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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人和田久の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 Dは、昭和四五年一一月二四日午前一〇時二五分ころ、鹿児島市a町b番c
号先付近の県道d公園線(以下「本件県道」という。)を大型貨物自動車(以下「
本件自動車」という。)を運転して進行中、本件県道から日本国有鉄道(日本国有
鉄道改革法〔昭和六一年法律第八七号〕による廃止前の日本国有鉄道法に基づく日
本国有鉄道。以下「国鉄」という。)F本線の軌道上に本件自動車を転落させた。
そこへ国鉄国鉄駅方面からf駅方面へ向かって五両連結のディーゼル気動による急
行列車(以下「本件列車」という。)が走行してきて本件自動車に衝突し、本件列
車の一両目が脱線横転、二両目が脱線したため、列車の乗客二名が死亡し、三三名
が傷害を負う事故(以下「本件事故」という。)が発生した。被上告人らは、本件
事故による死亡者の遺族、受傷者本人及び受傷後死亡した乗客の遺族である。
 2 本件事故現場は、鹿児島市a町の住宅地区にあり、付近には、別紙図面(以
下「図面」という。)第一図のとおり、西側から順次、国道一〇号線(以下「本件
国道」という。)、本件県道及びF本線がそれぞれ南北に走っている。本件県道は、
本件国道から分岐し、北方のg町方面へ通ずる二車線の道路で、右分岐点(Y字型
交差点)付近から北方約一三〇メートルに位置するF本線hトンネルのf駅側出口
(以下「hトンネル出口」という。)付近まで、本件国道とF本線とに両側を接し
て並進している。本件県道は、もと市道であったが、昭和四〇年三月に県道に認定
替えされ、鹿児島県がこれを管理している。
 3 本件県道は、コンクリート舗装道路で、右分岐点付近で幅員七・七メートル
あり、同所付近からg町方面に向かって直線の緩やかな上り勾配になっており、見
通しは良好である。本件県道とF本線との並進区間には、図面第一図及び第二図の
とおり、道路端に幅約四〇センチメートル、深さ約一五センチメートルのコンクリ
ート製の無蓋側溝が設置されており、右側溝の東側には更に石造縁壁(以下「本件
縁壁」という。)が設置されている。本件縁壁は、長さ約一メートル、幅約二五セ
ンチメートル、上段の高さ約三〇センチメートル、下段の高さ約四〇センチメート
ルの二個の縁石がセメントモルタルで接着されたもので、下段の縁石は道路側で約
一五センチメートル、軌道側で約二四・五センチメートルの部分が地下に埋設され
ており、道路面から本件縁壁の上端までの高さは約四〇センチメートルである。本
件縁壁の東側には、図面第二図のとおり、八〇ないし一〇〇センチメートル位の幅
で平坦な土羽があり、その端(法肩)から約六〇度の角度の下り急斜面がある。右
斜面の法肩から軌道敷までの斜面の長さは、本件国道と本件県道との前記分岐点付
近で約五メートル、hトンネル出口南方九三・三メートルの地点で約六・八メート
ル、同トンネル出口付近で約一二・六メートルある。
 4 本件事故現場付近におけるF本線の軌道敷(以下「本件軌道敷」という。)
は幅員五・五メートルあり、南方のf駅と北方のe駅の間に長さ三九六メートルの
hトンネルがあって、同トンネル出口はf駅から一四三八メートルの地点にある。
右軌道は、hトンネル出口北方二二四メートルの地点から同トンネル出口南方七七
メートルの地点までの三〇一メートルの区間は曲線半径三〇一・七五メートルの左
カーブ(e駅からf駅方面に向かう場合)となっている。また、hトンネル出口南
方約二五二メートルのf駅寄りに場内信号機が、同信号機から北方約七〇〇メート
ルのe駅寄りに遠方信号機(磯の遠方信号機)がそれぞれ設置されている。本件事
故当時、F本線では、列車はf駅とe駅間において毎時最高六五キロメートルで運
行されており、本件事故現場付近における運転回数は一日上下合わせて五七本であ
った。
 5 Dは、本件事故当日、本件自動車(車高二・六七メートル、車幅二・四五メ
ートル、車長七・〇五メートル、最大積載量七・五トンのダンプカー)を運転して
時速約四〇キロメートルで本件国道を鹿児島市街地方面からi町方面に進行し、午
前一〇時二五分ころ、図面第一図の前記分岐点付近に差しかかり、右速度で本件国
道から右側に進路を移して本件県道に進入しg町方面に向けて進行しようとした際、
前方約三〇メートルの本件県道中央寄りをg町方面に向けて時速一〇ないし二〇キ
ロメートルの速度で進行している自動車を認めた。そこで、Dは、対向車両もなか
ったことから、右先行車の右側(東側)を通ってこれを追い越そうと考え、前記と
同一の速度で本件県道に進入して先行車に追いつき、道路中央寄りを走行していた
先行車の避譲をまたず、その右側に進入してこれを追越しにかかったが、本件自動
車が先行車と接触しそうになり、これを回避するためハンドルをやや右に転把した
ところ、本件自動車の右前輪が本件県道東側の側溝に落ちた。Dは、本件自動車が
大型車両で強い駆動力があることを過信し、減速あるいは停止の措置をとることな
く、アクセル・ペダルを踏み込んで加速した勢いで右側溝から脱出しようとしたが、
かえって側溝にハンドルをとられ、右前輪のホイルナット付近を本件縁壁に激突さ
せ、そのままの状態で本件自動車を約一七・六メートル進行させた。その間、Dは、
約一三・三メートルにわたって本件縁壁の上段の縁石を下段の緑石から剥離、崩落
させ(一部は縁石自体が折れている。)、本件自動車を下段の縁石を乗り越えて路
外に進出するに至らしめ、急遽制動措置をとったが時すでに遅く、本件自動車は制
御を失い、本件軌道敷内に転落して行った。本件自動車の転落地点は、hトンネル
出口から南方九三・三メートルに位置する西側軌条のやや外側付近であり、右自動
車はその前部を軌条側に向け、車体後部を法面上に残した恰好で停止した。
 6 本件事故当日、H機関士は、本件列車を運転してe駅を定刻の午前一〇時二
三分四五秒ころ通過し、磯の遠方信号機の青の表示に従って進行した。そして、午
前一〇時二九分ころhトンネルに差しかかり、同トンネル入口付近を時速約五八キ
ロメートル、同トンネル中央付近を時速約五六キロメートル、同トンネル出口を時
速約五五キロメートルで走行したが、同トンネル出口付近に差しかかった際、前方
の本件軌道敷内に障害物(本件自動車)が転落しているのを発見し、非常制動によ
る急停止の措置をとるとともに非常警笛を吹鳴したが及ばず、本件列車一両目の右
前部を本件自動車に衝突させた。右衝突後、本件列車は本件自動車を約一九メート
ル引きずりながら進行し、列車一両目は脱線して進行方向左側に約四五度傾斜して
土手に横転し、二両目も脱線して、列車はhトンネル出口からf駅方向一二七・七
メートルの地点で停止した。
 7 国鉄は、機関車、貨客車、軌道設備、軌道の敷地その他これに関連する施設
(以下、併せて「鉄道施設」という。)を所有してこれを占有し管理していた。本
件事故現場付近の本件県道とF本線との間の斜面、すなわち本件軌道敷から右斜面
の法肩までの土地もF本線の鉄道施設の一部であった。
 二 原判決は、右事実関係の下において、次の理由により、国鉄の鉄道施設の管
理に国家賠償法二条一項にいう瑕疵があるとして、被上告人らの請求を一部認容し
た第一審判決を正当とし、日本国有鉄道改革法一五条に基づき国鉄の権利義務を承
継した上告人の控訴を棄却した。
 1 国鉄は、自動車や落石等が軌道上に転落し、列車の走行等に危険のある箇所
においては、自らその鉄道施設内への転落防止施設等を設置するか、又は道路等の
管理者との協議によって転落防止措置を講じさせ、そのような措置が講じられない
場合は、車両等が軌道敷内に転落してきた場合でも、列車との衝突を防止し得るに
足る保安上の防護施設を備えておく必要があり、これを欠くときは営造物たる鉄道
施設の通常有すべき安全性を欠如しているというべきである。
 2 本件事故現場付近は、F本線の西側急斜面を本件県道が並進している場所で
あり、本件県道が昭和四〇年三月に市道から県道に認定替えされた後本件事故前ま
で、右県道上の交通量の増加及び通行車両の大型化など道路利用状況及び道路環境
の変化に伴い、大型車両が通常予想される範囲を超えない程度の粗暴な運転をする
場合には、右車両が本件縁壁に接触してこれを崩落させ、右軌道上を走行する列車
に衝突させるという重大な事故が発生する危険を包蔵し、右のような事故発生の蓋
然性が高かった。このように、本件県道が交通の要路となり、交通量等の増加に加
えて、通行車両の大型化という道路利用状況及び道路環境の著しい変動に伴い、鹿
児島県が右県道の改修工事を進めていたこと等を考え合わせると、Dの前記運転は、
いささか粗暴ではあるが社会通念上の予測を超える著しく無謀なものとまではいえ
ないから、そのような運転によって惹起された本件事故は、その発生が全く予測で
きないものであったとは認め難い。
 3 国鉄は、本件事故当時まで、本件事故現場付近において管理する鉄道施設に
車両等の転落防止施設あるいは転落した車両等と列車との衝突を防止する保安施設
ないし危険防護施設を設置していなかったところ、右転落車両等が出現した場合に
おいては、これと列車との衝突事故が発生する蓋然性が高いこと、その場合の旅客
に対する危害が重大であることを考えると、本件事故発生前までに右の防止施設を
設置しなかった国鉄の鉄道施設は、少なくとも旅客に危害を及ぼす危険性のある状
態にあり、通常有すべき安全性を欠いていたもので、本件事故当時、営造物たる鉄
道施設の管理に瑕疵があったものというべきである。
 三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
 国家賠償法二条一項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき
安全性を欠いていることをいい(最高裁昭和四二年(オ)第九二一号同四五年八月
二〇日第一小法廷判決・民集二四巻九号一二六八頁)、右の通常有すべき安全性は、
営造物の設置管理者において通常予測することのできる用法を前提として定めるべ
きものであって、この趣旨における安全性に欠けるところがない場合には、営造物
の通常の用法に即しない行動の結果事故が生じたとしても、右事故が営造物の設置
又は管理の瑕疵によるものであるということはできないと解するのが相当である(
最高裁昭和五三年(オ)第七六号同年七月四日第三小法廷判決・民集三二巻五号八
〇九頁参照)。これを本件についてみるに、原審の確定した前記事実関係によれば、
幅員七・七メートルある本件県道の道路端には図面第二図のとおり幅約四〇センチ
メートル、深さ約一五センチメートルのコンクリート製の無蓋側溝が設置されてお
り、更に側溝の東側には図面第二図のとおり道路面から縁壁上端までの高さ約四〇
センチメートル、幅約二五センチメートルの石造の本件縁壁が設置されていたとい
うのであり、本件縁壁の右材質、高さ、形状等の構造に加え、本件県道の幅員や見
通し状況、側溝の存在等を考慮すると、本件縁壁は、通常予測することのできる用
法を前提として生ずる事故によって車両等が路外へ転落することを防止する機能に
欠けるところはなかったものというべきである。そして、前記認定事実によれば、
本件事故は、Dが本件自動車を運転中、先行車を無理に追い越そうとして過って本
件自動車の右前輪を本件県道東側の側溝に落とした際、減速あるいは停止の措置を
とることなく、アクセル・ペダルを踏み込んで加速した勢いで側溝から脱出しよう
とし、かえって側溝にハンドルをとられ、右前輪のホイルナット付近を本件縁壁に
激突させ、そのままの状態で本件自動車を約一七・六メートルも進行させ、その間、
約一三・三メートルにわたって本件縁壁の上段の縁石を下段の縁石から剥離、崩落
させ、本件自動車を下段の縁石を乗り越えて路外に進出するに至らしめ、急遽制動
措置をとったが時すでに遅く、本件自動車は制御を失い、本件軌道敷内に転落した
結果発生したというのである。そうであれば、Dのとった措置は、本件自動車が大
型車両で強い駆動力があることを過信して強引に側溝からの脱出を図ったもので、
本件事故現場付近の前記地理的状況等にかんがみれば、極めて異常かつ無謀な運転
行為であり、本件事故は、このような通常予測することのできない無謀な行動に起
因するものであったということができる。そうだとすれば、本件県道において、通
常予測することのできる用法を前提とした場合、車両等の転落防止施設としては前
記側溝に接して設置された本件縁壁をもって十分なものであったというべきである
から、国鉄が、鹿児島県に対し、更に本件軌道敷への車両等の転落防止施設の設置
を要請せず、また、自ら本件軌道敷への車両等の転落防止施設あるいは転落した車
両等と列車との衝突を防止する保安施設ないし危険防護施設を設置しなかったとし
ても、鉄道施設につき通常有すべき安全性を欠いていたものということはできず、
Dのした通常予測することのできない無謀な行動に起因する本件事故について、上
告人がその鉄道施設の設置管理者としての責任を負うべき理由はない。
 してみると、鉄道施設の管理につき瑕疵があるとした原審の判断は、国家賠償法
二条一項の解釈適用を誤った違法があり、その違法は判決の結論に影響を及ぼすこ
とが明らかであるから、この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免
れない。そこで、被上告人らのその余の主張について更に審理を尽くさせるため、
本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    橋   元   四 郎 平
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    大   堀   誠   一

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