弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、原告の本件各確認の訴はいずれも却下する。
二、被告は原告に対し金一万円を支払え。
三、原告のその余の請求を棄却する。
四、訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
       事   実
一、当事者双方の求めた裁判
(一) 原告
1 主位的請求
 被告が原告に対してなした昭和四三年八月二日付の権利停止の意思表示は無効で
あることを確認する。
 被告は原告に対し金一〇万円を支払え。
 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
2 主位的請求第一項の予備的請求
 原告は被告との間において、昭和四三年八月二日付の権利停止処分により権利停
止となつたものでない被告の組合員としての地位を有することを確認する。
との判決。
(二) 被告
1 本案前の裁判
 主位的請求第一項の請求および予備的請求につき、主文第一項同旨の判決
2 本案の裁判
 原告の請求をいずれも棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
二、当事者双方の主張
(一) 原告
(請求の原因)
1 被告は、王子製紙株式会社春日井工場の従業員の一部(約一、〇九三名)によ
り組織されている労働組合であり、原告は、同工場の従業員であつて昭和三七年四
月一〇日から被告の組合員となつた。
2 被告は、昭和四三年八月二日、原告に対し、被告の組合規約第一三条第三号に
基づき、同日より昭和四四年二月一日までの間、同規約第一〇条第四号(役員およ
び各種委員の選挙権および被選挙権を持つこと)及び同条第七号(組合員が出席す
る会議に於て発言権および議決権を有すること)所定の権利を停止する旨の処分
(以下「本件権利停止処分」という。)を行なつた。
 右処分の理由は、原告の次のような言動が、被告の組合綱領および路線を根本的
に否定し、著しく組合の統制をみだすというにある。
イ 原告が被告の組合員に対しアカハタの購読を勧誘したこと。
ロ 昭和四三年七月施行の参議院議員選挙に際し、被告の組合員に対し共産党候補
の投票依頼を行なつたこと。
ハ 昭和四三年七月二六日原告所属の職場会において、組合役員選挙に立候補する
意思を表明した際、「王子製紙労働組合(以下「王労」という。)春日井支部のた
めにも役員に立候補する。」「同労組が後押ししても、同一労働者であるからよい
ではないか。」など発言したこと。
3 しかし本件権利停止処分は無効である。すなわち、本件権利停止処分の理由と
なつている前項(ハ)記載の原告の発言内容に認定上の誤りがあるばかりでなく、
仮に認定上の誤りがないとしても原告の右(イ)(ロ)(ハ)の各行為は憲法の保
障する表現の自由、ないし思想および良心の自由に基づくものであるから、被告の
組合綱領ないし規約に違反するものではなく、組合規約第一三条第三号の「組合の
統制をみだしたとき」に該当しない。
4 これより先原告は昭和四三年八月施行の執行委員選挙に立候補しておりその当
選は確実であつた。
 ところが本件権利停止処分のため原告は右の選挙において選挙権、被選挙権を喪
失したばかりでなく、同年九月施行の資格審査委員の選挙につきその選挙権、被選
挙権を、職場会、青年婦人部集会につきいづれも発言権を、右青年婦人部の役員選
挙につき選挙権、被選挙権を喪失した。
 そのため組合活動に熱意を有する原告の受けた精神的苦痛は甚大である。
 本件権利停止処分は前述のとおり違法であるが、右処分は原告が被告の組合員多
数の支持を得て執行委員等被告の役員に選挙されることをおそれこれを妨害するた
めにあえてなされたものであるから被告は原告の被つた精神的苦痛を慰藉すべき不
法行為上の賠償責任を免れず、右慰藉料の額は少くとも金一〇万円が相当である。
 よつて原告は被告に対し本件権利停止処分の無効であることの確認を求めると共
に慰藉料金一〇万円の支払を求める。
 仮に右無効確認が認められないとすれば予備的に原告は被告との間において本件
権利停止処分により権利停止となつたものでない被告の組合員としての地位を有す
ることの確認を求める。
(被告の主張に対する答弁)
1 被告の主張事実中本件確認の訴の利益についての点本件につき裁判所の判断が
及ばないとの点(第2項)および本件権利停止処分が適法であるとの点(第4項)
を争い、第3項中(3)、(4)のハの事実および(6)の事実中証人を喚問して
事実を認定したとの点を否認し、その余の事実は認める。
2 被告は本件確認の訴につき、確認の利益を欠くと主張するが、本件権利停止処
分の期間経過は、形式的な一定の復権を意味するにすぎず、その処分理由とされた
事実から判断して、将来原告において同種行為をなしたときは本件処分以上の重い
不利益処分が加えられることは必至であり、その不利益は、被告と原告との間の現
在の法律関係における組合員の地位に具体的に影響を及ぼしており、これらの不利
益の排除は、本件権利停止処分の無効確認を求めることによつて最も有効適切にな
されるものであるから確認の利益はあるというべきである。
(二) 被告
1 原告主張の請求原因中、第1、2項の事実を認め、第4項中原告がその主張す
る組合執行委員の被選挙権、資格審査委員の選挙権、被選挙権および職場会におけ
る発言権を喪失したことを認め、その余の事実は否認し、第3項は後記のとおり争
う。
2 原告の主位的請求第一項の請求は、過去の法律関係の確認を求めるものであ
り、予備的請求については、本件権利停止処分は、昭和四三年八月二日より昭和四
四年二月一日までの間、原告が被告の組合員としての権利を停止するものであり、
このことは当事者間に争いがなく、現在、原告は他の組合員と同様の権利を有する
ことが明らかであるから、原告の本件確認の訴は、いずれも確認の利益を欠くもの
である。また、本件権利停止処分は、労働組合の自治権に基づくもので、被告の組
合においては懲戒手続が上訴も含めて規定され、原告はその権利を充分に行使した
が本件権利停止処分が確定されたものである以上、右懲戒手続に明白かつ重大な瑕
疵が認められない限り、その是正につき裁制所がこれに関与することは相当ではな
いから、本件処分につき裁判所の判断は及ばないというべきである。
3 本件権利停止処分は、次のような理由および手続により行なわれた。
(1) 被告の組合綱領には「我々は、組合の民主的運営を図り組合員の社会的、
経済的、地位の向上を期す。我々は、労働三権の保障の下、闘争至上主義を排し、
健全な組合運動の実践を期す。我々は、生産性の向上と産業の興隆を通じ、労働条
件の維持向上を期す。」と定めてあり、また、規約中に「組合は右綱領の示すとこ
ろに従い、労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図り、国民経済の発展、
社会正義を実現することを目的とする。」(第四条)、「組合員は右綱領、規約並
びに決議に服すべきこと」(第一一条第一号)、「組合員が規約に違反したとき、
または組合の統制をみだしたときは組合において除名又は権利の停止もしくは戒告
の懲戒処分に付することができる。」(第一三条第一号、第三号)旨定められてい
る。
(2) 被告の昭和四二年度運動方針(昭和四一年八月二一日から昭和四二年八月
二〇日まで)および昭和四三年度運動方針(昭和四二年八月二一日から昭和四三年
八月二〇日まで)には、いずれも、被告の基本理念として「右翼全体主義や左翼階
級闘争至上主義に断固対決すること、政治活動については労働組合の主たる任務で
ある経済活動を、政治権力闘争に従属させる態度を強く排撃し、議会民主主義を尊
重する基本的立場から選挙活動を重視すること」とし、以上の基本的立場から「今
後も全日本労働総同盟(同盟)の構成組織の一員として国民運動への参加、同盟系
労組との交流、労働講座の受講を通じ、内外の知識を広く吸収しながら自己の利益
を国民的規模で守り育てていくとともに、民主的な労働戦線の拡大と強化に貢献す
るという基本的姿勢を堅持していく」ものとし、さらに、組合の政治活動として、
「労働者の生活のなかには、政治が経済政策、税金、教育、社会保障、労働関係法
制など直接間接の影響を及ぼしていることから、政治上の諸問題は中央、地方の議
会を舞台として、これを解決していくという議会政治尊重の立場を堅持する限り選
挙活動こそ最も重要な政治活動であり、年度内に行なわれる総選挙並びに地方選挙
においても、同盟の方針に従い、民社党候補もしくは被告の組合運動に理解と協力
を示す協力者を支持し、組織力の結集と同盟系同志組合との提携により必勝体制を
確立していくこと」と定めてある。
(3) 原告の勤務する王子製紙株式会社春日井工場には、被告の組合とは別に、
その従業員の一部によつて組織されている王労春日井支部があるが、これは全国紙
パルプ産業労働組合連合会を通じて総評に加盟し、あくなき闘争によつて労働者の
地位を高めようとする闘争至上主義をとり、生産性の向上は、その目ざすところの
働く者の産業の興隆とは結びつかないとしてこれを敵視し、その究極の目標は社会
主義社会の実現にあるとする組合であつて、昭和三二年春闘の大争議の際に、右労
組の方針に反対して結成された被告とは敵対関係にある。
(4) ところが原告は、
イ 昭和四二年三月ごろより昭和四三年六月ごろまでの間共産党員であると自称し
て、その職場の内外において、多数の被告の組合員に対し共産党機関紙アカハタの
配布および購読勧誘をなして共産党の運動方針に同調することを勧誘する積極的活
動をし、
ロ 昭和四二年四月施行の春日井市市会議員選挙に際し、被告が前記運動方針に基
づき推せん決定をした候補者に反対し、昭和四三年七月施行の参議院議員選挙にお
いても、被告が同様推せん決定した地方区および全国区の候補者に反対し、いずれ
の場合も共産党公認で、王労の推せんする候補者のために、職場の内外において、
被告の組合員多数に対し投票依頼をして選挙運動を推進し、
ハ 昭和四三年七月二六日、職場会の席上、組合役員選挙に立候補する意思を表明
した際「王労のためにも立候補する。」旨発言して、真向から被告の組合綱領およ
び運動方針に挑戦する態度を明らかにした。
(5) そこで、被告は、昭和四三年七月二七日の工場委員会の議決に基づいて、
原告を反組織活動の疑いで資格審査委員会に付託することとなつた。
(6) 右委員会は、原告および証人を喚問したうえ、事実の取調べをした結果原
告に前記(4)記載の言動があつたことを認定し、右行為は、組合の統制をみだす
ものであると判断して、組合規約第一三条第三号により本件権利停止処分を決定
し、被告の執行委員長は、昭和四三年七月三一日原告に右処分を告知した。
(7) 原告は、これに対し工場委員会に異議申立をしたが、臨時工場委員会は、
同年八月六日右異議申立を却下した。ついで原告は大会に異議申立をしたが、同年
九月二四日の臨時大会は右異議申立も却下した。
4 本件権利停止処分は、次のとおり適法である。
 労働組合の統制権は、憲法第二八条に由来するものであるから、労働組合は一般
の団体以上に強い統制権を持つものと解するのが相当である。従つて、組合の団結
をみだし、組合の統一行動に支障を及ぼすような行為はもちろん、仮に実害が生じ
ていない場合でも、その行為が客観的にみて、危険性があれば、組合統制をみだす
ものとして統制権の発動がなされるものとしなければならない。この理は、その行
為が政治活動であつても変らない。そして、この場合、組合員の政治活動の自由
は、労働組合の団結権維持のため合理的な限度で制約を受けることになるのであ
る。
 ところで、原告の行為は、いずれも被告の組合綱領、理念、運動方針を否定し、
共産党の運動方針を被告に導入しようとするものであり、被告と対立関係にある王
労を是認しようとするものである。従つて、これは被告の組合規約第一三条第三号
「組合の統制をみだしたとき」に該当する。
 仮に然らずとしても同条第一号「規約に違反したとき」に該当する。組合規約第
一一条は、組合員に「組合の綱領、規約並びに決議に服すること」を義務づけてお
り、被告と使用者との間にはオープンシヨツプ制の協定があり、被告への加入は強
制されておらず他に王労が存するのであるから被告の綱領に反対する者は自由に被
告から脱退できるのであり、被告の組合員として止まる限りは右規約第一一条の義
務に服さなければならないことは当然である。
三、証拠関係(省略)
       理   由
一、先づ職権を以つて本訴の適否につき判断する。
(一) 裁判権について
 一般に組織団体はその構成員に対しその目的に即して合理的な範囲内での統制権
を有するのが通例であるが、憲法上団結権を保障されている労働組合においては右
団結権保障の効果としてその目的を達成するため必要であり、且つ合理的な範囲内
においてその組合員に対し統制権を有すると解すべきである。そして労働組合の存
在と活動は自主性と強い団結を実質的基盤として営まれるものであることと、法は
労働組合が民主的に運営されるべく配慮して内部規律が適正になさるべく期してい
ることを考えあわせると、労働組合のかかる内部関係に対してはなるべく外部から
干渉を及ぼさないようにすることが団結権保障にも適うものと解される。
 従つて労働組合がその自主的判断において団結維持のため組合員に対し懲戒した
場合にもその判断の適否は原則的には組合内部で自律的に審査や修正がなさるべき
であることは被告主張のとおりである。
 しかし他方組合員が労働組合内部で組合活動に参加しうる地位も団結権によつて
保障されているのであるから、かかる地位も私権として保護されるべきことは当然
であり前記労働組合の内部統制作用の行使が組合員の団結権を侵害するに至つたと
認められるときは、それは内部規律権の範囲をこえたものとして違法となりその効
果は司法作用によつて排除せられるべきである。
 この見地からすれば本件権利停止処分の適否は組合員の団結権侵害に直接かかわ
る問題であることは明らかであるから司法審査の対象となることは明白でありこれ
に反する被告の主張は採用できない。
(二) 本件確認の訴の適否について
 原告が被告に所属する組合員であること、原告主張の日時に原告が本件権利停止
処分を受けたことは当事者間に争いがない。
 ところで、確認の訴は、現在の法律関係の存否を対象として許されるものである
ところ、原告の主位的請求第一項は、原告に対し昭和四三年八月二日になされた本
件権利停止処分という過去の法律行為の無効確認を求めるものであることが明らか
であるから不適法というべきである。なお、右請求の趣旨を本件権利停止処分の無
効を前提として現在における被告の組合員としての権利関係(換言すれば、権利停
止処分を受けなかつた者と全く同様な何らの瑕疵のない組合員としての地位)の確
認を求めるものと解しても、原告が、現在、被告に所属する組合員として完全な権
利を有していることは、被告において争わないところであるから確認の利益は存し
ないというべきである。
 原告は、将来原告において同種の行為をしたときは本件以上の重い不利益処分が
加えられるおそれが多大であり、このようなおそれを排除するための有効適切な手
段は、無効確認の訴を求める外はないことを理由として確認の利益を肯定すべしと
主張するけれども、原告主張のようなおそれが大であるというだけでは、未だ原告
の現在の組合員たる地位に直接法律的な影響を及ぼしているとみることはできない
から、右のようなおそれの存することを理由としては確認の利益を肯定することは
できないと考える。
 つぎに、原告の予備的請求は、その文言上よりすれば権利停止処分不存在確認の
訴と解されるが、原告が権利停止処分を受けたことが当事者間に争がない本件にお
いては、右のような過去の事実の不存在確認を求めることはもとより許されないと
ころである。しかし、右請求の真意は弁論の全趣旨によれば、本件権利停止処分の
無効を前提として現在における被告の組合員としての権利関係の確認を求めるもの
であるとも解される。そして、右のような確認の訴につき確認の利益の存しないこ
とは先に述べたとおりである。
 以上のとおりであるから、原告の本件確認の訴は、いずれも不適法として却下免
れない。
二、慰藉料の請求について
(一) 被告は、王子製紙株式会社春日井工場の従業員により組織されている労働
組合であり、原告は昭和三七年四月一〇日から被告の組合員となつたこと、原告主
張のとおり被告は原告に対し昭和四三年八月二日より昭和四四年二月一日までの
間、本件権利停止処分を行なつたこと、右処分理由は原告主張のとおりであること
は当事者間に争いがない。
(二) そこで本件権利停止処分が適法であるか否かについて判断する。
1 被告の組合綱領、規約および昭和四二年、昭和四三年度の各運動方針中には、
いずれも被告主張のとおりで、要するに被告の労働組合としての基本的立場は左翼
階級闘争至上主義に断固対決し、特にその政治活動については議会民主主義の立場
に立つて選挙活動を重視し、国会議員および地方議会議員の選挙に際しては民社党
に所属する候補者もしくは被告の組合運動に理解と協力を示す者を支持することが
明確に打ち出されていること、ところで原告は、昭和四二年三月ごろより昭和四三
年六月ごろまでの間、共産党員であると自称して、その職場の内外において多数の
被告の組合員に対し、共産党機関紙アカハタの配布および購読勧誘をなして、共産
党の運動方針に同調することを勧誘する積極的活動をなし、また、昭和四二年四月
施行の春日井市市会議員選挙に際し、被告が前記運動方針に基づき推せん決定した
候補者に反対し、昭和四三年七月施行の参議院議員選挙においても被告が同様推せ
ん決定した地方区および全国区の候補者に反対し、いずれの場合も共産党公認で、
王労の推せんする候補者のために職場の内外において、被告の組合員多数に対し、
投票依頼をして選挙運動を推進したことは当事者間に争いがない。
 被告は「原告は昭和四三年七月二六日職場会の席上組合役員の選挙に立候補する
意思を表明したとき王労のためにも立候補する旨発言した」と主張し、証人Aの証
言および成立に争いがない乙第五号証の二の記載には右主張に副う部分が存するけ
れども、右各証拠は原告本人尋問の結果と対比したやすく信用し難く、他に被告の
右主張を維持するに足りる証拠は存しない。
 却つて、原告本人尋問の結果、右A証人の証言により成立を認め得る乙第七号証
の一ないし五によれば、原告はそのとき「王労の人が原告に投票してくれというこ
とを言つているがおかしいではないか。」と質問されたのに対し、具体的な職場の
労働条件に関する問題に言及し「王労の人も、ぼくが出ることによつて、具体的利
益を得ることがあるから応援したんでしよう。」と答えたこと、その直後に職長の
Bが「それでは王労のためにも立候補することになるのか。」と問うたのに対し、
原告は結果的にみればそうなることもあろうとの趣旨でこれを肯定したにすぎない
ことが認められる。他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
2 ところで、労働組合は前述のとおり、憲法第二八条による団結権保障の効果と
してその組合員に対し、その目的を達成するために必要であり、かつ合理的な範囲
内において統制権を有する。また、労働組合は、組合員の経済的地位の向上をはか
るため、その目的達成に必要な政治活動をなし得ることはいうまでもなく、この見
地からして、特定の政党を支持しあるいは国会及び地方議会の議員選挙に際し特定
の立候補者の推せん決議をするなどの政治活動もなし得ることは当然である。
 この場合において、もし右のような組合の政党支持の方針ないし推せん決議等に
反する行動をとる組合員がいたとき、これらの者に前記統制権を及ぼし得るかとい
うに、政党支持あるいは選挙における候補者の支持選択は、本来的には、組合員の
市民的自由、権利の領域の問題であり、憲法で保障されている思想信条に基づいて
自らの責任において決すべきことがらであるから、前記統制権も組合員の有するか
かる市民的自由、権利を侵害することは許されないものというべきである。この見
地からして統制権も一定の制約を受くることを余儀なくされる結果、統制権の行使
は、勧告又は説得の範囲にとどまるものと解するのが相当であり、右範囲をこえて
懲戒処分に付することは、統制権の限界をこえるものとして違法というべきであ
る。但し、一企業内に二組合が併存し、両組合がそれぞれ支持政党を異にし、推せ
ん議員を異にしているような場合に、ことさらに他組合と意思を通じ、自組合の団
結、秩序をおびやかす意図の下に、自組合の政党支持の方針等に反する行動に出た
者ある場合は、かような者のなす政治活動は、その行為自体の団結破壊的性質から
して、これに対し懲戒処分をなし得べきことは言うまでもあるまい。
3 これを本件についてみれば、先に認定した原告の言動中被告の組合員に対する
アカハタの配布及び購読勧誘をなした行為及び共産党公認の参議院全国区候補者の
ため選挙運動をした行為は、本来的には、原告の有する市民的自由、権利に属する
ことがらであることは先に述べたとおりであるから、これに対し被告が勧告、説得
の範囲をこえ懲戒処分を行うことは、その統制権の限界をこえるものとして違法と
いうべきである。
 この場合、被告の政治活動についてどのような決議がなされていようとも、右決
議は右市民的自由、権利を侵す限りにおいて、組合員を拘束する効力は存しないか
ら、右決議違反を理由として懲戒処分をなすことも、もとより許されないと解すべ
きである。
 そして先に認定した原告の昭和四三年七月二六日の職場会の発言内容は、誤解を
招くおそれが全くないとは言えないとしても、発言内容自体から直ちに統制をみだ
す行為と目することはできない。
 そして、原告の以上の言動を通じてみて、原告が王労と意思を通じ、被告の団結
秩序をことさらにおびやかす意図を有していたと認むべき確証は存しない。
 してみれば本件権利停止処分は、結局違法であるというべきである。
(三) 原告は本件権利停止処分により昭和四三年八月の組合執行委員の選挙にお
いて被選挙権を、昭和四三年九月の資格審査委員の選挙において選挙権、被選挙権
を、そして職場会において発言権を喪失したことは当事者間に争いがなく、原告は
これにより団結権を侵害され相当の精神的苦痛を蒙つたであろうことは容易に確認
できる。
 そして被告が、その真相を十分究明することなく統制権の限界をこえて本件権利
停止処分をなしたことについては、過失の責は免れない。(原告は原告が執行委員
選挙において、その当選が確実であり、右当選をおそれてこれを妨害するために被
告は本件権利停止処分をなしたと主張するけれども、右主張を認めるに足りる証拠
は何ら存しない。)
 従つて、原告は被告に対し慰藉料請求権を有するわけであるが、先に認定したと
おり、原告は被告の組合員に対し同一事業所内に併存する他組合(王労)の支持す
る政党の機関紙を配布し、その購読を勧誘し、王労の推せんする参議員立候補者に
対する投票依頼の選挙運動をなしたのであるから、それが原告自らの市民的自由、
権利に基づきなされたものではあつても、王労と支持政党を異にし、対立関係にあ
る被告としては職場会における原告の前記発言とあいまつて原告を「王労の同調
者」「利敵行為者」と考えたとしても無理からぬ事情の存すること、このような場
合において、原告のとるべき措置としては、あらかじめ自己の所信を明確に宣明
し、王労とは全く無関係であることを言明してから、行動に出るべきであり、この
点において、原告にも軽率な点がないとは言えないこと及び職場会における発言
も、誤解を招くおそれがないとは言えないこと等の諸事情を勘案すれば、慰藉料の
額は金一万円を以つて相当と考える。
三、よつて原告の請求のうち確認の訴を求める部分(主位的請求第一項の請求およ
び予備的請求)はいずれも不適法であるからこれを却下すべきものとし、主位的請
求第二項の請求は右認定の範囲において理由があるからこれを認容し、その余を棄
却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第八九条を適用し、
主文のとおり判決する。
(裁判官 松本武 角田清 北島佐一郎)

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