弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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判決要旨
 一、 地方裁判所の支部は、その地方裁判所の一部にほかならないから、地方裁
判所の本庁と支部との間においては、刑事訴訟法上の土地管轄の問題は生じない。
 二、 起訴状記載の公訴事実等を判決書に引用することを認めた刑訴規則第二一
八条は、判決書に罪となるべき事実を表示する方法に関する定をしたにすぎないも
ので、刑訴第四四条第一項または第三三五条第一項を改変したものではない。
 三、 D党地区委員会名義の宣伝ビラを警察官等に配布する目的で警察署庁舎に
立ち入る行為については、同建造物の看守者たる警察署長の黙示の同意または推定
的同意があつたものとはいえない。
 四、 建造物看守者の意に反して建造物に立ち入つた以上、その立入が平穏公然
になされたものであつても、建造物に侵入したものである。
 五、 警察署庁舎の看守権は、旅行その他看守権をみずから行使することのでき
ぬ事情があるためこれを他の者に委ねた場合のほかは、退庁して同庁舎内に現在し
ていなくても依然として警察署長にある。
         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人蓬田武の控訴趣意は別紙記載のとおりで、これに対する当裁判所の判断は
次のとおりである。
 論旨第一点について
 論旨は、本件は宇都宮地方裁判所栃木支部で審判すべきものであつたのに字都宮
地方裁判所のいわゆる本庁<要旨第一>でこれを審判したのは不法に管轄を認めたも
のだというのである。しかしながら、地方裁判所の支部は、地方裁判所
の事務の一部を取り扱うためその地方裁判所の管轄区域内に設けられるもので(裁
判所法第三十一条第一項)、要するにその地方裁判所の一部であるにすぎず、いわ
ゆる本庁と別個独立な裁判所なのではない。従つて、ある事件をその地方裁判所の
本庁において審判するか支部において審判するかは、同一裁判所内の事務の配分の
問題であるに止まり、訴訟法にいう管轄の問題とはならないのである。本件につい
てこれを見ると、本件はその犯罪地も被告人らの住所、居所も栃木県内であるか
ら、起訴当時の被告人らの現在地の問題を云々するまでもなく宇都宮地方裁判所の
管轄に属するものであること明らかである。しからばこれを宇都宮地方裁判所の本
庁で審判したからといつてなんら不法に管轄を認めたものとはいえず、その他原審
の訴訟手続に管轄に関する規定に違背した点は認められないから、論旨は理由がな
い。
 論旨第二点について
 刑事訴訟法第四十四条第一項に「裁判には、理由を附しなければならない」と規
定し、同じくその第三百三十五条第一項に「有罪の言渡をするには、罪となるべき
事実を示さなければならない」と規定しているのは、裁判一般又は有罪の判決をす
るに当つては右の事項をも併せ示さなければならないことを規定したにすぎないも
ので、その理由又は事実を必ず裁判書の中に具体的に記載しなければならないとい
う意味までをも含んでいるものではない。その理由なり理由の一部である罪となる
べき事実なりをそのまゝ裁判書に記載するか、あるいは他の書類(特に訴訟記録中
のそれ)の記載を引用してこれに代えるかは、要するにこれを示す方法の問題であ
つて、理由もしくは事実を示すこと自体とは別個に考うべきことがらなのである。
いいかえるならば、たとえ引用の方法をとつたにしたところでこれを示したことに
変りはないわけで、これを裁判書が全然その点に言及していない場合と同一に論ず
ることはできないのである。従つて刑事訴訟規則第二百十八条はなんら前記刑事<要
旨第二>訴訟法第四十四条第一項及び第三百三十五条第一項の例外を定めたものでは
なく、むしろ法のかゝる規定の存在を前提としてその表示の方法に関す
る定をしたにすぎないものであるから、裁判所の規則をもつて法律を改変したとい
う所論は正当でないといわなければならない。次に、論旨は引用した場合には引用
にかゝる書面を判決書に添附すべきだと主張する。これは恐らく引用にかゝる書面
の写を添付すべきだという趣旨であらう。しかしながら、所論のように当該書面の
写を添附するということは「引用」という観念の要求するところではない。むしろ
判決書とは別個に存在する書面の記載をもつて判決書の記載に代えるのが引用の引
用たる所以なのである。たゞ、かような引用を無制限に許すことは判決書を読む者
にとりきわめて不便を生ずることを保し難い。それで刑事訴訟規則は引用を許され
る書面を起訴状その他一定の書面に限つたのであり、これらの書面と判決書とは同
一記録に綴られるものであるからその対照に困難はなく、また、判決書の謄本につ
いては刑事訴訟規則第五十七条第五項に規定があつて、論旨主張のように引用にか
ゝる書面の内容を併せ記載すべきものとしてこれを読む者の便宜を十分考慮してい
るのである。しかし、いずれにしてもそれは要するに便宜の問題にすぎないのであ
つて、引用に当然伴う本質的なことがらではない。そして、引用を許すことが刑事
訴訟法の規定に反するものでないこと前述のごとくである以上、所論は到底理由あ
るものとはいい難い。なお、論旨は、原判決の記載でははたして起訴状記載事実の
全部を引用したものか一部を引用したものか不明だと主張するが、特にその一部を
引用する旨を断らない限り全部を引用する趣旨であることは当然であるから、この
主張もまた採用の限りでない。論旨は要するに理由がないといわなければならな
い。
 論旨第三点について
 本件においては要するに被告人両名が人の看守する建造物である国家地方警察栃
木地区警察署及び栃木市警察署共用の庁舎内に「故なく侵入」したものであるかど
うかゞ問題の焦点なのである。そして、被告人両名が右庁舎内に立ち入つたことは
争のないところであるから、右の立ち入りがまず刑法第百三十条にいわゆる「侵
入」に該当するかどうかを考えてみるのに「侵入」とは、この場合右の建造物を看
守する者の意に反して建造物内に立ち入ることをいうのである。従つて、被告人両
名の立ち入り行為が「侵入」でないというためには、看守者がこれに明示もしくは
黙示の同意を与えたか、又はその立ち入りにつき看守者の推定的同意が認められる
ことを必要とするといわなければならない。ところで、原審証人Aの供述による
と、同人が被告人両名の後を追つて行つてみた時にはすでに被告人Bは庁舎南側入
口より入つた宿直室前廊下に立つており、被告人Cはさらに同庁舎内東奥の方にい
たことが認められるのであつて、かくのごとく被告人両名が庁舎内に立ち入るにつ
ま最初になんびとの明示の承諾をも得なかつたことは原審において取り調べた諸般
の証拠上明らかであり、被告人らもまた別にこれを否定してはいないのである。た
ゞ、原審の検証調書の記載によつても、右庁舎の前記入口は別にこれを閉鎖してな
く、開放的な状態にあることが認められる。そして、右建造物は警察署として使用
されているものであるから、その公共性からいつて、正当な用務のために来た者に
対しては予め一般的にその立入につき黙示の承諾が与えられているものと解しなけ
ればならない。従つて、たとえば犯罪の発生したことを告げに来た者とか、警察署
から出頭を求められたものが無断でその入口から庁舎内に入つた<要旨第三>として
も、こゝにいう「侵入」とはいえないのである。しかしながら被告人両名が、前記
のように右入口から</要旨第三>庁舎内に立ち入つたのは、論旨にもいうとおりD
党E地区委員会名義の宣伝ビラを警察官等に配布するためであつたこと明らかであ
り、かゝる目的で立ち入ることはもとより公共の機関たる警察署を市民が利用する
ために立ち入る場合と同一視することはできず、建造物看守者の事前における黙示
の承諾の範囲を超えるものであること明白であるから、これをもつて黙示の同意の
下に立ち入つたとすることもできない。次に、推定的同意というのは、もし建造物
看守者がそこに現在したと仮想した場合その立ち入りに同意したであろうと考えら
れることをいうのであるが、本件建造物の看守者である警察署長が被告人両名の立
ち入りに同意したであろうとは到底考えられないこと原判決の説示するとおりであ
るから、この点においても本件立ち入りの行為が看守者の意に反したものでないと
はいえないのである。すなわち、以上考え来つたところからすると、所<要旨第四>
論A巡査部長が同庁舎に来る前にすでに被告人両名は前記庁舎内に「侵入」してい
たものである。そして、</要旨第四>その立ち入りがよしんば平穏公然になされた
ものであつたとしても、いやしくも看守者の意に反してなされる限り「侵入」たる
を妨げるものではない。なお論旨は、被告人らの立ち入りの動機、目的になんらの
不法性がないから、「故なく」侵入したものではないと主張する趣旨をも含むと解
せられるが、「故なく」とはいうまでもなく正当の理由のないことをいうのであつ
て、正当の理由のある侵入とは、たとえば法令により捜索等のため看守者の意に反
して立ち入る場合のごときをいうのであり、看守者の意に反してまで建造物に立ち
入ることを正当視するためにはきわめて強い理由の存在することを必要とするので
ある。従つて、たとえ被告人両名の立ち入りの動機が不法なものとはいえないにし
ても、この程度をもつてしては、それだけから看守者の意に反しても前記庁舎内に
立ち入つてよいとはいえぬこと多言を用いるまでもない。目的の合法性は決して手
段までをも合法化しはしないのである。次に、論旨は、被告人等は前記庁舎内に入
ることにつき署員の明示又は黙示の承諾を得たと主張し特に前記A巡査部長の承諾
を得たと主張するのであるが、被告人らは右Aと庁舎内で会う前にすでに故なく同
庁舎内に侵入していたものと認むべきことさきに説明したとおりで、いいかえれば
被告人らがAと出会つたのはその建造物侵入罪が既遂に達した後のことなのである
から、かりにその際同人が同意を与へたとしても犯罪の成否に影響がないのみなら
ず、原審証人Aの供述によれば、同人は前記のごとく被告人両名に庁舎内で出会つ
た際「こんなビラなどまかずに帰つたらどうか」と申し告げたことが認められるの
であつて、これによれば、たとえそれ以上強く退去を求めなかつたにせよ、同人が
被告人らに対しさらにそれ以上庁舎内に立ち入ることを承諾したとか、あるいはこ
れを默認したものとは解せられない。また、<要旨第五>かりに右Aが同意を与えた
と仮定したところで、同人は右庁舎の看守者ではない。その看守権は退庁して同 要旨第五>庁舎内に現在していなくとも依然として建物管理者たる両警察署長に在る
のであつて(「看守」というのは現実の監視ということと同義ではない、人をして
監視させるのも看た「看守」である)、本件においては右の看守者が旅行その他看
守権を自ら行使することのできぬ事情があるためこれを他の者に委ねたというよう
な事実も存しないのであるし、いわんやA巡査部長がその看守を署長から委された
というようなことは全然ないのであるから、被告人両名の立ち入りが本来の看守者
の意に反するものであること前段の説明によつて明らかである以上、A巡査部長が
同意したとしてもそれは同意としての効力を有しないものといわなければならな
い。その他F巡査部長の同意があつたかどうかの点のごときは、被告人らが庁舎二
階に上り各室にビラを配布して後のことであるから、本件犯罪の成否に関しては問
題とならず、多く論ずる必要はないと考える。
 次に、論旨は被告人らは建造物侵入罪の故意を欠くものだと主張するのである。
しかし、前に説明したように被告人らの行為は警察署庁舎内に最初に立ち入つたと
きにすでに刑法第百三十条の罪の既遂となるのであるが、被告人らとして前記のよ
うな目的で警察署に入ることが建造物看守者たる警察署長の意に反するものである
ことは諸般の情勢上当然知つていたものと認めなければならないし、わざわざ退庁
後の時間を選んで庁舎内に入つたこと自体がそのことを推知させるのである。しか
らば被告人らに故意なしとする所論はすでにこの点において採用し難いのみなら
ず、その後において被告人らがA巡査部長の承諾を得たと信じたという点について
も、さきに説明したその際の右Aの態度に徴しそのように信じたものとは認め難
く、またがりに所論のごとくAの同意のあつたものと信じたとしても、A巡査部長
に同意を与える権限のないこと前述のとおりであるから、これをもつて被告人らの
故意の阻却を云々することはできないものといわなければならない。以上いずれの
点においても論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)

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