弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

               主       文
   被告人Aを懲役2年に,被告人Bを懲役3年に,被告人Cを懲役3年に,被
告人Dを懲役13年に処する。
   被告人らに対し,未決勾留日数中各150日を,それぞれその刑に算入す
る。
   被告人Aに対し,この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予す
る。
   被告人Cから,押収してあるゴルフクラブ1本(平成13年押第117号の
1)を,被告人Aから,押収してあるバール1本(同号の2)及びハンマー1本
(同号の3)を,それぞれ没収する。
               理       由
(罪となるべき事実)
第1 被告人D,同B,同Aは,E至と共謀の上,平成13年7月29日午前零時
45分ころから同日午前1時45分ころまでの間,広島市安芸区a町b番地c所在
の家屋解体業Fの駐車場において,被告人B及び同Dが,こもごも,同所に駐車し
てあったG管理の普通貨物自動車1台の燃料タンク内に砂糖及び清涼飲料水を混入
し,情を知らない前記Fの従業員に同車両のエンジンを始動させてエンジンを焼き
付かせ,また,G管理の普通乗用自動車1台の左右ドア及び後部トランクを石でひ
っかいて傷を付けてそれぞれ損壊し(損害額合計39万5410円相当),もっ
て,数人共同して他人の器物を損壊した
第2 被告人D,同C,同B及び同Aは,Eと共謀の上,同年8月6日午前1時4
5分ころから同日午前1時50分ころまでの間,前記Fの駐車場において,被告人
B,同C及び同Dが,同所に駐車してあったG管理の自家用ダンプカー等6台の車
両に対し,こもごも,あらかじめ準備していた金属バット1本,ゴルフクラブ1本
(平成13年押第117号の1),バール1本(同号の2)及びハンマー1本(同
号の3)を用いて,燃料タンクに穴を開けたり,フロントガラス等をたたき割るな
どし,さらに,前記F事務所南側窓ガラスを前記バール及びハンマーを用いてたた
き割ってそれぞれ損壊し(損害額合計52万7870円相当),もって,数人共同
して他人の器物を損壊した
第3 被告人D,同C,同B及び同Aが,前記第2の犯行を実行しているうち,
 1 被告人D,同C及び同Bは,前記Fの事務所付近でH(当時37歳)に前記
第2の犯行を目撃されて追われた際,逃げ遅れた被告人DがHから木刀で打ち据え
られたことから,Hに対して腹を立てるとともに,被告人らがそろって同所から逃
走するためにHを殴り倒そうと考え,同人に対する傷害の意思を相通じた上,同日
午前1時50分ころ,同所付近で,こもごも,同人を背後から羽交い締めにした
り,同人に対して金属バットを振り回し,ゴルフクラブでその肩口や背中をたたき
付けるなどの暴行を加え,更にその場から逃げ出した同人を追跡し,前記Fの北西
側出入口付近の自動販売機の前で同人を取り囲み,Dが,金属バットでHの頭部等
を数回殴打するなどして,同人に対し,頭部に挫裂創を,顔面,両肩,両足等に打
撲傷及び擦過傷を負わせた
 2 被告人Aは,前記D,同C及び同Bが前記第3の1の犯行に及んだことを察
知するや,前記F付近の路上において,上記Dらのために,逃走用の普通乗用自動
車を待機させて周囲を警戒するなどして,同人らの上記各犯行を容易にした
第4 被告人Cは,同日午前1時55分少し前ころ,前記自動販売機の前で昏倒し
ていたHから,同人が身に付けていた同人所有に係るネックレス1本(時価8万8
000円相当)を窃取した
第5 被告人Dは,前記第3の犯行が被告人らの犯行であることの発覚を防ぐた
め,Hを殺害しようと決意し,同日午前1時55分ころ,前記自動販売機の前で昏
倒していたHに対し,金属バットで,その顔面及び頸部の辺りを二,三回力を込め
て殴打し,同人に対し,下顎骨破砕,上顎骨骨折等の傷害を負わせ,同日午前3時
6分,広島県呉市d町e-f〇〇病院において,同人を上記傷害による血液吸引に
より窒息死させて殺害した
第6 被告人Dは,同日午前1時55分ころから同日午前2時3分ころまでの間,
前記F付近から広島県呉市g町h番付近へ向けて走行中の普通乗用自動車内におい
て,前記Cから,同人がHから窃取してきたものであることを知りながら,前記ネ
ックレス1本をもらい受け,もって,盗品を無償で譲り受けた
第7 被告人Cは,同月12日午前7時ころ,同市ij丁目k番l号所在のI方敷
地内において,同所に駐車していた同人所有の自動二輪車1台(時価10万円相
当)を窃取した
ものである。
(証拠の標目)
 (省略)
(事実認定の補足説明)
1 判示第1の共同器物損壊について
  被告人Dの弁護人は,被告人らがEと共謀した事実はない旨主張し,被告人D
もこれに沿う供述をし,また,被告人Bも,実質的に上記Eとの共謀を否認するか
のような供述をするので,検討する。
 (1)Aは,おおむね以下のとおり供述する。
    平成13年7月28日,私は,Bと同人の妻,私の交際相手と一緒に,呉
市mの商店街で開かれていた土曜夜市に出掛け,午後8時ころ,事前にBが電話で
待ち合わせをしていたEらと合流した。Oという店の前でとりとめのない話をして
いる間に,EがBに,「今日,兄弟が行くけぇ,ついて行っちゃってくれーの。」
と言って,Dについて行くよう指示していた。Eがふだん「兄弟」と呼んでいるの
は,Dのことである。当時,私やBは,Eの「若い衆」同然の立場で行動してい
て,Eからの指示は,まずBに出され,Bがその指示を私に伝えてきていたので,
その晩のことについても,Bから指示があるものと思っていた。私の交際相手を自
宅まで送って行く車の中で,Bが「今日,E君がけんかする言いよるけぇ,ついて
来い言いよる。」と言ってきた。交際相手を送り届けた後,Eの兄が経営している
Jの事務所であり,かつBの住居であるアパートに行くと,Eが待っていた。E
は,Bに,部屋から木刀を持ってくるよう指示していた。私とB,Eの3人が私の
車に乗り込んで出発し,Eの指示でDを迎えに行って合流した。
    車の中で,Eが「nに上がってくれ。」と指示してきた。さらに,Eは,
「Fは生意気なんじゃ。仕事ができんようにしてやる。ダンプを動かんようにして
やる。」とも言っていた。Eは,コンビニエンスストアに寄るよう指示してきた。
ダンプカーの燃料タンクに砂糖とポカリスエットを入れてやろうなどと言ってい
た。Eがその夜のことをすべて計画し,E以外の3人は聞き役だった。
    nに上がる途中のコンビニエンスストアでは,Eが,携帯電話で,「どん
な砂糖がええんですか。」などと電話の相手に尋ねていた。その後,Eが,商品棚
にあった砂糖を2袋取り出した。ポカリスエット2本と,自分たちの食べ物や飲物
も買った。さらに,Eは「もう1つ買っとこか。」と言って,砂糖1袋を持ってき
たので,結局砂糖は3袋買った。
    その後,車を走らせて,Fに到着した。BとDが車から降りた。Eも車か
ら降りようとしていたが,Dが制止したので,Eは,「ほいじゃあ,人が出てきた
ら,わしが行くわ。」と言って,車に残った。Eは,Bらに,「全部のダンプに砂
糖やポカリを入れてこいや。」と言っていた。10分くらいして,DとBが車に戻
ってきて,かぎがなかったため1台しか燃料タンクを開けられなかったと話した。
    EはBらに,「どんだけ入れたんじゃ。」と尋ね,Bが示した砂糖の残量
を見て,「それじゃあ少ないじゃろうが。」と言った。Eは,車の中で,携帯電話
でだれかと話をして,「どれくらいでエンジンが動かなくなるんですか。」などと
言っていた。
    私は,Eから,Kが来るのでPに寄るよう指示された。指示のあったPの
駐車場で,Kと会った。EはKに,「これくらい入れてきましたけど,どがいです
かね。」と尋ねて,砂糖の残量を示したところ,Kが,「それじゃ,足りんわ。」
と答えたので,EはD,B,私に,もう一度Fに行こうと言った。
    再びFに戻り,DとBがダンプカーの燃料タンクに砂糖を入れに行った。
戻ってきたBが,Eに,「全部入れてきたです。」と報告すると,Eは,「ほう
か。すぐには焼き付かんじゃろう。1週間くらいで焼き付くんと違うか。」と答え
た。帰りがけに,DがEに,敷地に駐車中の乗用車を指さして,「あれも傷付けと
っちゃろうか。」と言い,Eが「ほうじゃねー。」と応じたので,私は車を止め
た。すると,DとBが車から降り,どちらかが石か何かで車のボディを傷付けてい
た。Eは「これで分かるじゃろう。」と言っていた。
   そこで,Aの上記供述の信用性を検討するに,上記供述は,その内容が,コ
ンビニエンスストアの防犯ビデオの映像やKの供述など他の客観的証拠や関係者の
供述などに合致しているだけでなく,実際に事実を体験した者でなければ供述でき
ないような具体的で詳細な内容が含まれ,内容自体にも不合理な点が見られないの
であって,さらに,Aは,当時,暴力団に所属しているEに従って行動を共にし,
Eのいわゆる「若い衆」同然の服従関係にあったこと及び当公判廷においてDがE
との共謀を否認する旨の供述をするのを見ていたことから,AがEとの共謀を認め
る旨の供述をすれば,E自身やその周囲の関係者らから強い非難や報復を受ける可
能性が大きいことは当然認識しているはずであるところ,それでもなおEとの共謀
を認める供述を維持していることに加え,Aに虚偽の供述をする理由や動機が見当
たらないことをも併せ考えると,その供述は信用できる。
 (2)一方,Bは,当公判廷において,土曜夜市に出掛けていたところ,Dに声を
掛けられ,同人から,腹が立つやつがいるからついて来てくれと言われたので,相
手がだれか聞かないまま,Eを誘って一緒にFまでついて行った旨供述している。
しかしながら,Bの捜査段階の供述を見るに,当初,AやEと一緒に土曜夜市に出
掛けていたところ,Dから電話が掛かってきて,Dの指示で4人が一緒にFに行く
ことになった旨供述していたことがうかがわれ,また,その後,土曜夜市でDに呼
び止められて,DがFとトラブルを起こしていることの具体的な説明を受けた上
で,Fのトラックを壊しに行くからついて来てほしいと小声で言われ,その後に出
会ったEに,Dから聞いた話を伝えたところ,Eが「ついて行っちゃる。」と答
え,さらに,弟分的な存在であるAにも手伝わせようと思い,Dがトラックを壊し
に行くのについて来るように言った旨供述しているのであって,Eの共謀の有無に
関する重要部分について供述の変遷が見られるところ,その変遷の理由について合
理的な説明がなされていない。
   また,Bは,Eはコンビニエンスストアでの砂糖の購入にかかわっていない
旨及びKに砂糖の量が少ないと言われて再度Fのトラックに砂糖を入れに行こうと
言い出したのはDである旨を供述するところ,コンビニエンスストアの防犯カメラ
で撮影された映像や,Kの供述によれば,Eがコンビニエンスストアの店内でB及
びDと一緒に砂糖を選び,自ら砂糖を手に取っている事実及びFのトラックの燃料
タンクに砂糖を入れたという話をEのほうからKに切り出した事実が認められるの
であって,Bの上記供述はこれらの事実と明らかに矛盾するものである。
   そして,これらの事情に加え,BがEの舎弟のような立場にあり,虚偽の供
述をしてでもEをかばおうとする動機が十分に認められることを併せ考えれば,E
との共謀に関するBの供述は,到底信用できるものではない。
 (3)また,Dは,EからFとのトラブルの内容を聞き,Eに大恥をかかせたFの
社長を許せず,Eのために一肌脱いで,トラックを壊して嫌がらせをしてやろうと
考えていた旨,Eには,Fの事務所を確認に行くという話しかしていない旨,トラ
ックの燃料タンクに砂糖などを入れて損壊するという方法は自分が以前から知って
いたものであり,この方法を提案したのはD自身である旨及びKから砂糖の量が少
ないと言われたので,D自身がFに戻って更に砂糖を入れようと考えた旨供述して
いる。
   しかしながら,Dは,車の中で損壊の方法を提案した場面について,捜査段
階では,EもDの提案を聞いて賛成した旨供述していたところ,当公判廷では,E
には聞こえないようBに耳打ちした旨供述を変遷させているが,このような供述の
変遷の理由について合理的な説明がなされていない。さらに,その内容自体も,E
のためにトラックを壊そうと考えたのに,同じ乗用車に同乗し,Fにまでついて来
たEに対し,あえてその計画を聞かれないようにしたというものであって明らかに
不合理であるばかりでなく,前述の,Eがコンビニエンスストアで砂糖を選んだ
り,Kに対して,Fのトラックの燃料タンクに砂糖を入れたという話をEのほうか
ら切り出した事実とも矛盾するのであって,その供述は到底信用できるものではな
い。
 (4)以上により,その信用できるA供述から認められる事実によれば,本件共同
器物損壊につき,Eが,土曜夜市に出てきていたB及びA,並びに別途Eからの指
示を受けたDと共謀したことが優に認められる。
2 判示第2の共同器物損壊について
  B,C,Dの各弁護人は,それぞれ,被告人らが相互に共謀した事実は認める
が,被告人らがEと共謀した事実はない旨主張し,同被告人らもこれに沿う供述を
するので,検討する。
 (1)Aは,おおむね以下のとおり供述する。
    判示第1の共同器物損壊の直後,Eは,私たちに,「これで分かるじゃろ
う。」と言っていたが,その数日後,私に対し,「Fの情報は何も入ってこん。今
度はめがにゃいけんの。」と言ってきた。
    平成13年8月5日は,私の自動車で,私の交際相手,B,Bの妻,E及
びEの妻の連れ子2人と一緒に海水浴に行き,午後6時30分ころ,Bのアパート
に戻った。その後,BのアパートでBと2人きりになったとき,Bが私に,「E君
が『今日,nに上がる。ついて来い。』言いよるけぇ,一緒に行ってや。」と言っ
てきた。それまでの経緯から,Eが再度Fに嫌がらせをしに行くつもりだというこ
とが分かった。
    その後,Bらと一緒に書店にいるとき,EがBに携帯電話で,預けていた
金を届けるよう指示してきたので,午後10時前ころ,Bと2人で,私の車で,E
がいた焼き鳥屋に行った。そこにはE,D,Cらがいた。その後すぐに焼き鳥屋が
閉店となったので,近くの居酒屋に入り,8月6日午前零時ころまで飲食し,その
店を出た直後,Eが,私たちに,「1回,事務所に行かんかいや。」と言ってきた
ので,直接Fに行くのではなく,いったん,Jの事務所としても使われていたBの
アパートに戻って打合せをした後,Fに行こうと言ってきたものと思った。
    すると,CがDに,「わしも行くわ。」と言った。DはCを制止したが,
Cが一緒に行きたがるので,結局私たちと一緒にFに行くことになった。他の者と
はその場で別れ,私とB,Cが私の自動車に乗り,EとDがEの自動車に乗って,
Bのアパートに戻った。
    Bのアパートに着いた後,EとDは,Eの自動車の中でしばらくの間話し
込んでいた。車の窓ガラスが閉まっていたので,何を話しているのか分からなかっ
た。しばらくして,Dが自動車から降り,それと同時にEが,私とBに,「今から
兄弟が行くけぇ,ついて行ってやってくれ。頼むで。」と言い,さらに,oにもF
の解体現場があるから,そこにある重機等も壊しておくよう指示してきた。この時
だったと思うが,私がEに「nですよね。」と確認したところ,Eは「おう,そう
じゃ。」と言った。
    Eは,私たちにそのような指示をした後,Bのアパートに残していた2人
の子供を連れて,自動車で帰り,私たち4人は,私の自動車でFに向けて出発し
た。
    Fに向かう車内では,Dが,人がいたら戦いながら逃げるなどと話した
り,ダンプカーなどに放火しようということを言っていた。
   そこで,Aの上記供述の信用性を検討するに,その内容は具体的かつ詳細で
あって,内容自体にも不合理な点が特に見られないのであり,さらに,前述のとお
り,AとEとの立場関係などから,AがあえてEに不利な虚偽の供述をするとは考
えられないことを併せ考えると,その供述は十分信用できると言うべきである。
 (2)これに対し,B及びDは,本件犯行はDがBらに指示して行わせたものであ
るなどと,Eとの共謀を否定する供述をしている。
   しかしながら,Dは,8月5日の夕方,Bから携帯電話に電話が掛かってき
たので,一緒にトラックを壊しに行こうと誘ったところ,Bは少し考えて承諾した
旨供述しているのに対し,Bは,いったんは,Dと携帯電話で話した事実はない旨
供述し,携帯電話の通話記録を見せられると,電話を掛けていることは思い出した
が,トラックを壊しに行くという話を聞いた記憶はない旨供述しているのであっ
て,両者の供述は,本件共謀に関する重要な点で食い違いを見せている。
   さらに,トラブルを起こしているのはEであり,その相手に対して嫌がらせ
をしに行くのに,Dがその場で直ちにEに連絡を取ることが可能であるにもかかわ
らず連絡を取らず,また,Fに嫌がらせに行く顔ぶれが決まった後,DとEが同じ
自動車に乗っていたにもかかわらず,Eに何の断りもなく,Dが独断でEの舎弟分
であるBらを誘うとは到底考えられないのであって,その供述内容は不合理と言う
ほかない。
   これらの事情に加えて,B及びDが,判示第1の共同器物損壊に関しても,
一緒にいたEをあえてかばう供述態度を取っていることを併せ考えると,Bらの,
Eとの共謀を否定する供述は,信用することができないと言うべきである。
 (3)以上により,その信用できるA供述から認められる事実によれば,まず,E
とD及びBとの間で,Fのダンプカーなどを壊しに行く旨の共謀が成立し,更にB
からAへ,DからCへと順次共謀が成立したものと認めることができる。
3 判示第3及び第5の各事実について
 (1)本件においては被害者Hは,被告人らによる一連の暴行によって死亡したこ
とが認められるところ,Dの弁護人は,DにはHを殺害する意思はなかった旨主張
し,また,A,B及びCの各弁護人は,それぞれ,Hの死亡結果は,同被告人らが
共同して行った暴行が終了した後にDが単独で加えた暴行によるものであって,
A,B及びCはHの死亡について責任がない旨主張し,同被告人らも,これらに沿
う供述をするので,以下検討する。
 (2)被告人らがHに加えた暴行の態様及び程度について検討するに,関係各証拠
によると,被告人らによる一連の暴行の状況については,以下のとおりであること
が認められる。
    A,B,C,Dは,Aの運転する自動車で,午前1時30分過ぎころFに
到着した。
    Aは,F付近に止めた自動車に乗ったまま待機し,B,C,Dは,いずれ
も手袋をはめ,Dが金属バットを,Cがゴルフクラブ,バール及びハンマーを持っ
て,Fの敷地に入ろうとしたところ,仕掛けられていた防犯ブザーが鳴り始めたの
で,BがCからゴルフクラブを受け取り,それを用いてブザーをたたき壊して音を
止めた。3人はいったん身を潜めたが,周囲から人が来る気配がなかったので,F
の敷地に入り込み,Cが駐車してあったトラックの燃料タンクに穴を開けたり,B
が,用意していたポリタンクに入ったガソリンを持ち込んだりした。
    3人が,Fのプレハブ造りの事務所の前にいて,Cが,バールとハンマー
で事務所の窓ガラスを割ったとき,事務所内に張り込んでいたHが,手に木刀を持
って,事務所出入口のドアから出てきた。BとCは,これに気付いて事務所の裏手
に隠れたが,Dは逃げ遅れ,持っていた金属バットで応戦しようとしたが,Hが木
刀で殴り掛かるのが一瞬早かったため,Dは,左側頭部付近を木刀で打たれ,その
場に四つんばいに倒れ込んだ。Hは,更にDの背中などを数回木刀で打ち据えた。
    BとCは,その様子を見て,Dを打ったHに腹を立てるとともに,全員が
現場から逃走するには,Hを打ち倒さなければならないと考え,Dに加勢すること
とし,Bは,Hに対して,正面から飛び掛かり,一度Hに殴られたものの,なおも
Hを背後から羽交い締めにした。
    四つんばいになって倒れていたDも立ち上がって,金属バットを必死に振
り回して殴り掛かり,勢い余って金属バットを二,三回振り飛ばしながらも,その
たびに金属バットを拾い上げて,Hに向かって行き,金属バットは何回かHの身体
に当たった。Cは,Hが落とした木刀を,Hとは反対側に遠くけ飛ばし,Bに押さ
えられてもみ合っていたHの背後から,ゴルフクラブを大きく振りかぶり,同人の
肩口や背中を目掛けて振り下ろして何度かたたき付けると,Hは一度その場に倒れ
込んだがすぐに立ち上がり,足をもつれさせ,よろめきながら,走って逃げて行っ
た。DとBがHを追い,Cもその後ろを追い掛けた(ここまでを第1場面とい
う。)。
    3人は,自動販売機前でHに追い付き,3人で同人を取り囲んだ上,Dが
金属バットでHの顔面,胸,足などを五,六回思い切り殴りつけたところ,同人は
しりもちをついて倒れ,DがなおもHの顔面付近を殴ったため,同人はあお向けに
倒れ,苦しそうなうなり声を出し,顔などから出血していた。BとCは,Hが反撃
してくれば応戦するつもりでいたが,このような同人の様子を見て,同人が死ぬか
もしれないと思って恐ろしくなり,待機させていたAの自動車に乗り込んだ(ここ
を第2場面という。)。このとき,Aは,自動車に乗ったまま待機していたが,D
ら3人が逃げるHを追い掛けて行くのを見て,少し車を移動させて様子を見てい
た。
    Dら3人が自動車に乗り込むと,Aは直ちに自動車を急発進させて呉市0
0方面に逃走したが,二,三分走ったところで,Bがガソリンが入ったポリタンク
をF敷地内に置き忘れてきたことに気付き,Dの命令でFに引き返した。D,B及
びCの3人が自動車から降り,Bがポリタンクを見付けて回収したが,その際に,
Cは,倒れているHの首からネックレスを外して窃取した(判示第4の窃盗)。こ
のとき,Hは気を失っていて,顔などには出血もあったが,あご等は崩れていなか
った。
    3人が再び自動車に乗り込み,逃走のためにAが自動車を発進させたが,
倒れていたHのそばを通り過ぎる際に,Dが「A,止まれ。」と言って自動車を止
めさせ,「生きとってもらったら困るんじゃ。」と言いながら,金属バットを持っ
て自動車から降り,Hのそばまで歩いて行き,金属バットを頭上に振りかぶり,H
の顔面から首の辺りを目掛けて二,三回力一杯殴りつけた。金属バットはHの顔面
辺りにまともに当たり,同人の身体は殴られるたびにバウンドした(ここを第3場
面という。)。
   なお,被告人らは,当公判廷において,第1場面において被告人らがHに加
えた暴行の程度は前記認定より軽く,逆にHによる殴打の程度はこれより重かった
旨供述を変遷させているが,その供述の変遷の理由について合理的な説明がなされ
ていないのであって,信用することはできない。よって,暴行の態様は,被告人ら
の捜査段階における供述のとおりであったと認めることができる。
   また,Cの弁護人は,Cは,F敷地内からHを自動販売機前まで追い掛けて
行く途中に,Dに指示されて,Aの自動車を呼びに行ったから,第2場面にCはい
なかった旨主張し,Cもこれに沿う弁解をする。しかしながら,D及びBだけでな
く,目撃者であるLも,自動販売機前でHを取り囲んでいたのは3人であった旨,
一致して供述していることに加え,目撃者M及びAの各供述によれば,Cが1人だ
け先にAの自動車に駆け戻ってきたものの,その時間的間隔はわずかであり,Cが
Dらから別れた後,DらがHを更に追跡し,同人に対して前記認定のような暴行を
加えるだけの時間差はなかったものと認められるのであって,CもD及びBととも
にHを取り囲んでいたものと認められる。
 (3)次いで,Hの死亡原因について検討するに,医師Nの鑑定書等によれば,H
の身体には,左側頭部,後頭部に鈍体による挫裂創や打撲傷があるものの,頭骨骨
折や脳損傷はなく,顔面には,パイプ状の物の断端や鈍体による打撲や擦過によっ
て生じた挫裂創,骨折,表皮剥脱や皮下出血があり,特に下顎骨は破砕され,上顎
骨にも骨折があり,歯牙は脱落したり動揺したりしており,頸部には表皮剥脱や赤
紫色変色があり,舌の先端部下面に創があり,中に骨片があり,舌骨及び甲状軟骨
は骨折し,周囲に強い出血があり,左肺には暗赤色斑点があり,気管支内には吸引
したものと認められる粘ちゅうな血液が充満し,左肩甲部や右臀部には棒状の物や
鈍体による打撲があることが認められ,これらのことから,同人の死亡原因は,上
下顎骨を骨折し,口腔内に損傷を生じたことから,口腔内に出た血液を肺に吸引し
たことによる窒息であると認められる。
 (4)そこで,Dの殺人罪の成否について検討するに,D,B及びCの暴行につい
ての前記認定の事実によれば,第3場面におけるDの暴行が,Hに対してその死亡
原因となるべき損傷を与えたことは明らかなところであり(なお,Cの供述によれ
ば,第3場面での暴行の直前にCがHの首からネックレスを外した時には,同人は
寝息のような息をしており,また右手を挙げて二,三回振るように動かしたことが
認められるのであって,第3場面での暴行の直前においては,同人がまだ生存して
いたことが明らかである。),前記認定のとおり,Dは,「生きとってもらったら
困るんじゃ。」と言って,金属バットでHの顔面から首の辺りを力一杯殴打したも
のであることに加え,Dには,同日の犯行が被告人らの犯行であることの発覚を防
ぎ,さらにはEにまで捜査が及ぶことを防ぐなど,Hを殺害することを決意するに
足りる十分な動機があったと考えられる一方,Dがこれらの行為に及んだ動機につ
いて,殺意の推認を覆すに足りる合理的な説明をなし得ていないことにかんがみれ
ば,Dが第3場面において確定的殺意をもってHを殴打したことは明らかと言うべ
きである。
 (5)続いて,検察官は,Hの致命傷となった上下顎骨の骨折及び口腔内の損傷
は,第1場面又は第2場面での暴行によっても生じていたと主張するので検討する
に,前記のとおり,Hには,舌骨及び甲状軟骨骨折を伴う頸部の表皮剥脱,頭骨骨
折や脳損傷を伴っていない後頭部挫裂創及び顔面,頭部,肩,背中,両足などの打
撲傷,擦過傷等,多数の傷害があるものの,死亡原因となった傷害は,挫裂創を伴
う上顎骨骨折及び下顎骨破砕のみであり,これら以外の損傷は,それ自体でHを死
に至らしめる可能性のないものである。そして,前記認定のとおり,第1場面にお
ける暴行は,BがHを羽交い締めにし,CがゴルフクラブでHの肩口や背中を殴打
し,Dが金属バットを振り回してHの身体のどこかに当たったというものであり,
第2場面での暴行については,Dが金属バットでHの顔面,胸,足などを五,六回
殴りつけ,しりもちをついて倒れた同人の顔面付近を殴打したというものであると
ころ,その後,倒れていたHのネックレスを窃取したCの供述によれば,Hは寝息
のような息をしており,その顔面は出血していたものの,崩れていたわけではな
く,顎骨を骨折して崩れた同人の顔写真を見せられたときには別人の顔で
はないかと思ったというものであって,上記の致命傷が第1場面又は第2場面での
暴行によっても生じたと認めることはできない。
   したがって,Hの致命傷となった上記損傷は,第3場面でのDの暴行のみに
よって生じたものであり,第1場面及び第2場面での暴行と,Hの死亡との間には
因果関係がないと言うべきである。
 (6)そこで,上記一連の暴行における被告人らの認識及び共謀の有無について検
討する。
   被告人らは,Fでの判示第2の共同器物損壊に先立ち,Dら3人が犯行中
に,もしFの関係者に発見された場合には,その者と戦ってでも,全員そろって現
場から逃げる旨の意思を通じ,そのためにAが自動車で待機していたことを一致し
て供述するところ,その供述は,被告人ら全員についてそれぞれ一貫している上,
内容も自然であり,これらに加えて,実際に加えた暴行も,第1場面では,乱闘に
なった際にDがHに対して金属バットを振り回し,CがゴルフクラブでHの肩口や
背中を殴打したというものであり,その場から逃げ出したHを追い掛けて追い付い
た第2場面では,3人でHを取り囲んだ上,DがHの頭部などを金属バットで殴打
して昏倒させているものの,第1場面における暴行と比較して特段の差はなく,殴
打の回数は数回にとどまっていること,その後直ちに現場からいったん逃走したこ
とに照らしても,上記供述は十分信用することができると言うべきである。
   そして,信用できるこれらの供述によれば,第1場面及び第2場面において
は,B,C及びDの間では,Fの関係者に暴行を加えて,その者に傷害を負わせる
ことの合意はあったものの,その時点ではDにも殺意はいまだ生じていなかったこ
とが認められ,傷害の範囲で共謀が成立していたことは明らかであり,したがっ
て,Aもその幇助の限度でDらの犯行に加功する意思を有していたことは明らかで
ある。
   そこで,第3場面でのD以外の者の認識について検討するに,第2場面から
第3場面までの経緯は,関係各証拠によると,第2場面での暴行の後,被告人らは
全員Aが運転する自動車で現場から逃走したものの,その途中でガソリンが入った
ポリタンクをFの敷地内に忘れてきたことに気付いたため,これを回収するために
現場に引き返し,Aを除く3人が自動車から降り,そのうちB及びCの2人がFの
敷地に入って行き,Dは自動車の近くで2人を待ち,Bがポリタンクを探して回収
し,Cが倒れていたHの首からネックレスを外して窃取し,再び逃走するために全
員が自動車に乗り込んだものの,Aが自動車を発進させたところ,Hのそばを通り
かかった際,Dが自動車を止めさせ,金属バットを持って1人で自動車を降り,金
属バットでHの顔面辺りを殴り付けて致命傷を負わせたというものである。
   そして,これらの事実によれば,B,C及びDの傷害についての共謀は,共
同器物損壊の現場でHに発見されたという突発的事情により,同人による逮捕を免
れて逃走することを主たる目的として生じた現場共謀であり,被告人らは,いった
んは共謀の目的を達成した上で,全員そろって現場を離脱して自動車で逃走したも
のであること,その後ポリタンクを回収するためにFに戻ってきたが,このような
事情がなければ現場に引き返すことはなかった上,引き返した後も,もはやHによ
る逮捕を恐れる必要がないことを認識しており,現実にHに更に暴行を加えること
なく,再度現場から逃走しようとしたものと認められ,これらの事情に照らせば,
第2場面の終了後,全員が乗り込んで自動車を発進させた時点では,もはやD,B
及びCの傷害についての当初の共謀関係は終了したものと認めるべきであり,した
がって,Aの幇助関係も同様に消滅していたものと言うべきである。
   よって,B及びCは,Dを含めた3名による,第1場面及び第2場面での傷
害罪の共同正犯の限度で,また,Aは,この傷害罪に対する幇助の限度でのみ責任
を負うにとどまり,傷害致死罪又はその幇助の責任を負わない。
(法令の適用)
 (省略)
(量刑の理由)
1 本件は,暴力団組員からの不法な上納金の支払要求を拒絶した家屋解体業者に
嫌がらせをするため,その暴力団組員の仲間や舎弟である被告人らがその暴力団組
員と共謀して,2度にわたり家屋解体業者のダンプカーの燃料タンクに砂糖を入れ
てエンジンを焼き付かせたり,燃料タンクやフロントガラスを損壊するなどした共
同器物損壊,2度目の共同器物損壊の際に,事務所で警戒に当たっていた被害者に
発見され,捕らえられそうになったことから,1人が付近で逃走用の自動車を待機
させる中,3人掛かりで逆にその被害者を金属バットやゴルフクラブなどで多数回
にわたって殴打するなどし,さらに,そのうちの1人が被害者にとどめを刺すべ
く,金属バットで被害者を殴打して殺害した殺人,傷害及び傷害幇助,その際に被
告人らのうち1人が,既に倒れて動けなくなっていた被害者から,その身に付けて
いたネックレスを外して盗み,別の1人がこのネックレスをもらい受けた窃盗及び
盗品等無償譲受け及びその後逃亡中,移動手段として利用するため,民家の敷地内
に駐車中の自動二輪車を盗んだ窃盗の事案である。
2 まず,2件の共同器物損壊について見るに,その動機は,暴力団組員であるE
が,家屋解体業者に対して,暴力団の威勢を背景に恐喝を試みたがはねつけられた
ことに立腹し,是が非でも不法な要求に応じさせるとともに自分の気を晴らそうと
考えたことにあると推測されるところ,Dは,そうした事情をEから明かされた
上,同人に積極的に協力すべく本件各犯行に加わることを決意し,また,B及びA
も,Eの指示に盲従して本件各犯行に加わり,Cは,2件目の共同器物損壊の計画
を聞き知って,Dが制止したにもかかわらず,興味本位で安易にその犯行に加わっ
ているのであって,いずれもその反社会的な動機に酌量の余地はない。
  また,その犯行態様も,1件目の共同器物損壊は,夜陰に紛れて,ダンプカー
の燃料タンクに砂糖などを混入してエンジンを焼き付かせるという陰湿なものであ
り,2件目の共同器物損壊は,深夜,金属バットやゴルフクラブ,バール,ハンマ
ーなどを用いて,手当たり次第に,ダンプカーの燃料タンクに穴を開けたり,フロ
ントガラスなどをたたき割るなどしたばかりでなく,放火用にガソリンを用意して
現場に持ち込むことまでするという非常に乱暴かつ破壊的なものであって,いずれ
も悪質と言わざるを得ない。
  次いで,傷害及び傷害幇助について見るに,その動機は,被告人らが家屋解体
業者の敷地内でダンプカーなどを壊していたところを,事務所に泊まり込んで警戒
に当たっていた被害者に発見され,木刀で打ち据えられるなどしたことから,逆に
被害者を痛め付けて,逮捕を免れるとともに,被害者に打ち据えられた気を晴らそ
うとしたという身勝手かつ自己中心的なものであって,酌量の余地はない。
  また,被告人らは,金属バットやゴルフクラブを用いて,被害者1人に対して
3人掛かりで殴り掛かり,さらには木刀を取り落として素手になり,現場から逃げ
出そうとした被害者を追撃して取り囲み,抵抗できない被害者に対し,同人が昏倒
するまで金属バットで頭部などを殴打しており,その態様は粗暴かつ凶悪なもので
あって,非常に悪質である。
  さらに,Dは,前記の各犯行が被告人らの仕業であることの発覚を防ぐため,
被害者を殺害することを決意し,既に倒れて動かなくなっていた被害者に対し,金
属バットで力任せに殴打して殺害したものであって,自己の刑責の追及を免れるた
めには他人の生命を奪うことさえいとわないというその動機は,非人間的なものと
言わざるを得ず,また,その態様も執ようかつ悪質である。
  被害者は,不法な金銭の要求を押し通すために悪質な嫌がらせを繰り返す暴力
団組員らに対して敢然と立ち向かったがために,何らの落ち度もないにもかかわら
ず,37歳という働き盛りで,突然にその命を奪われたものであって,被害者の被
告人らに対する怒りや,愛する家族や幼い子を残して死にゆく無念さは計り知れな
いものと推察される。
  被害者の遺族らは,暴力団の不法な要求に屈しないという正義感を貫いたがた
めに,このような理不尽な意趣返しを受け,互いに堅いきずなで結ばれたかけがえ
のない家族が,無惨にも殺害されるに至ったものであって,その悲嘆や,不条理な
仕打ちに対する憤り,被告人らに対する怒りには,語り尽くせないものがあると推
察される。
  また,2件の共同器物損壊についても,直接損害だけでもそれぞれ約40万円
及び約50万円と多額であるばかりでなく,間接損害をも含めれば,損害は膨大な
額に上るのであって,その結果は重大である。
  そして,本件の各犯行が,いずれも暴力団組員による不法な要求を拒絶した善
良な市民に対して,暴力団の威勢を誇示するために,多大な財産上の損害を与えた
ばかりでなく,これに対して勇気を持って立ち向かった被害者を殺害したものであ
ることから,本件各犯行が周辺住民に与えた恐怖感は言うまでもなく,被告人らと
同様の反社会的組織からの危険にさらされている社会に与えた恐怖感や不安感は計
り知れないものがあり,その犯罪の模倣性の強さをも考えると,本件の社会的影響
は極めて重大である。
  次に,ネックレスの窃取及び無償譲受けについて見るに,その被害額自体必ず
しも軽微ではない上,その態様は,自らの暴行により昏倒している被害者が身に付
けていたネックレスを奪い,さらに,これが自ら殺害した被害者が身に付けていた
ものであることを知りながら,「形見に持っとっちゃる。」などと言ってもらい受
けた上,逃走資金に充てるために換金したものであって,被告人らのこれらの行為
は,被害者を冒とくし,人間性が欠落したものと言うべきであって,極めて強い非
難に値する。
  そして,被告人らは,これらの犯行後,互いに口裏を合わせたり,凶器や着衣
を投棄したり,友人らに依頼して口裏合わせや関係証拠物の処分をさせるなど,入
念に罪証隠滅を図ったばかりでなく,Aを除いては,あいまいかつ不合理な弁解に
終始して,その首謀者であるEをかばい続けるとともに,被告人間相互でもかばい
合うなどして,自身らの刑事責任を不当に軽減しようとするなど,真しな反省の情
がうかがわれない上,一部被告人から被害の一部が弁償されているものの,その額
は本件被害を償うには不十分であって,遺族らの処罰感情がしゅん烈であるのも当
然と言うべきである。
  また,自動二輪車の窃盗については,Cが逃走中の移動手段にするため,民家
の敷地内に止めてあった自動二輪車を盗み,用済みになるやこれを乗り捨てたもの
であって,その犯行は自己中心的かつ安易なものと言うほかない。
  これらの事情によれば,被告人らの刑事責任は重大であると言わざるを得な
い。
3 続いて,各被告人の個別の情状について検討する。
 (1)まず,Dは,親友であったEの意向を直接に受け,2件の共同器物損壊事件
では現場での実行行為を主導したものであり,Eに次ぐ中心的な役割を果たしたこ
とが認められる上,傷害及び殺人については,素手になって逃げ出した被害者を3
人で取り囲み,金属バットで数回にわたって手加減なく頭部などを殴りつけて,被
害者を昏倒させ,その後,更に単独で,確定的な殺意をもって,被害者を金属バッ
トで殴打して殺害したものであって,その犯行は残忍で冷酷非情と言うほかない。
さらに,ネックレスの無償譲受けについては,人として最低限感じるべき良心の呵
責や後悔さえ見られず,被害者の人格を無視した,人間性の欠落した犯行と言うべ
きである。
   そして,Dは,殺意についてあいまいな供述を繰り返すなど,自己の行為を
真しに反省しようとする態度が全く見られないばかりでなく,Eの刑責を自分が背
負うことによりEをかばっていることが明らかであって,その暴力団関係者特有の
思考態度は厳しく非難されなければならない。
   また,こうしたDの態度に加え,過去に暴力団構成員として活動していた経
歴があること,別の事件で執行猶予付き懲役刑の言渡しを受けた後,わずか2か月
足らずで更に本件各犯行を敢行したものであることなどの事情にかんがみれば,再
犯の可能性は極めて高い。
   そこで,今回の実刑判決により,前刑の執行猶予が取り消されて,合わせて
長期間の服役になることなど,Dにとってしんしゃくできる事情を考慮してもな
お,Dを主文程度の実刑に処し,徹底した矯正教育を施すとともに,自己の責任を
全うさせる必要がある。
 (2)次に,Cについて検討するに,関与した共同器物損壊は1件だけであるもの
の,犯行の計画を知り,Dが制止したにもかかわらず,それを押し切って犯行に加
わったのみならず,トラックを壊すための道具を自ら準備した上,更に不足した物
を盗みに行くことを提案し,現場でも最も積極的にダンプカーの損壊を行うなど,
喜々として本件犯行を実行していたことがうかがわれるばかりでなく,傷害につい
ても,ゴルフクラブで被害者に殴り掛かるなどしているのであって,その犯情は悪
質と言うほかない。
   さらに,Cは,平成12年10月に窃盗罪で懲役刑の言渡しを受け,その保
護観察付き執行猶予の期間中であったにもかかわらず,自ら希望して共同器物損壊
に加わった上,昏倒している被害者が身に付けていたネックレスを窃取し,逃走中
に自動二輪車を窃取したものであって,その規範意識の鈍麻は甚だしいと言うほか
なく,再犯の可能性も高いと言わざるを得ない。
   一方,Cが関与した共同器物損壊は1件だけであること,判示第3の罪につ
いては傷害罪の限度でその刑責を負うこと,被害者との間で400万円を支払う旨
の示談が成立し,内金200万円は支払済みであること,父親が今後のCの指導監
督を怠らない旨述べていること,Cは今回の実刑判決により,前刑の執行猶予が取
り消されることから長期間の服役となることなど,Cにとってしんしゃくできる事
情も認められ,これらの事情を総合考慮すれば,Cを主文の程度の実刑に処するの
が相当である。
 (3)続いて,Bについて検討するに,2件の共同器物損壊では,いずれもE及び
Dの指示の下で,実際の損壊行為を担当し,傷害に関しては,逃げ遅れたDが被害
者に打ち据えられているのを見るや,被害者に体当たりをするなどしてDに加勢
し,さらに,素手になって現場から逃げようとした被害者を追い詰めるなど,自ら
積極的に加功しているのであって,その犯情は悪質である。
   そして,Bは,Eをかばうため不合理な弁解に終始しているばかりでなく,
法廷での態度も劣悪であり,Bには本件結果の重大性や被害者の遺族の無念や悲嘆
を理解しようとする心情が欠如していることがうかがわれるのであって,真しな反
省の情は到底認められない。
   さらに,Bは,平成12年12月に窃盗教唆罪で懲役刑の言渡しを受け,そ
の保護観察付き執行猶予の期間中であったにもかかわらず,安易に本件犯行に関与
したものであって,規範意識の鈍麻は甚だしく,再犯のおそれも高いと言うべきで
ある。
   一方,共同器物損壊については,Bは,その立場上,Eらの指示に従わざる
を得なかった面があると言えること,判示第3の罪については傷害罪の限度でその
刑責を負うこと,B自身は凶器を用いていないこと,Bは今回の実刑判決により,
前刑の執行猶予が取り消されることから長期間の服役となることなど,Bにとって
しんしゃくできる事情も認められ,これらの事情を総合すれば,Bを主文の程度の
実刑に処するのが相当であると考えられる。
 (4)最後に,Aについて検討するに,以前からEの舎弟分として行動し,2件の
共同器物損壊では,Eの指示に盲従して,自動車の運転や現場周辺の見張りなどを
担当し,判示第3の罪についても,付近で逃走用の自動車を待機させるなど,重要
な役割を果たしていたことが認められる。
   一方,Aは,共同器物損壊の犯行に加わることに必ずしも積極的ではなく,
実際の損壊行為も担当していないこと,判示第3の罪については,傷害幇助の刑責
を負うにとどまり,また,損壊行為を担当する共犯者が捕まりそうになった場合に
は戦いながら逃げるという程度の認識で共同器物損壊の犯行に加わっていたとこ
ろ,Dらが被害者に発見されて格闘になったため,結果的にDらの傷害罪の幇助と
なったこと,被害者との間で300万円を支払うことで示談が成立し,内金200
万円は支払済みであること,窃盗の前歴1回を有するのみで,前科はないこと,共
犯者の中で唯一,捜査の初期段階から事実を認めて素直に供述するなど反省の情が
うかがわれること,今後は,pを離れて,これまでの不良交友関係を絶ち,父親の
知人の監督の下で働く予定であることなど,社会内での更生のための環境も整って
いることなど,Aに有利な事情も認められるのであって,これらの事情を総合すれ
ば,今回は,刑の執行を猶予し,社会内で更生に向けて努力する機会を与えるのが
相当である。
4 よって,主文のとおり判決する。
(求刑-Aにつき懲役3年,Bにつき懲役10年,Cにつき懲役10年,Dにつき
懲役15年,押収物没収)
  平成14年5月17日
    広島地方裁判所刑事第一部
        裁判長裁判官山  森  茂  生
           裁判官髙  原     章
           裁判官寺  元  義  人

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛