弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主       文
   1 本件各控訴をいずれも棄却する。
   2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人ら
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 京都府知事が,控訴人らに対し,原判決別紙・一覧表「処分日」欄記載の各日付でした障害基礎年金を支給し
ない旨の各処分は,いずれも取り消す。
  (3) 被控訴人国は,控訴人らに対し,それぞれ2493万6000円を支払え。
  (4) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。
  (5) 第3項につき仮執行宣言
 2 被控訴人ら
   主文と同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,幼少時から感音性難聴等の障害を有する在日韓国・朝鮮人である控訴人ら(ただし,控訴人P1及び同
P2は帰化して日本国籍を取得している。)が,京都府知事に対し,障害基礎年金を給付する旨の裁定を求めたところ,
京都府知事は,昭和56年法律第86号による改正前の国民年金法のいわゆる国籍条項等に基づいて,障害基礎年金を
支給しない旨の各処分をしたが,このような国籍条項及び国籍条項が改正により削除された後も改正前にすでに不支給
状態となった者については従前の例によるものと定めた法律の各規定は,在日韓国・朝鮮人を不当に差別するものであ
り,憲法14条1項及び国際人権規約に違反し無効であるから,これを根拠としてされた上記各処分は違法であるなど
と主張して,被控訴人社会保険庁長官に対し,それぞれ上記各処分の取消しを求めるとともに,上記の国籍条項及び法
律の各規定に関する国会の違法な立法行為ないし控訴人らに対し何らの救済措置も講じない立法不作為により,控訴人
らは本来得られるべきであった障害基礎年金を逸失し,また精神的な苦痛を被ったとして,被控訴人国に対し,国家賠
償法1条1項に基づき,それぞれ上記逸失利益及び慰謝料の支払を求めた事案である。
   なお,控訴人らは,平成12年3月15日,本件取消請求の被告を京都府知事として訴えを提起したが,地方分
権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号)が平成12年4月1日に施行された
ことにより,同法199条で,国民年金法3条2項中の国民年金事業の事務の一部を都道府県知事に行わせることがで
きる旨の規定が削除されたことに伴い,同法16条に基づき,障害基礎年金の給付を受ける権利の裁定に関する事務は
社会保険庁長官が行うこととなったので,京都府知事のした各処分につき,被控訴人社会保険庁長官が被告(被控訴
人)の地位についた。
   原判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らは控訴に及んだ。
 2 争いのない事実等,争点,争点に対する当事者の主張は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理
由」の第二の一ないし三(原判決3頁11行目から21頁21行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
 3 控訴人らの当審主張
  (1) 国民年金制度
   ア 国民年金制度は,憲法25条2項に規定する理念に基き,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定がそ
こなわれることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とす
る。
     国民年金法1条の目的の「国民」は「社会構成員」との趣旨である。これを純粋な国籍保有者との趣旨で解
するのであれば,国籍のみに基づいた差別であって,違憲・国際人権規約違反で無効である。
     少なくとも,一般外国人の加入を認めた昭和56年の国民年金法改正後はなおさらである(難民条約批准)
。国民年金法1条の上記目的規定の「国民」は「社会構成員」と読み替えるしかない。
   イ 国民年金制度において「皆年金」を実現するために,他の公的年金とは違って,保険方式による拠出年金だ
けでなく,別紙経過的特例措置の「1 制定時の経過的特例」のとおり,すでに老齢,障害の状態にある人には無拠出
の福祉年金を併設することで,国民年金制度は発足した。掛金(保険料)を払わなくても年金が受給できるためには,
「共同連帯」という理念がどうしても必要であった。
     国民年金の国庫負担も,税の一部からまかなわれている。国民年金制度は誰もが「社会の一員」として保険
料や税金を納めることで年金の財源を負担し,その財源から,老齢,障害などの状態にある人の年金保障にあてるとい
う「共同連帯」によって成り立っているのである。
     したがって,20歳以上の者を被保険者とすると同時に,20歳以上の障害者は,「国民」皆保険の見地か
ら,原則としてそのすべてを本来的年金資格者として扱うことになる。立法時年齢20歳以前の障害者(現在の障害)
と将来の障害者に対する救貧は,ともに,本来的な制度目的に含まれる。国民年金法の目的は社会の「共同連帯」にあ
り,あくまでも保険方式は,目的実現のための1つの手段である。障害福祉年金において補完,経過年金を規定したの
は,法技術的に保険方式を前提とした例外規定の形をとっているだけである。
   ウ 被保険者資格としての住所要件,国籍要件は,年金制度の連帯性を生み出すほどの,時間的,空間的な永続
的一体性のある社会構成員性を意味する。法が要求する住所要件は,事実上の社会構成員性を意味し,国籍要件は,日
本国籍があること自体を意味するのではなく,単なる住所のみではなく,日本国籍保有者が有しているほどの日本社会
との時間的,空間的な結びつきの強さが存在することを意味しているにすぎない。
     永住外国人には,国民と同じ程度の時間的継続性,空間的密接性が存在することは明らかである。加えて納
税は国籍に関係なく国内「居住者」の義務とされ,在日韓国・朝鮮人らは日本国民と同じく「社会(居住者)の一員」
として,社会的共同連帯関係にあり納税の義務を果たしている。国民年金資格の取得の要件で国民と差がない。当然に
年金保障がされなければならない。
   エ 被控訴人国は,永住外国人につき「国民」と同一視せず,終始「一般外国人」と同一視して国民年金法の保
護を排除してきた。
     すなわち,旧法制定時,在日韓国・朝鮮人については,国民年金法が想定する対象者の資格において「国
民」と実質的に変わらないことを認識しながら,国民年金法の当初明らかに予想しない一般外国人と「国籍を有しない
者」との同一性のみを理由に適用を排除した。被控訴人国は,昭和56年に整備法を制定した時も難民と永住外国人と
の違いがあることは充分認識していた。しかるに,昭和56年の整備法は,永住外国人が「国民」と法の目的において
同じ地位を有するにもかかわらず,難民・一般外国人と同じ扱いしか認めなかった。
     その後,国民年金法は,昭和60年に改正され,障害福祉年金は,障害基礎年金へと裁定替えされたが,他
方で昭和60年改正法附則32条は,「旧国民年金法による年金たる給付については,なお従前の例による」と規定し
たため,昭和60年改正の際も控訴人らに対しては従前の状態が維持されることとされ,何らの補完措置も,救済措置
も講じられないままであった。
  (2) 旧法の国際人権規約違反
   ア A規約2条2項の自動的,即時執行性
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     A規約2条1~3項の関係,構造を見れば明らかなとおり,1項において「自国における利用可能な手段を
最大限用いつつ,権利の完全実現へ向けて漸進的達成」を許容しているが,2項はその達成途上であっても,「人種…他
の地位(国籍が含まれることは争いがない。)に対する客観的・合理的理由のない差別は許さない」との制限規定であ
り,他方3項で「開発途上にある国」では,「外国人への自国民と同等の社会権保障」が過重な負担となることがあり
得ることから,途上国には一定の緩和規定を置いているのである。同条1項と2項との関係は,「1項で漸進的達成が
許容されても,その達成途上,方法において客観的・合理的でない差別は許されず,したがって国籍による差別は許さ
れない」というように,2項は1項の制約規定として即時執行的性格を有すると解するのが正しい解釈である。
     このように,A規約2条2項が,同条1項とは異なり,自動執行的性格を有することは,国内的にももはや
通説的見解と言ってよい(芹田「人権と国際法」ジュリスト681号24頁,「国際人権規約」法学セミナー臨時増刊
125頁,多谷「国際人権」第2号71頁)。また,国際的にも,国連の社会権委員会作成のA規約2条に関する「一
般的意見」3において,同様の趣旨が次のとおり確認されている。すなわち,「差別禁止条項をはじめとして即時性を
もった若干の実体的権利が社会権規約中に存在すること,次に,漸進的達成が予定される権利にしても,少なくともそ
の目標に向かっての一定の行動が合理的な短期間の間にとられなければならないこと」などである(日本評論社「国際
人権法」80頁)。更に,平成13年8月30日に採択されたA規約に関する日本政府の第2回定期報告書に対する「
総括所見」(甲A第18号証)においても,A規約2条2項の差別禁止原則は,2条1項とは異なり,自動執行力があ
り国内法上も直接適用が可能なものと解釈されるべきことが明確に指摘されている。
   イ B規約26条違反の有無の判断基準
     国際人権規約の締約国においては,B規約26条に基づき,異なるカテゴリーに属する者同士の間に,国家
の施策上の別異な取扱いをなすことは原則的に許されず,例外的に別異取扱いが許される場合があるとしても,その要
件は極めて厳格なものとされており,当該別異取扱いをする目的が,規約の下において正当な目的を達成するためであ
り,かつ,そのために選ばれる手段が目的達成のために必要最小限度のものでなければならない。この基準は,自由権
規約に関わる立法等に対する基準であるが社会保障立法の場面でも同様に適用される。国籍要件は,国籍の有無という
異なるカテゴリーに属する者同士の間に,年金受給権の有無という国家の施策上の別異な取扱いをもたらしているもの
であるから,B規約26条によって原則的に禁止される。もし仮にこれがB規約26条に違反しないというのであれ
ば,被控訴人国の側で,目的の正当性とその手段が必要最小限度であることを具体的に主張立証しなければならず,そ
の当否についての判断は,B規約26条違反が問題となった際に一般的に用いられる審査基準,すなわち,ある別異取
扱いについて,「基準が合理的であり,かつ客観的である場合であって,かつまた本規約の下で合法的な目的を達成す
るという目的で行われた」か否かどうか(「合理的かつ客観的な基準」),またその取扱いが,「国家の正当な目的を
達成するために,必要最小限度の制約を伴うにとどまるもの」かどうか(「比例原則」)を併せて検討する基準によら
なければならない。
     これは,日本の国内裁判所が憲法14条にいう平等原則違反の有無を審査する際に用いる「緩やかな合理性
の基準」とは明らかに異なるものである。
   ウ A規約2条とB規約26条による立法裁量の制約
     A規約2条は,1項において,A規約に定める権利が立法措置その他のすべての適当な方法による保障体制
によって確立されることを保障しつつ,2項において,現に確立され,あるいは確立されつつある保障体制の中で差別
的取扱いがなされないことを保障している。両者は保障の対象を異にしているとともに,前者が漸進的達成義務を尽く
すことで足りるとしても,後者については,国家に対して即時実施義務を課するものであって,国家が一旦立法措置等
をなす以上,その法内容は平等原則にかなったものでなければならないとしているのである。平等保障は常に即時実施
的でなければならないと解すべきことは,国際人権規約の解釈として「定説」とさえ言ってよい。
     それゆえ,A規約2条1項の実現のために,一定の裁量の余地があるとしても,一旦,立法がなされる以
上,その内容は平等原則にかなったものでなければならない。換言すれば,2項は1項の立法裁量等を平等原則という
形で制約しているのであって,少なくとも平等原則に反するような立法は「一切」許容されないのである。
     A規約2条2項,B規約26条は,①人種,②皮膚の色,③性別,④言語,⑤宗教,⑥政治的意見,⑦国民
的もしくは社会的出身,あるいは⑧他の地位による差別を禁止している。国籍要件による年金受給権に関する区別は,
A規約2条2項及びB規約26条が差別を禁じる地位,属性のうち,国民的若しくは社会的出身,あるいは,他の地位
に基づく区別に該当する。
     国際人権規約の解釈は,ウィーン条約をはじめとする条約の国際的な解釈原則に則って行われなければなら
ないのであり,規約人権委員会の「見解」や「一般的意見」等は,その重要な解釈の補足手段となる。条約法の国際的
解釈原則は,国際人権規約について国際的に統一的な解釈がなされるよう存在しているのであって,日本国の裁判所
は,政府が自ら国際人権規約を批准した以上は,この解釈原則に則って規約の解釈を真摯に探求し,もって国際的に統
一的な解釈に整合する規約の運用を実現せねばならない。これは,憲法98条2項の要請であって,規約人権委員会の
「見解」や「一般的意見」が法的拘束力を有しているからではなく,締約国相互において,規約の解釈が国際的に統一
してなされるよう,補充的解釈手段として機能していることからの当然の帰結であり,まして選択議定書を批准してい
るかどうかとは全く無関係の問題である。
   エ 国籍要件の不合理性
     国籍要件は原則としてB規約26条に違反するものであり,これが例外的に許容されるためには,特に国籍
要件に基づいて年金受給権に区別を設けることが,基準として合理的であり,かつ客観的であるといえる場合であっ
て,かつまた本規約の下で合法的な目的を達成するという目的で行われたものであり(立法目的の合理性),国家の正当
な目的を達成するために,必要最小限度の制約を伴うにとどまるものでなければならない(手段の最小限度性)。
     ところが,国籍要件は立法目的において合理性を有しない上に,手段としても最小限度性を欠くものであ
る。
    (ア) 被控訴人らの国籍要件の立法目的に関する主張は,①社会保障における帰属国家責任論と②掛け捨て弊
害論に尽きる。
(イ) 社会保障の帰属国家責任論は,少なくとも今日の国際社会において,受け入れられる余地はない。第二
次世界大戦以後,ILO,国連における移住労働者に関する条約・決議や,EU諸国を中心とする多国間・二国間条約
及びその判例法(特にEEC条約)などにおいては,社会保障を含む内外人を平等に取り扱う傾向は国際的に明確とな
っており,少なくとも一定期間国内に在住した外国人については,社会保障に関しても内国人と全く同様に取り扱うこ
とが国際社会の共通理念としてほぼ確立されているからである。国籍要件が社会保障の帰属国家責任論の思想を具現化
したものであるというならば,その目的は,立法当初より国際的に承認される余地を有していなかったものであって,
到底正当性を有しない。
      そして,特別永住資格者として日本国との関係で安定した法的地位を有する控訴人ら在日韓国・朝鮮人の
ように,日本で生まれ育ち,日本国における社会以外での生活を想定することが非現実的であり,かつ不自然である者
との関係においては,国籍を基準として社会保障の責務を国籍国にゆだねることなど,現実問題として不可能である。
在日韓国・朝鮮人も日本国籍を有する者と同様納税の義務を負い,現実に納税しているのであるから,これらの者に対
する社会保障の担い手は,日本国政府をおいて他にない。社会保障の帰属国家責任論は,少なくとも控訴人ら在日韓国
・朝鮮人との関係では,国籍要件を正当化する根拠たり得ないといわねばならない。
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    (ウ) 掛け捨て弊害論は,要するに,外国人は,一旦,年金保険料を納め始めたものの,受給資格期間満了前
に帰国する可能性があるところ,そうなればこれまで納められた保険料は掛け捨てとなり,かえって不利益をもたらす
ことになる旨をいうものである。
      しかし,被用者の年金制度である厚生年金制度にあっても,20年の長期にわたり,保険料を拠出しなけ
れば受給資格期間を満たさず,掛け捨ての弊害が起こり得るという点については違いがない。それにもかかわらず,厚
生年金制度には当初より国籍要件が付されていなかった。したがって,国民年金制度についてのみ,掛け捨ての弊害を
考慮して国籍要件を付するということは,かえって事業所に常時雇用される者とそうでない者との不平等をきたすもの
であって,その立法目的において正当性がない。のみならず,国民年金と厚生年金との間で国籍要件の有無に違いを設
けたがため,かえって日本国籍を有しない者は,失職や転職等を理由に厚生年金制度から国民年金制度に移行しようと
しても,受け入れ先の国民年金制度への加入資格自体が認められていなかったため,その連続的加入をなし得ず,それ
がためにかえってこれまで掛け続けた厚生年金保険料が掛け捨てになる事態さえ,あえて作り出すことになるという制
度的矛盾をはらんでいたのである。
      したがって,国民年金に国籍要件を設けたことは,厚生年金加入者との関係で不平等な結果をもたらすこ
ととなり,結果的に差別的取扱いをもたらすものであるから,その目的において正当性は存しないといわねばならな
い。
      そして,掛け捨ての弊害が起こり得る外国人については,一律にこれを制度から排除しなくとも,任意加
入を認める方法により,また,これまで掛け続けた保険料の払戻しを認めることで,これを実質的に回避することがで
きた。厚生年金にはこのような制度があるのだから,国民年金制度でも同じような手段を用いることは,現実的にも可
能なはずである。
      このような回避手段を考慮せず,単純に国籍要件の設置による外国人一律排除の制度を構築することは,
目的達成のための手段としての必要最小限度性を欠いている。
      更に,掛け捨て弊害論は,外国人については,日本国在住期間が必ずしも安定しなかったという論理を支
えにしているが,控訴人らのような在日韓国・朝鮮人は,深刻な「歴史的経緯」を有するものであり,日本国内にとど
まらざるを得ない特殊なカテゴリーに属する者であったことを看過している。戦後15年近く経過して制定された国民
年金法の立法当時において,在日韓国・朝鮮人という特殊なカテゴリーに属する者については,既に日本国に相当期間
定住した住民であり,在日一世でさえ,多くは生まれた土地での生活基盤を失っており,現実問題としては帰国するこ
とが困難な状況にあったし,日本国で生まれ育った在日二世以降の世代にとっては日本国籍を有する者と同様,日本国
にしか生活基盤は存在し得ず,その後の現実の経過も定住化の状況を辿っている。在日韓国・朝鮮人については,日本
国籍を有する者と同様,日本国への定住の意思と実態を有していることは,もはや顕著な事実である。
      在日韓国・朝鮮人までも含めて,国民年金の加入資格から排除したことは,目的達成のための必要最小限
度性を逸脱する広汎な制約であるといわねばならない。
    (エ) 社会保障の帰属国家責任論にも,掛け捨て弊害論にも,B規約26条に反しないといえるだけの合理性
は存せず,被控訴人国側において,その他に国籍要件の合理性を具体的に主張立証し得ない以上,国籍要件はB規約2
6条に違反するものであることは明白である。
  (3) 旧法の憲法14条違反
   ア 憲法の定める国際協調主義からすれば,国際人権規約の解釈原理は,憲法14条に関する法解釈の際にも反
映されなければならない。憲法は,98条2項において「憲法と国際法とは調和して解釈されなければならない」とい
う国際法調和性の原則を明言しているのであり,かかる国際法調和性の原則を通じて,「日本国を拘束する」国際法を
尊重するという国民の意思を特別に憲法的地位に高めているのである。
     したがって,日本国が締結した条約については,国内裁判所に対して,憲法の規定を解釈するにあたって
も,できる限り条約と適合する内容の解釈を行うことが法的に要請されているのである。これは憲法が条約に優位する
ことと矛盾するものではない。なぜなら国際法調和の原則によって条約に憲法的地位を承認することになるとしても,
憲法に反する条約規定が存在するような場合にはそれは違憲無効であることは明らかであるからである。
   イ B規約26条は,憲法14条と同趣旨の規定であるから,憲法14条の規定の解釈にあたってB規約26条
の解釈と適合するよう解釈することが憲法98条2項により法的に要請されているということとなる。
     本件訴訟の争点は,国籍による差別が合理性を有するか否かという点に尽きることも明らかであるが,本件
のような国籍による差別については憲法14条1項で禁止されている差別の範囲内か否かは必ずしも明らかでない。こ
の点,B規約26条違反を論ずべき厳格な基準ではなく,立法府の広汎な裁量を認め,一定の別異取扱いに対しても合
憲性の推定を付与する,いわゆる「合理性の基準」を用いて,その合理性があることから合憲ということはできない。
そうすると,国民年金法における国籍条項がB規約26条に違反し無効なものであることは前記のとおりであるから,
国民年金法における国籍条項は憲法14条の規定に違反する違憲の法律であるとの結論が必然的に導かれることとな
る。
  (4) 整備法及び昭和60年改正法の憲法,国際人権規約違反
   ア 整備法に関する平等原則違反
     難民条約批准に伴い,内外人平等原則が謳われ,国籍条項が削除されたことは,法の趣旨目的が社会共同連
帯である社会構成員皆保険のもとに,老齢,死亡,疾病障害の事故発生に関し,社会による扶養の理念を確認ないし改
正したことを意味する。ここにおいて,①国籍保有者,②国籍保有者と同視し得る密接な結びつきを有する社会構成
員,③難民・一般外国人などのいずれもが社会構成員性の強弱はあっても,社会連帯に基づく社会構成員として,皆保
険の理想に服することになった。整備法附則5項で,控訴人らを排除した本件各処分は違法である。
     法は,国民皆保険・無年金者排除の見地から見て本人に帰責できない事情で資格要件を欠く者に対しその原
因が解消されたときは立法などにより資格を付与すべき義務を規定している。別紙経過的特例措置の「2 小笠原・沖
縄復帰など特例措置」の(1)ないし(4)はこのような義務の存在を認め,これを履行した例であった。整備法による国籍
条項削除により,外国人も強制加入の対象となり,国民年金法は,外国人にとって初めての制度となったから,当初旧
法制定時に,日本国民にとったと同じ経過特例措置を講じなければならない。外国人について同81条の旧法施行期日
昭和34年11月1日を整備法施行日の昭和57年1月1日と読み替える立法をすればよかった(小笠原の国民年金法
適用の際の障害年金の経過措置と同じである。)。したがって,整備法制定時,上記のような特例措置をとらなかった
ことは,客観的合理的理由のない差別であり,内外人平等の原則に反する。しかも,昭和57年1月1日以降に満20
歳の誕生日を迎える者(昭和37年1月1日以降に生まれた者)であれば,支給が認められるが,昭和37年1月1日
より前に生まれた者については支給が認められないということとなり,誕生日がある特定の日以降であるというだけで
後者は前者と比較して極めて不平等かつ不合理な状態に置かれる。まして,控訴人らのような永住外国人は,旧法制定
時より日本に居住し,日本国民と同等の社会との継続的・不可分一体の社会構成員性を持つ者でありながら,国籍条項
が削除され自己の責に帰すべからざる事由が解消されたにもかかわらず,日本国民と同様の扱いを一切されなかった。
同じ条件の者を客観的・合理的理由なく国籍のみに基づき異なる取扱いをした点で平等原則違反となる。
   イ 一般外国人・難民と区別された永住外国人の概念定立の可能性と明確性
    (ア) 昭和60年改正法以降,国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令(昭和
61年3月28日号外政令第54号)12条(その後数次の改正を経た現行政令)に規定する次の者の老齢年金につき
ページ(3)
国民年金に加入できなかった期間(20歳以上60歳未満)の通算の経過規定が設けられたことにより,一般外国人と
区別された永住外国人のカテゴリーが定立された。
                  記
      第十二条 昭和六十年改正法附則第八条第五項第十号に規定する政令で定める者は,次のとおりとする。
     一 施行日において出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律(平成元年法律第七十九号)による改
正前の出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。以下「旧入管法」という。)第四条第一項第十四号
の規定に該当する者としての在留資格を有する者及び施行日後六十五歳に達する日の前日までの間に当該在留資格又は
日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成三年法律第七十一号。以下「
平和条約国籍離脱者等入管特例法」という。)附則第七条の規定による改正前の出入国管理及び難民認定法(以下「平成三
年改正前の入管法」という。)別表第二の永住者の在留資格を有するに至った者
     二 六十五歳に達する日の前日までの間に平和条約国籍離脱者等入管特例法附則第七条の規定による改正後
の出入国管理及び難民認定法別表第二の永住者の在留資格を有するに至った者
     三 六十五歳に達する日の前日までの間に平和条約国籍離脱者等入管特例法第五条第一項の許可を受けた者
     四 平和条約国籍離脱者等入管特例法附則第十条の規定による改正前のポツダム宣言の受諾に伴い発する命
令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律(昭和二十七年法律第百二十六号)第二条第六項に該当する者
であって,同法の施行の日から施行日まで引き続き本邦に在留している者
     五 平和条約国籍離脱者等入管特例法附則第六条の規定による廃止前の日本国に居住する大韓民国国民の法
的地位及び待遇に関する日本国と大韓民国との間の協定の実施に伴う出入国管理特別法(昭和四十年法律第百四十六
号)第一条第一項の許可を受け,その後施行日まで引き続き本邦に在留している者
     六 前各号に掲げる者に準ずる者として厚生労働省令で定める者
    (イ) このようなカテゴリーは,昭和56年法改正のときに少なくとも日本国民と同等の社会構成員性を有す
る永住外国人について,一般外国人と区別して救済する措置を定めることができたことを示している。すなわち,昭和
56年法改正のときに老齢年金の通算期間の特例にとどまらず障害福祉年金についても既に20歳を超え20歳前に障
害者となっていた者について救済する規定を特に設けることができた。
    (ウ) したがって,昭和56年法改正のときに上記規定を特に設けて救済すべきであったばかりか,昭和60
年改正法において,障害年金と老齢年金について後者のみ救済して前者を救済しない客観的・合理的理由は全くない。
   ウ 整備法及び昭和60年改正法の違憲性,国際人権規約違反
 仮に旧法制定当時においては,社会保障の帰属国家責任論が妥当し,国籍条項の合理性を論拠づける余地が
あったとしても,それ以後今日までの間に,社会保障が国籍国ではなく所在地国の責務であるとの認識が国際社会にお
いて一般的になった。現に,日本においても,各種社会保障立法の国籍条項が順次撤廃されてきたのであり,難民条約
批准当時においては,もはや社会保障の帰属国家責任論は,国籍条項の必要性を根拠づける立法事実とはなり得ない状
態にあり,被控訴人国もまた,そういった事情を認識していた。
     国際人権規約発効後約25年を経過するまでの間,整備法及び昭和60年の各改正時において,附則を設け
て控訴人らを排除し,A規約2条2項,9条,B規約26条に基づく差別是正の措置を何らとらなかったことは,明ら
かな同条違反であり,立法不作為の違法を免れず,憲法14条にも違反することが明らかであり,違憲無効である。
  (5) 立法不作為
    本件で国籍条項によって排除され,今も経過措置がないことによって放置されているのは,実質的には,外国
人一般ではなく,旧植民地出身者とその子孫である。旧植民地出身者は,植民地支配により日本国籍を一方的に押しつ
けられながら,戦後はその意思にかかわらず日本国籍を一方的に剥奪され,外国人一般として無権利状態に落とし込め
られた。その結果,旧植民地出身者とその子孫は,日本国籍を取得した人を除いては,選挙権・被選挙権を持たず,立
法過程から完全に排除され,立法過程を通じてその権利を実現し,あるいは権利侵害を是正する手段を持たない。少数
者の人権保障の最後の砦たる裁判所による救済が必要不可欠な人々である。
    立法不作為が例外的に国家賠償法上違法となる要件としては,①少数者に対する人権侵害の重大性,②その救
済の現実の必要性,③国会による立法の必要性の認識,④立法の可能性・容易性,⑤具体的な立法定立に要する合理的
期間の経過,が必要であると解される。旧法の国籍条項撤廃に伴う経過措置を設けなかった国会の不作為は,これらの
要件を十分満たすものであり,国家賠償法上,違法であることは明らかである。
  (6) 在日韓国・朝鮮人障害者の置かれた過酷な状況
   ア 在日韓国・朝鮮人は,その国籍及び民族の故に,日本社会において差別を受けていることは周知の事実であ
る。
 実態調査の結果によれば,対象者のほとんどは日本で生まれ育った者であるが,学校において民族差別を受
けた者が4割も存在し,大人になった後であっても,外国人であることにより陰湿ないじめを受けた例も少なからずあ
る。外国人登録制度により指紋押捺を強制された歴史や,国籍条項の存在や偏見に基づく就職差別なども相俟って,控
訴人ら在日韓国・朝鮮人(障害者)は社会的に抑圧されている。
   イ 控訴人らは,国籍・民族差別を受けるとともに,障害の存在のため,より一層社会的に孤立した状況に陥っ
ている。控訴人らは支援者らと手を携え本件裁判を闘っているが,無年金障害者の多くはそのような連帯を持つことも
容易でない状況が一般である。
     実態調査によると,無年金障害者の半数が1人又は2人で生活しており,孤独に耐えたり,不安や悩みを相
談しにくい状況にある。障害者になってから障害者手帳を取得するまで11年以上かかっている者が約半数も存在し,
昭和57年以降児童手当が支給されることになったことを(福祉事務所に通っていながら教えられず)知らなかった人
すらいる。外国人であるが故に制度利用へためらいがある,あるいは得られるべき情報へのアクセス不足が容易に見て
とれる。
   ウ 控訴人ら在日韓国・朝鮮人障害者は,厳しい経済的状況に置かれている。
     実態調査によれば,対象者のうち,就職している(していた)者は7割であったが,その収入は極めて低廉
であり,平均約10万5000円と生活保護費にも足りない金額である。就職している者の職種を見ると,事務職はわ
ずか4名で,社会全体における事務職の割合からして明らかに少ない数にとどまっている。その多くは,一定の技術を
必要とする職(印刷,洋裁等)や,工場,鉄工所等において肉体労働を提供するなど,決して安定していない職業につ
いている。障害者にとって,障害を負っていない能力(例えば,聴覚障害者にとって,聴覚以外の能力)を危険にさら
すことは是非とも避けたいところであるが,生活のため工場や鉄工所等における危険な仕事に従事せざるを得ないので
ある。
     住居も,持ち家の者はごくわずかしかいないばかりか,バラックやガード下などで生活していた者も存在
し,困難を極めている。
   エ 国民年金法が,20歳以前に障害を負った者に対して,拠出制でなく無拠出制の障害基礎年金制度を設けて
いる趣旨は,障害者が未成年の間は親など監護する者に扶養を任せるとしても,成年後は社会連帯の思想から社会全体
で障害者の生活を支えようとしたものと解される。控訴人ら在日韓国・朝鮮人障害者に対して支給する必要がより高い
といえるのに,現在まで十分な手当がされずに放置され続けている。これを認めないということは,より過酷な立場に
ある者に対し障害基礎年金の支給を認めず,過酷な経済的状態にあることを甘受させ,その生存を脅かすものであり,
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障害基礎年金制度の趣旨に反するものといわざるを得ない。
   オ 在日韓国・朝鮮人障害者の無年金状態を解消する必要は極めて高く,かつ被控訴人国はこのことを認識して
いたにもかかわらず放置してきた。在日韓国・朝鮮人障害者は,現行法上参政権を有しないから,自らの権利を実現す
る手段として裁判を選ばざるを得ない。
     裁判例においては,在日韓国・朝鮮人に対する配慮の必要に言及する例はあっても,違法である旨の判断に
至ることは少ない。しかし,かかる裁判所の「謙抑的」な判断は,政治過程に関与する手段が保障されていない控訴人
らにとっては,永遠に救済の道を閉ざすことを意味する。裁判所は,人権保障の最後の砦としてその権限を適切に行使
すべき責務があり,司法による救済を行う必要がある。
 4 被控訴人らの当審主張
  (1) 国民年金制度
    控訴人らは,旧法1条にいう「国民生活の安定」,「国民の共同連帯」について,単なる国籍保有者ではな
く,「社会構成員」との趣旨であるとし,「これを純粋な国籍保有者との趣旨で解するのであれば,違憲・国際人権規
約違反で無効である」と主張するが,旧法下において制度の対象となっていたのは日本国籍を有する者なのであり,こ
れが違憲との評価を受けるか否かが正に本件の争点なのであるから,違憲であることを前提として旧法の制定趣旨を「
社会構成員」の「協同連帯」などと述べる控訴人らの主張が独自の見解にすぎないことは明らかである。
    また,控訴人らの主張を前提としても,法案の審議経過では,その前提として,被保険者を日本国民とするこ
とが当然の前提として議論されていたことが明らかであり,国籍要件が「日本国籍があること自体を意味するのではな
く,…日本国籍保有者が有しているほどの日本社会との時間的・空間的な結びつきの強さ」などといった抽象的で漠然
とした規律を意味するものでは決してない。
  (2) 旧法の国際人権規約違反
   ア A規約について
 A規約に定める権利(憲法における社会権に相当する権利)について,無差別の原則による権利の確保が義
務付けられているとはいっても,その義務は,「法上の義務でなく,司法的に実現可能な権利の保障義務を締約国に課
するものではない」。すなわち,「A規約は,そこに掲げる社会権の漸進的実現を締約国に促進させるにすぎない」の
であり,「(A規約に)掲げられた権利の完全な実現を『漸進的に達成するため』(第2条),立法措置その他適当な
方法をとること及び個別的,国際的な経済的,技術的な援助又は努力を行うことを義務づけ」るものであって,「その
義務は政治的性質の義務である」というべきである(野村「国際人権規約と憲法」ジュリスト781号18頁)。この
ように,A規約は,社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,締約
国において,その権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したにすぎない
ものである。
     最高裁判所平成元年3月2日判決は,A規約9条について,「締約国において,社会保障についての権利が
国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,右権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進
すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたもので
はない。このことは,A規約2条1項が締約国において「立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約におい
て認められる権利の完全な実現を漸進的に達成する」ことを求めていることからも明らかである。」としており,障害
福祉年金について国籍要件を定めた旧法の規定が同規約によって無効とされるものではない。
   イ B規約について
     憲法14条1項は,外国人にも適用されると解されており(最高裁判所昭和39年11月18日大法廷判決
・刑集18巻9号579頁等),その趣旨において,B規約26条と異なるものではないところ,憲法14条1項につ
いては,絶対的平等を保障するものではなく,相対的,比例的な平等を保障するものと解されている。もっとも,同項
の文理から,その判断基準を一義的に導き出すことはできないが,最高裁判所の判例は,この点について,合理的理由
のない差別を禁止するものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法
的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,憲法14条1項に反するものではないと解している
(前掲最高裁判所昭和39年11月18日大法廷判決等)。
     B規約26条についても,あらゆる差別をすべて禁止する趣旨ではなく,合理的差別が許容されることは規
約人権委員会も認めるところである。そして,合理的差別か否かの判断は,B規約26条の文理から一義的に導くこと
はできないが,社会権等を規定するA規約9条については,上記のとおり,「権利の実現に向けて積極的に社会保障政
策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したもの」と解されており,A規約上の権利については,もともと各国の
立法政策によることが許容されているのであるから,A規約と併せて審議,採択されたB規約26条の平等原則におけ
る合理性の有無の判断基準についても,このことを考慮した解釈がされるべきである。そうすると,国民年金制度にお
ける支給対象者及び外国人の取扱いについて,立法府に広い裁量権が認められ,在留外国人を支給対象から除外して自
国民を優先的に取り扱うことに合理性があるのであるから,この理はB規約26条にも当てはまるというべきであり,
国籍要件がB規約26条に反する旨の控訴人らの主張は失当というべきである。
     控訴人らは,国籍要件がB規約26条に反すると主張する根拠として,立法目的に合理性がないとか,社会
保障の帰属国家責任論の不当性等主張し,立法事実の有無を論ずるが,いずれも前提を誤った議論であり失当である。
  (3) 旧法の憲法14条違反
   ア 憲法14条1項は,絶対的な法の下の平等を保障したものではなく,合理的理由のない差別を禁止する趣旨
のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設
けることは,その区別が合理性を有する限り,何ら上記規定に違反するものではない(最高裁判所昭和39年5月27
日大法廷判決・民集18巻4号676頁,同平成7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁)。特に,立法
府の政策的,技術的裁量に基づく判断にゆだねられる立法分野においては,立法府が法律を制定するに当たり,その政
策的,技術的判断に基づき,各人についての経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異又は事柄の性質上の差異を
理由としてその取扱いに区別を設けることは,それが立法府の裁量の範囲を逸脱するものでない限り,合理性を欠くと
いうことはできず,憲法14条1項に違反するものではない。
     憲法25条は,いわゆる福祉国家の理念に基づき,すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得
るよう国政を運営すべきこと(1項)並びに社会的立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきこと(2項)を国の責
務として宣言したものであるが,同条1項は,国が個々の国民に対して具体的・現実的にこのような義務を有すること
を規定したものではなく,同条2項によって国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により
個々の具体的・現実的な生活権が設定充実されてゆくものであると解すべきであり,同条の規定の趣旨を現実の立法と
して具体化するに当たっては,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況,
国の財政事情等を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも,高度の専門技術的な考察とそれ
に基づいた政策的判断を必要とする。したがって,どのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法府の広い裁量に
ゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き,裁判所
が審査判断するのに適しない事柄である(最高裁判所昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁)。
     したがって,憲法25条の規定の要請にこたえて制定される社会保障法制に関する立法府の裁量は極めて広
範であるというべきであり,国民年金法に基づく障害福祉年金の受給者は児童扶養手当の受給資格を欠くとする児童扶
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養手当法上の併給調整条項が憲法14条1項に違反するか否かが争われた上記最高裁判所昭和57年7月7日大法廷判
決も,立法府に広い裁量権があることを前提として,憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において,憲
法14条違反の問題を生じ得るのは,「受給者の範囲,支給要件,支給金額等につき何ら合理的理由のない不当な差別
的取扱いをしたり,あるいは個人の尊厳を毀損するような内容の定めを設けているとき」である旨判示して,上記併給
調整条項による差別は,何ら合理的理由のない不当なものであるとはいえない旨判示しているところである。
   イ 裁判所が,このような立法裁量が認められる場面において,法律の内容が憲法に違反するか否かを検討する
に当たっては,立法に当たって考慮された具体的な事実(立法事実)を検討して,それぞれの立法事実との関係におけ
るあるべき裁量権行使の在り方を審理の対象とするのではなく,立法府に与えられた裁量権を前提として,著しく合理
性を欠き,明らかに裁量の逸脱,濫用と見ざるを得ないような事実が存するか否かを審理すれば足りるものである。
   ウ 最高裁判所平成元年3月2日第一小法廷判決(判例時報1363号68頁)は,旧法81条1項に規定され
ていた障害福祉年金につき,「制度発足時の経過的な救済措置の一環として設けられた全額国庫負担の無拠出制の年金
であって,立法府はその支給対象者の決定について,もともと広範な裁量権を有している」と判示して,広い立法裁量
を認めている。
     さらに,同判決は,「社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては,国は,特
別の条約の存しない限り,当該外国人の属する国との外交関係,変動する国際情勢,国内の政治・経済・社会的諸事情
等に照らしながら,その政治的判断によりこれを決定することができるのであり,その限られた財源の下で福祉的給付
を行うに当たり,自国民を在留外国人より優先的に扱うことも,許されるべきことと解される。」と判示して,社会保
障政策における外国人の取扱いについても立法裁量の範囲に属する事柄であることを認めている。
   エ 国民年金制度の設計に当たっては,保険料負担額,給付の水準,拠出対象者の範囲,国庫の負担等幅広い観
点から検討しなければならず,その一部として,外国人の負担と給付のあるべき姿を検討すべきものである。
     国民年金制度は,拠出制の社会保険方式を基本とするものであり,その拠出を行う被保険者についても,整
備法による改正前の国民年金法7条により,日本国民に限られていたが,長期間にわたる保険料の拠出を要する年金制
度において,我が国への在住期間が必ずしも安定しない在留外国人をその適用対象とすれば,これらの者については,
保険料の負担のみを求められ,本国への永住帰国等により,原則25年の受給資格期間を充たすことができなくなるお
それがあり,かえって不利益をもたらすこととなり得ることから,拠出制の対象者から外国人を除くとしたことは,制
定当時の政策的判断として特段不合理なものではない。さらに,福祉年金については,その対象者を,国民年金制度が
もっと前から発足していれば拠出制の対象者となったであろう者を経過的福祉年金として,また,被保険者となること
を予定しながらそれ以前に障害を負った者を補完的福祉年金として救済しようとしたものであり,拠出と給付の関係を
無視して給付対象者の範囲を設定しているものではないのであり,拠出制の対象者と同様,外国人を除外することは,
合理的な区別というべきである。
  (4) 整備法及び昭和60年改正法の憲法,国際人権規約違反
    国籍条項を削除した昭和56年法律第86号による国民年金法の改正の効果を遡及させるというような特別の
救済措置を講ずるかどうかは,もとより立法府の裁量事項に属することである(前掲最高裁判所平成元年3月2日第一
小法廷判決参照)から,整備法附則5項及び昭和60年改正法附則32条1項により国籍条項の撤廃を遡及しないとし
たことが,憲法14条に違反するものではない。
    憲法14条は,不均等な法的取扱いの禁止を保障するものであり,社会に存する種々多様な事実上の優劣,不
均等について,あるべき均等な状態を示し,これに対応したあるべき施策を見つけ出すということは,立法府の職責で
あり,司法の作用からは逸脱する行為であって,裁判規範としての平等原則には実質的平等は含まれないというべきで
あるから,積極的な施策が立法によって講じられなかったことを理由として平等原則違反があると認めることはできな
い。
    整備法附則5項及び昭和60年改正法附則32条1項の各立法措置の段階において,広い立法裁量に属する社
会保障政策における外国人の取扱いについて,その措置が著しく合理性を欠き,立法府に与えられた裁量権を逸脱・濫
用した事情はない。もともと,制度の対象となっていなかった在日外国人について,将来に向かって新たな年金制度を
構築する際に,既に保険事故の発生した者で,制度の対象とならない者に対し,さかのぼって具体的な何らかの取扱い
をするか否かは正に立法府の裁量に任されている領域であって,補完的又は経過的福祉年金制度を制定しなかったから
といって,立法府がその与えられた裁量権を逸脱・濫用したと評価されるものではない。
    小笠原諸島復帰時の経過措置について,在日外国人の場合と異なった規定がなされているのは,国籍の有無と
いう合理的な理由に基づくものであり,これとの対比で,在日外国人に対してとられた措置が著しく合理性を欠き,立
法府に与えられた裁量権を逸脱・濫用した事情はない。
    また,老齢年金につき規定を特に設けることができたといっても,障害年金につき規定を特に設けなかったこ
とが憲法上問題となることを意味するものではない。また,老齢年金と障害年金とは受給資格要件が異なり,単純に比
較できない。さらに,昭和60年改正法の成立過程においても,日本国籍を有する者との均衡を図るなどの合理的な理
由に基づいて別異の取扱いをした(乙第2号証)のであって,立法府に与えられた裁量権を逸脱・濫用した事情に当た
らない。
  (5) 立法不作為
    国籍条項は憲法14条1項及び国際人権規約に反するものではないから,国家賠償法上も違法となる余地はな
いが,不作為を含む立法行為に対する国家賠償法の適用については,最高裁判所昭和60年11月21日第一小法廷判
決(民集39巻7号1512頁)によるべきである。すなわち,「国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対
して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であり」,国会議員は,立法に関しては,原則として,国民全体
に対する関係で政治的責任を負うにとどまり,個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないとい
うべきであって,国会議員の立法行為は,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえ
て当該立法を行うというがごとき,容易に想定し難いような例外的場合でない限り,国家賠償法1条1項の規定の適用
上,違法の評価を受けないと解すべきである。さらに,立法不作為については,上記判決は,違法とされる「例外的場
合」について具体的に言及していないが,憲法が採用する権力分立制度を前提とすれば,少なくとも憲法上,具体的な
立法をすべき作為義務が,その内容だけでなく,立法の時期も含めて,明文をもって定められているか,又は,憲法解
釈上,上記作為義務の存在が一義的に明白な場合でなければならないというべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,控訴人らの各請求はいずれも理由がないと判断するが,その理由は,次のとおり付加訂正するほか
は,原判決の「事実及び理由」の第三の一ないし三(原判決21頁23行目から40頁12行目まで)の説示と同一で
あるからこれを引用する。
  (1) 原判決23頁1行目,2行目,3行目(2か所),7行目,8行目の各「廃疾」を「障害」と改め,3行目の
「1級に該当する」を削除する。
  (2) 原判決24頁3行目の「12月17日」を「12月16日」と改める。
 2 控訴人らの当審主張について
  (1) 国民年金制度について
    国民年金制度は,憲法25条2項に規定する理念に基き,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定がそこ
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なわれることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とすると
ころ,旧法1条の「国民」が「社会構成員」との趣旨をも含むとしても,日本国籍を有する「国民」との内容を有する
ことは明らかである。控訴人らは,旧法1条にいう「国民」について,単なる国籍保有者ではなく,「社会構成員」と
の趣旨であるとし,「これを純粋な国籍保有者との趣旨で解するのであれば,違憲・国際人権規約違反で無効である」
と主張するが,旧法下において制度の対象となっていたのは日本国籍を有する者なのであり,また,整備法附則5項及
び昭和60年改正法附則32条1項が「なお従前の例による。」と旧法下の国籍条項による効力を一部存置したのであ
り,これらが違憲,違法との評価を受けるか否かが正に本件の争点なのであるから,これらが違憲,違法であることを
前提とする同主張は争点を無用化する独自の見解にすぎないことになる。
    そして,憲法25条2項に規定する理念に基き,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれる
ことを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする国民年金制
度の理念をも踏まえ,外国人一般あるいは永住外国人,在日韓国・朝鮮人らが社会居住者の一員として納税の義務を果
たしているか否か等の要素をも考慮した上,外国人としてのそれぞれの固有の事情の下で国民年金資格取得の要件を肯
定するか否か,どのような程度,内容とするかは,一個の立法問題であり,引用にかかる原判決説示及び本判決の後記
説示のとおり,立法府の裁量により決定し得る事柄であって,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と
見ざるを得ないような場合を除き,違憲,違法とならない。
  (2) 旧法の国際人権規約違反について
    A規約2条は,1項として「この規約の各締約国は,立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約に
おいて認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いることによ
り,個々に又は国際的な援助及び協力,特に,経済上及び技術上の援助及び協力を通じて,行動をとることを約束す
る。」,2項として「この規約の締約国は,この規約に規定する権利が人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見
その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保
障することを約束する。」,3項として「開発途上にある国は,人権及び自国の経済の双方に十分な考慮を払い,この
規約において認められる経済的権利をどの程度まで外国人に保障するかを決定することができる。」と規定しており,
1項の文理上からも明らかなように,締約国において,その権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政
治的責任を負うことを宣明したものといえ,また,2項の文理上,自動執行的性格を有するか否か断定できず,他の条
項を含め,自動執行的性格を根拠づけ得るような文言がないところ,上記1項の文理及び「この規約の締約国は,社会
保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定されているA規約9条が,締約国において,社
会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,右権利の実現に向けて積極
的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与す
べきことを定めたものではないと解すべきこと(最高裁判所平成元年3月2日第一小法廷判決参照)と照合すると,締
約国において,積極的に社会保障政策を推進する施策をとる際,2項にかかる要素につき政治的,社会的,経済的理由
により現実には種々の対応をとらざるを得ない面があり得ることを当然の前提として,それにもかかわらず,上記権利
の平等な実現を積極的に推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものというべきである。そして,3項は,その政
治的責任の内容を当該規定の限度で明示したものと解される。けだし,このように解さないで,2項を自動的即時執行
の効力のあるものと解すると,1項で認められた権利の完全な実現の漸進的達成を阻害・停滞させる事態が想定され,
規定相互に矛盾が生じる可能性があるからである。
    控訴人ら提出の甲A第24,34ないし39号証(枝番を含む。),主張にかかる国連の社会権委員会作成の
A規約2条に関する「一般的意見」及び「総括所見」(甲A第18号証)は控訴人らの主張を根拠づけるに十分でな
く,また,控訴人ら主張のその他の文献にかかる見解は採用できない。
    したがって,A規約2条2項が,社会保障の権利の達成途上で「人種…他の地位に対する客観的・合理的理由
のない差別は許さない」との制限規定であって自動的,即時執行的性格を有するとの控訴人らの主張は採用し得ない。
    控訴人らのB規約26条違反の主張には,甲A第1ないし17,20ないし24,34,36ないし39号証
(枝番を含む。)が沿い,同条が自由権につき自動的,即時執行的性格を有するといえるが,A規約の適用される社会
権に関する限り,B規約26条の内容も,事柄の性質上,同条と同趣旨のA規約2条2項を含めて締約国の政治的責任
を宣明したと解されるA規約に規定されて,締約国における政治的責任を示したものとせざるを得ない。
    のみならず,規約人権委員会がB規約の締約国の規約の履行状況に関する報告を検討する機関であってB規約
の実施に当たっての検討及び参考意見を求められたものであり(B規約40条4項参照),また,我が国が第一選択議
定書を批准せず,B規約41条に基づく規約人権委員会の検討する権限の受諾宣言をしていないから,規約人権委員会
の意見は,我が国に対して法的拘束力を有していない。
    そうすると,裁判規範としては,社会権についての合憲・合法性の判断におけるB規約26条の適用に関する
限り,同じ事柄を規定する憲法14条によることで十分であり,消極に解されることとなる。
    仮にそうでないとしても,B規約26条違反のないことは,引用にかかる原判決説示(33頁4行目から36
頁25行目まで)のとおりである。
    したがって,控訴人らの国際人権規約違反の主張は採用し得ない。
  (3) 旧法の憲法違反について
    憲法98条2項の定める国際協調主義からすれば,国民年金法所定の国籍条項に関する憲法14条適合性解釈
の際,A規約2条,B規約26条の内容も考慮される必要があるが,同規約に関する上記説示からすると,社会権につ
いての合憲・合法性の判断においては,政治的責任を負っているという趣旨でその内容を考慮するのが相当であり,B
規約26条を直接憲法14条の内容とする解釈は相当でない。
    社会権の根拠となる憲法25条は,福祉国家の理念に基づき,すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活
を営み得るよう国政を運営すべきこと(1項)並びに社会立法及び社会的施設の創造拡充に努力すべきこと(2項)を
国の責務として宣言したものであるが,同条1項は,国が個々の国民に対して具体的・現実的に上記のような義務を有
することを規定したものではなく,同条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定
は,立法府の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないよ
うな場合を除き,裁判所が審査判断するに適しない事柄であると解され(最高裁判所昭和57年7月7日大法廷判決,
同平成元年3月2日第一小法廷判決参照),国民年金制度は,憲法25条2項の規定の趣旨を実現するため,老齢,障
害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし,保険方式
により被保険者の拠出した保険料を基本として創設されたものであり,旧法下の国籍条項が憲法14条1項に違反する
かどうかを判断するに当たっては,前記のような憲法25条2項に基づく立法府の裁量権があることを前提として,そ
れによる区別が何ら合理的理由のない不当な差別的扱いかどうかの観点から判断されなければならないというべきであ
って,このような社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては,国は特別の条約の存しな
い限り,当該外国人の属する国との外交関係,変動する国際情勢,国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら
その政治的判断によりこれを決定することができるものと解すべきである(最高裁判所平成14年7月18日第一小法
廷判決・判例時報1799号96頁参照)。
    そして,証拠(甲C第1ないし9,26ないし28号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
ページ(7)
    旧法制定当時,国会でされた討議においては,原則として拠出制をとって無拠出制を併用するという,保険法
理を原則として同法理を超える部分をも加味した制度とする等の議論がされたほか,特に国籍条項に関する議論はされ
ず,日本国民のみを対象とすることが問題にされることはなかった。同法制定後20年を経過した昭和54年頃以降,
同法改正の段階での国会討議において,国籍条項を規定した立法上の必要性につき,25年間の資格期間の必要なこと
から外国人一般に強制することが妥当でないとの政府説明がされ,厚生年金法との相違・矛盾については,同法の労働
者保護立法としての目的・性質との相違によるやむを得ないものとの政府説明がされ,また,日本社会の中で生活基盤
を築きつつある在日韓国・朝鮮人につき特例措置を設けずに外国人一般として対処することの問題につき,特定の国籍
の者だけを他の外国人から制度的に区分することが妥当でないとの政府説明がされ,日韓条約及び日韓地位協定におい
て韓国側からの適用要望に基づく検討を経て消極の措置がとられたことにつき,生活保護・国民健康保険・義務教育に
ついて妥当な考慮を払うということで妥結したとの政府説明がされ,アメリカ人に加入資格が認められている点につ
き,日米通商条約3条の内国人扱いする旨の規定に基づきその後に制定された国民年金法が自動的に適用された結果に
すぎないとの政府説明がされ,国民年金を外国人に適用しないことのA規約,B規約抵触問題につき,制度の性格とか
実施に伴う技術的問題点を踏まえ,それぞれの当該国に居住する日本人が受けられる権利の問題とも絡み,即時の解決
でなく,A規約,B規約の趣旨に沿って,漸進的に努力しているとの政府説明がされた。
    上記事実によれば,国籍条項の必要性につき,国民年金を外国人に適用しないことのA規約,B規約抵触問題
を含め,被控訴人国において検討がされたところ,その検討結果の合理性の存否,程度に関し種々の意見があり得よう
が,社会保障上の政策において,国が,外国人に対し,憲法上当然にはその福祉を増進すべき施策をとる義務を負わな
いことに加え,国民年金制度が,拠出性の社会保険として制度設計されたものであり,被保険者には長期間の保険料支
払義務を課すこととの権衡上,必ずしも本邦に在留することが安定的と見られなかった外国人について,旧法制定時に
おいて,これらを被保険者としなかったことに合理性がないとか,立法府において,その裁量権を逸脱・濫用したもの
ということはできない。
    そうすると,憲法14条違反の有無については,引用にかかる原判決説示のとおり(28頁末行から31頁3
行目まで),消極に解される。
  (4) 整備法及び昭和60年改正法の憲法,国際人権規約違反について
    法改正が行われる場合,法律の効力が将来に向かってのみ生じて過去の事象に遡及しないことが法律上の原則
である。整備法,昭和60年改正法による改正前の国籍条項が違憲,違法でない以上,もともと,制度の対象となって
いなかった外国人について,将来に向かって新たな年金制度を構築する際,既に保険事故の発生した者で制度の対象と
ならない者につき遡及して何らかの取扱いをするか否かは立法府の裁量に任されている領域であり,補完的又は経過的
福祉年金制度等につき特例措置を設ける等特別の遡及措置を講じるか否かは正に立法府がその裁量により行うべき政策
選択である。憲法14条1項は,不均等な法的取扱いの禁止を保障するものであり,社会に存する種々多様な事実上の
優劣,不均等について,あるべき均等な状態を示し,これに対応したあるべき施策を見つけ出すということは,立法府
の職責であって司法の関与するところでなく,憲法上,法律上,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用
と見ざるを得ないような場合を除き,違憲,違法とならない。
    しかるところ,証拠(甲C第10,25号証,乙第2号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
    難民条約は,24条1項で「締約国は,合法的にその領域内に滞在する難民に対し,次の事項に関し,自国民
に与える待遇と同一の待遇を与える。(a)(省略)(b)社会保障(業務災害,職業病,母性,疾病,廃疾,老齢,死
亡,失業,家族的責任その他国内法令により社会保障制度の対象とされている給付事由に関する法規)。ただし,次の
措置をとることを妨げるものではない。(ⅰ)当該難民が取得した権利又は取得の過程にあった権利の維持に関し適当
な措置をとること。(ⅱ)当該難民が居住している当該締約国の国内法令において,公の資金から全額支給される給付
の全部又は一部に関し及び通常の年金の受給のために必要な拠出についての条件を満たしていない者に支給される手当
に関し,特別の措置を定めること。」と規定している。整備法は,難民問題に対する我が国の国際協力を一層推進する
という見地から難民条約に留保を付すことなく加入し,出入国管理令の一部改正のほか,社会保障に関し難民条約に定
める内国民待遇を実現することになることに伴い,社会保障に関する内国民待遇を難民に限って措置することが公平の
観点から適当でないので,他のすべての外国人に対し国籍条項を撤廃し内国民待遇とした。ところで,国籍条項撤廃に
伴う無年金者発生につき,改正法において,旧法制定時に設けられていた無年金者発生防止の経過措置と同様の措置を
置かなかった理由に関する政府説明は,国会において,難民条約の加入に伴う内国民待遇を実現するための法改正であ
って外国人のみを対象とする特別措置を講じない,国民年金法は一般法であるから在日韓国・朝鮮人などについて特別
措置を講じることができない,永久にあり得る日本に入国する35歳を超える外国人について特別措置を講じることは
日本人より優遇することになり内外人平等の原則に反する,外国にいて20歳過ぎに障害を受けて日本に帰国した場合
に障害福祉年金の受給権がないこととの均衡から外国人についてのみ何らかの経過措置ということは考えられない,国
籍条項撤廃により加入者が増加して経過措置が永久化した場合の弊害を考慮する必要がある,経過措置の対象を限定す
るかしないか,限定するとするとその区分をどうするか等の検討が必要となる,年金会計が保険会計であって国庫補助
が3分の1あることから保険数理上生じる負担と給付の整合性を無視し得ない等であり,担当行政庁から,拠出年金に
関し,「難民条約に定める内国民待遇を実現するために必要な限度の措置を講じる観点から国籍条項を撤廃したもので
あり,新たに適用対象となる外国人に対して老齢年金等の受給資格の短縮等の特例措置は一切講じられていない」旨,
福祉年金に関し,国籍条項を撤廃することにより,「被保険者の資格取得後に発生した障害,夫等の死亡にかかる保険
事故に対しては,それぞれ障害福祉年金,母子(準母子)福祉年金の支給対象となり,また,20歳前に障害となった
者に支給される障害福祉年金については,難民条約関係整備法の施行日以降に20歳に達する者が支給対象となる」
旨,「老齢福祉年金については,経過的制度であり,本年4月以降は補完的老齢福祉年金を除き日本人であっても新た
に受給権を取得する者が生じないものであり国籍条項を撤廃しても外国人に支給されることはない」旨,各知事に通知
された。
    上記事実によれば,国籍条項撤廃に伴う無年金者発生防止の必要性につき,被控訴人国において検討がされた
ところ,その検討結果の合理性の存否,程度に関し種々の意見があり得るが,昭和60年改正法で老齢年金につきとら
れた国籍条項があったため加入できなかった期間を合算対象期間として被保険者期間に算入するとの特例措置は,障害
福祉年金と異なる制度において異なる対応をした問題であり,正に政策選択の問題であって,平等原則違反の問題でな
く,国民年金法の対象を拡大する際に無年金者につき経過措置を設けた別紙経過的特例措置の「2 小笠原・沖縄復帰
など特例措置」の(1)ないし(4)などの例は,日本国民又は日本国民であった者に関する特殊事情,その他例外的特別事
情を考慮した結果であると考えられ,以上によれば,上記につき外国人に関し特例措置を講じないことは,我が国の国
際及び国内政治上での政治的責任の問題であって,憲法上,法律上,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・
濫用と見ざるを得ない場合に該当するとはいえず,憲法14条に違反しない(最高裁判所平成元年3月2日第一小法廷
判決参照)。そして,前記及び上記同様の理由でA規約2条,B規約26条違反の主張も認められない。
    したがって,整備法及び昭和60年改正法につき憲法,国際人権規約違反は認められない。
  (5) 立法不作為について
    引用にかかる原判決説示のとおりであって,控訴人らの当審主張は独自の見解であり,採用できない。
  (6) 在日韓国・朝鮮人障害者の置かれた過酷な状況について
ページ(8)
    上記主張事実には甲E第1ないし8号証,甲F第1ないし54号証が沿うが,同主張事実が本件請求を理由あ
らしめる要件事実として構成されていない以上,それだけでは本件請求を認めさせるに足りない。
 3 控訴人らの被控訴人らに対する各請求はいずれも理由がなく,これらを棄却した原判決は相当であって,本件各
控訴はいずれも理由がないから,これらを棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。
    大阪高等裁判所第12民事部
          裁判長裁判官    若   林       諒
             裁判官    三   木   昌   之
             裁判官    細   島   秀   勝
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