弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
〔原告〕
一 被告が原告の昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度の法
人税について昭和五三年一月二三日付けでした再更正のうち所得金額四三四四万八
五七三円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
〔被告〕
主文と同旨
第二 当事者の主張
〔請求原因〕
一 原告は、管工事資材の製造及び暖房配管工事の請負を業とする株式会社であ
る。
二 原告は、青色申告の承認を受けた法人であるが、昭和四九年五月二九日、被告
に対し、昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度(以下「本件
事業年度」という。)の法人税について、所得金額を四三四四万八五七三円、税額
を一四八二万一一〇〇円とする旨の確定申告をしたところ、被告は、昭和五二年五
月三〇日、所得金額を九三四四万八五七三円、税額を三四二七万六四〇〇円とする
旨の更正及び過少申告加算税九七万二七〇〇円の賦課決定をした。
三 原告は、昭和五二年七月一九日、被告に対して異議申立てをしたが、被告は、
同年一〇月一四日、右異議申立てを棄却する旨の決定をした。
更に、原告は、同年一一月八日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたとこ
ろ、被告は、昭和五三年一月二三日、原告の本件事業年度の法人税について、所得
金額を九三四四万八五七三円、税額を三三〇七万〇三〇〇円とする旨の再更正(以
下「本件再更正」という。)及び過少申告加算税九一万二四〇〇円の賦課決定(以
下「本件賦課決定」という。)をした。
その後、国税不服審判所長は、昭和五四年六月二五日、右審査請求を棄却する旨の
裁決をし、その裁決書謄本は、同年七月一三日、原告に送達された。
四 しかし、本件再更正のうち所得金額四三四四万八五七三円を超える部分には、
原告の所得金額を過大に認定した違法があり、これを前提とした本件賦課決定も違
法である。
五 よつて、原告は、本件再更正のうち右所得金額を超える部分及び本件賦課決定
の取消しを求める。
〔請求原因に対する認否及び被告の主張〕
一 請求原因に対する認否
請求原因第一項ないし第三項の事実は認めるが、同第四項は争う。
二 被告の主張
1 原告は、昭和二八年一月二二日に設立され、資本金三〇八〇万円の同族の株式
会社(法人税法二条一項一〇号に該当する同族会社)である。訴外Aは、原告の設
立と同時に代表取締役に就任し、昭和四九年三月二八日までその職にあつたが、病
気を理由に退任した。そこで、原告は、同月二九日の臨時株主総会において、退職
給与として一億二〇〇〇万円をAに支給する旨の決議をし、その全額を本件事業年
度の損金の額に算入した。
2 しかし、原告がAに対して支給することとした退職給与の額一億二〇〇〇万円
のうち七〇〇〇万円を超える五〇〇〇万円は、法人税法(以下、単に「法」とい
う。)三六条及び同法施行令(以下、単に「令」という。)七二条に規定する過大
な役員退職給与の額に当たる。
(一) 法人の役員に対する退職給与は、損金性を有する給与の後払としての報酬
と損金性を有しない利益処分である賞与との双方の性質を包含するが、法三六条及
び令七二条は、その退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のそ
の法人の業務に従事した期間、その退職の事情、当該法人と同種の事業を営む法人
でその事業規模が類似するものの役貝に対する退職給与の支給の状況等に照らし、
その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場
合には、その超える部分の金額を損金の額に算入しない旨を規定している。そこ
で、具体的に相当な退職給与の額を算出するに当たつては、特に法令に定めはない
が、次の二つの算式に依拠するのが最も合理的である。
(1) 役員に対する退職給与が支給されている他の法人で、当該法人と業種、事
業規模及び退職した役員の地位等が類似するものを選定したうえ、その平均功績倍
率(退職した役員の最終月額報酬に勤続年数を乗じ、その数値で退職給与の額を除
して得た功績倍率の平均値)に当該役員の最終月額報酬及び勤続年数を乗じて算出
する方法(平均功績倍率法)
(2) 右(1)と同様の他の法人における退職した役員の勤続年数一年当りの平
均退職給与の額に当該役員の勤続年数を乗じて算出する方法(一年当り平均額法)
(二) 被告は、原告の比較の対象となるべき法人を選定するため、次の調査を行
つた。
札幌国税局管内の税務署のうち、原告の所在地である札幌市並びにこれと経済規模
の類似する旭川市、函館市及び釧路市を所轄する各税務署において、原則として資
本金が五〇〇〇万円未満で、昭和四八年一月一日を含む事業年度から同五〇年一月
一日を含む事業年度までの間に代表取締役の退職に伴つて退職給与が支給された法
人を調査したところ、五三法人(これらの法人における役員退職給与の額は、最高
八〇〇〇万円、最低七六万九〇〇〇円、平均一四五二万一〇〇〇円である。)の調
査件数を得た。また、札幌国税局管内と経済事情の比較的類似する仙台、金沢、高
松及び福岡の各国税局管内の税務署において、右各事業年度の間に代表取締役の退
職に伴つて退職給与が支給された法人のうち、その支給額が四〇〇〇万円以上で、
その業種が製造業、建設業であるものを調査したところ、四法人(これらの法人に
おける役員退職給与の額は、最高五九八五万円、最低四〇〇〇万円、平均四九六二
万一五〇〇円である。)の調査件数を得た。そこで、右合計五七法人のうち、次の
(1)ないし(6)の各要件のいずれにも該当する法人を原告の比較の対象となる
べき法人として選定した。
(1) 原書の主な事業(管工事資材製遣及び暖房配管工事請負業)が「日本標準
産業分類(行政管理庁編集)」の大分類-製造業のうち中分類の金属製品製造業及
び一般機械器具製造業、同じく大分類-建設業のうち中分類の設備工事業に当たる
ところから、原告と同種の事業と認められる製造業又は建設業を営んでいること。
(2) 事業規模(売上金額、総資産価額、純資産価額、所得金額)及びその推移
が原告のそれと類似していること(事業規模の右各要素の数値が原告を基準として
およそ二分の一から二倍まで)。
(3) 退職した役員が代表取締役であり、かつ、会社創設者であること。
(4) 退職した役員が代表取締役として従事した期間がAのそれに近いこと(お
よそ二〇年ぐらい)。
(5) その退職事由が健康上の理由によるものであつて、死亡による退職や業績
不振による引責辞任等でないこと。
(6) その退職時期がAのそれに近いこと(およそ一年以内)。
以上の結果、右(1)ないし(6)の各要件のいずれにも該当する法人は、別表記
載の三法人(以下「本件類似法人」という。)であつた。
原告及び本件類似法人における当該役員の最終月額報酬、退職給与の額及び勤続年
数一年当りの退職給与の額は、別表記載のとおりである。
(三) 別表によれば、Aの最終月額報酬は三〇万円、勤続年数は二二年、本件類
似法人の平均功績倍率は四・七であるから、平均功績倍率法によつてAに対する退
職給与の額を算出すると、三一〇二万円になる(三〇万円×二二×四・七)。他
方、本件類似法人における勤続年数一年当りの平均退職給与の額は二八八万三〇〇
〇円であり、Aの勤続年数は二二年であるから、一年当り平均額法によつてAに対
する退職給与の額を算出すると、六三四二万六〇〇〇円になる(二八八万三〇〇〇
円×二二)。しかし、Aに対する報酬が近年増額されず、本件類似法人における報
酬の支給例と比較して低額であることから、平均功績倍率法によつて得られた金額
は本件類似法人における退職給与の額と比較して低額になるので、被告は、平均功
績倍率法ではなく、一年当り平均額法を採用した。そうすると、一年当り平均額法
によつて得られた金額は六三四二万六〇〇〇円であるが、被告は、Aの勤続年数が
本件類似法人における当該役員の勤続年数よりも若干長いことなどの功績を加味し
て、右金額にその約一〇パーセントを加算し、Aに対する相当な退職給与の額を七
〇〇〇万円と認定した。
3 以上のとおり、原告がAに対して支給することとした退職給与の額一億二〇〇
〇万円のうち七〇〇〇万円を超える五〇〇〇万円は過大な役員退職給与の額に当た
るので、被告は、右金額を損金の額に算入することを否認し、原告の本件事業年度
の法人税について、所得金額を原告が確定申告した四三四四万八五七三円に五〇〇
〇万円を加えた九三四四万八五七三円とする旨の再更正をしたものであり、本件再
更正及びこれを前提としてされた本件賦課決定は適法である。
〔被告の主張に対する認否及び原告の反論〕
一 被告の主張に対する認否
被告の主張1の事実は認める。
被告の主張2のうち、(二)の事実は知らないが、その余は争う。
被告の主張3のうち、被告がその主張するとおり再更正をしたことは認めるが、そ
の余は争う。
二 原告の反論
1 被告が原告の比較の対象となるべき法人を選定するために行つたと主張する調
査には、次のような問題点がある。
(一) 札幌国税局管内の各税務署における調査において、合理的な理由がないの
に資本金が五〇〇〇万円未満の法人に限定して調査している。
(二) 合理的な理由がないのに、調査対象地域を仙台、金沢、
高松及び福岡の各国税局管内の税務署に限定している。
(三) 合理的な理由がないのに、その業種が製造業、建設業である法人に限定し
て調査している。
(四) 事業規模の要素として、従業員数、公表利益、利益積立金を考慮していな
い。
(五) 退職事由として、健康上の理由によるものしか考慮せず、死亡による退職
を除外している。
(六) 原告がAに対して支給することとした退職給与の額が不相当に高額な部分
を含むか否かを判断するためには、高額な退職給与の支給例を調査すべきである。
それなのに、被告は、このような調査をしていない。
2 原告は、管工事資材の製遣業及び暖房配管工事の請負である設備工事業を営む
法人であるが、本件類似法人は、いずれも製造業のみを営む法人であつて、両者の
業種に類似性がない。
3 一年当り平均額法によつて相当な退職給与の額を算出するときは、全業種の法
人における高額な退職給与の支給例を調査すべきである。それなのに、被告は、こ
のような調査をしていない。
4 Aは、原告の代表取締役として長期間従業員と差のない低額な報酬を受けなが
ら、専ら設備投資をして原告の事業規模の拡大に努めてきた。その結果、原告の事
業は、六つの営業部門を有するに至つている。このようなAの特別の功労を考慮す
れば、原告がAに対して支給することとした退職給与の額一億二〇〇〇万円は、相
当な金額というべきである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因第一項ないし第三項の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件再更正及び本件賦課決定の適法性について
1 被告の主張1の事実及び同3のうち被告がその主張するとおり再更正をしたこ
とは、当番者間に争いがない。
本件の争点は、原告がAに対して支給することとした退職給与の額一億二〇〇〇万
円のうち七〇〇〇万円を超える五〇〇〇万円について、被告が右金額を損金の額に
算入することを否認したことが相当であるか否かにあるので、以下、この点につい
て判断する。
2 法三六条は、法人がその退職した役員に対して支給する退職給与の額のうち、
損金経理をした金額で不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その
法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨を規定し、これを受けて、令
七二条は、右損金の額に算入しない金額は、法人がその退職した役員に対して支給
した退職給与の額が、当該役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事
情、当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対す
る退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相
当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額とする旨を
規定している。
右によれば、原告がAに対して支給することとした退職給与の額が不相当に高額な
部分を含むか否かを判断するためには、Aの原告の業務に従事した期間及びその退
職の事情を考慮するとともに、原告と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似
するものの役員に対する退職給与の支給の状況等を比較して検討しなければならな
い。
3 原本の存在とその成立に争いのない甲第二号証、第三号証、第五号証、第七号
証、成立に争いのない乙第一号証の一ないし一二、第二号証の一ないし九、第三号
証の一ないし八、第四号証の一・二、同号証の三の一・二、同号証の四ないし七、
第五号証の一ないし一一、第六号証の一ないし七、第七号証の一ないし六、第八号
証、第九号証の一・二、第一〇号証の一・二、第一一号証の一ないし三、第一二な
いし第一四号証及び弁論の全趣旨によれば、被告がAに対する相当な退職給与の額
を七〇〇〇万円と認定した経緯及びその算出方法として被告の主張2の(二)及び
(三)の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
4 そこで、右に認定した被告の相当な退職給与の額の判断過程について、その合
理性の有無を検討する。
(一) 原告は、被告が原告の比較の対象となるべき法人を選定するために行つた
調査について、問題点を指摘して反論するので、順次検討を加える。
(1) 原告は、札幌国税局管内の各税務署における調査において、合理的な理由
がないのに資本金が五〇〇〇万円未満の法人に限定して調査していると主張する。
しかし、資本金の額が一般的に法人の事業規模を表わす重要な一つの基準であるこ
とは明白な経験間であるから、原告の資本金が三〇八〇万円であるところから、調
査の対象法人を資本金五〇〇〇万円未満の法人に限定したことは合理的である。
なお、付言するに、前掲乙第一号証の三、第二号証の二、第九号証の二によれば、
本件類似法人の資本金の額は、別表記載のA社において四〇〇〇万円(ただし、昭
和四九年二月一日に始まる事業年度以降は九〇〇〇万円)、B社において三〇〇〇
万円、C社において三三〇〇万円であることが認められ、原告と本件類似法人とは
資本金の額において概ね類似している。
(2) 原告は、合理的な理由がないのに、調査対象地域を仙台、金沢、高松及び
福岡の各国税局管内の税務署に限定していると主張する。しかし、当該法人の比較
の対象となるべき法人は、一般的に当該法人の所在地と経済事情の類似する地域に
存する法人を調査して選定するのが最も適当であるから、調査対象地域を札幌国税
局管内と経済事情の比較的類似する仙台、金沢、高松及び福岡の各国税局管内の税
務署としたことは合理的である。
(3) 原告は、合理的な理由がないのに、その業種が製造業、建設業である法人
に限定して調査していると主張する。しかし、原告の営む事業は、管工事資材の製
造業及び暖房配管工事の請負である設備工事業であるところ、前掲乙第一二号証に
よれば、右各事業は、「日本標準産業分類(行政管理庁編集)」の大分類-製造業
のうち中分類の金属製品製造業及び一般機械器具製造業、同じく大分類-建設業の
うち中分類の設備工事業に当たると認められるから、右日本標準産業分類の大分類
にしたがい、原告と同種の事業を製造業又は建設業として調査の対象法人を右事業
を営む法人に限定したことは相当である。
(4) 原告は、事業規模の要素として、従業員数、公表利益、利益積立金を考慮
していないと主張する。しかし、被告は、法人の事業規模の類似性を判断する要素
として、資本金の額のほか、売上金額、総資産価額、純資産価額及び所得金額を考
慮しているから、それだけで十分であり、これらの要素に加えて、従業員数、公表
利益、利益積立金をも考慮する必要はないというべきである。
なお、付言するに、前掲乙第一号証の三、第二号証の二、第九号証の二、第一四号
証によれば、原告及び本件類似法人における本件事業年度の前後三年間の従業員数
は、原告において一四二人から一六二人の間、別表記載のA社において六二人から
七〇人の間、B社において九二人から一五四人の間、C社において一二〇人で推移
しており、同じく総利益の額は、原告において約一億一二三二万円から約二億九三
九三万円の間、別表記載のA社において約七二七四万円から約三億九五六〇万円の
間、B社において約一億九一六七万円から約三億六七三〇万円の間、C社において
約一億三四三六万円から約二億五五九三万円の間で推移していることが認められ、
原告と本件類似法人とは、その従業員数及び総利益の額についても概ね類似してい
る。
(5) 原告は、退職事由として、健康上の理由によるものしか考慮せず、死亡に
よる退職を除外していると主張する。しかし、令七二条は、「当該役員の退職の事
情」を相当な退職給与の額を算出するに当たつて考慮すべき一つの要素として規定
しており、健康上の理由による退職と死亡による退職とは、その退職の事情が異な
るから、病気を理由に原告の代表取締役を退任したAに対する相当な退職給与の額
を算出するため、被告が健康上の理由による退職のみを本件類似法人を選定する際
の要件としたことは相当である。
(6) 原告は、高額な退職給与の支給例を調査すべきであるのに、被告がそのよ
うな調査をしていない旨主張する。しかし、Aに対する相当な退職給与の額を算出
するためには、令七二条に規定するように、Aの原告の業務に従事した期間及びそ
の退職の事情を考慮するとともに、原告と同種の事業を営む法人でその事業規模が
類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等を比較して検討すべきであつ
て、一般的に高額な退職給与の支給例を調査する必要はないというべきである。
(二) 更に、原告は、原告の営む事業は管工事資材の製造業及び暖房配管工事の
請負である設備工事業であるのに、本件類似法人の営む事業はいずれも製造業のみ
であるから、両者の業種に類似性がない旨主張する。しかし、前掲乙第一号証の
三、第二号証の二、第九号証の二、第一二号証によれば、本件類似法人の営む事業
は、いずれも前記日本標準産業分類の大分類-製造業のうち中分類の一般機械器具
製造業(別表記載のA社)又は金属製品製造業(別表記載のB社、C社)に当たる
と認められ、原告もまたこれらと同種の製造業を営むものであるから、両者は、製
造業を営む点で業種が類似している。しかも、成立に争いのない甲第一一号証によ
れば、本件事業年度における原告の売上金額の約六四パーセントは管工事器材の製
造によるものであることが認められるから、原告の主な事業は製造業(金属製品製
造業)であり、原告及び本件類似法人は同種の事業を営む法人であると判断して差
し支えない。
(三) 以上に判示したとおり、被告が原告の比較の対象となるべき法人を選定す
るために行つた調査には、原告が主張するような欠点はなく、被告が採用した原告
の比較の対象となるべき法人の選定基準(被告の主張2の(二)の(1)ないし
(6)の各要件)は、過大な役員退職給与の損金不算入を規定した法三六条及び令
七二条の趣旨に照らして相当であり、前掲乙第一号証の三、第二号証の二、第九号
証の二によれば、本件類似法人はいずれも右選定基準に合致していることが認めら
れるから、本件類似法人は、原告の比較の対象となるべき法人として適当であると
いうべきである。
(四) 被告は、Aに対する相当な退職給与の額を算出するに当たり、平均功績倍
率法及び一年当り平均額法にしたがつて検討したが、Aに対する報酬が近年増額さ
れず、本件類似法人における報酬の支給例と比較して低額であることから、平均功
績倍率法によつて得られた金額は本件類似法人における退職給与の額と比較して低
額になるので、平均功績倍率法ではなく、原告にとつて有利な一年当り平均額法を
採用し、更に、その算式によつて得られた金額である六三四二万六〇〇〇円に、A
の勤続年数が本件類似法人における当該役員の勤続年数よりも若干長いことなどの
功績を加味して、その約一〇パーセントを加算し、Aに対する相当な退職給与の額
を七〇〇〇万円と認定している。
ところで、一年当り平均額法は、当該法人の比較の対象となるべき法人における退
職した役員の勤続年数一年当りの平均退職給与の額に当該役員の勤続年数を乗じて
相当な退職給与の額を算出する方法であるが、平均功績倍率法とともに、法三六条
及び令七二条の趣旨に合致する合理的な算式であるというべきである。
(五) 原告は、一年当り平均額法によつて相当な退職給与の額を算出するとき
は、全業種の法人における高額な退職給与の支給例を調査すべきであるのに、被告
がそのような調査をしていないと主張する。しかし、Aに対する相当な退職給与の
額を算出するためには、前記(一)の(6)で述べたのと同一の理由により、全業
種の法人について、なかんずく高額な退職給与の支給例を調査する必要はないとい
うべきである。
(六) また、原告は、Aが原告の代表取締役として長期間従業員と差のない低額
な報酬を受けながら原告の事業規模の拡大に努めてきたことなどの特別の功労を考
慮すれば、原告がAに対して支給することとした退職給与の額一億二〇〇〇万円は
相当な金額というべきである旨主張する。しかし、原告の事業規模の拡大に対する
Aの功労は、窮極的には、その事業規模(売上金額、総資産価額、純資産価額、所
得金額)の数値に表現されるものであるから、この点については原告の比較の対象
となるべき法人を選定する過程において考慮されていること、また、別表記載のと
おり、本件類似法人の事業規模の原告に対する比率の平均値は原告を上回る比率を
示しているから、本件における比較の対象となるべき法人の選定は、原告にとつて
有利な選定となつていること、更に、被告は、Aの功績を加味して一年当り平均額
法によつて得られた金額にその約一〇パーセントを加算して退職給与の額を認定し
ていること、以上の点を考え合わせると、Aの原告に対する功労は、被告が行つた
一年当り平均額法による相当な退職給与の額の算出過程において十分に反映されて
いると解することができる。したがつて、原告の右主張は失当である。
(七) 以上に判示したとおり、被告がAに対する相当な退職給与の額を算出する
に当たつて採用した一年当り平均額法は、法三六条及び令七二条の趣旨に合致する
合理的な算式であり、これによる算出過程にも原告が主張するような欠点はなく合
理的であるから、Aに対する相当な退職給与の額は、右算式に基づいて算出された
七〇〇〇万円と認めるのが相当である。
5 以上のとおり、Aに対する相当な退職給与の額は七〇〇〇万円であるから、原
告がAに対して支給することとした退職給与の額一億二〇〇〇万円のうち七〇〇〇
万円を超える五〇〇〇万円は、法三六条に規定する「不相当に高額な部分の金額」
に当たり、被告が右金額を損金の額に算入することを否認したことは相当である。
そうすると、原告の本件事業年度の法人税について、所得金額を原告が確定申告し
た四三四四万八五七三円に五〇〇〇万円を加えた九三四四万八五七三円とする旨の
本件再更正は適法であり、これを前提としてされた本件賦課決定も適法である。
三 よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費
用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官 安達 敬 渡邊 壯 内藤正之)

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