弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人両名の弁護人阿部泰隆,同倉科直文,同吉田大輔の上告趣意のうち,判例
違反をいう点は,所論引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく,その余は,
単なる法令違反の主張であり,被告人A本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実
誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み,職権で判断する。
原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係
は,次のとおりである。
被告人A(以下「被告人」という。)を代表者とする被告人株式会社B(以下
「被告会社」という。)は,登録貸金業者であるが,自らは貸付業務を行わず,債
権管理回収業に関する特別措置法(以下「サービサー法」という。)3条の債権管
理回収業に関する法務大臣の許可を受けないまま,消費者金融業者から不良債権を
譲り受け,その管理回収を行うことを業としていた。被告人は,被告会社の業務に
関し,被告会社従業員らと共謀の上,登録貸金業者である消費者金融業者2社か
ら,本件で被告人らが回収した債権(以下「本件債権」という。)を含む不良債権
を貸付残高の約6,7%の価格で大量に購入した。本件債権は,長期間支払が遅滞
し,譲渡元の各消費者金融業者において全て貸倒れ処理がされたものであった上,
その多くが,利息制限法にのっとって元利金の再計算を行えば減額され又は債務者
が過払いとなっており,また,債務者が援用すれば時効消滅となるものもあった
が,被告人らは,これらの事情を十分に認識した上で本件債権を購入し,本件債権
の回収に当たって,利息制限法に定める制限額を超える利息の支払の約定がされて
いる債権につき,利息制限法の制限額内に引き直すことなく請求をしていた。さら
に,本件債権の回収方法は,最終期日を10日後等に指定した上で,それまでに連
絡がない場合には,全額集金に行くか,強制執行への移行など断固たる措置をとる
旨記載するなどした書面を債務者らにいきなり送付し,電話で督促するというもの
であり,債務者の勤務先の社長にも多大な迷惑,損害を及ぼすことになる旨記載し
た書面を勤務先内の債務者宛てに送付したり,勤務先に宅配便の運転手を装って電
話をして連絡先の電話番号を伝え,電話をしてきた債務者らに対し,支払要求をし
たりすることもあった。そして,被告人らは,債務者らと支払条件の交渉をして分
割払の方法で本件債権の弁済を受けるなどしていた。
所論は,サービサー法3条の法務大臣の許可を受けずに行った本件債権の管理回
収に関する営業について,①本件債権には事件性がないし,「訴訟,調停,和解そ
の他の手段」によって回収したものではないから,サービサー法2条2項後段には
該当しない,②社会的経済的に正当な業務の範囲内であるから違法性が阻却される
と主張する。
しかし,被告会社が譲り受けた本件債権は,長期間支払が遅滞し,譲渡元の消費
者金融業者において全て貸倒れ処理がされていた上,その多くが,利息制限法にの
っとって元利金の再計算を行えば減額され又は債務者が過払いとなっており,債務
者が援用すれば時効消滅となるものもあったなど,通常の状態では満足を得るのが
困難なものであるところ,被告人らは,本件債権に関し,取立てのための請求を
し,弁済を受けるなどしていたのであるから,本件債権の管理回収に関する営業
は,サービサー法2条2項後段の「他人から譲り受けて訴訟,調停,和解その他の
手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業」に該当するといえる。した
がって,法務大臣の許可を受けないで,本件債権を譲り受けてその管理回収業を営
んだ行為は,サービサー法33条1号,3条に該当すると解するのが相当である。
また,前記のような被告会社の業務態様に照らしても,本件の無許可営業につい
て,所論のように社会的経済的に正当な業務の範囲内のものと見る余地はなく,違
法性を阻却するような事情は認められない。
以上によれば,本件債権の管理回収に関する営業について,サービサー法33条
1号,3条の罪の成立を認めた原判断は相当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,
主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官那須弘平裁判官岡部喜代子裁判官
大谷剛彦裁判官寺田逸郎)

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