弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1被告Y1株式会社は,原告X1に対し,2462万3747円及びこれに対
する平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2被告Y1株式会社は,原告X2に対し,827万4249円及びこれに対す
る平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告Y1株式会社は,原告X3に対し,827万4249円及びこれに対す
る平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告Y1株式会社は,原告X4に対し,827万4249円及びこれに対す
る平成18年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告らの被告Y1株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。
6原告らの被告Y2株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
,,7訴訟費用は原告らと被告Y1株式会社との間に生じた費用はこれを3分し
その1を原告らの負担とし,その余を被告Y1株式会社の負担とし,原告らと
被告Y2株式会社との間に生じた費用は原告らの負担とする。
8この判決は,第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告X1に対し,各自3662万8273円及びこれに対する平
成18年6月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
2被告らは,原告X2に対し,各自1220万9424円及びこれに対する同
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告らは,原告X3に対し,各自1220万9424円及びこれに対する同
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告らは,原告X4に対し,各自1220万9424円及びこれに対する同
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5訴訟費用は被告らの負担とする。
6仮執行宣言
第2事案の概要及び前提事実
1本件は,Aの相続人である原告らが,Aが悪性胸膜中皮腫にり患し,死亡し
たことについて,[]被告Y1に対しては,債務不履行,不法行為又は土地の1
工作物の設置,保存上の瑕疵に係る責任に基づく損害賠償及び遅延損害金の支
払を,[]被告Y2に対しては,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償及2
び遅延損害金の支払を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実)
()Aは,昭和8年10月3日生まれの男性であり,株式会社Bの取締役店長1
として,同社の店舗兼倉庫として使用していた甲鉄道乙線丙駅高架下所在の
貸建物区画番号α号の建物(以下「本件建物」という)において勤務して。
いた者である。Aは,平成14年7月,b病院において悪性胸膜中皮腫の診
断を受け,平成16年7月20日,自殺により死亡した。
()原告X1は,Aの妻であり,原告X2,原告X3及び原告X4は,いずれ2
もAの子である。
()被告Y1は,鉄道事業法,軌道法による運輸業等を業とする株式会社であ3
る。
()被告Y2は,建築物及び関連設備に関するメンテナンス業務並びに清掃管4
理業務等を業とする株式会社である。
()C株式会社は,昭和45年3月2日,株式会社Bに対し,賃貸期間を同年5
,(「」。)。4月1日からとして本件建物を賃貸した以下本件賃貸借契約という
()C株式会社は,昭和48年3月1日,関連会社等を吸収合併し,同日,商6
号をD株式会社に変更した。
()D株式会社は,平成14年3月16日,被告Y2に対し,同年4月1日付7
けで本件賃貸借契約における賃貸人の地位を譲渡し,株式会社Bは,同日,
上記賃貸人の地位の譲渡を承諾した。
()被告Y1は,平成14年4月1日,D株式会社販売株式会社に一部分割し8
たD株式会社を吸収合併し(以下,この合併を「本件合併」という,こ。)
,(。。)れによりD株式会社の権利義務C株式会社時代のものを含む以下同じ
を包括承継した。
()被告Y2と株式会社Bは,平成15年3月,同月末日をもって本件賃貸借9
契約を解約することを合意した。
第3主要な争点及び当事者の主張
1被告Y1に対する請求関係
上記請求に係る主要な争点は,以下の[]ないし[]のとおりであり,これら18
についての当事者の主張は,下記()ないし()のとおりである。18
[]アスベスト(石綿)の危険性に関する知見及びアスベストの規制状況1
[]Aの悪性胸膜中皮腫の発症原因2
[]被告Y1には,本件建物の所有者として,本件建物に施工されているア3
スベスト含有吹き付け材による危険性を排除し又は同危険性を回避させる
義務(以下,単に「安全性確保義務」という)があるかどうか,及び同。
義務の違反(不法行為)があるかどうか。
[]被告Y1には,本件建物の占有者又は所有者として,本件建物の設置,4
保存上の瑕疵に係る責任があるかどうか。
[]被告Y1には,賃貸人として,本件建物の賃借人の役員又は従業員に対5
する安全性確保義務があるかどうか,及び同義務の違反(債務不履行又は
不法行為)があるかどうか。
[]被告Y1の上記[]ないし[]の義務違反等とAの死亡との間に相当因果635
関係があるか。
[]原告らの損害の有無及びその額7
[]過失相殺,損益相殺(抗弁)8
()争点[](アスベストの危険性に関する知見及びアスベストの規制状況)11
ア原告らの主張
(ア)アスベストは,耐摩擦性,耐熱性,断熱・防音・吸音性,耐薬品性等
の物質的特性を持ち,また,経済的に安価なものであることから,摩擦
,,,材保温材耐火・耐熱・吸音・結露防止目的の吹き付け材などとして
。,(),産業界に幅広く使用されてきたアスベストはクリソタイル白石綿
アモサイト(茶石綿,クロシドライト(青石綿,アンソフィライト,))
トレモライト及びアクチノライトの6種類に分類され,このうちクリソ
タイル,アモサイト及びクロシドライトが主として上記の用途に使用さ
れてきた。
(イ)他方,アスベストは,非常に細かな繊維状になる性質を有しており,
これを人が呼吸をする際に吸引し,呼吸細気管支や肺胞に到達して沈着
すると,石綿肺,肺がん,中皮腫,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚な
どの疾患を発症させるものであり,人の生命,健康に深刻な被害を及ぼ
す有害性を持つものである。アスベストの中でも,クロシドライトは,
発がん性などの有害性が最も強いものであり,少量の暴露でも致死的疾
患である中皮腫を引き起こす危険性がある。
(ウ)アスベストの危険性(がん原性(肺がん,中皮腫原性)に関する知)
見及びアスベストの規制状況は,別紙のとおりであり,これによれば,
遅くとも昭和46年ころまでには,アスベスト粉じんが人の生命,健康
に有害であることは,日本の医学界やアスベスト製造業などのアスベス
ト関連企業のみならず,アスベスト製品を使用する建築業やアスベスト
製品を使用した建築物を取り扱う不動産業などの産業界においても一般
的知見として確立していたということができる。
(エ)建物内のアスベストの飛散の危険性
建物内に施工されているアスベスト含有吹き付け材は,アスベストを
セメントと混合して下地に綿状に吹き付けるという工法により施工され
るものであり,そのような工法によるものであることから,経年劣化に
より,吹き付け層の表層部から次第にアスベスト繊維が毛羽立ったり,
表層部のアスベスト繊維が崩れたり,垂れ下がりによりほぐれたり,下
地と吹き付け層の間が浮いたりはがれたり,吹き付け層の外面が損傷し
たりなどして,徐々にアスベスト繊維が空気中に飛散するようになる。
さらに,吹き付け層が局部的にはく離して落下したり,層自体が下地か
らはがれたりして,アスベスト粉じんが発生するようになる。
イ被告Y1の認否,反論
(ア)認否
ア(ア)は認める。同(イ)は不知。同(ウ)及び(エ)は否認する。
(イ)反論
原告らが主張するアスベストの危険性に関する知見やアスベストの規
制状況は,アスベストの製造や吹き付け作業,アスベスト含有物の解体
又は焼却作業を行う作業場等における労働者の労働環境に関するもので
あって,アスベスト含有吹き付け材が施工された建物における労働環境
や生活環境に関するものではなく,アスベストを含有する一般製品や建
物設備の使用の規制,禁止に関するものではない。
原告が別紙の4()に挙げるものは,いずれも日本における一般的知2
見といえるものではない。なお,アスベスト含有建材を使用した建物に
対する対策を内容とする最初の規制法令は,平成17年7月1日施行の
石綿障害予防規則である。もっとも,同規則は,事業者は,その労働者
を就労させる建築物等に吹き付けられた石綿が損傷,劣化等によりその
,,粉じんを発散させ労働者がその粉じんに暴露するおそれがあるときは
当該吹付け石綿の除去,封じ込め,囲い込み等の措置を講じなければな
らないとするものであり(10条,事業者の労働者に対する義務を規)
定するものであって,建物所有者の義務を規定するものではない。
()争点[](Aの悪性胸膜中皮腫の発症原因)22
ア原告らの主張
(ア)本件建物内におけるアスベスト含有吹き付け材の状況
,,。本件建物は1辺が約89mの方形をした高さ約5mの部屋である
本件建物の室内壁面のうち天井端から約1.1ないし3.2mの幅の部
分には,クロシドライトを25%含有する吹き付け材が約3㎝の厚さで
むき出しのまま施工されている。
(イ)Aのアスベスト暴露
a株式会社Bは,本件賃貸借契約の締結後,本件建物を1階部分と2
階部分とに分け,1階部分を店舗として(以下,同部分を「本件1階
店舗」という,2階部分を文具類の在庫商品を置く倉庫兼帳簿等。)
をつけるための事務所として(以下,同部分を「本件2階倉庫」とい
。),。,う使用してきた上記(ア)の吹き付け材が施工されている部分は
本件2階倉庫の壁面に当たる。
b本件建物は,鉄道の高架下にあり,電車が通るたびに振動が生じ,
これにより吹き付け材の劣化が進み,昭和45年ころから,本件2階
倉庫の壁面吹き付け材に含有するアスベスト(クロシドライト)繊維
(,「」。),が粉じんとなって飛散し以下この粉じんを本件粉じんという
本件2階倉庫の商品棚,商品及び床面等に降り積もっていた。
cAは,昭和45年3月から平成14年6月までの32年間,店長と
して,毎日,午前8時ころに本件建物に出勤し,午後8時ころに閉店
するまで本件建物内で過ごしていたが,このような勤務中に本件2階
倉庫に入り,仕事をすることによって本件粉じんに暴露した。暴露の
具体的状況は,次のとおりである。
()1日に5,6回,文具の納入業者が納品した際,本件2階倉庫にa
商品を搬入した。
()本件1階店舗に展示していない商品以外の商品の注文を受け,多b
い日で約50回,少ない日で約2,30回,本件2階倉庫に商品を
取りに行った。
,,,()在庫商品の整理整頓のため1週間に数回1回につき約1時間c
本件2階倉庫内で仕事をした。
()毎月締めの日の直前には,本件2階倉庫内で伝票の整理等を集中d
的に行った。
()平成2年に電気掃除機を購入するまでは,1月に1,2回,2,e
30分かけて家庭用竹箒を使用して,同年以後は電気掃除機を使用
して,本件2階倉庫内を掃除した。
()年末には数時間かけて本件2階倉庫の大掃除をした。f
,,。()毎年棚卸しを行うために本件2階倉庫の在庫商品を確認したg
()本件2階倉庫内で仮眠をとることがあった。h
d光学顕微鏡による剖検肺を用いた石綿小体の算定を行った結果,A
の肺には,石綿小体が肺乾燥重量1g当たり平均72本検出された。
この数は,一般人の約2倍の検出量である。
電子顕微鏡によるアスベスト繊維の分析の結果,Aの肺内石綿濃度
は,肺乾燥重量1g当たり1900万本であった。これは,職業的石
綿暴露がない場合の数値である肺乾燥重量1g当たり183万本の1
0倍以上の濃度である。そして,上記アスベスト繊維のうち85%が
クロシドライトであった。クロシドライトは,通常,大気環境中で検
出されることの稀なアスベストであり,Aの肺内に認められたクロシ
ドライトは,本件2階倉庫の壁面の吹き付け材に含まれていたクロシ
ドライト以外に考えられない。
e特定非営利活動法人Gセンターが平成15年に行った本件2階倉庫
における石綿濃度測定では,[1]株式会社Bにおける普段の作業と同
様の疑似作業をしないときは,幾何平均309fL(最小272な./.
),,いし最大42[2]清掃と商品の搬入搬出の疑似作業をしたときは.
幾何平均188fL(最小102ないし最大136,[3]商品の./.)
搬入搬出の疑似作業をしたときは,幾何平均671fL(最小36./.
./.8ないし最大14)であり,全体の幾何平均は671fL(最小1
02ないし最大136)であった。また,被告Y1が平成17年11
月に本件建物のアスベスト含有吹き付け材の撤去工事を行った際に行
われた株式会社Hセンターの測定では,220fLという数値であ/
った。以上によれば,本件建物におけるアスベスト濃度は,少なくみ
ても平均で671fL程度あったと推認できる。./
日本産業衛生学会が示す許容濃度(平成13年)によれば,クロシ
ドライトを含む石綿濃度が3fLでは過剰発がんリスクレベルが1/
万人に1人とされており,本件建物内の上記石綿濃度は,上記数値の
22倍に当たる。また,世界保健機構は,大気中の石綿濃度が05..
fLのときに中皮腫が1万∼10万人に1人発生するというリスク/
評価をしている。
被告Y1が示す石綿濃度の規制値は,現在では採用されていない古
い基準値であり,この数値との比較で本件建物内の石綿濃度が低いと
主張するのは,失当である。
(ウ)Aの悪性胸膜中皮腫のり患とその原因
aAは,平成13年11月ころから,次第に咳が酷くなり,寝付けな
い日が続くようになった。Aは,平成14年になり,近くの病院で診
断を受けた結果,胸水が確認され,同年6月10日,a病院に検査入
院し,悪性胸膜中皮腫の診断を受け,同年7月,b病院に入院し,同
病院において,悪性胸膜中皮腫上皮型との確定診断を受けた。
b悪性胸膜中皮腫は,アスベストの暴露を原因とする特異的な疾患で
あり,日本では,他の原因はほとんど見当たらない。Aは,その出生
後死亡するまでの住居地において,アスベストの暴露を受けるような
環境はなく,株式会社Bの店長として本件建物で働き始めるまでの職
歴として,アスベストの暴露を受けるような仕事に従事したことはな
い。
c以上によれば,Aは,本件2階倉庫におけるクロシドライト繊維か
らなる本件粉じんに暴露したことにより,悪性胸膜中皮腫にり患した
ことは明らかである。
イ被告Y1の認否,反論
(ア)認否
。,,,,,,ア(ア)は認める同(イ)はaは認めbcの本文deは否認し
cの()∼()は不知。同(ウ)は,aのうちAが平成14年7月にb病院ah
において悪性胸膜中皮腫上皮型との診断を受けたことは認め,その余の
事実は不知であり,bのうちAがその出生後死亡するまでの住居地にお
いて,アスベストの暴露を受けるような環境がないことは否認し,その
余の事実は不知であり,cは争う。
(イ)反論
aアスベスト粉じんの暴露を受けた者が中皮腫を発症するまでには,
平均的に42,3年程度の潜伏期間がある。原告らの主張を前提とす
れば,Aは平成14年6月に悪性胸膜中皮腫の確定診断を受けたとい
うのであるから,Aがその原因となるアスベスト粉じんの暴露を受け
た時期は,同年から42,3年遡った昭和35年ころ(本件建物が建
築される前の時点)ということになる。そして,同人は,当時,以下
のとおり実際にアスベスト暴露を受ける環境に身を置いていたのであ
るから,Aの中皮腫り患は,本件建物以外の場所におけるアスベスト
の吸引が原因であると考えられる。
なお,アスベストの潜伏期間がアスベストの暴露開始から中皮腫を
発症するまでの期間をいうものであるとしても,そのことは,潜伏期
間開始時点ころの暴露が当該中皮腫発症の原因であることを否定する
ものではない。むしろ,統計的にみると,潜伏期間開始時点ころの暴
露がその原因である可能性が高いし,逆に,潜伏期間の概念は,暴露
開始時点後一定期間を経ての暴露がその原因であることを意味するも
。,のではないアスベストの暴露量と悪性胸膜中皮腫の発症との関係は
ある一定の暴露量を超えれば悪性胸膜中皮腫を発症するというような
ものではないのであって,低濃度かつ短期間の暴露でも悪性胸膜中皮
腫を発症する可能性がある。
()Aは,昭和26年4月から昭和39年4月までE工場において金a
網職工として勤務していたところ,同工場に設置された焼鈍炉には
アスベストが使用されており,Aは,同工場勤務の期間,アスベス
ト暴露を受ける環境にあった。
原告らは,Aの部検肺から検出されたアスベスト繊維のうちクロ
シドライトが最も多かったことを根拠にAの悪性胸膜中皮腫の原因
をクロシドライトとするが,前記のとおりアスベスト発症には潜伏
期間が存在することからすれば,E工場の焼鈍炉に使用されていた
アスベストがクリソタイルであったとしても,本件2階倉庫ではな
く,E工場の焼却炉からの被暴によりAの悪性胸膜中皮腫が発生し
た可能性が高い。
()Aは,昭和39年5月から昭和41年5月までF工場において金b
網職工として勤務していたところ,F工場の内部に吹き付けアスベ
ストなどのアスベストが使用されていた可能性があり,前記のとお
りアスベスト発症には潜伏期間が存在することからすれば,AがF
工場でアスベスト暴露を受け,悪性胸膜中皮腫を発症したことが十
分に考えられる。
b原告らが指摘する本件建物内の石綿濃度の数値は,平成15年当時
のものであり,Aが本件建物で勤務していた期間中の本件建物内の石
綿濃度の数値を示すものではない。
なお,被告Y2は,平成15年6月,本件2階倉庫内の石綿濃度の
検査を検査会社に依頼し,その結果,同年7月9日時点における本件
2階倉庫内の石綿濃度は05fLであった。この数値は,商業都市./
における一般大気環境における石綿濃度とほぼ同じであり,アスベス
ト関連作業現場等についての規制値として定められている労働省作業
環境測定の規制値である管理濃度2000fL,日本産業衛生学会/
が示す許容濃度2000fL,世界保健機構が示す環境保険判定基/
準10fLと比べても大幅に下回る数値である。このような濃度し/
かない本件2階倉庫において,Aが中皮腫にり患するようなアスベス
ト暴露を受けたとは到底考えられない。
cAの中皮腫について,証人W1医師は,その発症リスクは,数万分
の1から数十万分の1の一定の幅にあると推定されるとしている。
ウ被告Y1の反論に対する原告らの再反論
一般に,潜伏期間というのは,ある病原体に感染してから症状が発現す
るまでの期間を指し,病原体の感染は1回的なものである。しかし,アス
ベスト暴露による中皮腫発症に関して用いられている潜伏期間は,上記の
一般的な意味のものではなく,アスベストの暴露開始時(最初のアスベス
ト暴露)から中皮腫の発症までの期間をいうものであり,中皮腫発症の原
因となったアスベスト繊維が体内(肺,胸膜)に取り込まれてから中皮腫
が発症するまでの期間をいうものではない。したがって,アスベストに係
る潜伏期間というのは,当該期間より前の時点で体内に取り込んだアスベ
スト繊維のみが中皮腫の発症に関係し,それ以後当該期間中に体内に取り
込んだアスベスト繊維が中皮腫発症に関係しないことを意味するものでは
ない。
()争点[](被告Y1には,本件建物の所有者として,本件建物の安全性確33
保義務があるかどうか,及び同義務違反があるかどうか)。
ア原告らの主張
(ア)被告Y1の建物所有者としての本件建物の安全性確保義務
a建物所有者は,その所有建物について人の生命,健康を害する危険
が生じた場合には,自らその危険を除去するか,当該建物使用者に対
してその旨警告し,安全対策を執らせる注意義務がある。当該建物が
分譲用建物や賃貸用建物であり,その所有者が建物の売買,賃貸を業
とする者である場合には,上記注意義務はより高度なものが要求され
るというべきである。
b本件建物の所有者
()本件建物は鉄道の高架下に存在するところ,鉄道の高架自体は被a
告Y1の所有物であることからすれば,少なくとも本件建物の屋根
にあたる部分及びこれを支える部分は被告Y1の所有であり,本件
建物の主たる部分は被告Y1の所有である。したがって,本件建物
の建設当初より被告Y1が本件建物全体の所有者である。
なお,原告らは,訴訟の当初から,本件建物の建設当時から本件
建物の所有者が被告Y1であると主張しており,主張を撤回したこ
とはない。また,当該主張の適否の判断のために新たな立証の機会
が必要なものでもない。したがって,原告らの本件建物建設当初か
ら本件建物の所有者が被告Y1であるとの主張は,時機に後れた攻
撃防御方法として却下の対象とはならない。
()仮に,被告Y1が,建設当初よりの本件建物の所有者ではなく,b
C株式会社が本件建物を建築して所有していたものだとしても,C
株式会社は,その後,関連会社等との合併及び商号変更により,D
株式会社となり,更にその後,被告Y1は,本件合併により,D株
式会社の権利義務を包括的に承継して本件建物の所有者となった
(以下,原告が本件建物の所有者に関し「被告Y1」の呼称を用い
る際には,1次的には昭和45年当時からの本件建物の所有者との
意味で,2次的には本件合併前のC株式会社及びD株式会社が主体
となる事柄に関してそれらの権利義務を包括承継した立場との意味
で用いる。。)
c本件建物は,人の生命,健康に有害な物質であるアスベスト含有吹
,,,き付け材が施工されていた建物でありかつ賃貸用建物であるから
建物賃貸を業とする被告Y1は,本件建物所有者として,本件建物の
安全性を確保する注意義務があり,その程度は高度なものである。
(イ)被告Y1の建物所有者としての本件建物の安全性確保義務違反
a上記()アのアスベストの危険性に関する知見及びアスベストの規1
制状況並びに下記()及び()の事情に照らすと,被告Y1は,昭和4ab
6年時点で,本件建物内に施工されているアスベスト含有吹き付け材
の有害性,危険性を認識し又は認識し得た。
()昭和46年4月28日に公布された特定化学物質等障害予防規則a
(労働省令第11号。以下「旧特化則」という)は,その規制対。
象とする化学物質等を分類した上で,これらの化学物質等を扱う事
業者に対し,化学物質等による労働者の健康障害を予防するため,
使用する物質の毒性の確認,作業方法の確立,関係施設の改善,作
業環境の整備,健康管理の徹底その他必要な措置を講ずるよう努め
ること(1条,石綿を含む第二類物質の粉じん等が発生する屋内)
作業場における局所排気装置の設置5条除じん装置の設置9(),(
条,設備の改善等に関する措置(22条,呼吸用保護具の備え))
付け(43条)など,執るべき措置を定めている。昭和47年に発
行された労働省安全衛生部労働衛生課編の旧特化則の解説には,石
,,,綿が中皮腫を引き起こすこと石綿が保温剤ブレーキライニング
トムレックスなどに使用されていることが記載されている。
,,,()被告Y1は昭和46年当時鉄道事業及び自動車事業においてb
旧特化則5条の適用を受ける石綿粉じんが発生する屋内作業場を有
する事業者であった。
C株式会社及びD株式会社は,被告Y1の支配下にあった法人で
あり,それらの間において,役員を兼任する者がおり,情報も共有
化されていた。
b被告Y1は,本件建物の建築を発注した者であることからすると,
本件賃貸借契約が締結された後である昭和46年ころ又は遅くとも株
式会社Bに本件建物の隣接建物を貸し増しした昭和55年ころには,
本件建物内にアスベスト含有吹き付け材が施工されていること及びそ
れが施工されている本件2階倉庫内で発生する本件粉じんが本件建物
を使用する人の生命,健康に有害なものであることを知り又は知り得
た。したがって,被告Y1は,昭和46年又は昭和55年ころにおい
て,本件建物内における本件粉じんの飛散を防止するため,本件2階
倉庫内のアスベスト含有吹き付け材が施工されていた壁面を非石綿建
材で覆って囲い込むなどの措置を執るべき注意義務があった。
なお,上記認識の程度については,被害法益が人の生命,健康とい
う代え難いものであるときは,その被害法益の重大性にかんがみ,安
全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り,必ずしも生
命,健康に対する悪影響の内容,程度,発症頻度について具体的に認
識する必要はない。また,アスベストが人の生命,健康に与える重大
な危険性にかんがみても,このような危険な物質が上記()ア(ア)のと2
おり壁面にむき出しのままの状態で存在していた本件建物の所有者で
ある被告Y1が認識すべき事柄は,アスベストの安全性に疑念を抱か
せる程度の抽象的な危惧であれば足り,必ずしも生命,健康に対する
悪影響の内容,程度,発症頻度について具体的に認識する必要はない
というべきである。
cまた,仮に被告Y1が上記bの措置を執ることが不可能であったと
しても,被告Y1は,昭和45年4月から平成14年6月までの間,
本件建物を賃借して使用していた株式会社Bに対し,本件建物にアス
ベスト含有吹き付け材が施工されており,アスベストが飛散するおそ
れのあることを伝えた上で,本件建物を使用する株式会社Bの従業員
等が本件粉じんの暴露を受けないように対策を執るよう警告すべき注
意義務があった。
しかし,被告Y1は,上記の措置及び警告のいずれもしなかった。
この不作為は,昭和45年4月から平成14年6月までの間本件建物
を使用していたAに対する不法行為となる。
イ被告Y1の認否,反論
(ア)認否
ア(ア)b()は認めるが,その余は否認する。b
原告らの本件建物建設当初から被告Y1が本件建物の所有者であった
との主張は,第12回口頭弁論期日において確定した争点整理案に反す
るものであり,従前原告らが自白した事実を撤回するものであって,被
告らは当該自白の撤回に異議がある。仮に裁判上の自白に当たらないと
しても,時機に後れた攻撃防御方法にあたる。
(イ)反論
a原告らが主張する被告Y1(以下,被告らが本件建物の所有者に関
し「被告Y1」との呼称を用いる場合,本件合併前のC株式会社及び
D株式会社が主体となる事柄に関してそれらの権利義務を包括承継し
た立場との意味で用いる)の「安全性確保義務」なるものは,被告。
Y1とAとの間において何らの法律関係もない場面(被告Y1が本件
建物の所有者であるだけ)では発生する根拠のないものである。した
がって,被告Y1は,原告らが主張する一般的,抽象的な危惧感を前
提とした作為義務を負わない。
そもそも,吹き付けアスベストの危険性についての一般的知見や本
件2階倉庫の吹き付けアスベスト被害の予見可能性に関する原告らの
主張は,本件の場合,C株式会社,D株式会社及び被告Y1が,本件
2階倉庫の壁面防火材として吹き付けアスベストが使用されているこ
とを認識していたことが前提となる。この前提を欠く上記主張は論理
的に意味がない。
b原告らが主張するアスベストの危険性に関する知見やアスベストの
規制状況は,アスベストの製造業や取扱業における労働者の労働環境
に関するものであり,アスベスト含有吹き付け材が施工された建物に
おける労働環境や生活環境に関するものではない。旧特化則は,事業
場での生産活動に起因する公害問題,事業場内の労働者の健康を守る
だけでなく,その結果として公害防止に寄与する方針の下に,制定,
施行されたのであり,事業場での生産活動に起因する公害問題を対象
としているものである。したがって,事業場での生産活動に起因しな
い本件2階倉庫におけるような一般建物のアスベスト含有吹き付け材
及び同材が施工されている建物での業務を規制対象とするものではな
い。
被告Y1は,アスベスト関連製品の製造業者でも,その取扱業者で
もなく,本件建物に関しては,アスベスト製品の利用者,消費者にす
ぎず,アスベスト粉じんが人の生命,健康を害するか否かに関する知
見も一般人と同程度にしか有していなかった。被告Y1が,建物内の
アスベスト含有吹き付け材の損傷や劣化等によって人体に中皮腫等の
健康被害が生じる可能性があることを具体的に認識したのは,平成1
7年2月24日に石綿障害予防規則が制定されたころである。
また,被告Y1は,本件建物を建築するに際し,建築業者に対し,
壁面にアスベスト含有吹き付け材を使用することを指定したこともな
ければ,本件建物にアスベスト含有吹き付け材が施工されていること
も知らなかった。被告Y1は,本件建物内にアスベスト含有吹き付け
材が施工されていることについては,平成15年6月ころ,本件建物
の賃貸人の地位をD株式会社から承継した被告Y2から聞いて初めて
知った。
したがって,国が使用を許可している建材を使用して建築された建
物の所有者に対し,建材の危険性について,国が対策を指示する以前
に知り,かつ,その対策を執ることを期待することは困難であり,も
とより,アスベスト専門業者でもアスベスト取扱業者でもない建物所
有者が,その危険性を調査,研究すべき義務もない。被告Y1は,A
が本件建物で勤務していた期間中には,本件建物内にアスベスト含有
吹き付け材が存在していたこと及びその危険性をいずれも知り得なか
ったから,結果回避義務の前提となる予見可能性がなく,原告らの不
法行為の主張は,前提を欠き,失当である。
()争点[](被告Y1には,本件建物の占有者又は所有者として,本件建物44
の設置,保存上の瑕疵に係る責任があるかどうか)。
ア原告らの主張
(ア)本件建物の占有者としての責任
「」,,a民法717条1項にいう占有者とは直接占有者だけに限らず
被害者に対する関係で土地工作物を管理,支配すべき地位にある者も
これに当たると解するのが相当である。そして,被害者に対する関係
で土地工作物を管理,支配すべき地位にある者かどうかは,土地工作
物に対する関与の権限,態様,瑕疵作出への寄与の有無,程度,瑕疵
,,,のある土地工作物の種類性質瑕疵による危険性の内容等を勘案し
当該土地工作物の瑕疵による危険を除去し,損害の発生を防止するこ
とを期待できる者であるかどうか,及び,被害者との関係で占有者と
しての責任を負担させるのが相当かどうかという観点から判断すべき
である。
被告Y1は,本件建物を株式会社Bに賃貸しているが,以下の()a
ないし()の事情からすると,本件建物を管理,支配すべき地位にあj
った者というべきであり,本件建物に施工されたアスベスト含有吹き
付け材による危険を除去し,損害の発生を防止することが期待される
者であるから,Aとの関係で民法717条1項にいう「占有者」に当
たる。
()本件建物は,鉄道高架下建物という特殊な物件であり,被告Y1a
の本件建物に対する管理,支配は,一般の建物に対するものより強
いものである。
()被告Y1は,本件建物に随時立ち入り,必要な措置を執る権限をb
有している。
()被告Y1は,高架スラブ下の天井の点検口から高架橋検査を行うc
ことを予定している。
()被告Y1は,本件建物の主体建築物及び基礎的施設の維持管理にd
必要な修繕義務を負担している。
()本件2階倉庫の壁面に施工されたアスベスト含有吹き付け材は,e
本件建物の主体構造と一体となっている。
()本件建物の賃借人が内装工事をする際には,事前に被告Y1に設f
計図書を提出して同意を受けなければならず,本件建物内の改修並
びに造作,間仕切り,電気装置,ガス,水道施設等の新設,変更及
び撤去等の現状変更をする際には,事前に被告Y1に設計図書を提
出して承諾を得なければならないとされている。
()被告Y1は,賃貸建物の管理等を業とし,昭和46年以降は,建g
築士の資格を有する者を擁する建築部(建設部)が鉄道高架下建物
の設計,施工監理,改修工事等の業務を行っており,以上の各業務
について専門的知識を有する。
()本件2階倉庫の壁面に施工されたアスベスト含有吹き付け材は,h
被告Y1が注文したものである。
()アスベスト含有吹き付け材は,経年劣化や振動,接触等により容i
易にアスベストが粉じん化し,飛散するものである。
()アスベストの発がん性は,本件賃貸借契約締結以前から繰り返しj
指摘されていた。
,,b本件建物は店舗として人が日常的に出入りする建物であるところ
本件2階倉庫の壁面に施工されたアスベスト含有吹き付け材の劣化に
伴い本件粉じんが飛散し,本件建物を使用する人の生命,健康を害す
る危険を有していた。この点は,本件建物の設置又は保存上の瑕疵に
当たる。
(イ)本件建物の所有者としての責任
a()上記()ア(ア)b()と同じ。a3a
()上記()ア(ア)b()と同じ。b3b
b上記ア(ア)bと同じ。
c本件建物の賃借人である株式会社Bは,文房具の小売りを業とする
,,株式会社であり建物の建材や部材に関する知識を何ら有しておらず
本件2階倉庫の壁面にアスベスト含有吹き付け材が施工されているこ
,。とも知らなかったからアスベストの飛散防止措置を執り得なかった
したがって,株式会社Bは,本件建物の占有者(賃借人)として,ア
スベストに係る瑕疵に関する損害発生を防止するについて必要な注意
をすべき義務がないから,同注意をしたときに当たり,民法717条
1項ただし書により,同項本文の責任を負わない。
イ被告Y1の認否,反論
(ア)認否
ア(イ)a()は認めるが,その余は否認する。b
ア(イ)a()に対する被告らの反論は,上記()イ(ア)のとおりである。a3
(イ)反論
a建物の壁面にアスベスト吹き付け材が施工され,存在していること
自体は危険ではない。石綿障害予防規則が制定された平成17年2月
24日までは,アスベスト含有吹き付け材を施工すること及びそれに
,,,ついて除去囲い込み等の措置を講じていない状態は違法ではなく
社会的にも国家的にも「建物の瑕疵」とは認識されていなかった。し
たがって,本件2階倉庫の壁面にアスベスト含有吹き付け材が施工さ
れていて,それについて除去,囲い込み等の措置が執られていなかっ
た状態は,本件建物の設置又は保存上の瑕疵に当たらない。
少なくとも,平成7年にクロシドライトの新たな使用,製造が禁止
される以前においては,本件建物にアスベスト含有吹き付け材が施工
されていたことについて,建物が通常有すべき安全性を欠いており,
本件建物の設置又は保存上の瑕疵に当たるものということはできな
い。
仮に上記のようにいうことができないとしても,Aは,密閉された
本件建物2階倉庫内で,マスクもせずに壁面落下物を吸引しながら労
働していたのであり,Aの本件建物の使用方法は異常というべきであ
るから,本件建物の設置または保存に瑕疵があったということはでき
ない。
b仮に本件建物にアスベスト含有吹き付け材が施工された壁があるこ
とが本件建物の設置又は保存上の瑕疵に当たるとしても,同瑕疵に係
るAの損害に対する第1次的な責任は,本件建物を直接占有している
本件建物の賃借人である株式会社Bにおいて負うものである(民法7
17条1項本文。そして,上記壁は,本来天井で覆われたいわゆる)
屋根裏の部分にあったものであり,同部分に人が出入りする構造にな
っていなかったところ,株式会社Bは,当該壁がある場所に2階部分
を作り,同部分を倉庫として使用していたのであるから,株式会社B
自身が,Aが本件粉じんの暴露を受けないようにアスベスト含有吹き
付け材を除去,封じ込み,囲い込みするなどの対策を執るべきであっ
た。本件建物の所有者であった被告Y1が損害賠償責任を負うのは,
占有者である株式会社Bが損害の発生を防止するのに必要な注意をし
たことが立証されたときであるところ(同項ただし書,株式会社B)
は上記の注意をしていない。
c仮に土地工作物を管理,支配すべき地位にある者も民法717条1
項にいう「占有者」に含むとしても,それは土地工作物が危険なもの
であり,かつ,そのことが事前に明らかな場合に限定されるべきであ
るところ,本件建物の危険性は事前に明らかでなかったから,被告Y
1は占有者に当たらない。
被告Y1は本件建物の賃貸人にすぎず,本件建物は賃借人である株
式会社Bに引き渡され,被告Y1は本件建物の合鍵すら持たず,本件
建物を常時管理できる状態ではなかったのに対し,株式会社Bは独占
的,排他的に本件建物を占有していたものである。また,本件建物は
いわゆるスケルトン貸しであり,店舗の内装は本件建物の賃借人の責
任に属するところ,本件建物につき,2階を造り,倉庫として使用す
ることは,すべて株式会社Bの都合と責任において行われた。したが
って,被告Y1は本件建物を管理,支配すべき地位にある者ではなか
。,,った原告主張の上記ア(ア)aの()ないし()の事由は被告Y1がaj
Aに対する関係で本件建物を管理,支配すべき地位を根拠づけるもの
ではなく,被告Y1は,一般の賃貸人が有する権限以上の権限を有す
る賃貸人ではないから,Aとの関係で本件建物を管理,支配すべき地
位に立つ者ではない。
本件のような場合にまで建物を所有し,賃貸する者を土地工作物を
管理支配すべき者として民法717条1項にいう「占有者」に当たる
とすれば,民法717条1項ただし書の適用範囲はほとんどなくなる
,。のであって民法717条1項の立法趣旨に反するというべきである
()争点[](被告Y1には,賃貸人として,本件建物の賃借人の役員又は従55
業員に対する安全性確保義務があるかどうか,及び同義務の違反があるかど
うか)。
ア原告らの主張
(ア)被告Y1の賃貸人としての本件建物の安全性確保義務
建物の賃貸人は,賃貸借契約に付随する義務又は信義則上の義務とし
て,賃借人に対し,賃貸建物及びこれに設けられている建物設備に起因
して賃借人の生命,健康を害する危険が生じないようにすべき注意義務
(安全性確保義務)を負う。
本件賃貸借契約は,被告Y1と法人である株式会社Bとの間で締結さ
れていたものであるところ,このように賃借人が法人である場合におい
ては,賃貸人は現実に賃貸建物を使用するのは自然人である当該法人の
役員や従業員であることを当然知っているし,賃貸建物が危険なもので
あることによって生命,健康が侵害されるのは当該法人ではなく,当該
法人の役員や従業員であるから,賃貸人が上記安全性確保義務を負う相
手方は,賃貸建物を使用する賃借人の役員や従業員である。
本件建物は,人の生命,健康に有害なアスベスト含有吹き付け材が施
工されていた建物であるから,被告Y1は,本件賃貸借契約における賃
貸人として,本件建物の賃貸借上の使用者であるAに対し,本件建物の
安全性を確保する義務がある。
(イ)被告Y1の賃貸人としての本件建物の安全性確保義務違反
被告Y1は,株式会社Bに対し,同社が本件建物を店舗兼倉庫として
使用することを承知して,本件建物を賃貸した。また,被告Y1は,株
式会社Bが家族経営の個人商店であり,同社の取締役であったAが本件
建物において販売業務を行っていたことを認識していた。したがって,
被告Y1は,本件賃貸借契約締結時において,Aが本件建物内で継続的
に勤務することを認識していた。
また,上記()ア(イ)のとおり,被告Y1は,遅くとも本件賃貸借契約3
が締結された後である昭和46年ころには,本件2階倉庫内で発生する
本件粉じんが本件建物を使用する人の生命,健康に有害なものであるこ
とを知り又は知り得た。したがって,被告Y1は,同年ころにおいて,
Aに対し,上記(ア)の安全性確保義務として,本件2階倉庫内における
本件粉じんの飛散を防止するため,アスベスト含有吹き付け材のある壁
面を非石綿建材で覆って囲い込むなどの措置を執るべき義務があった。
しかし,被告Y1は,上記措置を執らなかった。この不作為は,昭和
45年3月から平成14年6月までのAに対する本件賃貸借契約に基づ
く債務不履行又は不法行為となる。
イ被告Y1の認否,反論
(ア)認否
否認する。
(イ)反論
aD株式会社,被告Y2及び株式会社Bは,平成14年3月16日,
本件賃貸借契約における賃貸人の地位及び株式会社Bに対する一切の
権利義務を同年4月1日以降被告Y2に譲渡することを合意した(以
下「本件賃貸権譲渡合意」という。したがって,被告Y1は,本。)
件合併の前後を通じて,本件賃貸借契約における賃貸人としての責任
を負う者ではない。
b本件賃貸借契約は,法人間で締結されたものであり,賃貸人におい
て賃借人(法人)の生命,健康に対する危険を防止すべき義務は存在
し得ない。
また,本件賃貸借契約に基づく賃貸人の義務は,賃借人である株式
会社Bに対して負うのであり,契約関係がなく,指揮監督の及ばない
賃借人の従業員等やその他の第三者である賃貸建物の利用者に対して
負う理由はない。
c被告Y1は,平成15年6月までの間,本件建物の建材にアスベス
トが含有されていることを知らなかったし,平成17年に石綿障害予
防規則が制定施行されるまで,アスベスト含有吹き付け材の危険性も
知らなかった。したがって,仮に賃貸人が原告ら主張の安全性確保義
務を負うと解する見解に立っても,本件においては,被告Y1がAに
対する具体的な義務としての安全性確保義務を負う前提を欠く。
()争点[](被告Y1の争点[]ないし[]の義務違反等とAの死亡との間に6635
相当因果関係があるか)。
ア原告らの主張
(ア)Aは,上記()ないし()の被告Y1の義務違反等により,本件2階倉35
庫内において,上記1()ア(イ)のとおり本件粉じんの暴露を受け,悪性2
胸膜中皮腫にり患した。
(イ)Aは,平成16年7月8日,悪性胸膜中皮腫の症状が急激に悪化した
ため,救急車でhセンターに搬送され,緊急入院した。Aは,当時の担
当医師に対し,呼吸困難の苦痛を訴え,従来から行われていた左肺側か
らの胸水排出だけでなく,右肺側からの排出をするよう強く求めた。し
かし,同医師は,同月20日,Aに対し,衰弱が激しくリスクが大きい
ため不可能であると説明した。Aは,同日,呼吸困難による激しい苦痛
及びそれから逃れるすべがないことに絶望し,上記センターの最上階か
ら飛び降りて自殺した。
(ウ)Aは,悪性胸膜中皮腫による激しい胸痛,胸水の増加による慢性的な
呼吸困難に苛まされ,医療機関への入通院を繰り返して各種の治療を受
けたが改善せず,重度の精神的心理的ストレスにより適応障害を発病し
た。適応障害を発症した者は,主観的な苦痛,情緒障害により,抑うつ
気分,不安,心配,現状の中ではやっていけないという感じ等の症状が
出て,自殺念慮を抱きやすく,がん患者の自殺の研究では,その半数が
適応障害などの抑うつ症状を有しているとの報告がある。Aは,以上の
ように,悪性胸膜中皮腫による重度のストレスから適応障害を発病し,
これにより自殺するに至ったものである。
仮に被告Y1がAの自殺について予見可能性がなかったとしても,中
皮腫の予後は極めて不良であって,中皮腫にり患した後の平均的な生存
期間は213月といわれている。Aは遅くとも平成14年6月には中.
皮腫にり患していたことからすると,Aが自殺行為をとらなくても,A
は平成16年7月20日からほどないころに中皮腫により死亡するに至
ったことが明らかである。
したがって,Aが被告Y1の上記義務違反により悪性胸膜中皮腫にり
患したこととAが死亡したこととの間には相当因果関係がある。
イ被告Y1の認否,反論
(ア)認否
Aの死亡日,その死亡が自殺によるものであることは認め,Aの受診
等の内容,経緯,自殺の態様は知らず,Aが中皮腫にり患したこととA
が死亡したことの間に相当因果関係があることは否認する。
(イ)反論
アスベスト粉じんの暴露を受けた者が中皮腫を発症するまでには,4
2,3年程度の潜伏期間がある。原告らの主張を前提とすれば,Aは平
成14年6月に悪性胸膜中皮腫の確定診断を受けたというのであるか
ら,Aがその原因となるアスベスト粉じんの暴露を受けた時期は,本件
建物が建築された日より前の昭和35年ころということになる。そうす
ると,Aの中皮腫り患は,上記()イ(イ)aのとおり,本件建物以外の場2
所におけるアスベストの吸引が原因であると考えられる。したがって,
原告らの主張する被告Y1の注意義務違反等とAの中皮腫り患との間に
相当因果関係はない。なお,仮にAの中皮腫り患が本件2階倉庫内にお
ける本件粉じんの吸引と関連性がある(吸引が中皮腫り患の一因となっ
ている)としても,中皮腫が発症するまでの潜伏期間を考慮すれば,A
の中皮腫は,本件建物において業務に従事する前に暴露を受けたアスベ
ストにより発症したものであるといえ,また,本件建物壁面に使用され
た吹き付け材のアスベストにより中皮腫にり患する確率は十万から数十
万分の1であるから,本件2階倉庫内における本件粉じんの吸引に係る
被告Y1の注意義務違反(ただし,被告Y1は,同義務違反を争うもの
である)等とAの中皮腫り患との間には相当因果関係がないというべ。
きである。
仮に原告らが主張する被告Y1の注意義務違反等とAの中皮腫り患と
の間に相当因果関係があるとしても,Aの死亡は,A自身の個人的資質
(素因)により自殺をしたことによるものであるところ,自殺をする原
因には様々なものがあり,中皮腫にり患した者が必ず自殺するとは限ら
,,,ないしまたがん患者の自殺率は02%にすぎないことからすると.
中皮腫にり患した者が自殺をする蓋然性が高いということもできない。
したがって,被告Y1は,Aが自殺をすることについて予見することも
結果を回避することもできない立場にあったことが明らかである。そし
て,Aは,中皮腫により死亡したのではなく,自殺というA自身の行為
によって死亡したのであるから,Aの中皮腫り患とその死亡との間に相
当因果関係はない。
()争点[](原告らの損害の有無及びその額)77
ア原告らの主張
(ア)Aの治療経緯
Aは,悪性胸膜中皮腫に関して,以下のとおり,入通院した。
aa病院
平成14年6月6日通院。
同月10日から同月21日まで検査入院。
bb病院
同日通院。
同年7月1日から同年9月3日まで検査,治療のために入院。
cc診療所
同年7月26日から同年11月14日までの間に6日間通院。
dd病院
同年10月26日から平成16年2月29日までの間,断続的に通
院。
ee病院
平成14年9月14日に通院(PET検査。)
ffクリニック
同年11月20日から同年12月4日までの間に3日間通院。
gg病院
平成15年11月4日から平成16年2月19日までの間に5日間
通院。
hb病院
平成15年11月28日から同年12月5日までの間(右脇腹腫瘍
摘出)及び平成16年1月14日から同月27日までの間(抗がん剤
治療)の合計22日入院。
ihセンター
同年2月9日から同年4月12日までの間に6日間通院。
同月19日から同年6月28日まで入院。
同月30日から同年7月8日までの間に4日間通院。
同日から同月20日まで入院。
jiクリニック
同年2月27日から同年4月17日までの間に8日間通院。
kjクリニック
同年5月17日から同年7月15日までの間に6日間通院。
lその他
Aは,免疫能力を強化するため,AHCフィトイムノ,D−12,
アポイダン,サメ軟骨等の健康補助食品を摂取した。
(イ)Aの損害
a積極損害合計735万1622円
()治療関係費小計632万1679円a
a病院16万9730円
b病院84万1740円
c研究所36万3620円
d病院77万4880円
同(d薬局)35万8710円
e病院18万9910円
fクリニック12万6000円
g病院2万2300円
hセンター24万5815円
iクリニック148万1370円
jクリニック122万5216円
健康補助食品(k興産)11万4009円
同(l薬局)85万9450円
同(m商会)38万4079円
高額医療費返還分−83万5150円
()通院付添費及び自宅付添費23万7000円b
Aは,hセンターで胸水コントロールの治療を開始した平成16
年2月9日以降,入院期間を除く日(合計79日間)は終日,家族
の付添いを要した。
3000円×79日=23万7000円
()入院雑費23万7900円c
1300円×入院実日数183日=23万7900円
()通院交通費等45万4518円d
hセンター(駐車場代)3000円
iクリニック(新幹線代)26万6000円
同(レンタカー代)6993円
同(宿泊代)8万7155円
d病院,hセンター,b病院(高速代)7万6620円
jクリニック(タクシー代)1万4750円
()器具購入費10万0525円e
身体の苦痛緩和のための温灸器及びもぐさ8万9145円
介護用ベッド1万1380円
b消極損害合計2378万7361円
()休業損害815万3589円a
Aは,平成14年6月10日にa病院に入院してから死亡するま
での771日間,悪性胸膜中皮腫により稼働できなかった。Aの平
,,成13年の年収は386万円であったから上記の間の休業損害は
386万円×(771日÷365日)=815万3589円(円未
満切り捨て)となる。
()死亡による逸失利益1563万3772円b
Aは,死亡時70歳であり,その平均余命14年の2分の1の7
年間は就労することが可能であった。上記()の年収を基に,生活a
.費控除を30%として,上記就労可能期間(ライプニッツ係数5
.786)における逸失利益を算出すると,386万円×(1−0
3)×5786=1563万3772円となる。.
c精神的損害合計3191万0000円
()入通院慰謝料391万0000円a
上記アの入院6か月,通院19か月に対する慰謝料の額は,39
1万円が相当である。
()死亡慰謝料2800万0000円b
d葬儀関係費用354万7563円
e弁護士費用666万0000円
(ウ)原告らは,Aの損害に係る賠償請求権をそれぞれ法定相続分(原告X
1は2分の1,その余の原告らは各6分の1)に従って相続した。
(エ)以上によれば,原告X1の請求額は3662万8273円,その余の
原告らの請求額は各1220万9424円(円未満切り捨て)となる。
イ被告Y1の認否
争う。
()争点[](過失相殺,損益相殺:抗弁)88
ア被告Y1の主張
(ア)Aの直接の死因は自殺である。したがって,仮に請求原因事実が認め
られるとしても,被告Y1が補てんすべき損害額は相当程度減額される
べきである。
(イ)原告X1は,Aの死亡後,独立行政法人環境再生保全機構に対し,石
綿による健康被害の救済に関する法律に基づき,Aの死亡に関する救済
給付申請を行い,平成19年8月29日,Aの死亡について石綿起因性
が認められて,特別遺族弔慰金280万円及び特別葬祭料19万900
0円,以上合計299万9000円の支給決定がされ,同額の支給を受
けている。この支給額は,損益相殺の対象となるものである。
イ原告らの認否
ア(ア)は争う。同(イ)のうち,原告X1が被告Y1主張の金員の支給を受
,。けたことは認めるがこれが損益相殺の対象となるものであることは争う
2被告Y2に対する請求関係
上記請求に係る主要な争点は,以下の[]ないし[]のとおりであり,これ914
らについての当事者の主張は,下記()ないし()のとおりである。16
[]アスベストの危険性に関する知見及びアスベストの規制状況9
[]Aの悪性胸膜中皮腫の発症原因10
[]被告Y2には,賃貸人として,賃借人の役員又は従業員に対する本件11
建物の安全性確保義務があるかどうか,及び同義務違反(債務不履行又
は不法行為)があるか。
[]被告Y2の上記義務違反とAの死亡との間に相当因果関係があるか。12
[]原告らの損害の有無及びその額13
[]過失相殺,損益相殺(抗弁)14
()争点[](アスベストの危険性に関する知見及びアスベストの規制状況)19
ア原告らの主張
上記1()アと同じ。1
イ被告Y2の認否,反論
上記1()イと同じ。1
()争点[](Aの悪性胸膜中皮腫の発症原因)210
ア原告らの主張
上記1()アと同じ。2
イ被告Y2の認否,反論
上記1()イと同じ。2
ウ被告Y2の反論に対する原告らの再反論
上記1()ウと同じ。2
()争点[](被告Y2には,賃貸人として,賃借人の役員又は従業員に対す311
る本件建物の安全性確保義務があるかどうか,及び同義務違反があるか)。
ア原告らの主張
(ア)被告Y2の賃貸人としての本件建物の安全性確保義務
建物の賃貸人は,賃借人に対し,建物を使用収益させる義務を負うの
みならず,賃貸借契約に付随する義務又は信義則上の義務として,当該
建物及びこれに設けられている建物設備に起因して賃借人の生命,健康
を害する危険が生じないよう配慮すべき注意義務(安全性確保義務)を
負う。
本件賃貸借契約は,当初はC株式会社・D株式会社と株式会社Bとの
間で締結され,平成14年3月16日の本件賃貸権譲渡合意により,被
告Y2がその賃貸人の地位を承継した。
本件賃貸借契約における賃借人は法人である株式会社Bであるとこ
ろ,このような場合においては,賃貸人は,現実に賃貸建物を使用する
のは自然人である当該法人の役員や従業員であることを当然知っている
し,賃貸建物が危険なものであることによって生命,健康が侵害される
のは,当該法人ではなく,当該法人の役員や従業員であるから,賃貸人
が上記安全性確保義務を負う相手方は,賃貸建物を使用する賃借人の役
員や従業員である。
(イ)C株式会社・D株式会社に係る賃貸人としての本件建物の安全性確保
義務違反
aC株式会社・D株式会社は,株式会社Bに対し,同社が本件建物を
店舗兼倉庫として使用することを承知して,本件建物を賃貸した。ま
た,C株式会社・D株式会社は,株式会社Bが家族経営の個人商店で
あり,同社の取締役であったAが本件建物において販売業務を行って
いたことを認識していた。したがって,C株式会社・D株式会社は,
本件賃貸借契約締結時において,Aが本件建物内で継続的に勤務する
ことを認識していた。
b上記()アによれば,C株式会社・D株式会社は,遅くとも本件賃1
貸借契約が締結された後である昭和46年ころには,本件2階倉庫内
で発生する本件粉じんが本件建物を使用する人の生命,健康に有害な
ものであることを知り又は知り得た。したがって,C株式会社・D株
式会社は,同年ころにおいて,Aに対し,上記(ア)の安全性確保義務
として,本件2階倉庫内における本件粉じんの飛散を防止するため,
アスベスト含有吹き付け材のある壁面を非石綿建材で覆って囲い込む
などの措置を執るべき義務があった。
しかし,C株式会社・D株式会社は,上記措置を執らなかった。こ
の不作為は,昭和46年ころから平成14年3月31日までの間のA
に対する本件賃貸借契約に基づく債務不履行又は不法行為となる。
c被告Y2は,本件賃貸権譲渡合意により,上記bのC株式会社・D
株式会社が負っていたAに対する債務不履行又は不法行為に基づく損
害賠償義務を承継した。
(ウ)被告Y2自身の賃貸人としての本件建物の安全性確保義務違反
,,,a被告Y2は平成14年3月16日本件賃貸権譲渡合意に基づき
本件賃貸借契約における賃貸人の地位をD株式会社から譲り受けた。
そして,被告Y2は,上記(イ)aの賃借人株式会社Bの本件建物使用
状況を認識していた。したがって,被告Y2は,本件賃貸権譲渡合意
に基づいて本件賃貸借契約における賃貸人の地位を取得したことによ
り,Aに対し,本件建物及びこれに設けられている建物設備によりA
の生命,健康を害する危険が生じないようにすべき安全性確保義務を
負う。
b上記()アによれば,被告Y2は,本件賃貸権譲渡合意の時点で,1
本件2階倉庫内で発生する本件粉じんが本件建物を使用する人の生
命,健康に有害なものであることを知り又は知り得た。したがって,
被告Y2は,上記の時点以降,Aに対し,上記aの義務として,本件
建物における本件粉じんの飛散を防止するため,アスベスト含有吹き
付け材が施工された壁面を非石綿建材で覆って囲い込むなどの措置を
執るべき義務があった。
しかし,被告Y2は,上記措置を執らなかった。この不作為は,平
成14年4月1日から同月6月までの間のAに対する本件賃貸借契約
に基づく債務不履行又は不法行為となる。
イ被告Y2の認否,反論
(ア)認否
否認する。
(イ)反論
C株式会社・D株式会社及び被告Y2のいずれも,Aが本件建物で勤
務していた期間中,本件建物内にアスベスト含有吹き付け材が施工され
ていたことを知らなかった。
原告ら主張に係る被告Y2の「安全性確保義務」なるものは,建物賃
貸借契約においては発生する根拠のないものである。また,建物賃貸人
は,建物賃借人に対して賃貸借契約上の義務を負うものであって,建物
賃借人の役員又は従業員に対して同義務を負うものではない。
被告Y2は,賃貸人であるD株式会社と賃借人である株式会社Bとの
間の賃貸借契約上の権利義務を承継したが,その承継の対象は,賃貸人
の賃借人に対する権利義務であって,賃貸人であるD株式会社の第三者
に対する権利義務は含まれない。したがって,仮に,C株式会社・D株
式会社がAに対して債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償義務を負
っていたとしても,それは上記承継の対象外である。
()争点[](被告Y2の上記争点[]の義務違反とAの死亡との間に相当因41211
果関係があるか)。
ア原告らの主張
(ア)上記()アのC株式会社・D株式会社及び被告Y2の各安全性確保義3
務違反により,Aは,本件2階倉庫内において,上記1()ア(イ)のとお2
りアスベスト粉じんの暴露を受け,悪性胸膜中皮腫にり患した。
(イ)上記1()ア(イ)と同じ。6
(ウ)上記1()ア(ウ)と同じ(ただし「被告Y1」とあるのを「C株式会6,
社・D株式会社及び被告Y2」と読み替える。。)
イ被告Y2の認否,反論
上記1()イと同じ(ただし「被告Y1」とあるのを「C株式会社・6,
D株式会社及び被告Y2」と読み替える。。)
()争点[](原告らの損害の有無及びその額)513
ア原告らの主張
上記1()アと同じ。7
イ被告Y2の認否
上記1()イと同じ。7
()争点[](過失相殺,損益相殺:抗弁)614
ア被告Y2の主張
上記1()アと同じ(ただし「被告Y1」とあるのを「C株式会社・8,
D株式会社及び被告Y2」と読み替える。。)
イ原告らの認否
上記1()イと同じ。8
第4争点に対する判断
1被告Y1に対する請求関係
()争点[](アスベストの危険性に関する知見及びアスベストの規制状況)11
について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(認定に用いた
証拠は,各文末尾に記載する。。)
アアスベストの性質等
(ア)アスベストは,耐摩擦性,耐熱性,断熱・防音・吸音性,耐薬品性等
の物質的特性を持ち,また,経済的に安価なものであることから,摩擦
,,,材保温材耐火・耐熱・吸音・結露防止目的の吹き付け材などとして
。,(),産業界に幅広く使用されてきたアスベストはクリソタイル白石綿
アモサイト(茶石綿,クロシドライト(青石綿,アンソフィライト,))
トレモライト及びアクチノライトの6種類に分類され,このうちクリソ
タイル,アモサイト及びクロシドライトが主として上記の用途に使用さ
れてきた(以上,当事者間に争いがない)。。
(イ)aアスベストは,縦に裂ける傾向があり,次々と細かい繊維となっ
ていく(甲B1。アスベスト繊維は,細いものは直径0.02p18)
ないし0.06ミクロン程度の太さのものであり(甲B1,人p22)
が呼吸をする際に鼻,気管,気管支の繊毛を通り抜けて呼吸細気管支
や肺胞に到達,沈着し,石綿肺,アスベストによる肺がん,中皮腫等
の石綿関連疾患を引き起こす(甲B1。アスベストの中でp18,p105)
もクロシドライト(青石綿)は,発がん性などの有害性が最も強いも
のである(甲B1。p15)
bアスベスト暴露を受けた者には,胸膜肥厚斑(プラーク又は限局性
胸膜肥厚と呼ばれる胸膜の病変(甲B1)及び石綿小体(肺内p61)
に吸入された石綿繊維がマクロファージの作用で亜鈴のような形を形
成したもの甲B1という重要な医学的所見が認められる甲())(p80
B1序。)
アスベスト関連疾患は,アスベストを吸入することによって生じる
疾患であり,石綿肺(呼吸細気管支や肺胞に繊維化が生じ,更に進行
すると,蜂窩肺の所見を示す疾患(甲B1,肺がん(アスベp237))
スト繊維が原因となって発生した肺がん,中皮腫(正常で中皮細胞)
の存在する胸膜,腹膜,心膜及び精巣鞘膜に発生する腫瘍(甲B1
,良性石綿胸水(石綿胸膜炎ともいわれるものであり(甲B1p243))
,通常は片肺に少量の胸水を認める疾患(甲B1,びまp147p222)))
ん性胸膜肥厚(臓側胸膜の病変で,壁側胸膜との癒着を伴うもの(甲
B1)が知られている(甲B1。p149p105))
イアスベスト関連疾病に関する知見の推移
(ア)諸外国における知見
a石綿肺に関する知見
1906年(明治39年,イギリスのミュレイにより,石綿肺が)
公表された。その後,イタリア,ドイツ,カナダでも石綿労働者に見
られる肺疾患が報告され,1930年(昭和5年)には,アメリカで
も石綿労働者の肺疾患が報告された(以上,甲B1)。p106
b石綿肺がんに関する知見
1935年(昭和10年,アメリカのリンチとスミスにより初め)
てアスベストを原因として発症した肺がんの報告がされた(甲B1
。その後,石綿肺所見を有する者に高い率で肺がんが合併するp107)
旨の報告が相次いでされ(甲B1の,195p108Merewether,Gloyne)
5年(昭和30年,イギリスのドールにより,疫学的手法によって)
アスベスト暴露労働者に肺がんの罹患率が高いことが明らかにされた
(甲B1。p108)
c中皮腫に関する知見
1931年(昭和6年,クレンペラーによりアスベストを原因と)
して発症した中皮腫が報告された(甲B1。また,1943年p109)
(昭和18年,1953年(昭和28年,1954年(昭和29))
年)に石綿肺合併胸膜中皮腫例が報告され(甲B3・甲B1,p109)
1952年(昭和27年)には石綿労働者の石綿配合併胸膜中皮腫症
例が報告された(甲B1。1960年(昭和35年)には,南p109)
アフリカのワグナーらにより,疫学的にアスベストと中皮腫との関連
性が明確となった(甲B2の1。なお,ワグナーの調査では,中皮)
腫発症33例のうち非職業性暴露(環境暴露及び家庭内暴露)による
ものが14例存在した(甲2の1。B)
(),1965年昭和40年のイギリスのニューハウスらの調査では
中皮腫患者76例のうち31例が石綿工場で働いた経験を有し,残り
45例中9例は石綿労働者の家族,11例は石綿工場から半マイル以
内の居住者であった。また,ニューハウスは,クロシドライト以外の
アスベストも中皮腫発症の原因となることを明らかにした(以上,。
甲B2の1ないし,甲B11。p67p69p97)
d国際会議での報告
1964年(昭和39年,ニューヨーク科学アカデミーが主催す)
る「石綿の生物学的影響」と題する国際会議及び国際対がん連合が主
催する「石綿とがん」と題する国際会議が開催され,各国から石綿の
発がん性が報告された(甲2の1,甲B21。Bp68)
1972年(昭和47年,国際がん研究機関が主催した「石綿の)
生物学的影響」と題する国際会議において,アンソフィライト以外の
種類の石綿が中皮腫を引き起こし,中でもクロシドライトが最も危険
性が高いことが報告された(甲1。また,同年,国際労働機Bp109)
関が石綿の発がん性を指摘した(甲13。Bp23)
e建物に吹き付けられたアスベストの除去工事例
アメリカのエール大学では,1971年(昭和46年)にアスベス
ト繊維のはく離を防ぐ固定処理をしたが,それでもアスベストの飛散
が治まらないため,1974年(昭和49年)に石綿を除去する工事
が実施された(甲A34の1,2。)
(イ)我が国におけるアスベスト関連疾病に関する知見の推移及びアスベス
トの規制状況
a石綿肺に関する知見等
()昭和2年,大阪鉄道病院の鈴木医師が日本で初めて石綿肺を報告a
した(甲1。昭和12年から昭和15年には,保険院社会Bp115)
保険局健康保険相談所大阪支所長らにより,大阪府泉南郡の石綿工
場従事者の健康障害調査が行われ,胸部X線検査をした251名中
65名に石綿肺が認められた旨の報告がされた(甲16B
。p125,126)
昭和22年には,労働基準法施行規則において,石綿肺が業務上
疾病に指定され,労災補償の対象とされた。
()昭和27年,奈良の石綿工場における石綿肺検診により,203b
名中10名に石綿肺が認められた旨の報告がされた(甲16B
。昭和31年,労働省は「特殊健康診断指導指針について」p127),
(同年基発第308号)と題する通達を出し,けい肺を除くじん肺
を起こし又はそのおそれのある粉じんを発散する場所における業務
としてアスベストに関連する作業を示し,当該作業に従事した労働
者に対してX線直接撮影による胸部の変化の検査を行うものとした
(甲B68)。同年には,労働省労働衛生試験研究として組織され
た石綿肺の診断基準についての共同研究班により,石綿工場での作
B業従事者に有意な石綿肺所見率が認められた旨の報告がされ(甲
16,昭和32年及び33年には,石綿肺の診断基準等を示p128)
した報告書が提出された(甲16。Bp147)
()昭和35年3月31日にじん肺対策強化のために制定,施行されc
たじん肺法では「石綿をときほぐし,合剤し,ふきつけし,りゅ,
う綿し,紡糸し,紡織し,積み込み,もしくは積みおろし,または
石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,もし
くは包装する場所における作業」が同法上の「粉じん作業」と定め
られ(じん肺法施行規則別表第1の23号(甲8,上記業Bp26))
務に従事した労働者について定期的なじん肺健康診断を受けること
(甲8)等の規定が設けられた。Bp27
bアスベストによる肺がん,中皮腫に関する知見等
()昭和34年から昭和43年の知見等a
昭和34年2月に,石綿肺での高率な肺がん合併が注目されてい
る旨指摘する文献(甲B48)が,同年12月には,イギリスやp48
ドイツでは石綿肺での肺がん合併がけい肺のそれよりも多いとして
重視されていることを指摘する文献が(甲B49),昭和37年p8
8月には,アスベストが職業性肺がんの原因物質であることを指摘
する文献が(甲B52),それぞれ発表された。p138
昭和40年12月には,昭和10年のリンチとスミスの報告例を
紹介して(甲B50の表),アスベスト製造産業従事者に肺がんp63
が多いこと及びアスベストが発がん物質として呼吸器を経由して,
肺,肋膜,腹膜にがんを引き起こすことを指摘する文献が(甲B5
0)発表された。p65
昭和42年8月には,昭和41年に開催された国際癌学会の結果
とこれまでの研究結果を報告した上で,石綿の発がん性が疫学的,
実験動物学的に疑えない事実であること,石綿肺症として,当時専
門医が診断し得ない程度の低濃度,長期間の暴露により肺がん及び
中皮腫が発生することがあることを指摘する文献が発表された(甲
B64)。昭和42年10月には,アスベストの発がん性を指p679
摘する文献が発表された(甲B53表)。p120
昭和43年12月には,最近職業がんの中で石綿による肺がんと
胸膜・腹膜の中皮腫が最大の関心を払われていること及び上記のが
んは石綿の製造者・加工者だけでなく,その使用者にも起りうる職
業病として問題にすべきであることを指摘する文献が刊行された
(甲B51)。p399,400
()昭和45年の知見等b
昭和45年10月,アスベストに曝された人々の間に肺がんや胸
膜・腹膜の中皮腫の発症が異常に多いとの諸外国の疫学的研究報告
を紹介した上で,疫学的研究の結果により,アスベスト工業に携わ
る人々のみならず,その工場付近の住民,アスベスト鉱山地域の住
民,さらにこの物質の消費量の多い都市の一般住民の肺にも高率に
アスベストが検出されたこと,中皮腫の発生がごく短期間のアスベ
ストの接触によるごく軽度の肺アスベスト症の症例も認められるこ
となどを指摘し(),アスベストが極めて難治である肺がん,中p56
皮腫の発生に何らかの因果関係を持つことが明らかになった以上,
この物質の規制にあたることは,単に工場衛生の立場からのみなら
ず,公衆衛生の立場からも大切であると指摘した()論文が発表p58
された(甲B3)。
同年11月には,アスベストの製造工場で従業員らに肺がんが多
発していることが明らかにされ,新聞で「石綿粉じんが肺ガン生,
む8人発病,6人死ぬ「工場従業員以外にも発症例」と報道」,
され(甲B46の1),同じころ,大気中に発がん物質であるアスベ
ストが含まれていることが明らかにされ,新聞で「東京の空気に,
石綿微量だが発ガン物質」と報道された(甲B46の2)。同年1
,,「」,2月11日には新聞に大気を汚す発ガン物質等の見出しで
,。石綿の有害性危険性を指摘する記事が掲載された(甲B46の3)
()昭和46年の知見等c
昭和46年,労働省は「石綿取扱い事業場の環境改善等につい,
て(同年基発第1号)と題する通達を出し,石綿のがん原性(肺」
がん)について言及した上で,関係事業場に対する指導,監督を要
請した(甲8)。また,同年3月頃,東京都所属の研究者は,アp28
スベストの発がん作用及びアスベスト,特にクロシドライトと中皮
腫との関連性を指摘した上で「関係はほとんど決定づけられた」,
と述べ(甲B4),アスベストの使用について,新しい建材としp35
ての用途についても,人間の生活空間に露出しているような使い方
はなるべく避けたほうがよい旨を指摘した(甲B4)。p37
昭和46年4月28日,旧特化則が制定された。旧特化則は,石
綿を日常の作業で労働環境の空気汚染をおこすとされる第二類物質
に分類し,石綿に係る規制として,[]石綿粉じんが発散する屋内1
作業場での一定の除じん装置を有する局所排気装置の設置(条),8
[]石綿を製造し,又は取り扱う作業場への関係者以外の立入りの2
禁止(条),[]石綿を製造する作業に労働者を従事させる場合253
の特定化学物質等作業主任者の選任(条),[]石綿を常時製造284
し,又は取り扱う屋内作業場での半年に1度の空気中における濃度
の測定実施(条),[]石綿を製造し,又は取り扱う作業場への295
(),呼吸用保護具マスク等の備付け(条)などが定められた(以上32
甲B8,甲B47,甲B70)。
同年6月頃には,アスベストの発がん性及び人体への有害性を指
摘した雑誌(科学朝日)が(甲B31),同年9月ころには,疫「」
学的,実験腫瘍学的にアスベストの発がん性を肯定した上で,都市
空気のアスベストへの汚染を広く公衆衛生上の問題として取り扱う
べきと指摘する論文が発表された(甲B6,)。p2021
()昭和47年の知見等d
環境庁の公的な研究の報告において,ドール,ワグナー,ニュー
ハウスらによる海外の報告を引用し,石綿暴露と中皮腫発症との間
に密接な因果関係のあることを明らかにした上で,非職業性暴露で
も中皮腫が発生することや,比較的低濃度のアスベスト暴露であっ
ても長年月の経過により中皮腫発症の危険性があることが指摘され
た(甲B)。54,55
同年6月8日,労働安全衛生法が制定され,同年9月30日,同
法に基づく省令として特定化学物質等障害予防規則(同年労働省令
第39号。以下,単に「特化則」という)が改正された。特化則。
も,旧特化則と同様,石綿に関する規制を定めた(甲B47)。
()昭和48年から昭和60年の知見等e
昭和48年から昭和49年にかけては,我が国においても,アス
ベストを原因とする中皮腫の症例が報告され(甲B10),同年11
月1日には,アスベストの環境汚染を指摘し,アスベストが原料の
吹き付け(吹き付けアスベスト)から飛散するアスベスト粉じんの
有害性を警告する書籍が出版された(甲B11)。p109
昭和50年3月には,鉱山や工場よりはるかに低い濃度のアスベ
スト暴露でもアスベスト性の肺がんを起こすことが指摘され(甲B
),同年9月30日,特化則が改正され,石綿が発がん性物質と57
して特別管理物質とされるとともに(条の),[]石綿吹付け作3831
業の原則禁止(条の),[]石綿等の作業環境測定記録の保存期3872
間を30年間に延期すること(条の4),[]石綿等を製造し,383
又は取り扱う業務について健康診断を実施すること(条),[]394
石綿等を張り付けたものの破砕,解体等の石綿粉じんを発生しやす
い特定の作業について原則として湿潤化すること(条の)などが388
規定された(甲B56)。
昭和51年1月,専門の臨床医は,低濃度のしかしながら持続的
な一定期間にわたる暴露による中皮腫(ないし肺がん)の発現を指
摘した上,アスベスト繊維に汚染された大気中に環境的に生活する
人々に対しての発病のリスクが多く,我が国において,今後中皮腫
の発現が,増加してくる可能性は否定できないと指摘している(甲
B58)。同年には「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推p17
進について(同年基発第408号)と題する通達により,石綿を」
可能な限り有害性の少ない他の物質に代替させること,石綿に汚染
された作業衣からの二次汚染を防止するため,作業衣の洗濯や持ち
出し禁止等の徹底を図ることなどが事業場に指導された(甲B40
「2「5」)。」
昭和53年,労働省は,専門家会議による研究,検討を行い,そ
の結果を同年9月に公表した(甲B13文中)。同研究に携わった瀬
良好澄医師は,昭和54年7月,石綿と中皮腫との因果関係が疫学
的に明らかとされていること,中皮腫は肺がんを発生するのに必要
な暴露量よりも少量で発症する可能性があることを指摘した上(甲
B13),石綿の輸送,製造,使用,再利用,廃棄処理までp27,28
の流れの中で接触するすべての人の健康管理が必要であり,発じん
防止を早急かつ完璧に行うことを最優先すべきであること,日本人
が放射性物質や放射線に対してとっているのと同じ鋭敏さが求めら
れていることを指摘している(甲B13)。p28
昭和56年には,東京などの各地での検診結果等を基に,石綿に
よる健康障害は石綿を扱う労働者の問題からその家族や一般住民に
まで広がっていること,短期間又は低濃度の石綿暴露によっても胸
膜肥厚等の病変が発生することなどが指摘され(甲B14ないp383
し),昭和60年11月には,屋内の壁面などにアスベストがp386
吹き付けられており,吹き付けアスベストのある室内の浮遊アスベ
スト濃度が戸外よりも高く,建築後時間の経過とともに吹き付け材
が劣化し,はく離し始めると,汚染が進行していくこと(甲B17
),いかに少量のアスベスト暴露でも健康に対する何ほどかp18,p19
の障害をもたらすこと(甲B17),それを回避するためにp42,p165
少しでも汚染の可能性のあるアスベストは除去又は隔離すべきであ
ることなどを指摘している(甲B17)。p166
()昭和62年の知見等f
昭和62年2月,環境庁による石綿の健康や環境に対する影響に
関する知見をまとめる調査研究の報告が発刊された(甲B18)。ま
,,,,,た同月自然はく離人の接触はく離した繊維の再遊離により
屋内環境を汚染すること,欧米では吹き付けアスベストに閾値はな
いと考えられており,吹き付けアスベストのある学校等における対
策の必要性を指摘する論文が発表された(甲B35(ただし,発行月
は明示なし))。同年4月,日本消費者連盟が発刊した「グッバイ・
アスベストくらしの中の発ガン物質」では,室内で吹き付けアス
ベストの粉じんが飛散し,住人や使用人の健康を損なうおそれがあ
り,吹き付けアスベスト暴露の危険があるときは除去等の措置を執
る必要があることを指摘し(甲B19),同書は,同年5月7日,朝
日新聞に大きく取り上げられた。同新聞では,吹き付けアスベスト
による室内汚染とそれによる健康影響にも目を向けて危険な場合に
は除去を求めるよう呼びかけている旨紹介された(甲B46の2
3)。
同年7月には,文部省は,全国すべての公立小・中・高校を対象
にして,吹き付けアスベストの実態調査を実施することとし,吹き
付けアスベストの除去工事が進められることとなった(甲B46の
27,29,33,36)。
同年,建設省は,建築基準法令の耐火構造の指定から吹き付けア
スベストを削除した(甲B72の1,2)。
同年9月,大阪府は,アスベスト対策検討委員会を設置し,アス
ベスト対策に取り組んだ(甲30)。同年には,アスベストによB
る環境汚染の問題と健康被害の危険性を指摘する内容の論文等が複
数発表された(同年11月・甲38・甲39,同年12月・甲BB
20。B)
()昭和63年の知見等g
昭和63年1月には建設省住宅局建築指導課長から都道府県建築
主務部長宛てに民間建築物における吹き付けアスベストに関する調
査依頼の通知が(甲B25),同年2月1日には,環境庁大気保全局
大気規制課長・厚生省生活衛生局企画課長から都道府県衛生・環境
主管部局長等宛てに「建築物内に使用されているアスベストに係る
当面の対策について(通知」が出された(甲B29)。)
同年5月,東京都や横浜市は,建物に使用された吹き付けアスベ
ストの処理対策マニュアルを発表した(甲B45,46の39)。
同年6月には,建設省住宅局建築指導課長から特定行政庁建築主
務部長宛てに「既存建築物の吹付けアスベスト粉じん飛散防止対策
の推進について」と題する通知が出された(甲B26の1)。そのこ
ろ,財団法人日本建築センターの「既存建築物の吹付けアスベスト
粉じん防止処理技術指針・同解説」が,関係部局や建築関係団体に
配布された(甲B26の2,3)。
被告Y1は,同年11月に発刊したD株式会社の社史「二十年の
あゆみD株式会社創業20周年記念誌」において,昭和62年の
年間メモとして「アスベストの発がん性が問題となり,各地で除,
去作業」と記載している(甲A16)。p41
()平成元年以降の知見等h
平成元年には,大気汚染防止法が改正され,アスベストも規制の
対象となった。
,,「」平成2年5月1日大阪府は大阪府アスベスト対策基本方針
を公表し,吹き付けアスベストが劣化し,飛散しやすい状態になっ
たときには,適切な措置を講じることが必要であり,吹き付けアス
ベストが使用された建築物の所有者及び管理者は,吹き付けアスベ
ストの有無について設計図書で調査し,アスベスト使用が確認され
た場合には,劣化状況を診断し,粉じん飛散防止処理を行うことを
指示している(甲B30)。
平成7年,労働安全衛生法施行令が改正され,クロシドライトの
新たな使用,製造が禁止された。
平成17年2月24日,石綿障害予防規則が制定され,同年7月
1日,施行された。同規則は,事業者は,その労働者を就労させる
建築物等に吹き付けられた石綿が損傷,劣化等によりその粉じんを
発散させ,労働者がその粉じんに暴露するおそれがあるときは,当
該吹付け石綿の除去,封じ込め,囲い込み等の措置を講じなければ
ならないなどとするアスベスト含有建材を使用した建物に対する対
策を内容とする最初の規制法令であった(乙2)。
,,,上記認定事実によれば建築物の吹き付けアスベストに関し我が国では
昭和45年ころの時点では,未だその暴露による健康被害の危険性は指摘さ
れていなかったところ,昭和49年に吹き付けアスベストから飛散するアス
ベスト粉じんの有害性を警告する書籍が出版されたのを皮切りに,昭和60
年,62年と,吹き付けアスベスト暴露の危険性に対してはその除去等の対
策を執るべきことを指摘する論稿が出され,後者は全国紙にも大きく取り上
げられるとともに,同年には建築法規上も耐火構造から吹き付けアスベスト
が排除されたり,文部省によって全国の公立学校を対象とした吹き付けアス
ベストの除去工事が実施されたりなどしたほか,大阪府もアスベスト対策に
取り組む委員会を設置するようになり,当時,後に被告Y1により吸収合併
されることとなるD株式会社も,このようなアスベストを巡る問題提起と全
国各地の動きを認識していたことを指摘することができる。
そうすると,建築物の吹き付けアスベストの暴露による健康被害の危険性
及びアスベストの除去等の対策の必要性が広く世間一般に認識されるように
なったのは,早くても昭和62年ころと認めるのが相当である。
,,,,これに対し上記認定事実によれば昭和34年以降我が国においても
アスベストが中皮腫や肺がんと関連性を有しているという指摘がされ,昭和
41年には低濃度アスベストの暴露による肺がん及び中皮腫発生の可能性
が,昭和43年にはアスベスト使用者の肺がん及び中皮腫発生の可能性が,
それぞれ指摘されており,また,昭和35年制定,施行のじん肺法,昭和4
6年制定,施行の旧特化則などにより,アスベスト取扱い労働者に対する対
策が執られていることが認められ,これらの事実からすれば,昭和45年こ
ろには,アスベスト自体の人の生命,健康に対する危険性,有害性(特に肺
がんや中皮腫の原因物質となり得る有害性)について,一般的に認識されて
いたと評価することができる。
()争点[](Aの悪性胸膜中皮腫の発症原因)について22
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(認定に用いた
証拠は,各文末尾に記載する。。)
アアスベストを原因とする中皮腫に関する知見
アスベストを吸入することにより中皮腫が生じることがあり(甲B1
,確定診断された中皮腫のほとんどはアスベストが原因であるとさp105)
れているところ(乙4,証人W1,,アスベストの累積暴露量と中p774)
皮腫の発症との間には,アスベストの累積暴露量が多いほど発症しやすい
という関係があり,これを量反応関係という(証人W1。p17)
また,アスベストに最初に被暴してからアスベスト関連疾患が発症する
(,),までの期間は一般に潜伏期間と呼ばれているところ甲B1乙4p182
,,中皮腫発症までの潜伏期間は非常に長いとされており潜伏期間について
最小7年から最大68年(平均約43年)とする報告(甲B1,最p182)
小11.5年から最大54.2年(平均38年)とする報告(乙5,平)
均40年程度とする報告(乙4,最小10年から最大70年(平均約4)
2,3年)とする証言(証人W1)などがある。p18,57,76
イAの生活環境や就労歴等
(ア)Aは,出生直後から大阪府布施市(現在は東大阪市)丁a番地に居住
したのをはじめとし,合計4か所に居住したが,各建物にはアスベスト
は使われておらず(原告X1本人,甲A49,従業員十数名の町p1p2)
工場規模の石綿工場は東大阪市内にも存在したものの,環境暴露に有意
に関係するものと考えられる各建物の周辺500以内にはクロシドm
ライトを使用している石綿工場はなかった(証人W1,,甲A1p2930
8。p2)
また,Aの両親は農家を営んでおり(甲A49,その他,Aと同p2)
居していた際に石綿を取り扱う仕事に従事していた者の存在は認められ
ない(原告X1本人,甲A49。p1p2)
(イ)Aは,昭和24年4月から昭和26年3月まで実家の農業を手伝った
後,同年4月から昭和39年4月まで,E工場において金網職工として
勤務していた(甲A49。p2)
同工場に設置された焼鈍炉にはクリソタイルが使用されており(甲A
18,証人W1,,同焼鈍炉について,1日程度かかる補修p2p5455)
工事が年に2回実施されていた(証人W1。また,Aは,昭和3p29)
9年5月から昭和41年5月まで,F工場において,金網職工として勤
務していた(原告X1本人,甲A49。p1p2)
ウ本件建物の状況
(ア)株式会社Bは,本件賃貸借契約の締結後,本件建物のうち,本件2階
倉庫を文具類の在庫商品を置く倉庫兼帳簿等をつけるための事務所とし
て使用してきた。本件建物は,1辺が約8∼9mの方形をした高さ約5
mの部屋であり,本件2階倉庫の壁面部分のうち天井端から約1.1な
いし3.2mの幅の部分には,クロシドライトを25%含有する吹き付
け材が約3㎝の厚さでむき出しのまま施工されている(以上,当事者。
間に争いがない)。
(イ)本件建物は,頻繁に電車が往来する鉄道の高架下にあり,電車が通る
たびに,棚に置いた商品が徐々にずれる程度の振動が生じる状態であっ
た(証人W2,甲A48。特に,昭和61年ないし62年ころp8,9p5)
以降は,本件粉じんが目立って飛散し,本件2階倉庫の商品棚,商品及
(,,び床面等に降り積もっている状態であった証人W2ないしp24p16
甲A48。p2)
エ本件2階倉庫の石綿濃度
(ア)石綿濃度に関する基準
空気中の石綿濃度に関する基準として,以下のような基準が提唱され
ている。なお,空気中測定濃度は,力(衝撃や振動)の加わり方,床面
への落下物の量,人が立ち入った回数と作業の内容などによって変化す
る(甲A24,25。)
a環境省の測定結果
環境省が平成18年に実施した全国の気中石綿濃度調査では,商工
業地域における幾何平均0.27fL(最小0.11から最大1./
68)であった(甲A26。)
b労働省の規制値
アスベスト関連作業現場等についての評価基準として定められてい
/る労働省作業環境測定の規制値である管理濃度は従来2000f,,
Lであったが(乙7,平成16年に変更され,アモサイト及びクロ)
シドライトを除く石綿についての管理濃度は150fLとなった甲/(
A24表1。)
c日本産業衛生学会の許容濃度
日本産業衛生学会が示す許容濃度は,従来,2000fLであっ/
たが(乙7,平成13年に変更され,クロシドライトを含む石綿に)
ついて,許容濃度が3fL(過剰発がんリスクレベルが1万人に1/
人)と勧告された(甲A24表1。)
d世界保健機構の環境保健判定基準
/世界保健機構は昭和61年に環境保健判定基準として10f,,,
Lを示し(甲A24,乙7,平成12年の「欧州空気質ガイドラp5)
イン」では,大気中の石綿濃度が05fLのときに中皮腫が1万な./
いし10万人に1人発生するというリスク評価を示した(甲A27の
2。)
(イ)本件2階倉庫の石綿濃度測定結果
a平成15年の5月から12月にかけて,本件2階倉庫における石綿
濃度測定が行われ,[1]東大阪文具における普段の作業と同様の疑似
作業をしないときは,幾何平均3.09fL(最小2.72ないし/
最大4.2,[2]清掃と商品の搬入搬出の疑似作業をしたときは,)
.(..),[]幾何平均188fL最小102ないし最大13653/
商品の搬入搬出の疑似作業をしたときは幾何平均671fL最,.(/
小3.68ないし最大14)の石綿濃度がそれぞれ計測され,全体の
幾何平均は6.71fL(最小1.02ないし最大136)であっ/
た(甲A7。)
b平成15年6月,本件2階倉庫内の石綿濃度の検査が作業環境測定
会社に依頼して行われ,その結果,同年7月9日時点における本件2
階倉庫内の石綿濃度は0.5fLであった(乙6。/)
c被告Y1が平成17年11月に本件建物のアスベスト含有吹き付け
材の撤去工事を行った際に行われた測定では,撤去工事を行う前の室
内の石綿濃度は220fLと計測された(甲A30。/)
オAの本件建物内での就労状況
,,,Aは昭和45年3月から平成14年5月までの32年間店長として
毎日,午前8時ころに本件建物に出勤し,午後8時ころに閉店するまでの
ほとんどの時間を本件建物内で過ごしていたが,その間,本件2階倉庫に
,(,,)。入り仕事をすることがあった証人W2甲A48甲A49p5p3p2
本件2階倉庫におけるAの勤務の具体的態様は以下のとおりである。
(ア)文具の納入業者が納品した際,1日に約7ないし8回,本件2階倉
庫に商品を搬入し(証人W2ないし,甲A48,,また,本p57p34)
件1階店舗に展示していない商品以外の商品の注文を受けて本件2階倉
庫に商品を取りに行く(証人W2,甲A48)など,多い日で約p7p4
50回,少ない日で20から30回程度,本件1階店舗と本件2階倉庫
とを往復していた(証人W2。p7)
(イ)在庫商品の整理整頓のため,1週間に数回,1回につき約1時間,
本件2階倉庫内で仕事をし,また,毎月締めの日ころには,本件2階倉
(,)。庫内で伝票の整理等を集中的に行っていた証人W2甲A48p7p4
毎年2月に行う棚卸しの際には,本件2階倉庫の壁際の棚に置いた在
庫商品の上に積もった本件粉じんを払い落としながら在庫を確認してい
た(証人W2,甲A48。p7p5)
(ウ)平成2年に電気掃除機を購入するまでは,1月に1ないし2回,20
から30分かけて,家庭用竹箒を使用して本件2階倉庫内を掃除し,同
年以後は電気掃除機を使用して,本件2階倉庫内を掃除していた(証人
W2,甲A48。また,年末には数時間かけて本件2階倉庫の大p7p4)
掃除をしていた(甲A48。p5)
(エ)本件2階倉庫内で1,2時間の仮眠をとることがあった(甲A48
。p5)
カAにおける悪性胸膜中皮腫の発症
Aは,平成13年11月ころから,次第に咳が酷くなり,寝付けない日
が続くようになった(原告X1本人,甲A49。Aは,平成14p17p3)
年になり,近くの病院で診断を受けた結果,胸水が確認され,同年6月1
0日,a病院に検査入院し,同月20日ころ,悪性胸膜中皮腫の診断を受
け(甲A49,同年7月,b病院に入院し,同病院において,悪性胸p3)
膜中皮腫上皮型との確定診断を受けた(当事者間に争いがない。。)
キAの死亡時点での肺の状態等
Aの剖検肺を用いて,光学顕微鏡による石綿小体の算定を行った結果,
Aの肺から,石綿小体が肺乾燥重量1g当たり平均72本検出された。な
お,職業性,家族性及び環境性のアスベスト暴露がない場合の肺乾燥重量
1g当たり石綿小体数は,35本であり,国際的に共通な石綿関連疾患の
判断基準として提言されている「」の「職業での石綿粉じHelsinkiCriteria
」,ん暴露が高い可能性がある人物であることを確定するガイドラインでは
「肺乾燥重量1g当たり1000本以上の石綿小体の場合」が基準とされ
ている(以上,甲A20の1,2)。
また,同様に,Aの部検肺を用いて電子顕微鏡によるアスベスト繊維の
分析を行った結果,Aの肺内石綿濃度は,肺乾燥重量1g当たり1900
万本であり,このうち,約85%にあたる1610万本がクロシドライト
であった(甲A20の3。これは,職業的石綿暴露がない場合の数値で)
ある肺乾燥重量1g当たり183万本の10倍以上の濃度である(甲A2
0の1。)
上記認定事実によれば,[]中皮腫の原因の多くはアスベストであり,ア1
スベスト暴露の量が多くなればそれだけ中皮腫に発症しやすくなるところ,
Aは,本件建物において約32年間勤務し,その間,クロシドライトを含む
吹き付けアスベストが用いられた本件建物2階倉庫において,頻繁な鉄道の
通過による振動で飛散する本件粉じんに曝された中でも相応の時間作業をし
ていたこと,[]Aの死後,本件建物2階倉庫で当該作業と同様の作業を行2
って石綿濃度を測定した結果,全国の気中平均を超え,世界保健機構や日本
,,産業衛生学会の基準を超える石綿濃度が検出されたこと[]Aの生活環境3
家族歴や就労状況において,本件建物2階倉庫部分以外にクロシドライトに
被暴する機会がなかった(E工場及びF工場での勤務の点については後述す
る)中で,Aの剖検肺からは,国際的に共通な職業的暴露の基準として提。
唱されている基準の10分の1以下の数の石綿小体及び職業的石綿暴露がな
い場合のアスベスト繊維数の約8.8倍のクロシドライトが検出されている
が,この検出結果は,Aの石綿暴露が職業的な暴露ではなく,環境的な暴露
として有意なものであることを指摘することができる。そして,これらの事
実及び[]Aが昭和45年3月に本件建物での勤務を開始し,本件2階倉庫4
で初めて暴露してから,31年以上の潜伏期間を経て,平成13年11月に
咳の悪化により寝付けなくなり,Aの悪性胸膜中皮腫が発症したという機序
は,一般的な中皮腫発症の機序として合理的なものと評価できることを総合
すると,Aの悪性胸膜中皮腫の原因は,本件2階倉庫におけるクロシドライ
ト繊維からなる本件粉じんによるものであると高度の蓋然性をもって推認す
ることができる。
これに対し,上記認定事実によれば,Aは,クリソタイルが使用された焼
鈍炉の設置されたE工場で金網職工として13年間勤務し,また,F工場に
おいても,2年間金網職工として勤務した事実が認められるが,E工場の焼
鈍炉に使用されたアスベストはクロシドライトではない上,年に2回の補修
工事の機会以外に,Aが,焼鈍炉により被暴することは考えにくいこと,F
工場において,アスベストが使用されていた事実を認めるに足りる証拠はな
いことからすれば,これらの事実は,具体的に本件粉じん以外の高度の蓋然
性を有する他の原因と評価できるものではなく,上記推認を妨げるものでは
ない。また,証拠(乙18,証人W1)によれば,本件2階倉庫部分のp42
アスベスト暴露によるAの中皮腫発症リスクは数万分の1から数十万分の1
であるとの事実が認められるけれども,この確率自体,環境基準として健康
被害に対し明確な対策が必要な程度に達している(証人W1)ものであp42
る上,上記()で認定したとおり建築物の吹き付けアスベスト材により中皮1
腫が発生することがあることが高度の蓋然性をもって認められる以上,客観
的,統計的な発生の確率が小さくても上記推認は妨げられないのであって,
この事実も上記推認を妨げるものではない。
()争点[],[]及び[](被告Y1の所有者としてあるいは賃貸人としての3356
安全性確保義務違反に基づく責任の有無等)について
ア昭和62年以前の安全確保義務違反の有無
前記()のとおり,建築物の吹き付けアスベストの暴露による健康被害1
の危険性及びアスベストの除去等の対策の必要性が世間一般に認識される
ようになったのは,早くても昭和62年ころであることからすれば,C株
式会社ないしD株式会社は,昭和62年以前においては,本件2階倉庫部
分の吹き付けアスベストの危険性について予見することができず,安全確
保義務を負わないというべきである。
イ昭和62年以降の安全確保義務違反の有無
これに対し,前記()のとおり,昭和62年ころには建築物の吹き付け1
アスベストの暴露による健康被害の危険性及びアスベストの除去等の対策
の必要性が世間一般に認識されるようになったと評価する余地があること
からすれば,D株式会社は,昭和62年以降においては,本件2階倉庫部
分の吹き付けアスベストの危険性について予見可能性があったといえる余
地はある。しかしながら,前記()のとおり,アスベスト暴露の量が多く2
なればそれだけ中皮腫に発症しやすくなるものであるところ,Aは,昭和
45年3月から平成14年5月までの約32年間,本件建物2階倉庫にお
いて本件粉じんに曝された中でも勤務していたことからすれば,アスベス
ト暴露開始から既に17年経過した昭和62年の時点において,吹き付け
アスベストの撤去等の措置を執っていたとしても,Aにおける中皮腫の発
症を回避できたものと直ちに認めることは困難である。そうすると,仮に
D株式会社に昭和62年以降における安全確保義務違反があったとして
も,当該義務違反とAの悪性胸膜中皮腫の発症との間には相当因果関係を
認めることはできないというべきである。
したがって,C株式会社ないしD株式会社を承継した被告Y1について,
安全確保義務違反に基づく責任を認めることはできない。
()争点[](被告Y1の,本件建物の占有者又は所有者としての,本件建物44
の設置,保存上の瑕疵に係る責任の有無)について
ア本件建物の設置,保存上の瑕疵の有無について
工作物に設置,保存上の瑕疵がある場合とは,工作物が,その種類に応
じて通常有すべき安全性を欠いている場合をいうと解するのが相当であ
る。そして,人が利用する建物は,その性質上これを利用する者にとって
絶対安全でなければならず,人の生命,身体に害を及ぼさないことが当然
前提となっているものというべきところ,本件建物は,鉄道の高架下に存
(),,在する商業用店舗であり甲A40本件建物内で営業を行う者の生命
身体に害を及ぼさない安全な性状のものであることが予定されていたとい
。,,,,えるまた前記()で検討したとおり昭和45年ころには人の生命1
健康に対するアスベストの危険性,有害性について,一般的に認識されて
いたものと評価できる。
ところが,本件建物は,本件2階倉庫の壁面部分に,人がそれを吸入す
ることにより中皮腫等の石綿関連疾患を引き起こす原因物質であり,アス
ベストの中でもとりわけ発がん性などの有害性が強いクロシドライトを一
定量含有する吹き付け材が露出した状態で施工されており(前記()ウ2
(ア),しかも,頻繁に電車が往来する鉄道の高架下にあって,鉄道が通)
るたびに相応の振動が生じることにより,上記吹き付け材が飛散しやすい
状態にあった(前記()ウ(イ))のであるから,本件建物は,それを利用す2
る者にとって,アスベスト吹き付け材から発生した粉じんの暴露,吸入に
より,生命,健康が害され得る危険性があったといえる。そうすると,本
件賃貸借契約開始時である昭和45年3月の時点以降,本件建物には,設
置,保存上の瑕疵があったものと認めるのが相当である。
これに対し,証拠(甲A3,甲A11の1,甲A26)及び弁論の全趣
旨によれば,株式会社Bは,C株式会社から本件建物をスケルトン貸しで
借り受けたが,いわゆる屋根裏部分(ちょうど,壁面にアスベスト吹き付
け材が施工されている空間部分)を天井板や床板で仕切って本件2階倉庫
部分を造ったことが認められるが,屋根裏部分を倉庫等として利用するこ
,,とは商業用店舗においては少なからず実践されている利用方法であって
,,この事実によって株式会社Bの本件建物の使用方法が異常なものであり
本件建物には,設置,保存上の瑕疵がなかったということはできない。ま
た,同じく弁論の全趣旨によれば,Aは,密閉された本件建物2階倉庫内
で,格別粉じんに対する予防策を講じずに壁面落下物を吸引しながら作業
に従事していた事実が認められるけれども,Aは文具店の店長であり,本
来的に粉じんが飛散する工場等の作業現場で働く者ではなかったことから
すれば,粉じんに対する予防策を執らなかったことをもって,直ちに本件
建物の異常な使用方法であり,本件建物には,設置,保存上の瑕疵がなか
ったということもできない。
イ本件建物の所有者について
証拠(乙11,乙12)によれば,昭和44年12月,C株式会社を建
築主として,本件建物の建築が開始され,昭和45年3月ころ,本件建物
が竣工した事実が,証拠(乙11,乙13の1ないし6)によれば,C株
式会社ないしC株式会社から商号変更したD株式会社は,本件建物に係る
昭和46年度,昭和48年度,昭和51年度,昭和54年度,昭和57年
度,昭和60年度の各固定資産税を,本件建物の所有者として支払った事
実が,それぞれ認められ,これらの事実を総合すれば,昭和45年当時の
本件建物の所有者はC株式会社であったことが推認でき,この推認を妨げ
るに足りる事実はない。
そして,C株式会社が,関連会社等との合併及び商号変更により,D株
式会社となり,更にその後,被告Y1は,本件合併により,D株式会社の
権利義務を包括的に承継して本件建物の所有者となったことは,当事者に
争いがない。
ウ本件建物の占有者について
前提事実証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる認,,(
定に用いた証拠は各文末尾に記載する。。)
(ア)本件建物は,頻繁に電車が往来する鉄道の高架下にあり,電車が通る
,。,たびに棚に置いた商品が徐々にずれる程度の振動が生じていた特に
昭和61年ないし62年ころ以降は,アスベスト吹き付け材の経年劣化
もあいまって,本件粉じんが目立って飛散し,本件2階倉庫の商品棚,
商品及び床面等に降り積もっている状態であった(以上,()ウ(イ)で。2
認定のとおり)。
(イ)C株式会社は,昭和45年3月2日,本件賃貸借契約を締結し,株式
会社Bに対し,本件建物を賃貸した(第2の2「前提事実」())。5
本件賃貸借契約では,本件建物が駅高架下に存在するという鉄道施設
に関連した特殊物件であることを前提に(甲A8第1条,甲A40第1
条,弁論の全趣旨,C株式会社に対し,管理上必要があるときに,本)
件建物に立ち入り,必要な措置を執る権限が認められていた(甲A8第
13条,甲A40第13条,弁論の全趣旨。)
(ウ)本件賃貸借契約上,C株式会社は,本件建物の主体建築物及び基礎的
施設の維持管理に必要な修繕義務を負担しているところ(甲A8第12
条,甲A40第12条,本件2階倉庫の壁面には,クロシドライトを)
含有する吹き付け材が施工されている(()ウ(ア)で認定のとおり。2。)
(エ)株式会社Bは,Aのほか,Aの兄弟であるI,Jが取締役を勤めてお
り(甲A42,49,Aが店長として勤務していた(第2の2「前提)
事実」()。1)
ところで,民法717条1項は,危険な工作物を支配,管理する者が,
当該危険が現実化したことによる責任を負うべきであるとの考え方に基づ
くものであることからすれば,同項にいう「占有者」とは,被害者に対す
る関係で土地工作物から生ずる危険を支配,管理し,損害の発生を防止し
得る地位にある者をいうと解するのが相当である。そうしたところ,上記
(ア)ないし(エ)と前記イで認定した事実によれば,[]C株式会社は,本件1
建物の所有者として,本件建物が駅高架下に存在するという鉄道施設に関
連した特殊物件であることを前提に,本件賃貸借契約を締結し,同契約に
おいては,C株式会社に対し,管理上必要があるときに,本件建物に立ち
入り,必要な措置を執る権限が認められていたこと,[]本件賃貸借契約2
上,賃貸人であるC株式会社は,本件建物の主体建築物及び基礎的施設の
維持管理に必要な修繕義務を負担しているところ,本件2階倉庫の壁面に
は,アスベスト吹き付け材が施工されており,電車の振動及び経年劣化に
より,本件2階倉庫部分には本件粉じんが飛散し得る状態であったことが
認められ,これらの事実によれば,本件2階倉庫の壁面につき修繕等の措
置を執ることが許容されているのは専ら賃貸人たるC株式会社であって,
。,賃借人の株式会社Bにはそのような権限がなかったものといえる加えて
[]賃借人である株式会社Bが,取締役はA及びその兄弟で占められてい3
る上,Aが店長として本件建物で勤務しており,個人営業が法人成りした
に過ぎないことにかんがみると,株式会社Bは,吹き付けアスベストに曝
され続け,損害を被った被害者であるAと実質上同一であると評価できる
ことを総合考慮すると,被害者であるAに対する関係で本件建物2階倉庫
部分に施工されている吹き付けアスベスト材から生じる危険について,支
配,管理し,損害の発生を防止し得る地位にあった者は,C株式会社であ
るというべきである。したがって,C株式会社が,民法717条1項にい
う占有者に当たると認められる。
,(,,)これに対し証拠甲A8第11条甲A40第11条証人W2p15
及び弁論の全趣旨によれば,本件建物はスケルトン貸しであり,店舗の内
,,装に関する事項は本件建物の賃借人の責任に属するところ前記のとおり
株式会社Bにより本件2階倉庫が造られ,倉庫等として使用されてきた事
実が認められるが,本件で瑕疵が問題となっている部分は,本件建物の主
体構造と一体となっている本件2階倉庫の壁面部分であって,内装に関す
,,る部分ではないから内装に関してC株式会社に権限がないことをもって
。,C株式会社が占有者に当たるとの上記認定を妨げることはできないまた
被告Y1は,C株式会社が本件建物の合鍵さえ持っていなかったと主張す
るが,事実としての合鍵所持の有無と,支配,管理すべき責任の所在とは
別個の問題であって,仮にC株式会社が本件建物の合鍵を所持していなか
った(乙24)としても,そのことにより,C株式会社が占有者に当たる
との上記認定は妨げられるものではない。
エまとめ
前記イ,ウによれば,結局,本件建物に係る民法717条1項の関係で
責任を負うべき主体は,その責めを負うべき期間(すなわち,Aが本件建
物内で吹き付けアスベストに曝され始めた昭和45年3月から,悪性胸膜
中皮腫を発症した平成13年11月ころまでの間)に占有者(賃貸人)兼
所有者(同項において占有者と所有者が同一のときは,同項後段の免責は
問題とならず,占有者兼所有者が責任を負う)であったC株式会社(昭。
和48年2月末日まで)ないしD株式会社(同年3月1日以降)を承継し
た被告Y1となる。そうすると,被告Y1は,原告らに対し,民法717
,。条1項に基づき後に検討するAが被った損害につき賠償する義務がある
()争点[](本件建物の設置,保存上の瑕疵とAの死亡との間の相当因果関56
係の有無)について
ア証拠及び弁論の全趣旨によれば,Aの症状の経過につき以下の事実が認
められる(認定に用いた証拠は,各文末尾に記載する。。)
,,(),(ア)Aは平成14年7月悪性胸膜中皮腫との診断を受け争いがない
同月以降,中皮腫につき,抗がん剤治療を受け始めた(甲A49。p4)
治療開始後の同年10月ないし11月には,担当医師から良好な状態で
ある旨告げられていたが,平成16年1月24日には,医師から毎週抗
がん剤の点滴が,また,同年2月22日には,週に2回抗がん剤の点滴
が必要となり,それぞれ指示どおりの点滴が行われるようになった(甲
A49ないし,弁論の全趣旨。p58)
また,平成14年にAの肺に胸水が確認され,7月に胸水を除去した
後,Aの胸水の量は,増減はあるものの,経過観察で足りる程度であっ
たが,平成16年4月12日には,レントゲン撮影により,再び胸水の
増加が確認され,同日,hセンターに入院の上,同月19日に胸水の除
去が行われた(甲A49ないし。p48)
(イ)Aは,平成16年4月20日ころから咳き込むようになり,同月23
日には気胸が確認され,その後,呼吸困難に陥った。胸水も増加し,ド
レーンによる排水が実施された(以上,甲A49)。p8
同年5月には,いったんは肺の状態が改善されたものの,再度胸水が
,()。溜まり気胸からの空気の漏れも見られるようになった甲A49p9
(ウ)平成16年6月になっても,Aの胸水は改善されず,同月中旬ころか
らは,Aには微熱,食欲不振などの症状が見られるようになり,衰弱が
目立つようになった(甲A49。Aは,同月19日「ドクターのp10),
説明によっては決断しなければ「家族を開放してやりたい」と日記」,。
に記載し(甲A50,また,21日には「もう生きる希望がなくなっ)
た」と医師に伝えるようになった(甲A49,甲A50。同月下p10)
旬に入ると,Aは,右肩肩胛骨下付近の腫れと痛みが著しくなり,不眠
症状も見られるようになり,また,呼吸困難のため,外出の際には酸素
ボンベが必要な状態となっていた(以上,甲A49,,原告X。p1011
1本人)p9
そのような中,Aは,6月23日にhセンター心療内科のI医師によ
り「悪性胸膜中皮腫の治療見通しに対しての精神,心理的ストレス」,
を原因とする「適応障害(不安と抑うつ気分を伴う混合型」と診断さ)
,(,れ薬物療法及び支持的カウンセリングを受けることとなった甲A2
甲A36。)
(エ)Aは,平成16年6月28日にhセンターを退院した後も呼吸困難を
訴えており,その原因として,左肺側に胸水が貯留し始めていることが
(,,)。考えられると医師から説明があった甲A49原告X1p1112p9
Aは,同年7月4日,再び「死にたい」などと日記に記載した(甲A。
50。同月8日には,Aは,症状悪化のため再度hセンターに入院し)
た(甲A49,,原告X1本人。p1112p9)
同月9日,痛みを座薬で抑えていたAの左側肺にドレーンを留置し,
胸水の排水を開始したが,Aは,同月14日ないし16日,右側肺にも
管を留置し,呼吸を楽にすることを強く希望した(甲A49。p12,13)
このころ,Aは「死ぬのは怖くないが,息ができないのが苦しい」,。
と漏らすようになり,また,Aは食事が摂れておらず,衰弱していたた
め,同月18日には,ブドウ糖の点滴が開始された(甲A49。p13)
同月14日の心療内科受診時,Aには,不眠,不安,抑うつ気分の再燃
が見られた。なお,Aには,中皮腫に伴う心身の苦痛,苦悩以外のスト
レス要因は診療経過上確認されなかった(以上,甲A36。。)
(オ)平成16年7月20日,Aは,とにかく胸水を抜いてほしい旨希望
したが,同日午後5時過ぎ,主治医は,原告X1及び原告X3に対し,
衰弱が激しく体力が低下しているためこれ以上胸水を抜くことができな
い,余命は4,5日であると伝えた(甲A49,原告X1本人p13,14
。これを受けて,原告X3が,Aに対し,胸水を抜くことがでp12,13)
きないことを伝えたところ,Aは深く絶望した様子で,崩れ落ちるよう
な状態であった(甲A49,原告X1本人。p14p13)
(カ)Aは,平成16年7月20日午後8時45分,自殺により死亡した
(争いがない。)
イさらに,証拠(甲A36,37)によれば,適応障害と自殺との関係に
ついて,以下の事実が認められる。
(ア)適応障害とは,はっきりと確認できるストレス(がんの診断や再発の
告知など)に関連して起こる不安・抑うつで,上記ストレスにより予測
されるものをはるかに超えた苦痛あるいは社会的,職業的機能の著しい
障害を生じている状態である(DSM−Ⅳ。がん患者に多いのは,不)
安と抑うつを伴う適応障害である(以上,甲A36資料)。p3
(イ)適応障害は,その病態として自殺念慮が出現する蓋然性が高い精神障
害の一つと医学的に認められている(甲A36,37。)
(ウ)I医師は,臨床医学的知見から,Aの自殺につき,中皮腫による適応
障害(不安と抑うつ気分を伴う混合型)の精神症状(特に抑うつ気分)
が自殺行動の誘因となった可能性がある旨推定している(甲A36。)
ウ上記認定事実によれば,[]Aは,平成14年7月に悪性胸膜中皮腫と1
の診断を受け,中皮腫の治療を開始したところ,中皮腫はいったん改善傾
向を見せたものの,その後はむしろ悪化し,腫瘍の痛みの増強とともに,
胸水の増加やそれに伴う呼吸困難,衰弱が生じたこと,[]そのような症2
状悪化と肉体的苦痛が持続していた状況のもとで,Aは,自ら死を希求す
る趣旨の発言をするようになり,心療内科医により適応障害と診断される
に至ったこと,[]他方,診療経過上,中皮腫以外のストレス要因は認め3
られなかったことが認められ,これらの事実を総合すると,Aは,前記I
医師の診断どおり,中皮腫の症状の悪化による重度の精神的心理的ストレ
スにより適応障害を発症したものと認めることができる。したがって,A
の悪性胸膜中皮腫と適応障害との間には,相当因果関係があるというべき
である。
また,上記認定事実によれば,Aが適応障害と診断された後,Aの疼痛
及び呼吸困難は一層悪化したため,Aは,特に呼吸困難に苦しみ,胸水を
抜くことを強く希望していたが,その希望が医師により断られたことに深
く絶望し,その直後,Aが自殺したことが認められる。そして,このよう
なAの病態や診療経過にかんがみると,Aは,かねてから適応障害によっ
て自殺念慮を抱き,自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害さ
れている状態に陥っていたところ,主治医によってもはや呼吸困難改善の
ため胸水を抜くこともできない旨の絶望的見通しを告知されたのが引き金
になって自殺するに至ったものと推認することができる。そうすると,A
の中皮腫及びこれに起因する適応障害がAの自殺の原因であるということ
ができるから,Aの悪性胸膜中皮腫と自殺による死亡との間には相当因果
関係があると認めるのが相当である。
そして,上記のとおりAの悪性胸膜中皮腫と自殺による死亡との間には
相当因果関係があることに加え,前記()のとおり本件建物にはアスベス3
(),,トクロシドライト吹き付け材から発生した粉じんの暴露吸入により
生命,健康が害され得る危険性があるという意味において設置,保存上の
瑕疵があったものと認めるられるところ,前記()のとおり,上記危険が2
顕在化し,本件2階倉庫におけるクロシドライト繊維からなる本件粉じん
を原因としてAの悪性胸膜中皮腫が発症したと推認できることからすれ
ば,本件建物の設置,保存上の瑕疵とAの死亡との間には,相当因果関係
が認められるというべきである。
()争点[]及び[](原告らの損害額,過失相殺及び損益相殺の可否及びそ678
の割合)について
ア損害額
(ア)入通院,治療及び休業に関する損害
a治療関係費505万3711円
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(認定に
用いた証拠は,各文末尾に記載する。。)
()Aは,a病院に平成14年6月6日から通院し,同月10日からa
同月21日までの12日間,検査のため入院し,悪性胸膜中皮腫と
の診断を受け,診療費として16万9730円を支払った(甲C1
の1ないし5,甲C31。)
()Aは,悪性胸膜中皮腫の治療のため,b病院に平成14年6月2b
1日から通院し,同年7月1日から同年9月3日までの65日間,
検査,治療のために,平成15年11月28日から同年12月5日
までの8日間,悪性胸膜中皮腫を原因とする右脇腹腫瘍摘出のため
に,平成16年1月14日から同月27日までの14日間,抗がん
剤治療のために,それぞれ入院し,診療費として84万1740円
を支払った(甲C2の1ないし40,甲C32。)
()Aは,悪性胸膜中皮腫の治療のため,c診療所に平成14年7月c
26日から同年11月14日までの間に通院し,診療費として36
万3620円を支払った(甲C3の1ないし6,甲C33。)
()Aは,悪性胸膜中皮腫の治療のため,d病院に同年10月26日d
から平成16年2月29日までの間通院し,治療費として86万7
330円(平成14年10月26日から同年12月31日分は重複
していると考えられるので,証拠記載額をそのまま合算した98万
()。),5280円から11万7950円甲C4の1を控除したを
薬剤費として35万5150円(3560円の返金(甲C5の8)
を控除した金額)をd薬局に,それぞれ支払った(甲C4の1ない
し51,甲C5の1ないし53,甲C34,弁論の全趣旨。)
()Aは,平成14年9月14日,悪性胸膜中皮腫の検査のためにee
病院に通院し,検査費及び薬剤費として18万9910円を支払っ
た(甲C6の1,2,弁論の全趣旨。)
()Aは,平成14年11月20日から同年12月4日の間,悪性胸f
膜中皮腫の検査,治療のためにfクリニックに通院し,検査費及び
診療費として12万6680円(原告が同クリニックに係る請求額
に掲げていない680円(甲C7の2)を含む)を支払った(甲。
C7の1,2,弁論の全趣旨。)
,,()Aは平成15年11月4日から平成16年2月19日までの間g
悪性胸膜中皮腫の検査,治療のためにg病院に通院し,治療費等と
(,)。して2万2300円を支払った甲C8の1ないし5甲C36
()Aは,胸膜中皮腫の診療のために,平成16年2月9日から同年h
4月12日までの間及び同年6月30日から同年7月8日までの
間,hセンターに通院し,同年4月19日から同年6月28日まで
の間及び同年7月8日から同月20日までの合計84日間,同病院
に入院し,診療費として,24万5815円を支払った(甲C9の
1ないし15,甲C37。)
()Aは,胸膜中皮腫の治療のために,平成16年2月26日から同i
年4月17日までの間,iクリニックに通院し,治療費として14
8万1370円を支払った(甲C10の1ないし4,甲C38。)
()Aは,胸膜中皮腫の治療のために,平成16年5月17日,同月j
,,,,31日同年6月25日同年7月1日同月8日及び同月15日
jクリニックに通院し,治療費等として122万5216円を支払
った(甲C11の1ないし7,甲C39。)
()Aは,上記治療費のうち83万5150円につき,高額医療費返k
還分として給付返還を受けた(甲C15の1ないし17。)
上記認定事実によれば,Aは,悪性胸膜中皮腫に関する治療関係費
として,合計505万3711円を負担したことが認められるので,
Aは,同額の損害を被ったことが認められる。
なお,証拠(甲C12の1ないし2,甲C13の1ないし17,甲
C14の1ないし9)によれば,Aは,免疫力改善のため健康補助食
品などを購入し,合計135万7538円を支払ったことが認められ
るけれども,証拠(原告X1)によれば,これらの健康補助食品p25
などは医師の勧めではなく自発的に試みたことが認められるので,A
が被った相当因果関係ある損害として認められないというべきであ
る。
b通院付添費及び自宅付添費認められない
証拠(原告X1)によれば,平成16年7月8日のhセンターp25
,。への入院の直前までは家族の介護は必要なかったことが認められる
そうすると,Aが,通院付添費及び自宅付添費相当額の損害を被った
とは認められない。
c入院雑費23万7900円
上記(ア)で認定した事実によれば,Aは,悪性胸膜中皮腫の治療等
のため183日間入院しており,この間の入院雑費は1日1300円
とするのが相当である。
したがって,入院雑費は,1300円に入院日数183日を乗じた
23万7900円となり,Aは同額の損害を被ったと認められる。
d通院交通費等45万4118円
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(認定に
用いた証拠は,各文末尾に記載する。。)
()Aは,hセンターへの通院の際,駐車場代として,3000円をa
支払った(甲C16の1ないし9,弁論の全趣旨。)
()Aは,iクリニックへの通院の際,新幹線代として26万600b
0円を,レンタカー代として6993円を,宿泊代として8万71
,(,,55円をそれぞれ支払った甲C17の1ないし10甲C18
甲C19の1ないし4,弁論の全趣旨。)
()Aは,d病院,hセンター,b病院への通院の際,高速代としてc
7万6220円を支払った(甲C20の1ないし7,弁論の全趣
旨。)
()Aは,jクリニックへの通院の際,タクシー代として1万475d
0円を支払った(甲C21の1,2,弁論の全趣旨。)
,,,,,上記認定事実によればAはiクリニックd病院hセンター
b病院,及びjクリニックへの通院の際,交通費として合計45万4
118円を支出したことが認められるところ,上記(ア)で認定したと
おり,Aは,これらの病院に,悪性胸膜中皮腫の診療,治療等のため
に通院していたこと,jクリニックへの通院日のうち,平成16年5
月17日,同月31日,同年6月25日及び同年7月15日は,Aは
hセンターに入院しており,その他の通院日である同年7月1日及び
同月8日において,上記()ア(エ)で認定したとおりAは呼吸困難を訴5
,,えていたことを考慮するとAが支出した交通費45万4118円は
Aが被った損害と認められる。
e器具購入費1万1380円
(,),,,証拠甲C22弁論の全趣旨によればAは平成16年6月
自宅で寝起きする際の苦痛を緩和するため介護用ベッドを購入し,そ
の代金として1万1380円を支出したことが認められるので,当該
購入費用はAが被った損害と認められる。
これに対し,証拠(甲C23の1,2,原告X1)によれば,p26
Aは,悪性胸膜中皮腫の治療のため,温灸器及びもぐさを購入し,8
万9145円を支払ったことが認められるけれども,証拠(原告X1
)によれば,当該温熱療法は医師の勧めではなく自発的に行ったp25
ことが認められるので,Aが被った相当因果関係ある損害として認め
られないというべきである。
f休業損害815万3589円
証拠(証人W2,原告X1,甲C24,弁論の全趣旨)にp17p19
よれば,Aは,株式会社Bでの勤務により,平成13年は386万円
の収入を得ていたところ,平成14年6月10日にa病院に入院して
から平成16年7月20日に死亡するまでの771日間,悪性胸膜中
皮腫により稼働できなかったことが認められるので,上記期間にAが
被った休業損害は,以下のとおり815万3589円となる。
386万円×(771日÷365日)=815万3589円(円未
満切り捨て。以下同じ。)
g入通院慰謝料391万円
上記(ア)で認定したとおりAは,悪性胸膜中皮腫のため,平成14
年6月6日にa病院に通院し始めてから平成16年7月20日に死亡
するまでの間(合計25か月,183日間入院し,入院期間以外は)
通院していた。
上記入通院に対する慰謝料の額は,391万円が相当である。
よって,Aの入通院,治療及び休業に関する損害は,上記aからgの
合計額1782万0698円となる。
(イ)死亡による損害
a葬儀関係費用150万円
証拠(甲C25,甲C26の1,2)によれば,Aの葬儀関係費用
として354万7563円が支出されたことが認められ,このうち,
150万円が,Aの死亡と相当因果関係のある損害と認めるのが相当
である。
b死亡による逸失利益1340万1302円
Aは,死亡当時70歳であった(争いがない)ことからすれば,。
その平均余命14年の2分の1の7年間を就労可能期間とし,中間利
息控除として同期間に対応するライプニッツ係数(5.7864)を
。,(,用いて逸失利益を計算するのが相当であるまた証拠甲A49p3
甲C24,27)によれば,Aは,死亡当時一家の支柱であり,妻の
原告X1を扶養していた(Aの子であるその余の原告らは,いずれも
独自の収入を得ていた)ことが認められるから,Aの生活費の控除。
割合は4割とするのが相当である。そこで,上記(ア)fで認定した年
収386万円を基に,生活費控除割合を4割として逸失利益を算出す
ると,Aの死亡による逸失利益は,以下のとおり1340万1302
円となる。
386万円×(1−0.4)×5.7864=1340万1302

c死亡慰謝料2800万円
Aの死亡慰謝料は,2800万円とするのが相当である。
よって,Aの死亡による損害は,aからcの合計額4290万130
2円となる。
イ損益相殺及び過失相殺
(ア)過失相殺
aAが平成16年7月20日に自殺により死亡したことは当事者間に
争いがないところ,証拠(甲A36添付書類)によれば,我が国p4
のがん患者の自殺率は0.2%であったとの報告が平成11年になさ
れていることが認められる。そして,このように,がん患者のうち自
殺に至る者の割合は小さいことからすれば,前記()ウのとおり,A5
が,悪性胸膜中皮腫を原因とする適応障害によってかねてから自殺念
慮を抱き,自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されて
いる状態に陥っていたところ,主治医によってもはや呼吸困難改善の
ため胸水を抜くこともできない旨の絶望的見通しを告知されたのが引
き金になって自殺するに至ったとの事情を考慮しても,損害の公平な
分担の観点から,民法722条2項を類推適用して,上記ア(イ)のA
の死亡による損害から1割減額するのが相当である。
そうすると,Aの死亡による損害額は,3861万1171円とな
る。
b前記()アで認定したとおり,株式会社Bは,本件2階倉庫部分を4
造り,当該部分を倉庫等として利用した事実及びAは,密閉された本
件建物2階倉庫内で,格別粉じんに対する予防策を講じずに壁面落下
物を吸引しながら作業に従事していた事実が認められるところ,前記
()アで検討したとおり,これらの事実から直ちに本件建物の使用方4
法が異常なものであるということはできないけれども,株式会社B及
びAの上記使用方法ないし作業態様も,Aの本件粉じん吸引による悪
性胸膜中皮腫の発症に一定程度寄与したことものと合理的に推認され
ることにかんがみると,損害の公平な分担の観点から,民法722条
2項を類推適用して,Aが被った全損害から2割の減額をするのが相
当である。
そうすると,Aの損害額は,上記ア(ア)の1782万0698円と
上記aの3861万1171円を合計した5643万1869円から
2割を減額した4514万5495円となる。
そして,原告X1は,Aの妻であり,原告X2,原告X3及び原告X
4は,いずれもAの子であることは当事者間に争いがないので,原告ら
は,Aの損害に係る賠償請求権をそれぞれ法定相続分(原告X1は2分
の1,その余の原告らは各6分の1)に従って相続した結果,原告X1
の損害額は2257万2747円,その余の原告らは各752万424
9円となる。
(イ)損益相殺
原告X1は,Aの死亡後,独立行政法人環境再生保全機構に対し,石
綿による健康被害の救済に関する法律に基づき,Aの死亡に関する救済
給付申請を行い,平成19年8月29日,Aの死亡について石綿起因性
が認められて,特別遺族弔慰金280万円及び特別葬祭料19万900
0円,以上合計299万9000円の支給決定がされ,同額の支給を受
けたことは当事者間に争いがないところ,このうち,特別葬祭料19万
9000円は,損益相殺の対象となるものであるから,原告X1の損害
額は,2237万3747円となる。
これに対し,特別遺族弔慰金は,石綿による健康被害の迅速な救済を
図ることを目的とするものであり(石綿による健康被害の救済に関する
法律第1条,損害を填補する性質を有するものということはできない)
から,損益相殺の対象とならないというべきである。
ウ弁護士費用
本件訴訟の内容,審理経過及び認容損害額等にかんがみると,被告Y1
に賠償させるべき弁護士費用は合計450万円(原告X1につき225万
円,その余の原告らにつきそれぞれ75万円)とするのが相当である。
以上によれば,原告X1の損害額は2462万3747円,その余の原告
らの損害額はそれぞれ827万4249円(合計4944万6494円)と
なる。
2被告Y2に対する請求関係
()争点[](アスベストの危険性に関する知見及びアスベストの規制状況)19
について
前記1()のとおり。1
()争点[](Aの悪性胸膜中皮腫の発症原因)について210
前記1()のとおり。2
()争点[],[](被告Y2の賃貸人としての安全性確保義務違反に基づく31112
責任の有無等)について
アC株式会社,D株式会社に係る賃貸人としての本件建物の安全性確保義
務違反に基づく責任の有無
前記1()で検討したとおり,C株式会社ないしD株式会社に,賃貸人3
としての本件建物の安全性確保義務違反に基づくAの悪性胸膜中皮腫罹患
についての責任を認めることはできない。
イ被告Y2自身の賃貸人としての本件建物の安全性確保義務違反に基づく
責任の有無
前記1()のとおり,すでに昭和62年ころには建築物の吹き付けアス1
ベストの暴露による健康被害の危険性及びアスベストの除去等の対策の必
要性が世間一般に認識されるようになったと評価する余地があり,その後
のさらなるアスベストを巡る知見の浸透も考慮すると,被告Y2が本件建
物の賃貸人たる地位を承継した平成14年4月の時点においては,本件2
階倉庫部分の吹き付けアスベストの危険性について予見可能性があったと
いえる。
しかしながら,前記1()のとおり,アスベスト暴露の量が多くなれば2
それだけ中皮腫に発症しやすくなるものであるところ,Aは,昭和45年
4月から平成14年5月までの約32年間,本件建物2階倉庫において本
件粉じんに曝された中でも勤務していたこと,Aは,平成13年11月こ
ろから,次第に咳が酷くなり,寝付けない日が続くようになり,平成14
年には胸水が確認され,同年6月20日ころ,悪性胸膜中皮腫の診断を受
け,同年7月,b病院において,悪性胸膜中皮腫上皮型との確定診断を受
けたことからすれば,被告Y2が本件建物の賃貸人たる地位を承継した平
成14年4月の時点において,吹き付けアスベストの撤去等の措置を執っ
ていたとしても,Aにおける中皮腫の発症を回避できたものと認めること
は困難である。そうすると,仮に被告Y2自身の賃貸人としての本件建物
の安全性確保義務違反があったとしても,当該義務違反とAの悪性胸膜中
皮腫の発症との間には相当因果関係を認めることはできないというべきで
ある。
したがって,被告Y2に対し,賃貸人たる地位を承継した立場及び固有の
賃貸人たる地位のいずれについても,安全確保義務違反に基づく責任を認め
ることはできないから,原告らの被告Y2に対する請求は,その余の点につ
いて判断するまでもなく理由がない。
3結語
以上によれば,原告らの被告Y1に対する請求は,主文の限度で理由がある
からこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,原告らの被
告Y2に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負
担につき民訴法61条,64条,65条1項を,仮執行宣言につき同法259
条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第20民事部
裁判長裁判官徳岡由美子
裁判官下澤良太
裁判官野口晶寛

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛