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平成10年(ワ)第22491号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年12月25日
             判      決
       原       告       根本特殊化学株式会社
       訴訟代理人弁護士      飯田秀郷
       同 栗宇一樹
       同 和田聖仁
       同 早稲本 和 徳
同久保田   伸
同秋野卓生
訴訟復代理人弁護士七字賢彦
同鈴木英之
       補佐人弁理士黒田博道
       被      告        ケミテック株式会社
       訴訟代理人弁護士    長谷川   純
       補佐人弁理士    高 久 浩一郎
  同 中島幹雄
同岩崎幸邦
同中嶋知子
             主      文
   1(1) 被告は,別紙物件目録記載(1)の物品を輸入又は販売してはならな
い。
    (2) 被告は,別紙物件目録記載(2)ないし(4)の物品を製造又は販売しては
ならない。
    (3) 被告は,被告の本店,支店,営業所及び倉庫に存する別紙物件目録記
載(1)ないし(4)の物品を廃棄せよ。
   2 被告は,原告に対し,金8516万3063円及び内金5718万24
26円に対する平成10年10月16日から,内金2798万0637円に対する
平成12年9月30日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
   3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
   4 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とす
る。
  5 この判決の第1項(1)(2)及び第2項は,仮に執行することができる。
             事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,別紙物件目録記載(1)ないし(4)の物品を製造,販売又は輸入しては
ならない。
 2 被告は,被告の本店,支店,営業所及び倉庫に存する別紙物件目録記載(1)な
いし(4)の物品を廃棄せよ。
 3 被告は,原告に対し,金3億1400万円及び内金2億7400万円に対す
る平成10年10月16日から,内金4000万円に対する平成12年9月30日
から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 争いのない事実等
(1) 原告が有する特許権
 ア 原告は,以下の特許権(以下,その特許権を「本件特許権」といい,請
求項1の発明を「本件発明1」といい,請求項2の発明を「本件発明2」とい
う。)を有している。
  【発明の名称】 蓄光性蛍光体
  【特許番号】  第2543825号
  【出願日】 平成6年1月21日
【公開日】  平成7年1月13日
【登録日】平成8年7月25日
【特許請求の範囲】
  (請求項1)
  「MAl2O4で表わされる化合物で,Mは,カルシウム,ストロンチウ
ム,バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合
物を母結晶にすると共に,賦活剤としてユウロピウムをMで表わす金属元素に対す
るモル%で0.002%以上20%以下添加し,さらに共賦活剤としてネオジム,
サマリウム,ジスプロシウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウ
ム,ルテチウムからなる群の少なくとも1つ以上の元素をMで表わす金属元素に対
するモル%で0.002%以上20%以下添加したことを特徴とする蓄光性蛍光
体。」
 (請求項2)
  「SrAl2O4で表わされる化合物を母結晶にすると共に,賦活剤とし
てユウロピウムをSrに対するモル%で0.002%以上20%以下添加し,さら
に共賦活剤としてジスプロシウムをSrに対するモル%で0.002%以上20%
以下添加したことを特徴とする蓄光性蛍光体。」
   イ 本件発明の構成要件を分説すると,以下のとおりである。
 【請求項1】
 1-A MAl2O4で表わされる化合物で,
 1-B Mは,カルシウム,ストロンチウム,バリウムからなる群から選
ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にすると共に,
 1-C 賦活剤としてユウロピウムをMで表わす金属元素に対するモル%
で0.002%以上20%以下添加し,
 1-D さらに共賦活剤としてネオジム,サマリウム,ジスプロシウム,
ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム,ルテチウムからなる群の少
なくとも1つ以上の元素をMで表わす金属元素に対するモル%で0.002%以上
20%以下添加したことを特徴とする
 1-E 蓄光性蛍光体
    【請求項2】
 2-A SrAl2O4で表わされる化合物を母結晶にすると共に,
 2-B 賦活剤としてユウロピウムをSrに対するモル%で0.002%
以上20%以下添加し,
 2-C さらに共賦活剤としてジスプロシウムをSrに対するモル%で
0.002%以上20%以下添加したことを特徴とする
 2-D 蓄光性蛍光体
(2) 被告の行為
 ア 被告は,蓄光性蛍光体原末を輸入し,「ケミテックピカリコCP-0
5」(以下「CP-05」という。)という商品名で販売している。
 イ 被告は,蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品を販売している。
(3) CP-05の組成
  被告が輸入販売しているCP-05には,賦活剤としてユウロピウムが,
共賦活剤としてジスプロシウムがそれぞれ別紙物件目録(1)記載の含有量含有されて
いる(弁論の全趣旨)。
 2 本件は,被告が蓄光性蛍光体原末を輸入し,これを販売等する行為が本件特
許権を侵害するとして,原告が被告に対して,製品の製造,輸入,販売行為の差止
めを求めるとともに,原告が被った損害の賠償を求める事案である。
 3 本件の争点
  (1) CP-05が本件発明1,2の技術的範囲に属するかどうか
   ア CP-05の組成
   イ CP-05が,本件発明1,2の「母結晶」の構成要件を充足するかど
うか
  (2) CP-05以外の商品名の製品について
   ア CP-05BはCP-05と同一の物質であるかどうか
イ 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について
(3) 原告の損害額
第3 争点に関する当事者の主張
 1 争点(1)について
 【原告の主張】
(1) CP-05は,SrAl2O4結晶を主成分とするものであって,SrA
l2O4を母結晶とする。そして,CP-05は,この母結晶に,賦活剤としてユウ
ロピウムが,共賦活剤としてジスプロシウムが別紙物件目録(1)記載の含有量添付さ
れている蓄光性蛍光体であるから,本件発明1,2の各構成要件を充足する。
(2)CP-05には,Sr4Al14O25を母結晶とする蛍光体が含まれてい
るが,これは,SrAl2O4を母結晶とする蛍光体のほかに別個の化合物(蛍光
体)が含まれているということにすぎず,CP-05が本件発明1,2の各構成要
件を充足することに影響するものではない。
(3)CP-05には,B(ホウ素)が含まれているが,B(ホウ素)がAlの
一部に置換していることはない。仮に,B(ホウ素)がAlの一部に置換している
としても,B(ホウ素)は,SrAl2O4の結晶構造を変えることなくAlの格子
点を不規則に占有しているから,CP-05は,SrAl2O4を母結晶とするもの
である。
  【被告の主張】
 (1) 本件特許明細書の記載からすると,本件発明1の「母結晶」とは,蓄光性
蛍光体における賦活剤及び共賦活剤との組合せにおいて,賦活剤及び共賦活剤が添
加されている母体となる物質(化合物)それ自体を意味するというべきであって,
本件発明1において,母結晶となり得る化合物は,「MAl2O4で表される化合物
で,Mは,カルシウム,ストロンチウム,バリウムからなる群から選ばれる少なく
とも1つ以上の金属元素からなる化合物」であり,請求項1の「M」に関する記載
から,「M」がカルシウム,ストロンチウム,バリウムのうちから1つ選ばれた以
下の3種類の化合物,①CaAl2O4,②SrAl2O4,③BaAl2O4,
「M」がカルシウム,ストロンチウム,バリウムのうちから2つ選ばれ,これらの
2種の金属を種々の比率で組み合わせた以下の3種類の化合物,④CaxSr(1ー
x)Al2O4,⑤SrxBa(1ーx)Al2O4,⑥CaxBa(1ーx)Al2O4,
「M」としてカルシウム,ストロンチウム,バリウムの3つが選ばれ,これらの3
種の金属を種々の比率で組み合わせた化合物,⑦CaxSryBa(1ーxーy)Al2
O4のいずれかに限定されるというべきであ
る。また,本件発明2においては,母結晶は,SrAl2O4に限定されるというべ
きである。
 したがって,Sr(又はCa,Ba及びこれらの混合物),Al,Oが他
の元素によって一部でも代替される場合を含まないと解すべきである。
(2) CP-05は,(Sr,Eu,Dy)1ーx(Al,B)2O4-xで表され
るA物相と,(Sr,Eu,Dy)4-y(Al,B)14O25-yで表されるB物相
とが共生してなる複相物質であって,A物相及びB物相とも,Alの一部がB(ホ
ウ素)で置換されている。
  したがって,CP-05は,上記B物相が共生している点及びAlの一部
がB(ホウ素)で置換されている点において,本件発明1,2とは,母結晶が異な
る。
2 争点(2)について
 【原告の主張】
  (1) CP-05Bについて
 被告の「CP-05B」という商品名の製品は,CP-05と同一の物質
である。
  (2) 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について
被告は,第二次製品である別紙物件目録記載(2)ないし(4)の各製品を販売
している。
 【被告の主張】
  (1) CP-05Bについて
    CP-05Bは,CP-05とは異なる物質である。CP-05Bは,原
材料にEuを用いず,CP-05と同様な方法で製造するものであり,構造式は,
(Sr,Dy)(Al,B)2O4・(Sr,Dy)4(Al,B)14O25とされるべ
きものである。
    なお,原告は,損害論の審理に入った段階で,CP-05Bを請求の対象
に加えたが,このような変更は認められるべきではない。
(2) 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について
被告は,「ピカリコシート」と「ピカリコシルクインク」を販売している
ことは認めるが,現在は「ピカリコペレット」は販売していない。
 3 争点(3)について
  【原告の主張】
  (1) 主位的主張
   ア 原告は,平成6年から,SrAl2O4:Eu,Dy蓄光性蛍光体の中国
における製造と輸入を開始した。他方,被告は,平成7年1月ころより中国から別
紙物件目録記載(1)の蓄光性蛍光体原末を税表番号「3206.50ルミノホア」と
して輸入し,蓄光性蛍光体の販売を開始した。ところで,上記「3206.50ル
ミノホア」の日本への輸入総数量に関しては,大蔵省貿易統計によって明らかとな
る。そして,原告及び被告以外の第三者の「3206.50ルミノホア」の輸入量は
わずかであり,その輸入量は,原告及び被告の輸入量の増加にかかわらず,ほぼ一
定であるとみなすことができる。そうすると,上記統計における中国からのルミノ
ホアの全輸入量から,この第三者のほぼ一定数量の輸入量及び原告の輸入量をそれ
ぞれ控除すると,その残量が被告の「3206.50ルミノホア」の輸入量である
と非常に精度が高く推定することができる。
     以上のようにして推定すると,平成7年1月から平成12年9月までの
間における被告の「3206.50ルミノホア」の輸入総数量は,4万3139㎏
となる。
   イ 被告の仕入単価は,1㎏当たり1万5390円であり,販売単価は,1
㎏当たり3万1216円であるから,粗利益率は,50.7パーセントとなる。
   ウ 被告が輸入したものをすべて販売したものとすると,同販売による被告
の粗利益額は,以下のとおりとなる。
    (ア) 平成8年8月から平成10年7月まで
      総輸入量    1万5532㎏
      仕入額     2億3903万7480円
      販売額  4億8484万6912円
      粗利益額   2億4580万9432円
  (イ) 平成10年8月から平成12年9月まで
      総輸入量  1万5380㎏
      仕入額   2億3669万8200円
      販売額   4億8010万2080円
      粗利益額  2億4340万3880円
    (ウ)上記総粗利益額 4億8921万3312円
   エ 原告が輸入した「3206.50ルミノホア」には,本件特許の実A品
であるSrAl2O4:Eu,Dy蓄光性蛍光体(Greenに発光するので,以
下,「G」という。)の他に,Sr4Al14O25:Eu,Dy蓄光性蛍光体(Blu
e Greenに発光するので,以下,「BG」という。)が含まれているとこ
ろ,原告の輸入数量の88パーセントがGであり,12パーセントがBGである。
この比率は,市場の需要に基づくものであると考えられるので,被告のG(すなわ
ち,別紙物件目録記載(1)の原末)とBGの輸入比率もほぼ同等であると推測するこ
とが合理的である。
  オ そこで,被告が別紙物件目録記載(1)の原末の輸入販売により得た粗利益
額を算定すると,以下のとおり,4億3050万7714円となり,当該金額が,
原告が受けた損害額である。
 (ア) 平成8年8月から平成10年7月の期間の被告の粗利益額
   2億4580万9432円×0.88=2億1631万2300円
 (イ) 平成10年8月から平成12年9月までの期間の被告の粗利益額
   2億4340万3880円×0.88=2億1419万5414円
 (ウ) 上記①+②=4億3050万7714円
  (2) 予備的主張(被告提出の書証に基づく損害額の主張)
   ア CP-05原末の販売による逸失利益
被告による平成8年7月25日から平成12年9月25日までの期間に
おけるCP-05の売上金額は,1億9080万6000円であり,その販売数量
は,6104.9㎏である(乙53)。また,上記期間の平均輸入単価は,1㎏当
たり1万7196円であった(乙52の1ないし36)から,6104.9㎏に対
する仕入金額は1億0498万円となる。したがって,売上金額から仕入金額を差
し引いた粗利益額は,8582万6000円となり,その売上金額に対する比率
は,45.0パーセントである。
     以上の粗利益額がそのまま被告が得た利益額であるとも考えられるが,
販売管理費を差し引くとすると,その額は,次のようになる。すなわち,損益計算
書(乙64の2)に基づいて,被告における販売管理費の売上金額に対する割合を
算出すると,17.5パーセントとなるので,上記売上金額に対する販売管理費の
額は,3346万4000円となる。
     以上により,上記売上金額から上記仕入金額及び販売管理費の額を差し
引くと,被告がCP-05の原末販売によった得た利益額は,5236万2000
円となり,これが,CP-05原末の販売による原告の逸失利益額となる。
イ CP-05B原末の販売による原告の逸失利益
     被告による平成8年7月25日から平成12年9月25日までの期間に
おけるCP-05Bの輸入数量は,3500㎏であり(乙52の1ないし36),
被告は,これらをすべて販売したと考えられる。その輸入金額は,カナダ銀行がイ
ンターネット上のウェブサイトに公開しているドル-円為替レートによって換算す
ると,2718万5000円となる。
     上記のとおり輸入されたCP-05Bの売上金額は,上記アの粗利益率
45.0パーセントによって上記輸入金額から逆算すると,4942万7000円
となる。
     上記アのとおり,被告における販売管理費の売上金額に対する割合は1
7.5パーセントであるので,上記売上金額に対する販売管理費の額は,865万
円となる。
     以上により,上記売上金額から上記仕入金額及び販売管理費の額を差し
引くと,被告がCP-05の原末販売によった得た利益額は,1359万2000
円となり,これが,CP-05B原末の販売による原告の逸失利益額となる。
   ウ 第二次製品の販売による原告の逸失利益
 被告が,CP-05及びCP-05Bの第二次製品の販売によって得た
利益額は,上記アの利益額を下回ることはないから,これが,第二次製品の販売に
よる原告の逸失利益額となる。
エ 以上のとおり,これまでに被告から提出された書証等に基づいて逸失利
益の算定を行っても,原告の逸失利益額は1億1831万6000円を下らない。
  【被告の主張】
(1) 被告の売上額等
    平成12年9月25日までの間におけるCP-05,CP-05B,ピカ
リコペレット,ピカリコシート,ピカリコシルクインクの販売数量,売上金額,製
造原価,粗利益額は,別紙被告主張売上一覧表記載のとおりである。
    なお,上記製造原価は,輸入原価の10パーセントに当たる関税,輸入費
用,被告工場までの運送費を含めた金額である。
  (2) 販売管理費
CP-05等に係る販売費用を個別に計算することは困難であるので,全
商品の販売管理費用から,売上げによる案分計算によって求めることとする。そう
すると,その額は,別紙被告主張販売管理費一覧表記載のとおりとなる。
  (3) 製造管理費用等
    被告は,CP-05等を工場に搬入した後,管理,仕分け等を行ってい
る。また,被告は,CP-05及びCP-05Bの粒子を細かくする分級作業を行
っており,その分級作業の費用(そのための運賃を含む)の額は,別紙分級費用一
覧表記載のとおりである。
    分級作業の費用以外の製造管理費用は,全商品の製造管理費用から,売上
げによる案分計算によって求めることとする。そうすると,分級作業の費用以外の
製造管理費用の額は,別紙被告主張製造原価表記載のとおりとなる。
  (4) 利益額
    CP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコシート,ピカリ
コシルクインクの利益額は,以上の売上額から製造原価,販売管理費,分級作業の
費用及び製造管理費用を控除することによって計算することができ,その総額は,
別紙被告主張利益計算表のとおり,4170万1241円となる。
    しかし,CP-05の第二次製品については,一度加工会社に売却し,加
工後のものを購入して再度ユーザーに売却するという方法をとっていることから,
CP-05の売上げに二重に計上されている。また,被告は,平成8年度,平成9
年度は,CP-05等の売上げを拡大するために多くの営業費を投入しており,そ
の概算額は,平成8年度が800万円,平成9年度が700万円である。
(5)以上によると,CP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコ
シート,ピカリコシルクインクの販売により被告が得た利益の額は,概ね2600
万円程度である。
第4 当裁判所の判断
 1 争点(1)について
  (1) 本件発明1,2について
   ア 証拠(甲3,乙20)によると,本件特許明細書には,次の記載がある
ものと認められる。
 【発明が解決しようとする課題】
    市販の硫化物系蛍光体に比べて遥かに長時間の残光特性を有し,更には
化学的にも安定であり,かつ長期にわたり耐光性に優れる蓄光性蛍光体の提供を目
的としたものである。
    【課題を解決するための手段】
    従来から知られている硫化物系蛍光体とは全く異なる新規の蓄光性蛍光
体材料としてユウロピウム等を賦活したアルカリ土類金属のアルミン酸塩に着目
し,種々の実験を行った結果,この蓄光性蛍光体材料が,市販の硫化物系蛍光体に
比べて遥かに長時間の残光特性を有し,更には酸化物系であることから化学的にも
安定であり,かつ耐光性に優れることが確認でき,従来の問題点がことごとく解消
でき,放射能を含有しなくとも1晩中視認可能な夜光塗料あるいは顔料として,様
々な用途に適用可能な長残光の蓄光性蛍光体を提供することが可能となることが明
らかとなったものである。
【発明の効果】
    以上説明したように,本発明は,従来から知られている硫化物系蛍光体
とは全く異なる新規の蓄光性蛍光体材料に関するものであり,市販の硫化物系蛍光
体と比べても遥かに長時間,高輝度の残光特性を有し,更には酸化物系であること
から化学的にも安定であり,かつ耐光性に優れたものである。
  イ 本件特許請求の範囲の記載に上記ア認定の事実を総合すると,本件発明
1,2は,従来から知られている硫化物系蛍光体とは異なる新しい蓄光性蛍光体材
料に関する発明であって,母結晶と賦活剤・共賦活剤のみを構成要件とするもので
あるから,蓄光性蛍光体であって,母結晶と賦活剤・共賦活剤が本件発明1,2の
構成要件に該当し,本件発明1,2の効果が達成されるものであれば,他に含まれ
ているものがあったとしても,本件発明1,2の構成要件を充足するものと認めら
れる。
 (2) CP-05は,本件発明1,2の「母結晶」の構成要件を充足するかどう

  ア 証拠(甲29,30,乙38,39)と弁論の全趣旨によると,次の事
実が認められる。
   (ア) 理想的完全結晶は,結晶材料が完全に理想的な格子である。すなわ
ち,結晶片の端から端まで完全に原子配列の周期性が保たれている結晶をいうが,
現実の結晶は,結晶の規則性に乱れが存在しており,この乱れを格子欠陥という。
   (イ) 結晶中に異種の原子,分子,イオンが溶け込んで固溶体となる場合
に,これらが結晶格子の隙間に入るときは,侵入型固溶体という。これに対して,
結晶格子の格子点の原子などを置換する形で入るときは,置換型固溶体という。い
ずれの場合も,どの位置に溶け込むかについては,規則性がない。
(ウ) 結晶の単位格子の大きさと形は,格子定数によって表わされる。
  イ 証拠(甲5の1,2,甲14,17,18,20,21,26ないし2
8,乙3,乙13の1,2,乙26,27)と弁論の全趣旨によると,CP-05
は,Sr(ストロンチウム),Al,O,Eu(ユウロピウム),Dy(ジスプロ
シウム),B(ホウ素)の各元素から構成されていること,Sr,Al,Oは,S
rAl2O4の結晶とSr4Al14O25の結晶を構成していること,SrAl2O4
の結晶が主成分であり,SrAl2O4の結晶とSr4Al14O25の結晶との重量
比は約9対1であること,以上の事実が認められる。
ウ ところで,被告は,CP-05においては,Alの一部がB(ホウ素)
によって置換されている結果,本件発明1,2における母結晶とCP-05の母結
晶は異なると主張するので,まず,この点について判断する。
   (ア) 乙13号証の1,2(A教授の鑑定報告書)には,CP-05におい
ては,Alの一部がB(ホウ素)によって置換されている旨記載されている。そし
て,同報告書には,その根拠として,CP-05を赤外線吸収スペクトル法で分析
したところ1431㎝
-1
,と1340㎝
-1
にB-Oの三角形結合から生じるものと
考えられる振動が認められたこと及び高温と圧力の条件下,燐酸化合物中のPO4
がCO3と置換する例が報告されていることを挙げている。しかし,同報告書の記
載及び乙36号証の1,2に弁論の全趣旨を総合すると,上記赤外線吸収スペクト
ル法による分析結果は,CP-05のサンプルにB-Oの三角形結合が存すること
以上の意味を有するとは認められない(すなわち,結晶構造中にB-O三角形結合
が存在することまで示すものではない)し,他の元素において一般的に置換する例
が報告されていることは,直ちにCP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって
置換されていることの根拠となるものではない。
乙23号証の1,2(A教授の追加鑑定書)には,Sr,Al,E
u,Dyの配合量を一定にして,H3BO3の添加量を変化させて,化合物を作成
し,X線回析をしたこと,H3BO3の添加量の異なる3つの試料(H3BO3を添
加しないもの,CP-05と同量添加したもの,CP-05よりも多く添加したも
の)についてX線回析をしたところ,H3BO3の添加量が多くなるにしたがって,
(222)ピークの位置が高角度側にシフトし,格子定数が減少したことが記載さ
れているものと認められる。また,乙28号証の1,2(韓国資源研究所員らによ
る論文)には,蛍光体のB2O3成分は,5パーセントの範囲まで固溶体を形成し,
結晶中の均一歪み源としての役割を演じることが示された旨の記載があることが認
められる。しかし,格子定数が減少したことが直ちにAlとBとの置換が生じるこ
とを示しているとは認められないうえ,証拠(甲25)によると,乙23号証の
1,2の実験における格子定数の減少量はきわめて小さく,測定誤差の範囲内とい
ってもよいものであると認められること,乙28号証の1,2も,固溶体が形成さ
れ結晶中の歪みが生じたことが記載されているのみで,AlとBと
の置換についてまでは言及されていないことからすると,これらは,直ちにCP-
05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることの根拠となるもので
はない。
乙35号証(被告の測定報告書)には,CP-05,CP-05の原
料からB(ホウ素)を除いて作ったもの,CP-05の原料からEuを除いて作っ
たもの,CP-05の原料からDyを除いて作ったもの,CP-05の原料からE
uとDyを除いて作ったものについて,残光輝度の測定をしたところ,原料からE
uとDyを除いたものは,全く残光性がなかったこと,原料からB(ホウ素)を除
いたものには,残光性があったが,B(ホウ素)を加えたものに比べて残光性が劣
ること,原料からEu又はDyのみを除いたものには,残光性があったことが記載
されている。しかし,これによっても,B(ホウ素)は,EuとDyのような賦活
剤の機能を有しないこと,B(ホウ素)の存在によって残光性が影響を受けること
がわかるのみで,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されている
ことの直接の根拠となるものではない。
(イ)証拠(乙18,19,26,27)によると,CP-05を水洗いし
ても,その残光輝度,組成,X線回析結果に変化がないことが認められる。しか
し,水洗いによって影響を受けないからといって,直ちにCP-05のAlの一部
がB(ホウ素)によって置換されているとは認められないから,上記実験結果は,
CP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されていることの根拠となる
ものではない。
     その他,被告がCP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換
されていることの根拠として援用する証拠(甲19,乙24の1,2,乙25,2
9ないし34)は,いずれも,このような置換の可能性を示したものにすぎず,C
P-05がAlとBとが置換したものであることを示すものではない。
     他に,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)によって置換されてい
ることを認めるに足りる証拠はない。
   (ウ) 証拠(甲14,27)によると,CP-05のSrAl2O4結晶の
X線回析による格子定数は,文献上のSrAl2O4の格子定数とほぼ一致すること
が認められる。また,証拠(甲15,16,21,28,50,52,乙3,3
7)と弁論の全趣旨によると,Eu,Dyで賦活したSrAl2O4蛍光体の発光ス
ペクトルは520nm付近にピークが現れるが,CP-05の発光スペクトルも5
20nm付近にピークが現れるものと認められる。なお,上記乙37号証(東京都
立工業技術センターの試験結果報告書)には,CP-05の発光スペクトルのピー
クは,5nmごとに測定した数値としては,515nmが最も高い旨の記載がある
が,同報告書によると,次に高いのは520nmであると認められるから,ピーク
は,実際には515nmと520nmの間に現れていると推認され,520nm付
近にピークが存在しているということができる。
   (エ) また,証拠(甲3,20,乙20)と弁論の全趣旨によると,原告
が,CP-05と本件特許明細書記載の実A例の試料2-(1)(フラックスとしてB
(ホウ素)を含む)について,本件特許明細書に記載された測定方法に従って,残
光輝度の試験をしたところ,CP-05と試料2-(1)の数値はほぼ一致したことが
認められる。これに対して,証拠(乙21)によると,被告が,CP-05につい
て,残光輝度の試験をしたところ,その結果は,上記原告の試験とは異なっている
ことが認められるが,原告が本件特許明細書に記載された測定方法に従って行って
いるのに対し,証拠(甲3,乙20,21)によると,被告は,それとは異なる方
法で行っているものと認められるから,上記認定を覆すに足りるものではない。
     証拠(甲21,22,甲23の1,2)によると,原告が,CP-0
5と本件特許明細書記載の実A例の試料2-(1)について,JIS及びDIN(ドイ
ツ工業規格)に従った方法で,残光輝度,発光スペクトル及び励起スペクトルを測
定したところ,CP-05と試料2-(1)の数値はほぼ一致したことが認められる。
被告は,この測定結果について,試料2-(1)の励起スペクトルと本件特許明細書に
記載された励起スペクトル(本件特許明細書図2)が一致しないし,試料2-(1)の
グローカーブ(甲26図1)が本件特許明細書に記載されたグローカーブ(本件特
許明細書図6)と一致しないと主張するが,証拠(甲3,乙20)によると,本件
特許明細書図2の励起スペクトルは,試料2-(1)の励起スペクトルではないと認め
られるから,一致しなくても直ちに不自然ではないし,また,証拠(甲3,26,
乙20)によると,甲26号証の測定は,本件特許明細書とは測定条件が異なって
いると認められるから,グローカーブが一致しなくても直ちに不自然ではない。さ
らに,乙3号証(被告作成に係るCP-05の技術資料)4ページに記載されてい
るCP-05の熱発光スペクトルの図は,上記本件特許明細書に
記載されたグローカーブ(本件特許明細書図6)と一致しないが,証拠(甲3,乙
3,20)によると,乙3号証における実験は,本件特許明細書とは測定条件が異
なっていると認められるから,グローカーブが一致しなくても直ちに不自然ではな
い。
     以上のとおりCP-05と本件特許明細書の実A例記載の試料と光学
特性が変わらないことは,CP-05が本件発明1,2のものと変わらないもので
あることを示しているということができる。
   (オ) 以上述べたところを総合すると,CP-05においては,「Alの一
部がB(ホウ素)によって置換されている結果,本件発明1,2における母結晶と
CP-05の母結晶は異なる」と認めることはできない。
   (カ) 仮に,被告が主張するように,CP-05のAlの一部がB(ホウ
素)に置換されているとしても,弁論の全趣旨によると,その置換は,不規則に生
じているものと認められる。そして,この事実に,CP-05のB(ホウ素)の量
は,前掲乙13,36の各号証の各1,2によると,約0.47-0.97wt
%,乙27号証によると,0.718-0.788wt%,甲27号証によると,
0.75wt%であること,前記(ア)のとおり,前掲乙28号証の1,2によると,
蛍光体のB2O3成分が固溶体を形成するのは,5パーセントの範囲までであるこ
と,前記(ウ)(エ)のとおり,CP-05のSrAl2O4結晶のX線回析による格子定
数は,文献上のSrAl2O4の格子定数とほぼ一致し,発光スペクトルのピークも
Eu,Dyで賦活したSrAl2O4:Eu蛍光体の発光スペクトルのピークと一致
するうえ,CP-05と本件特許明細書の実A例記載の試料と光学特性が変わらな
いこと,証拠(甲27,28)と弁論の全趣旨によると,B(ホウ素)を使用せず
に焼成したSrAl2O4:Eu,Dyであっても,焼成条件次第で,B(ホウ素)
を使用した場合と同様の光学特性を得ることができることが認め
られることを総合すると,CP-05のAlの一部がB(ホウ素)に置換されてい
るからといって,CP-05の「母結晶」がSrAl2O4の結晶ではないというこ
とはできないものというべきである。
エ 次に,被告が主張するB物相について検討する。
    (ア) 前記イで認定したとおり,CP-05には,Sr4Al14O25の結
晶が存在することが認められる。
   (イ) 前掲乙13号証の1,2は,このSr4Al14O25の結晶をB物相
といい,SrAl2O4の結晶からなるA物相とは「共生」している旨記載されてい
る。そして,被告は,「共生」について,「生成過程で随伴過程にあり,2種類の
相が相伴って同じ場所に接して生成されること」を意味すると主張する。しかし,
証拠(甲9)と弁論の全趣旨によると,鉱物については「共生」という用語が用い
られるが,人工的に合成された物質には,一般に用いられていないものと認められ
るから,その意味は,そもそもはっきりしないし,CP-05の写真(乙13の
1,2,乙14,15)によるも,Sr4Al14O25の結晶がSrAl2O4の結
晶と「共生」しているのかどうか明らかではない。
      この点,乙17号証(被告の輝度試験報告書)には,A物相からなる
蛍光体(試薬A),主としてB物相からなる蛍光体(試薬B),A物相とB物相が
「共生」しているもの,A物相からなる蛍光体(試薬A)と主としてB物相からな
る蛍光体(試薬B)を混合したものについて輝度及び残光性の試験を行ったとこ
ろ,A物相とB物相が「共生」しているものとそれ以外では,輝度及び残光性に違
いが生じた旨記載されている。しかし,乙17号証の試験で用いられた試薬Aと試
薬Bが,それぞれCP-05におけるA物相とB物相と同一であるとは認めがたい
から,この試験結果は採用できない。
      前記ウ(エ)のとおり,CP-05と本件特許明細書の実A例記載の試料
の光学特性は変わらないものと認められる。また,証拠(甲15,16)と弁論の
全趣旨によると,Eu,Dyで賦活したSr4Al14O25蛍光体の発光スペクトル
のピークは,490nm付近に現れるものと認められるが,前記ウ(ウ)のとおり,C
P-05の発光スペクトルは520nm付近にピークを持ち,これは,Eu,Dy
で賦活したSrAl2O4蛍光体の特徴であることが認められる。
    (ウ) 以上述べたところからすると,Sr4Al14O25の結晶が存在する
からといって,CP-05の「母結晶」がSrAl2O4の結晶ではないということ
はできないものというべきである。
  (3) 前記(2)で述べたところに前記争いのない事実等を総合すると,CP-0
5は,SrAl2O4を母結晶とするとともに,賦活剤としてユウロピウムが,共賦
活剤としてジスプロシウムがそれぞれ別紙物件目録記載の含有量含有されている蓄
光性蛍光体であると認められ,また,前記(2)ウ(エ)のとおり,CP-05は,本件
特許明細書の実A例記載の試料と同様の光学特性を有するものと認められる。前
記(1)イのとおり,蓄光性蛍光体であって,母結晶と賦活剤・共賦活剤が本件発明
1,2の構成要件に該当し,本件発明1,2の効果が達成されるものであれば,他
に含まれているものがあったとしても,本件発明1,2の構成要件を充足するもの
と認められるから,CP-05は,本件発明1,2の各構成要件を充足する。
 2 争点(2)について
  (1) CP-05Bについて
  ア 証拠(甲49,50,52,乙79)と弁論の全趣旨によると,CP-
05Bは,Sr,Al,O,Eu,Dy,B(ホウ素)の各元素から構成されてい
ること,Sr,Al,Oは,SrAl2O4の結晶とSr4Al14O25の結晶を構
成していること,SrAl2O4の結晶が主成分で,SrAl2O4の結晶とSr4A
l14O25の結晶の割合は,重量比で約9対1であること,以上の事実が認められ
る。
  イ 証拠(甲49)によると,新潟大学B教授(以下「B教授」という。)
が,CP-05Bについて,ICP発光分析法による定量分析を行ったところ,C
P-05B中には,EuがCP-05B1g当たり0.013290g,Srに対
して1.85モル%,DyがCP-05B1g当たり0.009843g,Srに
対して1.28モル%存したことが認められる。
     これに対し,証拠(乙79)によると,財団法人化学物質評価研究機構
が,CP-05Bについて,ICP発光分析法による定量分析を行ったところ,C
P-05B1g中にEuが0.00011g,Dyが0.012g存したことが認
められる。
     被告は,ICP発光分析法によるCP-05BのEu含有量について,
B教授による測定結果は,1桁間違っている(0.001329g/gである。)
旨主張する。しかしながら,証拠(甲49)と弁論の全趣旨によると,B教授が測
定したCP-05Bは,市場から入手した未開封のものを使用したこと,B教授に
よる上記測定値は,コンピュータが出力した生のデータに基づくものであること,
B教授が行ったEPMA定性分析の図1及び図2によると,EuとDyのピークは
ほぼ同じ高さであること,以上の事実が認められ,これらの事実からすると,B教
授による上記測定値は信用できるものである。
     また,被告は,B教授による上記測定値が正しいとすると,サンプルの
採取時にその選択を誤ったか,品質管理上の問題があって,何らかの原因で原料の
選択を誤ったかのいずれかである旨主張するが,これらの事実を認めるに足りる証
拠はない。
     したがって,B教授による上記測定値を採用することとする。財団法人
化学物質評価研究機構による上記測定値は,上記のとおり信用できるB教授による
測定値と異なること,同機構による測定値は,被告主張の数値(B教授による測定
値の一桁下の数値)よりも更に一桁低いこと,証拠(乙79)によると,同機構に
よる測定対象となったCP-05Bの蛍光スペクトルの強度は弱いとされているか
ら,そのようなものが実際の製品として販売されていたとは考え難いことに照らす
と,採用できない。
   ウ 証拠(甲50,52)と弁論の全趣旨によると,原告は,CP-05B
について,発光スペクトル及び励起スペクトルを測定したところ,CP-05Bの
発光スペクトルのピークは521nmであったこと,CP-05Bの発光スペクト
ルの波形は,CP-05の発光スペクトルの波形とほぼ一致すること,CP-05
Bの励起スペクトルの波形は,CP-05の励起スペクトルの波形と共通点がみら
れること,CP-05BとCP-05の残光輝度曲線の傾きが一致していること,
以上の事実が認められる。また,証拠(乙79)によると,財団法人化学物質評価
研究機構がCP-05Bについて発光スペクトルを測定したところ,CP-05B
の最大波長は517nmであったことが認められる。
     前記1(2)ウ(ウ)認定のとおり,CP-05の発光スペクトルは,520
nm付近にピークが現れるものと認められるところ,上記CP-05Bの発光スペ
クトルのピークの測定値は,CP-05とほぼ一致するものということができる。
     以上の認定に反する被告の主張は採用できない。
エ 以上述べたところに弁論の全趣旨を総合すると,CP-05Bは,CP
-05とほぼ同じ構成を有する蓄光性蛍光体であって,本件発明の構成要件を充足
するものと認められる。
  オ なお,被告は,CP-05Bにおいては,B(ホウ素)がAlに置換さ
れているから,本件発明1,2とは母結晶が異なると主張するが,上記1で述べた
とおり,CP-05はB(ホウ素)がAlの一部を置換しているとはいえず,仮
に,置換しているとしても,母結晶は変わらないものと認められるところ,上記認
定のとおり,CP-05BはCP-05とほぼ同じ構成を有するものと認められ,
特に母結晶構造が異なるというべき事情も認められないから,CP-05Bの母結
晶に係る被告の上記主張は理由がない。
   カ また,被告は,損害論の審理に入った段階でCP-05Bを請求の対象
に加えることは認められるべきではないとも主張するが,CP-05とCP-05
Bの同一性については,損害額の審理と並行して審理を行い,損害額の審理が終わ
るまでに審理を終えることができたのであるから,訴訟の完結を遅延させるものと
いうことはできない。
  (2) 被告が販売している蓄光性蛍光体原末を含有する第二次製品について
    証拠(甲33,58)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP-05原末
を加工した第二次製品である「ピカリコシート」という商品名のシートを販売して
いること,被告は,この製品を製造するために第三者にCP-05を販売し,第三
者がそのCP-05を原料としてこの製品を製造し,被告は,第三者が製造したこ
の製品を買い受けて販売していること,被告は,CP-05原末を加工した第二次
製品である「ピカリコシルクインク」という商品名のインクを販売していること,
被告は,この製品を製造するために第三者にCP-05を無償で供与し,第三者が
そのCP-05を原料としてこの製品を製造し,被告は,第三者が製造したこの製
品の一部について無償供与を受けて販売していること,以上の事実が認められる。
    証拠(甲33,乙80の1,2)と弁論の全趣旨によると,被告は,CP
-05原末を加工した第二次製品である「ピカリコペレット」という商品名の成形
用樹脂材料を販売していたことがあること,被告は,現在はこの商品を販売してい
ないが,その理由は,被告が,この製品を製造するためにCP-05を販売した第
三者が倒産したためであること,以上の事実が認められる。
(3) 原告の被告に対する差止請求について
   ア 証拠(乙52の1ないし36,乙61の1ないし28)と弁論の全趣旨
によると,被告は,CP-05とCP-05Bの原末をすべて中国から輸入して販
売していて,自ら製造していないものと認められ,将来自ら製造するおそれがある
というべき事情も認められないから,上記両製品については,輸入及び販売の差止
請求は理由があるが,製造の差止請求は理由がない。
   イ 上記(2)認定のとおり,被告は,「ピカリコシート」及び「ピカリコシル
クインク」を販売しており,その製造等の形態からすると,原告は,将来これらの
製品を製造するおそれがあるものと認められる。しかし,被告が,これらの製品を
輸入しているとは認められず,将来輸入するおそれがあるというべき事情も認めら
れない。したがって,上記両製品については,製造及び販売の差止請求は理由があ
るが,輸入の差止請求は,理由がない。
   ウ 上記(2)認定のとおり,被告は,「ピカリコペレット」を販売したことが
あり,現在は「ピカリコペレット」を販売していないが,その理由は,被告がこの
製品を製造するためにCP-05を販売した第三者が倒産したためであると認めら
れるから,被告は,将来この製品を製造販売するおそれがあるものと認められる。
しかし,被告が,この製品を輸入しているとは認められず,将来輸入するおそれが
あるというべき事情も認められない。したがって,上記製品については,製造及び
販売の差止請求は理由があるが,輸入の差止請求は,理由がない。
   エ 以上によると,原告の被告に対する差止請求及び廃棄請求は,主文記載
の限度で理由がある。
 3 争点(3)について 
  (1) 原告の主位的主張について
    原告は,大蔵省貿易統計に掲載された税表番号「3206.50のルミノ
ホア」の全輸入量から,第三者のほぼ一定数量の輸入量及び原告の輸入量をそれぞ
れ控除すると,その残量が被告の「3206.50ルミノホア」の輸入量であると
非常に精度が高く推定することができ,このようにして推定すると,平成7年1月
から平成12年9月までの間における被告の「3206.50ルミノホア」の輸入
総数量は,4万3139㎏となると主張する(前記第3・3争点(3)に関する【原告
の主張】(1)主位的主張ア)ので,まず,この点について判断する。
    証拠(乙52の1ないし36,乙54,55,乙56の1ないし7,乙5
7の1ないし4,乙58の1ないし3,乙59,乙61の1ないし28,乙69の
1,2)と弁論の全趣旨によると,被告は,平成8年1月1日から平成12年9月
25日までの間における税表番号「3206.50のルミノホア」に係るコマーシ
ャルインボイス,パッキングリストをそれぞれ証拠として提出していること,上記
インボイス及びパッキングリストは,いずれも「SEA EAGLE ELECT
RO-MECHANICAL TECH ACADEMY」の一部門(同社国際貿
易部の蓄光性蛍光体部)から発行されたものであるところ,これらは,いずれも各
発行年度ごとに通し番号が付されていること,大蔵省貿易統計に掲載された税表番
号「3206.50のルミノホア」については,日本国内の複数の会社が中国から
輸入していること,以上の事実が認められ,上記統計に掲載された税表番号「32
06.50のルミノホア」について,原告被告以外の第三者の輸入量については,
これを認めるに足りる証拠がない。
    このように,第三者の輸入量について,これを認めるに足りる証拠がない
以上,上記統計から,直ちに被告の「3206.50ルミノホア」の輸入総数量を
推定することはできないものというべきである。これに対し,被告提出の上記コマ
ーシャルインボイス及びパッキングリストは,その内容,体裁等について,不自然
な点は認められない。なお,原告は,貿易実務等を根拠として,各年ともに,最後
の1ないし2回分の輸入に関するインボイスが提出されていないと主張している
が,この事実を具体的に裏付ける証拠はないから,原告の上記主張は採用できな
い。
(2) CP-05及びCP-05Bの輸入数量について
    証拠(乙52の1ないし36,乙61の1ないし28)と弁論の全趣旨に
よると,被告提出の上記コマーシャルインボイス及びパッキングリストは,それか
ら商品名が明らかになるものと「LuminescentMaterials」としか記載されていない
ため,商品名が明らかにならないものがあることが認められるところ,証拠(乙8
3の1ないし12)によると,「LuminescentMaterials」としか記載されていない
ものには,CP-05及びCP-05Bは含まれていないものと認められる。
    そして,証拠(乙52の1ないし36,乙61の1ないし28)と弁論の
全趣旨によると,上記コマーシャルインボイス及びパッキングリストからすると,
被告の平成8年1月1日から平成12年9月25日までの間におけるCP-05の
輸入量は8220㎏,CP-05Bの輸入量は3500㎏であると認められる。
(3) 被告提出の売上金額等に関する証拠について
    証拠(乙53,乙80ないし82の各1,2,乙84)と弁論の全趣旨に
よると,被告は,CP-05,CP-05B,ピカリコペレット,ピカリコシー
ト,ピカリコシルクインクに係る平成9年4月1日以降の商品別・売上明細表を提
出していること,上記商品別・売上明細表は,被告によりコンピュータ管理されて
いるデータを出力したものであるところ,当該明細表には,被告販売に係る上記各
製品の販売年月日,販売数量,売上金額,製造原価,粗利益等が時系列に従って記
載されていること(ただし,被告において,得意先名の記載が消去されてい
る。),平成9年3月31日以前については,被告には,上記のようなコンピュー
タ管理されているデータはないため,被告は,手作業で集計した上記各製品の販売
年月日,販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額等について主張していること,
以上の事実が認められる。
原告は,上記商品別・売上明細表は,その体裁や内容等からして,全売上
高の一部を選択して作成されたものであると主張し,この根拠として,①被告は,
6㎏,20㎏包装の商品群を販売していると認められるところ,商品別・売上明細
表には,これらの商品群の記載がない,②返品とそれに対応して存在すべき売上げ
の記録が対応しないなどと主張する。確かに,甲42号証は,平成8年5月時点で
被告が作成したCP-05に係る納入仕様書であるところ,同仕様書中には「梱包
容器:6㎏は,1㎏のプラスチック容器6個入りダンボール,20㎏は,5㎏アル
ミ袋4個入りプラスチック缶」との記載があるが,証拠(乙72)と弁論の全趣旨
によると,被告は,CP-05を,通常は5㎏又は1㎏の袋で販売しており,6
㎏,20㎏の包装は,特殊な注文を除いて存在しないものと認められるから,上記
商品別・売上明細表に6㎏,20㎏の商品群が存在しないからといって,直ちに上
記商品別・売上明細表が信用できないということにはならない。また,証拠(乙7
3,77,79)と弁論の全趣旨によると,上記商品別・売上明細表に記載されて
いる返品に対応する売上げが存在しないとはいえないことが認められる。そして,
その他に,上記商品別・売上明細表について,特段不自然不合理な点は認められな
い。
    証拠(乙53,84)と弁論の全趣旨によると,上記商品別・売上明細表
と上記手作業による集計結果として被告が主張する販売数量の合計は,CP-05
については,6104.9㎏,CP-05Bについては,3066㎏であると認め
られるから,被告が平成8年7月24日時点でのCP-05の在庫数量が314
5.3㎏であったと主張していることをも考慮すると,この販売数量は,前記(2)認
定の輸入数量と比較して,不自然ではない。
  (4) 被告の売上金額等について
   ア そこで,上記商品別・売上明細表(乙53,乙80ないし82の各1,
2,乙84)と上記手作業による集計結果として被告が主張する売上金額等に基づ
いて,被告の売上金額等を認定することとする。
     証拠(乙53,乙80ないし82の各1,2,乙84)と弁論の全趣旨
によると,以下の事実が認められる。
    (ア) CP-05の売上金額等について
  平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における被告
によるCP-05の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧
表(1)のとおりである。
    (イ) CP-05Bの売上金額等について
      平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間におけるCP
-05Bの販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧表(2)記載の
とおりである。
  (ウ) ピカリコペレットの売上金額等について
      平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における「ピ
カリコペレット」の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧
表(3)のとおりである。
    (エ) ピカリコシートの売上金額等について
      平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における「ピ
カリコシート」の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一覧表(4)
のとおりである。
    (オ) ピカリコシルクインクの売上金額等について
      平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における「ピ
カリコシルクインク」の販売数量,売上金額,製造原価,粗利益額は,別紙売上一
覧表(5)のとおりである。
    (カ) 平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における上記
(ア)ないし(オ)に係る売上総額,製造原価,粗利益額は,別紙売上集計表記載のとお
りである。
   イ 弁論の全趣旨によると,被告がCP-05及びCP-05Bを輸入し,
販売するためには,関税,輸入費用,被告工場までの運送費が必要となるところ,
上記ア認定の製造原価は,輸入代金額にこれらの費用として輸入代金額の10パー
セントを加えたものであることが認められるが,この加算は合理的なものというこ
とができる。
   ウ また,乙81号証の2(商品別・売上明細表)には,「ピカリコテー
プ」及び「蓄光テープ」の記載が存在するところ,甲58号証(ピカリコ商品案
内)中の「■ ピカリコシート・テープ」の項に,「軟質プラスチックに,発光材
料『ピカリコ』を練り込んでシート状にし,裏面に接着剤を塗布加工した光るシー
トです。50㎜幅に切断しテープ状にしたのがピカリコテープです。」という趣旨
の記載が存すること,証拠(乙73,乙81の1)と弁論の全趣旨によると,商品
別・売上明細表は,商品コードを入力することにより特定の商品を検索表示するこ
とができるものであるところ,被告は,「ピカリコシート」と「ピカリコテープ」
ないし「蓄光テープ」を,同じ商品であるとして検索しているものと認められるこ
とからすると,「ピカリコシート」と「ピカリコテープ」及び「蓄光テープ」は同
一物であると認めることができる。したがって,上記ア認定の「ピカリコシート」
には,「ピカリコテープ」及び「蓄光テープ」が含まれている。
  (5) その他の費用について
   ア 分級費用
     証拠(乙85の1ないし14,乙85の17ないし22)と弁論の全趣
旨によると,被告は,CP-05及びCP-05Bの販売に当たって,顧客から分
級(粒子を細かくすること)を求められることから,岐阜県土岐市所在の会社に対
し,CP-05粉体の分級作業を依頼していたこと,その分級費用及びそのための
運送費は,別紙分級費用一覧表のとおりであること(合計198万2694円),
以上の事実が認められる。被告支出に係る当該費用は,CP-05及びCP-05
Bを販売するに際して必要な作業により生じたものであると認められるから,CP
-05及びCP-05Bの粗利益額から控除するのが相当である。CP-05とC
P-05Bの控除額の割り振りは,上記(4)認定のそれぞれの総売上金額の比(1億
9080万4810円対6883万6548円)によって行うこととし,CP-0
5について145万7039円,CP-05Bについて52万5655円を控除す
ることとする。
   イ 販売管理費及び製造管理費用
 証拠(乙64ないし68の各1,2)と弁論の全趣旨によると,被告の
平成8年1月1日から平成12年12月31日までの間における総売上高は,10
0億0323万7126円であること,上記期間における販売管理費の総額は,1
7億4814万0233円であること,上記期間における製造管理費用の総額は,
7億2734万1015円であること,以上の事実が認められるから,被告におけ
る売上高に対する販売管理費の割合は約17.5パーセント,売上高に対する製造
管理費用の割合は約7.3パーセントであると認められる。
     ところで,証拠(乙64ないし68の各1,2)と弁論の全趣旨による
と,被告の平成8年7月25日から平成12年9月25日までの間における総売上
高は,81億8718万8345円であることが認められるから,CP-05,C
P-05B,ピカリコペレット,ピカリコシート,ピカリコシルクインクの売上総
額2億8108万6408円は,上記総売上高の3.4パーセントに当たるものと
認められる。そうすると,被告が,他の売上げのほかに,これらの商品の売上げを
あげるために,更に上記割合による販売管理費及び製造管理費用を要したとまでは
認められないが,一定の販売管理費及び製造管理費用については,これを要したも
のと認め,売上高に対する10パーセントの限度で,控除することとする。
   ウ その他 
     被告は,CP-05の第二次製品については,一度加工会社に売却し,
加工後のものを購入して再度ユーザーに売却するという方法をとっていることか
ら,第二次製品については,CP-05の売上げに二重に計上されていると主張す
るが,二重に計上されている事実及びその額を認めるに足りる証拠はない。また,
被告は,平成8年度,平成9年度は,CP-05等の売上げを拡大するために多く
の営業費を投入しており,その概算額は,平成8年度が800万円,平成9年度が
700万円であると主張するが,この営業費の支出を認めるに足りる証拠もない。
したがって,これらの被告の主張は採用することができない。
  (6) 以上によると,上記(4)の粗利益額から上記(5)アの分級費用並びにイの販
売管理費及び製造管理費用を控除した金額が,被告が得た利益の額であると認めら
れ,その額は,次のようになる。これをもって,原告の逸失利益の額であると認め
る。
   ア CP-05          5118万7239円
   イ CP-05B         3125万2462円
   ウ ピカリコペレット         64万7235円
   エ ピカリコシート         133万2025円
   オ ピカリコシルクインク       74万4102円
   合計               8516万3063円
  (7) 遅延損害金の算定
    証拠(乙53,乙80ないし82の各1,2,乙84)と弁論の全趣旨に
よると,別紙売上集計表記載のとおり,被告が得た粗利益の額のうち,①平成8年
7月25日から平成10年7月24日までの間における粗利益の合計額は,773
8万7142円であり,②平成10年7月25日から平成12年9月25日までの
間における粗利益の合計額は,3786万7256円であると認められる。そし
て,上記(6)の被告が得た利益額を上記粗利益の額によって按分すると,5718万
2426円については,平成10年10月16日から,2798万0637円につ
いては,平成12年9月30日から,それぞれ年5分の割合による遅延損害金が認
められることとなる。
 4 結論
   以上の次第で,原告の請求は主文掲記の範囲で理由があるから,主文のとお
り判決する。
  東京地方裁判所民事第47部
         裁判長裁判官    森 義之
            裁判官内藤裕之
            裁判官上田洋幸
(別紙)
物件目録
(1) 主成分がSrAl2O4結晶であり,ユウロピウムをSrに対するモル%で
0.1%以上2.0%以下含有し,ジスプロシウムをSrに対するモル%で0.1
%以上2.0%以下含有する蓄光性蛍光体原末(商品名 ケミテックピカリコCP
-05,ケミテックピカリコCP-05B)
(2) 品名を「ピカリコペレット」とする上記(1)記載の原末を含有する成形用樹脂
材料
(3) 品名を「ピカリコシート」とする上記(1)記載の原末を含有するシート
(4) 品名を「ピカリコシルクインク」とする上記(1)記載の原末を含有するインク
被告主張売上一覧表
被告主張販売管理費一覧表被告主張製造原価表被告主張利益計算表
売上一覧表売上集計表
分級費用一覧表

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