弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月に処する。
     但し本判決確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人鎌倉利行、同佐伯千仭の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、その実質は
単なる法令違反、事実誤認の主張に帰し、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
 しかし職権をもつて調査するに、公職選挙法二二一条三項にいう「公職の候補者」
とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出または推薦届出により候補者として
の地位を有するに至つた者をいうものと解すべきであり、未だ正式の届出をしない、
いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解するを相当とするこ
とは、当裁判所の判例(昭和三四年(あ)第一一九〇号同三五年二月二三日第三小
法廷判決刑集一四巻二号一七〇頁、昭和三五年(あ)第一四三二号同年一二月二三
日第二小法廷判決刑集一四巻一四号二二二一頁参照)とするところである。しかる
に、原判決は、被告人は昭和三八年四月一七日の和歌山県議会議員選挙に際し同月
二日同県Aから立候補の届出をした者であるが、自己に当選を得る目的を以つて、
昭和三七年九月二三日原判示の現金を提供して供与の申込をした旨認定し、被告人
の右所為につき公職選挙法二二一条三項を適用して被告人を処断したことは、原判
決に徴し明らかである。しからば、同法二二一条三項にいう「公職の候補者」には
「立候補しようとする特定人」も含まれるものと解した原判決には、法令の解釈適
用を誤つた違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、同四一三条但書、四一四条、
四〇四条により原判決の確定した犯罪事実に法律を適用すると、被告人の判示第一、
第二の各所為は公職選挙法二二一条一項一号、罰金等臨時措置法二条に該当すると
ころ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四
七条本文、一〇条に則り犯情の重いと認める判示第一の金銭供与の申込の罪の刑に
法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役四月に処し、なお情状により刑の執行
を猶予するを相当と認め刑法二五条一項を適用し本裁判確定の日から二年間右刑の
執行を猶予し、訴訟費用につき刑訴法一八一条一項本文を適用し訴訟費用の全部を
被告人の負担とすべく、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 高橋正八公判出席
  昭和四一年一二月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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