弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A、弁護人鍛治利一、同鈴木圭一郎、同関谷信夫の各上告趣意は、末尾に
添えた別紙記載の通りである。
 (一) 各論旨はいずれも原判決が証拠に挙げた各被告人に対する司法警察官聴
取書中の各被告人の供述が司法警察官の拷問強制によるものであることの主張を含
んでいるが、殊に関谷弁護人の論旨第一点はその点を詳細に陳述し、原判決は憲法
第三八条及び刑訴応急措置法第一〇条(論旨の末の部分に「憲法第十条」とあるの
は、「刑訴応急措置法第十条」の誤記と認める。)に違反して証拠とすることがで
きないものを証拠とした違法があると主張するのである。よつて記録をしらべて見
ると、被告人らは第一審第二審を通じてこの点を強調し、相当具体的に取調の状況
を述べているのであるが、他方公判廷において証人として取調べられた警察官らは、
さような事実がなかつたことを確言しているのであつて、被告人らの供述が強制に
よるものとも認め難い。従つて憲法および応急措置法違反の主張も前提たる事実を
欠き、論旨は採用し得ない。
 (二) 被告人Aの論旨は、前記(一)の点のほか証人の証言の虚偽を主張する
に過ぎず、上告の適法な理由にならない。
 (三) 鍛治弁護人の論旨前文および同論旨(一)は、前記(一)の点のほか、
共謀の日時及び侵入口の場所的関係につき原判決の挙げる被告人らの供述に食いち
がいがある、というのであつて、なるほど所論のような食いちがいがあるけれども、
元来日時方角等に関する吾人の記憶、判断には過誤のないことを期し難いから、こ
れらの点について被告人らの供述に所論のような食いちがいがあるからといつて、
その一事を以て右各供述が全体として想像的な架空の事実を供述したものと即断す
ることはできず、論旨は理由がない。
 (四) 同論旨二の前段は、被害者が犯人の身長、体格、特徴等を認識しなかつ
たことを攻撃するのであるが、強盗の被害者に必ずしも正確な観察を求めることは
できないのであつて、これらの点の不正確を理由として被害者の供述を措信し難い
とするわけに行かず、論旨は採用し得ない。
 (五) 同論旨二の後段は被告人ら居村の元農業会長Bの貯金払戻の有無に関す
る証明書、また同論旨三はC会社D支店長Eの犯行当夜の停電時間に関する証明書
を、それぞれ援用して被告人らのための有利な証拠にしょうとするのであるが、こ
れらの証拠は当審に至つてはじめて提出されたものであるから、上告審としてはそ
れらを判断の資料となし得ない。
 (六) 同論旨四は被告人Aの犯行当夜の不在証明を主張し、また同論旨五は盗
品の処分が明かになつていないことを以て審理不尽なりとするのであるが、いずれ
も原審の認定をくつがえすに足りない。
 (七) 鈴木弁護人の論旨第一点(イ)は原判決が証拠とした被告人らの自白が
強制拷問によるものであること、(ロ)は当夜の停電時間に関する新たな証拠によ
る被告人らの不在証明(ハ)および(ニ)は原判決が証拠とした証人Fの証言の信
用し難いことの主張であるが、(イ)の点は前掲(一)、(ロ)の点は前掲(五)
に説示した通りであり、また(ハ)および(ニ)は原審の証拠判断を攻撃するにほ
かならず、上告の適法な理由にならない。
 (八) 関谷弁護人論旨第二点前段は、原審証人Gは「顔の長さ位違います」と
供述したのに、原判決が同証人が「一人はたけの高い方の首の辺までしかたけがな
かつた」旨供述したものとして証拠に援用したのは、虚無の証拠を罪証に供したも
のである、と主張する。しかし原判決は、所論証人に対する訊問調書に「高い方の
首の辺りに小さい方の頭がありましたから顔の長さ位違います」と記載されている
その前半を摘記したのであつて、全然所論のような違法はない。
 (九) 同論旨後段は、原判決は被告人Hに対する検事聴取書中の「工場竈場の
所にある鉄棒を持つて行くことに話がきまつた旨の供述記載」を援用しているが、
原判決は他方、被告人らは被害者方の「庖丁、鉈等を突きつけ」たと認定しており、
その点において理由に食いちがいがある、というのである。しかし前記証拠に援用
されたのは被告人が強盗を共謀した際持参すべき兇器の相談をした旨の供述に過ぎ
ず、それが必ずしも犯行の際使用された兇器と一致する必要はなく、原判決に理由
の食いちがいがあるとは言い得ない。なお被害者方の囲炉裏に一本の鉄棒が突き刺
してあつたのが押収されているところ、論旨は原審証人Iの証言および鑑定書を引
用してそれが前記工場所属のものでない旨を主張するのであるが、原判決は全然右
の鉄棒を問題にしていないのであつて、論旨は上告の理由にならない。
 (10) 同諭旨第三点は、原判決が「鶏卵若干」と言つているのを「概念であ
つて事実ではない」と非難する。しかし原判決は「現金二千円衣類等二十点麦約三
升の外鶏卵若干」と判示しているのであつて、この「若干」は「数個」を意味し、
空なる概念ではないから、原判決が犯罪事実の摘示を欠くものとは言い難く、論旨
は理由がない。
 よつて、旧刑訴法第四四六条に従い、主文の通り判決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 堀忠嗣関与
  昭和二五年七月一八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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