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平成21年9月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10034号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年7月14日
判決
原告株式会社インフォメーシ
ョン・ディベロプメント
同訴訟代理人弁理士齋藤晴男
齋藤貴広
被告特許庁長官
同指定代理人榎本政実
小林由美子
安達輝幸
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−10846号事件について平成20年12月26日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において原告の本件出願に対する拒絶査
定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写
し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3のとおりの取消
事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願及び拒絶査定
本願商標の構成:「アイディー」の片仮名文字を標準文字で書して成る。
指定商品:第9類「加工ガラス(建築用のものを除く。),自動販売機,ガソリ
ンステーション用装置,駐車場用硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,消火栓,
消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,保安用ヘルメット,鉄道用信号
機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,潜水用機械器
具,業務用テレビゲーム機,乗物運転技能訓練用シミュレーター,運動技能訓練用
シミュレーター,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気通信機械器具
(『テレビジョン受信機・ラジオ受信機・音声周波機械器具・映像周波機械器具』
を除く。),電子応用機械器具及びその部品,スロットマシン,レコード,メトロ
ノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD―ROM」
原出願日:平成17年3月22日
原出願番号:商願2005−24734号
分割出願日:平成18年8月9日(甲1)
分割出願番号:商願2006−74445号
拒絶査定日:平成19年3月28日(甲4)
(2)審判手続及び本件審決
審判請求日:平成19年4月16日(甲5)
審決日:平成20年12月26日
本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成21年1月14日
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本願商標をその指定商品中の例えば「システム・
情報等のセキュリティに関する商品を含む電子応用機械器具及びその部品並びに電
気通信機械器具(「テレビジョン受信機・ラジオ受信機・音声周波機械器具・映像
周波機械器具」を除く。)」に使用しても,これに接する取引者・需要者は,「識
別子。ネットワークシステムなどの利用者を識別するための符号」を意味する語,
さらには,「コンピュータ,情報セキュリティに関する一用語」である「ID」の
表音と理解・認識するにとどまり,自他商品の識別標識として認識し得ないもので
あるから,本願商標は商標法3条1項6号所定の「需要者が何人かの業務に係る商
品…であることを認識することができない商標」に該当する,というものである。
3取消事由
本願商標が需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができな
い商標に該当するとした本件審決の判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
本件審決は,本願商標の構成である「アイディー」の文字は,欧文字「ID」の
表音の片仮名表記であることを前提として,「ID」の語が本願指定商品と関連す
る情報技術分野において,識別子等を表す用語として用いられており,「ID」の
語は,インターネット検索や一般的な辞書において「アイディー」の読みで検索す
ることが可能であることから,本願商標は,本願指定商品との関係において識別力
がないと判断した。
しかしながら,情報技術分野において,識別子等を表す用語として用いられてい
るのは,あくまでも大文字アルファベットの「ID」であって,片仮名表記の「ア
イディー」が識別子等を表す用語として用いられている例は皆無であるから,単に
表音が一致することのみを理由として本願商標「アイディー」が識別子等を意味す
る「ID」を認識させると判断することはできない。
したがって,本件審決は,その判断の前提を誤ったものであるというべきであ
り,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
片仮名文字「アイディー」は,一般的な辞書の記載,本願商標に係る指定商品と
関連の深い情報通信関連の各種辞書類の記載並びに新聞記事及びウェブサイトにお
いて,識別子等を意味する語として,単独又は「ID(アイディー)」,「アイデ
ィー(ID)」のように,欧文字「ID」と並記して使用されている実情があるか
ら,「アイディー」からは識別子等を意味する欧文字「ID」が容易に想起される
ものである。
また,「アイディー」から生ずる称呼は,欧文字「ID」から生ずる称呼と同一
であり,かつ,本願商標に係る指定商品に関連の深い情報通信関連の分野におい
て,「アイディー」を読みとする語は,識別子等を意味する欧文字「ID」以外に
ない。
そうすると,本願商標「アイディー」は,その構成文字から生ずる称呼及び観念
が,識別子等を意味する語として,本願商標に係る指定商品の取引者,需要者に広
く知られている欧文字「ID」から生ずるものと同一であり,その外観も極くあり
ふれた片仮名表記に止まるものであるから,自他商品の識別力を有しないというべ
きであり,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件審決の判断に誤り
はなく,取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断
1本件審決は,本願商標に接する取引者・需要者は,「識別子。ネットワーク
システムなどの利用者を識別するための符号」を意味する語,さらには,「コンピ
ュータ,情報セキュリティに関する一用語」である「ID」の表音と理解・認識す
るにとどまり,自他商品の識別標識として認識し得ないと判断したところ,原告
は,そのように理解・認識されるのは,あくまでも大文字アルファベットの「I
D」であって,片仮名文字による本願商標からはそのように理解・認識されないと
主張するので,以下,本願商標の取引者・需要者,「ID」の概念,片仮名表記の
「アイディー」から想起される観念を踏まえ,この点について検討することとす
る。
2本願商標の取引者・需要者について
本願商標の指定商品中には,「電気通信機械器具(「テレビジョン受信機・ラジ
オ受信機・音声周波機械器具・映像周波機械器具」を除く。),電子応用機械器具
及びその部品」が含まれていることから,本願商標の取引者・需要者には,情報通
信分野に関わる者が含まれるほか,電気通信機械器具等を利用する者が含まれるも
のと認められる。
そして,電気通信機械器具等には,インターネット接続機能を有するコンピュー
タも含まれるというべきであるから,本願商標の取引者・需要者には,インターネ
ットユーザーが含まれており,その幅は広いものということができる。
3「ID」の概念について
(1)国語辞書における記載
ア平成7年(1995年)11月3日株式会社三省堂発行の「大辞林第二
版」8頁には,「アイディーカード」の項に「〔IDはidentity;identification
の略〕身分証明書。」との記載があるが,「アイディー」の独立の項は設けられて
いない。そして,平成18年(2006年)10月27日発行の同書「第三版」8
頁には「アイディー」の項に「→ID(ABC略語)」との記載があり,付録の
「ABC略語」21頁の「ID」の項には「①識別。身分証明。同定。一体化。②
識別子。コンピュータ・ネットワークなどで,ユーザーや機器を識別するための符
号。通例,数字やアルファベットを組み合わせたものが用いられ,パスワードと組
み合わせてログインする。」との記載がある。
イ平成10年(1998年)11月11日株式会社岩波書店発行の「広辞苑
第五版」7頁には,「アイ・ディー・カード【ID−】」の項に「その人と識別す
るための情報を記録して所持するカード。身分証明書。」との記載があり,「アイ
・ディー・ばんごう【ID番号】」の項に「複数の利用者を識別するための符号。
英数字の組合せを用いる場合が多い。アカウント番号。」との記載があるものの,
「アイ・ディー」の独立の項は設けられていないが,平成20年(2008年)1
月11日発行の同書「第六版」8頁では,「アイ・ディー【ID】」の項が設けら
れ,「ID番号の略。」と記載されている。
(2)情報通信関連の各種辞典類における記載
ア平成14年(2002年)10月7日日経BP社発行の「情報・通信新語辞
典2003年版」(甲22)402頁には,「ID〔identification
number〕」の項に「オンライン・データベースやパソコン通信サービスなど,複数
のユーザーが利用するコンピュータ・システムで用いているユーザー識別符号。企
業内のコンピュータ・ネットワーク利用を管理するためにIDを設定することもあ
る。一般的には,英数字の組み合わせからなる番号をサービス提供側から与える
が,システムによっては,他ユーザーと重複しなければ,自分で選べる場合もあ
る。このID番号によって,コンピュータ・システムの利用回数や料金の計算を行
うため,アカウント(課金符号)と呼ばれることもある。」と記載されている。
イ平成16年(2004年)10月11日日経BP社発行の「日経パソコン用
語事典2005年版」(乙35)には,「IDアイディー;identification」の
項に「LAN上のデータベースを利用したり,プロバイダーに接続するとき,ユー
ザーを特定するために使われる名称。パソコン上ではユーザー名と表記されること
もある。英字や数字の組み合せをIDとして使っているシステムが多い。また,こ
のIDに対してコンピューターの利用料金を請求することから,アカウント(課金
番号=accountnumber)と呼ぶこともある。ネットワークにつながっていないコン
ピューターでも,安全対策のためIDを設けて管理することもある。」と記載され
ている。
ウ平成16年(2004年)11月1日株式会社技術評論社発行の「2005
−‘06年版最新パソコン用語事典」(乙37)には,「ID〔アイディー〕」
の項に,「IDentification→ID番号」の記載があり,「ID番号〔アイディ
ー〕IDentificationnumber」の項に,「基礎複数ユーザーを持つコンピュータ
・システムで用いるユーザー識別番号。これによってユーザーを区別し,利用料金
などを計算する。このため,アカウント番号(accoutnumber)ともいう。これに
は機密性がないため,パスワードを併用してユーザーであることを認証するシステ
ムが多い。」と記載されている。
エ平成16年(2004年)1月6日株式会社エクスメディア発行の「超図解
カナ引きパソコン用語事典2004−05年版」(乙38)には,「アイディ®
ーID,IDentification」の項に,「システムの利用者を識別するための符号の
こと。一般には英字や数字を組み合わせて使う。インターネットやサーバーにアク
セスするときに,ユーザー名やパスワードを入力し,サーバーはこれによって正当
な利用者であることを識別する。」と記載されている。
(3)ウェブサイト上の用語辞典における記載
ア「Yahoo!」のウェブサイト(甲9)には,「IT用語辞典」の見出しのも
と,「ID(identifier)/読み方『アイディー』/別名なし」の項に,「身分証
明書という意味の英単語。ITの世界では,何らかの対象を集団の中で一意に識別
するための識別符号のこと。コンピュータの利用者を識別するために一人一人に割
り当てられたユーザ名などがこれに当たる。」の記載がある。
イBINARYのウェブサイト(甲10)には,「IT用語辞典」の見出しのもと
の「IDフルスペル:identification/読み方:アイディー」の項に,「ID
とは,システムの利用者を識別するために用いられる符号のことである。ネットワ
ーク上においては,インターネットに接続する際のプロバイダとの接続や,LAN
上のデータベースに接続する際などに,ユーザー認証を行うために使用される。ネ
ットワークに接続していないコンピュータでも,セキュリティ対策のためにログイ
ンIDを設けることがある。IDは『ユーザ名』や『ユーザID』などと呼ばれる
ことも多い。一般的にIDはパスワードとセットにして用いられる。多くのシステ
ムでは,IDはアルファベットや数字を用いて設定することができる。」の記載が
ある。
ウRBBTODAYのウェブサイト(甲11)には,「IT辞典」の見出しのもとの
「ID(アイ・ディー。Identifier)」の項に,「ユーザIDとは,ユーザーが誰
であるかを証明するために数字や文字などを使用した識別子を指します(注.人の
身元を確認したり,証明したりする場合のIDはIdentificationの略)。」の記
載がある。
エ「ID|学習百科事典|学研キッズネット」のウェブサイト(乙12)に
は,「アイディー【ID】」の項に,「Identificationの略。個人の識別の意味
で使われる。身分証明。たとえば,個人の資格や権利を識別するためのカードは,
IDカードという。」の記載(振り仮名は省略)がある。
オ「情報通信白書forkids」のウェブサイト(乙13)には,「インターネ
ットの世界」の見出しのもとの「インターネットへのいろいろな接続方法」の項
に,「プロバイダへの申し込みは,オンラインサインアップのCD−ROM(シー
ディー・ロム)を使う,または,電話,FAX,郵便等で申し込んで接続するため
のID(アイディー)・パスワードをもらうなどの方法があるんだよ。」の記載
(読み仮名は省略)がある。
カシャープ株式会社のウェブサイト(乙14)には,「Mebius用語集−アル
ファベットH−P」の見出しのもとの「ID(アイディー)」の項に,「識別番
号や識別子のこと。プロバイダなどに接続する際に,利用者を識別するために利用
者一人ひとりに割り振られ使われる文字列のことで,パスワードと一緒に入力し,
正規の利用者であることを識別するために使う。」の記載がある。
キキーマンズネットのウェブサイト(乙15)には,「IT単語帳」の見出し
のもとの「ID(アイディー)」の項に,「身分証明書という意味の英単語。IT
の世界では,何らかの対象を集団の中で一意に識別するための識別符号のこと。コ
ンピュータの利用者を識別するために一人一人に割り当てられたユーザ名などがこ
れに当たる。」の記載がある。
(4)電子商取引等における認証としての使用
以上の辞書・辞典等の記載のほか,証拠(乙22∼30)によると,近年,「I
D」とパスワードによる認証を利用して企業や官公庁のウェブサイトにアクセスし
て情報をやり取りするシステムが運営されているほか,一般の消費者が,コンピュ
ータや携帯電話等を介して,同様の方法により必要なウェブサイトにアクセスし,
商品の購入・販売並びに列車,ホテル,レンタカー,自動車教習所,美容院,病院
の診察及び図書館のおける本の貸出し等の予約を行うシステムが多数運営されてい
ることが認められる。
(5)商品名の一部としての使用
また,以上のような認証としての使用のほかにも,証拠(乙18,31∼33)
によると,ID管理サーバー,IDカードリーダ,IDカード用プリンター及びI
Dカード発行ソフトウェアのように,「ID」の文字が商品名の一部として使用さ
れている例が存在することが認められ,これらのネットワーク関連機器は,本願商
標の指定商品に含まれる「電気通信機械器具」に該当するものということができ
る。
4片仮名表記の「アイディー」から想起される観念
上記3(1)及び(2)で認定したところによると,「ID」の語は,本件商標登録出
願の時点において,主としてユーザー等の個人を識別するための識別子を意味する
パソコン用語として広く知られていたものであり,本件商標登録出願後,拒絶査定
時又は本件審決時までの間に,インターネットの普及に伴って更に広く認知され,
国語辞典に登載されるまでに一般化してきたものということができるところ,上記
3(3)ないし(5)のとおり,「ID」の語はウェブサイト上でも広く紹介され,「I
D」がユーザー等の個人を識別するための識別子であることを前提として,このよ
うな認識なくしては利用することができない各種サービスが広く一般に行われてい
るほか,電気通信機械器具に属する機器の商品名には,上記のような識別子を意味
するものとして「ID」の文字を使用してその機能を説明するものも存在し,反対
に,「アイディー」と発音する「ID」の語に,上記で認定したものと異なる特定
の語義が存在するとの事情は認めることができない。
そのような「ID」の語についての認識及び使用の状況にかんがみると,「I
D」の語が,その読みである「アイディー」と切り離して,大文字のアルファベッ
ト「ID」としてのみ認識されているということはできないのであって,本願商標
の指定商品の取引者・需要者にとってみれば,「ID」の表記と「アイディー」と
の読みは一体のものと認識・理解されているといわざるを得ない。
そうすると,本願商標の取引者・需要者は,「アイディー」と片仮名表記された
本願商標から,個人を識別するための識別子を意味する語としてすでに一般的に認
識されている大文字アルファベットの「ID」を想起するに至るものというべきで
あって,本願商標「アイディー」がそのような識別子を意味する「ID」を認識さ
せるものではないとの原告の主張を採用することはできないというほかない。
したがって,本願商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であること認識する
ことができない商標であり,本願商標が商標法3条1項6号に該当するとした本件
審決の判断に誤りはない。
5結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ
れるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官杜下弘記

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