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平成11年(ワ)第23945号 特許権に基づく損害賠償請求事件
平成13年11月12日口頭弁論終結
判         決
原      告   アルゼ株式会社
訴訟代理人弁護士升 永 英 俊
同松 本   司
同大 島 崇 志
同   戸 田   泉
訴訟復代理人弁護士江 口 雄一郎
同荒 井 裕 樹
同上 山   浩
補佐人弁理士  廣 瀬 邦 夫
被      告    サミー株式会社
訴訟代理人弁護士   牧   義 行
同近 藤 義 徳
同飯 田 秀 郷
同栗 宇 一 樹
同秋 野 卓 生
同早稲本 和 徳
同久保田   伸
同七 字 賢 彦
補佐人弁理士  米 山 淑 幸
同黒 田 博 道
被告補助参加人     日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士   島 田 康 男
補佐人弁理士  紺 野 正 幸
主         文
1 被告は,原告に対し,74億1668万円及びこれに対する平成11年10
月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担と
する。
4 この判決は1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,100億6685万9000円及びこれに対する平成
11年10月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は,後記特許権を有する原告が,被告に対し,被告の製造・販売する製品
は,原告の特許権の技術的範囲に属するとして,損害賠償の支払を求めている事案
である。
1 争いのない事実
  (1) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。な
お,本件特許権は,ユニバーサル販売株式会社がもと保有していたが,同社は,原
告(当時の商号は株式会社ユニバーサルテクノス)に吸収合併された。
ア特許番号第1855980号
発明の名称スロットマシン
出願年月日  昭和63年3月18日
出願公告年月日 平成5年10月18日
登録年月日平成6年7月7日
イ上記特許権に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。
本判決末尾添付の特許公報(以下「本件公報」という。)参照)の特許請求の範囲
請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許発明」とい
う。)。
     「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応
じて停止するように制御する制御装置を備えたスロットマシンにおいて,前記制御
装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム回数分,前記乱数値
に応じた停止制御を中止するように構成したことを特徴とするスロットマシン。」
  (2) 上記発明の構成要件を分説すれば,次のとおりである(以下,それぞれを
「構成要件A」のようにいう。)。
A 表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリールを乱数値に応じ
て停止するように制御する制御装置を備えている
B 前記制御装置は遊技中特定の条件が達成された時には予め定めたゲーム
回数分,前記乱数値に応じた停止制御を中止する
C スロットマシン
  (3) 被告は,別紙被告製品目録記載のイ号物件及びロ号物件(以下,併せて
「被告製品」と総称する。)を,業として製造・販売している。イ号物件及びロ号
物件の構成は,それぞれ別紙イ号物件及びロ号物件説明書記載のとおりである。
(4) 被告は,平成10年3月からイ号物件を少なくとも3万4000台,同年
11月からロ号物件を少なくとも9000台販売した。
(5) 被告補助参加人は,パチンコ型スロットマシン(以下「パチスロ機」とい
う。)をめぐる特許権等の知的財産権(以下「特許権等」という。)の管理につい
て,いわゆるパテント・プール方式による管理を行っていた。これは,特許権等の
保有者が,その保有する特許権等を,被告補助参加人に対し,多数のパチスロ機製
造業者への再実施許諾権付きで,実施許諾するというものである。そして,再実施
許諾を受けた業者からの実施料の徴収は,被告補助参加人により発行された証紙
を,パチスロ機製造業者が製造台数分購入して,パチスロ機に貼付するという方法
によりされていた。
  特許権等の保有者と被告補助参加人との間では,再実施許諾の特約がつい
た実施許諾契約書(以下,年度を特定せず「契約書」という。)が取り交わされて
おり,契約書には,特許権等の番号や名称が記載された目録が添付されている。被
告補助参加人とパチスロ機製造業者との間では,契約書は作成されず,製造業者が
被告補助参加人から証紙を購入することによって,再実施許諾がなされたものとみ
なされる。
  原告は,少なくともその保有する特許権等の一部について,被告補助参加
人との間で再実施権付与特約付きの実施許諾契約を締結していた。そして,原告と
被告補助参加人との間の平成8年4月1日作成の契約書(対象期間は平成8年4月
1日から平成9年3月31日。甲18)の目録には,本件特許権は記載されていな
い。
2 争点
(1) 被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属し,同製品の製造・販売が本件
特許権を侵害するか。なかでも,
ア 被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち,被告製品がリー
ルを乱数値に応じて停止するように制御しているか(争点1)。
イ 被告製品が構成要件Bを充足するかどうか(争点2)。
(2) 本件特許権に無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか(争点
3)。
(3) 原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し,被告は被告補助参加人
から再実施許諾を受けたか(争点4)。
(4) 原告の損害等(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち,被告製品が
リールを乱数値に応じて停止するように制御しているか)について
(1) 原告の主張
ア 乱数値に応じた停止制御とは,4コマ制御(当選絵柄の引込処理及び不
当選絵柄の回避処理を,ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄から最大4コ
マ滑る範囲内で行う制御をいう。)を前提にした乱数値に応じた停止制御をいうも
ので,いかなる場合も当選役が必ず成立しなければならないとする制御ではない。
イ 4コマ制御を前提にした乱数値に応じた停止制御は,本件特許権の出願
前,本件特許発明が属する技術分野で周知・慣用となっている技術であり,本件明
細書にも記載されている(本件公報7欄21行~26行及び第2図)し,特開昭5
9-186580号公報(甲10)にも記載されている(引込処理につき同公報(6)
頁,回避処理(蹴飛ばし処理ともいう。)につき同公報(9)頁)。
ウ 遊技機の認定及び型式の検定等に関する国家公安委員会規則(昭和60
年2月12日国家公安委員会規則第4号。以下「遊技機規則」という。)6条別表
第5の例えば(1)(ヘ)「回胴の回転は,回転停止装置を作動させるためのボタン‥
(中略)‥を操作した後,190ms以内に停止するものであること」などの規定
は,4コマ制御を前提にしたものである。
エ 被告製品の充足性
(ア) 例えば,イ号物件の通常ゲーム(後記チャレンジタイム中以外の一般
遊技。以下「通常ゲーム」という。)の低確率の場合で説明すると(別紙イ号物件説
明書の第3図-2参照),
① 13168~16247の乱数が抽出されてバルタン星人役に当選
すると,バルタン星人役に入賞するか,4コマ制御があるため外れとなる。他の入
賞役は成立しない。
② 他の入賞役についても上記と同じである。
③ 0~10808の乱数が抽出されると,ストップボタンをどのよう
なタイミングで押しても,どの役にも入賞することはない。
(イ) 上記はロ号物件でも同様である。すなわち,被告製品の通常ゲーム
時では,抽出された乱数に対応する特定の入賞役のみが成立する。外れの乱数が抽
出されたときは外れとなり,他の入賞役は成立しない(不当選絵柄の禁則処理)。
(ウ) よって,被告製品の通常ゲームでのリールの停止制御は,構成要件
Aを充足する。
(2) 被告の主張
被告製品においては,乱数値に基づく抽選の結果に応じたリールの停止が
行われる場合と行われない場合がある。抽選によって当たり役があることになった
場合(この結果に基づいて,一義的にこの役が必ず発生するのであれば,乱数値に
基づく抽選の結果に応じてリールを停止する制御をしていることになるが)であっ
ても,ストップボタンの操作のタイミングによっては,当たった役が成立しないこ
とがある(このときは,乱数値に基づく抽選の結果に応じてリールを停止していな
い。)。したがって,被告製品は,構成要件Aを充足しない。
2 争点2(被告製品は構成要件Bを充足するか)について
(1) 原告の主張
ア 「遊技中特定の条件が達成された時」について
被告製品は,通常ゲームにおいてビッグチャンス(以下「BC」とい
う。通常ゲーム中に出るボーナスで,「7」等の所定の絵柄が揃う(入賞する)
と,まず所定枚数のメダルの払出しがあり,一般入賞及びボーナスインの確率が高
められた最高30回の一般遊技において,最高3回又は2回のレギュラーボーナス
が行える役。ビッグボーナスともいう。)に当選し,かつチャレンジタイム(以下
「CT」という。一定の条件下で,すべてのリールもしくは一部のリールを無制御
にして遊技者の停止ボタンの操作によって一定の役を揃えることができる遊技を行
えるようにして,遊技者がより技量を発揮できるようにしたゲーム。甲7)突入に
も当選した後,イ号物件では「赤7」絵柄の三つ揃いの達成,BCゲームの終了の
後,自動的にCTが開始し,ロ号物件では「赤7」又は「黄7」絵柄の三つ揃いの
達成,BCゲームの終了,擬似抽選(各種演出用ランプ類が点滅し,効果音出力用
スピーカから効果音が鳴るなどして,遊技者にはあたかもCTに突入するか否かを
抽選しているように見せること。実際には,CTに突入するか否かは,既にそれ以
前の段階で決定されているので,真実の抽選ではない。)の後,自動的に
CTが開始する。
上記は本件特許発明の「遊技中特定の条件が達成された時」を充足す
る。
イ 「前記乱数値に応じた停止制御を中止」について
(ア) 「乱数値に応じた停止制御を中止する」の意義は,リールの停止位
置を,遊技者による停止操作のタイミングで決定することをいう。すなわち,被告
製品でいうと引込処理をしないこと,又は引込処理も回避処理もしないことであ
る。
そのことは,本件明細書に「本発明のスロットマシンにおいては,特
定の条件が達成されてリールの停止制御が中止されている間,回転しているリール
の停止位置は遊技者の停止操作のタイミングで決定されるので,熟練者と非熟練者
との間に差が生ずる。」(本件公報3欄11行~15行)と記載されていることか
らも,明らかである。
(イ) 被告製品の作動
例えば,イ号物件のCT複合役(別紙イ号及びロ号物件説明書のフロ
ー図における符号Aのルートをいう。複合役とは,同時に2種類の役が成立したも
のをいう。)における各リールの停止で説明すると,通常ゲームと異なり,0~1
4024の乱数範囲(以下「CT複合役の範囲」という。ロ号物件においては,0~
14051の乱数範囲)において,
① 第1リール(1番目にストップボタンを押したリール。以下,同趣旨
で第2リール,第3リールという。)については,いかなる絵柄の引込制御も回避
制御もされず,ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりする。
② 第2リールについても,第1リールと同じく,ストップボタンを押
した時点の最短停止絵柄で即止まりする。
③ 第3リールについては,いかなる絵柄の引込制御も一切されず,B
C及び「リプレイ」(以下「RP」という。コインを投入しなくても,次ゲームを今
回のゲームと同じ賭け枚数で行えるという役をいう。)のいずれかの入賞絵柄の完成
を阻止する以外は,「バルタン星人」,「レッドキング」,「黒オビチェリー」,
「チェリー」の以上の一般入賞絵柄に対する回避制御も一切されない。
(ウ) 通常ゲームとの比較
① CT複合役の範囲においては,当選か外れかの区別はなく,通常ゲ
ームでは「外れ」となる範囲の乱数が抽出されても,「チェリー」,「黒オビチェ
リー」,「レッドキング」,「バルタン星人」の一般入賞絵柄に対する回避制御は
一切されず,これらいずれの一般入賞役の単独又は一定の重複的な入賞も許され
る。
② さらに,通常ゲームの「バルタン星人」,「レッドキング」,「黒
オビチェリー」,「チェリー」の各当選範囲の大きさに相当する乱数範囲は,すべ
てCT複合役の範囲に組み入れられ,同様に「バルタン星人」,「レッドキン
グ」,「黒オビチェリー」,「チェリー」のいずれの一般入賞役の単独又は一定の
重複的な入賞も許される。
例えば,別紙イ号物件説明書の第3図-2において,13500と
いう乱数が抽出された場合,通常ゲームの低確率時はバルタン星人役の当選という
ことでバルタン星人役のみの成立を許し,バルタン星人役以外の入賞の成立を回避
する。また,通常ゲームの高確率時はチェリー役の当選ということでチェリー役の
みの成立を許し,チェリー役以外の入賞の成立を回避する。
ところがCT中は,バルタン星人役でも,レッドキング役でも,黒
オビチェリー役でも,チェリー役でもいずれの一般入賞役の単独又は一定の重複的
な入賞も許される。
(エ) 例外
① CT複合役の乱数値が抽出された場合の例外(例外aという。)
前記のようにCT複合役の範囲の乱数値(0~14024)が抽出
された場合であっても,第2リールの停止までにBC(「赤7」,「青7」)及び
RP(「ウルトラマン倶楽部」)のいずれかの絵柄がテンパイ(リールを2個停止さ
せた時点で何らかの絵柄が有効ライン上に2つ揃っていること。三つ揃いとなって
入賞する手前の状態をいう。)した場合,第3リールの停止においてストップボタ
ンを押したタイミングで該リールを停止させると上記各入賞役が成立してしまうと
きには,該リールを原則1コマ分滑らせて,該入賞役の成立を回避する。
この回避制御が働くのは,9261通り(1リール21絵柄の3リー
ル分の組合せ(21×21×21))の全停止操作タイミングのうち,3枚賭け条件
下で550通りにすぎない。
② RP当選時の例外(例外bという。)
14139~16383の範囲の乱数が抽出されてRPに当選する
と,全リールにおいて通常時と同じRP役のみの成立を許す引込制御とRP役以外
の入賞の成立を回避する制御がされる。
③ なお,14025~14138の範囲の乱数が抽出されてBC役に
当選すると,当選ゲームにおいて全リールは通常時と同じBC役のみの成立を許す
引込制御とBC役以外の入賞の成立を回避する制御がされるが,この乱数が抽出さ
れたBCゲーム当選以降,CTは終了するため,このケースはCT中のリール停止
制御の例外には該当しない。
④ 以上の例外a及びbは,いずれもCT中も遊技機規則を遵守するた
めに生じたものである。すなわち,まず例外bについては,風俗営業等の規制及び
業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条1項は,「この法律
において『風俗営業』とは,次の各号のいずれかに該当する営業をいう。」と規定
した上で,同項7号において「まあじやん屋,ぱちんこ屋その他設備を設けて客に
射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業」を掲げている。
そして,同項7号に規定する営業については,同法4条4項におい
て「第2条第1号第7号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)に
ついては,公安委員会は,当該営業に係る営業所に設置される遊技機が著しく客の
射幸心をそそるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める基準に該当す
るものであるときは,当該営業を許可しないことができる。」と規定されている。
平成2年8月31日改正の遊技機規則(国家公安委員会規則第6号)は,上記「著
しく客の射幸心をそそるおそれがある」遊技機の例示として,「1分間におおむね
400円の遊技料金に相当する数を超える数の遊技メダルを使用して遊技をさせる
ことができる性能を有する遊技機」との基準を盛り込んでいる。コイン1枚は20
円であり(同規則29条2ロ),1分間におおむね400円程度(コイン20枚)
の消費に抑えるには,1ゲームで最大枚数である3枚投入することを前提にし,か
つ払出枚数を加味すると1分間12ゲーム程度のゲーム回数に抑える必要がある。
ところが平成4年から現在まで製造されるようになったゲーム機(4号機とい
う。)になる前から,1ゲームの最短遊技時間(消費時間)が4.1秒と
されていたため,最も早く遊技すると,1分間では最大14ゲーム程度消化される
ことになり,400円で可能なゲーム回数を超え,400円以上投資しないと1分
間遊技できなくなる。そこで,1分間に2回の割合,すなわち約7ゲームに1回程
度再遊技役(RP)を設け,1分間で12ゲーム分のコイン(400円)しか消費
できないようにしたのである。
次に,例外aについては,BCは遊技機規則別表第5(1)ホ(役物連
続作動増加装置(BC)の性能に関する規格)及び同表第5(1)ヘ(ロ)「役物連続作
動増加装置以外の役物の作動を容易にするための特別の装置を設けないものである
こと」との規定を満足すべきことから,所定の低い当選確率を堅持する必要がある
から,前記のような例外とされている。
(オ) 上記要件の充足性
前記例外a及びbがあっても,
① 前記のとおり,0~14024の,CT複合役の広い乱数範囲にお
いて,第1,第2リールの停止については必ずストップボタンを押した時点の最短
停止絵柄で即止まりし,第3リールの停止については,いかなる絵柄の引込制御も
されず,しかも,RP及びBCを除く一般入賞絵柄に対する回避制御もされず,ス
トップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりするのが基本となる。
すなわち,第1~第3の全リールが無制御となり,全リールがスト
ップボタンを押したら即停止するのが基本である。
② 第3リールの停止において即止まりせずに,RP,BCのいずれか
の絵柄に対して回避制御が働くのは,9261通りの全停止操作タイミングのう
ち,550通りと少ない。しかも,RPとBCについてはCT中に遊技者が自由に
揃えることができないことは,各種攻略雑誌等により遊技者に周知徹底されてお
り,初めから揃うはずもないこれら役を敢えて揃えようとする者は考えにくい。つ
まり,実際の遊技では上記回避制御が働くケースは極めて少なく,現実は「全リー
ルが無制御となり,全リールがストップボタンを押したら即停止する」ということ
ができる。
③ このことは,被告自身,イ号物件リーフレットに「CT中は打ち方
によって獲得枚数大幅アップ!全リール無制御でねらい打ち可能。(ボーナス・リプ
レイ図柄を除く)」と,また,ロ号物件リーフレットでも「CT中は全てのリールが
ボタンを押したら即停止する。」と各説明しているとおりである。
④ よって,被告物件のリールの停止は,本件発明の構成要件Bの「前
記乱数値に応じた停止制御を中止」を充足する。
ウ 「予め定めたゲーム回数分」について
(ア) 意義
この要件は,そのゲーム回数分が必ずしも連続している必要はないと
いうべきである。その理由は,乱数値に応じた停止制御をして平等性を図る通常ゲ
ームと,これを中止して技術介入性を図る特定条件が達成されたときを分ける意味
でゲーム回数が規定されているにすぎないからである。本件明細書には,次のよう
に記載されている。
「本発明のスロットマシンにおいては,特定の条件が達成されてリー
ルの停止制御が中止されている間,回転しているリールの停止位置は遊技者による
停止操作のタイミングで決定されるので,熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。
すなわち,遊技者の熟練度に応じた結果となり,熟練者にとってはコイン取得率が
若干高くなってゲ一ムの魅力が増す。一方,熟練者でない者にとっても,ある一定
のコイン取得率は確保されるので,魅力がそがれることはない。また,上記の停止
制御を複数のリールの一部についてのみ中止し,他のリールに対しては一定の停止
制御を行うことにより,熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとなる。」
(本件公報3欄11行~24行)
「熟練者にとっては,ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られて
ゲームの魅力が向上する一方,熟練者でない者にとっても,ある一定のコインの払
い出し率が確保される。これにより,技術介入性と平等性が調和して各遊技者の熟
練度に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行~27行)
(イ) 被告製品のゲーム回数と充足性
例えば,イ号物件で説明すると,CTゲームは予め99ゲームで終了
するように設定されているが,そのうち,RP役に対応する乱数が抽出されたゲー
ムを除くと,その「予め定めたゲーム回数分」とは,85.4回である。
よって,被告製品は,構成要件Bの「予め定めたゲーム回数分」を充
足する。
エ 作用効果
(ア) 本件特許発明の作用効果
本件明細書には,次のように記載されている。
① 作用
「本発明のスロットマシンにおいては,特定の条件が達成されてリ
ールの停止制御が中止されている間,回転しているリールの停止位置は遊技者によ
る停止操作のタイミングで決定されるので,熟練者と非熟練者との間に差が生ず
る。すなわち,遊技者の熟練度に応じた結果となり,熟練者にとってはコイン取得
率が若干高くなってゲームの魅力が増す。一方,熟練者でない者にとっても,ある
一定のコイン獲得率は確保されるので,魅力がそがれることはない。また,上記の
停止制御を複数のリールの一部についてのみ中止し,他のリールに対しては一定の
停止制御を行うことにより,熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとな
る。」(本件公報3欄11行~24行)
② 効果
「熟練者にとっては,ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られ
てゲームの魅力が向上する一方,熟練者でない者にとっても,ある一定のコインの
払い出し率が確保される。これにより,技術介入性と平等性が調和して各遊技者の
熟練度に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行~27
行)
(イ) 被告製品の作用効果
① 被告製品はCT複合役の範囲では,第1,第2リールは必ず即止ま
りし,第3リールは原則即止まりすることにより,熟練者は配当の大きな役の絵柄
(イ号物件では「黒オビチェリー」や「レッドキング」,ロ号物件では「JAPAN」や
「赤7-JAPAN-JAPAN」)をねらい打ちし,うまくその入賞を勝ち取って獲得メダルを
増やすことができ,非熟練者に差をつけることができる。
そして,たとえ風営法上の要請により,前記イ(エ)の例外があった
としても,熟練者が享受し得る上記CT中の技術介入性による利点が損なわれるも
のではない。
② 上記作用効果は,日本電動式遊技機工業協同組合(以下「日電協」と
いう。)より警察庁生活安全局生活環境課宛の文書(甲7)の「1 概要」において,
CTの作用効果について,「これにチャレンジタイム(CTと称します。)という
遊技者がより技量を発揮できる新しい方式を採用させていただきたい。この方式の
発生条件は,役物連続動作増加装置(BB)の作動終了等3ヶ所を契機として,す
べての回胴,若しくは一部の回胴を無制御にして遊技者の停止ボタンの操作によっ
てBB,役物連続作動装置(RB),役物(SB)及び再遊技以外の入賞図柄を有
効ライン上に揃えることができる遊技をおこなえるものであります。そして,この
終了の条件は,次のBBに当選した場合等3ヶ所といたします。」と記載されてい
るとおりである。
(ウ) よって,イ号物件及びロ号物件のいずれも,通常時の平等性とCT
時の技術介入性を調和させたパチスロ機であって,本件特許発明の作用効果を奏す
るものである。
(2) 被告及び被告補助参加人の主張
ア 以下では,
符号C (別紙イ号物件説明書及び同ロ号物件説明書のフロー図にお
ける符号をいう。以下同じ。)通常ゲーム中で当たり
符号D 通常ゲーム中,抽選ではずれ
の場合における制御を「制御Ⅰ」という。
他方,
符号B CTゲーム中,BC又はRPに該当
符号A CTゲーム中,BC又はRP以外に該当
の場合における制御を「制御Ⅱ」という。
イ 被告製品においては,制御Ⅰ,Ⅱのいずれの場合を問わず,
① 乱数値が取得され,
② 当該乱数値がRAMに記憶され,
③ 乱数値がRAMから読み出され,
④ 抽選が行われ,
⑤ 抽選結果に基づき絵柄が「停止制御用絵柄データ」として記憶され,
⑥ ストップボタンが押された時点で,前記記憶された「停止制御用絵柄
データ」に基づき,停止絵柄候補が選択され,「停止可能/不可フラグ用データ」
に記憶され,
⑦ 「停止可能/不可フラグ用データ」中から停止絵柄が決定され,
⑧ 停止絵柄がRAMに記憶され,
⑨ 各リール停止処理
⑩ 全部のリールが停止するまで,⑥ないし⑨を繰り返す処理
という制御を常に行っているから,被告製品がいずれも構成要件Bを充足
しないことが明らかである。
ウ 原告は,被告製品において,制御Ⅱの場合が,「遊技中特定の条件が達
成された時」に該当すると主張する。しかし,制御Ⅰ及び制御Ⅱは同一の制御であ
るから,仮に制御Ⅱが何らかの理由によって「前記乱数値に応じた停止制御」であ
るとしても,制御Ⅱにおいてはいかなる意味においても「前記乱数値に応じた停止
制御」の中止をしていない。
エ 「制御」について
原告が(1)で主張する「前記乱数値に応じた停止制御」は,「当選絵柄の
引込処理及び不当選絵柄の回避処理をストップボタンを押した時点の最短停止絵柄
から最大4コマ滑る範囲内で行うという内容を実現したい」という単なる目的を述
べているにすぎない。このような目的に適合するように,対象となっているスロッ
トマシンに一定の操作を加え,当該目的に適合する状態を保持させることが「制
御」である。換言すれば,構成要件Aにおける「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を
表示する複数のリールを乱数値に応じて停止するように制御する」という表現によ
って特定される「制御」は,その目的は「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示す
る複数のリールを乱数値に応じて停止するようにすること」であって,かかる目的
に適合するようにスロットマシンを操作することが,当該特定された「制御」とい
うことになる。そしてこの「制御」は,具体的な方法としては何ら特定されていな
いから,かかる目的に適合するようなあらゆる制御方法が,この制御に該当するこ
とになる。
原告は,構成要件Bの「前記乱数値に応じた停止制御を中止」の解釈
を,「リールの停止位置は,遊技者による停止操作のタイミングで決定すること」
と主張するが,これは,上記「表示窓内にそれぞれ所定の図柄を表示する複数のリ
ールを乱数値に応じて停止するように制御する」ことを中止することの結果,すな
わち本件特許発明の効果そのものであって,「中止」そのものを特定するものでな
い。また,同じく原告の主張する「被告製品でいうと,絵柄抽選によって当選した
絵柄を表示窓の所定位置に停止させ(引込処理)ようとしないこと,又はこのよう
な絵柄抽選によって当選した絵柄を表示窓の所定位置に停止させ(引込処理)よう
としないこととともに絵柄抽選によって当選しなかった絵柄を表示窓の所定位置に
停止させないこと(回避処理)もしないこと」は,明らかに目的を指称しているに
すぎない。
原告は,被告製品が,「ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で
即止まりするのが基本である」から,「前記乱数値に応じた停止制御を中止」して
いると主張するが,これは発明の効果が同一であれば,その構成も同一であると主
張していることであり,論外である。
オ 制御Ⅱにおけるフロー図Aの場合,第1リール又は第2リールは,乱数
値の結果である「停止制御用絵柄データ」に基づき,停止絵柄候補が選択され,
「停止絵柄候補中から最小移動による停止絵柄決定」(A310-3)によって処
理され,各リールが停止処理されるのである。その結果,あたかも原告が主張す
る,いわゆる「即止め」又は「目押し」を実現したかのような様相を呈する場合が
あるが(このような様相を呈することを目的として制御しているということもでき
る。),そのような場合であっても,実際は,他の場合と全く同様の制御系統でリ
ールを停止させているにすぎないのである。
なお,「各リール停止処理」(A312等)では,絵柄が正しく正面を
向いて停止することと,RAMに記憶された停止絵柄で停止することの2つの処理
を行っている。RAMに記憶された停止絵柄に対応するときには,その位置で停止
パルスを出力して停止させる。また,RAMに記憶された停止絵柄でないときに
は,次の絵柄が正しく正面を向いているタイミングで停止絵柄か否かを順次判断す
る。そして,停止絵柄であるときには,停止パルスを出力して停止させる。このよ
うに,制御ⅡのAの場合でも,「乱数値に応じた停止制御」を他の場合と全く同様
に行っていることが明らかである。
カ よって,被告製品はいずれも構成要件Bを充足しない。
3 争点3(本件特許権に無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか)に
ついて
(1) 被告の主張
ア 本件特許発明には新規性がなく,明らかな無効事由が存するから,本件
特許権に基づく権利行使は権利の濫用である。
イ 実開昭60-37380号公報には,次のような構成の特徴を有する考
案が記載されている。
a 表示窓内にそれぞれ所定の絵柄を表示する3個のリールを備え,通常
ゲームにおいて,第1,第2の2個のリールを,乱数発生器によるランダム値に応
じて停止するように制御する制御装置を備えたスロットマシンである。
b1 前記制御装置は遊技中,例えば表示窓内の入賞ラインに絵柄「ピエ
ロ」が3個並ぶような特定の条件が達成されると副次的ゲーム(ボーナスゲーム)
が予め決定された回数分行われ,その後は通常ゲームに戻る。
b2 前記ボーナスゲームにおいては,第1,第2リールは回転しないか
ら,乱数発生器によるランダム値に応じてリールを停止しようとする制御装置は作
動しない。第3リールは遊技者が第3リールストップボタンを操作して任意停止を
する。
c スロットマシンである。
ウ 前記公開公報の考案の構成の特徴と本件特許発明の構成要件との対比
(ア) 前記考案の構成の特徴aは,本件特許発明の構成要件Aと同一であ
る。
(イ) 前記考案の構成の特徴b1及びb2は,本件特許発明の構成要件B
と同一である。ボーナスゲーム中は,制御装置が作動しないから,第1,第2リー
ルに関する停止制御をすることはなく,停止制御を中止することに相当する。
(ウ) 前記考案の構成の特徴cは,本件特許発明の構成要件Cと同一であ
る。
したがって,前記考案の構成の特徴と,本件特許発明の構成要件とは同
一であり,本件特許発明の構成の全部が,前記考案に開示されていることは明らか
である。よって,本件特許発明には新規性がなく,明らかな無効事由が存する。
(2) 原告の主張
本件特許発明は,少なくとも「複数のリール」,「乱数値」,「乱数値に
応じた停止制御を中止」の構成に関し,前記公開公報の考案と相違している。
ア 「乱数値」について
前記考案においては,「通常ゲーム」時(ここにいう「通常ゲーム」
は,前記考案にいう「ボーナスゲーム」に対応する「通常ゲーム」であって,「C
T」に対応する「通常ゲーム」ではない。),第1,第2リールの停止に乱数値が
関与しているが,その乱数値は,2個のリールを駆動するパルスモータのそれぞれ
の自動停止に用いる2個の乱数値である。さらに,前記公開公報の考案では,第
1,第2リールが接続されているモータ制御部は乱数発生器に接続されているが,
第3リールのモータ制御部は乱数発生器に接続されていないので,「通常ゲーム」
時には,入賞を決定する3本のリールのうちの2本のリール(第1,第2リール)
についてだけ,それも別々の独立した2つの乱数値に応じて自動停止の位置が決定
され,しかも第3リールは,常に乱数値とは無関係に停止される。
これに対し,本件特許発明の乱数値は,入賞判定用の乱数値,すなわち
どの入賞を許し又は外れにするかという,3個のリールの各停止絵柄を決めるもの
であり,前記考案の乱数値とは全く性質の異なるものである。
イ 「複数のリール」について
前記考案には,「通常ゲーム」時,3個のリールのうちの2個のリール
についてのみ乱数値に応じて停止するように制御する制御装置が開示されている。
これに対し,本件特許発明は,入賞を決定するリールすべてを乱数値に応じて停止
するように制御する制御装置を備えており,前記考案とは異なる。
ウ 「乱数値に応じた停止制御を中止」について
前記考案における停止制御の中止は,「ボーナスゲーム」時,第3リー
ルのみ回転し,第1,第2リールは初めから回転しないというものである。被告
は,この点を捉え,これが本件特許発明における「前記乱数値に応じた停止制御を
中止」することに相当すると主張する。しかし,このような構成では,技術介入性
を発揮させることはできない。本件特許発明の構成要件Bにおける「前記乱数値に
応じた停止制御を中止」は,構成要件Aの平等性と対比される技術介入性を達成す
るために,どの入賞を許し又は外れにするかを乱数値に応じて決めていた処理を中
止し,熟練者が腕前を発揮できるようにしたものであるから,前記考案とは全く性
質の異なるものである。
したがって,本件特許発明の構成は前記考案には開示されておらず,前記
考案の存在によって本件特許発明の新規性がないことにはならない。
4 争点4(原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し,被告は被告補助
参加人から再実施許諾を受けたか)について
(1) 被告及び被告補助参加人の主張(仮定抗弁)
原告は,本件特許権につき,被告補助参加人に対し,再実施許諾権付き実
施権許諾契約を締結し,被告補助参加人は同契約に基づき,被告に対し本件特許権
の実施を再許諾したから,被告が本件特許権を実施しているとしても,適法な実施
である。
ア 被告補助参加人は,パチスロ機業界において,特許権等の工業所有権を
保有する者から再実施許諾権付与特約付きで実施許諾を得て,同業界の製造業者に
対して有償で再実施許諾して,その実施料を特許権等の保有者に還元することを業
とする会社である。
現在のパチスロ機の基になるスロットマシンは昭和52年ころ登場し,
風営法の認可の下で登場したのは昭和55年ころであるが,そのころから,パチス
ロ機製造業者の間で,特許権,実用新案権をめぐる紛争が頻発した。そのため,業
界におけるその種の紛争を調整するために,昭和59年3月に現在の被告補助参加
人代表者であるAを代表者とする日本電動遊技機特許株式会社(後に,日本電動特
許株式会社と商号変更)が設立された。その後,同種の業務を行う会社として,平
成2年3月には警察庁出身のBを代表者とする全国回胴遊技機特許株式会社が,そ
の2年後には現在の原告代表者であるC(以下「C」という。)を代表者とする電
動式特許株式会社がそれぞれ設立されたため,一時は同業3社が鼎立した。この3
社がパチスロ機製造業界における上記のような紛争の調整を行ったがうまくいか
ず,かえって3社が主導権争いを演じることになり,混乱した。このような状態を
解消するために被告補助参加人が設立され,特許権等の管理を行う会社を被告補助
参加人に一本化することとして,3社は解散した。被告補助参加人には,それまで
の上記3社に参加していたパチスロ機製造業者が概ね参加し,原告も,
40株を出資して被告補助参加人の株主となった。Cも被告補助参加人の取締役と
なった。
イ パチスロ機をめぐる特許権等の管理について被告補助参加人の行う方法
は,いわゆるパテント・プール方式というもので,特許権等の保有者が,その保有
する特許権等を,被告補助参加人に対し,多数のパチスロ機製造業者への再実施許
諾権付きで実施許諾するというものである。そして,再実施許諾を受けた業者から
の実施料の徴収は,遊技機に貼付する証紙を被告補助参加人が発行し,パチスロ機
製造業者が製造台数分の証紙を購入するという方法によりされていた。この方法
は,従前の3社で行われていた方法と同じである。Cが代表者を務めていた電動式
特許株式会社においても同様の方法が採られていた。この証紙の代金1枚2000
円から,1000円を実施料として,特許権等の保有者の側に,特許権等の使用状
況を考慮して支払う。特許権等の保有者の側に支払われる実施料の額は,再実施許
諾の対象となる特許権等の個数に応じて算定されている。
ウ 実施許諾の対象となる特許権等は,出願中のもの及び将来登録されるも
のも含め,特許権等の保有者が有するすべての知的財産権である。このことを明確
に記載した原告と被告補助参加人との間の契約書は存在しないが,以下のとおり,
当事者双方及び関係者とも,このことを当然の前提として行動している。
① 合意書(丙13)
特許会社一本化に先だって,日本電動特許株式会社(代表者は現在の
被告補助参加人代表者)と全国回胴遊技機特許株式会社(代表者B)との間で交わ
された合意書である。1項には,日本電動特許と全国回胴遊技機特許は,各自が所
有又は管理する工業所有権に関する諸権利(特許権,実用新案権,商標権その他一
切の権利であって,出願中のもの及び将来登録されるものを含む。)について,こ
れらを相互に利用し,自由に実施することができることが合意されている。また,
3項には,日本電動特許及び全国回胴遊技機特許に参加する各社は,それぞれ日本
電動特許又は全国回胴遊技機特許の発行する従前の証紙を貼ることにより,両社の
管理する特許権等を自由に使用し実施することができる旨合意されている(合意書
3項)。
② 「特許会社一元化に関する合意書」(丙14)
従来の特許会社3社の一本化に当たっては,原告及びCは,パチスロ
機製造業者の団体である日電協の代表世話人として「特許会社一元化に関する合意
書」に署名するとともに,電動式特許株式会社の代表取締役として署名している。
③ 発起人会議事録(丙15)
Cは,被告補助参加人の発起人として,同社の設立に中心的役割を果
たしている。
発起人会議事録によれば,被告補助参加人への一元化において,特許
権等の保有者,特許管理会社及び参加各社の相互関係並びに対象となる特許権等の
範囲について,従来の方法,範囲を格別変更することは行われていない。したがっ
て,対象となる特許権等の範囲は,現在登録されているものの他,出願中のもの及
び将来登録されるものを含むものである。
④原告発行の「新株式発行並びに株式売出届出目論見書」(丙10)
同目論見書には,「第3 事業の概況等に関する特別記載事項 2.保
有工業所有権の管理について
当社及びパチスロ機メーカーの多くは,日本電動式遊技機工業協同組
合(以下『日電協』という。)に加入しております。日電協の組合員は,自社保有
工業所有権の管理運用を,日本電動式遊技機特許㈱(以下『日電特許』という。)
にて行い,その工業所有権の使用については,日電特許との間で実施許諾に関する
契約書を締結したメーカーに認めることになっております。」(8頁)との記載が
ある。
⑤記者会見における発言(丙11)
丙11は,Cが,パチスロ機業界の業界紙の記者を招いて開いた記者
会見(以下「本件記者会見」という。)における録音テープを,原告が反訳したもの
である(以下「反訳書」という。)。
Cは,本件記者会見において,日電特許による特許の管理運営につい
ての質問に対して,次のように答えている。
「もう,管理運営は任せていません。」,「日電特許が許諾を受け
て,再許諾を各メーカーにやっていったというのは,過去の流れなんです。ですか
ら,平成9年度までの実績の中では,そういうことがあったということです。」
(反訳書3頁1行~4行)
「日電特許という存在があるから,誤解をしているんだと思います。
あそこに入っていると,パテントの問題はクリアになるんだと。仲間意識みたいな
形で,あの存在があるんです。」,「以前はそのとおりだったんです。その延長上
からきているということは,多少影響し合っているとは思います。」(反訳書13
頁20行~24行)
⑥ 弁護士松本司の高砂電器産業株式会社宛の書面(丙28)
同弁護士は,別件東京地方裁判所平成12年(ワ)第3701号事件
(実施料(証紙購入代金のこと)返還請求訴訟)及び本件における原告アルゼの訴
訟代理人である。丙28の日付は平成9年5月21日であり,その記載内容に照ら
して,同弁護士が原告の代理人として作成し,高砂電器産業に宛てたものである
が,その中には,「従いまして,実施許諾を受ける会社は,従来どおり,すべての
権利の実施が可能で,1台あたり合計2000円の実施料を支払うという,従来の
方法と全く変更はないことになります。また,証紙も実施料の徴収も日電特許がす
るのですから,実際上は変化はありません。」との記載がある。
また,丙30は原告が被告その他の実施許諾契約を結んでいた各社に
送りつけた「通常実施権設定暫定契約書案」であり,丙29はそれに付されていた
書面であるが,これらを参照すると,丙28の上記記載から,本件におけるパテン
トプール方式による実施許諾契約関係において,実施許諾の対象とされている特許
権等は,特許権等の保有者の有する特許権,実用新案権,商標権,その他一切の権
利で,出願中のもの及び将来登録されるものを含むものであることは明白であり,
その契約関係形成の目的に照らしても,本件における実施許諾契約関係における参
加者全員(少なくとも本件原告を含む。)が了解していたものである。
エ 原告は,実施許諾の対象は,被告補助参加人と原告との間に締結されて
いる契約書に添付されている工業所有権等目録に記載された権利に限定されると主
張するが,誤りである。
被告補助参加人と原告との間において作成されている契約書に添付され
ている特許権等の目録は,証紙代金2000円のうち1000円を特許権等の保有
者に案分して支払うにつき,算定の対象として基礎ポイントを与えられた特許権等
を掲げたものにすぎず,実施許諾の対象を目録記載の特許権等に限定するものでは
ない。したがって,各年度によって変更があるのは当然である。従前実施されてい
た特許権等(技術)であっても,機種が変更されれば,実施されなくなるというこ
とはあるのであり,同様に,機種の変更に伴って,従来実施されていなかった特許
権等(技術)が,新たに実施されるようになることもあるのである。それに伴っ
て,案分金額算定の対象となる特許権等も変更されるのである。
オ 本件特許権は,昭和63年3月18日に出願され,平成5年10月18
日に公告,平成6年7月7日に登録されている。原告が,本件特許発明が各パチス
ロ機製造業者(再実施権者)によって実施されているから案分額算定の対象とする
ようにとの申入れをしたのは,平成7年7月であるから(丙20,21),平成6年
3月31日付けの契約書(対象期間は平成6年4月1日~平成7年3月31日。甲
19),及び平成8年3月29日付けの契約書(同じく平成7年4月1日~平成8
年3月31日。甲20)の目録に記載されていないのは,当然といえる。
また,本件特許権は,平成5年10月18日に出願公告されているので
あるから,その時点で被告補助参加人に申入れをすることは可能だったはずである
が,原告がそれをしなかったのは,各製造業者の製造販売する機種が本件特許発明
を実施するものでないことを知っていたからである。同様に,平成6年7月7日に
登録されているから,その時に申入れをすることもできたはずであるが,原告は,
各製造業者の製造販売する機種が本件特許発明を実施するものでないことを知って
いたので,申入れをしなかったのである。平成7年7月に上記申入れをしたのは,
そのころ各製造業者の製造販売する機種が変更され,原告が,本件特許発明を実施
しているといえるのではないかと考えたからである。しかしながら,各製造業者
は,その製造販売する機種に本件特許発明を実施しているとは認めず,案分実施料
算定の対象とすることに同意しなかった。そこで,被告補助参加人も案分実施料算
定の対象としないことにし,原告もこれに同意した。したがって,平成8年4月1
日付けの契約書(対象期間は平成8年4月1日~平成9年3月31日。甲18)添
付の目録には,本件特許権が記載されていないのである。
原告が平成8年4月1日付けの契約書において,本件特許権を案分実施
料算定の対象としないことに同意していたことは,同契約書に基づいて算定された
同期間分の案分実施料の支払を受領していることからも明白である。さらに,本件
特許権を案分実施料算定の対象としていない平成9年4月1日~平成10年3月3
1日の期間についても,原告は,本件実施許諾契約関係が終了したと主張しなが
ら,案分による実施料を受領している。
カ 平成9年初めころから,原告代表者が,パテントプール方式を解消し
て,参加メーカーと特許権等の保有者との個別契約によることを主張し始め,同年
6月11日の被告補助参加人の取締役会,同月18日の株主総会でもこの件が話し
合われたが,話はまとまらなかった。それで原告は,パテントプール方式の終了を
主張して,特許権侵害訴訟を次々提起しており,本件もその一つである。
(2) 原告の主張
原告は,本件特許権を実施許諾していない。
ア 実施許諾をした特許権等の範囲は,原告と被告補助参加人の間の実施許
諾契約書(甲18)とその添付の目録により一義的に定まる。同契約書1条1項に
は,「甲(原告。ただし,旧商号)は乙(被告補助参加人)に対して,別紙目録記
載の工業所有権等について,本契約の条項に従い通常実施権を許諾する。」と定め
られており,これがすべてである。
イ 仮に,本件特許権も実施許諾の対象に含まれるとすると,本件特許権に
抵触する機種は,平成10年3月に初めて市場に登場したので,本件実施契約締結
日よりも2年も前に,将来新たに開発するかもしれないパチスロ機が抵触するかも
しれない特許につき,原告と被告補助参加人が実施許諾契約を締結することにな
る。そして,被告補助参加人が,原告に対し,将来使うかどうかわからない特許権
等について,実施料を1台当たり509円という具体的な額で定め,その支払を合
意したことになるが,このようなことはきわめて不自然である。
ウ 原告は,パチスロ機に関するもの以外にも多数の工業所有権等を有して
おり,これらが明確な合意によらずすべて実施許諾の対象となるというのでは,プ
ロパテントの時代に逆行する。
5 争点5(原告の損害等)について
(1) 原告の主張
原告は,次のとおり,特許法102条1項に基づき損害賠償を求める。
ア 被告製品の販売台数
被告による被告製品の販売台数が合計4万3000台であることに,争
いはない。
イ 原告の実施能力
被告による被告製品の総販売台数は前記のとおり4万3000台であ
る。原告の平成10年4月1日~平成11年3月31日の事業年度のパチスロ機総
製造販売台数は27万6928台である。被告の被告製品の総販売台数は,原告の
パチスロ機総製造販売台数の15.5%にすぎないので,原告は,被告製品の総販
売台数につき実施能力を有する。
ウ 単位数量当たりの利益の額
 (1) 原告の商品の販売価格
 本件において,特許法102条1項にいう「特許権者が当該侵害がな
ければ販売することができた物」は,本件特許発明の実施品であるところの原告の
商品「ウルフエムX」(以下「原告商品ウルフ」という。)及び「チェリー12
X」(以下「原告商品チェリー」といい,両者を併せて「原告商品」と総称す
る。)である。
 原告商品ウルフの平均販売価格は33万3632円,原告商品チェリ
ーのそれは33万5264円である。これは,両商品の全製造台数から算定したも
のである。両商品の平均販売価格は,33万4267円である。
(2,201×333,632+1,403×335,264)÷(2,201+1,403)=334,267
 (2) 変動経費
 特許法102条1項の「利益」は,限界利益を指すと解すべきである
から,変動経費のみが売上金額から控除されるべきである。
 ① 製造原価
 原告商品ウルフの製造原価は9万1463円,原告商品チェリーの
それは8万8983円である。その平均製造原価は9万0498円である。
(2,201×91,463+1,403×88,983)÷(2,201+1,403)≒90,498
 ② 広告宣伝費
 原告商品ウルフ及び同チェリーの各機種について費やされた販売促
進物品の費用は,それぞれ180万2000円である。1台当たりの金額は100
0円である。
(1,802,000+1,802,000)÷(2,201+1,403)=1,000
 ③ 販売費
 人件費については,営業部門の人件費のうち,「販売インセンティ
ブ」のみが変動経費に該当する。その金額は,原告の損益計算書によれば,10億
6531万8328円である。
  そのほか,変動費である経費としては,販売手数料と運搬費があ
り,その金額は,原告の損益計算書によれば,それぞれ4億2309万0784円
と9820万9793円である。販売手数料は原告が直販する場合にのみ生じる費
用である。また,販売されたパチスロ機の運送費は,購入者たるパチンコホールが
負担するので,運搬費には含まれていない。
 これらを,原告の総売上中,原告商品ウルフ及びBの売上げの占め
る割合で除すると,1台当たりの金額は,5291円である。
(1,065,318,328+423,090,784+98,209,793)×(334,267×3,604÷
100,240,715,186)÷3,604≒5,291
 ④ ロイヤリティ
 ロイヤリティは,いずれも1台当たり日電協証紙代1365円,日
電特許証紙代2000円で,合計3365円である。
上記①ないし④を合計すると,変動費たる経費の合計は,1台当た
り,10万0154円となる。
(3) 1台当たりの利益の額
上記の金額を前提として「単位数量当たりの利益の額」を計算すると,
原告商品ウルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額は平均23万4113円と
なる。
334,267-100,154=234,113
エ 損害額
以上によれば,原告の損害額は,少なくとも100億6685万900
0円となる。
234,113(円)×43,000(台)=10,066,859,000
(2) 被告及び被告補助参加人の主張
ア 原告の生産能力
平成6年以降,パチスロ機の市場は急速に拡大しており,原告の生産実
績も平成9年度以降,急伸していた(詳細は被告準備書面(16)を参照。)。当時原
告の生産能力は,年間24万台で,平成11年7月の新工場稼働開始により36万
台に増加する予定であった。原告の生産実績は,平成10年度には既に生産能力を
超えた27万7102台であって,平成9年から10年にかけては既に飽和状態で
あったのであり,新工場の稼働開始による生産能力の増強によっても,パチスロ機
遊技場の拡大に伴う増産に追いつくのがせい一杯で,それ以上の余力はなかった。
しかも,原告は,CT機がすべて本件特許発明の技術的範囲に属すると主張するの
であるが,市場において販売されたCT機は,原告の生産能力をはるかに超えてお
り,これを原告が肩代わりすることは不可能であった。したがって,被告の譲渡し
た数量は,原告の実施の能力を超えており,原告はこの分を自己の損害として賠償
を求めることはできない。
イ 原告の販売能力
仮に,原告が平成10年ころパチスロ機を増産する能力を有していたと
しても,当時の原告のパチスロ機の市場占有率は約40%であったから,被告製品
の販売数量のうち,原告が販売することができたのはそのシェア分とすべきであ
る。
ウ 単位数量当たりの利益の額
(ア) 特許法102条1項の「利益」は,限界利益でなく,純利益を指す
と解すべきである。特許法102条1項及びその基礎となる民法709条は,現実
に被った損害を賠償せしめるものであるところ,特許法102条1項は権利者の逸
失利益相当損害額の立証を容易にするにとどまり,何ら制裁的意味を持つものでな
い。権利者の本来の逸失利益相当損害額は,必要経費を控除した純利益なのであ
り,これ以上の金額の賠償を請求できる理由はない。学説上も純利益説が通説であ
る。
(イ) 仮に限界利益説を採るとしても,人件費が変動経費に組み入れられ
ていないのは誤りである。
 (ウ) 原告の主張する各費目について
 ① 平均販売価格について
 原告商品ウルフ及び同チェリーの平均販売価格を立証する書証とし
て原告が提出する証拠(甲27,28,38,39)を分析すると,別表1のとお
り,原告商品ウルフでは代行店価格が直販価格より7万2571円も低いのに対
し,原告商品チェリーでは逆に代行店価格が直販価格より1万1974円も高いこ
とになる。代理店に販売する場合には,直販価格よりも低廉にならざるを得ないか
ら,原告商品チェリーのそれは不自然である。
 ② 変動経費について
 a 開発費について
 原告は,原告商品ウルフ及び同チェリーについて,開発費を変動
経費に含めていない。しかし,パチスロ機においては,キャラクターの採否,音響
効果,基本仕様実現のためのプログラミング,市場調査等主として当該製品に独自
のゲーム性を付与するための企画・設計・実施に要する費用である開発費の多寡が
売上げの多寡を決定付けるものであるので,多額の開発費を要する。被告製品にお
いてもイ号物件では約4600万円,ロ号物件では約2900万円の開発費を投入
している。原告においても,原告商品ウルフ及び同チェリーについて,多額の開発
費を投入しているはずであるから,これを算入すべきである。
 b 製造原価について
 原告商品ウルフ及び同チェリーの製造原価については不明である
から争う。ちなみに,被告製品の平均製造原価は10万2638円である。
 c 広告宣伝費
 原告の損益計算書によれば,平成10年度(1998年度)にお
ける原告の広告宣伝費は,10億1652万6928円であり,これを全製造台数
27万6928台で除すれば,1台当たり広告宣伝費は3670円となる。少なく
ともこの金額が変動費として控除されるべきである。
 ③ 変動費の上昇
上記のとおり,原告は被告の譲渡数量を生産し販売する能力を有し
ておらず,これを原告の損害とすることができないというべきであるが,仮に,原
告が被告の譲渡数量を生産し販売する能力を有するとしても,実際に生産する際に
は,増産数量に見合った労務費,設備費の上昇は避けられず,販売に際しては販売
手数料,販売奨励金が上昇することが確実である。原告の総製造販売台数全体の変
動経費は明らかでないが,仮に製品の売上単価及び変動費比率が均一であると仮定
すれば,少なくとも原告の総製造販売台数の変動経費を基礎として15.5%の変
動費上昇が認められるべきである。
エ 特許法102条1項ただし書の主張①(原告の市場占有率)
上記のとおり,仮に原告が平成10年ころパチスロ機を増産する能力を
有していたとしても,被告製品の販売数量のうち,原告が販売することができたの
は当時の原告のシェア分40%というべきである。よって,特許法102条1項た
だし書により,その60%を減ずるべきである。
オ 特許法102条1項ただし書の主張②(原告のCT機企画開発力)
また,同時期に販売されたCT機の中で,別表2のように,原告商品ウ
ルフ及び同チェリーの台数は極めて少なく,被告製品の後記のような特徴も有して
いない。このことは原告がこの種パチスロ機の商品企画力を有していなかったこと
を裏付けるのであって,この点からも,原告のCT機の市場占有率を超える譲渡数
量は,原告において販売することができなかったというべきである。
すなわち,パチスロ機の顧客誘因力は,視覚的魅力(起用されるキャラ
クター,絵柄配置等),聴覚的魅力(ゲーム中に流れる音楽,効果音等),大量メ
ダル獲得可能性(基本スペック等)等の複合的な要因によって決定付けられるもの
であり,CT機であることは,それら多数の要因のうちの1つにすぎない。これら
要因は,実際にゲームを行いあるいは雑誌を介してプレイヤーに認知されるもので
あるところ,同一シリーズの機種であることあるいは当該機種がある機種の後継機
であることは,上記要因に関する顧客の認知を容易にする。
(ア) イ号物件の特徴
① ヒット機種と同様の人気キャラクターを使用したこと
イ号物件は,人気機種であった被告製パチスロ機「ウルトラセブ
ン」の後継機種であり,同機種と同様のキャラクターを使用して顧客認知度を高め
たことが販売台数の増加につながった。
② リール絵柄が見やすく目押ししやすいこと
イ号物件は,1リール絵柄のみで入賞となる当たり役に見やすい絵
柄(黒帯チェリー)を採用してメダルの獲得を容易にし,顧客ニーズに応えたこと
で販売台数の増加につながった。
③ 大当たり予告(リーチ目)が多様でわかりやすいこと
イ号物件は,大当たり予告(リーチ目)が約2000通りあり,前
記「ウルトラセブン」で好評を博したわかりやすいリーチ目を含めたことも販売台
数の増加につながった。
④ 大量メダル獲得可能な機種であったこと
イ号物件は,大量のメダル獲得を可能にする基本仕様を有してお
り,CT機の比較において1位にランクされるなどその仕様について高い評価を得
ていた。
(イ) ロ号物件の特徴
① イ号物件の後継機種であること
ロ号物件は,被告のCT機第二弾であり,人気機種であったイ号物
件と同様のキャラクターを使用していないものの,その後継機種として顧客の期待
度,認知度が高かった。
② 視聴覚的演出を工夫したこと
ロ号物件は,サウンドとリールバックライトの演出に工夫を凝ら
し,Dの「2億4千万の瞳」のメロディーを使用し,洗練されたゲーム性を実現し
たことも評価されている。
カ 集団的契約関係論に基づく主張
原告,被告補助参加人及び被告補助参加人に参加している各製造業者に
よる集団的契約関係は現在も存続している。特許権等の保有者は,被告補助参加人
との実施許諾契約に基づきその所有する特許権等について案分実施料を支払うよう
に請求できるのであり,話し合いがまとまらなかった場合は,裁判所に各製造業者
が当該特許権を実施しているかの判断を求め,案分実施料を支払うように求めるこ
とができるというべきである。各製造業者が当該特許権を実施しているということ
になれば,当該特許権について案分実施料の支払を請求することができるのであ
る。
本件特許権についても同様である。本件特許権が各製造業者によって実
施されているということになれば,本件特許権を案分実施料算定の対象とするべき
だったということになるのである。
本件においては,仮に被告製品が本件特許権に抵触するものであって
も,本件における集団的契約関係の下においては,実施許諾契約に基づいて特許権
等の保有者に支払われる案分実施料を得ることができるだけである。同契約関係の
下において支払われる案分実施料が契約関係外において支払われる実施許諾料より
も低廉であるとしても,自己の意思により契約関係を形成した以上,その約定に従
うのは契約法上当然である。契約関係にありながら契約外の基準による支払を求め
るのは失当である。また,本件実施許諾契約関係の下において,原告に案分実施料
を支払うのは被告補助参加人である。
したがって原告は,被告補助参加人に対して本件特許権の分の案分実施
料の支払を求め得るにとどまる。被告に損害賠償を求めるのは失当である。
キ 権利濫用
また,上記実施許諾契約関係の下においては,原告が,同契約関係にお
いて請求可能である案分実施料を超えて,特許法102条1項に基づき損害賠償を
請求することは権利濫用に当たるというべきである。
(3) 原告の再反論
被告は,特許法102条1項ただし書の主張として,パチスロ機の顧客誘
因力は複合的な要因によって形成されるものであり,CT機であることはそれらの
要因のうちの1つにすぎないという。
ア しかし,CT機は本件特許権を実施しなければ実現不可能な機種である
から,被告製品に対する需要は,本件特許権の実施により初めて充たされる。そう
であれば,被告製品の譲渡数量は本件特許権の実施により初めて可能となった譲渡
数量であり,本件においては,侵害物件につき譲渡数量の「一部又は全部を特許権
者が販売することができない事情」は何ら認められない。
イ また,被告の前記主張は具体的根拠を示したものでなく,被告製品に対
する需要が原告製CT機に向かわないという相当因果関係を立証するものではな
い。
ウ CT機能は,遊技者の技術介入性を認めることに特徴を有するところ,
被告の主張する顧客誘因力である「リール絵柄が見やすく目押ししやすいこと」
は,このCT機能を生かすための企画,設計であり,CT機能が被告製品の顧客誘
因力そのものであることを裏付ける。「大量メダル獲得可能な機種であったこと」
も同様である。
いずれにしても,本件において,特許法102条1項ただし書にいう,侵
害物件の譲渡数量の「一部又は全部を特許権者が販売することができない事情」
は,何ら立証されていない。
第4 当裁判所の判断
 1 争点1(被告製品が構成要件Aを充足するかどうか。すなわち,被告製品が
リールを乱数値に応じて停止するように制御しているか)について
(1) 本件明細書には,従来技術の説明として,「現在使用されているスロット
マシンでは,回転しているリールの停止位置は機械の内部で電子的に発生する乱数
値に基づいて決定される。すなわち,リールの回転が停止した時には乱数値に応じ
たシンボルの組合せが表示されるようにリールの停止制御が行われる。」(本件公
報1欄22行~2欄2行),「完全に乱数値でリールの停止を決定するスロットマ
シンでは,どの遊技者がゲームをしても,その結果としてのコイン払い出し率は同
じで,遊技者の熟練度が高くなればなるほどその技術が反映しない結果となり,遊
技に対する魅力がそがれてしまう。」(同2欄11行~18行)という記載があ
り,これらの記載からは,一見,本件特許発明は,発生した乱数値に基づいて完全
にリールの停止位置が決定される装置であるかのようにも見える。
しかし,他方,本件明細書には,本件特許発明の実施例として,「上記の
『大ヒットフラグ』が立っていない場合又は所定ゲーム回数に達した場合には,通
常のリール駆動及び停止制御を行う。‥(中略)‥各ストップボタン5L,5C,
5Rがオンになった時,上記の判定した乱数値に応じたシンボルが各表示窓の中央
表示位置から4コマ以内にあれば,そのシンボルが表示されるように各リール3
L,3C,3Rを停止させる停止制御を行う。」(同7欄12行~26行)との記
載もあり,シンボルが4コマ以内にあるときには引込処理を行うことが記載されて
いる。そうすると,「リールを乱数値に応じて停止するように制御する制御装置」
とは,発生した乱数値で完全にリールの停止位置が決定される装置のみならず,発
生した乱数値に応じたシンボルが所定コマ数以内の位置にあれば,そのシンボルが
表示されるようにリールを停止させる装置,すなわち所定コマ数以内の引込処理を
行う装置も含まれると解するのが相当である。
また,この乱数値に応じた停止制御において,所定コマ数以内の引込処理
及び回避処理を行うことは,特開昭59-186580号公報(甲10)にも記載
されており,本件特許権の出願時には公知の技術であったものであり,この点に照
らしても,上記のように解するのが相当である。
(2) 前記争いのない事実における別紙イ号物件説明書及び同ロ号物件説明書
(以下「別紙イ号及びロ号物件説明書」と総称する)によれば,被告製品はいずれ
も,通常ゲームでは,3つのリールすべての停止について,5コマ以内の引込処理
を行っているから(回避処理も行っており,乱数で抽選された以外の入賞役が成立
することはない。),リールを乱数値に応じた停止制御を行っているということが
できる。
したがって,被告製品はいずれも,構成要件Aを充足する。
被告は,構成要件Aを,乱数による抽選結果のみによりリールの停止位置
が決定される制御装置と解し,5コマ制御を行う被告製品がこれを充足しないと主
張するが,上記のとおり,所定コマ数以内の引込処理(及び回避処理)を行うこと
は公知技術であり,このような処理をすることも「乱数値に応じた停止制御」に含
めて解すべきものである。被告の主張は,採用できない。
2 争点2(被告製品は構成要件Bを充足するか)について
(1) 「遊技中特定の条件が達成された時」について
前記争いのない事実における別紙イ号及びロ号物件説明書によれば,被告
製品は,通常ゲーム(別紙イ号及びロ号物件説明書のフロー図における符号Cのル
ート)において,BCに当選し,かつCTにも当選した場合,BCゲームが終了し
た後に自動的にCTが開始する。これは,本件特許発明の「遊技中特定の条件が達
成された時」に該当するということができる。
(2) 「前記乱数値に応じた停止制御を中止」について
ア 本件明細書には,本件特許発明の実施例について,「この時は,所定の
ゲーム回数(例えば10ゲーム)の期間,回転リールの停止制御を中止する。すな
わち,遊技者がストップボタン5L,5C,5Rを押したタイミングでリールの回
転を停止させるようにする。」(本件公報5欄17行~21行),「そして,第3
リール3Rの停止については制御せず,第3ストップボタン5Rがオンしたタイミ
ングで停止させる。すなわち,‥(中略)‥第3リールについては全くフリーに
(遊技者によるストップボタン操作のタイミングで)停止させる。」(同6欄35
行~41行)との記載がある。
これらの記載からすれば,上記要件は,リールを遊技者によるストップ
ボタン操作のタイミングで停止させることと解するのが相当である。
さらに,上記1に記載したように,構成要件Aの「乱数値に応じた停止
制御」とは,所定コマ数(例えば4コマ)以内の引込処理を含むと考えられるか
ら,この要件の「停止制御を中止」は,リールの停止制御において,乱数値に対応
する絵柄の所定コマ数以内の引込処理を行わないことをも意味すると解される。
イ 被告製品について
被告製品は,例えばロ号物件では,別紙ロ号物件説明書の第3図-2及
びフロー図(符号Aのルート)によれば,CTにおいて,85.8%の確率(14051
÷16383×100)で,0~16383の乱数のうち0~14051の乱数(CT複合
役の範囲)が抽出されると,第1リール及び第2リールについては,いかなる絵柄
の引込制御も回避制御も行うことなく,ストップボタンを押した時点の最短停止絵
柄で即止まりする。第3リールについても,いかなる絵柄の引込制御も行うことな
く停止する。すなわち,各リールは,第3リールについて,下記の例外的に回避処
理が必要な場合を除いて,ストップボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まり
する。
14052~16383の乱数が抽出された場合(14.2%の確率。
フロー図の符号Bのルート),BC及びRPの場合は,乱数値に対応する絵柄に5
コマ以内の引込制御を行っており,乱数値に応じた停止制御を行っているが,これ
は例外であって,付加的な構成にすぎないと考えられる。すなわち,BCについて
は,これに当選するとCTが終了することが認められる(A401)から,CT中
と同等に考えることはできないし,RPについては,前記第3(争点に関する当事
者の主張)2(1)イ(エ)④に掲記した遊技機規則を遵守するために必要とされた例外
であるから,やむをえないものであって,これら例外があることによって,「停止
制御を中止」していない,ということはできない。
上記の点は,イ号物件においても同様である。
したがって,被告製品は,CTにおいては,原則として第1ないし第3
リールについては,乱数値に対応する絵柄への引込処理を行っておらず,遊技者に
よるストップボタン操作のタイミングで停止させているから,これは,「前記乱数
値に応じた停止制御を中止」の要件を充足するということができる。
なお,被告製品のリーフレット(甲16,甲17)においても,「CT
中は打ち方によって獲得枚数大幅アップ!全リールねらい打ち可能。(ボーナス・
リプレイ図柄を除く)」(イ号物件),「CT中は全てのリールがボタンを押した
ら即停止する。」(ロ号物件)などと記載されており,被告製品の売り込みに当た
って,すべてのリールがストップボタンを押したタイミングで即停止することが,
中心的な機能として強調されていることが認められる。
ウ 被告は,被告製品においては,ゲームの全部を通じて乱数値を抽出して
その乱数値に応じた一連の電子的・機械的操作が行われており,原告が主張するあ
る特定条件においても,他の条件の場合と同様の停止制御を常に行っているので,
停止制御の中止をしていないと主張する。そして,フロー図の符号Aの場合,第1
リール又は第2リールは,乱数値の結果である「停止制御用絵柄データ」に基づ
き,停止絵柄候補が選択され,「停止絵柄候補中から最小移動による停止絵柄決
定」(A310-3)によって処理され,各リールが停止処理されるので,原告が
主張する,いわゆる「即止め」又は「目押し」を実現したかのような様相を呈する
場合があっても,実際は,他の場合と全く同様の制御系統でリールを停止させてい
るにすぎないと主張する。
しかしながら,上記イに認定したように,被告製品は,例えばロ号物件
では,0~14051の乱数が抽出されると,第1リール及び第2リールについて
は,引込制御も回避制御も行うことなく,ストップボタンを押した時点の最短停止
絵柄で即止まりし,第3リールについても,引込制御を行うことなく停止するもの
であり,各リールは,第3リールについての例外的な回避処理を除いて,ストップ
ボタンを押した時点の最短停止絵柄で即止まりするのであるから,この被告の主張
は採用し難い。加えて,被告製品はいずれも,CT機であることを売り物にしてい
るところ,日電協から警察庁生活安全局生活環境課あてに提出された文書(甲7)に
は,「1 概要」において,CTの作用効果について,「これにチャレンジタイム
(CTと称します。)という遊技者がより技量を発揮できる新しい方式を採用させ
ていただきたい。この方式の発生条件は,役物連続動作増加装置(BB)の作動終
了等3ヶ所を契機として,すべての回胴,若しくは一部の回胴を無制御にして遊技
者の停止ボタンの操作によってBB,役物連続作動装置(RB),役物(SB)及
び再遊技以外の入賞図柄を有効ライン上に揃えることができる遊技をおこなえるも
のであります。」と記載されており,CT機においては,CT中はリールを無制御
にするものであることがうたわれているのであるから,被告製品がCT中もリール
の制御を行っているとの被告の主張は採用できない。
(3) 「予め定めたゲーム回数分」について
被告製品は,例えばロ号物件では,別紙ロ号物件説明書のフロー図(符号
A及び符号Bのルート)によれば,ステップA403(B403)で,「チャレン
ジタイムの遊技が99回を超えたか?」となっており,Yesの場合には,「チャ
レンジタイムフラグオフ」(ステップA404(B404))となっていて,チャ
レンジタイムが終了する。したがって,被告製品においては,予め定めた上記回数
でチャレンジタイムが終了するのであって,上記要件を充足する。
上記の点は,イ号物件においても同様である。
以上(1)ないし(3)によれば,被告製品は,構成要件Bを充足する。
したがって,被告製品は,本件特許発明の技術的範囲に属すると認められ
る。
3 争点3(本件特許権に無効事由があり,本訴請求は権利濫用に当たるか)に
ついて
(1) 被告は,実開昭60-37380号公報(乙1)に本件特許発明の構成が
すべて開示されているから,本件特許権は新規性がなく無効であると主張する。
(2) 上記公開実用新案公報には,次のような構成の特徴を有する考案が記載さ
れている。
a 表示窓内にそれぞれ所定の絵柄を表示する3個のリールを備え,通常ゲ
ームにおいて,第1,第2の2個のリールを,乱数発生器によるランダム値に応じ
て停止するように制御する制御装置を備えたスロットマシンである。
b1 前記制御装置は遊技中,例えば表示窓内の入賞ラインに絵柄「ピエ
ロ」が3個並ぶような特定の条件が達成されると副次的ゲーム(ボーナスゲーム)
が予め決定された回数分行われ,その後は通常ゲームに戻る。
b2 前記ボーナスゲームにおいては,第1,第2リールは回転しないか
ら,乱数発生器によるランダム値に応じてリールを停止しようとする制御装置は作
動しない。第3リールは遊技者が第3リールストップボタンを操作して任意停止を
する。
c スロットマシンである。
(3) 上記a及びb1は,本件特許発明中に含まれる構成と同じであるところ,
上記公開実用新案公報の「考案の詳細な説明」欄には,考案の目的につき,次のよ
うに記載されている。
「従来のスロットマシンにおいては,‥(中略)‥例えば3個のリールを
回転させ,ストップボタン操作などによって各リールが停止した際に入賞ライン上
に停止している各リールの絵柄の組合せによって入賞の判定がなされる。このよう
な従来のスロットマシンでは上述のような単発的ゲームのみを対象としており,若
干ゲーム性に欠けるきらいがあった。本考案は上述した実情に鑑み,スロットマシ
ンのゲーム性をさらに高めることを目的とする。このため本考案においては,停止
された複数個のリールの絵柄が特定の組み合わせになると,いわゆる通常のゲーム
とは異なる副次的ゲーム(以下「ボーナスゲーム」という。)のチャンスが与えら
れるようにする。しかもこのボーナスゲームは通常のゲームよりも入賞率が高く設
定されると共に,このボーナスゲームの実行可能回数の決定もゲームの一要素に盛
り込むことによって,極めてゲーム性に富んだものとなる。」(同公報2頁9行~
3頁8行)
(4) 他方,本件明細書の「考案の詳細な説明」欄には,従来の技術の説明とし
て,次のように記載されている。
「現在使用されているスロットマシンでは,回転しているリールの停止位
置は機械の内部で電子的に発生する乱数値に基づいて決定される。すなわち,リー
ルの回転が停止した時には乱数値に応じたシンボルの組合せが表示されるようにリ
ールの停止制御が行われる。」(本件公報1欄22行~2欄2行)
「完全に乱数値でリールの停止を決定するスロットマシンでは,どの遊技
者がゲームをしても,その結果としてのコイン払い出し率は同じで,遊技者の熟練
度が高くなればなるほどその技術が反映しない結果となり,遊技に対する魅力がそ
がれてしまう。」(同2欄11行~18行)
そして,本件特許発明の作用として,次のように記載されている。
「本発明のスロットマシンにおいては,特定の条件が達成されてリールの
停止制御が中止されている間,回転しているリールの停止位置は遊技者による停止
操作のタイミングで決定されるので,熟練者と非熟練者との間に差が生ずる。すな
わち,遊技者の熟練度に応じた結果となり,熟練者にとってはコイン取得率が若干
高くなってゲ一ムの魅力が増す。一方,熟練者でない者にとっても,ある一定のコ
イン取得率は確保されるので,魅力がそがれることはない。また,上記の停止制御
を複数のリールの一部についてのみ中止し,他のリールに対しては一定の停止制御
を行うことにより,熟練者にとって更に有利な結果が得られるものとなる。」(同
3欄11行~24行)
「熟練者にとっては,ある範囲でその熟練度に応じた結果が得られてゲー
ムの魅力が向上する一方,熟練者でない者にとっても,ある一定のコインの払い出
し率が確保される。これにより,技術介入性と平等性が調和して各遊技者の熟練度
に応じたゲームができるという効果が得られる。」(同8欄21行~27行)
(5) 上記の各記載を比較すると,実開昭60-37380号公報の考案におい
ては,乱数値に基づいてリールの停止位置を決定することにより,平等性を実現
し,熟練者でない者にもある一定のコインの払い出し率を確保することへの言及は
あっても,一部技術介入性を導入して,これにより各遊技者の熟練度に応じたゲー
ムができるという効果が得られるようにするという思想は全く見られない。なるほ
ど,上記考案にも通常ゲームとは異なる副次的ゲーム(ボーナスゲーム)が導入さ
れ,実施例では,ボーナスゲームで第3リールがゆっくり回転し,ストップボタン
を操作するタイミングで停止させるいわゆる目押しがしやすくなっており,一見す
ると本件特許発明に似るかのようであるが,これはあくまでも変化を付けてゲーム
性に富んだゲームにする目的のものであって,各遊技者の熟練度に応じたゲームが
できるようにしたものではない。さらに,上記考案では,目押しのできる第3リー
ルは,もともと通常ゲームでも乱数値に基づく停止位置の決定がされておらず(そ
の意味では,平等性の実現さえ達成されていないともいえる。),ボーナスゲーム
で目押しが可能であっても,それは本件特許発明にいう「乱数値に基づ
くリールの停止制御を中止」したからではない。
このように,上記考案では,本件特許発明における,通常ゲームでは乱数
値に基づいてリールの停止位置を決定することにより平等性を実現し,通常ゲーム
でない場合には停止制御を一部のリールについて中止して技術介入性を導入し,技
術介入性と平等性を調和させるという思想は全く開示されておらず,全く別個の発
明といわなければならない。したがって,上記公開実用新案公報に本件特許発明が
開示されているということはできず,本件特許発明が明らかに無効であるとはいえ
ない。
4 争点4(原告が本件特許権を被告補助参加人に実施許諾し,それにより被告
は被告補助参加人から再実施許諾を受けたか)について
(1) 前記争いのない事実に証拠(甲5,甲18ないし20,乙2ないし25,
丙2ないし37,丙40。書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨を総合す
れば,次の事実が認められる。
ア 被告補助参加人は,パチスロ機業界において,パチスロ機等に関する特
許権等につき,これを保有する者から再実施許諾権付きで実施許諾を得た上で,同
業界の製造業者に対して有償で再実施許諾し,その実施料を特許権者等に還元する
ことを主たる業務としている。原告は,パチスロ機の製造を行うとともに,本件特
許権を始めとするパチスロ機関連の多数の特許権等を保有している。
パチスロ機には,多数の特許権等が用いられており,現在のようなパチ
スロ機が登場して以来,特許権等の侵害の問題をどのように解決するかがパチスロ
機製造業界における大きな課題であった。そのため,被告補助参加人のような業種
の会社が早くから登場し,特許権等の紛争の解決に当たってきた。そして,一時は
この種の会社三社が鼎立したこともあったが(そのうち1社は,原告代表者である
Cが代表者を務める電動式特許株式会社であった。),三者間で主導権争いを演じ
るのみで,問題の適切な解決に至らなかった。被告補助参加人は,このような状態
を解決して特許権等管理会社を一元化する目的で,平成5年に設立された。
イ 被告補助参加人の調整方法は,いわゆるパテントプール方式というもの
である。被告補助参加人に参加している特許権等の保有者は,少なくとも一定数の
特許権等を拠出し,被告補助参加人に対して再実施許諾権付きで実施許諾をする。
この契約は書面で行われており,毎年4月1日から翌年3月31日まで対象期間を
1年間として締結されているが,契約書所定の解除事由その他契約を継続し難い特
段の事由のない限り契約の更新を拒否できないとの条項が置かれており,毎年更新
されている。
被告補助参加人に参加しているパチスロ機製造業者は,被告補助参加人
が上記のような契約により保有者から実施許諾を受けている特許権等につき,被告
補助参加人から再実施許諾を得て,これを実施する。具体的には,パチスロ機製造
業者は,被告補助参加人から1枚2000円で証紙を購入し,これをその製造に係
るパチスロ機に貼付するものであるが,各パチスロ機製造業者がどの特許権等を使
用しているかは,主として各製造業者の申告によっている。保有者から実施許諾さ
れた特許権等のうち具体的にどの権利が使用されているかは,各製造業者と特許権
等の保有者の双方が参加する被告補助参加人の委員会で裁定される。被告補助参加
人は,上記申告等に基づき,特許権等の使用実績により,上記2000円の半分の
1000円を財源として,個別の特許権等の保有者に対する配分額を決定してい
る。
本件特許権は,原告と補助参加人との間の平成8年4月1日作成の契約
書(対象期間は平成8年4月1日から平成9年3月31日。甲18)の目録にも,
それ以前の契約書の目録にも記載されておらず,被告補助参加人から原告に対して
本件特許権の実施料の支払がされたことはない。
各パチスロ機製造業者は,被告補助参加人から証紙を購入して貼付して
いる限り,自己の製造するパチスロ機に用いられる特許権等については被告補助参
加人から再実施許諾されているものとして,行動していた。被告も,被告補助参加
人から上記証紙を購入して,被告製品に貼付していた。
ウ 原告は,被告補助参加人が再実施許諾している特許権等につき,原告が
その多くを保有しているにもかかわらず,原告に対する実施料の支払額が低いと考
え,これに不満を抱いていた。また,パチスロ機製造業者がどの特許権等を使用し
ているかが,主としてパチスロ機製造業者の自己申告によっているため,特許権等
の保有者の側では自己の有する特許権等が使用されていると考えていても,製造業
者からの申告がされない限り被告補助参加人が実施料の支払をしないことにも不満
を抱いていた。そこで,平成9年6月にパチンコ機製造業者の間での同様のパテン
トプール制度につき,公正取引委員会から独禁法違反の勧告がされたことを契機
に,受取実施料の額を増やすことや権利関係を明確にすることを企図して,被告補
助参加人のパテントプール方式によるのでなく,個々の特許権等保有者がパチスロ
機製造業者との間で個別に直接契約を締結する方法に切り換えるべきであるとの持
論を展開するようになった。そして,被告を始めとするパチスロ機製造業者に対し
て,個別の直接契約の締結を申し入れるものとして,「通常実施権設定暫定契約書
案」を送付した。
エ その後,原告は,被告補助参加人との間の再実施許諾権付き実施許諾契
約が平成9年3月31日をもって合意解除により終了したと主張するようになり,
その結果,原告の保有する特許権等については,もはや被告補助参加人に実施許諾
していないとの見解を主張している。このため,原告と被告補助参加人間の契約書
は,平成8年4月1日付けのもの(対象期間は平成8年4月1日~平成9年3月3
1日)以降は作成されないままとなっている。そして,原告は,原告の保有する本
件特許権を被告のイ号製品が使用していると考えたことから,被告に対し,本件特
許権を使用しているかどうかを問い合わせた。これに対して被告は,いったんはイ
号製品が本件特許権を使用しているかどうか検討中であるから期間の猶予をもらい
たい旨回答したものの,その後は応答がなかった。そこで,原告は,被告に対し
て,本件訴訟を提起した。
(2) 上記認定事実を前提として判断するに,当裁判所は,実施許諾契約が存在
することにより被告の本件特許発明の実施は適法であるとの被告及び被告補助参加
人の主張は,採用できないものと考える。その理由は,次のとおりである。
ア まず第1に,原告の主張するように,原告が被告補助参加人との間で締
結した実施許諾契約書においては,1条1項に,「甲(原告。ただし,旧商号)は
乙(被告補助参加人)に対して,別紙目録記載の工業所有権等について,本契約の
条項に従い通常実施権を許諾する。」と定められており,これは平成6年3月31
日付けの契約書(対象期間は平成6年4月1日~平成7年3月31日),平成8年
3月29日付けの契約書(同じく平成7年4月1日~平成8年3月31日),平成
8年4月1日付けの契約書(同じく平成8年4月1日~平成9年3月31日)のす
べてに共通している。同条項は,実施許諾の対象となる特許権等が,同契約書添付
の目録の範囲に限定されることを明らかにしている。本件特許権は,昭和63年3
月18日に出願され,平成5年10月18日に出願公告,平成6年7月7日に設定
登録されているのだから,仮に実施許諾の対象となっていたのであれば,平成6年
3月31日付けの契約書はともかく,平成8年3月29日付けの契約書及び同年4
月1日付けの契約書の目録には記載されていてしかるべきである。しかるに,上記
の各契約書の目録に記載されていないのであるから,本件特許権が実
施許諾の対象となっていたと認めることはできない。
被告及び被告補助参加人は,実施許諾の対象となる特許権等は,出願中
のもの及び将来登録されるものも含め,特許権等の保有者が有するすべての知的財
産権であると主張する。しかしながら,被告及び被告補助参加人が主張すること
は,上記契約書の明文に明らかに反するものである。また,被告及び被告補助参加
人が主張するような内容を記載した契約書,覚書,あるいは議事録といった書面
は,一切存在しない。上記認定の被告補助参加人設立の経緯に照らしても,パチス
ロ機製造業界において特許権等は重要な意味を有していたものであり,そのような
重要な権利について,被告及び被告補助参加人の主張するような義務を保有者に負
担させるのであれば,何らかの書面が作成されているのが当然であり,この点に照
らしても,被告及び被告補助参加人の上記主張は採用することができない。
イ また,被告及び被告補助参加人が主張するように,被告補助参加人と原
告との間で作成されている契約書に添付されている特許権等の目録が証紙代金の一
部を特許権等の保有者に案分して支払うにつき算定の対象として基礎ポイントを与
えられた特許権等を掲げたものであるとしても,上記認定のように,各パチスロ機
製造業者がどの特許権等を使用しているかは,各製造業者の申告によっており,被
告補助参加人はこの申告に基づいて特許権等の保有者に対する配分額を算定してい
たものである。そして,本件特許権については,被告その他の各製造業者から,こ
れを実施している旨の申告がなく,本件特許権を対象とする実施料の案分支払もさ
れていなかったというのである。被告自身も,被告補助参加人に対し,本件特許権
を実施している旨の申告をしておらず,原告からの本件特許権を使用しているので
はないかとの問い合わせに対し,いったんは検討中である旨回答したものの,その
後は格別の応答をしていなかった。そして,本件訴訟においても,主位的には,本
件特許権を実施していないと主張して争っている。
このような事実関係の下において,本件特許権について,被告補助参加
人が実施許諾を受け,被告が再実施許諾を受けたとは,到底認定することができな
い。本件特許権について実施許諾がされたといえるためには,上記の事実関係の下
においては,少なくとも,被告の側からの本件特許権を実施している旨の申告があ
り,本件特許権が原告に支払われる案分実施料の算定に組み込まれていたことを要
するものというべきである。
以上によれば,本件特許権につき被告が被告補助参加人を介して実施許諾を
受けていた旨の,被告及び被告補助参加人の主張は,採用することができない。
5 争点5(原告の損害)について
(1) 特許法102条1項の趣旨について
本件において,原告は,特許法102条1項に基づく損害賠償を請求して
いる。
特許法102条1項は,特許権者が故意又は過失により自己の特許権を侵
害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,
その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは,その譲渡した物の数量
に,特許権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当た
りの利益の額を乗じて得た額を,特許権者の実施の能力を超えない限度において,
特許権者が受けた損害の額とすることができる旨を規定する。
特許法102条1項は,排他的独占権という特許権の本質に基づき,特許
権を侵害する製品(以下「侵害品」ということがある。)と特許権者の製品(以下
「権利者製品」ということがある。)が市場において補完関係に立つという擬制の
下に設けられた規定というべきである。すなわち,そもそも特許権は,技術を独占
的に実施する権利であるから,当該技術を利用した製品は特許権者しか販売できな
いはずであって,特許発明の実施品は市場において代替性を欠くものとしてとらえ
られるべきであり,このような考え方に基づき侵害品と権利者製品とは市場におい
て補完関係に立つという擬制の下に,同項は設けられたものである。
このような前提の下においては,侵害品の販売による損害は,特許権者の
市場機会の喪失としてとらえられるべきものであり,侵害品の販売は,当該販売時
における特許権者の市場機会を直接奪うだけでなく,購入者の下において侵害品の
使用等が継続されることにより,特許権者のそれ以降の市場機会をも喪失させるも
のである。
したがって,同項にいう「実施の能力」については,これを侵害品の販売
時に厳密に対応する時期における具体的な製造能力,販売能力をいうものと解する
ことはできず,特許権者において,金融機関等から融資を受けて設備投資を行うな
どして,当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造,販売を行う潜在的能力を
備えている場合には,原則として,「実施の能力」を有するものと解するのが相当
である(また,侵害者が侵害品を市場に大量に販売したことにより,特許権者が権
利者製品の製造販売についての設備投資を差し控えざるを得ない場合があることを
考慮すれば,同項にいう「実施の能力」を上記のように解さないと,特許権者の適
切な救済に欠ける結果となろう。)。
特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた
物」とは,侵害に係る特許権を実施するものであって,侵害品と市場において排他
的な関係に立つ製品を意味するものである。
上記のとおり,「実施の能力」が,必ずしも侵害品販売時に厳密に対応す
る時期における具体的な製造販売能力を意味するものではなく,侵害品の販売によ
り影響を受ける権利者製品の販売が,侵害品販売時に対応する時期におけるものに
とどまらないことに照らせば,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することが
できた物の単位数量当たりの利益の額」についても,侵害品の販売時に厳密に対応
する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく,侵害品の販売により
影響を受ける販売時期を通じての平均的な利益額と解するのが相当であり,また,
「単位数量当たりの利益の額」は,仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応
する数量の権利者製品を追加的に製造販売したとすれば,当該追加的製造販売によ
り得られたであろう利益の単位数量当たりの額(すなわち,追加的製造販売により
得られたであろう売上額から追加的に製造販売するために要したであろう追加的費
用(費用の増加分)を控除した額を,追加的製造販売数量で除した単位数量当たり
の額)と解すべきである。このように特許法102条1項にいう「単位数量当たり
の利益の額」が仮定的な金額であることを考慮すると,その金額は,厳密に算定で
きるものではなく,ある程度の概算額として算定される性質のものと解するのが相
当である。
具体的な事案において,特許権者が侵害品の販売時に厳密に対応する時期
において現実に権利者製品の製造販売を行っている場合には,当該時期における権
利者製品の単位数量当たりの現実の利益額を斟酌して,特許法102条1項にいう
「単位数量当たりの利益の額」を算定することが相当であるが,この場合において
も,この利益額が上記のような性質を有する仮定的な金額であることに照らせば,
「単位数量当たりの利益の額」は,必ずしも,当該時期における現実の利益額と一
致するものではなく,現実の利益額は,同項にいう「単位数量当たりの利益の額」
を認定する上での一応の目安にすぎないというべきである。
他方,特許法102条1項はただし書において,侵害品の譲渡数量の全部
又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情があると
きは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定しているが,前述
のように本項を,排他的独占権という特許権の本質に基づき,侵害品と権利者製品
が市場において補完関係に立つという擬制の下に設けられた規定と解し,侵害品の
販売による損害を特許権者の市場機会の喪失ととらえる立場に立つときには,侵害
者の営業努力(具体的には,侵害者の広告等の営業努力,市場開発努力や,独自の
販売形態,企業規模,ブランドイメージ等が侵害品の販売促進に寄与したこと,侵
害品の販売価格が低廉であったこと,侵害品の性能が優れていたこと,侵害品にお
いて当該特許発明の実施部分以外に売上げに結び付く特徴が存在したこと等)や,
市場に侵害品以外の代替品や競合品が存在したことなどをもって,同項ただし書に
いう「販売することができないとする事情」に該当すると解することはできない。
すなわち,特許法102条1項の適用に当たっては,権利者製品は,特許
発明の実施品として特徴付けられているものであり,侵害品は,まさに当該特許発
明の実施品である故をもって,市場において権利者の市場機会を奪うものとされて
いるのである。言い換えれば,侵害者の販売する製品(侵害品)は,特許権者の特
許権を侵害することによって初めて製品として存在することが可能となったもので
あり,当該特許発明の実施品であるからこそ,権利者製品と競合するものとして,
市場において権利者製品を排除して取引者・需要者により購入されたのである。侵
害品の販売に侵害者の営業努力等があずかっていたとしても,特許権者としては,
仮に侵害品の販売期間と対応する期間内には不可能であるとしても,これに引き続
く期間を併せれば侵害品の販売数量に対応する権利者製品を販売できたはずであ
り,仮に侵害品が他に独自の優れた特徴を有していたとしても,あくまでも特許発
明の実施品としての特徴を備えていたからこそ,権利者製品と競合するものとして
これを排除して取引者・需要者に購入されたというべきであり,侵害者が侵害品を
低廉な価格で販売した(あるいは無償で配布した)としても,特許発明
の実施品であったからこそ権利者製品を排除して取引者・需要者に入手されたもの
である。しかも,これらの場合には,いずれも,侵害品が取引者・需要者の手に渡
った結果として,それと同数の権利者製品の需要が失われているのであるから,仮
に,営業努力等により侵害者による侵害行為が急であったり,取引者・需要者にお
いて,侵害品を購入する動機として,特許発明の実施品であるという点に加えて,
何らかの点(付加的機能や低価格)が存在したとしても,そのような事情は,特許
権者の損害額を減額する理由とはならないというべきである。また,市場において
侵害品以外に権利者製品と競合する代替品が存在していたとしても,侵害者は,そ
のような競合製品の存在にかかわらず,これとの競争の下で一定の数量の侵害品を
販売し得たのであるから,権利者製品も特許発明の実施品という点で侵害品と同一
の性能を有する以上,特許権者においても,同一の条件の下で,これと同一の数量
の権利者製品の販売が可能であったというべきである。
このように,上記の各事情は,そもそも市場における侵害品と権利者製品
との補完関係の擬制の下で本項の規定を設けるに当たって捨象されたものであるか
ら,これらの事情をもって「販売することができないとする事情」に該当するとい
うことはできないが,市場において侵害品と権利者製品が補完関係にあるというこ
とを前提としても,なお,権利者が市場機会を喪失したと評価できないような事情
があるときには,そのような事情は,「販売することができないとする事情」に該
当するものというべきである。すなわち,侵害品がその性質上限定された期間内に
おいてのみ需要され,当該期間内に消費されるものである場合(例えば,侵害品が
生鮮食料品であるような場合)には,侵害品の販売により特許権者が喪失した市場
機会は,侵害品の販売時期に対応する期間に限定されることになるから,侵害者に
より抗弁としてこのような事情が主張立証された場合には,特許権者は再抗弁とし
て,侵害品の販売時期に厳密に対応する時期又はこれと直近する時期に,侵害品の
販売数量と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを,主張立
証しなければならないこととなる。また,侵害者が抗弁として,侵害
品が販売された後に法令等により当該特許発明の実施品の販売が規制されたことや
新技術の開発により当該特許発明が陳腐化したことを主張立証した場合には,特許
権者は再抗弁として,このような規制前又は新技術を実施した代替品の発売前に侵
害品と同数量の権利者製品を販売する能力を実際に有していたことを,主張立証し
なければならないというべきである。
(2) 本件における検討
以上を前提に,本件における損害額について検討する。
ア 被告製品の販売台数
被告による被告製品の販売台数が合計4万3000台であることは,争
いがない。
イ 原告の実施能力
  まず,原告の実施能力については,上記のとおり,特許法102条1項
にいう「実施の能力」は,当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造,販売を
行う潜在的能力を備えていれば具備されると解されるところ,本件においては,原
告は平成10年当時年間二十数万台のパチスロ機の製造能力を有し,パチスロ機の
市場において約40%の占有率を有していた(これらの事実は当事者間に争いがな
い。)というのであるから,原告が同項にいう「実施の能力」を備えていたことは
明らかというべきである。
ウ 単位数量当たりの利益の額
  前述のとおり,特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の
額」は,仮に特許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追
加的に製造販売したとすれば,当該追加的製造販売により得られたであろう利益の
単位数量当たりの額(すなわち,追加的製造販売により得られたであろう売上額か
ら追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(費用の増加分)を控除
した額を,追加的製造販売数量で除した単位数量当たりの額)と解すべきである。
  これを本件についてみると,次のとおりである。
 (ア) 原告の商品の販売価格
 前述のとおり,特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販
売することができた物」は,侵害に係る特許権を実施するものであって,侵害品と
市場において排他的な関係に立つ製品を意味するものであるところ,本件において
は,弁論の全趣旨によれば,本件特許発明の実施品であり,被告製品と同じころ販
売されていた同じCT機である原告の商品「ウルフエムX」(原告商品ウルフ)及
び「チェリー12X」(原告商品チェリー)は,これに当たるものと認められる。
 これらの原告商品の販売価格は,個別の販売先や販売時期によって若
干異なり,完全に同一価格ではないが,証拠(甲27ないし30)によれば,原告
商品ウルフの平均販売価格は,33万3632円,原告商品チェリーのそれは,3
3万5264円であることが認められる。したがって,両商品の平均販売価格は,
33万4267円となる。
(2,201×333,632+1,403×335,264)÷(2,201+1,403)=334,267
(イ) 原告商品の経費
  ① 製造原価
 証拠(甲23及び24,甲40ないし46,書証の枝番号は省略す
る。)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品ウルフについては,(a)平成10年10
月度に1371台製造され,その原価(組立工賃含む。以下同じ。)の合計は1億
2782万0984円であって,1台当たり製造原価は約9万3232円であった
こと,(b)同年11月度には703台製造され,その原価の合計は6227万374
4円であって,1台当たり製造原価は約8万8583円であったこと,(c)同年12
月度には122台製造され,その原価の合計は1078万4241円であって,1
台当たり製造原価は約8万8395円であったこと,(d)平成11年1月度には6台
製造され,その原価の合計は52万3046円であって,1台当たり製造原価は約
8万7174円であったこと,が認められる。したがって,原告商品ウルフの全製
造台数2202台の製造原価平均は1台当たり9万1463円であると認められ
る。
 同様に,上記証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告商品チェリーに
ついては,(a)平成10年10月度に128台製造され,その原価の合計は1204
万2078円であって,1台当たり製造原価は約9万4079円であったこと,(b)
同年11月度には909台製造され,その原価の合計は8133万1087円であ
って,1台当たり製造原価は約8万9473円であったこと,(c)同年12月度には
367台製造され,その原価の合計は3156万2202円であって,1台当たり
製造原価は約8万6001円であったこと,(d)平成11年1月度には11台製造さ
れ,その原価の合計は97万4959円であって,1台当たり製造原価は約8万8
633円であったこと,が認められる。したがって,原告商品チェリーの全製造台
数1415台の製造原価平均は1台当たり8万8983円であると認められる。
 以上によれば,原告商品ウルフ及び同チェリーの平均製造原価は9
万0498円となる。
(2,201×91,463+1,403×88,983)÷(2,201+1,403)≒90,498
  ② 広告宣伝費
 一般的にいえば,宣伝広告費は,その性質上,特定の商品について
一定の宣伝広告が必要であるにしても,商品の販売数量が増加した場合にそれに応
じて広告宣伝の量を増加しなければならないといったものではない。
 したがって,一般的にいえば,広告宣伝費は,原告商品を追加的に
製造販売するに当たって追加的に支出が必要となる費用ということはできず,控除
の対象とはならない。
 しかしながら,本件においては,原告は,原告商品ウルフ及び同チ
ェリーの販売に当たって販売促進物品を利用しているところ,このような物品(景
品)は,その性質上,商品の販売数量に応じた数量を必要とするものであるから,
控除の対象となるものというべきである。
 弁論の全趣旨によれば,原告商品ウルフ及び同チェリーの販売に当
たって使用された販売促進物品の費用は各商品180万2000円であり,合計3
60万4000円であるから,1台当たり1000円となる。
(1,802,000+1,802,000)÷(2,201+1,403)=1,000
 ③ 販売費
 証拠(甲26。平成10年度における原告の損益計算書)によれ
ば,人件費のうち,営業部門の人件費の「販売インセンティブ」の金額が,10億
6531万8328円であること,販売手数料が4億2309万0784円,運搬
費の金額が9820万9793円であることがそれぞれ認められる。
 これらを,原告の総売上中,原告商品ウルフ及び同チェリーの売上
げの占める割合で除すると,1台当たりの金額は5291円となる。
(1,065,318,328+423,090,784+98,209,793)×(334,267×3,604÷
100,240,715,186)÷3,604≒5,291
 ④ ロイヤリティ
 弁論の全趣旨によれば,原告の支払っているロイヤリティは,いず
れも1台当たり日電協証紙代1365円,日電特許証紙代2000円で,合計33
65円であると認められる。
 以上によれば,原告商品について販売金額から控除すべき費用は,
1台当たり10万0154円となる
90,498+1,000+5,291+3,365=100,154
 なお,被告及び被告補助参加人は開発費を控除すべきものであると主
張するが,開発費は,原告商品を追加的に製造販売するに当たって追加的に支出が
必要となる費用ということはできず,控除の対象とはならない。
 また,被告及び被告補助参加人は,原告の平成10年当時における製
造能力に照らせば,被告製品と同数の原告商品を追加的に製造するためには一定の
経費の増加が確実であるとして,15.5%の変動経費の増加を控除すべきである
と主張する。しかし,前に説示したとおり,特許法102条1項にいう「侵害の行
為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」は,侵害品の
販売時に厳密に対応する時期における具体的な利益の額を意味するものではなく,
侵害品の販売により影響を受ける販売時期を通じて侵害品の販売数量に対応する数
量の権利者製品の追加的な製造販売をした場合を想定した仮定的な金額である。被
告及び被告補助参加人の上記主張は,そもそも「単位数量当たりの利益の額」につ
いて誤った理解を前提とするものである上,変動費用の増加として主張する内容は
抽象的なものにとどまり,具体的に検討可能なものではない。原告商品の販売金額
から控除すべき費用は,上記の項目の費用で尽きているというべきであり,被告及
び被告補助参加人の主張は,採用できない。
    (ウ) 寄与率
 原告商品はパチスロ機であるところ,前記認定の事実によれば,パチ
スロ機には多数の特許権等が用いられているものであり,現に原告商品について
も,これに使用されている特許権等の実施料として1台当たり3365円(日電協
証紙代1365円,日電特許証紙代2000円の合計額)を支払っているものであ
る。
 そうすると,本件特許発明が,パチスロ機に遊技者が技量を発揮でき
るCTという新しい方式を導入するものであって,従来のパチスロ機にない魅力を
付与し,パチンコホールへの顧客動員に寄与するものであるという点を考慮すると
しても,原告商品の利益額中の本件特許発明に対応する額は,80%を超えるもの
ではないというべきである。
    (エ) 小括
 上記(1)ないし(3)により計算された数額により「単位数量当たりの利
益の額」を計算すると,本件特許権に対応する原告商品ウルフ及び同チェリーの1
台当たりの利益の額は,18万7290円となる。
(334,267-100,154)×0.8=187,290
エ 特許法102条1項ただし書に該当する事情
(ア) 被告及び被告補助参加人は,平成10年当時における原告の市場占
有率に照らせば,被告製品の販売数量のうち原告が販売できたのは原告の市場占有
率に応じた40%にとどまるものであり,また,被告製品はキャラクター,絵柄配
置,音楽等において原告商品にない独自の特徴を有していたものであるから,この
点に照らしても,原告の市場占有率を超えた販売は原告においてできなかったと主
張する。
 しかしながら,特許法102条1項を,排他的独占権という特許権の
本質に基づき,侵害品と権利者製品が市場において補完関係に立つという擬制の下
に設けられた規定と解し,侵害品の販売による損害を特許権者の市場機会の喪失と
とらえる立場に立つときには,侵害者の営業努力や,市場における代替品や競合品
の存在をもって,同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該
当すると解することはできないのは,前に説示したとおりである。
 この点に照らせば,被告及び被告補助参加人の主張する内容は,いず
れも同項ただし書にいう「販売することができないとする事情」に該当するもので
はない。被告及び被告補助参加人の主張は,採用できない。
(イ) しかしながら他方,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,パチ
ンコホールにおいては,同業者間において激しい新機種導入競争が行われており,
一般的にパチスロ機については頻繁に新台との入替えが行われていることが認めら
れる。
 そして,本件においては,別表2の記載のとおり,被告製品のうちイ
号物件は平成10年3月から販売されたものであり,その後継機種であるロ号物件
は同年11月から販売されたものであるが,他方,原告商品はいずれも平成10年
10月から販売されたものである。
 そうすると,被告製品のうちイ号物件については,CT機であること
を理由としてパチンコホールにおける本来のパチスロ機の更新時期に先駆けて購入
されたなど,新たな需要を掘り起こしたものがあるにしても(この分については,
原告商品の後日の販売を妨げたという擬制が成立し得る。),一部にはパチンコホ
ールにおける定期的なパチスロ機の新台入替え需要に基づいて購入されたものが含
まれていることは否定できない。原告商品販売開始前のイ号物件の販売数のうち,
このような定期の新台入替えとして購入された需要に対応するものについては,仮
にイ号物件が販売されていなかったとしてもパチンコホールにおいて当時の定期的
な入替え計画に従って同時期に別機種のパチスロ機が購入されていたはずであるか
ら,その時点において原告商品が販売されていなかったのであれば,イ号物件に代
わって原告商品が販売できたはずであると擬制することは,不可能である。
 すなわち,原告商品の販売に先立って販売されたイ号物件について
は,CT機としての性能を理由としてパチンコホールにおける需要を喚起し,後日
における原告商品の販売に影響を与えたと擬制される部分がその多くを占めている
にしても,少なくとも一部分には,CT機であることとは無関係にパチンコホール
における定期的な新台入替え需要に対応するものとして販売されたものが含まれて
いるというべきであるが,後者については,原告においてこれに対応する原告商品
を「販売することができなかった事情」が存在するというべきである。
 そして,前記認定事実において,イ号物件の販売時期及び販売数量を
同時期における他のパチスロ機と比較するなど,諸般の事情を総合するときには,
イ号物件の販売数3万4000台のうち,少なくともその10%に当たる3400
台については,パチンコホールにおける定期的な新台入替え需要に対応するものと
して販売されたもので,後日における原告商品の販売に影響したものではないと認
めるのが相当である。
 なお,この点は,被告において明確に主張しているものではないが,
被告製品及び原告商品がパチスロ機であるという事実から(この事実は,当事者双
方から主張されている争いのない事実である。),その性質上当然に導かれる事情
であるから,裁判所としては,考慮の対象とすることができるものと解する。
  (3) 損害額のまとめ
上記によれば,本件において,原告が被告に対し,特許法102条1項に
基づいて賠償を請求することができる損害額は,本件特許権に対応する原告商品ウ
ルフ及び同チェリーの1台当たりの利益の額18万7290円に被告製品の販売数
量3万9600台(イ号物件のうち3万0600台及びロ号物件の全数9000台
の合計)を乗じた74億1668万円と認めるのが相当である(前述のとおり,特
許法102条1項の損害額がその性質上概算額であることに照らし,1万円未満は
切り捨てる。)。
187,290×(34,000×0.9+9000)=7,416,684,000
6 被告及び被告補助参加人のその余の主張について
 また,被告及び被告補助参加人は,原告や被告補助参加人らによって形成
された実施許諾契約関係が存在している限り,原告は,本件特許権に関して,被告
補助参加人に対して案分実施料の支払を求めることができるにとどまり,被告に対
して特許権侵害を理由とする損害賠償を請求することはできないと主張する。
 被告及び被告補助参加人の上記主張は,結局のところ,本件特許権につい
て被告が被告補助参加人の下における実施許諾契約関係を介して再実施許諾を受け
ているという前記抗弁を繰り返すものであって,本件特許権が被告のいう再実施許
諾関係の下における許諾の対象となっていない場合に,これと別個の独立した抗弁
たり得るものとはいえない。
 既に説示したとおり(上記4参照),本件特許権は,許諾の対象となって
いるものではなく,上記実施許諾契約は,これに参加している特許権等の保有者の
保有する,出願中のもの及び将来登録されるものも含め,すべての知的財産権を実
施許諾の対象としているとは認めることはできず,特許権等の保有者は,その保有
するすべての知的財産権を許諾の対象としているものではない。被告及び被告補助
参加人の主張するところは,許諾の対象とされていない権利を許諾の対象とされて
いる権利と同等に扱うことを求めるものであって,到底採用することはできない。
 同様の理由により,上記のような事情を根拠にする被告及び補助参加人の
権利濫用の主張も,採用できない。
7結論
以上によれば,原告の本訴請求は74億1668万円及びこれに対する侵害
行為の後である平成11年10月30日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官    三  村  量  一
裁判官村  越  啓  悦
    裁判官  青  木  孝  之
被告製品目録
1イ号物件
製品名を「ウルトラマン倶楽部3」とするパチンコ型スロットマシン
その構成は,別紙イ号物件説明書のとおり
2 ロ号製品
製品名を「ジャパン2」とするパチンコ型スロットマシン
その構成は,別紙ロ号物件説明書のとおり
イ号物件説明書第1図第2図-1第2図-2第3図-1~3(A)-1,2,
(B)-1,2,(C)-1,2,(D)-1,2ロ号物件説明書第1図第2図-
1第2図-2第3図-1~3(A)-1,2,(B)-1,2,(C)-1,2,
(D)-1,2別表1,2

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