弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成14年(わ)第419号
主          文
 被告人を罰金40万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
理          由
(罪となるべき事実)
 被告人は,川崎市立A中学校の教諭として,同校において保健体育を担当する傍ら,
同校野球部顧問を務め,同部の練習に際しては,総括的な指導監督に当たるとともに,
常に同部員の健康保持に留意すべき業務に従事していたものであるが,平成12年8月
21日午前8時ころから,川崎市a区b町c丁目所在のb町少年野球場及びその付近のd
河川敷において,野球部員26名による練習を実施した際,同日は高温多湿の晴天で,
同所付近の河川敷にはほとんど日陰がなく,真夏の炎天下に10日間の休暇後初めて
練習を実施するのであるから,練習中は適宜休憩を取らせ,数回に分けて十分に水分
補給させるとともに,激しい運動を避け,練習再開初日で暑さになれていない部員が熱
中症等に罹患することを未然に防止すべきはもとより,持久走のごとき熱負荷の大きい
運動をさせる場合には,熱中症に罹患しやすい太り気味で体力がない部員の健康状態
に特に気を配り,部員に熱中症の症状が現れた場合に,直ちに運動を中止させて体温
を下げるなどするために水,救急箱,携帯電話等を持って集団の後方から監視するなど
迅速かつ適切な救護措置を講じられる態勢で部員を指導監督し,その健康保持に留意
すべき業務上の注意義務があったのに,これを怠り,2時間以上にわたるノック及びゲ
ーム形式ノックの練習中に休憩時間を設けず,同練習終了後に約5分間の給水休憩を
取らせただけで,同日午前10時50分ころから,d河川敷の約5,089メートルの持久走
を実施させた上,自らは先頭集団とともに1キロメートルあたり約6分を要するペースで
走って先に前記少年野球場に戻り,後から遅れてくる部員の健康保持に留意しなかった
過失により,持久走途中の同日午前11時15分ないし20分ころ,同市a区ef番地c先d
河川敷(スタート地点から約3,440メートル地点)において,太り気味で体力がない部
員B(当時13歳)にふらついて転倒するなど熱中症の症状が出始めたことに気付かず,
同人が後輩部員の肩を借りるなどして走り続けて同日午前11時25分ないし30分ころ
に同区eg番地h先d河川敷(スタート地点から約4,028メートル地点)において意識を
失って転倒した後の同日午前11時35分ころになって初めて前記Bが熱中症に罹患し
たことを知り,同人の転倒地点に赴いて病状を確認し,同日午前11時50分ころ救急通
報するなどの処置を執ったが,同人の熱中症の病状は回復せず,よって同日午後8時4
1分ころ,同区i町j丁目k番地所在のC病院において,同人を熱中症に起因する多臓器
不全による出血性ショックにより死亡させたものである。
(証拠の標目) 略
(法令の適用)
罰条        平成13年法律第138号(刑法の一部を改正する法律)附則2条によ
り同法による改正前の刑法211条前段
刑種の選択     罰金刑
労役場留置     刑法18条(金5000円を1日に換算した期間)
(量刑の理由)
 本件は,中学校の課外のクラブ活動に際して,同校の教諭で野球部顧問である被告
人が,真夏の炎天下で部の活動を行うに当たり熱中症の発生を予防するとともに,部員
に熱中症が生じた場合には迅速かつ適切な措置をとれるような態勢で指導監督し,部
員の健康保持に留意すべき注意義務があるのにこれを怠った結果,部員のうち1名をし
て熱中症に罹患させた上,その症状が現れた時点でこれに気付かず,その対処が遅れ
たため,同部員を熱中症に起因する多臓器不全による出血性ショックで死亡させた業務
上過失致死の事案である。
 被告人は,大学の体育学部において運動生理学等の専門教育を受け,保健体育の
教員として生徒に熱中症について教えるとともに,教育委員会などからも再々熱中症に
ついての注意を喚起されるなどしていたものであって,熱中症の発生機序や発症時の
対処方法などには相当程度の知識を有していたと認められるにもかかわらず,判示のと
おり,炎天下における持久走を実施するに当たり,部員の健康状態への配慮に欠け,
適切な救護措置を執りうる態勢にも欠けていたのであるから,体力的に十分の成長を遂
げているとはいい難い中学生の部活動の指導を託された者として,その注意義務の懈
怠は,厳しく非難されても仕方がないというべきである。
 被害者の尊い生命を奪った本件の結果が重大なものであることはいうまでもなく,わ
ずか13歳という春秋に富む年齢にしてその生涯を閉じるに至った被害者の無念は察す
るに余りある。また,被害者の母親は,毎日被害者のいない家に帰るのはつらく,被害
者の死亡したときのことばかり考えてしまい,精神的に追いつめられていると検察官に
述べ,さらに被害者はその無限を秘めた将来を奪われ,自分たちは日常生活の中で,
笑ったりけんかしたりしながら我が子の成長を見届けるという,親として味わうことができ
たはずのごく平凡な幸せさえ永久に奪い取られた,被告人に対しては厳罰を求めると当
公判廷でも陳述しているのであって,我が子に先立たれた父母ら,残された遺族の悲嘆
は深く,その処罰感情は厳しいところである。
 以上の点からすれば,本件について被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 しかしながら,本件当日の練習に当たっては,被告人も長期休暇後の練習初日という
ことを考慮し練習量を通常より軽度のものにし,持久走を実施する直前には部員に給水
休憩を与えるなどして,部員らの健康状態に一応の配慮をしていた様子がうかがわれる
こと,被害者の遺族には,Dセンターの災害共済給付制度により死亡見舞金2500万円
が既に支払われており,引き続きE委員会との間で賠償金の支払について協議がなさ
れる予定であること,被告人は本件について既に6月間給料の月額の10分の1を減給
する懲戒処分を受け,本件以後約2年にわたり教壇を離れて生徒との接触を断ち,また
本件について報道を通じて広く世間に認知されるなど社会的制裁を受けていること,こ
れまで被告人には前科前歴もないこと,当公判廷において,重大な責任を感じており,
教師として責任を全て受けるつもりでいます,被害者のご両親に対しても謝罪させてい
ただきたいと思いますなどと述べて,本件について十分反省し,謝罪の意を表しているこ
となど被告人に酌むべき諸事情もある。そこで,主文のとおり量刑した次第である。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑 罰金50万円)
平成14年9月30日
横浜地方裁判所川崎支部刑事部
裁判長裁判官   栗 田 健 一
裁判官   髙 木 順 子
裁判官   横 井 健太郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛