弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人安藤真一、同奥村孝、同阿部清治の上告理由について。
 論旨は、要するに、本件更正処分が再更正処分によつて取り消されたとして、更
正処分の取消を求める訴の利益を否定した原審の判断は、法人税法(昭和三四年法
律第八〇号による改正前のもの。以下同じ。) 三一条一項の適用を誤つたもので
ある、という。
 上告人は、被上告人税務署長が上告人に対し昭和三三年三月三一日付をもつてし
た昭和三一事業年度の法人税に関する更正(第一次更正処分)の取消を求めるもの
である。しかして、原判決の確定した事実によれば、被上告人税務署長は、本件訴
訟係属後の昭和三五年四月三〇日にいたり、訴訟で攻撃されている右更正処分の瑕
疵を是正するために、同日付で、更正の用紙を用い、上告人の昭和三一事業年度の
所得金額を確定申告書記載の金額に減額する旨の再更正(第二次更正処分)と、更
正の具体的根拠を明示して、申告に係る課税標準及び税額を第一次更正処分のとお
りに更正する旨の再々更正(第三次更正処分)をなし、右二個の処分の通知書を一
通の封筒に同封して上告人に送付した、というのである。右の事実関係の下におい
ては、第二次更正処分は、第三次更正処分を行なうための前提手続たる意味を有す
るにすぎず、また、第三次更正処分も、実質的には、第一次更正処分の附記理由を
追完したにとどまることは否定し得ず、また、かかる行為の効力には疑問がないわ
けではない。しかしながら、これらの行為も、各々独立の行政処分であることはい
うまでもなく、その取消の求められていない本件においては、第一次更正処分は第
二次更正処分によつて取り消され、第三次更正処分は、第一次更正処分とは別個に
なされた新たな行政処分であると解さざるを得ない。
 されば、第一次更正処分の取消を求めるにすぎない本件訴は、第二次更正処分の
行なわれた時以降、その利益を失うにいたつたものというべく、これと同趣旨に出
た原審の判断は正当であり、論旨は、排斥を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官田中二郎の反対意見が
あるほか、全裁判官一致の意見により、主文のとおり判決する。
 裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。
 本件は、更正処分の取消訴訟の性質をどのように理解するかにかかる問題であり、
さらに一般的に、取消訴訟の本質ないし訴訟物をどう考えるべきかの根本問題につ
ながる問題でもある。この点について多数意見の示した見解は、従来の普通の見解
に従つたものといえるが、このような従来の一般の考え方に対して、私は、疑問を
抱かざるを得ない。本件の結論として、私は、多数意見とは反対に、原判決及び第
一審判決を破棄して第一審に差し戻し、第一審において、本案について実体判断を
下すべきものと考える。
 次にその理由を述べる。
 一、まず第一に、更正処分の取消訴訟の本質をどう考えるべきか、その訴訟物を
どう理解すべきかが問題である。従来一般には、更正処分の取消訴訟は、特定の更
正処分そのものの取消を求める訴訟として理解されてきた。そして多数意見も、こ
の従来の普通の見解に従い、本件第一次更正処分は、これに対する取消訴訟の提起
後、第二次更正処分によつて取り消され、第三次更正処分は、第一次更正処分とは
別個になされた新たな行政処分であるとし、第一次更正処分の取消を求めるにすぎ
ない本件訴は、第二次更正処分の行なわれた時以降、その利益を失うにいたつたも
のとみるべきであるとし、これと同趣旨に出た原審の判断を正当として支持してい
る。
 更正処分の取消訴訟を法文の字句に即して形式的に解釈すれば、右のような考え
方も一応成り立つであろう。しかし、この訴訟の本来の狙いに即して実質的に解釈
すれば、確定申告額の正当性を主張する納税者たる原告は、更正処分によつて正当
な納税額を超える課税をされたことに対して、当該更正処分を形式上の手がかりと
して、実質的に当該更正処分による課税の違法を主張し、その違法状態の排除を求
めているものにほかならない。もつとも、訴訟手続的には、再更正・再々更正等の
処分がされた場合に、これらの処分に不服がある者は、不服申立前置を必要としな
いで、訴の追加的併合(又は訴の変更)をなし、あわせて(又はその)裁判を求め
ることができることになつてはいるが、このような行政庁の一方的な再更正・再々
更正の処分に対し、常に納税者に相次いで訴の追加的併合(又は訴の変更)をなす
べきことを要求するということは、あまりにも、訴訟技術に拘泥しすぎ、納税者の
救済制度の趣旨にそわない解釈であるというべきではなかろうか。私としては、第
一次の更正処分の取消訴訟が提起された後、さらに第二次の再更正処分、第三次の
再々更正処分等がなされた場合において、これらの処分が、依然、納税者が正当と
して主張する税額を超えるものである以上、第一次更正処分の取消訴訟は、このよ
うな違法状態の排除を求めることに、その本来の目的があるのであるから、必ずし
も、常に訴の追加的併合(又は訴の変更)の措置をまつまでもなく、第二次の再更
正処分及び第三次の再々更正処分も、第一次更正処分の取消を求める訴訟の中に含
まれるものと解するのが更正処分に対する取消訴訟の救済制度としての趣旨・目的
にそう解釈ではないかと考える。
 二、右に述べたところは、一般的に、更正処分の取消を求める訴訟についていい
得るところであるが、仮りに一般的に、こういう解釈をすることに問題があるとし
ても、少なくとも、本件の具体的事案については、右に述べた結論を支持する理由
があると思う。次に、その理由を述べる。
 具体的に本件の更正処分の経過をみるに、本件では、第一次更正処分が取消訴訟
の対象とされた後に、上告人(原告)の所得金額を確定申告書記載の金額と同額と
する旨の第二次の再更正処分と、更正の理由附記を追完しただけで、申告にかかる
課税標準及び税額を第一次更正処分のとおり更正する旨の第三次の再々更正処分と
が、同時に、一通の封筒に同封されて上告人に送付されたというのである。してみ
れば、これらの第二次の再更正処分と第三次の再々更正処分とは、それぞれ、別個
の処分のような形式をとつてはいても、これらの処分を、それぞれ、別個にされた
有効な更正処分とみるべきかどうか頗る疑わしく、かえつて、第二次の再更正処分
は、第一次更正処分が理由附記を欠く瑕疵を有することを認めて、一応、形式上こ
れを白紙に戻すこととすると同時に、第三次の再々更正処分によつて、課税標準及
び税額は、第一次更正処分のとおりにしたまま、その理由附記を追完しただけにす
ぎないのであつて、第二次の再更正処分と第三次の再々更正処分とは、相まつて、
第一次更正処分に理由附記を追完するためにとられた措置にほかならないのではな
かろうか。従つて、たとえ、形式上、別個の処分のような形式・外観をもつていて
も、法律が一般に予定しているように更正処分が新らしい事実の判明するに伴つて
次々に積み重ねられていく場合(この場合にも、第一次更正処分の取消訴訟の目的
が消滅すると解すべきではなく、新たに加えられた部分のみが、右の取消訴訟の対
象になつていないという解釈をする余地があるにすぎないと考える。)とは、全く
その性質を異にし、単に理由附記を追完するための便宜措置として、第二次及び第
三次の更正処分を同時にしたにすぎず、これらを、それぞれ、全く別個独立の処分
と考えるべきものではない。むしろ、その内容と実質について考察すべきであつて、
この見地からすれば、第二次の再更正処分及び第三次の再々更正処分は、本来の更
正処分とみるべきものではなく、第一次更正処分と第三次の再々更正処分とがその
理由附記が追完されている以外は、その内容が同一である点からみても、理由を附
記するためだけの修正・正誤にほかならず、取消訴訟上、別個独立の処分とみるべ
きものではない。殊に、本件取消訴訟の対象になつているのは、正に、その内容で
あつて、内容そのものは何ら異なるところはない(第二次の再更正処分は、形式上、
原告の主張するとおりに更正しているのである)のであるから、訴の追加的併合(
又は訴の変更)の措置をとるまでもなく、第三次処分の内容が、正に、本件訴訟の
対象になつていると解すべきである。この点に関する多数意見のとる見解は、処分
の形式・外観に拘泥しすぎ、訴訟技術の末に走つた感があつて、とうてい賛成する
ことができない。
 三、最後に、一言つけ加えておきたいことは、若し、多数意見の認めるように、
被告行政庁の側で、自由に、第二次、第三次の更正処分を行なうことができ、しか
も、原告側で、これに応じて、訴の追加的併合(又は訴の変更)をしない以上、そ
の主張がすべて排斥されざるを得ないことになれば、原告側の煩は堪えがたく、殊
に、訴訟法に精通しない原告側は、被告行政庁側の措置にふり廻わされることにな
つて、救済制度として重要な役割を果すべき取消訴訟の目的は達せられないことに
なることをおそれざるを得ない。
 このような被告行政庁側の措置が、敗訴を免れるために意識的にされたような場
合には、あるいは更正権の濫用として、あるいは信義則の違反として、その効力を
否定することもできるであろうが、そのような理論をまつまでもなく、訴訟の実体
を洞察し、納税者や一般国民の納得のいく判断がなされなければならない。本件に
ついても、原告に門前払いを喰わせることなく、実体について判断を下すのが相当
で、原判決及び第一審判決を破棄し、第一審に差し戻し、本案について審議させる
べきものと考える。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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