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平成16年(ネ)第3911号 特許権差止請求権不存在確認本訴請求,損害賠償反
訴請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成15年(ワ)第23648号,同16年
(ワ)第1989号)
口頭弁論終結日 平成16年9月14日
             判      決
控訴人       丸山工業株式会社
    同訴訟代理人弁護士 後藤昌弘
同川岸弘樹
      同補佐人弁理士      広江武典
      同        武川隆宣
  被控訴人   鹿島建設株式会社
同訴訟代理人弁護士    小林幸夫
同            弓削田博
        主      文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 (1) 原判決を取り消す。
 (2) 被控訴人の請求を棄却する。
  (3) 被控訴人は,控訴人に対し,2000万円及びこれに対する平成16年1
月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 (4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨
第2 事案の概要
1本件は,被控訴人(一審本訴原告・反訴被告)において,「軟弱地盤の改良
工法及びその改良施工装置」に関する特許権を有する控訴人(一審本訴被告・反訴
原告)を相手方として,被控訴人による原判決別紙原告実施工法目録記載の軟弱地
盤の改良方法(以下「原告方法」という。)及び原判決別紙原告改良施工装置目録
記載の装置(以下「原告装置」という。)の使用が上記特許権の侵害に該当せず,
又は,上記特許権には明白な無効事由が存在し,これに基づく差止請求が権利濫用
に当たると主張し,被控訴人による原告方法及び原告装置の使用につき上記特許権
に基づく差止請求権が存在しないことの確認を求め(本訴),他方,控訴人におい
て,被控訴人に対し,原告方法を使用する被控訴人の行為は上記特許権を侵害する
と主張して,不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた(反訴)事件である。
 原判決は,被控訴人による原告方法及び原告装置の使用は上記特許権を侵害
しないとして,被控訴人の本訴請求を認容し,控訴人の反訴請求を棄却した。
   控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。
2 原判決の補正
  「争いのない事実等」,「争点」,「争点に関する当事者の主張」は,次のと
おり補正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1ないし3
に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)ア 原判決3頁7行目から8行目にかけての「以下同公報掲載の明細書を
「本件明細書」という。」を「以下,同公報を「本件特許公報」といい,同公報掲
載の明細書を「本件明細書」という。」と改める。
   イ 同6頁4行目冒頭から7頁14行目末尾までを次のとおり改める。
     「引用文献1(注:特開50-7309号公報)においては,不透膜1
4の構成については記載されていないが,不透膜をどのような構成とするかは設計
的事項に過ぎず,また合成樹脂をラミネートしたシートも,参考文献(注:実開6
2-190061号公報,特開61-132122号公報,実開昭59-1364
39号公報,特開昭58-131255号公報,特開昭49-117222号公
報)にあるように様々な技術分野においてよく用いられているものに過ぎず,合成
樹脂をラミネートしたシートを引用文献1の不透膜として用いて,本願の請求項1
のような構成とすることは,当業者にとって容易に想到できたことである。
    (中 略)
      引用文献4(注:特開平1-14415号公報)の複合シートを通水
材として用いることは,当業者にとって容易に想到できたことである。
      引用文献5(注:特開平1-105813号公報)には,非透水性シ
ートの下面に透水性シートを一体に積層したシートが記載されており,これを引用
文献1のサンドマットと不透膜に代えて用いることは,当業者にとって容易に想到
できたことである。(以下省略)」
    ウ 出願人(控訴人)による補正
     前記イの拒絶理由通知に対し,出願人は,平成13年10月15日
(提出日)付けの手続補正書(甲10)を提出して,前記ア記載の各請求項1,4
について,通水材を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートとからなる帯状
の通水材」と補正し,本件明細書の記載と同一の記載に補正した。
      これと同時に,出願人は,特許庁審査官に対し,同日付けの意見書
(甲9)を提出した。同意見書には以下の内容の記載がある。   
     (ア) 「請求項1,4(注:前記ア記載の各請求項)に係る発明が,ネ
ットとネットの表面に取り付けられた繊維シ-トとからなる帯状の通水材を用い,
この通水材を地盤上に残しておかれたドレーン材上端部と接するように配置して,
該通水材を通して地盤表面へと吸い出された水及び空気を改良区域外へと排出する
ようにしているのに対し,引用例1(注:特開50-7309号公報)記載の発明
では,水及び空気の排水経路としてサンドマットを用いている点で相違してい
る。」(4頁2~7行)。「請求項1,4に係る発明における通水材と引用例1記
載のサンドマットとは,ともに水及び空気の排水経路として機能するものである。
しかし請求項1,4に係る発明の通水材は,ネットとネットの表面に取り付けた繊
維シートとからなり,サンドマットとの作用効果の違いは,本意見書に添付した実
験証明書(注:甲11)からも明らかなとおりである。」(4頁13~17行)
     (イ) 「審査官殿の挙げられた引用例2(注:特公46-7348号公
報),3(注:特開平2-308007号公報),5(特開平1-105813号
公報)及び6(特開平6-299535号公報)についても,地盤上に残しておか
れたドレーン材上端部と接するように真空ポンプに連結されたネットとネットの表
面に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材を配置することについて,何ら
の記載も示唆もない。」(5頁13~16行)」
ウ 同7頁20行目の「実施している工事の実施が」を「実施している工事
の施工が」と,同24行目の「原告方法及び原告装置が」を「原告方法及び原告装
置の使用が」とそれぞれ改め,同25行目の「証拠保全申立てを行い,」の次に
「裁判所の決定を得て,」を加え,同8頁3行目の「原告方法及び原告装置が」を
「原告方法及び原告装置の使用が」と改める。
(2)ア 原判決9頁6行目の「長さ方向」を「長手方向」と,同9行目から10
行目にかけての「特許公報」を「本件特許公報」と,同12行目の「長さ方向」を
「長手方向」と,同14行目の「高さ方向」を「長手方向に置かれたネットの上
下」とそれぞれ改める。
イ 同10頁5行目の「特許公報」を「本件特許公報」と,同15行目の
「長さ方向」を「長手方向」と,同行目の「高さ方向」を「長手方向に置かれたネ
ットの上下」と,同20行目から21行目かけての「長さ方向」を「長手方向」
と,同行目の「高さ方向」を「長手方向に置かれたプラスチック成型板の上下」と
それぞれ改める。
ウ 同12頁5行目及び10行目の各「長さ方向」を「長手方向」とそれぞ
れ改める。
エ同14頁4行目の「本件実施工法」を「原告方法」と,同15頁16行
目の「特許出願」を「本件特許出願」とそれぞれ改める。
3 当審における控訴人の主張
(1)原判決は,本件発明にいう「ネットとネット表面に取り付けた繊維シート
からなる帯状の通水材」の意義について,「「ネット」とは,一般に糸などを結合
して形成されたものをいう」とし,「原告方法及び原告装置の通水材において用い
られているプラスチック成型板は,いずれもプラスチック板に凹凸を付した物であ
り,糸などを結合して形成された構造の「ネット」には当たらない」旨判示してい
る。
    しかしながら,現実の産業技術上,「ネット」なる用語は,原判決の認定
するような「糸などを結合して形成されたもの」に限定されるものではない。「ネ
ット」としては,「糸などを結合して形成されたもの」以外に,乙8ないし18に
示されているとおり,様々な方法によって製造されたプラスチックネットが知られ
ているのである。
    原判決は,「ネット」の構造に関する認定を誤り,その結果,原告方法,
原告装置がそれぞれ本件発明1の構成要件B,本件発明2の構成要件Gを充足しな
いと誤って判断したものである。
(2)原判決は,控訴人は,本件特許の出願過程において,本件発明に用いる通
水材の構成を「ネットとネット表面に取り付けた繊維シートからなる帯状の通水
材」に限定したものと認められ,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造
を有する周知の排水材料等これと異なる構成を有する通水材を本件発明の通水材か
ら意識的に除外したものと認めるのが相当である旨判示した。
しかしながら,本件特許の出願に際して,控訴人が上記のとおり補正した
のは,「水及び空気の排出経路としてサンドマット」を用いる引用例1(注:特開
50-7309号公報)に対応してなしたものであり,それ以上のものではない。
また,控訴人が「水及び空気の排出経路としてサンドマット」を使用する方法を超
えて,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料等
の通水材をすべて本件発明の通水材から意識的に除外したとする証拠は一切ない。
原判決のこの点の認定は誤りである。
第3 当裁判所の争点に対する判断
   当裁判所の争点に対する判断は,次のとおり補正,付加するほか,原判決
「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1,2に記載のとおりであるか
ら,これを引用す。
1 争点(1)ア,イ(本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件Gの充足
性)について
(1) 原判決の補正
   ア 原判決28頁22行目の「特許公報の図3において,通水材の構造につ
き」を「本件特許公報の【図3】は,通水材を示す要部拡大断面図であり,同図に
は,本件発明の通水材の「ネット」部分の構造につき」と改める。
 イ 同29頁5行目の「請求項1,2」を「請求項1,4」と,同8行目の
「そして,」を削除し,同9行目冒頭から16行目末尾までを改行の上次のとおり
改める。
    「上記補正後の各請求項の通水材についてみるに,「ネット」とは,一般
に糸等を結合するなどして形成された網ないし網状のものをいうものと解されると
ころ,前記ア(オ)に記載のとおり,通水材を示す要部拡大断面図である本件特許公
報の【図3】には,本件発明の通水材の「ネット」部分が糸を結合して形成されて
いることが示されており,また,この図からみれば,本件発明の通水材の「ネッ
ト」部分は,網ないし網状の構造を有するものと認められる。そして,本件明細書
には,本件発明の通水材の「ネット」部分の構造について,上記の一般な意味と異
なるものと解すべき記載も示唆もない。
    上記の各事実に照らすと,本件発明における「ネットとネット表面に取
り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」は,上記の意味での「ネット」とこ
の表面に取り付けた「繊維シート」からなる帯状のものに限定されると解すべきで
あり,これを他の意義に解する余地はない。」
 ウ 同29頁23行目から24行目にかけての「糸などを結合して形成され
た構造の「ネット」には当たらない。」を「糸等を結合するなどして形成された網
ないし網状の構造を有する本件発明の通水材の「ネット」には当たらない。」
(2) 当審における控訴人の主張について
控訴人は,現実の産業技術上,「ネット」なる用語は,原判決の認定する
ような「糸などを結合して形成されたもの」に限定されるものではなく,「ネッ
ト」としては,「糸などを結合して形成されたもの」以外に,乙8ないし18に示
されているとおり,様々な方法によって製造されたプラスチックネットが知られて
いるとし,原判決は「ネット」の構造に関する認定を誤り,その結果,原告方法,
原告装置がそれぞれ本件発明1の構成要件B,本件発明2の構成要件Gを充足しな
いと誤って判断したものである旨主張する。
そこで検討するに,本件発明の通水材の「ネット」については,前記引用
に係る原判決第3,1,(1),イ(前記(1)の補正後のもの)のとおりに解すべきで
あり,したがって,本件発明の通水材の「ネット」には,糸等を結合して形成され
たもののほか,証拠(乙8ないし18)に開示されているようにプラスチックシー
トに多数のパンチ孔を刻設したものなど様々な方法によって形成される網ないし網
状のものが含まれることは,控訴人の主張するとおりである。原判決が「ネット」
の意義について説示するところは,表現は適切を欠くものの,上記認定と同趣旨を
いうものであると解されるのであって,「糸などを結合して形成されたもの」以外
の「ネット」が本件発明の通水材の「ネット」の構成を充足しないと判断している
わけではないと考えられる。
    「ネット」の意義については上記のように解されるが,そのことは,原告
方法及び原告装置の各通水材に用いられるプラスチック成型板が本件発明の通水材
の「ネット」の構成を充足することを意味するものではない。すなわち,上記プラ
スチック成型板は,いずれもプラスチック板に凹凸を付したものにすぎず,網ない
し網状が形成されたものでないことは明らかであって,それらは本件発明の通水材
の「ネット」の構成を充足するものではないというべきである。
控訴人の主張は採用することができない。
 2争点(2)(均等侵害の成否)について
 (1) 原判決の補正
    原判決30頁4行目冒頭から同31頁14行目末尾までを次のとおり改め
る。
  「(1) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存す
る場合であっても,①上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,②上記部分を対
象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一
の作用効果を奏するものであって,③上記のように置き換えることに,当業者が対
象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④対象
製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上
記出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許
出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段
の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等
なものとして,なお特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である
(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)。
  (2) 本件発明1の構成要件B及び本件発明2の構成要件Gについて
      控訴人は,仮に原告方法,原告装置がそれぞれ本件発明1の構成要件
B,本件発明2の構成要件Gをそれぞれ文言上充足しないとしても,原告方法及び
原告装置の各「袋状の繊維シートと凹凸を付したプラスチック成型板からなる」帯
状の通水材は,構成要件B,Gの各「ネットとネット表面に取り付けた繊維シート
とからなる」帯状の通水材と均等であるから,原告方法,原告装置は,それぞれ本
件発明1,本件発明2の技術的範囲に属する旨主張する。
  ア そこで,前記(1)⑤の意識的除外等の特段の事情の有無について検討
する。
  (ア) 前記引用に係る原判決第2,1,(6)(前記第2,2,(1)の補
正後のもの)の本件特許の出願経過に係る事実によれば,本件特許の出願人である
控訴人は,出願時の当初明細書の「特許請求の範囲」欄の請求項1,4において,
通水材の構成につき何らの限定を加えていなかったこと,その後,控訴人は,特許
庁審査官の拒絶理由通知に対し,上記通水材の構成を「ネットとネット表面に取り
付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と補正したこと,手続補正書と同時に
提出した意見書において,補正に係る「ネットとネット表面に取り付けた繊維シー
トとからなる帯状の通水材」は,水及び空気の排出経路として「サンドマット」を
用いる引用例1(注:特開50-7309号公報)記載の発明とは構成及び作用効
果が異なる旨説明していることが認められる。
  (イ) 証拠(甲29ないし33)によれば,次の事実が認められる。
  a 甲29(特公昭和58-3090号公報)には,「ポリプロピ
レンもしくはポリエチレン等の合成樹脂から成る帯状体の両面に幅方向に並列した
断面角型の多数条溝を各面毎に交互に有する凹凸状基体の表裏両面に対し,ナイロ
ン系もしくはテトロン系等の高分子化学繊維から成る透水性で,上記基体と同幅の
不織布帯の片面にポリプロピレンもしくはポリエチレン等の合成樹脂粉末を加熱加
圧した熱融解促進性不織布帯2枚の上記処理面を夫々圧接加熱することにより,上
記粉末が不織布帯面側においてはその繊維間隙内に分散固定し,又上記粉末が基体
面側においては熱融着することを特徴とした軟弱地盤の改良に使用するドレーン・
ボード」の発明が開示されている。
       b 甲30(特開昭63-67321号公報)には,「全面に凹凸
条溝を形成させた芯体の両面に不織布を貼合わせたドレーン材において,前記芯体
がその両表面に熱融着性接着層を備えており,この接着層の熱融着により前記貼合
わせが得られていることを特徴とする土木用ドレーン材」の発明が開示されてい
る。
    c甲31(特公平2-22168号公報)には,「細長くおよそ
平らな芯材と該芯材の両端以外の全面を包囲する柔軟性透過性表面材料とを有する
地下水排水用材料であって,該芯材はストリップ又はシートからなりそして該芯材
の少なくとも一方の面に形成された多数の同じ高さの中空突起を有し,該各中空突
起はおよそ平らな頂部を有し且つその高さが同じ側に隣接する中空突起の中心間の
距離の4分の1以上であり,そして該中空突起の頂部が前記柔軟性透過性表面材料
に固着されていないことを特徴とする排水材料」の発明が開示され,その明細書に
は「最近においては,一般にゼオテクステイル(geotextiles)と呼ばれる透過性プ
ラスチックポリマー製(編注;へんが「シ」で,つくりが「戸」という文字)布又は
ガラス繊維性(編注;へんが「シ」で,つくりが「戸」という文字)布が開発されて
いる。・・・プラスチックポリマー材料及びガラス繊維材料はいずれもゼオテクス
テイルに使用し得る。一連の(編注;へんが「シ」で,つくりが「戸」という文字)
布製造技術には,製織,ぬい合わせ及び融合が含まれる。このため,広範囲の性質
を有するゼオテクステイル生地を得ることができる。」(2頁第3欄41行~第4
欄8行目),「この発明は,ゼオテクステイル濾布のごとき柔軟性透過性表面材料
に被覆された又は包囲された内部支持用スぺータ又は芯を提供するものである。」
(4頁第7欄31~34行)と記載されている。
       d 甲32(特開平5-79032号公報)には,「多数の独立突
起を有する帯状板状芯材の周面が透水性濾過材で被覆されると共に,該透水性濾過
材と前記芯材とが相互に接する部分の内の少なくとも一部が,水の存在下で接着機
能を解放せしめる接着性材料によって固着されていることを特徴とする土木用排水
材」の発明が開示され,その明細書の段落【0010】には「本発明に用いる透水
性濾過材としては,透水性の面からポリエステル,ポリアミド,ポリプロピレン,
ポリエチレン各繊維などの熱圧着型不織布が好ましいが,耐水性,耐変形性の点か
らはポリエステルが一層好ましい。」と記載されている。
  e甲33(特公平6-11991号公報)には,「中空の凹部お
よび凸部が交互に連続したシート断面を有しかつ該凹部および/または凸部の頂点
部分に貫通孔を有するプラスチックシートと親水性布帛との複合体から成ることを
特徴とする拝水材」の発明が開示され,その明細書には「本発明に使用する布帛6
の形態は,前記した繊維糸を織布,編布あるいは不織布化したものを単独あるいは
複合したものであって,使用上,形態内容等を特に限定するものではない。・・・
不織布としては,スパンホンド方式,ニードルパンチ方式等の乾式織布,抄紙方式
の湿式不織布の布帛があり,あるいはマリモ,マリワット等の特殊な布帛があり,
これらを単独,あるいは複合して用いることが出来る。」(4頁第7欄6~16行
目)と記載されている。
  f 以上の各刊行物の記載によれば,本件特許の出願(平成8年6
月17日)当時,本件発明の各通水材に相当する土木用の部材として,「凹凸を付
した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する排水材料は,当業者に周知の事項で
あったと認められる。
  (ウ) 上記(ア)及び(イ)で認定した事実からすれば,控訴人は,本件
特許の出願過程において,本件発明に用いる通水材の構成を「ネットとネット表面
に取り付けた繊維シートとからなる帯状の通水材」と限定したものであり,これに
より,引用例1(注:特開50-7309号公報)記載の発明で用いられているサ
ンドマットや上記(イ)認定の「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有
する周知の排水材料等これと異なる構成を有する通水材を本件発明の通水材から意
識的に除外したものと認めるのが相当である。
 イ 小括
       そうすると,原告方法及び原告装置における各「袋状の繊維シート
と凹凸を付したプラスチック成型板からなる帯状の通水材」(構成b,g)は本件
発明1及び本件発明2から意識的に除外されたものというべきであるから,前記(1)
のその他の均等の要件について判断するまでもなく,原告方法,原告装置はそれぞ
れ本件発明1の構成要件B,本件発明2の構成要件Gと均等なものであるとは認め
られない。」
(2) 当審における控訴人の主張について
控訴人は,前記引用に係る原判決第2,1,(6)ウ(前記第2,2,(1)の
補正後のもの)の補正は,「水及び空気の排出経路としてのサンドマット」を用い
る引用例1に対応してしたものであり,それ以上のものではなく,これにより,控
訴人が,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する周知の排水材料
等これと異なる構成を有する通水材をすべて本件発明の通水材から意識的に除外し
たとする証拠はない旨主張する。
    しかしながら,「凹凸を付した板状の芯材を不織布で覆う」構造を有する
周知の排水材料が,当業者にとって周知の事項であることは前記引用に係る原判決
第3,2,(2)(前記(1)の補正後のもの)に認定したとおりであり,控訴人が通水
材の構成を「ネット」を使用する構成に変更したことからしても,当業者である控
訴人においては,上記補正をなすに当たり,本件発明の各通水材から,上記引用例
1のサンドマットを除外するほか,同時に上記周知事項に係る排水材料をも除外し
たものと考えるのが自然であり,この点に関する控訴人の主張は採用できない。
第4 結論
   以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の本訴請
求を認容し,控訴人の反訴請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由が
ないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所知的財産第1部
           裁判長裁判官   北  山  元  章
              裁判官  青  柳     馨
 
              裁判官    沖  中  康  人

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