弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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  主    文
    1 被告は,原告Aに対し,金861万1934円及びこれに対する平成3年8月20日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
    2 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ金430万5967円及びこれに対する平成3年8月
20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
    3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
    4 訴訟費用は,これを6分し,その1を被告の,その余を原告らの各負担とする。
           事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,原告Aに対し,5000万円及びこれに対する平成3年8月20日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ2500万円及びこれに対する平成3年8月20日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   平成3年8月20日の台風12号の影響による集中豪雨の中,国道138号を走行していた自家用車
が,土石流に直撃されて川に転落し,運転者が死亡した事故について,運転者の遺族が国に対し,国道
の設置又は管理に瑕疵があったこと(防護設備の不備と通行規制の遅れ)が事故の原因であるとして国
家賠償を求める事案である。
 1 判断の前提となる事実(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)
  (1) 本件事故の発生
    発生日時  平成3年8月20日(火曜日)14時35分から14時40分ころ又は14時40分ころ(時刻
については,わずかな違いではあるが,争いがある。なお,時刻について
は,以下,すべて24時制により表示する。)
    発生場所  小田原市と箱根仙石原・御殿場を結ぶ一般国道138号(以下,単に「道路」又は「本
件道路」ということがある。)の神奈川県足柄下郡箱根町宮城野1325番地
先の正照橋付近(上下2車線のアスファルト舗装である。)。後記の異常気
象時通行規制区間の西端である仙石原交差点から正照橋までの道路距離
は,約3.18㎞である。〔乙69〕
          同橋の北側(山側)のアルミニウム製の欄干は支柱が根元から破損脱落していた。同橋
の南側(早川側)の欄干はほとんど破損しておらず,南側欄干のすぐ東側
(小田原側)のガードレールが支柱の根元から破損脱落して崖下に垂れ下
がり,流木数本及び土石が道路上に散乱していた。〔甲24の12,31の2〕
    事故態様  D(昭和26年○月○日生)が自家用車(相模52○○○○○。フォルクスワーゲン・ゴ
ルフ。以下「本件車両」という。)で同所を走行中,折からの集中豪雨によっ
て生じた土砂流又は土石流(以下「本件土石流」という。)によって本件車両
とともに道路南側の崖下(道路から約30m下に早川が流れている。)に墜
落し,死亡した。(翌日,事故現場より早川の下流数百mで発見された本件
車両のギアはドライブに入っていて,運転席のシートベルトは使用状態(ベ
ルトが伸びきっていた。)であった。なお,Dの遺体は,平成3年8月24日,
小田原市米神漁港沖合600mの海上で発見された。)〔甲19,25~29,3
0の1,2,31の1~7,32,証人G〕
  (2) 本件事故発生前における本件事故現場付近の本件道路両側の状況
   ア 本件道路北側及び正照橋について
    (ア) 碓氷峠からの急峻な崖(樹木で覆われている。)が北側から迫り,道路面から高さ約2mの石
垣が積まれているが,正照橋の部分は,道路を横切る(道路の下を通過する)形の南北に通じる沢(無名
沢又は本件無名沢)であり,正照橋はこの沢を東西に跨ぐ形で設置されている。
    (イ) 正照橋は,関東大震災後の大正15年に橋長5.62m,幅員7.00mのコンクリートラーメン橋
(橋脚と上部構造との接合が剛結された構造のもの)として設置されたが(以下「旧橋」という。),老朽化し
たため,昭和51年度の地震対策道路工事事業により,昭和52年3月,橋長6.00m,有効幅員7.50
m(全幅員8.3m)のボックスカルバート橋(旧橋と同じ鉄筋コンクリート製であるが,橋脚,上部構造及び
河床部が一体成形されて箱形の断面を持っている。)として設置し直されたものである。〔乙17〕
    (ウ) 旧橋の下部の内空断面(カルバート。流水路部分)は,幅約3.7m,高さ約3.9mであった
が,現在の橋のそれは,幅約5m,高さ約3.5mである。
      無名沢の正照橋から北側(山側)約15mまでの部分(無名沢の河床部分)は,両側が石垣で,
沢の底も石畳とされ,ポケット状(橋の北側における沢の幅は約10mであり,容積は約392立方メートル
である。)に成形され,無名沢からの流下物は,いったんこのポケット状部分に落下して速度が減殺された
後,正照橋の下を通過して早川に流れ込むことが予定された構造となっている。〔乙1,10,19の49〕
    (エ) 無名沢の正照橋の上流,標高差136.75m,水平距離約253.10mの位置に足柄幹線林
道が本件道路とほぼ平行に走っている。上記林道と正照橋との間の本件無名沢には,河床勾配の緩和,
縦横浸食の防止,両岸山脚の固定と崩壊の防止,流出土砂の貯留などを目的として,7基の堰堤が設置
されている(設置時期は不明である。)。本件無名沢の平均勾配は,1:1.85(垂直距離を1とし,これに
対する水平距離をその比で表している。)である。なお,盛り土を施工する際ののり面の崩落に対する安
全性を確保するための施工基準である標準のり面勾配は,1:1.5~2.0であり,本件無名沢の平均勾
配は,この範囲内にある。〔乙9の1,11,19の47,48〕
   イ 道路南側(早川側)について
     道路の路肩に沿って高さ1.0mのガードレールが東方(小田原方面)に約100m,西方(仙石原・
乙女峠方面)に約210mの長さで連続しているが,正照橋の部分は,高さ約0.75mのアルミニウム製の
欄干がガードレールと連続するように設置されている。欄干とガードレールの間隙はわずかである。橋よ
り南側の無名沢から早川に続く幅6.0mの水路部分は,両側と底がコンクリートによって極めて急な勾配
の階段状に成形され(橋桁に当たる部分の高さが前記のとおり約3.5mである。早川の河川敷までの崖
に階段状に成形された水路のその下の段までの高低差は5.8m,更にその下までが15.4mであり,道
路面から早川までの高さは約27.1mである。),早川(崖下を道路に沿って西から東へ流れている。)の
川岸まで続いている。〔甲31の1~7,乙1,2〕
  (3) 本件土石流について
   ア 本件土石流の原因となった崩壊箇所(以下「本件崩壊箇所」という。)について
    (ア) 本件崩壊箇所は,前記の足柄幹線林道の山側植林箇所又は同林道の直下に当たる沢の右
岸谷壁であると考えられる。鑑定意見は上記林道より上側(山側)とし,被告の調査は上記林道より下側
(谷側)とし,両者の間に違いがあるが,本件事故当日の降雨が本件土石流を引き起こしたことについて
は争いがない。なお,本件道路を管理する神奈川県小田原土木事務所長が作成した報告書(甲24の
1~12)は,本件崩壊箇所を上記林道の山側としている。
      鑑定書によれば,上記林道山側の斜面において幅約20m,長さ約50m,深さ1~2mの範囲
で表層崩壊が発生し,崩壊斜面による土砂約500立方メートルのうち一部(推定約50立方メートル)が林
道上に堆積し,残りが上記林道の谷側の路肩を決壊させて無名沢に突入し,林道直下の右岸谷壁にあっ
たかもしれない崖錐状堆積物を巻き込んで土石流の規模を増大させた可能性がある。
      報告書(乙19の1)によれば,林道山側においては本件土石流の原因となる崩壊は発生せず,
表土が流出したにすぎず,本件土石流の原因となった崩壊箇所は,無名沢の林道直下の右岸谷壁(高さ
5m,長さ25m程度)であり,異常な降雨により斜面上方で浸透した雨水の量が増加したために,崩壊斜
面内部から流出する地下水圧が急に増加して崖錐状堆積物が崩壊に至り,崩壊した土砂が地下水ととも
に液状化して谷底を流下して土石流となった。
    (イ) 本件崩壊箇所の地質は,神奈川県発行の土地分類基本調査の表層地質図によれば,表土又
は表層物質を剥いだ基岩地質は火山岩類であり,この上に角張った形の角礫を含むルーズな褐色ロー
ム(風化火山灰土)が堆積していた(同調査の土壌図によれば,おおむね足柄幹線林道の山側は黒ボク
土,その谷側は褐色森林土として表示されている。)。この堆積物は,古期箱根外輪山の斜面が早川の
浸食により崩壊移動して堆積した崩積土であり,降雨,地震などによって崩壊しやすい状態にあった。〔乙
19の1,10,12~14,25〕
    (ウ)①ⅰ アボイドマップ・自然災害回避地図(甲35の1~3,乙19の15,16。以下「元年版アボイドマ
ップ」という。)には,神奈川県土木部砂防課が実施した「土石流危険渓流調査(昭和55年度)」において
「土石流危険渓流」とされた渓流及び県農政部林務課が実施した「崩壊土砂流出危険地区調査(昭和6
0・61年度)」において「崩壊土砂流出危険地区」とされた地区とが併せて「土石流危険渓流」として表示さ
れている。
      ⅱ 元年版アボイドマップには,そこに「表示している情報は,災害記録が保存されて復元でき
たもの,ある一定の採択条件に該当する危険地域,現在の科学技術レベルでの調査で災害の発生が想
定される危険箇所などの限定された内容となって」います。したがって,「表示した土地,場所のほかにも
自然災害を受けやすい土地はあり,また表示した土地でも大雨,台風,地震などの誘因の強弱によって
災害発生の危険の程度は異なります。」との記載がある。
     ② 砂防課による土石流危険渓流調査は,土石流危険渓流を表示することで地域住民にその危
険性を徹底させ,警戒避難体制の整備に資するとともに,土石流の災害から人命を守り,併せて砂防事
業の効果的な実施を図るために実施された。
      ⅰ この調査では,渓床勾配,渓床堆積物や地形・地質等に関する調査の結果及び土石流が
堆積することが予想される土石流危険区域における保全対象となる人家(原則として5戸以上)の有無に
より土石流危険渓流に該当するか否かが判定された。そして,危険度が高いと判定された渓流から順次
砂防事業が実施されている。
      ⅱ 本件無名沢は,保全対象となる人家がないため,土石流危険渓流に該当するとはされなか
った。〔乙13,16〕
     ③ 林務課による崩壊土砂流出危険地区調査は,崩壊土砂流出危険地等における治山事業を
積極的に推進するとともに,人命保護の立場から危険地の周知を図り,警戒避難体制の確立等災害の
防止軽減に努めることを目的として実施された。
      ⅰ この調査では,荒廃発生源の実態や崩壊土砂の流出が予想される区間における転石の混
入割合,渓床の勾配等に関する調査結果に基づき崩壊土砂流出危険地区に該当するか否かが判定され
た。そして,危険度が高いと判定された地区から重点的に治山事業が実施されている。
      ⅱ 本件無名沢は,この調査において,本件無名沢自体に関する崩壊土砂流出区間の転石の
混入割合や平均渓床勾配の危険度の評価は低かったものの,荒廃発生源(無名沢上流の足柄幹線林道
の山側区域と認められる。)の実態調査による山腹崩壊危険度が最も高いものと評価されて崩壊土砂流
出危険地区とされ,元年版アボイドマップに「土石流危険渓流」として表示され,その「内容」として「大雨,
地すべり等が原因となり,土石流が発生するおそれのある危険渓流を表示しています。砂防指定地のよ
うに法律で指定されていませんが,順次指定の予定です。」と記載され,また,「注釈」として「土石流危険
渓流調査(昭和55年度)及び崩壊土砂流出危険区域調査(昭和60・61年度)の結果が表示されていま
す。」と記載されている。〔乙14の4~6,41,証人K〕
     ④ また,元年版アボイドマップには,「崖崩れ発生箇所」(その「内容」として「過去に大雨などに
よって崖崩れが発生した箇所を表示しています。」と記載されている。)の記載があるが,本件無名沢の近
くの沢で過去に多くの崖崩れが発生している。ただし,本件無名沢には「斜面崩壊危険箇所」(「内容」とし
て「大雨などによって崖崩れのおそれのある危険箇所を表示しています。急傾斜地崩壊危険区域のよう
に法律で指定されていませんが,順次指定の予定です。」,「注釈」として「急傾斜地崩壊危険箇所調査
(昭和61年度)及び山腹崩壊危険地区調査(昭和60・61年度)の結果が表示されています。」との記載
がある。)とはされていない。
     ⑤ 神奈川県環境政策課が作成した神奈川県新アボイドマップ・風水害編(甲36の1~3,乙19の
22,23。以下「新アボイドマップ」という。)は,平成4年3月に発行されたが,そのための調査は本件事故
の5か月前の平成3年3月に終わっていた。新アボイドマップには,本件無名沢を含む一帯が斜面崩壊予
測箇所の危険度Aランクの区域として表示されている。
    (エ) 上記林道の上側の前記表層崩壊又は表土流出箇所及びその付近の森林(所有者は箱根外2
ヶ市組合である。)は,神奈川県知事が大正8年に造林を目的として地上権の設定を受け,森林の施業を
行っている区域であり,表土流出箇所は昭和38年に植裁した28年生のヒノキ林の一部と,そのヒノキ林
と上記林道とに挟まれた灌木混じりの藪を切り払って平成3年3月に3年生のヒノキの苗木を植林した部
分であり,28年生のヒノキ林は下床植生も十分に繁茂し,植林した苗木の活着状況及び生育状況は良
好であった。〔甲24の1,2,乙3,14の4,5,19の33~35,20,41,証人K〕
   イ 本件土石流発生前後の気象などについて(以下,年月は,この項において平成3年8月である。)
    (ア) 大型で並の強さの台風12号は,19日18時には,関東地方からはるか南の海上である北緯2
8度,東経135度付近の南大東島の東海上を沖縄地方に向け西進していた。その後も同台風は西進を
続けて20日になっても九州の南海上を毎時15㎞のゆっくりとした速度で西に進み,関東地方には直接
の影響は少ないものと予想されていた。しかし,19日夜半から台風に伴った雨雲が関東地方から紀伊半
島にかかり,台風の西進に伴って雨雲も19日夜から21日にかけて日本列島を横断した。その結果,20
日の午後に神奈川県西部が大雨となった。なお,同日深夜から21日未明にかけて東京都奥多摩町,山
梨県大月市で大雨による土砂崩れなどで多数の死者を出す被害が発生した。〔甲24の10,乙52~55〕
    (イ) 横浜地方気象台からの注意報等の発表は,20日7時15分に神奈川県全域に大雨・雷・波
浪・洪水注意報が出され,雨の量的予想は,1時間雨量20~30㎜,降り始めから終わりまで80~100
㎜,多い所で100~120㎜であった。その後,13時30分に大雨・洪水警報,雷・波浪注意報に切り替え
られ,雨の量的予想は,1時間雨量30~40㎜,3時間雨量70~90㎜,これから翌朝までの雨量100~
120㎜,山沿いの多い所で200~250㎜であった。〔乙56,57〕
      なお,横浜地方気象台において,大雨・洪水警報を発表する基準については,予想降雨量が,
山地においては1時間60㎜,3時間100㎜,24時間250㎜に,また,平地においては1時間40㎜,3時
間70㎜,24時間150㎜に達すると判断された場合に,神奈川県東部,西部あるいは全域という広範な
地域を単位に一律に大雨・洪水警報を発令することとされている。〔乙23〕
    (ウ)① 本件無名沢上部の明神ヶ岳観測所で観測された雨量は,19日は,11時から15時までで9
㎜(11~12時1㎜,12~13時7㎜,14~15時1㎜)であり,20日は,5時ころから降り始めて9時まで
の3時間の連続雨量は26㎜(5~6時3㎜,6~7時3㎜,7~8時9㎜,8~9時11㎜),9時ころから13
時ころまで時間雨量20㎜前後の雨が降り続き(同観測所の記録・9~10時19㎜,10~11時16㎜,11
~12時20㎜,12~13時24㎜),連続雨量は105㎜となり,13時から14時に39㎜の1時間雨量を記
録し,連続雨量は144㎜となった。その後,14時から15時までの1時間に104㎜という時間雨量を記録
した後,15時から16時まで16㎜,その後21日8時まで2㎜から37㎜の時間雨量を記録し,20日(午前
9時から翌日午前9時まで)の1日の雨量は414㎜,連続雨量449㎜を記録した。この1日雨量414㎜,
1時間雨量104㎜の数値は,いずれも昭和42年に明神ヶ岳観測所が設置されて以来最大のものであ
り,時間最大雨量104㎜は,同観測所の周辺の観測所における昭和42年以降の記録にはないものであ
った。(ただし,故障や中継局の改造,閉局などで測定記録のない期間もある。)〔乙5,6,44,45〕
     ②ⅰ 明神ヶ岳観測所での20日13時00分から15時30分までの10分毎の連続雨量の推移
は,次のとおりであった。〔乙62〕
       13時00分105㎜,13時10分111㎜,13時20分115㎜,13時30分119㎜,13時40分
125㎜,13時50分134㎜,14時00分144㎜,14時10分157㎜,14時20分178㎜,14時30分19
3㎜,14時40分213㎜,14時50分235㎜,15時00分248㎜,15時10分253㎜,15時20分256
㎜,15時30分259㎜であった。
      ⅱ 小田原土木事務所(国道135号真鶴町から小田原市石橋の規制区間の規制基準となる雨
量の観測所)での同時間帯の連続雨量の推移は,次のとおりであった。〔乙27,62〕
       13時00分70㎜,13時10分74㎜,13時20分79㎜,13時30分87㎜,13時40分90㎜,
13時50分98㎜,14時00分100㎜,14時10分102㎜,14時20分104㎜,14時30分104㎜,14
時40分105㎜,14時50分106㎜,15時00分106㎜,15時10分106㎜,15時20分106㎜,15時
30分106㎜であった。
      ⅲ 屏風山観測所(芦ノ湖の東側に位置する。国道1号線箱根湯本から元箱根,国道135号真
鶴町から小田原市石橋の各規制区間の規制基準となる雨量の観測所)での同時間帯の連続雨量の推
移は,次のとおりであった。
       13時00分125㎜,13時10分129㎜,13時20分133㎜,13時30分136㎜,13時40分
140㎜,13時50分146㎜,14時00分154㎜,14時10分158㎜,14時20分169㎜,14時30分17
1㎜,14時40分175㎜,14時50分189㎜,15時00分195㎜,15時10分200㎜,15時20分205
㎜,15時30分208㎜であった。〔乙27,28,61,62〕
    (エ) 時間雨量について
  気象庁が平成12年7月27日に発表した解説表である「雨の強さと降り方」では,時間雨量を,
「10~20㎜」,「20~30㎜」,「30~50㎜」,「50~80㎜」,「80㎜~」の5段階に区分し,それぞれ「や
や強い雨」,「強い雨」,「激しい雨」,「非常に激しい雨」,「猛烈な雨」という予報用語を付している。この区
分ごとに「人の受けるイメージ」,「人への影響」,「車に乗っていて」等の項目を設けてそれぞれについて
説明を付している。〔乙58〕
      この解説表の「人の受けるイメージ」の項目では,時間雨量「10~20㎜」は,「ザーザーと降
る」,「20~30㎜」は「どしゃ降り」,「30~50㎜」は「バケツをひっくり返したように降る」,「50~80㎜」は
「滝のように降る(ゴーゴーと降り続く)」,「80㎜~」は「息苦しくなるような圧迫感がある。恐怖を感ずる。」
であり,「人への影響」の項目では「50㎜以上」は「傘は全く役に立たなくなる」であり,「屋外の様子」の項
目では,「30~50㎜」は「道路が川のようになる」,「50㎜以上」は「水しぶきで一面が白っぽくなり,視界
が悪くなる」であり,「車に乗っていて」の項目では,「20~30㎜」では「ワイパーを速くしても見づらい」,
「50㎜以上」は「車の運転は危険」である。
   ウ 本件土石流の規模,速さ,流路,発生時刻について
    (ア) 鑑定によれば,前記アのとおり発生した土石流の1秒当たりの流量は95立方メートル/秒で
あり,土石流の総量を500立方メートルとすると,その継続時間は約5秒とごく短いものとなり,その平均
水深は約1.8m,平均流速は約10.1m/秒で,土石流の発生から本件事故の発生までの時間(崩壊
箇所から正照橋までの到達時間)は約30秒程度であったと考えられる。上記の数値は,本件土石流の材
料をロームと角礫岩の混合物であり,微細な砂から直径数十㎝の岩塊まで広い範囲に分布しているが,
代表的な粒径は5㎝とし,砂礫の容積濃度を0.5,流下した無名沢の平均縦断勾配を25.5°,平均的
な谷の横断形状は底幅3m,側岸の勾配1/1.5の台形として算出したものである。〔鑑定の結果〕
      報告書(乙19の1)には,本件土石流がボブスレー現象により沢を蛇行しながら流下し,正照橋
の直近では直進したことを示す流下平面図が添付されている。なお,鑑定書にも本件土石流の推定流路
が記載されている。
    (イ) ボブスレー現象について
      本件土石流は,正照橋の橋下(カルバート)を通過しなかった。本件土石流は,本件崩壊箇所か
ら本件無名沢を流下してきたが,谷の曲がる箇所では,ボブスレーのように両岸で土石流の通過跡に著
しい差(高低差)を生じながら流下したため,正照橋付近(上流からみると流路はいったん西側に緩く湾曲
して橋の部分で東側に方向を変えている。)では橋下を外れて直進し,道路上を通過した。〔甲24,乙19
の1,鑑定の結果〕
    (ウ) 本件土石流の発生時刻について
     ① 後記の小田原土木事務所による異常時パトロールにおいて14時ころに正照橋を通過したと
き,L建設業協力会所属のM建設株式会社のEが14時05分ころに正照橋を通過したときには,いずれも
本件土石流は発生していない。〔乙36〕
     ② 同社のFは,14時50分ころ,正照橋で本件土石流があったことを発見し,その10~15分前
に土石流が発生したものと判断した。〔乙35〕
     ③ Gは,雨が激しくなったために14時過ぎに仙石原での仕事を中断し,いったん会社に戻り,車
の前方が見えないほどの激しい雨の中を時速30㎞くらいで走って宮城野の自宅に向かい,その途中で
本件事故を目撃した。〔証人G〕
     ④ 甲15の6には,Dが14時ころ,箱根湖畔ゴルフコース(正照橋までの距離は約10㎞であ
る。)を出た旨の記載がある。
      以上から,本件土石流の発生時刻について,原告らは14時40分ころと主張し,被告は14時3
5~40分ころと主張している。
  (4) 本件事故当日の道路管理者の降雨への対応
   ア 水防の実施
    (ア)① 水防とは,大雨,洪水及び高潮等の注意報や警報が発表された場合に,降雨,河川の増
水,高潮等によって予想される災害の防止を目的とするもので,本件事故当時から現在に至るまで,水防
法7条1項に基づき,神奈川県において水防計画を毎年定め,水防時には水防本部を神奈川県に,各土
木事務所に水防支部を設置している。水防計画において,水防時における通信連絡基本系統図が策定
され,横浜地方気象台の発表する大雨注意報及び大雨警報などの気象情報は,同気象台から神奈川県
水防本部及び神奈川県環境部防災消防課並びに神奈川県警察本部警備課にファックスにより通報さ
れ,水防支部には水防本部からファックスにより一斉通報されていた。〔乙48,56,57〕
     ② 各土木事務所では,水防実施要領を定めて,その所轄する道路,河川,海岸,砂防指定地等
の災害発生の防止,被害の軽減,早急な復旧を行うなどの水防活動にあたることになっている。具体的
には,土木事務所のすべての部署から水防要員を選任し,横浜地方気象台発表の大雨・洪水注意報をフ
ァックスで受けた段階で水防の準備配備体制(1班3~4名態勢)に入り,警報発表の段階で警戒配備体
制(2班)に入って,降雨量,河川等の水量の計測,パトロールによる状況把握等の水防活動に当たって
いた。〔乙33。小田原土木水防実施要領〕
    (イ) 本件事故当日,小田原土木事務所では,7時15分ころ,大雨・洪水注意報が発表されたた
め,水防の準備配備体制に入り(1班3~4名態勢),13時30分の警報発表の段階で警戒配備体制(2
班体制)に入って降雨等の状況把握に当たり,本件規制区間の規制基準となる明神ヶ岳の雨量計による
観測値の把握もおこなっていた。〔乙61,62,68〕
   イ 道路パトロールの実施
    (ア) 道路パトロール実施要領
     ① 道路管理者は,道路を常時良好な状態に保つように維持し,修繕し,一般交通に支障を及ぼ
さないように努めなければならないとされていて(道路法42条),そのため,各土木事務所では所管の道
路の状況を把握し,交通の安全と円滑化を図るため「道路パトロール実施要領(土木部長から各土木事
務所長あて通知)」(以下「パトロール要領」という。)を定め,それに基づいて道路パトロールを実施してい
る。
       パトロール要領は,昭和47年4月15日に定められたもので,以後必要に応じて改正され,本
件事故のあった平成3年8月時点の直近の改正は,昭和63年3月25日付けのものである。〔乙37〕
     ② パトロールには,平常時パトロール,異常時パトロール,その他パトロールの3種類が定めら
れていて,大雨・台風時には,■連続雨量50㎜以上のとき,■時間雨量20㎜以上のとき,■交通規制
基準雨量70%以上のときに管内をパトロールする異常時パトロールを実施することとされている。なお,
異常気象時の道路パトロールは,水防体制の発令された状態で実施されることが多いが,水防発令とは
別に,土木事務所の道路補修課(現・道路維持課)の独自の業務として実施されている。
     ③ 平常時パトロールにおいては,路面,のり面,排水施設,橋りょう,トンネル,道路反射鏡など
の安全施設等が点検対象となっているが,大雨・台風時の異常時パトロールは,交通規制区間の安全
性,土砂崩壊の有無と復旧の状況等について点検することとなっている。
    (イ) 本件事故当日のパトロールについて
 神奈川県小田原土木事務所が本件事故当日に水防の実施とは別に行ったパトロールは,次の
とおりである。
     ① 8時30分の時点では異常時パトロールの基準に達していなかったので,8時40分から職員4
名が車両1台で平常時パトロールを実施し,13時から職員5名が車両2台で異常時パトロールを開始し
た。〔乙24,38〕
     ② 13時から実施した異常時パトロールは,小田原土木事務所道路補修課主任技師Hほか3名
が小田原土木事務所から国道1号直轄区間(建設省管理区間)を経由して箱根方面に向い,箱根湯本の
山崎交差点から国道1号の神奈川県管理区間に入り,13時40分ころ宮の下で倒木を処理した後,国道
138号に入り,14時ころ正照橋を通過したが,その際には異常は見られなかった。その後,静岡県との
境にある乙女隧道まで至って折り返し,仙石原の中向橋で県道湯河原箱根仙石原線に入って元箱根に
至り,元箱根から県道湯本元箱根線を約2㎞進んだところで,15時35分ころ,土砂崩壊による通行止め
の措置をして引き返し,再び国道1号に入って静岡県境の箱根峠で折り返した後,15時50分ないし16
時10分ころ,元箱根にあるO建設で小田原土木事務所と電話連絡をとり,正照橋に向かうよう指示を受
けた。その後は,その指示に従い,元箱根から再び県道湯河原箱根仙石原線を経由して仙石原側から国
道138号の正照橋に到着した。〔乙39〕
     ③ Iがパトロールした経路は,小田原土木事務所からHらと同じ経路で国道1号を箱根方面に向
い,国道1号の神奈川県知事管理区間に至った後,箱根湯本の三枚橋から県道湯本元箱根線経由で元
箱根に至った。この間,14時ころ,後にHらが上記のとおり15時35分ころ通行止めの措置をした箇所を
通過したが,特別の所見は記録していない。元箱根から国道1号を小涌谷まで進み,そこから県道大涌
谷小涌谷線,大涌谷湖尻線を通って湖尻に達し,湖尻から県道湯河原箱根仙石原線経由で仙石原強羅
停車場線に入って,15時30分に国道138号の木賀橋に至った。〔乙40〕
   ウ 通行規制の実施について
    (ア) 異常気象時の通行規制の根拠及び実施機関
      道路管理者は,道路法46条1項各号に掲げる場合において,道路の構造を保全し,又は交通
の危険を防止するため,区間を定めて,道路の通行を禁止し,又は制限することができるとされており,異
常気象時の通行規制は,道路管理者が同項1号の「道路の破損,欠壊その他の事由により交通が危険
であると認められる場合」に行う措置である。その場合とは,「例えば,災害により路体が崩壊した場合,
長期降雨により道路が軟弱になった場合等をいい,客観的に交通の危険状態が生じていることを要する
が,現実に路体が崩壊していなければ通行規制できないものでないことはもちろんである。」とされてい
る。〔乙25〕
    (イ) 道路通行規制実施の基準・方法等
     ① 神奈川県道路管理者(知事)は,昭和47年4月15日,上記の根拠に基づき,豪雨等の異常
気象時において道路通行規制の適切な実施を図るために,「異常気象時における道路通行規制実施要
領(土木部長から各土木事務所長あて通知)」(乙26。以下,「通行規制要領」という。)を制定し,その
後,必要に応じて改正を行い,本件事故のあった平成3年8月時点での直近の改正は昭和52年5月23
日付けのものであった。この通行規制要領によれば,異常気象時における道路通行規制は,あらかじめ
指定した規制区間に関し,降雨量が所定の基準(通行規制基準)に達した場合に実施するものとされてい
る。
     ②ⅰ まず,規制区間については,知事が,神奈川県の管理する道路及び自ら管理する道路のう
ち,道路及びその周辺の状況(道路の構造,地形,地質,過去の被害の程度等)から,過去の記録により
危険箇所の事故発生と異常気象との間に相関関係がある箇所を含む相当の区間を異常気象時通行規
制区間,また,危険箇所の事故発生と異常気象との間に直接的な相関関係がみられない箇所を含む相
当の区間を特殊通行規制区間として所轄土木事務所長の意見をきいて指定することとされており(通行
規制要領2条),また,通行規制基準は,所轄土木事務所長が,関係警察署長及び関係市町村の意見を
きいて,規制区間に係る通行規制基準を作成し,土木部長の承認を受けるものとされているが(通行規制
要領3条1項),「規制区間ごとに道路及びその周辺の状況並びに気象の状況(降雨量,積雪,風速,震
度等をいう。)を基準として,異常気象時において,未然に事故を防止することができるよう定めるもの」と
されている(同条2項)。
      ⅱ 本件に関連のある国道138号については,正照橋を含む箱根仙石原104(湯河原箱根仙
石原線交点)から箱根町宮の下359(1号宮の下交差点)までの延長6.1㎞の区間(以下「本件規制区
間」という。)が異常気象時通行規制区間として規制区間に指定され,本件規制区間においては,明神ヶ
岳の雨量計による観測値の降雨量が時間雨量50㎜又は連続雨量200㎜に達した時点で通行止めを実
施することとされている。〔甲24の9,乙27〕
      ⅲ 本件事故当時,明神ヶ岳の降水量は,テレメーターで小田原土木事務所に送信されるシス
テムであったが,リアルタイムでの降水量送信システムではなく(なお,現在も同土木事務所の雨量水位
テレメーターシステムに変更はない。),同土木事務所に設置した監視局の無線送信による呼出しを各観
測所が受け,その時点での観測データが同土木事務所に返送される仕組みとなっている。同システム
は,定時観測方式を採用し,12時間,6時間,1時間,30分,15分,10分の6種類の間隔で受信可能で
あり,必要に応じて切替えを行っている。
      ⅳ 同土木事務所の監視局では,明神ヶ岳をはじめ3か所の雨量観測局及び富士道橋(酒匂
川)をはじめ6か所の水位観測局のデータを同時に受信し,監視局のコンピューターにより時間雨量,10
分間雨量及び水位の計算等の演算を行ったうえでプリンターに印字するが,各観測局のデータ確認がさ
れるまで,定時から約8分程度の時間がかかる。〔乙63〕
③ 通行規制の実施方法は,必要な箇所に,通行規制の対象区間,期間及び理由を明示した上
で,道路標識,道路情報板,バリケード,赤色灯及び標示板等の掲示並びに設置をもって行うこととされ
ている(通行規制要領4条2項)。
      ⅰ 道路情報板には,常設の設備で小田原土木事務所からの遠隔操作で作動する電光式のも
のと,その都度現地における手作業により掲示を行うものの2種類がある。
        平成3年度の道路情報板及びバリケード等の設置箇所は,道路情報板12か所,バリケード
8か所である。本件規制区間に関しては,国道1号と分岐する宮の下交差点付近及び県道湯河原箱根仙
石原線と分岐する仙石原交差点付近に道路情報板とバリケードを設置するものとされていた。〔乙28〕
      ⅱ 神奈川県では,現地において手作業により掲示ないし設置を行うものについて,職員が直
接行うほか,一部の作業を道路情報モニターに依頼している。〔乙29〕
        道路情報モニターとは,通行規制等に必要な危険箇所の状況を迅速にかつ正確に把握する
ため土木事務所長が委嘱するもので(乙29),1級と2級があり,1級道路情報モニターは道路の障害状
況に関する電話報告及び道路情報板の操作業務を,2級道路情報モニターは,道路の障害状況に関す
る電話報告のみを依頼されている。
        本件規制区間に関しては,N建設株式会社のJに1級道路情報モニターとして,道路の障害
状況報告に加え,仙石原交差点付近の道路情報板の操作も依頼していた。〔乙30,〕
④ また,各土木事務所は,地元の建設業協会等との間に,災害発生時に土木事務所からの要請
を受け,または通信が途絶し連絡が不可能なときには土木事務所の要請がなくとも独自の判断で,災害
応急工事を実施する協定を結んでいた。この協定では,バリケードの設置等通行規制の実施における施
工業者の協力については規定していないが,協定に基づく道路復旧工事施工の際,これに付随する通行
規制も当然に予定されており,加えて,迅速な通行規制の実施に当たってもこれら施工業者の協力を求
めている。〔乙31,32〕
    (ウ) 本件事故当日にされた通行規制
     ① 小田原土木事務所の雨量水位テレメーターシステムの定時観測の間隔は,通常は1時間毎
の観測値を記録するように設定されていたが,同土木事務所では大雨注意報が発表された段階で10分
毎の観測値を記録するように切り替えていた。本件事故当日,大雨注意報が7時15分に発表されていた
から,職員が出勤した9時ころから,雨量テレメーターは10分毎の観測値を記録するように設定されてい
た。ただし,同土木事務所の本館及び水防室にそれぞれ設置されたテレメータデータ標示盤(表示盤)
は,1時間毎の正時における時間雨量及び連続雨量のデータを表示するものであった。〔乙68,弁論の
全趣旨〕
       通行規制基準による通行止め以前は,大雨・洪水注意報が発表された時点で,電光式道路情
報板に「大雨通行注意」と表示して,通行者に注意を呼びかけていたが,通行止めに当たっては,手作業
による道路情報板に加えて,「箱根全山通行止め」の表示とバリケードの設置を行った。
     ② 本件道路管理者が降雨量が通行規制基準を超えたことを認識した経緯及び時点,通行止め
を決定した時刻については,後記のとおり,争いがある。
     ③ 本件規制区間については,15時以降,小田原土木事務所からの連絡を受けた道路情報モ
ニターであるとともに災害応急工事の施工業者でもあるN建設株式会社が仙石原交差点付近の道路情
報板及びバリケードによる通行止めを実施したほか,正照橋の土石流を発見し,小田原土木事務所に通
報したM建設株式会社が仙石原交差点から小田原側に約800mほど進んだところにある品の木ガソリン
スタンド前で15時15分ころ通行止めの作業を実施した。〔乙35,36,弁論の全趣旨〕
  (5) 本件事故後に整備された防護設備など〔甲6,31の2,32の2,弁論の全趣旨〕
   ア 平成3年9月10日から同年11月15日までの工期で,正照橋を挟んで道路北側に擁壁等の防
護設備が設置された。鉄筋コンクリート造の擁壁の長さは,正照橋の東側部分が12.6m,西側が8.3
m,高さはいずれも6.2m(地上部分4.7m),底面の厚さは3.41m,天端の厚さは2.0mであり,この
2つの擁壁の間(正照橋すなわち沢の部分)に30㎝×30㎝のH型鋼10本を設置し,その前面に落石防
止網及び十数本のワイヤーロープを張り,東側の擁壁の天端上に高さ2.0m,長さ8.3mの落石防止柵
を設置した。なお,橋の欄干の代わりに高さ20㎝のコンクリート基礎とガードレールが設置された。
   イ 道路南側の正照橋の欄干は撤去され,橋の東西から連続したガードレールが設置された。その
コンクリート基礎の高さは,本件事故前後で大きな変更はない。
 2 争点
   本件道路の設置又は管理に瑕疵があったか否かが本件の主な争点である。
  【原告らの主張】
  (1) 国家賠償法2条にいう設置・管理の瑕疵とは,「営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態」
であり,例外的に,予見可能性がない場合や不可抗力の場合に結果回避可能性を欠くとして,設置・管理
の瑕疵が否定されるにすぎない。同条の責任は,無過失責任であり,同条との関係で問題となる予見可
能性は,同法1条の過失の前提としての予見可能性と同一ではあり得ない。
  (2) 本件で被告の責任を根拠付ける本件土石流発生の予見可能性は,具体的な予見可能性ではな
い。すなわち,どの箇所からという細かい位置の予測可能性ではないし,いつ山腹や谷斜面などが崩壊し
て土石流が発生するかという細かい時点の予測可能性でもない。そのようないわば定量的な予見可能性
までは必要とされていない。本件無名沢付近において,台風等による大雨が降った場合に,崩壊等が発
生し,土石流となって急降下し,道路を襲う可能性があったか,また,それが予見できたかが問題であり,
ある程度これが予見できた場合には予見可能性があったという,より抽象的な予見可能性で足りるという
べきである。
  (3) 本件土石流によって道路通行中の車両が崖下に墜落しないような防護施設(本件事故後に設置
されたような防護施設)が設置されていなかったことは,道路の設置又は管理の瑕疵である。
   ア 本件無名沢付近は,降雨・地震等によって崩壊しやすい崩積土に覆われていて,過去にも関東
大震災や豆相地震などによる崩壊の前歴を持っていること(空中写真で災害履歴が窺われ,本件崩壊箇
所を含み隣接斜面10箇所前後の崩壊が見られる。また,表層地質図の基岩地質分布図によっては表層
土の崩壊による土石流発生の危険を予想することができないということもない。),本件無名沢付近は幹
線林道から本件道路(更にその下の早川)に向かって40%から63%のかなりの傾斜で急峻に落ち込ん
でいる斜面であること,元年版アボイドマップでは既に本件無名沢が土石流危険渓流とされていること,
いったん土石流が発生すれば,急峻な地形であることからいわゆるボブスレーのように土石流が沢の窪
み部分をはみ出て流下し,道路を直撃することがありうること(これは一般常識からも容易に想像すること
ができる事態であり,予見不可能というものではない。),本件無名沢は箱根という山岳気候の中にあって
台風などで異常な多量の降雨がある地域に属していること,本件土石流は,元年版アボイドマップで土石
流危険渓流とされ,危険性の主要な発生源である「荒廃発生源」とされた足柄幹線林道の山側から発生
したこと,鑑定書では累積雨量200㎜を本件無名沢周辺の山腹崩壊の目安としているところ,本件土石
流が発生した時点での累積雨量は200㎜前後と推測されること,以上の点から,本件土石流発生の予見
可能性があったというべきであり,道路が交通頻繁な箱根の主要ルートであることをも考慮すると,少なく
とも本件無名沢付近においては土石流から通行車両を防護するのに十分な措置を講じておかなければ
非常に危険であったということができるのである。
   イ 土石流の発生は,直接的な降雨量だけでなく,地質の構造,地下水の浸透,表土の状態,土砂
の性質,地形的特質等々様々な要因による総合的な結果であり,土石流の発生と降雨との定量的な関
係が現在でも明らかではないとしても,それを理由として予見可能性がないとすることはできない。上記の
ような土石流が生じる定性的な要因が一応判明していて,この要因が存在し,前記の諸状況(さらに,降
雨量との関係では,本件事故以前の土石流の発生パターンどおりの限界雨量すなわち予測どおりの降
水量で本件土石流が発生している。)から判断して,本件事故当時における科学技術の最高水準から土
石流の発生の危険が蓋然的に認められる場合であれば,これを通常予測し得るものというべきである。
   ウ(ア) そして,このような危険性を有する国道の設置又は管理にあたる官署としては,その当時にお
ける科学技術の最高水準によって適切妥当な措置をとることを要し,これを欠いた場合には設置・管理の
瑕疵があることになるのである。
    (イ) ボブスレー現象について
     ① 予見可能性の程度は,定性的な予見可能性で足るとの基準からすれば,本件土石流の流下
経路といった土石流の詳細な事項についてまでは,どのように解釈しても,予見可能性の対象とはならな
い。
       本件土石流の流下経路といった土石流の態様に関する詳細な内容を含めて予見可能性の対
象としていたのでは,事実上,設置又は管理の瑕疵が認められることはなくなってしまう。国家賠償法1条
の「過失」の前提としての予見可能性判断の場合ですら,予見可能性の対象が土石流の流下経路といっ
た詳細な事項にまで及ぶとは到底考えられない。まして,同法2条との関係で,上記の定性的予見可能
性で足りるとの基準によれば,土石流の流下経路を問題とする必要性がそもそもないのである。
     ② 被告は,ボブスレー現象を道路管理者が知り得なかったなどと主張するが,鑑定書は「ボブス
レー現象という呼び名は学術用語として定着しているわけではなく,乙19号証の1が指摘しているよう
に,昭和53年の妙高土石流の挙動に関して用いられたのが最初かもしれない。その後,このような言葉
は,少なくとも学術論文では,頻繁に使われているようではないが,このような現象は,そのボブスレー現
象という表現も含めて,本件事故当時知られていたはずであるという議論は棄却することはできないであ
ろう。流路の設計に際しては,スーパーエレべーションに対する配慮が重要であることは,鑑定人が著書
の中でも指摘しているところである」と指摘している。
     ③ 仮に土石流の流下経路を問題とするとしても,ボブスレー現象を道路管理者が知り得なかっ
たなどとは到底いえない。実際に道路管理者がボブスレー現象を知らなかったのは事実かもしれないが,
本件事故当時の科学技術の最高水準からすれば,道路管理者が「知り得なかった」などとは到底いえな
い。ボブスレー現象は,用語の問題を別にすれば,当時でも比較的一般に知られていたと考えられ,科学
技術の最高水準によるまでもない。
     ④ ボブスレー現象は,本件事故当時でも十分予見可能であった上,定性的予見可能性との基
準からは,土石流の流下経路についての予見可能性までは要求されないのであって,ボブスレー現象に
関する被告の主張は,失当である。
エ 前記のとおり,本件土石流が発生することの予見可能性は十分にあったのであり,本件事故後に
設置されたような防護施設が本件事故前に設置されていたならば,本件事故が回避された可能性は大き
い。現在のような防護施設の設置が予算措置の上でも技術的にも決して困難又は不可能なものでなかっ
たことは,本件事故後直ちにこれが設置されたことや周辺の多数の箇所でも安全確保のために北側斜面
に大々的に金網を張りめぐらせたり諸々の危険防止工事が早急に実施された事実からも明らかである。
したがって,被告が上記のような防護施設を設置しなかったことは,道路の設置及び管理に瑕疵があった
というべきである。
  (4) 本件事故当日に通行規制をするのが遅れたことは道路の管理の瑕疵である。
   ア 被告は,降雨量等の気象状況を時々刻々監視し、気象情報等から今後の気象状況を予測し,気
象状況に応じて道路及びその周辺部を随時巡回・監視する等十分な災害予防態勢を整えた上,時間雨
量とその急激な増加傾向,連続雨量などを総合的にとらえて,大雨・洪水注意報から大雨・洪水警報に切
り替えられた時点などにおいて,事前に又は直ちに危険地区に応じた道路通行規制等の管理行為をす
べきであったにもかかわらず,本件道路についてこのような管理態勢がとられておらず,本件事故発生前
にも現実にはほとんど監視と交通規制は行われなかったから,道路の管理に瑕疵があったものである。
   イ 道路通行規制実施にあたっての予見可能性について
    (ア) 集中豪雨や大雨等による通行規制は,具体的に土砂崩れや土石流が発生し得る場所を特定
してされるものではない。道路が土砂崩れや土石流等の発生する危険地帯を通っている場合,道路規制
をするか否かは,危険地帯のうちのどこで土砂崩れや土石流等が発生するかを特定することなく,危険地
帯のどこかでそれが発生する可能性があるか否かで判断されるはずである。仮に土石流の発生を具体
的,正確に事前に予期して初めて通行規制がされるとすると,およそ通行規制などされないことになる。
      したがって,本件においては,道路の通行規制をすべきか否か判断する前提としての予見可能
性は,無名沢における土石流等に限らず,その前後,それもかなり長い距離にわたって,少なくとも本件
規制区間で崖崩れや土石流等の発生の危険性があるか否かについての抽象的な予見可能性あるいは
その当時の科学技術の最高水準による判断に基づく定性的予見可能性で足りるというべきである。
    (イ) 本件事故当時の正照橋付近の危険性について
     ① 元年版アボイドマップによれば,正照橋の前後40m以内の地域において,過去4箇所で崖崩
れが発生し,正照橋の東西にそれぞれ斜面崩壊危険箇所とされている区域があり,本件事故現場が土
砂崩れ・土石流等の多発地帯であることは明らかである。また,平成2年8月10日の台風11号により,
無名沢に隣接する2つの沢で土石流が発生していて,本件の無名沢付近が極めて危険な地域であったこ
とは疑いがない。さらに,本件事故現場付近は,年間を通じて降水量が多く,山岳性気候で天候が非常に
変わりやすく,集中豪雨にもなりやすく,非常に危険な地域である。
     ② 本件事故当日の明神ヶ岳観測所における降雨の状況は,前記のとおりであるところ,明神ヶ
岳観測所での降雨量が直ちに本件無名沢付近での降雨量とはいえないが,箱根の他の測候所の日降
水量,時間的最大雨量から,箱根一帯はどこも相当量の降雨があり,急峻な沢や崖に面している部分
は,地盤が多量の水分を含んで緩み,崖崩れや土石流が道路を襲う危険性があった。
     ③ また,本件事故当日の大雨・洪水注意報,同警報の発表は,前記のとおりである。
     ④ⅰ 上記①~③の状況及び本件事故当日は台風12号が接近していたことから,道路管理者
は,通行規制の基準としている明神ヶ岳観測所の連続雨量が200㎜に達する前においても,本件事故当
日の午後から十分な巡回・監視活動を行い,若干でも土砂崩れ等の徴候があれば直ちに迅速な調査をし
て,必要に応じて道路の通行規制を講ずべきであった。
      ⅱ 鑑定の結果によれば,過去の事例においては,累積雨量がほぼ200㎜以上で崩壊が発生
しているのであり,14時40分ころに発生した本件土石流も連続雨量が200㎜に達した付近(14時30分
から40分の間と推定される。)で発生したから,10分ごとの雨量のデータ出力に8分弱の時間を要し,か
つ,現実に通行止めの措置を行うには相応の時間を要することを考慮すると,通行規制要領による本件
規制区間の通行規制基準(明神ヶ岳の雨量計による観測値が時間雨量50㎜又は連続雨量200㎜)によ
って通行止めを実施していたのでは,遅きに失することは明らかである。したがって,通行規制要領の定
める上記の累積雨量200㎜で通行規制をするという基準は,安全性及び合理性を欠き,不当であり,10
分ごとの雨量を把握し得たこと及びそのデータ出力に8分弱の時間を要し,かつ,現実に通行止めの措
置を行うのに相応の時間を要することを考慮すると,連続雨量が200㎜に達する前の連続雨量が200㎜
に達すると予測することができた時点で通行規制をすべきであった。
      ⅲ 事前の通行規制基準としては,少なくとも累積雨量が200㎜に至る以前の段階で,累積雨
量が200㎜に達すると予測できた時点で通行規制をするものであることが必要である。そうすると,山地
部で1時間雨量60㎜,3時間雨量100㎜,24時間雨量250㎜と予想される場合に発令される大雨洪水
警報は,1つの重要な基準となる。
      ⅳ そして,鑑定は,大雨洪水警報どおりの降雨が発生すれば,本件規制区間で土石流の発生
する可能性があると考えるのが至当であるとしているのであり,警報があった場合に土石流発生の予見
可能性があることは容易に肯定される。
     ⑤ Eは,14時10分ころ,本件規制区間内である宮城野橋上側(本件事故現場から約1.7~
1.8㎞の地点)で出水を確認した。(乙36)
     ⑥ 14時30分ころ,本件規制区間内の本件事故現場から2~2.5㎞の地点である木賀の桟道
付近で土砂流出があった。この土砂流出は,本件土石流と同程度かより大きなものと推測される。(乙43
の1,7)
    (ウ) 上記(イ)の危険性の認識を前提として,被告は,土石流の発生を次の時点で予見することが可
能であったというべきである。
     ① 平成3年8月20日5時から14時までの明神ヶ岳観測所での降雨量の合計が144㎜に達した
時点
     ② 遅くとも,同日13時30分ころ,大雨・洪水警報が出された時点すなわち山地部で1時間雨量
60㎜以上,3時間雨量100㎜以上,24時間雨量250㎜以上が予想された時点
       この警報が出された時点は,累積雨量200㎜が予想された時点の最終段階であり,その前に
おいても累積雨量200㎜を予想し,本件土石流発生を予想することができたのである。
     ③ 同日午後から十分な巡回・監視活動を行い,土砂崩れ等の徴候を発見し得た時点(土砂崩壊
による水の濁りなど本件土石流の徴候は必ずあったはずである。また,本件土石流が発生した前後に林
道上方の植林部分も崩壊しており,本件土石流に限らず,道路の安全性を損なう崖崩れや土石流の徴候
を発見することは十分可能であった。)
     ④ 前記(イ)⑤のEが宮城野橋上側で出水を確認した14時10分ころ
     ⑤ 前記(イ)⑥の木賀の桟道付近で土砂流出があった14時30分ころ
    (エ) 上記(ウ)の①~⑤のいずれか早い時点で,土石流の発生を予見することは可能であったし,そ
の予見に基づき通行規制をすることによって本件事故を回避することもできたのである。
   ウ(ア) 被告は,上記イで指摘したところにより,日頃から,降雨量等の気象状況を時々刻々監視し,
気象情報等から今後の気象状況を予測し,気象状況に応じて道路及びその周辺部を随時巡回・監視す
る等の十分な態勢(道路を車で通過するだけでは到底不十分である。)を確立しておくべきであったし,本
件事故当日においても,遅くとも午後から十分な巡回・監視活動,具体的には,頻繁に道路付近・周辺を
巡回し,ことに道路山側の地面の状況を調査し,十分な連絡態勢をとって,必要な箇所においてはいった
ん下車して状況を把握する等の活動を行うべきであった。
      そして,上記イ(ウ)のいずれかの時点において,すなわち,実績としての累積雨量が200㎜に達
する前の段階で累積雨量200㎜に達すると予測された時点で,道路の通行規制を行うべきであった。そ
うでなければ,道路管理者には事故発生前の通行規制義務を認めないことに等しいことなる。仮に通行
規制の措置をとるまでに至らなくても,少なくとも土砂崩れ・土石流等の発生の危険について道路利用者
に注意を促す掲示等をすることはできたはずである。
    (イ)① また,通行止めの基準は,連続雨量200㎜のほかには時間雨量50㎜であるところ,この時
間雨量50㎜も不十分である可能性はあるが,この基準によると,14時10分の時点で1時間雨量は46
㎜(50分雨量は42㎜),14時20分の時点で1時間雨量は63㎜に達している。したがって,被告は,14
時20分の時点での1時間雨量が分かった時点で,通行規制をすべきであった。
     ②ⅰ 時間雨量は,時間雨量に基づく通行規制基準の趣旨からすれば,毎時00分(正時)ごとの
時間雨量によるべきものではなく,10分毎の測定をすることができる以上,10分ごとに計測時点からさ
かのぼって1時間の時間雨量を計算すべきであり,これは簡単な足し算により分かることであるし,リアル
タイムで10分毎にテレメーター表示盤に連続雨量及び時間雨量が表示されるようにしておき(このことは
極めて容易なことである。),迅速な通行規制を行うべき態勢をとっていなかったのは,道路の管理に瑕疵
があったというべきこととなる。
      ⅱ 被告は,時間雨量は正時から正時までに降った雨量の合計として把握されており,雨量テ
レメーター自体が特定の1時間(例えば14時20分からさかのぼって1時間)内に降った雨量を計算する
ようなシステムにはなっていなかったから,本件道路管理者や水防室に待機する職員において,14時20
分から遡って1時間以内に降った雨量を認知することは,10分毎に印字されていた連続雨量を基に人為
的に計算することが全く不可能ではないものの,実際上は期待し難いことであったと主張する。
      ⅲ しかし,必要なのは単純な足し算であり,しかも,14時10分の時点で時間雨量が46㎜とな
っていること,同時点での50分雨量が42㎜であることから,今後10分間に8㎜以上の降雨があれば,規
制雨量50㎜に達することは容易に判明する。このような単純な足し算をすることすら「実際上は期待し難
いこと」と主張するのはあまりに無理がある。
     ③ 通行規制雨量と通行規制に要する時間とは,通行規制雨量を少ない雨量にすれば通行規制
実施までの時間的余裕が生じ,通行規制雨量を大きな雨量とすれば迅速な通行規制実施が必要となる
という相関関係がある。通行規制雨量を崩壊発生の限界とされる連続雨量200㎜とし,通行規制の実施
に20分もかかるというのでは,それだけで道路管理に瑕疵があることを認めているに等しい。
     ④ 被告は,従前,崩壊発生の限界雨量を連続雨量200㎜とし,連続雨量200㎜を通行規制基
準とすることには合理性があると主張してきたが,平成13年8月1日付け準備書面において,突然,崩壊
発生の限界雨量を300㎜として主張を変更した。これは,被告自身,通行規制基準を連続雨量200㎜と
することが合理的であると説明することが不可能であると認識しているものと考えられる。
    (ウ) 本件事故当日に道路管理者が実際に行ったことは,当日午後2時ころ,神奈川県小田原土木
事務所道路補修課主任技師H外3名が道路パトロールの途上パトロール車で橋を通過し,その他には降
雨等の状況把握に当たっていただけで,15時ころに明神ヶ岳観測所での連続雨量が200㎜に達したた
めに「建設業協会等との地震・風水害・その他の災害応急工事に関する業務協定」に基づいて関係者に
対する通行止め実施の指示を開始したにすぎず,それは本件事故が発生した後であった。被告の道路の
管理に瑕疵があることは明らかである。
    (エ) 通行止めを決定した時刻に関する被告の主張は,争う。
     ① 被告は,従前,14時40分に連続雨量213㎜となり,これを14時50分ころ認知し,15時に
箱根全山の通行規制を行うことを決定したと主張していた。(被告の平成12年10月10日付け準備書面
(7),同年12月12日付け準備書面(8))
     ② ところが,平成13年8月1日付けの準備書面(10)において,後記のとおり,道路管理者は,
14時40分のデータの報告は受けておらず,同時点でのデータは確認していなかった,14時50分に連
続雨量200㎜を認知し得たが,実際に連続雨量200㎜を超えたと認知したのは15時のデータが出力さ
れた15時10分ころである,と主張するに至った。
     ③ しかし,正時の連続雨量は,テレメーター表示盤によりほとんどリアルタイムで表示されるの
ではないのか。すなわち15時には同表示盤の15時の累計雨量は248㎜と表示されていたのではない
か。
     ④ 通行規制にかかる重要な事実について,このような主張の変更は到底信用することができ
ず,実態を調査して真実の主張をしているのではなく,管理の瑕疵を否定するために都合のいい筋書き
に合わせて主張をしている疑いがあり,このような主張の変更は認められない。
     ⑤ 上記のような主張の変更をみると,そもそも連続雨量が200㎜を超えたことにより通行規制
を決定したのではなく,本件土石流の発生を認知したことにより通行規制を実施したのではないかとの疑
いが生じる。また,本件規制区間における過去の通行規制実施の記録,土石流発生の記録及び連続雨
量の記録を対比して検討すると,連続雨量が200㎜を超えた可能性がある昭和63年8月10~11日,
平成元年8月26~27日,平成2年6月9日(この日は連続雨量が200㎜を超えた可能性が極めて高
い。),平成2年9月29日~30日,平成2年11月29日~30日に通行規制がされておらず,本件事故以
前に連続雨量200㎜との基準による通行規制がされていなかったのではないかとの疑問がある。
  (5) 損害額について
   ア 逸失利益  1億6879万0287円
    (ア) Dの本件事故発生の前年度の年収は,1245万0251円であった。この年度は,税理士開業
後4年目であり,顧問先も増えていたから,将来は継続して3割程度の増収を維持することが確実であっ
た。
    (イ) そうすると,Dの逸失利益は,次のとおり算出される。
     1245万0251円×1.3(増収分)×0.7{=1-0.3(生活費控除)}×14.898(67歳まで28
年間に対応するライプニッツ係数)=1億6879万0287円
   イ 葬儀費用  426万8684円 
   ウ 慰謝料  2400万円
   エ 物損(車両全損)  170万円
   オ 弁護士費用  1599万円
   カ 上記ア~オの合計 2億1609万4792円
 この内金1億円を請求することとし,これを原告らが法定相続分に従って按分すると,原告
Aが5000万円,原告B及び原告Cが各2500万円を請求することとなる。
   【被告の主張】
  (1) 原告の主張(1)のうち,国家賠償法2条の「営造物の設置又は管理の瑕疵」が「営造物が通常有す
べき安全性を欠いている状態」であることは認め,その余は争う。
    本件土石流は,本件事故当日の観測史上例を見ない異常な降雨によって発生したものであるか
ら,通常予想される自然現象とはいえず,さらに,本件土石流のようなボブスレー現象により通常の流下
経路を外れて道路を直撃するとの予見可能性はなかったから,通常予想されない自然現象によって発生
したものである。したがって,本件道路が通常予想される自然現象に対して安全性を具備していなかった
ということはできず,その設置又は管理に瑕疵はなかった。
  (2) 原告の主張(2)は,争う。
   ア 原告は,土石流の発生が直接的な降雨量だけでなく,地質の構造,地下水の浸透,表土の状
態,土砂の性質,地形的特質等々様々な要因による総合的な結果であることを認めながら,本件土石流
発生の機序及びその要因,特に降雨量と本件土石流との相関関係にまったく論及していないのであり,
土石流発生の抽象的予見可能性どころか,結局,単に相当量の降雨があれば土石流が発生するであろ
うという漠然とした危惧感で足りるとするものに他ならず,失当である。
   イ 本件事故発生の予見可能性についても,原告の主張は,土石流流下の形態,無名沢の具体的
地形の形状及び本件土石流の規模の予見可能性等にまったく論及することなく,一般常識の一言で予見
可能性があるという結論を導き出していて,何らの科学的根拠もなく,抽象的予見可能性どころか,本件
無名沢で土石流が発生すれば本件事故が発生するであろうという漠然とした危惧感で足りるとするもの
に他ならず,失当である。
  (3) 原告の主張(3)は,争う。
   ア 本件土石流の発生の長期的予見可能性について
    (ア) 本件無名沢の状況は,前記のとおりであり,7基の堰堤は水流及び土砂等の流出に対する安
全性の保持に機能を発揮しており,安定した様相を示していた。また,傾斜勾配も平均1:1.85で法面標
準勾配の範囲内にあり,十分に安定した状態であり,過去に土砂が道路に流出したことは記録上残って
いない。
    (イ) 地質については,前記のとおりであるが,基岩地質の上に堆積した角礫を含むルーズな褐色
ローム(風化火山灰土)が崩壊しやすい状態にあったことは,本件事故後の事故調査委員会の現地にお
ける詳細な調査によって初めて確認されたもので,一般に刊行されている地形・地質資料では,基岩地質
しか知り得ないため,本件無名沢付近の斜面の崩壊危険箇所を指摘することは不可能であった。また,
各渓流ごとにこうした表土の堆積状況について,どのような物質がどの程度堆積しているかを調べてこれ
が危険な状態に達しているかどうかを判断することは非常に難しいのが実情であった。
    (ウ) 報告書(乙19)において,「現地の地形・地質の生成や特性を考慮して,無名沢を含む斜面の
崩壊危険性の長期予測は,微地形(細かい地形的特徴)の調査,表層土の地質調査及び地下水調査等
で,崩壊のおそれのある箇所の範囲を予測することは可能であるが,どの箇所でいつ崩壊が発生するか
の予測は,平成3年当時の刊行資料,研究レベル及び道路管理者の行っている防災点検の精度では不
可能である。さらに,あらゆる崩壊がすべて土石流に直結するとは限らないため,土石流の発生予測も困
難である。」と結論されていて,このことからも,本件土石流の発生を長期的に予見することが困難であっ
たことは明らかである。
    (エ) 原告は,土石流発生と降雨の関係について,定性的な関係があれば,本件道路において本件
土石流の発生は予見可能であったと主張するところ,一般に土石流の発生と降雨との間に一定の定性的
関係があることは認められているが,ある特定の場所が土石流発生の危険の定性的要因を満たしている
かどうかは,当該場所の周辺において,過去にある程度の降雨で土石流が発生したという事実によって
判断されるべきものである。昭和47年4月から指定された本件規制区間において,明神ヶ岳の雨量計に
よる観測値の降雨量が時間雨量50㎜又は連続雨量200㎜に達した場合に,同区間で何らかの災害の
発生の可能性があることが前提とされていて,同区間において規制基準を超える降雨があった場合に土
砂崩落等何らかの災害が発生するという関係があることまでは否定しないが,しかし,本件土石流は当日
の極めて異常な降雨により発生したものであり,このような降雨については予見可能性がなかったのであ
るから,本件土石流発生についても予見可能性はなかったというべきである。
    (オ) 元年版アボイドマップに本件無名沢が土石流危険渓流と表示されているが,前記のとおり,砂
防課による土石流危険渓流調査においては本件無名沢は「土石流危険渓流」とはされず,林務課の調査
において「崩壊土砂流出危険地区」とされたものである。そして,崩壊土砂流出危険地区に該当するとさ
れたのは,足柄幹線林道の山側の区域が荒廃発生源とされたからであるところ,本件崩壊箇所が上記林
道の谷側であり,崩壊土砂流出の危険があると判断された場所(林道山側)において本件土石流が発生
したものではないから(山側での表土の流出は,谷側で起こった本件土石流とは直接関係がないと考えら
れる。),元年版アボイドマップの記載内容から,本件土石流が予見可能であったということはできない。
      仮に本件土石流発生の原因が上記林道の山側の表層崩壊であったとしても,前記のとおり,あ
らゆる崩壊がすべて土石流に直結するとは限らないため,土石流の発生予測は困難であるから,元年版
アボイドマップの記載内容から,本件土石流を予見し得たということはできない。
   イ(ア) 原告の主張するように,相当の降雨量があれば急峻な沢や崖に面している部分では土石流
が道路を襲う危険性があったという漠然とした危惧感で予見可能性を肯定することは,道路管理者に対
し,山岳部を通る道路に面する急斜面の沢のすべてにいかなる土石流による災害をも防止し得るだけの
完全な防護施設を設置することを求めることに他ならないが,そのような箇所は全国に多数存在し,これ
を実施するには莫大な費用を必要とするのであり,箱根地域の山岳部を通る道路に面する急斜面や沢の
すべてに防護施設を設置するような巨額の投資を必要とする安全対策を講ずることも,社会的資源配分
という観点からみて正当化し得ないものというべきである。
    (イ) 特に箱根全域は,自然公園法17条1項により国立公園の特別地域に指定され,その風致を
維持すべき地域とされていて,同項1号により同地区内において工作物を新築,改築又は増築する際に
は,環境庁長官の許可を受けなければならないとされていることを併せ考慮すれば,箱根地区すべての
急峻な沢や崖に上記のような完全な防護施設を設置することは著しく困難である。仮に,道路に面するす
べての急斜面や沢に何らかの防護施設を設置することができたとしても,発生する土石流等の規模が予
見できない以上,これによって完全に災害を防止できると言い切ることも現在の学問的水準では困難であ
り,本件事故の回避可能性も存しないといわなければならない。
   ウ(ア) 前記の本件事故当日の降雨は極めて異常であった。昭和42年以降平成3年8月20日以前
の箱根地域の神奈川県土木部所管の雨量観測所である明神ヶ岳,仙石原,元箱根,屏風山の各観測所
で観測された連続雨量及び時間雨量の記録(ただし,屏風山は昭和45年以降である。)によれば,時間
雨量50㎜以上60㎜未満の回数は25回,同60㎜以上70㎜未満は12回,同70㎜以上80㎜未満は3
回,同80㎜以上は1回であり,時間雨量が50㎜以上の回数は合計41回,時間最大雨量は元箱根にお
ける昭和42年11月5日の84.5㎜である。明神ヶ岳での時間最大雨量は昭和54年10月19日の70㎜
である。
    (イ) 前記の本件事故当日の降雨パターンも例を見ないものであった。9時以降は時間雨量20㎜前
後で推移し,13時までに累積雨量が105㎜となり,その後の1時間に39㎜を記録した後,14時からの1
時間に104㎜を記録しているが,このような降雨パターンは,過去に記録されたこともなく,予見不可能で
あった。鑑定書では,累積雨量の面からも降雨強度の面からも崩壊等の発生限界をいきなり超過して交
通遮断をするいとまもなく災害が発生する降雨パターンであるとしている。
    (ウ) 本件道路管理者において本件事故当時の降雨について予見可能性がなかったことについて
      降雨は,その地域の地形や気象の特性など複雑な要素が絡まり合う自然現象であるため,ある
地域において最大でどれだけの降雨があるかを予知することは現在でも困難である。したがって,1日の
降水量414㎜,時間最大雨量104㎜という降雨が予見可能であったというためには,その地域において
少なくとも過去に同程度の降雨があったことが必要である。しかし,前記のとおり,降雨量の面でも降雨パ
ターンの面でも箱根地域において本件事故当日のような降雨の記録はなく,このような降雨を道路管理
者が予見することは到底不可能であった。降雨について予見可能性がない場合には,土石流の発生につ
いても予見可能性はない。
   エ ボブスレー現象について
    (ア) 本件土石流は,前記のとおり,正照橋の下又は上を通らず,正照橋に接続する北東側の本件
道路上を通過したが,これは,土石流が本件無名沢をかなりの速さで渓床の土砂を巻き込みながら,谷
の曲がる箇所ではボブスレーのように両岸で土石流の通過跡に著しい高低差を生じながら流下したた
め,正照橋付近では橋下を外れて直進したことによるものである。
    (イ) このボブスレー現象は,研究論文であまり引用されておらず,現場用語として土石流多発地域
で使われるにとどまり,防災ハンドブック(昭和39年)などに触れられていないので,全国的にみて各道路
管理者が知らなかったものといってよい。ボブスレー現象の命名は,昭和53年発生の新潟妙高災害に関
するものであり,本件道路の管理者としては,現実に本件事故後に作成された報告書(乙19)によって初
めてボブスレー現象を知ったところであり,ボブスレー現象に由来する本件土石流の最後の直進性(本件
土石流が正照橋下の流水路施設であるボックスカルバートを通過せず,正照橋直近北東側の国道上を
通過したこと)を見抜くことは極めて困難であった。したがって,ボブスレー現象は,専門家に限られた知
識にとどまっていたものというべきであり,本件道路管理者として本件事故当時知り得なかったものであ
り,このことは鑑定書も同様の見解を示している。
    (ウ) 以上のとおり,本件土石流がボブスレー現象により流下し,そのために本件無名沢において最
後に沢を外れて直進し,正照橋の橋下を逸れて本件道路を直撃することを予測することは,土石流に関
する当時の研究や防災点検のレベル(飛騨川バス転落事故を契機に昭和43年度から平成3年度まで全
国的に8回の防災点検が行われ,平成2年度にも当時の最新の科学技術的知見に基づいて建設省が新
たに作成した防災ガイドブックに準拠して全国総点検が実施された。なお,防災点検の点検対象項目に
土石流が加えられたのは昭和61年以降のことである。平成2年度の防災点検において,本件無名沢に
ついては調査票は作成されていないが,その理由は,正照橋が土石流を通過させるに十分な断面で渓
流を跨いでいるために点検対象から除外されたか,または,点検対象となったが安定度調査票の最終評
価が40点未満で「ランクⅣ:おおむね安定している」に該当すると判断されたかのいずれかと考えられ
る。)からして困難であったこと,したがって,本件土石流の発生についての予見可能性がなかったことに
加えて,本件道路管理者において本件道路上へ土砂が流出することを予見する可能性もなかったことが
明らかである。
      なお,鑑定書は,本件事故当時の正照橋下の流水路施設(カルバート)の通水能力は,わずか
6ヘクタール程度の本流域に対しては十分すぎるほどの容量であり,上流の湾曲部区間で越流(スーパ
ーエレベーション=ボブスレー現象)がなかったとするならば,事故は起こらなかった可能性もあるとして
おり,本件道路管理者において本件道路への土砂流出の予見可能性がなかったことを裏付けている。
   オ 上記のとおり,本件土石流及び本件事故の発生を予測することは不可能であったから,それを前
提として被告が十分な土石流防護施設を設置していなかったとしても,これを道路の設置及び管理の瑕
疵ということはできない。
   カ 本件事故後に防護設備を設置したのは,自然災害が発生する以前は地盤が安定していた斜面
又は沢であっても,いったん自然災害が発生した後は,これにより被災地周辺の地盤が不安定な状態に
なることから,第二次的な災害の発生を防止するために当該防護施設を設置したものである。
  (4) 原告の主張(4)冒頭部分(本件事故当日に通行規制をするのが遅れたことは道路の管理の瑕疵
である。)は,争う。
   ア 同(4)アは,争う。
     大雨時などの水防,道路パトロール,道路の通行規制等の体制は,前記のとおりであり,本件事
故当日,道路管理者は,定められたところに従って,水防,道路パトロール,道路の通行規制をし,その
実施に瑕疵はないから,道路の管理に瑕疵があったということはできない。
   イ 道路通行規制実施にあたっての予見可能性について
    (ア) 同イ(ア)は,争う。
      通行規制基準は,前記のとおり定められていて,この基準については,これまで所轄の小田原
警察署長及び箱根町からの特段の異議・要望はなく,本件事故を除いてこの基準の当否が問題となるよ
うなことはなかった。
    (イ) 本件事故当時の正照橋付近の危険性について
     ① 同(イ)①のうち,元年版アボイドマップ上,正照橋に近い地域において,過去4箇所で崖崩れ
が発生し,正照橋の東西にそれぞれ斜面崩壊危険箇所とされている区域があることは認め,その余は争
う。
     ② 同(イ)②のうち,本件事故当日の降雨量が前記のとおりであることは認め,その余は争う。
     ③ 同(イ)③は,認める。
     ④ 同(イ)④ⅰ~ⅳ(連続雨量が200㎜に達する前に通行規制をすべきであり,その時期としては
大雨洪水警報が発令された時点が基準となる。)は,争う。
       本件事故当日の通行規制の実施の状況は,次のとおりである。
      ⅰ 前記のとおり,小田原土木事務所の本館及び水防室に設置された雨量テレメータデータ表
示盤は,1時間毎の正時における時間雨量及び連続雨量のデータを表示するものであったから,本件道
路管理者は,原則として各雨量観測所における正時の観測値をもとに1時間単位で通行規制をするか否
かを判断しており,ただし,正時における連続雨量が規制基準の200㎜に近づき,1時間以内に規制基
準を超えることが予想される場合には,本件道路管理者は,水防室に勤務する職員に対し,10分単位で
テレメーター雨量観測データ(印刷機により連続的に印字されたもの)を読み取って報告するよう指示し,
その報告を受けて通行規制の実施を判断する体制をとっていた。
      ⅱ 本件事故当日の14時における連続雨量は144㎜,同時点の時間雨量も39㎜であったとこ
ろ,本件道路管理者は,それまでの雨量の状況から1時間以内に200㎜を超える降雨があるとは考え
ず,その時点では10分毎のデータの報告を求める必要はないと判断し,15時の雨量データをもって通行
規制の実施を決定した。
      ⅲ 明神ヶ岳の降雨量については,14時30分に連続雨量193㎜,14時40分に連続雨量21
3㎜と記録されていた。前記の同システムの性能によれば,14時50分には14時40分の観測値である
連続雨量213㎜を認知することは可能であった。
        しかし,本件道路管理者は,14時以降も正時で判断する体制を敷いていたから,14時50
分ころに14時40分のデータの報告を受けておらず,同時点でのデータは確認しなかった。本件道路管
理者が連続雨量が200㎜を超えたと認知したのは,15時のデータが出力された15時10分ころであっ
た。
      ⅳ 同土木事務所では,上記の15時の正時の雨量データに基づき通行規制基準に達したこと
を確認し,箱根全山の通行規制を行うことを決定し,直ちに電話回線による道路情報板の操作,道路情
報モニター等への連絡を行い,15時30分には全面通行止めの措置を完了した。警察,消防,関係道路
管理者等への通行止めを行った旨の連絡は,15時30分から16時10分までの間に完了した。〔乙34〕
     ⑤ 同(イ)⑤の事実は,認める。ただし,Eがその出水の事実を小田原土木事務所に報告したか
否かは不明である。
       この出水は,宮城野橋の道路面上の約10㎝ほどの冠水であった。これは,当時の激しい雨
のため路面の雨水が道路側溝で排水しきれず,傾斜のある路面を下って同橋(構造上側溝はない。)に
流れ込み,路肩の片側3箇所の排水桝から排水されなかったものが冠水したものと推測される。Eは,こ
の冠水を目撃して出張を取りやめ,道路パトロールを行ったもので,15時から15時05分ころにかけて帰
社し,同僚のFから本件土石流の災害を聞いて直ぐに小田原土木事務所に報告した。したがって,この冠
水を確認したことから本件通行規制区間内で土石流の発生を予見できたとか,発生が明らかになってい
たということはできない。
     ⑥ 同(イ)⑥のうち,木賀桟道付近で土砂流出があったことは認め,その余は争う。
       これは,当時小田原土木事務所道路補修課副技幹として勤務していたIが道路パトロールを行
っていた15時ころに発見したものを,おおよその発生時刻として14時30分と報告書に記載したものであ
り,小田原土木事務所が同時刻にこの土砂流出を認知したものではない。この報告書の記載内容から,
この土砂流出が土木事務所に報告されたのは15時以降であり,箱根全山通行止めの決定とほぼ同時
刻であることが明らかである。
    (ウ) 同(ウ)は,否認する。
     ① 本件事故当日の明神ヶ岳観測所での5時から14時までの降雨量の合計が144㎜に達した
時点で,道路の通行規制をすることとの関係において,土石流発生の予見が可能であったとの主張は,
争う。       なぜその時点で本件土石流の発生が予見できるのか,根拠は何ら示されていない。
     ② 大雨・洪水警報が発令された時点で土石流発生の予見可能性があったとの主張は,争う。
      ⅰ 大雨・洪水注意報と大雨・洪水警報との違いは,基本的には予測降雨量の多少によるもの
であって,横浜地方気象台における注意報及び警報の発表基準は,前記のとおりであるが,これと本件
無名沢における土石流発生の具体的客観的危険性との関連は希薄である。
      ⅱ 道路の通行規制に関しては,前記のとおり,道路管理者において,明神ヶ岳の降雨量を計
測して,その降雨量を通行規制の基準としているのであり,本件無名沢における土石流発生の危険性を
判断するには,大雨・洪水警報発令の有無より上記の基準によるのが合理的であり,原告の主張は,失
当である。
      ⅲ 現実に道路交通への危険が生じていないにもかかわらず,大雨・洪水警報が発せられただ
けで直ちに本件道路を含めた箱根地域における道路について通行止めを実施するとしたならば,自動車
を利用する以外に交通手段を持たない地区が多数存在し,観光地であるとともに首都圏に近く,山岳地
域としては比較的多く居住者を擁するという箱根地域の特性を考慮すれば,道路利用者の利便性,地域
経済への影響にとどまらず,急病人の救護等に重大な支障が生じるのであるから,原告の主張は,非現
実的な空論というべきである。
③ 同(ウ)③は,否認する。
       原告は,道路の山側の地面の状況をどのように調査すべきか具体的に示していないが,一定
量の降雨があった時点で,限られた土木事務所職員が本件道路を含めた広範な山岳地域のすべての山
側の急斜面の状態を調査することなど非現実的な空論であることは明らかである。仮に本件事故当日,
本件道路において原告が主張する山側の地面の状況を調査するために下車したとしても,時間雨量100
㎜に達する大雨の中で土砂崩壊による水の濁り等の徴候を発見することができたとする点については何
らの根拠もない。
       土石流の予兆としては,地下水圧の増加による土砂崩落のために水が濁るといった現象等が
あるといわれているが,本件土石流に関してこのような予兆といわれる現象が発生したことはまったく確
認されていない。仮に予兆といわれる現象が発生していたとしても,その現象を把握することは不可能で
あった。仮に土石流の予兆としての水の濁り現象が発生していたとしても,当日は,13時までの連続雨量
が105㎜,14時までの連続雨量が144㎜という豪雨であり,土石流の予兆としての水の濁りと雨水によ
る水の濁りとを区別することは不可能であったということができる。また,このような豪雨の中,職員等が
パトロールの際に土石流発生の何らかの予兆を五感で感知することは非常に困難なことである。前記の
小田原土木事務所が行った異常時パトロールにおいて,限られた人数の職員等が管轄区域内の崩落等
の可能性のあるすべての斜面や沢について,その上方の状況を確認して回ることは現実的ではなく,まし
て時間雨量100㎜を超える異常な集中豪雨の中では視界も聴覚も非常に限られたものとならざるを得な
い上,特に本件土石流の発生原因となった崩落箇所(林道直下の右岸谷壁)は,本件道路からは直接観
察することができない場所であり,林道上を通行する者にとってもその下側にあるため,そこで発生してい
る現象を五感によって把握することは極めて困難である。また,上流で現実に発生した土石流を下流にお
いて直ちに把握する方法として,テレビカメラ,ワイヤーセンサー等を機能に応じて複数設置する方法も存
在する。しかし,これらを各渓流に設置することは,莫大な経費と監視等のための人員を要するものの,
本件無名沢のような距離の短い沢においては,通行規制のためにはまったく役に立たない。すなわち結
果回避の可能性はない。
    ④ 同(ウ)④は,否認する。
     ⑤ 同(ウ)⑤は,否認する。
     以上から,本件土石流の短期的予見可能性が存在しなかったことは明白であり,この点で本件
道路の管理に関する瑕疵はない。
 (エ) 原告が主張する道路の通行規制を実施すべき時期は,いずれも特段の合理的な根拠はなく,
単に事故が発生したと考えられる時間帯以前において基準としやすい事項や時点をとらえて,通行規制
を実施すべきであったと主張しているにすぎず,主張自体失当である。
   ウ(ア) 原告の主張ウ(ア)は,争う。
     本件事故当日に実施された前記の道路パトロールの通過経路は,箱根地域の県管理道路をほ
ぼ網羅していて,途中の通過時刻をみても2台の車両でパトロールをする際の最も効果的な形態であると
考えられる。土木事務所職員の行ったパトロールは,その経路,時刻とも適切にされ,パトロール実施要
領にしたがってパトロールの点検対象にも十分留意し,漫然と本件事故地点を通過したものではないか
ら,このパトロールに瑕疵はない。また,道路の通行規制は,規制雨量の観測後,遅滞なく実施されてお
り,道路管理者である県の道路管理に瑕疵はなかった。
      また,本件通行規制区間における過去の大規模の災害は,いずれも連続雨量200㎜を大幅に
超えて発生したものであり(下の①,②),連続雨量200㎜以下で生じたもの(下の③,④)は,土石流や
斜面崩壊(山崩れ,崖崩れ)ではなく,いずれも通行規制基準を見直すべき事象には該当せず,他に本件
規制区間に大規模な土砂災害が発生したことを示す資料はなく,通行規制基準を見直すことが必要であ
るとされる程度の客観的危険が生じているとは解されない。
     ① 昭和56年8月22日から同月23日にかけて碓氷洞門を挟む2つの沢で発生した土砂流出
は,台風15号による降雨によるもので,同月21日から同月23日にかけての連続雨量が303㎜(日降水
量が21日が24㎜,22日が247㎜,23日の最大時間雨量が32㎜)に達したころに発生したと推認され
る。
     ② 平成2年8月10日に宮城野(碓氷洞門付近。正照橋からやや小田原寄り)で発生した大規模
な土砂流出(流出量約500m)は,同日5時に連続雨量200㎜を超えて通行止めを実施中の10時30分
ころに発見されたものである。箱根観測所の降雨記録によれば,同月9日15時から翌10日10時までの
連続雨量は436㎜であった。小田原土木事務所が把握した9日9時から10日9時までの日降水量も29
5㎜であった。
     ③ 昭和63年6月3日に宮城野と仙石原の境界付近(矢落沢橋付近)で発生した土砂流出は,1
0時ころ,連続雨量150~160㎜の範囲で発生したものと推測しうるが(発見は10時30分ころ),これ
は,沢から外れた保安林の谷止めの土砂があふれ出たもので,流出量は20立方メートルと少量であり,
土砂を排除するために付近の道路を片側通行止めにしたにとどまり,11時30分には復旧し,人的被害
もなかった。
     ④ 平成2年9月15日に連続雨量91㎜,時間雨量33㎜で土砂流出が発生したが,流出量は5
立方メートルと極めて少量であり,人的被害も発生していない。
    (イ) 同ウ(イ)は,争う。
     ① 前記のとおり,本件道路管理者は,14時の時点では10分毎のデータの報告を求める必要
はないと判断し,15時の雨量データにより通行規制を実施するか否かを決定するものとした。この判断
は,14時までの連続雨量及び時間雨量の推移に基づくものであり,その推移により14時から1時間以内
に連続雨量200㎜を超える降雨があると判断することはできなかったのであるから,妥当なものであっ
た。
     ② したがって,本件道路管理者が14時20分の雨量データを認知することはなかった。しかも,
時間雨量は,正時から正時までに降った雨量の合計として把握されていて,雨量テレメーター自体が任意
の特定の1時間(例えば14時20分からさかのぼって1時間)内に降った雨量を計算するようなシステムに
なっていなかったから,本件道路管理者において14時20分からさかのぼって1時間以内に降った雨量を
認知することは,10分毎に印字されていた連続雨量をもとに人の手で計算することは全く不可能ではな
いものの,実際上は期待し難いことであった。
     ③ 仮に14時20分の時間雨量のデータをもとに通行規制の決定を行うべきであったとしても,そ
のデータの出力(印字)時間を考慮すると通行規制の決定は14時30分ころとならざるを得ない。しかも箱
根全山の通行規制をした場合,その連絡の順序は本件規制区間について最初に行われるとは限らない
し,通行規制を実施する業者の連絡先事務所に作業人員が常時待機しているわけでもなく,仮に最初に
連絡されかつ作業員が直ぐに作業に取りかかる態勢ができていたとしても,通行規制実施業者が通行規
制実施の連絡をうけた後,現地でバリケード設置等を行うまでには,バリケードや土嚢等の資材の積込み
や現地に到達する時間等を考慮すると,最低でも10~15分程度の時間はかかると考えられる。
       そして,正照橋から仙石原交差点までの距離は約3㎞であり,Dが時速20~30㎞で走行して
いたとすると,同交差点から正照橋までは6~9分間かかるが,14時30分に通行規制を決定したとして
も,その時点ではDが同交差点を通過している可能性が高く,本件事故発生には到底間に合わなかった
ものと推認することができる。
     ④ 被告が崩壊発生の限界雨量を200㎜から300㎜と主張を変更したことはない。鑑定は,過
去に土砂災害が発生した際の積算雨量及び時間雨量を限界降雨曲線として示しているが,全国データに
よる限界降雨曲線によれば,積算雨量200㎜及び時間雨量60㎜又は積算雨量300㎜及び時間雨量5
0㎜とされている。通行規制基準の連続雨量及び時間雨量は,この限界降雨曲線よりも少ない雨量であ
る連続雨量200㎜及び時間雨量50㎜と,連続雨量で100㎜,時間雨量で10㎜余裕をもって設定されて
いる。確かに,この通行規制基準は,静岡市のデータに基づく限界降雨曲線よりもやや上に位置している
が,鑑定は,静岡市における限界降雨曲線は最も崩壊が発生しやすい部類に属するとしており,本件規
制区間がその部類に属するとは認められないから,本件の通行規制基準は,十分な合理性を持つもので
ある。
    (ウ) 同ウ(ウ)のうち,道路管理者が行ったことは認め,その余は争う。  
      本件規制区間の通行規制の方法は,宮ノ下交差点及び仙石原交差点付近にそれぞれ道路情
報板と進入側の車線にバリケードを設置する(本件規制区間から出る側は開放する。)ものであり,本件
事故当日は,道路情報モニターでありかつ災害応急工事の施工業者であるN建設株式会社が小田原土
木事務所から15時の雨量データに基づく通行規制の連絡を受けて,仙石原交差点付近の道路情報板及
びバリケードによる通行止めの作業を実施した。
  (5) 損害額について
    争う。
第3 争点に対する判断
 1 防護施設を設置しなかったことについて
  (1) 予見可能性について
   ア 国家賠償法2条1項にいう道路の設置又は管理に瑕疵があるとは,道路が通常有すべき安全性
を欠いている状態であること(道路が道路として利用される際に利用者に危害が生じる場合を含む。)をい
うと解すべきであるが,本件においては,まず,正照橋に本件事故の発生を防止することのできるような
防護施設が設置されていなかったことが,道路が通常有すべき安全性を欠いている状態であったというこ
とができるかが争点となっている。
   イ 本件道路が本件事故発生当時に通常有すべき安全性を有していたか,すなわち,当時において
現在あるような防護施設が設置されていなかったことが通常有すべき安全性を欠く状態であったといえる
かは,事故発生当時までに正照橋に現在あるような防護施設を設置することを当然に期待することがで
きたか否かよって決せられ,より具体的には,明神ヶ岳観測所において本件規制区間の通行規制基準で
ある連続雨量200㎜又は時間雨量50㎜を記録する程度の降雨があった場合に本件無名沢において本
件土石流程度の規模の大きな土石流が発生することを予見することができたか否か(本件事故の発生
は,14時35分から14時40分のころと認められるが,明神ヶ岳観測所での降雨記録は,14時30分19
3㎜,14時40分213㎜である。),かつ,そのような土石流が発生した場合にそれがボブスレー現象によ
り正照橋の下のカルバート(流水路部分)を通過しないで道路上を通過することを予見することができたか
否かにかかる部分があるというべきである。(上記のように,通行規制基準としての降雨量との関係で防
護施設設置の要否を問題とするのは,道路法46条1項1号,2項で「道路の破損,欠壊その他の事由に
より交通が危険であると認められる場合」でなければ通行規制を行うことできないという制限があることは
さておき,例えば,ある通行規制区間において仮に通行規制基準となる連続雨量が140㎜程度に設定さ
れ,それが厳格に適用・運用される場合,その程度の降雨量では土石流が発生することは通常はあり得
ないということが経験上明らかであれば,土石流事故の防止という観点からは,現在あるような防護施設
を設置しなくても本件道路は通常有すべき安全性を備えていると評価されることになると考えられるから
である。)
   ウ そして,これらの予見可能性がいずれも肯定されるときは,通行規制による事故防止という方法
があることをも考慮し,通行規制の方法があるにもかかわらずその方法(通行規制の基準と現実の運用)
が事故の防止のために有効に働かない場合に備えて,本件土石流程度の土石流が発生しても道路を通
行する車両や人に危害が及ばないような防護施設を設置しなければ,本件道路が通常有すべき安全性
に欠けると判断されてもやむを得ないものというべきである。しかし,他方,上記の予見可能性を肯定する
ことができないときは,現実の問題として現在あるような防護施設の設置を期待することはできないから,
そのような防護施設が設置されていなかったことから直ちに通常有すべき安全性を欠く状態であったとい
うことはできなくなる。
   エ ところで,原告は,本件無名沢に土石流が発生することの予見可能性について,国家賠償法2条
の責任が無過失責任であり,同法1条の過失を前提とする責任とは異なるものであり,したがって,危害
発生の予見可能性がないとして同法2条の責任が否定される場合における予見可能性は,過失責任の
前提となる具体的な予見可能性とは異なる,そして,本件無名沢付近において,台風等による大雨が降
った場合に,崩壊等が発生し,土石流となって急降下し,道路を襲う可能性があることが,ある程度予見
できた場合には予見可能性を肯定すべきであり,より抽象的な予見可能性で足りるというべきであるとも
主張する。これに対して,被告は,防護施設設置の関係において国家賠償法2条の責任が肯定されるた
めには,原告の主張するような程度の予見可能性があったことでは足りず,本件土石流の発生について
の具体的な予見可能性が必要であり,本件ではその可能性はなかったと主張する。
   オ そこで,土石流発生の予見可能性が原告の主張する程度のもので足りるかについて検討する
に,まず,本件で問題とされているのは,正照橋に現在あるような防護施設を設置しておくべきであったか
否かであるから,本件無名沢付近又は本件規制区間という比較的広い区域における土石流発生の予見
可能性を問題とすることは相当ではないというべきである。すなわち,証拠(甲35の1,2,乙19の
15,16,19,21~23)によれば,本件道路を管理していた小田原土木事務所管内には,土石流発生の可能
性があると判断されている沢は多数存在していることが認められるところ,少なくともそのような多くの沢
の中で特に本件無名沢に土石流が発生する可能性が高いことが予見されなければ,正照橋に現在ある
ような防護施設を設置することにはならないのであり,そうでなければ本件事故を防ぐことはできなかった
のであるから(ただし,現在ある防護設備によって確実に本件事故が防げたという証拠はない。),まさに
本件無名沢において土石流が発生することの予見可能性があったか否かを問題にしなければならないと
いうべきである。原告が主張するように本件無名沢付近又は本件規制区間というある程度広がりをもった
区域における土石流発生の予見可能性を問題とすれば足りるとすると,結局,個々の沢についての土石
流発生の具体的な予見可能性を問題とする必要はなくなることとなり,いきおい予見可能性の判断は抽
象的なものとなってしまうが,それでは個々の具体的な事案における法的責任の有無を判断するための
基準として不適当であるといわざるを得ず,原告のこの点の主張は,採用することはできない。(なお,原
告のこの点の主張は,土石流発生の可能性があると判断されるすべての沢について完璧な防護施設の
設置を要求することにもつながっていくのではないかと考えられるが,異常な気象条件の下においてもで
きる限り道路を使用可能な状態におくべきであるとして道路の利便性を追求すること自体を否定する合理
的な理由はないが,そのようなことを直ちに実現が可能なこととして期待するのは困難であるというほか
はない。)
  (2) 本件無名沢における土石流発生及びボブスレー現象の予見可能性の有無について
   ア 本件無名沢の地質,地形等の状況,元年版アボイドマップと新アボイドマップの記載内容及びそ
の根拠は,前記の判断の前提となる事実に記載のとおりであるが,証拠(甲35の1~3,36の1~3,37,
乙16,19の1,15,16,18,19,22~24,27,28,22,66,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,本件無名沢及
びその周辺においては,平成3年以前に,降雨によって斜面崩壊や土石流が発生した事実があり(なお,
関東大震災や豆相地震による地滑りや斜面崩壊の事実があったことは,斜面地層の表層部分が崩壊し
やすい地質・地形であったことを示すものと考えられ,地震時の斜面崩壊とその時の累積降雨量や地震
と降雨との時間的な前後関係は不明であるが,地震によって斜面崩壊が発生したという事実から,多量
の降雨があった場合に土石流の発生しやすい地質・地形であると一応考えられる。),前記のような地質
では,多量の降雨があった場合に地表から斜面表層部分に浸透した水分は基岩部分にまでは浸透し難
く,表層部分の含水量が多くなり,その地下水圧により斜面表層部分の土砂の崩壊が起こり,この土砂が
液状化して谷底を流れて土石流となるという土石流発生の基本的なメカニズムは判明しており,平成2年
9月19日に建設省道路局長から出された「落石等の恐れのある箇所の全国総点検について」(乙16,1
9の18)においては,土石流についての安定度調査として,砂防課によって土石流危険渓流と認定された
箇所は優先的に調査対象として抽出し,渓床堆積厚さ,最急渓床勾配,発生流域面積,表層土の質,地
質条件,常時湧水箇所の有無,比較的規模の大きい崩壊履歴の有無,新しい亀裂・滑落崖の有無,積雪
地帯であるか否か,地被条件(裸地・伐採跡地等面積の流域面積に対する割合),山腹勾配,既設対策
工の効果の程度,道路構造(流路幅・桁下高さ)などの事項を点検し,それぞれの項目を点数化して安定
度調査を行うべきことが指示されていて,これらの事項が土石流発生の危険度に関係のあることは判明
していたこと,足柄幹線林道の上の植林部分が神奈川県農政部林務課の調査により荒廃発生源とされ
ていたことが認められ,これらの事実は,本件無名沢において多量の降雨があったときに土石流発生の
危険があることを示すものであるということができる。
   イ しかし,他方,元年版アボイドマップでは本件無名沢以外にも数多くの沢が同様に土石流危険渓
流として記載されていて,しかも,本件無名沢には斜面崩壊危険箇所として指定されている箇所はないこ
と(他にこの指定がされている沢が存在する。),新アボイドマップにおいて本件無名沢は斜面崩壊予測
箇所のうちの危険度ランクAの地域に含まれているが,この危険度ランクAの斜面は極めて広範囲に指
定されていて,本件無名沢が特別に危険であるとの指摘はないこと,昭和48年に公刊された集中豪雨に
関する文献(乙22,66)には,土石流発生の予知について,「土石流発生の原因がかなりはっきりと判っ
ているのであれば,その発生の予知は容易にできるように思われるかもしれないが,実際にはなかなか
有効な予知法が確立されていない。原因のところで述べたように,ほぼ10度以上の勾配の谷で多量の土
石が堆積していると,100ミリ以上の大雨で土石流の発生のおそれがあるとすれば,わが国のほとんど
すべての谷が土石流発生の危険をはらんでいるといえよう。さらに雨の降り方を考えると,土石流が発生
するような急峻な渓谷では,上流と下流で雨の降り方がかなり異なる場合が多く,また,流域の形状や表
面の被覆状態で谷川への水の集まり方が変わるから,ある地点の雨量から事前に土石流の発生を予測
することはかなりむずかしい。……統計的な予知法は,ある信頼度をもって一般的な傾向を表現すること
はできるが,個々の谷についてその危険度を正確に表現することは困難な場合が多い。……また綿密な
現地調査による物理的予知法をとるとしても,一つの谷の流域の調査範囲は,斜面崩壊の対象域にくら
べて広く,また土石流の発生条件そのものについての定量的判定も,物理的法則にもとづく基準がまだ
確立されていないから,この方法もいまのところあまり有効ではない。結局,前述の原因のところで定性
的に述べたような各要因の影響は明らかであっても,これらの要因を定量的に表現して土石流発生の具
体的予知法を確立するまでには,まだまだ多くの研究課題が解決されねばならないというのが現状であろ
う。」との記載があり,平成7年発行の文献(乙19の24)でも,土石流について「現状では,未だ,確実な
発生予測手法は開発されておらず,相対的な発生の可能性(危険度)をある程度予測できる段階であ
る。」とし,平成9年の段階でも山地保全学の専門家は「どの斜面,渓流が一番危険か,この斜面と隣の
斜面とどちらが危ないかには残念ながら答えられません。それは地面の下の情報がほとんどないからで
す。」(乙19の27)としていることが認められ,本件無名沢が交通量の多い国道の下を横断していることを
考慮したとしても,本件事故が発生した平成3年より前に本件道路管理者において本件無名沢が管内の
他の沢に比較して土石流発生の可能性が高く,正照橋に土石流の防護施設を設置する必要があると判
断することができたものとは認められない。
   イ ボブスレー現象については,前記の昭和48年公刊の文献に「土石流の先端の盛り上がり部は
巨大な岩石を多数とりこんでいて,大きな慣性を持ち,障害物にぶつかったり,流路の湾曲部にさしかか
ると,この盛り上がりが急激に高くなり,ときには数十メートルを超えるようなことがある。」との記述があ
り,鑑定の結果によれば,本件事故発生当時そのような現象があることは知られていたはずであるという
見解を否定することはできず,昭和58年に出版された鑑定人の著書にも流路設計に際してボブスレー現
象に対する配慮が必要であると指摘されているが,一般に設計基準にまで明記されるに至っておらず,専
門家に限られた知識にとどまっていたということもできることが認められ,この鑑定の見解を覆すに足りる
証拠はなく,本件道路管理者がこのボブスレー現象を予見することができたということは困難である。
  (3) 以上から,本件道路管理者において,本件無名沢で土石流が発生し,これが正照橋の上を通過
することを予見することは不可能であったというべきであり,そうすると正照橋に現在あるような防護施設
を設置しなかったことが道路管理の瑕疵に当たると認めることはできない。
 2 通行規制が間に合わなかったことについて
  (1)ア 本件事故当日,降雨量が通行止めの通行規制基準である連続雨量200㎜又は時間雨量50
㎜となった時刻を検討すると,前記のとおり,連続雨量の10分毎の観測値は,14時30分193㎜,14時
40分213㎜であったから,連続雨量が200㎜に達したのは14時30分を3分程度過ぎたころと考えられ
る。また,10分毎にその直前1時間の時間雨量を計算していたとすると,10分毎の直前1時間の時間雨
量は,13時30分(警報発令時)26㎜,13時40分28㎜,13時50分34㎜,14時00分39㎜,14時10
分46㎜,14時20分63㎜,14時30分74㎜,14時40分88㎜,14時50分101㎜,15時00分104㎜
となり,14時10分をやや過ぎた時刻に直前1時間の時間雨量が50㎜を超えたものと考えられる。
   イ 14時30分に連続雨量193㎜のデータが打ち出されるのは現実には14時38分ころであり,仮
にこの時点で通行止めの実施を決定したとしても,通行止め実施を道路情報モニターに連絡する時間及
び道路情報モニターが実際に通行止め作業に着手して通行止めが現地で実施されるまでの時間並びに
本件車両が通行止め箇所から本件事故現場まで走行するのに要する時間(距離約3㎞,時速30㎞で所
用時間約6分)を考慮すると,本件事故の発生時刻を14時35分から14時40分とする限り,本件事故の
発生は防止できなかったことは,明らかである。
   ウ(ア) 10分毎にその直前1時間の時間雨量を計算していたとすると,14時20分にその直前1時間
の時間雨量が63㎜になったことが判明するのが14時28分ころであり,直ちに通行止めの実施を決定し
たとすると,本件事故の発生を仮に14時40分とすると遅くとも14時34分までには通行止め箇所の現地
で通行止め作業が着手されていなければならないが,これに間に合ったか否かは,証拠上明確に認定す
ることはできない(本件事故の発生が14時35分であったとすると,本件車両が通行止め箇所から本件事
故現場まで走行するのに要する時間(距離約3㎞,時速30㎞で所用時間約6分)を考慮すると,14時28
分に通行止めの実施を決定したとしても間に合わなかったことがほとんど確実である。)。
    (イ)① この点について,前記のとおり,被告は,仮に14時20分の時間雨量のデータをもとに通行
規制の決定を行うべきであったとしても,そのデータの出力(印字)時間を考慮すると通行規制の決定は1
4時30分ころとならざるを得ず,しかも,箱根全山の通行規制をした場合,その連絡の順序は本件規制
区間について最初に行われるとは限らないし,通行規制を実施する業者の連絡先事務所に作業人員が
常時待機しているわけでもなく,仮に最初に連絡されかつ作業員が直ぐに作業に取りかかる態勢ができ
ていたとしても,通行規制実施業者が通行規制実施の連絡をうけた後,現地でバリケード設置等を行うま
でには,バリケードや土嚢等の資材の積込みや現地に到達する時間等を考慮すると,最低でも10~15
分程度の時間はかかると考えられる,と主張するので,これを検討する。
     ② まず,通行規制の決定が14時30分ころにならざるを得ないとの点については,どのような理
由又は事情により,印字されて14時20分のデータが認識できた直後に決定することができないのか,明
確な説明がなく,不明である。前記認定のとおり,小田原土木事務所では,7時15分ころ,大雨・洪水注
意報が発表されたため,水防の準備配備体制に入り(1班3~4名態勢),13時30分の警報発表の段階
で警戒配備体制(2班体制)に入って降雨等の状況把握に当たり,本件規制区間の規制基準となる明神
ヶ岳の雨量計による観測値の把握もおこなっていたのであるから(大雨警報は,山間部での時間雨量が6
0㎜に達すると予想されたときに発表される。)13時20分以降の降雨データ(13時28分までに印字完
了)については特別の警戒をもって注目していたものと考えられ,10分ごとの連続雨量が正確に認識さ
れ,したがって,10分毎に直前1時間の時間雨量を把握する態勢をとり得たであろうことが容易に推認さ
れる。(なお,乙62の雨量・水位テレメータ観測値が印字された記録紙に手書きで10分毎の降雨量の書
き込まれたのが当日の10分毎であったのかは,証拠上明らかではない。)
       そうすると,14時20分の連続雨量の観測値を認識した14時28分の時点でほとんど時間的
間隔をおかずに直前1時間の時間雨量が50㎜を超えたことを認識し得たはずであるから,直ちに通行規
制の実施を決定することができたと考えられ(降雨量が正時に通行規制基準に近付いている場合に10分
間毎のデータの報告により通行規制の実施を判断するとの被告の主張からは,降雨量がデータ上は規
制基準に至っていない段階でも規制基準を超えると判断した場合は,通行規制を実施する運用があり得
るものと認められるが,データ上で規制基準を超えた降雨量があったことが判明しているにもかかわら
ず,なお,道路管理者において通行規制を実施するか否かの裁量権限があるものとして運用されている
とは認められないし,そのような裁量を認めるべき合理的な理由は見当たらない。),特に時間雨量50㎜
の規制基準は,連続雨量200㎜の規制基準と異なり,短時間に集中して極めて強い降雨があった場合
に土石流が発生しやすいとの経験に基づいて設定された基準であると考えられ(なお,前記の昭和48年
公刊の集中豪雨についての文献には,「短期間の強い雨が直接に土石流の発生に関連するような結果
が観察されている。例えば,昭和46年,昭和47年に筆者らの京大防災研土石流研究グループが,焼岳
東麓で行った現地観測によると,図Ⅲ-7に示すように雨量強度と土石流発生との間に密接な関連があ
り,とくに10分間平均雨量のピークと土石流発生の時刻がよく対応している。」との記述がある。),その
基準により通行規制する場合は,より迅速な決定が必要であるということができるから,通行規制の決定
が14時30分までされないことはあり得ないということになる。
     ③ 次に,被告は,箱根全山の通行規制をした場合,その連絡の順序は本件規制区間について
最初に行われるとは限らないと主張するが,そこでいう箱根全山が小田原土木事務所管内にある4箇所
の異常気象時通行規制区間のすべてを指すとすれば,通行規制要領は,通行規制区間毎に通行規制を
実施することを前提としており,明神ヶ岳観測所の降雨量によって箱根全山の通行規制がされるものでは
ないことは明らかであり,この主張は首肯し難いものである。明神ヶ岳観測所の降雨量が規制基準となっ
ている異常気象通行規制区間は,本件規制区間のほかには1箇所存在し,その規制基準は本件規制区
間と同一であるが(甲24の9,乙27),通行規制の連絡をする場合に,交通量が多く,通行規制の必要性
がより大きく,迂回路もある規制区間の通行止め箇所を優先して順次行うのが当然であり,そうすると本
件規制区間の両端における2箇所の通行止めを優先すべきものと考えられ(乙47参照),仙石原交差点
における道路情報板の操作を依頼していた1級情報モニターのJへ連絡して通行止めの実施を依頼する
のにそれほど時間がかかるものとは考え難い。同人の属するN建設株式会社は,当時のL建設業協力会
災害対策班編成表(乙32。本部長1社,副本部長3社を含めて5班合計40社が記載されている。)では,
副本部長であり,同人に対しては,土木事務所長から迅速な通行規制の実施に協力を求めることができ
たものと認められる。
     ④ 次に,被告は,通行規制を実施する業者の連絡先事務所に作業人員が常時待機しているわ
けでもないと主張するが,本件事故は,平日の通常の勤務時間内の出来事であり,当日は9時ころから1
3時ころまで時間雨量20㎜前後の雨が降り続いていたから(時間雨量10~20㎜は,前記の解説表では
「ザーザーと降る」である。),戸外での土木・建設作業は行われなかったものと推測され,通行止め実施
の際の作業員となることのできる勤務者(管理職など)が会社事務所にいた可能性は高いというべきであ
り,7時15分に大雨注意報,13時30分に大雨警報が発表されている状況下において,L建設業協力会
災害対策班の副本部長であるN建設の事務所に勤務者が全くいなかったということはなかなか想像し難
いことであり,N建設の事務所に人がいなかったという事実を窺わせるに足りる証拠もないから(実際に
は,本件事故当日,N建設は現実に通行止めの作業をしている。弁論の全趣旨),この主張は,首肯し難
いといわざるを得ない。
     ⑤ 次に,被告は,仮に最初に連絡されかつ作業員が直ぐに作業に取りかかる態勢ができていた
としても,通行規制実施業者が通行規制実施の連絡をうけた後,現地でバリケード設置等を行うまでに
は,バリケードや土嚢等の資材の積込みや現地に到達する時間等を考慮すると,最低でも10~15分程
度の時間はかかると考えられると主張する。
       しかし,仙石原地区にあるM建設株式会社のE(本件事故当日,13時55分ころ所用のため車
で会社を出発し,14時05分ころ正照橋を通過した後,本件規制区間内にある宮城野橋上側で出水を確
認し,予定を変更して本件規制区間の東端である宮の下交差点から会社に戻ることとし,そこから県道,
主要地方道を経由して強羅,大湧三叉路,湖尻(芦ノ湖の北端),仙石,乙女峠の順で道路状況をパトロ
ールし,15時00分~15時05分に帰社し,同社専務取締役Fから災害発生のあった正照橋へチェーンソ
ーとユニック車を手配して行くよう指示を受け,小田原土木事務所に災害発生の連絡をした後,直ちに会
社から800m離れた場所にある同社の資材センターに赴き,15時10分ころに同資材センターを出発し,
15時15分ころ仙石原交差点から東方約800mに位置する品ノ木のガソリンスタンド前で交通規制を行
い,その後,15時20分ころ正照橋に到着したが,大量の土砂を除去するために大型ダンプとタイヤロー
ダーが必要であると判断し,同社の資材センターに引き返してこれを手配し,直ちに正照橋に戻り,15時
30分ころから作業を開始した。乙35,36)は,小田原土木事務所から交通規制をするのにどの位の時
間がかかるかを質問されて「異常時の即応体制が普段からできているため,電話連絡し,品ノ木ガソリン
スタンド前で交通規制をするのに10分位で作業を終えることができます。」と答えており(乙36),同社事
務所(地図によると仙石原交差点から道路距離で約100mの場所にある。)から資材センターまでの距離
及び同交差点から品ノ木ガソリンスタンド前までの距離を考慮すると,災害時の通行止めのためにはかな
り迅速に行動することができ,また,通行止めをした箇所に交通整理のため部下1名を配置するなど災害
防止の意識も高いものと推認される。
       前記の仙石原交差点で道路情報板操作をし,通行止めを実施することが予定されていた1級
情報モニターのJの勤務するN建設の所在地は,仙石原218番地であり,同交差点から比較的近い場所
にある(地図からはN建設株式会社の事務所から同交差点まで道路距離で300m程度と認められる。)。
そして,同社においても普段から異常時のための即応体制を整えていた可能性は大きいものと推測され
(同社からM建設へ協力を依頼することも可能と思われる。),したがって,激しい降雨の中での作業であ
ることを考慮しても,急げば3~4分程度で同交差点において通行止めの作業を開始することができた可
能性が相当程度あったものということができる。
    (ウ) このように検討してくると,前示のとおり,14時28分に14時20分における直前1時間の時間
雨量63㎜を認識することができてから,仙石原交差点で通行止めの作業が開始されるまでに5分程度の
時間しかかからなかった可能性は否定することができず,そうすると,小田原土木事務所において,10分
毎に直前1時間の時間雨量を確認してこれを直ちに道路管理者に報告する態勢が整っていて,正時毎で
はなく10分毎に時間雨量を確認して通行規制の措置が執られていたならば,Dの運転する本件車両が
仙石原交差点に至った時点で,既に通行止めの作業が開始され,そして,Dが本件規制区間に進入しな
かったことがあり得たことを否定することはできないこととなる。
  (2)ア しかし,現実には,本件道路の管理者は,14時00分における連続雨量144㎜,同時点の直前
1時間の時間雨量39㎜及びそれまでの連続雨量及び時間雨量の推移から1時間以内に200㎜を超え
る降雨があるとは考えず,その段階(14時08分以降と認められる。)で,「10分毎のデータを報告する必
要はない,15時のデータで判断する」と判断したのであり,この段階で,本件事故発生前には通行規制
は実施されないことが確実になった。
   イ(ア) これについて,被告は,小田原土木事務所の本館及び水防室に設置された雨量テレメータデ
ータ表示盤は,1時間毎の正時における時間雨量及び連続雨量のデータを表示するものであったから,
本件道路管理者は,原則として各雨量観測所における正時の観測値をもとに1時間単位で通行規制をす
るか否かを判断しており,ただし,正時における連続雨量が規制基準の200㎜に近づき,1時間以内に
規制基準を超えることが予想される場合には,本件道路管理者は,水防室に勤務する職員に対し,10分
単位でテレメーター雨量観測データ(印刷機により連続的に印字されたもの)を読み取って報告するよう指
示し,その報告を受けて通行規制の実施を判断する体制をとっていた,そのような体制の下で,上記の1
5時00分におけるデータで通行規制を実施するか否かを決定することにした本件道路管理者の判断は,
14時00分までの連続雨量及び時間雨量の推移に基づくものであり,その推移により14時から1時間以
内に連続雨量200㎜を超える降雨があると判断することはできなかったのであるから,妥当なものであっ
たと主張する。
    (イ) 確かに,前記のとおり,小田原土木事務所の本館及び水防室に設置された雨量テレメータデ
ータ表示盤(標示盤)は,1時間毎の正時における時間雨量及び連続雨量のデータを表示するものである
ことが認められ(乙68),10分毎の時間雨量又は連続雨量を表示するようにすることはできないのかもし
れないし,本件道路管理者がいた小田原土木事務所では,13時20分から13時30分にかけて及び13
時40分から13時50分にかけてそれぞれ10分間雨量8㎜を記録するかなり強い降雨があったものの,1
4時00分から14時10分の間は10分間雨量2㎜であり,その後もそれほど強い降雨はなく,14時20分
から14時30分の間はほとんど降雨がなかったことが認められ,また,13時10分に小田原土木事務所
を出発した道路パトロールが正照橋を通過したのは14時00分ころで,本件規制区間を走行中はかなり
激しい雨であったことが認められるが,そこから直ちに明神ヶ岳観測所での降雨量を推測することは困難
であろうし,その後のパトロール経路の途中においてどの程度の降雨を体験していたかは不明であり(標
高が低い場所においても標高1169mの明神ヶ岳にある観測所の観測値と同程度の降雨があったものと
は断定できない。),通行規制との関係で通行規制基準である降雨量について道路管理者に注意を促す
連絡などをした事実は認められず,さらに,土砂崩れによる災害防止との関係においては,時間雨量より
は連続雨量をより重視するのも一応常識的なところであると考えられ,何よりも時間雨量104㎜という前
例のない激しい降雨になると予測することは困難であることからは,毎正時ごとに通行規制の実施を検討
する体制のもとにおいて,15時00分に通行規制を実施するか否か決すればよいと判断したとしても,と
りあえずは無理もないことといえるのかもしれない。
    (ウ) しかし,雨量テレメータによって10分毎の降雨量を把握することができた以上,データ表示盤
が毎正時毎の連続雨量と時間雨量を表示するように設定されていたからといって,そのことから正時にお
ける連続雨量が規制基準の200㎜に近づき1時間以内に規制基準を超えることが予想される場合にの
み10分毎の降雨量データにより通行規制の実施を判断する体制をとっていたことが当然である又は合
理的であるとはいい難いのであり(「1時間以内に規制基準を超えることが予想される場合」を想定してい
るのは,10分毎の観測値を把握することが実際に期待し難いものではないことを前提としているのでは
ないかと考えられる。),明神ヶ岳観測所の降雨量は,10分間雨量が13時40分から13時50分までが9
㎜,13時50分から14時00分までが10㎜と増加してきており,これを単純に6倍して時間雨量を予測す
ると,それぞれ54㎜と60㎜であり,通行規制基準である時間雨量50㎜を超えるような激しい降雨が20
分間継続していることが分かるのであり,大雨警報発表により厳重な警戒態勢をとり,10分毎にデータの
報告を受けることが可能でそれが全く不要であるとは考えられない状況において,14時10分の10分間
雨量13㎜を確認することなく,15時00分の観測値が判明するまでは10分毎のデータの報告は不要で,
通行規制を実施するか否かも考慮しないと判断したことは,時期尚早で慎重さを欠いたと非難されてもや
むを得ないものであるといわざるを得ない。
    (エ)① 被告は,時間雨量は毎正時における時間雨量として把握されていたのであり,10分毎にそ
の直前1時間の時間雨量として把握されていなかった,10分毎にその直前1時間の時間雨量を把握する
ことは実際上は期待し難いことであったと主張する。確かに,雨量テレメータの観測値として時間雨量の
欄に印字されるのは毎正時のものだけであり,10分毎にその直前1時間の時間雨量は印字されないシ
ステムであり,これを10分毎の直前1時間の時間雨量が印字されるようなシステムに変更することはでき
ないのかもしれないし,10分毎に手作業によりその直前1時間の時間雨量を計算するのは煩瑣で人手も
かかり,更に計算間違いをする可能性もあるから複数の者が確認・検算する必要も生じることにもなり,
更にその結果を迅速かつ正確に他の職員に伝達する方法も工夫しなければならず,異常気象による警
戒態勢時に通常時と異なる臨時の役割分担を定めて組織的に対応している立場からは,機械で明確に
打ち出され,かつ,データ表示盤に表示された数値によって通行規制をすることにしたほうが確実であり,
そのほうがほとんどの場合は結果的に慎重で正確な判断になる確率が高くなるということは一応は首肯
し得るところであると考えられる。
     ② しかし,通行規制要領の内容からは,通行規制基準としての時間雨量が毎正時における時
間雨量に限られ,かつ,それによって通行規制の実施を決定すれば足りるとの趣旨であるとは解されず,
雨量テレメータによって実際に10分毎の降雨量を観測することができ(連続雨量は記録紙に印字される
観測値から10分毎に判断すべきものと考えられていることが明らかである。),かつ,手作業によって10
分毎にその直前1時間の時間雨量を計算することは煩瑣で手間がかかるが,それを行うものとして事務
分担と必要な具体的な手順を定めれば現実に実行することは十分に可能であると考えられること(他にこ
れに優先し人員と手間を要する緊急の仕事が多くあって,当時の人員配置とそのうち4名が道路パトロー
ルに出ている状況の下で到底そのような作業は不可能であったことを窺わせる主張・立証はない。)に加
え,予断を許さない異常気象時においては通行規制基準に達したことを可能な限り早くリアルタイムに近
い時間間隔で把握し,それに従って直ちに通行規制を実施する必要性が何よりも高いことは容易に否定
し得ないところであることからは,10分毎の連続雨量の観測とともに10分毎の直前1時間の時間雨量の
観測をするものとするのが合理的であり,かつ,より道路行政の趣旨・目的に沿うものであるといわざるを
得ない。したがって,上記①の被告の主張をそのまま認めることはできない。
   ウ 以上から,本件道路管理者が14時00分までの連続雨量及び時間雨量の推移に基づいて14時
00分から1時間以内に連続雨量200㎜を超える降雨があると判断することはできなかったとしても,15
時00分の連続雨量によって通行規制を実施すると判断したことは,その判断時点から1時間以内の極め
て近い将来の降雨量を合理的な理由なく予測し(それまでの降雨量の推移から何故その後の降雨量が
正確に予測できるのか,その点についての説明はされていない。),しかも,特段の理由なく通行規制基
準として連続雨量にしか注意を払わず,道路法46条1項1号の「交通が危険であると認められる場合」と
の要件の存否を通行規制基準として定められた連続雨量又は時間雨量によって認識しようとせず,10分
毎のその直前1時間の連続雨量を考慮しなかった点において非難を免れ難く,このような通行規制基準
の運用は,通行規制基準を定め,それに従って通行規制を実施して事故発生を予防するという本来の制
度運用の趣旨に沿わないものであり,この点において本件道路の管理に瑕疵があったものというべきで
ある。
  (3)ア ところで,原告は,本件道路管理者においては,土石流の発生を次の①~⑤の各時点で予見
することが可能であったから,その時点で通行止めの実施をしなかったことは,道路管理の瑕疵に該当す
るとも主張する。
     ① 平成3年8月20日5時から14時00分までの明神ヶ岳観測所での降雨量の合計が144㎜に
達した時点
     ② 遅くとも,同日13時30分ころ,大雨・洪水警報が出された時点すなわち山地部で1時間雨量
60㎜以上,3時間雨量100㎜以上,24時間雨量250㎜以上が予想された時点
     ③ 同日午後から十分な巡回・監視活動を行い,土砂崩れ等の徴候を発見し得た時点
     ④ 前記のEが宮城野橋上側で出水を確認した14時10分ころ
     ⑤ 木賀の桟道付近で土砂流出があった14時30分ころ
   イ しかし,上記④については,証拠(乙70)及び既に認定したところにより,また,上記⑤について
は,証拠(乙71)により,いずれもこれらの各時点で本件道路管理者がこれらの各事実の報告を受けた
事実は認められず,その時点で土石流の発生を予見すべき理由はない。また,上記①,②の各時点にお
いて,明神ヶ岳観測所での降雨量観測値が14時20分に時間雨量50㎜を超え,14時30分に連続雨量
が193㎜となって更に激しい降雨が続き,本件規制区間内で土石流が発生すること又は発生の危険が
生じること若しくは単に本件規制区間で土石流が発生し又は発生する危険が生じることを具体的に予見
することは不可能であるというほかなく,この主張も理由がない。上記③についても,現実に行われた道
路パトロール(この方法が不適当であったと認めるに足りる証拠は全くない。)の状況からは,到底採用し
得ない主張である。
   ウ(ア) 原告は,通行規制基準として連続雨量200㎜又は時間雨量50㎜と設定していること自体が
道路の管理の瑕疵に当たるとも主張している。
    (イ) 確かに,前示のとおり,本件土石流が14時35分~14時40分に発生したとすると,明神ヶ岳
観測所での連続雨量が14時30分で193㎜,14時40分では213㎜であったから,このデータを打ち出
すのに要する時間約8分を考慮すると,連続雨量200㎜を確認してから通行規制を実施したとしても,本
件事故を防止することはできなかったのであり,このことだけからは通行規制基準の連続雨量を200㎜と
することに問題があるようにも思われる。
    (ウ) しかし,証拠(甲35の1~3,37,41~49,乙6,12,19の15~17,20,26,20,43の1~6,4
5,67,鑑定)及び弁論の全趣旨によれば,昭和47年に本件規制区間について通行規制基準として前
記の観測値が採用されてから本件事故に至るまでの間,本件規制区間内で本件土石流のように連続雨
量200㎜近くで大規模な土砂流出が発生したことはなく,また,本件事故当日の14時から15時までのよ
うに時間雨量104㎜という降雨量があったこともなく,このような降雨を予見することは困難であったこと,
静岡市その他で設定されている本件規制区間の通行規制基準より少ない降雨量による通行規制基準
は,過去の土砂崩れ発生事例等から崩壊しやすい地質・地形であるとして定められたものと推認され,本
件規制区間での過去の災害事例からは別の地域における基準を採用すべき特別の事情は見当たらない
こと,本件の通行規制基準は全国的に採用されている数値であり,この通行規制基準の設定について意
見を述べる立場にある関係警察署や関係市町村から異議が述べられたこともないこと,以上が認めら
れ,これと道路のもつ強い公共的性格及びそれに基づく道路法46条1項1号の趣旨を併せ考えると,本
件規制区間の通行規制基準として連続雨量200㎜又は時間雨量50㎜としたことが道路管理の瑕疵に
あたるとすることはできない。なお,時間雨量50㎜については,これを厳格に運用した場合に本件事故の
発生を防止できた可能性があったことは,前示のとおりである。
エ 原告は,テレメーター表示盤に10分毎のリアルタイムで時間雨量及び連続雨量が表示されるよう
にしておけば,迅速に通行規制実施の決定が可能であったのに,それがされなかったのは道路管理の瑕
疵であると主張する。確かに,テレメーター表示盤に10分毎のリアルタイムで時間雨量及び連続雨量が
表示されるようにすることは望ましいことかもしれないが,このこと自体と本件事故の発生とは関係がない
ことが明らかである。これは,平成3年8月当時における降雨量観測システムに使用されている機械の機
能の問題であり,平成3年当時の科学技術水準からみて,リアルタイムで時間雨量と連続雨量を表示で
きないシステムが古くなりすぎて到底使用目的の実現・遂行のために有効に働かない状態にあったとか,
リアルタイムで降雨量を表示するシステムを整備・構築することが可能であり,かつ現実にそのようなシス
テムが全国的に採用されて稼働していたにもかかわらず小田原土木事務所にはそのようなシステムが設
置されていなかったという事情がない限り,採用し難いものであるが,そのような事情は認められない。
   オ 原告は,本件道路管理者において,現実に常に連続雨量200㎜又は時間雨量50㎜の基準で
通行規制をしていなかったという疑問があり,道路管理に瑕疵があると主張するが,この事実を認めるに
足りる証拠はない。
 3 本件道路の管理の瑕疵と被告の賠償責任について
  (1) 前示のとおり,本件規制区間の通行規制の実施について,15時の観測値によって決定すると判
断し,14時20分時点の直前1時間の時間雨量によって通行規制が実施されるような体制がとられてい
なかったこと,ひいては14時20分時点での直前1時間の時間雨量63㎜に基づいて通行規制が実施さ
れなかったのは,本件道路の管理の瑕疵であったというべきであるが,しかし,本件事故がすべてこの管
理の瑕疵によって発生したといい得るかは,また別の問題である。
  (2) 既に検討したように,14時20分での連続雨量が14時28分までにデータとして印字で打ち出され
てから,そのデータから計算して時間雨量が50㎜を超えたことを確認し,通行規制実施の決定がされ,こ
れが1級情報モニターであるJに連絡され,同人において仙石原交差点で通行止めの作業を開始するま
でに要する合計時間が実際にどれほどかかるかは,緊急事態に即応することができるように警戒態勢が
とられていたとしても,結局は明確に認定することはできないのであり,また,本件事故の発生時刻が14
時35分ころから14時40分ころと不確定であることが最大の原因となって,仮に14時28分に通行止め
実施の決定がされていたとしても,Dの運転する本件車両が仙石原交差点に至る前に実際に通行止めの
作業が開始されていたかについて,確定的な判断をすることは到底できない。前に指摘したとおり,仮に
本件事故の発生が14時35分であれば,本件車両が仙石原交差点を通過する時刻は14時29分前後で
あったと考えられ(この点も本件車両の走行速度が正確に判るわけではないので,明確に認定することは
不可能である。),その場合は通行止めが間に合わなかった可能性は極めて高く,このような場合は,本
件事故が発生した原因が前記の道路管理の瑕疵であるということはできないのである。
  (3) しかし,前示のとおり,14時20分での直前1時間の時間雨量によって通行規制の実施が決定さ
れていたとすれば,本件事故を未然に防止し得た可能性のあることは否定することができないのであり,
なによりも本件事故の発生時刻を明確に立証することが,事柄の性質上極めて困難であることを考慮す
ると,不法行為法における損害の公平な分担の理念から,本件のような事例においては,例えば,前示
の道路管理の瑕疵と本件事故との間の相当因果関係の存在について原告に厳格な立証の責任を負わ
せることとしたり,あるいは,逆に前示のような道路管理の瑕疵があった以上,本件事故の回避可能性が
全くなかったことについて被告に立証の責任を負わせることとするなど,ある事柄について一方当事者に
ほとんど完全に立証の責任を負担させるべきものとし,それによって賠償責任の存否を決することは相当
ではないというべきである。そして,ひるがえって考えると,本件規制区間の通行規制基準の設定自体に
は瑕疵がないことは前示のとおりであるが,本件事故は,結局,これまで観測したことがない異常な降雨
により通行規制基準である時間雨量50㎜を超えてから間もなく本件土石流が発生したことと前示の道路
管理の瑕疵が競合して発生したものとみるのが相当なところであり,そうすると,基本的には,前示のよう
な道路管理の瑕疵によって本件事故が発生したものとして被告の賠償責任を肯定せざるを得ないが,し
かし,他方,本件事故が発生したのは,極めて異常な降雨により本件土石流が通行規制基準である時間
雨量50㎜を超えて間もなく発生したことが原因になっている部分も非常に大きいのであり,その部分につ
いては被告に賠償責任を負わせることは相当ではないから,賠償額はそれに伴って大きく減額されるべ
きである。そして,その減額の割合は,これまで検討してきた諸事情を総合的に考慮すると90%とするの
が相当である。
 4 損害額について
  (1)ア 逸失利益 1億2983万8688円
     証拠(甲3,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,Dの平成2年の年収は,1245万0251円
であったことが認められる。なお,将来30%の増収があったとの主張については,これを認めるに足りる
十分な証拠はない。そうすると,Dの逸失利益は,次のとおり算出される。
     1245万0251円×0.7{=1-0.3(生活費控除)}×14.898(67歳まで28年間に対応する
ライプニッツ係数)≒1億2983万8688円
   イ 葬儀費用 100万円
     本件事故と相当因果関係にある損害として,上記金額が認められる。
   ウ 慰謝料 2400万円
死亡慰謝料としては上記金額が相当である。
   エ 物損(車両全損) 170万円
     弁論の全趣旨により,中古車価格として上記金額を損害として認めるのが相当である。
   オ 上記ア~エの合計は,1億5653万8688円となる。
(2) 前示のとおり,被告が賠償すべき金額は,上記1億5653万8688円からその90%に相当する金
額を差し引いた残額1565万3868円となる。
    弁護士費用は,157万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害であるとするのが相当で
あり,これを上記の金額に加算すると,合計は,1722万3868円となる。
 原告Aはこの1722万3868円の損害賠償請求権の2分の1,原告B及び原告Cは各4分の1をそ
れぞれ相続によって取得したから,原告Aは861万1934円,原告B及び原告Cはそれぞれ430万596
7円及びこれらの金額に対する本件事故の日である平成3年8月20日から支払済みまで民法所定年5分
の割合による遅延損害金の支払を被告に求める権利がある。
   よって,主文のとおり判決する。仮執行の宣言は,相当ではないからこれを付さないこととする。
    横浜地方裁判所小田原支部民事部
        裁判長裁判官   加   藤   謙   一
            裁判官   石   栗   正   子
    裁判官達野ゆきは転補のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官   加   藤   謙   一

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