弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人各務勇の上告理由第一点および第二点について。
 論旨は、原審がD農業委員会による本件各農地の買収計画および売渡計画の取消
を有効と認めたことが行政処分取消の法理に違背し、農業委員会等に関する法律四
九条の適用を誤つたものである、という。
 原判決の確定した事実によれば、本件各農地については、D農業委員会(但し、
当時はD農地委員会)が、昭和二三年三月これを不在地主たる訴外Eの所有する小
作地であると認定して自作農創設特別措置法の規定に基づき買収計画、売渡計画を
樹立し、都知事が、同月二五日付令書によつてこれを買収し、次いで、上告人らに
売り渡した、ところが、その後、訴外Fより買収計画に対する異議の申出があり、
同委員会は、調査の結果、本件各農地は、耕地整理施行中に、被上告人組合より右
訴外Eの亡父Gに譲渡され、さらに、同Eよりその小作人であつた右訴外Fに売却
され、同訴外人において在村地主の自作地としてこれを耕作するようになり、昭和
二一年八月一〇日付で右訴外人らより被上告人組合に対して売買に基づく登記名義
の変更願が提出されており、前記譲渡についても都知事の許可のあつた事実が判明
するにいたつたので、前記訴外Fの申出のとおり、本件農地は在村地主たる右Fの
所有する自作地であると認めて、さきの買収計画および売渡計画を取り消す旨の決
議をなし、農業委員会等に関する法律(昭和二九年法律第一八五号による改正前の
もの)四九条に基づく都知事のその旨の確認を得たうえで、昭和二八年五月一四日
頃上告人らに対し書面で右各取消の通知をした、というのである。従つて、本件農
地の買収計画樹立当時における所有権者は、前記訴外Fであつて、Eではなく、右
買収計画は、所有者を誤認してなされた違法処分であり、これに基づいてなされた
買収処分も違法であり、これを前提とする右売渡計画もまた違法処分であるという
べきである。
 ところで、自作農創設特別措置法の規定に基づく農地の買収計画、売渡計画のご
とき行政処分は、それが一定の争訟手続に従い、なかんずく当事者を手続に関与せ
しめて紛争の終局的解決が図られ確定するに至つた場合は、当事者がこれを争うこ
とができなくなることはもとより、行政庁も、特別の規定のない限り、それを取り
消しまたは変更し得ない拘束を受けるに至るものであることは、当裁判所の判例と
するところであるが(昭和二五年(オ)第三五四号、同二九年一月二一日第一小法
廷判決、民集八巻一号一〇二頁、昭和二六年(オ)第九〇五号、同二九年五月一四
日第二小法廷判決、民集八巻五号九三七頁、昭和四〇年(行ツ)第一〇三号、同四
二年九月二六日第三小法廷判決、民集二一巻七号一八八七頁参照)、原審の適法に
確定したところによれば、本件においてはそのような争訟手続による終局的解決が
なされておらず、D農業委員会のした前記取消処分は、自作農創設特別措置法の規
定による争訟手続としての異議申立期間を経過した後における訴外Fよりの買収計
画に対する事実上の異議の申出を契機として、同委員会のした調査に基づきなされ
たものであり、従つて、前記取消処分の客体となつた本件買収計画および売渡計画
は、前記のような特別の規定のない限り行政庁が自らそれを取り消しまたは変更し
得ない拘束を受けるに至つた場合に該当する行政処分でないことが明らかである。
 しかして、このような場合においては、買収計画、売渡計画のごとき行政処分が
違法または不当であれば、それが、たとえ、当然無効と認められず、また、すでに
法定の不服申立期間の徒過により争訟手続によつてその効力を争い得なくなつたも
のであつても、処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、自
らその違法または不当を認めて、処分の取消によつて生ずる不利益と、取消をしな
いことによつてかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不
利益とを比較考量し、しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著
しく不当であると認められるときに限り、これを取り消すことができると解するの
が相当である(昭和二八年(オ)第三七五号、同三一年三月二日第二小法廷判決、
民集一〇巻三号一四七頁参照)。しかも、自作農創設特別措置法の規定に基づく農
地買収は、個人の所有権に対する重大な制約であるところ、かかる重大な制約は、
その目的が自作農を創設して農業生産力の発展と農業経営の民主化を図ることにあ
るという理由によつて是認され得る強制措置であるから、かかる処分が、本件にお
けるごとく、法定の要件に違反して行なわれ、買収すべからざる者より農地を買収
したような場合には、他に特段の事情の認められない以上、その処分を取り消して
該農地を旧所有者に復帰させることが、公共の福祉の要請に沿う所以である。のみ
ならず、原判決の適法に確定したところによれば、本件各農地の売渡を受けた上告
人らは、本件各農地の従前地について政府売渡を原因とする所有権取得登記を経由
しているとはいえ、該農地の引渡を受けていなかつたというのであるから、前記諸
般の事情を勘案すれば、違法を買収処分によつて本件各農地の旧所有者たる前記訴
外Fや同人からこれを買い受けた被上告人Bの蒙つた不利益は、違法を売渡処分に
基づき本件各農地の所有者となつた上告人らが右処分の取消によつて蒙る不利益に
比し著しく大であるというべきである。
 それ故、これらの処分を取り消して本件各農地を旧所有者またはその買受人に復
帰させることが、公共の福祉の要請に反するものと認めるべき特段の事情の存しな
い本件にあつては、D農業委員会が都知事の確認を得て本件各農地の買収計画およ
び売渡計画を取り消したことは、是認することができ、原判決には所論の違法は認
められない。また、論旨引用の判例は、事案を異にし、本件には適切でない。
 されば、論旨は、排斥を免れない。
 同第三点について。
 農地買受資格の有無は当該農地売渡の時期を基準として決定されるものであり、
その後買収農地を買い受けた者が耕作に従事したか否かは、右買受資格の有無とは
直接関係のない事柄である。それ故、原判決がD農業委員会のした本件買収計画お
よび売渡計画の取消を有効であると判断するにあたり、所論のいわゆる特殊事情に
つき審理をしなかつたからといつて、所論の違法は認められない。論旨は、結局、
判決に影響のない主張たるに帰し、採るを得ない。
 同第四点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、挙示の証拠に照らして是認することができ、
また、原判決が所論の点につき審理判断していることは判文上明らかである。それ
故、原判決には所論の違法はなく、論旨は採るを得ない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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