弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人浅井稔の上告理由について。
 原審の確定する事実関係は次のとおりである。訴外D事業協同組合の理事長Eは
昭和三〇年七月頃右組合の運転資金に充てる為め、訴外Fに対し金融方を懇請した
結果、Fの尽力により、右組合は、昭和三〇年八月四日頃上告人Aからその代理人
Fを通じ、E外組合理事三名の保証の下に、金三〇〇万円を弁済期昭和三一年七月
三一日利息日歩金三銭毎月払の約定で借受けるとともに、右債務の担保のため、本
件不動産に抵当権を設定(未登記)し、且つ右債務の弁済を遅滞したときは上告人
Aの一方的意思表示により、上告人Aにおいて右不動産の所有権を右債務の履行に
代え取得できる旨の代物弁済の予約をし、昭和三〇年八月六日、上告人Aのため本
件不動産につき売買予約名義で所有権移転請求権保全の仮登記を了したが、右組合
は、昭和三〇年八月頃から経営が行詰り、昭和三〇年一一月一七日手形の不渡を出
し、昭和三〇年末には債務総額三九〇〇万円にも達したのに引換え債権は多くは回
収不能で、資産としては本件不動産以外に見るべきものはなく、その上他より金融
の途も絶え、事業継続の困難な事態に陥り、遂に昭和三一年一月七日訴外Gから破
産の申立を受けるに至つた。右のような組合の資産状態の悪化から、一般債権者に
対する債務の支払は到底覚束ないと知つた組合理事長Eは、上告人Aに対する前記
債務の支払ができないときは、その借受の経緯からして自己のF等に対する立場が
なくなるし、連帯保証責任のある自己及び他の役員にも累が及ぶことになるのを恐
れ、組合の唯一の財産である本件不動産の所有権を右債務の支払に代え譲渡するも
やむを得ないと考えていたところ、たまたま右破産の申立の直後頃、上告人Aの代
理人Fから、前記債務の支払方の請求をうけたので、EはFに右組合の実情を述べ
債務の支払は不能であるが、組合は右債務の期限の利益を放棄するから、速かに本
件不動産の代物弁済の予約を完結されたい旨申入れ、上告人Aの代理人Fもこれを
了承した結果、組合が破産に瀕し、本件不動産以外に資産がないことを熟知しなが
ら、自己の債権の回収を急ぐ余り組合と相謀り、昭和三一年一月一六日上告人Aか
ら組合に対し、代物弁済の予約完結の意思表示をするとともに、本件不動産の所有
権移転登記を求め、昭和三一年一月一六日神戸地方法務局西宮支局受付第二八二号
をもつて同日付売買名義で所有権移転登記がされた。上告人Aは、右仮登記上の権
利を放棄する意思はなく、右仮登記上の権利に基き本登記をする積りでいたが、右
登記に際し仮登記の権利者として上告人のAの名が誤つて登記簿上に登載されてい
ることを発見したところから、仮登記を抹消して本登記を了してもその効果におい
て変らないものと考え、司法書士Hに、右仮登記を権利放棄を理由に抹消した上本
件不動産につき所有権移転登記をするよう依頼したので、同司法書士は右依頼に基
き右仮登記を抹消し、前記の所有権移転登記手続を了したものである。その後、組
合は、昭和三一年七月三日午前一〇時神戸地方裁判所尼崎支部において破産宣告を
受け、被上告人らが破産管財人に選任された。なお、本件代物弁済の予約の当時、
上告人Aにおいて右組合の一般債権者を害する意思を以て右予約をしたとの点は、
被上告人らの何ら主張立証しないところである。
 以上のように原審は事実を確定する。
 そこで、本件が、原判決認定のごとく破産法七二条二号に該当するか否かについ
て考えると、債務者の債務の弁済期が未到来のため債権者が代物弁済一方の予約に
基づく予約完結権を行使できない間に債務者に対し破産の申立がなされたことを知
つて、債務者と債権者が相通じ、債務者は期限の利益を放棄し債権者が右予約完結
権を行使できるようにしてその行使を誘致し、債権者は債務者に対し一方的予約完
結の意思表示をなし、代物弁済の効力を生ぜしめた場合には、破産管財人は、債権
者の右予約完結の行為を破産法七二条二号により否認することができる。
 もつとも、この場合でも、債権者の代物弁済の予約による所有権移転請求権につ
き仮登記がなされているときは、特別の事情のないかぎり、債権者の右行為を破産
法七二条二号により否認することはできないが、右代物弁済予約完結の当時存した
所有権移転請求権保全の仮登記が、その後、権利放棄を理由に債権者により抹消さ
れて、もはや、右仮登記に基づく本登記があり得なくなつた場合には、破産管財人
は当時右仮登記が存したことを以て否認権の行使をさまたげられるものではない。
 それ故、本件仮登記の抹消された以上上告人Aの代物弁済の予約完結の行為は破
産法七二条二号により否認さるべきものである旨の原判決の判断は、その適法に確
定した前記事実関係のもとにおいて、結局、正当として是認することができる。
 なお、上告人Aの前記行為が同法七二条二号により否認さるべきものである以上、
同法七二条一号の否認に関する論旨は、原判決の結論に影響がない。
 以上の次第で、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用できない。
 よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全
員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    色   川   幸 太 郎

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