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裁判例


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○ 主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者双方の求める裁判
一 原告
1 被告は原告に対し左記金員を支払え。
(一) 金八万五、六〇〇円及びこれに対する昭和四五年八月二八日から支払ずみ
にいたるまで年五分の割合による金員
(二) 昭和四五年九月六日限り金一、八〇〇円
昭和四六年一月六日、同年五月六日、同年九月六日限り各金八、〇〇〇円
昭和四七年一月六日、同年五月六日、同年九月六日限り各金九、二〇〇円
昭和四八年一月六日、同年五月六日、同年九月六日限り各金一万三、二〇〇円
昭和四八年一〇月から原告死亡に至るまで毎年一月、五月、九月の各月六日限り各
金二万円
および右各金員に対する右支払期日の翌日から支払ずみにいたるまで年五分の割合
による金員
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 被告
1 主文と同旨
2 仮執行免脱宣言
第二 当事者双方の主張
一 原告(請求の原因)
1 原告の地位及び処分の経緯
(一) 原告は明治二九年二月三日生まれの日本国内に住所を有する日本国民であ
り、七〇才に達した昭和四一年二月三日に当時の昭和四一年法律第六七号による改
正前の国民年金法(以下国民年金法を単に「法」という。)八〇条二項本文の規定
により、法七九条の二の老齢福祉年金の受給資格を取得した。
(二) そこで、原告は、昭和四一年二月四日老齢福祉年金の裁定の請求をしたと
ころ、北海道知事は同月二五日原告が老齢福祉年金の受給権者であることを裁定し
た。
(三) 原告は、以下の事情により当時公的年金給付である恩給法第七三条、第七
五条第一項第三号に基づく増加非公死扶助料金八万一、一五四円を受給していた。
(1) 原告は大正六年三月一〇日亡訴外A(明治一四年五月三日生)と婚姻し
た。
(2) 亡訴外人は、明治三七年八月六日陸軍第七師団工兵第二中隊に入隊し、陸
軍一等卒として乃木将軍の指揮下で日露戦争における旅順渡辺山攻撃に参加した
が、同年一二月二三日の戦闘において敵兵の射撃により右腰部に盲管銃創を受けて
第一師団野戦病院に収容され、翌明治三八年二月一五日帰郷し、明治三九年三月二
〇日除隊するに至つた。
しかし同亡訴外人の腰部には小銃弾が残留し、そのため右腰部、右下肢に疼痛を訴
え、手術の効もなく頭内もうろう、歩行困難、運動神経麻痺などの症状を呈し、廃
人同様の余生を送り、昭和三二年五月二〇日死亡した。
(3) 同亡訴外人は、昭和二八年一一月二日普通恩給(恩給法第四五条)と増加
恩給(恩給法第四六条)の受給権の裁定を受け、その後死亡までその支給を受けて
いたがその死亡時の年金額は、普通恩給二万〇、二〇〇円、増加恩給二万一、八〇
〇円、合計金四万二、〇〇〇円であつた。
(4) 同訴外人の死亡により、原告は恩給法第七三条、第七五条第一項第三号に
基き増加非公死扶助料を受給するに至つたが、その昭和四一年二月二五日当時の年
額は金八万一、一五四円であつた。
(四) ところで、当時の国民年金法(昭和四一年法律第六七号による改正前の国
民年金法)第七九条の二第六項(同法第六五条第一項、第三項準用)によれば、年
額金二万四、〇〇〇円以上の公的年金給付を受けている老齢年金受給権者に対して
は、老齢福祉年金(当時その金額は金一万五、六〇〇円であつた)の支給を停止す
る旨定められていたところ、北海道知事は、昭和四一年二月二五日原告に対し、原
告が当時すでに右金二万四、〇〇〇円をこえる金八万一、一五四円の増加非公死扶
助料を受給していることを理由として老齢福祉年金の支給を停止する旨の処分(以
下「本件処分」という。)をした。
2 被告の老齢福祉年金の支払義務
(一) 本件処分は後記3のとおり無効であるから、原告は前記受給権の裁定に基
づき昭和四一年二月二五日以降老齢福祉年金の支給を受ける権利を有する。
(二) ところで老齢福祉年金の昭和四一年三月以降昭和四五年八月までの支給額
および同年九月以降の支給日、支給額は別表(一)のとおりであり、または被告昭
和四九年一〇月分以降の分についても支払わない意向である。
(三) よつて被告は原告に対し、(1)昭和四一年三月以降昭和四五年八月まで
の分として金八万五、六〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四五年
八月二八日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、
(2)昭和四五年九月以降昭和四九年九月までの分として金一五万三、〇〇〇円及
び各支給日ごとに支給される各金員に対する右各支給日の翌日から支給ずみにいた
るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、(3)昭和四九年一〇月以降原告
の死亡に至るまで毎年一月、五月、九月の各月六日ごとに金二万円及びこれに対す
る右支給日の翌日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害
金、の各支払義務がある。
3 本件処分の無効事由
恩給法が公務扶助料と増加非公死扶助料を区別するのに対応して、国民年金法にお
ける老齢福祉年金の受給についても差別的取扱い、および所得による老齢福祉年金
の受給制限を定める国民年金法第七九条の二第六項、同法第六五条第一項、第三
項、第六項(昭和四一年法律第六七号による改正前のもの)およびこれに基づいて
なされた本件処分は、憲法第一四条に違反するもので無効である。
(一) 戦争公務扶助料を受けている者との差別の不合理性
昭和四一年法律第六七号による改正前の国民年金法七九条の二第六項で準用される
法六五条第一項、第三項、第五項は、老齢福祉年金について、戦死者らの遺族に対
しては、公的年金給付であつても恩給法第七五条第一項第二号に基づく公務扶助料
の受給との併給を認める優遇措置をとりながら、原告の亡夫Aのような戦傷により
廃人同様となりながらもそれを直接の原因としないで死亡した者の遺族に対して
は、右のような優遇措置はとつていない。
しかしながら、戦死者らの遺族と原告の亡夫のように当時の公務に起因する傷病が
不具疾病に達しながら死亡の直接の原因は他にある者の遺族との間に、右の併給の
可否について差別を設けることは合理的なものとはいえない。原告のような遺族に
とつて不具疾病となつた夫をかかえて長年月にわたり家計を支えてくることは、戦
死者の遺族の労苦と何ら変るところはなく、ある意味ではかえつて辛苦に満ちたも
のであるといえるからである。従つてこの点においては法の下の平等(憲法第一四
条)に反するものである。
(二) 一般所得を有する者との差別の不合理性
昭和四一年法律第六七号による改正前の国民年金法第七九条の二第六項で準用され
る法第六五条第六項は、労働、資産などにより年間二二万円未満の収入がある場合
には老齢福祉年金の支給を認めているのに、増加非公死扶助料という種類の所得が
ある場合には、それが右収入よりはるか低額である年額二万四、〇〇〇円を越すだ
けで老齢福祉年金の支給を停止している。
しかしながら、戦争により不具廃疾となりそれ以外の原因で死亡した夫をもつ原告
のような妻が、それゆえに一般の老人より不利益に取扱わなければならない理由は
なく、一般の老人と同様の権利は当然認められるべきであり、老齢福祉年金の支給
をなすに際し、その所得の種類によつて差別することは許されない。
二 被告(請求の原因に対する認否および主張)
1 (一)第一項(一)、(二)の事実はすべて認める。
(二) 第1項(三)の事実中、(2)項の廃人同様の余生を送つたとの点は否認
し、その余の事実はすべて認める。
(三) 第1項(四)の事実は認める。
2 第2、3項は争う。
3 本件処分の適法性
「老齢福祉年金の受給権者たる増加非公死扶助料受給者につき老齢福祉年金の支給
を停止することを定めた前記法の規定は憲法第一四条に違反する」旨の原告の主張
は次のとおり理由がない。したがつて、法の規定に基づいてなされた本件処分は適
法である。
(一) 老齢福祉年金の目的と性格
(1) 公的扶助制度と社会保障制度
イ 公的扶助制度は、憲法第二五条に定める理念に基づき、健康で文化的な生活を
営みえなくなつた国民に対し、その原因を問わず最低限度の生活を保障する制度で
ある。これは、わが国においては生活保護法の定めるところである。この制度によ
つて、すべての国民は、最終的には健康で文化的な最低限度の生活が担保される建
物がとられている。つまり、公的扶助制度(生活保護制度)は、現に窮乏の状態に
ある者に対し、最低生活の保障を行なおうとするものであるから、その所得の保障
は「必要に応じて」なされるべきものであつて、具体的には予め国家が最低生活の
基準を定めておいて所得がその水準に達しない者に対して、その不足分を金銭また
は現物を給付して補うという建前がとられている。したがつて、その保障をなすに
際しては、現に窮乏の状態にあるか否か、すなわち自力では健康で文化的な最低生
活を営みえないか否かの最終行政庁の判定(具体的には、資産調査および収入調査
等)が前提となることが、この制度の特色である。
ロ これに対し、社会保険制度は、通常その生活を脅かす老齢、廃疾、死亡その他
所得の喪失、経済上の負担を招来する事故に際し、そこに生ずる生活上経済上の脅
威に対して、国家的な保険技術を通しその危険を大量的に分散しつつ救済を図るこ
とを目的とする制度であり、いわば事前的な防貧施策的性格を有するものである。
わが国では、国民年金法、厚生年金保険法等の定める制度がこれにあたる。この制
度と公的扶助制度との基本的な差異は、公的扶助がその財源を一般財源に依存して
いるのに対して、社会保険は被保険者および事業主からの保険料等の形式による特
定の拠出金に依存していること、さらには、公的扶助の場合には、受給者や給付金
額が個々的に基準に照らして行政庁が認定することによつて初めて定まるのに対
し、社会保険の場合、これらの点が法律上明定され、給付が一般的に定型化されて
おり、行政庁の個々のケースに対する判断介入の余地が極めて限られていることの
二点である。
ハ したがつて、公的扶助および社会保険両制度における所得の保障は、それぞれ
の目的に照らし、その役割分担を異にしている。すなわち、社会保険においては、
事故の際の生活のよりどころとするため、保険料との相関々係を考慮しながらそれ
ぞれの社会保険の目的に応じた給付を行なおうとするものであり、公的扶助は、最
低限度の生活を保障するという絶対的な水準を確保しようとするものである。
したがつて、社会保険制度の重要な柱である国民年金制度の一に該るところの老齢
福祉年金制度の受給制限の妥当性、合理性を生活保護制度と同一の次元で論じえな
いことをまず留意すべきである。
(2) 国民年金制度
わが国の年金制度は、昭和三六年の国民皆年金制の実施および通算年金通則法の施
行によつて、国民だれでもがいずれかの年金制度の下にある国民皆年金の体制とな
つた。すなわち、一般民間被用者は厚生年金保険に、国家公務員および公共企業体
の職員はそれぞれ共済組合に、また一般民間被用者のうち農林漁業業団体職員や私
立学校の教職員もそれぞれの共済組合に加入し、その余の自営業者、農民等は国民
年金に加入することとなつており、それぞれの制度は、加入者の保険料拠出を中心
に運営される保険方式が採られている。特に国民年金についていうならば、国民年
金は、老齢、廃疾または死亡によつて、国民生活の安定がそこなわれることを国民
の共同連帯によつて防止することを目的とするものであつて(法第一条)、拠出制
の年金を基本とし、他の公的年金制度に加入していない自営業者、農民等を被保険
者とし、毎月一定の保険料を納付する建前をとつている。そして、年金給付の種類
は、老齢、通算老齢、障害、母子、準母子、遺児および寡婦の七種類があり、その
うち老齢年金は、法定の年令と拠出期間のみを支給要件とし、受給権者の稼得状況
や所得資産状況を全く問わないこととされている。
(3) 老齢福祉年金
イ 国民年金制度が保険料拠出を前提とする制度である以上、年金の受給には当然
に一定の資格期間が必要と解されるところから、制度発足時(昭和三四年一一月)
にすでに高齢である者、つまり明治四四年四月一日以前に生まれた者は、今後の保
険料拠出によつて資格期間を満たすことが困難であるため、保険制度の建前上これ
らの者を被保険者から除外することとした(昭和三四年法律第一四一号の法七四
条)。しかしながら、これらの者に対しては、国民皆年金体制をより実のあるもの
にし、むらなく年金をゆきわたらせるという趣旨から、無拠出制であつても全額国
庫負担で年金を支給することとした(同法第八〇条、第八五条二項)。これがいわ
ゆる経過的福祉年金といわれるものである。
すなわち、老齢福祉年金は、国民年金制度が保険方式をとつている建前から、その
対象となしえない老齢者に対する経過的暫定的な制度であり、当然国民年金制度の
範ちゆうに含まれるものであつて、公的扶助とはその性格を異にしている。
ロ 老齢福祉年金は、憲法第二五条第二項の規定に基づく国の積極的な社会保障施
策として、国民年金制度の発足に伴い保険制度の建前上、その対象となり得ない老
齢者に対し、その日々の生活に潤いを与えて、生活をより豊かなるものとするため
にその所得の一部を保障する意味で支給されるものなのである。
国民に、すべて老齢者であると否とにかかわらず、私産、私的扶養、そして最終的
には公的扶助たる生活保護の制度によりいわゆる最低限度の生活が確保されること
になつている(生活保護法第一ないし第四条)が、老齢福祉年金の制度は、これに
よつて老人の健康で文化的な最低限度の生活を保障しようとするものではなく、こ
の生活保障は、生活保護法等で満たされる。したがつて、老齢福祉年金は、生活保
護法に基づく給付を受給していると否とにかかわりなく、老齢者であれば支給され
ることになつているのである。
(二) 戦争公務扶助料を受けている者との差別の合理性
(1) 戦争公務扶助料とは、恩給法第七五条第一項第二号に基づく公務扶助料受
給者のうち、国民年金法施行令で定める者が受給する公務扶助料であつて、戦争に
よる負傷もしくは疾病によつて死亡した旧軍人等の遺族に対する給付をいう(恩給
法第七五条第一項第二号、昭和三七年政令一八六号による改正後の国民年金法施行
令第五条の二第一項第二号、同条第二項表の第二参照)。そして、右の死亡した旧
軍人等は、戦地等酷烈な環境下において生命の危険にさらされつつ公務に従事し、
その間に公務による負傷又は疾病のために死亡したものであるから、これらの者の
遺族に対し、恩給法、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の法令により公務扶助料、遺
族年金等の給付が行なわれることとされている。ところで、戦争公務による死亡者
(以下戦死者等という)は、右に述べたごとく酷烈な環境下で生命の危険にさらさ
れつつ公務に従事したものであり、さらにそのほとんどは国家権力により徴兵され
戦地に赴いたもので、この点において遺族の受けた精神的な苦痛は測り知れないも
のがあると推測されるのであつて、国においても、この事情を考慮し、かつ、過ぐ
る大戦中の戦死者等が多数にのぼることにかんがみ、とくに戦死者等の遺族に対し
ては、戦傷病者戦没者遺族等援護等を制定して、恩給とは別個に年金を支給し、他
方、恩給においても公務扶助料の額の計算方法を優遇する等の特別の措置を講じて
いるのである。これらの給付は、戦傷病者戦没遺族等援護法一条において明示され
ているように、国家補償の精神に基づいて行なわれるものであつて、他の公的年金
とその支給目的および性格を全く異にするものであり、同一に論ずることはできな
いものである。昭和四一年法律第六七号による改正前の国民年金法第七九条の二第
六項で準用される第六五条第五項の規定は、戦争公務扶助料が一般の公的年金給付
とは全く性格の異なるものであるとの認識に立脚しつつ、戦死者等の遺族の置かれ
た特別の立場にかんがみ、国家補償の見地から支給される戦争公務扶助料の受給者
に対し、一定限度内で福祉年金を支給するとの趣旨に出ずるものである。しかし
て、その限度額については、戦争公務扶助料の額および戦争公務扶助料受給者の生
活感情を考慮したうえ妥当と考えられる額としている。
(2) 次に、原告の受給する増加非公死扶助料は、増加恩給の支給を受けていた
旧軍人等又はその支給を受けることができた旧軍人等が、増加恩給の支給事由とな
つた戦争公務による傷病以外の傷病、いわゆる平病によつて死亡したとき、その遺
族に支給されるものである(恩給法第七五条第一項第三号)。原告のごとく、平病
により死亡した者の遺族と戦死者等の遺族とでは、その置かれた立場に大きなへだ
たりがあるのはいうまでもなく、この相違に応じて国民年金において併給限度額に
差異を設けたからといつて、その根拠条項である昭和四一年法律第六七号による改
正前の国民年金法第六五条第一、第三、第五項および以後の改正法における同旨の
規定が憲法第一四条に違反するものではない。
なお恩給法においても、増加恩給の受給者が増加恩給の支給事由となつた戦争公務
による傷病により死亡した場合、公務扶助料が支給されるが、平病死の場合には公
務扶助料が支給されないこととされている。これはいうまでもなく平病死した者の
遺族と戦死者等の遺族とではその置かれた立場に相違があることを認めているから
である。
(三) 所得による支給制限の合理性
(1) 老齢福祉年金は社会保険制度の一環としての年金であるから、本来、老齢
者の資産所得等に関係なく支給さるべきものである。それにもかかわらず、法が昭
和四一年二月当時において金二二万円以上の所得を有する者に対し一か年間この支
給を停止することとしたのは、老齢福祉年金が保険料拠出に対する反対給付として
ではなく、無拠出の全額国庫負担によつて支給される年金であるため、自己の所得
によつてすでに生活に余裕のある者にまでこれを支給する現実的な必要がないこ
と、限られた国家財政等を考慮したことによるものである。
(2) 公的年金受給による支給制隅dよらポ固○平壷創度における国民年金と他
の公的年金との機能的調整に由来するものであるのに対し、所得による支給制限
は、国民年金における福祉年金制度自体の事由に基づくものであるから、右二つの
支給制限を同一の次元で論ずることは妥当ではなく、したがつて、単にその支給制
限額に差異があるということのみで、直ちに昭和四一年法律第六七号による改正前
の国民年金法第六五条第六項およびその後の改正法における同旨の規定が憲法第一
四条に違反する無効な規定と断ずるのは、国民年金制度における老齢福祉年金の趣
旨を正しく理解していないものであつて、原告の右のような主張は失当であること
が明らかである。
(四) 以上のとおりであるから、「老齢福祉年金の受給権者たる増加非公死扶助
料受給者につき、老齢福祉年金の支給を停止すを停止することを認めた法の規定は
不合理な差別をするものであつて、憲法第一四条に違反する」旨の原告の主張はそ
の理由がなく、したがつて、法の規定に基づいてなされた本件処分も憲法第一四条
に違反せず、本件処分は適法なものである。
三 原告(被告の主張に対する反論等)
1 請求の原因第1項(三)(3)の事実中、亡Aが廃人同様の余生を送つたとの
点については、従前被告はこれを認めていた(昭和四五年一一月六日付被告準備書
面一2(一)項参照)にもかかわらず、前記のとおりこれを否認するに至つたが、
これは自白の撤回であり、原告は右自白の撤回について異議がある。
2 被告は、公的扶助制度と社会保険制度との制度目的、役割を強調する立場にた
ち、老齢福祉年金制度の受給制限の妥当性、合理性を判断するにあたり生活保護制
度と同次元では論じられないと主張するが、右主張は観念的論理であつて排斥され
るべきである。現実には多くの老人達は乏しい貯蓄、物価高、住宅不足などの生活
苦の中で親族扶養や厳しい公的扶助の下で僅かな老齢福祉年金も生活必需の資にあ
てることを余儀なくされている。このような現状を前提とするとき、社会保障全般
の立ち遅れているわが国にあつては老齢福祉年金制度と生活保護制度を峻別してい
く形式論理的な考察だけではなく、実態に即した実質的考察を加味すべきである。
この点において、右事情に加え、廃疾となつた夫Aをかかえて生計を維持してきた
原告の労苦は十分に斟酌されるべきである。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
一、原告に対する老齢福祉年金併給停止処分
原告が明治二九年二月三日生れであり、昭和四一年二月三日満七〇才に達したもの
であること、原告は大正六年三月一〇日亡A(明治一四年五月三日生)と婚姻した
ものであるが、亡Aはこれより先である明治三七年八月六日陸軍第七師団工兵第二
中隊に入隊し、陸軍一等卒として日露戦争における旅順渡辺山攻撃に参加し、同年
一二月二三日の戦闘において右腰部盲管銃創を受け、明治三八年二月一五日帰郷療
養し、その間陸軍工兵上等兵となつた上、明治三九年三月二〇日除隊したが、その
腰部には小銃弾が残留し、腰痛、下肢疼痛、歩行困難、運動神経麻痺等を呈し、恩
給法上いわゆる不具廃疾となつたこと、そして亡Aはそのため恩給法第四六条によ
り昭和二八年一一月二日普通恩給および増加恩給の受給権の裁定を受け、これを受
給していたのであるが昭和三二年五月二〇日老衰のため死亡したこと、そこで原告
は以後恩給法第七五条第一項第三号に規定する増加非公死扶助料受給権者たること
の裁定を受け、これを受給するにいたつたが、その昭和四一年二月三日当時におけ
る額は金八万一、一五四円であつたこと、原告は前記の如く満七〇歳に達した以後
である昭和四一年二月国民年金法(昭和四一年法律第九二号による改正前のもの)
に基づき北海道知事に対し、老齢福祉年金裁定の請求をしたところ、同知事は同年
二月二五日原告が老齢福祉年金受給権者である旨裁定したが、国民年金法(昭和四
一年法律第九二号による改正前のもの)第七九条の二第六項(同法第六五条第一
項、第三項準用)において、増加非公死扶助料と老齢福祉年金(当時金一万五、六
〇〇円)との合算額が金二万四、〇〇〇円をこえるときは、老齢福祉年金のうちそ
のこえる額に相当する部分については、その支給を停止する旨定められていたた
め、原告が右増加非公死扶助料金八万一、一五四円を受給していたことを理由とし
て同日、更に老齢福祉年金の支給を停止する旨裁定したことは当事者間に争いがな
い。
二、原告は、「国民年金法(昭和四一年法律第九二号による改正前のものおよび以
後の各同法改正法)が、老齢福祉年金の供給につき、増加非公死扶助料受給権者を
戦争公務扶助料受給権者の場合に比して差別して扱つているのは不合理な差別であ
つて、憲法第一四条に違反する。」旨主張するので、以下この点につき検討する。
1 老齢福祉年金併給についての増加非公死扶助料受給権者と戦争公務扶助料受給
権者との差異
国民年金法は昭和三四年四月一六日初めて昭和三四年法律第一四一号として成立
し、同年一一月一日から(一部分については昭和三六年四月一日から)施行される
にいたつたものであるが、同法においては、老齢福祉年金は受給権者が公的年金各
法に基づく年金たる給付を受けることができるときは、その支給を停止すること
(同法第六五条第一項第一号)、老齢福祉年金の額(当時金一万二、〇〇〇円)が
右公的年金給付額をこえるときは、そのこえる部分につき老齢福祉年金の支給を停
止しないこと(同条第三項)が定められていた。即ち、同法は、公的年金受給者に
は原則として国民年金を併給しないこととし、老齢福祉年金の額が公的年金の額を
こえる場合における併給の例外についても一律に取扱い、戦争公務扶助料受給権者
と増加非公死扶助料受給権者との間に格別の差は設けなかつた。ところが、同法は
昭和三七年法律第九二号により改正されるにいたり、かくて改正された国民年金法
は、その第七九条の二第六項(同法第六五条第三項、第五項準用)において、老齢
福祉年金の額(当時金一万二、〇〇〇円)と公的年金給付額とを合算した額が「金
二万四、〇〇〇円」をこえるときは、老齢福祉年金のうちそのこえる額に相当する
部分についてはその支給を停止することとしたが、他方、右公的年金が恩給法によ
る増加恩給、同法第七五条第一項第二号に規定する扶助料その他政令で定めるこれ
らに準ずる給付であつて廃疾又は死亡を事由として政令で定める者に支給されるも
の(戦争公務扶助料という)であるときは、右老齢福祉年金の額と戦争公務扶助料
支給額とを合算した額が「金七万円」をこえるときにのみ、老齢福祉年金のうちそ
のこえる額に相当する部分の支給を停止する旨定め、ここに初めて老齢福祉年金の
併給限度額につき、戦争公務扶助料受給権者と増加非公死扶助料受給権者との間に
差別を設けるにいたつた。そして、その後における国民年金法の改正の都度、老齢
福祉年金額は別表(三)のとおり逐次引上げられていつたが、戦争公務扶助料受給
権者に対する右併給限度額もこれに併う如く別表(三)のとおり逐次緩和され、昭
和四六年法律第一三号による改正後の国民年金法第六五条第四項およびこれに基づ
く政令(国民年金法施行令第五条の三)にいたり、準士官以下にかかるものについ
ては、右限度額が撤廃され(昭和四六年一〇月以降)、更に昭和四七年政令第二九
六号による右政令改正により中尉以下にかかるものについて右限度額が撤廃され、
次いで昭和四八年政令第二六九号による前記政令の改正により大尉以下にかかるも
のについて右限度額が撤廃されるにいたつたものの、増加非公死扶助料受給権者に
対する右併給限度額については別表(三)のとおりの緩和がなされたにすぎなかつ
たものであることは明らかである。
2 右立法の経緯
成立に争いのない乙第六ないし一三号証、第二〇ないし二二号証、鑑定人Bの鑑定
結果によれば以下の事実が認められる。
前記の如く、制定当初の国民年金法(昭和三四年法律第一四一号)は戦争公務扶助
料および増加非公死扶助料を含む公的年金受給者については等しく老齢福祉年金の
支給を停止する制度をとつたものであつたが、これに対し、特に恩給法又は遺族援
護法によつて旧軍人関係の扶助料、年金の支給を受けている戦争犠牲者の側から主
として(1)、公務扶助料、増加恩給などは、戦争による軍人、軍属の死亡又は傷
病に対する国家補償であつて、社会保障を目的としている老齢福祉年金とは性質的
に異なるものであることおよび(2)、戦争で息子を失つたような父母などの遺族
には老齢福祉年金が支給されず、息子が生還している場合には、その父母に老齢福
祉年金が支給されるのは不合理である旨の不満が表明されるにいたり、厚生大臣の
諮問機関である国民年金審議会特別小委員会は、数次の審議のうえ、(1)、公的
年金受給者に対しても老齢福祉年金を併給するものとすること、(2)、軍人恩給
公務扶助料など所謂戦争公務に基づく事故を支給事由とする公的年金は生活保障的
な要素とその他の精神的な要素が含まれていることを認めて、他の一般の公的年金
と区別した取扱いをすること、(3)、右(2)の区別の割合は普通扶助料に対す
る公務扶助料の倍率とすることを骨子とする答申を行うにいたつた。しかし、公的
年金受給者にも老齢福祉年金を併給するとしても、そのすべてにわたつて併給する
ことは財政的に見ても老齢福祉年金の趣旨から見ても適当ではないとの理由からま
ず一般の公的年金については、従前から、社会保障制度審議会において、所得保障
を目的とする年金制度たるにふさわしい年金額としては、少くとも月額金二、〇〇
〇円程度であることが望ましいという議論がなされていたこと、又当時更生年金保
険法の各年金の基本年金額が金二万四、〇〇〇円であつたことから、老齢福祉年金
と他の公的年金の支給額を合算して月額金二、〇〇〇円、年額金二万四、〇〇〇円
までのものに対しては老齢福祉年金を併給するものとすること、次に戦争公務に基
づく公的年金については、各制度共に他の一般の公的年金より比較的高額になつて
いるが、これは戦地等酷烈な環境下において命の危険にさらされつつ公務に従事
し、これが起因となつて死傷したのであるから戦争公務によつて減損した稼得能力
を補填するという生活保障的な面以外に精神的な面の要素が加わつていると見るこ
とができるところ、これらの公的年金には生活面と精神面とがどの位の割合をもつ
ているかについては判然と区別することはできないが、一応のよりどころとして、
恩給法における平病死にかかる普通扶助料と公務死にかかる公務扶助料の倍率をみ
ると、兵の場合では公務扶助料は普通扶助料の三倍強であつたところから、一般の
公的年金の併給基準額の金二万四、○○〇円のほぼ三倍程度に相当するものとして
金七万円を相当とすることとして、前記国民年金法の改正案が国会に上程され、審
議の結果、昭和三七年四月二八日法律第九二号国民年金法の一部を改正する法律が
成立するにいたつたものである。そして、その後における法律の改正により、戦争
公務扶助料は逐次増額改訂されていつたが、老齢福祉年金の額と戦争公務扶助料と
の合算額と右併給限度額との差額を併給することとしていたため、戦争公務扶助料
が増額改訂されると右限度額を越すにいたり、右併給が受けられなくなる関係か
ら、主として従前老齢福祉年金の併給を受けることができた者が右増額の結果老齢
福祉年金の併給を受けることができなくなる事態とならないようにとの配慮から、
老齢福祉年金の戦争公務扶助料との併給限度額が別表(三)のとおり引上げられて
いつた。しかるに、他方、戦争犠牲者に対する国の精神補償的要素が含まれている
という特殊性を認め得ない一般公的年金(増加非公死扶助料を含む)については、
老齢福祉年金の併給限度額を引上げるよりもむしろ、公的年金給付自体の充実を図
るとの見地から、その年金額の増額、最低保障額の引上等の措置はとられたが、老
齢福祉年金の併給限度額は据え置かれたままで経過し、漸く別表(三)のとおりの
緩和の途を辿つたに過ぎず、そのため両者の差は次第に著しくなつていつた。
3 老齢福祉年金制度およびその性格
(一) 老齢福祉年金制度
前記国民年金法(昭和三四年法律第一四一号)は、その第八〇条において、(1)
明治二二年一一月一日以前に生まれた者には、無拠出にかかわらず、昭和三四年一
一月一日に、又明治二二年一一月二日から明治四四年四月一日までの間に生まれた
者には七〇才に達したときに、同様に老齢福祉年金を支給する旨定めていた。
ところで、成立に争いのない乙第五号証、第一五ないし一九号証、第三一号証、鑑
定人Bの鑑定結果によれば、国民年金法における老齢福祉年金制度の趣旨および性
格について以下のとおりのことが認められる。
年金制度は、老齢、障害、死亡等国民が個々人では事前に十分な備えをしておくこ
とが困難な事故によつて生活の安定がそこなわれるのを社会連帯の考え方に立つて
公的に救済し、国民生活の安定を図ろうとする制度である。わが国の公的年金制度
は、古く明治初年に軍人恩給制度として始まり、間もなく文官に対する恩給制度も
発足し、これらは大正一二年に恩給法(大正一二年法律第四八号)に統一され、又
現業官庁に勤務する者に対しては、大正八年頃から官業共済組合が設立されていた
が、これらが旧国家公務員共済組合法に引継がれ、更に前記恩給法と合体した現在
の国家公務員共済組合法、地方公務員共済組合法、公共企業体職員等共済組合法に
おいてこれが図られるにいたつた。又民間の被用者の年金制度としては、昭和一四
年に船員保険法が制定され、先ず海上労働者に対する年金制度が実施され、昭和一
六年の工場、鉱山等の一般労働者を対象とする労働者年金保険法がこれに続き、更
に後者は昭和一九年には適用対象を事務職員および女子まで包含した被用者一般に
拡大され、厚生年金保険法となつた。このように国民の一部の被用者についてはそ
れぞれ年金制度が設けられるにいたつたが、それ以外の農民等自営業者、零細企業
被用者等にあつては依然として制度の外にとり残されてきた。そこで、終戦後にお
ける家族制度の崩壊、人口の老齢化、社会保障意識の昂揚、戦後の急速な経済復興
といつた社会的諸要因を背景として、これら既設の制度からとり残された人々にも
年金制度の保護を及ぼすという国民皆年金の理念に基づいて、昭和三四年四月一六
日初めて国民年金法(昭和三四年法律第一四一号)が制定されるにいたつた。
ところで、国民年金制度につきこれを拠出制とするか無拠出制とするかについては
種々議論のあつたところであるが、前記国民年金法は、拠出制年金法を基本とし、
これに無拠出制年金を経過的、補完的に併用するという構成をとるにいたつた。こ
れは(イ)、老齢のように誰でもいつか到達するに違いない事態については、こと
に予め所得能力のある若い間に自らの力でできるだけの備えをすることは生活態度
として当然であること、(ロ)、従来の各種被用者年金制度がすべて拠出制によつ
ているので、被用者以外の者について無拠出とすることは不均衡を招くこと、
(ハ)、欧米先進国も拠出制を採用していること、(ニ)、拠出による積立金の運
用により、一面、国民経済の成長に寄与し、他面、その果実により給付を高くでき
ること、(ホ)、無拠出制を基本とするとその財源を所得税等国の一般財源に求め
ざるを得ない関係上、財政支出の急激な膨脹が避けられず、特に我国のように老齢
人口が将来急激に増加して行く国においては、将来の国民に過重な負担を負わせる
結果ともなり、それを避けようとすれば、いきおい年金額などの制度の内容が社会
保障制度の名に値しない程に不十分なものとならざるを得ないこと、(ヘ)、しか
し乍ら、拠出制一本の制度とした場合には、制度発足当時既に老齢等事故の発生し
ているものに対しては拠出期間の要件が備わらないために年金の保護が及ばないと
いう結果となることおよびこの制度の対象となる国民所得状況から見て貧困のため
に拠出ができない者がいる場合には、やはり年金の保護が及ばないという結果とな
るがかくては不公平となるから、全面的に拠出制によるものではなく、拠出制を基
本としつつ、経過的、補完的に無拠出制を認めることにより国民皆年金体制を整え
ることにすれば、一部の年金は直ぐに支給できるし、拠出制の欠陥を補うことがで
きるという考慮に出たものであつた。
国民年金制度は、前記の如く、国民皆年金制確立のため他の公的年金制度によつて
保護されない国民を対象に創設されたものであつて、拠出制を基本とし、無拠出制
年金たる福祉年金は経過的なもの、補完的なものとして設けられたものである。
経過的福祉年金は制度発足の昭和三四年一一月一日において既に老齢廃疾、死亡事
故が発生しており、他の公的年金制度および国民年金法の拠出制によつても給付が
受けられない者および拠出制年金が発足した昭和三六年四月一日において五〇才を
こえ、拠出制年金に加入することができない者を対象とするものであり、又補完的
福祉年金は拠出制年金の対象者でありながら事故が発生したときに拠出要件を充足
しないため拠出制年金を受けられない者に対するものである。
経過的福祉年金のうち老齢福祉年金は、明治二二年十一月一日以前に生れた者(即
ち国民年金制度発足の昭和三四年一一月一日において七〇才をこえる者)には昭和
三四年一一月一日に、又明治二二年一一月二日から明治四四年四月一日までの間に
生れた者(即ち昭和三四年一一月一日において七〇才をこえない者のうち拠出制老
齢年金発足の昭和三六年四月一日において五〇才をこえる者)には、七〇才に達し
たときに支給されるものであり、そしてその給付額は、金一万二、〇〇〇円であつ
た(同法第五四条。右支給額はその後数次にわたつて改訂されたが、その経緯は別
表(三)のとおりである)。
(二) 老齢福祉年金の性格
老齢福祉年金制度が前示の如きものであるとするならば、それは生活に困窮した者
に対し具体的に最低生活を保障するという趣旨のものではなくして、生活困窮の状
態にある者よりやや高い層に対してその所得の一部を保障する趣旨のものと解する
のが相当である。
一般的にいつて老齢化による所得能力の減少又は喪失に加えて、身体の老化などに
よる医療費等の増加などのために、老齢者の生活状態は若年時に比較して相当程度
低下することは明らかというべきであり、それ故国がそれに対して何らかの救済制
度をとる国法上の義務があるものということができ、前示国民年金法もまたその趣
旨に出たことは明らかである。ところで老齢化による生活状態の低下に対しては、
国が老齢者らのうち具体的に生活に困窮している者に対してのみ最低生活の全部を
保障する救貧的救済をなす制度と、生活に困窮していると否とにかかわらず、老齢
化という現象を捉えて、これに対して一定の年金を給付することによつて所得の一
部を保障するという防貧的制度が考えられるわけであるが、前記老齢福祉年金はこ
とに(イ)その給付に当つてはいわゆる資力調査(ミーンズ・テスト)を行うこと
なく実施されるものであること又(ロ)給付額も一定金額を以てなされることおよ
び(ハ)前記立法の経緯に照らせば、老齢者に対して老齢のみを要件としてその所
得の一部を保障する趣旨のものと解するのが相当である。
4 戦争公務扶助料と増加非公死扶助料との性格上の差
(一) 戦争公務扶助料は前記の如く恩給法による増加恩給、同法第七五条第一項
第二号に規定する扶助料その他政令(国民年金法施行令第五条の三)で定めるこれ
らに準ずる給付であつて、廃疾又は死亡を事由として右政令で定める者に支給され
るものに含まれるものであり、恩給法上、戦争公務扶助料は増加非公死扶助料に比
して高額となるように定められているものであるが、それは国家権力により徴兵さ
れて戦地に赴き、苛烈な環境の下において生命の危険にさらされて公務に従事しつ
つ死亡した旧軍人の遺族に対するものであるところ、これら遺族は戦争の最大の犠
牲者であるということができるから、右戦争公務扶助料の中にはこれら戦争犠牲者
に対する精神的損害の国家賠償の要素が含まれているからであると見ることができ
る。従つて戦争公務扶助料には生活保障的部分と右精神的損害の国家賠償的な部分
とが含まれているものと見ることができる。
これに対して、増加非公死扶助料には右精神的損害の国家賠償の要素は含まれてい
ないものと見るのが相当である。即ち、増加非公死扶助料は、増加恩給受給者が、
戦争による負傷に起因しないいわゆる平病死した場合に、その死亡当時その者によ
り生計を維持し又はその者と生計を共にしていた一定範囲の親族に対し、増加恩給
受給者の死亡による収入の減少を補填することを目的として支給されるものであつ
て、増加恩給受給の原因となつた戦傷による不具廃疾についての精神的損害の国家
賠償の要素は含まれておらず、右戦傷による不具廃疾についての精神的損害の賠償
的要素は増加恩給受給者本人に対する増加恩給の中にこそ含まれているのである。
けだし、本人の戦傷によりその近親者が精神上の苦痛を受けた場合には、その当時
の近親者は本人と並んで固有の精神的損害に対する損害賠償請求権を有するのが筋
合であるが、増加非公死扶助料は、増加恩給受給者本人が平病死した場合に初めて
受給権が発生するものであり(恩給法第七三条)かつ本人の死亡当時本人と同一家
計にあつた一定の遺族に対し一定の順序により給付されるものであり(同法第七二
条)本人戦傷当時において親族であつたか否かはこれを問わないものであるからで
ある(従つて原告の場合のように亡Aの戦傷後に同人の妻となつた者であつても、
受給権を取得することができる。)
原告において「増加非公死扶助料受給者は戦争公務により不具廃疾となつた本人を
かかえて長年月にわたり家計を支えてきたものであつてその労苦は戦争公務により
死亡した者の遺族と何ら変るところはなく、又戦死者と戦争公務に起因した疾病に
より不具廃疾となつたうえ、それを直接の原因としないで死亡した者との間に差別
を設ける実質的な合理性はない。」旨主張するが、仮にたまたま亡Aが廃人同様の
余生を送つたとしても、又原告がたまたま長年月亡Aを介護し辛苦を重ねたものと
しても、だからといつて原告の受ける増加非公死扶助料が他の者の受ける増加非公
死扶助料と異なる性格のものと見ることは困難であるし、戦死者と戦傷者ひいては
戦死者の遺族と戦傷者の遺族それぞれの間には生命の存否という点において本質的
相違があるのであるから、恩給法上その間に差別を設けることは不合理とはいえな
いものというべきである。
(二) しかしながら、戦争公務扶助料と増加非公死扶助料とには右の如き性格お
よび趣旨上の差が存するものの両者共に老齢福祉年金制度と共通の要素を含むこと
はこれを否定することはできない。このことは前記当初の立法たる国民年金法(昭
和三四年法律第一四一号)が、これら公的年金受給権者については老齢福祉年金の
支給を停止する旨定めていたことからも窺え得るところである。
5 戦争公務扶助料と増加非公死扶助料との右性格上の差を老齢福祉年金制度にも
たらすことの適否について
(一) 戦争公務扶助料と増加非公死扶助料の性格に右の如き差異があるとすれ
ば、その特殊性に応じて、恩給法上、両者異つた取扱いをすることは合理性がある
ものといわなければならないが、このことは、前記老齢福祉年金制度においても両
者を差別して取扱いする合理的な根拠とはなり得ないものというべきである。けだ
し老齢福祉年金は七〇才に達した老齢者に等しくその所得の一部の保障をなす趣旨
に出たものであつて、精神的損害の賠償の要素は全く入る余地のないものであるこ
とは明らかであるところ、戦争公務扶助料も増加非公死扶助料も共に老齢福祉年金
と共通のかつ等しい額の所得の一部の保障を既になしているものとすれば、(戦争
公務扶助料はその上に精神的損害の国家賠償の部分が付加されている)両者にそれ
ぞれ老齢福祉年金を併給する場合併給額において異つた取扱をすることは平等主義
の原則上許されないものといわなければならない。
ところで、恩給法において戦争公務扶助料と増加非公死扶助料との所得の一部の保
障部分がそれそれぞれ自体では防貧的制度としては十分とはいえず又老齢福祉年金
相当額に満つるものといえない場合には右所得保障部分にそれぞれ老齢福祉年金の
併給を以て補うことは立法上許されないものではないというべきである。そうとす
れば前記昭和三七年法律第九二号により改正された国民年金法において、戦争公務
扶助料受給者および増加非公死扶助料受給者に対して共にそれぞれ併給限度額を設
けたうえ老齢福祉年金を併給することとしたことも許されないものではないという
べきである。
次に、前記昭和三七年法律第九二号により改正された国民年金法において、老齢福
祉年金の戦争公務扶助料との併給限度額(金七万円)を増加非公死扶助料との併給
限度額(金二万四、〇〇〇円)よりも高額に定めたことは、両者に対する老齢福祉
年金の併給額をほぼ等額とするための措置なのであるから、それ自体は合理性を有
するものといわなければならない。(この場合、それぞれの併給限度額に差をつけ
ず、両者の併給限度額を等額と定めたとすれば、却つて、戦争公務扶助料受給権者
に対して老齢福祉年金の併給につきより厳しい制限を設けた結果となる)。
ところで戦争公務扶助料受給者については、恩給法上給付額が引上げられるに伴
い、従前老齢福祉年金の併給を受けることができた利益を失う事態が生じないよう
にとの配慮から、昭和三九年法律第八七号以降の各国民年金法の改正法において右
併給限度額が引上げられていき、遂には右併給限度額を廃したのに拘らず、増加非
公死扶助料受給者についてはこれに相応した措置がとられなかつたことは前示のと
おりである。そうしてみると、戦争公務扶助料受給者については、老齢福祉年金併
給の措置を講じながら、増加非公死扶助料受給者に対しては老齢福祉年金の併給を
拒否するに等しいものであるから、昭和三九年法律第八七号以降の各国民年金法の
改正法において増加非公死扶助料受給者に対して併給制限を定めた規定は、戦争公
務扶助料受給者に対する併給制限に比し、同等以上の制限又は合理的な範囲をこえ
る厳しい制限を加えたものというべきであつて、合理的根拠に乏しいものというべ
きである。
(二) しかしながら、右法規が憲法第一四条第一項に違反するものといい得るか
否かについては更に検討を要する。憲法第一四条第一項は法の下における平等をい
うものであるところ、同法第二五条の理念に基き老齢者に対して所得保障を行う場
合についていえば国は不合理な差別をしてはならず、すべて平等に扱うべきである
が、それは必ずしも単一の立法においてこれを実現すべきことまでを要するとする
ものではなく、共通な法体系を綜合して平等な扱いを図るときは、その趣旨に反し
ないものと解すことができる。換言すれば、共通な数個の立法を以て併せて目的の
実現を図るときに、その一個において外見上不合理と見える差別が存するとして
も、それのみで直ちに憲法第一四条第一項の趣旨に反するものと断ずることはでき
ず、他において明らかに代償的措置を何ら講じていないといえるときに初めて右差
別を以て右趣旨に反するものというべきである。
そうしてみると、前記昭和三七年法律第九二号によつて改正された国民年金法以
降、法は、戦争公務扶助料および増加非公死扶助料を含む公的年金受給者について
は、従来の公的年金制度自体において単独で国民年金制度の企図すると同一の所得
保障をして国民生活の安定を図ることを捨て、右各公的年金の一部であつて老齢に
よる所得保障を目的とする部分と老齢福祉年金の一部(戦争公務扶助料受給者のう
ち準士官以下のものについては昭和四六年一〇月以降老齢福祉年金の全部)とを併
せ支給することにより両者相俟つてはじめて老齢福祉年金制度におけると同等の所
得保障をして国民生活の安定を図ることとしたものと解される。
前記昭和三七年法律第九二号によつて改正された国民年金法以降併給を認めたこと
は、戦争公務扶助料と増加非公死扶助料の各受給者に対する所得保障を、恩給法だ
けでなく国民年金法をあわせて双方の給付をなすことによつて実現することに立法
の態度が変化したものと解することができるのである。
このように、併給を前提にしたうえで所得保障の優劣ないし差別の有無を決すべき
ものとすれば、比較の対象となるのは、恩給法上の扶助料と国民年金法上の老齢福
祉年金を合算したうえでなければならないのは理の当然であつて、そのいずれか一
方、とくに国民年金法上の給付の額や併給の限度額を比較しただけでは、戦争公務
扶助料の受給者と増加非公死扶助料の受給者間の差別扱いの有無を決することはで
きないものといわなければならない。ところが、原告は、単に国民年金法が老齢福
祉年金の併給につき、増加非公死扶助料の受給者を戦争公務扶助料の受給者の場合
に比して差別して扱つているのは不合理な差別であつて、憲法一四条に違反すると
いうのみで、恩給法との関係については何ら言及していない。そうだとすれば、右
国民年金法において老齢福祉年金の併給限度額につき戦争公務扶助料受給者と増加
非公死扶助料受給者との間に一見不合理と見える差別が設けられていても、直ちに
憲法第一四条第一項に反するものと断ずることはできず、恩給法等において増加非
公死扶助料受給者につき明らかに右代償的措置をとつていないものといえるときに
初めて右国民年金法の規定が憲法第一四条第一項に反する余地があるにすぎない。
しかるに、右昭和三七年法律第九二号以降これに対応する如く恩給法においても法
改正が行われ、戦争公務扶助料および増加非公死扶助料共にその給付額の引上が行
なわれたものであるが、右恩給法改正法に徴しても未だ増加非公死扶助料受給者に
つき右代償適措置がとられなかつたことが明らかであるとは到底認められないので
ある。
してみるとこの点からして右国民年金法の規定が憲法第一四条第一項に違反するも
のと断ずることはできず、従つて本件停止処分が無効であるということはできない
ものというべきである。のみならず、国民年金法自体において増加非公死扶助料受
給者につき右差別の解消を図るとすれば、右併給限度額に代るべき新たな併給限度
額を定立すべきこととなる(増加非公死扶助料受給者に対して前記併給限度額を定
めた規定が無効であるとしても、直ちに老齢福祉年金の全額を併給すべきものとな
るものでない。かくては却つて増加非公死扶助料受給者に比し優遇される結果とな
る。)ところ、これは従来法により与えられていた権利以上のものを新たに与えら
れる結果となり、裁判所が実質的に新たな立法をなすに等しいから、増加非公死扶
助料受給者に対して従来より以上の権利を与えるべき範囲ないし新たな併給限度額
が立法府の判断をまつまでもなく一義的に明白であつて、立法政策上の選択の余地
がない場合でなければ許されないというべきである。
しかるところ戦争公務扶助料には増加非公死扶助料とは異つた特殊性があり、かつ
共にその所得保障部分を老齢福祉年金の併給を以て補うこととしたことから、右併
給限度額に差を設けることは合理性を失わないと解されたことは前示のとおりであ
る。しかし前示の如く右併給限度額の定立は戦争公務扶助料額、増加非公死扶助料
額および老齢福祉年金額を互に勘案したうえでなされるものである以上、増加非公
死扶助料受給者に対する併給限度額を立てたうえ併給制限を定めた法の規定のう
ち、戦争公務扶助料受給者に対する併給制限と同等以上の制限を加えた部分又は合
理的な範囲をこえた制限を加えた部分がどれに当るかにつき定めることが立法府の
裁量的判断にまつまでもなく一義的に明白であるとは到底できないものである。
してみると、法が老齢福祉年金の併給制限について、戦争公務扶助料と増加非公死
扶助料とを差別して取扱つていることに合理性はないとしても、それを理由として
増加非公死扶助料受給者に対する老齢福祉年金の併給額を特定しその給付を求める
ことはできないものといわなければならないことになる。
三、老齢福祉年金併給における増加非公死扶助料受給権者と一般所得を有する者と
の差について
原告は、国民年金法(昭和四二年法律第九六号による改正前のもの)および以後の
同法改正法において、増加非公死扶助料受給権者に対する併給限度額と一般所得を
有する者に対するその支給限度額との間に差を設けているのは不合理な差別であ
り、憲法第一四条に違反する旨主張するので、以下この点につき検討する。
増加非公死扶助料受給権者に対する老齢福祉年金の併給限度額の推移は前示のとお
りであるところ、他方国民年金法(昭和四二年法律第九六号による改正前のもの)
は、その第七九条の二第六項(同法第六六条第一項)において老齢福祉年金受給権
者の前年度の所得が金二四万円をこえるときは、その年の五月から翌年の四月まで
その支給を停止する旨定め、右金額はその後の同法改正により別表(三)のとおり
推移しているものである。
前掲乙第五号証、第一五号証、第三一号証、鑑定人Bの鑑定の結果によれば、一般
所得を有する者に対する老齢福祉年金の支給停止の制度は前記創設の国民年金法
(昭和三四年法律第一四一号)において既に定められ(その限度額は金一三万円で
あつた)、別表(三)のとおりの推移を経たものであるが、その立法の趣旨は、老
齢福祉年金は、拠出に対する反対給付としてではなく、無拠出制で行なわれるとこ
ろから、国の財政負担を考慮し、又或る程度以上の所得があり生活にゆとりのある
者にまで支給する現実的必要性がないということにあつたことが認められる。
そして他方増加非公死扶助料受給を理由とする老齢福祉年金の支給制限は前示のと
おり、国民年金制度は他の公的年金制度によつて保障されない者に対する所得保障
制度であることから現実に他の公的年金を受けている者には老齢福祉年金支給を制
限せんとするものである。
そうとすれば、老齢福祉年金の増加非公死扶助料受給による支給制限はわが国の国
民年金と他の公的年金との機能的調整に由来するものであるに対し、一般所得によ
る支給制限は国民年金における老齢福祉年金制度自体の事由に基くものであつて、
その趣旨および機能を異にしているものであるから、両者を同一視して論ずること
はできず、夫々について定められた限度額について差があるからと言つて直ちに不
合理な差別であるということはできない。
四、そうしてみると本件老齢福祉年金併給停止を定めた法の規定が憲法第一四条に
違反する旨の原告の主張は理由がないから、本件老齢福祉年金併給停止処分の無効
を前提とし老齢福祉年金の給付を求める原告の本訴請求は理由がないことになる。
よつて原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法
第七条、民訴法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 磯部 喬 太田 豊 末永 進)
別表(一)省略

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