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裁判例


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○主文
一昭和六〇年七月七日に行われた東京都議会議貝選挙の葛飾区選挙区における選挙は違
法である。
二原告のその余の請求を棄却する。
三訴訟費用は被告の負担とする。
○事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
一昭和六〇年七月七日執行の東京都議会議員選挙のうち、葛飾区選挙区における選挙を
無効とする。
二訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
一本案前の答弁
1原告の訴を却下する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
二本案の答弁
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
(原告)
一請求の原因
1当事者
、(「」。)原告は昭和六〇年七月七日に執行された東京都議会議員選挙以下本件選挙という
の葛飾区選挙区における選挙人であり、被告は、本件選挙に関する事務を管理する選挙管
理委員会である。
2原告の異議申出と被告の却下決定
原告は、昭和六〇年七月九日、被告に対し、本件選挙のうち葛飾区選挙区における選挙を
無効とすることの決定を求め、公職選挙法(以下「公選法」という)二〇二条一項に基。

き異議の申出をしたところ、被告は、同年七月二六日右異議申出を不適法として却下する
旨の決定をした。
3本件選挙の違法性
(一)各選挙区において選挙すべき議員の数の算出
、、公選法一五条七項の規定により各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議員の数は
人口比例で算出することとされているが、具体的にその方法は直近の国勢調査の結果公表
された人口に基づき、議員一人当たりの人口数を求め、各選挙区の人口を、議員一人当た
りの人口で除して得た数による(いわゆる配当基数方式、とされている。)
昭和五九年一二月一四日の改正前の東京都議会の選挙区、国勢調査人口、定数、議員一人
当たり人口、較差等は、別紙第二表のとおりであるが、右方式により、東京都議会議員の
選挙区毎の定数を算出すれば、別紙第一表B(一八減一八増)のとおりとなるはずで「」

つた。ところが、都議会が昭和五九年一二月一四日に賛成多数で可決した「東京都議会議
員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例(昭和四四年東京都」
条例第五五号。以下「四四年条例」といい、その定数配分規定を以下「四四年配分規定」
という)の一部を改正する条例(昭和五九年東京都条例第一三〇号。。
以下「本件条例」という)による改正の結果の定数配分規定(以下「本件配分規定」と。

。)、「」うによれば別紙第一表Cのとおりであり前記方式とはおよそかけ離れた三減三増
となつたにとどまつた。
(三)公選法一五条七項ただし書の趣意
ところで、昭和五六年七月五日に執行された東京都議会議員選挙に関し、江戸川区の選挙
人から提起された選挙無効訴訟に対する昭和五九年五月一七日の最高裁判決(昭和五八年
(2)第一一五号。以下「五九年判決」という)は「地方公共団体の議会の議員の選。、

に関し当該地方公共団体の住民が選挙権行使の資格において平等に取り扱われるべきであ
るにとどまらず、その選挙権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべ
きであることは、憲法の要求するところであると解すべきであり、このことは当裁判所の
判例(前掲昭和五一年四月一四日大法廷判決)の趣旨とするところである。そして、公選
法一五条七項は、憲法の右要請を受け、地方公共団体の議会の議員の定数配分につき、人
口比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強
。」、、く要求していることが明らかであると述べ投票価値の平等が憲法の要求であること
さらにそれを受けて公選法一五条七項の人口比例の原則があることを明快に判示してい
る。
さらに、公選法一五条七項ただし書の趣旨に関しては、右五九年判決は「地方公共団体、

議会の具体的に定めるところがその裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによ
つて決するほかないとし原審の東京高裁判決昭和五六年2第二一三号は投。」、(())「
票価値の平等は、議会が議会制度、代表民主制の原理からみて正当に考慮することができ
る他の政策目的との関連で調和的に実現されるべきものであり」とし、さらに、千葉県議
会議員選挙に関する同種訴訟に対する東京高裁判決(昭和五八年(行ケ)第七〇号の二)
は「問題は、これを適用して定数配分を決めた議会の措置が『特別の事情』の存否の、、

断及び結果として生じている投票価値の較差の程度の点で、右但書の趣旨に照らして明ら
かに不合理であるかどうかの点にあるといえよう」とそれぞれ判示している。。
従つて、以上の裁判所の判断からして、公選法一五条七項ただし書の解釈については、次
の三つが指摘されているといえる。
(1)まず、
人口比例を緩和すべき特別の事情があるかどうかを議会として明らかにしなければならな
い。
(2)その特別の事情とは、政策目的であること。
(3)そして、政策目的としての特別の事情を考慮した議会の判断に合理性がなければ
ならないこと。
の三点である。つまり、議会の裁量権は決して無制約ではないということなのである。
(三)本件選挙の違法事由
以上の裁判所の判示に照らしてみると、本件選挙には以下のとおり違法事由がある。
(1)まず第一に、人口の多い選挙区の方が、人口の少ない選挙区よりも議員定数が少
ないという逆転現象が六二通りも存在する点である。人口の多い選挙区の方が、人口の少
、、ない選挙区よりも議員定数が少ないというこの逆転現象は人口比例原則を根本から否定
無視するものである。
公選法一五条七項は、地方公共団体の議会の議員の定数配分につき、人口比例を明定し、
、「」。そのただし書でさえ特別の事情があるときでもおおむね人口を基準としとしている
この「おおむね人口を基準とし」とは、正確には人口比例であることを要求しないという
趣旨であつて、人口比例の基準そのものを否定することを認めるものではない。その点で
逆転現象は、本来的に右ただし書とさえ矛盾する。
逆転現象の意味するところについては、最高裁昭和五八年四月二七日判決の中で谷口正孝
裁判官が次のように指摘している「議員一人当たりの選挙人数につき選挙区の間で生じ
ている較差の問題は、較差の程度の問題、いわば量的問題として考えれば足りるがいわゆ
る逆転現象の場合は、より多数の選挙人を有する選挙区に対しより少数の議員定数しか配
分されないことになつており、より少数の選挙人しか有しない選挙区に対する議員定数の
配分との比率が逆転した状態になつているのである・・・・・・・・・そこではもはや。

票価値の平等の原理が全く考慮されていない状態になつているといわざるをえないのであ
る。。」
このような人口比例を根本から否定、無視する逆転現象が、四四年配分規定の違法事由と
して、前記五九年判決で指摘されながら、都議会は本件条例による改正でその是正を行わ
なかつた。
そして右逆転現象は、具体的に次のように現われている。
(一)二三区内逆転現象
練馬区対杉並区、板橋区、北区、品川区、新宿区
足立区対杉並区
江東区対品川区、
新宿区
中野区対新宿区
葛飾区対北区、品川区、新宿区
江戸川区対北区、品川区、新宿区
文京区対港区、荒川区
(二)市部内逆転現象
町田市対北多摩第二
(三)市・区部間逆転現象
町田市対港区、文京区、台東区、墨田区、目黒区、渋谷区、豊島区、荒川区
西多摩対港区、文京区、台東区、荒川区
北多摩第一対港区、文京区、台東区、荒川区、墨田区
北多摩第二対港区、荒川区、墨田区、渋谷区
北多摩第三対港区、文京区、台東区、荒川区、墨田区、渋谷区
北多摩第四対港区、目黒区、渋谷区、豊島区、荒川区、墨田区
八王子市対港区、目黒区、渋谷区、豊島区、荒川区、中野区、江東区、新宿区、墨田
区、品川区
府中市灯台東区
以上の逆転現象のなかで、人口の少ない選挙区の方が、人口が多い選挙区よりも議員定数
が二名も多い逆転現象が、一八通りもある。一例を挙げれば、人口が五四二四四九人の
杉並区の議員定数が六名で、杉並区より人口が二一七〇七人多い練馬区の議員定数が四名
となつている。
以上のような人口比例に全く逆行する議員定数の配分を行うについて、それを正当化する
特別の事情は、議会で本件配分規定を決める際に、全く明らかにされていない。何の特別
の事情もあるわけがないのである。
、、、従つて以上のような逆転現象は公選法一五条七項の人口比例原則に完全に違反するし
同条項のただし書の条件を満たしてもいない。
(2)次に、投票価値の較差について述べると、本件選挙時には、投票価値の較差が一
対二以上の選挙区が一九も存在し、最大は一対三・四〇もある。投票価値の平等思想は、
形式上の一人一票(公選法三六条)を、投票の結果価値という実質においても保つという
ことであるから、一対三・四〇というような較差はとうてい是認されえない。
(3)更に、本件条例による改正は、前記の公選法一五条七項の人口比例原則及び同条
項ただし書の解釈に照らし、とうてい合理的な裁量権の行使とはいえないものであつた。
議員一人当たり人口の少ない三選挙区から一名ずつ定数を削減し、議員一人当たり人口の
多い三選挙区の定数を一名ずつ増加する三減三増は、現職議員への影響が最も少ないとい
う理由だけから行われたものであり、政策目的としての特別の事情など皆無であつた。
すなわち、
本件条例の審議及び議決を行つた昭和五九年一二月の都議会の会議録を検討すると、以下
の点が明らかである(なお本会議録は、速記によりすべての発言が収録されているもので
ある。。)
(1)千代田、中央、台東の三選挙区の議員定数を各一人減じ、八王子、府中、西多摩
の三選挙区の議員定数を各一人増すという内容の定数条例の改正案の提案理由としては、
「東京都議会議員の各選挙区における議員の数を整備する必要がある」と述べられている
が「趣旨説明及び委員会の付託は省略し」と述べられ、趣旨説明がなされていない。な、

上記のいわゆる三減三増の改正内容でよいのか、どのような理由があつて人口比例(公選
法一五条七項)によらなくてよいのか、その際の特別の事情(同条項ただし書)として何
があるのか、等について一切説明がなされていない。
(2)討論の内容を見ると、改正案に反対討論している二名の議員は、両者とも、改正
案が党利党略によるものであり、何らの合理性もないことを指摘している。
(3)改正案に賛成した三名の議員の討論を見ても、なぜ三減三増でよいのか、どのよ
うな理由があつて人口比例によらなくてもよいのか、特別の事情として何があるのか、等
については、全く説明がなされていない。
人口比例によらない場合の挙証責任は当然議会にあるが、以上議会審議の内容を検討する
と、そこには議会の裁量権の行使を合理的と認定するに足る何ものもないのである。
仮に、このような内容の改正であつても、それが、議会の裁量権の合理的行使として容認
されるとすれば、議会の裁量権の行使には一切制約がないことを認めるに等しいことにな
らざるをえない。
(4)本件条例による改正によつても次のとおり公選法一五条七項違反は解消されなか
つたものである。
すなわち、前回の都議選無効訴訟に対する前記東京高裁判決及び最高裁判決は、次の尺度
で、議員定数配分の人口比例原則からの乖離を検討している。
東京高裁判決は、議員一人当たり人口の選挙区間較差とともに配当基数と実際の定数との
ずれを尺度とし、最高裁判決は、議員一人当たり人口の選挙区間較差と逆転現象を尺度と
している。そしていずれも、議員定数配分規定の公選法一五条七項違反状態は、昭和四五
年国勢調査の結果が判明していた時点、また選挙としては昭和四八年の選挙時点から生じ
ていた旨指摘している。
そこで、
東京高裁判決が用いた手法により(1)一選挙区とみなされた二三区全域と二三区外の、

選挙区との間の比較(2)二三区内選挙区の比較を行つてみると、まず(1)は別紙、、

三表のとおりであり、本件条例の改正にもかかわらず、区部は全体で、配当基数より定数
が八人多く、他方市郡部は全体で、配当基数より定数が八人少ない。
市郡部で配当基数より定数が一人少ない選挙区は、八王子、三鷹、町田、南多摩、日野、
北多摩第一、北多摩第五、北多摩第三の八選挙区である。
次に(2)は別紙第四表のとおりで、配当基数は、総定員一二七人ではなく、二三区に配
分された定数九九をもとに計算した。
この表で明らかなとおり、本件条例による改正にもかかわらず、いまだに、配当基数に合
わない選挙区数は一四選挙区、配当基数より二人多い選挙区は港、荒川の二選挙区、一人
多い選挙区は新宿、台東、墨田、品川、目黒、渋谷の六選挙区、逆に配当基数より二人少
ない選挙区は世田谷、練馬、足立、江戸川の四選挙区、一人少ない選挙区は板橋、葛飾の
二選挙区が存在する。
以上挙げた配当基数と実際の定数とのずれは、東京高裁判決が違法事由とした点が依然解
消されていないことを明白に示している。
なお、別紙第一表及び別紙第二表の表上の人口数と、東京高裁判決に付されている別表第
一及び第二上の昭和五五年国勢調査人口が若干異なるのは、別紙第一、二表では確定人口
数を用いているのに対し、東京高裁判決では速報値を用いているからである。
(四)結論
本件選挙は、以上述べたとおり、多数の著しい逆転現象の存在、投票価値の大きな較差の
存在、東京都議会の裁量権の行使に合理性がなかつた点などからして、公選法一五条七項
、。、に違反する定数条例のもとで行われたものであり全体として違法・無効である従つて
原告らの居住する葛飾区選挙区における選挙も違法・無効である。
(被告)
一本案前の抗弁
1定数配分規定そのものの違憲・違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の
効力に関する訴訟(以下「定数訴訟」という)は公選法二〇二条、二〇三条の規定に適。

しない。
2地方自治法九〇条四項の規定により、都道府県の議会の議員総定数の変更は、一般選
挙の場合でなければできないとされていることからすれば、
本件のような訴訟につき原告勝訴の判決がなされても定数配分を是正して再選挙を施行す
ることはできないから、本件訴訟は訴の利益を欠き不適法である。
3本件訴訟は高度の政治問題に属する事項を請求の目的としているものであるから司法
審査になじまず不適法である。
二請求の原因に対する認否
請求原因1及び2を認め、同3のうち、原告がその主張の前提として提示する数値及び事
実は認め、その余は争う。
三被告の主張
1地方公共団体の議会が有する裁量権
(一)憲法一五条、九二条及び九三条によれば、地方公共団体の組織及び運営に関する
事項は、地方自治の本旨に基づき法律で定めることとされ、その議決機関たる議会の議員
の選挙制度についても、当該地方公共団体の構成員たる住民が直接選挙によつて議員を選
出すると定める以外に特段の制約事項はない。
このような規定のあり方は、地方自治が民主主義の実現のために不可欠なものであると同
時に、本来地方公共団体は、その構成員たる住民の自由で濶達な自治意識によつて運営さ
れるべきものであることを認識させみものであり、そのためには法の制約は、必要最小限
にとどめて、住民により、具体的にはその代表者である長(即ち、知事及び市町村長)並
びに議会の意思決定によつて地方公共団体が自主的に運営されるべきであるとの崇高な自
治の理念が示されているものである。
ところで、憲法は国政に関し、議院内閣制を採用し、しかもこれに対応する議決機関とし
ては衆議院と参議院の二本立とした上、いわゆる参議院地方区に関しては衆議院における
人口比例の原則によりつつも、それ以上に、地域代表的性格を加味する選挙制度も公正か
つ効果的代表制度として許容されるものとしている(昭和五八年四月二七日言渡・昭和五
四年(行ツ)第六五号最高裁大法廷判決。一方の地方公共団体については、首長、議員)

も住民の直接選挙によると定められている(九三条二項。これは、首長に関しては国政)

ベルとは異なり、いわゆる大統領制を採用し、首長が直接住民の意思を汲み取り行政を施
行する途を開いたものであり、同時に、これに対応する議員の選出については、同じ直接
選挙とはいつても、直接選挙の範囲内において右首長に対等に対応するにふさわしい選出
制度子決定すべきことを要請しているものと解すべく、
首長の直接選挙に対等に対応するにふさわしい議員選挙制度としては地域的まとまりのあ
る選挙区を設定し、その地域代表的性格をも保有せしめる制度とするのが最も好ましい方
法であつて、これは、地方自治の本旨にも合致した公正かつ効果的代表選出制度といわな
ければならず、憲法の前記要請にもかなうものといわなければならない。従つて、憲法は
地方公共団体の議員の選挙制度に関し、人口比例の原則を絶対とせず、人口比例によりつ
つも、ある程度これを緩和する地域代表的性格を加味する選挙制度の採用をもこれを許容
しているものといわなければならない。要するに、人口比例の要素は勿論尊重されなけれ
ばならないが、各種議員制度に応じた公正かつ効果的代表制度の確立こそ憲法上の普遍的
。、、原理といわなければならないのであるそうして現行法制は右の憲法の精神にのつとり
法律は一定の基準を設定するにとどまり、各地方公共団体の議会は右基準に基づき自由に
定数、選挙区及び選挙区別定数を決定する裁量権限を与えられているのである。従つて、
前記憲法の趣旨にのつとり制定された法律(地方自治法・公職選挙法)に基づき地方公共
団体が制定している議員定数条例は、都民全体の意思が十分都政に反映しうるような公正
かつ効果的な代表制度を確立すべく、当該地方公共団体の議会が、その裁量権を行使して
これを決定した所産というべきものであるから、その決定は、合理性・合法性の推定を受
けるものと解すべく、結局、定数条例の適否の問題は憲法一四条の平等条項との関係上、
それが極端に不平等である場合は格別、それ以外は常に立法政策の問題にとどまり、違憲
問題を生ずる余地はないといわねばならない。
(二)そもそも、異なる選挙区間における投票価値の平等については、野村敬造教授も
指摘しているように「衆議院議員選挙につき、一の選挙区において、有権者の投票が計算
において平等に取り扱われれば充分であると考える。すなわち、一選挙区において、選挙
人の投票が当該選挙区における候補者の当落という結果に影響するために平等な価値を持
てば、投票における価値の平等は充分に保障される。日本国憲法の定める平等の原理が要
請するのはここまでであり、それ以上に立ち入らないと思われる「他の選挙区との比。」

において、投票の計算における平等はなんら要請されない(選挙に関する憲法上の原。」
則。
「憲法講座」3一三七頁以下参照)といえるものであり、更に「憲法一四条一項前段に、

すべての国民が法の下に平等である旨の原則がうたわれているが、同条にもその他の憲法
の条章にも、国会両議院の議員定数を選挙区別の選挙人の数に比例して配分すべきことを
積極的に命ずる規定は存在しない。このような憲法の規定ぶりからすれば、人口比例によ
るような議員定数の配分の仕方をすることは、法の下における平等という憲法の原則から
いつて望ましいことであるが、それは望ましいというにとどまると解すべきもので、この
ようにあることか憲法の原則上望ましいということは、それが政治の努力目標とされるべ
きことを意味し、法の下における平等というような憲法の原則規定にあつては、このよう
な綱領的側面のもつ意義を軽視してはならないと思う。しかしながら、他面、これを法律
的な観点からみると、単にそうすることが望ましいというだけのことであれば、たとえそ
れが憲法の基本原則に由来することであつても、そこから違憲の問題を生ずることはない
ものといわなければならない(前記参議院議員選挙について大法廷藤崎萬里裁判官の。」

見)のであつて、この理は地方公共団体の議員の場合にも適用されるものといわなければ
ならない。
2都道府県議会議員の定数配分に関する法律の規定
都道府県議会の議員定数配分については、地方自治の基本法たる地方自治法において、議
員定数の上限を定め(同法九〇条、公選法において、議員を選出するについての選挙区)

決め方及び各選挙区に対する定数の配分方法を定めている(同法一五条、二六六条及び二
七一条。)
即ち、
(一)都議会議員定数の上限
自治法九〇条の規定によれば、直近の国勢調査(昭和五五年一〇月一日現在)における人
口に基づいて算出される東京都議会議員定数の上限は、一二八人である(この限度の下に
都議会は本件選挙における議員の総定数を一二七人と定めた。。)
(二)選挙区の決め方及び議員定数の配分
公選法によれば議員の選挙区は郡或いは市の区域による(同法一五条一項)が、郡市の人
口が当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員定数をもつて除して得た数以下議(「
員一人当り人口」という)の半数に達しない場合には、隣接の郡市と合せて一選挙区を。

けなければならない(強制合区規定、同条二項。)
これに対して人口が議員一人当り人口の半数以上あつて、なお議員一人当り人口に達しな
い郡市については、独立した選挙区とするか或いは隣接する他の郡市と合せて選挙区を設
けるかの選択を全く当該都道府県議会の裁量に委ねでいる(任意合区規定、同条三項。)
更に合区選挙区を設けるに当り、どのような郡市をもつて合区選挙区とするかもまた議会
の裁量による(同条四項及び六項。)
因みに、前記一五条一項及び二項に基づき、議員定数を配分すると別紙第五表のとおりと
なる。
議員一人当りの人口の最大較差は、最大選挙区の日野市選挙区と最小選挙区の稲城市選挙
区であり、一対三・〇二の値となる。
即ち、原告らの主張する一対二以内には到底ならないことが明らかである。
(三)議員定数の配分に係る特別措置
(1)また公選法は議員定数の配分方法について次のとおり定めている。即ち各選挙区
に対する定数配分は、原則として人口比例とするが特別な事情がある場合には地域間の均
衡を考慮して人口以外の諸要素をも総合勘案して行うことができる(同法一五条七項。)
全国的な傾向となつた近年の激しい都市部への人口集中化現象に伴い、都市中心部では、
昼間人口が著しく増加し、それに反して夜間常住人口が減少するという状況が生じ、周辺
部はこれと逆の現象を呈するようになり、更には郡部においてみられる急激な人口減少等
に起因して、常任する住民数と地方公共団体の行政需要とが必ずしも一致しない状況が顕
在化してきた。このような状況をふまえ、都道府県の役割は市町村を包括する広域の地方
公共団体として市町村行政の補完及び広域にわたる行政を推進することにあることから、
その公正円滑な運営を期するため各選挙区に対する定数を機械的な人口に比例して行うの
ではなく、人口比例原則に特例を設け、それぞれの地域の特性に応じて均衡のとれた配分
を議会の裁量により可能ならしめようとするところにこのような規定が設けられた所以が
ある。
(2)前述の事情に基づく特例に加え、東京都においては特別区の存する区域が一体と
して都市を形成しているという実態に照らし、公選法は次のような東京都に限り適用され
る特別の規定を設けている。即ち、都議会議員選挙における選挙区及び各選挙区に配分す
る定数については、先ず特別区の存する区域を一市と看做して他の郡及び市との間に定数
配分を行い、
次いで特別区の存する区域に配分された定数について各選挙区に配分することができる。
更に特別区内の定数配分については、人口比例のみに基づくことなく特別区において顕著
な昼間人口と夜間人口の較差、常住人口数と行政需要とのアンバランス、特別区特有の歴
史的沿革などの諸事情を考慮して、都議会が適宜これを定めることを認めている(同法二
六六条二項。)
(3)以上のような特別措置は、前述した地方自治の精神に、より適合する公正且つ効
果的な代表制度確立のためのものであるから、違憲問題を生ずる余地はない。従つて、こ
の特例を適用して制定された条例もまた適法であつて違憲とされる道理はない。
3定数条例改正の経過
現行定数条例を沿革的にみると、昭和二二年都条例第三一号として初めて制定され、爾来
数次にわたる改正を経て現在に至つているものである。今回の改正を含め昭和三七年以降
の改正経緯を以下に述べる。
(一)昭和三七年改正において、選挙区別定数配分について公選法二六六条二項(特別
区の存する区域を一市と看做し定数配分を行う)及び二七一条二項(島部選挙区につい。

人口が減少しても独立選挙区とする)の規定を適用した。この結果各選挙区に既に配分。

れた定数に変更はなかつた。
(二)昭和四四年改正において、自治法・公選法の改正に伴い、自治法九〇条二項並び
に公選法一五条二、三、四、七項及び二六六条二項、二七一条二項を適用し、次のとおり
総定数、選挙区及び選挙区別定数配分の全面改正を行つた。
(1)議員定数の総数を一二〇人から一二六人とした。
(2)増加分六人を多摩地区(特別区及び島部以外の地区)に配分し、多摩地区におい
て選挙区の分区及び合区を行つた。
(3)特別区の存する区域を一市として他の郡市との間に定数配分を行つた結果、特別
区の存する区域に対し配分される定数は一〇三人のまま変更を生じなかつた。
(三)昭和四五年国勢調査に基づく特別区の存する区域における人口が、八八四万余人
に減少したことに伴い、議員定数の上限が一二六人から一二五人に減少した。また選挙区
別の人口数にも変動があつたので、昭和四八年には、次のとおり所要の改正を行つた。
(1)特別区の存する区域における各選挙区別定数配分の改正を行つた。
該当選挙区名新定数既定数比較
台東区選挙区四人五人一人減
品川区選挙区五人六人一人滅
練馬区選挙区四人三人一人増
この結果特別区の存する区域に対し配分される定数は一〇三人から一〇二人となつた。
(2)北多摩第二選挙区(定数配分四人)から府中市選挙区を分区した。この結果両選
挙区の区域及び配分定数は次のとおりとなつた。
北多摩第二選挙区定数三人
(小金井区、国分寺市、国立市の区域)
府中市選挙区定数一人
(府中市の区域)
(四)昭和五二年の自治法九〇条二項の一部改正(議員定数増加の基礎人口を特別区の
存する区域の人口一五〇万人に付き定数一人を人口一〇〇万人に付き定数一人とする)。

伴い、議員総定数を一二五人から一二六人に改正、これにより多摩地区において次のとお
り選挙区の分区及び定数配分の改正を行つた。
(1)町田市選挙区において定数を一人から二人に増員した。
(2)北多摩第一選挙区(定数三人)を、北多摩第一選挙区(定数二人)と北多摩第五
選挙区(定数一人)とに分区した。
(五)昭和五六年改正において議員総定数を一二六人から一二七人に増員し、南多摩選
挙区(定数一人)から日野市選挙区を分区し、これに定数一人を配分した。
(六)昭和五九年改正において千代田区選挙区、中央区選挙区及び台東区選挙区から定
数を各一人減員し、八王子市選挙区、府中市選挙区及び西多摩選挙区の定数を各一人増員
した。
4本件選挙時における定数条例の改正
(一)都議会議員定数等検討委員会の設置
昭和五六年七月五日執行の都議会議員選挙に係る選挙無効確認請求事件に対し、昭和五八
年七月二五日東京高等裁判所は、選挙は違法であることを宣言し、選挙無効を求める原告
らの請求についてこれを棄却する旨の判決をした。
この判決を機に都議会内に定数問題に関する関心が一層高まつた。そこで、昭和五九年四
月一二日に開催された各会派の幹事長会において「都議会議員定数等検討委員会(以、」

「委員会」という)を五月下旬を目途として発足させる事を決定した。昭和六〇年の都。

、。選を控え懸案事項であつた定数是正等を検討する機関が正式に設置されることとなつた
第一回の会合は、昭和五九年五月一七日の最高裁判所の判決(判決内容は、東京高等裁判
所の判決を支持するものであつた。
)直後の五月二八日に開催された。そこで決定された項目は(1)委員会の構成(2)、、
小委員会の設置(3)委員会及び小委員会の調査事項並びに所掌事務等である。、
なお、右最高裁判決を踏まえ、都議会は、昭和六〇年七月施行の都議会議員選挙にむけ、
定数条例改正を行う必要に迫られるに至り、以後、是正案策定に至る一二月までの間委員
会を八回、小委員会を二二回にわたつて開催し精力的に定数是正問題の検討にあたつた。
(二)委員会における各会派の是正案
委員会及び小委員会において、定数問題を慎重審議したが、各会派の一致した具体的な定
数条例案を一本化することができず、各会派が独自の案を提出するという非常に複雑なも
。、「」、「()のとなつたすなわち自民党の五減二増案公明党の六減六増一部合区を含む

七減七増(同上一・五減五増」の三案、共産党の「一一減一一増(一部合区を含むご案、
社会党の「六減六増」案、民主クラブの「六減六増」案の七とおりの案となつた。
(三)定数条例是正案
各会派の定数是正案を踏まえて昭和五九年一二月一三日に開催された委員会において、検
討された結果の是正案は次のとおりとなつた。
(1)総定数については、増員を行わないこととし、現行定数一二七名を基準として是
正を図る。
(2)「千代田・中央・台東」の名選挙区の定数を各一人ずつ減員し「西多摩・八王、
子・
府中」の各選挙区の定数を各一人ずつ増員するという「三減三増」案とする。
なお、本案については、各会派の全会一致ということにはならなかつたものの、最終的に
は各会派の最大公約数的なもので合意された。
(四)本会議における是正案の決定
昭和五九年一二月一三日の本会議において、先の委員会で合意された定数条例案が議員提
案として上提され、各会派の討論の後、採決され、賛成多数で可決された。
なお、付帯決議とはならなかつたが、提案された定数条例は、あくまでも昭和六〇年国勢
調査の結果を踏まえた改正を行うまでの緊急的措置であり、かつ、政治の安定という要素
も考慮した必要最小限の改正であるとの趣旨が提案議員の代表議員によつて述べられてい
る。
(五)要するに右改正条例は次のような特別の事情を考慮し、人口以外の諸要素を勘案
の上、地域間の均衡を図つたものであり、しかも後述するごとく、
従前存した選挙区間の較差を大幅に縮小し一般に認められる限界値内としたというべきも
のであるから、右議決は、その議会の有する裁量権限の範囲内に属し、何らの違法もない
ものといわなければならない。
(1)政治的影響の大きい抜本的改正は昭和六〇年国勢調査の結果を待つて慎重に行う
こととし、とりあえず、本件選挙のため必要最小限の改正を行い、しかもこれによつて政
治の安定が著しく阻害されないものとする必要がある。
(2)昭和六〇年七月施行の都議会議員選挙のための緊急措置とはいえ、少なくとも較
差是正に相応の成果があつたと認められる程度の改正の必要がある。
(3)法律上は増員が可能であるが、行政改革の精神に則り、定数の増員を行わない。
(4)特別区については、昼間人口、歴史的事情等も考慮し、地域代表制を確保する。
従つて、特別区をいずれも独立選挙区とし、合区を行わない。
(5)特別区選挙区から減員された定数を特別区外の較差の大きい選挙区に配分する。
5定数条例改正に伴う較差是正について
これまで述べてきたところにより、本件改正条例が合憲、合法であることは明らかである
が、改正により較差が大幅に縮小された結果、その数値の上からみても違法性が存しない
ことを明らかにしておきたい。
(一)較差是正について
前記定数条例の改正に伴い、次のとおり較差が是正されるに至つた。
(1)特別区間の較差は最小選挙区の荒川区選挙区と最大選挙区の練馬区選挙区で一対
二・八五となり、原告らの葛飾区選挙区とのそれは一対二・一二と大幅に縮小した(改正
前は、千代田区選挙区と練馬区選挙区で一対五・一五であつた。。)
(2)都平均と最大選挙区の北多摩第五選挙区との較差は一対一・八四と二倍以下に、
更に二三区平均との較差も一対二・〇五と約二倍程度に縮小された(改正前は、都平均と
西多摩選挙区で二・四九であつた。。)
(3)最小選挙区は荒川選挙区となり、最大選挙区は北多摩第五選挙区となつた。その
較差は一対三・四〇となり、改正前の最小選挙区の千代田区選挙区と西多摩選挙区との較
差であつた一対七・四五と比較して大幅に縮小された。
(4)改正前に較差が三倍以上の選挙区は二六であつたが、改正後は二選挙区を残すの
みとなつた。
(二)いわゆる逆転現象について
選挙区間のいわゆる逆転現象については、この改正に伴い、
全体の約四〇%程度の逆転現象が解消された。すなわち、改正前には、二六の選挙区にお
いて逆転現象が存在したが、改正後は一六の選挙区となり、一〇の選挙区で逆転現象が解
消されたのである。
(三)公選法上の較差の許容限度
公選法は、議員定数の選挙区別配分を人口比例で行うことを原則としているが、もとより
それは、各選挙区の議員一人当たり人口の完全な一致を意味するものではない。議員一人
当たり人口の間に次のような差が生ずるのは、法が当然予定しているところである。すな
わち、当該都道府県の議員一人当たり人口を一とした場合、それに対する指数〇・五で定
数一人を配分された選挙区と指数一・五を超えてなお定数一人の選挙区との間では議員一
人当たり人口には「一対三」程度のひらきが生じることになる。詳細に計算したものは前
示別紙第五表のとおりである。これは、公選法が明文をもつて許容している選挙区間の議
員一人当たりの人口のひらきである換言すれば法の規定する人口比例の原則とは一。、、「
」、。対三程度のひらきが生じてもなおこれをその概念に内包するものといい得るのである
さらには、公選法一五条七項ただし書及び二六六条二項の規定の趣旨に鑑みるならば、議
員一人当たり人口のひらきが前記「一対三」程度に留まらず、それ以上のひらきが存在し
ても、それが特別の事情に基づくものであれば、法はそれを許容範囲内にあるものとし、
当然に有効と想定しているということができるのである。
このことは、前記五九年判決の中でも窺うことができる。
すなわち、定数配分規定が違反する状態となつたのは昭和四五年一〇月実施の国勢調査の
結果が判明した時点としている点であり、それ以前には違法性がなかつたとの判示と受け
とれるのである。つまり、昭和四五年以前の較差「一対三・一一」程度は許容される範囲
であると解することができ、又、後述するがごとく衆議院の場合においてさえも一応三・
五倍程度までは許容されると理解し得るのである。それ故、本件選挙時における「一対三

四〇」程度の較差は数値的にみてもなお法の許容範囲内と思料されるところである。
(四)国の選挙(衆議院)における最高裁判所の較差の許容限度
次に、公選法一五条七項ただし書の適用のない衆議院の場合について考察する。
過去の衆議院議員選挙に係る定数訴訟の大法廷の判決の中では、
最高裁判所は較差の許容限度についての数値基準を明確には判示していない。
しかし、昭和六〇年七月一七日の判決で「昭和五〇年改正法による改正の結果、従前の、

員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は、一応解消されたものと評価するこ
とができるものというべきである」と述べている。
これは、昭和五〇年の改正においで、最大較差が一対四・八三から一対二・九二に縮小し
たことについての評価である。つまり、最大較差「一対二・九二」については憲法の許容
する範囲内の較差と認めているものであり、他方、昭和五八年一一月七日の判決では三・
九四倍について違憲状態との判断を示したものと解される。従つて、数値的には、三から
四の間に許容限度が存するものと解され、その中間値の三・五倍程度を一応の限界値とみ
なすのが常識にも合致し妥当というべきであろう。
(五)以上の数値上の考察によつても、本件改正は適法であり、本件条例は選挙時にお
いてもなお違法とはいい得ない状態にあつたものといわなければならない。
6事情判決の法理の適用について
仮に、本件条例に違憲を帯びる点があるとしても、これに基づく選挙の効力については自
ら別異の考慮を必要とし、事情判決の法理を適用し本件選挙はこれを有効としなければな
らない。
最高裁判所昭和五一年四月一四日大法廷判決では、衆議院議員選挙に関する定数違憲選挙
無効請求事件につき『選挙無効の判決によつて得られる結果は、当該選挙区の選出議員が
いなくなるというだけであつて、真に憲法に適合する選挙が実現するためには、公選法自
体の改正にまたなければならないことに変わりはなく、更に、全国の選挙について同様の
訴訟が提起され選挙無効の判決によつてさきに指摘したのとほぼ同様の不当な結果を生ず
ることもありうるのである。また、仮に一部の選挙区の選挙のみが無効とされるにとどま
つた場合でも、もともと同じ憲法違反の瑕疵を有する選挙について、そのあるものは無効
とされ、他のものはそのまま有効として残り、しかも、右公選法の改正を含むその後の衆
議院の活動が、選挙を無効とされた選挙区からの選出議員を得ることができないままの異
常な状態の下で、行われざるをえないこととなるのであつて、このような結果は、憲法上
決して望ましい姿ではなく、また、その所期するところでもないというべきである。それ
故、
公選法の定める選挙無効の訴訟において同法の議員定数配分規定の違憲を主張して選挙の
効力を争うことを許した場合においても、右の違憲の主張が肯認されるときは常に当該選
挙を無効とす。べきものかどうかについては、更に検討を加える必要がある』とし、更に
『行政事件訴訟法三一条一項前段の事情判決の法理は行政事件の取消の場合に限られない
一般的な法の基本原則』であることを明らかにし、これを適用し選挙は無効とすべきもの
ではないと判示し原告の請求を棄却すると結論付けているのである。衆議院議員と都議会
議員、公選法と条例という根拠法令の違いはあれいづれも議員の定数を定める規定の違憲
性が問われている裁判であるから、右大法廷判決の判示にかかる法理は当然本件にも適用
されるものといわなければならない。
更に、本件選挙は、昭和五九年五月一七日言渡しの最高裁判所判決を踏まえ、都議会にお
いて昭和六〇年七月実施の都議会議員選挙に向けての緊急的措置としてなされた改正条例
に基づいて執行されたものであり、しかも右改正により従前の一対七・四五の較差が一対
三・四〇まで減縮されたという事情も考慮されるべきである。
四被告の主張に対する反論
1被告がその主張の前提として提示する数値及び事実は認め、その余は争う。
2被告は、本案前の抗弁としていろいろ主張しているが、これらの点については、すべ
てこれまでの数次の最高裁判決において判示されているとおり失当であり、再論の必要が
ない。
3被告の主張のうち、1ないし3に対する反論
原告主張の請求原因において「本件選挙の違法性」の項で詳細に論じたところである。、
4被告の主張のうち「4本件選挙時における定数条例の改正」に対する反論、
これは改正経過の説明であるが、なぜ三減三増という改正でよかつたのか、その改正にど
のような合理性が存したのか等が全く明らかにされていない。原告が請求原因で指摘した
都議会の裁量権行使の合理性の証明がなされていないのである。
5被告の主張のうち「5定数条例改正に伴う較差是正について」に対する反論、
較差の許容限度についての被告主張は、数字のひとり歩きであり、無意味な議論となつて
いる。議員一人当たり人口の較差が、どの範囲が妥当かは、議員の総定数、総人口、各選
挙区の人口、選挙区数等の条件により、ときどきの事情に左右される。肝心なことは、
議員定数の選挙区毎の配分が人口比例によるべきことは憲法の命ずる選挙権の平等の要請
なのであるからして、合理性のない恣意的要素、例えば政党の党利党略とか、現職議員の
思惑とかで定数配分を左右してはならないということなのである。
従つて、公選法一五条七項ただし書の特別の事情については、それが憲法の平等要請を歪
めるに足りるだけの十分な合理性を持つた事情であることが証明される必要がある。そう
した十分合理性のあるそのときどきの特別の事情を踏まえて、議員一人当たり人口較差の
許容限度が決まるのであつて、一般的・普遍的に、被告主張のように、較差三・五程度が
許容範囲だとするような議論は成立し得ないのである。
本件選挙の場合は、議員の総定数一二七を変えず、また選挙区の合・分区を行わないこと
に一応合理性があるとして、定数の配分のみを正しく配当基数に基づいて行えば、すでに
指摘したとおり、一八減一八増がなされなければならず、その結果、逆転現象はすべて解
消し、議員一人当たり人口の較差は、最大一対二・六〇(千代田区対立川市)にまで縮小
するのである。従つて、本件の場合の較差の許容限度としては、議員総定数、選挙区割を
変えないことを前提とした場合、二・六〇倍が許容限度となる。もつとも、議員総定数、
選挙区割も可変的要素であるから、それらを変えれば、較差の許容限度は更に縮小するは
ずである。
較差の数値のみを、その数値を決める条件から切り離して論ずるのは、全くの空論に過ぎ
ない。
6被告の主張のうち「6事情判決の法理の適用について」に対する反論、
投票価値の不平等を訴因とする衆議院議員選挙無効訴訟に対する昭和五一年四月一四日の
最高裁判決は、昭和四七年一二月一〇日執行の同選挙に関し、昭和三九年改正の公職選挙
、、法における議員定数配分規定を違憲と判断して千葉一区における選挙を違法としながら
事情判決の法理を適用し、選挙の効力を有効とするものであつた。しかしながら、この判
決時においては、当該議員定数配分規定は、昭和五〇年の法改正によりすでに過去のもの
となつていた。
その点で、生きた現行の衆議院議員定数配分規定が最高裁により違憲と判断されたのは、
昭和六〇年七月一七日の判決が最初であつた。このときの判決で問題となつたのは、最高
裁の違憲判断にもかかわらず、国会がいぜん議員定数配分規定を適憲状態に改正せず、
またまた違憲の議員定数配分規定で選挙を行つた場合、再度の事情判決を繰り返すことが
許されるか否かという点であつた。この問題につき、A裁判官ほか三裁判官は「判決確、

により当該選挙を直ちに無効とすることが相当でないとみられるときは、選挙を無効とす
るがその効果は一定期間経過後に始めて発生するという内容の判決をすることも、できな
いわけのものではない」と述べ、将来効判決の可能性を示唆した。またB裁判官は「原、

どおり、当該選挙を直ちに無効とするか、又は少なくとも一定期間経過後に選挙無効の効
果を生ずるとの判決をすべきもの」と述べている。
以上のような補足意見が述べられたことにより、再度違憲選挙が繰り返された場合は、最
早単なる事情判決の繰返しはあり得ず、直ちにか、あるいは将来効として選挙無効の判断
が下るであろうことは確実視されるに至つたのである。衆議院議員選挙に関する最高裁の
、、。こうした姿勢は当然法理論としては全く同一の地方議会選挙にも妥当するはずである
そこで、本件選挙について考えると、前出五九年判決は昭和五六年改正の東京都条例によ
る議員定数配分規定を違法と判断しながら、事情判決の法理により選挙は有効とした。従
つて東京都議会としては、最高裁により違法と判断された東京都条例の議員定数配分規定
を合法化する条例改正を行わなければならなかつたはずである。しかるに同議会が行つた
いわゆる三減三増という改正は、同定数配分規定の違法状態を解消するに足るだけの改正
ではなく、同議会の議員自身もそのように・認識していた。それゆえ、昭和六〇年七月七
日の本件選挙は、またまた違法選挙となつたのである。これに対し、裁判所として、再度
事情判決を繰り返すことが許されるであろうか。
上述の衆議院議員選挙に関する最高裁の判断からして、単なる事情判決の繰返しはあり得
ないはずである。すなわち、直ちに本件選挙を無効とするか、少なくとも、期間を定めそ
れまでに定数配分規定の適法状態への改正がなければ選挙は無効となるとの判決が下され
るべきである。
第三証拠関係(省略)
○理由
第一本件訴訟の適法性について
、一請求原因1(本件選挙の施行者と当事者一、同2(原告の異議申出と被告の本件却
下決定)の各事実は当事者間に争いがない。
そして、原告の公選法二〇二条一項による異議申立に対する本件却下決定が、
同人に交付されたのは昭和六〇年七月二六日であるところ、本訴の提起は同日から三〇日
以内である同年七月三〇日であることは本件記録上明らかであるから、本訴は公選法二〇
三条の訴として適法というべきである。
、、二被告が本件訴の却下を求めて主張するところがいずれも理由がないことについては
最高裁判所の判例(昭和五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二三頁、同五八
年一一月七日大法廷判決・民集三七巻九号一二四三頁、同六〇年七月一七日大法廷判決・
裁判所時報九一一号一頁、同五八年(行ツ)第一一五号同五九年五月一七日第一小法廷判
決、同五九年(行ウ)第三二三号、同第三二四号同六〇年一〇月三一日第一小法廷判決)
において判示されているところであり、当裁判所も右判示理由と同じ見解であるから、以
上の点に関する被告の主張はいずれも失当として採用することができない。
なお、付言するに、定数訴訟の適法性は、右のように最近における数次の最高裁大法廷判
決によつて確定されており、当分の間、判例変更の可能性は考えられないことが明らかな
のであるから、定数訴訟毎に同種の主張を繰り返す被告の態度は、法治国における公的委
員会の姿勢として疑問というべきではないかと思わざるを得ない。
第二本件配分規定の違憲違法性について
一公選法一五条七項の趣旨
1公選法一五条七項は、その本文において「各選挙区において選挙すべき地方公共団、

の議会の議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない」と規定して、議。

の定数配分は人口比例原則によるべきことを明示している。ここに「人口に比例して」、

は、厳密にいえば、選挙区間における議員一人当たりの人口較差は一対一であるべきであ
ることを意味するのであるが、事柄の性質上、法の趣旨は、できる限り一対一に近い数値
であるべきであることを要求しているものと解すべきである。
2次いで、同項は、そのただし書において「ただし、特別の事情があるときは、おお、

ね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる」と定めて、人口比例。

則を緩和している。従つて、場合によつては、人口較差は一対一を離れることが許される
訳である。しかし、そのためにはただし書の定める各要件を満たさなければならない。そ
の一は「特別の事情」があることである。、
これらの事情がいかなるものであるかについては抽象的な基準が存する訳ではなく、時と
場所、すなわち、配分規定を定めた特定の時点における当該地方公共団体について具体的
に考察して決する外はない。その二は「地域間の均衡を考慮」することである。この要、

の前提として、当該地方公共団体内部の各地域間に均衡を考慮しなければならない程の差
違があることが必要である。この差異の有無及び程度も各地方公共団体によつて異なるこ
とになろう以上が法の定める緩和の要件であるなお右ただし書にはこの外にお。。、、、「
おむね人口を基準」とすることが定められているが、これは本文で定めた人口比例原則を
できる限り尊重すべきことを改めて注意的に定めたものであり、このことが右原則緩和の
一つの要件になる訳ではないことは論ずるまでもない。
そこで、地方公共団体の議会は、定数配分規定を定めるに当たり、右ただし書の規定を適
用し、人口比例により算出される数に地域間の均衡を考慮した修正を加えて選挙区別の定
数を決定する裁量権を有することが明らかである(なお、同法二六六条二項は、都の議会
の議員の定数配分に関する特例を定めたものであるが、同法一五条七項ただし書の規定が
存しなかつた当時に設けられた規定であつて、同ただし書の規定以上に広範な裁量権を都
の議会に付与するものではない。。)
そして、ただし書の定める緩和の要件がどの程度存するときにどの程度まで緩和すること
ができるかは各事例毎に具体的に判断すべきことである。たとえば、東京都についていえ
ば、都内の各地域は、島部等の極く一部を除けば、殆ど同一の文化的社会的経済的背景を
、、、有するのであるから地域間の均衡を考慮する必要は他の道府県に比べると非常に少く
従つてまた緩和の程度もそれだけ低いものになるといわざるを得ないのである。
、、、3ところで右の緩和の程度についてはただし書自体はその上限を明示していないが
合理的な限度が存することは当然である。緩和の合理的な限度を探求するに当たつて第一
に考慮しなければならないことは、投票価値の平等という憲法上の原則であり、そしてま
たその公選法における現れである一五条七項本文の人口較差一対一の原則と三六条の一人
一票の原則である。次に考慮すべきことは、健全な国民感情、すなわち、諸般の要素に基
づく投票価値における多少の不平等はやむを得ないものとして忍ぶとしても、
自己が一票しか持つていないのに他人はその倍の二票を持つのと同じ結果になるようなこ
とは我慢できないという素朴な気持である。更に、忘れてならないことは、一般に、ただ
し書は本文の定める原則に対する例外を定めるものであるから、原則を緩和することにな
るのは当然であるが、同時に原則を著しく離れることはできないという本質的制約がある
ことである。以上の事柄を合わせ考えると、公選法一五条七項ただし書における人口比例
原則の緩和の程度は、島部のような特殊な事情のある場合を除いて、一対二を超えること
は許されないものと解すべきことになる。
確かに、被告の主張するように、公選法一五条一項ないし四項の規定は、人口比例原則を
緩和するものであり、これらの規定の適用の結果、場合によつては人口較差が一対三程度
になることがあり得ることは予想できないことではない。しかし、この場合、このような
事態を生じさせ得る右規定の合憲性が問題となり得ることは暫らく措くとしても、右規定
の存在することをもつて右規定の適用のない場合の較差をも正当化することは許されない
こと勿論であるし、又、右規定の適用がある場合でも、合区等の方法によりできるだけ較
差を少なくするように運用上努力するべきである。たとえば、別紙第一表Bは現行選挙区
割を前提としてこれに配当基数方式を適用した結果の定数配分であるが、仮にこれを採用
することとすると、これに僅かな工夫、すなわち、千代田区と中央区を合区してその定数
を一とし、これによつて浮いた定数一を立川市に加えてその定数を二とする修正を加える
ならば、それだけで全選挙区における較差は一対二以下に納めることができるのである。
二五九年判決の趣旨
四四年配分規定を違憲・違法と断定した右最高裁判決は「地方公共団体の議員の選挙、

関し、当該地方公共団体の住民が選挙権行使の資格において平等に取扱われるべきである
にとどまらず、その選挙権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべき
であることは、憲法の要求するところであると解すべきであり、このことは当裁判所の判
例(前掲昭和五一年四月一四日大法廷判決)の趣旨とするところである。そして、公選法
一五条七項は、憲法の右要請を受け、地方公共団体の議会の議員の定数配分につき、人口
比例を最も重要かつ基本的な基準とし、
各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求していることが明らかである。した
がつて、定数配分規定の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下におけ
る選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいは、その後の人口の変動により右不
平等が生じ、それが地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る
諸般の要素をしんしやくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に
達しているときは、右のような不平等は、もはや地方公共団体の議会の合理的裁量の限界
を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、公選法
一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。
もつとも、制定又は改正の当時適法であつた定数配分規定の下における選挙区間の議員一
人当たりの人口較差が、その後の人口の変動によつて拡大し、公選法一五条七項の選挙権
の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて直ちに当該定数配分規定
の同項違反までもたらすものと解すべきではなく、人口の変動の状態をも考慮して合理的
期間内における是正が同項の規定上要求されているにもかかわらずそれが行われないとき
に、初めて当該定数配分規定が同項の規定に違反するものと断定すべきである」と判示。
し、
そして、昭和五六年七月五日行われた都議会議員選挙当時における定数配分規定である四
四年配分規定について、次のとおりその違憲・違法性を判断した。
すなわち、昭和三五年一〇月実施された国勢調査以降、五年毎に行われる国勢調査の結果
による人口に照応して数次にわたり定数配分規定の改正が行われてきたが、前記都議会議
貝選挙の行われた当時(昭和五六年七月五日)において「選挙区間における議員一人当、

りの人口の較差は、全選挙区間で最大一対七・四五、特別区の区域を区域とする選挙区間
で最大一対五・一五、右人口が最少の千代田区選挙区と被上告人らの属する江戸川区選挙
区との間で一対四・五二に達し、いわゆる逆転現象も一部の選挙区間において依然として
残つていた」とし、更に「選挙区間の投票価値の較差は遅くとも昭和四五年一〇月実。、

の国勢調査の結果が判明した時点において既に公選法一五条七項の選挙権の平等の要求に
反する程度に至つていたものというべく、
右較差が将来更に拡大するであろうことは東京都における人口変動の経緯に照らし容易に
推測することができたにもかかわらず、東京都議会は極く部分的な改正に終始し、右較差
を長期間にわたり放置したものというべく、同項の規定上要求される合理的期間内におけ
る是正をしなかつたものであり、本件配分規定は、本件選挙当時、同項の規定に違反する
ものであつたと断定せざるを得ない」として四四年配分規定の違法性を判示したのであ。
り、
当裁判所も以上の判示と全く同意見である。
従つて、右最高裁判決の趣旨からすれば、四四年配分規定は、同判決の言渡後可及的速や
かに投票価値の平等の要求に適合するよう根本的な是正がなされるべきであり、そうでな
ければその違憲・違法性は解消しない旨判定されたものと解するのが相当である。
三本件配分規定の制定と内容について
1そこで案ずるに、本件条例が昭和五九年一二月一四日都議会において可決されたこと
は当事者間に争いがない。従つて、同条例の改正は前記最高裁判決の確定した同年五月一
七日以後約七ケ月の短期間において実施されたことになり、この点においては都議会が四
四年条例の違憲・違法状態を解消すべく努力したことを認めることができるものというこ
とができよう。
そして、前記のとおり、都議会が議決した本件配分規定は、いわゆる「三減三増」による
、、、改正であり各選挙区毎の定数は別紙第一表C欄記載のとおりであること更に右改正は
定数の増員を行うことなく「千代田・中央・台東」の各選挙区の定数を一人ずつ減員し、
「西
多摩・八王子・府中」の各選挙区の定数を各一人ずつ増員した内容をなすものであること
は当事者間に争いがない。右改正によれば、確かに被告が、その主張にかかる5・一)(
「較
差是正について」において述べるとおり、四四年配分規定に比べると較差の是正に努めた
ことは一応これを認めることができよう。
2しかしながら、本件配分規定には原告主張の事実(当事者間に争いない、殊に、。)

下の事実が存し、なお較差是正の不徹底が少なからず残存することを見逃すことができな
いのである。
(一)議員一人当たりの人口較差は、全選挙区間で最大一対三・四〇、特別区の区域を
区域とする選挙区間で最大一対二・八五であり、一対二以上の選挙区が一九も存在するこ
と。
(二)人口の多い選挙区の方が人口の少ない選挙区より議員定数が少ないといういわゆ
る逆転現象が、原告指摘のとおり六二通り存在するのであるが、特別区と市郡部間との逆
転についてはしばらく措くとしても、特別区の区域を区域とする選挙区間だけですら一七
通りも存すること。
(三)すでに説示したとおり、都議会の議決にあたり裁量権の行使としてなされる人口
比例原則の緩和ないし修正については、これを正当化すべき特別の理由を示すことが公選
法一五条七項ただし書の趣旨から要求されているところであるから、右に判示したような
特定の選挙区における議員一人当たりの人口数の較差に顕著な差異が認められることのみ
ならず、各選挙区間相互に前記のような逆転現象が生ずることについては、それが解消し
得ない場合、その特別の理由が開示されるべきことが相当と思料されるところ、本件定数
条例の改正案の骨子とされたいわゆる三減三増案が、審議された過程において右の特別の
理由が開示されたことは何ら窺うことができない。確かに、都心部においては昼間人口が
夜間常住人口の数倍ないし十数倍に達し、それだけ行政需要が大きいことや、各選挙区に
おける過去の定数の状況は考慮に値する事情であるが、これらをもつてしては到底右の較
差を是認することはできず、他に本件選挙当時存した選挙区間における投票価値の不平等
を正当化すべき特別の理由を見いだすことはできないのである。
以上の次第で、本件配分規定は、根本的是正という点からすれば、極めて不徹底であり、
前記公選法及び最高裁判決の趣旨に照らすと、違憲性・違法性を解消したものとは到底い
えないと解さざるを得ないのである。そして、定数配分規定は、不可分一体とみるべきで
あるから、本件配分規定は全体として違法性を帯びているものというべきである。
第三本件選挙の効力について
一以上のように、本件配分規定は本件選挙当時全体として違憲違法であるが、これに基
づいて行われた選挙の効力については、更に慎重な考慮を要する。すなわち、本件選挙を
直ちに無効とする即時無効判決をするか、若しくは選挙を無効とするがその効果は一定期
間経過後に始めて発生するとする期限付無効判決をするか、又は、特別の事情のあるとき
は、いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法三一条一項)の基礎に存するものと解すべ
き一般的な法の基本原則を適用して、
本件選挙の違法を宣言するにとどめて選挙は有効とする事情判決をするかが検討されなけ
ればならない。殊に、本件においては、四四年配分規定に基づく昭和五六年の都議会議員
選挙について既に五九年判決により違法宣言の判決が下されているのであるから、その点
も考慮に入れて検討されるべきである。
ニ1本件において、被告は、仮定的に、事情判決を求め、その事由として、次のような事
情を主張している。
(一)選挙無効の判決によつて得られる結果は、当該選挙区の選出議員がいなくなると
いうだけであつて、公選法に適合する有効な選挙が実現するためには、定数配分規定自体
の改正にまたなければならないこと(二)全選挙区の選挙について定数訴訟が提起され。

挙無効の判決がなされるときは、全議員が資格を失うことになり、そのため議会において
次の選挙を行うべき適法な配分規定を定めることができなくなること(三)仮に一部の。

挙区の選挙のみが無効とされるにとどまつた場合は、もともと同じ違法の選挙について、
、。()そのあるものは無効とされ他のものは有効として残るという不平等を生ずること四
定数配分規定の改正が選挙を無効とされた当該選挙区から選出された議員が存在しない状
態で行われることになること。
確かに、このような結果は、憲法上及び公選法上決して望ましい事態ではない。そして、
右のような事情はすべて本件においても存在している。しかしながら、このような一般的
事情は本件のような特定の選挙区における選挙の無効を求める定数訴訟を認める限り常に
存在するのである。従つて、これらの事情が存在することのみをもつて事情判決をする要
件が充足されていると解すべきであるとすれば、定数訴訟の判決はすべて事情判決となら
ざるを得ないことになる。それではせつかく定数訴訟を認めた意味が半減してしまうこと
になるであろう。それ故、本件においてこれらの事情は事情判決をすべき特別の事情と解
することはできない。
(、、。()なお念のため被告が右に主張する四つの事情について具体的に検討してみる一
については、そのとおりであるが、そうであればこそ議会が速やかに適法な配分規定を定
めることが望まれる訳であり、そのことが定数訴訟の目的なのである(二)は最も解決。

難な問題であるが、このような場合、実際問題としては、全議員が資格を失う前に、
良識のある議会において適法な配分規定が定められることになるものと期待されるが、不
幸にしてその期待が実現することなく全議員が資格を失うことになるような事態に立ち至
つたときには、最高裁昭和六〇年七月一七日大法廷判決(前出)中のA裁判官ほか三裁判
官の補足意見中に示されているように「定数訴訟の判決の内容は、憲法によつて司法権、

ゆだねられた範囲内において、右訴訟を認めた目的と必要に即して、裁判所がこれを定め
ることができるものと考えられる」のであるから、定数訴訟において無効判決をする裁判
所としては、主文において無効を判示するのみならず、申立により、当事者から示された
(、。)配分規定たとえば本件における原告提出の別紙第一表B又は被告提出の同第五表など
に基づき、適法な配分規定を判示する権限と責務を有するものと考えるべきであろう。
(三)については、定数訴訟を各選挙区毎に提起することを認め、しかもその判決には対
世効を与えないこととする以上、やむを得ないことである(四)については、都議会の。

員は被選出選挙区の選挙民の代表者ではなく都民全体の代表者なのであるから、配分規定
の審理に不都合を来たすということはない訳である)。
、、。2そこで事情判決をするについては更に個別的な事情が考慮されなければならない
本件では、旧配分規定の下における投票価値の不平等状態が違法であることを明示した五
九年判決の言渡しから本件選挙までの期間や本件選挙当時の選挙区間における議員一人当
たりの人口の較差の程度(最高裁昭和六〇年七月一七日大法廷判決(前出)参照)もまた
事情判決をするか否かを決する要件となるものと解すべきである。しかし、本件において
は、右の期間は一年以上あつたのであるから改正をするに十分であつたのであり(現に不
十分ながら改正がなされたことは既にみたとおりである、又、較差の程度は、既に判。)

したように、看過し難いものがあるのであるから、これらをもつて本件において事情判決
をすべき特別の事情と解することはできない。
3最後に、違法宣言判決の後における違法配分規定を是正するための議会の努力の有無
及びその程度と将来における是正の可能性とが事情判決をするか否かを決する重要な要件
として考慮されなければならない。法の精神は、本来、議会自らが常に配分規定が適正で
あるか否かを検討し、
十分な努力をもつて適法妥当な改正を行うことを期待しているものと解すべきであるか
ら、
議会の改正のための自主的な努力は最大限に尊重されるべきである。従つて、違法宣言判
決の後に議会の違法是正のための努力が全くなされなかつたか又はなされたとしてもその
程度が著しく不十分である場合は、事情判決をなすべきではないが、相当程度の改正努力
がなされた場合は、たとえ右努力の結果の改正をもつてしては配分規定の違法性を完全に
除去するに至らなかつたときでも、更に努力を継続する見込が十分にあり、その努力によ
つて近い将来において違法を完全に除去して適法な配分規定を制定する可能性が存すると
きは、この点に着目して再び事情判決をすることがむしろ右制度の基礎にある法の一般原
則の命ずるところであると解すべきである。
、、、、この見地に立つて本件において検討するとまず努力の有無及びその程度については
前示のように、五九年判決後に都議会は四四年配分規定の改正のための努力を行つたが、
その程度は決して十分ではなく、右努力の結果である本件配分規定は四四年配分規定の違
法性を完全に除去するに至らなかつたのみならず、幾多の不十分な点を残しているのであ
るが、これをもつて著しく不十分な努力であるとまでは断じ難く、辛うじて相当程度に達
する努力をしたものと認めることができる。
次に、改正の努力の継続とその結果の見込については、近い将来において適法な配分規定
を定める可能性が充分に存するものと認めることができる。すなわち、甲第三号証(成立
)、、、に争いない及び弁論の全趣旨によれば被告において主張するとおり本件配分規定は
都政の安定が著しく阻害されない程度にとどめることという要請のもとに、本件選挙のた
めに必要最少限度の改正をし、抜本的改正は昭和六〇年国勢調査の結果をまつて慎重に行
うということが当初から予定されて成立したものであり、都議会は、現在の任期中には定
数配分規定の抜本的改正をなすことを公約しているものと認めることができる。そうだと
すれば、抜本的改正を経た定数配分規定に基づく選挙の実施に向つて進む都議会の自律的
機能に信を措くべきであると考える。従つて、本件においては、事情判決をする要件が備
わつているということができることになる。
三付言するに、当裁判所は、右に判示したように、
違法宣言判決後における改正努力の程度と将来における右努力の継続による配分規定の適
法化を事情判決の重要な要件と解するものであるから、本判決確定後において、右の努力
が十分になされず結局において配分規定の適法化が実現しないまま違法な配分規定に基づ
いて次期選挙が行われた場合は、特別の事情のない限り、右選挙の効力について更に事情
判決をすることはできず、即時無効判決をせざるを得ないものと解する。ところで、前示
の期限付無効判決は、無効猶予期間である一定期間内に違法な配分規定の適法化が実現す
ることを期待してなされるものであり、もしその適法化が実現しないまま次期選挙が行わ
れた場合は、特別の事情のない限り、右選挙の効力について即時無効判決をする旨を含む
ものと解すべきであるから、その点において本判決は次期選挙の時期までの期間を一定期
間とする期限付無効判決と同じ意味合いを持つものである。
第四結論
、、、、原告は本訴請求の趣旨において本件選挙の無効宣言を求めているが右請求の趣旨は
その一部として、本件選挙の違法宣言を求めることを含むものと解すべきである。
そこで、以上に判示した理由により、本訴請求は、本件選挙の違法宣言を求める部分につ
いては、理由があるからこれを認容することとして主文第一項のとおり判決し、違法宣言
を超えて無効宣言まで求めるその余の部分については、理由がないからこれを棄却するこ
ととして主文第二項のとおり判決する。
訴訟費用の負担については、行訴法七条民訴法九二条ただし書を適用して主文第三項のと
おり判決する。
(裁判官武藤春光菅本宣太郎山下薫)
選定者目録(省略)

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