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平成21年9月3日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第12501号特許権侵害行為差止請求事件
口頭弁論終結日平成21年7月2日
判決
東京都大田区<以下略>
原告竹内工業株式会社
同訴訟代理人弁護士安原正之
同佐藤治隆
同鷹見雅和
同北村聡子
同後藤啓
同補佐人弁理士鈴木章夫
名古屋市中区<以下略>
被告北川工業株式会社
同訴訟代理人弁護士上谷清
同永井紀昭
同仁田陸郎
同萩尾保繁
同笹本摂
同薄葉健司
同石神恒太郎
同水野健司
同訴訟代理人弁理士足立勉
同補佐人弁理士田崎豪治
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載1ないし5の製品(以下,それぞれ「被告製
品1」などといい,被告製品1ないし5を総称して「被告製品」という)を。
製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
2被告は,被告所有に係る被告製品を廃棄せよ。
第2事案の概要
本件は,電子機器等の基板に電子部品やケーブル等を実装するために用いる
実装用部品を基板に取着するためのスナップ構造についての特許権を有する原
告が,被告による被告製品の製造,販売行為は上記特許権を侵害する行為であ
ると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製造,譲
渡等の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄を求めた事案である。
1争いのない事実
()原告の有する特許権1
ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲
請求項2の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本
件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明
細書」という)を有している。。
特許番号第3905527号
発明の名称スナップ構造
出願日平成16年4月30日
原出願日平成14年3月22日
登録日平成19年1月19日
特許請求の範囲請求項2
「実装用部品を保持するための部品保持部の下部に設けられて当該部品
保持部を基板に固定するためのスナップ部を備えており,前記スナッ
プ部は前記基板に設けられた透孔内に挿入されるポストと,前記ポス
トの両側に沿って設けられ径方向に弾性変形可能で前記透孔に嵌合さ
れる矢尻型をした一対のスナップ片と,前記部品保持部の前記両側位
置において前記基板の表面に弾接して前記スナップ片とで当該基板を
挟持する一対の脚片と,前記スナップ片にそれぞれ下端部が連結され
内側方向に手操作されたときに前記スナップ片を内側方向に変形して
前記透孔との嵌合を解除する一対の解除片とを備えるスナップ構造で
あって,前記解除片は前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨ら
んだ形状とされ,当該上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部
に近接配置されるとともに,前記スナップ片が前記透孔に嵌合された
ときに当該両側の側面一部に当接される構成であることを特徴とする
スナップ構造」。
イ本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した
構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという)。
A実装用部品を保持するための部品保持部の下部に設けられて当該
部品保持部を基板に固定するためのスナップ部を備えており,
B1前記スナップ部は前記基板に設けられた透孔内に挿入されるポス
トと,
B2前記ポストの両側に沿って設けられ径方向に弾性変形可能で前記
透孔に嵌合される矢尻型をした一対のスナップ片と,
B3前記部品保持部の前記両側位置において前記基板の表面に弾接し
て前記スナップ片とで当該基板を挟持する一対の脚片と,
B4前記スナップ片にそれぞれ下端部が連結され内側方向に手操作さ
れたときに前記スナップ片を内側方向に変形して前記透孔との嵌合
を解除する一対の解除片とを備えるスナップ構造であって,
C1前記解除片は前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ
形状とされ,
C2当該上端部は前記部品保持部の前記両側の側面一部に近接配置さ
れるとともに,
C3前記スナップ片が前記透孔に嵌合されたときに当該両側の側面一
部に当接される構成である
Dことを特徴とするスナップ構造。
()被告の行為2
被告は,業として,被告製品を製造,販売している。
()被告製品は,いずれも,本件発明の構成要件A,B1,B2,B4,C3
2,C3,Dを充足する。
2争点
()被告製品の構成及び本件発明の構成要件該当性(争点1。1)
ア被告製品は構成要件B3を充足するか(争点1−1)
イ被告製品は構成要件C1を充足するか(争点1−2)
()本件特許は,特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)2
ア本件特許は進歩性を欠くか(争点2−1)
イ本件特許は特許法36条6項1号に違反するか(争点2−2)
3争点に関する当事者の主張
()争点1(被告製品の構成及び本件発明の構成要件該当性)について1
(原告の主張)
ア被告製品の構成
被告製品の構成は,別紙物件目録1ないし5記載のとおりであり,いず
れも,以下のとおり分説することができる(以下,分説した構成をそれぞ
れ「構成a」などという)。
a被保持物を保持するための部品保持部(頭部)20の下部に設け
られて部品保持部を基板2に固定するためのスナップ部(脚部)3
0を備えており,
b1スナップ部30は基板2に設けられた透孔3内に挿入されるポス
ト31と,
b2ポスト31の両側に沿って設けられ径方向に弾性変形可能で透孔
3に嵌合される矢尻型をした一対のスナップ片32と,
b3部品保持部20の両側位置において基板2の表面に弾接してスナ
ップ片32とで基板2を挟持する一対の脚片34と,
b4スナップ片32に連結片33を介してそれぞれ連結され内側方向
に手操作されたときにスナップ片32を内側方向に変形して透孔3
との嵌合を解除する一対の解除片35とを備えるスナップ構造であ
って,
c1解除片35は,下端連結部35bが連結片33との連結部分から
外方に張り出していったん基板2に当接する位置に下った後,上端
押圧操作部35aが保持部側面に沿って立ち上がり,解除片35全
体として下端部から上端部に沿って外側に膨らんだ形状になってい
て,
c2上端部351が部品保持部20の両側の側面に近接配置されてお
り,
c3スナップ片32が透孔3に嵌合されたときに解除片35の上端部
351が部品保持部20の両側の側面に当接される構成である
dことを特徴とするスナップ構造。
イ被告製品と本件発明との対比
以下のとおり,被告製品の構成は,本件発明の構成要件AないしDをい
ずれも充足する。
(ア)構成要件Aについて
被告製品は,被保持物を保持するための部品保持部(頭部)20を有
し,当該部品保持部20の下部に,基板に部品保持部を固定するための
スナップ部(脚部)30を備えているものであるため,構成要件Aを充
足する。
(イ)構成要件B1について
被告製品のスナップ部30は,基板2に設けられた透孔3内に挿入さ
,。れるポスト31を備えているものであるため構成要件B1を充足する
(ウ)構成要件B2について
被告製品のスナップ部30は,ポスト31の両側に沿って設けられ径
方向に弾性変形可能で透孔3に嵌合される矢尻型をした一対のスナップ
片32を備えているものであるため,構成要件B2を充足する。
(エ)構成要件B3について(争点1−1)
a被告製品のスナップ部30は,部品保持部20の両側位置において
基板2の表面に弾接してスナップ片32とで基板2を挟持する一対の
脚片34を備えているものであるため,構成要件B3を充足する。
,「」。b被告は被告製品が脚片に相当する構成を有しないと主張する
しかしながら,被告製品は,別紙物件目録1ないし5記載のとおり,
解除片35が脚片34を兼ねる構成となっているものであって,脚片
に相当する部材がある。これにより本件発明の脚片と同じ効果を挙げ
ている以上,これが解除片の部位を兼ねていても,脚片の構成を有す
ることに変わりはなく,脚片が解除片から独立した構成である必要は
ない。
c本件明細書における実施例をみても,脚片と解除片は,完全に独立
した形態とはなっておらず,脚片34が連結片33に連結する部位と
解除片35が連結片33に連結する部位は,両者が一体化して1つの
片状に構成されており,脚片と解除片とを兼ねるものとして図示され
ている。このように,本件特許の実施例ではこの兼ねる部分が脚片の
一部であるのに対し,被告製品は兼ねる部分が脚片の全体にわたる部
分となっているにすぎない。両者は,兼ねる部分の形態が相違するの
みであり,この形態の違いのみをもって,被告製品が本件特許の技術
的範囲に含まれなくなるものではない。
d本件特許の出願経過においても,脚片と解除片につきそれぞれ独立
した部材でなければならないなどとは何ら限定していない。
eまた,被告の特許出願に係る公報(甲10。特開2007−113
729号公報(以下「甲10公報」という))には「固定機構」と。,
,。いう名称で被告製品と類似する構成を有する発明が記載されている
甲10公報には「弾性係止片13の可動端部15からは中継片1,
6(中継部に該当)が延出されている。中継片16は,板状の支柱部
12の両側に平行状に配されている。その中継片16の上端部は,そ
れぞれ弾性片17(弾性部に該当)の一方の端部に連接されている。
2枚の弾性片17はゆるやかな弓状に湾曲していて,支柱部12を挟
んで互いに反対方向に延出されている。その弾性片17の先端部から
は,基部2側へ(図1(a)で上向きに)側片18(側片部に該当)が
延出されている。側片18の先端部18aは,それぞれ内側(開閉部
材3,連結部材9側)に曲がっているが,開閉部材3又は連結部材9
に接触してはいない。これら中継片16,弾性片17及び側片18に
より操作片が構成されている」との記載があるものの(6頁7行な。
いし17行段落【0028】ないし【0030,同公報の図1】)
ないし図8の記載から明らかなとおり,弾性片17と側片18は独立
の部材ではない。
このように,被告自身,独立でない部材に複数の名称を付して権利
化を図ろうとしているのであって,被告の主張自体,矛盾をはらんだ
ものである。
(オ)構成要件B4について
被告製品のスナップ部30は,スナップ片32に連結片33を介して
それぞれ連結され内側方向に手操作されたときにスナップ片32を内側
方向に変形して透孔3との嵌合を解除する一対の解除片35を備えてい
るものであるため,構成要件B4を充足する。
(カ)構成要件C1について(争点1−2)
a解除片35は,下端連結部35bが連結片33との連結部分から外
方に張り出していったん基板2に当接する位置に下った後,上端押圧
操作部35aが保持部側面に沿って立ち上がり,解除片35全体とし
て下端部から上端部に沿って外側に膨らんだ形状になっているもので
あるため,構成要件C1を充足する。
,,b被告製品における解除片は別紙物件目録記載1ないし5のとおり
鋭角上に折れ曲がった「く」の字又は逆「く」の字型であり,大きく
外側に突出した形状となっている。構成要件C1の「若干外側に膨ら
んだ形状」とは,解除片の下端部(ステップ片に連結している部分)
から上端部(部品保持部の両側面一部に近接している部分)にわたる
部分が部品保持部の外周に沿って曲げられた構成をいうと解されるか
ら,被告製品のような形状の解除片も,同構成に該当する。
本件特許の請求項に記載された「若干」の語句は,数値的に明確と
なるものではないものの,このような記載で特許査定がされたのは,
以下のとおり本件明細書に記載の複数の実施例の記載に基づけば若,「
干外側に膨らんだ形状」の範囲を明らかにするのに十分であり「若,
干」の語句が本件特許を明確にする上での阻害要素にはならないと判
断されたためであると思料する。
(a)本件明細書の【実施例6】段落【0028】には「図13は,
実施例6であり,ここでは解除片35,35の上端部351,35
1をロック部20から切り離した構造としたことが特徴とされてい
る。すなわち,解除片35,35の上端部351,351を幾分内
側に曲げた構造とし,この上端部351,351をロック部20の
筒状部21の上面に設けた庇部211,211の下側に配設したも
のであるその他の構成は実施例1と全く同じであるとあり8。。」(
頁1行ないし5行,ここで引用する実施例1の解除片の形状につ)
いて「前記各連結片33,33の外面から前記ロック部20の上,
縁部との間にわたってそれぞれ外側に膨らんだ状態で延長された一
対の解除片35,35とを備えている」との記載がある(4頁2。
8行ないし30行段落【0010。ここには「若干」の修飾】),
はなく「前記解除片35,35は前記ロック部20の両側面の両,
外側において上端部から下端部にかけて徐々に膨らみが大きくなる
ように両外側方向に緩やかな向けられた形状であり,特に下端部は
前記連結片の外側面に対して垂直に近い角度で連結されている」。
と説明され(4頁50行ないし5頁3行段落【0012,図】)
,,34及び9ないし16の各実施例に示されたような形状のものが
構成要件C1の「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らん
だ形状」の解除片の実施形状とされている。
特に,実施例7(図14)は,解除片35の下端部から上端部に
かけて大きく外側に張り出し,90度に近い角度まで曲げた構成の
ものであり,被告製品に近い構成である。
(b)「シャーシに対して取着状態にあるケーブルタイ1をシャーシ
から離脱させる際には,図6に示すように2本の指で解除片35,
35を外側から摘み,かつ両側から力を加えて解除片35,35を
内側に変形させる(5頁30行ないし32行段落【0015)」】
のであるから,解除片は,指で摘んで内側に変形させることができ
る程度の膨らみが必要である。
また,ベルト部10及びロック部20が外力によって傾斜されよ
うとする際「これと同時にケーブルタイ1の傾斜に伴って特に傾,
斜方向の下側に位置する解除片35は外側に撓む方向に変形されよ
うとするが,当該解除片35の上端部はロック部20に連結されて
いるので,解除片35の変形は長さ方向に縮む方向の変形となり,
解除片35はいわゆる「つっかい棒」のように機能するため,ロッ
ク部20ないしケーブルタイ1が傾斜され難くなる(6頁3行な」
いし7行段落【0017)ような程度の膨らみも必要である。】
c被告は,平成20年10月15日付けで,本件特許を無効とする旨
の審決を求める特許無効審判を請求した(無効2008−80020
6号。同審判事件において,被告は,特開2001−278329)
号公報(乙2)の押圧操作片10のような形状(図1,図2,図3参
照)も本件発明の構成要件C1の「若干外側に膨らんだ形状」に当た
ることを認めている。同公報に記載された解除片は,下端部から上端
部にむけて大きな角度で形成されており,このことからも,構成要件
C1の「若干外側に膨らんだ形状,特に「若干」については,ある」
程度の幅を持っていることが明らかである。
(キ)構成要件C2について
解除片35は,上端部351が部品保持部20の両側の側面に近接配
置されているものであるため,構成要件C2を充足する。
(ク)構成要件C3について
解除片35は,スナップ片32が透孔3に嵌合されたときに解除片3
5の上端部351が部品保持部20の両側の側面に当接される構成であ
るため,構成要件C3を充足する。
(ケ)構成要件Dについて
被告製品は,スナップ構造であり,構成要件Dを充足する。
(被告の主張)
ア被告製品の構成
被告製品の構成は,以下のとおり分説することができる(以下,分説し
た構成をそれぞれ「構成a」などという。なお,被告製品の正面及び’。)
側面を示した概念図が別紙物件目録1ないし5記載のとおりであることは
争わないが,同図における符号のうち,符号34(脚片,35a(上端)
押圧操作部)及び35b(下端連結部)については,符号の付し方が相当
でない。符号の付し方は,被告製品の構成の説明と密接な関連性があるも
のであり,別紙被告作成図面の図1ないし図5記載のとおり名称及び符号
を付すのが相当である。
a’被保持部を保持するための部品保持部(頭部)20の下部に設け
られて部品保持部を基板2に固定するためのスナップ部(脚部)3
0を備えており,
b1’スナップ部30は,基板2に設けられた透孔3内に挿入されるポ
スト31と,
b2’ポスト31の両側に沿って設けられ径方向に弾性変形可能で透孔
3に嵌合される矢尻型をした一対のスナップ片32と,
b3’スナップ片32に連結片33を介してそれぞれ連結され内側方向
に手操作されたときにスナップ片32を内側方向に変形して透孔3
との嵌合を解除する一対の解除片35とを備えるスナップ構造であ
って,
c1’解除片35は,連結片33の上端部に連結されて外側下方に延び
てその中央部が基板2と接触する基板接点部352となり,そこか
ら上方に延び,ついで内側に曲がって延びて部品保持部(頭部)2
0の側面に当接する上端部351までが一体構造として形成され,
c2’上端部351は,部品保持部20の両側の側面に近接配置される
とともに,
c3’スナップ片32が透孔3に嵌合されたときに両側の側面に当接さ
れる構成である
d’ことを特徴とするスナップ構造。
イ被告製品と本件発明との対比
(ア)構成要件A,B1,B2,B4,C2,C3及びDとの対比
前記アのとおり,被告製品の構成a,b1,b2,b3,c2’’’’
,c3’及びd’は,それぞれ,構成要件A,B1,B2,B4,C’
2,C3及びDと同一であるから,これらの構成要件を充足する。
(イ)構成要件B3との対比(争点1−1)
’’,,前記アのb1ないしb3のとおり被告製品のスナップ部30は
ポスト31,スナップ片32及び解除片35という3つの構成しか有し
ておらず「脚片」に相当する構成を有しないので,構成要件B3を充,
足しない。
原告は,構成要件B3は脚片が解除片の部位を兼ねる構成をも含むも
のであると主張する。しかしながら,次のとおり,この主張は,本件特
許請求の範囲の技術的解釈,本件明細書の記載,本件特許権の出願経過
などを無視したものであって,失当である。
a特許請求の範囲の技術的解釈
本件発明に係る特許請求の範囲請求項2において,スナップ部は,
ポスト,スナップ片,脚片及び解除片を備えるスナップ構造であると
記載されている。したがって,その文言を通常どおり解釈すれば,本
件発明において,スナップ部は,ポスト,スナップ片,脚片及び解除
片という4つの構成が独立して存在していると解すべきである。
b本件明細書の記載
以下のとおり,本件明細書の記載からみて,本件発明において解除
片と脚片とは別個独立の構成であることが明らかである。本件明細書
には,被告製品のように,脚片と解除片とが一体となり,脚片が解除
片を兼ねる態様については,記載も示唆もない。
(a)本件明細書の図1には「…各連結片33,33の外面からそ,
れぞれ外側下方に向けて直線的に突出された一対の脚片34,34
,,と…それぞれ外側に膨らんだ状態で延長された一対の解除片35
35(4頁27行ないし30行段落【0010)と記載され,」】
脚片は,解除片と明確に区別されている。また,他の図面において
,,,。,もすべて同様に脚片は解除片と明確に区別されているなお
これらの図面において,脚片と解除片は,それぞれ連結片に連結さ
れているごく一部において一体化しているが,脚片と解除片の大部
分は,別異の完全に独立した片として存在している。
(b)本件発明は「脚片54は解除片55から両側に向けて突出す,
る構成2頁44行ないし45行を含む従来のスナップ構造段」()(
落【0003】及び図18)における課題を解決しようとするもの
であり,解除片55及び脚片54の弾性力の設計が困難であること
などが課題としてあげられている(段落【0004。】)
すなわち,本件発明は,従来技術に開示されている,脚片と解除
片が独立した構成であるスナップ構造を前提として,これを改良し
たものである旨が明細書中に明示されている。このことは,本件発
明における図面中の脚片34が上記図18に示される脚片54と同
様の形態を有することからも,窺うことができる。
(c)「前記解除片35,35は前記ロック部20の両側面の両外側
において上端部から下端部にかけて徐々に膨らみが大きくなるよう
に両外側方向に緩やかな向けられた形状であり,特に下端部は前記
連結片の外側面に対して垂直に近い角度で連結されている(4。」
頁50行ないし5頁3行段落【0012「指で解除片35,】),
35を内側に向けて変形させることで連結片33,33を介してス
ナップ片32,32の縮径を助け,挿入し易くすることが可能であ
る(中略)脚片34,34は弾性力によってシャーシ2の上面に。
当接されているため,スナップ部30全体は透孔3に嵌合した状態
が保持され,かつ段部321,321と透孔3の内縁部との係合に
よって脱落が防止される(5頁9行ないし17行段落【00。」
13)との記載からも明らかなとおり,解除片は,内側に変形し】
てスナップ片の縮径を助け挿入し易くするものであり,他方,脚片
は,弾性力によってシャーシの上面に当接されるものであり,相互
に独立して別個の機能を果たすものである。
c本件特許権の出願経過
次のとおり,本件特許権の出願の経緯にかんがみても,本件発明に
おける脚片は,解除片と独立した構成であるとしか解釈し得ない。
(a)本件発明に係る特許請求の範囲請求項2の出願当初の記載は,
次のとおりであった(乙14の1・2。)
「実装用部品を固定するための基板等に設けられた透孔内に挿入さ
れるポストと,前記ポストの先端に設けられて径方向に弾性変形
可能な矢尻型をしたスナップ片と,前記スナップ片に連結されて
外方に向けて突出された翼片と,前記スナップ片に一端部が連結
され,手操作されたときに前記スナップ片を縮径可能な解除片を
備え,前記スナップ片が前記透孔内に挿入されたときに径方向に
弾性変形して前記透孔に嵌合され,前記翼片との間に前記基板等
を挟持するスナップ構造であって,前記解除片は前記実装用部品
の側面に沿って延設され,その他端部は前記スナップ片が前記透
孔に嵌合した状態のときに当該他端部が前記実装用部品の側面に
当接するように前記実装用部品の側面に近接配置されていること
を特徴とするスナップ構造」。
(b)上記出願に対し,平成18年6月5日付けで,実用新案登録第
2600587号公報(乙7)記載の発明と実質的な差異点は認め
られないことを理由とする拒絶理由通知(乙8)が出された。これ
に対し,原告は,同年7月26日付けで,上記請求項2を次のとお
り補正する旨の手続補正書(乙9)及び意見書(乙10)を提出し
た。
「実装用部品を保持するための部品保持部の下部に設けられて当該
部品保持部を基板に固定するためのスナップ部を備えており,前
記スナップ部は前記基板に設けられた透孔内に挿入されるポスト
と,前記ポストの両側に沿って設けられて径方向に弾性変形可能
な矢尻型をした一対のスナップ片と,前記スナップ片にそれぞれ
下端部が連結され,当該下端部から上端部に沿って若干外側に膨
らんだ形状とされ,当該上端部が前記部品保持部の側面一部に近
接配置された一対の解除片を備え,前記解除片の上端部は前記ス
ナップ片が前記透孔内に嵌合されたときに前記部品搭載部の側面
一部に当接される構成とし,前記解除片は内側方向に手操作され
たときに前記スナップ片を内側方向に変形可能であることを特徴
とするスナップ構造」。
(c)これに対し,平成18年9月27日付けで,拒絶査定がされた
(乙11。原告は,同年11月1日付けで,上記請求項2を現在)
の請求項2のとおり補正する旨の手続補正書(乙12)及び審判請
求書(乙13)を提出し,同年12月22日,特許査定がされた。
(d)以上のとおり,脚片に関する構成要件B3は,公知文献に対す
る特許性を主張するため,すでに存在した解除片に関する構成とは
別個に,平成18年11月1日付け手続補正書においてはじめて付
加されたものである。また,同日付け審判請求書には,脚片につい
て「部品保持部が傾倒するときには脚片の弾性力によって部品保,
持部の傾倒を抑制することができ,解除片による部品保持の傾倒抑
制効果を助長するという引用文献1からは期待することができない
顕著な作用効果を奏するものである(8頁15行ないし18行)。」
と記載され,脚片の作用効果が明確に説明され,脚片と解除片の共
同による効果が強調されている。これは,当然のことながら,脚片
と解除片とが独立した構成であることを前提とするものである。
(e)このように,原告自身が,本件発明における「脚片」と「解除
片」とは独立した別個の構成であって「解除片」と「脚片」とを,
兼ねる構成を意識的に除外したと解される状況を,客観的・外形的
に作出した以上「脚片」が「解除片」とを兼ねる態様も含むと主,
張することは,包袋禁反言の適用により信義則上許されない。
d甲10公報の記載についての反論
甲10公報では,特許請求の範囲に記載されているとおり,弾性部
と側片部とが別個の構成とされていることから,発明の詳細な説明で
,,,もそれらに相当する弾性片17と側片18とが別個の構成とされ
別個の名称を付している。これは,特許請求の範囲の構成要素に対応
させて発明の詳細な説明を記載したという,当然のことがされている
にすぎない。
甲10公報記載の発明は,本件発明との関係でいえば「解除片」,
が2つの構成要素からなるという構成を前提として,発明の詳細な説
明が記載されているのであって,特許請求の範囲に別個の構成要素と
して記載されているものが兼ねていてもよいなどとは一言も書かれて
いない。むしろ,特許請求の範囲に記載された構成要素を兼ねること
ができないことを前提として,発明の詳細な説明において,別個の構
成要素として説明している。
一体の部材に弾性片17及び側片18という2つの名称を付けて説
明することと,別個独立の構成要件として記載されている特許請求の
範囲の解釈について,これらを兼ねる態様を技術的範囲として含むの
か否かという問題とは,何ら関係がない。
(ウ)構成要件C1との対比(争点1−2)
a前記アのc1’のとおり,被告製品の解除片35は,連結片33の
上端部に連結されて外側下方に延びてその中央部が基板2と接触する
基板接点部352となり,そこから上方に延び,ついで内側に曲がっ
て延びて部品保持部(頭部)20の側面に当接する上端部351まで
が一体構造として形成されている。
このように,被告製品における解除片35は,その下端部から上端
部までが中央部(基板接点部352)で鋭角状に折れ曲がった「く」
の字又は逆「く」の字形であり,大きく外側に突出した形状となって
いる。
したがって,通常の文言の意味に照らして考えれば,鋭角状に折れ
曲がった「く」の字又は逆「く」の字形に大きく外側に突出した形状
が,構成要件C1の規定する「若干外側に膨らんだ形状」と異なるこ
とは明らかである。
よって,被告製品は,構成要件C1を充足しない。
bまた,構成要件C1の「下端部から上端部に沿って若干外側に膨ら
んだ形状とされ」との構成は,前記(イ)cのとおり,本件特許権の,
出願の過程で,公知文献に対する特許性を主張するため,平成18年
7月26日付け手続補正書においてあえて付加されたものであり,併
せて,同日付け意見書において,その構成が引用文献には記載されて
いないことが主張された経緯がある。
このように,原告は「若干」という文言により,解除片について,
も意識的に限定したものであり,また,外形的にそのように解される
状況を作出したことによる包袋禁反言の適用により,解除片について
「若干」外側に膨らんだ形状でない態様も含むと主張することは,も
はや信義則上許されない。解除片35の下端部から上端部にかけて大
きく外側に張り出すような構造のものを示す実施例7(図14)の態
様は,本件特許の実施例から削除されてはいないが,もはや実施例で
はないというべきである。
c無効2008−800206号事件についての反論
無効2008−800206号審判事件において,被告は「若干,
外側に膨らんだ形状」の解除片の構成が実開平1−163275号公
(。),報乙1同審判の甲第1号証に記載されていると主張したものの
特開2001−278329号公報(乙2。同審判の甲第2号証)の
押圧操作片10について「若干外側に膨らんだ形状」の解除片が記,
載されているとは主張していない(乙6。)
ところが,上記審判の平成21年3月17日の口頭審理において,
原告は,本件特許権の特許請求の範囲請求項1の発明に係る特許に対
する無効理由3に関して,被告が主張していないにもかかわらず,上
記押圧操作片10について「若干外側に膨らんだ形状」の解除片が,
記載されていることを認めた。
被告は,原告が被告の主張とは無関係に,請求項1に係る発明の構
成は既に開示されていたことを認めるという自己に不利益となる主張
をしたことから,その点についてはあえて争う必要がないと考え,特
に争点としなかったにすぎない。
()争点2(本件特許は無効とされるべきものか)について2
(被告の主張)
ア進歩性の欠如(争点2−1)
本件発明は,以下のとおり,出願前公知刊行物の記載に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項に違反し
て特許されたものであるから,本件特許は特許無効審判により無効にされ
るべきものである。
よって,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件
特許権の行使をすることはできない。
(ア)特開2001−278329号公報(乙2。以下「乙2公報」とい
う)の記載。
乙2公報には,次の記載がある。
()「発明の属する技術分野】本発明は,車両のボディーパネル等2a【
の取付パネル上に這わす電線やケーブル等を結束し保持するのに用
いられる合成樹脂製結束具に関する(2頁1欄22行ないし2。」
4行段落【0001。】)
()「本発明に係る合成樹脂製結束具は,図1に示すように,全体が2b
ナイロン等からなる合成樹脂成形品であり,バンド部1と,このバ
ンド部の基端に連設されたバックル部2と,このバックル部2のバ
ンド部1とは反対側に一体に突設された矢形状の係止脚部3とを備
えている(3頁3欄21行ないし26行段落【0010。。」】)
()「バンド部1の片面にはその長手方向に一定の間隔をもって係合2c
。,歯4を列設しているバックル部2は四角形枠状に形成されており
バンド部1がこれの先端部から挿通されるバンド挿通孔5を前後方
向に貫通状に形成するとともに,このバンド挿通孔5内にバンド部
1の係合歯4に係合する係合爪6を突設している(3頁3欄2。」
7行ないし32行段落【0011)】
「,,()矢形状の係止脚部3はバックル部2から垂設された支柱7と2d
この支柱7の先端からバックル部2に向けて折り返し状に形成され
た一対の拡縮変形自在な可動係止片8,8とから構成され,各可動
係止片8の中途部には係合段部9を設けている。また各可動係止片
8の自由端側には押圧操作片10と弾性変形自在な安定脚片11を
形成するが,押圧操作片10は各可動係止片8の自由端側からバッ
クル部2の側方へ向けて延出するように,安定脚片11は各可動係
止片8の自由端側から可動係止片8の側方へ向けて延出するように
互いに反対向きに延出形成される(3頁3欄33行ないし43。」
行段落【0012)】
()「次に,図2を参照して上記構成の合成樹脂製結束具を車両のボ2e
ディーパネル等の鋼製取付パネル12上に這わす電線等の被結束物
13を結束し保持する場合の使用要領について説明する。先ず,合
,()成樹脂製結束具は係止脚部3を取付パネル12の表面側一側面
から取付孔14に挿入して裏面側(他側面)に突出させることによ
り両方の可動係止片8,8が取付孔14によって互いに近接するよ
う縮小変形され,安定脚片8,8が取付パネル12の表面上に弾性
接当したところで両方の可動係止片8,8が弾性復元力で互いに離
間するよう拡開変形し,両方の可動係止片8,8の係合段部9,9
が取付孔14のエッジ部14a,14aに係合することで抜止め状
に安定よく確実にロックされる(3頁3欄44行ないし4欄6。」
行段落【0013)】
()「次いで,被結束物13にバンド部1を巻き付け,このバンド部2f
1の先端部をバックル部2の正面側からバンド挿通孔5に挿通して
背面側へ突出させる。すると,バンド部1の係合歯4がバンド挿通
孔5内の係合爪6に係合することによりバンド部1の抜け止め状態
が得られ,これにより被結束物13が結束状態に保持される(3。」
頁4欄7行ないし13行段落【0014)】
()「このように被結束物13を保持する合成樹脂製結束具は,強引2g
にバックル部2が左右方向aに揺さ振られた場合,バックル部2は
支柱7の可動係止片8,8との連接部を支点にして左右に傾くが,
,。,両方の可動係止片88を揺り動かすことは殆どないしたがって
両方の可動係止片8,8は係合段部9,9を取付パネル12の取付
孔14のエッジ部14aに係合したままの状態を堅持するため,取
付孔14から抜け出ることはなく,係止脚部3の安定した抜止めロ
ック状態が確実に保持され,また引抜き強度を向上する(3頁。」
4欄14行ないし23行段落【0015)】
()「この取付け状態から合成樹脂製結束具を取り外すときは,図32h
に仮想線で示すごとく押圧操作片10,10をバックル部2に近付
けるよう矢印b方向に押圧移動操作すると可動係止片8,8の双方
が互いに近接するよう縮小変形することにより取付孔14から容易
に抜き出すことができる(3頁4欄24行ないし29行段落。」
【0016)】
(イ)本件発明と乙2公報記載の発明(以下「乙2発明」という)との。
一致点
a構成要件Aについて
乙2発明は,取付パネル上に這わす電線やケーブル等を結束し保持
するのに用いられる合成樹脂製結束具に関する(())ものであり,2a
合成樹脂製結束具は,バックル部2のバンド部1とは反対側に一体に
突設された矢形状の係止脚部3を備える((),図1等)ので,構成2b
要件Aを充足する。
b構成要件B1について
乙2発明は,矢形状の係止脚部3がバックル部2から垂設された支
柱7を備える((),図1等)ので,構成要件B1を充足する。2d
c構成要件B2について
乙2発明は,支柱7の先端からバックル部2に向けて折り返し状に
形成された一対の拡縮変形自在な可動係止片8,8を備える((),2d
図1等)ので,構成要件B2を充足する。
d構成要件B3について
乙2発明は,各可動係止片8の自由端側に,弾性変形自在な安定脚
片11を形成し,安定脚片11は各可動係止片8の自由端側から可動
係止片8の側方へ向けて延出するように互いに反対向きに延出形成さ
れる((),図1等)ので,構成要件B3を充足する。2d
e構成要件B4について
,,,乙2発明は可動係止片8の自由端側に押圧操作片10を形成し
押圧操作片10は各可動係止片8の自由端側からバックル部2の側方
に向けて延出するように互いに反対向きに延出形成される((),図2d
1等。すなわち,押圧操作片10(解除片」に相当)は可動係止)「
片8(スナップ片」に相当)に下端部が連結されており,手操作に「
より可動係止片8を内側方向に変形して透孔との嵌合を解除する
((),図3等)ので,構成要件B4を充足する。2h
(ウ)本件発明と乙2発明との相違点についての検討
乙2発明は,構成要件C1ないしC3を充足していない点で本件発明
と相違するが,以下のとおり,これらの相違点は,設計事項にすぎない
か,又は,乙2発明を基に,乙第1号証及び乙第3号証ないし乙第5号
証記載の技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をするこ
とができたものであり,進歩性が肯定されるものではない。
a乙第1号証及び乙第3号証ないし乙第5号証の記載
(a)実開平1−163275号公報(乙1。以下「乙1公報」とい
う。)の記載
乙1公報には,以下の記載がある。
()「保持具全体を弾性を有する合成樹脂製のものとし,これ1a
を一体に成形してある(5頁7行ないし8行)。」
()「そして該保持具は筒状に湾曲され開環リング形状とされ1b
た保持部5と,この保持部5の夫々の開環端縁から略半径方向
の外方に向けて相対向した状態で突設された脚片66と5,」(
頁9行ないし12行)
()「この脚片6,6の自由端側から夫々の脚片6,6の外側方1c
に所定の角度で折返し状に設けられた係合片7,7と(5頁」
12行ないし15行)
()「前記脚片6,6の基部側から該脚片6,6に略直交する1d
ように外方に向けて突設され,しかも前記係合片7と対をなし
て該係合片7との間で取付け板等を挟持する押え板8,8と」
(5頁15行ないし19行)
()「前記の保持部5の外周面に所定の間隔を置いて,該周囲1e
から外方に向けて突設され,且つ前記の保持部5の開環端縁間
の開口部10を開き出す一対の摘片9,9とで構成されてお
り(5頁19行ないし6頁2行),」
()「前記の押え片8と係合片7との間にパネル等を挟持するよ1f
うにして用いる(6頁2行ないし4行)。」
()「このようにケーブル等の挿入空間が閉じられ,脚片6,1g
6が略平行とされた状態で,脚片6,6をパネル等の穴に挿入
。,することにより係合部7は脚片6の側に撓みこまれるそして
この係合片7の自由端側が該穴を抜けた時点で,この係合片7
が再度外方に弾み出し,この係合片7の自由端部と,前記押え
片8との間で前記穴の穴縁が挟持される(6頁17行ない。」
し7頁4行)
()「又,保持具は押え片8と,係合片7とによって弾性的に1h
,,支承されていることから取付けられた保持具が抜け落ちたり
緩み出したりすることがない(12頁13行ないし16行)。」
(b)米国特許第4143577号公報(乙3。以下「乙3公報」とい
う。)の記載
乙3公報には,次の記載がある。
()「第一のペアのアームの肩がシャーシの低い面の下方に押し3a
,。」下げられいかり基部を捉えるとともに外れるのを防止する
(1頁「」11行ないし16行の訳文)abstract
()「つまり,ここでの目的は,設けられた孔に容易に挿入する3b
ことができ,しかもそこから外れにくい,いかり基部を提供す
ることにある(3頁左欄45行ないし48行の訳文)。」
(。)(c)意匠公報第1065824号乙4以下「乙4公報」という。
の記載
乙4公報では[背面図[使用状態を示す参考図]等により,,],
「側面に当接して安定を図る」という「電線保持具」についての技
術が開示されている。
(d)実開昭57−93604号公報(乙5。以下「乙5公報」とい
う。)の記載
乙5公報には,次の記載がある。
()「本考案になる物体連結具は,固定化が可能であり,解離が5a
,,不必要の時にはそのまま強固な固着化が可能であると同時に
再度解離が必要な時には,周囲物体を損傷することなく,更に
本物体連結具自体も損傷することなく解離され,再使用の可能
な連結具を提供することを目的とする(2頁2行ないし8。」
行)
()「合柱体()()の外面で嵌合板⑾⑾からの立上り部からは5b1212
それぞれが互に内方へ円曲に曲折し,その先端において頭部⒂
に連結している保持環体⒁⒁を備え,頭部⒂は,平面体で構成
され,その両端部は,前記ストッパー⒀⒀の傾斜体と合体出来
るように同一面を形成した傾斜面⒃⒃を備えている(2頁。」
18行ないし3頁4行)
()「そして,脚体⒄と,合柱体⑿⑿の内面は空間Aが形成され5c
ているので,外圧による内動が自由に出来,前記のストッパー
⒀⒀と傾斜面⒃⒃との合体も自然に可能となり,また離脱も可
能な構成となっている(3頁8行ないし12行)。」
()「第3図は,本考案の斜視図であって,全体の構成は,合成5d
樹脂体の一体成形であるために脚体⒄及び頭部⒂を含む保持環
体⒁等が弾性的に可動であることが理解出来る(3頁16。」
行ないし19行)
()「傾斜面⒃とストッパー⒀は相互にハ字状の傾斜体を成して5e
いるので合体させた場合においても解離しにくい状態が形成さ
れる(4頁9行ないし11行)。」
()「この時,嵌合板⑾⑾の下方に形成されている係止部()が5f18
孔()に係止することになり,脚体⒄,即ち本物体連結具⑽は21
頭部⒂の左右への支持を受けることによって強力に固定され
る(4頁19行ないし5頁2行)。」
()「板⒆⒇に固定された物体連結具⑽は,嵌合板⑾⑾が外端を5g
やや下方に向けて傾斜しているために,嵌合板⑾⑾と係止部⒅
により板⒆⒇面に対して上下方向から相互に板面に対して挟圧
する圧力が働くため不動的に固定されることになる(5頁。」
3行ないし8行)
b構成要件C1について
乙1公報記載の保持具では,保持部5は,筒状に湾曲された合成樹
脂からなる開環リング形状,すなわち下端部から上端部に沿って若干
(,,,),外側に膨らんだ形状であることから()第1図第2図第5図1a
構成要件C1を充足する。
また,乙5公報記載の保持環体⒁についても,解除時(第5図)に
は解除片としての機能を果たすものであり,外側に膨らんだ形状とい
えることから,同様の技術思想が認められる(()第1図等。。)5d
このように,解除片の形状を上端部に沿って若干外側に膨らんだ形
状とする程度の技術は,本件特許の出願当時から周知の技術であり,
そのことに格別の意義があるわけではない。また,この形状から格別
異なる効果が生ずるものでもなく,特に阻害事由も認められない。
,,,,したがって構成要件C1は単なる設計事項にすぎないか又は
乙2発明に組み合わせることが当業者にとって容易であった。
c構成要件C2及びC3について
乙3公報記載の部材68及び部材70は,部品保持部30の両側の
側面一部46,48に近接配置されるとともに,スナップ片が透孔に
嵌合された時に当該両側の側面一部46,48に当接される((),3a
Fig2ないしFig4)ことから,構成要件C2及びC3を備えて
いる。
また,構成要件C2及びC3は「側面に当接して安定を図る」と,
いう技術的思想に基づいているところ,乙4公報の[使用状態を示す
参考図]にも,同様の思想が認められ,乙5公報の()ないし(),5b5e
第4図及び第5図を参照すれば,合柱体⑿は,頭部⒂に近接配置され
るとともに,脚体⒄が透孔に嵌合されたときに(頭部⒂の)両側の,
側面一部に当接される構成となる。
このように,側面を当接させることにより保持具の傾斜を防止する
という構成要件C2及びC3の技術的思想は,何ら特別なことではな
い周知の技術事項であり,この程度の構成の違いは,単なる設計事項
にすぎない。
そして,乙2発明の「電線等の合成樹脂製結束具」も,乙3公報な
いし乙5公報記載の発明も,同じ技術分野としての「部品を板に取着
するためのスナップ構造」に関するものであり,いずれも,解除する
ことができることを前提とした固定化(安定化)を課題としている。
なお,本件明細書の記載「解除片35,35の上端部351,35
1がロック部20に連結されていないため,解除片35,35をより
内側に向けて変形し易くされている(8頁7行ないし8行段落。」
【0029)からも明らかなように,構成要件C2及びC3とした】
ことによって,解除片をより内側に向けて変形しやすくしたという効
果があるにすぎない。
イ特許法36条6項1号違反(争点2−2)
本件発明は,以下のとおり,特許を受けようとする発明が発明の詳細な
説明に記載したものであるとはいえず,特許法36条6項1号に違反して
特許されたものであるから,本件特許は特許無効審判により無効にされる
べきものである。
よって,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件
特許権の行使をすることはできない。
(ア)本件発明に係る請求項2には「当該上端部は前記部品保持部の前,
記両側の側面一部に近接配置されるとともに,前記スナップ片が前記透
孔に嵌合されたときに当該両側の側面一部に当接される構成(構成要」
件C2及びC3)との記載があり,本件明細書の実施例6(図13)が
これに当たる。
実施例6は「解除片35,35の上端部351,351を幾分内側,
に曲げた構造とし,この上端部351,351をロック部20の筒状部
21の上面に設けた庇部211,211の下側に配設したものである。
その他の構成は実施例1と全く同じである」とされる(8頁2行ない。
し5行段落【0028。】)
この解除片35の機能につき,実施例6の保持具で傾斜した場合を考
えてみると(図13,図8(a)参照,この場合,傾斜方向の下側に位)
置する解除片35が上方向に撓む方向に変形しようとするが,解除部3
5の上端部351は,ロック部20から切り離された構造となっている
ため,上端部351がロック部20に当接することで,解除片35の変
形は長さ方向に縮む方向の変形となる。仮に,庇部211がなかったと
したら,上端部351は,ロック部20から容易に外れてしまい,解除
片35は「つっかい棒」としての機能を果たすことはできない。
つまり,上端部351は,ロック部20の側面だけでなく,庇部21
1にも当接することで,上端部351がロック部20から外れてしまう
ことを防止している。
このように,本件発明にあっては,傾斜を抑制して基板から離脱する
ことを防止するには,庇部211,211により解除片35,35の上
端部351,351が上方向へ外れる動きを係止する構成が不可欠とな
る。
しかしながら,本件発明には,庇部211,211に相当する構成が
記載されておらず,発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決す
るための手段が反映されていない。
(イ)これに対し,原告は,後記のとおり,解除片の上端部とこれが当接
する部品保持部との間に摩擦が生じることにより,解除片の上端部が上
方向へ外れる動きが係止されるものであり,被告が指摘する構成は必ず
しも必要ではない旨主張する。しかしながら,次のとおり,原告の上記
主張は誤りである。
aスナップ構造の材質
解除片35の上端部351を含めて,本件発明に係るスナップ構造
の各部は,合成樹脂(プラスティック)により成形されている(本件
明細書の段落【0008。合成樹脂が材質として特に静止摩擦係】)
数が小さい(表面がすべりやすい)ことは,当業者でなくとも周知の
事項である。
b当接する面積
本件明細書には「解除片35の上端部351とロック部20の各,
側面に当接される構成(段落【0029)自体は記載されている」】
ものの,当接するのは,あくまで上端部351の先端の極めて狭い領
域であり,ロック部20と当接したとしても,その面積は小さい。し
たがって,解除片35を係止できる程度の摩擦力が発生するとは考え
られない。
c当接する角度
解除片35の上端部351とロック部20の各側面が当接するとし
ても,それは垂直に当接するものではなく,多少の角度をもって当接
することになる。摩擦力は,垂直にかかる力に摩擦係数を掛け合わせ
た値であるが,垂直に当接しない分,摩擦力が減少する。
d当接面の加工
上端部351がロック部20の各側面に係止し続けるためには,当
接面につき摩擦係数を上げるため,凹凸や細かい刻み目を付けるなど
の加工を施すことが必須となる。しかし,本件明細書にはそのような
記載はない。
(ウ)また,原告は,甲10公報によれば,庇部が存在しなくても,ある
いは側面に緩やかな膨らみを備えていなくても,部品保持部の傾倒を防
止することができることを被告自身が認めているとも主張する。
しかしながら,甲10公報にあげられたクランプ1と本件発明の実施
例とを比較すれば明らかなように,甲10公報のクランプ1は,本件発
明にいう「脚部」を有しておらず,そもそも安定性の面で大きな違いが
ある。
すなわち,解除片(弾性片17,側片18)が鋭角にくの字型に曲げ
られており,板材20に固定された状態とされているため,板材20か
ら受ける上方向の力は,そのまま側片18に伝わり,クランプ1の傾き
防止につながる。また,クランプ1でも材質からある程度上方向に滑る
こと自体は,クランプ1自体が予測しており,そのため側片18の先端
部18aが当接している部分から上方には,十分な余裕が設けられてい
る。
これに対し,本件発明では「脚部」を構成要素としており,当接部,
から上方に向けて十分な余裕も設けられておらず,庇部211が存在し
なければ上方向に外れてしまうことが明らかである。
(原告の主張)
ア進歩性の欠如について(争点2−1)
(ア)構成要件C1について
a原告は,乙2発明は構成要件C1を具備しており,乙2発明と本件
発明との相違点は構成要件C2及びC3であると考えている。なお,
乙1公報記載の保持部5ないし乙5公報記載の保持環体(14)に構成要
件C1と同様の技術的思想が認められる旨の被告の主張については,
争う。
b被告は,乙1公報記載の保持具では,保持部5が解除片に相当する
と主張し,第5図を引用する。
,「.」,しかしながら乙1公報の12頁の4図面の簡単な説明では
「第5図はパネルに挿入する直前の一部を断面した正面図」とあり,
保持具のパネルPの穴Hからの解除の説明ではない。乙1公報では,
「保持部5」を摘んだ状態を示す第5図について「次いで第5図で,
示されるように摘片9と押え片8との間に指先を押し当てることによ
り脚片6,6間の隙間ℓがなくなり脚片6,6がパネルP等の取付け
穴Hに挿入され易くなる。この状態で脚片6,6を穴Hに押し入れる
ことにより係合片7が脚片6の側に撓み,段部7bの位置で該係合片
7が外方に弾み出し舌片7aが穴Hの穴縁に係当し,押え片8との間
でパネルP等の穴Hの周面が支承される(11頁2行ないし11。」
行)と説明されており,このことは,保持部5を摘んでも係合片7は
穴Hの内径よりも小径にならないことを示している。したがって,舌
片7aが穴Hに係当した状態で保持部5を摘んでも係合片7を穴Hか
ら抜き出すことはできず,保持部5は解除片の機能を有していない。
乙1公報の「保持部5」は「ケーブル等を挿入されて,これを支承,
する(7頁8行ないし9行)ものであり,本件発明における部品保」
持部そのものである。
c被告は,乙5公報記載の保持環体(14)が解除片として機能すると主
張するが,この保持環体(14)は,自身が変形して連結されている頭部
,。,(15)を移動させるため柔軟であることが要求されているそのため
仮に保持環体(14)を摘んでも,脚体(17)を内側に変形させることはで
きず,解除片としての機能を有していない。
(イ)構成要件C2及びC3について
a乙3公報には,一対の部材52,54にそれぞれ下端部が連結され
た部材56,58と,これら部材56,58の上端部に連結された部
材60,62が存在する。このように,部材56,58の外側に部材
60,62が存在するため,部材56,58を操作して部材52,5
4を内側に変形させることは困難であり,部材56,58は解除片の
機能を有しない。また,部材60,62は横に広がった形状であるた
め,これを操作して部材52,54を内側に変形させることは困難で
あり,仮に内側に押圧できたとしても,部材46,48に阻まれてし
まい,部材52,54を内側に変形させることは困難である。このよ
うに,乙3公報には本件発明の「解除片」に相当する部材は存在しな
い。
また,乙3公報の“ANCHORBASEFASTENERが,透孔に挿入された”
状態では(FIG2又は明細書冒頭の図面,部材68及び70が部)
材46及び48に当接していないことは明白である。したがって,同
図から部材68及び部材70が構成要件C2及びC3を備えていると
主張するのは,不当である。
b被告は,構成要件C2及びC3は「側面に当接して安定を図る」,
という技術的思想に基づいており,乙4公報の[使用状態を示す参考
図]にも,同様の思想が認められると主張する。
しかしながら,上記主張は,上記参考図におけるどの部材のどのよ
,。うな構造に上記思想が認められると主張するものなのか不明である
仮に,上記主張を上記参考図に記載されている実線部分の中央で交差
する部材を意味するものと善解したとしても,当該部材は,保持具を
取付穴に挿入した際に,嵌合状態を保持するための弾性力を付加する
ための部材であろうと推測されるものであり,被告の主張するように
「側面に当接して安定を図る」という構成ではない。
c乙5公報には,第4図として脚体(17)を孔(21)に挿入する途中の状
態が,第5図として脚体(17)が孔(21)に嵌合された状態がそれぞれ示
されている。第5図で明白なとおり,脚体(17)が孔(21)に嵌合された
状態では合柱体(12)と頭部(15)とは接触すらしておらず,被告の主張
するように「脚体(17)が透孔に嵌合されたときに(頭部(15)の)両,
側の側面一部に当接される構成となる」ことなどない。
イ特許法36条6項1号違反について(争点2−2)
(ア)解除片の上端部と,これが当接する部品保持部の側面一部の両当接
面の間に摩擦が存在すれば,当該摩擦により発生する摩擦力によって解
除片の上端部と部品保持部の側面一部との間にすべり防止作用が発生
し,このすべり防止作用によって上端部が上方向へ外れる動きが係止さ
れ,結果として傾斜防止の効果が得られる。この種のスナップ構造を構
成している樹脂材料では,部材が互いに当接する面には必ず零よりも大
きい摩擦力が発生するものであり,摩擦力の違いによって程度の差はあ
るものの,確実に傾斜防止効果が得られることになる。
したがって,本件発明を実現する上で被告が主張するような構成は必
ずしも必要ではない。
(イ)また,被告自身の特許出願に係る甲10公報の記載において「一,
対の側片18」は,外側に膨らんだ形状とされた上で,その上端部は,
「クランプ」の両側の側面一部に近接配置される。1
同公報の発明の詳細な説明には「その弾性片17の先端部からは,,
基部2側へ(図1(a)で上向きに)側片18(側片部に該当)が延出さ
れている。側片18の先端部18aは,それぞれ内側(開閉部材3,連
結部材9側)に曲がっているが,開閉部材3又は連結部材9に接触して
。」(【】),はいないと説明され6頁13行ないし15行段落0029
「さらに,側片18は,少なくとも固定機構が板材20に固定された状
態では,側片18の先端部18aが,基部2に連設された部材である開
閉部材3,連結部材9に当接する。このため,クランプ1に外力が作用
した際に側片18が支えとなるので,クランプ1の傾き防止に効果的で
。」(【】),あるとの記載があり7頁25行ないし28行段落0041
本件発明と同様に物品保持部の傾倒を防止する効果が得られることが記
載されている。
そして,甲10公報の図3,図8(c)を参酌すると,側片(本件発明
の解除片)の上端部を部品保持部の両側の側面に当接させる構成となっ
ているが,これらの側面には庇部は存在しておらず,また,側面に緩や
かな膨らみを備えていないものも存在する。してみれば,甲10公報に
よれば,庇部が存在しなくても,あるいは側面に緩やかな膨らみを備え
ていなくても,部品保持部の傾斜を防止することが可能であることを,
被告自身が認めていることになる。
第3当裁判所の判断
1争点1(被告製品の構成及び本件発明の構成要件該当性)について
()被告製品の構成について1
正面及び側面を示した概念図が別紙物件目録1ないし5記載のとおりであ
ること,被告製品における解除片35の形態は,連結片33の上端からいっ
,,たん外側下方に延び被告のいう基板接点部352から上方へ反転して延び
上端部351が部品保持部20の両側の側面に近接配置されるものであるこ
とは当事者間に争いがない。この解除片35を構成する部材について,更に
脚片34,上端押圧操作部35a,下端連結部35bとの各符号及び符号を
付するか否かについては,当事者間に争いはあるものの,解除片35の形態
自体については前記のとおり当事者間に争いがないので,以下,被告製品に
ついて述べる部分には,便宜上,構成部分の名称の後に記載する符号は,別
紙被告作成図面記載の符号を用いることととする。
()争点1−1(被告製品は構成要件B3を充足するか)について2
ア本件発明において,構成要件B3の「脚片」とは「スナップ部」の一,
部を構成するものであり「前記部品保持部の前記両側位置において前記,
基板の表面に弾接して前記スナップ片とで当該基板を挟持する一対の」も
のであると定義されている。
別紙被告作成図面記載のとおり,被告製品におけるスナップ部30は,
部品保持部20の両側の位置に,一対の基板接点部352を備えている。
そして,基板接点部352は,連結片33の上端に連結され,基板接点部
352が基板2の表面に押し当てられることにより,基板接点部352と
スナップ片32とで基板2を挟持するものであることが認められる。
そうすると,被告製品の「連結片33の上端から基板接点部352まで
延びる部位」は「スナップ部」の一部を構成し「部品保持部の両側位,,
置において基板の表面に弾接してスナップ片とで基板を挟持する一対の」
ものであり,構成要件B3の「脚片」に該当すると認められる。
したがって,被告製品は,構成要件B3を充足する。
イこれに対し,被告は,前記第2の3()のとおり,本件特許請求の範囲1
の技術的解釈,本件明細書の記載,本件特許権の出願経過などにかんがみ
ると,構成要件B3の「脚片」は,解除片とは別個独立の構成のものであ
り,被告製品のように,脚片と解除片とが一体となり,脚片が解除片の部
位を兼ねる構成をも含むものではないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,本件発明の構成要件B3は「前記部品,
保持部の前記両側位置において前記基板の表面に弾接して前記スナップ片
とで当該基板を挟持する一対の脚片と」というものであり,脚片と解除,
片との関係について特段触れるものではなく,脚片と解除片とが一体とな
り,脚片が解除片の部位を兼ねる構成を排除する記載とはなっていない。
,,,なお本件発明に係る特許請求の範囲請求項2ではスナップ部はポスト
スナップ片,脚片及び解除片を備えるスナップ構造であると記載されてい
,,るものの構成要件B3の記載が上記のとおりであることにかんがみると
かかる記載のみから,これら4つの構成がそれぞれ別個独立の部材として
存在していることを意味するものと解することは困難である。
また,本件明細書の発明の詳細な説明における実施例等では,脚片と解
除片とは,それぞれ連結片に連結されているごく一部において一体化して
いるものの,大部分は別個の片となっており,脚片と解除片とが区別され
た記載がされている。しかしながら,発明の技術的範囲は必ずしもその実
施例に限定されるものではなく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を
総合しても,本件発明の技術的範囲が実施例に限定されると解することに
はならない。
本件特許の出願経過をみても,原告において,被告製品のように脚片と
解除片とが一体となり脚片が解除片の部位を兼ねる構成を,本件発明の対
象からことさらに除外したなどの事情は認められない。
よって,被告の上記主張を採用することはできない。
()争点1−2(被告製品は構成要件Cを充足するか)について3
ア原告は,被告製品における解除片35の形状が,構成要件C1の「前記
下端部(スナップ片に連結された解除片の下端部のことを指す(構成要件
B4参照)から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」に含まれる)。
と主張する。
そこで,特許請求の範囲に記載された「前記下端部から上端部に沿って
若干外側に膨らんだ形状」の意義について検討する。
(ア)下端とは下のほうのはし広辞苑第5版519頁を上「」,「」(),「
端」とは「上のはし(同1322頁)を「若干」とは「それほど,」,,
多くはない,不定の数量。いくらか。多少(広辞苑第5版1242。」
頁)を,それぞれ意味するものである。また「端」とは「物の末の,,
。。,。」(),「」部分先端中心から遠い外に近い所同2135頁を沿う
とは「線条的なもの,または線条的に移動するものに,近い距離を保,
って離れずにいる意(同1538頁)を意味するものである。。」
(イ)そうすると「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ,
形状」とは,言葉の通常の意味においては,スナップ片に連結された部
分を解除片の下の端(一番下の部分)とし,そこから上方に向かって,
いくらか外側に膨らみながら解除片が延びて行き,部品保持部20の側
面に近接した位置が解除片の上の端(一番上の部分)となる形状を意味
するものということができる。
(ウ)これに対し,被告製品における解除片は,前記のとおり,連結片と
の結合部から単純に上方へ延びているものではなく,いったん外側下方
に延び,基板接点部352(同点が一番下の部分となる)において,。
鋭角状に大きく折れ曲がるような形で反転し,そこから上方に延びて,
上端部(部品保持部20の側面に近接した位置)に至る形状である。
このような被告製品における解除片の形状は「下端部から上端部に,
沿って若干外側に膨らんだ形状」の言葉の通常の意味,すなわち「ス,
ナップ片に連結された部分を解除片の下の端(一番下の部分)とし,そ
,,こから上に向かっていくらか外側に膨らみながら解除片が延びて行き
()部品保持部20の側面に近接した位置が解除片の上の端一番上の部分
となる形状」であるとは,直ちに認め難い。
(エ)以上のとおり,特許請求の範囲の「前記下端部から上端部に沿って
若干外側に膨らんだ形状」の用語から直ちに,かかる形状に被告製品の
解除片の形状が含まれると解することはできない。
イそこで,本件明細書の中の「前記下端部から上端部に沿って若干外側に
膨らんだ形状」についての記載を検討する。
(ア)本件明細書には,発明の詳細な説明として,以下の記載がある(甲
2。)
a背景技術
「ところで,近年における家電製品,OA機器,自動車,電子機器全
般において環境問題の解決策として環境配慮型製品の販売が義務付
けられている中で,例えば,電子機器に内装したプリント基板や配
線を電子機器のシャーシやパネル等から解体可能にすることが要求
されている。特に,解体作業を容易に行うために,工具等を用いる
ことなく容易に解体することが要求されている。そのため,この種
の実装用部品においては,電子機器の組立時に基板の透孔に対する
取着作業を容易なものにする一方で,電子機器の解体時には素手で
容易に透孔から外し易くすることが要求されている。このようなス
ナップ構造として,特許文献1の技術では,図18(a)に示すスナ
ップ部30Bは後述するようなケーブルタイに適用したものである
が,直線板状のポスト51の先端両側に矢尻状のスナップ片52を
形成するとともに,スナップ片52の先端部に連結した連結片53
とにより段部521を形成し,さらに連結片53にはそれぞれ両外
側に向けられて指で摘むことが可能な解除片55を一体に設けてい
る。また,ここでは脚片54は解除片55から両側に向けて突出す
る構成としている。このスナップ構造では,透孔3にスナップ部3
,,0Bを嵌合した状態から解体する際には同図に鎖線で示すように
解除片55を指で両側から摘んで内側に変形させることにより,こ
れに連動してスナップ片52が縮径されるため,この縮径を容易な
ものとし,スナップ片52を透孔3から離脱させ易くして環境問題
の解決策として有効である(2頁33行ないし49行段落【0。」
003)】
b発明の開示発明が解決しようとする課題
「しかしながら,このスナップ構造では,解除片55及び脚片54の
弾性力を強く設計すると,スナップ部30Bが透孔3に嵌合してい
る状態を安定に保持する上で有効であるがスナップ部30Bを透孔
3から離脱させる際に解除片55に加える指の力が大きくなり,離
脱し難いものになる。一方,解除片55及び脚片54の弾性力を弱
く設計すると,離脱に際して解除辺55に加える指の力を小さくす
ることが可能になるが,スナップ片52が縮径方向に付勢され易く
なり,透孔3に対する嵌合力が弱くなってしまう。また,脚片54
による支持力が小さくなって外力等によってポスト51が傾斜され
易くなり,図18(b)のように,ポスト51の傾斜の程度が著しく
なると一方のスナップ片52がポスト側に変形され,他方のスナッ
プ片52が透孔3の開口縁部内に移動され,当該他方のスナップ片
52の段部521が透孔3から外れてスナップ部30Bが透孔3か
ら脱落されてしまうことになる。結局,スナップ片の縮径によって
スナップ片の嵌合力が低下され,安定した信頼性の高いスナップ構
造を得ることが困難になる。なお,以上の問題はケーブルクランプ
に限らず,同様なスナップ構造を備える実装用部品の全てについて
言えるものである(3頁4行ないし17行段落【0004)。」】
「本発明の目的は,基板に対する実装用部品の取り付け及び取り外し
を容易に行うことを可能にする一方で,当該実装用部品が意に反し
て基板から離脱することを防止したスナップ構造を提供するもので
ある(3頁19行ないし21行段落【0005)。」】
c課題を解決するための手段
「本発明は,実装用部品を保持するための部品保持部の下部に設けら
れて当該部品保持部を基板に固定するためのスナップ部を備えてお
り,スナップ部は基板に設けられた透孔内に挿入されるポストと,
ポストの両側に沿って設けられて径方向に弾性変形可能な矢尻型を
した一対のスナップ片と,部品保持部の当該両側位置において前記
基板の表面に弾接して前記スナップ片とで当該基板を挟持する一対
の脚片と,前記スナップ片にそれぞれ下端部が連結され内側方向に
手操作されたときに前記スナップ片を内側方向に変形して前記透孔
との嵌合を解除する一対の解除片とを備え,解除片は下端部から上
端部に沿って若干外側に膨らんだ形状とされ,当該上端部は部品保
持部の当該両側の側面一部に連結されていることを特徴とする。あ
るいは,解除片は,上端部が部品保持部の当該両側の側面一部に近
接配置されており,スナップ片が透孔に嵌合されたときに上端部が
当該両側の側面一部に当接される構成であることを特徴とする」。
(3頁24行ないし34行段落【0006)】
d発明の効果
「本発明のスナップ構造によれば,スナップ片による透孔の嵌合状態
を基板の表面側から解除するための一対の解除片を,スナップ片に
それぞれ下端部が連結され,当該下端部から上端部に沿って若干外
側に膨らんだ形状とし,当該上端部が部品保持部の側面一部に連結
する構成としているので,あるいはスナップ片を基板の透孔に嵌合
したときに当該解除片の上端部が部品保持部の側面一部に当接する
構成としているので,スナップ構造をシャーシ等の透孔に嵌合した
ときに,実装用部品が傾斜されようとしても解除片が変形され難い
ために実装用部品の傾斜を抑制し,スナップ片の縮径が防止されて
スナップ部の離脱を防止することができる。これにより,解除片の
弾性力を弱くして基板の透孔に実装用部品を取着する作業及び当該
実装用部品の離脱作業を容易に行うことができ,環境問題の解決策
として電気製品のプリント基板や配線をシャーシやパネル等から解
体する際の作業を容易にする一方で,取着した実装用部品が基板か
ら簡単に離脱することがなく,部品実装の信頼性を向上した各種電
子機器を得ることが可能になる(3頁37行ないし48行段。」
落【0007)】
e実施例1について
「前記スナップ部30は前記ロック部20の下面から垂直下方に向け
て突出された細長い板状をしたポスト31と、前記ポスト31の先
端の左右面両から外側斜め上方に向けて延長され、水平方向の断面
が前記ポスト31を中心とした円弧状に形成された矢尻型の一対の
スナップ片32,32と、前記各スナップ片32,32の上端部と
前記ロック部20の下面とをそれぞれ連結する一対の連結片33,
33と、前記各連結片33,33の外面からそれぞれ外側下方に向
けて直線的に突出された一対の脚片34,34と、前記各連結片3
3,33の外面から前記ロック部20の上縁部との間にわたってそ
れぞれ外側に膨らんだ状態で延長された一対の解除片35,35と
を備えている」。
(4頁23行ないし30行段落【0010)】
「前記解除片35,35は前記ロック部20の両側面の両外側におい
て上端部から下端部にかけて徐々に膨らみが大きくなるように両外
側方向に緩やかな向けられた形状であり、特に下端部は前記連結片
の外側面に対して垂直に近い角度で連結されている」。
(4頁50行ないし5頁3行段落【0012)】
「一方、シャーシに対して取着状態にあるケーブルタイ1をシャーシ
から離脱させる際には、図6に示すように2本の指で解除片35,
35を外側から摘み、かつ両側から力を加えて解除片35,35を
内側に変形させる。この変形力は連結片33,33に伝えられ、連
結片33,33が内側に変形されるため、これと一体のスナップ片
32,32も内側に変形されて縮径され、段部321,321が透
孔3の内縁部から外れる」。
(5頁30行ないし34行段落【0015)】
「また、これと同時にケーブルタイ1の傾斜に伴って特に傾斜方向の
下側に位置する解除片35は外側に撓む方向に変形されようとする
、、が当該解除片35の上端部はロック部20に連結されているので
解除片35の変形は長さ方向に縮む方向の変形となり、解除片35
はいわゆる「つっかい棒」のように機能するため、ロック部20な
いしケーブルタイ1が傾斜され難くなる」。
(6頁3行ないし7行段落【0017)】
f実施例6について
「図13は実施例6であり、ここでは解除片35,35の上端部35
1,351をロック部20から切り離した構造としたことが特徴と
されている。すなわち、解除片35,35の上端部351,351
を幾分内側に曲げた構造とし、この上端部351,351をロック
部20の筒状部21の上面に設けた庇部211,211の下側に配
設したものである。その他の構成は実施例1と全く同じである」。
(8頁1行ないし5行段落【0028)】
「この実施例6では、解除片35,35の上端部351,351がロ
ック部20に連結されていないため、解除片35,35をより内側
。、、に向けて変形し易くされているしかしながら図示は省略するが
スナップ部30を透孔に挿入した状態では、解除片35,35の上
端部351,351はロック部20の各側面に当接される構成とな
っているため、挿入した状態は図4及び図6に示したと同様な状態
となる。したがって、スナップ部30を透孔3から取り外すときに
は、解除片35,35を両側から指で掴むことで、離脱することが
可能である。また、スナップ部30がシャーシの透孔内に内装され
た状態で傾斜されようとしたときには、ストッパ部36の作用によ
って傾斜が抑制され、スナップ部30の離脱が防止されることは実
施例1と同じである。また、挿入した状態のときには解除片35,
35の各上端部351,351がロック部20に当接されており、
,、ロック部20が傾斜する際に解除片3535が変形され難いため
ロック部20の傾斜を抑制することも同様である」。
(8頁7行ないし18行段落【0029)】
g実施例7について
「また、ここではスナップ部30の解除片35,35は本体部41の
底面から両側片42,42の各外側にまで膨らんだ状態で延長され
ている」。
(8頁32行ないし34行段落【0030)】
h「以上本発明を種々の実施例に基づいて説明したが,本発明にかかる
スナップ構造は前記各実施形態に記載の構成に限られるものではな
い。特に,前記各実施例における連結片は,実施例8からも判るよ
うに,解除片と一体でかつ解除片の一部として構成することが可能
である。また,本発明のスナップ構造は,シャーシ等に設けられた
透孔に取着する構成体のものであれば,当該構成体に対応して適宜
。,一部を変更した形態で本発明を適用することが可能である例えば
図17に示したケーブルクランプに適用することが可能であること
は言うまでもない(9頁49行ないし10頁5行段落【00。」
36)】
(イ)上記のとおり,本件明細書では「下端部から上端部に沿って若干,
外側に膨らんだ形状」とは具体的にどのような形状を意味するのかとい
う点について,格別の説明はされておらず「下端部「上端部」及び,」,
「若干」等の用語について,上記()アのような言葉の通常の意味とは2
異なる意味で用いる旨の,格別の定義も記載されていない。
また,本件明細書では,本件発明及び本件特許権の特許請求の範囲請
求項1に係る発明の実施例として,実施例1ないし9が挙げられている
が,これらは,いずれも,スナップ片に連結された部分を解除片の下の
端(一番下の部分)とし,そこから上方に向かって,いくらか外側に膨
らみながら解除片が延びて行き,部品保持部20の側面に近接した位置
又は側面に連結された位置が解除片の上の端(一番上の部分)となる形
状のものであるということができ,被告製品の解除片のように,連結片
との結合部から解除片がいったん外側下方に延び,基板接点部352に
おいて大きく折れ曲がるように反転した形状のものは挙げられていな
い。
このように,本件明細書では,本件発明における解除片が被告製品の
ような形状を採り得ることについて,記載も示唆もされていない。
(ウ)被告製品における解除片の形状は前記1()ウのとおりであり,被2
告製品においてかかる形状が採られたのは,本件発明における脚片と解
除片に相当する各部材とを一体化し,解除片において脚片の機能を兼ね
るためであると考えられる。
しかしながら,本件明細書では,このように解除片が脚片を兼ねる構
成について,何らの記載も示唆もされていない。
(エ)したがって,本件明細書の記載からも,特許請求の範囲に記載され
た「前記下端部から上端部に沿って若干外側に膨らんだ形状」に被告製
品の解除片のような構成を含むものであると解釈することは,困難であ
る。
ウ以上のとおりであるから,被告製品が構成要件C1を充足すると解釈す
ることはできないというべきである。
2よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理
由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官山門優
裁判官柵木澄子
別紙
被告製品目録
1商品名リューススペーサーRLS
(品番:RLS−2E−V0,RLS−3E−V0)
2商品名リュースカードスペーサーRPS
(品番:RPS−2E−V0)
3商品名リュースワイヤーサドルRWS−E
(品番:RWS−2E−V0)
4商品名リュースハーネスリフターRHL−28E−V0
(品番:RHL−28E−V0)
5商品名リュースバンドRSG
(品番:RSG−190E−BK)
以上
(別紙)
(別紙)
【被告作成図面】
(注意:別紙特許公報は省略)

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