弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人池谷四郎の上告理由について。
 論旨は、要するに、本件通達は従来慣習法上認められていた異宗派を理由とする
埋葬拒否権の内容を変更し、新たに上告人に対して一般第三者の埋葬請求を受忍す
べき義務を負わせたものであつて、この通達によれば、爾後このような理由による
拒否に対しては刑罰を科せられるおそれがあり、また、右通達が発せられてからは
現に多くの損害、不利益を被つている、従つて、右通達は上告人ら国民をも拘束し、
直接具体的に上告人らに法律上の効果を及ぼしているのであつて、原判決が上告人
のこのような主張を排斥して本訴を許すべからざるものとしたのは、本件通達の内
容、効果を誤認し、ひいて法律の適用を誤つたものであり、また、審理不尽の違法
を犯している、というのである。
 しかし、本件通達は、厚生省公衆衛生局環境衛生部長から都道府県指定都市衛生
主管部局長にあてて発せられたもので、その内容は、墓地、埋葬等に関する法律一
三条に関し、昭和二四年八月二二日付東京都衛生局長あて回答に示した見解を改め、
今後は内閣法制局第一部長の昭和三五年二月一五日付回答の趣旨にそつて解釈、運
用することとしたことを明らかにすると同時に、諸機関において、この点に留意し
て埋葬等に関する事務処理をするよう求めたものであり、行政組織および右法律の
施行事務に関する関係法令を参しやくすれば、本件通達は、被上告人がその権限に
もとづき所掌事務について、知事をも含めた関係行政機関に対し、法律の解釈、運
用の方針を示して、その職務権限の行使を指揮したものと解せられる。
 元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関
係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命
令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政
組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されること
はあつても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達
の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわり
をもつようなものである場合においても別段異なるところはない。このように、通
達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する
処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右される
ものではない。また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろ
んで、裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異
なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは
独自にその違法を判定することもできる筋合である。
 このような通達一般の性質、前述した本件通達の形式、内容および原判決の引用
する一審判決議定の事実(拳示の証拠に照らし肯認することができる。)その他原
審の適法に確定した事実ならびに墓地、埋葬等に関する法律の規定を併せ考えれば、
本件通達は従来とられていた法律の解釈や取扱いを変更するものではあるが、それ
はもつぱら知事以下の行政機関を拘束するにとどまるもので、これらの機関は右通
達に反する行為をすることはできないにしても、国民は直接これに拘束されること
はなく、従つて、右通達が直接に上告人の所論墓地経営権、管理権を侵害したり、
新たに埋葬の受忍義務を課したりするものとはいいえない。また、墓地、埋葬等に
関する法律二一条違反の有無に関しても、裁判所は本件通達における法律解釈等に
拘束されるものではないのみならず、同法一三条にいわゆる正当の理由の判断にあ
たつては、本件通達に示されている事情以外の事情をも考慮すべきものと解せられ
るから、本件通達が発せられたからといつて直ちに上告人において刑罰を科せられ
るおそれがあるともいえず、さらにまた、原審において上告人の主張するような損
害、不利益は、原判示のように、直接本件通達によつて被つたものということもで
きない。
 そして、現行法上行政訴訟において取消の訴の対象となりうるものは、国民の権
利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でな
ければならないのであるから、本件通達中所論の趣旨部分の取消を求める本件訴は
許されないものとして却下すべきものである。
 以上のとおりであるから、これと同旨の原判決の判断は正当として首肯すること
ができる。所論はるる主張するが、ひつきよう、原判決のした事実の認定を非難す
るか、原判示を誤解するか、または、原判示にそわない事実もしくは独自の見解を
前提として原判決の違法を主張するものであり、原判決には所論の違法は認められ
ない。所論はすべて採用することはできない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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