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平成15年(行ケ)第379号審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成16年10月19日
判決
原告   松下電器産業株式会社
同訴訟代理人弁理士岩橋文雄
同中原健吾
同石原隆史
同石原勝
同永野大介
被告   アンリツ株式会社
同訴訟代理人弁理士鈴江武彦
同河野哲
同中村誠
同幸長保次郎
同須田浩史
同和田祐造
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 特許庁が無効2002―35116号事件について平成15年7月15日にし
た審決を取り消す。
第2 前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯(争いのない事実,甲2の2)
 原告は,発明の名称を「電子部品のリード浮きの検出方法」とする特許第2
139911号(平成2年5月10日出願,平成11年1月14日設定登録,以下
「本件特許」という。)の特許権者である。
 被告は,本件特許について,無効審判請求をした(無効2002―3511
6号事件)ところ,原告は,平成14年6月17日,本件特許の願書に添付した明
細書の訂正を請求した。特許庁は,平成15年7月15日,同訂正請求を認容した
上,「特許第2139911号の請求項1に係る発明についての特許を無効とす
る。」との審決(以下「本件審決」という。)を行い,その謄本は,同月25日,
原告に送達された。
2 本件特許の請求項1に係る発明の要旨
 上記訂正後の明細書(甲2の2のうちの訂正明細書。以下「本件明細書」と
いう。)の「特許請求の範囲」の請求項1に記載された次のとおりのものである
(以下,この発明を「本件発明」という。)。
「XYテーブルによってXY方向に移動せしめられる移載ヘッドのノズルに電
子部品をその上面において吸着し,前記電子部品を基板に実装するため基板に移送
する途中において,この電子部品をレーザ装置の上方に位置せしめ,このレーザ装
置から電子部品のリードに向って下方からレ一ザ光を照射し,移載ヘッドをXY方
向に移動させることにより,リードの3点の高さを検出し,次いでこの3点を含む
仮想平面を算出して,各々のリードのこの仮想平面に対する高低差を求めるように
したことを特徴とする電子部品のリード浮きの検出方法。」
3 本件審決の理由の要旨(甲1)
 本件審決は,次のとおり,本件発明は,下記の刊行物1ないし3に記載され
た各発明(以下,順に「刊行物1発明」等という。)及び刊行物4ないし6記載の
ごとき周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるとした。
             記
刊行物1:特開昭63-129700号公報(甲3)
刊行物2:米国特許第4,736,108号明細書(甲4)
刊行物3:特開平1-265144号公報(甲5)
刊行物4:「応用機械工学」第30巻第5号,1989年5月1日発行,86
~93頁“レーザ変位計を利用した非接触形状測定機”(甲6)
刊行物5:「静岡県工業試験場報告」昭和55年2月発行,153~156頁
“平面度の一計算方法について”(甲7)
刊行物6:特開昭63-51699号公報(甲8)
(1) 本件発明と刊行物1発明との対比
(一致点)
 XYテーブルによってXY方向に移動せしめられる移載ヘッドのノズルに
電子部品をその上面において吸着し,前記電子部品を基板に実装するため基板に移
送する途中において,この電子部品を検出手段の上方に位置せしめ,電子部品のリ
ードに向かって下方から電子部品のリードの変形を検出する方法。
(相違点1)
 本件発明では,検出手段が「レーザ装置」であって,このレーザ装置から
レ一ザ光を照射し,リードの3点の高さを検出し,次いでこの3点を含む仮想平面
を算出して,各々のリードのこの仮想平面に対する高低差を求めることによりリー
ドの浮きを検出するものであるのに対して,刊行物1発明では,検出手段が「カメ
ラ」であって,該カメラでとらえた画像よりリードの数やリード線間のピッチを検
定するものである点。
(相違点2)
 本件発明では,移載ヘッドをXY方向に移動させることにより検出するも
のであるのに対し,刊行物1発明では,ビデオカメラにより検出するものであるた
め,移載ヘッドをXY方向に移動させる必要がない点。
(2) 相違点1についての判断
ア 刊行物2には,表面実装型集積回路の同一平面性を測定する方法に関
し,「本発明は,集積回路パッケージの周辺のリードの位置決めを計測するための
方法と装置である。パッケージは,第一のリード線が光源から放射されたビームの
光路内に入るように,置かれる。光源をパッケージの周辺で動かして,ビームがパ
ッケージのすべてのリードに当たるようにする。ビームは各々のリードである角度
反射する。そこでは,フォトディテクタ上でのビームの入射ポイントは,リードの
高さに比例して水平線上で変動する。リードの位置決めは,最初に装着面(集積回
路のリードが取り付けられる面)を計算し次に装着面からの各々のリードのばらつ
きを計算して決定される。LEDあるいはレーザが単色光をリードに照射し,反射
光が位置検出器に反射されるのが望ましい。」と記載されており,該刊行物記載の
発明において,「レーザを用いてリードの同一平面性を測定する」ことは,本件発
明における「レーザー光を照射してリードの浮きを検出する」ことに相当するもの
であることは明らかである。
 また,刊行物2には,リードの同一平面性(すなわち,本件発明におけ
る「リードの浮き」)の具体的測定方法に関し,「表面実装型集積回路パッケージ
が,センサに対して位置決めされたプレートの中のソケットに上下逆にしてセンサ
の下に置かれる。」及び「データのすべてがプローブから信号を収集しデジタル・
フォーマットに変換されメモリに入力されると,データははじめて解析される。デ
ータはまず隣接しない2つの側面にあるリードの高さの3つの最低値を測定するこ
とによって装着平面を決定するために解析される。これらの3つのポイントによっ
て形成される三角形は,半導体パッケージに投影されたときに,パッケージの重心
を含んでいなければならない。ー旦装着平面が決まると,リードの高さに相当する
データ・ポイントの残りは,装着平面と比較され,許容される範囲内にあるか測定
する。」と記載されており,該刊行物に記載された方法は,所謂「3点法」として
表面形状又は平面性の測定の分野において本件出願前に周知の測定方法であって
(必要ならば,上記刊行物4及び5を参照のこと),本件発明における「3点の高
さを検出し,次いでこの3点を含む仮想平面を算出し,各々の仮想平面に対する高
低差を求める」ことに相当するものであることも明らかである。
 してみれば,刊行物2には,「レーザ装置から集積回路パッケージのリ
ードに向かって上方からレ一ザ光を照射し,リードの3点の高さを検出し,次いで
この3点を含む仮想平面を算出して各々のリードのこの仮想平面に対する高低差を
求めるようにした集積回路パッケージの周辺のリードの同一平面性を測定する方
法。」に係る発明が記載されているといえる。
イ そこで,刊行物2発明を,刊行物1発明に適用することの容易想到性に
つい て検討するに,刊行物2の「回路基板上に正確にマウントするために,この
ような表面実装デバイスのすべてのリードが同一の平面内にあることが必要であ
る。表面実装デバイスの同一平面性を測定するテスターが必要である。」という記
載から明らかなように,刊行物2には,電子部品の実装において,リードの同一平
面性の測定,すなわちリードの浮きの検出が重要であることが記載されている。
 なお,電子部品の実装において,リードの浮きの検出が重要であること
は,刊行物3にも記載されている。すなわち,刊行物3には,電子部品の実装不良
の原因の多くは,横曲がりのリード変形(刊行物1に記載されたピッチの検定に相
当)よりも,縦曲がりの変形であるので,縦曲がりのリード変形(本件発明におけ
るリード浮きの検出に相当)を検出する必要があることが記載されている。
 してみれば,刊行物1発明では,リードの数やリード線間のピッチの検
定についてしか開示がないが,刊行物1発明も,電子部品の基板への実装前に,電
子部品のリードの変形を検出するものであるから,当業者であれば,刊行物1記載
の方法に代えて,刊行物2発明の方法である,検出手段として「レーザ装置」を用
い,該レーザ装置からレーザ光を照射して,3点法により電子部品のリード浮きの
検出を行うようにすることは,容易に想到し得ることと認められる。
 そして,刊行物2発明では,リードに向かって上方からレーザ光が照射
されるものであるが,刊行物1発明においては,電子部品は,検出手段である「カ
メラ」の上方に位置せしめ,電子部品のリードに向かって下方から撮像するもので
あるから,刊行物1に記載された「カメラ」に代えて「レーザ装置」を用いた場合
には,自ずと「電子部品をレーザ装置の上方に位置せしめ,このレーザ装置から電
子部品のリードに向って下方からレ一ザ光を照射する」という構成となるものであ
る。
ウ 原告は,刊行物1発明には精度上の課題認識がないので,刊行物2記載
の検 出方法を適用することは容易ではない旨主張している。
 しかしながら,刊行物1発明には精度上の課題認識がなくとも,精度向
上は,一般的技術課題である上,前述のとおり,刊行物2には,電子部品のリード
の浮きを検出することが重要であり,そのため3点法による検出が有効であること
が記載されているのであるから,当業者であれば,該刊行物2発明の検出方法を,
刊行物1発明へ適用しようとすることは容易に想到しうることである。
 また,原告は,刊行物2記載の検査方法は,検査タクトタイムが長時間
化するものであるから,刊行物1発明への適用に当業者が拒絶反応を示すと考える
べきである旨主張している。
 しかしながら,刊行物2発明のリードの浮きの検出方法は実装機におけ
る検出方法ではないが,刊行物1には,XYヘッドに電子部品を吸着した状態でリ
ードの変形を検出することが既に記載されているのであるから,刊行物2に記載さ
れた検出方法が実装機における検出方法でないということが,刊行物1発明のカメ
ラによる検出方法に代えて,刊行物2に記載されたレーザ装置を用いた3点法によ
るリード浮き検出方法を適用することの阻害要因とはならないことは明らかであ
る。そして,当業者であれば,刊行物1発明のカメラによる検出方法に代えて,刊
行物2に記載されたレーザ装置を用いた3点法によるリード浮き検出方法を適用す
ることにより,刊行物1発明の「実装タクトタイムが不利にならない」という効果
と,刊行物2発明の「高精度なリード浮き検出を行うことができる」という効果と
の,両方の効果が得られるであろうことは,両刊行物の記載から容易に予期しうる
ことである。
(3) 相違点2についての判断
ア 刊行物1発明においては,リードの変形をビデオカメラにより検出する
ものであるため,検出時には電子部品を移動させる必要がない。
 しかしながら,刊行物2発明においては,3点法によりリード浮きを測
定する方法において,レーザ装置と電子部品とを相対的に移動させることが記載さ
れている。
 すなわち,刊行物2には「セントラルプロセッサ166は,2軸テーブ
ル182の動きを制御するモーション制御プロセッサ180に結合されている。2
軸テーブル182は,一対のモータ184,186で駆動される。…(中略)…動
作中,部品の一部が計測領域にくると,セントラルプロセッサ166は,センサ1
8に命令し,検査部分のリードのピークを辿る経路にくるようにする。これは,セ
ンサ18が取り付けられた2軸閉ループサーボテーブル182を制御することによ
りなされる。」と記載されており,具体的な測定方法としては,電子部品(集積回
路パッケージ)をソケット内に配置し,その上方に配置されたレーザー装置を2軸
テーブル182(すなわち,XYテーブル)を用いてXY方向に移動させながらレ
ーザ光を照射するものが記載されているが,刊行物2には,リードの浮きを検出す
る際には,レーザ装置を電子部品(集積回路パッケージ)に対して相対的に移動さ
せること,あるいは相対的に移動させる手段を設けることが記載されており,刊行
物2発明においては,レーザ光の照射方法は,レーザ光と電子部品とを相対的に移
動させればよく,レーザー装置をXY方向に移動させる前述の具体例に限られない
ことは明らかである。
 また,刊行物4にも記載されているように,3点法を用いた測定方法あ
るいは検査方法においては,レーザ装置を固定し,XYテーブルにより被測定体あ
るいは被検査体をXY方向に移動させることも,本件出願前に既に周知である。
 そして,前項に記載したとおり,刊行物1発明においては,リードの変
形の検出は,XYテーブルによってXY方向に移動せしめられる移載ヘッド(すな
わち,XYヘッド)に電子部品を吸着した状態で行っている。
 してみれば,当業者であれば,刊行物1発明の方法に代えて,刊行物2
発明の方法を適用して,レーザ光を用いて3点法により電子部品のリード浮きの検
出を行うにあたり,刊行物1発明の電子部品を吸着しているXYヘッドを用いて,
レーザ装置に対して電子部品をXY方向に相対的に移動させるようにすることは,
当然になし得る事項にすぎない。
イ 原告は,相違点2について,“本件発明は,XYヘッドをXY方向に移
動さ せながら「3点法」により検出するという構成を採用したことにより,a.
リード浮き検出が実装タクトタイムに関し不利とならない,b.実装機上で高精度
なリード浮き検出を行うことができる,という両立困難な効果を併せ奏することが
できるリード浮き検出方法を提供するものである”旨主張すると共に,“刊行物2
発明を刊行物1発明に適用するについては,その長所(高精度検出)を生かし,短
所(実装タクトタイムに不利)を改善して,本件発明の「XYヘッドをXY方向に
移動させて,レーザ測定時の走査手段とする構成」とすることが必要であるが,そ
れに創意工夫が必要であって,上記適用は当業者といえども容易に為しうることで
はないのである”旨主張している。
  しかしながら,前記のとおり,刊行物1には,実装途中のXYヘッド
に電子部品を吸着した状態でリードの変形を検出することが既に記載されているの
であるから,刊行物1発明の方法に代えて,刊行物2に記載されたレーザ装置を用
いた3点法による高精度なリード浮き検出方法を適用する際には,該XYヘッドを
用いて電子部品の方を移動させるようにすることは当然になしうることであるか
ら,原告が主張するような格別な創意工夫が必要なものではなく,当業者であれば
容易に想到しうるものである。
(4) 本件発明の効果の予測性について
 本件明細書には,「リードの屈曲変形,ノズルの軸心の傾斜誤差,電子部
品を吸着するノズルの下面の傾斜誤差,電子部品のモールド体の上面の傾斜誤差,
移載ヘッドをXY方向に移動させるXYテーブルの位置誤差等の様々な原因に起因
するリードの浮きを簡単・迅速に求めることができる。」と記載されている。
 しかしながら,刊行物2の「すべての計測は,センサの位置決めを行うx
-yサーボ・テーブル182の面に対して相対的なものである。マシン・フレーム
の構造,ソケット・プレートの摺動,最も重要なものとしてパッケージ・ボディの
不均一性の故に,パッケージのリード平面とセンサの移動平面が平行であることは
まれである。」と,「3点法」が検査装置に起因する誤差を除去しうる方法である
ことを示す記載がある。
 また,上記3点法による平面度の計算について記載された刊行物5には,
「本方法のように平面の方程式を利用することのもう1つの利点は,参照平面が基
準平面(3次元測定機では測定機のX軸-Y軸平面)に対して傾いたままで直接平
面度を計算でき,したがって両平面の傾きの差が大きくても誤差は生じないことで
ある。」という記載もある。
 これらの記載から明らかなように,本件発明の効果は,刊行物1記載のビ
デオカメラによる方法に代えて,刊行物2発明のレーザ装置を用いた3点法による
方法を用いることにより当然にもたらされる効果であって,当業者であれば容易に
予期しうるものである。
(5) むすび
 以上のとおり,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物1ないし3に
記載された発明及び刊行物4ないし6記載のごとき周知技術に基づいて,当業者が
容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特
許を受けることができないものである。
第3 原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
 本件審決は,本件発明と刊行物1発明との各相違点についての判断を誤った
(取消事由1,2)結果,本件発明についての進歩性の判断を誤ったものであり,
その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取
り消されるべきである。なお,本件審決の一致点及び相違点の認定は争わない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
(1) 本件審決は,刊行物2発明を,単に,「レーザ装置から集積回路パッケー
ジのリードに向かって上方からレ一ザ光を照射し,リードの3点の高さを検出し,
次いでこの3点を含む仮想平面を算出して各々のリードのこの仮想平面に対する高
低差を求めるようにした集積回路パッケージの周辺のリードの同一平面性を測定す
る方法。」と認定したが,誤りである。
 刊行物2発明においては,「検査台上に電子部品(集積回路パッケージ)
を保持し,レーザ装置から電子部品のリードに向ってレーザ光を照射し,レーザ装
置を検査台に対し相対的にⅩY方向に移動させる」構成を採用することによって,
前記各リードのレーザ装置に対する高さデータを取得でき,これによって初めて3
点法により各々のリードの仮想平面に対する高低差を求めることができるのである
から,刊行物2発明には,正しくは,「検査台(ソケット)」という概念を盛り込
み,かつ「レーザ装置を検査台に対し相対的にⅩY方向に移動させる」という文言
を付加しなければならない。
(2) 本件審決は,相違点1について,「刊行物1発明では,リードの数やリー
ド線間のピッチの検定についてしか開示がないが,刊行物1発明も,電子部品の基
板への実装前に,電子部品のリードの変形を検出するものであるから,当業者であ
れば,刊行物1記載の方法に代えて,刊行物2発明の方法である,検出手段として
『レーザ装置』を用い,該レーザ装置からレーザ光を照射して,3点法により電子
部品のリード浮きの検出を行うようにすることは,容易に想到し得ることと認めら
れる。」と判断したが,誤りである。
ア 刊行物2発明は,実装装置に供給する前の電子部品を検査する方法であ
るのに対し,刊行物1発明は,実装装置に供給した電子部品を検査する方法であ
る。言い換えれば,刊行物2発明は,電子部品をパッケージングする際の検査方法
であり,かかる検査方法を経た電子部品を調達し,実際に基板に実装する際に,刊
行物1発明の検査方法を更に行うのである。したがって,両発明は,同じく「実装
前」の検出を行うものであっても,その意味するところは大きく異なるから,同列
には論じられない。
イ 刊行物1発明は,リードの「数」やリード線間の「ピッチ」を検定する
ものであるのに対し,刊行物2発明は,電子部品のリード「浮き」を検出するもの
であり,両者は,検出対象が異なる。刊行物1においては,リード「浮き」につい
ての記載も課題認識もない。それにもかかわらず,両者をリードの「変形」として
上位概念化し,同列に論じることは,当業者の技術常識を無視したものであり,許
されない。
 なお,本件審決の指摘するように,刊行物3にリード変形を検出する必
要性が記載されていても,そのことが,刊行物2発明を刊行物1発明に適用するこ
との容易想到性を肯定する根拠にはならない。仮に,当業者が,刊行物3記載のリ
ード変形検出の必要性を認識し,刊行物1発明においてリード浮きの検出を試みた
とすれば,刊行物3記載のカメラ撮像法を適用するのであって,刊行物2発明を適
用するには至らない。
ウ 刊行物2発明は,高速性を備えたリード浮き検出方法の提供という観点
を欠き,単に,検査装置における検査精度を高めるために「3点法」を採用したに
すぎないものである。そのため,刊行物2発明では,検査装置のマシン・フレーム
の構造やソケット・プレート(検査台)の摺動による検査精度に対する悪影響につ
いては認識されているが,移載ヘッドをⅩY走査動させたときの検査精度に対する
悪影響については全く注目されていない。
 一方,本件発明において,相違点1に係る「3点法」の構成の意義は,
高速性と高精度性とを兼ね備えたリード浮き検出方法を提供するという技術的課題
の下,移載ヘッドをⅩY走査動させる方法における精度上の問題点を突き止め,そ
の問題点の解消のために「3点法」を採用した点にある。すなわち,移載ヘッドを
ⅩY走査動させたときに,移載ヘッドの吸着ノズルの傾きや移載ヘッドのⅩY走査
動がリード浮き検出精度に悪影響を及ぼすことを認識し,この悪影響は被測定点の
移動平面とリード群のなすリード平面(仮想平面)とが平行でないことに起因する
ものであることを突き止め,これを解決するためのデータ処理法として「3点法」
を採用することに想到した点にある。このような一連の創作活動は,当業者が容易
に想到することができたものとはいえない。
(3) 本件審決は,「刊行物1発明には精度上の課題認識がなくとも,精度向上
は,一般的技術課題である上,前述のとおり,刊行物2には,電子部品のリード浮
きを検出することが重要であり,そのため3点法による検出が有効であることが記
載されているのであるから,当業者であれば,刊行物2発明の検出方法を刊行物1
発明へ適用しようとすることは容易に想到しうることである。」と判断したが,誤
りである。
 刊行物1発明から生じる課題は,リードの「数」やリード線間の「ピッ
チ」の検出に係る精度向上であって,そこから「リード浮き」の検出に係る課題に
は想到し得ないから,精度向上が一般的技術課題であることが,刊行物2発明を刊
行物1発明に適用する容易想到性を肯定する理由にはなり得ない。
(4) 本件審決は,「刊行物2発明のリードの浮きの検出方法は実装機における
検出方法ではないが,刊行物1には,ⅩYヘッドに電子部品を吸着した状態でリー
ドの変形を検出することが既に記載されているのであるから,刊行物2に記載され
たレーザ装置を用いた3点法によるリード浮き検出方法を適用することの阻害要因
とはならないことは明らかである。」と判断したが,誤りである。
 刊行物2記載の検査装置は,Ⅹ方向及びY方向に並ぶリード群の各リード
のレーザ装置に対する高さデータを得るために,電子部品を載置する検査台をレー
ザ装置に対して相対的にⅩY走査動させ,検査台上に電子部品を保持するものであ
る。そして,例えば,刊行物2の第5図に示されるように,ロボットアーム112
によって,部品供給部(支持部62)から検査台(ソケット114)に電子部品を
移載し,排出しなければならず,電子部品の移し替えにより検査タクトタイムが長
時間化するものである。したがって,刊行物2発明の検査装置を実装直前の検査法
として刊行物1発明に適用しようとしても,刊行物1発明の移載ヘッドと刊行物2
発明の検査台との間での電子部品の受け渡しによるタイムロスの存在から,当業者
は上記適用を拒絶すると考えるべきである。
(5) 本件審決は,「当業者であれば,刊行物1発明のカメラによる検出方法に
代えて,刊行物2に記載されたレーザ装置を用いた3点法によるリード浮き検出方
法を適用することにより,刊行物1発明の『実装タクトタイムが不利にならない』
という効果と,刊行物2発明の『高精度なリード浮き検出を行うことができる』と
いう効果との,両方の効果が得られるであろうことは,両刊行物の記載から容易に
予期しうることである。」と判断したが,誤りである。
 前記(2)アのとおり,刊行物2発明は,実装機における検出方法ではなく,
あくまでも検査装置における検査方法であり,本件発明のような,実装機における
吸着条件によるリード浮き検出への悪影響をも排除する高精度性を備えたものでは
ない。したがって,刊行物2発明の効果をあたかも本件発明が奏する効果のように
論じた上記判断は誤りである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
 本件審決は,相違点2について,「当業者であれば,刊行物1発明の方法に
代えて,刊行物2発明の方法を適用して,レーザ光を用いて3点法により電子部品
のリード浮きの検出を行うにあたり,刊行物1発明の電子部品を吸着しているXY
ヘッドを用いて,レーザ装置に対して電子部品をXY方向に相対的に移動させるよ
うにすることは,当然になし得る事項にすぎない。」と判断したが,誤りである。
(1) 刊行物1発明のカメラ撮像法においては,検出時に電子部品を吸着する移
載ヘッドを移動させてはならないものであり,また,相違点2について本件審決が
挙げる刊行物2発明や刊行物4記載の検査装置においては,あくまでも検査台を相
対的にⅩY移動させて電子部品をⅩY走査動させるものであり,いずれにおいても
移載ヘッドをⅩY移動させて,ⅩY走査するという技術思想は全くない。したがっ
て,刊行物1発明の電子部品を吸着しているⅩYヘッドを用いて,検出時に電子部
品をレーザ装置に対してⅩY方向に相対的に移動させるようにすることは,当業者
が容易になし得ることとはいえない。
(2) 刊行物1記載の「部品移送機能しか有していないⅩYヘッド(移載ヘッ
ド)」と,刊行物2及び4記載の「部品移送機能については全く考慮されていない
検査台の相対的なⅩY走査動」とを結びつける動機付けとなるものが,上記判断に
は全く指摘されていない。刊行物1発明の移載ヘッド(ⅩYへッド)がⅩY方向に
移動するのは,吸着した電子部品を移送する部品移送機能のみを営むためであっ
て,ⅩY走査検査機能を営ませようとすることは全くの想定外のことである。ま
た,刊行物1発明における「リードの変形の検出」とは,具体的には「リード線間
のピッチ等を検出するための電子部品の平面画像の撮像」を指すものであり,この
撮像動作を電子部品を吸着した移載ヘッド(ⅩYヘッド)を停止した状態で行って
いるのであるが,このような「リードの変形の検出を移載ヘッド(ⅩYヘッド)に
電子部品を吸着した状態で行っている」ことが,本件発明のように,前記移載ヘッ
ド(ⅩYヘッド)に部品移送機能のみならずⅩY走査検査機能をも営ませて,各リ
ード高さの検査に供するようにすることの動機付けになるとは,到底考えられな
い。
第4 被告の反論の要点
 本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由が
ない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
 刊行物1発明も刊行物2発明も,電子部品への実装前に,電子部品のリード
の不良を検出するものである。「実装前」を狭く解釈すべき技術的理由はなく,刊
行物2の発明においても,当然,後の実装を考慮している。また,刊行物1にいう
「リード変形」と刊行物2にいう「リード浮き」とはリードの不良という点におい
て共通し,これらが全く異なるものとして認識されるとの根拠が特に見当たらない
以上,これら「リード変形」と「リード浮き」の相違が,刊行物1記載の「リード
変形」の検出方法に,刊行物2の「リード浮き」の検出方法を適用することを阻害
するものではない。
 本件審決は,刊行物1発明と刊行物2発明との上記共通点に着目し,この点
に,刊行物1発明に刊行物2発明を適用することの動機付けを見いだし,本件発明
の相違点1に係る構成の容易想到性を肯定しているのであって,本件審決のこの点
に関する判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
 XYテーブルにより被測定体をXY方向に移動させることが,刊行物4等に
より周知である以上,刊行物1発明の方法に代えて刊行物2発明の方法を適用する
にあたり,電子部品を吸着している移載ヘッドをXY方向に相対的に移動させるこ
とは,当然になし得る事項にすぎない。この点に関する本件審決の判断に誤りはな
い。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 原告は,第3,1,(1)記載のとおり,本件審決の刊行物2発明の認定は
誤りであり,刊行物2発明の認定には,「検査台(ソケット)」という概念を盛り
込み,かつ「レーザ装置を検査台に対し相対的にⅩY方向に移動させる」という文
言を付加しなければならない旨主張する。
ア 刊行物2記載の集積回路の同一平面性を測定する方法が,「所謂『3点
法』として表面形状または平面性の測定の分野において本件出願前に周知の測定方
法であって,本件発明における『3点の高さを検出し,次いでこの3点を含む仮想
平面を算出し,各々の仮想平面に対する高低差を求める』ことに相当するものであ
る」(本件審決15頁1~6行)ことは,当事者間に争いがない。
 そして,刊行物2には,「本発明は,集積回路パッケージの周辺のリー
ドの位置決めを計測するための方法と装置である。パッケージは,第一のリード線
が光源から放射されたビームの光路内に入るように,置かれる。光源をパッケージ
の周辺で動かして,ビームがパッケージのすべてのリードに当たるようにする。」
(訳文1頁19~21行),「LEDあるいはレーザが単色光をリードに照射し,
反射光が位置検出器に反射されるのが望ましい。」(同頁25行),「表面実装型
集積回路パッケージが,センサに対して位置決めされたプレートの中のソケットに
上下逆にしてセンサの下に置かれる。」(同2頁1~2行),「データはまず隣接
しない2つの側面にあるリードの高さの3つの最低値を測定することによって装着
平面を決定するために解析される。これらの3つのポイントによって形成される三
角形は,半導体パッケージに投影されたときに,パッケージの重心を含んでいなけ
ればならない。一旦装着面が決まると,リードの高さに相当するデータ・ポイント
の残りは,装着平面と比較され,許容される範囲内にあるか測定する。リードが許
容差の範囲外である場合は,エラー信号が発生する。」(訳文2頁7~12行)と
記載されている。
 これらの記載に刊行物2の図面の記載も併せれば,刊行物2発明は,
「レーザ装置から集積回路パッケージのリードに向かって上方からレ一ザ光を照射
し,リードの3点の高さを検出し,次いでこの3点を含む仮想平面を算出して各々
のリードのこの仮想平面に対する高低差を求めるようにした,集積回路パッケージ
の周辺のリードの同一平面性を測定する方法」であると認められ,これと同旨の本
件審決の認定に誤りはない。
イ これに対し,原告は,刊行物2発明として,「検査台(ソケット)」,
「レーザ装置を検査台に対し相対的にⅩY方向に移動させる」という内容を付加し
なければならない旨主張する。
 しかしながら,刊行物2発明において,「検査台(ソケット)」を使用
することや,「レーザ装置を検査台に対し相対的にⅩY方向に移動させる」こと
は,上記の「レーザ装置から集積回路パッケージのリードに向かって上方からレ一
ザ光を照射し,リードの3点の高さを検出し,次いでこの3点を含む仮想平面を算
出して各々のリードのこの仮想平面に対する高低差を求める」に当たっての具体的
手段の一つを構成する技術事項にすぎず,上記の「レーザ装置から集積回路パッケ
ージのリードに向かって上方からレ一ザ光を照射し,リードの3点の高さを検出
し,次いでこの3点を含む仮想平面を算出して各々のリードのこの仮想平面に対す
る高低差を求める」ことと一体不可分なものということはできない。したがって,
当業者が刊行物2に接すれば,リードの高さデータを検出するためにレーザ光を照
射する際の具体的手段を捨象して,刊行物2発明として上記アの発明が記載されて
いることを把握することができることは明らかであるから,刊行物2発明の内容と
して,「検査台(ソケット)」,「レーザ装置を検査台に対し相対的にⅩY方向に
移動させる」という内容を付加しなければならない必然性はない。
(2) 原告は,第3,1,(2)記載のとおり,本件審決の「刊行物1発明では,
リードの数やリード線間のピッチの検定についてしか開示がないが,刊行物1発明
も,電子部品の基板への実装前に,電子部品のリードの変形を検出するものである
から,当業者であれば,刊行物1記載の方法に代えて,刊行物2発明の方法であ
る,検出手段として『レーザ装置』を用い,該レーザ装置からレーザ光を照射し
て,3点法により電子部品のリード浮きの検出を行うようにすることは,容易に想
到し得ることと認められる。」との判断は,誤りである旨主張する。
ア まず,原告は,刊行物2発明は,電子部品をパッケージングする際の検
査方法であり,かかる検査方法を経た電子部品を調達し,実際に基板に実装する際
に,刊行物1発明の検査方法を更に行うのであるから,両発明は,同じく「実装
前」の検出を行うものであっても,その意味するところは大きく異なり,同列には
論じられない旨主張する。
 しかしながら,原告も自認するように,刊行物1発明,刊行物2発明の
検査方法が共に,「電子部品の基板への実装前」のものであることは明らかであ
り,また,仮に,原告が主張するように,電子部品をパッケージングする際に刊行
物2発明により検査を行い,更に,実際に基板に実装する際に刊行物1発明により
検査を行うものであるとしても,結局,両発明とも,電子部品の実装不良を防止す
るために,「電子部品の基板への実装前」に行う検査の方法であることに変わりが
なく,この点で両者は共通するというべきである。
 両発明による検査の実施段階に原告主張のような相違があるとしても,
そのことは,刊行物1発明に刊行物2発明を適用することの動機付けを否定する理
由にはなり得ない。
イ 次に,原告は,刊行物1発明は,リードの「数」やリード線間の「ピッ
チ」を検定するものであるのに対し,刊行物2発明は,電子部品のリード「浮き」
を検出するものであり,両者は,検出対象が異なるから,同列には論じられない旨
主張する。
 確かに,刊行物1発明の検出対象であるリードの「数」やリード線間の
「ピッチ」と,刊行物2発明の検出対象である「浮き」とは,直ちに同じものとい
うことができない。
 しかしながら,刊行物3には,電子部品の実装不良の原因の多くは,横
曲がりのリード変形(刊行物1に記載されたピッチの検定に相当)よりも,縦曲が
りの変形であるので,縦曲がりのリード変形(本件発明におけるリード浮きの検出
に相当)を検出する必要があることが記載されているのであって,この記載から明
らかなように,刊行物1発明の検出対象であるリード線間のピッチの変化や,刊行
物2発明の検出対象であるリードの浮きが,いずれも,電子部品の実装不良の原因
となる電子部品のリードの変形の一形態であることは,当業者であれば,当然に理
解することができる技術常識というべきである。したがって,両発明とも,電子部
品のリードの変形を検出するための検出方法である点で共通するものである。
 両発明の検出対象に原告主張のような相違があるとしても,そのこと
は,刊行物1発明に刊行物2発明を適用することの動機付けを否定する理由にはな
り得ない。
ウ 以上のとおり,刊行物1発明,刊行物2発明ともに,電子部品の実装不
良を防止するために,電子部品を基板に実装する前に,電子部品のリードの変形を
検出するための検出方法である点で共通するものであって,同一の技術分野に属す
る発明というべきである。そして,刊行物1発明の「カメラ」と刊行物2発明の
「レーザ装置」がいずれも上記検出のための「検出手段」であることは明らかであ
り,これらのことは,刊行物1発明に刊行物2発明を適用することの十分な動機付
けとなるものである。そうであれば,刊行物1発明のカメラに代えて,刊行物2発
明のレーザ装置を用い,該レーザ装置からレーザ光を照射して,3点法により電子
部品のリード浮きの検出を行うようにすることは,当業者であれば,容易に想到し
得ることというべきである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
 刊行物1,2を精査しても,当業者が,刊行物1発明に刊行物2発明を
適用することを阻害するような特段の事情を見いだすことはできない。
エ この点に関し,原告は,刊行物2発明は,高速性を備えたリード浮き検
出方法の提供という観点を欠き,移載ヘッドをⅩY走査動させたときの検査精度に
対する悪影響については全く注目していないのに対し,本件発明の相違点1に係る
「3点法」の構成の意義は,高速性と高精度性とを兼ね備えたリード浮き検出方法
を提供するという技術的課題の下,移載ヘッドをⅩY走査動させる方法における精
度上の問題点を解消した点にあるのであって,このような一連の創作活動は,当業
者が容易に想到することができたものとはいえない旨主張する。
 しかしながら,本件発明が,移載ヘッドをⅩY走査動させるものである
のに対し,刊行物2発明が,移載ヘッドをⅩY走査動させるものでなく,そのこと
による検査精度に対する悪影響について考慮していないものであっても,そもそ
も,移載ヘッドのⅩY走査動の点は,相違点2として別途検討されるべき事項であ
るから,相違点1についての判断に影響を及ぼすものではない。したがって,原告
の上記主張は理由がない。
 なお,後記2(1)のとおり,「移載ヘッドをXY方向に移動させることに
より検出する」ようにして,本件発明の相違点2に係る構成とすることは,刊行物
1発明に刊行物2発明を適用する際に当業者が必要に応じて行いうる付随事項にす
ぎない。
(3) 原告は,第3,1,(3)記載のとおり,刊行物1発明から生じる課題は,
リードの「数」やリード線間の「ピッチ」の検出に係る精度向上であって,そこか
ら「リード浮き」の検出に係る課題には想到し得ないから,本件審決の「刊行物1
発明には精度上の課題認識がなくとも,精度向上は,一般的技術課題である上,前
述のとおり,刊行物2には,電子部品のリード浮きを検出することが重要であり,
そのため3点法による検出が有効であることが記載されているのであるから,当業
者であれば,刊行物2発明の検出方法を刊行物1発明へ適用しようとすることは容
易に想到しうることである。」との判断は,誤りである旨主張する。
 しかしながら,そもそも,前記(2)ウのとおり,刊行物1発明と刊行物2発
明とが同一の技術分野に属することにより,当業者が刊行物1発明に刊行物2発明
の検出方法を適用するための十分な動機付けがある以上,上記判断の適否は,本件
審決の結論に何ら影響がない。
 また,原告の主張するように,刊行物1発明の課題が,リードの「数」や
リード線間の「ピッチ」の検出に係る精度向上であって,本件発明や刊行物2発明
における「リード浮き」の検出に係る精度向上という課題と異なるとしても,前
記(2)イのとおり,リード線間のピッチの変化と,リード浮きは,いずれも,電子部
品の実装不良の原因となる電子部品のリードの変形の一形態であることが技術常識
である以上,上記課題の相違は,刊行物1発明に刊行物2発明の検出方法を適用す
ることの動機付けに影響を及ぼすものということはできない。
(4) 原告は,第3,1,(4)記載のとおり,刊行物2記載の検査装置は,ロボ
ットアームによって,部品供給部から検査台に電子部品を移載し,排出しなければ
ならず,電子部品の移し替えにより検査タクトタイムが長時間化するものであるか
ら,当業者は,刊行物1発明の移載ヘッドと刊行物2発明の検査台との間での電子
部品の受け渡しによるタイムロスの存在から,刊行物2発明の刊行物1発明への適
用を拒絶するので,本件審決が,「刊行物2発明のリードの浮きの検出方法は実装
機における検出方法ではないが,刊行物1には,ⅩYヘッドに電子部品を吸着した
状態でリードの変形を検出することが既に記載されているのであるから,刊行物2
に記載されたレーザ装置を用いた3点法によるリード浮き検出方法を適用すること
の阻害要因とはならないことは明らかである。」との判断は,誤りである旨主張す
る。
 しかしながら,原告の上記主張は,刊行物2記載の検査装置が,検査台を
レーザ装置に対してⅩY走査動させ,検査台上に電子部品を保持し,ロボットアー
ム112によって,部品供給部(支持部62)から検査台(ソケット114)に電
子部品を移載し,排出しなければならないものであることを前提としているとこ
ろ,刊行物2発明の内容として,「検査台(ソケット)」,「レーザ装置を検査台
に対し相対的にⅩY方向に移動させる」等の,リードの高さデータを検出するため
にレーザ光を照射する際の具体的手段に係る技術事項を付加しなければならない必
然性はないことは,前記(1)イのとおりであるから,原告の上記主張は,その前提を
欠き,理由がない。
(5) 原告は,第3,1,(5)記載のとおり,刊行物2発明は,検査装置におけ
る検査方法であり,本件発明の「実装機における高精度性」という効果を奏するも
のではないから,本件審決の「当業者であれば,刊行物1発明のカメラによる検出
方法に代えて,刊行物2に記載されたレーザ装置を用いた3点法によるリード浮き
検出方法を適用することにより,刊行物1発明の『実装タクトタイムが不利になら
ない』という効果と,刊行物2発明の『高精度なリード浮き検出を行うことができ
る』という効果との,両方の効果が得られるであろうことは,両刊行物の記載から
容易に予期しうることである。」との判断は,誤りである旨主張する。
 しかしながら,原告の主張するように,刊行物2発明が検査装置における
検査方法であり,本件発明のような実装機における検査方法でなくても,前記(2)ウ
のとおり,刊行物1発明のカメラに代えて,刊行物2発明のレーザ装置を用い,本
件発明のように,該レーザ装置からレーザ光を照射して,3点法により電子部品の
リード浮きの検出を行うという構成とすることが,当業者の容易に想到し得ること
である以上,原告が指摘する,「実装機において高精度な検査を行うことができ
る」という本件発明の効果は,当業者が予測可能なものというべきである。これと
同旨の本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
 原告は,第3,2記載のとおり,本件審決の「当業者であれば,刊行物1発
明の方法に代えて,刊行物2発明の方法を適用して,レーザ光を用いて3点法によ
り電子部品のリード浮きの検出を行うにあたり,刊行物1発明の電子部品を吸着し
ているXYヘッドを用いて,レーザ装置に対して電子部品をXY方向に相対的に移
動させるようにすることは,当然になし得る事項にすぎない。」との判断は誤りで
ある旨主張する。
(1) 刊行物2記載の表面実装型集積回路の同一平面性を測定する方法が,「所
謂『3点法』として表面形状または平面性の測定の分野において本件出願前に周知
の測定方法であって,本件発明における『3点の高さを検出し,次いでこの3点を
含む仮想平面を算出し,各々の仮想平面に対する高低差を求める』ことに相当する
ものである」(本件審決15頁2~6行)こと,及び「3点法を用いた測定方法あ
るいは検査方法においては,レーザ装置を固定し,XYテーブルにより被測定体あ
るいは被検査体をXY方向に移動させることも,本件出願前に既に周知である」
(本件審決17頁14~17行)ことは,当事者間に争いがない。
 また,当業者であれば,刊行物1発明の検出手段として,刊行物2発明の
「レーザ装置」を用い,該レーザ装置からレーザ光を照射して,3点法により電子
部品のリード浮きの検出を行うようにすることを容易に想到し得ることも,前記
1(2)ウのとおりである。
 そうであれば,上記のとおり,刊行物1発明に刊行物2発明を適用して,
3点法により電子部品のリード浮きの検出を行うようにするに当たり,3点法を用
いた測定方法あるいは検査方法に係る上記周知技術を採用し,固定されたレーザ装
置に対して,XYテーブルにより電子部品をXY方向に移動させることにより,電
子部品のリードの高さデータを取得するようにすることは,当業者が適宜行いうる
技術的選択肢の一つにすぎない。
 そして,刊行物1発明が,「XYテーブルによってXY方向に移動せしめ
られる移載ヘッドのノズルに電子部品をその上面において吸着し,前記電子部品を
基板に実装するため基板に移送する途中において,…電子部品のリードの変形を検
出する方法。」(本件審決13頁32~38行)であることは,当事者間に争いが
ないから,刊行物1発明の上記構成を前提とすれば,上記のように,固定されたレ
ーザ装置に対して,XYテーブルにより電子部品をXY方向に移動させるようにす
る場合,当然,XYテーブルによってXY方向に移動せしめられる移載ヘッドに電
子部品を吸着した状態でリードの変形の検出を行うようになるものである。
 したがって,「移載ヘッドをXY方向に移動させることにより検出する」
ようにして,本件発明の相違点2に係る構成とすることは,刊行物1発明に刊行物
2発明を適用する際に当業者が必要に応じて行いうる付随事項にすぎず,これと同
旨の本件審決の上記判断に誤りはない。
(2)ア これに対し,原告は,刊行物1発明のカメラ撮像法においては,検出時
に電子部品を吸着する移載ヘッドを移動させてはならないものであり,また,刊行
物2発明や刊行物4記載の検査装置は,検査台を相対的にⅩY移動させて電子部品
をⅩY走査動させるものであり,いずれにおいても移載ヘッドをⅩY移動させて,
ⅩY走査するという技術思想は全くないから,本件審決の上記判断は誤りである旨
主張する。
 しかしながら,刊行物1,2及び4記載の発明に,移載ヘッドをⅩY移
動させてⅩY走査するという技術思想がなくても,前記(1)のとおり,3点法を用い
た検査方法においては,レーザ装置を固定し,XYテーブルにより被検査体をXY
方向に移動させることは,本件出願前に周知の技術であるから,当業者が刊行物1
発明に刊行物2発明の検出方法を適用するに際して,上記周知技術を採用し,刊行
物1発明の構成を前提として,移載ヘッドをⅩY移動させてⅩY走査するようにす
ることは,当業者が必要に応じて行いうる付随事項にすぎない。
イ また,原告は,刊行物1記載の「部品移送機能しか有していないXYヘ
ッド(移載ヘッド)」と,刊行物2及び4記載の「部品移送機能については全く考
慮されていない検査台の相対的なXY走査動」とを結びつける動機付けがない旨主
張する。
 しかしながら,前記(1)のとおり,刊行物1発明は,「XYテーブルによ
ってXY方向に移動せしめられる移載ヘッドのノズルに電子部品をその上面におい
て吸着し,前記電子部品を基板に実装するため基板に移送する途中において,この
電子部品を検出手段の上方に位置せしめ,…電子部品のリードの変形を検出する方
法。」(本件審決13頁32~38行)であるから,刊行物1記載の移載ヘッド
(XYヘッド)は,部品移送機能のみならず,部品移送の途中において電子部品を
リード変形検出手段の上方に位置せしめる機能も有するものである。したがって,
原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
 そして,前記1(2)ウのとおり,刊行物1発明と刊行物2発明とが同一の
技術分野に属することにより,当業者が刊行物1発明に刊行物2発明の検出方法を
適用するための十分な動機付けがある以上,部品移送の途中において電子部品をリ
ード変形検出手段の上方に位置せしめる機能をも有する刊行物1発明の移載ヘッド
(XYヘッド)にXY走査検査機能を営ませるようにすることは,当業者が必要に
応じて行いうる付随事項にすぎない。
3 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
 東京高等裁判所知的財産第1部
   裁判長裁判官    青  柳     馨
   裁判官     清  水     節
       裁判官  沖  中  康  人

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