弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     一 原判決中控訴人らと被控訴人A、同B、同C、同D、同E、同Fと
の関係部分を次のとおり変更する。
     (一) 被控訴人A、同B、同C、同D、同E、同Fは、連帯して、控
訴人株式会社戸田鉄工所に対し三〇一万八、九〇四円及びこれに対する昭和四五年
七月二四日から完済まで年五分の割合による金員を、控訴人Gに対し三八万円及び
これに対する昭和四五年七月二四日から完済まで年五分の割合による金員を、それ
ぞれ支払え。
     (二) 控訴人らの右被控訴人らに対するその余の請求を棄却する。
     二 控訴人らの被控訴人H、同I、同J、同Kに対する本件控訴を棄却
する。
     三 訴訟費用中、控訴人らと被控訴人A、同B、同C、同D、同E、同
Fとの間に生じた部分は第一、二審とも右被控訴人らの連帯負担とし、控訴人らと
被控訴人H、同I、同J、同Kとの間に生じた控訴費用は控訴人らの負担とする。
     四 この判決は控訴人らの勝訴部分に限り、仮に執行することができ
る。
         事    実
 一 控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。被控訴人H、
同I、同J、同K、同A、同B、同C、同D、同E、同Fは、連帯して控訴人株式
会社戸田鉄工所に対し三〇一万八、九〇四円及びうち二〇一万二、四九三円に対す
る昭和四二年六月六日から、うち一〇〇万六、四一一円に対する同四二年六月七日
から各完済まで年六分の割合による金員を、控訴人Gに対し三八万円及びこれに対
する昭和四二年五月三一日から完済まで年六分の割合による金員を、それぞれ支払
え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行
の宣言を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 二 当事者双方の主張並びに証拠関係は、次のように附加訂正するほか、原判決
事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 (控訴人ら)
 農業協同組合は、信託事業共済事業など多額の金銭を取り扱う機構であるため、
農業協同組合法(以下農協法と略称。)は、その第四節管理の項にその組織につき
規定を設け、同法第三〇条では役員として理事と監事を必要機関とし、理事は五人
以上、監事は二人以上置くものと定めている。そして同法第四一条は、理事には民
法第五二条第二項、第五三条、第五四条を各準用しているので、理事は理事会の構
成員であり、理事会の議事は理事の過半数を以つて決定され、理事は原則として組
合の代表権を有し、理事の代表権に加えた制限は善意の第三者には対抗できないこ
ととなつている。しかも理事には以上の規定のほか、さらに民法第六一条が準用さ
れているので、理事は、必要があると認めた場合には何時でも臨時総会を招集する
ことができる権限を有し、このことは組合の業務執行に対する監督機能を有する理
事会の構成員たる理事の地位に一般的監視義務を負わせたものと解せられる。そこ
でもし当該理事にさような能力がないから責任がないというのであれば、農法第一
三条の二や農業協同組合定款(乙第一号証)第三六条はいずれも無意味な規定にな
るであろうし、能力がないことを口実にする理事を優遇することにもなり不当な結
果を導くことになる。
 (証拠関係)(省略)
         理    由
 一 被控訴人A、同B、同C、同D、同E、同Fが本件当時原審被告L、同M、
亡Nとともにa町農業協同組合(以下単に農協ともいう。)の理事の地位にあり、
右Nが昭和四二年六月三〇日に死亡し、被控訴人H、同I、同J、同Kがその相続
人であることは、当事者間に争いがない。
 二 当審における控訴人G本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人ら
が日本ノーケン株式会社から同農協振出の約束手形三通の割引を依頼されてその譲
渡を受けたので、これを株式会社徳陽相互銀行b支店及び株式会社東北銀行b支店
で割引を得たうえ、控訴人株式会社戸田鉄工所において三〇一万八、九〇四円、同
Gにおいて三八万円をそれぞれ日本ノーケン株式会社に交付した事実が認められ
る。
 しかして同農協では控訴人らからの右各約束手形金の支払請求に対し、右各約束
手形が当時の同農協参事Oにより組合長の氏名、職印等を冒用して偽造されたもの
であるから同農協にはその支払義務はないと主張してこれを争つたのであるが、結
局昭和四三年一二月四日盛岡地方裁判所で控訴人ら勝訴の判決があり、右判決は確
定したこと、しかるに同農協には全く支払能力がなく、その所有にかかる土地、家
屋にはいずれも岩手県信用農業協同組合連合会のため抵当権が設定されており、か
つ什器、備品もすべて岩手県経済農業協同組合連合会の所有に帰していたほか所有
動産は皆無という状態であるうえ、上部三団体と岩手県からも見切りをつけられ、
農協事業はその後に創設された新a町農業協同組合に移行されていること、以上の
各事実については当事者間に争いがないので、控訴人らはa町農協に対し債務名義
を得たとはいうものの、結局その取立は不能であり、従つて控訴人らはそれぞれ右
各手形金割引額と同額の損害を蒙つたものということができる。
 三 そこで被控訴人らの責任について検討する。
 (一) 控訴人らは、a町農協が昭和四五年四月頃、その債務につき理事が責任
を負うことを条件に総会で解散の決議をし、行政庁の認可を受けた旨主張し、これ
に副う前掲Gの本人尋問の結果があるがにわかに措信できず、他に右主張事実を認
めるに足りる証拠はない。
 よつて右主張は採用しない。
 (二) 控訴人らは、本件損害は当時同農協の理事であつた被控訴人らが、その
職務を行うにつき、重大な過失があつたことに帰因するのであるから、被控訴人ら
は控訴人らに対し、連帯してその損害を賠償すべき責任がある旨主張する。
 そこで按ずるに、成立に争いのない乙第二号証ないし第四号証、原審における原
審被告L、被控訴人B、同A、同D、同C、同E、同Fの各本人尋問の結果によれ
ば、a町農業協同組合は、昭和二九年に設立されたa農業協同組合とc農業協同組
合、d農業協同組合とが合併したものであるが、経営不振のため昭和三四年一二
月、一、〇〇〇万円にのぼる累積赤字を抱えて岩手県から再建整備組合の指定を受
け、同三五年四月に至りようやく組合事業を再開したこと、そして当初は原審被告
岩手県農業協同組合中央会から派遣された事務職員によつて組合事務の処理がなさ
れていたが、昭和四〇年五月岩手県共済連のPから斡旋されたOがa町農協の参事
に選任されたこと、被控訴人らは、年数回の理事会に出席するだけで同農協の業務
は常勤の専務理事である原審被告Lに委ね、同被告もまた参事のOを信頼するの余
りその主要業務を同人に委ねていたこと、O参事は同農協の業務が自己に委ねられ
ていることを幸いに、昭和四一年九月頃から同四二年四月頃にかけてQや日本ノー
ケン株式会社に対し同農協振出名義の融通手形を乱発したこと、本件約束手形はそ
の一部であつて、結局これがため同農協には約七、四〇〇万円に達する欠損が生じ
てしまい、ついに再建不能の事態に追い込まれるに至つたこと、一方被控訴人ら理
事達は、その一部の者が昭和四二年五月半ば頃かような事実を耳にした程度で、そ
の後同年六月六日に招集された緊急理事会の席上、原審被告Lから右事件の発表が
あるまでは、全く右事実を察知することができなかつたこと、以上の各事実が認め
られ、右認定に反する証拠はない。
 <要旨第一>ところで農業協同組合の参事には商人の支配人と同様組合業務の遂行
に関し、広汎な権限を与えられている(農業協同組合法(以下農協法と
略称。)第四二条第三項、商法第三八条。)ことに鑑み法はその選任、解任を理事
の過半数で決することにしている(農協法第四二条第二項。)のである。そして農
協の理事は、組合に対しいわゆる忠実義務(同法第三一条の二第一項。)を負つて
いるうえ、右のとおり参事の任免権を有していることに照らせば、理事には直接も
しくは理事会を通じて間接的に参事の業務遂行を監視すべき義務が課せられている
ものと解するのが相当である。
 <要旨第二>しかるに被控訴人A、同B、同C、同D、同E、同F(亡
Nについては後記のとおり。)は、当時同農協の理事の地位にありながら毎年数回
招集される理事会に出席するだけで、同農協の業務は専務理事である原審被告Lと
O参事に任せきりにして右監視義務を尽さず、これがためO参事の手形乱発を阻止
することができなかつたことは前記のとおりであるから、右被控訴人らにその職務
を行うにつき重大な過失があつたものというべく、従つて右被控訴人らは農協法第
三一条の二第三項により控訴人らに対し連帯して前記損害を賠償すべき責任を免れ
ない。
 被控訴人らは、自分達は組合事務や経理に暗く、O参事の業務遂行を監視、監督
する能力に欠けていた旨主張するが、右能力の不足は前記被控訴人らの責任を否定
する事由とはならない。けだし、たとい右被控訴人らがさような能力に不足すると
ころがあつたにせよ、自らの職責を自覚し、それなりに組合業務に関心を持ち積極
的にその衝にあたる者の執務状況を見守る姿勢を示していたならば、本件のような
手形の乱発という事態を招かずに済んだことと思われるからである。(単に右能力
不足を理由に理事の損害賠償責任を否定することが許されるならば、農協法の右規
定は空文に等しいものとなるであろう。)
 次に亡Nの責任について検討する。原審における被控訴人Hの本人尋問の結果に
よれば、亡Nは昭和三五年以来農協の理事で、組合長(定款第三一条)を勤めてい
たが、本件手形振出前の昭和四〇年一一月二八日、脳疾患で倒れ、言語障害のため
再起不能のまま入院生活を送り、ついに同四二年六月三〇日死亡するに至り、この
間全く執務不能の状態であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認
定の事実によれば、亡Nは、その責によらずして前記監視義務を尽すことができな
かつたのであるから、同人に対しては同法による損害賠償責任を問うことはできな
いものというべく、従つてその相続人である被控訴人H、同I、同J、同Kは控訴
人らに対し前記損害を賠償すべき義務はない。
 四 よつて控訴人らの本訴請求は、被控訴人A、同B、同C、同D、向E、同F
に対し、控訴人株式会社戸田鉄工所が三〇一万八、九〇四円及びこれに対する本訴
状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四五年七月二四日から完済まで
民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、(本件責任は特殊な不法行為責任と
解されるから遅延損害金の割合は民事法定利率によるべく、またその発生時期は不
法行為の時点すなわち損害発生時とすべきであるが、本件では証拠上これを確定す
ることができないから、これを請求の時点である訴状送達の日の翌日からとするの
が相当である。)控訴人Gが三八万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であ
る昭和四五年七月二四日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の
各連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容するが、その余の部分並びに
被控訴人H、同I、同J、同Kに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却
すべきものであるところ、原判決中これと同旨の被控訴人H、同I、同J、同Kに
関する部分は相当であるから同被控訴人らに対する本件控訴を棄却すべきである
が、これとその趣旨を異にする被控訴人A、同B、同C、同D、同E、同Fに関す
る部分は一部不当であるから、これを主文のとおり変更し、民事訴訟法第三八四
条、第三八六条、第九六条、第九五条、第九三条、第九二条、第八九条、第一九六
条を各適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 佐藤幸太郎 裁判官 武田平次郎 裁判官 武藤冬士巳)

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