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平成17年4月27日判決言渡 
平成16年(少コ)第3036号(通常手続移行)損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成17年4月15日
判         決
主      文
1 被告は,原告に対し,金3万円及びこれに対する平成16年6月16日
から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告
の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,これを仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は原告に対し,金30万円及びこれに対する平成16年6月16日から
支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 請求原因の要旨
別紙紛争の要点記載のとおり
2 被告の「紛争の要点」に対する認否
(1)「被告の事業内容」の(1)について
前段については認めるが,「高級ブランド品を新品同様に再生加工するこ
とを謳い文句にしている」という部分については否認する。
(2)「被告の事業内容」の(2)について
高級ブランド品を新品のシルエットの状態に復元することが可能であるな
ど宣伝し」という部分については否認する。その余については認める。
(3)「本件請負契約の成立」について
原告が被告に対し,本件ジャケットを新品と同様の状態に戻す再生加工を
依頼した点について否認する。その余については認める。
(4)「本件請負契約における瑕疵」の(1)について
否認する。白いブレード部分に移染が認められるものの,これについては,
被告から原告に対してした,当初のカウンセリングの範囲内の事象である。
(5)「本件請負契約における瑕疵」の(2)の「瑕疵の内容」について
ア ①の「白いエナメル部分についての瑕疵」について 
ⅰ(ア)について
否認する。本件ジャケットを縁取るエナメルのブレード部分は,原告
から被告に対しクリーニングを依頼された時点で既に劣化していたもの
である。
ⅱ (イ)について
移染した事実は認めるが,被告から原告にした当初のカウンセリング
の範囲の事象である。原告は,移染するリスクを承知でクリーニングを
依頼したのである。
イ ②の「縫製についての瑕疵」について
ⅰ(ア)について
否認する。先ず,第一段階として,被告は,原告の了解のもとに移染
したブレード部分を取り外した上で作業を施し,被告が取り付けること
となった。もっとも,原告からの更なる要望を受けて,被告は,シャネ
ルの日本における正規窓口であるシャネルジャパン株式会社に対し,ブ
レード部分の取付を依頼した。
ⅱ(イ)について
否認する。ボタンについても,被告は,原告の了解のもとに,取り外
して作業をし,作業終了後ボタンを取り付けた。これについても,原告
からの更なる要望があったので,被告は,ボタンの取付をシャネルジャ
パン株式会社に依頼した。
(6) 「原告の損害」について
ア (1)について
否認する。
イ (2)について
否認する。
ウ (3)について
否認する。
(7) 「損害額の算定」について
ア (1)について
否認し,争う。本件ジャケットは購入から既に10年以上経過し,色あ
せや黄ばみや汚れがあり,保存状態も極めて悪く,著しい劣化を生じてい
たので,もはやブランド品としての価値は全くない。
イ (2)について
前段については,不知。後段については争う。
(8) 「損害賠償の請求」について
認める。
3 被告の主張
(1) 被告の事業内容
被告は,通常のクリーニング技法により落ちない黄ばみやシミを独自の技
法により落とす業者である。つまり,商品価値の全く失われた衣服について,
最後の手段として被告の技法により,再生する可能性を探るのである。しか
しながら,特殊な技法によることから,移染その他のリスクもあり,そのた
め,十分なカウンセリングやインフォームドコンセントを行い,再生の可能
性もあるが,移染その他のリスクがあることを承知してもらった上でないと
業務を行わない。
(2) カウンセリング等を十分行ったこと
被告は,原告に対し,カウンセリング及びインフォームドコンセントの電
話をした上で,請求書兼契約書を原告の自宅宛送付している。さらに,被告
においては,請求書到着後2日間のクーリングオフ期間を設け,被告のケア
・メンテナンスに疑義があり,納得がいかない場合には業務を中止できるよ
うな仕組みをとっている。しかしながら,原告から被告に対し,何ら申出で
がなかったことから,被告は業務を行った。
以上の経緯から,本件ジャケットの損傷の可能性について,被告は原告に
対して十分説明をしており,原告自身も損傷の可能性を認識し,了解した上
で,被告への依頼をしたものである。
(3) シャネルジャパン株式会社の費用について
シャネルジャパン株式会社においてブレード部分等の取付けを行った費用
だけでも1万6390円あり,この費用は当然原告の依頼により発生したも
のである以上,原告が負担すべきものである。
4 主たる争点
(1)本件ジャケットの損傷の有無及びその損傷の原因
(2)原告は,被告に対し,民法634条2項に基づいて,その修補に代わる損
害賠償を請求できるか。
(3)損害賠償額の算定 
(4)シャネルジャパン株式会社に対するブレード部分等の取付費用の負担は誰
がすべきか。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)について
証拠によれば,本件ジャケットには,①縁取の白いエナメル部分が劣化し,
ビニールのようになっている,②白いエナメル部分は黒いエナメル部分から色
移りして黒く汚れている,③シャネルジャパン株式会社が取り付ける前に被告
が取り付けたボタンの縫い目の跡がある等,経年劣化とは相異する損傷のある
ことが認められる。また,本件ジャケットには,本件クリーニングの前には,
経年劣化はあるものの,このような特に目立った損傷はなかったことが認めら
れる(甲5号証1,2及び甲10号証)ことからすると,前記損傷は本件請負
契約に基づくクリーニングによって生じたものと認めることができる。
2 争点(2)について
(1)原告は,本件請負契約について,被告が宣伝するような被告が有する独自
の技法によって,ジャケットを新品と同様の状態に戻す再生加工を依頼した
ものであるのにかかわらず,その引き渡されたジャケットは新品と同様な状
態に戻されていないばかりでなく,引き渡した状態より明らかに劣化し,瑕
疵が生じていると主張し,民法634条2項に基づき,その瑕疵の修補に代
わる損害賠償を請求する。これに対し,被告は,本件請負契約は,通常のク
リーニング技法により落ちない黄ばみやシミを独自の技法により落とす業
務,すなわち商品価値の全く失われた衣服について,最後の手段として被告
の技法により再生する可能性を探るという業務を請け負ったものであり,そ
の内容が特殊な技法であるが故に,再生の可能性もあるが,移染その他のリ
スクがあるため,十分なカウンセリングやインフォームドコンセントを行っ
た上で業務を遂行したので責任はないと主張する。     
(2)そこで,先ず,被告の主張について検討するが,本件請負契約の業務内容
が被告の主張するような「商品価値の全く失われた衣服について,最後の手
段として再生の可能性を探るという」限定的なものであったと認めるべきか
も疑問のあるところである。さらに,本件請負契約がそのような業務内容で
あったとしても,原告が被告の説明に対し,クリーニングの結果,特殊な技
法であるが故に,移染その他の損傷が生じることの可能性を認識し,事前に
了解していたということを認める証拠はない。したがって,被告の十分なカ
ウンセリングやインフォームドコンセントを行ったので責任はないという主
張は採用できない。
次に,原告の主張について検討するが,本件ジャケットを新品と同様の状
態に戻す再生加工を依頼したのにかかわらず,新品同様になっていなかった
という主張については,主観的問題もあり,また,本件ジャケットが購入後
10年を経過しているという事実からして,被告側に起因する瑕疵があると
認めることは困難である。しかしながら,クリーニングを依頼した結果とし
て,争点(1)で述べたように,ジャケットに損傷が生じたことは明らかであ
るので,その具体的損害額については争点(3)に譲るとして,民法634条
2項に基づき,その瑕疵の修補に代わる損害賠償を請求することは可能であ
ると考える。
3 争点(3)について
  (1)原告は,本件ジャケットを再生加工する際,被告は,当該エナメル部分に
致命的かつ回復不可能な損傷を与える等正規のシャネルジャケットというブ
ランド品としての価値を喪失させた。そして,本件ジャケットのブランド品
としての時価は20万円を下らないと主張して,損害賠償として20万円を
請求する。
(2)ところで,クリーニング事故が発生した場合,対象となる目的物の現在の
価値評価が,主観的要素が強く影響するため,その損害額を算定することは
困難な作業である。そこで,全国クリーニング生活衛生同業組合連合会は,
紛争を定型的に処理するため,その賠償基準(クリーニング事故賠償基準)
を設けている。
原告は,この基準について,業界が自らの責任減免を一方的に設定したも
のであり,これに拘束される理由はないので,時価相当額で算定されるべき
であると主張し,さらに被告がシャネルのブレードを外してクリーニングを
したことは,基本的かつ重大なミスであるというべきであるから,消費者契
約法8条1項2号により無効であると主張する。
しかしながら,この基準が消費者契約法に抵触する旨の原告の主張は,こ
の基準が本件請負契約の直接の特約となっているものではないこと,また,
実質的に特約となっていると考えたとしても,原告は本件損害賠償の請求の
根拠を民法634条2項,すなわち不完全履行の特則である請負契約の瑕疵
担保責任に求めているのであるから,消費者契約法8条1項2号(債務不履
行による損害賠償責任の免除特約)により無効であるとの主張は失当と考え
る。
(3)本件においては,基本的には,この基準に基づいて損害額を算定すべきで
あろうが,本件クリーニング事故は個別的要素も多く,この基準にそのまま
当てはめて算出することは合理性を欠くと思われる。
そこで,本件における損害額について,総合考慮すると,本件損害額は3
万円が相当であると考える。
(4)なお,本件においては,原告が,慰謝料をもって償いを求めることができ
る程の精神的苦痛を受けたと認めることはできないので慰謝料の請求を認め
ることはできないと考える。
4 争点(5)について
シャネルジャパン株式会社に対するブレード部分等の取付費用の負担は誰が
すべきかであるが,証拠によれば,原被告間において,ブレード部分を取り外
した上で作業をし,その後,被告が取り付けるという合意があったと認めるこ
とができる。したがって,本件取付費用は被告の負担とすべきであると考える。
5 結論
よって,原告の本訴請求は,民法634条2項に基づき,その瑕疵の修補に
代わる損害賠償請求として,3万円及びこれに対する平成16年6月16日か
ら支払済みまで年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度に
おいて理由があるからこれを認容し,その余は失当であるからこれを棄却する。
東京簡易裁判所少額訴訟6係
 裁 判 官  岡 田  洋 佑
別 紙
紛 争 の 要 点
1 被告の事業内容
(1) 被告は,洋服,和服,皮革等のシミ抜き,洗い張り,修理,修繕,再生加
工等を目的とする株式会社で,アクアドライ(洗浄技法)やリプロン(シミ
抜き法)といった独自の技法(以下,これらをあわせて「独自技法」)によ
り,高級ブランド品を新品同様に再生加工することを謳い文句に全国展開し
ているクリーニング業者である。
(2) また,被告は,ウエブサイトのホームページで,被告の開発した独自技法
により,高級ブランド品を新品のシルエットの状態に復元することが可能で
あるなどと宣伝し,全国宅配システムを併用して,全国から顧客を募ってい
る。
2 本件請負契約の成立
原告は,被告に対し,平成16年2月18日,原告が所有する高級ブランド
品であるシャネル社製ジャケット「95年プレタポルテPO4843VO40
21」(以下「本件ジャケット」という。)につき,被告の独自技法によりこれ
を新品と同様の状態に戻す再生加工を依頼し(以下「本件請負契約」という。)
同日,被告に対し,本件ジャケットを引渡した。
3 本件請負契約における瑕疵
(1)原告は,平成16年6月15日,被告から,本件ジャケットは,下記(2)
のとおり,原告が平成16年2月18日被告に引渡した状態より明らかに劣
化し,新品同様に再生加工されたなどとはいえない状態であった。
(2) 瑕疵の内容
① 白いエナメル部分についての瑕疵
(ア) 本件ジャケットを縁取るエナメル部分が著しく消耗,劣化してビニ
ールのように柔らかい状態となっていた。
(イ) 白いエナメル部分が黒いエナメル部分から色移りして黒く汚れてい
た。
② 縫製についての瑕疵
(ア) エナメル部分の裏地にミシン目が出るなど,シャネル社の正規の縫
製では考えられない杜撰なやり方でエナメル部分が付け直されたよう
で,ボタンの縫い目の跡が裏地に残っていた。
4 原告の損害
(1)本件シャネルジャケットにとって,エナメル部分の張りや清潔感がデザイ
ン上大きな要素を占めるものであるが,被告は,上記3(2)①のとおり,本件
ジャケットを再生加工する際,当該エナメル部分に致命的かつ回復不可能な
損傷を与えた。
(2)また,被告は,上記3(2)②のとおり,シャネル社が施した正規の縫製に勝
手な変更を加えたため,原告が本件ジャケットにつき系列のシャネルブテッ
クで補修等アフターケアーを受けることは不可能となった。 
(3)以上により,本件ジャケットは,正規のシャネルジャケットというブラン
ド品として価値を喪失したというべきである。
5 損害額の算定
(1)本件ジャケットのブランド品としての時価は金20万円を下らない。
(2)また,原告は,本件ジャケットに対して特に愛着を持っていたため,わざ
わざ定評のある京都市所在の被告にクリーニングを依頼したものである。
本件ジャケットを毀損されたことによる原告の精神的苦痛を慰謝するには1
0万円が相当である。
6 損害額の請求
このため,原告は,被告に対し,平成16年7月7日付内容証明郵便で,上
記5記載の損害額のうち,本件ジャケットのブランド品としての時価相当額2
0万円を支払うよう催告し,上記内容証明郵便は同月9日被告に到達したが,
被告は一向に支払わない。
7結論 
よって,原告は,被告に対し,民法634条2項に基づき,上記瑕疵の修補
に代わり,損害賠償として,本件ジャケットの時価相当額20万円及び慰謝料
10万円の合計金30万円並びにこれに対する平成16年6月16日から支払
済みに至るまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

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