弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取り消す。昭和四五年八月三一日付愛知県安城市長あ
て届出をもつてなした控訴人・被控訴人間の協議離婚は無効であることを確認す
る。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴
代理人は、主文同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の提出・援用・認否は、控訴代理人にお
いて当審証人A、同Bの各証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、当
裁判所は職権で被控訴本人を尋問したと付加するほか原判決事実摘示と同一である
から、右記載をここに引用する。
         理    由
 一、 その方式および趣旨により公文書と認められるから真正に成立したものと
推定される甲第一号証によれば、控訴人と被控訴人とは昭和三三年一二月二三日婚
姻届出をなして夫婦となり、両者の間に昭和三四年八月二三日長男Cが、同三七年
七月一八日二男Dが出生したこと、戸籍簿上昭和四五年八月三一日愛知県安城市長
に対する届出をもつて控訴人と被控訴人とが協議離婚をなし、その際右二子の親権
者が被控訴人と定められたとの記載の存することが認められる。
 二、 控訴人は、右協議離婚届出は控訴人の意思に基づくものではなく被控訴人
がほしいままになしたものであるから無効であると主張する。よつて判断するに、
原審証人E、同F、当審証人A、同Bの各証言、原審および当審における控訴人お
よび被控訴人各本人尋問の結果を総合すれば、左の事実が認められる。
 控訴人と被控訴人は、夫婦仲がとかく円満を欠き昭和四四年ころからは別れ話も
持ち上るようになつていたが、同四五年六月上旬被控訴人は控訴人が飲酒して暴行
を働くのに堪え兼ね、離婚を決意して単身安城市の実家に帰つてしまつた。控訴人
は、当時軽量鉄骨の製造工場に勤務し、かたわら住居の近くの市場内て菓子の小売
店を経営しており、被控訴人は別居後も同年八月ころまで右店舗に通勤しその営業
を継続していた。
 両者の別れ話については、控訴人側の親・親戚も構いつけない有様であつたの
で、被控訴人は訴外F(弟)、同E(叔父)とともに控訴人方に赴き四回に及び交
渉の結果、控訴人、被控訴人、右F、E四名立会の席上で両者離婚の合意ができ
た。そこで、被控訴人側から用意してきた離婚届用紙を出して控訴人に署名捺印を
求めたが、控訴人は、自分は文字を書くことは苦手であるから被控訴人の方で控訴
人の氏名を書いておいてもらいたいといつて捺印しただけで被控訴人に右用紙を返
付した。そこで、被控訴人側において控訴人の署名欄に代書し、その他右用紙の空
欄を補充して離婚届を完成し、これを昭和四五年八月三一日安城市長に提出し離婚
届出をしたものである。
 さて、C、Dの二子については、被控訴人の別居後も前記のように同人が菓子店
に通勤している関係で、日中は昼食を与える等面倒を見ていたが、控訴人としては
子供は自分が親権者として育てるという考であり、離婚の折衝にあたつてもこれを
当然の前提とし(被控訴人は単身で家を出ていたこと前記のとおりである。)、親
権者決定の協議には立ち入らなかつた。一方被控訴人も離婚後は自ら親権者として
子供を育てる決意であつて前記離婚の合意成立の席上でもこれを一応控訴人に申し
入れたが、その拒否にあうや、前記離婚届の親権者欄が空白であつたのを奇貨と
し、同欄に自己の氏名を記載して離婚の届出をなした。前記菓子店の店舗は控訴人
が同年八月末これを他人に売却してしまい、これに伴い、被控訴人と子供らとの連
絡もとだえたが、被控訴人は同年九月末子供らを転校させる手続(当時長男は小学
校六年生、二男は三年生)をとり、叔父にたのんで下校の途中から被控訴人方に連
れて来させ、爾来被控訴人において養育している。控訴人としては、被控訴人と離
別することには異存はないが、子供を控訴人に無断でつれて行つた被控訴人の態度
に納得できないので、本件訴訟を提起して前記協議離婚の効力を争つているのであ
る。
 右のように認められ、これに反する原審証人Fの証言、原審および当審における
控訴人、被控訴人各本人尋問の結果は信用できず、他に右認定をくつがえすに足る
証拠はない。右認定の事実関係によれば、本件協議離婚届出については、離婚その
ものは当事者に合意が成立し、控訴人の意思に基づき被控訴人において安城市長に
これが届出をなしたのであるが、該届書に離婚後の二子の親権者を被控訴人と定め
たとある点は事実に相違し、実際は両者の間にいまだ親権者を定める協議が成立し
ていなかつたものということができる。
 三、 およそ夫婦が協議離婚をする場合において、協議によりその一方を子の親
権者と定めることは協議離婚の要件であつて、戸籍を管掌する市町村長は右協議の
成立したことが認められない限り離婚の届出を受理することができないのである
が、一方において離婚の届出がこれに違反して受理されたならば、離婚はこれがた
<要旨>めにその効力を妨げられることはないとされているのである(民法七六五条
二項)。本件においては、離婚届書中には前認定のとおり離婚後の二子の親
権者として被控訴人を定めるとの記載があつたのであるから、安城市長が右届書を
適法なものとして受理したのが民法七六五条一項の規定に違反したものということ
はできないけれども、事案の実体に着目して考えるときは親権者を定める協議がい
まだ成立していないのにかかわらず離婚届が受理されている点において同条二項所
定の場合と何ら異なるところがないから同項の規定の準用があるものと解するのが
相当である。すなわち本件協議離婚の効力は、親権者を定める協議が成立していな
いにかかわらず成立したもののごとく離婚届書に記載せられそのまま受理せられた
との一事により何ら妨げられることはないというべきである。よつて、本件協議離
婚は無効ではなく、その無効確認を求める控訴人の本訴請求は失当として棄却すべ
きものである。(なお、本件においては、離婚後親権を行使すべき者が定められな
いまま協議離婚の効力が発生したのであるから、二子については控訴人、被控訴人
の共同親権が現に継続中である。従つて当事者は戸籍訂正の手続により現に存する
被控訴人を親権者と定める旨の戸籍上の記載を抹消したうえ、協議によりあらため
て親権者を定め、その届出を追完すべきものである。右念のため付言する。)
 四、 以上説示のとおりであるから右と結論を同じくする原判決は相当であり、
本件控訴は理由なしとしてこれを棄却すべきものである。
 よつて、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 伊藤淳吉 裁判官 宮本聖司 裁判官 新村正人)

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