弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人池田正映の上告理由について。
 民法七二二条二項に定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、
ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害
者本人が幼児である場合において、右にいう被害者側の過失とは、例えば被害者に
対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害
者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失を
いうものと解するを相当とし、所論のように両親より幼児の監護を委託された者の
被用者のような被害者と一体をなすとみられない者の過失はこれに含まれないもの
と解すべきである。けだし、同条項が損害賠償の額を定めるにあたつて被害者の過
失を斟酌することができる旨を定めたのは、発生した損害を加害者と被害者との間
において公平に分担させるという公平の理念に基づくものである以上、被害者と一
体をなすとみられない者の過失を斟酌することは、第三者の過失によつて生じた損
害を被害者の負担に帰せしめ、加害者の負担を免ずることとなり、却つて公平の理
念に反する結果となるからである。
 原審の確定した事実によれば、D保育園保母Eの被害者Fを監護するについての
過失が本件事故発生の一因となつているのであるが、Fの通園する右保育園と被上
告人らを含む園児の保護者との間には、園児の登園帰宅の際には一定の区間は保育
園側において監護の責任を受けもつ旨の取極めがされていたとはいえ、右Eは、F
の両親である被上告人らより直接に委託を受け被上告人らの被用者としてFの監護
をしていたのではなく、D保育園の被用者として本件事故当日Fその他の園児を引
率監護していたに過ぎないというのであるから、右の事実関係に基づけば、Eは、
被害者Fと一体をなすとみられるような関係を有する者と解することはできず、右
Eの過失をもつて民法七二二条二項に定める被害者の過失にあたるとすることはで
きない。従つて、これと同旨の原審の判断は正当であり、論旨は理由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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