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令和3年1月14日判決言渡
令和2年(行ケ)第10066号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年11月18日
判決
原告株式会社ナチュラレーザ・ワン
同訴訟代理人弁護士佐藤充宏
同訴訟代理人弁理士伊藤捷雄
横本幸昌
遠藤雅士
被告四方工業株式会社
同訴訟代理人弁護士高山和也
同訴訟代理人弁理士岡部博史
稲葉和久
山田裕三
主文
1特許庁が無効2018-800003号事件について令和2年4月15
日にした審決のうち,特許第5892573号の請求項2及び3に係る部
分を取り消す。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の
負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2018-800003号事件について令和2年4月15日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求の無効審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の判断
の誤りの有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成24年5月30日に出願した特願2012-123093号の分割
出願として,平成26年11月14日に分割出願(特願2014-232176号)
をし,その出願の分割出願として,平成27年5月14日に,発明の名称を「2軸
ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器」とする特許出願(特願2015-
99418号)をし,平成28年3月4日,設定の登録を受けた(甲20。以下「本
件特許」という。特許第5892573号)。
被告は,平成30年1月12日,本件特許について,無効審判請求をしたところ,
特許庁は,これを無効2018-800003号事件として審理し,原告は,令和
2年1月6日に訂正請求(甲39。この訂正を,以下「本件訂正」という。)をした。
特許庁は,令和2年4月15日,本件訂正請求を認めた上で,「特許第58925
73号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以
下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月22日に原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載(甲20,39)
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1~3の記載は,次のとおりである(以下,
各請求項に係る発明を,それぞれの請求項の番号に応じて「本件発明1」などとい
い,本件発明1~3を併せて「本件発明」という。また,本件訂正後の明細書及び
図面を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
所定間隔を空けて設けられ,第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフト
と第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可
能となるように連結した部材間に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャ
フトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け,
この選択的回転規制手段を,前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第
2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第
2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロック
カム部材と,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド
可能に設けられ,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか
一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の
部材で一体に形成したロック部材とで構成し,
さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転時にフリ
クショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段と,
前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に
吸込み機能を発揮させる吸い込み手段と,
前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制する
ストッパー手段を設け,
前記フリクショントルク発生手段を,前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒン
ジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの
前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸
受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレートと,前記フリクションプレートの
隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させ
て取り付けたフリクションワッシャーと,前記フリクションプレートの隣に前記第
2ヒンジシャフトに対し軸方向へスライド可能であるが回転を拘束させて取り付け
たフリクションワッシャーを有するものとし,
前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第
1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と
第2軸受部を有する連結部材と,この連結部材に隣接して設けたところの前記第1
ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスラ
イド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有するも
のとし,
この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記フリクション
トルク発生手段と前記吸い込み手段の両方に作用する弾性手段とを設けたことを特
徴とする,2軸ヒンジ。
【請求項2】
所定間隔を空けて設けられ,第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフト
と,第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転
可能となるように連結した部材間に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシ
ャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け,
この選択的回転規制手段を,所定間隔を開けて設けられ,前記第1ヒンジシャフ
トと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る連結部材及びス
ライドガイド部材と,前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間に前記第1ヒ
ンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒ
ンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカ
ム部材及び第2ロックカム部材と,前記連結部材と前記スライドガイド部材に対し
スライド可能に係合されると共に,前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム
部材の間に設けられ,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいず
れか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単
一の部材で一体に形成したロック部材,とで構成することにより,
前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシ
ャフトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と
前記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い,前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジ
シャフトのいずれか一方が回転が許容された際には,他方の回転を規制するように
構成することにより,
前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上下方向に開閉操作
できるように成したことを特徴とする,2軸ヒンジ。
【請求項3】
前記請求項1~2に各記載の2軸ヒンジを用いたことを特徴とする,端末機器。
3本件審決の理由の要旨
(1)引用発明について
ア甲1発明
中華民国実用新案公告第M428641U1号公報(甲1。以下「甲1文献」と
いう。)には,以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「上カバー及びベースを有する折畳み式電子製品に設置される位置制限機能を有
する2軸式ヒンジであって,
少なくとも第1軸部111及び第1接続部112を有する第1回転軸11と,
少なくとも第2軸部121及び第2接続部122を有し,前記第1回転軸11と
軸方向上で平行に設置される第2回転軸12と,
前記第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供する第1トルク装置21と,
前記第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する第2トルク装置22と,
前記上カバーに固定接合されるとともに,前記第1接続部112に外嵌されて固
定されて前記第1回転軸11とともに回転する第1固定フレーム31と,
前記ベースに固定接合されるとともに,前記第2接続部122に外嵌されて固定
されて前記第2回転軸12とともに回転する第2固定フレーム32と,
それぞれ前記第1軸部111及び第2軸部121上に外嵌されて固定されて共に
回転する第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412を有し,
前記第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は,それぞれ第1扇形部4
11a及び第2扇形部412aを有し,前記第1ストッパ輪411及び第2ストッ
パ輪412は,それぞれ第1ストッパ凸部511a及び第2ストッパ凸部511b
とそれぞれ一定の開放角度で互いに干渉して,それぞれ前記第1回転軸11及び第
2回転軸12の回転角度を制限するストッパ機構40と,
一対の支持片511,512を有し,その間に第1位置制限カム521,第2位
置制限カム522及び切換片53が設けられ,前記第1位置制限カム521に第1
位置制限口521aが設けられるとともに,前記第1軸部111上に嵌着されて共
に回転し,前記第2位置制限カム522に第2位置制限口522aが設けられると
ともに,前記第2軸部121上に嵌着されて共に回転し,前記切換片53は揺動可
能な輪部533を有するとともに,前記輪部533に前記第1位置制限カム521
と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限部531及び第2位置制
限部532が外向きに突設され,前記第1ストッパ輪411と前記第1ストッパ凸
部511aとが互いに干渉すると,前記切換片53が揺動し,前記第1位置制限部
531が前記第1位置制限口521a内に嵌入して,前記第1回転軸11が回転不
能となり,前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制限し,前記第2スト
ッパ輪412と前記第2ストッパ凸部511bとが互いに干渉すると,前記切換片
53が揺動し,前記第2位置制限部532が前記第2位置制限口522a内に嵌入
して,前記第2回転軸12が回転不能となり,前記第1回転軸11のみが回転可能
となるように制限する位置制限構造50とを含み,
さらに,一対の支持片511,512のうち,支持片512は,第1回転軸11
及び第2回転軸12をそれぞれ回転可能に挿通させる円形の孔を有しており,第1
自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は,それぞれ,第1回転軸11及び第
2回転軸12に回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に支持片512に隣
接して取り付けられており,第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は,
それぞれ支持片512の外側面に接触するとともに,その接触面に凸ブロック21
3a,223aが設けられており,支持片512の外側面であって,第1自動閉合
輪213及び第2自動閉合輪223と接触する部分にはそれぞれ凹部512aが設
けられており,前記第1トルク装置21及び前記第2トルク装置22は,前記第1
自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223に接して設けられて,それぞれ前
記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223を圧迫して,支持片512
の外側面に設けられた凹部512と,前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動
閉合輪223の凸ブロック213a,223aとの間の接触により前記上カバーに,
前記ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備えさせ
るものである,位置制限機能を有する2軸式ヒンジ。」
イ甲2発明
中華民国実用新案公告第M430142U1号公報(甲2。以下「甲2文献」と
いう。)には,以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「第1回転軸11及び前記第1回転軸11に接続され,電子装置6の上カバー6
1を接続する第1取付部12を含み,前記第1回転軸11は,前記第1回転軸11
の周縁に設けられた第1当接部112及び前記第1当接部112上において前記第
1回転軸11に沿って軸方向に開設された第1位置決め凹溝111を有する第1回
転部材1と,
第2回転軸21及び前記第2回転軸21に接続され,電子装置6の下カバー62
を接続する第2取付部22を含み,前記第2回転軸21は,前記第2回転軸21の
周縁に設けられた第2当接部212及び前記第2当接部212上において前記第2
回転軸21に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝211を有する第2回転
部材2と,
前記第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔31と,前記第2回転軸21を
貫設するための第2貫設孔32と,前記第1貫設孔31と前記第2貫設孔32との
間に設けられた軌道部33と,前記軌道部33上に設けられ,前記軌道部33に沿
って摺動する摺動位置決め部34とを含み,
前記摺動位置決め部34は,前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置
決め凹溝111内に係合して,前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有する
ように制限し,前記摺動位置決め部34は,前記第1当接部112の当接を受けて
前記第2位置決め凹溝211内に係合して,前記第2回転軸21の回動が第2制限
状態を有するように制限する接続部材3とを含み,前記電子装置6の上カバー61
と前記電子装置6の下カバー62が合計360度に渡って上下方向に開閉操作がで
きるものであり,
前記第1回転軸11は,第1位置制限部113を更に有し,前記第2回転軸21
は,第2位置制限部213を更に有し,前記接続部材3は,それぞれ前記第1位置
制限部113に当接して前記第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35
と,前記第2位置制限部213に当接して前記第2回転軸21の回転を制限する第
2位置決め部36とを更に含む2軸ヒンジ。」
(2)甲1発明を主引用発明とした場合の進歩性
ア本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明の一致点
所定間隔を空けて設けられ,第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフト
と第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可
能となるように連結した部材間に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャ
フトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け,この選択的回転規制手段を,
前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに
回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可
能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と,前記第1ロックカ
ム部材及び前記第2ロックカム部材の間に変位可能に設けられ,前記第1ロックカ
ム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはい
ずれか他方の回転をロックするところのロック部材とで構成し,さらに前記第1ヒ
ンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発
生させるフリクショントルク発生手段と,前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第
2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸込み機能を発揮させる吸い込み手段と,
前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するス
トッパー手段を設け,前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設
けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通
させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材と,この連結部材に隣接して設け
たところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束される
と共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォ
ロワーとを有するものとし,この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接し
て設けた前記吸い込み手段に作用する弾性手段とを設けた,2軸ヒンジである点。
(イ)相違点
a相違点1
本件発明1は,「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回
転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段」が「前記第
1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規
制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャ
フトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレー
トと,前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にス
ライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーと,前記
フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向へスライド可能
であるが,回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーを有するもの」で
あり,また,本件発明1の「弾性手段」は,「吸い込み手段」と「フリクショントル
ク発生手段」の「両方に作用する」ものであるのに対し,甲1発明は,「前記第1軸
部111上に設置されて回転トルクを提供する第1トルク装置21と,前記第2軸
部121上に設置されて回転トルクを提供する第2トルク装置22と」とされ,「支
持片512の外側面に接触する」「前記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉
合輪223に接して設けられており,また,「前記第1自動閉合輪213及び前記第
2自動閉合輪223を圧迫」するものとされている点。
b相違点2
本件発明1の「ロック部材」は,「単一の部材で一体に形成した」ものであり,「前
記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ」
ているものであるのに対し,甲1発明の「切換片53」は,単一の部材で一体に形
成したものであるとは特定されておらず,「前記切換片53は揺動可能な輪部53
3を有するとともに,前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制
限カム522との間に介在する第1位置制限部531及び第2位置制限部532が
外向きに突設され」ているものである点。
(ウ)相違点についての判断
a相違点1について
(a)甲1発明は,上カバーがベースに対して任意の角度で開放した位
置に固定される機能を当然有しているものと認められる。
甲1発明の「第1トルク装置21」及び「第2トルク装置22」によって提供さ
れる「回転トルク」が,軸の回転に対するトルクであることは明らかであり,本件
発明1でいうところの「フリクショントルク」であると認められる。
ばね211,221による弾性力は,「第1自動閉合輪213」及び「第2自動閉
合輪223」を「支持片512」に対して圧迫し,回転トルク(フリクショントル
ク)を発生させているのみならず,「支持片511」を「第1ストッパ輪411」及
び「第2ストッパ輪412」に対して圧迫し,この両者間でも回転トルク(フリク
ショントルク)の一部を発生させていることは機構上当業者には明らかであるとい
える。
したがって,甲1発明の「支持片511」は,本件発明1の「選択的回転規制手
段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフト
を回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレート」
に相当し,また,甲1発明の「第1ストッパ輪411」及び「第2ストッパ輪41
2」は,本件発明1の「前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフト
に対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワ
ッシャー」及び「前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し
軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャ
ー」に,それぞれ相当する。
よって,甲1発明は,相違点1に係る本件発明1の構成を実質的に備えていると
いえ,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。
(b)仮に,相違点1が実質的な相違点であるとして,以下さらに検討す
る。
ヒンジ機構において,専らフリクショントルクを発生させる手段を,他のヒンジ
機構の手段,例えば,吸い込み手段とは別の機構として設けることは,当業者には,
周知,慣用の手段であり,しかも,フリクショントルク発生手段をフリクションプ
レートとフリクションワッシャーから構成することも,当業者には周知,慣用の手
段であると認められる。
そうすると,甲1発明において,支持片511と第1ストッパ輪411及び第2
ストッパ輪412との間で回転トルク(フリクショントルク)を発生させることに
替えて,あるいは,これに加えて,別途回転トルクを発生させるフリクションプレ
ートとフリクションワッシャーからなる回転トルク(フリクショントルク)発生手
段を設けることは,上記周知,慣用の手段に基づいて,当業者が容易に想到し得た
ものといえる。
したがって,相違点1が実質的な相違点であるとしても,甲1発明において,相
違点1に係る本件発明1の構成とすることは,周知,慣用の手段に基づいて,当業
者が容易に想到し得たものといえる。
なお,甲1発明においては,その実施形態に則してみると,「第1トルク装置21」
及び「第2トルク装置22」を構成するばね211間,ばね221間で回転トルク
を発生させている。すなわち,「第1トルク装置21」及び「第2トルク装置22」
自身において回転トルクを発生させているのみならず,当業者における技術常識か
らみて,機構上,ばね211と第1自動閉合輪213間,ばね221と第2自動閉
合輪223間,自動閉合機能を発揮させない角度位置における,第1自動閉合輪2
13及び第2自動閉合輪223と支持片512間,支持片512と第1位置制限カ
ム521及び第2位置制限カム522間並びに第1位置制限カム521及び第2位
置制限カム522と支持片511間においても回転トルクの一部が発生しているこ
とも明らかである。
b相違点2について
(a)まず,甲1発明の「切換片53」の構造について検討する。
ヒンジ又は2軸ヒンジを構成する部材,部品を単一の部材として構成するか,複
数の部材を組み立てたものとして構成するかは,その部材の構造や製造についての
コスト,手間等に鑑みて,当業者が適宜選択し得るものといえる。甲1発明の「切
換片53」は,「揺動可能な輪部533を有するとともに,前記輪部533に前記第
1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限部
531及び第2位置制限部532が外向きに突設され」るものであるという,比較
的小型な単純な構成の部品であることから,その構造や製造についてのコスト,手
間等に鑑みて,単一の部材で一体として形成することが当業者にとって格別困難で
あったとはいえない。
(b)次に,甲1発明の「切換片53」の動作について検討する。
甲1発明の「切換片53」は,「前記第1ストッパ輪411と前記第1ストッパ凸
部511aとが互いに干渉すると,前記切換片53が揺動し,前記第1位置制限部
531が前記第1位置制限口521a内に嵌入して,前記第1回転軸11が回転不
能となり,前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制限し,前記第2スト
ッパ輪412と前記第2ストッパ凸部511bとが互いに干渉すると,前記切換片
53が揺動し,前記第2位置制限部532が前記第2位置制限口522a内に嵌入
して,前記第2回転軸12が回転不能となり,前記第1回転軸11のみが回転可能
となるように制限する」という動作をするもの,甲1文献に記載された実施形態に
則していうと,第1及び第2位置制限部531,532の両側面に突設されたそれ
ぞれ一対の第1ガイド部531a及び一対の第2ガイド部532aが,支持片51
1,512上に設けられたガイド溝511c,512c内に挿入されて,輪部53
3の両側に設けられた短軸534を中心として切換片53が揺動することにより,
当該それぞれ一対の第1ガイド部531a及び一対の第2ガイド部532aが,当
該ガイド溝511c,512c内でスライドするものである。このように,甲1発
明の「切換片53」は揺動するものであるが,「第1位置制限部531」と「第2位
置制限部532」はスライドしているといえる。そして,「第1位置制限部531」
と「第2位置制限部532」のスライドを「切換片53」の揺動によってではなく,
「切換片53」のスライドによって得るように構成することは,揺動もスライドも
どちらも部材の往復運動を得る手段として周知,慣用であることからすると,当業
者が容易に想到し得たものである。
(エ)作用効果
本件発明1の作用効果についても,甲1発明に基づいて,あるいは,甲1発明及
び周知・慣用の手段に基づいて当業者が予測し得るものであり,格別なものとはい
えない。
(オ)以上より,本件発明1は,甲1発明に基づいて,又は,甲1発明及び周
知,慣用の手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ本件発明3について
本件発明3は,請求項1に記載の2軸ヒンジ,すなわち,本件発明1を用いた端
末機器であるといえる。
したがって,本件発明3と甲1発明とは,相違点1及び2で相違するとともに,
さらに,本件発明3が本件発明1(2軸ヒンジ)を用いた端末機器であるのに対し,
甲1発明(位置制限機能を有する2軸式ヒンジ)の用途については特定されていな
い点で相違し,その余の点で一致するといえる。
しかし,甲1文献には,甲1発明を用いた端末機器であるノート型パソコン等の
折り畳み式電子機器が記載されている(以下「甲1文献記載技術的事項1」という。)。
そうすると,上記ア(ウ)での説示を踏まえると,本件発明3は,甲1発明及び甲1
文献記載技術的事項1に基づいて,あるいは,甲1発明,周知・慣用の手段及び甲
1文献記載技術的事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。
(3)甲2発明を主引用発明とした場合の進歩性
ア本件発明2について
(ア)本件発明2と甲2発明の一致点
第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと,第2の筐体側へ取り付け
られる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部
材に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択
的回転規制手段を設け,この選択的回転規制手段を,前記第1ヒンジシャフトと前
記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る部材と,前記第1ヒン
ジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒン
ジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム
部材及び第2ロックカム部材と,前記部材に対しスライド可能に係合されると共に,
前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ,前記第1ロッ
クカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときに
はいずれか他方の回転をロックするところのロック部材と,で構成することにより,
前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャ
フトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前
記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い,前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシ
ャフトのいずれか一方が回転が許容された際には,他方の回転を規制するように構
成することにより,前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上
下方向に開閉操作できるように成した,2軸ヒンジである点。
(イ)相違点
a相違点A
本件発明2は,「第1ヒンジシャフト」と「第2ヒンジシャフト」とを「平行状態
で互いに回転可能となるように連結した部材」を「所定間隔を開けて設けられ」「て
成る連結部材及びスライドガイド部材」とし,「第1ロックカム部材」,「第2ロック
カム部材」及び「ロック部材」は,「前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間
に」「設けられ」ており,しかも,「ロック部材」は,「前記連結部材と前記スライド
ガイド部材に対しスライド可能に係合される」ものであるのに対し,甲2発明は,
第1回転軸11と第2回転軸21とを平行状態で互いに回転可能となるように連結
する部材である「接続部材3」に対して,「第1当接部112」及び「第2当接部2
12」は隣接して設けられ,また,「摺動位置決め部34」は,「接続部材3」の「軌
道部33に沿って摺動する」ように設けられている点。
b相違点B
ロック部材に関し,本件発明2は,「単一の部材で一体に形成した」ものであるの
に対し,甲2発明の「摺動位置決め部34」は,単一の部材で一体に形成したもの
であるとは特定されていない点。
(ウ)相違点についての判断
a相違点Aについて
甲1文献には,2軸式ヒンジ(2軸ヒンジ)において,第1回転軸11と第2回
転軸12とを平行状態で互いに回転可能となるように連結する,一対の支持片51
1,512の間に,第1位置制限カム521,第2位置制限カム522及び一対の
支持片511,512に対し,両側の短軸534により揺動可能である切換片53
を設けることにより,第1回転軸11と第2回転軸12を交互に回転させるように
した点が記載されている(以下「甲1文献記載技術的事項2」という。)。
2軸式ヒンジである甲2発明において,「接続部材3」を一対とすると,第1回転
軸11及び第2回転軸21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できる
ことは,当業者にとって容易に認識し得る事項であるといえるから,甲2発明にお
いて,甲1文献記載技術的事項2を適用し,接続部材3を所定間隔を隔てて一対と
し,その間に,第1当接部112及び第2当接部212及び摺動位置決め部34を
配置することは,当業者が容易に想到し得たものといえる。
そして,上記のように,甲1文献記載技術的事項2における,切換片53は,一
対の支持片511,512の両者に対し,両側の短軸534により揺動可能とされ
ていることから,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用すると,位置決め摺
動部34は,一対の部材として構成された接続部材の両者に対してスライド可能に
係合されることとなり,一方の接続部材は連結部材に相当する部材といえ,また,
他方の接続部材はスライドガイド部材に相当する部材といえることとなる。
したがって,甲2発明において,相違点Aに係る本件発明2の構成とすることは
甲1文献記載技術的事項2に基づいて当業者が容易に想到し得たものといえる。
b相違点Bについて
相違点2についての判断における理由(前記(2)ア(ウ)b(a))と同様の理由により,
甲2発明において相違点Bに係る本件発明2の構成とすることは,当業者が容易に
想到し得たものである。
(エ)作用効果について
本件発明2の作用効果についても,甲2発明及び甲1文献記載技術的事項2に基
づいて,当業者が予測し得るものであり,格別なものとはいえない。
(オ)以上より,本件発明2は,甲2発明及び甲1文献記載技術的事項2に基
づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明の一致点
第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けら
れる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材
に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的
回転規制手段を設け,この選択的回転規制手段を,前記第1ヒンジシャフトと前記
第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該
第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロッ
クカム部材と,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライ
ド可能に設けられ,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれ
か一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところのロッ
ク部材とで構成し,さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフ
トの回転角度を規制するストッパー手段を設けた,2軸ヒンジである点。
(イ)相違点
a相違点C
本件発明1は,「第1ヒンジシャフト」と「第2ヒンジシャフト」とを「平行状態
で互いに回転可能となるように連結した部材」を「所定間隔を空けて設けられ」た
部材とし,「第1ロックカム部材」及び「第2ロックカム部材」は,「各部材の間に」
「設けられ」ており,「ロック部材」は,「前記第1ロック部材及び前記第2ロック
部材の間にスライド可能に設けられ」ているものであるのに対し,甲2発明は,第
1回転軸11と第2回転軸21とを平行状態で互いに回転可能となるように連結す
る部材である「接続部材3」に対して,「第1当接部112」及び「第2当接部21
2」は隣接して設けられ,また,「摺動位置決め部34」は,「接続部材3」の「軌
道部33に沿って摺動する」ように設けられている点。
b相違点D
ロック部材に関し,本件発明1は,「単一の部材で一体に形成した」ものであるの
に対し,甲2発明の「摺動位置決め部34」は,単一の部材で一体に形成したもの
であるとは特定されていない点。
c相違点E
本件発明1は,「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回
転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段と,前記第1
ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸い込み機
能を発揮させる吸い込み手段」を設けており,「前記フリクショントルク発生手段を,
前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的
回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒン
ジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクション
プレートと,前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方
向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーと,
前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド
可能であるが,回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーを有するもの
とし,前記吸い込み手段を前記選択的回転規制手段の他方の側に設けたところの前
記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受
部と第2軸受部を有する連結部材と,この連結部材に隣接して設けたところの前記
第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトに回転を拘束されると共に軸方向へ
スライド可能に取り付けられた第1カムフォロワーと第2カムフォロワーとを有す
るものとし,この第1カムフォロワーと第2カムフォロワーに接して設けた前記フ
リクショントルク発生手段と前記吸い込み手段の両方に作用する弾性手段とを設け」
ているのに対し,甲2発明はそのような手段を設けているか否かについては特定さ
れていない点。
(ウ)相違点についての判断
a相違点C及びDについて
相違点Cは相違点Aと,相違点Dは相違点Bと実質的に同じであるから,それら
についての判断における理由(前記ア(ウ)a,b)と同じ理由により,甲2発明にお
いて,相違点Cに係る本件発明1の構成及び相違点Dに係る本件発明1の構成とす
ることは,当業者が容易に想到し得たものである。
b相違点Eについて
甲1文献には,2軸式ヒンジの第1回転軸11及び第2回転軸12の回転時にフ
リクショントルクを発生させる回転トルク発生手段及び第1回転軸11及び第2回
転軸12の所定角度の回転時に自動閉合機能(吸い込み機能)を発揮させる手段並
びに当該両手段に作用する第1トルク装置21及び第2トルク装置22を設けた2
軸式ヒンジであって,前記回転トルク発生手段を,位置制限構造50(本件発明1
の選択的回転規制手段に相当する。)の一方の側に設けた支持片511(本件発明1
のフリクションプレートに相当する。)と,当該支持片511の隣に設けた第1スト
ッパ輪411及び第2ストッパ輪412(本件発明1のフリクションワッシャーに
相当する。)を有するものとし,自動閉合機能(吸い込み機能)を発揮させる手段を,
位置制限構造50の他方の側に設けた支持片512と,当該支持片512に隣接し
て設けた第1自動閉合輪213(本件発明1の第1カムフォロワーに相当する。)と
第2自動閉合輪223(本件発明1の第2カムフォロワーに相当する。)を有するも
のとした技術的事項(以下「甲1文献記載技術的事項3」という。)が記載されてい
る。
また,特開2007-107690号公報(甲3。以下「甲3文献」という。)及
び特開2011-89637号公報(甲4。以下「甲4文献」という。)の記載から
すると,端末機器に用いるヒンジにおいて,フリクショントルク発生手段及び吸い
込み手段(それぞれ両手段を有効に発揮させるためには弾性力を作用させることが
有効である。)を設けることは,当業者には,周知,慣用の技術ともいえる。
甲2発明は,ノート型パソコン,タブレット携帯電話等の折り畳み式電子装置に
用いられる2軸式ヒンジであり,甲2発明においても,上カバー61を下カバー6
3との関係において,任意の角度で開放した位置で固定し,また,例えば閉じた位
置などの所定の位置近傍まで回転させると,当該所定の位置に素早く移動し,その
所定の位置で回転が固定されるような機能すなわち吸い込み機能を具備する必要性
が高いという課題は,装置の性質上内在しており,しかも,当該課題を当業者は容
易に認識し得たものといえ,当該課題解決のために,甲1文献記載技術的事項3を
適用しようとする動機は十分にあったというべきである。
したがって,甲2発明において,甲1記載技術的事項3を適用し,相違点Eに係
る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。
(エ)作用効果について
本件発明1の作用効果についても,甲2発明,甲1文献記載技術的事項2及び甲
1文献記載技術的事項3に基づいて,当業者が予測し得るものであり,格別なもの
とはいえない。
(オ)以上より,本件発明1は,甲2発明,甲1文献記載技術的事項2及び甲
1文献記載技術的事項3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもの
である。
ウ本件発明3について
本件発明3は,本件発明1又は本件発明2を用いた端末機器であるといえるとこ
ろ,甲2文献には,甲2発明を用いたノート型パソコン等の折り畳み式電子装置6
(以下「甲2文献記載技術的事項」という。)が記載されている。
したがって,前記ア,イを踏まえると,本件発明3は,甲2発明,甲1文献記載
技術的事項2,甲1文献記載技術的事項3及び甲2文献記載技術的事項に基づいて,
当業者が容易に発明をすることができたものであり(本件発明1を引用する本件発
明3の場合),また,甲2発明,甲1文献記載技術的事項2及び甲2文献記載技術的
事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである(本件発明2
を引用する本件発明3の場合)。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(本件発明1,3についての進歩性の有無の判断の誤り)
(1)本件発明1のフリクショントルク発生手段について
本件発明1のフリクショントルク発生手段の構成は,「前記第1ヒンジシャフト
及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側
に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に
挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有するフリクションプレートと,前記フリク
ションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能である
が回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャーと,前記フリクションプレ
ートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸方向へスライド可能であるが回転を拘
束させて取り付けたフリクションワッシャーを有する」ものであり,①第1筐体と
第2筐体をその中間角度において自立保持させるものであり,②吸い込み手段とは
別に設けられた専用のフリクショントルク発生手段であり,③吸い込み手段とは別
に,第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側と前記選択的
回転規制手段の一方の側に設けられたものである。
また,本件明細書には,フリクションワッシャーが4枚である構成が記載されて
おり,フリクションワッシャーが2枚でよい旨の記載はない。
そして,甲1発明のようなヒンジの各部材間に発生するフリクショントルクだけ
では,長期間に渡って,また,何万回という開閉回数を経た後にも,第1筐体と第
2筐体を中間開閉角度で保持できるフリクショントルクを維持できないことから,
本件発明1は,専用のフリクショントルク発生手段を設けた。
(2)甲1文献,甲2文献その他の文献に開示された技術について
ア甲1文献には,第1筐体と第2筐体を互いの中間開閉角度で長期間及び
何万回に及ぶ開閉操作の後にあっても自立保持できるフリクショントルクを保持し
得るフリクショントルク発生手段については,全く記載も示唆もされてない。フリ
クショントルクは,本件発明1においても,例えば,第1カムフォロワー30及び
第2カムフォロワー31と連結部材20の間,第1ロックカム部材23及び第2ロ
ックカム部材24と連結部材20及びスライドガイド部材22の間にも発生してお
り,また,本件発明1にフリクショントルク発生手段16が備わっていない場合は,
フランジ部10d,12dとスライドガイド部材22との間にも発生しているが,
それらのフリクショントルクは,第1筐体と第2筐体を互いの中間開閉角度で自立
保持できないから,本件発明1においては,上記の各構成とは別にフリクショント
ルク発生手段16(16a,16b)を設けているのである。
甲1文献の支持片512に接する第1自動閉合輪213と第2自動閉合輪223
は,そこに設けられた一対の凸部213aと223aが支持片512の面部に当接す
る構成であるから,フリクション面積が少なく,使用回数を追うごとに容易にフリ
クショントルクが低下してしまい,このヒンジを採用するメーカ側の要望には応え
られないものである。
この点,甲1文献には,第1トルク装置21と第2トルク装置22が,第1自動
閉合輪213と第2自動閉合輪223を圧迫する旨の記載があるが,それらの間に
フリクショントルクが発生する旨の記載は一切なく,また,上カバーとベースをそ
の中間開閉角度において自立保持できる旨の記載も一切ない。
また,甲2文献の軸スリーブ4はフリクショントルクの調整ができず,かつ,フ
リクショントルクが安定しないし,甲2文献には,第1回転軸11と第2回転軸1
2との間でフリクショントルクを創出し,電子装置6の下カバー61と上カバー6
2の開閉操作時のフリクショントルク発生手段として機能し,任意の中間角度で自
立保持させる機能を有する旨の記載はない。
さらに,甲1文献及び甲2文献には,フリクションや摩擦に相当する語句は使用
されていない。
イ本件発明1は,永年使用してもフリクショントルクの変動がない安定し
たフリクショントルクを得ることができ,また,第1筐体と第2筐体を360度に
渡って規則的に開閉できるようにする新規なヒンジに関するものである。本件発明
1は,1軸ヒンジではなく2軸ヒンジであるから,各ヒンジ軸に発生させるフリク
ショントルクを均一に揃える必要があり,そのためには,1軸ヒンジのフリクショ
ントルク発生手段の構成をそのまま2軸ヒンジには応用するのでは足りない。そこ
で,本件発明1は,二つの第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトを共に回転可
能に挿通させた専用のフリクションプレートを独立して設け,このフリクションプ
レートに第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトに回転を拘束させたフリクショ
ンワッシャを別々に弾性部材で押圧させるという構成を採用したものである。
この構成は,甲1文献,甲2文献及びその他の文献には,記載も示唆もされてい
ない。
(3)本件審決の認定について
ア本件審決は,甲1発明の第1トルク装置21及び第2トルク装置22は,
前者が「前記第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供する」ものであり,
後者が「前記第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する」ものであるか
ら,機能的にみて,両者で,本件発明1の「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記
第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントル
ク発生手段」に相当すると認定する。そして,本件審決は,甲1発明の第1トルク
装置21及び第2トルク装置が,それぞれ第1自動閉合輪213及び第2自動閉合
輪223を圧迫する構成であるから,甲1発明の「第1トルク装置21」及び「第
2トルク装置22」によって提供される「回転トルク」が,軸の回転に対するトル
クであり,そのトルクが本件発明1の「フリクショントルク」であると認定する。
しかし,回転トルクは回転させるためのトルクであり,フリクショントルクはフ
リクションさせるためのトルクであり,両者は別の概念である。回転トルクとフリ
クショントルクは,互いに矛盾するものであり,回転トルクにとって,フリクショ
ントルクは好ましいものではない。甲1発明において,「第1トルク装置21」と「第
2トルク装置22」が,第1回転軸11と第2回転軸12に回転トルクを与えるも
のであれば,フリクショントルクは当然に弱いものとなっており,この弱いフリク
ショントルクでは,第1筐体と第2筐体を任意の開閉角度で安定停止できない。そ
こで,本件発明1では,別な構成のフリクショントルク発生手段を具備させたので
あるから,甲1発明の第1トルク装置と第2トルク装置が本件発明1のフリクショ
ントルク発生手段に相当するということはできない。
第1自動閉合輪213と第2自動閉合輪223及び複数のバネ211と221に
は,全て断面小判形状の変形挿通孔が設けられており,この変形挿通孔が同じく断
面小判形状を呈した第1軸部111と第2軸部121に挿入されるから,第1トル
ク装置及び第2トルク装置によってフリクショントルクは発生しない。
したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
イ本件審決は,本件発明1と甲1発明の一致点として,第1ヒンジシャフ
ト及び又は第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリク
ショントルク発生手段が存在することを挙げている。
しかし,本件明細書の段落【0030】には,「尚,この際におけるフリクション
トルクは,吸い込み手段17の第1吸い込み手段17aによっても創出されるが,
これは補助的なものであり,この場合の主たるフリクショントルクは,フリクショ
ントルク発生手段16の第1フリクショントルク発生手段16aによって創出され
る。」と,段落【0035】には,「尚,この際におけるフリクショントルクは,吸
い込み手段17の第2吸い込み手段17bによっても創出されるが,これは補助的
なものであり,この時の主たるフリクショントルクは,フリクショントルク発生手
段16の第2フリクショントルク発生手段16bによって創出される。」と記載さ
れており,本件審決の上記判断は,本件明細書の上記記載を無視するものであり,
誤っている。
ウ本件審決は,支持片512と第1位置制限カム521及び第2位置制限
カム522の間にもフリクショントルクが発生していると認定する。
しかし,このようなフリクショントルクだけでは,第1筐体と第2筐体をその中
間開閉角度で長期間にわたって,また,何万回という開閉回数を経た後に,第1筐
体と第2筐体を中間開閉角度で保持できる初期トルク値を維持できない。そこで,
本件発明1は,専用のフリクショントルク発生手段を備えるものとしたのである。
エ本件審決は,甲3文献及び甲4文献に記載のフリクショントルク発生手
段を周知技術として認定し,この周知技術を甲1発明に適用して本件発明1のフリ
クショントルク発生手段とすることは容易であると認定する。
しかし,本件発明1のフリクショントルク発生手段は,2軸ヒンジのものであり,
しかも通常のフリクションヒンジ以上のより強いフリクショントルクを創出するた
めのものである。
これに対し,甲3文献,甲4文献その他の文献に記載されたフリクショントルク
発生手段は,いずれも1軸ヒンジのものであり,しかも,ヒンジシャフトを回転可
能に挿通させたフリクションプレートを兼ねる取付部材を有している。この構成の
フリクショントルク発生手段を本件発明1に係る2軸ヒンジに適用すると,各取付
部材が第1の筐体と第2の筐体へそれぞれ取り付けられた構成とならざるを得ない。
この場合,各ヒンジシャフトは取付部材に回転を拘束させて取り付けざるを得ず,
本件発明1に係るフリクショントルク発生手段とは大きく構成の異なるものとなら
ざるを得ない。
また,本件発明1のフリクショントルク発生手段において,フリクションプレー
トの隣に設けられたフリクションワッシャーは規制手段のスライドガイド部材に挟
まれてその両側にフリクショントルクが発生し,フリクションプレートと各フラン
ジ部との間に挟まれたフリクションワッシャーは,その片側にフリクショントルク
が発生する構成であるが,甲3文献,甲4文献等に記載のフリクショントルク発生
手段のフリクションワッシャーは,このような構成と作用効果を奏するものとして
は記載も示唆もされていない。
したがって,本件審決の上記認定は誤っている。
オ1軸ヒンジでは第1の筐体と第2の筐体を360度に渡って開閉させる
ことは,第1の筐体と第2の筐体の各後端部がぶつかり合うことから180度が限
度であり,360度に渡って開閉することができないことから,2軸ヒンジが開発
され,しかも操作性の問題から一定の規則性を持って第1の筐体と第2の筐体を開
閉できるようにしようとする技術的課題が生まれ,規制手段が開発され,さらに第
2の筐体の画面が自立状態で手指やタッチペンで押されるために,単に第2の筐体
を自立保持できる程度のフリクショントルクでは足りず,さらに強いフリクション
トルクを必要とすることから,本件発明1に係る専用のフリクショントルク発生手
段が開発されたものである。
本件審決は,上記の本件発明1がされた当時の事情を見落としたため,本件発明
1の特徴を見誤った。
カ本件審決は,「ノート型パソコン等の折り畳み式電子製品において上カ
バーがベースに対し任意の角度に開放固定するものであることは周知である。」と
認定する。
しかし,甲1発明や甲2発明に係る出願前から,ノート型パソコンであっても,
キーボード側のベース(第1の筐体)に対し,ディスプレイ側の上カバー(第2の
筐体)を,その中間開閉角度で支持する支持装置を設けたものが存在していた(甲
51,52)ところ,そのようなヒンジは,ヒンジ装置が第1の筐体に対して第2
の筐体を,その中間開閉角度で保持するフリクショントルクを創出するような強い
フリクショントルクを創出することができるように構成する必要はない。
キ本件審決は,本件発明1のフリクショントルク発生手段と,甲1発明の
ストッパー手段を兼ねるフリクショントルク発生手段とは,実質的に違いがないと
認定する。
しかし,前記(1)のとおり,本件発明1は,専用のフリクションプレートと4枚の
フリクションワッシャーを用いており,これにより,甲1発明とは明らかにその構
成と作用効果(強いフリクショントルクを創出できるという作用効果)を異にする
から,本件審決の上記認定は誤っている。
ク本件審決は,甲2発明に甲1発明の支持片511,512のどちらかを
組み合わせることは容易であると認定するが,甲1発明の支持片511,512の
どちらかを甲2発明に組み合わせることは,後記2(4)のとおり,動機付けがなく,
しかも阻害要因がある。
(4)以上の理由により,本件発明1が甲1発明に基づいて,又は,甲1発明及
び周知,慣用の手段に基づいて,容易に発明することができたということはできな
い。また,本件発明1は,甲2発明,甲1文献記載技術的事項2及び甲1文献記載
技術的事項3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもでき
ない。
2取消事由2(本件発明2,3についての進歩性の有無の判断の誤り)
(1)本件発明2の選択的回転手段の要部は,「所定間隔を開けて設けられ,前記
第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成
る連結部材及びスライドガイド部材と,前記連結部材及び前記スライドガイド部材
の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束
させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けら
れた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と,前記連結部材と前記スライド
ガイド部材に対しスライド可能に係合されると共に,前記第1ロックカム部材と前
記第2ロックカム部材の間に設けられ,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロッ
クカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロッ
クするところの単一の部材で一体に形成したロック部材」であり,選択的回転手段
は,連結部材とスライドガイド部材に対しスライド可能に係合されているものであ
る。
これに対し,甲1文献の位置制限機構50は,切換片53が支持片511と51
2の間で首振り揺動するものであり,甲2文献には,本件発明2の連結部材に相当
する部材はなく(又は,連結部材とスライドガイド部材のうち一方を欠いている。),
摺動位置決め部34が1枚の接続部材3に対して首振り可能かつ上下方向へスライ
ド可能に取り付けられることが示されているのみである。
このように,本件発明2の選択的回転手段は,その構成において,甲1文献に記
載された位置制限機構50及び甲2文献に記載された摺動位置決め部34とは異な
っており,また,作用効果においても,何万回という開閉テストに耐える耐久性を
持つものとして,上記各部材より優れている。
したがって,当業者は,甲1文献に記載された位置制限機構50及び甲2文献に
記載された摺動位置決め部34から,本件発明2の選択的回転手段を想到すること
ができるものではない。
(2)本件発明2のロック部材21は,連結部材とスライドガイド部材の間に設
けられ,連結部材とスライドガイド部材に係合されて上下方向へスライドする部材
である。これに対し,甲1発明の切換え片53は,支持片511と512の間に設
けられるが,短軸534を支点に揺動する部材であり,短軸534を有しない本件
発明2のロック部材とは,その構成と動作を異にしていることは明らかである。
(3)甲1文献に記載された,切換片53を首振り可能に軸支させるために,支承
片511と支承片512の各後部側へ突出している511aと512aは,小型化の
邪魔になるので採用しない技術である。
また,甲2文献の滑動定位部34は,連結片3に対して一端部のみで首振り可能
かつ上下方向へ移動可能に軸支されているので,安定性に欠けることから,耐久性
を必要とする本件発明2には採用しない技術である。
(4)本件審決は,甲1発明の支持片511,512を見ると,当業者にとって,
甲2発明に甲1発明の支持片を組み合わせることは容易であると認定する。
しかし,甲2発明では,第1当接部111と第2当接部211は,第1回転軸1
1と第2回転軸12に対し一体に設けられているから,甲1発明の支持片511,
512を甲2発明に適用するには,抜き差しできる構成としなくてはならない。そ
うすると,第1回転軸11と第2回転軸12の構成並びに軸スリーブの構成も変え
なくてはならないというように,大幅な設計変更が必要となるものである。
したがって,甲1発明の支持片511,512の一方を甲2発明に適用すること
は,動機付けがなく,阻害事由があるので,容易とはいえない。
(5)以上の理由により,本件発明2が,甲2発明及び甲1文献記載技術的事項
2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
第4被告の主張
1取消事由1(本件発明1,3についての進歩性の有無の判断の誤り)に対し

(1)原告は,甲1文献及び甲2文献には,フリクショントルク発生手段は記載
も示唆もされていないと主張する。
しかし,ヒンジの分野においてフリクショントルク発生手段を設けることは周知
技術であり,甲1文献及び甲2文献ではそのような周知技術の記載を省略している
にすぎない。
甲1文献は,折畳み式電子製品に用いられるヒンジに関する発明であって,自立
保持させる機能を有することは前提とされていること,フリクショントルク発生手
段を構成する際に,「フリクションプレート」,「フリクションワッシャー」,「弾性手
段」の組み合わせによって実現することは周知技術であること(甲3,4,9~1
3),甲1文献には,弾性片211,221が他の部材を圧迫する旨の記載があるこ
とから,各部材の間でフリクショントルクが発生することは自明であり,明示的な
記載がない場合でも実質的に開示されているものと認定できる。
(2)原告は,甲1発明のばね211,221と自動閉合輪213,223の間
でフリクショントルクが発生しないと主張する。
しかし,甲1発明で,本件発明におけるフリクショントルクに相当する回転トル
クが発生しているのは,支持片511とストッパ輪411,412の間である。
この点について,本件審決は,「ばね211,221による弾性力は,第1自動閉
合輪213及び第2自動閉合輪223を支持片512に対して圧迫し,回転トルク
(フリクショントルク)を発生させているのみならず,支持片511を第1ストッ
パ輪411及び第2ストッパ輪412に対して圧迫し,この両者間でも回転トルク
(フリクショントルク)の一部を発生させていることは,機構上当業者には明らか
である。」と認定しているところである。
本件審決においては,ヒンジ機構において一つ又は複数の弾性材を用いたフリク
ショントルク発生手段を設けることは周知技術であることから,支持片511とス
トッパ輪411,412の間でも回転トルク(フリクショントルク)が発生してい
ると認定したものである。
(3)原告は,甲1文献には,第1筐体と第2筐体を互いの中間開閉角度で長期
間及び何万回に及ぶ開閉操作の後にあっても自立保持できるフリクショントルクを
保持しうるフリクショントルク発生手段については,記載も示唆もされていないと
主張する。
しかし,甲1文献の記載からすると,甲1文献のトルク装置21,22は,自動
閉合輪213,223を圧迫して自動閉合機能を発揮させる回転トルクに限らず,
本件発明1の「フリクショントルク」に相当する摩擦力を自動閉合輪213,22
3とは別の場所で発生させているのであって,甲1文献には,本件発明1の「フリ
クショントルク発生手段」が開示されている。
(4)原告は,甲1文献及び甲2文献には,任意の中間角度で自立保持させる機能
を有する旨の記載はないと主張する。
しかし,甲1発明及び甲2発明は,その構造上フリクショントルクが発生する構
造を有しており,折畳み式電子製品のヒンジに関する発明である以上,フリクショ
ントルクによって任意の中間角度で自立保持することを前提としていると考えるよ
りほかない。また,本件発明の各請求項の記載からそのような機能を特定すること
もできない。
(5)原告は,本件発明1の二つの第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトを
共に回転可能に挿通させた専用のフリクションプレートを独立して設け,このフリ
クションプレートに第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトに回転を拘束させた
フリクションワッシャーを別々に弾性部材で押圧させるという構成は,甲1文献,
甲2文献その他の文献に記載も示唆もされていないと主張する。
しかし,フリクション発生手段をフリクションプレートと弾性部材たるフリクシ
ョンワッシャーから構成することは周知,慣用の手段であって(甲3,4),甲1発
明の支持片511が「フリクションプレート」に,ストッパ輪411,412が「フ
リクションワッシャー」に,トルク装置21,22が「弾性手段」にそれぞれ相当
する構成であり,原告が主張する上記各構成は,甲1文献に開示されている。
(6)原告は,支持片512と自動閉合輪213,223の間で発生するフリクシ
ョントルクについて,一対の凸部213aと223aが支持片512の面部に当接
する構成であるから,フリクション面積が少なく,使用回数を追うごとに容易にフ
リクショントルクが低下してしまい,このヒンジを採用するメーカ側の要望には応
えられないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,本件発明の進歩性の判断において何ら関係のない主
張である。
なお,上記原告の主張は,支持片512と自動閉合輪213a,223aとの間
で発生するフリクショントルク(自動閉合機能に関連するもの)のみしか考慮され
ておらず,支持片511とストッパ輪411,412との間においてもフリクショ
ントルクが発生していることに対しては何ら考慮されていない。
(7)原告は,甲1発明において,支持片512,511に接する位置制限カム5
21,522などの間に生じるフリクショントルクだけでは十分な機能を発揮でき
ないと主張する。
しかし,ヒンジ機構において,弾性片211,221,支持片511及びストッ
パ輪411,412を設けることで,その間にフリクショントルクを発生させてい
る以上,任意の角度で解放した位置で固定されるに足りる機能を有している。原告
の上記主張は根拠がない。
(8)原告は,甲3文献及び甲4文献は1軸ヒンジに関する文献であると主張す
るが,ヒンジ機構において一般的にフリクショントルク発生手段を設けることは周
知,慣用の手段であり,1軸ヒンジであるか2軸ヒンジであるかを問わないから,
甲3文献及び甲4文献により,1軸ヒンジか2軸ヒンジかにかかわらず,ヒンジ機
構にフリクショントルク発生手段を設けることが周知技術であると認められる。
そして,1軸ヒンジの構成を2軸ヒンジに適用することに特段の困難性は見いだ
せず,例えば,甲1発明のように,二つの回転軸11,12に共通して係合するプ
レート状の部材である支持片511等を設ければよいものと考えられる。
(9)原告は,フリクショントルク発生手段が発生させるフリクショントルクと
吸い込み手段が発生させるフリクショントルクの違いについて主張するが,甲1発
明において,本件発明1におけるフリクショントルクが発生しているのは,511
と412との間であって,周知技術を参酌すると,同部材間にフリクショントルク
が発生していることは当業者にとって明らかである。
2取消事由2(本件発明2,3についての進歩性の有無の判断の誤り)に対し

(1)原告は,本件発明2の選択的回転規制手段について,甲1発明の切換え片
53と甲2発明の摺動位置決め部34のいずれとも異なるものであり,それらに基
づいて容易に想起できるものではないと主張する。
しかし,甲1発明の支持片511,512及び切換片53は,それぞれ,本件発
明における「連結部材」,「スライドガイド部材」及び「ロック部材」に相当する。
甲1発明の技術的事項である「一対の支持片511,512と,その間に切換え片
53を設けること」に基づいて,甲2発明の接続部材3を一対とする変更を行うこ
とで,本件発明2の「連結部材」と「スライドガイド部材」を想到することは容易
である。
切換片53は,首振り揺動するものであるが,本件発明2のロック部材と同様に
スライドするものと解釈することができ,甲1発明と本件発明2に実質的な差異は
ない。
(2)原告は,甲1発明について,小型化の邪魔になるので採用しない技術であ
ると主張し,また,甲2発明について,安定性に欠けることから,耐久性を必要と
する本件発明2には採用しない技術であると主張するが,同主張は,原告の独断的
な主張にすぎず,妥当でない。
(3)原告は,本件発明2の選択的回転規制手段は何万回という開閉テストに耐
える耐久性を持つものとして,その作用効果において優れていると主張するが,本
件発明2の請求項の記載にはそのような効果の記載はない。
第5当裁判所の判断
1本件明細書には,以下の記載がある(甲20)。
【技術分野】【0001】本発明は,ノートパソコンやモバイルパソコン,PDA
などの端末機器に用いて好適な2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器
に関する。
【背景技術】【0002】キーボード部を設けた第1の筐体とディスプレイ部を設
けた第2の筐体を有する,ノートパソコンやモバイルパソコン,PDAなどの端末
機器においては,第1の筐体と第2の筐体を上下方向へ開閉可能に連結する1軸か
らなる1軸ヒンジと,第1の筐体と第2の筐体を上下方向へ90度開いた後,水平
方向へ第2の筐体を第1の筐体に対して回転できるようにするための2軸から成る
2軸ヒンジとがある。本発明に係る2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末
機器は,2軸ヒンジでも第1の筐体と第2の筐体を上下方向へ180度ずつ合計で
360度開くことができるように構成した2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用い
た端末機器に関する。
【0003】従来,このような構成の2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた
端末機器として,下記特許文献1に記載されたものが公知である。この特許文献1
に記載の2軸ヒンジは,第1の部材(筐体)に取り付けたシャフトと,第2の部材
(筐体)に取り付けたシャフトを,連結アームで連結すると共に各シャフトにフリク
ショントルク発生手段を設け,さらにリンクアームを設けたものであるが,第1の
部材と第2の部材を180度以上開くことができるようには構成されていず,また,
第1の筐体と第2の筐体を規則性を持って開閉できるようには構成されていない。
【発明が解決しようとする課題】【0005】近年,ノートパソコンなどの端末機
器に求められるニーズは多様化し,それ合わせて端末機器の持つ機能も多様化して
いる。そんな中で,例えばノートパソコンとして使用できる以外に同時にタブレッ
トとしても用いることのできるようにするために,端末機器を構成する第1の筐体
と第2の筐体をヒンジを介して0度の閉成状態から360度まで一方の筐体の開閉
操作時には他方の筐体の開閉操作を規制できるようにし,また,開閉操作の順番を
第1の筐体か第2の筐体のいずれか一方に規制できるようにするために,所定の規
則性を持って開閉することができるように成したヒンジが求められている。
【0006】そこで本発明の目的は,とくにノートパソコンのような端末機器の
第1の筐体と第2の筐体を0度から少なくとも180度以上好ましくは360度に
わたって規則性を持って開閉でき,任意の開閉角度で安定停止状態で開閉できる2
軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】【0007】上記した目的を達成するために請求項
1に記載の2軸ヒンジは,所定間隔を空けて設けられ,第1の筐体側へ取り付けら
れる第1ヒンジシャフトと第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを
平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材間に,前記第1ヒンジシャフ
トと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け,この
選択的回転規制手段を,前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒン
ジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒン
ジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部
材と,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に
設けられ,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の
回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロックするところの単一の部材で
一体に形成したロック部材とで構成し,さらに前記第1ヒンジシャフト及び又は前
記第2ヒンジシャフトの回転時にフリクショントルクを発生させるフリクショント
ルク発生手段と,前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定
角度の回転時に吸込み機能を発揮させる吸い込み手段と,前記第1ヒンジシャフト
及び又は前記第2ヒンジシャフトの回転角度を規制するストッパー手段とを設けた
ことを特徴とする。
【0008】次に,請求項2に係る2軸ヒンジは,所定間隔を空けて設けられ,
第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと,第2の筐体側へ取り付けら
れる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部材
間に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択
的回転規制手段を設け,この選択的回転規制手段を,前記各部材の間に前記第1ヒ
ンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒ
ンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカ
ム部材及び第2ロックカム部材と,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカ
ム部材の間にスライド可能に設けられ,前記第1ロックカム部材及び前記第2ロッ
クカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはいずれか他方の回転をロッ
クするところの単一の部材で一体に形成したロック部材と,で構成することにより,
前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャ
フトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前
記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い,前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシ
ャフトのいずれか一方が回転が許容された際には,他方の回転を規制するように構
成することにより,前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上
下方向に開閉操作できるように成したことを特徴とする。
【0009】そして,請求項3に係る端末機器は,上記に各記載の2軸ヒンジを
用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】【0010】本発明は以上のように構成したので,請求項1発明に
よれば,選択的回転規制手段によって,第1の筐体と第2の筐体が共に閉成状態の
時と,共に全開状態の時には,第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトをそれぞ
れ取り付けた第1の筐体と第2の筐体のどちらの開閉操作をも可能であるが,第1
の筐体と第2の筐体のどちらか一方の開閉操作を行うと,第1ヒンジシャフトと第
2ヒンジシャフトのいずれか一方の回転が規制され,第1の筐体と第2の筐体のど
ちらか他方の開閉操作が規制される。このようにして第1の筐体と第2の筐体は,
全体として合計で360度開閉操作することができた上で,選択的回転規制手段に
よって,第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方の回転が選択的
に許容されると,フリクショントルク発生手段によって回転するヒンジシャフトの
回転トルクを制御され,第1の筐体と第2の筐体の開閉操作は任意の開閉角度で自
由に停止保持させておくことが可能となる上に,吸い込み手段によって第1の筐体
及び又は第2の筐体は所定の開閉角度からどちらかの筐体が自動的に閉じられるこ
とになるものである。そして,ストッパー手段により,第1筐体及び又は第2筐体
のどちらかの開閉角度は,所定の開閉角度に規制されるものである。
【0011】また,請求項2発明によれば,選択的回転規制手段によって,第1
の筐体と第2の筐体が共に閉成状態の時には,第2の筐体の開閉操作のみを可能と
し,第2の筐体が所定角度まで開成された時に,はじめて第1の筐体の回転操作(開
閉操作)が可能となるものであり,この第2の開閉操作時には第1の筐体の開閉操
作が規制されるものである。
【0012】そして,請求項3のように構成すると,第1の筐体と第2の筐体が
180度ずつ合計で最大360度開閉できる端末機器を提供できるものである。
【実施例1】【0015】図1(a),(b)は,本発明に係る2軸ヒンジを用いた
携帯端末の1例としてのノートパソコン1を示す。このノートパソコン1は,キー
ボード部2aを設けた第1の筐体2と,ディスプレイ部3aを設けた第2の筐体3
の各後部の左右個所を本発明に係る一対の2軸ヒンジ4と5で開閉可能に連結され
ている。
【0017】図2~図19は,2軸ヒンジ4の一実施例を示す。図面において,
指示記号10で示したものは,第1ヒンジシャフトであり,この第1ヒンジシャフ
ト10は,とくに図7に示したように,その一端部側から断面略台形状を呈し取付
孔10b,10bを有する取付軸部10aと,この取付軸部10aに続いて設けら
れたところの外周に係合凹部10cを有するフランジ部10dと,このフランジ部
10dに続いて設けられたところの断面略楕円形状を呈した第1変形軸部10eと,
この第1変形軸部10eに続いて設けられたところの当該第1変形軸部10eより
も小径の同じく断面略楕円形状を呈して成る第2変形軸部10fとを有している。
【0018】取付軸部10aには,第1取付プレート11が取り付けられており,
この第1取付プレート11の取付軸部10aへの取付方法は,第1ヒンジシャフト
10の取付孔10b,10bと第1取付プレート11の取付孔11a,11aを通
したフランジ部付の取付ピン10g,10gの端部をかしめることによってなされ
ている。そして,第1取付プレート11は,当該第1取付プレート11に設けた取
付孔11b,11b・・を介して,とくに図2に示したように,取付ネジ6,6・・
を用いて第2の筐体3へ取り付けられる構成である。
【0019】次に,指示記号12で示したものは,第1ヒンジシャフト10に対
して上下方向へ平行に配置した第2ヒンジシャフトであり,この第2ヒンジシャフ
トは,とくに図7に示したように,その一端部側から,断面略台形状を呈し,取付
孔12b,12bを有する取付軸部12aと,この取付軸部12aに続いて設けら
れたところの外周に係合凹部12cを有するフランジ部12dと,このフランジ部
12dに続いて設けられたところの断面略楕円形状を呈した第1変形軸部12eと,
この第1変形軸部12eに続いて設けられたところの第1変形軸部12eよりも小
径の同じく断面略楕円形状を呈して成る第2変形軸部12fとを有している。
【0020】取付軸部12aには,第2取付プレート13が取り付けられており,
この第2取付プレート13の取付軸部12aへの取付方法は,第2ヒンジシャフト
12の取付孔12b,12bと第2取付プレート13の取付孔13a,13aを通
したフランジ部付の取付ピン12g,12gの端部をかしめることによってなされ
ている。そして,第2取付プレート13は,当該第2取付プレート13に設けた取
付孔13b,13b・・を介して,とくに図2に示したように,取付ネジ7,7・・
を用いて第1の筐体2へ取り付けられる構成である。第1取付プレート11と第2
取付プレート13を第1の筐体2と第2の筐体3へ取り付けることにより,第1ヒ
ンジシャフト10と第2ヒンジシャフト12は,その軸方向に対して垂直にかつ平
行に配置される構成である。
【0023】次に,選択的回転規制手段15について説明する。この選択的回転
規制手段15は,連結部材20とロック部材21とスライドガイド部材22と一対
の第1ロックカム部材23及び第2ロックカム部材24とから構成されている。連
結部材20は上部と下部の略円盤形状を呈した第1軸受部20a及び第2軸受部2
0bと,この第1及び第2軸受部20a,20b間をつなぐ連結部20cとを有す
る側面略瓢箪形状のもので,第1軸受部20a及び第2軸受部20bには,それぞ
れ断面円形状の第1軸受孔20k及び第2軸受孔20mが設けられ,この第1軸受
孔20k及び第2軸受孔20mに第1ヒンジシャフト10と第2ヒンジシャフト1
2のそれぞれの第2変形軸部10f,12fを挿通させて回転自在に軸受する構成
である。連結部20cには,雌ネジ部20eを設けた突起部20dが設けられ,こ
の突起部20dは,上述したように取付ネジ18によって,ヒンジケース14の隔
壁14aへ取り付けられる構成である。また,連結部20cは,上部側と下部側に
第1カム凸部21aと第2カム凸部21bを設けたロック部材21の係合用溝部2
1c内に嵌入され,ロック部材21の上下方向のスライド動作を許容している。尚,
ロック部材21は,単一の部材で一体に形成されている。
【0024】スライドガイド部材22は,連結部材20と同じように,上部と下
部に略円盤形状を呈した第1軸受部22aと第2軸受部22bと,この第1軸受部
22a及び第2軸受部22b間をつなぐ連結部22cを有する瓢箪形状のもので,
第1軸受部22aと第2軸受部22bには,第1軸受孔22d及び第2軸受孔22
eが設けられ,これらの第1軸受孔22dと第2軸受孔22eに第1ヒンジシャフ
ト10と第2ヒンジシャフト12の第1変形軸部10eと12eが挿通されて回転
可能に軸受される構成である。連結部22cは,ロック部材21のもう一方の係合
用溝部21d内に嵌入され,ロック部材21の上下方向のスライド動作を許容して
いる。第1軸受部22aと第2軸受部22bには,第1軸受孔22dと第2軸受孔
22eの周囲を削除することにより第1ストッパー部22fと第2ストッパー部2
2gが設けられている。
【0025】そして,ロックカム部材は上下一対のもので,上側の第1ロックカ
ム部材23と下側の第2ロックカム部材24には,それぞれ変形挿通孔23a,2
4aが設けられ,この変形挿通孔23a,24aへ第1ヒンジシャフト10と第2
ヒンジシャフト12の各第1変形軸部10e,12eが挿通係合されることにより,
この第1ロックカム部材23と第2ロックカム部材24は,第1ヒンジシャフト1
0と第2ヒンジシャフト12にそれぞれ回転を拘束させて取り付けられている。こ
の第1ロックカム部材23と第2ロックカム部材24は,それぞれ外周に軸方向両
端部に達する第1カム凹部23bと第2カム凹部24bが設けられていると共に,
組み立てた際にスライドガイド部材22側に位置する側には,その回転角度によっ
て,スライドガイド部材22に設けた第1ストッパー部22fと第2ストッパー部
22gとに当接する第1ストッパー片23cと第2ストッパー片24cが設けられ
ている。そして,その第1ロックカム部材23と第2ロックカム部材24は,連結
部材20とスライドガイド部材22の間に挟まれると共に,ロック部材21を挟ん
でその上部側と下部側に位置しており,それぞれの第1カム凹部23bと第2カム
凹部24bは,ロック部材21の第1カム凸部21aと第2カム凸部21bとその
回転角度により対向して嵌合する構成である。
【0026】次に,フリクショントルク発生手段について説明する。このフリク
ショントルク発生手段16は,第1ヒンジシャフト10側の第1フリクショントル
ク発生手段16aと,第2ヒンジシャフト12側の第2フリクショントルク発生手
段16bから成るが,ここではまとめて説明する。このリクショントルク発生手段
16は,上部と下部に第1ヒンジシャフト10と第2ヒンジシャフト12の各々の
第1変形軸部10e,12eを回転可能に挿通させた第1軸受孔25aと第2軸受
孔25bを有しているところの,スライドガイド部材22とフランジ部10d,1
2dの間に設けられたフリクションプレート25と,外周にフランジ部10d,1
2dに設けた係合凹部10c,12cと係合する係止片26b,27bを有し,そ
の軸心部軸方向に設けた変形係合孔26aと27aへ第1ヒンジシャフト10と第
2ヒンジシャフト11の各第1変形軸部10e,12eを回転可能に挿通係合させ
て,フランジ部10d,12dとフリクションプレート25との間に介在させた第
1Aフリクションワッシャー26と第1Bフリクションワッシャー27と,中心部
軸方向に第1ヒンジシャフト10及び第2ヒンジシャフト12の各第1変形軸部1
0e,12eを挿通係合させた変形挿通孔28a,29aを有し,フリクションプ
レート25とスライドガイド部材22との間に介在された第2Aフリクションワッ
シャー28及び第2Bフリクションワッシャー29と,スライドガイド部材22を
介してフリクションプレート25へ第1Aフリクションワッシャー26及び第1B
フリクションワッシャー27と第2Aフリクションワッシャー28及び第2Bフリ
クションワッシャー29を圧接させる後述する第1弾性手段32と第2弾性手段3
3とで構成されている。
【0027】次に,吸い込み手段17は,上側の第1ヒンジシャフト10側の第
1吸い込み手段17aと,下側の第2ヒンジシャフト12側の第2吸い込み手段1
7bとから成るが,ここではまとめて説明する。この吸い込み手段17は,その中
心部軸方向に設けた変形挿通孔30a,31aへ第1ヒンジシャフト10と第2ヒ
ンジシャフト12の第2変形軸部10f,12fを挿通係合させると共に,その側
面の外側と内側に設けた大小の第1A湾曲カム凸部30b及び第1B湾曲カム凸部
30cと第2A湾曲カム凸部31b及び第2B湾曲カム凸部31cを,連結部材2
0の各第1及び第2軸受部20a,20bの側面部の外側と内側に設けた大小の第
1A湾曲カム凹部20f及び第1B湾曲カム凹部20gと第2A湾曲カム凹部20
h及び第2B湾曲カム凹部20iと対向させて設けられた第1カムフォロワー30
及び第2カムフォロワー31と,この第1カムフォロワー30と第2カムフォロワ
ー31に接してその中心部軸方向に設けた挿通孔32b,33bへ第1ヒンジシャ
フト10と第2ヒンジシャフト12の各第2変形軸部10f,12fを挿通させて
設けた複数の皿バネ32a,32a・・・・33a,33a・・・・からなる第1
弾性手段32及び第2弾性手段33と,この第1弾性手段32と第2弾性手段33
に接してその中心部軸方向に設けた変形挿通孔34a,35aに第1ヒンジシャフ
ト10と第2ヒンジシャフト12の第2変形軸部10fと第2変形軸部12fを挿
通係合させて設けた第1押えワッシャー34と第2押えワッシャー35と,第1ヒ
ンジシャフト10と第2ヒンジシャフト12の各第第2変形軸部10f,12fの
自由端部側に設けた第1雄ネジ部10hと第2雄ネジ部12hに捻子着させた第1
締付ナット36と第2締付ナット37とで構成されている。
【0028】そして,ストッパー手段19も,第1ヒンジシャフト10側の第1
ストッパー手段19aと,第2ヒンジシャフト12側の第2ストッパー手段19b
とから成るが,ここではまとめて説明する。このストッパー手段19は,第1ロッ
クカム部材23及び第2ロックカム部材24に設けた第1ストッパー片23c及び
第2ストッパー片24cと,スライドガイド部材22の第1軸受部22a及び第2
軸受部22bに設けた第1ストッパー部22f及び第2ストッパー部22gとで構
成されており,第1の筐体2と第2の筐体3の閉成状態の位置と全開成状態(共に
180度)の位置を規制するものである。尚,フリクショントルク発生手段16と
吸い込み手段17とストッパー手段19は,実施例では第1ヒンジシャフトと第2
ヒンジシャフトにそれぞれ設けられているが,コスト削減,その他の理由により,
それぞれ第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方に設けられるよ
うに構成しても良い。
【0029】次に,上記した本発明に係る2軸ヒンジ4の動作について以下に説
明する。まず,第1の筐体2と第2の筐体3が閉じられた図1の(b)に示した状態に
おいては,図4と図8に示したように,各第1取付プレート11と第2取付プレー
ト13は同一方向を向いており,図8に示したように,第1ロックカム部材23の
第1カム凹部23bは上側に位置し,その外周がロック部材21の第1カム凸部2
1aと当接し,第2ロックカム部材24の第2カム凹部24bがロック部材21の
第2カム凸部21bと嵌合状態にあるので,この第1の筐体2と第2の筐体3の閉
成状態においては,第1ヒンジシャフト10は回転可能であるが,第2ヒンジシャ
フト12は回転させることができないことになる。したがって,第1の筐体2と第
2の筐体3の閉成状態においては,選択的回転規制手段15により第2の筐体3の
みが第1の筐体2に対して開閉することが可能である。
【0030】そこで,第2の筐体3を第1の筐体2に対して開くと,第1ヒンジ
シャフト10が共に回転し,ロック部材21の上側の第1カム凸部21aが第1ロ
ックカム部材23の外周に当接しつつ開かれることになるので,この第2の筐体3
の開閉操作時には,選択的回転規制手段15により,第1の筐体2を第2ヒンジシ
ャフト12と共に回転させることはできない。続いて第2の筐体3を第1の筐体2
に対して開いて行くと,最初は第1吸い込み手段17aの第1カムフォロワー30
の第1A湾曲カム凸部30b及び第1B湾曲カム凸部30cが連結部材20に設け
た第1A湾曲カム凹部20f及び第1B湾曲カム凹部20gを脱する際の抵抗に遭
遇するが,第1A湾曲カム凸部30bと第1B湾曲カム凸部30cが第1A湾曲カ
ム凹部20fと第1B湾曲カム凹部20gを脱出することによって,第2の筐体3
は第1の筐体2に対して開かれ,その際に,第1フリクショントルク発生手段16
aの上部の第1Aフリクションワッシャー26と,同じく上部の第2Aフリクショ
ンワッシャー28とフリクションプレート25との間にフリクショントルクが発生
することから,第2の筐体3は第1の筐体2に対してフリーストップに開かれ,任
意の開閉角度で第2の筐体3を第1の筐体2に対して停止保持させることが可能と
なるものである。尚,この際におけるフリクショントルクは,吸い込み手段17の
第1吸い込み手段17aによっても創出されるが,これは補助的なものであり,こ
の場合の主たるフリクショントルクは,フリクショントルク発生手段16の第1フ
リクショントルク発生手段16aによって創出される。
【0031】このようにして,第2の筐体3を第1の筐体2に対してフリースト
ップに開いて行くと,180度開いたところで,図5,図7,図15,及び図16
に示したように,第1ストッパー手段19aの第1ロックカム部材23の第1スト
ッパー片23cがスライドガイド部材22の第1ストッパー部22fに当接するこ
とにより,第1ヒンジシャフト10の回転は規制されるので,第2の筐体3は第1
の筐体2に対して180度開かれたところで停止する。すると,同時に第1ロック
カム部材23の第1カム凹部23bが,図9に示したように,180°回転してロ
ック部材21の第1カム凸部21aの位置に来て,両者の間に間隙aが生じるので,
第1の筐体2の回転(開閉)が許容される状態となる。
【0032】尚,第2の筐体3の第1の筐体2に対する180度の開成位置から,
閉じようとすれば,それは問題なく閉じられる。即ち,第2の筐体3を第1の筐体
2に対して閉じ方向へ回転させると,第1ヒンジシャフト10と共に回転する第1
ロックカム部材23の第1カム凹部23bとロック部材21の第1カム凸部21a
との間には間隙aが存在するので,第2の筐体3は第1の筐体2に対して閉じるこ
とが可能である。一度第2の筐体3を第1の筐体2に対して閉方向へ回転させると,
その外周が第1カム凸部21aと当接することになるので,ロック部材21の第2
カム凸部21bは第2ヒンジシャフト12に固定させた第2ロックカム部材24の
第2カム凹部24bと嵌合状態のままとなり,この第2の筐体3の閉成操作時にお
いても,第1の筐体2の回動動作は規制される。
【0033】このように第2の筐体3は第1の筐体2に対して0度から180度
の間で自由に開閉でき,その間,選択的回転規制手段15により,第1の筐体2の
回転は規制されたままである。
【0034】次に,第1の筐体2は,図1(b)に示したような第2の筐体3との間
の閉成状態のときには,上記したように第1ロックカム部材23の外周が,ロック
部材21の第1カム凸部21aと当接しているため,開閉操作を行うことはできな
いが,第2の筐体3を180度開いた後は,開かれた第2の筐体3とは逆方向に回
転して180度まで回転することが可能となる。即ち,第2の筐体3を180度回
転させると,図9に示したように,第1ロックカム部材23の第1カム凹部23b
が,180度回転してロック部材21の第1カム凸部21aと対向しており,両者
の間には間隙aが生じているので,第2ヒンジシャフト12に回転を規制して取り
付けられている第2ロックカム部材24の回転が可能となり,第1の筐体2が回転
すると,当該第2ロックカム部材24の外周がロック部材21の第2カム凸部21
bと当接することになるので,第2の筐体3の閉成操作はできなくなる。
【0035】そこで,第1の筐体2を第2の筐体3に対して第2の筐体3のとき
とは反対方向へ回転させると,第2ヒンジシャフト12が共に回転し,ロック部材
21の下側の第2カム凸部21bが第2ロックカム部材24の外周に当接しつつ開
かれることになるので,選択的回転規制手段15により,第2の筐体3は閉方向へ
回転させることができなくなる。第1の筐体2を第2の筐体3に対して回転させて
行くと,最初は第2吸い込み手段17bの第2カムフォロワー31の第2A湾曲カ
ム凸部31bと第2B湾曲カム凸部31cが,連結部材20に設けた第2A湾曲カ
ム凹部20hと第2B湾曲カム凹部20iを脱する際の抵抗に遭遇するが,第2カ
ムフォロワー31の第2A湾曲カム凸部31bと第2B湾曲カム凸部31cが第2
A湾曲カム凹部20hと第2B湾曲カム凹部20iを脱出することによって,第1
の筐体3は第2の筐体3に対して回転し,その際に,第2フリクショントルク発生
手段16bの下部の第2Bフリクションワッシャー29及び同じく下部の第1Bフ
リクションワッシャー27とフリクションプレート25との間にフリクショントル
クが発生することから,第1の筐体2は第2の筐体3に対してフリーストップに回
転し,任意の回転(開閉)角度で第1の筐体2を第2の筐体3に対して停止保持さ
せることが可能となるものである。尚,この際におけるフリクショントルクは,吸
い込み手段17の第2吸い込み手段17bによっても創出されるが,これは補助的
なものであり,この時の主たるフリクショントルクは,フリクショントルク発生手
段16の第2フリクション手段16bによって創出される。
【0036】このようにして,第1の筐体2を第2の筐体3に対して第2の筐体
3の開成方向とは反対の方向へフリーストップに回転させて行くと,180度回転
させたところで,図7と図13,及び図16に示したことから解るように,第2ス
トッパー手段19bを構成する第2ロックカム部材24の第2ストッパー片24c
が,スライドガイド部材22の第2ストッパー部22gに当接することにより,第
2ヒンジシャフト12の回転は規制されるので,第1の筐体2は第2の筐体3に対
して180度開かれたところで停止する。この状態が,ちょうど第1の筐体2と第
2の筐体3が互いに重なり合った状態である。
【0037】尚,第1の筐体2を第2の筐体3に対する180度の開成位置より,
元位置に戻そうとすれば,それは問題なく戻せる。即ち,図10に示した状態より,
第1の筐体2を第2の筐体3に対して閉じ方向へ回転させると,第2ヒンジシャフ
ト12と共に回転する第2ロックカム部材24の外周は,ロック部材21の第2カ
ム凸部21bと当接した状態にあり,ロック部材21の第1カム凸部21aは第1
ヒンジシャフト10に固定させた第1ロックカム部材23の第1カム凹部23bと
嵌合状態のままであるので,第1の筐体2を元位置の方向へ回転させることが可能
となる。この際には,第2の筐体3は,第1ヒンジシャフト10に固定させた第1
ロックカム部材23の第1カム凹部23bが,ロック部材21の第1カム凸部21
aと嵌合状態のままであるので,第2の筐体3の開閉操作は規制されたままである。
【0038】このように第1の筐体2は,第2の筐体3が180度開かれた状態
においては,第2の筐体3に対して0度から180度の間で自由に回転させること
ができ,その間,第2の筐体3の開閉操作は選択的回転規制手段15により規制さ
れたままである。以上に説明から明らかなように,第2の筐体3と第1の筐体2は,
選択的回転規制手段15により選択的に開閉され,一方の開閉操作時には他方の開
閉操作は規制される。
【実施例2】【0039】以上に説明した実施例1に係る発明は,第1の筐体と第
2の筐体が互いに重ね合わされた閉成状態のときには,第1の筐体2に対して第2
の筐体3のみが開閉でき,第2の筐体3第1の筐体2に対して開いたときには,そ
の開閉操作中は第1の筐体2を第2の筐体3に対して開閉(或は回転)することがで
きない。また,第1の筐体2は第2の筐体3を第1の筐体2に対して180度開い
た後において,第1の筐体2を第2の筐体3に対して開閉(或は回転)することがで
き,その開閉操作中は第2の筐体3は第1の筐体2に対して開閉できない構成であ
る。
【0040】これに対して,図20~図22に示した実施例2に係る2軸ヒンジ
は,第1の筐体と第2の筐体が互いに重ね合わされた閉成状態のときには,第1の
筐体2も第2の筐体3も共に開閉操作可能であり,どちらか一方の筐体を他方の筐
体に対して開閉操作したときには,他方の筐体の開閉操作を行うことができず,さ
らに,第1の筐体2と第2の筐体3が共に所定の開成角度(或は回転角度)となった
ときには,第1の筐体2と第2の筐体3のどちらも開閉操作でき,一度どちらかの
筐体を開閉操作したときには,他方の筐体の開閉操作ができないようにしたもので
ある。
【0041】即ち,図20~図22によれば,この実施例2に係る2軸ヒンジ4
0の第1ロックカム部材41と第2ロックカム部材42の外周には180度間隔で,
それぞれ第1Aカム凹部41b及び第1Bカム凹部41cと,第2Aカム凹部42
b及び第2Bカム凹42c部が設けられ,第1ヒンジシャフト10と第2ヒンジシ
ャフト12の各第2変形軸部10fと12fに,それぞれの変形挿通孔41a,4
2aを挿通係合させている。尚,指示記号の同じものは先の実施例1と同じ部材を
表している。
【0042】したがって,図示してない第1の筐体と第2の筐体が共に閉じられ
た状態においては,図20に示したように,ロック部材21の第1カム凸部21a
と第2カム凸部21bが,それぞれ第1ロックカム部材41と第2ロックカム部材
42の第1Bカム凹部41cと第2Aカム凹部42bと対向し,間隙bが生じてい
ることから,第1ヒンジシャフト10と第2ヒンジシャフト11のどちらも回転可
能であるので,第1の筐体と第2の筐体はどちらも開閉操作可能である。
【0043】しかるに,第1の筐体と第2の筐体のどちらかの筐体の開閉操作が
なされると,回転するどちらかの第1ヒンジシャフト10と第2ヒンジシャフト1
2の回転動作に伴って,第1ロックカム部材41か第2ロックカム部材42のどち
らかが共に回転することになり,この回転動作により,ロック部材21の第1カム
凸部21aか第2カム凸部21bが各第1ロックカム部材41か第2ロックカム部
材42のいずれか一方の外周と接することになることから,他方の回転は規制され
ることになる。
【0044】図21は,第2の筐体3が第1の筐体2に対して180度開かれた
状態を示しており,この状態は,第2の筐体3を閉成方向へ回転させて元位置へ戻
すことが可能な状態であり,同時に第2の筐体3を第1の筐体2に対して180度
開いた状態において,第1の筐体2を第2の筐体3に対して反対方向へ回転させる
ことのできる状態である。勿論,この状態においても,第1の筐体2か第2の筐体
3のどちらかが回転させられると,他方の回転は規制される。
【0045】そして,図22に示したように,第1の筐体2と第2の筐体3がと
もに180度開かれた状態においても,ロック部材21の第1カム凸部21aと第
2カム凸部21bがそれぞれ第1ロックカム部材41と第2ロックカム部材42の
第1Bカム凹部41cと第2Bカム凹部42cと対向していることから,第1ヒン
ジシャフト10と第2ヒンジシャフト12のどちらも回転可能であるので,第1の
筐体と第2の筐体はどちらも開閉操作可能である。しかるに,第1の筐体か第2の
筐体のどちらか一方が開閉操作中においては,前述したように,第1ロックカム部
材41と第2ロックカム部材42の各外周が,ロック部材21の第1カム凸部21
aと第2カム凸部21bのどちらかと当接することになるため,他方の開閉操作は
規制されることになる。
【0046】このように実施しても,第1の筐体2と第2の筐体3の開閉操作に
一定の規則性が生まれ,本発明の目的は達成できる。尚,以上は一例であって,こ
のものに限定されず,第1カム凹部23bと第2カム凹部24bを設ける位置を,
第1及び第2ロックカム部材23と24の任意の外周に設けることは可能である。
【0047】よって,以上の説明から明らかなように,本願発明に係る2軸ヒン
ジ4と40は,第1の筐体2と第2の筐体3をそれぞれ第1ヒンジシャフト10と
第2ヒンジシャフト12を介して交互に180度ずつ回転させて合計で360度の
開閉操作を可能としたものであるが,その開閉角度にとくに限定はない。
【0048】そして,ノートパソコンをそれ本来の用い方で用いることができた
上で,第1の筐体を第2の筐体に対して同一方向に折り曲げて,略L時形状にした
り,山形状にしたり,重ね合わせて平板状としたりして,第2の筐体を操作者側に
向けてタブレットとして種々多様な用い方をすることができるものである。
【0049】以上の説明から明らかなように,本発明は以上説明したもの以外に,
例えば,第1及び第2弾性手段32,33をフリクショントルク発生手段16と吸
い込み手段17の両機構に作用せしめることが可能となったので,効率の良いもの
となっており,かつ,ロック部材とロックカム部材をその外形を用いたり,吸い込
み手段のカム形状を任意に変えることが容易となって,カム特性の設計が容易とな
ったため,第2の筐体3の第1の筐体2に対する開成角度を特定の角度においてふ
らつきの生じないようにしたり,特定の開成角度において吸い込み機能をもたせる
こともできるものである。
【0050】尚,その他の実施例としては,連結部材20に設ける各第1A湾曲
カム凹部20f及び第1B湾曲カム凹部20gと第2A湾曲カム凹部20h及び第
2B湾曲カム凹部20iと,第1カムフォロアー30や第2カムフォロアー31に
設ける第1A湾曲カム凸部及び第1B湾曲カム凸部と第2A湾曲カム凸部及び第2
B湾曲カム凸部は,これらを連結部材20と第1及び第2カムフォロアー30,3
1の軸心部から外周へ放射状に設けたカム凸部とカム凹部に変えることは可能であ
る。また,皿バネから成る第1及び第2弾性手段32,33は,これをスプリング
ワッシャー,圧縮コイルスプリング,弾性を備えたゴムを始とする合成樹脂製のも
のなどに代えることができ,第1及び第2締付ナット36,37は,第1ヒンジシ
ャフト10と第2ヒンジシャフト12の端部をかしめることによって代えることが
可能である。さらに,各第1カム凹部及び第2カム凹部の設置位置を変えることに
より,第1の筐体が第2の筐体より先に開閉することができるように構成すること
も可能である。また,ヒンジケース14は,これがなくともとくに2軸ヒンジ4,
5,及び40の機能に支障は生じないが,このヒンジケースがあると,2軸ヒンジ
を端末機器へ取り付けた際に選択的回転規制手段や,フリクショントルク発生手段,
吸い込み手段等が外部へ露出することがないので,外観状すっきりとしたものにな
るという利点がある。
【産業上の利用可能性】【0051】本発明は以上のように構成したので,とくに
ノートパソコンのような端末機器やその他のもので,第1の筐体と第2の筐体を相
対的に180度以上開閉させる場合の2軸ヒンジとして好適に用いられるものであ
るが,とくにノートパソコンを同時にタブレットとしても用いるものに用いて好適
である。
【図1】【図2】
【図3】【図4】
【図5】
【図7】
【図8】【図9】
【図10】
【図12】【図13】
【図14】【図15】
【図16】【図17】
【図18】【図19】
【図20】【図21】
【図22】
2(1)甲1文献には,以下のとおりの記載がある(甲1)。
【考案が属する技術分野】
本考案は2軸式ヒンジに関するものであり,上カバー及びベースを有する折畳み
式電子製品内に設置され,上カバーがベースに対して回転する機能を提供し,例え
ばノート型パソコン,電子書籍などの折畳み式電子製品であり,本考案は特にギヤ
比を有する2軸式ヒンジを指している。
【背景技術】
折畳み式電子製品,例えばノート型パソコン,電子書籍などは,使用の便宜を図
るため,時には180度またはそれ以上の角度まで開放することが求められる。こ
の種の折畳み式電子製品の要求について,現在すでに2軸式ヒンジの設計があり,
ヒンジ中に上カバーと共に回動する第1回転軸と,ベースと共に回動する第2回転
軸とを有し,かつ,180度まで開放しても,上カバーとベースに取り付けられて
いるヒンジの端部とが当接する問題は発生しない。同時に,2つの回転軸を同期し
て回動させるために,2つの回転軸上にギヤセット構造が設けられる。関連する先
行実用新案としては,中華民国実用新案M396575「ヒンジ構造」,M3888
23「2軸連動式ヒンジ」及びM326330「同期回動式ヒンジ」などを参照す
ることができる。
既知の2軸式ヒンジでは,開放または閉合過程において,その機構の設計により,
第1回転軸と第2回転軸とが同時に相対回動するが,トルク値の変化により,第1
回転軸及び第2回転軸の瞬間回動量の違いにより速度緩急に落差を生じ,開放また
は閉合動作をスムーズに連続することができなくなるため,改善が待たれている。
・・・
【考案を実施するための形態】
第1図及び第2図を参照すると,本考案では,上カバー及びベースを有する折畳
み式電子製品(図未表示)に設置される位置制限機能を有する2軸式ヒンジが提供
されており,それは主に,第1回転軸11,第2回転軸12,第1トルク装置21,
第2トルク装置22,第1固定フレーム31,第2固定フレーム32,ストッパ機
構40及び位置制限構造50により構成される。
本考案の第1回転軸11は,第1軸部111及び第1接続部112を有し,第2
回転軸12は,第2軸部121及び第2接続部122を有する。第1回転軸11と
第2回転軸12とは軸方向上で平行に設置される。
第1トルク装置21は,第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供し,第
2トルク装置22は,第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する。第1
トルク装置21及び第2トルク装置22は,それぞれ第1軸部111及び第2軸部
121上に嵌接される複数の弾性片211,221を有するとともに,それぞれ固
定ネジ212,222で第1軸部111及び第2軸部121に螺合して固定される。
第1トルク装置21及び第2トルク装置22は,それぞれ第1自動閉合輪213及
び第2自動閉合輪223を圧迫して,上カバーに,ベースに対して閉合状態及び最
大開放状態時における自動閉合機能を備えさせる。第1自動閉合輪213及び第2
自動閉合輪223は,それぞれ支持片512の外側面に接触するとともに,その間
の接触面上にそれぞれ互いに対応する凸ブロック213a,223a(第1A図参
照)及び凹部512aが設けられて,自動閉合機能を達成する。この機能について
は関連する先行考案中の説明を参照することができる。
本考案の第1固定フレーム31は,上カバーに固定接合されるとともに,第1回
転軸11の第1接続部112に固定嵌接されて共に回動する。第2固定フレーム3
2は,ベースに固定接合されるとともに,第2回転軸12の第2接続部122に固
定嵌接されて共に回動する。
ストッパ機構40は,それぞれ第1軸部111及び第2軸部121上に固定嵌接
されて共に回動する第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412を有する。第
1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は,一方の支持片511の外側面に
位置するとともに,それぞれ第1扇形ブロック411a及び第2扇形ブロック41
2aを有し,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は,それぞれ支持片
511上で外に突出した第1ストッパ凸点511a及び第2ストッパ凸点511b
(第1B図参照)とそれぞれある開放角度で互いに干渉して,それぞれ第1回転軸
11及び第2回転軸12の回動角度を制限する。
更に,位置制限構造50は,一対の支持片511,512を有し,その間に第1
位置制限カム521,第2位置制限カム522及び切換え片53が設けられる。第
1位置制限カム521に第1位置制限口521aが設けられるとともに,第1軸部
111上に嵌設されて共に回動し,第2位置制限カム522に第2位置制限口52
2aが設けられるとともに,第2軸部121上に嵌設されて共に回動する。切換え
片53は揺動可能なホイール部533を有し,両側の短軸534により支持片51
1及び512上に枢軸接続されて揺動可能であるとともに,ホイール部533に第
1位置制限カム521と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブ
ロック531及び第2位置制限ブロック532が外向きに突設される。
第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸点511aとが互いに干渉すると,切換
え片53が揺動し,第1位置制限ブロック531が第1位置制限口521a内に嵌
入して,第1回転軸11が回動不能となり,第2回転軸12のみが回動可能となる
ように制限し,第2ストッパ輪412と当該第2ストッパ凸点511bとが互いに
干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位置制限ブロック532が第2位置制限
口522a内に嵌入して,第2回転軸12が回動不能となり,第1回転軸11のみ
が回動可能となるように制限する。その動作については以下において説明する。
また,位置制限構造50の切換え片53上の第1位置制限ブロック531及び第
2位置制限ブロック532の両側面に,それぞれ一対の第1ガイドブロック531
a及び一対の第2ガイドブロック532aが突設され,共に回動する当該対第1ガ
イドブロック532a(判決注:「531a」の誤記と認められる。)及び第2ガイ
ドブロック532aは,それぞれ当該対支持片511,512上にそれぞれ開設さ
れたガイド溝511c,512c内に伸入して,切換え片53の揺動範囲を制限す
る。
第3図~第6図に示されている本考案の開放動作図を参照する。第3図において,
また第7図においても併せて示すように,上カバー及びベースの閉合状態,つまり
0度の場合は,切換え片53の第2位置制限ブロック532が第2位置制限口52
2a内に嵌入して,第2回転軸12が回動不能となり,第1回転軸11のみが矢印
に示されている通り回動可能となるように制限し,上カバーをベースに対して開放
する。第4図を参照すると,第1回転軸11が120度まで回動した場合,第2固
定フレーム32が点線位置から実線位置まで回動し,第8図に併せて示すように,
第1ストッパ輪411の第1扇形ブロック411aと第1ストッパ凸点511aと
が互いに当接して干渉を生じ,第1回転軸11は再回動不能となる。
再開放のために付勢されると,第2位置制限カム522の第2位置制限口522
aと切換え片53の第2位置制限ブロック532とが脱離を開始し,第2位置制限
カム522の外縁を利用して第2位置制限ブロック532を押し出し,第5図に示
されている通り,切換え片53を矢印G1方向に揺動させ,第1位置制限ブロック
531を第1位置制限カム521の第1位置制限口521aに嵌入させて,第1回
転軸11が回動不能となり,第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,
その際には,第2回転軸12を180度まで回動して,第2固定フレーム32を点
線位置から実線位置まで回動させる。第1回転軸11は,開放方向上にその回動を
止めるストッパ機構40を有しているが,位置制限機構50の第1位置制限ブロッ
ク531が第1位置制限カム521の第1位置制限口521a内に嵌入しない場合,
逆向きの閉合動作時に,第1回転軸11が誤回動して,動作不調を生じる可能性が
ある。
その後,第6図に示されている通り,第2回転軸12が制限されずに持続的に回
動して,第2固定フレーム32を図に示されている下向き位置まで回転させる。
同様に,逆向きの閉合動作時には,第2回転軸12が制限されずに先ず回動する
ことができるが,第4図に類似した位置まで回動すると,その際にはストッパ機構
40中の第2ストッパ輪412の第2扇形ブロック412aと第2ストッパ凸点5
11bとが当接して互いに干渉して,第2回転軸12を回動不能とさせ,更に開閉
のために付勢されると,第1位置制限カム521の第1位置制限口521aと切換
え片53の第1位置制限ブロック531とが脱離を開始し,第1位置制限カム52
1の外縁を利用して第1位置制限ブロック531を押し出して,切換え片53を揺
動させ,第2位置制限ブロック532を第2位置制限カム522の第2位置制限口
522aに嵌入させて,第2回転軸12が回動不能となり,第1回転軸11のみが
回動可能となるように制限し,第3図に示されている閉合位置まで回動する。
明らかに,本考案は,ストッパ機構40及び位置制限構造50の協調動作を利用
し,開放または閉合動作時に,第1回転軸11及び第2回転軸12を順次回動させ
て,同時回動の瞬間回動量の違いにより速度緩急に落差を生じることによる動作不
調問題を排除し,開放または閉合動作時に拘わらず,良好な操作効果を備えさせる。
・・・
(2)甲2文献には,以下のとおりの記載がある(甲2)。
【考案が属する技術分野】【0001】本考案は2軸ヒンジに関するものであり,
特に開閉が安定した2軸ヒンジを指している。
【背景技術】【0002】一般の蓋開放式電子装置,例えばノート型パソコン,携
帯電話などでは,当該電子装置のディスプレイとキーボードとの間にヒンジが設置
され,ディスプレイとキーボードとを接続するとともに,ディスプレイをキーボー
ドから開く際に必要とするトルクを提供する。最も早期には1軸式のヒンジが蓋開
放式電子装置上に装設され,ディスプレイをキーボードに対して枢軸回転させて開
放する目的を達成していたが,ディスプレイ及びキーボードの外観ハウジングの設
計の制限を受け,ディスプレイハウジング及びキーボードハウジングを一定角度ま
で開放すると相互に干渉してそれ以上開放できなくなるため,干渉を回避するため
には外観設計上で構造面の妥協を余儀なくされるため,外観設計が制限を受けるこ
とになる。
【0003】公知のヒンジの欠陥を改善するため,既存の中華民国実用新案の第
M388822号は,回動変位可能な2軸ヒンジであって,ディスプレイ支持フレ
ームに第1回転軸を結合し,ベース支持フレームに第2回転軸を結合し,かつ,第
1回転軸が可動で第2回転軸周りを回動し,第1回転軸の位置を改変して,第1回
転軸を上向きまたは後向きに変位させ,ディスプレイ支持フレームが上向きまたは
後向きに変位するように従動させることにより,開放時にディスプレイハウジング
とベースハウジングとが相互に干渉することを回避することができる。併せてトラ
ックパッド及び制御部材の作動制限により,ディスプレイ支持フレームの回動角度
が第1回転軸及び第2回転軸の回動角度の総和となり,ディスプレイの回動角度が
分散して2つの回転軸の個別の回動角度により達成され,それにより回転軸の摩耗
が低減され,寿命が増加する。
【0004】この種の設計は,開放時におけるディスプレイハウジングとベース
ハウジングとの相互干渉を回避することができるが,依然として180度を超えて
開放することはできず,現在市場で流行しているタッチ式または手書き入力操作を
有する電子装置の,簡便にタッチ入力するために,ディスプレイハウジングとキー
ボードハウジングとを180度よりも大きく反転可能であるとの要求,または簡便
に把持してタッチ操作を行うために逆方向に折り重ねるとの要求に対応することが
できない。
【0005】現在のタッチ式電子装置の趨勢に合致可能とするため,中華民国実
用新案第M413776号では単一パッケージ式2軸ヒンジが提供されており,軸
スリーブと,当該軸スリーブに設置される第1回動部材及び第2回動部材とを含み,
当該軸スリーブは,接続板と,当該接続板に設置される第1嵌接部及び第2嵌接部
とを有し,当該第1嵌接部及び当該第2嵌接部にそれぞれ第1軸接通路及び第2軸
接通路が設けられて,それぞれ当該第1回動部材及び当該第2回動部材が設置され,
かつ,当該第1嵌接部の端縁の当該接続板の一方の側と当該接続板とに当該第1軸
接通路に連通する第1切欠きが形成され,当該第2嵌接部の端縁の当該接続板の他
方の側と当該接続板とに当該第2軸接通路に連通する第2切欠きが形成され,2軸
ヒンジを順次枢軸回転させることができるばかりではなく,大角度の回動を提供し
て,更に開放が軽く閉合が重いという効果を達成することもできる。この種の設計
のわずかな欠点は,当該第1回動部材と第2回動部材とは,ディスプレイハウジン
グとキーボードハウジングとを相対的に開放する際に,共に回動可能であるが,デ
ィスプレイハウジングがまだ180度まで開放されていない場合は,当該軸スリー
ブが第2回動部材を支点として共に回転し,使用者がディスプレイハウジングの開
放角度をうまく調整できないことにあり,改善が待たれている。
【考案の概要】【0006】本考案の主な目的は,公知の2軸ヒンジはその両回転
軸が同時に回転可能であるとの問題を解決することにある。
【0007】上記目的を達成するため,本考案では,開閉が安定した2軸ヒンジ
が提供されており,接続部材と,当該接続部材に設置される第1回動部材及び第2
回動部材とを含み,当該第1回動部材は,第1回転軸及び当該第1回転軸に接続さ
れる第1組付部を含み,当該第1回転軸は,当該第1回転軸の周縁に設けられた第
1当接部及び当該第1当接部上において当該第1回転軸に沿って軸方向に開設され
た第1位置決め凹溝を有する。当該第2回動部材は,第2回転軸及び当該第2回転
軸に接続される第2組付部を含み,当該第2回転軸は,当該第2回転軸の周縁に設
けられた第2当接部及び当該第2当接部上において当該第2回転軸に沿って軸方向
に開設された第2位置決め凹溝を有する。当該接続部材は,当該第1回転軸を貫設
するための第1貫設孔と,当該第2回転軸を貫設するための第2貫設孔と,当該第
1貫設孔と当該第2貫設孔との間に設けられた軌道部と,当該軌道部上に設けられ,
当該軌道部に沿って摺動する摺動位置決め部とを含む。当該摺動位置決め部は,当
該第2当接部の当接を受けて当該第1位置決め凹溝内に係合して,当該第1回転軸
の回動が第1制限状態を有するように制限し,当該摺動位置決め部は,当該第1当
接部の当接を受けて当該第2位置決め凹溝内に係合して,当該第2回転軸の回動が
第2制限状態を有するように制限する。
【考案を実施するための形態】【0015】図1を参照すると,それは本考案にお
ける開閉が安定した2軸ヒンジの外観概略図であり,図2,図3は本考案における
開閉が安定した2軸ヒンジの構造分解概略図であり,図示されている通り,本考案
は開閉が安定した2軸ヒンジであって,主に,接続部材3と,当該接続部材3に設
置される第1回動部材1及び第2回動部材2とを含み,当該第1回動部材1は,第
1回転軸11及び当該第1回転軸11に接続される第1組付部12を含み,当該第
1回転軸11は,当該第1回転軸11の周縁に設けられた第1当接部112及び当
該第1当接部112上において当該第1回転軸11に沿って軸方向に開設された第
1位置決め凹溝111を有する。当該第2回動部材2は,第2回転軸21及び当該
第2回転軸21に接続される第2組付部22を含み,当該第2回転軸21は,当該
第2回転軸21の周縁に設けられた第2当接部212及び当該第2当接部212上
において当該第2回転軸21に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝211
を有する。当該接続部材3は,当該第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔3
1と,当該第2回転軸21を貫設するための第2貫設孔32と,当該第1貫設孔3
1と当該第2貫設孔32との間に設けられた軌道部33と,当該軌道部33上に設
けられ,当該軌道部33に沿って摺動する摺動位置決め部34とを含む。当該摺動
位置決め部34は,当該第2当接部212の当接を受けて当該第1位置決め凹溝1
11内に係合して,当該第1回転軸11の回動が第1制限状態を有するように制限
し,当該摺動位置決め部34は,当該第1当接部112の当接を受けて当該第2位
置決め凹溝211内に係合して,当該第2回転軸21の回動が第2制限状態を有す
るように制限する。
【0016】本考案の具体的な実施形態において,当該第1回転軸11は,第1
位置制限部113を更に有し,当該第2回転軸21は,第2位置制限部213を更
に有し,当該接続部材3は,それぞれ当該第1位置制限部113に当接して当該第
1回転軸11の回動を制限する第1位置決め部35と,当該第2位置制限部213
に当接して当該第2回転軸21の回動を制限する第2位置決め部36とを更に含む。
また,本考案で開示されている開閉が安定した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当
該軸スリーブ4を収容するハウジング5を更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接
続部材3に接続される接続板41と,当該接続板41に設置され,それぞれ当該第
1回転軸11と当該第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部
43とを有する。当該ハウジング5は,収容空間51及び当該収容空間51に連通
する開口52が設けられ,当該軸スリーブ4と当該接続部材3とを収容し,当該接
続板41と当該ハウジング5とに,相互に対応してガイド凸条411とガイド凹溝
53とが設けられ,当該ハウジング5の収容空間51に配置されるように当該軸ス
リーブ4をガイドする。
【0017】図4-1から図4-5を参照すると,それは開閉が安定した2軸ヒ
ンジの動作概略図であり,図示されている通り,当該開閉が安定した2軸ヒンジは,
枢軸回転式の電子装置6上,例えばノート型パソコン,タブレット型コンピュータ,
携帯電話などに応用することができ,当該第1回動部材1(図1に示されている通
り)の第1組付部12で当該電子装置6の上カバー61を接続するとともに,当該
第2回動部材2(図1に示されている通り)の第2組付部22により当該電子装置
6の下カバー62を接続する。図4-1に示されている通り,当該上カバー61が
当該下カバー62に閉合すると,当該摺動位置決め部34が,同時に当該第2位置
決め凹溝211と当該第1当接部112とに当接して当該第2回転軸21の回動を
制限し,かつ,当該第2回転軸21の第2位置制限部213(図2に示されている
通り)と当該接続部材3の第2位置決め部36とが当接して位置制限関係を構成す
る。
【0018】当該上カバー61を開放するように付勢されると,当該第1回転軸
11の回転トルクが当該第2回転軸21の回転トルクよりも小さいため,当該第2
回転軸21と当該ハウジング5とは不動を保持し,当該上カバー61は当該第1回
転軸11に連動して当該第2回転軸21と当該ハウジング5に対して回転し,その
際,当該摺動位置決め部34は依然として当該第1当接部112の当接を受けて当
該第2位置決め凹溝211に係合し,当該第2回転軸21の回動を制限する(図4
-2に示されている通り)。引き続き当該上カバー61を反転するように付勢され,
当該上カバー61が当該第1回転軸11に連動して引き続き180度まで回転する
と,当該第1回転軸11の当該第1位置決め凹溝111の開口部分と当該第2回転
軸21の当該第2位置決め凹溝211の開口部分とが対向し,その際,当該摺動位
置決め部34は当該第1当接部112の当接を受けずに当該接続部材3上の当該軌
道部33に沿って自在に摺動可能となり,当該第2回転軸21も当該摺動位置決め
部34の制限を受けないため,自在に回動可能となる。同時に,当該第1回転軸1
1の当該第1位置制限部113が当該接続部材3の当該第1位置決め部35に当接
し,位置制限関係を構成して,当該第1回転軸11の継続した回転を制限する(図
4-3に示されている通り)。
【0019】当該上カバー61を引き続き枢軸回転させる場合は,当該第1回転
軸11と当該接続部材3とが位置制限を構成するため,比較的大きな力を付勢して,
当該ハウジング5を当該第2回転軸21に対して回転させて,当該第2回転軸21
の第2位置制限部213を当該接続部材3の第2位置決め部36から脱離させ,当
該上カバー61を180度を超えるまで枢軸回転させなければならず,同時に,当
該摺動位置決め部34が当該第2位置決め凹溝211から脱離するとともに,当該
第2当接部212の当接を受けて当該第1位置決め凹溝111内に係合することに
より,当該第1回転軸11が同時に回動できないように制限する(図4-4に示さ
れている通り)。当該上カバー61が引き続き力を受けて360度まで回転した場
合,当該摺動位置決め部34は依然として当該第2当接部212の当接を受けて当
該第1位置決め凹溝111内に係合して,当該第1回転軸11が同時に回動不能と
し,その際,当該上カバー61はすでに完全に当該下カバー62の下方まで枢軸回
転している(図4-5に示されている通り)。当該上カバー61を当該下カバー62
の上方に復帰させる必要がある場合は,当該下カバー62が枢軸回転するように付
勢し,当該下カバー62が180度回転すると,当該第2回転軸21の当該第2位
置制限部213と当該接続部材3の当該第2位置決め部36とが当接し,位置制限
関係を構成して当該第2回転軸21の回動を停止する。更に引き続き当該下カバー
62が回転するように付勢すると,その際,当該摺動位置決め部34は当該第1当
接部112の当接を受けて当該第2位置決め凹溝211内に係合して,当該第2回
転軸21の同時回動を制限し,当該下カバー62が180度回転するのを待った後,
当該上カバー61は当該下カバー62の上方に再度閉合する。
【0020】以上の記載をまとめると,本考案では,当該摺動位置決め部34が
当該第1位置決め凹溝111と当該第2当接部212とに同時に当接することを利
用して,当該第1回転軸11が当該摺動位置決め部34の制限を受けて回動不能と
なり,かつ,当該摺動位置決め部34が当該第2位置決め凹溝211と当該第1当
接部112とに同時に当接することにより,当該第2回転軸21が当該摺動位置決
め部34の制限を受けて回動不能となる。それにより,2軸が同時に回動するとの
問題が発生することはない。
(3)甲4文献には,以下のとおりの記載がある(甲4)。
【技術分野】【0001】本発明は,ノート型パソコン,ラップトップ型パソコン,
PDA(PersonalDigitalAssistant),及びカーナビ
ゲーション装置といった電子機器の開閉装置並びにこの開閉装置を用いた電子機器
に関する。
【実施例1】【0024】本発明に係る開閉装置4は,とくに図4乃至図7に示し
たように,第1の筐体2の後部上端に設けた取付凹部2b内へ取り付けた取付部材
5と,第2の筐体3の後端部下面に設けた取付凹部3b内に取り付けた支持部材6
と,この支持部材6を取付部材5に対して回転可能に連結するヒンジシャフト7と,
取付部材5に対して支持部材6を,第2の筐体3の第1の筐体2に対する閉成状態
でロックする回転制御手段8とで構成されている。
【0028】回転制御手段8は,フリクション機構9と吸い込み機構10とから
成り,フリクション機構9は,その中心部軸方向に設けた変形挿通孔11aへヒン
ジシャフト7の大径変形軸部7bを挿通させて,当該ヒンジシャフト7に回転規制
されて取り付けられると共に,フランジ部7aと取付部材5の一方の側板5bとの
間に介在させたフリクションワッシャー11と,その中心部軸方向に設けた変形挿
通孔12aへヒンジシャフト7の小径変形軸部7cを挿通させて,当該ヒンジシャ
フト7に回転を規制されて取り付けられると共に,支持部材6の側板6aの側に設
けられたワッシャー12と,その中心部軸方向に設けた挿通孔13aへヒンジシャ
フト7の小径変形軸部7cを挿通させてワッシャー12と支持部材6の側板6aと
の間に介在させたスプリングワッシャー13と,ヒンジシャフト7の小径変形軸部
7cのかしめ部7dとで構成されている。
【0029】吸い込み機構10は,例えばSUM製の中心部軸方向へ変形挿通孔
14aと,外周をその軸方向に渡って削り取ることによって形成した平坦なカム部
14bと,変形挿通孔14aへヒンジシャフト7の大径変形軸部7bを挿通させた
カム手段14と,取付部材5の後板5cに設けた取付部5hにその一端部15aを
挿入固定させた自由端側にカールさせた弾接部15bを有し,この弾接部15bを
カム手段14の外周に摺接させている弾性手段15とで構成されている。尚,この
吸い込み機構10は,第2の筐体3の第1の筐体2に対する開閉操作時に,弾性手
段15の弾接部15bとカム手段14の湾曲外周14cとの間で圧接状態となるた
め,ここでもフリクショントルクを発生させることができる構成である。
【0030】そして,フリクション機構9にあっては,フリクションワッシャー
11,カム手段14,ワッシャー12,スプリングワッシャー13を上述したよう
に配置した後に,ヒンジシャフト7の小径変形軸部7cが支持部材6の側板6aよ
り突出した部分を所定のかしめトルクでかしめてかしめ部7dとすることにより,
フリクションワッシャー11の一側部と,取付部材5の側板5bとの間,及びワッ
シャー12ともう一方の側板5bとの間にそれぞれフリクショントルクが発生する
構成となっている。
【0032】まず,図4に示したように,ノート型パソコン1の第1の筐体2に
対して第2の筐体3を閉じた閉成状態においては,弾性手段15の弾接部15bが
カム手段14の平坦なカム部14bに当接していることによって,第2の筐体3は
第1の筐体2に対して閉成状態でロックされている。
【0033】次に,ノート型パソコン1を使用すべく使用者が第1の筐体2に対
して第2の筐体3を開くと,支持部材6及びヒンジシャフト7と共にカム手段14
が回転し,第2の筐体3は,吸い込み機構10のカム手段14が,その外周で弾性
手段15の弾接部15bをその圧接弾力に抗して下押しすることによって,図4か
ら図7に示したように0°から180°まで開かれる。次いで,この開いた第2の
筐体3を閉じる際には,通常の閉成操作で閉じて行き,約5°の閉成角度になると,
とくに図5に示したように,弾性手段15の弾接部15bが,カム手段14の平坦
なカム部14bに当接し始めることから,第2の筐体3は急速に吸い込まれるよう
に閉じられ,この閉じた状態において,とくに図4に示したように,弾性手段15
の弾接部15bが平坦なカム部14bと圧接状態となることにより,第2の筐体3
は第1の筐体2に対して閉成状態でロックされることになる。このようにして回転
制御手段8の吸い込み機構10は機能する。
【0034】次に,開閉操作の途中にあっては,回転制御手段8のフリクション
機構9のフリクションワッシャー11がヒンジシャフト7と共に回転して,取付部
材5の一方の側板5bとの間でフリクショントルクが発生し,さらに,弾性手段1
5の弾接部15bとカム手段14の湾曲外周14cとの間にもフリクショントルク
が発生することから,任意の開閉角度で第2の筐体3を第1の筐体2に対して停止
保持させることが可能である。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
(4)特開2011-214674号公報(以下「甲6文献」という。)には,以
下のとおりの記載がある(甲6)。
【技術分野】【0001】本発明は,第1部材と第2部材とを連結し,この第1部
材と第2部材とを任意の角度位置に保持するための角度保持機能を備えるトルクヒ
ンジ装置に関する。
【背景技術】【0002】例えば,パーソナルコンピュータにおける液晶ディスプ
レイや,あるいは通常のテレビにおいては,画面を見やすい角度に調整可能であっ
て,且つ調整した角度を保持することができる角度保持機能を備えたトルクヒンジ
装置が採用されている。
【0003】従来,このような角度保持機構を備えたトルクヒンジ装置の例とし
て,図10に示す構成が挙げられる(例えば,特許文献1参照)。
このトルクヒンジ装置は,第1部材10が第2部材20に対して,回動可能であ
って,且つ設定した角度で保持できるように設けられているものである。
第1部材10は,第2部材20に取り付けられる軸部12を有している。軸部1
2は,断面円形の一部を切り欠いてフラットな平面部分11が形成された形状で
あって,この平面部分11は円の中心を挟んで対向するように円の直径に対して線
対称となる位置に形成されている。
第1部材10の先端部13は,ディスプレイ等の他の部材に取り付けられるよう
な構造となっている。
【0004】第2部材20は,第1部材10の軸部12に対して回動可能な部材
であり,他の部材へ取り付け可能な板状の取り付け部21と,取り付け部21の表
面に対して垂直に立設されている軸取り付け部22とを有している。軸取り付け部
22には,第1部材10の軸部12を挿通可能な挿通孔24が形成されている。
【0005】第1部材10と第2部材20との取り付けは,2枚のフリクション
ワッシャ26,スプリングワッシャ27,ストッパ28を介して行われる。
まず,第1部材10の軸部12にフリクションワッシャ26を挿通させる。フリ
クションワッシャ26の中心孔は,軸部12の断面形状と同一形状に形成されてお
り,フリクションワッシャ26は軸部12に対しては回動せずに固定される。
そして,軸部12を第2部材20の挿通孔24に挿通させ,挿通孔24を挿通し
た軸部12に先ほどのフリクションワッシャ26と同一形状のフリクションワッシ
ャ26と,スプリングワッシャ27とストッパ28を順に挿通させる。
【0006】フリクションワッシャ26,軸取り付け部22,フリクションワッ
シャ26,スプリングワッシャ27を圧接した状態で,ストッパ28を軸部12に
対してかしめて固定する。
このような構成によれば,第2部材20の軸取り付け部22の両面にフリクショ
ンワッシャ26が所定の摩擦力をもって接触しているので,第1部材10の軸部1
2に対して第2部材20を回動させようとすると,所定の回動トルクが必要となり,
第1部材10と第2の部材とを任意の角度に回動させた位置で保持させることがで
きる。
【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0008】従来のトルクヒンジ
装置においては,複数枚のワッシャが必要であり,構成部品の部品点数が多いとい
う課題があった。そして,このような多い部品を組み付けるため加工工程も多くな
っているので,加工工程の削減を図りたいという要望もあった。
さらに,従来のトルクヒンジ装置は,複数枚のワッシャを軸部に対して組み付け
て行くので,軸部の軸線方向に沿って厚い構成となってしまい,薄型化・小型化の
要請に応えることができないという課題もあった。
【0009】そこで本発明は上記課題を解決すべくなされ,その目的とするとこ
ろは,部品点数を減らして加工工程を削減するとともに,薄型化が可能なトルクヒ
ンジ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】【0010】本発明にかかるトルクヒンジ装置によ
れば,第1部材と第2部材とを相対的に回動可能に装着し,且つ任意の回動角度に
おいてその角度を保持することができるトルクヒンジ装置において,前記第1部材
は,回動中心となるように形成された柱状または筒状の軸部が設けられ,軸部に対
して回動不能に装着され,且つ外径方向に向けて付勢力を有する付勢部が形成され
た外径付勢ワッシャが設けられ,前記第2部材は,外径付勢ワッシャを収納する収
納孔が形成され,外径付勢ワッシャが収納孔の内壁面を付勢部によって押圧しつつ
収納孔内で回動可能となるように設けられ,前記第2部材および外径付勢ワッシャ
を軸部から抜け落ちないようにするために軸部に固定されるストッパが設けられて
いることを特徴としている。
この構成を採用することによって,軸部に対して回動不能な外径付勢ワッシャが
第2部材の収納孔の内壁面を押圧しつつ回動する。このため,必要なトルクは,外
径付勢ワッシャの付勢部と第2部材の収納孔の内壁面との間で発生する。したがっ
て,フリクションワッシャ等を複数枚使用してトルクを出すことがなく,部品点数
を削減できる。そして,軸部方向に対してフリクションワッシャ等を複数枚重ねる
ことがないので薄型化を図れる。
【発明を実施するための形態】【0026】外径付勢ワッシャ40は,第2部材3
4の収納孔42内に収納される。このとき,外径付勢ワッシャ40の付勢部46が,
収納孔42の内壁面を押圧するので,外径付勢ワッシャ40と第2部材34は,付
勢部46が内側から第2部材34を押圧することによりトルクが発生する。
このように,トルクの発生箇所を収納孔の内壁面と,この内壁面に接触する部位
だけで出しているので,部品点数の削減や薄型化を図ることができる。
【0027】また,腕状の付勢部46の先端部近傍には,外方に突出する凸部5
0が形成されており,この凸部50を収納可能な大きさの凹部52が,第2部材3
4の収納孔42の内壁面に形成されている。
本実施形態では,付勢部46は中心を点対称とした2箇所に形成されているので,
凸部50も1つの外径付勢ワッシャ40に対して2箇所に形成されている。
このような構成を採用することで,第2部材34を外径付勢ワッシャ40に対し
て回動させた場合,凸部50が凹部52に入り込んでいない箇所では大きいトルク
が発生し,凸部50が凹部52に入り込んだときには,その位置で一旦停止する。
もう一度回動を開始させる際には大きなトルクが必要となる。この凸部50が凹部
52に入り込む位置での感触をクリック感として操作者に認識させることができる
ので,予め決まった回動角度を操作者は認識しやすくなる。
【図4】
【図6】
【図10】
(5)特開2012-97846号公報(以下「甲7文献」という。)には,以下
のとおりの記載がある(甲7)。
【技術分野】【0001】本発明は,例えばノート型パソコンのような比較的大型
のキーボード部を有する第1筐体とディスプレイ部を有する第2筐体とから成る電
子機器において,前記第2筐体を第1筐体に対して上下方向へ開閉可能,かつ水平
方向へ回転可能に取り付ける際に用いて好適な2軸ヒンジに関する。
【背景技術】【0002】従来,携帯電話機のような小型の電子機器の2軸ヒンジ
として,下記特許文献1に記載されたような,第1筐体に対して第2筐体を上下方
向へ開閉させ,任意の開閉角度で停止保持できる開閉用ヒンジと,第2筐体の第1
筐体に対する上下方向の所定の開閉角度で,開閉用ヒンジのヒンジシャフトに対し
て直交する方向へ第2筺体を第1筺体に対して回転させることのできる回転用ヒン
ジとを有しているものが公知である。
【発明を実施するための形態】【0028】第1筐体2に対して第2筐体3を閉じ
た図3に示した状態においては,図4に示したように,ベースフレーム9と支持部
材11は,ヒンジシャフト7aとチルトヒンジシャフト14を支点にして回転し,
共に前側へ倒れている。この閉成状態から第2筐体3を第1筐体2に対して上方へ
押して開くと,軸ヒンジ7とチルトヒンジ8が動作して第2筐体3は第1筐体2に
対して開かれ,チルト機構15により,任意の開成角度で,第2筐体3を第1筐体
2に対して停止保持させておくことができる。この上下方向の開成角度はストッパ
ープレート20により規制され,実施例のもので最大180°である。
【0029】即ち,第2筐体3を第1筐体2に対して上下方向へ開閉させると,
支持部材11と共にベースフレーム9が開閉用ヒンジAを介して回転し,ベースフ
レーム9のチルトヒンジ8側の側板9bの一方の側に圧接しているフリクションワ
ッシャー16とベースフレーム9の側板9bの一方の側との間,及びベースフレー
ム9のチルトヒンジ8側の側板9bの他方の側に固定させた第1カムワッシャー1
7に圧接している第2カムワッシャー18との間にフリクショントルクが発生し,
第2筐体3はフリーストップに開閉される。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
(6)特開2009-63039号公報(以下「甲8文献」という。)には,以下
のとおりの記載がある(甲8)。
【技術分野】【0001】本発明は,第1の部材と第2の部材とを相対回動しうる
ように連結するチルトヒンジ装置に関する。
【背景技術】【0002】ノートパソコンや,情報携帯端末であるPDA(Personal
DigitalAssistants)など情報分野における個人用の端末機器は,キーボードやテンキ
ー等が配置された装置本体(以下,単に本体と称する場合がある)と,液晶ディス
プレイ装置等(以下,単に表示部と称する場合がある)とがチルトヒンジ装置によ
って連結されているものが多い。
チルトヒンジ装置は,本体に対して表示部を開いた際に,所定の角度で安定して
停止することができるような構造となっている。
【発明を実施するための最良の形態】【0021】第1のトルクヒンジ部36は,
回動中心となるシャフト46と,シャフト46の周囲にシャフト46の軸線方向
に沿って順番に配置される各ワッシャとを有する。また第1のトルクヒンジ部36
のシャフト46は,本体31側で大径となる頭部48が形成されている。
シャフト46の周囲に配置される各ワッシャ等の配置は,本体31に近い方から
順に,第1のワッシャ50,連結アーム40,第2のワッシャ52,スプリングワ
ッシャ54の順番である。スプリングワッシャ54は,シャフト46の軸線方向に
弾性を有するように形成されている。
【0022】また,第1のトルクヒンジ部36には,第1のトルクヒンジ部36
を本体31の側面に取り付けるための固定板44が設けられている。固定板44は,
第1のトルクヒンジ部36のシャフト46の一端部46a(本体31側面から外方
に離間した側の端部)を回動不能に保持すべく,シャフト46の断面形状と同一の
形状を有し,シャフト46を挿入可能な大きさの挿通孔44aが形成されている。
挿通孔44aに挿入されたシャフト46の一端部46aは,シャフト46の頭部
48との間でかしめられ,固定板44に固定される。
【0023】シャフト46が固定板44と頭部48との間でかしめられると,ス
プリングワッシャ54がワッシャの厚さ方向に圧縮される。このことにより,第1
のワッシャ50と第2のワッシャ52が所定の力で連結アーム40を挟みつける。
したがって,連結アーム40は,所定のトルクをかけたときにシャフト46の周囲
を回動し,トルクを解除した位置で固定される。・・・
【0027】第2のトルクヒンジ部38は,回動中心となるシャフト58と,シ
ャフト58の周囲にシャフト58の軸線方向に沿って順番に配置される各ワッシャ
とを有する。第2のトルクヒンジ部38のシャフト58は,表示部34側で大径と
なる頭部60が形成されている。
シャフト58の周囲に配置される各ワッシャ等の配置は,表示部34に近い方か
ら順に,第3のワッシャ62,連結アーム40,第4のワッシャ64,スプリング
ワッシャ66,押さえワッシャ68の順番である。スプリングワッシャ66は,シ
ャフト58の軸線方向に弾性を有するように形成されている。
【0028】押さえワッシャ68は,第2のトルクヒンジ部38のシャフト58
の一端部58a(表示部34側面から外方に離間した側の端部)を回動不能に保持
すべく,シャフト58の断面形状と同一の形状を有し,シャフト68を挿入可能な
挿通孔68aが形成されている。
挿通孔68aに挿入されたシャフト58の一端部58aは,シャフト58の頭部
60との間でかしめられ,押さえワッシャ68に固定される。
【0029】シャフト58が押さえワッシャ68と頭部60との間でかしめられ
ると,スプリングワッシャ66がワッシャの厚さ方向に圧縮される。このことによ
り,第3のワッシャ62と第4のワッシャ64が所定の力で連結アーム40を挟
みつける。したがって,連結アーム40は,所定のトルクをかけたときにシャフト
58の周囲を回動し,トルクを解除した位置で固定される。
【図5】
(7)特開平11-44332号公報(以下「甲10文献」という。)には,以下
のとおりの記載がある(甲10)。
【0001】【発明の属する技術分野】この発明はラップトップ型のパソコン或は
ワードプロセッサのようなOA機器のディスプレー体を開閉する際に用いて好適な
チルトヒンジに関する。
【0002】【従来の技術】この出願人は,先に装置本体側へ取り付けられる取付
部材と,ディスプレー体を支持するために取付部材の軸受プレートに小径部を軸受
させた回転シャフトと,この回転シャフトと軸受プレートの一側面の間,及び軸受
プレートの他側面と回転シャフトのかしめ端との間に各種ワッシャーを介在させて
回転シャフトが所定の回転トルクを与えられた時にのみ回転するように構成した,
構造簡単で安定したフリクショントルクをディスプレー体の全開成角度に渡って得
ることのできる,ラップトップ型のパソコンやワードプロセッサのようなOA機器
のディスプレー体を支持するチルトヒンジを提案した。
【0003】【発明が解決しようとする課題】近年ではこれらのO機器はますます
小型化,かつ薄型化しており,ディスプレー体を支持するチルトヒンジは,より一
層小型で耐久性と高い回転トルクを有することが求められるようになって来ている。
【発明の実施の形態】【0012】次に,フリクション機構10について説明する
と,回転シャフト7の大径部7bと軸受プレート5の一側面との間には,例えば燐
青銅のような金属製の第1フリクションワッシャー11がその挿通孔11aに小径
部7aを挿通させつつ介在させてある。フリクションワッシャー11の外周からは
係止突片11bが突設され,大径部7bの外周に設けた係止部7eと係合している。
軸受プレート5bの他側面には同じく例えば燐青銅のような金属製の第2フリクシ
ョンワッシャー12とスプリングワッシャー13が,その挿通穴12a,13aを
回転シャフト7の小径部7aに通すことによって介在させてある。第2フリクショ
ンワッシャー12の外周からは係止突片12bが突設されており,軸受プレート5
bに設けた係止穴5cと係合するようになっている。スプリングワッシャー13に
はさらに押え用平ワッシャー14がその挿通穴14aへ回転シャフト7の小径部7
aを通すことによって当接されており,この小径部7aの端部をかしめることによ
り,とくに図2に示したように,第1フリクションワッシャー11と第2フリクシ
ョンワッシャー12が取付部材5の軸受プレート5bの両側へ圧接させられるよう
になっている。大径部7bの外径と第1フリクションワッシャー11の外径は略同
一であり,押え用平ワッシャー14の外径と第2フリクションワッシャー12及び
スプリングワッシャー13の外径とは略同一であることから,第1フリクションワ
ッシャー11と第2フリクションワッシャー12は全面に渡って均等に取付部材5
の軸受プレート5bとスプリングワッシャー13へ圧接させられることになる。第
1フリクションワッシャー11と軸受プレート5bとの間,及びスプリングワッシ
ャー13と第2フリクションワッシャー12との間には,図示してない潤滑剤が塗
布されている。さらに,回転シャフト7の変形取付部7dには,作動プレート16
がその変形孔16aへ変形取付部7dを挿入することによって嵌着され,周溝7e
にその半径方向より嵌入させたEリング17によって抜け出ないように固定されて
いる。とくに図2に示したように,18は例えばマイクロスイッチであり,ディス
プレー体4の開閉時に共に回転する回転シャフト7を介して作動プレート16の作
動片16bによって開閉されるようになっている。
【0013】【発明の効果】請求項1によれば,フリクショントルクが第1フリク
ションワッシャーと軸受プレートとの間,第2フリクションワッシャーとスプリン
グワッシャーとの間に発生するように構成し,かつこの2つのフリクションワッシ
ャーを共に金属製としたので,かしめトルクを強くすることが可能となりこれらの
相乗効果によりヒンジを小型化しつまり各ワッシャーの外径を小型にし(軸方向の
長さをつめること)ても,大きなフリクショントルクを得ることができるものであ
る。また,第1フリクションワッシャーと軸受プレートの間,及び第2フリクショ
ンワッシャーとスプリングワッシャーとの間に潤滑剤を塗布したので,永年使用の
後においてもフリクション面の摩耗をなくし,異音やきしみ音の発生及びトルクの
減少を有効的に防止することができる上に,押えワッシャーによってスプリングワ
ッシャーの第2フリクションワッシャーに対する押圧面が均一になるので,安定し
たフリクショントルクを得ることができるという効果を奏し得る。
【図3】
(8)特開2001-107941号公報(以下「甲11文献」という。)には,
以下のとおりの記載がある(甲11)。
【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,とくに携帯用パソコン等のO
A機器のディスプレー体の開閉用に用いて好適なチルトヒンジに関する。
【0002】【従来の技術】この種のチルトヒンジとしてかしめを用いたものが公
知であり,このものは取付プレート部とこの取付プレート部から直角方向へ折り曲
げられた軸受プレート部を有する取付部材と,この取付部材の前記軸受プレート部
に設けた軸受孔に回転可能に軸支された軸支部とこの軸支部の一方に連設された大
径部とを有する回転シャフトと,この回転シャフトの大径部と前記軸受プレート部
との一側面との間に該回転シャフトに拘束されつつ前記軸支部をその中心部に設け
た軸挿孔に挿通させて設けた第1フリクションワッシャーと,前記軸受プレート部
の他側面に接して前記回転シャフトに拘束されつつその中心部に設けた軸挿孔へ前
記軸支部を挿通させつつ設けた第2フリクションワッシャーと,この第2フリクシ
ョンワッシャーに接して前記回転シャフトに拘束されつつその中心部に設けた軸挿
孔へ前記軸支部を挿通させつつ設けたスプリングワッシャーと,このスプリングワ
ッシャーに接してその中心部に設けた軸挿孔へ前記軸支部を挿通させつつ設けた押
え用ワッシャーと,この押え用ワッシャーより突出した前記軸支部の端部をかしめ
ることによって形成されたかしめ部とから成るチルトヒンジが公知である。
【0003】【発明が解決しようとする課題】従来公知の上記チルトヒンジは,そ
れなりの高い回転トルクを創出できるが,要求されるさらに高い回転トルクを得よ
うとしてかしめ部に対するかしめトルクを上げようとしても,スプリングワッシャ
ーが直にフリクションワッシャーに圧接していることから来る圧接摺動面積の少な
さから,高いフリクショントルクが得られなかったり,さらには長年使用する摩擦
摺動部分が磨耗して初期のフリクショントルクが得られないという問題があった。
【0004】最近の携帯用パソコンの普及はめざましく,ますます小型化かつ薄
型化しており,その中でディスプレー体を装置本体に対してフリーストップに開閉
させるチルトヒンジも,安価かつ小型で高トルクを有するものが要求されている。
【0005】この発明の目的は,安価かつ小型でも高いフリクショントルクを長
期間に渡って安定的に創出できる,チルトヒンジを提供せんとするにある。
【発明の実施の形態】【0012】取付部材1の軸受プレート部1bの両側には,
各々軸挿孔4a,5aを設けた平面略おたまじゃくし形状の第1,第2フリクショ
ンプレート4,5が,該軸挿孔4a,5aへ軸支部2dを回転可能に挿通させつつ
添設されており,この第1,第2フリクションプレート4,5はその各尾部4b,
5bに突起4c,5cを有し,この突起4c,5cを軸受プレート部1bに設けた
係止孔1dに挿入係止させることにより,軸受プレート部1bへ固定されている。
この第1,第2フリクションプレート4,5は耐磨耗性に富んだ例えばSK-5の
金属プレートを用いているが,このものに限定されない。
【0013】第1,第2フリクションプレート4,5の各一側面には,軸挿孔4
a,5aを中心にして放射状に複数の油溜部4d,4d・・・,5d,5dが設け
られている。第1フリクションプレート4と大径部2aとの間には,その中心部に
設けた軸挿孔6aへ軸支部2dを挿通させつつ第1フリクションワッシャー6が配
置されている。この第1フリクションワッシャー6の大径部2a側と圧接する側の
外周には,複数の爪部6b,6b・・・が軸挿孔6aを中心にして放射状に設けら
れており,大径部2aに喰い込んで回転シャフト2に拘束され,共に回転するよう
構成されている。この第1フリクションワッシャー6の爪部6bを設けた側と反対
側のフリクションプレート4と圧接する部分には,軸挿孔6aと同心状に凹部6c
が設けられている。
【0014】第2フリクションプレート5の開放側面に接してその中心部に設け
た軸挿孔7aへ軸支部2dを挿通させつつ第2フリクションワッシャー7が設置さ
れている。この第2フリクションワッシャー7の開放端面側の後述する固定ワッシ
ャー8と圧接する側の外周には,複数の爪部7b,7b・・・が軸挿孔7aを中心
にして放射状に設けられており,固定ワッシャー8に喰い込んで,後述するように
固定ワッシャー8を介して回転シャフト2に拘束され,共に回転するよう構成され
ている。この第2フリクションワッシャー7の爪部7bを設けた側と反対側の第2
フリクションプレート5と圧接する部分には,軸挿孔7aと同心状に凹部7cが設
けられている。
【0015】第2フリクションワッシャー7の爪部7bを設けた側に圧接して固
定ワッシャー8が,その中心部に設けた変形軸挿孔8aに変形部2fを挿通させる
ことによって,回転シャフト2に拘束され共に回転するように設けられており,第
2フリクションワッシャー7に設けた爪部7bが固定ワッシャー8の片面側に喰い
込むことにより,この固定ワッシャー8を介して回転シャフト2に拘束され,共に
回転するように構成されている。尚,この第2フリクションワッシャー7の軸挿孔
7aを変形部2fに合った変形軸挿孔として,回転シャフトへ直に拘束させるよう
にしても良い。
【0016】9は例えば2枚のウェーブワッシャーを重ねて成るスプリングワッ
シャーであり,固定ワッシャー8に接してその中心部に設けた軸挿孔9aへかしめ
軸部2eを挿通させつつ設けられている。尚,このスプリングワッシャー9の形状
や使用枚数に限定はない。
【0017】このスプリングワッシャー9に接して,その中心部に設けた軸挿孔
10aへかしめ軸部2eを挿通させつつ押え用ワッシャー10が設けられている。
この押え用ワッシャー10より突出したかしめ軸部2eの端部をかしめて,かしめ
部11を形成させることにより,第1,第2フリクションワッシャー6,7と第1,
第2フリクションプレート4,5を圧接状態にして,回転シャフト2を回転させた
時に,第1及び第2フリクションプレート4,5と第1,第2各フリクションワッ
シャー6,7との間にフリクショントルクが発生するように構成されている。
【図1】
【図3】
(9)特開平10-26127号公報(以下「甲12文献」という。)には,以下
のとおりの記載がある(甲12)。
【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,ワープロやノート型パソコン
等のOA機器,或は小型の液晶テレビ等のディスプレー体(開閉体)を,装置本体
に対して中間開成角度に支持する際に用いて好適なチルトヒンジ関する。
【0002】【従来の技術】従来,この種のチルトヒンジとして,装置本体側に取
り付けられるブラケットと,このブラケットの軸受部に回転自在に取り付けられた
ところの開閉体の端部へ取り付けられる構造の回転シャフトと,この回転シャフト
の大径部と前記軸受部の一側面との間に該回転シャフトを中心部に挿通させつつ介
在されたスライディングプレートと,前記軸受部の他側面に中心部に前記回転シャ
フトを挿通させつつ順に設けられたフリクションプレート,スプリングワッシャー,
押えワッシャーとから成り,前記回転シャフトの端部をかしめることによって発生
する前記スプリングワッシャーを介して前記フリクションプレートを軸受部に押圧
させて,回転シャフトを回転させた時に前記フリクションプレートと軸受部との間
でフリクショントルクを発生させるようにしたものが公知である。
【0003】【発明が解決しようとする課題】上述した従来のチルトヒンジは,構
造が簡単であり,ラップトップ型のワープロやパソコン等のOA機器で余り高いト
ルクを必要としないものには,最適のものであったが,より小型のOA機器に対応
し,回転シャフトをさらに小径にして,しかも高トルクを必要とするものの場合に
は,この従来のものでは充分に対応できないという問題が生じた。
【0004】この発明の目的は,回転シャフトを従来のものよりも小径にしても
高トルクを創出できる,チルトヒンジを提供せんとするにある。
【0009】【作用】請求項1のように構成すると,小径の回転シャフトを用いて
も,押圧ワッシャーによって第1及び第2フリクションプレートの軸受部に対する
摺動面がフラットになり,特定個所での摺動がなくなり,弾性手段によって,第1
及び第2フリクションプレートが回転シャフトの大径部とブラケットの軸受部との
間,及び軸受部と押圧ワッシャーとの間に強く挟まれ,第1フリクションプレート
と押圧ワッシャーは回転シャフトの回転と共に回転することから,第1フリクショ
ンプレートは軸受部との間,第2フリクションプレートは押圧ワッシャーとの間に
各々強いフリクションが発生する。
【発明の実施の形態】【0014】大径部5と軸受部2の一側面との間には,例え
ば燐青銅のような粘性と耐摩耗性に富んだ材料で構成した第1フリクションプレー
ト9が介在されており,その中心部に設けた挿通孔9aに小径部6を挿通させつつ
その外周に設けた係止片9bを大径部に設けた係止用切欠5aと係合させている。
尚,この第1フリクションプレート9は,図4の(a),(b)に示したように,そ
の面部にグリス溜りとなる小孔91aを設けた第1フリクションプレート91とし
たり,切欠92aや92bを設けた第1フリクションプレート92とすることがで
きる。
【0015】軸受部2の他側面側には,外周に軸受部2に設けた係止用切欠2b
に係止させる係止片10bを有する例えば燐青銅のような材料で作った第2フリク
ションプレート10がその挿通孔10aに小径部6を挿通させつつ設けられており,
この第2フリクションプレート10に隣接して,中心部に変形孔11aを変形部7
に挿通させて回転シャフト3と共に回転するように材厚のある面圧ワッシャー11
が設けられ,この面圧ワッシャー11に隣接して一対の皿バネ12,12から成る
弾性手段13が,その中心部に設けた挿通孔12a,12aへ変形部7を挿通させ
つつ設けられている。尚,この第2フリクションプレート10にも,図示はしない
が第1フリクションプレート9と同じように小孔や切欠から成るグリス溜りを設け
ることができる。
【図1】
【図4】
(10)特開2002-333008号公報(以下「甲13文献」という。)には,
以下のとおりの記載がある(甲13)。
【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,本体部と反復開閉する蓋部と
を有する小型OA機器,例えばノート型パソコンなどの,キーボート部とディスプ
レー部を結合し開閉および任意の角度に保持することができるようなフリクション
ヒンジ等に用いられる摩擦部材に関する。
【0002】【従来の技術】この種のヒンジとして,ブラケットに設けた軸受部に
回転シャフトを回転自在に挿入し,そのブラケットの両側または片側にワッシャー
状の摩擦部材(フリクションプレート)を回転シャフトと共に回転可能に設け,そ
してフリクションプレートを皿ばね等の付勢手段によりブラケットに圧接させて,
ブラケットと回転シャフトとの間にフリクショントルクを生じさせるようにした構
造のものがある。このようなヒンジは,ブラケットを例えばキーボード部側に固定
し,回転シャフトをディスプレー部側に固定して用いれば,所定の回転トルクを与
えたときディスプレー部を開閉することができ,また任意の角度に開いた状態て静
止させることができる。このようなフリクションヒンジは,ブラケットは炭素鋼や
ステンレス鋼製で,相手部材の摩擦部材はブラケットと同じ材料或いはリン青銅で
作られ,それらの摺動部にはグリースが塗布されている。
【0003】【発明が解決しようとする課題】このような小型OA機器,例えばノ
ート型パソコン等のヒンジは,開閉を繰り返しても各摺動部材の摩耗がなく,回転
トルクに変化を生じないことが要求される。摩擦摺動部材の摩耗は摩擦に変化をも
たらし,回転トルクが変わることにより,開閉の感触が変わり,或いは,回転トル
クが増加した場合は,ディスプレー部を開く際にキーボード部が共に持ち上がるよ
うになったり,回転トルクが減少した場合には,ディスプレー部を所望の角度に保
持できない状態が起こる。また,摩耗粉は潤滑グリースやヒンジの周囲を汚染した
り,パソコン内にこぼれ落ちた場合は機器を故障させる原因になるおそれがある。
一方,摺動部へのグリース塗布は潤滑のために不可欠であるが,塗布作業が繁雑で
あり,周囲の余剰なグリースは,機器を構成する樹脂製構造物の変質を助長するこ
とになり,また,摺動部のグリースが消費された際,周辺からの補給が不確実であ
り,長期にわたって潤滑性能を確保できなくなるおそれがある。この発明は,この
ような課題を背景とし,長期にわたって,より安定した回転トルクを維持できるヒ
ンジを提供することを目的とする。
【実施例】【0015】2.ヒンジ試験装置
図1は,本発明の実施例で用いたフリクションヒンジの断面図である。軸受孔1
aがあるブラケット1(オーステナイト系ステンレス鋼,SUS304製)が図示
していない基盤に固定されている。可動軸3は,大径部3a,断面が小判形をした
軸部3b,ねじ部3cからなっている。摩擦部材2a,2bはブラケット1を挟ん
で配置され,摩擦部材2bの外側には座金5a,板ばね4及び座金5bを付設し,
ナット6により締め付けられ,これらは可動軸3と一体に回転する。板ばね4は摩
擦部材2a,2bをブラケット1に圧接させる付勢手段であり,ブラケット1と摩
擦部材2a,2bとに所定の摩擦力が生ずる。可動軸3を角度180度の領域内で
往復揺動させ,所定回数揺動させたのちに,ロックトルク(静止トルク)を測定し
て,その変化量によりロックトルクの安定性を評価する。試験方法は,ヒンジ装置
のナット6を締め付けて,ロックトルク(静止トルク)の初期値を50kgf・m
mに設定する。そして,可動軸3を角度180度の範囲内で2万回往復開閉し,千
回,5千回,1万回,2万回におけるロックトルクの測定を行いまた摺動部の状態
を観察する。
【図1】
3取消事由1のうち甲1発明を主引用発明とした場合の本件発明1の進歩性に
ついて
(1)前記2(1)で認定した甲1文献の記載からすると,甲1文献には,以下のと
おりの甲1発明が記載されていることが認められる。
「上カバー及びベースを有する折畳み式電子製品に設置される位置制限機能を有す
る2軸式ヒンジであって,
少なくとも第1軸部111及び第1接続部112を有する第1回転軸11と,
少なくとも第2軸部121及び第2接続部122を有し,前記第1回転軸11と
軸方向上で平行に設置される第2回転軸12と,
前記第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供する第1トルク装置21と,
前記第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する第2トルク装置22と,
前記上カバーに固定接合されるとともに,前記第1接続部112に外嵌されて固
定されて前記第1回転軸11とともに回転する第1固定フレーム31と,前記ベー
スに固定接合されるとともに,前記第2接続部122に外嵌されて固定されて前記
第2回転軸12とともに回転する第2固定フレーム32と,
それぞれ前記第1軸部111及び第2軸部121上に外嵌されて固定されて共に
回転する第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412を有し,前記第1ストッ
パ輪411及び第2ストッパ輪412は,それぞれ第1扇形部411a及び第2扇
形部412aを有し,前記第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412は,そ
れぞれ第1ストッパ凸部511a及び第2ストッパ凸部511bとそれぞれ一定の
開放角度で互いに干渉して,それぞれ前記第1回転軸11及び第2回転軸12の回
転角度を制限するストッパ機構40と,
一対の支持片511,512を有し,その間に第1位置制限カム521,第2位
置制限カム522及び切換片53が設けられ,前記第1位置制限カム521に第1
位置制限口521aが設けられるとともに,前記第1軸部111上に嵌着されて共
に回転し,前記第2位置制限カム522に第2位置制限口522aが設けられると
ともに,前記第2軸部121上に嵌着されて共に回転し,前記切換片53は揺動可
能な輪部533を有するとともに,前記輪部533に前記第1位置制限カム521
と第2位置制限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2
位置制限ブロック532が外向きに突設され,前記第1ストッパ輪411と前記第
1ストッパ凸部511aとが互いに干渉すると,前記切換片53が揺動し,前記第
1位置制限ブロック531が前記第1位置制限口521a内に嵌入して,前記第1
回転軸11が回転不能となり,前記第2回転軸12のみが回転可能となるように制
限し,前記第2ストッパ輪412と前記第2ストッパ凸部511bとが互いに干渉
すると,前記切換片53が揺動し,前記第2位置制限ブロック532が前記第2位
置制限口522a内に嵌入して,前記第2回転軸12が回転不能となり,前記第1
回転軸11のみが回転可能となるように制限する位置制限構造50とを含み,
さらに,一対の支持片511,512のうち,支持片512は,第1回転軸11
及び第2回転軸12をそれぞれ回転可能に挿通させる円形の孔を有しており,第1
自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は,それぞれ,第1回転軸11及び第
2回転軸12に回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に支持片512に隣
接して取り付けられており,第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は,
それぞれ支持片512の外側面に接触するとともに,その接触面に凸ブロック21
3a,223aが設けられており,支持片512の外側面であって,第1自動閉合
輪213及び第2自動閉合輪223と接触する部分にはそれぞれ凹部512aが設
けられており,前記第1トルク装置21及び前記第2トルク装置22は,前記第1
自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223に接して設けられて,それぞれ前
記第1自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223を圧迫して,支持片512
の外側面に設けられた凹部512aと,前記第1自動閉合輪213及び前記第2自
動閉合輪223の凸ブロック213a,223aとの間の接触により前記上カバー
に,前記ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を備え
させるものである,位置制限機能を有する2軸式ヒンジ。」
(2)したがって,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,以下のとおり
となる。
ア一致点
所定間隔を空けて設けられ,第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフト
と第2の筐体側へ取り付けられる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可
能となるように連結した部材間に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャ
フトを交互に回転させる選択的回転規制手段を設け,この選択的回転規制手段を,
前記各部材の間に前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに
回転を拘束させて当該第1ヒンジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可
能に設けられた第1ロックカム部材及び第2ロックカム部材と,前記第1ロックカ
ム部材及び前記第2ロックカム部材の間に変位可能に設けられ,前記第1ロックカ
ム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときにはい
ずれか他方の回転をロックするところのロック部材とで構成し,さらに前記第1ヒ
ンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの所定角度の回転時に吸込み機能を
発揮させる吸い込み手段と,前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャ
フトの回転角度を規制するストッパー手段を設け,前記吸い込み手段を前記選択的
回転規制手段の他方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒン
ジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受部と第2軸受部を有する連結部材と,
この連結部材に隣接して設けたところの前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジ
シャフトに回転を拘束されると共に軸方向へスライド可能に取り付けられた第1カ
ムフォロワーと第2カムフォロワーとを有するものとし,この第1カムフォロワー
と第2カムフォロワーに接して設けた前記吸い込み手段に作用する弾性手段とを設
けた,2軸ヒンジである点。
イ相違点
(ア)相違点1’
本件発明1は,「前記第1ヒンジシャフト及び又は前記第2ヒンジシャフトの回
転時にフリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段」を設け,同
フリクション発生手段が「前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの
各フランジ側と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒン
ジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸
受孔を有するフリクションプレートと,前記フリクションプレートの隣に前記第1
ヒンジシャフトに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けた
フリクションワッシャーと,前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャ
フトに対し軸方向へスライド可能であるが,回転を拘束させて取り付けたフリクシ
ョンワッシャーを有するもの」であり,また,本件発明1の「弾性手段」は,「吸い
込み手段」と「フリクショントルク発生手段」の「両方に作用する」ものであるの
に対し,甲1発明は,「前記第1軸部111上に設置されて回転トルクを提供する第
1トルク装置21と,前記第2軸部121上に設置されて回転トルクを提供する第
2トルク装置22と」が,「支持片512の外側面に接触する」「前記第1自動閉合
輪213及び前記第2自動閉合輪223に接して設けられており,また,「前記第1
自動閉合輪213及び前記第2自動閉合輪223を圧迫」するものとされている点。
(イ)相違点2
本件発明1の「ロック部材」は,「単一の部材で一体に形成した」ものであり,「前
記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ」
ているものであるのに対し,甲1発明の「切換片53」は,単一の部材で一体に形
成したものであるとは特定されておらず,「前記切換片53は揺動可能な輪部53
3を有するとともに,前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制
限カム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロ
ック532が外向きに突設され」ているものである点。
ウなお,甲1文献の第1図によると,甲1発明のヒンジの第1回転軸11
の第1軸部111及び第2回転軸12の第2軸部121の各断面の形状は略長方形
であり,また,第1軸部111が挿通する弾性片211及び第1自動閉合輪213
並びに第2軸部121が挿通する弾性片221及び第2自動閉合輪223に設けら
れた各孔の形状はいずれも略長方形であることが認められるから,弾性片211及
び第1自動閉合輪213は,第1回転軸11に,弾性片221及び第2自動閉合輪
223は,第2回転軸12に,それぞれ回転が拘束されて取り付けられていると認
められる。そうすると,上記の各弾性片の間の各接触面及び各弾性片と第1自動閉
合輪213・第2自動閉合輪223との間の各接触面にフリクショントルクは発生
しないというべきである。
そして,前記2(1)のとおり,甲1文献には,「第1トルク装置21は,第1軸部1
11上に設置されて回転トルクを提供し,第2トルク装置22は,第2軸部121
上に設置されて回転トルクを提供する。第1トルク装置21及び第2トルク装置2
2は,それぞれ第1軸部111及び第2軸部121上に嵌接される複数の弾性片2
11,221を有するとともに,それぞれ固定ネジ212,222で第1軸部11
1及び第2軸部121に螺合して固定される。第1トルク装置21及び第2トルク
装置22は,それぞれ第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223を圧迫して,
上カバーに,ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自動閉合機能を
備えさせる。第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223は,それぞれ支持片
512の外側面に接触するとともに,その間の接触面上にそれぞれ互いに対応する
凸ブロック213a,223a(第1A図参照)及び凹部512aが設けられて,
自動閉合機能を達成する。この機能については関連する先行考案中の説明を参照す
ることができる。」との記載があるが,同記載に,上記のとおり,甲1発明の第1ト
ルク装置21及び第2トルク措置22内にフリクショントルクは発生しないことを
併せ考慮すると,第1トルク装置21及び第2トルク措置22は,支持片512と
第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223に自動閉合機能を持たせるための回
転トルクを提供する部材であり,本件発明1の「弾性手段」に当たるというべきで
ある。
(3)相違点の判断
ア相違点1’について
(ア)本件特許に係る特許請求の範囲の記載及び前記1で認定した本件明細
書の記載からすると,本件発明は,ノートパソコンをタブレットとしても用いるこ
とができるようにするために,第1の筐体と第2の筐体を0度から少なくとも18
0度以上好ましくは360度に渡って規則性を持って開閉でき,任意の開閉角度で
安定停止状態で開閉できる2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器を提
供しようとするものであると認められる。
そして,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1の記載によると,本件発明1は,
フリクショントルク発生手段の構成について,第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジ
シャフトを回転可能に挿通させたフリクションプレートと,第1ヒンジシャフト及
び第2ヒンジシャフトに回転を拘束させて取り付けた二つのフリクションワッシャ
ーを有するものとし,フリクションプレートと各フリクションワッシャーとを隣接
させるものとしていることから,フリクションプレートと各フリクションワッシャ
ーとの間の接触面においてフリクショントルクを発生させるものとしていると認め
られるところ,一方で,本件発明1は,吸い込み手段の構成について,第1ヒンジ
シャフト及び第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた連結部と,第1ヒンジシ
ャフト及び第2ヒンジシャフトに回転を拘束させて取り付けた二つのカムフォロア
ーを有するものとし,連結部と各カムフォロアーを隣接させるものとしていること
から,吸い込み手段の構成は,摩擦を発生させる構成に関しては,フリクショント
ルク発生手段と同一の構成となっている。そして,本件明細書には,フリクション
トルク発生手段が吸い込み手段よりも大きな摩擦を発生させることや,そのための
具体的構成については記載されていないこと,前記1のとおり,本件明細書には,
「・・・尚,この際におけるフリクショントルクは,吸い込み手段17の第1吸い
込み手段17aによっても創出されるが,これは補助的なものであり,この場合の
主たるフリクショントルクは,フリクショントルク発生手段16の第1フリクショ
ントルク発生手段16aによって創出される。」(段落【0030】),「・・・尚,こ
の際におけるフリクショントルクは,吸い込み手段17の第2吸い込み手段17b
によっても創出されるが,これは補助的なものであり,この時の主たるフリクショ
ントルクは,フリクショントルク発生手段16の第2フリクション手段16bによ
って創出される。」(段落【0035】)との記載があることからすると,本件発明1
においては,フリクショントルクは,フリクショントルク発生手段のみによって発
生するのではなく,少なくとも吸い込み手段からも発生しているというべきである。
したがって,本件発明1の「フリクショントルク」とは,任意の開閉角度で自由
に停止保持させることを可能とするフリクショントルクを意味するが,同フリクシ
ョントルクを「フリクショントルク発生手段」のみによって発生する必要はないと
いうべきである。そして,ヒンジが上記のフリクショントルクを発生させており,
同ヒンジにおいて,フリクショントルクのほとんどを発生させているなど,同ヒン
ジのフリクショントルク発生機能を担っていると明確に認識できる部材がない場合
は,同フリクショントルクを発生させる部材であって,本件特許の特許請求の範囲
の請求項1に記載された構成を有する部材であれば,本件発明1の「フリクション
トルクを発生させるフリクショントルク発生手段」に当たると解するのが相当であ
る。
(イ)a(a)前記2のとおり,甲4文献,甲6文献~甲8文献,甲10文献~甲
13文献には,ノート型パソコン等の折り畳み式の電子機器に使用されるヒンジに,
任意の開閉角度で自由に停止保持させることを可能とするフリクショントルクを発
生させる機能を持たせること,同機能を実現する方法としては,複数のプレート状
の部材やワッシャー状の部材を隣接させ,これらを弾性手段等により圧接し,プレ
ート状の部材又はワッシャー状の部材の接触面においてフリクショントルクを発生
させるという方法があること,フリクショントルクを発生させる部材の一つはシャ
フトの回転に伴って回転しない部材である必要があることが記載されており,同記
載からすると,上記の各記載事項は周知であったと認められる(同技術を「本件周
知技術」という。)。
(b)この点,原告は,台湾公開TW20122206A1公報(甲51)
及び特開2012-256305号公報(甲52)の折り畳み式の電子機器に使用
されているヒンジは,第1の筐体に対して第2の筐体を中間開閉角度で保持するフ
リクショントルクを発生しないから,ノート型パソコン等の折り畳み式の電子機器
に使用されるヒンジが上記のようなフリクショントルクを発生させる機能を有する
とは限らないと主張する。
しかし,上記各文献の折り畳み式の電子機器は,第2の筐体を中間開閉角度で支
える部材を備えているから(甲51,52),そのヒンジに上記のようなフリクショ
ントルクを発生させる必要はないものである。
かえって,上記各文献の折り畳み式の電子機器において,第2の筐体を中間開閉
角度で支える部材がないのであれば,その代わりに,ヒンジに上記のフリクション
トルクを発生させる機能を持たせる必要があるというべきである。
b前記2(1)のとおり,甲1文献には,「第1トルク装置21及び第2ト
ルク装置22は,それぞれ第1軸部111及び第2軸部121上に嵌接される複数
の弾性片211,221を有するとともに,それぞれ固定ネジ212,222で第
1軸部111及び第2軸部121に螺合して固定される。第1トルク装置21及び
第2トルク装置22は,それぞれ第1自動閉合輪213及び第2自動閉合輪223
を圧迫して,上カバーに,ベースに対して閉合状態及び最大開放状態時における自
動閉合機能を備えさせる。」と記載されているが,同記載と甲1文献の第1図からす
ると,甲1発明のストッパ機構40,位置制限構造50,支持片512及び第1ト
ルク発生装置・第2トルク発生装置は,第1回転軸11・第2回転軸12の各フラ
ンジ部と固定ネジ212・222の間に設置され,ストッパ機構40,位置制限構
造50及び支持片512は,第1トルク発生装置・第2トルク発生装置によって圧
迫されていることが認められる。前記2(1)のとおり甲1発明のヒンジはノート型パ
ソコンにも使用されるものであること及び本件周知技術に,甲1には前記a(b)のよ
うな筐体を中間開閉角度で支える部材は記載されていないことを考慮すると,支持
片511と第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412の間,支持片511と第
1位置制限カム521・第2位置制限カム522の間,第1位置制限カム521・
第2位置制限カム522と支持片512の間,支持片512と第1自動閉合輪21
3・第2自動閉合輪223の間に摩擦が生じており,これらの摩擦が合わさること
により,任意の開閉角度で自由に停止保持させることを可能とするフリクショント
ルクが発生しているものと認められる。また,支持片511と第1ストッパ輪41
1・第2ストッパ輪412の間,支持片511と第1位置制限カム521・第2位
置制限カム522の間,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522と支持
片512の間,支持片512と第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223の間
に生じる摩擦の程度については,いずれも同程度の面積の接触面から発生している
から,それらに顕著な差があるとは認められず,したがって,いずれかが,フリク
ショントルクのほとんどを発生させているなど,ヒンジのフリクショントルク発生
手段を担っていると明確に認識できる部材であるということはできない。
そして,甲1文献の記載によると,支持片511は,第1回転軸11及び前記第
2回転軸12の各フランジ側と位置制限構造50の一方の側に設けられ,二つの孔
に第1回転軸11と第2回転軸12を回転可能に挿通させており,第1ストッパ輪
411は,支持片511の隣に位置し,第1回転軸11に対し軸方向にスライド可
能であるが回転を拘束されて取り付けられており,第2ストッパ輪412は,持片
511の隣に位置し,第2回転軸12に対し軸方向にスライド可能であるが回転を
拘束されて取り付けられていると認められる。
したがって,支持片511及び第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412は,
本件発明1の「フリクショントルクを発生させるフリクショントルク発生手段」に
当たるというべきである。
cそして,前記(2)ウのとおり,第1トルク装置21及び第2トルク装
置22は,本件発明1の「弾性手段」に当たり,また,上記bのとおり,ストッパ
機構40及び支持片512は,第1トルク発生装置・第2トルク発生装置によって
圧迫されているから,甲1発明においては,「弾性手段」は,「吸い込み手段」と「フ
リクショントルク発生手段」の双方に作用するといえる。
d以上より,相違点1’は,実質的な相違点ということはできない。
(ウ)原告の主張について
a原告は,本件発明1は,専用のフリクションプレートと4枚のフリ
クションワッシャーを用いており,これにより,甲1発明とは明らかにその構成と
作用効果を異にすると主張する。
しかし,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1には,「前記フリクショントルク
発生手段を,前記第1ヒンジシャフト及び前記第2ヒンジシャフトの各フランジ側
と前記選択的回転規制手段の一方の側に設けたところの前記第1ヒンジシャフトと
前記第2ヒンジシャフトを回転可能に挿通させた第1軸受孔と第2軸受孔を有する
フリクションプレートと,前記フリクションプレートの隣に前記第1ヒンジシャフ
トに対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクション
ワッシャーと,前記フリクションプレートの隣に前記第2ヒンジシャフトに対し軸
方向へスライド可能であるが回転を拘束させて取り付けたフリクションワッシャー
を有するものとし」と記載されており,同記載中のフリクションワッシャーは,フ
リクションプレートの隣に設けられればよく,両隣に設けられるとの特定はなく,
その数は,ヒンジシャフト毎に1枚でもよいものと解される。
そして,前記(イ)bのとおり,甲1発明の支持片511も,第1回転軸11及び前
記第2回転軸12の各フランジ側と位置制限構造50の一方の側に設けられ,二つ
の孔に第1回転軸11と第2回転軸12を回転可能に挿通させており,第1ストッ
パ輪411は,支持片511の隣に位置し,第1回転軸11に対し軸方向にスライ
ド可能であるが回転を拘束されて取り付けられており,第2ストッパ輪412は,
支持片511の隣に位置し,第2回転軸12に対し軸方向にスライド可能であるが
回転を拘束されて取り付けられているから,本件発明1のフリクショントルク発生
手段と同じ構成を有している。また,甲1発明においては,支持片511及び第1
ストッパ輪411・第2ストッパ輪412は,ストッパ機能も有しているが,スト
ッパ機能とフリクショントルクを発生させる機能は両立するというべきであり,支
持片511及び第1ストッパ輪411・第2ストッパ輪412がストッパ機能を有
することにより,フリクショントルクを発生させる機能に支障が生じるとはいえな
い。
したがって,本件発明1と甲1発明とでは,フリクショントルクを発生させるた
めの構成や作用効果に違いはないといえるから,原告の上記主張は理由がない。
b原告は,長期間に渡って,また,何万回という開閉回数を経た後に
も,第1筐体と第2筐体を中間開閉角度で保持できるフリクショントルクを維持で
きるように,本件発明1は,専用のフリクショントルク発生手段を設けたのであり,
甲1文献には,そのような機能を有するフリクショントルク発生手段は記載されて
いないと主張する。
しかし,本件明細書の記載(段落【0006】)によると,本件発明の目的は,ノ
ートパソコンのような端末機器の第1の筐体と第2の筐体を0度から少なくとも1
80度以上好ましくは360度にわたって規則性を持って開閉でき,任意の開閉角
度で安定停止状態で開閉できる2軸ヒンジ並びにこの2軸ヒンジを用いた端末機器
を提供することにあると認められ,本件明細書には,本件発明1の備えるフリクシ
ョントルクを,通常のフリクショントルクとは異なる耐久性を有するものとする記
載はない(甲20)。
そして,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1の記載によると,本件発明1は,
フリクショントルク発生手段の構成について,第1ヒンジシャフト及び第2ヒンジ
シャフトを回転可能に挿通させたフリクションプレートと,第1ヒンジシャフト及
び第2ヒンジシャフトに回転を拘束させて取り付けた二つのフリクションワッシャ
ーを有するものとし,フリクションプレートと各フリクションワッシャーとを隣接
させるものとしていることから,フリクションプレートと各フリクションワッシャ
ーとの間の接触面においてフリクショントルクを発生させるものとしていると認め
られるところ,前記(イ)bのとおり,甲1発明のフリクショントルク発生手段の構成
は,支持片511は,第1回転軸11及び前記第2回転軸12の各フランジ側と位
置制限構造50の一方の側に設けられ,二つの孔に第1回転軸11と第2回転軸1
2を回転可能に挿通させており,第1ストッパ輪411は,支持片511の隣に位
置し,第1回転軸11に対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束されて取り
付けられており,第2ストッパ輪412は,支持片511の隣に位置し,第2回転
軸12に対し軸方向にスライド可能であるが回転を拘束されて取り付けられている
というものであるから,本件発明1のフリクショントルク発生手段の構成と甲1発
明のフリクショントルク発生手段の構成は同一であると認められ,したがって,両
者で,発生するフリクショントルクの程度に差異があるとは認められない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
c原告は,本件発明1は,2軸ヒンジであるから,各ヒンジ軸に発生
させるフリクショントルクを均一に揃える必要があり,そのために,本件発明1に
おいては,二つの第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトを共に回転可能に挿通
させた専用のフリクションプレートを独立して設け,このフリクションプレートに
第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトに回転を拘束させたフリクションワッシ
ャーを別々に弾性手段で押圧させるという構成を採用したものであると主張する。
しかし,プレート状の部材とワッシャー状の部材との間にフリクショントルクが
発生することが周知であることは前記(イ)aのとおりであるが,この原理は,ヒンジ
が1軸であるか2軸であるかによって異なるものではない。
そして,フリクショントルクを発生させるための部材の一部は,シャフトの回転
に伴って回転することのない部材とする必要があるから,2軸ヒンジにおいてフリ
クショントルクを発生させようとする場合,フリクショントルクを発生させるため
の部材の一部は,二つのシャフトを挿通させるプレート状の部材となることは当然
のことであり,また,プレート状の部材にワッシャーを別々に弾性手段で押圧する
ことも当然のことであり,いずれも特別な構成と見ることはできない。
また,前記1のとおり,本件明細書には,「フリクショントルク発生手段16と吸
い込み手段17とストッパー手段19は,実施例では第1ヒンジシャフトと第2ヒ
ンジシャフトにそれぞれ設けられているが,コスト削減,その他の理由により,そ
れぞれ第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシャフトのいずれか一方に設けられるよう
に構成しても良い。」(段落【0028】)と記載されており,同記載によると,各ヒ
ンジ軸に発生させるフリクショントルクを均一に揃える必要があるとは認められな
い。
したがって,原告の上記主張は,前記(イ)の判断を左右するものではない。
dその他,原告の主張は,既に判示したところから明らかなように,
前記(イ)の判断を左右するものではない。
イ相違点2について
(ア)前記(1)のとおり,甲1発明の「切換片53」の構成は,揺動可能な輪部
533を有するとともに,輪部533に第1位置制限カム521と第2位置制限カ
ム522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック
532が外向きに突設されるというものであるところ,このような構成の部材は,
製造コスト,手間等を考慮して単一の部材で一体として形成することが当業者にと
って格別困難であったとはいえないから,「切換片53」を単一の部材として構成す
るか,複数の部材を組み立てたものとして構成するかは,当業者が適宜選択し得る
ものである。
(イ)また,甲1文献によると,第1位置制限ブロック531・第2位置制限
ブロック532の両側面に突設されたそれぞれ一対の第1ガイドブロック531a
及び一対の第2ガイドブロック532aは,支持片511,512上に設けられた
ガイド溝511c,512c内に挿入されて,輪部533の両側に設けられた短軸
534を中心として切換片53が揺動することにより,一対の第1ガイドブロック
531a及び一対の第2ガイドブロック532aが,ガイド溝511c,512c
内で揺動するものであることが認められるところ,本件発明1の選択的回転規制手
段を構成する「ロック部材」は,「前記第1ロックカム部材及び前記第2ロックカム
部材の間にスライド可能に設けられ」ていれば足りるから,同「ロック部材」の「ス
ライド」は,甲1発明の「切換片53」の上記のような態様の「揺動」も含むもの
と認められる。
したがって,相違点2のうち,本件発明1の「ロック部材」が,「前記第1ロック
カム部材及び前記第2ロックカム部材の間にスライド可能に設けられ」ているのに
対し,甲1発明の「切換片53」は,「前記切換片53は揺動可能な輪部533を有
するとともに,前記輪部533に前記第1位置制限カム521と第2位置制限カム
522との間に介在する第1位置制限ブロック531及び第2位置制限ブロック5
32が外向きに突設され」ている点は,実質的な相違点ということはできない。
(ウ)よって,当業者は,相違点2に係る甲1発明の構成を本件発明1の構成
とすることを容易に想到することができたといえる。
ウ本件発明1の作用効果は,甲1発明に基づいて当業者が予測し得るもの
であって顕著なものということもできない。
エ以上より,本件発明1は,甲1発明に基づき容易に発明することができ
たというべきであり,甲1発明を主引用発明とした本件発明1の進歩性についての
本件審決の判断に係る原告の取消事由1は理由がない。
4取消事由2のうち甲2発明を主引用発明とした場合の本件発明2の進歩性に
ついて
(1)前記2(2)で認定した甲2文献の記載からすると,甲2文献には,以下のと
おりの甲2発明が記載されていることが認められる。
「第1回転軸11及び前記第1回転軸11に接続され,電子装置6の上カバー6
1を接続する第1取付部12を含み,前記第1回転軸11は,前記第1回転軸11
の周縁に設けられた第1当接部112及び前記第1当接部112上において前記第
1回転軸11に沿って軸方向に開設された第1位置決め凹溝111を有する第1回
動部材1と,
第2回転軸21及び前記第2回転軸21に接続され,電子装置6の下カバー62
を接続する第2取付部22を含み,前記第2回転軸21は,前記第2回転軸21の
周縁に設けられた第2当接部212及び前記第2当接部212上において前記第2
回転軸21に沿って軸方向に開設された第2位置決め凹溝211を有する第2回動
部材2と,
前記第1回転軸11を貫設するための第1貫設孔31と,前記第2回転軸21を
貫設するための第2貫設孔32と,前記第1貫設孔31と前記第2貫設孔32との
間に設けられた軌道部33と,前記軌道部33上に設けられ,前記軌道部33に沿
って摺動する摺動位置決め部34とを含み,
前記摺動位置決め部34は,前記第2当接部212の当接を受けて前記第1位置
決め凹溝111内に係合して,前記第1回転軸11の回転が第1制限状態を有する
ように制限し,前記摺動位置決め部34は,前記第1当接部112の当接を受けて
前記第2位置決め凹溝211内に係合して,前記第2回転軸21の回動が第2制限
状態を有するように制限する接続部材3とを含み,
前記電子装置6の上カバー61と前記電子装置6の下カバー62が合計360度
に渡って上下方向に開閉操作ができるものであり,
前記第1回転軸11は,第1位置制限部113を更に有し,前記第2回転軸21
は,第2位置制限部213を更に有し,前記接続部材3は,それぞれ前記第1位置
制限部113に当接して前記第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35
と,前記第2位置制限部213に当接して前記第2回転軸21の回転を制限する第
2位置決め部36とを更に含む2軸ヒンジ。」
(2)したがって,本件発明2と甲2発明との一致点及び相違点は,以下のとお
りとなる。
ア一致点
第1の筐体側へ取り付けられる第1ヒンジシャフトと,第2の筐体側へ取り付け
られる第2ヒンジシャフトとを平行状態で互いに回転可能となるように連結した部
材に,前記第1ヒンジシャフトと前記第2ヒンジシャフトを交互に回転させる選択
的回転規制手段を設け,この選択的回転規制手段を,前記第1ヒンジシャフトと前
記第2ヒンジシャフトをそれぞれ回転可能に挿通させて成る部材と,前記第1ヒン
ジシャフトと前記第2ヒンジシャフトのそれぞれに回転を拘束させて当該第1ヒン
ジシャフトと当該第2ヒンジシャフトと共に回転可能に設けられた第1ロックカム
部材及び第2ロックカム部材と,前記部材に対しスライド可能に係合されると共に,
前記第1ロックカム部材と前記第2ロックカム部材の間に設けられ,前記第1ロッ
クカム部材及び前記第2ロックカム部材のいずれか一方の回転が許容されるときに
はいずれか他方の回転をロックするところのロック部材と,で構成することにより,
前記第1の筐体と前記第2の筐体が共に閉成状態にある時には前記第1ヒンジシャ
フトと前記第2ヒンジシャフトのどちらかの回転が許容されて前記第1の筐体と前
記第2の筐体の相対的な開閉操作を行い,前記第1ヒンジシャフトと第2ヒンジシ
ャフトのいずれか一方が回転が許容された際には,他方の回転を規制するように構
成することにより,前記第1の筐体と前記第2の筐体が合計で360度に渡って上
下方向に開閉操作できるように成した,2軸ヒンジである点。
イ相違点
(ア)相違点A
本件発明2は,「第1ヒンジシャフト」と「第2ヒンジシャフト」とを「平行状態
で互いに回転可能となるように連結した部材」を「所定間隔を空けて設けられ」「て
成る連結部材及びスライドガイド部材」とし,「第1ロックカム部材」,「第2ロック
カム部材」及び「ロック部材」は,「前記連結部材及び前記スライドガイド部材の間
に」「設けられ」ており,しかも,「ロック部材」は,「前記連結部材と前記スライド
ガイド部材に対しスライド可能に係合される」ものであるのに対し,甲2発明は,
第1回転軸11と第2回転軸21とを平行状態で互いに回転可能となるように連結
する部材である「接続部材3」に対して,「第1当接部112」及び「第2当接部2
12」は隣接して設けられ,また,「摺動位置決め部34」は,「接続部材3」の「軌
道部33に沿って摺動する」ように設けられている点。
(イ)相違点B
ロック部材に関し,本件発明2は,「単一の部材で一体に形成した」ものであるの
に対し,甲2発明の「摺動位置決め部34」は,単一の部材で一体に形成したもの
であるとは特定されていない点。
(3)相違点の判断
ア相違点Aについて
本件審決は,甲1文献には甲1文献記載技術的事項2,すなわち,「2軸式ヒンジ
において,第1回転軸11と第2回転軸12とを平行状態で互いに回転可能となる
ように連結する,一対の支持片511,512の間に,第1位置制限カム521,
第2位置制限カム522及び一対の支持片511,512に対し,両側の短軸53
4により揺動可能である切換片53を設けることにより,第1回転軸11と第2回
転軸12を交互に回転させるようにする」という技術事項が記載されているところ,
甲2発明において,「接続部材3」を一対とすれば,第1回転軸11及び第2回転軸
21をより安定して平行状態で互いに回転可能に支持できることになるとして,甲
2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用して,甲2発明の相違点Aに係る構成を
本件発明1の構成とすることは容易であると判断し,被告も同様の主張をする。
しかし,前記2(2)のとおり,甲2文献には,「本考案で開示されている開閉が安定
した2軸ヒンジは,軸スリーブ4及び当該軸スリーブ4を収容するハウジング5を
更に含む。当該軸スリーブ4は,当該接続部材3に接続される接続板41と,当該
接続板41に設置され,それぞれ当該第1回転軸11と当該第2回転軸21とが設
置される第1嵌接部42及び第2嵌接部43とを有する。当該ハウジング5は,収
容空間51及び当該収容空間51に連通する開口52が設けられ,当該軸スリーブ
4と当該接続部材3とを収容し,当該接続板41と当該ハウジング5とに,相互に
対応してガイド凸条411とガイド凹溝53とが設けられ,当該ハウジング5の収
容空間51に配置されるように当該軸スリーブ4をガイドする。」(段落【0016】)
との記載があり,同記載と甲2文献の【図2】からすると,甲2発明に係るヒンジ
は,接続部材3に接続される接続板41と,同接続板41に設置され,それぞれ第
1回転軸11及び第2回転軸21とが設置される第1嵌接部42及び第2嵌接部4
3とを有する軸スリーブ4並びに同軸スリーブ4を収容するハウジング5を備えて
いることが認められ,同部材により,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定し
て平行状態で回転可能に支持できるから,甲2発明においては,甲1文献記載技術
的事項2を適用する必要はない。
また,前記3(1)のとおり,甲1発明における支持片512は,第1自動閉合輪2
13・第2自動閉合輪223と共に自動閉合機能を発揮する部材を構成すること,
第1位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイ
ドブロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝512c
を備えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していること,第1トルク装
置21及び第2トルク装置22は,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223
に接して設けられ,第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223を圧迫しており,
この作用により,上記の自動閉合機能が発揮されることが認められるから,これら
の部材(第1自動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512,切換片5
3)は,機能的に連動しており,一体的に構成されているといえる。また,甲1発
明における支持片511は,第1ストッパ輪411及び第2ストッパ輪412と一
体となってストッパ機構を構成すること,第1ストッパ輪411と第1ストッパ凸
点511aとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第1位置制限ブロック
531が第1位置制限口521a内に嵌入して,第1回転軸11が回動不能となり,
第2回転軸12のみが回動可能となるように制限し,第2ストッパ輪412と当該
第2ストッパ凸点511bとが互いに干渉すると,切換え片53が揺動し,第2位
置制限ブロック532が第2位置制限口522a内に嵌入して,第2回転軸12が
回動不能となり,第1回転軸11のみが回動可能となるように制限すること,第1
位置制限ブロック531・第2位置制限ブロック532に突設された第1ガイドブ
ロック531a・第2ガイドブロック532aを伸入させるガイド溝511cを備
えて,切換片53の揺動範囲を制限する機能を有していることが認められるから,
これらの部材(切換片53,第1位置制限カム521・第2位置制限カム522,
支持片511,第1ストッパ輪412・第2ストッパ輪411)も,機能的に連動
しており,一体的に構成されているといえ,さらに,これらの部材と上記の第1自
動閉合輪213・第2自動閉合輪223,支持片512も一体的に構成されている
といえる。そして,上記のとおり,甲2発明は,軸スリーブ4及びハウジング5を
備えることにより,第1回転軸11及び第2回転軸21を安定して平行状態で回転
可能に支持できる構成を有しており,甲1文献記載技術事項2を適用する必要がな
いことを考慮すると,上記の一体的に構成された部材から,支持片511及び支持
片512のみを取り出して,一対の支持片を有するという構成を甲2発明に適用す
る動機付けはないというべきである。
また,前記(1)のとおり,甲2発明の接続部材3は,第1位置制限部113に当接
して第1回転軸11の回転を制限する第1位置決め部35と,第2位置制限部21
3に当接して第2回転軸21の回転を制限する第2位置決め部36とを有するので
あるから,甲2発明は,甲1発明のストッパ機構に相当する部材を備えていると認
められ,また,前記(2)のとおり,甲2発明は,選択的回転規制手段を有していると
ころ,甲1発明の上記の一体的に構成された部材は,ストッパ機構と選択的回転規
制手段を含むものであるから,甲1発明の上記の一体的に構成された部材を甲2発
明に適用しようする動機付けもないというべきである。
したがって,甲2発明に甲1文献記載技術的事項2を適用する動機付けはないと
いうべきであり,甲2発明の相違点Aに係る構成を本件発明2の構成とすることが
甲1文献により動機付けられているということはできない。
イ以上より,本件発明2が,甲2発明に甲1文献に記載された技術を適用
して,容易に発明できたということはできず,本件発明2に係る原告の取消事由2
は理由がある。
5取消事由1,2のうち本件発明3の進歩性について
前記4のとおり,本件発明2は,甲2発明を主引用発明として,容易に発明する
ことができないのであるから,本件発明3のうち,本件発明2のヒンジを用いたこ
とを特徴とする端末機器である本件発明3も,甲2発明を主引用例として容易に発
明することはできない。
したがって,本件発明3に係る原告の取消事由2は理由がある。
6以上より,その余の点について判断するまでもなく,本件発明2,3に係る
原告の取消事由は理由があり,その余の取消事由は理由がない。
第6結論
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
佐野信
裁判官
中島朋宏

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