弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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              主       文
    被告人を懲役1年6月に処する。
    この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
    本件公訴事実中,背任の点については,被告人は無罪。
              理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,不動産の売買及び仲介等を業とする株式会社Aの代表取締役であった
ものであるが,Bと共謀の上,平成10年8月20日ころ,広島市○区○町○番○
号C株式会社において,行使の目的をもって,ほしいままに,あらかじめ用意して
いたD銀行残高証明書用紙に,上記Bにおいて,パーソナルコンピューターで押切
印欄に「D銀行E支店」,発行責任者欄に「F」と各印字した上,残高年月日欄に
「10 8 19」,口座番号欄に「○○○○○○○」,金額欄に「¥39200
1000」などと冒書し,さらに,被告人において,名義人欄に「株式会社A代表
取締役X」,年月日欄に「10.8.20」,取引の種類欄に「普通預金」のゴム
印等を各押捺し,もって,同月19日現在の前記株式会社Aの普通預金残高が3億
9200万1000円である旨のD銀行E支店名義の残高証明書1通の偽造を遂げ
た上,被告人単独で,同月20日ころ,同市○区○丁目○番○号G店において,H
建設株式会社I支店営業課長Jに対し,上記偽造にかかる残高証明書1通を株式会
社D銀行K支店発行の残高証明書1通とともに呈示して行使したものである。
(量刑の理由)
 本件は,不動産の売買等を業とする会社の代表取締役であった被告人が,マンシ
ョン建築に関し,建築請負業者との間で,請負代金の支払方法としてマンション区
分所有建物購入者が住宅金融公庫から借り受ける融資金を代理受領した金銭の中か
ら支払う旨約束していたにもかかわらず,これを他の銀行融資の支払等に流用して
上記請負代金の支払に窮したため,その発覚を恐れ,銀行名義の残高証明書1通を
偽造してこれを行使したという有印私文書偽造,同行使の事案であるところ,その
動機は,自己の債務不履行を隠蔽するためという自己中心的かつ身勝手なものであ
って酌量の余地はなく,犯行態様も,パーソナルコンピュータに詳しい部下を利用
して,銀行印の印影を作出させるなど巧妙である上,銀行の残高証明書という取引
社会において信用力を証明する文書として大きな価値を有する文書を偽造・行使
し,自己の信用を仮装して相手方の信頼を裏切った悪質な事犯である。
 もっとも,被告人は,本件犯行の数日後には行使の相手方である建築請負業者に
事実を告白して謝罪し,当公判廷でも本件犯行を素直に認め,反省の態度を示して
いること,被告人には前科前歴はなく,これまで一社会人として真面目に稼働して
きたことなど,被告人にとって斟酌すべき事情も認められる。
 そこで,これらの事情を総合考慮し,被告人に対しては,その刑責を明確にした
上で,社会内において,その更生を期するのが相当であると判断した。
(一部無罪の理由)
1 本件公訴事実中,背任についての変更後の訴因は,「被告人は,不動産の売買
及び仲介等を業とする株式会社Aの代表取締役であったものであるが,平成8年1
2月26日ころ,株式会社Aと土木建築工事の総合請負等を業とするH建設株式会
社との間において,広島市○区○丁目○番○号のマンション『L』建築請負契約を
締結するに当たり,同マンションは,住宅金融公庫の融資付きであったことから,
上記建築請負代金5億7300万円は,同マンション区分所有建物購入者が上記公
庫から借り受ける融資金を上記株式会社Aが代理受領した金銭の中から上記H建設
株式会社に対して支払うこととし,その担保として,上記株式会社Aと上記H建設
株式会社との間で,同融資金の振込口座としてM信用組合N支店株式会社A名義普
通預金口座(口座番号○○○○○○○)を指定することと決め,同口座の預金通帳
等を上記H建設株式会社に交付することにより,同口座に振り込まれる同融資金を
上記建築請負代金の支払に優先的に充当する旨の契約を締結したのであるから,上
記H建設株式会社のために,『資金の代理受領に関する委任状』振込口座欄に上記
口座を記載して住宅金融公庫に提出し,同口座に同融資金が振り込まれるようにす
べき任務を有していたのに,平成10年6月16日ころ,同市○区○丁目○番○号
上記株式会社A事務所において,その任務に背き,同融資金総額5億0130万円
を同社の金融機関等に対する債務の弁済に充当して同社の利益を図るため,上記委
任状振込口座欄に,上記口座とは異なる上記信用組合同支店株式会社A名義普通預
金口座(口座番号○○○○○○○)を記載した上,そのころ,住宅金融公庫中国支
店の融資業務を代行している同市○区○丁目○番○号M信用組合N支店に同委任状
を提出して同融資金の振込口座を同口座に指定し,もって,上記株式会社A名義普
通預金口座(口座番号○○○○○○○)に同融資金が振り込まれることを不可能な
らしめて,上記H建設株式会社に財産上の損害を加えたものである。」というので
ある。
2 そこで検討するに,<証拠 略>によると,以下の事実が認められる。
  すなわち,(1)不動産の売買及び仲介等を事業目的とする株式会社Aの代表取締
役であった被告人は,平成7年ころから,広島市○区○丁目○番○号に定期借地権
付の分譲マンション「L」(以下,「本件マンション」という。)をいわゆる立替
工事(工事完了まで請負業者が工事代金を立て替えて負担し,工事完了後に注文者
が請負業者に工事代金を支払うこと)で建築し,分譲販売することを計画していた
こと,(2)H建設I支店は,本件マンション建設の引き合いを受けたが,これが立替
工事であったことから,同年7月ころ,請負工事代金の回収が可能か否かの調査を
開始したところ,Aには資金調達力に問題があることが判明したこと,(3)そのた
め,同支店では,本件マンションの区分所有建物購入者(以下,「マンション購入
者」という。)に対して,住宅金融公庫から支払われる融資金をH建設が直接代理
受領することにより本件マンションの建設資金の支払を確保しようと考え,そのよ
うな取り扱いが可能か否かを住宅金融公庫に問い合わせたところ,住宅金融公庫で
は,代理受領権限を有する者を,①公庫の借入申込人の家族,②つなぎ融資を行っ
た公庫の受託金融機関,③購入物件の売主に限定しており,工事請負業者が代理受
領を行うことができるのは,マイホーム新築融資やリフォーム融資のように,公庫
の借入申込人と施行業者との間で工事請負契約が締結されている場合であって,マ
ンション購入融資など,公庫の借入申込人と売主との間で売買契約が締結されてい
る場合には,工事請負業者が資金の代理受領を行うことができないという取扱いを
していたため,H建設に対して,同建設には,上記融資金の代理受領権限がない旨
伝えたこと,(4)そこで,H建設I支店では,代理受領権限を有するAがマンション
購入者に代わって住宅金融公庫から代理受領する融資金から請負工事代金を回収し
ようと考え,①工事請負契約書案として,請負工事代金の支払について,「住宅金
融公庫より融資があり次第,発注者は請負者に支払うものとする。」とし,②合意
書案として,「Aが物件購入者との間で交わす代理受領契約により,指定したA名
義口座の預金通帳と使用印鑑を工事代金支払が完済するまで私方(H建設)が預か
る。指定の預金口座に入金があったときは,その都度,Aは,私方(H建設)が立
ち会い払い出し支払にあてる。」とした内容の稟議書を作成してH建設本社に送付
したところ,同年12月4日付で本件マンションの建設請負契約締結の許可が下り
たこと,(5)同月26日,AとH建設との間で,請負工事代金額5億7300万円と
する本件マンションの工事請負契約が締結され,その際,請負工事代金の支払につ
き,「住宅金融公庫より融資があり次第,発注者は請負者に支払うものとする。」
との条項が本件請負契約書に定められた上,上記住宅金融公庫からの融資金が振り
込まれる預金口座をM信用組合N支店のA名義の普通預金口座(口座番号○○○○
○○○。以下,「指定口座」という。)にするとともに,同口座の預金通帳及び使
用印鑑をH建設に交付して上記請負工事代金を完済するまで預け置き,同口座に住
宅金融公庫から入金があった場合には,その都度Aは,H建設立会の上,これを払
い出して同請負工事代金の支払に充当する旨記載した合意書を取り交わしたこ
と,(6)上記指定口座には,M信用組合N支店との間で,普通預金債権につき譲渡禁
止及び質権設定禁止の特約が付されていたこと,(7)被告人は,その後,マンション
購入者から支払われた手付金などを指定口座で管理していたが,同手付金を別途管
理するための口座を新たに開設することとし,平成9年5月7日,M信用組合N支
店にA名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○○。以下「指定外口座」とい
う。)を開設し,指定口座の残額1771万2264円を全額引き出して指定外口
座に移し替えたこと,(8)同日,H建設I支店の営業課長Jは,前記合意書の約定に
基づき,被告人に対し,指定口座の預金通帳及び使用印鑑の交付を求めたところ,
被告人は,上記のとおり残高をゼロにした指定口座の預金通帳についてはこれを交
付したものの,使用印鑑については,他のA名義の預金口座にも使用しているの
で,代わりに同印鑑が押捺された金額欄白地の払戻請求書を交付することで了解し
てほしい旨依頼してきたため,Jは,上記指定口座の預金通帳及び同払戻請求書が
あれば払い戻しは可能と考えてこれを了承し,上記指定口座の預金通帳及び同払戻
請求書を受け取ったこと,(9)本件マンションの建築請負工事は,同年5月8日に起
工式が行われて着工され,同月末ころまでには販売予定の35戸全てが完売し,同
10年5月ころ,本件建築請負工事は完了し,同年6月12日,本件マンション
は,上記建築請負契約の約定に従ってH建設からAに引き渡されたこと,(10)A
は,上記起工式後,同社が手掛けていた造成地開発の行き詰まりや,戸建て分譲地
の販売不振などから資金繰りが悪化し,平成10年5月の決算時には約1億580
0万円の資金不足となり,被告人は,上記住宅金融公庫からの融資金をAの他の債
権者である金融機関への返済に流用しなければ同社の経営が困難になると考え,同
年6月14日,M信用組合本店において,住宅金融公庫の金銭消費契約会が行われ
た際,マンション購入者に,融資金の振込先金融機関名,口座番号等を空欄にした
住宅金融公庫あての「資金の代理受領に関する委任状」を作成させた上,同月15
日または16日ころ,Aの職員であるOに命じて,D銀行を住宅金融公庫の業務取
扱店として指定した者等を除く約30名のマンション購入者に関する上記委任状に
融資金の振込先として指定外口座を記載させ,同委任状を住宅金融公庫の融資業務
を代行していたM信用組合N支店に提出したこと,(11)その結果,同年7月27
日,住宅金融公庫からの上記約30名のマンション購入者分の融資金合計5億01
30万円が指定外口座に入金されたが,被告人は,その事実をH建設に告げず,同
日,この融資金のうち3億3500万円をAの債権者であるM信用組合N支店に対
する借金返済に充てるなどして,その大半を費消したこと,(12)同年8月,被告人
は,H建設のJから,本件請負契約に基づき,上記請負工事代金5億7300万円
の支払を求められたが,上記のとおり,住宅金融公庫の融資金を既に他の借金返済
に流用しており,H建設に対する同請負工事代金を支払うことができなかったた
め,Jに対し,これを秘して支払の猶予を求めたが,Jから指定口座の残高証明書
を見せるように求められたことから,同融資金は取引の都合上指定口座からD銀行
に移し替えた旨嘘を言い,判示罪となるべき事実のとおり,同月20日ころ,Bと
共謀の上,D銀行E支店に3億9200万1000円の預金残高があるかのような
同店名義の残高証明書1通を偽造するとともに,2億円の残高があることを証する
D銀行K支店名義の真正な残高証明書1通と合わせてこれをJに呈示したこ
と,(13)その後,被告人は,同月25日ころ,Jに対し,上記E支店名義の残高証
明書が偽造に係るものであり,住宅金融公庫からの融資金を別の借金返済に流用し
たことを認めたため,H建設は債権回収に乗り出したが,結局,Aが,同年11月
20日及び同月30日に支払期日が到来した約束手形の支払をすることができず不
渡りとし,事実上倒産したため,H建設は,6000万円を回収したのみであるこ
と,以上の事実が認められる。
3 以上の事実によると,被告人は,H建設のために,「資金の代理受領に関する
委任状」振込口座欄に双方で取り決めた上記指定口座を記載して住宅金融公庫に提
出し,同口座に住宅金融公庫からの融資金が振り込まれるようにすべき義務を負っ
たことは明らかである。
  ところで検察官は,背任罪にいう「他人の事務」は,単なる債務不履行行為と
背任として処罰されるべき行為とを峻別し,その可罰性を基礎づけるものであるた
め,可罰性の高いものに限定して解釈すべきは当然であり,売買,金銭消費貸借な
どの双務契約において,対向的に相手に対して義務を負うに過ぎない者は,一般に
は他人に関する自己の事務を処理する者に過ぎず,「他人の事務」を処理すべき者
には当たらないというべきであるが,「他人の事務」は「自己の事務」と排他的な
関係にある概念ではなく,(1)既に財産の実質的な処分権が契約の相手方に移転して
いるような場合において,相手方の当該財産を管理保全する任務を負う者や,(2)例
えば売買契約を締結した当事者間で売買契約以外の特別な原因で特別な任務を負う
に至った者などがその任務に背いて相手方に財産的な損害を与えたようなときは,
その義務違反は極めて当罰性が高いのであって,そのような場合には,他人固有の
事務を他人に代わって行う場合でなくとも,その任務の履行は,他人のためにする
他人の事務の性格を帯びる場合として,なお,背任罪の「他人の事務」と解しても
処罰範囲を不当に広げることにはならないと解するべきである,と主張する。
  これに対し,弁護人は,被告人が,上記義務を負うことは認めるものの,それ
は被告人の事務であって,背任罪における「他人の事務」には該当しない,すなわ
ち,背任罪成立のための任務違背行為といえるかどうかは,担保の設定の有無,そ
の担保の効力の喪失が基準となるものであって,背任罪成立のためには,その前提
として物権的な信任関係が必要であるところ,通帳と印鑑を預けることにより担保
権が設定されたと解することはできず,したがって,本件では物権的な信任関係は
成立しておらず,上記振込口座を変更する行為は債務不履行にはなっても任務違背
行為にはならないから,背任罪は成立しないと主張する。
4 そこで検討するに,検察官の前記主張は一個の見解ではあり,この見解のう
ち,(1)既に財産の実質的な処分権が契約の相手方に移転しているような場合とは,
例えば県知事の同意を条件とする農地の売買の場合において,代金の支払いも済ん
でおり,県知事の同意だけが未了である場合に,法律的な所有権が残存している売
主が,当該農地について第三者に抵当権を設定したような場合(最高裁判所昭和3
8年7月9日第三小法廷決定・刑集17巻6号608頁の事例を参照)を指すもの
と解することができ,そのような場合には背任罪が成立すると解されるけれども,
前記見解の(2)の場合,すなわち,例えば売買契約を締結した当事者間で売買契約以
外の特別な原因で特別の任務を負うに至った者がその任務に背いた場合とは,当事
者間に相手方の事務を代行する旨の委任等の別個の契約関係があるような場合であ
れば格別,その他,いかなる場合に特別の原因で特別の任務を負うことになるか
は,上記基準をもってしては,必ずしも明らかでない。
  検察官は,本件につき,被告人とH建設との間で,請負契約のほかに,前記指
定口座を定めた上で,その口座の預金通帳と使用印鑑をH建設が被告人から預かる
旨の特別の取決めがなされたことを指摘し,かつ,現実には使用印鑑を預かること
ができなかったものの,代わりに同印鑑の押捺された払戻請求書を預金通帳と一緒
に預かったのであるから,そのような場合には,事実上,被告人からH建設に対し
て指定口座の預金債権の譲渡がなされたものと同視できることを指摘して,被告人
の負う債務はH建設の事務であって,その任務に違背した被告人については背任罪
が成立すると主張するのであるが,本件については,H建設が上記通帳等を預かっ
た時点においては,指定口座には何らの金員も振り込まれておらず,また振込がH
建設に自動的に通知されるといった関係にもなく,逆にAは,H建設の承諾等を得
ることもなく,指定口座の預金を払い戻すこと等が可能な状態にあったのであっ
て,前記検察官の見解の(1)に従うとしても,H建設は,指定口座の預金債権につい
て,実質的な処分権を有していたということはできない。
  また,検察官の前記(2)の見解が基準として明白性を欠くことは既に述べたとお
りであるのみならず,上記のような特別の取決めがなされたからといって,本件の
ような場合には,その取決めに基づく義務を他人の事務と解する根拠とはなし得な
いというべきである。
  すなわち,本件は,前記のとおり,被告人が,H建設に対する建築請負代金の
支払いのために,マンション購入者の住宅金融公庫からの借入資金の代理受領権限
に基づき,その振込先を指定口座とし,この指定口座に振り込まれた資金を建築請
負代金の支払いに充てるという義務(検察官のいう上記特別の取決めに基づく義
務)を負った事案であり,その義務は,H建設の建築請負代金債権の履行確保のた
めのものということができ,検察官が変更後の訴因において,「その担保として」
と表現したのも,同様の趣旨であると解される(なお,変更前の訴因は,指定口座
の預金債権に質権を設定する旨の契約が締結されたというものであった。)。
  しかしながら,そのような双務契約上の対向的な義務の一方の履行を確保する
ための手段としては,例えば法的担保を提供する旨の約定や,手形を振り出す旨の
約定など,種々のものがあり,またそのような約定は対向的な契約関係に通常随伴
することの多いものであって,そのような履行確保のための約定に基づく義務が常
に背任罪における他人のための事務であるとすれば,一般の債務不履行と背任との
区別がほとんどなくなり,背任罪における事務の他人性についての範囲があいまい
となって,不当にその成立範囲を拡大するものとの批判を免れ難いというべきであ
る。
  弁護人はこの点について,背任罪成立のためには,物権的な信任関係が必要で
あり,本件についていえば,担保権の設定がなされたといえる場合でなければ,背
任罪における任務違背行為とはならないと主張しているところ,これは一理ある見
解というべきである。
  すなわち,上記のとおり,債権の履行確保のための手段,約定としては種々の
ものがあるところ,そのような約定に基づく債権確保のための対象財産に対する債
権者側の管理支配権能が,単なる債権的なものにとどまらず物権的なものであれ
ば,その管理,保全は,単に債務者のための事務というにとどまらず,債権者のた
めの事務としての性格が強いといえ,その義務に違背する行為は,背任罪における
他人の事務についての任務違背行為ということができる(訴因変更前の本件訴因
が,前記のとおり質権の設定と構成されていたのも,そのような理解に基づくもの
ではなかったかとも推察されるところである。)とともに,また,そのような基準
であれば,一般の債務不履行との区別の基準としても,明確性に欠けるところはな
いと思われる。
  もっとも,背任罪の成否を物権的な義務違反の有無という観点から捉えるにし
ても,検察官は更に,本件のように預金通帳や使用印鑑の印影のある払戻請求書を
預かることは,法律的には指定口座の預金債権に質権を設定したものと同視でき,
H建設は,指定口座の預金債権について,法律上,譲渡担保権ないしそれに類似す
る非典型担保権の設定を受けたものと評価できる,と主張し,H建設が物権的な権
利を取得したと主張する。
  しかしながら,本件指定口座の普通預金債権については,譲渡禁止及び質権設
定禁止の特約が付されていた上,担保であることを公示する手段もなく,預金通帳
と印鑑を預けたのみでは優先弁済権を確保したともいえないのであって,前記のと
おり,指定口座に住宅金融公庫から入金があった場合には,その都度Aは,H建設
立会の上,これを払い出して同請負工事代金の支払に充当する旨の合意がなされて
いて,H建設単独で上記預金債権を処分することはもちろん,払い出す権限も有し
ていなかったと考えられることからすると,当初の合意のとおり,預金通帳と印鑑
が預けられたとしても,それは,事実上,弁済を確保するためのものであって,こ
れをもって何らかの担保権を設定したと認めることはできず,印鑑さえ交付されて
いない本件においてはなおさらそのように認めることはできないというべきであ
る。
  したがって,被告人とH建設との間には,未だ物権的な信任関係はなく,被告
人の行為は,債務不履行にはなっても,背任罪にいう任務違背行為とはならないと
いうべきである。
5 そうすると,前記背任の公訴事実については,被告人は,「他人のためにその
事務を処理する者」とはいえず,結局被告人の行為は罪とならないから,刑事訴訟
法336条により,被告人に対して無罪の言渡しをする。
 よって,主文のとおり判決する。(求刑 懲役3年)
  平成14年3月20日
    広島地方裁判所刑事第二部
       裁判長裁判官   小 西 秀 宣
          裁判官   浅 見 健次郎
          裁判官   鈴 木 祐 治

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