弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主       文
     被告人を懲役1年6月に処する。
     この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
            理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成13年12月26日午後10時5分ころ,業務として普通乗用自動車を
運転し,兵庫県A市Ba丁目b番c号先の信号機により交通整理の行われている交差点を
北方から西方に向かい右折進行するに当たり,対向直進してくるD運転の普通乗用
自動車を右前方約35メートルの地点に認めたのであるから,同車の動静を注視
し,その安全を確認して右折進行すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠
り,同車は右折進行するものと軽信し,同車の動静を注視せず,その安全確認不十
分のまま,時速約30キロメートルで右折進行した過失により,折から対向直進し
てきた同車を前方約16.4メートルの地点に認め,急制動の措置を講じたが間に
合わず,同車左前部に自車左前部を衝突させ,よって,D運転車両の同乗者E(当
時22歳)に加療約80
日間を要する右眼打撲,外傷性虹彩炎,眼瞼裂傷等の傷害を,同じくF(当時15
歳)に加療1年5か月間以上を要する左鎖骨骨折(偽関節)の傷害を負わせた
第2 酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.3ミリグラムのアルコールを身体に
保有する状態で,上記日時場所において,普通乗用自動車を運転した
ものである。
(証拠の標目)‐かっこ内は証拠等関係カードの検察官請求証拠甲乙の番号
 省略
(争点についての判断)
 弁護人は,判示第1の事実のうち,被害者Fの傷害について,同被害者は左鎖骨
骨折の傷害を負ったものの,その骨折は平成14年4月22日に骨癒合がみられ,
同年5月8日に治療終了と判断されているのであって,その後再骨折し偽関節とな
ったのは,治療ミスが原因である可能性が否定できないのであるから,これについ
てまで本件事故との間の因果関係を認めるのは相当でない旨主張する。
 関係各証拠によれば,いったん骨癒合と診断されながら再骨折し偽関節となるケ
ースは少ないが,骨癒合と診断されて,臨床的には治癒とされ,治療の必要性がな
いとされても,完全に骨癒合がされて元のようになったわけではないところ,被害
者Fの本件左鎖骨骨折が再骨折し偽関節となった原因は明らかでなく,治療に不適
切なところがあってそれが関与している可能性も全くは否定できないけれども,骨
折にはそのような原因も含めて再骨折し偽関節となることがあり得るのであって,
そのことは一般に予見可能なことであると認められるから,被告人にどれだけの責
任を分担させるべきかは別として,本件事故と上記の再骨折し偽関節となったこと
との間の因果関係を否定するには至らない。
 なお,弁護人は,検察官の公訴提起が遅れたために当初の診断結果よりも長い加
療期間で公判請求をすることになっているとして,それをも上記の因果関係否定の
論拠のひとつとして主張するが,仮に検察官の公訴提起が遅れたとしても,それと
因果関係の存否とは無関係であるし,そもそも交通事故の被害者の加療期間が当初
の診断よりも長くなることは少なくないのであり,検察官が被害者の加療状況を一
定期間見た上で起訴することは,適正な事件処理のために許容されることであるか
ら,本件において検察官の公訴提起が遅れたとの非難を加えるのは失当である。
(法令の適用)
罰条 
 判示第1の行為    被害者ごとに刑法211条1項前段
 判示第2の行為    平成13年法律第51号附則第9条により同法による改
正前の道路交通法119条1項7号の2,65条1項,平成14年政令第24号に
よる改正前の道路交通法施行令44条の3
科刑上一罪の処理    刑法54条1項前段,10条(判示第1は1個の行為と
して犯情の重いFに対する罪の刑で処断)
刑種の選択       いずれも懲役刑
併合罪の処理      刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第1の
罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重)
宣告刑         懲役1年6月
刑の執行猶予      刑法25条1項(4年間)
訴訟費用の負担     刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,普通乗用自動車を酒気帯び運転(判示第2)中,信号機によ
り交通整理の行われている交差点を右折進行するに当たり,対向直進してくる普通
乗用自動車を認めながら,その安全確認を怠って右折進行し,自車をこの対向直進
車両に衝突させて,その同乗者2名に傷害を負わせた(判示第1)という,業務上
過失傷害と道路交通法違反の事案である。
 判示第2の犯行については,被告人が,忘年会で飲酒するなどした後,勤務先の
病院に帰ろうとして犯したものであって,その動機に酌むべき点があまりないこ
と,判示第1の犯行については,被告人が,交差点で右折進行する際の自動車運転
者としての基本的な注意義務を怠ったものであって,その過失の程度は高いこと,
被告人は,そのため自車を対向直進車両に衝突させ,その同乗者2名に判示第2の
各傷害を負わせたものであって,被害者Eについては右眼の視力が低下するなどの
後遺症が残り,同Fについては再手術等を含む長期間の加療を余儀なくさせるな
ど,生じた結果は相当に重いこと,被告人が事故後加害者として被害者らに対し十
分誠意を示してきたとはいい難く,被害者側の被害感情には厳しいものがあること
などを考え併せると,犯
情はよくなく,被告人の刑事責任は軽くないといわざるを得ない。
 しかしながら,被告人の酒気帯びの程度は高いものではなかったこと,被害者F
の左鎖骨骨折が再骨折し偽関節となった原因が治療に適切でないところがあったた
めである可能性も全くは否定できないこと,被告人が現在では反省しており,また
運転免許取消の行政処分も受けていること,被告人と被害者Eとの間では既に示談
が成立しており,また,同Fとの間では示談未成立ではあるものの,被告人車両に
は対人賠償無制限の任意保険が付されていて,この保険から平成14年3月までの
治療費等の支払いがなされており,いずれ相当額の賠償もなされるであろうこと,
被告人にはこれまで道路交通法違反(速度違反)の罪により罰金刑に処せられた以
外に前科がないことなどの,被告人のために酌むべき事情も認められるから,被告
人に対して,今回は
,その刑の執行を猶予することとする。
(検察官の科刑意見 懲役1年10月)
 よって,主文のとおり判決する。
  平成15年6月3日
    神戸地方裁判所第12刑事係甲
           裁 判 官   森   岡   安   廣

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