弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A、同B、同Cの弁護人戸沢重雄同毛利将行の上告趣意は、末尾に添えた
書面記載のとおりである。
 弁護人戸沢重雄の上告趣意第一点(趣意書第一ないし第五)、同毛利将行の上告
趣意第四点、同被告人Bに対する補足上告趣意第二点(被告人Cに対する補足上告
趣意(第二)を含む)について。
 論旨は、原判決の事実認定をもつて、被告人らに不能を強いるものであるとし、
本件のような場合は、被告人らは刑事責任を負うべきものでないというに帰するの
であるが、原判決は、所論のような事情は認定していないのであるから、論旨は結
局原判決の認定していない事実を捉えて、原判決を非難するに帰し理由がない。
 また戸沢弁護人が所論に関連し、判例違反を主張して引用する大審院判例は、被
告人自身が虚偽の陳述をしても罪とならない理由を説明しているのであるが、これ
は、法律が犯罪構成要件として規定しなかつた理由の説明であつて、犯罪構成要件
を充足してもなお、責任阻却又は違法阻却の事由としたものでないから、本件に適
切でない。
 弁護人毛利将行の上告趣意第一点、同被告人Bに対する補足上告趣意の第一点(
被告人Cに対する補足上告趣意(第二)を含む)について。
 所論は、原判決が判示認定事実の証拠を挙示するに当り、各事実に証拠の標目を
示さないで、漫然これを羅列したのは違法であつて、大審院判例に違反するという
のであるが、判決における証拠の挙示は、どの証拠がどの犯罪の証拠であるかゞ明
らかになれば足るのであつて(同旨昭和二五年(あ)第一〇八六号同年九月一九日
第三小法廷判決集四巻九号一六九五頁)、原判決はこの点において何ら欠けるとこ
ろはない。引用の判例は本件に適切でなく、論旨は理由はない。
 同第二点について。
 所論は、本件犯行に用いた偽造の転出証明書は、被告人Aについても、被告人B
についても、各二通であるから、原判決は、これを併合罪とすべきに、これに出で
なかつたのは、大審院判例に違反するというのであるが、本件のような場合、これ
を包括一罪と見て何ら妨げなく、挙示の判例もこれを否定しているものではない。
また、所論のように、正犯が一旦犯意を抛棄したことは原判決の認定していないと
ころであつて、原判決が従犯の従属性を否定したものでないことは明らかであるか
ら、前示の大審院判例と相反するものでもない。また原審が包括一罪と認定したの
に対して、これを併合罪とすべしと論ずるのは、被告人に対し不利益な主張であつ
て、上告として不適法である。いずれにしても論旨は理由がない。
 同第三点について。
 所論は独自の見解によつて、原判決の事実誤認を主張するのであつて、刑訴四〇
五条の上告理由に当らない。
 同第五点、同被告人Bに対する補足上告趣意の第三点、弁護人戸沢重雄の上告趣
意第六点(趣意書第六)について。
 所論は、独自の見解に立つて、原判決の量刑不当を攻撃するのであつて、適法の
上告理由とはならない。
 同被告人B、Cと題する第一点及び第二点について。
 所論第一点は、原判決が、本件のような複数犯罪行為を判示するのに、事実摘示
が特定していないとして、判例違反を主張するのであるが、原判決は、本件詐欺を
包括一罪と認めたので、このような場合には、この程度の判示をもつて足りるので
あり、併合罪の摘示方法についての挙示判例は、本件に適切でない。また包括一罪
の認定を違法とする主張は、第二点について説示したとおりであつて、論旨はいず
れも理由がない。
 また第二点の所論は、本件犯罪が、詐欺にならないという独自の見解を主張する
にすぎない。かつまた、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第三二九号同年七月一
五日第一小法廷判決、集二巻八号五〇三頁)にも反し、理由がない。
 同被告人Aに対する補足上告趣意(第三)の第一点について。
 所論は、原審が証人Dの喚問を許さなかつたのは、憲法第三七条に違反するとい
うのであるが、同条は被告人申請のすべての証人を喚問しなければならない趣旨で
ないことは、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第八八号同二三年六月二三日大法
廷判決、集二巻七号七三四頁)とするところであり、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 所論は、共犯関係にある一名に刑の執行を猶予し、被告人らに実刑を科したこと
は、憲法一四条に違反するというのであるが、すでに当裁判所は、犯情の類似する
被告人間の科刑の差異が、同条違反にならないことを判示している(昭和二三年(
れ)第四三五号同年一〇月大法廷判決、集二巻一一号一二七五頁)。論旨は理由が
ない。
 以上各論旨を通じて事実誤認又は法令違反に帰する主張は、なお記録を精査して
も刑訴四一一条を適用する必要を認めることはできない。論旨はいずれも理由がな
い。
 よつて刑訴施行法三条の二刑訴法四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
  昭和二七年一月八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三

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