弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 広島高等検察庁検事長岡本梅次郎の上告趣意第一点について論旨は判例違反を主
張する。しかし論旨引用の昭和元年一二月二五日大審院判決は、犯人の捕獲した真
珠貝が、養殖業者において天然の採苗地から稚貝を採捕しこれを放養場に投入放養
した養殖真珠貝であつて、海中に自然に発生したものではないと認定された事案に
関するものであり、昭和一一年一二月二日大審院判決もまた、同判決が詳細に説示
している事実関係の下において、犯人の捕獲した狐が、管理者において他から移殖
放牧して繁殖した養狐であつて、天然に生育した無主の野狐ではないと認定された
事案に関するものてある。しかるに、本件においては、原判決は、原判示組合が本
件漁場内に米粒大の浅蜊貝稚貝を砂と共に移殖したけれども、その移殖箇所には標
識や垣は設けず、またその移殖稚貝の個々の識別はもとよりその数量さえも特定す
ることができず、加うるにもともと同所には天然に繁殖した浅蜊貝も生存し、これ
と移殖貝との交配によつてさらに繁殖したものもあり、従つて本件漁場内に存在す
る浅蜊貝については、これらの三者の識別は不可能に近い趣旨を認定判示している
のであるから、被告人が捕獲した本件浅蜊貝についても、その個々が前記移殖貝で
あるとの認定は到底不可能であるといわねばならない。さすれば、論旨引用の右各
判例は、本件とは事案を異にし本件には適切を欠き、論旨はその前提において失当
であつて、採用することができない。
 同第二点について。
 論旨は、証拠の取捨撰択の非難等を前提とする事実誤認の主張と単なる法令違反
の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 よつて刑訴四一四条、三八六条一項三号により主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官垂水克己の補足意見及び同石板修一の反対意見を除くほか、
その余の裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。
 原判決によれば、B漁業会は浅蜊貝等を養殖する目的で判示製鋼所C工場沖合捨
石以東海面約五九万坪を漁場として区劃漁業の免許を受けたというが、本件区劃漁
業区域というのは旧漁業法四条、同施行規則二条、一三条三号所定の第三種区劃養
殖業の区域を指すものであることは原判決の確定した事実関係から窺うことができ
る。しかし本件漁場がかような養殖漁業区域であるというだけでは右漁業会が判示
のように右区域内海面にバラ撒き差し置いた同会所有の浅蜊貝稚貝、その成長した
親貝およびその子孫(果実)は当然同会の占有支配下にあるものということはでき
ない。(浅蜊貝の移動性は本件で明らかにされていない)。原判決は、右漁業権の
範囲は附近の人に知れ亘つており、同組合は、その区域を示すため特に判示C工場
沖の石垣の突端に丸太棒を立て、又、海中には四寸丸太を立て右組合の養殖区域に
つき貝類の採取を禁ずる旨の掲示もし、監視人を置いて常に漁場の監視をしており、
養殖後は毎年四月頃トラクターで底の土を耕して手を加えその成育繁殖を助長した
事実を認定したけれども、それ以上に、同会所有の浅蜊貝(以下「貝」という)稚
貝、その成長した親貝およびその子孫が右漁区から逃脱散逸することを妨げるに足
るような施設を施した事実を認定していない(証拠図面によれば広大な部面におい
てその逃脱散逸の途が開放されている)。だから、同会が判示のように右突端と海
中にいくらかの棒を立て且つ掲示、監視、耕作をした程度では約五九万坪の本件区
域に散在する同会所有の前記の貝を同会が現実に占有支配したものというに足りな
い。(五九万坪のうちのいずれかの特定部分に同会が貝を撒き養殖しており、しか
も、そこに同会の占有支配のための何らかの右以上の施設があつた事実は認定され
ていない。)
 本件養殖区域の全部又は特定の一部に同会が養殖のためバラ撒いた貝およびその
子孫の総数が、かりに、同区域内の自然生の貝と同数又はその半数存在する場合に
(本件ではこれに近い事実が認定されている)、そして、若しこの区域内の同会所
有の貝を同会が事実上占有支配しているなら(このことが大切である)、その情を
知つてこの区域内で無断で貝を採取する者は貝の窃盗の未必の故意を有するものと
いえるであろう。彼が採取した貝のなかにかりに二分の一なり三分の一なりの同会
占有の貝が混じつているなら彼の所為は窃盗既遂であろうし、彼がその情を知つて
その区域内の貝の採取に着手した時に、彼の窃盗未遂罪は成立するといえるであろ
う。
 以上の如くであるから、本件は大審院判例の、孤島一円を飼養地域として狐を放
養した事件(昭和一一年一二月二日判決)、真珠貝稚貝が附着成長しうるように瓦
石を海中に投置してこれを放養した事件(昭和元年一二月二五日判決)とは事実関
係を異にする。原判決が判示漁業会が判示の貝を占有したことを是認せず、被告人
が無断で判示の場所で貝を採取したことは旧漁業法六〇条の漁業権を侵害する罪に
はなつても、窃盗罪を構成しないとしたのは相当のように思う。
 裁判官石坂修一の反対意見は次のとおりである。
 私は、多数意見を支持し得ないから、左に私の意見を述べる。
 原判決によれば、原審は、B漁業会(後にD漁業協同組合に改組)が、昭和二〇
年一月二〇日岡山県知事より免許を受けた本件区劃漁場(約五九万坪)に、昭和二
〇年七月より九月に亘り養殖の目的を以つて、蛤、大野貝等と共に、浅蜊稚貝を撒
布し、以後毎年四月頃トラクターにより漁場の底土を耕して手入をし、繁殖を計つ
た結果、少くとも犯行当時までには、養殖の浅蜊貝は、自然発生のものと半々の割
合に増殖した事実(移殖した浅蜊貝より発生したものも亦、右組合の所有に属する
養殖浅蜊貝である。然らざれば養殖の実がない。)、浅蜊貝は、移動性がない事実
及び本件漁場中浅蜊貝養殖部分には、浅蜊貝に移動性のないことより標識或は垣を
設けて居らなかつたにしても、右漁場の海中には、四寸丸太を樹て右組合の養殖区
域であるから、貝類の採取を禁ずる旨の掲示をなし、かつ監視人を置いて漁場を監
視して居つた事実を確定して居る。
 以上の事実関係よりすれば、同組合は、右漁場内の浅蜊貝全量につき二分の一の
所有権を有するものとなすべきであり、広区域の海洲中に散在するおびただしい浅
蜊貝の個々を、何れが同組合の所有物であるか或は自然発生の無主物であるか、一
々標識を付し或は識別する如きことは、通常、人のよくする所ではないのであつて、
概ね二つに一つ宛、同組合の所有物と無主物とが混在して居るものと考へるを以つ
て足りるとなすべく、同組合においても、右漁場内の浅蜊貝全量の少くとも半ばこ
れを所有しかつ保持して居るものとの意識を有して居り、しかも同組合は前記の掲
示、監視並に手入により、現実に所有の意思を示し、しかも浅蜊貝に対する外来の
支配を排除して居つたものとするに妨げない。従つて、右漁場に存在した養殖の浅
蜊貝に対する所持を同組合において保有して居つたものと認定すべきを相当とする。
 されば、若し被告人が浅蜊貝の生息する右漁場は、右組合の管理下に在り、その
浅蜊貝全量の半は同組合の所持に属して居つたことを知つて居つたものとすれば、
右漁場より回を重ねて約一斗八升の浅蜊貝を奪ひ取つた行為は、窃盗罪に該当する
ものと解すべきである。然るに原審が、所持に対する判断を誤り、所持に対する被
告人の認識につき十分なる審理を尽さずして、早急に無罪を言渡したことは、失当
である。
 原判決は、刑訴四一一条により破棄を免れない。
  昭和三五年九月一三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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