弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     右部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     被上告人は上告人に対し金一億三八一一万一三四三円およびこれに対す
る昭和四四年七月一〇日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払
え。
     前項に関する裁判の費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人三谷清、同指定代理人渡辺司、同糟谷昇三の上告理由第一点について。
 原判決は、(1)第一審判決添付別紙目録記載の土地合計一八〇〇坪(以下「本件
土地」という。)は、上告人の所有であり、昭和六年六月一七日開設を認可された
東京市(都)中央卸売市場築地本場の指定区域内にある行政財産である、(2)被上
告人は、上告人から昭和二一年七月二七日および同年九月三日の二回にわたりいず
れも始期を同年八月一日とし、使用期間の定めなく、使用目的をクラブ、レストラ
ン、喫茶、料理およびこれに附随する事業を営むために建物を建築所有することと
して本件土地のうち一五〇〇坪と残三〇〇坪とを順次借り受けたが、右は私法上の
契約によるものではなく、当時施行されていた東京市条例昭和九年第三七号東京市
中央卸売市場業務規程にもとづいてされた行政財産の使用許可処分によるものであ
る、(3)その後まもなく、本件土地のうち七五六坪が進駐軍に接収されることにな
つたので、上告人は、昭和二二年一一月二五日右七五六坪の使用許可を取り消した、
(4)被上告人は、昭和二四年末残余の一〇四四坪の一部に木造瓦葺平家建店舗一棟
建坪五五坪を建築し、翌年から喫茶店等の営業を営むようになつたものの、一〇四
四坪のうちのその余の部分については被上告人の事業計画が上告人の方針に沿わず
承認を受けるに至らなかつた等の事情から利用されずに経過していた、(5)一方、
朝鮮戦争のころから中央卸売市場への入荷が急激に増加し、市場としては右土地を
も自ら使用しなければ入荷物や多数集合する市場関係者の混雑を防ぐことができな
くなつてきたうえ、被上告人の土地使用が不必要または不適切と認められたので、
上告人は、昭和三二年六月二九日昭和二三年東京都条例一四七号東京都中央卸売市
場業務規程を適用し、一〇四四坪のうち九六〇坪につき同月三〇日限り使用指定を
取り消す旨の通告を被上告人に対してし、同年九月二二日行政代執行法により右九
六〇坪上に存した前記建坪五五坪の建物を取消をしていない八四坪上に移転し、右
九六〇坪を回収した旨判示したうえ、上告人が右九六〇坪についてした使用許可の
取消によつて被上告人が受けた右土地についての使用権の喪失という積極的損害は
特別の犠牲に当たるから憲法二九条三項にもとづきその補償がされるべきであると
し、かつ、右土地の使用権は借地権と同一視することはできないが、これときわめ
て相似するものであるとして、補償金額は更地価格の六〇パーセントを相当とする
とし、右の補償を求める被上告人の請求を一部認容している。
 ところで、本件取消を理由とする損失補償に関する法律および都条例についてみ
るに、本件取消がされた当時(昭和三二年六月二九日)の地方自治法および都条例
にはこれに関する規定を見出すことができない。しかし、当時の国有財産法は、す
でに、普通財産を貸し付けた場合における貸付期間中の契約解除による損失補償の
規定をもうけ(同法二四条)、これを行政財産に準用していた(同法一九条)とこ
ろ、国有であれ都有であれ、行政財産に差等はなく、公平の原則からしても国有財
産法の右規定は都有行政財産の使用許可の場合にこれを類推適用すべきものと解す
るのが相当であつて、これは憲法二九条三項の趣旨にも合致するところである。そ
して、また、右規定は、貸付期間中の解除に関するものであるが、期間の定めのな
い場合であつても使用許可の目的、内容ないし条件に照らし一応の使用予定期間を
認めうるときは、これを期間の定めのある場合と別異に扱う理由がないから、この
場合にも前記規定の類推適用が肯定されてしかるべきである。もつとも、昭和三八
年法律第九九号によつて改正された地方自治法二三八条の四および五は普通財産に
ついて補償の規定をもうけているだけで、行政財産についてこれをもうけていない
が、そのことは、いまだ前記類推適用を否定する根拠にはならないと解される。そ
して、原判決の前記判示によれば、本件使用許可は期間を定めないものではあるが
建物所有を目的とするというのであるから、前叙のところに従い右類推適用が肯定
されるべきである。したがつて、本件損失補償については、これを直接憲法二九条
三項にもとづいて論ずるまでもないのである。
 そこで、この見地から、被上告人の本件損失補償請求を一部認容した原判決を是
認することができるかどうかについてみるに、前記国有財産法二四条二項は「これ
に因つて生じた損失」につき補償すべきことを定めているが、使用許可の取消に際
して使用権者に損失が生じても、使用権者においてその損失を受忍すべきときは、
右の損失は同条のいう補償を必要とする損失には当たらないと解すべきところ、原
判決の前記判示によれば、被上告人は、上告人から上告人所有の行政財産たる土地
につき使用期間を定めないで使用の許可を受けていたが、当該行政財産本来の用途
または目的上の必要が生じて右使用許可が取り消されたものということができる。
このような公有行政財産たる土地は、その所有者たる地方公共団体の行政活動の物
的基礎であるから、その性質上行政財産本来の用途または目的のために利用される
べきものであつて、これにつき私人の利用を許す場合にその利用上の法律関係をい
かなるものにするかは、立法政策に委ねられているところと解される。この点につ
き、昭和三八年法律第九九号によつて改正された地方自治法二三八条の四は、行政
財産はその用途または目的を妨げない限度においてその使用を許可することができ
る旨規定したのであるが、同法施行前においては、右改正前の地方自治法二一三条
一項が公有財産の管理、処分等については条例の定めに委ねていたところ、本件に
ついては、昭和二三年一月一三日東京都条例第三号東京都都有財産条例三条および
同条例全部を改正した昭和二九年三月三一日東京都条例第一七号東京都都有財産条
例一二条において前記改正後の地方自治法二三八条の四と同旨の定めがされ、さら
に古くは昭和一九年三月九日東京都規則第四号東京都都有財産規則三条において同
旨の定めがされていたのである(なお、国有財産法一八条参照)。したがつて、本
件のような都有行政財産たる土地につき使用許可によつて与えられた使用権は、そ
れが期間の定めのない場合であれば、当該行政財産本来の用途または目的上の必要
を生じたときはその時点において原則として消滅すべきものであり、また、権利自
体に右のような制約が内在しているものとして付与されているものとみるのが相当
である。すなわち、当該行政財産に右の必要を生じたときに右使用権が消滅するこ
とを余儀なくされるのは、ひつきよう使用権自体に内在する前記のような制約に由
来するものということができるから、右使用権者は、行政財産に右の必要を生じた
ときは、原則として、地方公共団体に対しもはや当該使用権を保有する実質的理由
を失うに至るのであつて、その例外は、使用権者が使用許可を受けるに当たりその
対価の支払をしているが当該行政財産の使用収益により右対価を償却するに足りな
いと認められる期間内に当該行政財産に右の必要を生じたとか、使用許可に際し別
段の定めがされている等により、行政財産についての右の必要にかかわらず使用権
者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が
存する場合に限られるというべきである。
 それゆえ、被上告人は、むしろ、上告人に対し、本件行政財産についての右の必
要のもとにされたと認めうる本件取消によつて使用権が消滅することを受忍すべき
立場にあると解されるから、被上告人が本件取消により土地使用権の喪失という積
極的損失を受け、この損失につき補償を必要とするとした原判決の判断は、さらに
首肯しうべき事情のないかぎり、これを是認することができないのである。もつと
も、原判決は、被上告人が本件使用許可を受けた際上告人の依頼により本件土地を
整理、宅地化するため相当の費用を支出したことをもつてあたかも借地権取得に際
し権利金を支払つたのと対比することができる旨判示しているが、右の一事をもつ
て被上告人の使用権を借地権に比することはできないというべく、右の事情もいま
だ原判決の前記判断を是認するに足りるものではない。したがつて、原判決には法
令違背があることに帰し、ひいて審理不尽、理由不備の違法があるものというべき
である。そして、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、
その余の上告理由について判断するまでもなく原判決中上告人敗訴部分は破棄を免
れず、本件は前叙の観点からなお審理をつくす必要があるので、右部分を原審に差
し戻すこととする。
 つぎに、上告人は、本判決末尾添付の申立書のとおり、民訴法一九八条二項の裁
判を申し立て、その申立の理由として主張する事実関係は、被上告人の認めるとこ
ろである。そして、原判決中前記部分が破棄を免れないことは前段説示のとおりで
あるから、原判決に付された仮執行宣言がその効力を失うことは、論をまたない。
したがつて、右仮執行宣言にもとづいて給付した金員およびその執行のために要し
た執行費用に相当する金員ならびにこれに対する右支払の日から完済まで年五分の
割合による民法所定の損害金の支払を求める上告人の申立は、これを正当として認
容しなければならない。
 よつて、民訴法四〇七条、一九八条二項、九五条、八九条に従い、裁判官全員の
一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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