弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人乗國萬吉、同樋口恒蔵の上告趣意第一点について
 所論は被告人Aが、飲用の危険を被告人Bに繰返していた点から見れば、吾人の
経験則上被告人Aには飲用のための譲渡という意思は否定さるべきではなかつたか
と主張するのであるが、原判決挙示の証拠によつて被告人Aが判示アルコールを被
告人Bに対し飲用に供する目的を以て譲渡したことを認めるに充分である。そして
右認定は何等経験則に反するものとは認められない。次に、たとえ被告人Aが所論
のように終始一貫判示アルコールの飲用に対する危険を被告人Bに警告していたと
しても、本件のように右アルコールが飲用に供せられる危険が明にある場合に、そ
れを飲用に供せられないようにして人体に及ぼす危害を防ぐ注意義務があつたにも
拘らず、警告さえすれば余り飲まないだろうし又余り過度に飲まなければ故障がな
いであろうと速断して譲渡したものである趣旨が認められるから、右注意義務に違
反したものといわなければならない。よつて原判決には所論の違法はない。
 同第二点について
 原判決はメタノールを多量に含有する燃料用アルコールが飲用に供せられること
が明かな場合には、これを他に譲渡するが如きは厳に慎まなければならないと判示
しているのは、所論のように単に警告するを以て足れりとせず、メタノールが人体
に及す危害の程度に鑑み社会保健の維持のため判示の程度の注意義務が要請されて
いるものと解したものであつて、右注意義務の解釈は正当といわなければならぬよ
つて原判決には所論の違法を認めることができない。
 同第三点について
 本件アルコールを他に譲渡するが如きは厳に慎まなければならなかつたものであ
り且被告人Aは被告人Bが右を譲受けた後に同僚その他知合の者と一所に飲んだり
又はこれらの者に分与したりすることがありうることは、被告人Aにおいても予見
できたはずであつたのである。してみれば被告人Aも同人から判示アルコールを譲
受けた被告人BがCに分与し右Cがそれを飲んで中毒死亡した結果について責を負
うべきは已むをえないといわなければならない。されば原判決には所論のような帰
責事由に関する法則の解釈を誤つた違法はない。
 被告人B弁護人三宅一登の上告趣意について
 論旨第一点は、原判決が被告人Bは本件アルコールにメタノールが多量に含有さ
れていたことを知つて譲受けたと認定したことを非難するものであり、同第二点は
被告人Bにおいてかかる認識がなかつたとする前提に立つ独自の見解であつて、何
れも原判決の認定した事実の攻撃に過ぎない。原判決が認定した事実はその証拠で
十分に認めることができるし、又右認定には何等経験則に反する点を発見すること
ができないから論旨は採用に値しない。
 よつて刑訴施行法二条、旧刑訴法四四六条により主文の通り判決する。
 この判決は全裁判官一致の意見である。
 検察官 福島幸夫関与
  昭和二五年一二月一日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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