弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士ローランド・ゾンデルホッフ、同弁理士田代久平の上告理由第
一点について。
 原判決が、所論摘示のごとく判示したことは、所論のとおりであつて、原判示毛
管状とあるのは、毛細管作用を営む毛管状の吸湿性材料を指すものと解するを相当
とし、また、原判決の判示は、要する先球式書写具ボールペンが公知であつたこと
を判示したものであつて、ボールペンが尖頭万年筆の一種であるか否かは、原判示
に影響を及ぼさない事項であること明らかであり、さらに、原判示の毛細管作用を
行うためのものとして毛細管そのものを使用することが従来普通に行われて来たこ
ととあるのは、必ずしも所論のごとく書写具のインク貯部についていつているもの
と解しなければならないものとは認められない。されば、原判決には所論の違法を
包蔵するものとは認められない。
 同第二点について。
 しかし、原判示のごとく万年筆のインク貯部に判示のごとき毛細管作用を利用し
てインクを吸入保持させることが公知であり、また、先球式書写具ボールペンが公
知であり、さらに、毛細管作用を行うため毛細管そのものを使用することが従来普
通に行われて来た事態の下において、本件ボールペンのインクの貯部として、後端
に通気孔を有する毛細管そのものを利用することは、格別の発明力を要しない設計
的手段に過ぎない旨の原判決の判断は、これを正当として是認できる。されば、所
論は採ることができない。
 同第三点について。
 しかし、原判決が本件出願の発明力を否定したのは、所論のボールペンが公知で
あつたことと、否定の具体的例証として所論の英国特許明細書のみに過ぎないので
はなく、そのほか毛細管作用を行うため判示のごとく毛細管そのものを使用するこ
とが従来普通に行われて来た事実をも参酌したものであることは、前論旨について
述べたとおりである。されば、本件発明力の否定を該明細書のみによつたものであ
るとの前提の下に本件出願に発明力ありとする所論は採るを得ない。(なお、この
点に関し原告(上告人)が本件発明の優れた作用効果として主張するところは、本
件出願の発明が要旨としていないボールペンの先端と軸との間隙の大きさ等による
ものの外は、いずれも先に認定した公知の事実をボールペンに実施した結果当然予
期せられる効果に外ならず、これがため本件出願の発明が発明性を有するにいたる
ものとは解されない旨の原判示は正当である)。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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