弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人松山与三吉の上告趣意について。
 論旨前段に主張するところは、BはCの借家に同居していたものであり、DはC
の相続人であるから、右借家につき「主先的使用権」を有するものはDであつてB
は「従後的使用権」を有するに過ぎない。それゆえ、Cの相続人又はその代理人は
Bを懸念する要なく何時でもその借家に立入り「主先的使用」をすることができる
のであるから、被告人の本件住居の侵入は不法でないというのである。しかし、D
がBの居住する本件家屋に所論のような「主先的使用権」を有した事実は、原判決
の認定しないところであるばかりでなく、原判決の認定した事実関係からは被告人
がBの意思に反してその居住家屋に立入ることを適法ならしめる事情があるものと
も認められないので、この点に関する論旨は理由がない、その他の論旨は、弁護人
独自の論拠に基いて原審の事実誤認を主張するに帰着するので、上告の適法な理由
ではないから採用することができない。
 被告人Eの弁護人林逸郎同岩間幸平の上告趣意第一点乃至第四点について。
 論旨は帰するところ、原判決が認定した犯罪事実中「被告人A及び同Eの両名が
相談の上……Bが不在であつて右遺産搬出のため同人の居室内に立入ることは其の
意思に反することを同様十分諒知しながら同人の居住する右家屋二階の間に立入り
以て故なくBの住居に侵入したものである」との点についてはこれを認めるに足る
証拠がない。すなわち、原判決には証拠によらないで事実を認定した違法があるか
或は事実理由と証拠理由との間に相容れない齟齬があるのであるから原判決は破毀
を免れないというのである。
 刑事訴訟において、事実の認定が証拠によらなければならないことは、法律の規
定するところであるが(旧刑訴訟法三三六条、新刑訴法第三一七条)、右にいう証
拠は直接証挺のみを指すのではなく、間接証拠(情況証挺)をも含む趣旨であるこ
とも亦いうまでもないところである。されば、被告人が犯罪事実の一部を否認して
いるような場合には時に直接証拠を欠いでいても間接証拠によつて犯罪事実の存在
が推断される限り証拠による証明があるのであるから、これを目して証拠によらな
い事実の認定であると断定することはできない。本件において所論の点については、
厳格に言えば或は直接証拠を欠くということはできるであろう、しかし、原審はそ
の判示に挙示する間接証拠から推断して所論の事実を認定したでのあつて、これら
の証拠を綜合すれば原判示のように事実を認定し得られないわけではない。それゆ
え、原判決には所論のような違法はないのであつて、論旨は結局事実審たる原審に
委ねられている証拠の取捨判断ならびにこれに基く事実の認定を非難するに帰する
ので採用することができない。
 よつて、本件各上告を理由ないものと認め、旧刑訴法第四四六条に従い主文のと
おり判決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二五年六月一三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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