弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     一 原判決を左のとおり変更する。
     1 被控訴人は控訴人Aに対し金九万円、控訴人B、同C、同D、同
E、同F、同Gに対し各金三万円及び右各金員に対する昭和四六年一〇月二二日以
降完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
     2 控訴人らのその余の各請求を棄却する。
     二 訴訟費用中訴状及び控訴状の各提出並びに当審の鑑定に要した費用
はこれを二〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人らの、各負担とし、その
余の費用は第一、二審を通じでこれを一〇分し、その一を控訴人らの、その余を被
控訴人の、各負担とする。
     三 第一項1及び前項は、本判決の確定前に執行することができる。
         事    実
 控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人Aに対し金二〇五万三三三三
円、その余の控訴人らに対し各金六八万四四四四円及び右各金員に対する昭和四六
年一〇月二二日以降完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は
第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被
控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決
を求めた。
 当事者双方の主張及び証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示のとおりである
(ただし、原判決七枚目表一一行目の「否認する」を「知らない」と改める。)か
ら、これを引用する。
 (控訴人らの陳述)
 民事訴訟法第七八条、第七〇条によれば、訴訟告知者とその相手方との間の訴訟
の確定判決の判決理由中に示された事実の認定及び先決的権利関係の存否に関する
判断は、訴訟告知の当事者を拘束し、訴訟告知者と被告知者との間にその後提起さ
れた訴訟において、被告知者が前訴判決の示した判断と異なる事実又は法律関係を
主張することは許されない(最高裁判所第一小法廷昭和四五年一〇月二二日判決・
民集二四巻一一号一五八三頁参照)。
 原判決は、訴訟告知者と被告知者との利害が一致する事項についてのみ右の効力
が生じる旨判示するが、右の効力をそのように狭く解すべき根拠はない。
 本件において、前訴確定判決は、被控訴人がHの代理人として訴外Iに対し本件
係争地を売渡した事実を認定するとともに、被控訴人が本件土地の売却につきHか
ら代理権を与えられた事実を認定しえないと判断したのであるから、被控訴人は本
訴において右の認定判断と異なる事実を主張することは許されないのである。
 (被控訴人の陳述)
 訴訟告知の効力の客観的範囲に関する原判決の理論は正当であつて、この点に関
する控訴人らの主張は失当である。
 かりに控訴人らの主張するとおり、被控訴人の代理行為につき表見代理の効果を
認めた前訴判決の認定判断が本訴において被控訴人を拘束するとしても、前訴判決
は被控訴人の無権代理及び故意、過失につきなんら判断をしていないから、被控訴
人の代理行為が控訴人に対する不法行為に当たると即断することはできない。
 (証拠関係)(省略)
         理    由
 一 控訴人AがHの妻であること及びHが昭和四一年一月七日死亡したことは当
事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の一、二によれば、その余の控
訴人らはいずれもHと控訴人Aとの間の子であることを認めることができる。右の
諸事実及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らはHの遺産を法定相続分すなわち控訴
人Aは三分の一、その余の控訴人らは各九分の一の割合により共同相続したものと
いうことができる。
 二 成立に争いのない甲第二号証の一、二及び甲第三号証によれば、Hはもと福
島市a町b番畑c反四歩を所有していたが、右土地は昭和三七年二月二四日同所b
番c畑五畝四歩(本件係争地)及び同所同番d畑五畝歩に分筆登記され、本件係争
地は昭和三九年五月七日同所同番c宅地一五四坪四合と変更登記され、更にその後
地積の表示が五一〇・四一平方メートルと改められたこと、後記前訴判決において
本件係爭地は右同所同番c宅地五一〇・四一平方メートル(一五四坪四〇)と表示
されでいること並びに本件係争地につき昭和三七年一二月二七日Iのため、同三九
年九月一〇日Jのため、順次所有権移転登記手続がなされた事実を認めることがで
きる(右各事実のうち、本件係争地につきHからIに、同人からJに、順次所有権
移転登記が存する事実は、当事者間に争いがない。)。
 三 控訴人らは、被控訴人がHから代理権を与えられたことがないにもかかわら
ず同人の代理人として右Iに対し昭和三七年一一月二六日本件係争地を売渡し、同
人に対し右所有権移転登記手続をした旨及び被控訴人は福島地方裁判所昭和四四年
(ワ)第二九八号土地所有権確認等請求事件(前訴)における訴訟告知の効果によ
り本訴において右無権代理行為と異なる事実を主張しえない旨主張するのに対し、
被控訴人は右各主張を争い、本件係争地は被控訴人がHから買受けてIに転売し、
登記手続は被控訴人を中間省略したものである旨及び仮定的に被控訴人はHから本
件係争地の売却につき代理権を与えられ右代理権に基づきIに売渡したものである
旨主張する。そこで、前訴の訴訟告知の効果につき判断する。
 1 先ず、次の諸事実は当事者間に争いがない。
 (一) 前訴の原告は控訴人ら、被告は前記Jであつで、控訴人らは、本件係争
地はHの所有であつたが、同人の死亡に因りその共同相続人である控訴人らが法定
の相続分に従つて本件係争地を共有するに至つたと主張し、Jに対し本件係争地の
共有持分権の確認を求めるとともに、真正な登記名義の回復のための共有持分移転
登記手続を請求した。
 (二) Jは、右に対する抗弁として、本件係争地はHからIに売渡されたこと
によりHはその所有権を失つた旨及び右売買についてはHが被控訴人に代理権を与
え、被控訴人がHの代理人としてIに売渡したのであるが、かりに被控訴人が右代
理権を与えられでいなかつたとしても、民法一一〇条の表見代理が成立する旨を主
張した。
 (三) 控訴人らは前訴の係属中被控訴人を被告知者とする訴訟告知をなし、そ
の訴訟告知書は昭和四四年一一月一五日被控訴人に送達されたところ、被控訴人は
同年同月二六日Jを被参加人とする補助参加をした。
 (四) 前訴裁判所は右表見代理の仮定抗弁を容れ、昭和四六年七月一六日控訴
人ら敗訴の判決を言渡し、右判決は確定した。
 2 成立に争いのない甲第三号証によれば、前訴判決は、「Hは昭和三五年ころ
以降しばしば被控訴人に対し所有土地の売却方を委任したが、本件係争地について
は、いずれ被控訴人に処分方を委せることと予定されてはいたものの、明確には定
められていなかつたにもかかわらず、被控訴人は昭和三七年一二月二七日ころHか
ら売却方を委任されていた他の土地と共に本件係争地をも一括してIに売渡し、右
他の土地の売却等のため控訴人Aから預かつていたHの実印を売買契約書に押印し
た。」旨の事実を認定したうえ、「Hにおいて被控訴人に本件係争地の売却につい
ての代理権を授与しでいたとまで認定することは困難である」が、前訴被告Jの表
見代理の主張は理由がある旨判示していることを認めることができる。
 3 右1、2の諸事実によれば、第一に、前訴係属時において、かりに控訴人ら
が勝訴すれば、JはIに対し支払代金額相当の不当利得の返還を、同人は被控訴人
に対し民法一一七条による損害賠償又は不当利得の返還を、順次請求する法律関係
が生じ、また、かりにJが勝訴すれば被控訴人は控訴人らから不法行為に因る損害
賠償を請求される法律関係が生ずることが当然予想されえたものというべく、した
がつて、被控訴人は前訴の当事者双方との間において民事訴訟法六四条所定の「訴
訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」に該当したものということができ、第二
に、したがつて、控訴人らは前訴係属時において同法七六条所定の訴訟告知をなし
うる当事者に該当したものということができ、第三に、前訴における控訴人らの訴
訟告知に対し、被控訴人は控訴人らのための補助参加をしなかつたのであるから、
同法七八条により、被控訴人は前訴の係属中に控訴人らのため補助参加をしたもの
とみなされ、第四に、その結果同法七〇条により前訴の裁判は被控訴人に対しても
その効力を有するものであるところ、同条にいう裁判とは、判決の主文のみなら
ず、判決理由中に示された認定、判断をも含むものと解すべきである。したがつ
て、前記前訴判決主文の効力すなわち控訴人らが本件係争地につき共有持分権を有
しないこと及びJに対し共有持分移転登記請求権を有しないことについてはもとよ
り、前記前訴判決理由中に示された「Hの被控訴人に対する本件係争地の売却方委
任については、予定されてはいたが明確には定められていなかつた」旨及び「Hに
おいて被控訴人に本件係争地の売却についての代理権を授与していたとまで認定す
ることは困難である」旨の認定判断は、本訴において被控訴人を拘束し、被控訴人
は右と異なる事実を主張することができないものといわなければならない。
 <要旨>4 被控訴人は、訴訟告知の効力の客観的範囲に関する原判決の理論は正
当であると主張し、これを援用するので、原判決の理由説示につき検討す
る。
 (一) 原判決は、次のとおり説く。
 「訴訟告知の効果は、被告知者において告知者に補助参加する利益を有する場合
に、民事訴訟法七〇条に規定する参加的効力を受けることにほかならない。ところ
で、参加的効力は、補助参加人が被参加人を勝訴させることによつて自己自身の利
益を守る立場にあることを前提として、被参加人敗訴の場合に、その責任を分担さ
せようとするものであるから、訴訟告知の場合に被告知者が参加的効力を受けるの
は、被告知者において告知者と協同して相手方に対し攻撃防禦を尽くすことにつき
利害が一致し、そうすることを期待できる立場にあることが前提となるものという
べく、そのような場合に、右のように告知者と利害が一致し協同しうる争点に限つ
て、訴訟告知の効果が被告知者に及ぶものと解すべきである。」
 (二) しかし、訴訟告知の制度は、「被告知者において告知者に補助参加する
利益を有する場合」のために設けられたものと解すべきではない。訴訟告知の制度
は、告知者が被告知者に訴訟参加をする機会を与えることにより、被告知者との間
に告知の効果(民事訴訟法七八条)を取得することを目的とする制度であり、告知
者に対し、同人が係属中の訴訟において敗訴した場合には、後日被告知者との間に
提起される訴訟において同一争点につき別異の認定判断がなされないことを保障す
るものである。したがつて、同法七六条にいう「参加をなしうる第三者」に該当す
る者であるか否かは、当該第三者の利益を基準として判定されるべきではなく、告
知者の主観的利益を基準として判定されるべきである。
 (三) 次に原判決は、参加的効力を規定する同法七八条は「補助参加人が被参
加人を勝訴させることによつて自己自身の利益を守る立場にあることを前提」とす
ると説く。右の説示は訴訟告知に基づかず、単純に同法六四条により補助参加をし
た者と被参加人との間については妥当であろうが、訴訟告知者と被告知者との間に
ついては必らずしも妥当しない。けだし、前述のとおり、被告知者が参加をなしう
る第三者であることは告知者がその主観において決定するものであり、右の主観が
客観的に理由あるものであれば、当該訴訟告知は有効であつて、被告知者の主観上
告知者のために参加すべき場合であることを要しないからである。
 (四) したがつて、「被告知者において告知者と協同して相手方に対し攻撃防
禦を尽くすことにつき利害が一致し、そうすることを期待できる立場にある」場合
にのみ被告知者に対して参加的効力が及ぶとする原判決の理論は、採用することが
できない。旧民事訴訟法五九条一項は「原告若クハ被告若シ敗訴スルトキハ第三者
ニ対シ担保又ハ賠償ノ請求ヲナシ得ヘシト信シ又ハ第三者ヨリ請求ヲ受ク可キコト
ヲ恐ルル場合ニ於テハ」告知をなしうる旨を規定していたが、現行法はその適用範
囲を広げるべく改正されたものと解されているところ、右旧規定においてさえ、被
告知者は告知者の主観的利害を基準として定められるべきものとされでいることが
明らかである。
 (五) もとより、係属中の訴訟における争点であつても、被告知者が当該訴訟
に参加してその主張、立証をすることができない法律関係又は事実については、か
かる事項についての判決理由中の認定判断の効力を被告知者に及ぼすことは衡平に
反するものといわなければならない。しかし、被告知者は必ず告知者のために参加
すべき法律上の義務を負うものではなく、被告知者の主観による利害が告知者の主
観による利害と反するときは、敢て告知者の相手方たる当事者のために補助参加
し、又は民事訴訟法七一条、七三条もしくは七五条による参加をすることによつ
て、自己に有利な主張、立証を尽くすことができるのである。したがつて、被告知
者は、かような参加が可能であるにもかかわらず参加を怠つた場合には、訴訟告知
により参加の機会を与えられながらその権利を行使しないことによる不利益を受け
でも衡平に反するとは言えないものといわなければならない。
 (六) これを本件についてみるに、本件前訴において、控訴人らは本件係争地
につき共同相続に因る共有持分権を有すると主張し、前訴被告Jに対し右持分権の
確認及び真正な登記名義の回復のための共有持分移転登記手続を請求したのに対
し、前訴被告は、控訴人らの被相続人であるHがIに対し本件係争地を売渡して所
有権移転登記手続をした旨及び右売買については被控訴人がHから代理権を与えら
れその代理人として契約をしたものである旨を主張したので、控訴人らは右各主張
事実を否認したうえ、被控訴人を被告知者として訴訟告知をしたのであつて、右の
諸事実によれば、前訴係属中控訴人らの主観においては被控訴人は右代理権を有せ
ず、かつ右代理行為は存しなかつたものというべきである。したがつて、控訴人ら
は、一方において被控訴人に対し右代理権及び代理行為の各不存在の立証(反証)
を求めるために補助参加を求める利益を有し、他方において、仮に被控訴人が右代
理権を有し、かつ右代理行為をしたことを理由として敗訴するときは、場合により
被控訴人に対しその受領した代金の支払を求め、或いは受領すべかりし代金額相当
の損害賠償を請求することができ、また、仮に右代理権は存在しないが代理行為は
存在し、かつ表見代理が成立するとの理由で敗訴するときは、被控訴人に対し不法
な無権代理行為に因る損害賠償を請求しうる立場にあつたものということができる
から、控訴人らは、敗訴のときをおもんばかり、右代理権及び代理行為の各存否に
つき、被控訴人に対し参加的効力を及ぼすために本件訴訟告知をする利益を有した
ものというべく、右の判断は、控訴人らの主観においてのみならず、客観的にも正
当である。
 更に、被告知者たる被控訴人は、その主観において前記代理権が存在しないと信
ずるときは控訴人らのために補助参加することにより、また、これが存在すると信
ずるときは前訴被告のため補助参加することによつて、その主張立証を尽くすこと
ができる地位にあつたものというべきであり、また、被控訴人がその主観において
前記代理行為が存しなかつたと信ずるときは控訴人らのため、これが存したと信ず
るときは前訴被告のため、それぞれ補助参加をして主張立証を尽くしうる立場にあ
つたものというべきであつて、被控訴人がこれらの補助参加をすることを阻害した
事実の存在については、主張も立証もないのみならず、現に、被控訴人はその主観
に従い前訴被告のために補助参加をしたのである。
 (七) 以上説示したとおり、控訴人らは本件訴訟告知により被控訴人の代理権
及び代理行為の存否につき被控訴人に参加的効力を及ぼす主観的、客観的な利益を
有し、かつ、被控訴人は右の各争点につき前訴において補助参加をすることが可能
であつたのであるから、右各争点に関する前訴判決理由中の認定判断は、本件訴訟
において被控訴人を拘束するものといわなければならない。したがつて、被控訴人
は、本訴において、代理行為の不存在(転売人である旨の主張)及び代理権の存在
を主張することは許されないものというべきであり、これと異なる原判決の見解は
左袒することを得ない。
 5 被控訴人は、前訴判決は被控訴人の代理行為につき民法一一〇条の適用を肯
定したにとどまり、被控訴人が代理権を有しなかつたことを認定したものではない
と主張する。しかし、前記認定のとおり、前訴判決は「本件土地については、いず
れ被控訴人に処分方をまかせることと予定されてはいたが、その点については明確
には定められなかつた。」「以上認定した事実によれば、Hにおいて被控訴人に本
件土地の売却についての代理権を授与していたとまで認定することは困難である」
と認定判断し、被控訴人が代理権を有したとする前訴被告の主張を排斥したのであ
るから、民事訴訟法七八条、七〇条により、被控訴人は本訴において控訴人らに対
し自己の代理権を主張しえず、したがつて被控訴人の代理行為は無権代理行為であ
るとの控訴人らの主張を甘受しなければならないものというべきである。
 四 控訴人らは、被控訴人の前記無権代理行為はHに対する不法行為を構成する
旨主張し、これに対し被控訴人は、無権代理行為即不法行為ということはできない
旨主張する。
 しかし、前記認定の前訴判決理由によれば、被控訴人はHから他の土地について
は売却の委任を受けたが本件係争地については売却方の委任を受けていなかつたに
もかかわらず、これを右受任にかかる他の土地と共に一括して売却したのであるか
ら、本件係争地の売却については、少くとも代理権を与えられたと軽信した点に過
失があるといわなければならない。
 成立に争いのない乙第六号証並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結
果中被控訴人が本件係争地の売却についても代理権を与えられたと信ずるにつき過
失がなかつたことを伺わせるような記載・供述部分は、成立に争いのない甲第三三
号証並びに原審及び当審における控訴人A本人尋問の結果に比して措信し難く、他
に右の過失の認定を左右するに足る的確な証拠はない。
 以上認定判断したところによれば、Hは被控訴人の不法行為に因り本件係争地の
所有権を失い、同土地の価格相当の損害を被つたものということができる。
 五 被控訴人は、本件係争地につき被控訴人とIとの間に売買契約が成立した昭
和三七年二月二六日当日、Hは被控訴人の不法行為に因る損害発生の事実を知つた
旨主張し、同日から三年の経過によりHの損害賠償請求権につき消滅時効が完成し
たと主張する。
 しかし、成立に争いのない乙第五号証、原審証人Iの証言並びに、原、当審にお
ける被控訴人本人尋問の結果中、本件係争地及びその隣地である前掲b番dの土地
の売買交渉時及び農地法五条の規定による許可申請に対する係官の現地見分に際
し、Hが本件係争地についても境界を指示し、或いはIから境界の変更について相
談を受けた旨の記載及び供述部分は、いずれも前記前訴判決の認定事実と対比して
措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。したがつて、右時効の抗
弁は採用することができない。
 六 そこで進んでHの被つた本件係争地の価格相当の損害額につき判断する。
 控訴人らは、本件訴訟を提起した昭和四六年一〇月当時における本件係争地の時
価は金六一六万円であり、控訴人らは右金額相当の損害を被つた旨主張する。
 前掲乙第六号証によれば、被控訴人は前記本件不法行為当時福島市において不動
産取引業を営んでいた事実を認めることができ、右の事実によれば、被控訴人は本
件不法行為時において将来本件係争地の価格が上昇することを予見しえたものとい
うことができる。しかし、被控訴人の本件不法行為に因る被害者はHであることは
前記認定のとおりであり、控訴人らはHの取得した被控訴人に対する損害賠償請求
権を相続に因り承継したのであるから、たとえHの死亡後も本件係争地の価格が上
昇を続けたとしても、Hの損害額はその死亡時における価格相当額であると言わざ
るをえない。
 そこで、Hの死亡した昭和四一年一月七日当時における本件係争地の価格につき
検討する。前掲甲第三号証によれば、前訴判決はその理由において、Hは昭和三七
年二月二〇日ごろ被控訴人に依頼して福島市a町b番畑三〇四坪を本件係争地及び
同所同番d畑一五〇坪に分筆したうえ、同土地を代金四五万円で売却した事実を認
定したことを認めうるので、右認定事実は本件訴訟において控訴人らを拘束するも
のというべきである。よつて、右認定事実を基礎として本件係争地の昭和四一年一
月七日当時の価格を検討する。
 成立に争いのない甲第二号証の一、二、同第二四号証、同第二八号証、乙第三号
証に当審における鑑定の結果の一部を総合すると、
 1 前記分筆前のb番の土地はほゞ南北に長い長方形の土地で、短辺である北辺
のみが道路と接していたこと、
 2 右土地から本件係争地が分筆された結果、本件係争地は右土地の南側部分で
あるため、いわゆる盲地となつたこと、
 3 盲地である本件係争地の価格を評価する方法としては、分筆前の一筆の土地
の価格から前記b番dの土地の価格を差引いた価格の七五%と算定するのが適当で
あるところ、分筆前の一筆の土地全体の価格は、その形状上利用効率が悪いため、
その単位面積当たり価格は前記b番dの土地のそれに比して九%低落すること、
 4 前記b番dの土地の実測面積は四九六・九五平方メートル(一五〇坪三合三
勺)、本件係争地の実測面積は五一〇・四一平方メートルであること、
 5 Hが前記b番dの土地を売却した当時の本件係争地の価格を前記3の方式で
算出すると、
{(四五万円÷四九六・九五)×(四九六・九五+五一〇・四一)×〇・九一-四
五万円}×〇・七五=二八万五〇六八円
となること
 6 Hが前記b番dの土地を売却した時から被控訴人の不法行為時を経て昭和三
七年一二月末までの間に本件係争地の価格が上昇した事実を認めるに足る証拠はな
いが、本件係争地の価格は、右時点を一〇〇とすれば昭和四〇年一二月末は一四〇
であつた。したがつて、昭和四〇年一二月末における本件係争地の価格は
  二八万五〇六八円×一・四=三九万九〇九五円
 となること、
 以上のとおり認めることができる。したがつて、Hの死亡時における本件係争地
の価格も右と同一の三九万九〇〇〇円(一〇〇円未満切捨)であつたと認めること
ができる。
 もつとも、前掲甲第二八号証によれば、Iは昭和三九年に至り前記b番dの土地
を更に同番のd、eに分筆したこと及び新b番dの土地は分筆前のb番dの土地の
西側及び南側を』形に分割したものである事実を認めることができ、右の事実によ
れば、新b番dの土地は本件係争地から道路に通ずるための私道敷として分筆され
たものと推定することができ、したがつて、Hの死亡時における本件係争地の客観
的価格は前記認定価格よりも高額であつたと認められるが、右はIが自己の費用で
私道敷を設けたことによるのであるから、かかる措置をとることなく旧b番dの土
地を売却したHの損害額を算定するに当たつては、右の事実を考慮すべきではな
い。
 当審における鑑定の結果中前記認定に副わない部分は、その基礎とする事実が前
記前訴判決の認定事実と異なるので採用することができず、他に前記認定を左右す
るに足る的確な証拠はない。
 七 被控訴人は、右Hの損害の発生についてはHにも過失があると主張するの
で、この点につき判断する。
 原審証人Iの証言により成立を認めうる乙第一号証の五、成立に争いのない同号
証の六、甲第三三号証に右証人Iの証言、原審及び当審における控訴人A及び被控
訴人各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、前記分筆前のb番dの土
地と本件係争地のIに対する所有権移転登記手続は同時になされたが、その際Hの
権利を証する証書が存在しなかつたため、Iはその弟及び母に依頼して右二筆の土
地がHの所有であることを証する保証書を作成し、これを所有権移転登記申請書に
添付しで登記手続をしたところ、所轄の福島地方法務局登記官吏はHに対し、右申
請につき不動産登記法四四条ノ二第一項に基づき確認を求める昭和三七年一二月一
二日付のはがきを郵送し、右はがきには、不動産の表示として本件係争地の表示が
明記されたうえ「外土地一筆」と記載され、更に登記原因売買、登記の目的所有権
移転、登記権利者Iと明記されでいたにもかかわらず、その頃右はがきの配達を受
けたHからこれを示された控訴人Aは、前記分筆前のb番dの土地一筆のみにつき
確認を求められたものと誤信し、Hのため保管していた同人の印章を同人を代理し
て右はがきの確認欄に押印して、これを福島地方法務局に返送した事実を認めるこ
とができる。
 当審における控訴人A本人尋問の結果中、同控訴人が右のように誤信したのは被
控訴人から右問い合わせのはがきはHが売却を依頼した旧b番の土地のうちの半分
のみに関するものであると告げられていたからである旨の供述部分は、前掲甲第三
三号証及び原審における被控訴人本人尋問の結果と対比して措信し難く、他に右の
認定を左右するに足る証拠はない。
 右の事実によれば、H又はその代理人であつた控訴人Aが登記官吏の問い合わせ
に対し的確な返答をしたならば、本件係争地についてIに対する所有権移転登記を
阻止し、損害の発生を未然に防止することができたにもかかわらず、右両名は右問
い合わせは本件係争地に関するものでないと軽信し、その所有権移転登記を許容し
たのであるから、前記認定の損害の発生についてはHにも過失があつたものと言わ
なければならない。
 なお、被控訴人は、Hは本件係争地につき福島県知事に対し農地法五条に基づく
許可申請をなし、また司法書士に対し登記申請用委任状を交付した点にも過失があ
ると主張する。しかし、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第一号証の一、四
(同号証の一のうち官署作成部分の成立は争いがない。)によれば、右許可申請書
及び登記申請書は、いずれも一通の書面に本件係争地及び前記分筆前のb番dの土
地の二筆の土地の表示を記載し、司法書士Lが申請代理人となつて作成されたもの
であることを認めることができるところ、原審における証人Kの証言並びに控訴人
A及び被控訴人各本人尋問の結果によれば、右許可申請は被控訴人から依頼を受け
たKがL司法書士に依頼してなされたものであり、右登記申請は被控訴人がH名義
の委任状を同司法書士に交付しで依頼したものであつて、Hも控訴人Aも右各申請
の委任状に自ら押印したことはなく、Hの印章を保管していた控訴人Aは被控訴人
に対し前記分筆前のb番dの土地の売却手続に使用させるためHの印章を預けてい
たものであることを認めることができ、前掲乙第六号証並びに原審及び当審におけ
る被控訴人本人尋問の結果中右の認定に反する部分はいずれも措信し難い。乙第一
号証の三のうち登記申請用委任状のうちH名下の印影が同人の印章により顕出され
たものであることは当事者間に争いがないが、右認定事実によれば、右印影がHに
より押印されたものと推定することはできず、却つて被控訴人によつて押印された
ものと推定するに十分である。したがつて、被控訴人の前記各主張を採用すること
はできない。
 前記認定したH及びその代理人であつた控訴人Aの過失を考慮するときは、前記
Hの損害額のうち被控訴人に請求しうべき金額は金二七万円と認めるのが相当であ
る。したがつて、Hの死亡に因る相続により、被控訴人に対し控訴人Aは金九万
円、その余の控訴人らはそれぞれ金三万円及び右各金員に対するHの死亡後完済ま
で民法所定の年五分の利率による遅延損害金の請求権を取得したものということが
できる。
 八 以上認定判断したところによれば、控訴人らの本訴請求中被控訴人に対し控
訴人Aは金九万円、その余の控訴人らはそれぞれ金三万円及び右各金員に対する相
続開始後である昭和四六年一〇月二二日以降完済まで年五分の割合による金員の各
支払を求める部分は理由があるからこれを認容すべきであるが、その余の各請求は
理由がないからこれを棄却すべきであつて、右と異なり控訴人らの請求を全部棄却
した原判決は一部失当である。
 よつて、原判決を右認定の限度で変更することとし、訴訟費用の負担につき民事
訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適
用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 大和勇美 裁判官 桜井敏雄 裁判官 渡辺公雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛