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平成25年(わ)第1111号,同第1204号携帯音声通信事業者による契約
者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律違反,特
定電子メールの送信の適正化等に関する法律違反,不正指令電磁的記録取得等,不
正指令電磁的記録供用被告事件
平成25年11月8日千葉地方裁判所刑事第1部判決
主文
被告人株式会社Aを罰金500万円に,被告人Bを懲役3年及び罰金150
万円に,被告人Cを懲役2年に,被告人Dを懲役4月に処する。
被告人Bに対し,未決勾留日数のうち40日をその懲役刑に算入する。
被告人Bにおいてその罰金を完納することができないときは,金5000円
を1日に換算した期間,同被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から,被告人Bに対し5年間その懲役刑の執行を猶予
し,被告人C及び被告人Dに対し3年間それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
第1被告人株式会社A(以下「被告会社」という)は,東京都渋谷区(以下省
略)に本店を置き,広告代理業等を営むもの,被告人Bは,被告会社の代表取締役
としてその業務全般を統括管理するもの,被告人C,同D及びEは,被告会社の従
業員であるが
1被告人Bは,Eと共謀の上,被告会社の業務に関し,業として,
⑴Fが通話可能端末設備に係る役務提供契約の契約者となっていないことの情
を知りながら,別表1(省略)のとおり,平成24年9月5日頃から同年12月1
1日頃までの間,3回にわたり,同区(以下省略)所在の被告会社事務所において,
Fから,通話可能端末設備である携帯電話機合計7台を,同所を配達先とするゆう
パック又は宅急便により受領して代金合計約35万円で譲り受け,
⑵F及びGが通話可能端末設備に係る役務提供契約の契約者となっていないこ
との情を知りながら,平成25年1月31日頃,上記被告会社事務所において,F
及びGから,通話可能端末設備である携帯電話機2台を,同所を配達先とする宅急
便により受領して代金約10万円(1台につき代金約5万円)で譲り受けた。
2被告人B,同C及び同Dは,共謀の上,被告会社の業務に関し
⑴平成24年12月10日,同区(以下省略)所在の被告会社事務所において,
同所に設置されたパーソナルコンピュータを使用し,不正に入手したHの電子メー
ルアドレス(省略)を送信のために用いて一般財団法人J協会が使用する電子メー
ルアドレス(省略)に宛て,被告会社に業務委託した株式会社Kの営業につき広告
を行うための手段として電子メール1通の送信をし
⑵平成25年3月7日,同区(以下省略)所在の被告会社事務所において,同
所に設置されたパーソナルコンピュータを使用し,不正に入手したLの電子メール
アドレス(省略)を送信のために用いてMが使用する電子メールアドレス(省略)
に宛て,前記株式会社Kの営業につき広告を行うための手段として電子メール1通
の送信をし
もってそれぞれ送信者情報を偽って特定電子メールの送信をした。
3被告人B及び同Cは,共謀の上,被告会社の業務に関し,同月22日,前記
2⑵記載の被告会社事務所において,同所に設置されたパーソナルコンピュータを
使用し,不正に入手した株式会社Nの電子メールアドレス(省略)を送信のために
用いて一般財団法人J協会が使用する電子メールアドレス(省略)に宛て,前記株
式会社Kの営業につき広告を行うための手段として電子メール1通の送信をし,も
って送信者情報を偽って特定電子メールの送信をした。
第2被告人B及び同Cは,共謀の上,正当な理由がないのに,
1人の電子計算機における実行の用に供する目的で,平成24年11月20日
頃から平成25年4月10日までの間,前記第1の2⑴記載の被告会社事務所に設
置されたパーソナルコンピュータを使用し,アンドロイドOSが稼働する電子計算
機である携帯電話機を用いて実行するに際して実行者の意図に基づかずに同携帯電
話機に記録された電話帳データをアメリカ合衆国フロリダ州内に設置されたサーバ
コンピュータに送信する指令を与える電磁的記録であるウイルス・プログラム「M
ainActivity.apk」ほか2個を同サーバコンピュータの記憶装置に
アップロードしてアクセス及びダウンロード可能な状態で蔵置し,
2上記第2の1記載の目的で,同年3月23日頃から同年4月10日までの間,
前記第1の2⑵記載の被告会社事務所に設置されたパーソナルコンピュータを使用
し,上記電磁的記録と同様の指令を与える電磁的記録であるウイルス・プログラム
「LimePop.apk」を上記サーバコンピュータの記憶装置にアップロード
してアクセス及びダウンロード可能な状態で蔵置し,
3別表2(省略)のとおり,同年1月31日から同年4月8日までの間,3回に
わたり,福岡県宗像市(以下省略)所在のP方ほか2か所にいた同人ほか2名が使
用する携帯電話機に,上記サーバコンピュータの記憶装置から上記ウイルス・プロ
グラム「MainActivity.apk」をダウンロードさせ,
もって人が電子計算機を使用するに際してその意図に反する動作をさせるべき不正
な指令を与える電磁的記録を保管するとともに人の電子計算機における実行の用に
供した。
(証拠)省略
(法令の適用)
被告会社の判示第1の1の所為は,携帯音声通信事業者による契約者等の本人確
認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律26条,21条3項,
2項に,判示第1の2⑴⑵及び同3の各所為は,いずれも特定電子メールの送信の
適正化等に関する法律37条1号,34条1号,5条1号にそれぞれ該当し,以上
は刑法45条前段の併合罪であるから,同法48条2項により各罪所定の罰金の多
額を合計した金額の範囲内で被告会社を罰金500万円に処する。
被告人Bの判示第1の1の所為は,刑法60条,携帯音声通信事業者による契約
者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律21条3
項,2項に,判示第1の2⑴⑵及び同3の各所為は,いずれも刑法60条,特定電
子メールの送信の適正化等に関する法律37条1号,34条1号,5条1号にそれ
ぞれ該当する。同被告人の判示第2の所為のうち,1及び2の各不正指令電磁的記
録を保管した点は包括して刑法60条,168条の3に,3の不正指令電磁的記録
を各供用した点はいずれも同法60条,168条の2第2項,1項1号にそれぞれ
該当し,1の不正指令電磁的記録の保管と3の不正指令電磁的記録の各供用との間
にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により結局
以上を1罪として刑及び犯情の最も重いQに係る不正指令電磁的記録供用罪の刑で
処断する。そして,同被告人の判示第1の1の罪については所定刑中懲役刑及び罰
金刑を,判示第1の2⑴⑵,同3及び第2の各罪については各所定刑中いずれも懲
役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑につい
ては同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をし,
罰金刑については同法48条1項によりその懲役刑と併科し,その刑期及び所定金
額の範囲内で同被告人を懲役3年及び罰金150万円に処し,同法21条を適用し
て未決勾留日数のうち40日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することがで
きないときは,同法18条により金5000円を1日に換算した期間同被告人を労
役場に留置し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5
年間その懲役刑の執行を猶予する。
被告人Cの判示第1の2⑴⑵及び同3の各所為は,いずれも刑法60条,特定電
子メールの送信の適正化等に関する法律37条1号,34条1号,5条1号に該当
する。同被告人の判示第2の所為のうち,1及び2の各不正指令電磁的記録を保管
した点は包括して刑法60条,168条の3に,3の不正指令電磁的記録を各供用
した点はいずれも同法60条,168条の2第2項,1項1号にそれぞれ該当し,
1の不正指令電磁的記録の保管と3の不正指令電磁的記録の各供用との間にはそれ
ぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により結局以上を1
罪として刑及び犯情の最も重いQに係る不正指令電磁的記録供用罪の刑で処断する。
そして,同被告人の判示第1の2⑴⑵,同3及び第2の各罪について各所定刑中い
ずれも懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本
文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同
被告人を懲役2年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定し
た日から3年間その刑の執行を猶予する。
被告人Dの判示第1の2⑴⑵の各所為は,それぞれ刑法60条,特定電子メール
の送信の適正化等に関する法律37条1号,34条1号,5条1号に該当するとこ
ろ,各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるか
ら,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第1の2⑵の罪の刑に法定の加
重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役4月に処し,情状により同法25条1項を
適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
(量刑の理由)
1被告会社及び被告人B
被告人Bは,被告会社の代表取締役として本件一連の犯行全てに関与し,最も法
定刑の重い判示第2の犯行においては電子計算機のプログラムに対する社会的信頼
を大きく失墜させたのみならず,被告人C,同Dらを共犯者として一部の犯行に巻
き込むなど,主導的かつ中心的な役割を果たした。
もっとも,被告人Bが事実関係を全て認める供述をするなどして反省の姿勢を示
していること,被告会社が解散し,今後は被告会社による同種犯行がされる可能性
がないことなどの事情を考慮すると,被告人Bが有する前科等を踏まえても,被告
人Bを実刑にするほどその刑事責任が重いとまではいえない。
そこで,被告会社が得た利益等の事情をも考慮し,被告会社及び被告人Bに対し
ては主文の刑を科するのが相当である。
2被告人C
被告人Cは,判示第1の2⑴⑵,同3及び第2の各犯行において,実行行為役と
して不可欠な役割を果たした。
しかし,同被告人が,被告会社の従業員として被告人Bの指示を受けていたこと,
事実関係を認めて反省する姿勢を示していることなどの酌むべき事情を考慮すれば,
被告人Cに対しては,主文の刑を科するのが相当である。
3被告人D
被告人Dは,送信者情報を偽って特定電子メール2通の送信をした判示第1の2
⑴⑵の犯行に関わったにすぎず,その関与の程度も従属的であった。同被告人が事
実関係を認めて反省の姿勢を示していることなどの酌むべき事情を考慮すると,同
被告人に対しては,主文の刑を科するのが相当である。
(求刑被告会社につき罰金500万円,被告人Bにつき懲役4年及び罰金150
万円,同Cにつき懲役2年6月,同Dにつき懲役6月)
(裁判官丹羽芳徳)

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