弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人松井誠提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、こ
れをここに引用し、これに対し次のとおり判断する。
 控訴趣意第一、法令の適用の誤りの主張について、
 所論は、(一)被告人が頒布したという「A」は公職選挙法第一四八条第三項の
要件を具備した新聞紙であり、しかも、その頒布は同条第二項に該当する新聞紙等
の販売を業とする者の通常の方法によつたものであるから合法であり、被告人の所
為は罪とならない。(二)仮りに然らずとしても、本件は労働組合として許された
正当な業務行為であるから、労働組合法第一条第二項により罪とならないと主張す
る。
 よつて所論に基き原判決並に本件記録を精査して按ずるに、
 一、 本件「A」はBの発行する同労働組合の機関紙であり、公職選挙法第一四
八条第三項の要件を具備する新聞紙であることはこれを認め得るところ<要旨>であ
る。然しながら、公職選挙法第一四八条第三項の要件を具備する新聞紙といえど
も、新聞紙等の販売を業とする者が、通常の販売方法以外の方法でこれを多
数人に頒布するときは、同条第二項の適用がなく、同法第一四二条に違反するもの
と解するところ、原判決挙示の証拠、就中、被告人の検察官に対する各供述調書、
被告人の原審公廷の供述、押収にかかる「A」号外(昭和四一年押第七八一号の
一、九ないし二二)の外、原審証人Cの証言によると、組合機関紙「A」は組合費
を納入するB組合員に対しては無料でこれを頒布し、同組合員以外には一部金二円
で頒布するものであり、いずれにしても各単位組合宛郵送するのが原則であるとこ
ろ、本件被告人が頒布した相手方は、いずれも非組合員であり、且つ、契約購読者
でもないのみならず、被告人は原判示の如き記事内容を有する「A」を、郵送の方
法によらず、各町村役場にオルグ活動に赴いた際、候補者D、同Eの当選を得る目
的で携帯し、無料でこれを配布したことが認められる。されば、たとえ、被告人が
右新聞紙の販売業者であるBのため、これを配布したとしてもそれは公職選挙法第
一四八条第二項所定の通常の方法による頒布ということはできないから、原判決が
被告人の本件頒布行為に対し同法第一四二条第一項違反を以て問擬したのは正当で
あり、論旨は理由がない。
 二、 公職選挙法は民主政治の健全な発達のため、公正な選挙の施行を所期する
ものであるから、同法所定の選挙運動の制限に関する規定に違反する行為は、たと
え労働組合の目的達成のためにするものであつても、労働組合法第一条第二項にい
う正当な行為と言うことはできない。従つて、本件頒布がBの目的を達成するため
にしたものであつたとしても、刑法第三五条を適用すべき限りでないから、原判決
は正当であり、論旨は理由がない。
 控訴趣意第二、量刑不当の主張について、
 所論は、原判示第二の事実につき、被告人は通常の名刺が無くなつたので已むを
得ず本件名刺を使用したものであり、これらの点を考慮すると、原判決の量刑は重
きに過ぎると主張するものである。 よつて按ずるに、本件記録によつては右主張
の如き事情はこれを確認し難いのみならず、証拠に現われた本件犯行の動機、態
様、その他、被告人の身分、経歴等諸般の情状を綜合考量すると、所論の総べてを
参酌するも、原審が被告人を罰金二万円に処し、選挙権及び被選挙権の停止期間を
二年に短縮したのは相当であり、いささかも重きに過ぎる不当の刑であるとは認め
ることができない。論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、主文のとおり
判決する。
 (裁判長判事 石井文治 判事 目黒太郎 判事 渡辺達夫)

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