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平成30年8月29日判決言渡
平成30年(行ケ)第10014号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成30年6月20日
判決
原告天龍製鋸株式会社
訴訟代理人弁理士山本健男
被告特許庁長官
同指定代理人網谷麻里子
薩󠄀摩純一
板谷玲子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2017-15582号事件について平成29年12月26日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が出願した商標について拒絶査定を受けたことから,不服審判
請求をしたところ,請求は成り立たない旨の審決がされたので,原告がその取消し
を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より認められる事実)
(1)原告は,平成29年1月26日に,「TENRYU」の欧文字を標準文字
で表した商標(以下「本願商標」という。)について,指定商品を「第7類金属
加工機械器具用刃物,製材機械器具用刃物,木工機械器具用刃物,合板機械器具用
刃物,除草機械器具用刃物」として商標登録出願(商願2017-006437号)
をした(甲1)ところ,同年7月28日付けで拒絶査定を受けた(甲9)ので,同
年10月20日に,不服審判請求をした(甲10。不服2017-15582号)。
(2)特許庁は,平成29年12月26日に,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,この審決は,原告に送達された。
(3)審決の理由は,本願商標は,登録商標である別紙記載1の商標(乙1,2。
以下「引用商標1」という。),別紙記載2の商標(乙3,4。以下「引用商標2」
という。)及び別紙記載3の商標(乙5,6。以下「引用商標3」といい,引用商
標1~3を併せて「引用商標」という。)と類似し,また,本願商標の指定商品は,
引用商標の指定商品と同一又は類似するから,商標法4条1項11号に該当し,商
標登録を受けることができないというものである。
(4)引用商標1は,平成5年12月24日に設定登録され,平成15年8月1
2日と平成25年12月3日に存続期間の更新登録がされた(乙2)。
引用商標2は,平成19年4月20日に設定登録され,平成29年4月25日に
存続期間の更新登録がされた(乙3,4)。
引用商標3は,平成23年12月2日に設定登録された(乙5,6)。
3審決の理由の要点
(1)本願商標と引用商標の類否
ア本願商標
本願商標は,「TENRYU」の欧文字を標準文字で表してなり,この文字は,
辞書等に載録のない語であるところ,これをローマ字とする日本語として,一般に
親しまれている「天竜,天龍」を表記したものと看取,理解される場合も決して少
なくないとみるのが相当であるから,本願商標からは,上記「天竜,天龍」から想
起される「天の竜(龍)」程の意味合いが認識される。
本願商標からは,「テンリュー」の称呼が生じる。
イ引用商標について
(ア)引用商標1
引用商標1からは,「テンリュー」の称呼が生じ,「天龍」は辞書等に載録のな
い語であるから,引用商標1からは,一般に親しまれている「天の竜(龍)」程の
意味合いが認識される。
(イ)引用商標2及び引用商標3
引用商標2及び引用商標3は,黒色で塗り潰した円図形の中に,白抜きの太線で
三角形を描き,三角形内の各辺に接続するように「T」と思しき文字を白抜きの太
字で描いた図形(以下「引用商標図形部分」という。)と,三角形の下端部の白抜
きの「TENRYU」の文字(以下「引用商標文字部分」という。)からなるとこ
ろ,引用商標図形部分からは,特定の称呼及び観念は生じないのに対し,引用商標
文字部分は,辞書等に載録のない語であり,これをローマ字とする日本語として,
一般に親しまれている「天竜,天龍」を表記したものとして看取,理解され,「天
竜,天龍」から,「天の竜(龍)」程の意味合いを想起する場合があるといえる。
そうすると,引用商標2及び引用商標3は,引用商標図形部分と引用商標文字部
分からなる結合商標であって,両部分は,外観上,明確に分離して認識されるもの
であること,かつ,それぞれの称呼及び観念においても,密接な関連性を見いだせ
ないことから,引用商標図形部分と引用商標文字部分とは分離して観察することが
取引上不自然であると思わせるほど一体不可分に結合しているものとは認められな
い。
したがって,引用商標2及び引用商標3は,引用商標文字部分から生ずる称呼,
観念をもって取引に資される場合もあり,同部分から,「テンリュー」の称呼及び
「天の竜(龍)」程の観念が生じる。
ウ類否
(ア)引用商標1との類否
前記ア,イのとおり,本願商標と引用商標1とは,外観において欧文字及び漢字
という文字種を異にするものの,称呼,観念が共通する。商標の使用においては,
商標の構成文字を同一の称呼を生じる範囲内で,平仮名,片仮名及びローマ字等を
相互に変換したり,デザイン化したりすることが一般的に行われている取引の実情
があることからすると,称呼及び観念において記憶し,これを頼りにして取引に当
たることが少なくない。
したがって,本願商標と引用商標1は,商標の出所について誤認混同を生じさせ
るおそれがある類似の商標というべきである。
(イ)引用商標2及び引用商標3との類否
前記ア,イのとおり,本願商標と引用商標2及び引用商標3とは,外観において
相違するものの,本願商標と引用商標2及び引用商標3の要部である引用商標文字
部分を比較すると,つづりを同じくし,称呼,観念が共通する。
したがって,本願商標と引用商標2及び引用商標3は,商標の出所について誤認
混同を生じさせるおそれがある類似の商標というべきである。
(2)指定商品の類否
ア引用商標1の指定商品との類否
本願商標の指定商品である「金属加工機械器具用刃物,製材機械器具用刃物,木
工機械器具用刃物,合板機械器具用刃物,除草機械器具用刃物」は,いずれも,各
機械器具の一部品であるから,引用商標1の指定商品中「金属加工機械器具,製材
用・木工用又は合板用の機械器具,耕うん機械器具(手持ち工具に当たるものを除
く。),栽培機械器具,収穫機械器具,植物粗製繊維加工機械器具,飼料圧搾機,飼
料裁断機,飼料配合機,飼料粉砕機」については,本願商標の指定商品とは,部品
と完成品の関係にあり,その用途及び需要者の範囲が一致する。
したがって,本願商標の指定商品は,引用商標1の指定商品と同一又は類似する。
イ引用商標2の指定商品との類否
本願商標の指定商品中「除草機械器具用刃物」と引用商標2の指定商品中「飼料
乾燥装置」とは,その用途及び需要者の範囲が一致するから,同一又は類似する。
ウ引用商標3の指定商品との類否
本願商標の指定商品中「金属加工機械器具用刃物」と引用商標3の指定商品中「金
属加工機械器具」とは,部品と完成品の関係にあり,その用途及び需要者の範囲が
一致するから,同一又は類似する。
4原告の主張する審決取消事由(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)
(1)本願商標が原告の商標として周知であること
以下の理由から,本願商標は,原告の商標を示すものとして周知であり,したが
って,本願商標は,引用商標とは出所の混同は生じ得ないから,商品又は役務の出
所の混同防止を図る商標法4条1項11号に該当しない。
ア原告は,大正2年に設立され,大正7年には東京,北海道,久留米に,
大正8年には大阪,秋田に,大正10年には盛岡に,それぞれ支店や出張所を設置
し,大正8年から本願商標を含む商標を使用してきた(甲7参考資料1)。
イ原告は,「TENRYU」を含む登録商標を4件有している(甲14)。
これらの登録商標のうち登録第1713488号商標(以下「1713488号商
標」という。)は,図形の下に「TENRYU」の文字があるが,本件審決の判断
に従うと,1713488号商標を使用することにより,「TENRYU」の商標
を使用していたことになるから,原告は,「TENRYU」の商標を使用してきた
といえる。また,その他の3件の登録商標(登録第1339942号,登録第51
34974号,登録第5192660号)の使用についても,同様に,原告は,「T
ENRYU」の商標を使用してきたといえる。
ウ原告は,東京証券取引所に上場しており,毎年の売上高は約100億円
であり,刃物業界では2位の地位を占めている(甲21,26,30)。原告は,
本社以外に,東京,大阪,秋田,北陸等に支店や営業所を設置しており,海外にも
関連会社を有している(甲21,28~30)。
原告は,電動工具製品に関するトップ企業である株式会社マキタ(以下「マキタ」
という。)に原告の製品を納入しており(甲26),原告の製品の品質等は高く評価
されている。
また,原告の動向は,新聞等の記事の対象となっている(甲27)。
エ原告は,10年以上前から,本願商標をホームページ上で使用している
(甲7参考資料2,甲24,29)。
オ原告は,10年以上前から,各種のカタログやパンフレットにおいて本
願商標を使用し,需要者に配布してきた(甲8,25)。
カ原告は,平成8年に米国法人を設立し,平成11年には,米国において
「TENRYU」の商標登録をし(甲7参考資料3,甲21),「TENRYU」
の商標を刻印した商品を米国へ輸出している(甲22)。
キ原告の主要製品である丸鋸の梱包資材には,本願商標が記載されている。
上記梱包資材は,10年以上前から使用されている(甲31,32)。
ク原告は,その他にも,原告のPR用のCDR,看板,展示会等で本願商
標を使用してきた(甲22,23)。
(2)本願商標と引用商標の類否
ア引用商標1との類否
本願商標と引用商標1とは外観が異なる。また,観念についても,「THET
ENRYU」とすれば,天竜川を意味することになり,この点において,両者の観
念は僅かながら異なる。
「天龍(天竜)」を含む登録商標や企業名は多数あり(甲15,16),多くの
者が使用を希望している標章であるから,このような標章に対し,広い後願排除効
を与えることは商標選択の幅を狭めることになり,相当ではない。
したがって,本願商標と引用商標1とは類似していない。
イ引用商標2及び引用商標3との類否
引用商標2及び引用商標3は,引用商標図形部分に看者の注意がひかれるから,
引用商標図形部分が要部である。
したがって,本願商標と引用商標2及び引用商標3とは類似しない。
(3)指定商品の類否
ア引用商標1の指定商品との類否
引用商標1の指定商品は,その範囲が極めて広く,本願商標の指定商品の上位概
念である。本願商標の指定商品は,範囲が狭く,刃物類にすぎない。金属加工機械
器具等と刃物類とでは,需要者はその相違を明確に認識でき,互いに見分けること
ができる。生産部門,販売部門,用途及び需要者等が共通していれば,前記(1)のと
おり,原告は鋸業界では周知であるから,引用商標1の商標権者と原告との出所の
混同は生じない。
したがって,本願商標の指定商品と引用商標1の指定商品とは類似しない。
イ引用商標2の指定商品との類否
本願商標の指定商品である「除草機械器具用刃物」と引用商標2の指定商品であ
る「飼料乾燥装置」とは,一般常識からすると,類似しておらず,出所の混同を生
ずることはあり得ない。
ウ引用商標3の指定商品との類否
本願商標の指定商品の「金属加工機械器具用刃物」と引用商標3の指定商品であ
る「金属加工機械器具」とは,出所の混同が生じることはなく,類似していない。
引用商標3の指定商品である「金属加工機械器具の部品及び付属品」は,その分野
があまりにも広大であり,金属製のほとんどのパーツ等が含まれるから,類似,非
類似の対象とはなり得ない。
エ以上のとおり,本願商標の指定商品と引用商標の指定商品とは非類似で
あり,互いに出所の混同を生じるおそれはない。
この点について,被告は,商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業
主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場
合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,
類似の商品に当たると解すべきであると主張するが,商品自体が互いに出所の混同
を生じるおそれはないのであれば,同一又は類似の商標を使用するときは同一営業
主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれはないのであって,出所の混同
は生じ得ないから,被告の上記主張は誤りである。
(4)引用商標は,本件審決の判断に従えば,先願である1713488号商標
と類似しているにもかかわらず,商標登録されており,無効理由を有する瑕疵ある
商標といえる。
(5)原告と引用商標の商標権者とは,属する業界が異なり,商品等も競合する
ものではないから,原告が本件商標を使用しても出所の混同は生じない。
(6)以上により,本願商標が商標法4条1項11号に該当し,商標登録を受け
ることができないとした審決は誤りである。
5被告の主張
(1)本願商標と引用商標の類否について
ア引用商標1との類否
(ア)本願商標
本願商標は,「TENRYU」の欧文字を標準文字で表してなるところ,この欧
文字は英語辞書等に載録された成語ではない。そして,そのような欧文字からなる
商標については,我が国において広く親しまれているローマ字風の発音をもって
称呼されるのが一般的といえるものである。そうすると,本願商標は,その構成文
字に相応してローマ字風に発音した「テンリュー」の称呼を生じるものである。ま
た,「TENRYU」は,同じ称呼を生ずるものとして一般に親しまれている「天
竜(龍)」を欧文字で表記したとして,看取,理解されるといえ,「天竜,天龍」の
各漢字の意味から「天の竜(龍)」程の意味合いを想起させるものである。
したがって,本願商標は,その構成文字に相応して「テンリュー」の称呼を生じ,
「天の竜(龍)」程の観念を生じるものである。
(イ)引用商標1
引用商標1は,「天龍」の文字を横書きしてなるところ,この文字に相応して,「テ
ンリュー」の称呼が生じる。そして,「天龍」は,辞書等に載録のない語であるもの
の,これを構成する各漢字の意味から,「天の竜(龍)」程の意味合いを想起させる
ものである。
したがって,引用商標1は,その構成文字に相応して「テンリュー」の称呼を生
じ,「天の竜(龍)」程の観念を生じるものである。
(ウ)類否
本願商標と引用商標1とを比較すると,外観においては,欧文字と漢字という文
字種を異にするところがあるものの,称呼においては,「テンリュー」の称呼を共通
にするものであり,また,観念においては,「天の竜(龍)」程の観念を共通にする
ものである。
そして,商標の使用においては,商標の構成文字を同一の称呼の生じる範囲内で
文字種を相互に変更して表記することが一般に行われている取引の実情があること
からすると,両商標における欧文字か漢字かという文字種の相違が,見る者に対し,
出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとはいい難い。
以上によると,本願商標と引用商標1は,その外観,称呼及び観念によって,取
引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合勘案すると,商品の出所について
誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標ということができる。
イ引用商標2及び引用商標3との類否
(ア)本願商標の外観,称呼,観念は前記ア(ア)のとおりである。
(イ)引用商標2及び引用商標3
引用商標2及び引用商標3は,引用商標図形部分と引用商標文字部分からなると
ころ,引用商標図形部分と引用商標文字部分は,上下に段を変えて配され,それぞ
れが融合してもいないから,外観上,分離して看取されるということができる。
また,引用商標図形部分は,一見して特定の称呼及び観念を生じるような図形と
は認識できないものであるのに対し,引用商標文字部分は,普通に用いられる読み
やすい書体で表されており,「テンリュー」の称呼を生じ,「天の竜(龍)」程の観念
を生じるものであるから,引用商標図形部分と引用商標文字部分は,一体となって
特定の称呼及び観念が生ずるとはいえず,称呼及び観念上も,分離して看取される
ということができる。
以上からすると,引用商標文字部分は,それらの図形部分と分離して観察するこ
とが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではなく,構
成上独立して見る者の注意をひくものであるから,引用商標2及び引用商標3は,
引用商標文字部分の「TENRYU」を要部として,本願商標と比較し,その類否
を判断することが許されるものというべきである。
したがって,引用商標2及び引用商標3は,構成中の「TENRYU」の欧文字
に相応して「テンリュー」の称呼を生じ,「天の竜(龍)」程の観念を生じるもので
ある。
(ウ)類否
本願商標と引用商標2及び引用商標3の要部である「TENRYU」の欧文字と
を比較すると,まず,外観において構成文字を同じくするものである。次に,称呼
においては,両者は,「テンリュー」の称呼を共通にするものであり,また,観念に
おいては,「天の竜(龍)」程の観念を共通にするものである。
以上によると,本願商標と引用商標2及び引用商標3とは,その全体の構成にお
いて相違するとしても,出所識別標識としての要部である「TENRYU」という
文字構成において同一であって,外観上類似し,称呼及び観念を同一にするもので
あるから,外観,称呼及び観念によって,取引者,需要者に与える印象,記憶,連
想等を総合勘案すると,商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類
似の商標ということができる。
(2)指定商品の類否について
指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれが
あるかどうかにより判断すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業主によ
り製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の商標を
使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがある
と認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるお
それがないものであっても,類似の商品に当たる。
また,商品の類否判断は,取引の実情,すなわち,商品の生産部門,販売部門,
原材料及び品質,用途,需要者の範囲が一致するかどうか,完成品と部品との関係
にあるかどうか等を総合的に考慮して判断すべきである。
ア引用商標1の指定商品との類否
(ア)本願商標の指定商品中の「金属加工機械器具用刃物」と引用商標1の
指定商品中の「金属加工機械器具」について
a生産部門,販売部門及び用途
多数の業者が,そのウェブサイトにおいて,「金属加工機械器具」と「金属加工機
械器具用刃物」の両方の取扱いをしていることから(乙7,乙8の1~3,乙9,
乙10の1・2),「金属加工機械器具用刃物」と「金属加工機械器具」とは,生産
部門,販売部門及び用途を共通にする商品といえる。
b需要者について
金属加工機械器具本体を購入し使用する者は,その一部を構成する部品(刃物)
についても,同時に又は後日,交換用部品として購入する者として共通するもので
ある。
そして,その需要者としては,金属加工を業とする事業者が挙げられるほか,昨
今,DIY(「しろうとが自分で何かを作ったり,修繕したりすること。日曜大工」
[乙11])が流行している背景から,一般の者においても,作業効率をあげること
を目的に電動工具を使用して大工仕事をする機会が増えている実情にあることから
すると,需要者には,一般の個人需要者も存在するといえる。そうすると,金属加
工機械器具の部品(刃物)と金属加工機械器具の需要者は,少なくとも金属を加工
するあらゆる者となり得るといえる。
(イ)本願商標の指定商品中の「製材機械器具用刃物,木工機械器具用刃物,
合板機械器具用刃物」と引用商標1の指定商品中の「製材用・木工用又は合板用の
機械器具」について
a生産部門,販売部門及び用途
多数の業者が,そのウェブサイトにおいて,「製材用・木工用又は合板用の機械器
具」と「製材機械器具用刃物,木工機械器具用刃物,合板機械器具用刃物」の両方
の取扱いをしていることから(乙12,13,乙14の1・2,乙15),「製材機
械器具用刃物,木工機械器具用刃物,合板機械器具用刃物」と「製材用・木工用又
は合板用の機械器具」とは,生産部門,販売部門及び用途を共通にする商品といえ
る。
b需要者について
製材用・木工用又は合板用の機械器具本体を購入し使用する者は,その一部を構
成する部品(刃物)についても,同時に又は後日,交換用部品として購入する者と
して共通するものである。
そして,その需要者としては,製材,木材,合板加工を業とする事業者が挙げら
れるほか,前記(ア)と同様にDIYに係る実情があることから,需要者には,一般の
個人需要者も存在するといえる。そうすると,製材用・木工用又は合板用の機械器
具の部品(刃物)と製材用・木工用又は合板用の機械器具の需要者は,少なくとも
製材,木材,合板加工をするあらゆる者となり得るといえる。
(ウ)本願商標の指定商品中の「除草機械器具用刃物」と引用商標1の指定商
品中の「耕うん機械器具(手持ち工具に当たるものを除く。),栽培機械器具,収穫
機械器具,植物粗製繊維加工機械器具,飼料圧搾機,飼料裁断機,飼料配合機,飼
料粉砕機」について
a商標法施行規則別表に照らし,引用商標1の指定商品中の「栽培機
械器具」には,「除草機械器具」が含まれるといえる(乙16)。
そこで,本願商標の指定商品中の「除草機械器具用刃物」と引用商標1の指定商
品に含まれる「除草機械器具」とを比較する。
b生産部門,販売部門及び用途
多数の業者が,そのウェブサイトにおいて,「除草機械器具」と「除草機械器具用
刃物」の両方の取扱いをしていることから(乙17,乙18の1・2,乙19の1・
2,乙20,乙21の1~3,乙22の1~4),「除草機械器具刃物」と「除草機
械器具」とは,生産部門,販売部門及び用途を共通にする商品といえる。
c需要者について
除草機械器具本体を購入し使用する者は,その一部を構成する部品(刃物)につ
いても,同時に又は後日,交換用部品として購入する者として共通するものである。
そして,その需要者としては,農業従事者や除草することを業とする事業者が挙
げられるほか,一般の者においても,家庭菜園や庭等の除草作業を行うに当たり,
その作業効率をあげたり作業負担を軽減するために動力式の機器を使用している実
情にあることからすると,需要者には,一般の個人需要者も存在するといえる。そ
うすると,除草機械器具の部品(刃物)と除草機械器具の需要者は,少なくとも除
草をするあらゆる者となり得るといえる。
d「除草機械器具」以外の「栽培機械器具」及び「耕うん機械器具(手
持ち工具に当たるものを除く。),収穫機械器具,植物粗製繊維加工機械器具,飼料
圧搾機,飼料裁断機,飼料配合機,飼料粉砕機」についても,いずれも農業用の機
械器具に係る商品であることや農業に携わる者を需要者とする商品であることが共
通する(乙23,乙24の1・2)。
(エ)小括
以上のとおり,「金属加工機械器具用刃物」と「金属加工機械器具」,「製材機械器
具用刃物,木工機械器具用刃物,合板機械器具用刃物」と「製材用・木工用又は合
板用の機械器具」,「除草機械器具用刃物」と「除草機械器具」とは,それぞれに,
その生産部門,販売部門,用途,需要者の範囲が一致し,完成品と部品との関係に
あり,また,「除草機械器具用刃物」と「除草機械器具」以外の「栽培機械器具」及
び「耕うん機械器具(手持ち工具に当たるものを除く。),収穫機械器具,植物粗製
繊維加工機械器具,飼料圧搾機,飼料裁断機,飼料配合機,飼料粉砕機」とは,そ
の用途,需要者の範囲が共通することからすると,それらの商品に同一又は類似の
商標が使用されたときには,同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるお
それがある関係にあるといえる。
そうすると,上記各指定商品は,それぞれ,商標法4条1項11号にいう類似の
商品に当たるというべきである。
イ引用商標2の指定商品との類否
本願商標の指定商品中の「除草機械器具用刃物」は,除草の際に使用する動力式
の機器に取り付けるための刃物であり,農業用の機械器具に係る商品であって,そ
の需要者は農業従事者や除草することを目的とする者である。また,引用商標2の
指定商品中の「飼料乾燥装置」は,畜産業等において飼料となる収穫された牧草や
穀物等を乾燥する機械装置であり,農業用の機械器具に係る商品であって,その需
要者は農業従事者である。
そうすると,「除草機械器具用刃物」と「飼料乾燥装置」とは,いずれも農業用の
機械器具に係る商品であることや農業に携わる者を需要者とする商品であることが
共通するものであることからすると,それらの商品に同一又は類似の商標が使用さ
れたときには,同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれがある関
係にあるといえることから,商標法4条1項11号にいう類似の商品に当たるとい
うべきである。
ウ引用商標3の指定商品との類否
本願商標の指定商品中の「金属加工機械器具用刃物」と引用商標3の指定商品中
の「金属加工機械器具」とは,前記アのとおり,商標法4条1項11号にいう類似
の商品に当たるというべきであるほか,上記「金属加工機械器具用刃物」は,金属
加工機械器具の部品及び附属品の一種であることから,引用商標3の指定商品中の
「金属加工機械器具の部品及び附属品」に含まれる商品であるといえる。
(3)原告は,本願商標は原告を指すものとして周知であると主張する。
しかし,原告が提出したすべての証拠を勘案しても,本願商標が,我が国の本願
商標の指定商品を取り扱う業界において,相当程度周知になっているといえず,原
告を指すものとして理解されるということができない。
また,商標法4条1項11号は,登録出願された商標が,先願に係る他人の登録
商標と同一又は類似する商標であって,その登録に係る指定商品若しくは指定役
務と同一又は類似する商品若しくは役務について使用するものの登録を認めない
とするものであるところ,上記のような先願に係る他人の登録商標が存在するの
であれば,原告が主張するような理由(本願商標の周知性)によって,商標法4条
1項11号の適用を免れるとはいえない。
したがって,原告による上記主張は,失当である。
第3当裁判所の判断
1本願商標と引用商標の類否について
(1)商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合
に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであ
るが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によ
って取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきで
あり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにしうる限り,その具体的な取引状況
に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43
年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の
構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支
配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識と
しての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,当該部分だけを他人の商
標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁昭和
37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1
621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・
民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8
日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁)。
(2)本願商標と引用商標1との類否
ア本願商標は,前記第2の2(1)のとおり,「TENRYU」の欧文字を標
準文字で表したものであり,「テンリュー」の称呼が生じる。
また,上記称呼から,本願商標は,「天竜,天龍」を意味するものと理解するの
が一般的であり,「天竜,天龍」からは「天の竜(龍)」の観念が生じるから,本
願商標からは「天の竜(龍)」の観念が生じる。
イ引用商標1は,前記第2の2(3)のとおり,別紙記載1の商標であり,「テ
ンリュー」の称呼が生じ,「天の竜(龍)」の観念が生じる。
ウ本願商標と引用商標1とは,外観は異なるものの,称呼及び観念は同一
である。
そして,引用商標1は漢字を用いているのに対し,本願商標は欧文字を用いてい
るが,引用商標1をローマ字で表記すると本願商標となることは明らかである。我
が国においては,漢字を同じ称呼のローマ字で表記することは一般的に行われてい
るという事情を考慮すると,文字種が異なることによる本願商標と引用商標1の外
観の相違は,両商標が別異のものであると認識させるほどの強い印象を与えるもの
ではないというべきである。
以上の事情を総合考慮すると,本願商標は引用商標1に類似しているというべき
である。
(3)本願商標と引用商標3との類否
ア引用商標3は,前記第2の2(3)のとおり,別紙記載3の商標であり,黒
色で塗り潰した円図形の中に,白抜きの太線で三角形を描き,該三角形内の各辺に
接続するように「T」と思しき文字を白抜きの太字で描いた図形(引用商標図形部
分)と,該三角形の下端部の白抜きの「TENRYU」の文字(引用商標文字部分)
からなる。
そのうち,引用商標文字部分は,引用商標図形部分とは重なっておらず,また,
読みやすい書体からなるから,引用商標図形部分とは明確に区別することができる。
また,引用商標文字部分は,引用商標3全体の約7分の1の高さ,約8分の5の幅
を有すること,黒色で塗り潰した円図形の中に,白抜きの太線で描かれていること
から,十分に目立つものである。そして,引用商標文字部分からは「テンリュー」
との称呼と「天の竜(龍)」との観念が生じ,引用商標3に接した者は,引用商標
文字部分の上記称呼と観念を十分に認識することができるというべきである。
一方,引用商標図形部分は,抽象的な図形であり,同部分からは,特定の称呼や
観念は生じないし,また,引用商標文字部分と一体となって特別な意味を有するこ
とになるなど,引用商標文字部分と何らかの関連性を有しているともいえない。
以上の事情を考慮すると,引用商標3のうち引用商標文字部分が取引者,需要者
に対し商品の出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,
引用商標3と他の商標の類否を判断するに当たっては,引用商標文字部分を要部と
して分離観察をすることができるというべきである。
イそうすると,本願商標及び引用商標文字部分は,いずれも「TENRY
U」の欧文字からなり,「テンリュー」との称呼と「天の竜(龍)」の観念を生じ
ることから,本願商標と引用商標3は,類似するというべきである。
(4)原告は,「天龍(天竜)」を含む登録商標や企業名は多数あり,多くの者
が使用を希望している標章であるから,このような標章に対し,広い後願排除効を
与えることは商標選択の幅を狭めることになり,相当ではないと主張するが,前記
(2),(3)のとおり,本願商標と引用商標1及び引用商標3とは類似しており,同一
又は類似の商品に使用された場合は,取引者,需要者に出所の混同を生じさせるお
それがあるのであるから,原告が主張するように「天龍(天竜)」を含む登録商標
や企業名が多数あるとしても,本願商標と引用商標1及び引用商標3とが類似する
ことを否定することはできず,原告の上記主張は採用することはできない。
2本願商標の指定商品と引用商標1の指定商品の類否について
(1)指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同のお
それがあるかどうかにより判断すべきものではなく,それらの商品が通常同一営業
主により製造又は販売されている等の事情により,それらの商品に同一又は類似の
商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれ
があると認められる関係にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生
ずるおそれがないものであっても,類似の商品に当たると解するのが相当である(最
高裁昭和33年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15
巻6号1730頁参照)。
(2)本願商標の指定商品中の「金属加工機械器具用刃物」と引用商標1の指定
商品中の「金属加工機械器具」の類否について
ア後掲証拠によると,以下の事実が認められる。
(ア)マツモト機械株式会社のウェブサイトの「・・・製品情報>金属加工
(切断・穴加工)>・・・」のページに,「パイプえぐり加工機『Rカット』」が記
載され,その用途として「建築用装飾金物」や「自転車・オートバイ用フレーム」
などの記載がある。また,上記機械の専用刃として「M・H・Gミルカッター」が
記載され,その特長として「特殊刃型のため,ステンレス,難削材でも軽く切れま
す。」との記載がある。(乙7)
(イ)株式会社キソパワーツールのウェブサイトには,以下の記載がある(乙
8の1・2)。
a「・・・製品情報>小型金工施盤・オプション>・・・」のページ
に,「No.24400マイクロレースDXPD400」が記載され,その用
途として「金属の切削,穴あけ,旋盤加工」との記載がある。また,「マイクロレー
ス用各種切削用バイト」のページがある。
b「・・・製品情報>旋盤用カッティングツール」のページには,卓
上金工施盤の各種替刃が記載されているところ,上記の機械用のものが記載されて
いる。
(ウ)マキタのウェブサイトには,「150mm充電式チップソーカッタ」が
記載され,その特長として「余裕の切断能力刃物径150mmにより,リップ溝
形鋼・・・や電線管も一発切断!」との記載がある。また,「別販売品」として,「一
般金工用チップソー」の他3種類のチップソー(金工刃)が記載されている。なお,
上記チップソーカッタ及び上記各チップソーには,マキタを示す表示がある。(乙
9)
イ金属加工機械器具及び金属加工機械器具用刃物の需要者は,金属加工を
行う者であるが,金属加工機械器具用刃物は,金属加工機械器具の部品であり,需
要者は,上記刃物を購入し交換して使用するものと考えられるところ,前記アで認
定した事実によると,金属加工機械器具と金属加工機械器具用刃物は,同一の事業
者によって製造,販売されていることがあるものと認められ,また,同一の事業者
の表示が付された金属加工機械器具と金属加工機械器具用刃物も存するものと認め
られる。
以上の事情を考慮すると,金属加工機械器具と金属加工機械器具用刃物に同一又
は類似の商標が付された場合,需要者である金属加工を行う者は,同一の者の製造
又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがあるというべきである。
したがって,本願商標の指定商品中の「金属加工機械器具用刃物」と引用商標1
の指定商品中の「金属加工機械器具」は類似しているというべきである。
(3)本願商標の指定商品中の「製材機械器具用刃物,木工機械器具用刃物,合
板機械器具用刃物」と引用商標1の指定商品中の「製材用・木工用又は合板用の機
械器具」の類否について
ア後掲証拠によると,以下の事実が認められる。
(ア)株式会社大都が運営する「DIYFACTORY」の通信販売用のウ
ェブサイト(以下「大都サイト」という。)の「・・・日立工機>電動工具>丸のこ
>電気丸のこ」のページには,「日立工機卓上丸のこFC8FC」が記載され,
商品説明として「木材,合板,化粧板,軟質繊維板,ハードボード,アルミサッシ
材等の切断が可能です。※各種材料に対応したチップソーをご使用下さい。」との記
載がある(乙12)。
(イ)大都サイトの「・・・リョービ>電動工具>カンナ>電気かんな」,「・・・
用途>削る>木材>研磨・研削」のページには,以下の記載がある(乙13)。
a「リョービ[RYOBI]カンナML-83S」が記載され,そ
の特長として「・・・初めて電動工具を買う!という初心者様におすすめ・・・」
との記載,用途として「木材の切削に替え刃式でシャープな切削」との記載があ
る。また,別販売品として「替刃(ホルダ付:2枚1組)」や「替刃式カンナ刃(2
枚1組)」との記載がある。
b商品購入者のレビュー欄に「日曜大工で使用しています。・・・」と
の記載がある。
c「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています。」
との記載の下に,「マキタ/makita自動カンナ用替刃式カンナ刃」が記載され
ている。
(ウ)株式会社MonotaRO(ものたろう)が運営する「通販モノタロ
ウ」の通信販売用のウェブサイト(以下「モノタロウサイト」という。)には,以下
の記載がある(乙14の1・2)。
a「RYOBI(リョービ)電子トリマ」が記載され,その商品説明
として「刃物の交換に便利なスピンドルロック付」との記載,用途として「各種木
材の面取り,溝掘り作業。」との記載がある。
b「この商品を見た人が購入しています」との記載の下に,電子トリ
マの替刃である「超硬ストレートビット」が記載されている。
(エ)マキタのウェブサイトに掲載の「ホーム用電動工具カタログ」におい
て,「電気マルノコ充電式マルノコ」が記載され,「各種木材,合板を素早く切断。」
との記載がある。また,同カタログに記載されている上記マルノコ及び替刃には,
マキタを示す表示が記載されている。(乙15)
イ前記アで認定した事実によると,製材用機械器具,木工用機械器具及び
合板用機械器具の各機械器具の用途はおおむね共通しており,同一の機械で製材,
木工加工及び合板加工に対応できること,同機械器具の需要者としては,木材や合
板の加工を行う事業者の他,木材や合板の加工を趣味として行っている一般の個人
も想定できることが認められる。そして,製材用,木工用又は合板用の機械器具に
用いられる刃物は,それらの機械器具の部品であり,需要者は,上記刃物を購入し
交換して使用するものと考えられるところ,前記アで認定した事実によると,上記
機械器具と同機械器具用刃物は,同一の事業者によって製造販売されていることが
あるものと認められ,また,同一の事業者の表示が付された木材,合板加工機械器
具と同機械器具用刃物も存することが認められる。
以上の事情を考慮すると,製材用・木工用又は合板用の機械器具と同機械器具用
刃物に同一又は類似の商標が付された場合,需要者である木材や合板の加工を行う
事業者及びそれらの加工を趣味として行っている一般人は,同一の者の製造又は販
売にかかる商品であると誤認するおそれがあるというべきである。
したがって,本願商標の指定商品中の「製材機械器具用刃物,木工機械器具用刃
物,合板機械器具用刃物」と引用商標1の指定商品中の「製材用・木工用又は合板
用の機械器具」は類似しているというべきである。
(4)本願商標の指定商品中の「除草機械器具用刃物」と引用商標1の指定商品中
の「栽培機械器具」の類否について
ア後掲証拠によると,以下の事実が認められる。
(ア)大都サイトには,以下の記載がある(乙17)。
aリョービ製の電動刈払機(草刈機)が記載され,その特長として,
「住宅地や市街地の家周りの草刈りに最適な低騒音・手間いらずの電気式刈払機。」
との記載がある。また,同製品の購入者の商品レビューとして,「庭の草刈に使用し
ています。切れ味も良く,便利に利用しています。エンジン式よりも音が静かで,
エコで重宝しています。」との記載がある。
b上記リョービ製の電動刈払機が記載されているページには,「この商
品をチェックした人はこんな商品もチェックしています。」との記載の下に,リョー
ビの表示がある刈刃が記載されている。
(イ)株式会社藤原農機が開設する通信販売用のウェブサイト「agriz
アグリズ」には,以下の記載がある(乙18の1・2)。
a「・・・農業機械>草刈機(刈払機)>・・・」のページには,ゼ
ノア製の草刈機(刈払機)及び同製品にお勧めのゼノア製の替刃が記載されている。
b「・・・農業機械>刈払機用替刃・草刈機・芝刈機用替刃>・・・」
のページには,ゼノア製のチップソーが記載されている。
(ウ)モノタロウサイトには,以下の記載がある(乙19の1)。
aマキタ製の草刈機が記載され,同草刈機の附属品としてチップソー
が記載されている。
b上記草刈機が記載されているページに,購入者の上記草刈機のレビ
ューが記載されており,同レビューの「用途」の欄に「会社内草刈」,「駐車場の草
刈り」,「工場周囲の草刈り」,「庭の芝生刈」等の記載がある。
(エ)Amazonのウェブサイトにおいて,「日立工機14.4V18
Vコードレス刈払機」が記載され,それが記載されているページには「別売部品」
として,複数のチップソーが記載されている(乙20)。
(オ)株式会社クボタ(以下「クボタ」という。)のウェブサイトの「・・・
製品サービス>クボタ農業関連商品>製品カテゴリ別>刈払機・チェーンソー・チ
ッパ・ブロワ」のページにおいて,「クボタ刈払機KC・KCZシリーズ・KZシリ
ーズ」と「クボタ刈払機用チップソー」が記載されている(乙21の1)。また,ク
ボタの商品カタログには,クボタを示す表示のあるチップソーが記載されている(乙
21の3)。
(カ)井関農機株式会社のウェブサイトには,「農機店ルート製品」として,
刈払機が記載されており,同社の製品カタログには,刈払機及びチップソーが記載
されている(乙22の1~4)。
イ前記アで認定した事実によると,除草機械器具及び除草機械器具用刃物
の需要者としては,農業従事者の他,草刈りをする必要のある環境で生活している
者であると認められる。そして,除草機械器具用刃物は,除草機械器具の部品であ
り,需要者は,上記刃物を購入交換して使用するものと考えられるところ,前記ア
で認定した事実によると,上記機械器具と同機械器具用刃物は,同一の事業者によ
って製造,販売されていることがあるものと認められ,また,同一の事業者の表示
が付された除草機械器具と同機械器具用刃物も存することが認められる。
以上の事情を考慮すると,除草機械器具と同機械器具用刃物に同一又は類似の商
標が付された場合,需要者である農業従事者,草刈りをする必要のある環境で生活
している者は,同一の者の製造又は販売にかかる商品であると誤認するおそれがあ
るというべきである。
そして,除草機械器具は,草木を除草するための機械器具であり,農業用機械器
具のうちの一部である栽培機械器具に含まれる。
したがって,本願商標の指定商品中の「除草機械器具用刃物」と引用商標1の指
定商品中の「栽培機械器具」とは類似しているというべきである。
(5)本願商標の指定商品中の「金属加工機械器具用刃物」と引用商標3の指定商
品中の「金属加工機械器具の部品及び附属品」の類否について
金属加工機械器具用刃物とは,金属加工機械器具に取り付けられる刃物であって,
金属加工機械器具の部品及び附属品に当たる。
したがって,本願商標の指定商品中の「金属加工機械器具用刃物」は,引用商標
3の指定商品中の「金属加工機械器具の部品及び附属品」に含まれるというべきで
ある。
3原告は,本願商標は原告を示すものとして周知であるから,原告が本願商標
を使用しても,引用商標1及び引用商標3の権利者とは明確に区別でき,同権利者
との間で出所の混同は生じない旨主張するので,この点について判断する。
(1)後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
ア原告は,大正2年に設立され,大正7年には東京,北海道,久留米に,
大正8年には大阪,秋田に,大正10年には盛岡に,それぞれ支店や出張所を設置
した。設置当初の頃から秋田支店と盛岡出張所の看板には「TENRYU」又は「T
enryu」を含む会社名の記載があった。(甲7,21,30)
イ原告は,東京証券取引所に上場しており,平成27年3月,平成28年
3月,平成29年3月の各決算期における連結売上高はそれぞれ約100億円であ
る。原告は,本社(袋井)以外に,東京,大阪,秋田,富山に支店や営業所を設置
しており,海外にも関連会社を有している。(甲21,26,28~30)
原告は,平成8年に米国法人を設立し,平成11年には,米国において「TEN
RYU」の商標登録をし,「TENRYU」の商標を刻印した商品を米国へ輸出し
ている(甲7,21,22,30)。
ウ原告は,遅くとも平成23年以降,本願商標をホームページ上で使用し
ている(甲7,24,29)。
原告は,遅くとも平成21年以降,カタログやパンフレットにおいて本願商標を
使用し,配布してきた(甲8,25)。
エ原告の丸鋸の梱包資材には,遅くとも平成26年以降,本願商標が記載
されている(甲31,32)。
オ原告は,原告のPR用のCDR,看板等において本願商標を使用してき
た(甲22,23)。
カ原告は,「TENRYU」を含む登録商標を4件有している。このうち
1713488号商標は,図形と「TENRYU」,「TRADEMARK」及
び「PAS」の各文字を組み合わせたもの,登録第1339942号商標は,図形
と「TENRYUSAWMEG,CO,LTD,JAPAN」,「TRADEM
ARK」,「PAS」及び「登録商標」の各文字を組み合わせたもの,登録第51
34974号商標は,図形と「TENRYUSAWMFG,CO,LTD,JAP
AN」,「TRADEMARK」,「PAS」及び「登録商標」の各文字を組み
合わせたもの,登録第5192660号商標は,「PASTENRYU」(標準文
字)である。(甲14)
(2)前記(1)で認定した事実によると,原告は,本願商標を使用して事業を行っ
ており,本願商標は原告を表示するものとして一定程度は知られていることが認め
られるものの,その程度では,既に認定判示したとおり,引用商標1及び引用商標
3と商標及び指定商品が類似する本願商標を使用しても,取引の実情により,出所
の混同を生じないとまでいうことはできないから,原告の上記主張を採用すること
はできない。
4なお,原告は,引用商標1及び引用商標3は無効理由を有する瑕疵のある商
標であると主張をするが,前記第2の2(4)のとおり,上記各商標とも商標登録がさ
れ,その後も有効に存続しているのであるから,これらの商標登録があることを理
由として本願商標は商標法4条1項11号に該当するということができ,原告の上
記主張は理由がない。
5以上によると,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するから,引用商
標2に係る取消事由について判断するまでもなく,登録を受けることができない。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
佐野信
裁判官
熊谷大輔
別紙
1引用商標1
(1)商標
(2)指定商品
第7類
金属加工機械器具,鉱山機械器具,土木機械器具,荷役機械器具,漁業用機械器
具,化学機械器具,繊維機械器具,食料加工用又は飲料加工用の機械器具,製材用・
木工用又は合板用の機械器具,パルプ製造用・製紙用又は紙工用の機械器具,印刷
用又は製本用の機械器具,ミシン,耕うん機械器具(手持ち工具に当たるものを除
く。),栽培機械器具,収穫機械器具,植物粗製繊維加工機械器具,飼料圧搾機,飼
料裁断機,飼料配合機,飼料粉砕機,牛乳ろ過器,搾乳機,育雛器,ふ卵器,蚕種
製造用又は養蚕用の機械器具,靴製造機械,製革機械,たばこ製造機械,ガラス器
製造機械,塗装機械器具,包装用機械器具,陶工用ろくろ,プラスチック加工機械
器具,半導体製造装置,ゴム製品製造機械器具,石材加工機械器具,動力機械器具
(陸上の乗物用のもの及び「水車・風車」を除く。),陸上の乗物用の動力機械の部
品,水車,風車,風水力機械器具,機械式の接着テープディスペンサー,自動スタ
ンプ打ち器,業務用電気洗濯機,修繕用機械器具,機械式駐車装置,乗物用洗浄機,
業務用撹はん混合機,業務用皮むき機,業務用食器洗浄機,業務用切さい機,業務
用電気式ワックス磨き機,業務用電気掃除機,芝刈機,電動式カーテン引き装置,
廃棄物圧縮装置,廃棄物破砕装置,軸・軸受・軸継ぎ手・ベアリング(機械要素)
(陸上の乗物用のものを除く。),動力伝導装置(機械要素)(陸上の乗物用のものを
除く。),緩衝器及びばね(機械要素)(陸上の乗物用のものを除く。),制動装置(機
械要素)(陸上の乗物用のものを除く。),バルブ(機械要素)(陸上の乗物用のもの
を除く。)
2引用商標2
(1)商標
(2)指定商品
第11類
便所ユニット,浴室ユニット,乾燥装置,換熱器,蒸煮装置,蒸発装置,蒸留装
置,熱交換器,牛乳殺菌機,工業用炉,原子炉,飼料乾燥装置,ボイラー,暖冷房
装置,冷凍機械器具,業務用衣料乾燥機,美容院用又は理髪店用の機械器具(いす
を除く。),業務用加熱調理機械器具,業務用食器乾燥機,業務用食器消毒器,水道
用栓,タンク用水位制御弁,パイプライン用栓,汚水浄化槽,し尿処理槽,ごみ焼
却炉,太陽熱利用温水器,浄水装置,電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類,
加熱器,調理台,流し台,アイスボックス,氷冷蔵庫,家庭用浄水器,浴槽類,あ
んどん,ちょうちん,ガスランプ,石油ランプ,ほや,あんか,かいろ,かいろ灰,
湯たんぽ,洗浄機能付き便座,洗面所用消毒剤ディスペンサー,便器,和式便器用
いす,家庭用汚水浄化槽,家庭用し尿処理槽,化学物質を充てんした保温保冷具,
火鉢類
3引用商標3
(1)商標
(2)指定商品
第7類
金属加工機械器具,金属箔原反又は金属箔製造用機械器具の部品として用いる繊
維強化プラスチック製ローラー,その他の金属加工機械器具の部品及び附属品,土
木機械器具,荷役機械器具,ローラーコンベヤーの部品として用いる繊維強化プラ
スチック製ローラー,その他の荷役機械器具の部品及び附属品,パルプ製造用・製
紙用又は紙工用の機械器具,パルプ製造用・製紙用又は紙工用の機械器具の部品と
して用いる繊維強化プラスチック製ローラー,その他のパルプ製造用・製紙用又は
紙工用の機械器具の部品及び附属品,包装用機械器具,プラスチック加工機械器具,
液晶ディスプレイ用フィルム原反又は液晶ディスプレイ用フィルム製造用機械器具
の部品として用いる繊維強化プラスチック製ローラー,有機ELフィルム原反又は
有機ELフィルム製造用機械器具の部品として用いる繊維強化プラスチック製ロー
ラー,写真フィルム原反又は写真フィルム製造用機械器具の部品として用いる繊維
強化プラスチック製ローラー,金属箔複合フィルム原反又は金属箔複合フィルム製
造用機械器具の部品として用いる繊維強化プラスチック製ローラー,電池用フィル
ム原反又は電池用フィルム製造用機械器具の部品として用いる繊維強化プラスチッ
ク製ローラー,その他のフィルム原反又はフィルム製造用機械器具の部品及び附属
品,ビデオ用磁気テープ原反又はビデオ用磁気テープ製造用機械器具の部品として
用いる繊維強化プラスチック製ローラー,オーディオ用磁気テープ原反又はオーデ
ィオ用磁気テープ製造用機械器具の部品として用いる繊維強化プラスチック製ロー
ラー,コンピュータ用磁気テープ原反又はコンピュータ用磁気テープ製造用機械器
具の部品として用いる繊維強化プラスチック製ローラー,その他の磁気テープ原反
又は磁気テープ製造用機械器具の部品及び附属品,その他のプラスチック加工機械
器具の部品及び附属品,半導体製造装置,電子部品製造用機械器具,フィルム型太
陽電池製造用機械器具の部品として用いる繊維強化プラスチック製ローラー,その
他の電子部品製造用機械器具の部品及び附属品

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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