弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を横浜地方裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人山下卯吉の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書記載のとおりであるか
ら、これについて判断する。
 第一点
 原審訴訟手続の過程をみるに、起訴の犯罪事実は、被告人はA外数名と共謀の上
昭和二四年八月二九日(初め起訴状記載には八月二八日とあるを昭和二十五年一二
月二六日原審公判期日において弁護人も同意の下に訴因変更)午前三時頃横浜市a
区b町cに繋留中のB株式会社所有のC内において同会社責任者D保管の被服類三
梱包を窃取したものであるというのに、原判決認定の事実は、被告人は同日午前六
時頃同市同区d町e丁目f番地A方においてメリヤスシヤツ約四〇枚を同人が他か
ら窃取して来たものなる情を知りながら代金一万二千円で買受け以て賍物を故買し
たものなりというにある。而して右双方の基本的事実の同否につき按ずるに、ま
ず、原審公判における審理の経過によれば被告人に対する右窃盗犯としての起訴の
趣意は、被告人は窃盗の実行行為には加わらなかつたが窃盗の共謀はしているとみ
て実行行為をした他の共犯者と共に共同正犯として起訴されたものであり、次に、
原判示の賍物故買としての認定を同判決引用の証拠に照合するに、被告人は右窃盗
の共同正犯としての責を負うべき程度の行為はないが起訴の日時場所における同物
品に対する窃盗行為は予め諒知しており、ただその窃盗共犯者が多数に上つたため
窃取による人別利得の少くなるべきをおもい窃取行為そのものには参加せず同物件
による利得の方法を転化し、該物件窃取の後間もなくその犯人の一名たるA方にお
いて同賍物の一部たるシヤツ類約四〇枚を窃取にかかる賍物たる惰を知りながら買
い求めたというのであるから、結局昭和二四年八月二九日頃前記cに在るCを関係
場所として右シヤツが不法に領得されたことに被告人が関与したことは起訴及び原
判示の両事実に一貫する点であり、従つて両事実は密接な関係を有し、いわゆる基
本的事実において同一性を保持してかわるとこ<要旨>ろがない。然し、苟くも判決
の認定事実が公訴の事実と幾分でも犯罪の体型を異にする結果被告人に実質的な 要旨>不利益を生ずる虞があるときは、たとい両事実がその基本的同一性を保有する
場合でも猶事実審としては須らく検察官の請求を待つか又は進んで検察官に命ずる
ことにより訴因変更の手続を為し以て被告人にこれに対する防禦の機会を与えてそ
の利益保持に留意するを相当とするものなるところ、原審公判手続においては此の
措置に出でず、前記の如き窃盗の起訴事実につき前叙の犯行の日を変更した外は特
に訴因変更の手続を践むことなくして原判決が窃盗罪より法定刑の重い賍物故買の
事実を認定処断したことは刑事訴訟法第三一二条の趣旨に違反して被告人の防禦権
の行使を不当に制限した違法があり、この違法は判決に影響を及ぼす筋合であるこ
と明かであり、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
 そこでその余の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第三七九条に
より原判決を破棄し同法第四〇〇条本文により本件を原審たる横浜地方裁判所に差
戻すことにして、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 佐伯顕二 判事 武田軍治 判事 真野英一)

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