弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の申立
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人Aに対し金一〇一万〇一〇一円、控訴人Bに対し金一〇〇
万九三五八円及び右各金員に対する平成元年三月一日から支払済みまで年五分の割
合による金員を支払え。
3 控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二 事案の概要
 本件事案の概要は、次のとおり訂正する外は、原判決の「事実及び理由」中の
「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二枚目裏二行目の「組合という」を「組合ないし本件組合という」と、
同三枚目表初行冒頭から同三行目末尾までを次のとおりそれぞれ改める。
 「そして、二日の休日のうち一日を日曜日とすることは労使間で当然のこととさ
れたが、他の一日(以下「指定休日」といい、指定された曜日を「指定曜日」とい
うことがある)を何曜日にするかは、各部署毎に部署内部での話し合いによって定
められることとなり、控訴人両名が所属していた本社及び大阪営業所の各事務部門
においては、これを土曜日と定められた。」を加える。
二 原判決七枚目表三行目冒頭から同九行目末尾までを次のとおり改める。
「1 本件賃金カットは違法か。即ち、控訴人らは、平成元年二月二五日に就労義
務があったか。
(一)控訴人らの平成元年二月の第四週における日曜日以外の休日は、本来の指定
休日であった二五日か、それとも二四日か。
(二)控訴人らに、右二五日を休日とするか二四日を休日とするかについて選択権
があったか。」
第三 証拠(省略)
第四 争点に対する判断
一 証拠によって認定できる事実は次のとおり加除、訂正する外は、原判決の「事
実及び理由」中の「第三 判断」欄の「一」(原判決八枚目表三行目冒頭から同一
五枚目表一〇行目末尾まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決八枚目表四行目の「一七、一八、」を削除し、同行の「三四、」の次に
「六〇、六七の1、2、六八、七〇」を加え、同裏四行目から五行目にかけての
「名称変更により大阪営業所付」を「組織変更により大阪営業所販売経理係」と改
める。
2 同九枚目表三行目冒頭から同一二枚目表八行目末尾までを次のとおり改める。
「2 週休二日制の実施に至る経緯と内容
(一) 被控訴人会社においては、日曜日、祝祭日、創立記念日、メーデーが休日
とされていたが、昭和四九年三月ころから、労使の交渉事項として週休二日制の導
入問題が取り上げられるようになり、同年四月一八日に被控訴人会社及び組合間で
締結された協定(甲一五)には、『一日七時間労働を基礎とした週休二日制につい
ては可及的速やかに労使が協議し実施するように努力する。』との一項が設けられ
た。
(二) 被控訴人会社は、同年九月三〇日、組合に対し、『週休二日制導入におけ
る会社の基本的考え方』と題する書面(以下『基本的考え方』という、乙四)を交
付し、週休二日制導入問題についての基本的考えを示した。右書面の第2項には、
『一週間の労働時間が三五時間であることから、祝祭日、特定休日のある週の場合
は、それ等が代替わりする。』との記載があった(なお、右の『特定休日』の概念
は、被控訴人会社において必ずしも一義的に用いられていないが、本書面において
は、被控訴人会社の創立記念日及びメーデーを指すものと解せられる。なお、以
下、祝祭日と創立記念日及びメーデーを併せて『祝祭日等』という)。
(三) 組合は、『基本的考え方』が示された直後の機関紙(甲一四)で、会社の
提案内容を『祝祭日の休日廃止』と表現してこれに反対し、完全週休二日制(即
ち、祝祭日等は従前どおり休日とし、それ以外に一週間のうち二日を休日とする制
度)の獲得を目指す姿勢を示した。以後労使間で幾度となく団体交渉が持たれ、組
合は完全週休二日制を要求したが、被控訴人会社は、これを固く拒否した。やむな
く組合は、次善の策として被控訴人会社の右方針を受け入れることとし、昭和五〇
年九月二五日、被控訴人会社と組合間で本件協定が締結された。本件協定には次の
ように記載された。
『一 昭和五〇年一〇月一日より一日七時間を基礎とした一週間三五時間の労働時
間で週休二日制を実施する。したがって祝祭日及び創立記念日を含む週三五時間労
働とする。
二 週休二日制導入に際し、現行の夏期休暇六日を五日に短縮する。
三 メーデーについての取扱いは週休二日制実施後の経過をみて昭和五一年一月こ
ろ再検討する。』
 なお、本件協定と同時に被控訴人会社と組合間で覚書(乙六)が交わされ、本件
協定の祝祭日及び夏期休暇については、今後その休日の実現を目指し努力すること
が約束された。
 また、被控訴人会社は、そのころ黒川労組との間でも、本件協定と同旨の協定を
締結した。
(四) ところで、週休二日のうち一日を日曜日とすることは労使間で当然の前提
であったが、その余の一日(指定休日)を何曜日にするかについては、各部署毎の
実情に合わせるため、本件協定では定められず、各部署における話し合いに委ねら
れることとなった。そして、本件協定を受けて各部署で話し合いがもたれた結果、
連休をとることが差し支える部署では木曜日ないし金曜日、特段の差し支えがない
部署では土曜日と定めることが多く、控訴人Bが所属する本社総務部販売経理係で
は土曜日(但し、土曜日に全員が休むことは差し支えがあるため係長のみ月曜日)
と、控訴人Aが所属する本社総務部会計係では土曜日とそれぞれ定められた。
(五) 同年九月一五日発行の組合の機関紙(乙一四)では、被控訴人会社の提案
が、祝祭日は廃止する、祝祭日は休んで指定曜日は出勤するとの案であると紹介し
つつ、これを批判している。
(六) 同月三〇日発行の黒川労組の機関紙(乙一七)には、明日から実施される
週休二日制の部署毎の内容説明の記載があるが、これには、本社総務部販売経理係
及び会計係について、『土曜日を休日とし、祝祭日のある週はその日を充当する』
旨の記載がある。
(七) 同年一〇月九日に本社総務部が全社員に配付した『週休二日制の実施につ
いて』と題するビラ(乙一六)によると、実施要領として、『日曜日と毎週木曜日
を他の休日とする週休二日を基本とし、一部金曜、土曜を休日とする。同じ週に祝
日のある週はこれを振り替える』と記載されている。また、各部署の実施内容の一
覧表には、豊中工場の営業課では祝日振替がないが、その余の部署ではすべて祝日
振替がある旨の記載がある。
(八) 同月一〇日発行の被控訴人会社の社内報(乙一五)には、週休二日制実施
要領として『一日七時間を基礎とした一週三五時間の労働時間の週休二日制(週五
日制)で祝日は含まれる(祝日のある週は振替)』との記載があり、また各部署毎
の実施内容を記載した部分には『祝祭日のある週は日曜日と祝祭日となる(本社営
業部はケースバイケース)』との記載がある。なお、右部分の原稿を作成したのは
本件組合員である。
(九) 週休二日制実施後、控訴人らを含む被控訴人会社の社員は、指定曜日に休
むとともに、祝祭日等のある週は原則的には祝祭日に休み、指定曜日に出勤した。
もっとも例外的に、業務の都合(例えば、業務の性質上連休がとれない部署におい
ては、土曜日又は月曜日が祝祭日等に当たる場合は、出勤する例が多かった)等か
ら祝祭日等に出勤することもあったが、日曜日に出勤した場合とは異なり、割増賃
金は支払われなかった。
(一〇) 被控訴人会社と黒川労組は、昭和五二年九月一日から週休二日制を廃止
し、六日制勤務の週四〇時間労働制をとる旨の協定を締結した。以来、被控訴人会
社内では本件組合員だけが週休二日制をとることとなった。」
3 同一四枚目裏六行目の「法律」の次に「(以下「祝日法」という)」を、同一
五枚目表二行目の「、三」を削除し、同六行目末尾に続いて改行の上、次のとおり
それぞれ加える。
「なお就業規則第二四条に基づいて制定された賃金規則第七条には、休日労働には
割増賃金を支払う旨定められている。」
二 主たる争点1(賃金カットの違法性)について
1 一で付加、訂正の上引用した事実に基づき、本件協定の実施により、祝祭日等
のある週における本件組合員の休日が何時と定められたと解すべきであるかについ
て検討する。
(一) 本件協定の文面上は、祝祭日等のある週においても休日は二日であること
は明示されているが、日曜日以外の休日が指定曜日になるのか祝祭日になるのかに
ついては明示されていない。
(二) しかしながら、被控訴人会社は、既に「基本的考え方」において、「代替
わり」との表現を用いて、祝祭日が休日となる(以下「当然振替」ということがあ
る)旨の考え方を提示していたこと、その後の団体交渉において、完全週休二日制
の採用の可否を巡って議論がなされたものの、被控訴人会社の提案どおり祝祭日を
含めた週休二日制を採用した場合に祝祭日等のある週の休日をいつにするかについ
ては議論された形跡が証拠上認められないこと、組合は最終的には完全週休二日制
の要求を断念して被控訴人会社の提案を受け入れたが、右受入れに際し、当然振替
の問題について留保した形跡は証拠上認められないこと、本件協定成立後に被控訴
人会社によって全社員に配付されたビラ及び社内報のいずれにも、原則として当然
振替になる旨の記載があり、そのころ発行された組合及び黒川労組の機関紙にも同
様の認識が示されていること等に鑑みると、本件協定成立によって、全社的に、祝
祭日のある週の休日は原則的に祝祭日に当然振り替えられるとの理解がなされたも
のと推認できる。
 なお、組合は、前記『基本的考え方』が示された直後に発行された機関紙(甲一
四)で、会社の提案内容を『祝祭日の休日廃止』と表現し、本件協定締結直後に発
行された機関紙(甲一三)でも、右協定内容を『祝祭日なし』と表現しているが、
右各表現は、本件協定実施後、祝祭日が出勤日になるとの認識を示したものではな
く、祝祭日があっても休日が増える訳ではないし、また祝祭日に出勤しても割増賃
金が支払われないことから、実質的には祝祭日が廃止されたに等しいとの認識を示
したものと解するべきであって、右推認を妨げない。
(三) 以上の事実によれば、本件協定によって、就業規則のうち、祝祭日を休日
とする部分は廃止され、新たに労働基準法上の「休日」とは異なって割増賃金の対
象とならない指定休日が毎週一回、各部署毎に曜日を指定して設けられるととも
に、祝祭日等のある週には原則としてその祝祭日等が指定休日となり、指定曜日は
出勤日となる旨定められたものというべきである。そして、前認定の事実によれ
ば、控訴人らが所属する部署(但し、販売経理係長を除く)では、指定曜日を土曜
日とするとともに、祝祭日等がある週の扱いについては右原則どおりとされたこと
が推認できる。
2 ところで控訴人らは、控訴人らが所属する部署においては、祝祭日等がある週
に、その祝祭日等を休日とするか、指定曜日を休日とするかについて、各労働者に
選択権が与えられた旨主張し、証人C、同D、控訴人両名の供述中には右主張に沿
う部分があるが、右証人二名の各供述部分はいずれも伝聞であり、又控訴人らの供
述部分も内容が曖昧であって、にわかに信用できない。また、控訴人らは、本件協
定実施後の運用実態において、(1)祝祭日に出勤している例があること、(2)
祝祭日と指定曜日の両方を休む場合に、前者を有給休暇ないし生理休暇、後者を公
休として処理されている例があること等も右主張の根拠にするところ、なるほど、
乙二二、二三、二七ないし六二(各枝番を含む)によると右各事実が認められる
が、Eの証言及び弁論の全趣旨によると、(1)は例外的に業務上の必要がある場
合に止まり、(2)は、いずれにしても割増賃金の問題が生じないため取扱いに厳
密さを欠いたことから生じたものと認められ、一で引用した事実にも照らすと、右
(1)(2)の各事実から、労働者に選択権が与えられていたとの控訴人らの主張
事実を認めることは到底できない。
3 次に、本件協定によって当然休日が振り替えられるものとされた「祝祭日」に
本件休日が該当するか否かについて検討する。
(一) 本件協定において、指定休日が「祝祭日」に当然振り替えられるものとさ
れた理由は、祝祭日には被控訴人会社の取引先等も休むことが多く、指定曜日を休
むより祝祭日を休む方が被控訴人会社の業務上好都合であること及び被控訴人会社
の社員としても、指定曜日に休むよりも官公庁、学校及び勤労者の大部分と同様に
祝祭日に休むことを希望するのが一般であること等にあるものと解せられる。
(二) 本件協定実施後、被控訴人会社では、国民の祝日のみならず、祝日法三条
二項で定められた休日(国民の祝日が日曜日に当たる場合の翌日)も指定休日が当
然振り替えられる日として扱われていた〔乙八、一三、乙二二、二三、二七ないし
六一(各枝番を含む)〕が、同法三条三項で定められた休日(その前日及び翌日が
国民の祝日である日)も指定休日が振り替えられた。
(三) (一)で判示した趣旨及び(二)で認定した事実に鑑みると、指定休日が
当然振り替えられる「祝祭日」とは、祝日法で定められた「国民の祝日」のみなら
ず、同法三条二項、三項で定められた休日及びその他の法律で定められた休日も含
まれるものと解するのが相当である。
 そして、平成元年二月二四日は、大喪の礼休日法により休日とされ、その附則二
条により、「休日を定める他の法令の規程の適用については、当該法令に定める休
日とみなす」とされたのであるから、右「祝祭日」に該当するというべきである。
4 以上の事実によれば、控訴人らの平成元年二月第四週における日曜日以外の休
日は二四日であり、二五日は出勤日であったというべきであるから、同日に出勤し
なかった控訴人らに対して賃金カットをした被控訴人会社の措置に何らの違法はな
く、控訴人らの本訴請求のうち未払賃金の支払いを求める部分は失当である。
三 主たる争点2に対する当裁判所の判断は、原判決二〇枚目表二行目冒頭から同
二一枚目表三行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する。
四 (まとめ)
 以上の次第で、控訴人らの本訴請求はいずれも失当であり、これを棄却した原判
決は正当である。よって、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれを
棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を
適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山中紀行 武田多喜子 井戸謙一)

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