた職
の職務及び責任,当該退職をした者が行つた非違の内容及び程度,当該非違が公務に
対する国民の信頼に及ぼす影響その他の政令で定める事情を勘案して,当該一般の退
職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる」と定め,
これを受けて同法施行令17条は,「法第12条第1項に規定する政令で定める事情
は,当該退職をした者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした者の勤務の状
況,当該退職をした者が行つた非違の内容及び程度,当該非違に至つた経緯,当該非
違後における当該退職をした者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並
びに当該非違が公務に対する国民の信頼に及ぼす影響とする」と定めている。したが
って,退職手当管理機関は,退職手当支給制限処分を行うに当たり,同法12条1項
及び同法施行令17条所定の各事情を勘案して処分を行う必要がある。
そして,上記のように退職手当支給制限処分を行うに当たっては,広範な事情につ
いて総合的に考慮することが求められていることからすると,当該一般の退職手当等
の支給を制限するか否か及び制限する額をいくらにするかの判断は,平素から内部事
情に通じ,職員の指揮監督に当たる退職手当管理機関の裁量に委ねられているが,そ
の判断が社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した
と認められる場合には違法となるものと解するのが相当であるから,退職手当管理機
関が,同法12条1項及び同法施行令17条所定の各事情の一部を勘案しなかった結
果,その判断が社会通念上著しく妥当を欠く場合には,裁量権の範囲を逸脱し又はこ
れを濫用したものとして,当該退職手当支給制限処分は違法となると解される。
これを本件についてみると,原告は,特捜部副部長の要職にあり,自ら犯罪捜査を
行うべき職務に従事しているだけでなく,他の検事を指導監督する立場にあったので
あるから,原告が占めていた職の職務及び責任は重大であり,そうであるにもかかわ
らず,原告は,部下検事であるZ1が証拠物を改ざんするという重大な犯罪行為を行
ったことを覚知しながら,Z1が刑事責任を問われることを回避するとともに組織防
衛を図るため,Z2部長と共同の上,Z1に対し故意による改ざんではなく過誤によ
る改変であると説明する方法を考えるよう指示するなどした上で上司に対し虚偽の
報告を行ったものであり,本来,社会の治安維持のために犯罪を行った者の刑事責任
を追及することを使命とする検察官が,自ら犯人隠避という犯罪を行って捜査を妨害
したのであるから,本件非違行為の内容及び程度が悪質であることは言うまでもなく,
前記非違行為に至った経緯についても酌むべき事情はない。また,本件非違行為の内
容は検察官の職責に著しく反するものであるから,同行為が,公務の遂行に著しい支
障を及ぼすとともに,公務に対する国民の信頼を著しく毀損するものであることも明
らかである。しかるに,原告は本件非違行為が発覚した後もZ1を隠避した事実を否
認し,反省の態度を示していないだけでなく,当時の部下や上司にその責任を押し付
けようとしているのであるから,本件非違行為後の言動も悪質である。そうすると,
原告が長年検察官としての職務に精励してきたことなど原告の勤務の状況をいかに
考慮しても,一般の退職手当等の全部を支給しないこととした判断は妥当であるとい
うほかない。以上によれば,原告に対し退職手当等の全部を支給しないこととした本
件退職手当支給制限処分は,社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず,裁量権の
範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえない。
これに対し,原告は,本件処分書には,退職手当法施行令17条所定の勘案すべき
事情のうち,「当該退職をした者の勤務の状況」及び「当該非違後における当該退職
をした者の言動」についての記載がないことから,処分行政庁はこれらの事情を勘案
せずに本件退職手当支給制限処分を行ったものであり,したがって,同処分は違法で
あると主張している。しかしながら,退職手当法12条1項及び同法施行令17条が
退職手当支給制限処分を行うに当たり退職手当管理機関が勘案すべき事情を列挙し
ているのは,処分の適正を担保するためであるから,退職手当法12条1項及び同法
施行令17条所定の事情を適切に勘案しなかったことにより退職手当支給制限処分
が適正を欠く場合に限り,これを違法として取り消せば足りると解されるところ,原
告の本件非違行為後における言動はむしろ悪情状であること及び原告の勤務状況を
考慮しても当該一般の退職手当等を全部支給しないこととする判断が妥当であるこ
とは前述のとおりであり,したがって,本件においては適正な処分が行われているの
であるから,本件退職手当支給制限処分を違法として取り消すべき理由はない。
8結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
裁判長裁判官中垣内健治
裁判官中島崇
裁判官別所卓郎
別紙2
被処分者は,平成20年4月1日から平成22年3月31日までの間,大阪地検検事
として,自ら捜査を行うべき職務に従事するとともに,特捜部副部長を命ぜられ,特捜
部長の命を受けて同部所属の検察官らを指揮して捜査を行う職務に従事していたもの
であるが,同部所属検事Z1が大阪地方裁判所に係属中であったZ8らに対する虚偽有
印公文書作成等被告事件の証拠である本件データを変造したという罰金以上の刑に当
たる証拠隠滅の罪を犯した者であることを知りながら,Z2部長と共謀の上
1平成22年2月1日ころ,大阪市α×番60号所在の大阪地検において,Z1によ
る証拠隠滅の犯行を知った大阪地検検事らに他言を禁じた上,同月2日ころ,同所に
おいて,東京都内にいたZ1に対し,電話で,本件データの改変は過誤によるものと
して説明するよう指示するとともに,同月8日ころ,大阪地検において,Z1に対し,
本件データの改変が過誤だと説明できるような話を考えておくよう重ねて指示し,同
月10日ころ,同所において,同指示に基づきZ1から提出された「本件データ確認
作業中,本件データが過誤によって改変された可能性はあるが,本件FDが還付され
ていて改変の有無は確定できない」との趣旨の上申書案につき,Z1に対し,その内
容を基本的に了承するとともに,より合理的な説明内容とするよう指示するなどし,
本件データが過誤によって改変された可能性はあるが改変の有無を確定できず,改変
されていたとしても過誤にすぎない旨事実をすり替えて自ら又は同部所属の検察官ら
を指示して捜査を行わず
2同月2日ころ,同所において,Z3次席に対し,「Z1が本件データ確認作業を行
ったことを本件データの書き換えであると公判担当の検事が問題としたがそれは言い
がかりにすぎず,本件データについては本件FDが還付されていて改変の有無を確認
できない上,本件データが変わった可能性があっても確認作業中の過誤にすぎない」
旨虚偽の報告し,同月3日ころ,同所において,Z4検事正に対し,「Z1が本件デ
ータ確認作業を行ったことを本件データの書き換えであると公判担当の検事が騒いで
いるが,言いがかりであり問題はない」旨虚偽の報告をし,よって,Z3次席及びZ
4検事正をして,捜査は不要と誤信させて自ら又は大阪地検所属の検察官らを指揮し
て捜査を行わないようにさせ
もって罰金以上の罪に当たる証拠隠滅罪の犯人であるZ1を隠避させた。

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